【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、磁気の反発力を利用してフロア上にベッド本体を浮上させるように構成されたに車両用磁気浮上式防振ベッドの上下位置固定装置に関するものである。 【0002】 【従来の技術】従来、図5に示すような防振ベッドが知られている。 この防振ベッドBは、フロアF上に支持軸回りに回動自在に設けられた前後方向一対の支持ロッドRと、これら支持ロッドRの先端部に支持軸によって軸支されたベッド本体B1とから基本構成されている。 そして、上記前後一対の支持ロッドRと、ベッド本体B1 と、フロアFとで平行四辺形のリンク構造が形成され、 ベッド本体B1はこのリンク構造に規制された状態で上下動可能になっている。 【0003】このようなベッド本体B1の底面部とフロアFとに、互いに同極を対向させた磁石Mが設けられ、 この磁石Mの反発力とベッド本体B1の重量とがバランスした状態でベッド本体B1はフロアF上に磁気浮上している。 このような防振ベッドBを例えば救急自動車に備付け、患者を乗せたストレッチャSをベッド本体B1 上に載置すると、ベッド本体B1上にはそれらの重量も加算され、上記磁石Mの反発力に抗してベッド本体B1 が下降し、磁石Mの反発力と上記加算された重量とが釣り合った状態になる。 この状態で磁石Mの反発力に起因した弾性力により車体の振動が吸収されるため、車体の振動はベッド本体B1に直接伝わらないようになっている。 【0004】従って、防振ベッドBを介してストレッチャS上に横臥している患者には走行中の車両の振動は直接伝わらないため横臥状態は安定する。 このような磁力浮上式の防振構造は、振動吸収効率がバネ方式のものに比べて優れており、かつ構造も簡単であるため、今後多くの防振構造が磁力浮上方式に取って代わられる状況にある。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】ところで、救急自動車に救急患者を乗せたときには、ストレッチャS上の救急患者に心臓マッサージ等の救急処置を施さなければならないことが多いが、救急自動車に上記のような磁気浮上式の防振ベッドBが用いられている場合、上記マッサージのために救急患者の胸部押圧を繰り返すと、ベッド本体B1が上下方向に激しく振動するため、確実な心臓マッサージができなくなるという問題点を有していた。 【0006】また、ベッド本体B1上にストレッチャS を乗せたり、ベッド本体B1上からストレッチャSを降ろしたりする乗降操作時に、ベッド本体B1が上下動するため、ストレッチャSのベッド本体B1に対する乗降操作をスムーズに行うことができないという問題点を有していた。 【0007】本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、必要に応じ任意の高さ位置でベッドが上下動しないように固定することができる車両用磁気浮上式防振ベッドの上下位置固定装置を提供することを目的としている。 【0008】 【課題を解決するための手段】本発明の請求項1記載の車両用磁気浮上式防振ベッドの上下位置固定装置は、ベッド本体が車両のフロア上に磁気の反発力で浮上するように構成された車両用磁気浮上式防振ベッドの上下位置固定装置であって、ベッド本体の車幅方向の側部から上部対向板が垂下され、この上部対向板に対向するようにフロアから下部対向板が立設され、上記上部対向板および下部対向板は、浮上しているベッド本体の移動範囲内でそれらの対向状態が解除されないように寸法設定され、上部対向板と下部対向板との間の相対移動状態のロックおよびロック解除を行うロック手段が設けられていることを特徴とするものである。 【0009】本発明の請求項2記載の車両用磁気浮上式防振ベッドの上下位置固定装置は、請求項1記載の車両用磁気浮上式防振ベッドの上下位置固定装置において、 上記ロック手段としてクランプ治具が用いられていることを特徴とするものである。 【0010】 【作用】上記請求項1記載の車両用磁気浮上式防振ベッドの上下位置固定装置によれば、ベッド本体から垂下された上部対向板およびフロアに立設された下部対向板は、浮上しているベッド本体の移動範囲内でそれらの対向状態が維持されるため、これら対向板の積層部分を対象とし、ロック手段を操作して上部対向板と下部対向板との間の相対移動状態をロックすることによって、所望の高さ位置でベッド本体は上下動しないように固定される。 【0011】上記請求項2記載の車両用磁気浮上式防振ベッドの上下位置固定装置によれば、ロック手段としてクランプ治具が用いられているため、このクランプ治具で上部対向板と下部対向板との積層部分を押圧挟持しこの挟持状態を係止する係止操作を行うことによりベッド本体の上下動が阻止される。 