Power unit

申请号 JP2006272858 申请日 2006-10-04 公开(公告)号 JP4697460B2 公开(公告)日 2011-06-08
申请人 三菱電機株式会社; 发明人 貴史 中川; 弘行 大須賀; 敏之 尾崎; 太一郎 民田; 郁朗 菅;
摘要
权利要求
  • アノード電極とガス流量調節器と磁場生成用コイルとを設けたイオン加速装置を制御する電源装置であって、
    前記アノード電極へ印加されるアノード電圧と前記ガス流量調節器を介して流されるガス流量とを制御し、前記磁場生成用コイルへ流されるコイル電流の制御によって前記イオン加速装置のイオン出力端での磁束密度を制御して前記イオン加速装置のイオン加速量を調整する制御装置を備え、
    前記制御装置は、前記イオン加速装置のイオン出力端の出口断面積と前記イオン加速装置のイオン加速領域長と前記イオン加速装置のイオン加速方向の磁束密度の平均値に対する前記イオン出力端での磁束密度の比率である磁束偏り率とに基づき、式(1)を満たすように前記アノード電圧と前記ガス流量と前記コイル電流に依存する前記イオン出力端での磁束密度とを制御することを特徴とする電源装置。
    ただし、
    S:イオン出力端の出口断面積[m
    d:イオン加速領域長[m]
    β:磁束偏り率β
    Va:アノード電圧[V]
    Q:ガス流量[sccm]
    B:イオン出力端での磁束密度[T]。
  • アノード電極とガス流量調節器と磁場生成用コイルとを設けたイオン加速装置を制御する電源装置であって、
    前記アノード電極へ印加されるアノード電圧と前記ガス流量調節器を介して流されるガス流量とを制御し、前記磁場生成用コイルへ流されるコイル電流の制御によって前記イオン加速装置のイオン出力端での磁束密度を制御して前記イオン加速装置のイオン加速量を調整する制御装置を備え、
    前記制御装置は、前記イオン加速装置のイオン加速領域長と前記イオン加速装置のイオン加速方向の磁束密度の平均値に対する前記イオン出力端での磁束密度の比率である磁束偏り率とに基づき、式(2)を満たすように前記アノード電圧と前記コイル電流に依存する前記イオン出力端での磁束密度とを制御することを特徴とする電源装置。
    ただし、
    d:イオン加速領域長[m]
    β:磁束偏り率β
    Va:アノード電圧[V]
    B:イオン出力端での磁束密度[T]。
  • 前記アノード電極へ流れるアノード電流の振動を検出する振動検出手段を備え、
    前記振動検出手段が前記アノード電流の振動の発生を検出した場合、前記制御装置は、前記コイル電流を小さくする制御を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の電源装置。
  • 说明书全文

    この発明は、イオン加速を行うための放電機器であるイオン加速装置に用いる電源装置であって、特に人工衛星などに搭載される電気推進装置であるホールスラスタの電源装置に関する。

    ホールスラスタは、環状の放電空間の一方からガスを導入し、放電空間内でガスをイオン化して加速し、放電空間の他方に出する。 このイオンの出力の反作用によってホールスラスタの推力が得られる。 環状の放電空間には径方向に磁束が形成されており、この磁束によるホール効果によって、電子は環状の放電空間の周方向にドリフトし、軸方向の動きが抑制される。 これによって、イオンのみを効率的に加速することができる(例えば特許文献1参照)。

    ホールスラスタを安定に動作させる上での問題の一つとして、放電振動現象の発生がある。 放電振動現象に関しては、いくつかの種類の振動現象がある。 この中で最も周波数の低いイオナイゼーション・オシレーション(Ionization Oscillation)と呼ばれる放電振動現象が発生する。 この放電振動現象は10kHz前後の周波数で、アノード電流の電流波形に振動が生じてしまい、ホールスラスタを搭載したシステムの安定性、信頼性および耐久性に重大な影響を及ぼす。 このため、この放電振動現象を抑制する制御方法が必要とされている(例えば非特許文献1参照)。 また、比較的簡単なモデルを用いて、ホールスラスタの放電振動現象の発生条件が定式化されている(例えば非特許文献2参照)。

    従来の電源装置は、アノード電流が変動し、負荷が不安定な挙動を示し始めた場合には、アノード電流信号を電源制御部へフィードバックして、アノード電流の変動を抑制することによって、放電振動現象を抑制している(例えば特許文献2参照)。

    栗木恭一、荒川義博著「電気推進ロケット入門」東京大学出版会出版、p. 152−154、2003年 N. Yamamoto、K. Komurasaki and Y. Arakawa、" Discharge Current Oscillation in Hall Thrusters "、Journal of Propulsion and Power、Vol. 21、NO. 5、p. 870−876、2005年

    特表2002−517661号公報(第17頁、第1図)

    特開2005−282403号公報(第3−4頁、第1図)

    従来の電源装置では、アノード電流が変動した場合には、アノード電流信号を電源制御部へフィードバックして、アノード電流の変動を抑制していた。 しかしながら、このようなアノード電流が変動を始めたことを検出するという方法では、放電振動現象の原理的な抑制を行っているわけではないので、本質的にホールスラスタの安定性を高めることは困難である。 また、放電振動現象は例えば10kHzなどの周波数で発生するものであり、電源制御部へのフィードバックによって振動を抑制しようとした場合には、かなり高速な制御系が必要となる。 制御系が高速な応答に対応できない場合には、安定な制御を行うことができないだけでなく、制御系との間に発振現象が生じてホールスラスタの不安定性を助長する可能性があるという問題点があった。 また、特定の動作条件で、電流の安定性とは別の効果に主眼をおいて、ホールスラスタの駆動条件の最適化を行った場合には、ホールスラスタを安定に制御できないという問題点があった。

