複合型ターゲット、複合型ターゲットを用いる中性子発生方法、及び複合型ターゲットを用いる中性子発生装置

申请号 JP2013533804 申请日 2013-04-12 公开(公告)号 JPWO2013154177A1 公开(公告)日 2015-12-17
申请人 大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構; 大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構; 发明人 松本 浩; 浩 松本; 小林 仁; 仁 小林; 正和 吉岡; 正和 吉岡; 俊一 栗原; 俊一 栗原;
摘要 陽子による部材の放射化を低減することが可能なターゲットを提供する。陽子による部材の放射化を低減させるためにベリリウム材料、リチウム材料、及び非金属材料を複合して成る新規のターゲットを用いる。
权利要求

陽子を衝突させて中性子を発生させるための複合型ターゲットであって、 ベリリウム材料、リチウム材料、及び非金属材料を複合して成るターゲット部分と、 前記ターゲット部分の一の表面に施された真空シールと、を備えることを特徴とする複合型ターゲット。前記非金属材料が炭素系材料であることを特徴とする請求項1に記載の複合型ターゲット。前記炭素系材料が、少なくとも等方性黒鉛材料及び結晶配向性炭素材料のいずれか一つの材料を含有する炭素系材料であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の複合型ターゲット。陽子をターゲットに衝突させて中性子を発生させるための中性子発生方法において、 陽子が2MeV以上11MeV未満の陽子であり、 前記ターゲットが請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の複合型ターゲットであり、 前記複合型ターゲットに前記陽子を真空下で衝突させることによって核反応による中性子を発生させることを特徴とする中性子発生方法。陽子発生のための素イオン発生部と、 前記水素イオン発生部で発生する陽子を加速するための加速器と、 前記加速器によって加速された陽子を照射するための陽子照射部と、 陽子を衝突させて中性子を発生させるためのターゲットと、を備え、 前記加速器が線形加速器であり、 前記ターゲットが請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の複合型ターゲットであることを特徴とする中性子発生装置。前記線形加速器が陽子を2MeV以上11MeV未満の範囲に加速することができる線形加速器であることを特徴とする請求項5に記載の中性子発生装置。

说明书全文

本発明は、陽子をターゲットに衝突させることによって中性子を発生させるためのターゲット、このターゲットを用いた中性子発生方法、及びこのターゲットを用いた中性子発生装置に関するものである。さらに詳しくは、低エネルギーの陽子を用いて中性子を発生させるための新規のターゲット、このターゲットを用いた中性子発生方法、及びこのターゲットを用いた中性子発生装置を提供するものであり、ターゲットの熱問題を解決し、且つ陽子・中性子によるターゲット部材等の放射化を低減するための新規のターゲット、このターゲットを用いた中性子発生方法、及びこのターゲットを用いた中性子発生装置を提供するものである。

近年、選択的ながん治療として期待されているホウ素中性子捕捉療法(BNCT: Boron Newtron Capture Therapy)のための中性子発生方法及び装置の研究開発が盛んに行われている。これらは、例えば、特許文献1〜15に開示されている。

特許文献1は、高周波四重極線形加速器(RFQライナック:Radio Frequency Quadrupole Linac)の例えば30MeV〜40MeVの重陽子線をリチウムに衝突させてLi(d,n)反応を起こさせ中性子を発生させ、中性子減速材を介して治療用の熱中性子・熱外中性子を発生させることを特徴としている。

特許文献2は、中性子を発生させるためのターゲットに関し、大強度陽子線を衝突させるターゲットの冷却材に対する耐食性を改善するために、低素吸収体であるNb、Pt、Au、Al、Be、Cr、ステンレス鋼又はその合金で被覆されたタングステンを用いることを特徴としている。

特許文献3は、液体状のリチウム、又は核融合反応の触媒作用を持つ金属との合金の表面に重水素イオンビームを衝突させることによって非熱核融合反応を誘発することによって中性子を発生させることを特徴としている。

特許文献4は、サイクロトロン等で発生させる20MeV以上のエネルギーを有する陽子線をタンタル、タングステン等の重金属に衝突させることによって核破砕反応物質を含む中性子を発生させ、同中性子を中性子減速部及び鉛で構成されるフィルターを介して有害な核破砕反応物質及び高速中性子を除去することによって治療用の熱中性子・熱外中性子を発生させることを特徴としている。

特許文献5は、固定磁場強収束(FFAG:Fixed Field Alternating Gradient)−内部標的(ERIT:Emittance Recovery Internal Target)方式による中性子発生方法及び装置を開示している。そして、特許文献5は、サイクロン型の陽子貯蔵リングで周回増強された11MeV以上15MeV未満のエネルギーを有する陽子線又は重陽子線を同リング内に設けたベリリウム製のターゲットに衝突させることによって発生させた中性子を重水等の減速材を介して治療用の熱中性子・熱外中性子に調整することを特徴としている。

特許文献6は、RFQライナックやドリフトチューブライナックで加速された出30kW程度、11MeV程度以上の陽子線を金属ターゲットに衝突させて中性子を発生させるためのターゲットを開示している。また、該ターゲットが金属ターゲットであり、好ましくはベリリウムであることが開示されている。そして、特許文献6は、該ターゲットの厚みが同ターゲット中における陽子線の飛程と略同等又はそれよりもわずかに大きくし、又、ターゲットを冷却するためにターゲットの伝熱面積と同程度以上の伝熱面積を有する金属板を介して冷却することを特徴としている。

特許文献7は、線形加速器を用いて例えば11MeVの陽子線をベリリウム製のターゲットに衝突させることによって10keV以上の速中性子を発生させ、該速中性子を重水等の減速材を通過させることによって10keV未満の熱外中性子又は0.5eV以下の熱中性子に調整することを特徴としている。

特許文献8−10は、出力2mA−60kW、30MeV程度のエネルギーレベルの陽子線をベリリウムに衝突させて中性子を発生させるためのベリリウム製ターゲットについて、厚み5.5mmのベリリウム板の直下に冷却水を流すための螺旋溝を施した銅板、アルミニウム合金の板、またはグラファイト板を設け、ターゲットで発生する熱や発生水素によるターゲットの変型を抑制するために、ターゲットの周囲にボルト・ナット締めによる固定を施したことを特徴としている。

特許文献11は、リチウムターゲットを製造する方法が、圧延されたリチウム薄膜を銅製の基板上に圧着する方法であることを特徴としている。

特許文献12は、Li(p,n)反応の閾値(約2MeV)よりもやや大きいエネルギーの陽子をターゲットに衝突させて中性子を発生させるためのリチウム製ターゲットについて、リチウムの溶融防止のためのターゲットの構造が、冷却機構を有するブロックに円錐形状の切り込みを施し、該円錐形状の切り込み表面にバッキングホイル基板上に付着させたベリリウム被覆のリチウム薄膜を付着させた構造であることを特徴としている。

特許文献13は、中性子発生用リチウム製ターゲットについて、リチウム粒子の溶融防止及び発熱によって液状化したリチウムの漏れ防止のためのリチウム粒子の構造が、リチウム粒子を焼結カーボン、炭化ケイ素、炭化ジルコニウムの順番で順次被覆した構造であることを特徴としている。