【0012】 【実施例】図1は、本発明に係る上下位置固定装置が適用された防振ベッドの一例を示す斜視図である。 まずこの図に基づき防振ベッド1について説明する。 防振ベッド1は、車両のフロアFに車長方向に平行に配設されたL型フレーム2と、このL型フレーム2の上部に所定の間隔を置いて設けられたベッド本体3と、このベッド本体3と上記L型フレーム2との間に介在された車幅方向一対のリンクロッド4と、ベッド本体をフロアF上に浮上させる磁気浮上機構5とから基本構成されている。 【0013】上記L型フレーム2は、フロアF上に立設された垂直部21と、この垂直部21に連設された水平部22とから構成され、この水平部22は溶接等によって密着状態でフロアFに固定されている。 【0014】上記ベッド本体3は、金属製の平板のプレス加工により下部に開口を有する直方体状に加工され、 車幅方向両側部に側板31が形成されているとともに、 上面部に車長方向に延びる案内凹部32が凹設され、この案内凹部32によって、ベッド本体3上のストレッチャSの車輪S1が案内されるようになっている。 【0015】上記リンクロッド4は、L型フレーム2の垂直部21とベッド本体3の側板31との間に架橋された車長方向一対の前方リンク腕41と後方リンク腕42 とから構成されている。 上記前方リンク腕41は、L型フレーム2前方(図1の左方)の垂直部21に設けられた車幅方向に延びるリンク軸41aと、ベッド本体3の側板31上であって上記リンク軸41aの位置よりも後方に設けられた車幅方向に延びるリンク軸41bとによって軸支され、それら両リンク軸41a,41b回りに回転可能になっている。 【0016】また、上記後方リンク腕42は、L型フレーム2後方の垂直部21に設けられた車幅方向に延びるリンク軸42aと、ベッド本体3の側板31上であって上記リンク軸42aの位置よりも後方に設けられた車幅方向に延びるリンク軸42bとによって軸支され、それら両リンク軸42a,42b回りに回転可能になっている。 【0017】そして、上記前方リンク腕41の有効長(リンク軸間の距離)と後方リンク腕42の有効長とは同じ長さに寸法設定され、かつ、互いに平行に配設されている。 従って、両リンク腕41,42と、リンク軸4 1a,42a間のL型フレーム2の垂直部21と、リンク軸41b,42b間のベッド本体3の側板31とで平行四辺形のリンク機構が形成されている。 【0018】一方、上記磁気浮上機構5は、ベッド本体3の底面部に設けられた上部磁石収容箱52と、一対のL型フレーム2間に設けられた下部磁石収容箱51と、 上記上部磁石収容箱52内に収容固定された上部永久磁石52aと、上記下部磁石収容箱51内に収容固定された下部永久磁石51aとから構成されている。 上記上部磁石収容箱52は下面部に開口を有しているとともに、 下部磁石収容箱51は上面部に開口を有しており、それらの開口は互いに対向するように位置設定されている。 また、上記各磁石収容箱51,52に収容された下部永久磁石51aと上部永久磁石52aとは互いに同極が対向され、それらの反発力によってベッド本体3はフロアF上に浮上した状態になっている。 【0019】従って、車両に上下方向の振動が発生してフロアFが上下動すると、この上下動は磁気浮上機構5 の下部永久磁石51aと上部永久磁石52aとの間に働く磁気の反発力を介してベッド本体3に伝えられるが、 上記磁気の反発力は弾性部材としての機能を有しているとともに、ベッド本体3は慣性によって現位置を維持しようとするため、フロアFはベッド本体3に対しリンクロッド4を介して上下動する状態になり、その結果フロアFの振動がベッド本体3に直接伝えられることが回避され防振される。 【0020】そして、本発明においては、上記のような防振ベッド1の車幅方向両側部の中央部に、ベッド本体3のフロアFに対する上下動を阻止する上下位置固定装置6が設けられている。 本実施例においては、上記上下位置固定装置6は、平板状の下部対向板61と、平板状の上部対向板62と、これら両対向板61,62の積層部分を押圧挟持可能に設けられたクランプ治具(ロック手段)63とから構成されている。 【0021】上記下部対向板61は、L型フレーム2の車長方向中央部に立設されているとともに、上記上部対向板62は、ベッド本体3の側板31の車長方向中央部から垂下され、かつ、それらの表面は互いに対向するように積層されている。 【0022】また、下部対向板61および上部対向板6 2の車長方向の幅寸法は、ベッド本体3がリンクロッド4に規制されて車長方向に移動しても、両者の積層状態が解消されないように設定されている。 【0023】図2は、図1に示す上下位置固定装置の拡大斜視図である。 この図に示すように、上記クランプ治具63は、第1挟持部材64と、この第1挟持部材64 に接続された第2挟持部材65と、この第2挟持部材6 5に接続された挟持操作部材67と、上記第1挟持部材64の基端部(図2の左方)と挟持操作部材67の中央部とを結んだ架橋片66とから構成されている。 