    この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、高い推進効率が要求される場合などの特定の動作条件において、放電振動現象の発生を抑え、安定にイオン加速装置であるホールスラスタを動作させる電源装置を得るものである。

    この発明に係る電源装置は、アノード電極とガス流量調節器と磁場生成用コイルとを設けたイオン加速装置を制御する電源装置であって、アノード電極へ印加されるアノード電圧とガス流量調節器を介して流されるガス流量とを制御し、磁場生成用コイルへ流されるコイル電流の制御によってイオン加速装置のイオン出力端での磁束密度を制御してイオン加速装置のイオン加速量を調整する制御装置を備え、制御装置は、イオン加速装置のイオン出力端の出口断面積とイオン加速装置のイオン加速領域長とイオン加速装置のイオン加速方向の磁束密度の平均値に対するイオン出力端での磁束密度の比率である磁束偏り率とに基づく式を満たすようにアノード電圧とガス流量とコイル電流に依存するイオン出力端での磁束密度とを制御するものである。

    また、この発明に係る電源装置は、アノード電極とガス流量調節器と磁場生成用コイルとを設けたイオン加速装置を制御する電源装置であって、アノード電極へ印加されるアノード電圧とガス流量調節器を介して流されるガス流量とを制御し、磁場生成用コイルへ流されるコイル電流の制御によってイオン加速装置のイオン出力端での磁束密度を制御してイオン加速装置のイオン加速量を調整する制御装置を備え、制御装置は、イオン加速装置のイオン加速領域長とイオン加速装置のイオン加速方向の磁束密度の平均値に対するイオン出力端での磁束密度の比率である磁束偏り率とに基づく式を満たすようにアノード電圧とコイル電流に依存するイオン出力端での磁束密度とを制御するものである。

    この発明に係る電源装置は、アノード電圧とガス流量とコイル電流とに関係付けられた関数に従ってアノード電圧とガス流量とコイル電流とを制御するので、放電振動現象の発生を抑え、安定にイオン加速装置であるホールスラスタを動作させる電源装置を得ることができる。

    また、この発明に係る電源装置は、アノード電圧とコイル電流とに関係付けられた関数に従ってアノード電圧とコイル電流とを制御するので、放電振動現象の発生を抑え、安定にイオン加速装置であるホールスラスタを動作させる電源装置を得ることができる。

    実施の形態1.
    図1は、この発明を実施するための実施の形態1における電源装置の構成図である。 図1において、電源装置1は、イオン加速装置であるホールスラスタ11およびホールスラスタ11へ電子を供給するホローカソード21を制御するものである。 図1では、環状の装置であるホールスラスタ11の中心軸を通り、中心軸に平行な面でのホールスラスタ11の断面図を示している。 ホールスラスタ11は、アノード電極12、磁場生成用コイルである内部コイル13と外部コイル14、ガス流量調節器15および円環状のイオン加速領域18を形成する内側リング16と外側リング17によって構成されている。 図2は、図1に示した直線A−Aでの断面図(ホールスラスタ11の軸方向に垂直な面での断面図)である。 アノード電極12、外部コイル14、内側リング16および外側リング17は円環状の形状である。

    イオン加速領域18の底面側(図1では下側)からイオン化するガスが導入される。 導入されるガスは、イオン加速領域18においてガス放電を生じさせるためのものである。 また、底面側にアノード電極12が設けられている。 アノード電極12に印加されるアノード電圧によって、ガス粒子はホールスラスタ11の軸方向に加速され、開放となっているイオン加速領域18の底面の反対側(図1では上側)であるイオン出力端側に加速されて出力される。 イオン加速領域18の内部および外部には、ホールスラスタ11の半径方向に磁場を形成するための内部コイル13および外部コイル14が設けられている。 内部コイル13および外部コイル14は、アノード電極12側では磁性体材料によってつながっており、磁気回路を形成している。 イオン出力端側には、磁束密度を調整するためのポールピース19が設けられている。 通常、各コイル13,14で発生する磁束は、イオン出力端の位置で最も強くなり、アノード電極12側で弱くなるように、ポールピース19が設計されている。

    ガス放電を生じさせるためには電子の供給が必要である。 また、加速して放出されたイオンによってホールスラスタ11を搭載した人工衛星本体が電気的に帯電することを防ぐために、電子源が必要である。 本実施の形態では、ホールスラスタ11のイオン出力端の近傍にホローカソード21が設けられており、ホローカソード21からホールスラスタ11へ電子が供給される。 このようなホールスラスタのシステムでは、ホールスラスタ11およびホローカソード21を駆動し、制御するための電源および制御システムが必要である。

    電源装置1は、ホールスラスタ11を制御するためのアノード電源2、コイル電源である内部コイル電源3と外部コイル電源4およびガス流量制御装置5ならびにホローカソード21を制御するためのヒータ電源6、キーパ電源7およびカソード用ガス流量制御装置8ならびにこれらを制御する制御装置9によって構成されている。 電源装置1は、アノード電極12と磁場生成用コイルである内部コイル13および外部コイル14とガス流量調節器15とを設けたイオン加速装置であるホールスラスタ11を制御する。 アノード電源2はアノード電極12へアノード電圧Vaを印加し、コイル電源である内部コイル電源3および外部コイル電源4は磁場生成用コイルである内部コイル13および外部コイル14へコイル電流Icを流し、ガス流量制御装置5はガス流量調節器15を介してガス流量Qを調整する。 制御装置9は、アノード電極12へ印加されるアノード電圧と磁場生成用コイルである内部コイル13および外部コイル14へ流されるコイル電流とガス流量調節器15を介して流されるガス流量とを制御してイオン加速装置であるホールスラスタ11のイオン加速量を調整し、少なくともアノード電圧とコイル電流とに関係付けられた関数に従ってアノード電圧とコイル電流とガス流量とを制御する。

