フィルムの製造方法、熱可塑性樹脂組成物、成形体およびフィルム

申请号 JP2015554564 申请日 2014-12-22 公开(公告)号 JPWO2015098096A1 公开(公告)日 2017-03-23
申请人 株式会社カネカ; 发明人 恵介 羽田野; 恵介 羽田野; 藤原 寛; 寛 藤原;
摘要 Tダイを用いた溶融押出成形において、ダイラインの発生を抑制することができる、フィルムの製造方法を提供する。 温度 260℃、歪み1%、及び緩和時間1秒の条件下で測定した緩和弾性率が100Pa以上、2000Pa以下を示す熱可塑性樹脂組成物を溶融混練してTダイから押出成形することでフィルム化する。熱可塑性樹脂組成物はアクリル系樹脂及びゴム粒子を含有することができる。
权利要求

温度260℃、歪み1%、及び緩和時間1秒の条件下で測定した緩和弾性率が100Pa以上、2000Pa以下を示す熱可塑性樹脂組成物を溶融混練してTダイから押出成形することでフィルム化することを特徴とする、フィルムの製造方法。前記熱可塑性樹脂組成物がアクリル系樹脂及びゴム粒子を含有する、請求項1に記載のフィルムの製造方法。前記熱可塑性樹脂組成物が、マレイミドアクリル系樹脂、グルタルイミドアクリル系樹脂、ラクトン環含有アクリル系重合体、スチレン単量体およびそれと共重合可能な他の単量体を重合して得られるスチレン含有アクリル系重合体の芳香族環を部分素添加して得られる部分水添スチレン含有アクリル系重合体、環状酸無水物繰り返し単位を含有するアクリル系重合体、並びに、水酸基および/またはカルボキシル基を含有するアクリル系重合体、からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、請求項1〜2のいずれか1項に記載のフィルムの製造方法。前記熱可塑性樹脂組成物が、下記一般式(5)で表されるマレイミド単位と(メタ)アクリル酸エステル単位とを有するマレイミドアクリル系樹脂を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のフィルムの製造方法。 (式中、R11およびR12は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、または炭素数6〜14のアリール基であり、 R13は、水素原子、炭素数7〜14のアリールアルキル基、炭素数6〜14のアリール基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数1〜18のアルキル基、又は、下記A群より選ばれる少なくとも一種の置換基を有する炭素数6〜14のアリール基もしくは炭素数1〜12のアルキル基である。 A群:ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数1〜12のアルキル基及び炭素数7〜14のアリールアルキル基。)前記マレイミドアクリル系樹脂が、下記一般式(3)で表される単位をさらに有する、請求項4に記載のフィルムの製造方法。 (式中、R7は、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R8は、炭素数6〜10のアリール基である。)前記熱可塑性樹脂組成物が、下記一般式(1)で表される単位と、下記一般式(2)で表される単位とを有するグルタルイミドアクリル系樹脂を含有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載のフィルムの製造方法。 (式中、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R3は、水素、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または、芳香環を含む炭素数5〜15の置換基である。) (式中、R4およびR5は、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R6は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または、芳香環を含む炭素数5〜15の置換基である。)前記フィルムが、光学フィルムである、請求項1〜6のいずれか1項に記載のフィルムの製造方法。温度260℃、歪み1%、及び緩和時間1秒の条件下で測定した緩和弾性率が100Pa以上、2000Pa以下を示す熱可塑性樹脂組成物。配向複屈折が−1.7×10−4から1.7×10−4である、請求項8記載の熱可塑性樹脂組成物。光弾性定数が−4×10−12から4×10−12Pa−1である、請求項8〜9のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。熱可塑性樹脂および架橋構造含有重合体を含む、請求項8〜10のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。前記熱可塑性樹脂の光弾性定数と、架橋構造含有重合体の光弾性定数とが異符号である、請求項11に記載の熱可塑性樹脂組成物。前記熱可塑性樹脂組成物が、マレイミドアクリル系樹脂、グルタルイミドアクリル系樹脂、ラクトン環含有アクリル系重合体、スチレン単量体およびそれと共重合可能な他の単量体を重合して得られるスチレン含有アクリル系重合体の芳香族環を部分水素添加して得られる部分水添スチレン含有アクリル系重合体、環状酸無水物繰り返し単位を含有するアクリル系重合体、並びに、水酸基および/またはカルボキシル基を含有するアクリル系重合体、からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、請求項8〜12のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。前記架橋構造含有重合体が、脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有するビニル系単量体の構造単位を含有する硬質重合体層を有する多層構造粒子である、請求項8〜13のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。請求項8〜14のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形体。請求項8〜14のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物からなるフィルム。

说明书全文

本発明は、フィルムの製造方法に関する。

アクリル樹脂は、優れた透明性を有することに加え、アクリル系ゴムを添加した系(例えばコアシェル型のゴム)は加工性も容易であることから、フィルム、シート、または一般成形品として広く用いられている。

近年、塗装に代わる樹脂成形品の表層に加飾する方法として、印刷等により加飾されたアクリル系樹脂フィルム(以降、「加飾用積層フィルム」と記す)を、射出成形金型内に挿入し、射出成形した後、加飾層のみを成形品表面に転写してからフィルムを剥がす転写法;加飾フィルムを成形品の最表面として成形品に残すインサート成形法、インモールド成形法等の射出成形と同時に加飾を施す方法、フィルムを射出成形品表面にラミネーションする方法、等が広く使用されている。これらの成形方法により、成形品にアクリル樹脂特有の高い意匠性、高級感を与えることができる。

また各種の光学関連機器で用いられるフィルム状、板状の光学部材(例えば、液晶表示装置で用いられるフィルムや基板、プリズムシート等)を構成する材料として、光透過性のアクリル樹脂も汎用されており、このような樹脂は一般に「光学樹脂」あるいは「光学ポリマー」、そしてそのフィルムは「光学フィルム」と呼ばれている。

上記加飾用積層フィルムや光学フィルムを自動車等車両の内外装材や、パソコンや液晶テレビなど液晶表示装置に使用する場合、アクリル系樹脂フィルムの成形法としてフラットダイを使用したTダイ法で押出成形すると、ダイラインと呼ばれるフィルムの流れの方向に連続的に発生するスジ状の欠陥が発生し、外観意匠性が低下したり、液晶表示装置に組み込まれた場合の実使用上、表示不良など問題となる場合がある。

ダイラインの発生要因としては、ダイスのランド部やリップ部のクラックと呼ばれる微細な割れ、欠けに起因するものや、樹脂やの樹脂の分解物などがランド部やリップ部に固着し、溶融樹脂を引掻くことで発生しているケースがあると一般的に言われている。

これらのことは、上記アクリル系樹脂フィルムの使用を著しく限定することとなっていた。

特許文献1では、メヤニとよばれる付着物がTダイ押出成形でダイラインを引き起こす原因になること、ダイラインの発生を回避するために、引き落とし度を調整することが記載されている。

一方、溶融樹脂が示す特性の1つとして、緩和弾性率が知られている。これは、溶融樹脂が受けた変形の消失のしやすさを表す物性である。

特許文献2では、ポリプロピレン系樹脂の緩和弾性率を制御することにより、発泡成形における樹脂の粘長特性を向上させ気泡壁を保てることが記載されている。しかしながらTダイ押出成形に関する記載は無く、緩和弾性率とダイラインとの相関関係についての記載も一切ない。

特開2011−168059号公報

特開平10−306171号公報

特許文献1ではダイラインの発生を回避する方法が記載されているが、引き落とし角度の調整のみではその改善効果は十分ではなかった。

本発明は、上記現状に鑑み、Tダイを用いた溶融押出成形において、ダイラインの発生を抑制することができる、フィルムの製造方法を提供することを目的とする。

本発明者は、溶融押出法でフィルムを製造する工程においてダイラインが発生する場合、ダイスのランド部やリップ部のクラックが溶融樹脂に変形(歪み)を与えて、この変形(歪み)が緩和されず(消失されず)に溶融樹脂が冷却固化するとダイラインとして残痕すると考えた。

一方、溶融樹脂は応を受けると変形するが、樹脂組成によっては、受けた変形が容易に消失する系がある。これは、緩和と呼ばれる現象が起きやすい系である。この緩和しやすさは緩和弾性率と呼ばれる特性を測定・比較することで、定量化することができる。

以上から、ダイラインが発生しやすいか否かは、溶融樹脂の緩和弾性率と相関関係があると考察した。

この考察に基づき鋭意検討したところ、本発明者は、Tダイを用いた溶融押出成形によりアクリル系樹脂フィルムを製造する場合、特定の緩和弾性率を有する熱可塑性樹脂組成物を使用することにより、ダイラインの発生が抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。

すなわち、本願発明は、温度260℃、歪み1%、及び緩和時間1秒の条件下で測定した緩和弾性率が100Pa以上、2000Pa以下を示す熱可塑性樹脂組成物を溶融混練してTダイから押出成形することでフィルム化することを特徴とする、フィルムの製造方法に関する。

好ましくは、前記熱可塑性樹脂組成物がアクリル系樹脂及びゴム粒子を含有する。

好ましくは、前記熱可塑性樹脂組成物が、マレイミドアクリル系樹脂、グルタルイミドアクリル系樹脂、ラクトン環含有アクリル系重合体、スチレン単量体およびそれと共重合可能な他の単量体を重合して得られるスチレン含有アクリル系重合体の芳香族環を部分素添加して得られる部分水添スチレン含有アクリル系重合体、環状酸無水物繰り返し単位を含有するアクリル系重合体、並びに、水酸基および/またはカルボキシル基を含有するアクリル系重合体、からなる群より選択される少なくとも1種を含有する。

好ましくは、前記熱可塑性樹脂組成物が、下記一般式(5)で表されるマレイミド単位と(メタ)アクリル酸エステル単位とを有するマレイミドアクリル系樹脂を含む。

(式中、R11およびR12は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、または炭素数6〜14のアリール基であり、 R13は、水素原子、炭素数7〜14のアリールアルキル基、炭素数6〜14のアリール基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数1〜18のアルキル基、又は、下記A群より選ばれる少なくとも一種の置換基を有する炭素数6〜14のアリール基もしくは炭素数1〜12のアルキル基である。

A群:ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数1〜12のアルキル基及び炭素数7〜14のアリールアルキル基。) 好ましくは、前記マレイミドアクリル系樹脂が、下記一般式(3)で表される単位をさらに有する。

(式中、R7は、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R8は、炭素数6〜10のアリール基である。) 好ましくは、前記熱可塑性樹脂組成物が、下記一般式(1)で表される単位と、下記一般式(2)で表される単位とを有するグルタルイミドアクリル系樹脂を含有する。

(式中、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R3は、水素、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または、芳香環を含む炭素数5〜15の置換基である。)

(式中、R4およびR5は、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R6は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または、芳香環を含む炭素数5〜15の置換基である。) 好ましくは、前記フィルムが、光学フィルムである。

また、本発明は、温度260℃、歪み1%、及び緩和時間1秒の条件下で測定した緩和弾性率が100Pa以上、2000Pa以下を示す熱可塑性樹脂組成物にも関する。

前記熱可塑性樹脂組成物は、好ましくは、配向複屈折が−1.7×10−4から1.7×10−4である。また、好ましくは、光弾性定数が−4×10−12から4×10−12Pa−1である。

前記熱可塑性樹脂組成物は、好ましくは、熱可塑性樹脂および架橋構造含有重合体を含む。また、より好ましくは、前記熱可塑性樹脂の光弾性定数と、前記架橋構造含有重合体の光弾性定数とが異符号である。

好ましくは、前記熱可塑性樹脂組成物がアクリル系樹脂及びゴム粒子を含有する。

好ましくは、前記熱可塑性樹脂組成物が、マレイミドアクリル系樹脂、グルタルイミドアクリル系樹脂、ラクトン環含有アクリル系重合体、スチレン単量体およびそれと共重合可能な他の単量体を重合して得られるスチレン含有アクリル系重合体の芳香族環を部分水素添加して得られる部分水添スチレン含有アクリル系重合体、環状酸無水物繰り返し単位を含有するアクリル系重合体、並びに、水酸基および/またはカルボキシル基を含有するアクリル系重合体、からなる群より選択される少なくとも1種を含有する。

好ましくは、前記熱可塑性樹脂組成物が、下記一般式(5)で表されるマレイミド単位と(メタ)アクリル酸エステル単位とを有するマレイミドアクリル系樹脂を含む。

(式中、R11およびR12は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、または炭素数6〜14のアリール基であり、 R13は、水素原子、炭素数7〜14のアリールアルキル基、炭素数6〜14のアリール基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数1〜18のアルキル基、又は、下記A群より選ばれる少なくとも一種の置換基を有する炭素数6〜14のアリール基もしくは炭素数1〜12のアルキル基である。

A群:ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数1〜12のアルキル基及び炭素数7〜14のアリールアルキル基。) 好ましくは、前記マレイミドアクリル系樹脂が、下記一般式(3)で表される単位をさらに有する。

(式中、R7は、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R8は、炭素数6〜10のアリール基である。) 好ましくは、前記熱可塑性樹脂組成物が、下記一般式(1)で表される単位と、下記一般式(2)で表される単位とを有するグルタルイミドアクリル系樹脂を含有する。

(式中、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R3は、水素、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または、芳香環を含む炭素数5〜15の置換基である。)

(式中、R4およびR5は、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R6は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または、芳香環を含む炭素数5〜15の置換基である。) 好ましくは、前記架橋構造含有重合体が、脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有するビニル系単量体の構造単位を含有する硬質重合体層を有する多層構造粒子である。

好ましくは、前記熱可塑性樹脂組成物はフィルム成形用熱可塑性樹脂組成物であり、より好ましくは、前記フィルムが、光学フィルムである。

また、本発明は、前記熱可塑性樹脂組成物からなる成形体又はフィルムである。

本発明によれば、Tダイを用いた溶融押出成形により、ダイラインの発生が抑制され、ダイラインが極めて少ないフィルムを製造することができる。本発明により製造されたフィルムは、ダイラインが極めて少なく外観意匠性に優れており、液晶表示装置に組み込まれた場合の実使用の際に、ダイライン起因の欠陥(例えば、スジ状欠陥)の問題がなく、光学用途を初めとして種々の用途において好適に使用することができる。

以下、本発明の製造方法について詳細に説明する。

本発明の製造方法では、熱可塑性樹脂組成物を溶融混練してTダイから押出成形することでフィルムを製造する。具体的には、まず、フィルム原料たる熱可塑性樹脂組成物が押出機に投入され、押出機内において、前記熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度以上の温度まで加熱され、溶融状態となる。溶融状態の熱可塑性樹脂組成物は、押出機の出口側に取り付けられたTダイに移行し、ダイ先端のTダイ出口から溶融状態のまま、吐出される。その吐出時においてダイ出口の形状により、溶融状態の熱可塑性樹脂組成物はシート形状をとる。

この溶融状態にあるシート状の熱可塑性樹脂組成物を、一対の平滑化ロールに挟み込むことによりシート表面を平滑化することが好ましい。一対の平滑化ロールで挟み込みつつ引き取ることにより、熱可塑性樹脂組成物が、そのガラス転移温度以下の温度に冷却固化され、フィルムが製造される。

本発明で使用する熱可塑性樹脂組成物は、加熱温度260℃、歪み1%、および緩和時間1秒の条件下で測定した緩和弾性率が100Pa以上、2000Pa以下であることが好ましく、200Pa以上、1500Pa以下であることが更に好ましい。熱可塑性樹脂組成物の緩和弾性率が100Pa以上であればダイラインが極めて少なく、かつフィルムの強度(耐割れ性)の面から好ましい。緩和弾性率が2000Pa以下であればダイラインの発生が抑えられることから好ましい。

本願の緩和弾性率は、以下の操作により算出した値である。すなわち、動的粘弾性測定器ARES(TA社製)を使用し、設定温度260℃、φ25mmコープレート、歪み1%の条件にて測定した値であり、歪み印加後緩和開始から1秒後の緩和弾性率を対象としている。

熱可塑性樹脂組成物の緩和弾性率を制御する方法としては特に限定されないが、例えば、以下に示す方法を使用することができる。熱可塑性樹脂組成物に含まれる、緩和しやすい成分の割合を増やすことで、緩和弾性率の値を小さくすることができる。すなわち樹脂の分子量を小さくしたり、ガラス転移温度を小さくしたりすることで、緩和弾性率の値を抑えることができる。

特に熱可塑性樹脂組成物が、耐割れ性、耐トリミング性、引張伸び率など加工性の向上を志向したアクリル系樹脂及びゴム粒子を含有する系においては、ゴムそのものが緩和しにくい成分であるため、ダイラインが発生しやすいが、ゴムの配合量を小さくすることで、熱可塑性樹脂組成物全体の緩和弾性率の値を抑えることができる。

また、配合するゴム粒子に関しては、製造時に使用する架橋剤の量が少ないほど、熱可塑性樹脂組成物全体の緩和弾性率の値を抑えることができる。

ゴム粒子が、マトリックス樹脂への均一分散を志向した、いわゆるコアシェル型のゴム粒子である場合、ゴムであるコア部に共重合しているグラフト成分(グラフトポリマー)の量が少ないほど、ゴムの弾性が熱可塑性樹脂組成物全体に反映されにくくなり、緩和弾性率の値を抑えることができる。

本発明において、使用するTダイとしては、マニホールドダイ、フィッシュテールダイ、コートハンガーダイなどを挙げることができる。これらの中では、コートハンガーダイ、マニホールドダイが好ましい。

Tダイの幅としては、所望のフィルム幅に適したTダイを使用することができる。本発明は様々な幅のTダイを用いたフィルムの製造方法に適用することができる。

Tダイの材質としては、例えば、クロムモリブデン鋼等であり、流路面仕上げはHCr(ハードクロムメッキ)仕上げ等が挙げられる。その中でも、ダイライン等を防ぎ、欠陥の少ないフィルムを製造することが可能となるので、リップ部はセラミック溶射による高精度な表面処理を施したものを用いることが好ましい。

本発明で熱可塑性樹脂組成物を押出機において溶融させるための条件としては特に限定されず、樹脂に応じて決定することができるが、例えば、押出機出口における樹脂温度が、220〜280℃となるようにシリンダー温度を設定することが好ましく、前記温度は240〜270℃とすることがさらに好ましい。