特許文献14は、BNCT用のリチウム製ターゲットについて、リチウムターゲットが鉄基板、タンタル基板、またはバナジウム基板上に付着させたリチウムであることを特徴としている。

特許文献15は、出力20mA−50kW、2.5MeV程度のエネルギーの陽子をターゲットに衝突させて中性子を発生させるためのリチウム製ターゲットについて、リチウムの溶融防止のためのターゲットの構造が、冷却機構を有する円錐形状の伝熱板の表面にパラジウム薄膜を設け、該パラジウム薄膜上にリチウム薄膜を付着させた構造であることを特徴としている。

しかしながら、以上の特許文献1〜10に開示された方法及び装置は、ターゲットに衝突させる陽子線又は重陽子線の加速エネルギーが少なくとも11MeVの高エネルギー陽子線を必要としている。そのため、以上の特許文献1〜10に開示された方法及び装置では、陽子線又は重陽子線発生のための大型の加速器が必要であること、高エネルギー陽子線及び発生中性子によるターゲット等の部材の著しい放射化が生じること、ターゲットを冷却するための大型の冷却装置が必要であること、液体ターゲットの場合には取り扱いが容易ではないこと、固体状ターゲットの場合にはターゲットの溶断を防止するために比較的厚めのターゲット材料を熱伝導性の金属材料製支持体に付着させていること、中性子発生用のターゲット材料が重金属などの金属製の場合には、人体に極めて有害であり且つ装置部材の放射化能も高い高速中性子がかなり混在して発生しているので一次発生中性子を減速するための大がかりな減速装置が必要であること、有害且つ放射化能の高い陽子線、高速中性子及び放射性核反応物質を吸収又は除去するための特殊な安全対策が必要であること、活性水素によるターゲット材料の脆化防止対策が必要であること、等の実用上における問題があった。特に陽子線及び中性子によるターゲット等の部材の放射化の問題は、放射化部材から受ける放射線被曝の問題であるので、解決すべき重要な課題であった。また、特許文献6にみられるように、ベリリウムの固体ターゲットを用いる場合には、ターゲットで発生する熱を系外へ排熱することが必須であることから、ターゲットを支持するための金属製支持材の伝熱面積を大きくする工夫が提案されたが、熱応力による接着界面の剥離や活性水素による支持材の脆化及び剥離を防止することは困難であった。また、以上の特許文献11〜15に開示されたリチウム製の固体ターゲットの場合には、低融点であるリチウム(融点が約180℃)の溶融防止のために、リチウム薄膜の支持体である伝熱板の構造に関する工夫やリチウム粒子を高融点材料で被覆する方法が提案されているが、これらの方法では冷却効率の飛躍的な向上は期待されないので、リチウムの溶融を防止することは困難であること、陽子及び発生中性子によるターゲット等の部材の放射化が起きること、固体リチウム製ターゲットは発生中性子の衝突によって放射性のトリチウムを生成するので、トリチウムを吸収又は除去するための安全対策が必要であること、等の問題があった。

以上の問題を解決するためには、陽子の衝突によって生じるターゲットの熱問題の解決、及び陽子・中性子によるターゲット等の部材の放射化の低減のためのターゲットの開発が切望されていたが、これまで上記問題を解決するようなターゲットは知られていないのが現状である。

特開平11−169470号公報

特開2000−162399号公報

特開2003−130997号公報

特開2006−47115号公報

特開2006−155906号公報

特開2006−196353号公報

特開2008−22920号公報

特開2009−193934号公報

特開2010−203882号公報

特開2011−185784号公報

特開2007−303983号公報

特開2009−047432号公報

米国特許第4597936号明細書

国際公開第2008/060663号

米国特許出願公開第2010/0067640号明細書

M. A. Lone, et al., Nucl. Instr. Meth. 143 (1977) 331.

タイトル:結合型液体水素冷中性子源の中性子特性、著者:鬼柳善明、小林英樹、岩佐浩克、Bulletin of the Faculty of Engineering, Hokkaido University, 151:101-109 (1990-07-30)

放射線施設のしゃへい計算実務マニュアル、2007、(財)原子力安全技術センター監修

JENDL-4.0(Japanese Evaluated Nuclear Data Library 4.0, published by Nuclear Data Center at Japan Atomic Energy Agency, Modified at 2010/09/29 17:22JST)

K. Shibata,O. Iwamoto, T. Nakagawa, N. Iwamoto, A. Ichihara, S. Kunieda, S. Chiba, K. Furutaka, N. Otsuka, T. Ohsawa, T. Murata, H. Matsunobu, A. Zukeran, S. Kamada, and J. Katakura, "JENDL-4.0 : A New Library for Nuclear Science and Engineering", J. Nucl. Sci. Technol., 48 (2011) 1-30.

本発明は、上記の事情に鑑み、低エネルギーの陽子の照射によって中性子の発生が可能であり、陽子及び中性子によるターゲット等の部材の放射化の低減が可能であり、及びターゲット材料の熱問題や水素脆化の問題などを根本的に解決することが可能な新規のターゲットを提供することを主な目的としている。

本発明者らは、上記の課題を達成するために鋭意研究を重ねた結果、ターゲット材料としてベリリウム材料、リチウム材料、及び非金属材料を複合して成る複合型ターゲットが非常に有効であることを見いだし、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。

すなわち、本発明は、上記課題を達成するために、 1.陽子を衝突させて中性子を発生させるための複合型ターゲットであって、ベリリウム材料、リチウム材料、及び非金属材料を複合して成るターゲット部分と、ターゲット部分の一の表面に施された真空シールと、を備えることを特徴とする複合型ターゲットの構成とした。 2.前記非金属材料が炭素系材料であることを特徴とする前記1に記載の複合型ターゲットの構成とした。 3.前記炭素系材料が、少なくとも等方性黒鉛材料及び結晶配向性炭素材料のいずれか一つの材料を含有する炭素系材料であることを特徴とする前記1又は前記2に記載の複合型ターゲットの構成とした。 4.陽子をターゲットに衝突させて中性子を発生させるための中性子発生方法において、陽子が2MeV以上11MeV未満の陽子であり、前記ターゲットが前記1から前記3のいずれか一つに記載の複合型ターゲットであり、該複合型ターゲットに前記陽子を真空下で衝突させることによって核反応による中性子を発生させると共に該複合型ターゲットの冷却機構によって該複合型ターゲットを冷却することを特徴とする中性子発生方法の構成とした。 5.陽子発生のための水素イオン発生部と、前記水素イオン発生部で発生する陽子を加速するための加速器と、前記加速器によって加速された陽子を照射するための陽子照射部と、陽子を衝突させて中性子を発生させるためのターゲットと、を備え、前記加速器が線形加速器であり、前記ターゲットが前記1から前記3のいずれか一つに記載の複合型ターゲットであることを特徴とする中性子発生装置の構成とした。 6.前記線形加速器が陽子を2MeV以上11MeV未満の範囲に加速することができる線形加速器であることを特徴とする前記5に記載の中性子発生装置の構成とした。

