外科用シーラント

申请号 JP2016570661 申请日 2016-01-19 公开(公告)号 JP6367979B2 公开(公告)日 2018-08-01
申请人 国立研究開発法人物質・材料研究機構; 发明人 田口 哲志;
摘要
权利要求

化冷水魚由来ゼラチンを含む第1剤と、水溶性架橋用分子を含む第2剤とからなる外科用シーラントであって、 前記水溶性架橋用分子は、2個以上の活性エステル基を有する多塩基酸、酸無水物及び2個以上のアルデヒド基を有するアルデヒド化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種であり、 前記疎水化冷水魚由来ゼラチンは冷水魚由来ゼラチンの側鎖のアミノ基の少なくとも一部が疎水性基で置換されたゼラチンであり、 前記疎水性基が、置換率(疎水性基のモル数/(疎水性基とゼラチン中の反応性アミノ基との合計モル数)×100)が3〜20モル%の、炭素数8〜18の直鎖脂肪族基であり、 前記第1剤はpH9〜10の水溶液の形態で使用され、前記第2剤はpH4〜6の水溶液の形態で使用される、ことを特徴とする外科用シーラント。前記疎水化冷水魚由来ゼラチンの分子量が10000以上150000以下であることを特徴とする請求項1に記載の外科用シーラント。前記冷水魚由来ゼラチンが、タイ、タラ、サケあるいはこれらの遺伝子組換え冷水魚由来ゼラチンの1種または2種以上の組み合わせであることを特徴とする請求項1又は2に記載の外科用シーラント。前記冷水魚由来ゼラチンが、構成アミノ酸1000個当たりイミノ酸が190個以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の外科用シーラント。疎水性基が、前記構成アミノ酸の一つであるLysのアミノ基の一部に結合されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の外科用シーラント。前記水溶性架橋用分子が、ポリエチレングリコール ジスクシンイミジル スクシネート、ペンタエリスリトール−ポリ(エチレングリコール)エーテル テトラスクシンイミジル グルタレート、及びポリ−L−グルタミン酸スクシンイミドからなる群より選ばれる1種または2種以上の組合せであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の外科用シーラント。第1剤がホウ酸緩衝溶液の形態で使用され、第2剤がリン酸緩衝溶液の形態で使用される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の外科用シーラント。

说明书全文

本発明は、外科用シーラントに関する。

外科用シーラント(以下、「シーラント」という)は、血管、皮膚等の生体組織(以下、「組織」という)における患部を縫合した後に適用されて膜を形成し、血液や体液の漏出、ウージング、気体のリーク等を防止する材料である。外科適用範囲は、呼吸器外科、消化器外科、心臓血管外科、口腔外科等である。外科用シーラントには、(1)塗布性に優れること、(2)形成されるゲル膜の強度が高いこと、(3)ゲル化時間が短いことが要求される。また、(4)組織に対してゲル膜の界面接着強度が高く、(5)ゲル膜の含率変化が少なく、柔軟性に優れていることが好ましい。

現在、シーラントとして、主に使用されているものは、フィブリン系外科用シーラントであり、製品としてはボルヒール(商品名、Bolheal,化学及血清療法研究所製)がある。この外科用シーラントは、生体由来成分で構成されているため、生体親和性は高いが、接着強度が低いという課題がある。

近年、ヒト血清アルブミン(Human Serum Albumin:以下、HSA)と架橋剤とからなる外科用シーラントの接着強度が高いことが分かってきた(非特許文献1)。HSAは、血液製剤から作られる血清タンパク質であり、分子量69000、直径約10nmの球状であり、マイナスチャージを持った酸性タンパク質である。また、架橋剤としては、酒石酸(Disuccinimidyl Tartarate:以下、DST)が用いられている。しかし、血液製剤を使うと医薬品の分類となるため、承認認可の面で多大な労を必要とする。また、医薬品となる場合には、認可後も、使用履歴を20年間継続して残さねばならず、多大な労力を必要とするという課題がある。