本発明では、押出機として、単軸押出機、同方向噛合型2軸押出機、同方向非噛合型2軸押出機、異方向噛合型2軸押出機、異方向非噛合型2軸押出機、多軸押出機等の各種押出機を用いることができる。その中でも、単軸押出機が押出機内における樹脂滞留部が少ないため押出中における樹脂の熱劣化を防ぐことが可能になること、また設備費が安価であることから好ましい。また、樹脂中の残存揮発分、押出機における加熱発生物を除去するためにベント機構を有する押出機を使用することが好ましい。押出機のサイズ(口径)は所望の吐出量に合わせて選定することが好ましい。

また、吐出量を一定としフィルム厚みを一定とするために、ギアポンプを用いることが好ましい。ギアポンプの回転数およびギアポンプ流入前圧力を一定とし、それに応じて押出機の回転数を決定する制御方法を用いることが好ましい。

本発明で用いることができる熱可塑性樹脂組成物としては、フィルム、特に光学フィルムとして使用可能な熱可塑性樹脂組成物であって、溶融押出による成形が可能なものであれば、特に制限されない。

本発明において、熱可塑性樹脂としては、一般に透明性を有している樹脂であれば使用可能である。具体的には、ビスフェノールAポリカーボネートに代表されるポリカーボネート樹脂、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−無水マレイン酸樹脂、スチレン−マレイミド樹脂、スチレン−(メタ)アクリル酸樹脂、スチレン系熱可塑エラストマー等の芳香族ビニル系樹脂及びその水素添加物、非晶性ポリオレフィン、結晶相を微細化した透明なポリオレフィン、エチレン−メタクリル酸メチル樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリメタクリル酸メチル、スチレン-メタクリル酸メチル樹脂等のアクリル系樹脂、およびそのイミド環化、ラクトン環化、メタクリル酸変性等により改質された耐熱性のアクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレートあるいはシクロヘキサンジメチレン基やイソフタル酸等で部分変性されたポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート等の非晶ポリエステル樹脂あるいは結晶相を微細化した透明なポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリアミド樹脂、トリアセチルセルロース樹脂等のセルロース系樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂等の透明性を有する熱可塑性樹脂が幅広く例示される。実使用を考えた場合、前記熱可塑性樹脂組成物から得られた成形体(3mm厚)の全光線透過率が85%以上、好ましくは90%、より好ましくは92%以上になるように熱可塑性樹脂を選択することが好ましい。具体的には、熱可塑性樹脂を厚み3mmの成形体にした時に全光線透過率が85%以上の熱可塑性樹脂を選択することが好ましく、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは92%以上である。

上記熱可塑性樹脂のなかでも、アクリル系樹脂は、優れた光学特性、耐熱性、成形加工性などの面で特に好ましい。

本発明では、熱可塑性樹脂組成物として、マトリックス樹脂である熱可塑性樹脂とゴム粒子を含有する熱可塑性樹脂組成物、特に、マトリックス樹脂であるアクリル系樹脂とゴム粒子を含有するアクリル系樹脂組成物を使用することができる。ゴム粒子を含有する熱可塑性樹脂組成物は、ゴムそのものが緩和しにくい成分であるため、ダイラインが発生しやすいが、本発明によると、熱可塑性樹脂組成物の緩和弾性率をあらかじめ調整しておくことによって、ゴム粒子を含有しているにもかかわらず、ダイラインの発生を抑制することができる。

以下、本発明を好適に適用することができる、アクリル系樹脂とゴム粒子を含有するアクリル樹脂組成物について具体的に説明する。

(アクリル系樹脂) 本発明において、アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸エステルを含むビニル系単量体を重合してなる樹脂であればよいが、メタクリル酸メチル由来の構造単位を30〜100重量%およびこれと共重合可能なモノマー由来の構造単位を70〜0重量%含有するアクリル系樹脂がより好ましい。

メタクリル酸メチルと共重合可能な他のビニル系単量体としては、例えばアルキル残基の炭素数1〜10である(メタ)アクリル酸エステル(ただしメタクリル酸メチルを除く)が好ましい。メタクリル酸メチルと共重合可能な他のビニル系単量体としては、具体的には、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸エポキシシクロヘキシルメチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ジシクロペンタニル、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、2,2,2−トリクロロエチルメタクリレート、メタクリル酸イソボロニル等のメタクリル酸エステル類;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸エポキシシクロヘキシルメチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸、アクリル酸などのカルボン酸類およびそのエステル類;アクリロニトニル、メタクリロニトリルなどのビニルシアン類;スチレン、α−メチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン等のビニルアレーン類;マレイン酸、フマール酸およびそれらのエステル等;塩化ビニル、臭化ビニル、クロロプレンなどのハロゲン化ビニル類;酢酸ビニル;エチレン、プロピレン、ブチレン、ブタジエン、イソブチレンなどのアルケン類:ハロゲン化アルケン類;アリルメタクリレート、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、モノエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼンなどの多官能性モノマーが挙げられる。これらのビニル系単量体は単独でまたは2種類以上を併用して使用することができる。

メタクリル酸メチル重合体中、メタクリル酸メチルは、好ましくは30〜100重量%、より好ましくは50〜99.9重量%、さらに好ましくは50〜98重量%含有され、メタクリル酸メチルと共重合可能なモノマーは、好ましくは70〜0重量%、より好ましくは50〜0.1重量%、さらに好ましくは50〜2重量%含有される。メタクリル酸メチルの含有量が30重量%未満ではアクリル系樹脂特有の光学特性、外観性、耐候性、耐熱性が低下してしまう傾向がある。また、加工性、外観性の観点から、多官能性モノマーは使用しないことが望ましい。

本発明に用いられる熱可塑性樹脂のガラス転移温度は使用する条件、用途に応じて設定することができる。好ましくはガラス転移温度が100℃以上、より好ましくは110℃以上、さらに好ましくは115℃以上、最も好ましくは120℃以上である。

ガラス転移温度が120℃以上のアクリル系樹脂として、具体的には、マレイミド構造、グルタルイミド構造、無水グルタル酸構造、(メタ)アクリル酸単位、又は、ラクトン環を分子中に含むアクリル系樹脂等が挙げられる。例えば、マレイミドアクリル系樹脂、グルタルイミドアクリル系樹脂、無水グルタル酸アクリル系樹脂、ラクトン環含有アクリル系樹脂、水酸基および/またはカルボキシル基を含有するアクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、スチレン単量体およびそれと共重合可能な他の単量体を重合して得られるスチレン含有アクリル系重合体の芳香族環を部分水素添加して得られる部分水添スチレン含有アクリル系重合体、環状酸無水物繰り返し単位を含有するアクリル系重合体等が挙げられる。ガラス転移温度が120℃以上のその他の樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等が使用できる。なかでも、以下に記載するマレイミドアクリル系樹脂、及び/又は、グルタルイミドアクリル系樹脂を用いると、得られるフィルムの耐熱性が向上し、且つ、延伸時の光学特性にも優れるため特に好ましい。特に、熱可塑性樹脂として、マレイミドアクリル系樹脂とグルタルイミドアクリル系樹脂の併用が好ましい。両樹脂は相溶性が高く、併用して各樹脂の優れた透明性を維持でき、配向複屈折と光弾性複屈折が共に小さく、高い熱安定性、耐溶剤性も維持できる。

(マレイミドアクリル系樹脂) マレイミドアクリル系樹脂とは、具体的には、下記一般式(5)で表されるマレイミド単位と(メタ)アクリル酸エステル単位とを有する共重合体である。

上記一般式(5)中、R11およびR12は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、または炭素数6〜14のアリール基であり、 R13は、水素原子、炭素数7〜14のアリールアルキル基、炭素数6〜14のアリール基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数1〜18のアルキル基、又は、下記A群より選ばれる少なくとも一種の置換基を有する炭素数6〜14のアリール基もしくは炭素数1〜12のアルキル基である。

A群:ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数1〜12のアルキル基及び炭素数7〜14のアリールアルキル基。)

11およびR

12> R

11及びR

12における炭素数1〜12のアルキル基としては、炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、炭素数1〜4のアルキル基がより好ましい。また、R

11及びR

12における炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デカニル基、ラウリル基等が挙げられ、これらのうち、透明性及び耐候性が一層向上する点において、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基が好適であり、メチル基がより好適である。

R11及びR12における炭素数6〜14のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等が挙げられ、これらのうち、耐熱性及び低複屈折性等の光学的特性が一層向上する点において、フェニル基が好適である。

R11及びR12は、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。

13> R

13における炭素数7〜14のアリールアルキル基としては、ベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基、3−フェニルプロピル基、6−フェニルヘキシル基、8−フェニルオクチル基が挙げられ、これらのうち、耐熱性及び低複屈折性等の光学的特性が一層向上する点において、ベンジル基が好適である。

また、R13における炭素数6〜14のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等が挙げられ、これらのうち、耐熱性及び低複屈折性等の光学的特性が一層向上する点において、フェニル基が好適である。

また、R13は置換基を有する炭素数6〜14のアリール基であってもよく、ここで置換基は、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数1〜12のアルキル基及び炭素数7〜14のアリールアルキル基からなる群(A群)より選ばれる基である。

置換基としてのハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。

置換基としての炭素数1〜12のアルコキシ基としては、炭素数1〜10のアルコキシ基が好ましく、炭素数1〜8のアルコキシ基がより好ましい。また、置換基としての炭素数1〜12のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、t−ブチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、1−デシルオキシ基、1−ドデシルオキシ基等が挙げられる。

置換基としての炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デカニル基、ラウリル基等が挙げられ、これらのうち、透明性及び耐候性が一層向上する点において、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基が好適であり、メチル基がより好適である。

さらに、置換基としての炭素数7〜14のアリールアルキル基としては、ベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基、3−フェニルプロピル基、6−フェニルヘキシル基、8−フェニルオクチル基が挙げられ、これらのうち、ベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基、3−フェニルプロピル基が好適である。

R13において、置換基を有する炭素数6〜14のアリール基としては、置換基を有するフェニル基、置換基を有するナフチル基が好ましい。また、置換基を有する炭素数6〜14のアリール基としては、2,4,6−トリブロモフェニル基、2−クロロフェニル基、4−クロロフェニル基、2−ブロモフェニル基、4−ブロモフェニル基、2−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2−エチルフェニル基、4−エチルフェニル基、2−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、2−ニトロフェニル基、4−ニトロフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基等が挙げられ、これらのうち、難燃性が付与される点において、2,4,6−トリブロモフェニル基が好適である。

R13における炭素数3〜12のシクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、トリシクロデシル基、ビシクロオクチル基、トリシクロドデシル基、イソボルニル基、アダマンチル基、テトラシクロドデシル基等が挙げられ、これらのうち、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基が好適であり、耐候性及び透明性等の光学特性が一層向上するとともに、低吸水性を付与できる点からは、シクロヘキシル基がより好適である。

また、R13における炭素数1〜18のアルキル基としては、炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、炭素数1〜8のアルキル基がより好ましい。また、R13における炭素数1〜18のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−ドデシル基、n−オクタデシル基、2−エチルヘキシル基、1−デシル基、1−ドデシル基等が挙げられ、これらのうち、耐候性及び透明性等の光学特性が一層向上することから、メチル基、エチル基、イソプロピル基が好適である。

また、R13は置換基を有する炭素数1〜12のアルキル基であってもよく、ここで置換基は、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基及び炭素数1〜12のアルコキシ基からなる群(A群)より選ばれる基である。

置換基としてのハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。

置換基としての炭素数1〜12のアルコキシ基としては、炭素数1〜10のアルコキシ基が好ましく、炭素数1〜8のアルコキシ基がより好ましい。また、置換基としての炭素数1〜12のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、t−ブチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、1−デシルオキシ基、1−ドデシルオキシ基等が挙げられる。

R13において、置換基を有する炭素数1〜12のアルキル基としては、ジクロロメチル基、トリクロロメチル基、トリフルオロエチル基、ヒドロキシエチル基等が挙げられ、これらのうち、トリフルオロエチル基が好適である。

一般式(5)で表されるマレイミド単位の具体例としては、無置換のマレイミド単位、N−メチルマレイミド単位、N−フェニルマレイミド単位、N−シクロヘキシルマレイミド単位、N−ベンジルマレイミド単位等が挙げられる。

マレイミド単位としては1種類のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。

マレイミドアクリル系樹脂において、マレイミド単位の含有量は特に限定されず、例えば、R13の構造等を考慮して適宜決定することができる。しかしながら、マレイミド単位の含有量は、マレイミドアクリル系樹脂全量のうち1.0重量%以上が好ましく、1重量%〜99重量%がより好ましく、1重量%〜80重量%がさらに好ましい。マレイミド単位の含有量が上記範囲を外れた場合、光学等方性が低下する傾向がある。

マレイミドアクリル系樹脂が有する(メタ)アクリル酸エステル単位としては、グルタルイミドアクリル系樹脂について後述する一般式(2)で表される単位と同様のものを使用することができる。特に、透明性の点から、メタクリル酸メチル単位が含まれることが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル単位の含有量は、特に限定されないが、マレイミドアクリル系樹脂全量のうち1〜99重量%が好ましく、10〜95重量%がより好ましく、10〜90重量%がさらに好ましい。当該(メタ)アクリル酸エステル単位としては1種類のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。

また、マレイミドアクリル系樹脂は、光学特性を調整するため、下記一般式(3)で表される単位をさらに有することが好ましい。

(式中、R7は、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R8は、炭素数6〜10のアリール基である。) 上記一般式(3)で表される芳香族ビニル単位としては特に限定されないが、スチレン単位、α−メチルスチレン単位が挙げられ、スチレン単位が好ましい。

マレイミドアクリル系樹脂は、上記一般式(3)で表される単位として、単一の種類のみを含んでいてもよいし、R7およびR8のいずれか又は双方が異なる複数の単位を含んでいてもよい。

マレイミドアクリル系樹脂において、一般式(3)で表される単位の含有量は特に限定されないが、マレイミドアクリル系樹脂全量のうち0〜40重量%が好ましく、0〜20重量%がより好ましく、0〜15重量%が特に好ましい。

マレイミドアクリル系樹脂には、必要に応じ、以上で説明した単位以外のその他の単位がさらに含まれていてもよい。

マレイミドアクリル系樹脂の重量平均分子量は特に限定されないが、1×104〜5×105の範囲にあることが好ましい。上記範囲内であれば、成形加工性が低下したり、フィルム加工時の機械的強度が不足したりすることがない。一方、重量平均分子量が上記範囲よりも小さいと、フィルムにした場合の機械的強度が不足する傾向がある。また、上記範囲よりも大きいと、溶融押出時の粘度が高く、成形加工性が低下し、成形品の生産性が低下する傾向がある。

マレイミドアクリル系樹脂は、例えば下記重合工程により得ることができる。また、下記脱揮工程により精製することができる。

(重合工程) マレイミドアクリル系樹脂は、上記各構成単位の単量体から選ばれた単量体群を重合することにより得ることができる。

本実施形態に係るマレイミドアクリル系樹脂の重合反応においては、互いに反応性が近しい単量体、及び/又は共重合性が高い単量体を組み合わせることが、得られるマレイミドアクリル系樹脂の樹脂組成比を、反応液に仕込む原料組成比に基づいて容易に制御することが可能であることから望ましい。一方、反応性が著しく異なる単量体を組み合わせる場合、a)反応性が低い単量体が十分に反応せず未反応単量体として残存する、b)結果として得られるマレイミドアクリル系樹脂の樹脂組成比が予測し難い等の問題が生じ得る。特に、未反応単量体が残存すると、マレイミドアクリル系樹脂の特性、例えば、透明性、耐光性、が低下する等の問題もある。

マレイミドアクリル系樹脂の重合方法として、例えば、キャスト重合、塊状重合、懸濁重合、溶液重合、乳化重合、リビングラジカル重合、アニオン重合等の一般に行われている重合方法を用いることができる。マレイミドアクリル系樹脂を光学材料用途として用いるには微小な異物の混入は出来るだけ避けるのが好ましく、この観点からキャスト重合、溶液重合、懸濁重合、さらには懸濁剤や乳化剤を用いないキャスト重合や溶液重合を用いることが望ましい。

また、重合形式として、例えば、バッチ重合法、連続重合法のいずれも用いることができる。重合操作が簡単という観点からは、バッチ重合法が望ましく、より均一組成の重合物を得るという観点では、連続重合法を用いることが望ましい。

重合反応時の温度や重合時間は、使用する単量体の種類や割合等に応じて適宜調整できるが、例えば、重合温度が0〜150℃、重合時間が0.5〜24時間であり、好ましくは、重合温度が40〜150℃、重合時間が1〜15時間である。

ラジカル重合反応時には、必要に応じて、重合開始剤を添加してもよい。重合開始剤としては、一般にラジカル重合において用いられる任意の開始剤を使用することができ、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ラウロイルパーオキサイド等の有機過酸化物;2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート等のアゾ化合物;等を挙げることができる。これらの重合開始剤は、単独で用いても2種以上を併用して用いてもよい。

重合開始剤の使用量は、単量体の組合せや反応条件等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではないが、好ましくは0.005〜5質量%の範囲で用いられる。

重合反応に必要に応じて用いられる分子量調節剤は、一般的なラジカル重合において用いる任意のものが使用され、例えばブチルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、チオグリコール酸2−エチルヘキシル等のメルカプタン化合物が特に好ましいものとして挙げられる。これらの分子量調節剤は、分子量が先述の範囲内に制御されるような濃度範囲で添加される。

重合反応時に溶剤を使用する場合、重合溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤;等が挙げられる。これらの溶剤は、単独で用いても2種以上を併用して用いてもよい。使用する溶剤の沸点が高すぎると、最終的に得られるマレイミドアクリル系樹脂の残存揮発分が多くなることから、沸点が50〜200℃である溶剤が好ましい。

重合反応時には、必要に応じて、有機リン系化合物や有機酸を添加してもよい。これらの化合物が共存することで、副反応が抑制される、及び/又は未反応N−置換マレイミド量が低減される等して、得られるマレイミドアクリル系樹脂の成形加工時の着色が低減される場合がある。