本発明複合型ターゲットは、ベリリウム材料、リチウム材料、及び非金属材料を複合して成る複合型ターゲットに真空シールを施すと共に冷媒流路を有する冷却機構を付帯させる複合型ターゲットである。本発明複合型ターゲットの機能は、主要機能としての「核反応による中性子発生」の他に、「陽子及び中性子による部材の放射化の低減」、及び「ターゲットの効率的な冷却」である。本発明は、三種類の材料を複合して成る複合型ターゲットであるので、上記ターゲットの機能を三種類の材料で機能分担して行うことが可能である。すなわち、ベリリウム材料及びリチウム材料が持つ陽子に対する特有の性質によって従来よりも比較的低エネルギーの陽子を用いて低エネルギーの中性子を発生可能であること、非金属材料が持つ陽子及び中性子に対する特有の性質によって陽子及び中性子によるターゲット等の部材の放射化を顕著に低減可能であること、非金属材料が持つ優れた熱伝導性及び熱拡散性によってターゲットで発生する熱を速やかにターゲット表面に伝導することが可能であること、ベリリウム材料、リチウム材料、及び非金属材料の複合によってこれらの材料の表面積を飛躍的に向上することができるので、すなわち伝熱面積の飛躍的な向上が可能なので、ターゲットで発生する熱を速やかにターゲット表面に伝導することが可能であること、又、伝導された熱をターゲットが付帯する冷媒流路を設けた冷却機構によって系外に排熱することによってターゲットの効率的な冷却が可能であること、等である。また、この効率的な冷却によって従来固体ターゲットとしての利用が困難であった低融点のリチウム(融点:約180℃)でも利用可能であること、ターゲット材料の水素脆化を防止できること、ベリリウム材料やリチウム材料と非金属材料の接着界面での剥離を防止できること、非金属材料がベリリウム材料やリチウム材料の支持材及び冷却材として機能しうるので、従来用いられてきたベリリウム(又はリチウム)よりも薄いベリリウム(又はリチウム)を用いてもベリリウム(又はリチウム)の溶断や溶融を防止できること、等の効果が得られる。

そして、上記の効果によって本発明複合型ターゲットを用いる中性子発生方法は、ターゲット等の部材の放射化を低減しつつ低エネルギーの中性子を安定的に発生しうる。

また、本発明複合型ターゲットに衝突させる陽子の発生源として、従来のシンクロトロンやサイクロトロンに比べると飛躍的に小型の加速器である線形加速器を用いることが可能であるので、本発明複合型ターゲットを用いる中性子発生装置は、BNCT等の医療用中性子を発生させるための中性子発生装置として小規模の医療機関にも設置可能である。

図1は、実施の形態に係るターゲットが、[ベリリウム材料−炭素系材料−リチウム材料−炭素系材料]の構成を有する複合型ターゲットであり、該ターゲットの表面に真空シールが施され、該ターゲットに冷媒流路を設けた冷却機構を付帯している複合型ターゲットであることを例示する断面図である。

図2は、実施の形態に係るターゲットが、ベリリウム材料、リチウム材料、及び炭素系材料の混合物を一体成型して作られる複合型ターゲットであり、該ターゲットの表面に真空シールが施され、該ターゲットに冷媒流路を設けた冷却機構を付帯している複合型ターゲットであることを例示する断面図である。

図3は、実施の形態に係るターゲットが、[ベリリウム材料−炭素系材料−リチウム材料−炭素系材料]の構成を有する複合型ターゲットであり、該ターゲットの表面に真空シールが施され、該ターゲットに冷媒流路を設けた冷却機構を付帯しており、該ターゲットの内部にも独立の冷媒流路を有する複合型ターゲットであることを例示する断面図である。

図4は、実施の形態に係るターゲットが、[ベリリウム材料−炭素系材料−リチウム材料−炭素系材料]の構成を有する複合型ターゲットであり、該ターゲットの表面に真空シールが施され、該ターゲットに冷媒流路を設けた冷却機構を付帯しており、該ターゲットの内部にも冷媒流路を設け、この冷媒流路が上記冷却機構と連結している構造を有する複合型ターゲットであることを例示する断面図である。

図5は、実施の形態に係るターゲットが、複数個の[ベリリウム材料−炭素系材料の複合体]及び複数個の[リチウム材料−炭素系材料の複合体]から成る構成を有する複合型ターゲットであり、該ターゲットの表面に真空シールが施され、該ターゲットに冷媒流路を設けた冷却機構を付帯しており、それぞれの複合体の内部にも冷媒流路が設けられており、この冷媒流路が上記冷却機構と連結している構造を有する複合型ターゲットであることを例示する断面図である。

図6は、実施の形態に係る本発明複合型ターゲットを用いた中性子発生方法を例示する概略図である。

図7は、実施の形態に係る本発明複合型ターゲットを用いた中性子発生装置を例示する概略図である。

図8は、比較のために従来タイプのターゲットを例示する断面図である。

以下の説明においては、本発明複合型ターゲットに含まれる非金属材料の一例として炭素系材料を挙げて説明する。本発明複合型ターゲットをベリリウム材料、リチウム材料、及び炭素系材料を複合して成る複合型ターゲットとする主な理由は、ターゲットの機能を上記三種類の材料で機能分担させることにある。具体的には、ターゲット材料としてベリリウム材料及びリチウム材料を用いるのは、主として低エネルギーの陽子との衝突によって低エネルギーの中性子を発生させるためであり、ベリリウム材料は4MeV〜11MeVの陽子によって9Be(p,n)反応を起こさせることが可能であり、リチウム材料は2MeV〜4MeVの陽子によって6Li(p,n)又は7Li(p,n)反応を起こさせることが可能である。

本発明複合型ターゲットにおけるもう一つのターゲット材料を炭素系材料とする主な理由は、炭素系材料が金属材料に比べて陽子及び中性子による放射化を軽減するために有効であること、放射線耐久性が比較的高いこと、熱中性子及び熱外中性子の吸収が少ないこと、高速中性子の減速効果が高いこと、炭素系材料がターゲットで発生する熱を伝導及び拡散するための熱伝導性及び熱拡散性に於いて金属材料と同様乃至それ以上に優れていること、比較的高融点であること、中性子の発生効率はベリリウムまたはリチウムに比べて低いものの、陽子との核反応によって中性子の発生が可能であること、低エネルギー中性子の安定的発生を可能にすること等の物理的性質の他に、炭素系材料が水素原子及び水素分子を吸着するので、これによってベリリウム材料またはリチウム材料の水素化及び水素脆化の抑制が可能であること、水素の放射性同位体であるトリチウムを吸着する、水素原子とトリチウムとのカップリング反応を生起させるので、これによって生成するトリチウム化水素を吸着する等の効果を与えるからである。