【0024】上記第1挟持部材64の先端部(図2の右方)には偏平な挟持面を有する第1挟持部64aが備えられている。 また、上記第2挟持部材65は平面視がL 字形状を呈しており、その先端部に上記第1挟持部64 aに対向した偏平な挟持面を有する第2挟持部65aが設けられているとともに、その基端部は第1挟持部材6 4の長手方向の略中央部に設けられた垂直軸65b回りに回動自在に軸支されている。 【0025】そして、本実施例においては、第1挟持部64aの挟持面が上部対向板62の表面に溶接等によって固定されているとともに、上記第2挟持部65aは下部対向板61の表面に対向するように配設されている。 【0026】上記挟持操作部材67は、平面視がV字形状を呈し、その先端部が第2挟持部材65のL字形状の曲折部分に垂直軸65c回りに回動自在に軸支されている。 また、上記架橋片66の基端部は、第1挟持部材6 4の基端部に設けられた垂直軸66a回りに回動自在に軸支されているとともに、同先端部は挟持操作部材67 のV字形状の曲折部分に設けられた垂直軸66b回りに回動自在に軸支されている。 【0027】また、上記挟持操作部材67の基端部には前方(図2の左方)に向かって操作ロッド67aが延設されているとともに、この操作ロッド67aの先端には把手67bが設けられ、この把手67bを把持してクランプ治具63を操作するようになっている。 【0028】そして、本実施例においては、図4に示すように、第1挟持部材64の第1挟持部64aと、第2 挟持部材65の第2挟持部65aとで積層状態の下部対向板61と上部対向板62とを押圧挟持した状態で、架橋片66の右方に設けられた垂直軸66bは、第1挟持部材64側の垂直軸66aの中心と、第2挟持部材65 側の垂直軸65cの中心とを結ぶ直線(一点鎖線で表示)よりも内側(図4の紙面の下側)に位置するように配置設定されている。 【0029】以下、図3および図4を基に本発明の作用について説明する。 図3および図4は、上下位置固定装置の作用を説明するための平面視の説明図であり、図3 は、挟持部が開放している状態、図4は、積層状態の対向板が挟持部によって押圧挟持されている状態を示している。 【0030】まず、図3に示すように、第1挟持部64 aと第2挟持部65aとが積層された対向板61,62 を押圧挟持していない状態では、把手67bが対向板6 1,62よりも紙面の上方に位置し、かつ、第2挟持部65aの挟持面が上部対向板62の表面から離間した状態になっている。 従って、第1挟持部64aと第2挟持部65aとによって挟持板61,62は押圧挟持されておらず、下部対向板61と上部対向板62とは対向しながら自由に相対移動することができるため、図1に示すベッド本体3はフロアFに対して自在に上下動することができるようになっている。 【0031】つぎに、図3に示す状態から、把手67b を操作して操作ロッド67aを垂直軸65c回りに反時計方向に回動させると、挟持操作部材67に設けられている垂直軸66bは垂直軸66a回りに時計方向に回動するため、この回動によって挟持操作部材67の右方先端に設けられている垂直軸65cが垂直軸65b回りに時計方向に回動して第2挟持部材65を押圧し、その結果第2挟持部材65は垂直軸65b回りに時計方向に回動し、図4に示すように、第2挟持部65aとの第1挟持部64aとで積層状態の対向板61,62を押圧挟持した状態になる。 【0032】そして、第2挟持部65aと第1挟持部6 4aとで対向板61,62を押圧挟持した状態では、挟持操作部材67の中央部分に設けられた垂直軸66b は、垂直軸66aおよび垂直軸65cの各中心を結ぶ直線(一点鎖線)の内側に位置しているため、第2挟持部65aに上部対向板62から離間する方向の力が加わったとしても、その力は垂直軸66a、垂直軸66bおよび垂直軸65cの中心を頂点とする三角形の底辺、すなわち一点鎖線上の垂直軸66aと垂直軸65cとの間の距離を縮めるように作用する。 【0033】しかしながら、この距離が縮るためには各軸の相互に関連した位置設定によって垂直軸65cと垂直軸65bとの間の距離が縮まらなければならないが、 第2挟持部材65は剛体であるためそのようなことは起こらず、結局第2挟持部65aと第1挟持部64aとによる対向板61,62の押圧挟持状態は解消されない。 従って、両対向板61,62間の相対移動は阻止され、 ベッド本体3の上下位置はロックされた状態になる。 