そのため、HSAに代わり、非血液製剤であるゼラチン(gelatin)の使用が検討されている。例えば、特許文献1では、ゼラチンをスクシンイミド化ポリ−L−グルタミン酸により架橋して調製する医用材料が開示されている。また、特許文献2は、組織接着フィルムに関するものであり、ゼラチン又はコラーゲンから作成される組織接着フィルムが開示されている。しかし、これらの材料は、膜強度と界面接着強度の双方が要求される封止力が十分でないという課題がある。また、特許文献3は、組織接着構成物に関するものであり、粒子形態の合成および/または架橋性の材料と、粒子状材料とが混合された組織接着構成物が開示されている。しかし、この組織接着構成物も、封止力が十分でないという課題がある。

上記課題を解決すべく、本発明者はゼラチンの誘導化法(非特許文献1)を用いて、側鎖に疎水性基を備えたゼラチンを合成し、該ゼラチンと架橋剤からなる組織接着剤を提案した(特許文献4)。

特開平9—103479号公報

特開2008−284256号公報

特表2006−523113号公報

WO 2014/112208号

J.Bioact.Compact.Polym.,24,546−559(2009)

上記組織接着剤は、優れた組織への接着力を示す。しかし、上述のとおり、シーラントには接着力だけでなく、血液や体液の圧力に耐えるための膜自体の強度(以下「膜強度」という)も要求される。そこで、本発明は、上記接着剤を膜強度の点でさらに改良し、優れたシーラントを提供することを課題とする。

種々検討したところ、疎水性基が所定の炭素数の脂肪族基である場合に、優れた膜強度、引いては封止力を達成できることを見出し、本発明を完成した。 即ち、本発明は、以下の構成を有する。 (1)疎水化冷水魚由来ゼラチンを含む第1剤と、水溶性架橋用分子を含む第2剤とからなる外科用シーラントであって、 前記水溶性架橋用分子は、2個以上の活性エステル基を有する多塩基酸、酸無水物及び2個以上のアルデヒド基を有するアルデヒド化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種であり、 前記疎水化冷水魚由来ゼラチンは冷水魚由来ゼラチンの側鎖のアミノ基の少なくとも一部が疎水性基で置換されたゼラチンであり、 前記疎水性基が、置換率(疎水性基のモル数/(疎水性基とゼラチン中の反応性アミノ基との合計モル数)×100)が3〜20モル%の、炭素数8〜18の直鎖脂肪族基である、 ことを特徴とする外科用シーラント。

(2) 前記疎水化冷水魚由来ゼラチンの分子量が10000以上150000以下であることを特徴とする(1)に記載の外科用シーラント。

(3) 前記冷水魚由来ゼラチンがタイ、ティラピア、タラ、サケあるいはこれらの遺伝子組換え冷水魚由来ゼラチンの1種または2種以上の組み合わせであることを特徴とする(1)に記載の外科用シーラント。

(4) 前記冷水魚由来ゼラチンが構成アミノ酸1000個当たりのイミノ酸が190個以下とされていることを特徴とする(1)に記載の外科用シーラント。

(5) 疎水性基が、前記構成アミノ酸の一つであるLysのアミノ基の一部に結合されていることを特徴とする(1)に記載の外科用シーラント。

(6) 前記水溶性架橋用分子が、ポリエチレングリコール ジスクシンイミジル スクシネート、ペンタエリスリトール−ポリ(エチレングリコール)エーテル テトラスクシンイミジル グルタレート、及びポリ−L−グルタミン酸スクシンイミドからなる群より選ばれる1種または2種以上の組合せであることを特徴とする(1)に記載の外科用シーラント。

(7) 第1剤がpH811の水溶液の形態で使用され、第2剤がpH3〜8の水溶液の形態で使用され、それらの混合液のpHが8〜9となるように混合されて使用されることを特徴とする(1)に記載の外科用シーラント。

本発明の外科用シーラントの疎水化冷水魚由来ゼラチン(以下、「疎水化ゼラチン」という場合がある)は、炭素数8〜18の直鎖脂肪族基を備え、これにより高い膜強度を示す。特許文献4記載のシーラントでは、ゼラチンがこれらの基を有する場合、炭素数がより少ない基及び脂環式基を有する場合に比べて接着強度が弱く、置換率をかなり高くしなければ同等の接着力を示すことができない。ところが驚くことに、圧縮強度で評価することができる膜強度の点では、これらの基の方が、置換率が低くても接着力の低さを補って余りある顕著に高い膜強度を有し、その結果、高い封止力を示すことが見出された。該外科用シーラントは、血液等の漏れの防止が鍵となる外科手術、例えば血管吻合手術等に大変有用である。