本発明におけるベリリウム材料とは、周期律表における二族元素の中から選ばれたベリリウム元素の単一元素材料(ベリリウム元素の単体金属であり、以後、ベリリウムという)、ベリリウム化合物、ベリリウム合金、ベリリウム金属間化合物、及びベリリウム複合材料のことである。また、本発明におけるリチウム材料とは、周期律表における一族元素の中から選ばれたリチウム元素の単一元素材料(リチウム元素の単体金属であり、以後、リチウムという)、リチウム化合物、リチウム合金、及びリチウムの複合材料のことである。本発明で、ベリリウム、ベリリウム化合物、ベリリウム合金、ベリリウム金属間化合物、及びベリリウム複合材料をベリリウム材料と総称し、リチウム、リチウム化合物、リチウム合金、及びリチウム複合材料をリチウム材料と総称したのは、中性子発生の原理が、特定元素における特有の核反応に基づいているからである。すなわち、ターゲットへの加速陽子の照射による中性子発生の原理は、陽子とターゲットに含まれている特定元素の原子との物理的な核反応に基づくものであるので、ターゲットが特定元素の化合物及び複合材料である場合も該特定元素の単体の場合と同様の核反応によって中性子を生ずるからである。すなわち、本発明では、ベリリウムやリチウム以外に、ベリリウム化合物、ベリリウム合金、ベリリウム金属間化合物、及びベリリウム複合材料、リチウム化合物、リチウム合金、及びリチウム複合材料を用いることができる。ターゲット材料として上記特定元素の化合物や複合材料を用いる場合には、該化合物や複合材料に含まれる特定元素(ベリリウム元素及びリチウム元素のこと)以外の元素が陽子や中性子による放射化を受けないような、また副生水素原子との反応によって有害物質を生じないような元素であることが望ましい。このような元素としては、例えば、炭素、ケイ素、窒素、りん、酸素、硫黄等を挙げることができるが、これらに限定するものではない。

前記説明の如く、本発明におけるベリリウム材料とは、ベリリウム、ベリリウム化合物、ベリリウム合金、ベリリウム金属間化合物、及びベリリウム複合材料のことである。ベリリウム化合物としては、例えば、酸化ベリリウム(BeO)、窒化ベリリウム(Be3N2)、アジ化ベリリウム(BeN6)、リン化ベリリウム(BeP2)、炭化ベリリウム(Be2C)、フッ化ベリリウム(BeF2)、塩化ベリリウム(BeCl2)、臭化ベリリウム(BeBr2)等のハロゲン化ベリリウム、水酸化ベリリウム(Be(OH)2)、酢酸ベリリウム(Be(CH3CO2)2)、炭酸ベリリウム(BeCO3)、硫酸ベリリウム(BeSO4)、硝酸ベリリウム(Be(NO3)2)、リン酸ベリリウム(Be3(PO4)2)、ケイ酸ベリリウム(Be2SiO4)、アルミン酸ベリリウム(Be(AlO2)2)、ニオブ酸ベリリウム(Be(NbO3)2)、タンタル酸ベリリウム(Be(TaO2)2)、各種のケイ酸ベリリウムアルミニウム、等を挙げることができるが、これらに限定するものではない。ベリリウム合金としては、マグネシウムベリリウム合金、アルミニウムベリリウム合金、リチウムベリリウム合金、等を挙げることができるが、これらに限定するものではない。ベリリウム金属間化合物の種類は、限定するものではない。また、ベリリウム複合材料としては、メタリン酸ベリリウムガラス等のベリリウムガラス、ベリリウムガラスを主成分として含むベリリウムガラスセラミック、酸化ベリリウムを主成分として含むベリリウムセラミック、ベリリウム元素を固溶しているベリリウム固溶セラミック、ベリリウム原子内包フラーレン、各種ベリリウム材料どうしを複合した複合材料、等を挙げることができるが、これらに限定するものではない。ベリリウム材料の外観的形状、多孔性、密度、含有量、等は、限定するものではない。以上のベリリウム材料の中でベリリウム及び酸化ベリリウムは9Be(p,n)反応の閾値(約4MeV)が比較的高いものの高融点(ベリリウムの融点:約1278℃、酸化ベリリウムの融点:2570℃)であるので最も好ましい。ベリリウムガラス、ベリリウムセラミック、ベリリウム原子内包フラーレンは、ベリリウムの単体が溶出することがないので好ましい。

前記説明の如く、本発明におけるリチウム材料とは、リチウム、リチウム化合物、リチウム合金、リチウム金属間化合物、及びリチウム複合材料のことである。リチウム化合物としては、例えば、酸化リチウム(Li2O)、窒化リチウム(Li3N)、炭化リチウム(Li4C)、フッ化リチウム(LiF)、塩化リチウム(LiCl)、臭化リチウム(LiBr)、ヨウ化リチウム(LiI)等のハロゲン化リチウム、水酸化リチウム(LiOH)、酢酸リチウム(LiCH3CO2)、炭酸リチウム(Li2CO3)、硫酸リチウム(Li2SO4)、硝酸リチウム(LiNO3)、リン酸リチウム(Li3PO4)、ケイ酸リチウム(Li4SiO4)、アルミン酸リチウム(LiAlO2)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO2)、各種のケイ酸リチウムアルミニウム、等を挙げることができるが、これらに限定するものではない。リチウム合金としては、リチウムマグネシウム合金、リチウムアルミニウム合金、リチウムベリリウム合金、等を挙げることができるが、これらに限定するものではない。リチウム金属間化合物の種類は、限定するものではない。また、リチウム複合材料としては、リチウムケイ酸塩ガラス、二ケイ酸リチウムガラス等のリチウムガラス、リチウムガラスを主成分として含むリチウムガラスセラミック、酸化リチウムを主成分として含むリチウムセラミック、リチウム元素を固溶しているリチウム固溶セラミック、リチウム原子内包フラーレン、各種リチウム材料どうしを複合した複合材料、等を挙げることができるが、これらに限定するものではない。リチウム材料の外観的形状、多孔性、密度、含有量、等は、限定するものではない。以上のリチウム材料の中でリチウムは低融点ではあるものの6Li(p,n)又は7Li(p,n)反応の閾値(約2MeV)が低いので最も好ましい。リチウムガラス、リチウムガラスセラミック、リチウム原子内包フラーレンは、リチウムの単体が溶出することがないので好ましい。

本発明における炭素系材料とは、周期律表における十四族元素である炭素の単一元素材料(以下、炭素材料という)、炭素の化合物である炭素化合物、及び二種類以上の炭素材料又は炭素化合物を組み合わせて成る炭素系複合材料のことである。そして、本発明ではこれらの炭素材料、炭素化合物、及び炭素系複合材料のことを総称して炭素系材料という。上記炭素系材料の中の炭素材料としては、例えば、等方性黒鉛材料(isotropic graphite materials)、結晶配向性炭素材料、多結晶ダイヤモンド(polycrystalline diamond)、ダイヤモンドライクカーボン(diamondlike carbon)、グラッシーカーボン(glassy carbon)、多孔性カーボン(porous carbon)、ポリアセチレン(polyacetylene)、カルビン(carbyne)、等を挙げることができるが、これらに限定するものではない。上記炭素系材料の中の炭素化合物としては、例えば、窒化炭素、炭化ケイ素、等をあげることができるが、これらに限定するものではない。また、炭素系複合材料としては、例えば、炭素繊維強化プラスチック、炭素繊維強化セラミックス等を挙げることができるが、これらに限定するものではない。上記炭素系材料の中で、等方性黒鉛材料及び結晶配向性炭素材料は、バランスのとれた上記の物性を有するだけでなく、とりわけ熱伝導性及び熱拡散性に優れており、放射性核種を生成しにくい材料であり、意外にも水素脆化を起こしにくいという性質も有するので最も好ましい。