    ガス流量制御装置5は、制御装置9からの指令に従ってホールスラスタ11のガス導入部におけるガス流量Qを制御する。 また、制御装置9からの指令に従って内部コイル電源3および外部コイル電源4は、内部コイル13および外部コイル14に流れるコイル電流Icを制御する。 内部コイル13および外部コイル14には、通常は一定の直流電流であるコイル電流Icを流し、このコイル電流Icによってイオン加速領域18内に一定の磁界が形成される。 内部コイル電源3および外部コイル電源4によって、内部コイル13に流れる電流および外部コイル14に流れる電流は、それぞれ独立して設定することができ、これによってイオン加速領域18内の磁束密度の微調整および磁界分布の微調整を行うことができる。 本実施の形態では、内部コイル13および外部コイル14に同じ電流値のコイル電流Icを流す。

    アノード電源2は、アノード電極12に印加するアノード電圧を制御する。 定常運転時には、一定値のアノード電圧Vaがアノード電極12へ印加される。 アノード電圧Vaによってイオンが加速され、ホールスラスタ11の推力が得られる。 通常、アノード電圧Vaは100〜400Vの範囲の中で設定される。 加速されたイオンによるイオン電流および放電空間内の電子の移動による電子電流は、回路上ではアノード電源2によって流されることになる。 このため、アノード電源2は、ホールスラスタ11の推力を得るためのエネルギを供給する部分であり、ホールスラスタ11のシステムでは最も容量の大きな電源である。

    電子源であるホローカソード21は、ホローカソード21にガスを供給するためのカソード用ガス流量制御装置8、ホローカソード21の陰極を過熱するためのヒータ電源6、およびホローカソード21からの電子の流れを安定に維持するためのキーパ電源7によって制御されている。

    ホールスラスタ11を駆動するための制御装置9は、ホールスラスタ11を搭載する人工衛星のシステム(図示せず)または地上からの指令(図示せず)によって制御されている。 本実施の形態では、制御装置9によって、少なくとも、アノード電源2、コイル電源3,4およびガス流量制御装置5が制御されている。

    ホールスラスタ11を駆動する際には、放電振動現象が発生する場合がある。 放電振動現象の発生要因は、ホールスラスタ11の装置構造、磁界分布、アノード電圧など様々であり、特定の条件下では発生しない。 ホールスラスタ11の稼動中に外部から制御できるパラメータは、アノード電圧Vaとガス流量Qとコイル電流Icとの3つである。 ホローカソード21の駆動条件は、放電振動現象にあまり依存しない。

    図3は、アノード電圧Vaとガス流量Qとコイル電流Icとの3つのパラメータに対するアノード電流の振動の強さの依存性について実験を行った結果の一例を模式的に示したものである。 アノード電流の振動の強さによって放電振動の強さがわかる。 図3において、横軸はコイル電流Ic、縦軸はアノード電流の振動の強さである。 図3(a)はガス流量Qが小さい場合のコイル電流Icとアノード電流の振動の強さとの関係、図3(b)はガス流量Qが大きい場合のコイル電流Icとアノード電流の振動の強さとの関係である。 図3からわかるように、アノード電流の振動の強さは、アノード電圧Vaとガス流量Qとコイル電流Icとのいずれにも依存していることがわかる。 このため、アノード電流の振動の強さは、これら3つのパラメータの関数として関連づけることができる。 つまり、放電振動の強さは、アノード電圧Vaとガス流量Qとコイル電流Icとの関数として関連づけることができる。

    このように、アノード電圧Vaとガス流量Qとコイル電流Icとがどのような値のときにアノード電流の振動が小さいかというデータベースを得ることができる。 したがって、イオン加速装置の出力であるイオン加速量に対応するアノード電流の振動を抑制するようなアノード電圧Vaとコイル電流Icとに関係付けられた関数を得ることができ、制御装置9によって、この関数に従ってアノード電圧Vaとガス流量Qとコイル電流Icとを制御することで、アノード電流の振動を抑制することができる。 いいかえれば、アノード電圧Vaとガス流量Qとコイル電流Icとを調節することで、アノード電流の振動を避けることができる。

    アノード電圧Vaおよびガス流量Qは、ホールスラスタ11の推力を決定する上で、非常に重要なパラメータであり、特定の推力でホールスラスタ11を運転する場合には、アノード電圧Vaおよびガス流量Qはあらかじめ設定されていることが多い。 これに対してコイル電流Icは、ある範囲内であれば自由に値を選ぶことができる。 また、ガス流量Qは設定した値に追従するために時間を要するものの、コイル電流Icは設定した値に比較的容易に追従する。 このため、アノード電圧Vaおよびガス流量Qが外部からの制御指令として入力され、アノード電圧Vaとガス流量Qとコイル電流Icとのそれぞれの値を調整する際には、これらの値の組合せとデータベースとを照らし合わせてコイル電流Icを設定することが適切である。