有機リン系化合物としては、例えば、アルキル(アリール)亜ホスホン酸及びこれらのジエステル又はモノエステル;ジアルキル(アリール)ホスフィン酸及びこれらのエステル;アルキル(アリール)ホスホン酸及びこれらのジエステル又はモノエステル;アルキル亜ホスフィン酸及びこれらのエステル;亜リン酸ジエステル、亜リン酸モノエステル、亜リン酸トリエステル;リン酸ジエステル、リン酸モノエステル、リン酸トリエステル等が挙げられる。これらの有機リン系化合物は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。有機リン系化合物の使用量は、単量体の総量に対して好ましくは0.001〜5.0質量%である。

有機酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、安息香酸、シクロヘキサンカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等及びこれらの酸無水物等が挙げられる。これらの有機酸は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。有機酸の使用量は、単量体の総量に対して好ましくは0.001〜1.0質量%である。

重合反応を行う際には、重合体濃度としては重合中の除熱の観点から、反応液の粘度を適切にするために、10〜95質量%で実施することが好ましく、75質量%以下がより好ましく、60質量%以下がさらに好ましい。10質量%以上であれば、分子量と分子量分布の調整が容易である。95質量%以下であれば、高分子量の重合体を得ることができる。

得られた重合反応液の粘度を適切に保つという観点から、重合溶剤を適宜添加することができる。反応液の粘度を適切に保つことで、除熱を制御し、反応液中のミクロゲル発生を抑制することができる。特に、粘度が上昇する重合反応後半においては重合溶剤を適宜添加して50質量%以下となるように制御することが更に好ましい。

重合溶剤を重合反応液に適宜添加する形態としては、特に限定されるものではなく、例えば、連続的に重合溶剤を添加してもよいし、間欠的に重合溶剤を添加してもよい。このように重合反応液中に生成したマレイミドアクリル系樹脂の濃度を制御することによって、反応器内部の温度均一性を向上させ、反応液のゲル化をより十分に抑制することができる。添加する重合溶剤としては、例えば、重合反応の初期仕込み時に使用した溶剤と同じ種類の溶剤であってもよいし、異なる種類の溶剤であってもよいが、重合反応の初期仕込み時に使用した溶剤と同じ種類の溶剤を用いることが好ましい。また、添加する重合溶剤は、1種のみの単一溶剤であっても2種以上の混合溶剤であってもよい。

マレイミドアクリル系樹脂を懸濁重合法で重合する場合には、水性媒体中で行い、懸濁剤及び必要に応じて懸濁助剤を添加して行う。懸濁剤としては、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリルアミド等の水溶性高分子、リン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム等の無機物質等がある。水溶性高分子は、単量体の総量に対して0.01〜2質量%使用するのが好ましく、無機物質は、単量体の総量に対して0.01〜2質量%使用するのが好ましい。懸濁助剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム等の陰イオン界面活性剤等の低分子界面活性剤、ホウ酸、炭酸ナトリウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸2水素ナトリウム、硫酸ナトリウム等の水溶性の無機塩などである。懸濁助剤としては、リン酸水素2ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが好ましい。また、懸濁剤として無機物質を使用する場合には、懸濁助剤を使用するのが好ましい。懸濁助剤は、単量体100質量%に対して0.001〜2質量%使用するのが好ましい。

(脱揮工程) 脱揮工程とは、重合溶剤、残存単量体、水分等の揮発分を、必要に応じて減圧加熱条件下で、除去処理する工程を意味する。この除去処理が不充分であると、得られたマレイミドアクリル系樹脂の残存揮発分が多くなり、成形時の変質等により着色することや、泡やシルバーストリーク等の成形不良が起こることがある。残存揮発分量は、マレイミドアクリル系樹脂100質量%に対して1質量%以下、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.4質量%以下、更により好ましくは0.3質量%以下である。残存揮発分量とは、前述した重合反応時に反応しなかった残存単量体、重合溶媒、副反応生成物の合計量に相当する。

脱揮工程に用いる装置としては、例えば、熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置;ベント付き押出機;脱揮装置と押出機を直列に配置したもの等が挙げられる。ベント付き押出機を用いる場合、ベントは1個でも複数個でもいずれでもよいが、複数個のベントを有する方が好ましい。

脱揮工程の温度は、好ましくは150〜350℃、より好ましくは170〜330℃、更に好ましくは200〜300℃である。この温度が150℃未満であると、残存揮発分が多くなることがある。逆に、この温度が350℃を超えると、得られたマレイミドアクリル系樹脂の着色や分解が起こることがある。

脱揮工程における圧力は、好ましくは931〜1.33hPa(700〜1mmHg)、より好ましくは800〜13.3hPa(600〜10mmHg)、更に好ましくは667〜20.0hPa(500〜15mmHg)である。この圧力が931hPa(700mmHg)を超えると、揮発分が残存しやすいことがある。逆に、圧力が1.33hPa(1mmHg)未満であると、工業的な実施が困難になることがある。

処理時間は、残存揮発分の量により適宜選択されるが、得られたマレイミドアクリル系樹脂の着色や分解を抑えるためには短いほど好ましい。

重合反応時の単量体反応転化率が低い場合、重合液には未反応単量体が多量に残存している。その場合、得られるマレイミドアクリル系樹脂の残存揮発分量を減らすには高い処理温度で、長時間処理することになるが、そうすると着色や分解が生じ易いという問題がある。多量に未反応単量体を含む重合反応液を処理する場合には、問題となる未反応単量体は、例えば、芳香族炭化水素系溶剤、炭化水素系溶剤、又はアルコール系溶剤等を重合溶液に添加した後、ホモジナイザー(乳化分散)処理を行い、液−液抽出、固−液抽出する等の前処理を施すことで重合反応液から分離できる。前処理による単量体分離後の重合反応液を前述した脱揮工程に供すると、得られる熱可塑性樹脂100質量%中に残存する単量体の合計を1質量%以下に抑えることができる。

(グルタルイミドアクリル系樹脂) グルタルイミドアクリル系樹脂は、ガラス転移温度が120℃以上であり、下記一般式(1)で表される単位と、下記一般式(2)で表される単位とを含むものである。

上記一般式(1)中、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R3は、水素、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または、芳香環を含む炭素数5〜15の置換基である。上記一般式(1)で表される単位を、以下、「グルタルイミド単位」ともいう。

上記一般式(1)において、好ましくは、R1およびR2はそれぞれ独立して水素またはメチル基であり、R3は、水素、メチル基、ブチル基、シクロヘキシル基であり、より好ましくは、R1はメチル基であり、R2は水素であり、R3はメチル基である。

グルタルイミドアクリル系樹脂は、グルタルイミド単位として、単一の種類のみを含んでいてもよいし、上記一般式(1)におけるR1、R2、およびR3のいずれか又は全てが異なる複数の種類を含んでいてもよい。

グルタルイミド単位は、下記一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル単位をイミド化することにより形成することができる。また、無水マレイン酸等の酸無水物、当該酸無水物と炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルコールとのハーフエステル、または、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、シトラコン酸)をイミド化することによっても、上記グルタルイミド単位を形成することができる。

グルタルイミドアクリル系樹脂において、グルタルイミド単位の含有量は特に限定されず、例えば、R3の構造等を考慮して適宜決定することができる。しかしながら、グルタルイミド単位の含有量は、グルタルイミドアクリル系樹脂全量のうち1.0重量%以上が好ましく、3.0重量%〜90重量%がより好ましく、5.0重量%〜60重量%がさらに好ましい。グルタルイミド単位の含有量が上記範囲より少ないと、得られるグルタルイミドアクリル系樹脂の耐熱性が不足したり、透明性が損なわれたりする傾向がある。逆に上記範囲よりも多いと、不必要に耐熱性および溶融粘度が高くなり、成形加工性が悪くなったり、フィルム加工時の機械的強度が極端に低くなったり、透明性が損なわれたりする傾向がある。

グルタルイミド単位の含有量は以下の方法により算出される。

1H−NMR BRUKER AvanceIII(400MHz)を用いて、樹脂の1H−NMR測定を行い、樹脂中のグルタルイミド単位またはエステル単位などの各モノマー単位それぞれの含有量(mol%)を求め、当該含有量(mol%)を、各モノマー単位の分子量を使用して含有量(重量%)に換算する。

例えば、上記一般式(1)においてR3がメチル基であるグルタルイミド単位とメチルメタクリレート単位からなる樹脂の場合、3.5から3.8ppm付近に現れるメタクリル酸メチルのO−CH3プロトン由来のピークの面積aと、3.0から3.3ppm付近に現れるグルタルイミドのN−CH3プロトン由来のピークの面積bから、以下の計算式によりグルタルイミド単位の含有量(重量%)を求めることができる。 [メチルメタクリレート単位の含有量A(mol%)]=100×a/(a+b) [グルタルイミド単位の含有量B(mol%)]=100×b/(a+b) [グルタルイミド単位の含有量(重量%)]=100×(b×(グルタルイミド単位の分子量))/(a×(メチルメタクリレート単位の分子量)+b×(グルタルイミド単位の分子量)) なお、モノマー単位として上記以外の単位を含む場合においても、樹脂中の各モノマー単位の含有量(mol%)と分子量から、同様にグルタルイミド単位の含有量(重量%)を求めることができる。

本発明のフィルムを例えば偏光子保護フィルムに使用する場合、グルタルイミド単位の含有量は、複屈折を抑制しやすいため20重量%以下が好ましく、15重量%以下がより好ましく、10重量%以下がさらに好ましい。

上記一般式(2)中、R4およびR5は、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R6は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または芳香環を含む炭素数5〜15の置換基である。上記一般式(2)で表される単位を、以下、「(メタ)アクリル酸エステル単位」ともいう。なお、本願において「(メタ)アクリル」とは、「メタクリルまたはアクリル」を指すものとする。

上記一般式(2)において、好ましくは、R4およびR5はそれぞれ独立して水素またはメチル基であり、R6は水素またはメチル基であり、より好ましくは、R4は水素であり、R5はメチル基であり、R6はメチル基である。

グルタルイミドアクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸エステル単位として、単一の種類のみを含んでいてもよいし、上記一般式(2)におけるR4、R5およびR6のいずれか又は全てが異なる複数の種類を含んでいてもよい。

グルタルイミドアクリル系樹脂は、必要に応じて、下記一般式(3)で表される単位(以下、「芳香族ビニル単位」ともいう)をさらに含んでいてもよい。

上記一般式(3)中、R7は、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R8は、炭素数6〜10のアリール基である。

上記一般式(3)で表される芳香族ビニル単位としては特に限定されないが、スチレン単位、α−メチルスチレン単位が挙げられ、スチレン単位が好ましい。

グルタルイミドアクリル系樹脂は、芳香族ビニル単位として、単一の種類のみを含んでいてもよいし、R7およびR8のいずれか又は双方が異なる複数の単位を含んでいてもよい。

グルタルイミドアクリル系樹脂において、芳香族ビニル単位の含有量は特に限定されないが、グルタルイミドアクリル系樹脂全量のうち0〜50重量%が好ましく、0〜20重量%がより好ましく、0〜15重量%が特に好ましい。芳香族ビニル単位の含有量が上記範囲より多いと、グルタルイミドアクリル系樹脂の十分な耐熱性を得ることができない。

しかし本発明では、耐折り曲げ性および透明性の向上、フィッシュアイの低減、さらに耐溶剤性または耐候性の向上といった観点から、グルタルイミドアクリル系樹脂は芳香族ビニル単位を含まないことが好ましい。

グルタルイミドアクリル系樹脂には、必要に応じ、グルタルイミド単位、(メタ)アクリル酸エステル単位、および芳香族ビニル単位以外のその他の単位がさらに含まれていてもよい。

その他の単位としては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド系単位、グルタル無水物単位、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル系単位、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系単位等が挙げられる。

これらのその他の単位は、グルタルイミドアクリル系樹脂中に、ランダム共重合により含まれていてもよいし、グラフト共重合により含まれていてもよい。

これらのその他の単位は、その単位を構成する単量体を、グルタルイミドアクリル系樹脂を製造する際の原料となる樹脂に対し共重合することで導入したものでもよい。また、前記のイミド化反応を行う際に、これらその他の単位が副生してグルタルイミドアクリル系樹脂に含まれることとなったものでもよい。

グルタルイミドアクリル系樹脂の重量平均分子量は特に限定されないが、1×104〜5×105の範囲にあることが好ましい。上記範囲内であれば、成形加工性が低下したり、フィルム加工時の機械的強度が不足したりすることがない。一方、重量平均分子量が上記範囲よりも小さいと、フィルムにした場合の機械的強度が不足する傾向がある。また、上記範囲よりも大きいと、溶融押出時の粘度が高く、成形加工性が低下し、成形品の生産性が低下する傾向がある。

グルタルイミドアクリル系樹脂のガラス転移温度は、フィルムが良好な耐熱性を発揮するよう、120℃以上であることが好ましい。より好ましくは125℃以上である。ガラス転移温度が上記範囲よりも低いと、フィルムが十分な耐熱性を発揮することができない。

次に、グルタルイミドアクリル系樹脂の製造方法の一例を説明する。

まず、(メタ)アクリル酸エステルを重合することにより、(メタ)アクリル酸エステル重合体を製造する。グルタルイミドアクリル系樹脂が芳香族ビニル単位を含む場合には、(メタ)アクリル酸エステルと芳香族ビニルとを共重合させ、(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体を製造する。

この工程において、上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルを用いることが好ましく、メタクリル酸メチルを用いることがより好ましい。

(メタ)アクリル酸エステルは、単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。複数種の(メタ)アクリル酸エステルを用いることにより、最終的に得られるグルタルイミドアクリル系樹脂に複数種の(メタ)アクリル酸エステル単位を含ませることができる。

上記(メタ)アクリル酸エステル重合体または上記(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体の構造は、続くイミド化反応が可能なものであれば、特に限定されない。具体的には、線状ポリマー、ブロックポリマー、分岐ポリマー、ラダーポリマー、架橋ポリマー等が挙げられる。

ブロックポリマーの場合、A−B型、A−B−C型、A−B−A型、およびこれら以外のタイプのブロックポリマーのいずれであってもよい。

次に、上記(メタ)アクリル酸エステル重合体または上記(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体に、イミド化剤を反応させることで、イミド化反応を行う。これにより、グルタルイミドアクリル系樹脂を製造することができる。

上記イミド化剤は特に限定されず、上記一般式(1)で表されるグルタルイミド単位を生成できるものであればよい。具体的には、アンモニア又は一級アミンを用いることができる。上記一級アミンとしては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、i−プロピルアミン、n−ブチルアミン、i−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、n−ヘキシルアミン等の脂肪族炭化水素基含有一級アミン、アニリン、ベンジルアミン、トルイジン、トリクロロアニリン等の芳香族炭化水素基含有一級アミン、シクロヘキシルアミン等の脂環式炭化水素基含有一級アミンが挙げられる。

上記イミド化剤としては、尿素、1,3−ジメチル尿素、1,3−ジエチル尿素、1,3−ジプロピル尿素等の、加熱によりアンモニア又は一級アミンを発生する尿素系化合物を用いることもできる。

上記イミド化剤のうち、コスト、物性の面から、アンモニア、メチルアミン、シクロヘキシルアミンを用いることが好ましく、メチルアミンを用いることが特に好ましい。

このイミド化の工程においては、上記イミド化剤に加えて、必要に応じて、閉環促進剤を添加してもよい。

このイミド化の工程では、上記イミド化剤の添加割合を調整することにより、得られるグルタルイミドアクリル系樹脂におけるグルタルイミド単位の含有量を調整することができる。

上記イミド化反応を実施するための方法は特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、押出機、又は、バッチ式反応槽(圧力容器)を用いることでイミド化反応を進行させることができる。

上記押出機としては特に限定されず、各種押出機を使用できるが、例えば、単軸押出機、二軸押出機または多軸押出機等を用いることができる。

中でも、二軸押出機を用いることが好ましい。二軸押出機によれば、原料ポリマーとイミド化剤(閉環促進剤を用いる場合は、イミド化剤および閉環促進剤)との混合を促進することができる。

二軸押出機としては、例えば、非噛合い型同方向回転式、噛合い型同方向回転式、非噛合い型異方向回転式、および噛合い型異方向回転式等が挙げられる。中でも、噛合い型同方向回転式が好ましい。噛合い型同方向回転式の二軸押出機は、高速回転可能であるため、原料ポリマーとイミド化剤(閉環促進剤を用いる場合は、イミド化剤および閉環促進剤)との混合を、より一層促進することができる。

上記例示した押出機は単独で用いてもよいし、複数を直列に連結して用いてもよい。

グルタルイミドアクリル系樹脂を製造するにあたっては、上記イミド化工程に加えて、エステル化剤で処理するエステル化工程を含むことができる。このエステル化工程によって、イミド化工程にて副生した、樹脂中に含まれるカルボキシル基を、エステル基に変換することができる。これにより、グルタルイミドアクリル系樹脂の酸価を所望の範囲内に調整することができる。

グルタルイミドアクリル系樹脂の酸価は特に限定されないが、0.50mmol/g以下であることが好ましく、0.45mmol/g以下であることがより好ましい。下限は特に制限されないが、0mmol/g以上が好ましく、0.05mmol/g以上が好ましく、0.10mmol/g以上が特に好ましい。酸価が上記範囲内であれば、耐熱性、機械物性、および成形加工性のバランスに優れたグルタルイミドアクリル系樹脂を得ることができる。一方、酸価が上記範囲より大きいと、フィルム成形のための溶融押出時に樹脂の発泡が起こりやすくなり、成形加工性が低下し、成形品の生産性が低下する傾向がある。なお、酸価は、例えば特開2005−23272号公報に記載の滴定法などにより算出することが可能である。