前記本発明における等方性黒鉛材料とは、等方的な構造及び特性を有する黒鉛材料のことである。一般に黒鉛材料は、成形方法の違いから、CIP材(黒鉛の原料をCold Isostatic Press(冷間静水圧プレス)によって等方的に成形した成形体のこと)、押出材、モールド材の3つの種類に分類されており、上記CIP材を焼成炭化後、黒鉛化のプロセスを経て得られる黒鉛材料が等方的な構造及び特性を有する黒鉛材料であることから等方性黒鉛材料と呼ばれており、本発明においても等方性黒鉛材料のことを、等方的な構造及び特性を有する黒鉛材料という。等方性黒鉛材料は、金属材料と同様に高い熱伝導性を有し熱伝導性が等方的である、金属材料よりも熱拡散性が高い、放射化されにくい材料である、熱中性子・熱外中性子の吸収が少ない、中性子減速効果が高い、放射線耐久性が高い、高融点である(融点:約3570℃)、等の優れた性質を有するので最も好ましい。本発明における等方性黒鉛材料は、通常、嵩密度が1.5gcm-3〜3.5gcm-3の範囲にあるものが使用可能である。本発明においては、嵩密度が1.5gcm-3未満の等方性黒鉛材料は使用不可能ではないが、嵩密度が1.5gcm-3未満であると炭素原子と陽子及び中性子との衝突が不十分になることもあるので、嵩密度は1.5gcm-3以上であることが好ましい。また、嵩密度が3.5gcm-3を超えると常圧下における安定相はダイヤモンドであるので、物質として存在する黒鉛材料の嵩密度の最大値は3.5gcm-3程度である。本発明で用いる等方性黒鉛材料は従来の工業材料として用いられている等方性黒鉛材料が使用可能であり、より高密度に改良された等方性黒鉛材料はより好ましい。

前記本発明における結晶配向性炭素材料とは、炭素原子又は炭素分子から成る結晶性の炭素材料であり、且つ、結晶の向きが揃っている炭素材料のことである。一般に、結晶性とは、物質を構成する原子や分子が空間的に繰り返しパターンを持って配列していることをいい、配向性とは、分子や結晶の向きが揃っていることをいうので、本発明における結晶配向性もこの定義に従う。すなわち、本発明における結晶配向性炭素材料とは、炭素原子又は炭素分子から成る結晶性の炭素材料であり、且つ、結晶の向きが揃っている炭素材料のことである。本発明における結晶配向性炭素材料としては、単結晶黒鉛(single crystalline graphite)、高配向熱分解黒鉛(HOPG:highly-oriented pyloritic graphite)、カーボンファイバー(carbon fibers)、カーボンナノファイバー(carbon nanofibers)、気相成長炭素繊維(VGCF:vapor-grown carbon fibers)、カーボンウイスカー(carbon whiskers)、カーボンナノチューブ類(carbon nanotubes)、フラーレン類(fullerenes)、グラフェン類(graphenes)、単結晶ダイヤモンド(single crystalline diamond)、エピタキシャルダイヤモンド(epitaxial diamond)、等を挙げることができるが、これらに限定するものではない。単結晶黒鉛は、炭素原子の六員環(一部に五員環を含む場合も含まれる)が平面的に連なったハニカム形状の層(グラファイト層と言う)が、弱いファンデルワールス力で結合して層状構造を形成し、この層状構造が結晶の如く規則性をもって配列しており、グラファイト層の面(以下、グラファイト面と言う)が秩序よく同一の方向に向いている。HOPGは、単結晶黒鉛のような完全な結晶配向性ではないものの単結晶黒鉛に類似するような高い結晶配向性を有する黒鉛材料である。カーボンファイバー、カーボンナノファイバー、VGCF、及びカーボンウイスカーは、黒鉛の微結晶が繊維状に凝集しておりその繊維軸方向にグラファイト層が配向している黒鉛材料である。カーボンナノチューブ類は、分子の中心に円筒状の中空がありこの中空を覆うように一層乃至複数層の円筒状のグラファイト層で構成されている炭素材料である。フラーレン類は、炭素原子の六員環及び五員環から成る多面体形状の結晶性炭素材料である。グラフェン類は、分子が一層乃至数層の平面状のグラファイト層から構成されている炭素材料である。単結晶ダイヤモンドは、ダイヤモンドの結晶構造が途切れることなく連続しているダイヤモンドである。エピタキシャルダイヤモンドは、基板となる結晶の上にダイヤモンドの結晶を成長させた薄膜状のダイヤモンド結晶であり、その結晶成長が、下地の基板の結晶面に揃えて配列しているダイヤモンドである。上記本発明における結晶配向性炭素材料のうち、単結晶黒鉛は、通常、グラファイト面における熱伝導率の値が、1500Wm-1K-1、熱拡散率(熱容量当たりの熱伝導率)が、3.4m2h-1程度である。一方、熱伝導性の高い金属材料としてよく知られている銅の熱伝導率は、400Wm-1K-1であり、熱拡散率は、0.42m2h-1程度である。したがって、本発明における結晶配向性炭素材料のうち、単結晶黒鉛や単結晶黒鉛に準ずる結晶配向性を有するHOPG、カーボンファイバー、カーボンナノファイバー、VGCF、カーボンウイスカー、カーボンナノチューブ類、フラーレン類、及びグラフェン類は、ターゲットで発生する熱をグラファイト面に沿って速やかに伝導・拡散させるので、より好ましい。また、単結晶ダイヤモンドは、熱伝導率の値が、2300Wm-1K-1、熱拡散率が、4.6m2h-1程度である。したがって、本発明における結晶配向性炭素材料のうち、単結晶ダイヤモンドや結晶配向性が単結晶ダイヤモンドに準ずるエピタキシャルダイヤモンドは、ターゲットで発生する熱を等方的(3次元的)に速やかに伝導・拡散させるので、より好ましい。本発明における結晶配向性炭素材料は、通常、嵩密度が1.5gcm-3〜3.5gcm-3の範囲にあるものが使用可能である。本発明においては、嵩密度が1.5gcm-3未満の結晶配向性炭素材料は使用不可能ではないが、嵩密度が1.5gcm-3未満であると炭素原子と陽子及び中性子との衝突が不十分になることもあるので、嵩密度は1.5gcm-3以上であることが好ましい。また、嵩密度が3.5gcm-3を超えると常圧下における安定相はダイヤモンドであるので、物質として存在する炭素材料の嵩密度の最大値は3.5gcm-3程度である。本発明で用いる結晶配向性炭素材料は、従来の工業材料として用いられている結晶配向性炭素材料が使用可能であり、より高密度に改良された結晶配向性炭素材料はより好ましい。