    放電振動現象が生じにくいアノード電圧Vaとガス流量Qとコイル電流Icとのパラメータの組合せについて説明する。 放電振動現象が生じにくいアノード電圧Vaとガス流量Qとコイル電流Icとの3つのパラメータの組合せのデータベースを得ることは、3つのパラメータの可変範囲全てにわたってアノード電流の振動の強さを測定する実験を行うことで可能となる。 このデータベースによって、放電振動現象が生じにくい3つのパラメータの組合せの条件を選んで、電源装置1によってホールスラスタ11を駆動させる。 また、アノード電圧Vaおよびガス流量Qが過渡的に変化する場合において、同時に変化させるコイル電流Icの設定値がわかる。 このデータベースを用いたホールスラスタ11の制御も原理的に可能である。

    しかしながら、このデータベースを得るためには、3つのパラメータの可変範囲全てにわたってアノード電流の振動の強さを測定する実験を行う必要がある。 また、3つのパラメータの可変範囲全てにわたってアノード電流の振動の強さのデータベースを取得しても、全てのアノード電圧Vaおよびガス流量Qの可変範囲内で、アノード電流の振動を抑制できるコイル電流Icの値が存在するのかどうか不明である。 そこで、物理的な原理に基づいたアノード電流の振動発生の条件の定式化と、この式に基づいた制御方法の確立とが必要である。

    振動の発生条件の定式化については、例えば非特許文献2の式22に、放電振動現象を抑制するための条件式として式(1)のように表される。

    ここで、kiはイオン化周波数、Nnは中性原子密度、Lはイオン化が生じている領域の軸方向の代表的な長さである。 図1で示したように、通常、ホールスラスタ11ではイオン出力端で磁束密度が最も大きくなるように設計されている。 この結果、イオン化が生じる領域は、イオン出力端付近となる。 Veaはイオン化が生じている領域のアノード電極12側の面での電子速度、Vexはイオン化が生じている領域のイオン出力端側の面での電子速度である。 ここでは左辺の電子の速度に着目する。 まず、電子の速度Veは、非特許文献2の式10に示されているように、電子の移動度μを用いて式(2)のように表される。

    ここで、μは電子の移動度、Eは電界強度、Dは拡散係数、Neは電子密度、kBはボルツマン定数、Teは電子温度、qeは電子の電荷量である。 拡散の効果を無視すると、右辺第一項の電界によるドリフトの項だけとなる。 ところで、移動度は、古典拡散を仮定した場合、式(3)のように表される。

    ここで、Bは磁束密度、ν(=kmNn)は電子の衝突の周波数、Nnはガス密度である。 次に、磁束密度Bがコイル電流Icに比例し、ガス密度Nnがガス流量Qに比例すると共に、イオン加速装置であるホールスラスタ11の出口であるイオン出力端の出口断面積Sに反比例すると仮定する。 出口断面積Sは、図2の内側リング16の外径と外側リング17の内径とに囲まれたリング状の領域の面積である。 ホールスラスタ11においては、電界強度Eは、磁束密度の強い部分で電界強度が強くなるため、電界強度は磁束密度の軸方向の分布に依存する。 ここで、磁束密度の軸方向はイオン加速装置のイオン加速方向、磁束密度の半径方向は磁束密度の軸方向に垂直な方向である。

    軸方向zに沿った磁束密度の半径方向成分の分布をB(z)、イオン出力端での磁束密度の半径方向成分をBとすると、図1で述べたように、B(z)の分布の中で、一般に、イオン出力端における磁束密度Bが最も大きくなり、従ってプラズマの発生も概ねこの付近で最も強くなるので、このBを代表的な磁束密度の値として考えてよい。 イオン加速方向である軸方向の磁束密度の平均値に対するイオン出力端での磁束密度の比率である磁束偏り率βを式(4)のように定義することができる。

    ここで、dはイオン加速装置であるホールスラスタ11のイオン加速領域18の長さであるイオン加速領域長dである。 イオン加速領域長dは、アノード電極12からイオン出力端までの距離であり、積分はアノード電極12(Anode)からイオン出力端(Exit)までの軸方向距離に対する積分を表している。 磁束偏り率β、イオン加速領域長dおよびイオン出力端の出口断面積Sはホールスラスタ11の形状および設計に依存するパラメータである。 陰極であるホローカソード21がイオン出力端に十分に近い位置に設置されていると仮定すると、磁束偏り率βを用いることで、イオン出力端での電界強度Exを式(5)のように近似的に表わすことができる。

    古典拡散の場合には、式(2)および式(5)から、電子の速度Ve_cは、式(6)のように表わすことができる。

    電子の速度がこの依存性を示すならば、式(1)の左辺も同様の依存性があるはずである。 つまり、振動の生じやすさが、式(6)の右辺のような形で整理できる。 そこで、式(6)で得られた関係式を用いて、(β×Va×Q)/(d×S×B )とアノード電流の振動の強さとの関係を調べた。

    図4は、この発明を実施するための実施の形態1におけるアノード電流の振動の強さを示すグラフである。 図4において、縦軸は測定によって得られたアノード電流の振動の強さ(電流の変動の大きさ)である。 横軸は(β×Va×Q)/(d×S×B )である。 また、図中にプロットした点は、さまざまなアノード電圧Va〔V〕とガス流量Q〔sccm〕とコイル電流Icに比例する磁束密度B〔T〕とを組合せた条件において、アノード電流の振動の強さを測定したものである。 ガス流量Qの単位sccmは、Standard Cubic Centimeter per Minutesの略語である。 アノード電流の振動の強さは、アノード電流の電流波形の変動の振幅によって求めることができる。 この実験において、ホールスラスタ11に流したガスはXeである。 場所によって磁束密度の値は異なる。 本実施の形態では、ホールスラスタ11のイオン出力端付近の磁束密度を磁束密度B〔T〕とした。 また、ホールスラスタ11のイオン出力端の出口断面積をS〔m 〕、イオン加速領域長をd〔m〕、磁束偏り率をβとした。