上記エステル化剤としては特に限定されず、例えば、ジメチルカーボネート、2,2−ジメトキシプロパン、ジメチルスルホキシド、トリエチルオルトホルメート、トリメチルオルトアセテート、トリメチルオルトホルメート、ジフェニルカーボネート、ジメチルサルフェート、メチルトルエンスルホネート、メチルトリフルオロメチルスルホネート、メチルアセテート、メタノール、エタノール、メチルイソシアネート、p−クロロフェニルイソシアネート、ジメチルカルボジイミド、ジメチル−t−ブチルシリルクロライド、イソプロペニルアセテート、ジメチルウレア、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、ジメチルジエトキシシラン、テトラ−N−ブトキシシラン、ジメチル(トリメチルシラン)フォスファイト、トリメチルフォスファイト、トリメチルフォスフェート、トリクレジルフォスフェート、ジアゾメタン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、ベンジルグリシジルエーテルなどが挙げられる。これらの中でも、コスト、反応性などの観点から、ジメチルカーボネート、およびトリメチルオルトアセテートが好ましく、コストの観点から、ジメチルカーボネートが特に好ましい。

上記エステル化剤の使用量は特に限定されないが、上記(メタ)アクリル酸エステル重合体または上記(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体100重量部に対して0〜12重量部であることが好ましく、0〜8重量部であることがより好ましい。エステル化剤の使用量が上記範囲内であれば、グルタルイミドアクリル系樹脂の酸価を適切な範囲に調整できる。一方、上記範囲を外れると、未反応のエステル化剤が樹脂中に残存する可能性があり、当該樹脂を使って成形を行った際に、発泡または臭気発生の原因となることがある。

上記エステル化剤に加え、触媒を併用することもできる。触媒の種類は特に限定されないが、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等の脂肪族3級アミンが挙げられる。これらの中でもコスト、反応性などの観点からトリエチルアミンが好ましい。

エステル化工程は、上記イミド化工程と同様、例えば、押出機、又は、バッチ式反応槽を用いることで進行させることができる。

このエステル化工程は、エステル化剤を使用せずに、加熱処理のみによって実施することもできる。当該加熱処理は、押出機内で溶融樹脂を混練および分散することで達成することができる。エステル化工程として加熱処理のみを行なう場合、イミド化工程にて副生した樹脂中のカルボキシル基同士の脱水反応、および/または、樹脂中のカルボキシル基と樹脂中のアルキルエステル基との脱アルコール反応等により、前記カルボキシル基の一部または全部を酸無水物基とすることができる。この時、閉環促進剤(触媒)を使用することも可能である。

エステル化剤を用いたエステル化工程においても、並行して、加熱処理による酸無水物基化を進行させることが可能である。

イミド化工程およびエステル化工程ともに、使用する押出機には、大気圧以下に減圧可能なベント口を装着することが好ましい。このような機械によれば、未反応のイミド化剤、エステル化剤、メタノール等の副生物、または、モノマー類を除去することができる。

グルタルイミドアクリル系樹脂の製造には、押出機に代えて、例えば住友重機械(株)製のバイボラックのような横型二軸反応装置や、スーパーブレンドのような竪型二軸撹拌槽などの、高粘度対応の反応装置も好適に用いることができる。

グルタルイミドアクリル系樹脂をバッチ式反応槽(圧力容器)を用いて製造する場合、そのバッチ式反応槽(圧力容器)の構造は特に限定されない。具体的には、原料ポリマーを加熱により溶融させ、撹拌することができ、イミド化剤(閉環促進剤を用いる場合は、イミド化剤および閉環促進剤)を添加することができる構造を有していればよいが、撹拌効率が良好な構造を有するものであることが好ましい。このようなバッチ式反応槽によれば、反応の進行によりポリマー粘度が上昇し、撹拌が不十分となることを防止することができる。このような構造を有するバッチ式反応槽としては、例えば、住友重機械(株)製の撹拌槽マックスブレンド等が挙げられる。

以上により、グルタルイミド単位の含有量が特定の数値に制御されたグルタルイミドアクリル系樹脂を容易に製造することができる。

マレイミドアクリル系樹脂とグルタルイミドアクリル系樹脂を併用する場合、マレイミドアクリル系樹脂の含有量は、フィルムの所望の物性に応じて、適宜決定することができ、例えば、マレイミドアクリル系樹脂とグルタルイミドアクリル系樹脂の合計100重量部に対して1〜99重量部であることが好ましい。より好ましくは1〜80重量部であり、さらに好ましくは5〜70重量部である。

(ゴム粒子) 本発明の熱可塑性系樹脂組成物にゴム粒子を配合することにより、フィルムの耐折り曲げ性、トリミング性等の機械的強度を高めることができる。ゴム粒子としては、マトリックス樹脂との相溶性の観点から、アクリル系ゴム粒子が好ましい。

ゴム粒子として、熱可塑性樹脂の光弾性定数と異符号の光弾性定数を有する架橋構造含有重合体を配合することで、配向複屈折および光弾性定数をともに小さくでき、光学的等方性の高い熱可塑性樹脂組成物にすることができる。光学的に等方にするためには、配向複屈折と光弾性複屈折をいかに小さくするかというのが重要である。そのため、ここではまず本発明の熱可塑性樹脂、ゴム粒子、熱可塑性樹脂組成物、およびフィルムの「配向複屈折」「光弾性複屈折」の考え方について説明する。

(配向複屈折に関する考え方) 高吐出条件、フィルム引取条件、低温成形など、フィルム中でポリマーが配向するような成形以外の、通常の溶融押出成形にてフィルムを作成した場合、フィルム中のポリマーの配向はそれほど大きくない。実際にPMMAで代表されるアクリル系樹脂であれば、意図的な延伸工程がない溶融押出フィルム(以下、原反フィルム、原料フィルムとも呼ぶ)の複屈折はそれほど大きくなく、用途にもよるが実用上問題が無い場合もある。もちろん、ポリマーが配向するような成形条件や、原反フィルムを延伸工程させた場合には、フィルム中でポリマーが配向し、その結果複屈折が発生する。この場合の複屈折は、ポリマーが配向することによって発生する複屈折であるため、一般に配向複屈折と呼ばれる。以上、本発明の熱可塑性樹脂組成物をどのように成形するか、またフィルムの場合には延伸させるのか、ということによって、本発明の熱可塑性樹脂組成物から得られる成形体、特には光学フィルムの配向複屈折を小さくするため、ゴム粒子の配向複屈折と熱可塑性樹脂の配向複屈折を設定する必要がある。逆に、フィルム等の成形体中でポリマーがほとんど配向せず、複屈折が十分に小さい場合には、ゴム粒子の配向複屈折に関してはそれほど考慮する必要が無く、樹脂設計上、特に制限を受けないことになる。

ここで、本発明のいうところの「配向複屈折」の測定条件の定義づけをしておきたい。配向複屈折は、ポリマー鎖が配向することにより発現する複屈折であることは先に述べたとおりであるが、ポリマー鎖の配向度によってポリマーフィルム中の複屈折(配向複屈折)は変化する。よって、本発明では、「配向複屈折」を求める際には以下の条件で測定することと定義する。

熱可塑性樹脂、ゴム粒子および熱可塑性樹脂組成物はなんらかの成形体にして、その配向複屈折を測定する必要があり、本発明では当該成形体をフィルムまたはシートとする。ここでは、溶融押出成形フィルムとプレス成形シートとを挙げて説明する。

・フィルムでの「配向複屈折」測定 まず、膜厚125μmのフィルム(原反フィルム)から、25mm×90mmの試験片を切り出し(MD方向に長辺が来るように切り出す)、両短辺を保持してガラス転移温度+30℃にて2分保ち、2倍(100%に延伸とも言う)に長さ方向へ200mm/分の速度で一軸に延伸する(この際、両長辺は固定なし)。その後、得られたフィルムを23℃に冷却し、サンプル中央部分をサンプリングし、複屈折を測定する。

・シートでの「配向複屈折」測定 ゴム粒子の場合、その構造によっては単独でフィルム化することは困難となる。よって、ゴム粒子は、プレス成形シートを作製して「配向複屈折」を測定する。また、熱可塑性樹脂などが、ゴム粒子と同様に、フィルム化が困難である場合にも、プレス成形シートを作製して配向複屈折を測定する。

以下に、プレス成形シートを用いた場合の「配向複屈折」の測定条件について説明する。

ゴム粒子を190℃でプレスし、膜厚500μmのプレス成形シートを作製する。得られたプレス成形シートの中央部から、25mm×90mmの試験片を切り出し、両短辺を保持してガラス転移温度+30℃にて2分保ち、2倍(100%に延伸とも言う)に長さ方向へ200mm/分の速度で一軸に延伸する(この際、両長辺は固定なし)。その後、得られたフィルムを23℃に冷却し、サンプル中央部分をサンプリングし、複屈折を測定し、配向複屈折の符号を得る。

上記の「配向複屈折」は、ポリマーの配向度に依存するため、延伸条件を含め、種々のサンプル作成条件により影響を受けるため、上記のように評価条件を明示した。たとえば延伸温度はガラス転移温度に対して−30℃〜+30℃、+0℃〜+30℃がより好ましく、+5℃〜+30℃の温度範囲にするなど、適宜設定すればよい。ただし、各サンプル間での複屈折性の符号、相対的な大小関係を定量的に得るためには、延伸条件等の測定条件がほぼ同じところでの測定値を用いることが重要である。

(光弾性複屈折(光弾性定数)に関する考え方) 先に説明したとおり、光弾性複屈折は成形体に応力が加わった場合に成形体中のポリマーの弾性的な変形(歪)に伴って引き起こされる複屈折である。実際には、そのポリマーに固有の「光弾性定数」を求めることで、その材料の光弾性複屈折の度合いを評価することができる。まずポリマー材料に応力を印加し、弾性的な歪みが生じた際の複屈折を測定する。得られた複屈折と応力との比例定数が光弾性定数である。この光弾性定数を比較することにより、ポリマーの応力印加時の複屈折性を評価することができる。

上述の「配向複屈折」と同様に、熱可塑性樹脂、ゴム粒子および熱可塑性樹脂組成物はなんらかの成形体にして、その光弾性複屈折を測定する必要があり、本発明では当該成形体をフィルムまたはシートとする。ここでは、溶融押出成形フィルムとプレス成形シートとを挙げて説明する。

・フィルムでの「光弾性定数」測定 上記「配向複屈折」の項の記載同様、膜厚125μmのフィルム(原反フィルム)から、TD方向に15 mm×90mmの短冊状に試験片を切断する(TD方向に長辺がくるように切り出す)。次に、23℃において、試験片フィルムの長辺の一方を固定し、他方は無荷重から4kgfまで0.5kgfずつ荷重をかけた状態で、各々の印加時の複屈折を測定し、得られた結果から、単位応力による複屈折の変化量を算出し、光弾性定数を算出する。

・シートでの「光弾性定数」測定 ゴム粒子については、上記の「配向複屈折」の項と同様にプレス成形シートを作製し、この複屈折を測定することにより、光弾性定数を求める。また、熱可塑性樹脂などが、ゴム粒子と同様に、フィルム化が困難である場合にも、プレス成形シートにより光弾性複屈折を測定する。

以下、プレス成形シートを用いた場合の「光弾性定数」の測定について説明する。

ゴム粒子を190℃でプレスし、膜厚500μmのプレス成形シートを作製し、得られたプレス成形シートの中央部から25mm×90mmの試験片を切り出す。測定条件および算出法は、前述の溶融押出成形フィルムの場合と同じとする。

フィルム又はシートでの光弾性複屈折の測定においては、比較するサンプル間の厚み差が大きい場合、サンプル中での応力のかかり方が変わってくる可能性があり、光弾性定数の厳密な比較が難しい場合がある。ただし、本発明で説明している膜厚125μmのフィルム、膜厚500μmのプレス成形シートに関して、この程度の厚み差であれば、両サンプル間での応力のかかり方に大差はなく、光弾性定数の比較をすることが可能である。したがって、前記フィルムでも、プレス成形シートでも光弾性定数(複屈折)を測定するのに好適に使用できるが、フィルムを用いて測定することがより好ましい。本発明では、ゴム粒子の光弾性定数の符号を確認する手段として、膜厚500μmのプレス成形シートを使用する。配向複屈折についても同様である。

光弾性複屈折は、そのポリマー構造に固有の特性であることから、熱可塑性樹脂の光弾性定数が大きい場合、ゴム粒子の光弾性定数は熱可塑性樹脂の光弾性定数に対して異符号である必要がある。また、ゴム粒子の配合量に関して言えば、熱可塑性樹脂の光弾性複屈折を打ち消すことができるだけの量のゴム粒子を添加する必要がある。得られるポリマー(共重合体)の光弾性定数と、共重合に用いたモノマー種に対応するそれぞれのホモポリマーの光弾性定数との間には、加成性が成り立つことが知られている。このことから、ゴム粒子が熱可塑性樹脂に対して光弾性定数が異符号であり、且つ大きければ、熱可塑性樹脂とゴム粒子からなる熱可塑性樹脂組成物、およびそのフィルムの光弾性複屈折を小さくするためのゴム粒子の必要量は少なくて済む。

配向複屈折に関しては、先述のように、本発明の熱可塑性樹脂組成物からなる成形体、特には光学フィルムにおいて、成形体中でポリマーの配向度がそれほど大きくなく、その成形体の配向複屈折が実用上問題が無い場合には、ゴム粒子の設計において配向複屈折の考慮をする必要は特にない。ただし、得られた成形体中の配向複屈折が実用上問題となる場合には、ゴム粒子の配向複屈折を、熱可塑性樹脂の配向複屈折に対して異符号にする必要がある。

本発明のゴム粒子は重量平均分子量が5000を超える重合体が好ましく、より好ましくは10000以上、さらに好ましくは20000以上であることが好ましい。重量平均分子量が5000以下の場合、成形体の機械的特性、耐熱性、硬度などの物性低下や、高温成形加工時に成形体表面にブリードアウトし、成形体の外観を損なうおそれがある。

ゴム粒子は、機械的強度を向上させる観点や、光学等方性の観点から、その一部に架橋構造部分を有することが好ましく、架橋重合体層を有する多層構造重合体を例示できる。多層構造粒子は、耐熱性の観点から、硬質重合体部を有していることが好ましく、複屈折を小さくする観点からは非架橋構造を有することが好ましく、中でも、非架橋構造の硬質重合体部を有することが好ましい。例えば、硬質重合体層を有する多層構造重合体が例示される。多層構造粒子は、架橋重合体層および硬質重合体層を含む多層構造重合体であることがより好ましい。一般に多層構造重合体のことをグラフト共重合体、コアシェルポリマーとも表現されるが、本発明の多層構造粒子はこれらも含むものである。

フィルムにおいて、高い耐熱性、および機械的強度が必要とされるケースがある。特に、液晶ディスプレイ用の光学フィルムとして使用される場合には、実使用時はもちろん、フィルムコーティング工程等の製造工程で高温にさらされたりするため、高い耐熱性が必要となる。また、フィルム製造時はもちろん、フィルムにコーティングしたあとや、他の部材と張り合わせしたあとでの打ち抜き工程など、トリミング性や、耐割れ性などの機械的強度も必要となる。このような場合には、多層構造粒子の架橋重合体層を「軟質」にすることで、この多層構造粒子をマトリックス樹脂に添加することにより、機械的強度を飛躍的に向上させると同時に、高い耐熱性も同時に実現可能であるというところにある。その効果を発現するために、多層構造粒子は、軟質の架橋重合体層、および硬質重合体層を有するグラフト共重合体(コアシェルポリマー)であることが好ましい。通常、機械的強度を向上させるために軟質のポリマーを添加することも方法として挙げられるが、この場合、マトリックス樹脂と軟質ポリマーが均質に混ざってしまい、得られる成形体の耐熱性を下げてしまうという欠点がある。一方、軟質の架橋重合体層と硬質重合体層を有するグラフト共重合体(コアシェルポリマー)の場合、成形体中において、軟質の架橋重合体層が「島」、マトリックス樹脂と硬質重合体層が「海」となる、不連続な海島構造をとるため、機械的強度を向上させ、かつ耐熱性をほとんど下げないという、優れた効果を出すことが可能である。また、通常、軟質の架橋重合体は、マトリックス樹脂とは別組成となるため、マトリックス樹脂に均一に分散することは困難であり、透明性などの光学特性の低下や、フィッシュアイ等の欠陥となる。しかしながら、軟質の架橋重合体層と硬質の重合体層を併せ持つグラフト共重合体であれば、前述のようにマトリックス樹脂中に軟質の架橋重合体を均一に分散させることが可能となる。

ここでいう「軟質」とは、重合体のガラス転移温度が20℃未満であることを意味する。軟質層の衝撃吸収能力を高め、耐割れ性などの耐衝撃性改良効果を高める観点から、重合体のガラス転移温度が0℃未満であることが好ましく、−20℃未満であることがより好ましい。

また、ここでいう「硬質」とは、重合体のガラス転移温度が20℃以上であることを意味する。重合体のガラス転移温度が20℃未満の場合、多層構造粒子を配合した組成物、およびフィルムの耐熱性が低下したり、また多層構造粒子を製造する際に多層構造粒子の粗大化や塊状化が起こり易くなるなどの問題が発生する。

本願において、「軟質」および「硬質」の重合体のガラス転移温度は、ポリマーハンドブック[Polymer Hand Book(J.Brandrup,Interscience 1989)]に記載されている値を使用してFoxの式を用いて算出した値を用いることとする(例えば、ポリメチルメタクリレートは105℃であり、ポリブチルアクリレートは−54℃である)。

ここで、製造されるフィルムに対して、高い機械的強度がそれほど必要とされない場合には、前記架橋重合体層は「軟質」でも、「硬質」でもよく、この定義は前記のとおりである。

本願では、多層構造粒子に関して、架橋重合体層に対して、硬質重合体層がどの程度共有結合しているかを表すために、グラフト率というパラメーターを使う。

多層構造粒子のグラフト率とは、架橋重合体層の重量を100とした場合の、架橋重合体層に対して、グラフトされた硬質重合体層の重量比率を表す指標である。このグラフト率は10〜250%が好ましく、より好ましくは40〜230%、最も好ましくは60〜220%である。グラフト率が10%未満では、成形体中で多層構造粒子が凝集しやすく、透明性が低下したり、異物原因となる恐れがある。また引張破断時の伸びが低下しフィルム切断時にクラックが発生しやすくなったりする傾向がある。250%を超えると、成形時、たとえばフィルム成形時の溶融粘度が高くなり、フィルムの成形性が低下する傾向がある。算出式は実施例の項にて説明する。