本発明における炭素系材料は、通常、嵩密度が1.5gcm-3〜3.5gcm-3の範囲にあるものが使用可能である。本発明においては、嵩密度が1.5gcm-3未満の炭素系材料は使用不可能ではないが、嵩密度が1.5gcm-3未満であると炭素原子と陽子及び中性子との衝突が不十分になることもあるので、嵩密度は1.5gcm-3以上であることが好ましい。また、嵩密度が3.5gcm-3を超えると常圧下における安定相はダイヤモンドであるので、物質として存在する炭素系材料の嵩密度の最大値は3.5gcm-3程度である。本発明で用いる炭素系材料は、従来の工業材料として用いられている炭素系材料が使用可能であり、より高密度に改良された炭素系材料はより好ましい。

また、本発明における炭素系材料は、炭素材料の中の少なくとも等方性黒鉛材料及び結晶配向性炭素材料のいずれか一つの材料を含有する炭素系材料とすることができる。すなわち、炭素系材料の中で好ましい等方性黒鉛材料又は結晶配向性炭素材料をそれぞれ単独で用いることが可能であり、等方性黒鉛材料及び結晶配向性炭素材料を複合させて成る複合炭素系材料とすることも可能であり、等方性黒鉛材料又は結晶配向性炭素材料と他の炭素系材料を複合させて成る複合炭素系材料とすることも可能である。複合させるための等方性黒鉛材料及び結晶配向性炭素材料以外の炭素系材料は、一つでもよいし複数でもよい。このような炭素系材料としては、例えば、前記に挙げた多結晶ダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン、グラッシーカーボン(glassy carbon)、多孔性カーボン(porous carbon)、ポリアセチレン(polyacetylene)、カルビン(carbyne)、窒化炭素、炭化ケイ素、等を挙げることができるが、これらに限定するものではない。例えば、等方性黒鉛材料と他の炭素系材料の複合は、等方性黒鉛材料の成形体と他の炭素系材料の成形体の積層、等方性黒鉛材料と他の炭素系材料の混合、等方性黒鉛材料と他の炭素系材料の化合、等によって行うことができる。等方性黒鉛材料の成分比率は、特に限定するものではないが、通常50%以上である。こうすることによって、等方性黒鉛材料と他の炭素系材料の好ましい協働効果を与えることが可能である。例えば、等方性黒鉛材料と熱伝導性に優れたダイヤモンドやカーボンナノチューブ類の複合は、これらの材料を混合することによってターゲットの熱伝導性と熱拡散性をさらに向上させることが可能である。また、例えば、結晶配向性炭素材料と等方性黒鉛材料の複合は、これらの材料を交互に積層することによって、熱伝導を等方的にすることが可能である。

本発明における炭素系材料は、使用に際しての機械的強度等を向上させるために、所望に応じて、適宜、補強材の添加が可能である。補強材としては、放射化されにくい材料であることが好ましい。このような材料としては、例えば、エポキシ樹脂、ガラス繊維、各種のセラミック材料を挙げることができるが、これらに限定するものではない。

ターゲットで発生する中性子の平均エネルギーは、入射陽子のエネルギーの約5分の1であることが知られている(非特許文献1)。したがって、例えば、8MeVの陽子をベリリウム材料に衝突させて発生させる中性子の平均エネルギーは約1.6MeVであり、3MeVの陽子をリチウム材料に衝突させて発生させる中性子の平均エネルギーは約0.6MeVであることが予想される。この中性子の平均エネルギー値は、高速中性子のエネルギー範囲であるので、上記発生中性子をBNCT等の医療用に用いるためには、減速材によって熱中性子または熱外中性子のエネルギーにまで減速させる必要がある。軽水(H2O)、重水(D2O)、ベリリウム(Be)、酸化ベリリウム(BeO)、及び黒鉛(C)等の炭素系材料は、鉄などの鉄系金属、銅などの非鉄金属、及びタングステン等の重金属が中性子を減速する性質をほとんど示さないことに比べて、中性子減速比(中性子の減速能の値を中性子の吸収能で割った値であり、この値が大きいほど良い減速材である)が上記金属の減速比の1000倍以上大きいことから、原子炉等の中性子減速材として一般的に使用されている。中でも黒鉛材料等の炭素系材料は、軽水の中性子減速比よりも大きく、また中性子減速距離(高速中性子が減速して熱中性子になるまでの移動距離でありフェルミ年齢τcm2の平方根として与えられる)が、約20cmと比較的短いことから(軽水の中性子減速距離の約4倍、重水の中性子減速距離の約2倍)(非特許文献2)、本発明で用いる黒鉛材料等の炭素系材料は、本発明複合型ターゲットで発生する中性子をターゲット内で減速するための中性子減速材としても効果的に機能する。

また、黒鉛材料等の炭素材料は、水と同様の中性子透過性を有するものと予想されることから、黒鉛材料等の炭素材料中の中性子透過率(I/I0:入射中性子の強さに対する透過後の中性子の強さの比率)は、水の中性子透過率の測定データ(I/I0=10-0.08T、ここでTcmは中性子の透過距離であり、入射中性子は1MeVである)(非特許文献3)に基づき、例えば、黒鉛材料等の炭素材料の厚みを3cmとすると中性子透過率は、約60%であると見積もられるので、約40%の高速中性子の透過を抑止できることが予想される。したがって、例えば、本発明複合型ターゲットに用いる黒鉛材料等の炭素材料の厚みを20cm以上とすると、高速中性子の透過をほぼ完全に抑止し、熱中性子及び熱外中性子として得られることが予想される。

本発明における複合とは、三種類の異なる材料、本発明ではベリリウム材料、リチウム材料)、及び非金属材料のことである、を一体的に組み合わせることをいう。そして複合の具体的な態様としては、例えば、ベリリウム材料、リチウム材料、及び炭素系材料を積層させることによって一体化すること、これらの材料を混合することによって一体化すること、これらの材料を化合させることによって一体化すること、これらの材料を相溶化させることによって一体化すること、これらの材料を表面処理することによって一体化すること、片方の材料に片方の材料の微粒子を分散することによって一体化すること、片方の材料に片方の材料を接着することによって一体化すること、片方の材料に片方の材料を塗布することによって一体化すること、等を挙げることができるが、これらに限定するものではない。また、複合に際して、各材料間に組成傾斜構造を施すことができる。

本発明複合型ターゲットの材料構成の一つの例は、[ベリリウム材料−炭素系材料−リチウム材料−炭素系材料]の一体構成を有する複合型ターゲットである。この構成を有する複合型ターゲットは、該ベリリウム材料面を加速陽子の方向に向けることによってベリリウム材料中を通過時にベリリウム材料の閾値(約4MeV)を超える陽子によって中性子を発生させ、続いてベリリウム材料を通過した陽子がリチウム材料中を通過時にリチウム材料の閾値(約2MeV)を超える陽子によって更に中性子を発生させることが可能である。したがって、ベリリウムだけから成るターゲットよりもより多くの中性子を発生することが可能である。また、ベリリウム材料を通過した陽子によって発生する中性子には、トリチウムのような放射性の核反応物質が含有されないので、リチウムだけから成るターゲットよりも高品質の中性子を発生させることができる。