    図4より、古典拡散に基づいて規格化した式(6)から、(β×Va×Q)/(d×S×B )を横軸にして実験結果をプロットした場合には、全てのアノード電流の振動の強さのデータが、ほぼひとつの曲線上に集まっていることがわかる。 図4において、領域1((β×Va×Q)/(d×S×B )≦200×10 )は、非常に激しいアノード電流の振動が生じている領域である。 また、領域3(500×10 <(β×Va×Q)/(d×S×B ))でも、アノード電流の振動が少し大きい。 これに対して、領域2(200×10 <(β×Va×Q)/(d×S×B )≦500×10 )はアノード電流の振動が抑制され、安定に動作している領域である。

    しかしながら、ホールスラスタ11の推力となるイオンの加速量の指令値が大きい場合には、アノード電圧Vaおよびガス流量Qを大きくする必要があるため、領域2においてホールスラスタ11を運転すると、コイル電流Icを大きくして磁束密度Bも大きくする必要がある。 ホールスラスタ11の装置構成および電源はできるだけ小さく設計する必要があるので、ホールスラスタ11の出せる最大推力で運用されることが多いと推定される。 このため、領域2においてホールスラスタ11を運転する場合には、ホールスラスタ11の最大推力を得るために、磁束密度Bの値をかなり大きな値に設定する必要がある。

    磁束密度Bは内部コイル13および外部コイル14にコイル電流Icを流すことによって形成する。 磁束密度Bが低い領域では、磁束密度Bはコイル電流Icに比例するが、コイル電流Icを大きくすると、磁束密度Bが飽和してしまう。 磁束密度Bが飽和して最大となる飽和磁束密度は、各コイル13,14の構造や各コイル13,14のコアによって決定され、大きな飽和磁束密度を得るためには、より大きなコアが必要となり、ホールスラスタ11の装置構成が大型になる。 また、各コイル13,14の巻線の巻き数も大きくなり、コイル電流Icも大きくなるので、各コイル13,14によって損失する電力が大きくなる。 したがって、あまり大きな磁束密度Bを形成することは実用的ではない。

    図5は、この発明を実施するための実施の形態1におけるアノード電流の振動の強さを示すグラフである。 図5において、図4と異なる点は、縦軸をアノード電流の振動の強さではなく、アノード電流の平均電流値で割ったアノード電流振動の強さとしたことである。 つまり、平均電流値で規格化した実験結果を、プロットしたものを示している。

    図5から、領域3でも、アノード電流の振動の強さはそれほど大きくならないことがわかる。 領域3では、アノード電流の振動が多少大きいが、アノード電流の平均値も大きいため、平均電流値で規格化するとアノード電流の振動の割合は十分小さくなる。 つまり、アノード電流の電流値と比較してアノード電流の振動の強さを考える場合には、領域3でも十分振動の少ない安定な制御が可能であることを示している。

    領域3においてホールスラスタ11を運転する場合には、領域2において運転する場合と比べて、ホールスラスタ11の推力であるイオンの加速量を大きくするために、アノード電圧Vaおよびガス流量Qを大きくし、磁束密度Bを低くしても、ホールスラスタ11を安定して運転することができる。 つまり、各コイル13,14の構造や各コイル13,14のコアを小さくし、コイル電流Icを小さくし、より小さい電力損失で安定してホールスラスタ11を運転できる。 このため、ホールスラスタ11の装置の小型化、高効率化を実現できる。

    このように、ホールスラスタ11に対して、ある程度以上高い推力が必要な場合には、ホールスラスタ11の動作領域として領域3を選べばよいことがわかる。 つまり、下記の式(7)を満たすように、各パラメータを調節すればよいことがわかる。

    式(7)の右辺のうち、β、d、およびSは、ホールスラスタ11の形状で決まる値である。 Va、Q、およびBは、外部から調節できるパラメータである。 このうち、VaおよびQは、ホールスラスタ11のイオン加速量を決めるパラメータであり、Bはホールスラスタ11を安定に動作させるための調節用のパラメータと考えてよい。 イオン加速量が大きくなると、VaおよびQは大きくなる。 つまり、イオン加速量を大きくする場合には、式(7)の右辺は大きくなる。 また、イオン加速量を小さくする場合には、式(7)の右辺は小さくなる。

    イオン加速量を大きくしていく場合には、ガス流量Qまたはアノード電圧Vaを大きくしていくことになる。 しかしながら、両者とも自ら出力できる値に限界があるので、大きくするといっても無制限に大きくなるわけではない。 つまり、イオン加速量を変更する場合、式(7)のような制限があることを考えると、制御が問題になるのは、イオン加速量を大きくする場合ではなく、イオン加速量を小さくしていく場合である。 イオン加速量を大きくしていく場合には、式(7)の制限を考慮する必要はないが、イオン加速量を小さくしていく場合には、式(7)の境界値を超えないように注意しながらVa、Q、およびBを調節しなければならない。 式(7)の境界に達する場合には、磁束密度Bを調節して式(7)を満たすように調節しなければならない。

    つまり、制御装置9は、イオン加速装置であるホールスラスタ11のイオン出力端の出口断面積Sとイオン加速装置のイオン加速領域長dと磁束密度のイオン加速装置のイオン加速方向の平均値に対するイオン出力端での磁束密度Bの比率である磁束偏り率βとに基づき、アノード電圧Vaとコイル電流Icとに関係付けられた関数である式(7)を満たすようにアノード電圧Vaとガス流量Qとコイル電流Icに依存するイオン出力端での磁束密度Bとを制御することによって、放電振動現象の発生を抑えることができる。 以上のことから、ホールスラスタ11の駆動条件として、(β×Va×Q)/(d×S×B )を所定の範囲に収まるよう制御すれば、放電振動現象は原理的に抑制できることが明確となった。