【0034】そして、上記下部対向板61と上部対向板62との間の相対移動がロックされると、図1に示すベッド本体3のフロアFに対する上下動が阻止された状態になるため、ベッド本体3に載置されたストレッチャS 上に横臥している救急患者の胸部の押圧を繰り返す心臓マッサージ等の応急処置を施しても、上記押圧によってベッド本体3が下降することはなく、その結果、救急患者に確実に応急処置を施すことが可能になる。 【0035】また、ベッド本体3に対してストレッチャSの乗降操作を行うに際し、上記把手67bを操作して上下位置固定装置6を下部対向板61と上部対向板62 との間の相対移動を予めロックしておけば、ストレッチャSの移動中にベッド本体3の昇降が起こらないため、 迅速かつ確実なストレッチャSの乗降操作が実現する。 【0036】逆に図4に示すロック状態を解除するには、把手67bを磁気浮上機構5(図1参照)の方向に押圧して挟持操作部材67を垂直軸65c回りに時計方向に回動させればよい。 そうすれば、垂直軸66bは、 垂直軸66aの軸心と垂直軸65cの軸心とを結ぶ直線から外方(紙面の上方)に外れ、かつ、軸66a,66 b,65c,65bの軸心を回転中心とした四辺形リンク構造の作用によって第2挟持部材65が垂直軸65b 回りに反時計方向に回動し、図3に示すように第1挟持部64aおよび第2挟持部65aによる下部ストッパ6 1および上部ストッパ62の押圧挟持状態が解除される。 【0037】そして、本発明においては、下部対向板6 1と上部対向板62との間の積層寸法を無段階に変化させることが可能であるため、ベッド本体3のフロアFに対する上下方向の移動の許容範囲内であれば、ベッド本体3の高さ位置を任意に設定してベッド本体3の上下方向の位置固定を行うことが可能であり、従って、救急患者の体重に応じてベッド本体3が下降した高さ位置、すなわち磁石の反発力とベッド本体3の重量とがバランスした高さ位置でベッド本体3の位置固定を行うことにより、バランスしていない場合の磁石の反発力等の影響がなくなり、より確実な位置固定状態を得ることが可能になる。 【0038】 【発明の効果】本発明の請求項1記載の車両用磁気浮上式防振ベッドの上下位置固定装置によれば、ベッド本体から垂下された上部対向板およびフロアに立設された下部対向板は、浮上しているベッド本体の移動範囲内でそれらの対向状態が解除されないように寸法設定され、その結果上記両対向板の積層部分が必ず存在するため、ベッド本体を上部から押圧してその許容範囲内の任意の高さ位置を設定し、上記積層部分を対象としてロック手段を操作することにより上部対向板と下部対向板との間の相対移動状態をロックすれば、上記設定された高さ位置でベッド本体が上下動しないように固定される。 【0039】このように、許容範囲内の任意の高さ位置でベッド本体が上下動しないように固定することができるため、必要に応じてベッド本体の上下動を固定し、ベッド本体上での救急患者の心臓マッサージ等の救急処置を確実に施すことが可能になるとともに、上記固定によってストレッチャのベッド本体に対する乗降操作を容易にかつ迅速に行うことができ、救急活動を行う上で好都合である。 【0040】本発明の請求項2記載の車両用磁気浮上式防振ベッドの上下位置固定装置によれば、ロック手段としてクランプ治具が用いられているため、このクランプ治具で上部対向板と下部対向板との積層部分を押圧挟持しこの挟持状態を係止する係止操作を行うことによりベッド本体の上下動が阻止される。 【0041】そして、クランプ治具は構造が簡単で、かつ、操作が容易でありながら確実に両対向板の積層部分を押圧挟持することが可能であり、製造コストが廉価である点および操作性が良好な点から有利である。 【図面の簡単な説明】 【図1】本発明に係る上下位置固定装置が適用された防振ベッドの一例を示す斜視図である。 【図2】図1に示す上下位置固定装置の拡大斜視図である。 【図3】図2に示すクランプ治具の作用を説明するための平面視の説明図であり、挟持部が開放している状態を示している。 【図4】図2に示すクランプ治具の作用を説明するための平面視の説明図であり、対向板が挟持部によって押圧挟持されている状態を示している。 【図5】上下位置固定装置が適用されていない従来の磁気浮上式防振ベッドを例示する説明図である。 【符号の説明】 1 防振ベッド 2 L型フレーム 21 垂直部 22 水平部 3 ベッド本体 31 側板 32 案内凹部 4 リンクロッド 41 前方リンク腕 42 後方リンク腕 41a,41b,42a,42b リンク軸 5 磁気浮上機構 51 下部永久磁石収容箱 51a 下部永久磁石 52 上部磁石収容箱 52a 上部永久磁石 6 上下位置固定装置 61 下部対向板 62 上部対向板 63 クランプ治具 64 第1挟持部材 64a 第1挟持部 65 第2挟持部材 65b 第2挟持部 65b,65c,66a,66b 垂直軸 66 架橋片 67 挟持操作部材 67a 操作ロッド 67b 把手 F フロア S ストレッチャ S1 車輪 |