本発明の外科用シーラントの第2剤における水溶性架橋用分子の一例を示す図である。

本発明の外科用シーラントの第1剤における疎水化冷水魚由来ゼラチンの一例を示す説明図である。

本発明の外科用シーラントを用いたゲル膜形成の工程図の一例を示す図である。

1.9Chol−cGltn(参考例2)、8.3Chol−cGltn(参考例1)、12.2Chol−cGltn(参考例3)のディスクゲルの貯蔵弾性係数の波数依存性を示すグラフ(a)および圧縮弾性係数を示す棒グラフ(b)である。

3.2Pro−cGltn(参考例4)、6.4Pro−cGltn(参考例5)、13.7Pro−cGltn(参考例6)のディスクゲルの貯蔵弾性係数の角周波数依存性を示すグラフ(a)および圧縮弾性係数を示す棒グラフ(b)である。

2.1Hx−cGltn(参考例7)、8.5Hx−cGltn(参考例8)、18.3Hx−cGltn(参考例9)の貯蔵弾性係数の角周波数依存性を示すグラフ(a)および圧縮弾性係数を示す棒グラフ(b)である。

3.8Lau−cGltn(実施例2)、9.0Lau−cGltn(実施例3)、19.0Lau−cGltn(実施例4)の貯蔵弾性係数の角周波数依存性を示すグラフ(a)および圧縮弾性係数を示す棒グラフ(b)である。

4.0Ste−cGltn(実施例5)、9.6Ste−cGltn(実施例1)、18.7Ste−cGltn(実施例6)の貯蔵弾性係数の角周波数依存性を示すグラフ(a)および圧縮弾性係数を示す棒グラフ(b)である。

各疎水性基の置換率に対する圧縮弾性係数をプロットしたグラフである。

各ディスクゲルの含水率(算出値)の経時変化を示すグラフであって、(a)はOrg−cGltn(比較例1)であり、(b)は8.3Chol−cGltn(参考例1)であり、(c)は9.6Ste−cGltn(実施例1)である。

各ディスクゲルの膨潤度の経時変化を示す写真である。

<水溶性架橋用分子> 図1は、本発明の外科用シーラントの第2剤における水溶性架橋用分子の一例である、ペンタエリスリトール−ポリ(エチレングリコール)エーテル テトラスクシンイミジル グルタレート(略称:4S−PEG)の構造を示す図である。同図において、nは分子量(Mn)が8000〜12,000程度となる数である。4S−PEGは、PEG残基を含む分岐鎖の末端に、疎水化ゼラチンと反応する活性エステル基を有する。4S−PEGは生体安全性が高く、容易に水に溶解する。

水溶性架橋用分子は、2個以上の活性エステル基を有する多塩基酸、酸無水物及び2個以上のアルデヒド基を有するアルデヒド化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種である。これらの基は、疎水化ゼラチン中の活性エステルと反応性のアミノ基と反応して架橋構造を形成する。

前記活性エステル基は、N−ヒドロキシスクシンイミジル、又はN−ヒドロキシスルホスクシンイミジル基で活性化されたエステル基の1種または2種以上の組み合わせであることが好ましい。スクシンイミドは、生体内の代謝経路に存在するコハク酸の誘導体であり、アメリカ食品医薬品局で認可された外科用シーラントに使用されている実績がある。

多塩基酸としては、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、グルタル酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、オキサロ酢酸、cis−アコニット酸、2−ケトグルタル酸、ポリ酒石酸、ポリクエン酸、ポリリンゴ酸、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸等が例示され、例えばジスクシンイミジルグルタレート(DSG)、ジスクシンイミジルスベレート(DSS)、ジスクシンイミジルタートレート(DST)、ポリ−L−グルタミン酸スクシンイミジル等を使用することができる。

2個以上の活性エステル基を有する多塩基酸の好ましい例としては、上記4S−PEGの他、下記式で表されるポリエチレングリコール ジスクシンイミジル スクシネート(PEG−(SS)2)、