    ここで、式(7)で示した値は、推進剤としてXeを用いた場合であり、他の推進剤、たとえばKrやArを用いた場合には式(7)の閾値は異なるものになるだろうと想像される。 しかしながら、閾値は異なっても、駆動条件として、(β×Va×Q)/(d×S×B )を所定の範囲に収まるようにしておけば、放電振動現象は原理的に抑制できるであろうことは同様である。

    ところで、磁束密度はコイル電流Icに依存するものの、磁束密度が低い領域ではコイル電流Icにほぼ比例し、磁束密度が大きくなるとコイル電流Icに関係なく飽和する傾向がある。 したがって、磁束密度が飽和しない磁束密度が低い領域では、外部から制御できるパラメータで構成したVa×Q/Ic を指標として選ぶことが妥当である。 このことは明確な理論的裏づけを得ただけでなく、どのように制御すれば放電振動現象の発生を抑えることができるということに対して、極めて明確な指針を与えるものである。 つまり、Va×Q/Ic をある一定範囲に保つこと、いいかえれば、アノード電圧Vaとコイル電流Icとに関係付けられた関数として、アノード電圧Vaの平方根とガス流量Qの平方根とを乗算した値に略比例するようにコイル電流Icの値を維持すればよいということである。

    ただし、この関係にはいくつもの近似が含まれている。 まず、磁束密度はコイル電流Icにそれほど厳密に比例しないことが測定結果から確認されている。 磁束密度はホールスラスタ11内部で分布を持ち、ホールスラスタ11の構造などにも強く影響されるので、磁束密度とコイル電流Icとの関係を明確にあらわすことは困難である。 また、ガス流量Qとガス密度との比例関係もいくつかの近似の結果であり、特にホールスラスタ11内部のガスの速度(ガスの温度)を一定と近似したものであるので、かならずしも比例することが保証されているわけではない。 ガス密度は空間的な分布もあり、これを実験的に求めることは困難であり、両者の比例関係が保証されているわけではない。 さらに、アノード電圧Vaと電界強度Eとの関係についても、先に述べたように、磁束密度の分布と電界強度の分布とが正確に比例するわけではない。

    このように、式(6)はあくまで近似式であり、便宜上のものである。 式(3)の理論式に近づけるためには、Va×Q/Ic ではなく、E×Nn/B を制御の指針にすることが望ましい。 E、NnおよびBは空間的な分布であるので、制御することは容易ではない。 しかしながら、E、NnおよびBとVa、QおよびIcとの関係がより厳密に対応付けることが可能であれば、E×Nn/B の関係式に従って、それぞれのパラメータの制御を行うことによって、より精度の高い制御を行うことができる。

    このように、ホールスラスタ11の放電振動現象は、アノード電圧Va、磁束密度B、およびガス流量Qに依存するガス密度によって決まるので、これらのパラメータを互いに関連するように変化させることでホールスラスタ11の動作が不安定になる動作領域を避けることができる。 そして、放電振動現象の発生は、Va×Q/Ic で表わされる関数に依存することがわかった。

    以上のように、制御装置9によって、アノード電圧Vaとガス流量Qとコイル電流Icとに関係付けられた式(7)に従ってアノード電圧Vaとガス流量Qとコイル電流Icとを制御するので、放電振動現象の発生を抑え、安定にイオン加速装置であるホールスラスタ11を動作させる電源装置1を得ることができる。

    実施の形態2.
    実施の形態1においては、コイル電流Icがアノード電圧Vaの平方根に略比例するように制御する場合について説明した。 本実施の形態では、コイル電流Icがアノード電圧Vaに略比例するように制御する場合について説明する。 一般的に、ホールスラスタ11内部の電子の速度は、磁束密度の弱い領域では古典拡散に従うが、強い領域では異常拡散に従う。 異常拡散(Bohm拡散)を仮定した場合には、電子の移動度μおよび電子の速度Vは式(8)および式(9)のように表わすことができる。

    図4に示した領域2のデータは、古典拡散の領域であると理解できる。 これらのデータよりも強い磁束密度の領域のデータを図6に示す。 図6は、この発明を実施するための実施の形態2における平均電流値で規格化したアノード電流の振動の強さを示すグラフである。 図6において、縦軸は測定によって得られたアノード電流の振動の強さ(電流の変動の大きさ)を測定によって得られたアノード電流の平均値で割った値である。 つまり、アノード電流の振動の強さを平均電流値で規格化したものである。 横軸は(β×Va)/(d×B)である。 また、図中にプロットした点は、さまざまなアノード電圧Va〔V〕とコイル電流Icに比例する磁束密度B〔T〕とを組合せた条件において、アノード電流の振動の強さを測定したものである。 アノード電流の振動の強さは、アノード電流の電流波形の変動の振幅によって求めることができる。 この実験において、ホールスラスタ11に流したガスはXeである。 場所によって磁束密度の値は異なる。 本実施の形態では、ホールスラスタ11のイオン出力端付近の磁束密度を磁束密度B〔T〕とした。 また、ホールスラスタ11のイオン加速領域長をd〔m〕、磁束偏り率をβとした。