なお、硬質重合体層の一部には架橋重合体層と結合していない(グラフトしていない)ポリマー(フリーポリマーとも言う)も存在する場合があるが、このフリーポリマーも多層構造粒子に含むものとする。

(架橋重合体層の説明) ここでは、多層構造粒子がグラフト共重合体である場合の「軟質」の架橋重合体層と「硬質」の重合体層について説明する。

1.「軟質」の架橋重合体層の説明 まず、「軟質」の架橋重合体層について説明する。先述のとおり、「軟質」とは重合体のガラス転移温度が20℃未満であれば良く、ゴム状重合体が好適に使用される。具体的には、ブタジエン系架橋重合体、(メタ)アクリル系架橋重合体、オルガノシロキサン系架橋重合体などが挙げられる。なかでも、組成物、およびフィルムの耐候性(耐光性)、透明性の面で、(メタ)アクリル系架橋重合体((メタ)アクリル系ゴム状重合体)が特に好ましい。

ここでは、好適な「軟質」の架橋重合体層である、(メタ)アクリル系架橋重合体層に関して、詳細に説明する。

(メタ)アクリル系架橋重合体層における(メタ)アクリル系架橋重合体は、(メタ)アクリル系の架橋重合体であれば特に限定されないが、耐割れ性などの耐衝撃性の観点から、アクリル酸エステル50〜100重量%、アクリル酸エステルと共重合可能な他の単官能性単量体50〜0重量%、ならびに多官能性単量体0.05〜10重量部(アクリル酸エステルおよびこれと共重合可能な他の単官能性単量体の総量100重量部に対して)を重合してなるものが好ましい。単量体成分を全部混合して1段で重合してなる層であってもよいし、単量体組成を変化させて2段以上で重合してなる層であってもよい。

ここで用いられるアクリル酸エステルとしては、重合反応性やコストの点からアクリル酸アルキルエステルが好ましく、具体的にはアルキル基の炭素数が1〜12であるものが好ましく、直鎖状でも分岐状でもよい。その具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸β−ヒドロキシエチル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸グリシジル等があげられ、これらの単量体は1種または2種以上が併用されてもよい。アクリル酸エステルは、単官能性単量体全体(アクリル酸エステルおよびこれと共重合可能な他の単官能性単量体の総量)に対し50〜100重量%が好ましく、60〜100重量%がより好ましく、70〜100重量%が最も好ましい。50重量%未満ではフィルムの耐割れ性が悪化する場合がある。

アクリル酸エステルと共重合可能な他の単官能性単量体(以下、「共重合可能な他の単官能性単量体」と称することがある。)としては、例えば、メタクリル酸エステルがあげられ、重合性やコストの点よりメタクリル酸アルキルエステルが好ましく、具体的にはアルキル基の炭素数1〜12であるものが好ましく、直鎖状でも分岐状でもよい。その具体例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ベンジル、アクリル酸オクチル、メタクリル酸β−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸グリシジル等があげられる。また、共重合可能な他の単官能性単量体としては、塩化ビニル、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニルおよびその誘導体、塩化ビニリデン、弗化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン、アクリル酸、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カルシウム等のアクリル酸およびその塩、メタクリル酸、メタクリル酸ナトリウム、メタクリル酸カルシウム等のメタクリル酸およびその塩等があげられる。これらの単量体は2種以上が併用されてもよい。

上述の単官能性単量体は、1分子あたり2個以上の非共役な反応性二重結合を有する多官能性単量体と共重合されるため、得られる重合体が架橋体(ゴム)となる。ここで用いられる多官能性単量体としては、アリルメタクリレ−ト、アリルアクリレ−ト、トリアリルシアヌレ−ト、トリアリルイソシアヌレ−ト、ジアリルフタレ−ト、ジアリルマレ−ト、ジビニルアジペ−ト、ジビニルベンゼンエチレングリコ−ルジメタクリレ−ト、ジビニルベンゼンエチレングリコ−ルジアクリレ−ト、ジエチレングリコ−ルジメタクリレ−ト、ジエチレングリコ−ルジアクリレ−ト、トリエチレングリコ−ルジメタクリレ−ト、トリエチレングリコ−ルジアクリレ−ト、トリメチロ−ルプロパントリメタクリレ−ト、トリメチロ−ルプロパントリアクリレ−ト、テトラメチロ−ルメタンテトラメタクリレ−ト、テトラメチロ−ルメタンテトラアクリレ−ト、ジプロピレングリコ−ルジメタクリレ−トおよびジプロピレングリコ−ルジアクリレ−ト等があげられ、これらは2種以上が併用されてもよい。

単官能性単量体に対する多官能性単量体の添加量は、単官能性単量体の総量100重量部に対して、0.05〜10重量部が好ましく、0.1〜5重量部がより好ましい。多官能性単量体の添加量が0.05重量部未満では、架橋体を形成できない傾向があり、10重量部を超えても、フィルムの耐割れ性が低下する傾向がある。

2.「硬質」の重合体層の説明 ここでは「硬質」の重合体層について説明する。先述のとおり、「硬質」とは、重合体のガラス転移温度が20℃以上であるものを示す。

ガラス転移温度が20℃以上になるものであれば特に制限はなく、具体的には、前記「軟質」の架橋重合体層の説明で記載したモノマーを適宜使用することが出来る。

以下、硬質重合体の詳細なポリマー組成について説明する。

機械的強度、耐熱性、フィッシュアイ等の外観欠陥を低減させるために多層構造粒子の樹脂中での分散性を向上させる(すなわち、相溶性をあげる)という観点をみたすのであれば、硬質重合体の組成に関しては特に限定はない。たとえば、(メタ)アクリル酸エステル、および、必要によりこれと共重合可能な他の単官能性単量体の混合物を重合してなる硬質重合体が挙げられる。メタクリル酸エステルとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル等が使用できるが、メタクリル酸メチルが最も好ましい。アクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等が使用できる。さらに共重合可能な他のビニル単量体としては、スチレンなどの芳香族ビニル単量体、アクリロニトリルなどのシアン化ビニル単量体などの公知の単量体が使用できる。

熱可塑性樹脂(マトリックス樹脂)が有している複屈折を打ち消して、熱可塑性樹脂組成物およびその成形体の光学的等方性を高めるという観点を満たすのであれば、延伸工程を経ないなど、フィルム等の成形体中の配向複屈折があまり大きくなく、課題とならない場合には、成形体の光弾性定数が極めて小さくなるように、硬質重合体の光弾性定数をマトリックス樹脂(熱可塑性樹脂)に対して異符号にすることで達成することができる。また、延伸工程を経るなど、フィルム等の成形体中の配向複屈折が比較的大きく、課題となる場合には、成形体の光弾性定数だけでなく、配向複屈折の両方とも極めて小さくなるように、硬質重合体の光弾性定数、配向複屈折の両方をマトリックス樹脂(熱可塑性樹脂)に対して異符号にすることで達成することができる。

さらに重要なことは、マトリックスである熱可塑性樹脂の複屈折を打ち消すことができる効果は、硬質重合体層のほうが大きく、架橋構造を有する重合体層は効果が小さいという点である。ゴム粒子の架橋重合体層、硬質重合体層のいずれか、もしくは両方など、特に層を限定せずに、ゴム粒子の複屈折を打ち消す機能を持たせてもよいが、硬質重合体層が最も好適である。その理由としては、マトリックス(熱可塑性樹脂)が成形時にポリマーが配向する、もしくは応力がかかることでポリマーが配向する場合、マトリックスのポリマー鎖が外力により配向する方向に、ゴム粒子のポリマー鎖も配向することで、複屈折を打ち消すことができると考えている。この場合、架橋構造を有する重合体層は外力に対して変形しにくいために、ポリマー鎖が配向しにくく、マトリックスの複屈折を打ち消す効果は小さくなる。もちろん、架橋密度が低ければ外力により変形しやすいので、架橋構造を有する重合体層であってもマトリックスの複屈折を打ち消す効果はある程度期待できるため、架橋重合体層含め、グラフト共重合体のいずれの重合体層に、マトリックスの複屈折を打ち消す機能を持たせても良い。好ましくは、架橋重合体層以外の重合体層が挙げられ、外力により配向しうる重合体層が好ましく、具体的には「硬質」の重合体層で挙げられる。より好ましくは架橋構造を有していない「硬質」の重合体層であり、なおさら好ましくは、重合体(B)の外層であり、マトリックスと直接接触しやすい部位にある、架橋構造を有していない「硬質」の重合体層である。

ゴム粒子の硬質重合体層に使用され、熱可塑性樹脂の光弾性複屈折を打ち消すのに適したモノマー種に関しては、熱可塑性樹脂とゴム粒子の各々の光弾性定数が異符号となるように選択すればよい。

ポリマーの光弾性定数を設定する上で、参考になる具体的なモノマーの例を以下に記すが、これらに限定されるわけではない。([ ]内は対応するホモポリマーの光弾性定数) 正の光弾性複屈折を示すモノマー: ベンジルメタクリレート [48.4×10-12Pa-1] ジシクロペンタニルメタクリレート [6.7×10-12Pa-1] スチレン [10.1×10-12Pa-1] パラクロロスチレン [29.0×10-12Pa-1] 負の光弾性複屈折を示すモノマー: メチルメタクリレート [-4.3×10-12Pa-1] 2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート [-1.7×10-12Pa-1] 2,2,2−トリクロロエチルメタクリレート [-10.2×10-12Pa-1] イソボルニルメタクリレート [-5.8×10-12Pa-1] 共重合体ポリマーの光弾性定数は、共重合に用いたモノマー種に対応するそれぞれのホモポリマーの光弾性定数との間に加成性が成り立つことが知られている。例えば、メチルメタクリレート(MMA)とベンジルメタクリレート(BzMA)の2元共重合系については、poly−MMA/BzMA=92/8(wt%)にて光弾性複屈折がほぼゼロになることが報告されている。また、2種以上のポリマー混合(アロイ)についても同様であり、各ポリマーが有する光弾性定数との間に加成性が成り立つ。以上のことから、本発明の熱可塑性樹脂組成物、およびフィルムの光弾性複屈折が小さくなるように、熱可塑性樹脂とゴム粒子の光弾性定数を異符号にし、且つその配合量(wt%)を調整することが必要である。

また、共重合体ポリマーの配向複屈折は、共重合に用いたモノマー種に対応するそれぞれのホモポリマーの固有複屈折との間に加成性が成り立つことが知られている。また、2種以上のポリマー混合(アロイ)についても同様であり、各ポリマーが有する固有複屈折との間に加成性が成り立つ。ゴム粒子の硬質重合体層に使用され、熱可塑性樹脂の配向複屈折を打ち消すのに適したモノマー種に関しては、熱可塑性樹脂とゴム粒子の各々の配向複屈折が異符号となるように選択すればよい。ポリマーの配向複屈折を設定する上で、参考になる具体的なモノマー(そのモノマーからなるホモポリマーの固有複屈折)の例を以下に記すが、これらに限定されるわけではない。なお、固有複屈折とは、ポリマーが完全に一方向に配向した状態のときの複屈折(配向複屈折)である。

正の固有複屈折を示すポリマー: ポリベンジルメタクリレート [+0.002] ポリフェニレンオキサイド [+0.210] ビスフェノールAポリカーボネート [+0.106] ポリビニルクロライド [+0.027] ポリエチレンテレフタレート [+0.105] ポリエチレン [+0.044] 負の固有複屈折を示すポリマー: ポリメチルメタクリレート [−0.0043] ポリスチレン [−0.100] 以上、一部のポリマーの光弾性定数、配向複屈折のデータを記載したが、ポリマーによっては配向複屈折は「正」、光弾性定数は「負」など、両方の複屈折が同じ符号であるとは限らない。次の表1に一部のホモポリマーの配向複屈折と光弾性複屈折(定数)の符号の例を示す。

たとえば、ポリ(MMA/BzMA=82/18(wt%))付近の組成は配向複屈折がほぼゼロとなること、poly(MMA/BzMA=92/8(wt%))付近の組成は光弾性複屈折(定数)がほぼゼロとなることが知られている。このように、熱可塑性樹脂がアクリル系樹脂の場合は、配向複屈折、光弾性定数の両方がともに負になることが多いため、ゴム粒子(特には外層の硬質重合体層)に、配向複屈折も光弾性複屈折の両方の符号が正であるベンジルメタクリレートを使用することで、光弾性複屈折も打ち消しながら、配向複屈折も打ち消すことができ、好適であることがわかる。

次に、硬質重合体の詳細なポリマー組成について説明する。

マトリックス樹脂の光弾性複屈折、場合によっては配向複屈折を打ち消すという観点から、特に好適に使用されうるモノマー(単量体)を挙げるとすれば、分子構造中に、脂環式構造、複素環式構造または芳香族基等の環構造を有するビニル系単量体(以下、「環構造含有ビニル系単量体」と称することがある。)が好ましく、中でも、脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有するビニル系単量体がより好ましい。脂環式構造を有するビニル系単量体においては、その環構造は、多環式構造が好ましく、縮合環式構造がより好ましい。脂環式構造を有する単量体としては(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、などが挙げられる。また、芳香族基を有する単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン等のビニルアレーン類、または(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル等を挙げることができる。複素環式構造を有する単量体としては、ペンタメチルピペリジニル(メタ)アクリレート、テトラメチルピペリジニル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。中でも、下記式(4)で表される単量体を構造単位に含むことが好ましい。

上記式(4)中のR9は、水素原子、または、置換もしくは無置換で直鎖状もしくは分岐状の炭素数1〜12のアルキル基を表す。R10は、置換もしくは無置換の炭素数1〜24の芳香族基、または、置換もしくは無置換の炭素数1〜24の脂環式基であり、単素環式構造または複素環式構造を有する。R9およびR10が有していてもよい置換基としては、例えば、ハロゲン、水酸基、カルボキシル基、アルコキシ基、カルボニル基(ケトン構造)、アミノ基、アミド基、エポキシ基、炭素−炭素間の二重結合、エステル基(カルボキシル基の誘導体)、メルカプト基、スルホニル基、スルホン基、及びニトロ基からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。なかでも、ハロゲン、水酸基、カルボキシル基、アルコキシ基、及びニトロ基からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。lは1〜4の整数を示し、好ましくは1または2である。mは0〜1の整数である。nは0〜10の整数を示し、好ましくは0〜2の整数を示し、より好ましくは0または1である。

脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有するビニル系単量体は、脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有する(メタ)アクリル系単量体が好ましく、具体的には、式(4)において、R9は、水素原子または置換もしくは無置換の炭素数1のアルキル基である、(メタ)アクリル系単量体であることが好ましい。式(4)において、R10は、置換もしくは無置換の炭素数1〜24の芳香族基、または、置換もしくは無置換の炭素数1〜24の脂環式基であり、単素環式構造を有する、(メタ)アクリル系単量体であることがより好ましい。

式(4)において、lは1〜2の整数である、nは0〜2の整数である、(メタ)アクリル系単量体であることがより好ましい。

式(4)で表される(メタ)アクリル系単量体の中でも、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチルが好ましい。

前記式(4)で表される単量体のなかでも、(メタ)アクリル酸ベンジルが光学的等方性、マトリックス樹脂との相溶性、成形性の面で最も好ましい。さらには、アクリル酸ベンジルよりもメタクリル酸ベンジルのほうが、共重合の結果得られる多層構造粒子およびアクリル系樹脂組成物のガラス転移温度が高くなることから、耐熱性の面で好ましい。本発明に使用されるマトリックス樹脂であるアクリル系樹脂の光弾性定数は負であるため、比較的大きな正の光弾性定数を有するメタクリル酸ベンジルを用いることで、メタクリル酸ベンジルの使用量が少なくて済み、また多層構造粒子の使用量も少なくて済むなど、アクリル系樹脂組成物の設計自由度が増えるなどのメリットがある。また、成形体の配向複屈折が大きく、実用上問題となるケースにおいても、アクリル系樹脂が配向複屈折/光弾性複屈折ともに負であるのに対して、メタクリル酸ベンジルは配向複屈折/光弾性複屈折ともに正であるため、アクリル系樹脂組成物、およびフィルムの光弾性複屈折を小さくしながら、同時に配向複屈折も小さくすることが可能である。

優れた光学的等方性を維持しながら、多層構造粒子の分散性を良好にし、フィッシュアイ等の外観欠陥を低減させる観点から、前記環構造含有ビニル系単量体を構成単位に有する硬質重合体は、前記環構造含有ビニル系単量体1〜100重量%、これと共重合可能な他の単官能性単量体99〜0重量%および多官能性単量体0〜2.0重量部(前記環構造含有ビニル系単量体およびこれと共重合可能な他の単官能性単量体の総量100重量部に対して)を重合してなるものが好ましい。当該硬質重合体層は単量体を全部混合して一段で重合してなるものであってもよく、また単量体組成を変化させて2段以上で重合してなるものであってもよい。

本発明においては、環構造含有ビニル系単量体は、いずれか1種、もしくは2種以上併用して使用することができる。

前記環構造含有ビニル系単量体と共重合可能な他の単官能性単量体としては、メタクリル酸エステルが挙げられ、重合性やコストの点よりメタクリル酸アルキルエステルが好ましく、具体的にはアルキル基の炭素数1〜12であるものが好ましく、直鎖状でも分岐状でもよい。その具体例としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸オクチル、メタクリル酸β−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸グリシジル等が挙げられる。また、アクリル酸エステルも好適に用いることができ、重合反応性やコストの点からアクリル酸アルキルエステルが好ましく、具体的にはアルキル基の炭素数が1〜12であるものが好ましく、直鎖状でも分岐状でもよい。その具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸β−ヒドロキシエチル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸グリシジル等があげられる。また、共重合可能な他の単官能性単量体としては、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、ジメチル無水マレイン酸、ジクロロ無水マレイン酸、ブロモ無水マレイン酸、ジブロモ無水マレイン酸、フェニル無水マレイン酸、ジフェニル無水マレイン酸等の無置換及び/又は置換無水マレイン酸類、塩化ビニル、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニルおよびその誘導体、塩化ビニリデン、弗化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン、アクリル酸、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カルシウム等のアクリル酸およびその塩、メタクリル酸、メタクリル酸ナトリウム、メタクリル酸カルシウム等のメタクリル酸およびその塩、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸ノルマルブチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸ターシャリーブチル等の(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステル等があげられる。これらの単量体は単独、もしくは2種以上が併用されてもよい。なかでも、メタクリル酸アルキルエステル、アクリル酸アルキルエステルが好ましく、さらにはマトリックス樹脂との相溶性の点でメタクリル酸メチル、ジッパー解重合を抑制する点でアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、もしくはアクリル酸n−ブチルを用いるのが好ましい。