ポリ−L−グルタミン酸スクシンイミドの群から選ばれる1種または2種以上の組合せを用いることができる。

アルデヒド化合物としては、1分子中に2つ以上のアルデヒド基が導入された、アルデヒド基導入多糖類、例えばアルデヒド基導入デンプン、アルデヒド基導入デキストラン、及びアルデヒド基導入ヒアルロン酸が、酸無水物としては、無水グルタル酸、無水マレイン酸、及び無水コハク酸が、ジイソチオシアンネートとしてはヘキサメチレンジイソチオシアネート等が例示される。

該架橋剤は、疎水化ゼラチンの反応性アミノ基1当量に対して、該架橋剤中の活性基、例えばN−ヒドロキシスクシンイミジル基で活性化されたエステル基が0.2〜3当量、好ましくは0.3〜2当量、より好ましくは0.4〜1.5当量、最も好ましくは0.5〜1.2当量となる量で使用される。2種以上の架橋剤の混合物を用いてもよく、その場合はそれらの合計当量が上記範囲となる量とする。

第2剤は、pH3〜8の水溶液の形態で使用されることが好ましく、より好ましくはpHが4〜6である。該pHとするための水性溶媒としては、超純水、生理食塩水、各種緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水(以下「PBS」という)、又はこれらの混合物を用いることができる。

<疎水化冷水魚由来ゼラチン> 図2は、本発明の外科用シーラントの第1剤に含まれる疎水化冷水魚由来ゼラチンの一例を示す説明図である。該疎水化ゼラチンは、冷水魚由来ゼラチンの側鎖のアミノ基の一部を疎水性基で置換したゼラチンである。冷水魚由来ゼラチンを構成するアミノ酸の一つであるLysのアミノ基の一部が疎水性基で置換されている。Lysは、タンパク質を構成するα−アミノ酸の一つであり、側鎖にε−アミノ基を持つ。

疎水化冷水魚由来ゼラチンの分子量(Mw)は、10,000〜150,000であることが好ましく、10,000〜120,000であることがより好ましく、最も好ましくは10,000〜100,000である。分子量が前記範囲のゼラチンと架橋剤から得られる膜は、強度が高く、取扱い性も良い。疎水化冷水魚由来ゼラチンは、水性溶媒への溶解性が高く、ゲル化せず、液体状で保持できる。

冷水魚由来ゼラチンは、タラゼラチンに限られるわけではなく、タイゼラチン、ティラピアゼラチン、サケゼラチン等でもよく、これらの遺伝子組換えゼラチンであってもよい。好ましくは、天然由来のタラゼラチンである。

冷水魚由来ゼラチンは、2個以上のアミノ酸が直鎖状に連結された高分子であり、構成アミノ酸1000個当たり、190個以下のイミノ酸、すなわち、80個以下のヒドロキシプロリン(Hydroxyproline)と、110個以下のプロリンを有している。冷水魚由来ゼラチンの常温流動性は、ヒドロキシプロリン(Hydroxyproline)の数が80個以下であること又はプロリンの数が110個以下であることに起因すると考えられる。いずれかの条件を満たせば、変性温度がほぼ室温以下となり、常温流動性が生じると考えられる。

タイゼラチンのヒドロキシプロリン数は73、プロリン数は108で変性温度(Denaturation tenperature)は302.5Kである。ティラピアゼラチンのヒドロキシプロリン数は82、プロリン数は110で変性温度(Denaturation tenperature)は309Kである。これらに対して、ブタゼラチンのヒドロキシプロリン数は95、プロリン数は121で変性温度(Denaturation tenperature)は316Kである。

なお、冷水魚由来ゼラチンは、動物由来のゼラチンのアミノ酸配列と類似しており、酵素により容易に分解され、また生体親和性も高い。

第1剤はpH8〜11の溶液の形態で使用されることが好ましく、9〜10であることがより好ましい。該pHとするための水性溶媒としては、ホウ酸緩衝液を用いることができる。第1剤水溶液中の疎水化冷水魚ゼラチンの濃度は、10〜40w/v%の範囲であり、15〜30w/v%が好ましい。

<疎水性基> 疎水性基は、置換率(モル%)、即ち(疎水性基のモル数/(疎水性基とゼラチン中の反応性アミノ基との合計モル数)×100、が3〜20モル%であり、好ましくは3〜12モル%、より好ましくは5〜10モル%である。置換率が前記下限値未満では、圧縮弾性係数が低くなる傾向があり、前記上限値を超えると第1剤水溶液が白濁したり、高粘度となったりする場合がある。