本発明複合型ターゲットの材料構成の一つの例は、複数個の[ベリリウム材料−炭素系材料の複合体]及び複数個の[リチウム材料−炭素系材料の複合体]を積層させた構成を有する複合型ターゲットである。この構成を有する複合型ターゲットは、前記の複合型ターゲットと同様にベリリウム材料だけから成るターゲットよりもより多くの中性子を発生させることが可能である。

本発明複合型ターゲットの材料構成の一つの例は、ベリリウム材料、リチウム材料、及び炭素系材料を混合することによって一体化した混合体とする複合型ターゲットである。この構成を有する複合型ターゲットは、ベリリウム材料による中性子発生とリチウム材料による中性子発生が同時系列的に起きるので、ベリリウム材料単独の場合の中性子発生量よりもより多くの中性子を発生することが可能である。

本発明複合型ターゲットにおいては、ベリリウム材料、リチウム材料、及び炭素系材料の複合によってこれらの材料の表面には界面が形成される。ターゲットで発生する熱の排熱は原理的に材料界面での熱伝導や熱拡散によって行われるので、本発明におけるベリリウム材料、リチウム材料、及び炭素系材料の複合は、好ましい。界面としては単純な平面形状や複雑な種々の形状が形成されるが、曲面形状や凹凸形状の界面は平面に比べて表面積が大きいので好ましい。例えば、粉末状のベリリウム材料や粉末状のリチウム材料と粉末状の炭素系材料の混合物を成形して作られるターゲットでは、該材料の粒径に依存して材料の比表面積をバルク状の材料の表面積よりも大きくすることができるので、材料界面での熱伝導性や熱拡散性を向上させることが可能である。例えば、ベリリウム材料やリチウム材料と炭素系材料の化合を含むターゲットでは、両材料の界面を介した直接的な熱伝導を行うことが可能である。また、ターゲットやターゲット材料の表面処理によってターゲット表面やターゲット材料の表面に曲面形状や凹凸形状を施すことが可能なので、これによってターゲットの表面積をその平面積よりも大きくすることが可能であり、材料界面での熱伝導性や熱拡散性を向上させることが可能である。このようにして、熱伝導や熱拡散によって速やかにターゲット表面に伝導された熱は、ターゲットの側面、内部、又は底面に設けられた間接的又は直接的な冷却機構によって、系外への実際上の排熱が可能になり、それによってターゲットの冷却が可能になるわけである。なお、上記ターゲットの比表面積とは単位質量の材料が有する表面積のことであり、ターゲットを構成するベリリウム材料、リチウム材料、及び炭素系材料の比表面積の総和である。また、ターゲットの平面積とはターゲットの表面をその平行面に投影した時の面積のことである。また、ベリリウム材料、リチウム材料、及び炭素系材料の複合による効果としてベリリウム材料やリチウム材料と炭素系材料の接着性の向上、界面における熱応力の緩和、界面における剥離の防止、系外への水素拡散の向上、等の効果が与えられる。

前記説明のように本発明複合型ターゲットはベリリウム材料やリチウム材料と炭素系材料の複合によってターゲットの比表面積をその平面積よりも大きくすることが可能である。積極的にターゲットの比表面積の拡大をはかるときのめやすは、好ましくはターゲットの平面積の2倍以上である。ターゲットの比表面積が平面積の2倍以上であればターゲット表面への熱伝導が速くなるのでターゲット表面に排熱のための大きな伝熱板を設けなくても効率的な排熱が可能であるので好ましい。例えば、ベリリウム材料やリチウム材料の表面にレーザーアブレーションなどの表面加工法を用いて凹凸形状や溝を施すことによって容易に比表面積を2倍以上にすることが可能である。粉末状のベリリウム材料やリチウム材料を粉末状の炭素系材料に分散させターゲット状に成形することによって比表面積を100倍程度大きくすることが可能である。また、触媒調整のための含浸法などを用いて炭素系材料の細孔にベリリウム材料やリチウム材料の微粒子を分散(又は担持ともいう)させることによって比表面積を1000倍程度大きくすることが可能である。

本発明複合型ターゲットの成形方法としては、例えば、ベリリウム材料やリチウム材料と炭素系材料を積層させてターゲットに成形する、ベリリウム材料やリチウム材料や炭素系材料の表面に凹凸形状を施しターゲットに成形する、粉末状のベリリウム材料やリチウム材料と粉末状の炭素系材料の混合物をターゲットに成形する、多孔性の炭素系材料にベリリウム材料やリチウム材料の微粒子を分散させこれをターゲットに成形する、粉末状の炭素系材料にベリリウム材料やリチウム材料をコーティングしこれをターゲットに成形する、ベリリウム材料やリチウム材料と炭素系材料を化合させることによって接着させこれをターゲットに成形する、等を挙げることができるがこれらに限定するものではない。例えば、ベリリウム材料やリチウム材料や炭素系材料の表面に凹凸形状を施したものをターゲットに成形することによってターゲットの比表面積を平面積の数倍程度大きくすることが可能である。また、粉末状の材料はバルク材料の比表面積よりも格段に大きいので、粉末状のベリリウム材料やリチウム材料と粉末状の炭素系材料の混合物をターゲットに成形することによってターゲットの比表面積を平面積の100倍程度向上させることが可能である。同様の理由により炭素系材料にベリリウム材料やリチウム材料の微粒子を分散させたものをターゲットに成形することによってターゲットの比表面積を平面積の1000倍程度大きくすることが可能である。また、ターゲット表面に溝や凹凸形状を施すことも可能である。これによって、ターゲットの表面積を大きくし、表面における過度の熱集中の抑制と熱応力による両材料の剥離を防止することが可能である。