    図6に示したデータは、異常拡散、特に式(8)に従うBohm拡散の領域のデータである。 図6のように横軸を(β×Va)/(d×B)としてプロットした場合、異なるアノード電圧Vaのデータがほぼ一定の曲線状に集まる。 そして境界線を境に、これよりも(β×Va)/(d×B)が小さい領域で、振動の少ない安定な領域4があることがわかる。 このため、ホールスラスタ11の動作領域として、領域4を選べばよいことがわかる。 つまり、下記の式(10)を満たすように、各パラメータを調節すればよいことがわかる。

    領域4では、アノード電流の振動は比較的生じにくいが、磁束密度Bが高いため、各コイル13,14が大きくなる、コイル電流Icによる電力損失が大きくなるなどの理由によって、ホールスラスタ11の装置の小型化、高効率化の観点からは好ましくない。 特に、ホールスラスタ11に高い推力を得たい場合には、領域4は好ましくない。 しかしながら、図4に示した領域2が、領域1と領域3との間にはさまれており、たとえば経年劣化などによって、安定に動作できる領域が狭くなる可能性がある。 このような場合には、領域2で安定に動作させることはきわめて難しくなるので、図6に示した領域4においてホールスラスタ11を運転することによって、容易に安定な制御を行うことができる。

    このように、異常拡散が支配的となる磁束密度Bがより大きくなる領域では、(β×Va)/(d×B)またはVa/Icが一定範囲に収まるように、つまり、アノード電圧Vaとコイル電流Icとに関係付けられた関数としてコイル電流Icがアノード電圧Vaに略比例するように制御することが適切である。 式(7)に従って制御するか、または式(10)に従って制御するかは、これらはまったく別の現象を制御することになる。 このため、どの式に従って制御するかを明確に把握して制御を行わなくてはならない。 言い換えれば、制御装置9は、ホールスラスタ11が古典拡散領域で運転されているか、異常拡散領域で運転されているかを把握して制御している、ということが言える。

    古典拡散領域では仮に放電振動現象が検出された場合、コイル電流Icを小さく制御することが適切である。 しかしながら、式(10)のような異常拡散領域では、放電振動現象が発生した場合は、コイル電流Icを大きくするように制御することが必要である。 ところで、式(10)は上限のみを与えていて下限が示されていないが、値の下限は装置の能力からおのずから制限される。 アノード電圧Vaはホールスラスタ11の推進力に関係するので、それほど小さくすることはできない。 一方、仮に大きなコイル電流Icを流しても磁束が飽和してしまうので、磁束密度Bはある上限値をもつ。 なお、ホールスラスタ11の点火時、つまりアノード電圧の立ち上げ時は、電圧がゼロから増加するため、式(10)の左辺はゼロから変化していくことになる。

    以上のように、制御装置9によって、アノード電圧Vaとコイル電流Icとに関係付けられた式(10)に従ってアノード電圧Vaとコイル電流Icとを制御するので、放電振動現象の発生を抑え、安定にイオン加速装置であるホールスラスタ11を動作させる電源装置1を得ることができる。

    実施の形態3.
    実施の形態1で示したように、式(7)に従って制御を行うことによって、放電振動現象を避けることができる。 実際に、ホールスラスタ11を運転する場合には、式(7)に従うようなアノード電圧Va、ガス流量Qおよびコイル電流Icの値を組合せて制御することになる。 しかしながら、何らかの要因、例えばホールスラスタ11の劣化などが原因で、コイル電流Icに対する磁束密度Bの値が変化することによって、駆動条件または振動の発生条件が変化し、放電振動現象、つまりアノード電流の振動が発生する可能性がある。 このような場合における、適切な制御の仕方について説明する。

    まず、古典拡散領域、つまり図4または図5で示した領域でホールスラスタ11を運転していると仮定する。 この場合、(β×Va×Q)/(d×S×B )が領域2または領域3に入るように、各パラメータを調節すればよい。 このうち、β、d、Sはホールスラスタ11の形状で決まる値である。 また、他の3つのパラメータがホールスラスタ11の外部から調節できるパラメータである。 このうち、アノード電圧Vaおよびガス流量Qは、ホールスラスタ11のイオン加速量を決めるパラメータであり、磁束密度Bはホールスラスタ11を安定に動作させるための調節用のパラメータと考えてよい。

    イオン加速量が大きくなると、アノード電圧Vaおよびガス流量Qは大きくなる。 つまり、イオン加速量を大きくする場合には、(β×Va×Q)/(d×S×B )が大きくなる。 イオン加速量を小さくする場合には、(β×Va×Q)/(d×S×B )が小さくなる。 イオン加速量を大きくする場合には、ガス流量Qまたはアノード電圧Vaを大きくしていくことになるが、共に自ずから出力できる値に限界があるので、大きくするといっても無制限に大きくなるわけではない。 つまり、イオン加速量を変更する場合、領域2のような制限があることを考えると、問題になるのは、イオン加速量を大きくしていく場合ではなく、イオン加速量を小さくしていく場合である。

    イオン加速量を大きくしていく場合には、実施の形態1で示したように、領域2の境界を考慮する必要はないが、イオン加速量を小さくしていく場合には、(β×Va×Q)/(d×S×B )が領域2と領域1との境界値を超えないように注意しながらパラメータを調節しなければならない。 この境界に達する場合には、(β×Va×Q)/(d×S×B )が領域2に入るように磁束密度Bを調節しなければならない。 したがって、ホールスラスタ11の推力条件が変更になった場合には、パラメータの制御、特にコイル電流Icの制御がより厳しくなるのは、ホールスラスタ11の推力を大きくしていく場合ではなく、小さくしていく場合である。