疎水性基は炭素数8〜18、好ましくは8〜14の直鎖脂肪族基である。該置換基は、例えばアミド基を介してゼラチンに結合される。直鎖脂肪族基としては、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、ヘキサデセノイル基、オクタデカノイル基、オクタデセノイル基等が挙げられる。

<添加剤> 上記第1剤水溶液及び/又は第2剤水溶液は、外科用シーラントに慣用の各種添加剤を、本発明の目的を阻害しない量でさらに含んでよい。該添加剤としては、着色料、pH調整剤、粘度調整剤等が挙げられる。好ましくは、第1剤あるいは2剤中に着色料を添加し、より好ましくはブリリアントブルーを、第1剤中に、該第1剤の重量の0.001〜0.1wt%添加することにより、施術箇所を分かり易くする。

<外科用シーラントの製造方法> 本発明の外科用シーラントは、第1剤と第2剤を個別に調製し、適用時もしくは直前に両者を混合して使用する。

[第1剤の調製法] (1)出発ゼラチン溶液の調製 出発材料のゼラチンを5〜50wt/v%となる量で、有機溶媒、例えばジメチルスルホキサイド等に溶解する。 (2)疎水化 工程(1)で得られたゼラチン溶液に、疎水性基を有する誘導体化薬剤を添加し、所定時間撹拌して反応させる。該誘導体化薬剤としては、上記の疎水性基を有する有機酸もしくは酸クロライドを使用することができる。ゼラチンの有機溶媒溶液中に目的とする置換率となる量の有機酸もしくは酸クロライドを添加し、不活性ガス雰囲気下、60〜100℃で加熱し、一昼夜攪拌する。 (3)精製 工程(2)で得られた反応溶液に、大過剰の貧溶媒、例えば冷エタノールを加えて、ゼラチン誘導体を沈殿させる。該沈殿を濾別した後、エタノール、酢酸エチル等で洗浄して、最終生成物を得る。 (4)第1剤水溶液の調製 工程(3)で得られたゼラチン誘導体を、10〜40w/v%、好ましくは15〜30w/vでホウ酸緩衝液等に溶解し、pH8〜11、好ましくは9〜10とする。所望により、誘導体化されていないゼラチン、その他添加剤を添加する。

[第2剤の調製法] 第2剤は、市販されている架橋剤を使用してよく、使用に際して、該架橋剤を超純水、PBS又はこれらの混合物等の水性溶媒に上述の範囲となる量で溶解して、pHを3〜8、好ましくは4〜6とする。

好ましくは、第1剤水溶液と第2剤水溶液の混合液のpHが8〜9となるように、各溶液のpHを調製する。例えば、第1剤水溶液をpH9、イオン強度0.05〜0.1のホウ酸緩衝溶液とし、第2剤水溶液をpH4、イオン強度0.01〜0.03のリン酸緩衝溶液とすることで、同体積で混合した際に8〜9のpHとすることができる。又は、第1剤水溶液をpH10、イオン強度0.05〜0.1のホウ酸緩衝溶液として、第2剤水溶液をpH4、イオン強度0.01〜0.07のリン酸緩衝溶液としてもよい。

<組織への適用方法> 本発明の外科用シーラントは、皮膚、血管、、神経、及びリンパ管等の管状組織、肝臓、膵臓、及び心臓などの臓器の断裂部分に適用することができる。なかでも、湿潤組織、例えば、血管、等に好適に適用される。適用方法としては、第1剤と第2剤を組織に施与する直前に混合して組織へと施与し、又は、種々の二成分型ディスペンサを用いて同時に施与してよい。

図3は、二成分型ディスペンサを用いて、外科用シーラントを適用する方法の一例を示す概略図である。図5(a)に示すように、患部31cを有する組織31に、図5(b)に示すように、第1剤水溶液51と第2剤水溶液52を貯蔵したダブルシリンジ注射器50から、両溶液51、52を同時に押し出して、ダブルシリンジ注射器50内で混合してから、筒部50aから混合溶液53を、組織31に施与する。図5(c)に示すように、両溶液を押し出した後、10分程度放置することにより、所望の厚さのゲル膜41を形成することができる。ディスペンサに代えて、ダブルシリンジを備えるエアーアシストのスプレーで噴霧しても良い。