成形加工時の熱安定性が向上し、耐溶剤性が向上し、多層構造粒子の分散性が向上する観点では、(メタ)アクリル酸および/またはその塩が使用されることが好ましい。(メタ)アクリル酸の塩としては、(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸カルシウム、(メタ)アクリル酸マグネシウム、(メタ)アクリル酸アンモニウムなどが挙げられる。

(メタ)アクリル酸および/またはその塩の使用量は、単官能性単量体の総量100重量%において0.1〜30重量%が好ましく、0.1〜20重量%がより好ましく、0.1〜15重量%がさらに好ましく、0.1〜10重量%がよりさらに好ましく、0.1〜7重量%が最も好ましい。

硬質重合体層中に(メタ)アクリル酸および/またはその塩由来の構造が存在することにより、(メタ)アクリル酸のカルボキシル基、及び(メタ)アクリル酸の隣に存在する(メタ)アクリル酸誘導体のアルキル基が、成形加工時に脱アルキルアルコール化することにより環化し、酸無水物構造を取る。たとえば、(メタ)アクリル酸の隣が(メタ)アクリル酸メチルであれば、脱メタノール反応が起こり、酸無水物構造となる。さらに、(メタ)アクリル酸の隣が(メタ)アクリル酸ベンジルであれば、脱ベンジルアルコール反応が起こり、酸無水物構造となる。実際に成形加工時の高温条件下では、(メタ)アクリル酸塩であっても、後述する塩凝固処理において(メタ)アクリル酸由来のカルボキシル基が塩を形成することがあっても、遊離酸に解離し得るため、(メタ)アクリル酸および/またはその塩由来の構造は、遊離の酸またはマグネシウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩などの塩の形態であってもよい。

(メタ)アクリル酸が無水物構造になる割合は、加工条件等の熱履歴で変わり、必ずしも全ての(メタ)アクリル酸が酸無水物構造になる必要はなく、環化率は必要な特性に応じて任意に調整すればよい。

優れた光学等方性、熱安定性、耐溶剤性、および、多層構造粒子の分散性が向上する観点からは、環構造含有ビニル系単量体、並びに、(メタ)アクリル酸および/またはその塩を構成単位に有する硬質重合体層を有することが好ましい。

前記環構造含有ビニル系単量体の使用量は、単官能性単量体の総量(環構造含有ビニル系単量体およびこれと共重合可能な他の単官能性単量体の総量)100重量%において1〜100重量%が好ましく、5〜70重量%がより好ましく、5〜50重量%が最も好ましい。

なお、硬質重合体層には、1分子あたり2個以上の非共役な反応性二重結合を有する多官能性単量体を使用してもよい。ここで、多官能性単量体としては、架橋重合体層に使用され得る多官能性単量体を同様に使用することができる。硬質重合体層における多官能性単量体の使用量(単官能性単量体の総量100重量部に対して)は、光学的等方性および分散性の観点から、0〜2.0重量部が好ましく、0〜1.0重量部がより好ましく、0〜0.5重量部がさらに好ましく、0〜0.04重量部がなおさら好ましく、0重量部が最も好ましい。

多層構造粒子は、多層構造中に前記環構造含有ビニル系単量体を構成単位に有する硬質重合体層を有することが好ましく、硬質の最外層を有する場合に、この最外層に前記環構造含有ビニル系単量体、および/または、(メタ)アクリル酸および/またはその塩を構成単位に有する硬質重合体層を有することがより好ましい。硬質の最外層に有することにより、マトリックス樹脂とより相溶しやすくなり、配向複屈折および光弾性定数をより小さくでき、さらに光学的等方性に優れるフィルムを得やすくなる。この硬質の最外層の内側に、(メタ)アクリル系架橋重合体層((メタ)アクリル系ゴム)を有する軟質層が隣接していてもよい。

多層構造粒子は、(メタ)アクリル系架橋重合体層および硬質重合体層を各々少なくとも1層有する多層構造重合体であることが好ましく、光学特性の観点から、当該硬質重合体層の少なくとも一層が環構造含有ビニル系単量体および/または(メタ)アクリル酸および/またはその塩を構成単位に有することがより好ましい。多層構造粒子の好ましい一形態を例示すれば、軟質の内層および硬質の外層を有し、上記内層が(メタ)アクリル系架橋重合体層を有し、上記外層が前記式(4)で表される単量体および/または(メタ)アクリル酸および/またはその塩を構成単位に有する硬質重合体層を有する形態を挙げることができる。この形態は生産性の観点から好ましい。その他の好ましい一形態を例示すれば、多層構造粒子が、硬質の内層、軟質の中間層および硬質の外層を有し、上記内層が少なくとも一種の硬質重合体層からなり、上記中間層が(メタ)アクリル系架橋重合体層からなる軟質重合体層を有し、上記外層が前記式(4)で表される単量体および/または(メタ)アクリル酸および/またはその塩を構成単位に有する硬質重合体層を有する形態を挙げることができ、この形態はさらに軟質の最内層を有していてもよい。本発明においては、これらを適宜1種、または2種以上を組合せて使用することができる。

本願における、軟質の内層、軟質の中間層および軟質層(以下、軟質層)は、少なくとも1種の軟質重合体からなる内層、中間層および層のことをいう。

一方、本願における、硬質の(最)外層および硬質の内層は、少なくとも1種の硬質重合体からなる(最)外層および内層のことをいう。ここでいう「軟質」および「硬質」とは、上述した「軟質」および「硬質」と同様である。

多層構造粒子が、例えば、硬質の内層、軟質の中間層および硬質の外層からなる多層構造体のように、最内層に硬質層を有する場合は、最内層の硬質重合体としては、硬度や耐割れ性バランスの観点から、メタクリル酸エステル40〜100重量%、アクリル酸エステル0〜60重量%、芳香族ビニル系単量体0〜60重量%、多官能性単量体0〜10重量%、ならびにメタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、および芳香族ビニル系単量体と共重合可能な他の単官能性単量体0〜20重量%からなる硬質重合体が好適に例示されうる。

多層構造粒子は、例えば、(メタ)アクリル系架橋重合体層を有する軟質の内層、および、前記式(4)で表される単量体を構成単位に有する重合体層を有する硬質の外層からなる多層構造体である場合、軟質の内層を外層の硬質重合体が完全に被覆した層構造が一般的であるが、軟質の内層と硬質の外層の重量比等によっては、層構造を形成するための硬質重合体量が不充分な場合もありうる。そのような場合は、完全な層構造である必要はなく、軟質の内層の一部を外部となる硬質重合体が被覆した構造、或いは軟質の内層の一部に外部となる硬質重合体がグラフト重合した構造も好適に用いることができる。なお、その他形態の多層構造粒子についても同様のことが当てはまる。

多層構造粒子の架橋重合体層までの体積平均粒子径は、20〜450nmが好ましく、20〜300nmがより好ましく、20〜150nmが更に好ましく、30〜80nmが最も好ましい。20nm未満では耐割れ性が悪化する場合がある。一方、450nmを超えると透明性が低下する場合がある。さらに、耐折り曲げ白化性の観点から、80nm未満にすることが好ましい。また、トリミング性の観点からは、20〜450nmが好ましく、50〜450nmがより好ましく、60〜450nmがより好ましく、100〜450nmが更に好ましい。なお、体積平均粒子径は、動的散乱法により、例えば、MICROTRAC UPA150(日機装株式会社製)を用いることにより測定することができる。ここで、多層構造粒子の架橋重合体層までの体積平均粒子径とは、具体的には、多層構造粒子の中心から架橋重合体層までの粒子の体積平均粒子径を指す。多層構造粒子が架橋重合体層を2層以上有する場合は、中心に対して最も外側に位置する架橋重合体層までの体積平均粒子径をいうものとする。

多層構造粒子中の架橋重合体の含有量は、多層構造粒子を100重量%とした場合、10〜90重量%が好ましく、20〜80重量%がより好ましく、30〜60重量%がさらに好ましく、35〜55重量%が最も好ましい。10重量%未満では、得られるアクリル系樹脂組成物の耐割れ性等の機械的強度が低くなる場合がある。一方、90重量%を上回ると、多層構造粒子の分散性が損なわれ、成形体の表面の平滑性が得られず、フィッシュアイ等の外観不良が発生する傾向がある。また、硬質重合体の含有量が十分ではなく、配向時の複屈折や光弾性定数が大きくなるなど光学的等方性を保てなくなる傾向がある。

多層構造粒子の製造方法は特に限定されず、公知の乳化重合法、乳化−懸濁重合法、懸濁重合法、塊状重合法または溶液重合法が適用可能である。多層構造粒子の重合については乳化重合法が特に好ましい。

多層構造粒子は、多段重合により得られるものが好ましく、例えば、この多段重合の少なくとも1段の重合として、(メタ)アクリル系ゴム含有重合体粒子の存在下において、前記環構造含有ビニル系単量体、並びに/若しくは、(メタ)アクリル酸および/またはその塩を含有する混合物を重合することによって得られる、多段重合の(メタ)アクリル系ゴム含有グラフト共重合体を好ましく使用できる。中でも、環構造含有ビニル系単量体として、前記(4)で表される単量体が使用されることがより好ましい。混合物には、環構造含有ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸および/またはその塩のほかに、これらと共重合可能な他の単官能性単量体を含有してもよいし、多官能性単量体を含有させてもよい。

ここでの混合物の重合により、前記環構造含有ビニル系単量体、並びに/若しくは、(メタ)アクリル酸および/またはその塩を構成単位に有する硬質重合体が形成される。環構造含有ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸および/またはその塩、これらと共重合可能な他の単官能性単量体は、上述の例示と同様であり、同様に好ましく使用でき、含有量についても同様である。また、多官能性単量体についても、上述の例示と同様であり、同様に好ましく使用できる。

(メタ)アクリル系ゴム含有重合体粒子は、少なくとも(メタ)アクリル系ゴムを含有する多段重合体粒子であればよく、アクリル酸エステル50〜100重量%、アクリル酸エステルと共重合可能な他の単官能性単量体50〜0重量%、ならびに多官能性単量体0.05〜10重量部(アクリル酸エステルおよびこれと共重合可能な他の単官能性単量体の総量100重量部に対して)を重合してなるゴム((メタ)アクリル系架橋重合体)部を有することが好ましい。ゴム部は、単量体成分を全部混合して1段で重合してもよいし、単量体組成を変化させて2段以上で重合してもよい。

(メタ)アクリル系ゴム含有重合体粒子は、多段重合における少なくとも1段の重合として(メタ)アクリル系架橋重合体(ゴム部)が形成されるものであれば特に限定されず、(メタ)アクリル系架橋重合体の重合段階の前および/または後に、硬質重合体の重合を行なっても良い。

中でも、生産性の点から、多層構造粒子が、(b−1)アクリル酸エステル50〜100重量%、これと共重合可能な他の単官能性単量体50〜0重量%、および多官能性単量体0.05〜10重量部(アクリル酸エステルおよびこれと共重合可能な他の単官能性単量体の総量100重量部に対して)からなる単量体混合物を重合して(メタ)アクリル系ゴム含有重合体粒子を得、 (b−2)上記(メタ)アクリル系ゴム含有重合体粒子の存在下に、環構造含有ビニル系単量体1〜100重量%、これと共重合可能な他の単官能性単量体99〜0重量%および多官能性単量体0〜2.0重量部(前記環構造含有ビニル系単量体およびこれと共重合可能な他の単官能性単量体の総量100重量部に対して)からなる単量体混合物、または、環構造含有ビニル系単量体1〜99.9重量%、(メタ)アクリル酸および/またはその塩0.1〜30重量%、これと共重合可能な他の単官能性単量体98.9〜0重量%および多官能性単量体0〜2.0重量部(環構造含有ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸および/またはその塩、および、これと共重合可能な他の単官能性単量体の総量100重量部に対して)からなる単量体混合物を重合して、(メタ)アクリル系ゴム含有グラフト共重合体として得られるものが好ましい形態として例示できる。ここで、(b−1)重合段階の単量体混合物、および/または(b−2)重合段階の単量体混合物は、単量体成分を全部混合して1段で重合してもよいし、単量体組成を変化させて2段以上で重合してもよい。また、(b−1)における、アクリル酸エステル、これと共重合可能な他の単官能性単量体および多官能性単量体、並びにこれらの好ましい使用量は、上述の(メタ)アクリル酸架橋重合体における例示と同様である。(b−2)における、単量体混合物の成分およびこれらの好ましい使用量は、上述の硬質重合体層における例示と同様である。

上述の(メタ)アクリル系ゴム含有グラフト共重合体の(メタ)アクリル系ゴム層までの体積平均粒子径は、上述の多層構造粒子の(メタ)アクリル系架橋重合体層までの体積平均粒子径と同様に測定されるものであり、好ましい範囲も同様である。

多層構造粒子を乳化重合により製造する場合には、公知の乳化剤を用いて通常の乳化重合により製造することができる。具体的には、例えばアルキルスルフォン酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルフォン酸ナトリウム、ジオクチルスルフォコハク酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、脂肪酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウムなどのリン酸エステル塩等の陰イオン性界面活性剤や、アルキルフェノール類、脂肪族アルコール類とプロピレンオキサイド、エチレンオキサイドとの反応生成物等の非イオン性界面活性剤等が示される。これらの界面活性剤は単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。更に要すれば、アルキルアミン塩等の陽イオン性界面活性剤を使用してもよい。このうち、得られた多層構造粒子の熱安定性を向上させる観点から、特にはポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウムなどのリン酸エステル塩(アルカリ金属、又はアルカリ土類金属)を用いて重合することが好ましい。

このように乳化重合で製造された多層構造粒子は、水相中に、多層構造粒子の一次粒子が乳化分散した、いわゆるラテックスの状態で得られる。このような多層構造粒子の多層構造重合体ラテックスは、多層構造粒子の多層重合の工程にともなって副生する、スケールと言われる、より粒子径の大きな、しばしば部分的または全体に架橋構造を伴うポリマー粒子やポリマー塊を含むことが多い。更に、重合工程を通じて、外部環境から、無機物や気相中や水中のダストなどを含む異物が混入することが有る。これらのスケールや異物は、本発明のアクリル系樹脂組成物中に混入した場合に、フィルムの光学的な欠陥の原因となり好ましくない。このため、これらのスケールや異物を減少あるいは除去する目的で、多層構造粒子の多層構造重合体ラテックスを、メッシュあるいはフィルターでろ過することが好ましい。ろ過に使用されるメッシュやフィルターは、液状物のろ過目的で提案されている公知のものが広く適用可能であり、多層構造粒子の一次粒子が通過出来る範囲の目開きで、副生する重合スケールや混入する異物の大きさや必要な除去率に応じて、方式や目開き、ろ過容量などを適宜選択すれば良い。

乳化重合により得られる多層構造重合体ラテックスは、例えば、噴霧乾燥、凍結乾燥、あるいは塩化カルシウム、塩化マグネシウム等の塩、または塩酸、硫酸等の酸を凝固剤として添加することで凝固を行ない、適宜加熱処理等により凝固した樹脂分を水相より分離して、洗浄、乾燥を行なう、等の既知の方法により処理することで、粉末状の多層構造重合体が得られる。重合体ラテックスの凝固により多層構造重合体を得る場合には、凝固剤としては、酸や塩などの公知の凝固剤が使用できるが、得られた共重合体の成形時の熱安定性を向上させる観点からマグネシウム塩、特には硫酸マグネシウムを用いることが特に好ましい。

多層構造粒子は、多層構造粒子が含有する架橋重合体がアクリル系樹脂組成物100重量部において1〜60重量部含まれるように配合されることが好ましく、1〜30重量部がより好ましく、1〜25重量部がさらに好ましい。1重量部未満ではフィルムの耐割れ性、真空成形性が悪化したり、また光弾性定数が大きくなり、光学的等方性に劣ったりする場合がある。一方、60重量部を超えるとフィルムの耐熱性、表面硬度、透明性、耐折曲げ白化性が悪化する傾向がある。

マトリックス樹脂と多層構造粒子の配合比率については、前記配合条件を満たしていれば特に問題はなく、また、多層構造粒子に含まれる架橋重合体の量にもよるが、マトリックス樹脂と多層構造粒子の合計を100重量%とした場合、多層構造粒子が1〜99重量%が好ましく、1〜80重量%がより好ましく、1〜60重量%がさらに好ましい。1重量%未満ではフィルムの耐割れ性、真空成形性が悪化したり、また光弾性定数が大きくなり、光学的等方性に劣ったりする場合がある。一方、99重量%を超えるとフィルムの耐熱性、表面硬度、透明性、耐折曲げ白化性が悪化する傾向がある。

本発明の熱可塑性樹脂組成物は、配向複屈折を調整する意味合いで、特許第3648201号や特許第4336586号に記載の複屈折性を有する無機微粒子や、特許第3696649号に記載の複屈折性を有する、分子量5000以下、好ましくは1000以下の低分子化合物を適宜配合してもよい。

また、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂とゴム粒子を各々少なくとも1種類含むものであればよく、本発明の目的を満たす範囲であれば、1種以上の他の樹脂を特に制限なく添加することができる。他の樹脂としては、たとえば、その他の熱可塑性樹脂、コアシェルポリマー、グラフト共重合体などの多層構造重合体、ブロックポリマーなどの熱可塑性エラストマー、などが挙げられる。

本発明で用いる熱可塑性樹脂組成物には、熱や光に対する安定性を向上させるための酸化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤などを単独又は2種以上併用して添加してもよい。