    次に、ホールスラスタ11の劣化などが原因で、アノード電流の振動が発生する場合の、適切な制御の仕方について説明する。 何らかの状態の変化によって、急に放電振動現象が発生し始めた場合は、図4に示した領域1と領域2との境界付近で運転し、(β×Va×Q)/(d×S×B )が境界を超えて領域1へ入ってしまった可能性が最も高い。 したがって、領域1から出て領域2へ入るためには、アノード電圧Vaまたはガス流量Qを大きくする、もしくはコイル電流Icを小さくすることが考えられる。 しかしながら、アノード電圧Vaおよびガス流量Qはホールスラスタ11の推進能力を決める値であり、制御のために変更することはできない場合が多い。 また、ガス流量Q自体を変更するためには時間がかかるので、ガス流量Qの変更によって制御を行うことは容易でない。 したがって、コイル電流Icを制御することが最も適切である。 (β×Va×Q)/(d×S×B )が領域1から領域2へ入るためには、コイル電流Icを小さくして、磁束密度Bを低くすれば良い。 つまり、ホールスラスタ11の運転中に放電振動現象が発生した場合には、コイル電流Icを小さく変更すればよいことがわかる。

    放電振動現象の発生を検出するためには、アノード電極へ流れるアノード電流を測定すればよい。 図7は、この発明を実施するための実施の形態3における電源装置の構成図である。 電源装置31にアノード電流の振動の発生を検出する振動検出手段である振動検出器22を備えた点で実施の形態1と異なる。 本実施の形態では、振動検出器22でアノード電流値を測定し、アノード電流値を制御装置9へ取り込み、制御装置9でアノード電流の振動の発生状態を解析する。 アノード電流の振動は、領域2と領域3との境界付近でホールスラスタ11を運転することによって発生し、(β×Va×Q)/(d×S×B )が領域3に入ったためにアノード電流の振動が強くなった場合が考えられる。 この場合には、逆にコイル電流Icを大きくして(β×Va×Q)/(d×S×B )を領域2に戻す方向に制御する必要があることは言うまでもない。 また、(β×Va×Q)/(d×S×B )が領域1または領域3のどちらの領域に入ったことによって放電振動現象が発生したかを判断するためには、元々どちらに近い領域で運転していたかで判断するか、または放電振動の強さで判断するなどの方法がある。 なお、領域1のほうがはるかに激しい振動が発生する。

    なお、放電振動現象の発生を検出した場合にはコイル電流Icを小さくし、これによって放電振動が弱くなれば安定な領域に入ったと判断し、逆に放電振動が強くなった場合にはコイル電流Icを大きくする、というフィードバック制御を行ってもよい。 この場合でも、放電振動現象の発生を検出した直後に、まず、コイル電流Icを大きくするのではなく、小さくするように制御することが望ましい。 なぜなら、仮に(β×Va×Q)/(d×S×B )が領域1の境界にあり、コイル電流Icを大きくした場合には、放電振動は急激に強くなり、そのため電源およびシステムに影響が及ぶ可能性があるからである。 仮に領域3の境界にあった場合には、コイル電流Icを小さくすることで放電振動は強くなるが、その強くなる度合いは領域1近傍の場合に比べて、はるかに穏やかである。 このため、電源およびシステムに与える影響は十分低く抑えられる。

    なお、古典拡散ではなく、Bohm拡散の領域でホールスラスタ11が運転されている場合について考える。 この場合、アノード電流の振動が発生したことを検出したら、逆にコイル電流Icを大きくして、実施の形態2で示した領域4へ(β×Va)/(d×B)が入るように制御しなければならない。 このように、放電振動現象が発生した場合における、コイル電流Icを制御について説明したが、このような制御はある一定推進力で運転されている場合だけでなく、ホールスラスタ11の点火時、アノード電圧の立ち上げ時、またはホールスラスタ11の推進条件を変更してアノード電圧Vaまたはガス流量Qを変化させる場合にも適用できることはいうまでもない。

    以上のように、アノード電極へ流れるアノード電流を測定し、アノード電流に振動が発生したことを検出するので、放電振動現象の発生を抑え、安定にイオン加速装置であるホールスラスタ11を動作させる電源装置31を得ることができる。

    なお、全ての実施の形態において、イオン加速装置として、ホールスラスタという人工衛星の推進装置について述べている。 しかしながら、本発明を、ホールスラスタと同様の装置をイオン源装置として用いる場合などに適用してもよい。 また、本発明は、円環状のイオン源装置だけではなく、ガスを流す、電圧を印加する、磁場を形成する、という3要素が含まれている装置について広く一般的に適用できる。

    この発明の実施の形態1を示す電源装置の構成図である。

    この発明の実施の形態1におけるホールスラスタの断面図である。

    この発明の実施の形態1におけるVa、QおよびIcの3つのパラメータに対するアノード電流の振動の強さの依存性を示すグラフである。

    この発明の実施の形態1におけるアノード電流の振動の強さを示すグラフである。

    この発明の実施の形態1における平均電流値で規格化したアノード電流の振動の強さを示すグラフである。

    この発明の実施の形態2における平均電流値で規格化したアノード電流の振動の強さを示すグラフである。

    この発明の実施の形態3を示す電源装置の構成図である。

    符号の説明

    1,31 電源装置、2 アノード電源、3 内部コイル電源、4 外部コイル電源、5 ガス流量制御装置、6 ヒータ電源、7 キーパ電源、8 カソード用ガス流量制御装置、9 制御装置、10 データベース記憶部、11 ホールスラスタ、12 アノード電極、13 内部コイル、14 外部コイル、15 ガス流量調節器、16 内側リング、17 外側リング、18 イオン加速領域、19 ポールピース、21 ホローカソード、22 振動検出器。

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