以下、本発明を実施例により説明する。しかし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。 <ゼラチン調製及び外科用シーラント調製> (参考例1) 非特許文献1に記載された、ジメチルスルホキシド中におけるアミノ基のコレステリルクロロホルミエートへの求核置換反応を用いた方法により、タラ由来ゼラチン(Mw=10万)の側鎖のアミノ基のうちの8.3mol%を疎水性基(コレステリル基:Cholと略記する。)で置換した疎水化冷水魚由来ゼラチンである8.3Chol−cGltnを合成した。

次に、pH8.0のPBSに40wt%で8.3Chol−cGltnを溶解して、第1剤水溶液を調製した。別途、pH8.0のPBSに水溶性架橋剤4S−PEGを溶解して、第2剤水溶液を調製した。4S−PEGの濃度は、第1剤水溶液と第2剤水溶液を等体積で混合した時に8.3Chol−Gltnの反応性アミノ基と4S−PEG中活性エステル基の当量比が1:1となるようにした。これは、以下においても同様である。

(実施例1) タラ由来ゼラチンの側鎖のアミノ基の9.6mol%を疎水性基(ステアロイル基:Steと略記する。)で置換して9.6Ste−cGltnを合成したことを除き、参考例1と同様にして外科用シーラントを調製した。

(参考例2) タラ由来ゼラチンの側鎖のアミノ基の1.9mol%を疎水性基(Chol)で置換して1.9Chol−cGltnを合成したことを除き、参考例1と同様にして外科用シーラントを調製した。

(参考例3) タラ由来ゼラチンの側鎖のアミノ基の12.2mol%を疎水性基(Chol)で置換して12.2Chol−cGltnを合成したことを除き、参考例1と同様にして外科用シーラントを調製した。

(参考例4) タラ由来ゼラチンの側鎖のアミノ基の3.2mol%を疎水性基(プロパノイル基:Proと略記する。)で置換して3.2Pro−cGltnを合成したことを除き、参考例1と同様にして外科用シーラントを調製した。

(参考例5) タラ由来ゼラチンの側鎖のアミノ基の6.4mol%を疎水性基(Pro)で置換して6.4Pro−cGltnを合成したことを除き、参考例1と同様にして外科用シーラントを調製した。

(参考例6) タラ由来ゼラチンの側鎖のアミノ基の13.7mol%を疎水性基(Pro)で置換して13.7Pro−cGltnを合成したことを除き、参考例1と同様にして外科用シーラントを調製した。

(参考例7) タラ由来ゼラチンの側鎖のアミノ基の2.1mol%を疎水性基(ヘキサノイル基:Hxと略記する。)で置換して2.1Hx−cGltnを合成したことを除き、参考例1と同様にして外科用シーラントを調製した。

(参考例8) タラ由来ゼラチンの側鎖のアミノ基の8.5mol%を疎水性基(Hx)で置換して8.5Hx−cGltnを合成したことを除き、参考例1と同様にして外科用シーラントを調製した。

(参考例9) タラ由来ゼラチンの側鎖のアミノ基の18.3mol%を疎水性基(Hx)で置換して18.3Hx−cGltnを合成したことを除き、参考例1と同様にして外科用シーラントを調製した。

(実施例2) タラ由来ゼラチンの側鎖のアミノ基の3.8mol%を疎水性基(ラウロイル基:Lauと略記する。ドデカノイル基ともいう。)で置換して3.8Lau−cGltnを合成したことを除き、参考例1と同様にして外科用シーラントを調製した。

(実施例3) タラ由来ゼラチンの側鎖のアミノ基の9.0mol%を疎水性基(Lau)で置換して9.0Lau−cGltnを合成したことを除き、参考例1と同様にして外科用シーラントを調製した。

(実施例4) タラ由来ゼラチンの側鎖のアミノ基の19.0mol%を疎水性基(Lau)で置換して19.0Lau−cGltnを合成したことを除き、参考例1と同様にして外科用シーラントを調製した。

(実施例5) タラ由来ゼラチンの側鎖のアミノ基の4.0mol%を疎水性基(Ste)で置換して4.0Ste−cGltnを合成したことを除き、参考例1と同様にして外科用シーラントを調製した。

(実施例6) タラ由来ゼラチンの側鎖のアミノ基の18.7mol%を疎水性基(Ste)で置換して18.7Ste−cGltnを合成したことを除き、参考例1と同様にして外科用シーラントを調製した。