本発明の熱可塑性樹脂組成物は、粒状のままで、または押出機によりペレット状としたのち、加熱しながら押出成形や射出成形、圧縮成形、ブロー成形、紡糸成形等により、用途に適した形状の成形品とすることができる。特にフィルムとして有用であり、例えば、通常の溶融押出法であるインフレーション法やTダイ押出法、あるいはカレンダー法、更には溶剤キャスト法等により良好に加工される。中でも、ダイラインを抑制できることから、溶剤を使用しない溶融押出法で用いることの意義は大きい。

本発明の熱可塑性樹脂組成物は、成形加工時の複屈折が生じず、実用上問題のない成形体を得られる点から、配向複屈折の値が−15×10-4〜15×10-4であることが好ましく、−10×10-4〜10×10-4であることがより好ましく、−5×10-4〜5×10-4であることがさらに好ましい。さらに、安定した光学特性が得られる点から、−1.7×10-4〜1.7×10-4であることが好ましく、−1.6×10-4〜1.6×10-4であることがより好ましく、−1.5×10-4〜1.5×10-4であることがさらに好ましく、−1.0×10-4〜1.0×10-4であることがとりわけ好ましく、−0.5×10-4〜0.5×10-4であることが特に好ましく、−0.2×10-4〜0.2×10-4であることが最も好ましい。

本発明の熱可塑性樹脂組成物は、高温高湿などの環境下において成形体に応力がかかった際にも生じる複屈折が小さい点から、光弾性定数が−10×10-12〜10×10-12であることが好ましく、−4×10-12〜4×10-12であることがより好ましく、−2×10-12〜2×10-12であることがさらに好ましく、−1.5×10-12〜1.5×10-12であることがよりさらに好ましく、−1×10-12〜1×10-12であることがとりわけ好ましく、−0.5×10-12〜0.5×10-12であることが特に好ましく、−0.3×10-12〜0.3×10-12であることが最も好ましい。光弾性定数が−4×10-12〜4×10-12であれば、フィルム化して液晶表示装置に用いても、位相差ムラが発生したり、表示画面周辺部のコントラストが低下したり、光漏れが発生したりすることがない。

Tダイのリップより吐出されるフィルム状の溶融樹脂は、複数本の冷却ロールを用いて冷却される。通常、Tダイは、溶融樹脂が最上流側(ダイに近い方)の最初のキャストロールに接触するように配置する。一般的には2本の冷却ロールが用いられている。キャストロールの温度は60℃〜160℃、さらに100℃〜150℃であることが好ましい。この後、キャストロールからフィルムを剥ぎ取り、ニップロールを経た後、巻き取る。

なお、キャストロールに樹脂を密着させる方法としては、タッチロール方式、ニップロール方式、静電印加方式、エアーナイフ方式、バキュームチャンバー方式、カレンダー方式、スリーブ式などが挙げられ、フィルムの厚さ、用途に従って、適切な方式が選択される。特に、光学歪みの小さい光学フィルムを形成する場合は、タッチロール方式、その中でも特に、金属スリーブの二重筒構造の弾性ロールを用いることが望ましい。タッチロールの温度は60℃〜160℃、さらに100℃〜150℃が好ましい。

必要に応じて、フィルムを成形する際、フィルム両面をロールまたは金属ベルトに同時に接触させる(挟み込む)ことにより、特にガラス転移温度付近の温度に加熱したロールまたは金属ベルトに同時に接触させることにより、表面性のより優れたフィルムを得ることも可能である。また、目的に応じて、フィルムの積層成形や、二軸延伸によるフィルムの改質も可能である。

本発明で製造されるフィルムの厚みは特に限定されないが、500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがさらに好ましく、200μm以下であることが特に好ましい。また、10μm以上であることが好ましく、30μm以上であることがより好ましく、50μm以上であることがさらに好ましく、100μm以上であることが特に好ましい。フィルムの厚みが上記範囲内であれば、当該フィルムを用いて真空成形を実施する際に変形しにくく、深絞り部での破断が発生しにくいという利点があり、さらに、光学特性が均一で、透明性が良好なフィルムを製造することができる。一方、フィルムの厚みが上記範囲を超えると、成形後のフィルムの冷却が不均一になり、光学的特性が不均一になる傾向がある。また、フィルムの厚みが上記範囲を下回ると、フィルムの取扱が困難になることがある。

本発明で製造されるフィルムは、さらに延伸することも可能であり、これにより、強度の向上、膜厚精度の向上を図ることができる。また、適切な延伸条件を選択することにより、実質的に複屈折を生じさせることなく、かつ、ヘイズの増大を実質的に伴うことなく、厚みムラの小さなフィルムを容易に製造することができる。

本発明に係る熱可塑性樹脂組成物を一旦、未延伸状態のフィルムに成形し、その後、一軸延伸または二軸延伸を行うことにより、延伸フィルム(一軸延伸フィルムまたは二軸延伸フィルム)を製造することができる。

本発明のフィルムは、ヘイズ値が2.0%以下であることが好ましく、1.0%以下であることがより好ましく、0.8%以下であることがさらに好ましく、0.5%以下であることが特に好ましい。本発明のフィルムのヘイズ値が上記範囲内であれば、フィルムの透明性を十分に高く、透明性が要求される光学用途、加飾用途、インテリアー用途、または、真空成形用途で好適である。

本発明のフィルムは、全光線透過率が85%以上であることが好ましく、88%以上であることがより好ましい。全光線透過率が上記範囲内であれば、フィルムの透明性を十分に高く、透明性が要求される光学用途、加飾用途、インテリアー用途、または、真空成形用途で好適に用いることができる。

本発明のフィルムは、ガラス転移温度が100℃以上が好ましく、115℃以上であることがより好ましく、120℃以上であることがさらに好ましく、124℃以上であることがなおさら好ましい。ガラス転移温度が上記範囲内であれば、十分に耐熱性が優れたフィルムを得ることができる。

本発明のフィルムは、引張破断点伸度が10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましく、30%以上であることがさらに好ましく、40%以上であることがなおさら好ましく、50%以上であることがとりわけ好ましく、60%以上であることが特に好ましく、90%以上であることが最も好ましい。上記範囲内の引張破断点伸度を示す本発明のフィルムは、当該フィルムをトムソン刃またはカッター刃で切り抜く時にクラックが発生しにくいこと(トリミング性)、および、当該フィルムをロールに巻き取る時、または、当該フィルムの表面に対しコーティング、蒸着、スパッタリング、保護フィルムの貼り合わせ等の後加工をする時に、破断しにくい。またフィルムを折り曲げたときの耐割れ性が高く、後加工工程のみならず、実際に製品として使用する際にも割れ等のトラブルがおこらない。この耐割れ性については特に引張破断点伸度が相関しており、引張破断点伸度が高いほど、耐割れ性に優れる。

本発明で得られるフィルムは、必要に応じて、粘着剤等により別のフィルムをラミネートしたり、表面にハードコート層等のコーティング層を形成させたりして用いることができる。

本発明で得られるフィルムは、金属、プラスチックなどに積層して用いることができる。フィルムの積層方法としては、積層成形や、鋼板などの金属板に接着剤を塗布した後、金属板にフィルムを載せて乾燥させ貼り合わせるウエットラミネ−トや、ドライラミネ−ト、エキストル−ジョンラミネ−ト、ホットメルトラミネ−トなどがあげられる。

プラスチック部品にフィルムを積層する方法としては、フィルムを金型内に配置しておき、射出成形にて樹脂を充填するインサート成形またはラミネートインジェクションプレス成形や、フィルムを予備成形した後に金型内に配置し、射出成形にて樹脂を充填するインモールド成形などがあげられる。

本発明で得られるフィルムの積層品は、自動車内装材,自動車外装材などの塗装代替用途、窓枠、浴室設備、壁紙、床材などの建材用部材、日用雑貨品、家具や電気機器のハウジング、ファクシミリ、ノートパソコン、コピー機などのOA機器のハウジング、携帯電話、スマートフォン、タブレットなどの端末の液晶画面の前面板や、電気または電子装置の部品などに使用することができる。

本発明で製造されるフィルムは特に限定されないが、光学フィルムとして使用することができ、特に、液晶表示装置などの表示装置に用いられる部材、例えば、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、輝度向上フィルム、液晶基板、光拡散シート、プリズムシートなどに用いることができる。中でも、偏光板保護フィルムや位相差フィルムに好適である。フィルム以外の成形品の使用用途としては、例えば、一般カメラ用レンズ,ビデオカメラ用レンズ,レーザーピックアップ用の対物レンズ,回折格子,ホログラム,及びコリメータレンズ,レーザープリンター用のfθレンズ,シリンドリカルレンズ,液晶プロジェクター用のコンデンサーレンズや投射レンズ,フレネルレンズ,眼鏡用レンズ等のレンズ、コンパクトディスク(CD,CD−ROM等)、ミニディスク(MD)、DVD用のディスク基板、液晶用導光板、液晶用フィルム、LCD用基板,液晶素子結合用接着剤等の液晶素子用部材、プロジェクター用スクリーン、光学フィルター、光ファイバー、光導波路、プリズム、照明用レンズ、自動車ヘッドライト、滅菌処理の必要な医療用品、電子レンジ調理容器、家電製品のハウジング、玩具またはレクリエーション品目などが挙げられる。

特に偏光子保護フィルムとして使用する場合、光学異方性が小さいことが好ましい。特に、フィルムの面内方向(長さ方向、幅方向)の光学異方性だけでなく、厚み方向の光学異方性についても小さいことが好ましい。換言すれば、面内位相差、および、厚み方向位相差の絶対値がともに小さいことが好ましい。より具体的には、面内位相差(Re)は10nm以下であることが好ましく、6nm以下であることがより好ましく、5nm以下であることがより好ましく、3nm以下であることがさらに好ましい。また、厚み方向位相差(Rth)の絶対値は50nm以下であることが好ましく、20nm以下であることがより好ましく、10nm以下であることがさらに好ましく、5nm以下であることが最も好ましい。このような位相差を有するフィルムは、液晶表示装置の偏光板が備える偏光子保護フィルムとして好適に使用することができる。一方、フィルムの面内位相差が10nmを超えたり、厚み方向位相差の絶対値が50nmを超えたりすると、液晶表示装置の偏光板が備える偏光子保護フィルムとして用いる場合、液晶表示装置においてコントラストが低下するなどの問題が発生する場合がある。

本発明の熱可塑性樹脂組成物からなる成形体は、配向複屈折の値が、−15×10-4〜15×10-4であることが好ましく、−10×10-4〜10×10-4であることがより好ましく、−5×10-4〜5×10-4であることがさらに好ましく、−1.6×10-4〜1。6×10-4であることがなおさら好ましく、−1×10-4〜1×10-4であることがとりわけ好ましく、−0.5×10-4〜0.5×10-4であることが特に好ましく、−0.2×10-4〜0.2×10-4であることが最も好ましい。配向複屈折が上記範囲内であれば、成形加工時の複屈折が生じることなく、実用上問題ない成形体を得ることができる。

前記成形体がフィルムの場合は、配向複屈折の値が、−1.7×10-4〜1.7×10-4であることが好ましく、−1.6×10-4〜1.6×10-4であることがより好ましく、−1.5×10-4〜1.5×10-4であることがさらに好ましく、−1.0×10-4〜1.0×10-4であることがなおさら好ましく、−0.5×10-4〜0.5×10-4であることが特に好ましく、−0.2×10-4〜0.2×10-4であることが最も好ましい。

本発明の熱可塑性樹脂組成物からなる成形体は、光弾性定数が、−10×10-12〜10×10-12であることが好ましく、−4×10-12〜4×10-12であることがより好ましく、−2×10-12〜2×10-12であることがさらに好ましく、−1×10-12〜1×10-12であることがよりさらに好ましく、−0.5×10-12〜0.5×10-12であることがさらに好ましく、−0.3×10-12〜0.3×10-12であることが最も好ましい。

また、本発明の熱可塑性樹脂組成物からなるフィルムは、光弾性定数が、−4×10−12Pa−1〜4×10−12Pa−1が好ましく、−1.5×10−12Pa−1〜1.5×10−12Pa−1であることがより好ましく、−1.0×10−12Pa−1〜1.0×10−12Pa−1であることがさらに好ましく、−0.5×10−12Pa−1〜0.5×10−12Pa−1であることがなおさら好ましく、−0.3×10−12Pa−1〜0.3×10−12Pa−1以下であることが最も好ましい。

以下、本発明を実施例にて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。以下で「部」および「%」は、特記ない限り、「重量部」および「重量%」を意味する。

(グラフト共重合体の(メタ)アクリル系架橋重合体層までの体積平均粒子径) グラフト共重合体の(メタ)アクリル系架橋重合体層までの体積平均粒子径(アクリル系ゴム粒子の体積平均粒子径)は、アクリル系ゴム粒子ラテックスの状態で測定した。測定装置として、日機装株式会社製のMICROTRAC UPA150を用いて体積平均粒子径(μm)を測定した。

(重合転化率) まず、得られたスラリーの一部を採取・精秤し、それを熱風乾燥器中で120℃、1時間乾燥し、その乾燥後の重量を固形分量として精秤した。次に、乾燥前後の精秤結果の比率をスラリー中の固形成分比率として求めた。最後に、この固形成分比率を用いて、以下の計算式により重合転化率を算出した。なお、この計算式において、連鎖移動剤は仕込み単量体として取り扱った。

重合転化率(%) =〔(仕込み原料総重量×固形成分比率−水・単量体以外の原料総重量)/仕込み単量体重量〕×100 (グラフト率) 得られた重合体(B)2gをメチルエチルケトン50mlに溶解させ、遠心分離機(日立工機(株)製、CP60E)を用い、回転数30000rpmにて1時間遠心分離を行い、不溶分と可溶分とを分離した(遠心分離作業を合計3セット)。得られた不溶分を用いて、次式によりグラフト率を算出した。

グラフト率(%)={(メチルエチルケトン不溶分の重量−架橋重合体層の重量)/架橋重合体層の重量}×100 なお、架橋重合体層の重量は、架橋重合体層を構成する単官能性単量体の仕込み重量である。

(イミド化率) イミド化率の算出は、IRを用いて下記の通り行った。生成物のペレットを塩化メチレンに溶解し、その溶液について、SensIR Tecnologies社製TravelIRを用いて、室温にてIRスペクトルを測定した。得られたIRスペクトルより、1720cm−1のエステルカルボニル基に帰属する吸収強度(Absester)と、1660cm−1のイミドカルボニル基に帰属する吸収強度(Absimide)との比からイミド化率(Im%(IR))を求めた。ここで、「イミド化率」とは、全カルボニル基中のイミドカルボニル基の占める割合をいう。

(グルタルイミド単位の含有量) 1H−NMR BRUKER AvanceIII(400MHz)を用いて、樹脂の1H−NMR測定を行い、樹脂中のグルタルイミド単位またはエステル単位などの各モノマー単位それぞれの含有量(mol%)を求め、当該含有量(mol%)を、各モノマー単位の分子量を使用して含有量(重量%)に換算した。

(酸価) 得られたグルタルイミドアクリル系樹脂0.3gを37.5mlの塩化メチレンおよび37.5mlのメタノールの混合溶媒の中で溶解した。フェノールフタレインエタノール溶液を2滴加えた後に、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を5ml加えた。過剰の塩基を0.1N塩酸で滴定し、酸価を、添加した塩基と中和に達するまでに使用した塩酸との間のミリ当量で示す差で算出した。

(屈折率) 各組成物の屈折率は、それぞれの組成物をシート状に加工し、JIS K7142に準じて、アタゴ社製アッベ屈折計2Tを用いて、ナトリウムD線波長における屈折率(nD)を測定した。

(ガラス転移温度) セイコーインスツルメンツ製の示差走査熱量分析装置(DSC)SSC−5200を用い、試料を一旦200℃まで25℃/分の速度で昇温した後10分間ホールドし、25℃/分の速度で50℃まで温度を下げる予備調整を経て、10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温する間の測定を行い、得られたDSC曲線から積分値を求め(DDSC)、その極大点からガラス転移温度を求めた。

(全光線透過率・ヘイズ値) フィルムの全光線透過率、ヘイズ値は、(株)日本電色工業 NDH−300Aを用い、JIS K7105に記載の方法にて測定した。

(膜厚) フィルムの膜厚は、デジマティックインジケーター(株式会社ミツトヨ製)を用いて測定した。

(一軸延伸フィルムの作成、および配向複屈折の測定) 未延伸の膜厚125μmの原反フィルムから、25mm×90mmの試験片を切り出し(MD方向に長辺が来るように切り出す)、両短辺を保持してガラス転移温度+30℃にて2分保ち、2倍(100%に延伸とも言う)に長さ方向へ200mm/分の速度で一軸に延伸した(この際、両長辺は固定なし)。その後、得られたフィルムを23℃に冷却し、サンプル中央部分をサンプリングし、自動複屈折計(王子計測株式会社製 KOBRA−WR)を用いて、温度23±2℃、湿度50±5%において、波長590nm、入射角0°にて複屈折(配向複屈折)を測定した。同時に、面内位相差Re、厚み方向位相差Rth(入射角40°)も測定した。(面内位相差Re、厚み方向位相差Rthに関しては、その詳細を後述する) なお、重合体(B)単体の一軸延伸フィルム、および配向複屈折の測定に関しては、重合体(B)単品を、190℃でプレスし、膜厚500μmのプレス板を作成した。得られたプレス板中央部から、25mm×90mmの試験片を切り出し、上記記載と同様に測定した。

樹脂(A)は、実施例1と同様にして未延伸の膜厚125μmの原反フィルムを製造し、上記記載と同様に測定した。

(原反フィルムの配向複屈折) 未延伸の原反フィルム(膜厚125μm)から40mm×40mmの試験片を切り出し、自動複屈折計(王子計測株式会社製 KOBRA−WR)を用いて、温度23±2℃、湿度50±5%において、波長590nm、入射角0°にて測定した。同時に、面内位相差Re、厚み方向位相差Rth(入射角40°)も測定した。(面内位相差Re、厚み方向位相差Rthに関しては、その詳細を後述する) (面内位相差Reおよび厚み方向位相差Rth) 膜厚125μmのフィルムから、40mm×40mmの試験片を切り出した。この試験片の面内位相差Reを、自動複屈折計(王子計測株式会社製 KOBRA−WR)を用いて、温度23±2℃、湿度50±5%において、波長590nm、入射角0゜で測定した。