(比較例1) 疎水化ゼラチンに代えて、原料タラゼラチン(Org−cGltnと略記する。)を用いたことを除き、参考例1と同様にして比較用の外科用シーラントを調製した。

(比較例2) フィブリンシーラントとしてボルヒール(商品名)を用いた。

表1に、以上の外科用シーラントの内容を示す。

<ゲル調製> (参考例1−G〜比較例2−G) 参考例1の8.3Chol−cGltn水溶液150μlと第2剤水溶液150μlを混合して、型に入れ、37℃条件下で5分間静置した。これにより、直径4.0mm、厚さ1.0mmの8.3Chol−cGltnと4S−PEGからなるディスクゲル(「参考例1−G」と表す。以下、同様。)を調製した。なお、混合の際、透明な混合溶液に所定量のブリリアントブルー色素を混入して、着色して、ゲルの大きさを明確に認識できるようにした。以下、同様にして表2に示す各ディスクゲルを調製した。

<周波数依存動的粘弾性測定:貯蔵弾性係数および膜強度測定> 次に、MCR301 粘弾性計を用いて、0.1〜100(1/s)の角周波数領域でひずみ5%の測定条件で、各ディスクゲルの貯蔵弾性係数(Storage modulus)を測定した。また、角周波数1.0(1/s)の貯蔵弾性係数を圧縮弾性係数(Compressive modulus)とし、表2に示した。図4〜8に各ディスクゲルの角周波数依存性を示すグラフ(a)および圧縮弾性係数を示す棒グラフ(b)示した。いずれのグラフにおいても、比較のために、原料ゼラチン(比較例1−G)及びフィブリンシーラント(比較例2−G)のデータも示した。

図4(a)〜8(a)に示すように、測定周波数領域では、いずれの材料も安定した貯蔵弾性係数挙動を示した。また、いずれの参考例、実施例のディスクゲルもフィブリンシーラント(比較例2‐G)と比べて貯蔵弾性係数が高かった。中でも、実施例2〜4(図7(a))、実施例1、5、6(図8(a))は、比較例1−Gに比べても貯蔵弾性係数が高かった。

図4(b)〜8(b)に示すように、いずれの参考例、実施例のディスクゲルもフィブリンシーラント(比較例2‐G)と比べて圧縮弾性係数が高く、とりわけ実施例1〜6(図7(b)及び図8(b))は、原料ゼラチンよりも圧縮弾性係数が高いことが分かった。図9は、置換基ごとに置換率と圧縮弾性係数の関係を示す図である。同図から分かるように、炭素数12(Lau)及び炭素数18(Ste)の疎水性基は、置換率4〜19モル%程度までの広い範囲で、圧縮弾性係数が高く、これらの置換基を有するゼラチンの接着力も合わせて考慮すると、優れた封止力が達成できることが分かった。

<ゲル化時間測定> (参考例1−T) 参考例1の8.3Chol−cGltn水溶液である第1剤水溶液150μlと第2剤水溶液150μlを混合して、直径16mmのガラスチューブ内に入れた。次に、ガラスチューブ内にマグネットを入れ、マグネットスターラ—を用いて、37℃、280rpm条件で撹拌したところ、徐々にゲル化が進み、マグネットの回転がゆっくりとなり、最終的にマグネットが停止するまでの時間をゲル化時間とした。同様の測定を参考例5、参考例8、実施例3、実施例5、比較例1について行った。結果を表3に示す。

表3に示すように、疎水性基で置換したゼラチンはすべて、疎水性基の無いゼラチン(Org)に比べて、ゲル化時間が速かった。

<耐圧強度測定用サンプル作製> (実施例1‐R) ラット摘出肺のエアーリークモデルの作製は、非特許文献5に記載の方法を参考に行った。ラット肺は膨らんだ状態と萎んだ状態に大きな差があるため、まず、ラット摘出肺の気管部に空気導入管を接続し、紐により閉塞してから、ラット摘出肺の内部に空気を導入して、ラット摘出肺を膨らませた。

肺を膨らませた状態で、ラット摘出肺の表面に対して20ゲージの注射針(20G針)を深さ約2mm刺して、欠損部を形成し、欠損モデルを作製した。そして、ラット摘出肺の内部の空気圧と外気圧を平衡状態として5分間安定させた。次いで、リング中心部に前記欠損部が位置するように、ラット摘出肺の表面に厚さ0.5mm、内径7.0mm、外径20.0mmのシリコーンリングを配置した。

次に、実施例1の外科用シーラント(9.6Ste−cGltnの水溶液と4S−PEG水溶液からなる)をシリコーンリング内の肺表面に円形状に塗布し、5分間硬化させて、欠損部を封止した後、シリコーンリングをはずして、耐圧強度測定用サンプル(実施例1−R)とした。

<耐圧強度測定> 得られた耐圧強度測定用サンプルを、37℃生理食塩水中に浸漬し、1mL/secで肺へ空気を送入した。シーラントに亀裂が発生し、水中で泡の発生が見られたときの空気圧力(Air leak pressure)を耐圧強度とした。同様にして、参考例1(8.3Chol−cGltn)、比較例1及び2について耐圧強度を測定した。結果を表4に示す。

上表から分かるように、実施例1(9.6Ste−cGltn)は、参考例1(8.3Chol−cGltn)、比較例1(Org)、比較例2(フィブリン)のいずれに比べても耐圧強度が高く、優れた封止力があることが分かった。

<浸漬したディスクゲルの含水率算出> 参考例1−G(8.3Chol−cGltn)、実施例1−G(9.6Ste−cGltn)、比較例1−G(Org−cGltn)の各ディスクゲルを、上述の方法で作製し、直ちに37℃の生理食塩水に浸漬した。浸漬開示時から1、3、5、10、15、30、60、120、240分間経過時で、ディスクゲルの質量(所定時間浸漬後質量:Wt)を測定した。測定後、ゲル内部のナトリウムイオンを取り除くため、ディスクゲルを37℃の2mlのMilli Q水中に24時間浸漬してから、48時間凍結乾燥して、ディスクゲルの質量(乾燥後質量:Wd)を測定した。

得られたWt、Wdの値から(1)式より、ゲル中に含まれる含水率%(Water content)を算出した。結果を表5に示す。 Water content=(Wt−Wd)×100…(1)

図10は、各ディスクゲルの含水率(算出値)の経時変化を示すグラフであって、(a)はOrg−cGltn(比較例1−G)であり、(b)は8.3Chol−cGltn(参考例1−G)であり、(c)は9.6Ste−cGltn(実施例1−G)である。 図10より、いずれのディスクゲルにおいても、約80%であった初期含水率は、30分後には約90%に変化し、ほぼ平衡状態に達した。ここから、作製直後のディスクゲルを浸漬したときに含水率の変化が生じるものの、大きな変化はないことが確認された。

<浸漬したディスクゲルの膨潤変化> 上記実験において、浸漬開始時から0、10、30、60、120、240分間経過時で、各ディスクゲルの膨潤変化を写真撮影した。図11は、各ディスクゲルの膨潤変化を示す写真である。図11に示すように、Org−cGltn(比較例1‐G)のディスクゲルの大きさは、浸漬後10分の時点で、直径が僅かに増加した。その後、大きな変化がなかった。また、8.3Chol−cGltn(参考例1−G)、9.6Ste−cGltn(実施例1−G)のディスクゲルでは、30分後に直径が僅かに増加した。その後、大きな変化がなかった。これは疎水性基の効果によるものと考えられる。

なお、ゲルは膨潤すると、一般にゲル内部の高分子密度が減少し、膜強度が低下しゲル破壊および組織からの剥離を引き起こす可能性がある。外科用シーラントは湿潤環境で用いられるので、同環境で用いられても、膨潤しにくいことが求められる。8.3Chol−cGltn(参考例1‐G)、9.6Ste−cGltn(実施例1‐G)のディスクゲルでは、浸漬後30分以降は膨潤の変化は少なかった。これらの結果から、本発明の外科用シーラントは、体内の湿潤環境でも十分な封止力を、長期間備えることが分かった。

本発明の外科用シーラントは高い封止力を示し、血管吻合手術等に大変有用である。

31…組織、31a…一面、31c…穴、41…ゲル膜、50…ダブルシリンジ注射器、50a…筒部、51…第1剤水溶液、52…第2剤水溶液、53…混合溶液。

QQ群二维码
意见反馈