デジマティックインジケーター(株式会社ミツトヨ製)を用いて測定した試験片の厚みd、アッベ屈折計(株式会社アタゴ製 3T)で測定した屈折率n、自動複屈折計で測定した波長590nmでの面内位相差Reおよび40°傾斜方向の位相差値から3次元屈折率nx、ny、nzを求め、厚み方向位相差 Rth=((nx+ny)/2−nz)×d を計算した。なお、測定値に、100(μm)/フィルム厚さ(μm)を掛けて、100μm厚換算値とし、表3に記載した。

(光弾性定数) 膜厚125μmのフィルムからTD方向に15mm×90mmの短冊状に試験片を切断した(TD方向に長辺がくるように切り出す)。自動複屈折計(王子計測株式会社製 KOBRA−WR)を用いて、温度23±2℃、湿度50±5%において、波長590nm、入射角0°にて測定した。測定は、フィルムの長辺の一方を固定し、他方は無荷重から4kgfまで0.5kgfずつ荷重をかけた状態で複屈折を測定し、得られた結果から、単位応力による複屈折の変化量を算出した。

なお、重合体(B)単体の光弾性定数の測定に関しては、重合体(B)単品を、190℃でプレスし、膜厚500μmのプレス板を作成する。得られたプレス板中央部から、15mm×90mmの試験片を切り出し、上記記載と同様に測定した。

樹脂(A)は、実施例1と同様にして未延伸の膜厚125μmの原反フィルムを製造し、上記記載と同様に測定した。

(異物評価) 得られたフィルムから1m2分を切り出し、20μm以上の異物数をマイクロスコープ観察などでカウントし、合計して異物数とした。 ○:100個/m2未満 ×:100個/m2以上 (機械的強度の評価) 機械的強度は、トリミング性評価と、耐割れ性の指標である引張破断点伸度(引張伸び:%)で評価した。

トリミング性評価:膜厚125μmのフィルムを、カッターナイフを用いて切断し、次の評価をした。 ○:切断面にクラック発生が認められない。 △:切断面にクラック発生が認められる。 ×:切断面にクラック発生が著しく認められる。

引張破断点伸度:膜厚125μmのフィルムを用いた。引張試験はISO527−3(JIS K 7127)に準拠し、試験片は試験片タイプ5、試験速度はMD方向にて200mm/min、温度23±2℃、湿度50±5%で測定した。

(フローマークの評価) 幅300mm、長さ2mにてフィルムを20cm離れた所から目視観察し、フローマークの有無を確認した。 ○:目視で確認できるフローマークが1箇所もない。 ×:目視で確認できるフローマークが1箇所以上ある。

(ダイラインの評価) 幅300mmのフィルムをTD方向にマイクロハイスコープ(キーエンス社製VHX−2000)にて観察し本数を確認し、各ダイラインの幅を測定し、その合計を求め表3に記載した。

(緩和弾性率の測定) 動的粘弾性測定器ARES(TA社製)を使用し、設定温度260℃、φ25mmコープレート、歪み1%にて測定し、歪み印加後緩和開始から1秒後の値を表3に記載した。

(製造例1) <グルタルイミドアクリル系樹脂(A1)の製造> ポリメタクリル酸メチルを原料樹脂として、イミド化剤としてモノメチルアミンを用いて、グルタルイミドアクリル系樹脂(A1)を製造した。

製造例1においては、押出反応機を2台直列に並べたタンデム型反応押出機を用いた。

タンデム型反応押出機に関しては、第1押出機、第2押出機共に直径が75mm、L/D(押出機の長さLと直径Dの比)が74の噛合い型同方向二軸押出機を使用し、定重量フィーダー(クボタ(株)製)を用いて、第1押出機の原料供給口に原料樹脂を供給した。

第1押出機、第2押出機における各ベントの減圧度はおよそ−0.090MPaとした。更に、直径38mm、長さ2mの配管で第1押出機と第2押出機を接続し、第1押出機の樹脂吐出口と第2押出機の原料供給口を接続する部品内圧力制御機構には定流圧力弁を用いた。

第2押出機から吐出された樹脂(ストランド)は、冷却コンベアで冷却した後、ペレタイザでカッティングしペレットとした。ここで、第1押出機の樹脂吐出口と第2押出機の原料供給口を接続する部品内圧力調整、又は押出変動を見極めるために、第1押出機の吐出口、第1押出機と第2押出機間の接続部品の中央部、および、第2押出機の吐出口に樹脂圧力計を設けた。

第1押出機において、原料樹脂としてポリメタクリル酸メチル樹脂(Mw:10.5万)を使用し、イミド化剤として、モノメチルアミンを用いてイミド樹脂中間体1を製造した。この際、押出機の最高温部の温度は280℃、スクリュー回転数は55rpm、原料樹脂供給量は150kg/時間、モノメチルアミンの添加量は原料樹脂100部に対して2.0部とした。定流圧力弁は第2押出機の原料供給口直前に設置し、第1押出機のモノメチルアミン圧入部圧力を8MPaになるように調整した。

第2押出機において、リアベント及び真空ベントで残存しているイミド化剤及び副生成物を脱揮したのち、エステル化剤として炭酸ジメチルを添加しイミド樹脂中間体2を製造した。この際、押出機の各バレル温度は260℃、スクリュー回転数は55rpm、炭酸ジメチルの添加量は原料樹脂100部に対して3.2部とした。更に、ベントでエステル化剤を除去した後、ストランドダイから押し出し、水槽で冷却した後、ペレタイザでペレット化することで、グルタルイミドアクリル系樹脂(A1)を得た。

得られたグルタルイミドアクリル系樹脂(A1)は、一般式(1)で表されるグルタミルイミド単位と、一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル単位が共重合したアクリル系樹脂(A)である。

グルタルイミドアクリル系樹脂(A1)について、上記の方法に従って、イミド化率、グルタルイミド単位の含有量、酸価、ガラス転移温度、および、屈折率を測定した。その結果、イミド化率は13%、グルタルイミド単位の含有量は7重量%、酸価は0.4mmol/g、ガラス転移温度は130℃、屈折率は1.50であった。 グルタルイミドアクリル系樹脂(A1)の光弾性定数の符号は−(マイナス)であった。

(製造例2) <グラフト共重合体(B1)の製造> 撹拌機付き8L重合装置に、以下の物質を仕込んだ。 脱イオン水 200部 ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム 0.45部 ソディウムホルムアルデヒドスルフォキシレ−ト 0.11部 エチレンジアミン四酢酸−2−ナトリウム 0.004部 硫酸第一鉄 0.001部 重合機内を窒素ガスで充分に置換し実質的に酸素のない状態とした後、内温を40℃にし、表2に示したアクリル系ゴム粒子(B−1)の原料混合物46.391部を225分かけて連続的に添加した。(B−1)追加開始から50分後にポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム(ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸(東邦化学工業株式会社製、商品名:フォスファノールRD−510Yのナトリウム塩)0.2部を重合機に添加した。添加終了後、さらに0.5時間重合を継続し、アクリル系ゴム粒子((B−1)の重合物)を得た。重合転化率は99.7%であった。

その後、内温を60℃にし、ソディウムホルムアルデヒドスルフォキシレ−ト0.2部を仕込んだ後、表2に示した硬質重合体層(B−2)の原料混合物55.554部を210分間かけて連続的に添加し、さらに1時間重合を継続し、グラフト共重合体ラテックスを得た。重合転化率は100.0%であった。得られたラテックスを硫酸マグネシウムで塩析、凝固し、水洗、乾燥を行い、白色粉末状のグラフト共重合体(B1)を得た。

グラフト共重合体(B1)のゴム粒子(B−1の重合物)の平均粒子径は73nmであった。グラフト共重合体(B1)のグラフト率は85%であった。

(製造例3) <グラフト共重合体(B2)の製造> 撹拌機付き8L重合装置に、以下の物質を仕込んだ。 脱イオン水 200部 ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム 0.05部 ソディウムホルムアルデヒドスルフォキシレ−ト 0.11部 エチレンジアミン四酢酸−2−ナトリウム 0.004部 硫酸第一鉄 0.001部 重合機内を窒素ガスで充分に置換し実質的に酸素のない状態とした後、内温を40℃にし、表2に示したアクリル系ゴム粒子(B−1)の原料混合物45.491部を225分かけて連続的に添加した。(B−1)追加開始から20分後、40分後、60分後にポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム(ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸(東邦化学工業株式会社製、商品名:フォスファノールRD−510Yのナトリウム塩)0.2部ずつ重合機に添加した。添加終了後、さらに0.5時間重合を継続し、アクリル系ゴム粒子((B−1)の重合物)を得た。重合転化率は98.6%であった。

その後、内温を60℃にし、ソディウムホルムアルデヒドスルフォキシレ−ト0.2部を仕込んだ後、表2に示した硬質重合体層(B−2)の原料混合物55.554部を210分間かけて連続的に添加し、さらに1時間重合を継続し、グラフト共重合体ラテックスを得た。重合転化率は100.0%であった。得られたラテックスを硫酸マグネシウムで塩析、凝固し、水洗、乾燥を行い、白色粉末状のグラフト共重合体(B2)を得た。

グラフト共重合体(B2)のゴム粒子(B−1の重合物)の平均粒子径は121nmであった。グラフト共重合体(B2)のグラフト率は56%であった。

(製造例4) <グラフト共重合体(B3)の製造> 表2に示したアクリル系ゴム粒子(B−1)、硬質重合体層(B−2)の組成により製造例2と同様に重合を行い、凝固、水洗、乾燥をして白色粉末状のグラフト共重合体(B3)を得た。

グラフト共重合体(B3)のゴム粒子(B−1の重合物)の平均粒子径は72nmであった。グラフト共重合体(B3)のグラフト率は130%であった。

(製造例5) <グラフト共重合体(B4)の製造> 撹拌機付き8L重合装置に、以下の物質を仕込んだ。 脱イオン水 200部 ジオクチルスルフォコハク酸ナトリウム 0.58部 ソディウムホルムアルデヒドスルフォキシレ−ト 0.11部 エチレンジアミン四酢酸−2−ナトリウム 0.004部 硫酸第一鉄 0.001部 重合機内を窒素ガスで充分に置換し実質的に酸素のない状態とした後、内温を40℃にし、表2に示したアクリル系ゴム粒子(B−1)の原料混合物55.554部を225分かけて連続的に添加した。添加終了後、さらに0.5時間重合を継続し、アクリル系ゴム粒子((B−1)の重合物)を得た。重合転化率は99.7%であった。

その後、内温を60℃にし、ソディウムホルムアルデヒドスルフォキシレ−ト0.2部、ジオクチルスルフォコハク酸ナトリウム0.2部を仕込んだ後、表2に示した硬質重合体層(B−2)の原料混合物46.391部を210分間かけて連続的に添加し、さらに1時間重合を継続し、グラフト共重合体ラテックスを得た。重合転化率は100.0%であった。得られたラテックスを塩化カルシウムで塩析、凝固し、水洗、乾燥を行い、白色粉末状のグラフト共重合体(B4)を得た。

グラフト共重合体(B4)のゴム粒子(B−1の重合物)の平均粒子径は72nmであった。グラフト共重合体(B4)のグラフト率は80%であった。

(製造例6) <グラフト共重合体(B5)の製造> 撹拌機付き8L重合装置に、以下の物質を仕込んだ。 脱イオン水 200部 ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム 0.05部 ソディウムホルムアルデヒドスルフォキシレ−ト 0.11部 エチレンジアミン四酢酸−2−ナトリウム 0.004部 硫酸第一鉄0.001部 重合機内を窒素ガスで充分に置換し実質的に酸素のない状態とした後、内温を40℃にし、表2に示したアクリル系ゴム粒子(B−1)の原料混合物45.266部を135分かけて連続的に添加した。(B−1)追加開始から12分後、24分後、36分後にポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム(ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸(東邦化学工業株式会社製、商品名:フォスファノールRD−510Yのナトリウム塩)0.2部ずつ重合機に添加した。添加終了後、さらに0.5時間重合を継続し、アクリル系ゴム粒子((B−1)の重合物)を得た。重合転化率は99.4%であった。

その後、内温を60℃にし、ソディウムホルムアルデヒドスルフォキシレ−ト0.2部を仕込んだ後、表2に示した硬質重合体層(B−2)の原料混合物55.254部を165分間かけて連続的に添加し、さらに1時間重合を継続し、グラフト共重合体ラテックスを得た。重合転化率は100.0%であった。得られたラテックスを硫酸マグネシウムで塩析、凝固し、水洗、乾燥を行い、白色粉末状のグラフト共重合体(B5)を得た。

グラフト共重合体(B5)のゴム粒子(B−1の重合物)の平均粒子径は133nmであった。グラフト共重合体(B5)のグラフト率は71%であった。

(製造例7) <グラフト共重合体(B6)の製造> 攪拌機付き8L重合装置に、以下の物質を仕込んだ。 脱イオン水 200部 ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム 0.05部 ソディウムホルムアルデヒドスルフォキシレ−ト 0.11部 エチレンジアミン四酢酸−2−ナトリウム 0.004部 硫酸第一鉄 0.001部 重合機内を窒素ガスで充分に置換し実質的に酸素のない状態とした後、内温を40℃にし、表2に示したアクリル系ゴム粒子(B−1)の原料混合物45.266部を135分かけて連続的に添加した。(B−1)追加開始から12分後、37分後、62分後、87分後にポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム(ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸(東邦化学工業株式会社製、商品名:フォスファノールRD−510Yのナトリウム塩)を、各0.21部、0.21部、0.21部、0.11部ずつ重合機に添加した。添加終了後、さらに1時間重合を継続し、アクリル系ゴム粒子((B−1)の重合物)を得た。重合転化率は97.8%であった。

その後、内温を60℃にし、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム0.11部、ソディウムホルムアルデヒドスルフォキシレ−ト0.2部を仕込んだ後、表2に示した硬質重合体層(B−2)の原料混合物55.254部を165分間かけて連続的に添加し、さらに1時間重合を継続し、グラフト共重合体ラテックスを得た。重合転化率は97.2%であった。得られたラテックスを硫酸マグネシウムで塩析、凝固し、水洗、乾燥を行い、白色粉末状のグラフト共重合体(B6)を得た。

グラフト共重合体(B6)のゴム粒子(B−1の重合物)の平均粒子径は117nmであった。グラフト共重合体(B6)のグラフト率は69%であった。

(製造例8) <グラフト共重合体(B7)の製造> 攪拌機付き8L重合装置に、以下の物質を仕込んだ。 脱イオン水 200部 ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム 0.05部 ソディウムホルムアルデヒドスルフォキシレ−ト 0.11部 エチレンジアミン四酢酸−2−ナトリウム 0.004部 硫酸第一鉄 0.001部 重合機内を窒素ガスで充分に置換し実質的に酸素のない状態とした後、内温を40℃にし、表2に示したアクリル系ゴム粒子(B−1)の原料混合物45.266部を135分かけて連続的に添加した。(B−1)追加開始から12分後、37分後、62分後、87分後にポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム(ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸(東邦化学工業株式会社製、商品名:フォスファノールRD−510Yのナトリウム塩)を、各0.21部、0.21部、0.21部、0.11部ずつ重合機に添加した。添加終了後、さらに1時間重合を継続し、アクリル系ゴム粒子((B−1)の重合物)を得た。重合転化率は99.0%であった。

その後、内温を60℃にし、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム0.11部、ソディウムホルムアルデヒドスルフォキシレ−ト0.2部を仕込んだ後、表2に示した硬質重合体層(B−2)の原料混合物55.254部を165分間かけて連続的に添加し、さらに1時間重合を継続し、グラフト共重合体ラテックスを得た。重合転化率は99.4%であった。得られたラテックスを硫酸マグネシウムで塩析、凝固し、水洗、乾燥を行い、白色粉末状のグラフト共重合体(B7)を得た。

グラフト共重合体(B7)のゴム粒子(B−1の重合物)の平均粒子径は118nmであった。グラフト共重合体(B7)のグラフト率は85%であった。

(各種樹脂(A)の説明) A2: メタクリル酸メチル−メタクリル酸共重合体 Altuglas HT−121 (Arkema Inc.)、光弾性定数の符号は−(マイナス) A3: 無水マレイン酸−スチレン−メタクリル酸メチル共重合体 PLEXIGLAS hw55 (EVONIK INDUSTRIES)、光弾性定数の符号は−(マイナス) (実施例1〜8、比較例1〜3) 直径40mmのフルフライトスクリューを用いた単軸押出機を用い、押出機の温度調整ゾーンの設定温度を255℃、スクリュー回転数を52rpmとし、表3に示すアクリル系樹脂(A)、および重合体(B)の混合物を、10kg/hrの割合で供給した。押出機出口に設けられたダイスからストランドとして出てきた樹脂を水槽で冷却し、ペレタイザでペレット化した。

得られたペレットを、目開き5μmのリーフディスクフィルターを備えた、出口に幅350mmのTダイを接続した単軸押出機を用い、押出機の温度調整ゾーンの設定温度を260℃、スクリュー回転数を20rpmとし、ペレットを10kg/hrの割合で供給し、溶融押出することにより、表3に示す膜厚のフィルムを得た。これらフィルムについて各種物性を評価した。

表3で示すように実施例1〜8は、緩和弾性率が100〜2000Paの範囲になり、その結果ダイラインが極めて少ない。またフィルムの実用上の物性のバランスも非常に高い。

詳細には表3で示すように、実施例1、7は、耐熱性が高く、透明性も高く、トリミング性などの機械的強度にも優れる。またフィルムの配向複屈折も低く、延伸しても配向複屈折はほとんど発生しない。その上、光弾性定数も極めて小さい値であり、フィルムに応力がかかった際にも複屈折がほぼ発生しないなど、光学異方性が極めて小さいことがわかる。また、緩和弾性率の値が低い樹脂系は溶融粘度が低い傾向にあるために、成形時に5μmなどの目開きの小さいフィルターでのろ過が可能であり、フィッシュアイなどの異物がないフィルムを得ることが可能である。実施例2〜6、8は、実施例1、7で得られた優れた効果に加え、さらに機械的強度が優れていることがわかる。

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