本発明複合型ターゲットにおけるターゲット材料の複合の方法は、複合形態や用いる材料の種類や厚み等に応じて適宜決められるものであり、特定の加工方法に限定するものではない。例えば、ベリリウム材料と炭素系材料の積層による複合は、ホットプレス、HIP処理(熱間静水圧成形:Hot-Isostatic-Pressing)、蒸着等によって行うことができる。比較的厚いベリリウム材料と炭素系材料を積層する場合には、ホットプレスやHIP処理が好ましく、比較的薄いベリリウム材料と炭素系材料を積層する場合には、蒸着が好ましい。ベリリウム材料と炭素系材料のホットプレスは、通常、200℃〜常圧におけるベリリウム材料の融点までの温度下、103キロパスカル〜105キロパスカルの圧力下で行うことができ、HIP処理は、通常、100℃〜常圧におけるベリリウム材料の融点までの温度下、104キロパスカル〜106キロパスカルの圧力下で行うことができ、蒸着は、炭素系材料基板の温度が室温〜ベリリウム材料の融点までの温度下、10-3パスカル〜10-6パスカルの圧力下で行うことができる。例えば、ベリリウムと炭素系材料を900℃以上のHIP処理によって積層することによって、接合界面にベリリウムカーバイドを生じさせることができるので、これによって接着力を向上させることができる。また、例えば、リチウム材料と炭素系材料の積層による複合は、ホットプレス、HIP処理、蒸着等によって行うことができる。比較的厚いリチウム材料と炭素系材料を積層する場合には、ホットプレスやHIP処理が好ましく、比較的薄いリチウム材料と炭素系材料を積層する場合には、蒸着が好ましい。リチウム材料と炭素系材料のホットプレスは、通常、室温(23℃)〜常圧におけるリチウム材料の融点までの温度下、103キロパスカル〜105キロパスカルの圧力下で行うことができ、HIP処理は、通常、室温〜常圧におけるリチウム材料の融点までの温度下、104キロパスカル〜106キロパスカルの圧力下で行うことができ、蒸着は、炭素系材料基板の温度が室温〜リチウム材料の融点までの温度下、10-3パスカル〜10-6パスカルの圧力下で行うことができる。材料表面の凹凸処理は、例えばレーザーアブレーション、エッチング、鋳型成形、等の従来の方法によって可能である。ベリリウム材料やリチウム材料の炭素系材料へのコーティングは、例えばCVD法(化学蒸着法:chemical vapor deposition)によって可能である。ベリリウム材料やリチウム材料の微粒子の炭素系材料への担持は、例えば触媒調整のための含浸法によって可能である。CVD法によるコーティングは、例えば、気体状のベリリウム材料(又はリチウム材料)の前駆物質を不活性雰囲気中の高温下にある炭素系材料の表面に通過させ、前駆物質の熱分解によってベリリウム材料(又はリチウム材料)を析出させる方法によって行うことができる。含浸法によるベリリウム材料(又はリチウム材料)の微粒子の炭素系材料への担持は、例えば、ベリリウム材料(又はリチウム材料)の前駆物質の水溶液を多孔性の炭素系材料に含浸後、還元性雰囲気中で焼成することによってベリリウム材料やリチウム材料の微粒子を炭素系材料の細孔に担持させることによって行うことができる。材料の粉末化は、例えば機械的粉砕、凍結粉砕、プラズマ微粒化、スプレードライ法、等の従来の方法によって可能である。混合材料をターゲット形状に成形加工する際には必要に応じて適宜、バインダーや焼結助材を添加することが可能である。バインダーや焼結助材は、陽子、中性子による放射化を受けないような材料であることが好ましい。このようなバインダーや焼結助材としては、例えば、シリカ、シリカアルミナ等のセラミックス、ケイ酸塩、低融点ガラス等のペースト材料を挙げることができるが、これらに限定するものではない。

本発明複合型ターゲットの複合による成形体の作製は、上記と同様、複合形態や用いる材料の種類や厚み等に応じて適宜決められるものであり、特定の加工方法に限定するものではない。例えば、ベリリウム材料やリチウム材料と炭素系材料の複合体を複数個積層したターゲットは、炭素系材料上にベリリウム材料やリチウム材料を蒸着することによって作製されるシートや、炭素系材料に厚みの薄いベリリウム材料やリチウム材料を圧延接着して作成されるシートを、ベリリウム材料やリチウム材料と炭素系材料が交互に接するように積層し、ホットプレスやHIP処理等によってターゲット形状に圧着成形することによって作製することができる。また、上記複合体を複数個積層する際に、各層ごとの冷却を行うために各積層間に冷媒流路を有する炭素系材料の層を接合することも可能である。

本発明複合型ターゲットにおけるベリリウム材料及びリチウム材料の厚さは、陽子の衝突による中性子発生反応を炭素系材料にも分担させることが可能なので、特に限定するものではないが、ベリリウム材料やリチウム材料中での陽子の理論的飛程よりもかなり薄くすることができる。なぜなら、炭素系材料がベリリウム材料とリチウム材料の支持材及び冷却材として機能するからである。また、上記理由により各材料が負担する熱負荷を軽減されるからである。上記理論的飛程は、陽子の入射エネルギーと物質の阻止能によって計算できる。例えば、ターゲット材料がベリリウムの場合、11MeVの陽子のベリリウム中での理論的飛程は、約0.94mmであるので、従来のベリリウムだけから構成されているターゲットの場合には、1mm以上の厚みが必要であった。しかし、本発明ターゲットにおけるベリリウムは、1mmよりもかなり薄くすることが可能である。本発明ターゲットにおけるベリリウム材料がベリリウムである場合のベリリウムの厚さは、好ましくは、0.01mm以上であり1mm未満である。さらに好ましくは、ベリリウムの厚さは0.1mm以上であり0.5mm以下である。ベリリウムの厚さが0.01mm未満であると耐熱性が著しく低下するので0.01mm以上であることが好ましい。また、陽子の衝突による核反応の一部をベリリウムで分担させるためには、ベリリウムの厚さは1mm未満であることが好ましい。同様にしてターゲット材料がリチウムの場合、11MeVの陽子のリチウム中での理論的飛程は、約2mmであるので、従来のリチウムだけから構成されているターゲットの場合には、2mm以上の厚みが必要であった。しかし、本発明複合型ターゲットにおけるリチウム材料がリチウムである場合のリチウムの厚みは、2mmよりもかなり薄くすることが可能である。本発明複合型ターゲットにおけるリチウムの厚さは、好ましくは、0.01mm以上、1mm以下である。さらに好ましくは、0.05mm以上0.5mm以下である。リチウムの厚さが0.01mm未満であると耐熱性が低下するので0.01mm以上であることが好ましい。また、陽子の衝突による反応の一部をリチウムで分担させるためにはリチウムの厚さは1mm以下であることが好ましい。耐熱性を維持し、且つ陽子の衝突による核反応の一部をリチウムで分担させるためには、リチウムの厚さは0.05mm以上であり0.5mm以下であることがより好ましい。

本発明複合型ターゲットは、ベリリウム材料やリチウム材料に対する炭素系材料の厚さ方向の比率を限定するものではない。本発明複合型ターゲットは、当該比率を用いるターゲット材料や照射陽子の加速エネルギーに応じて適宜設定することができるが、通常は、炭素系材料の厚さをベリリウム材料やリチウム材料の厚さの10倍以上に設定する。この主な理由は、炭素系材料の中性子発生効率が、通常、ベリリウム材料やリチウム材料の中性子発生効率に比べて一ケタ以上小さいことによる。

本発明複合型ターゲットは、前記複合型ターゲットに真空シールを施すと共に冷媒流路を有する冷却機構を付帯する。ターゲットに真空シールを施すことの主な理由は、本発明ではターゲットへの陽子照射を真空下で行うので、真空下でのターゲットの取扱・操作を行うためである。また、真空シールを施すことによる副次的な効果としての大気に接触することによる酸化性の雰囲気での酸化劣化を防止するためである。上記真空シールは、複合型ターゲットが大気と接する部分だけのシールであってもよいし、あるいは複合型ターゲット全体のシールであってもよい。真空シールのためのシール材料は、特に限定するものではないが、軽金属材料や非金属材料は重金属類に比べて放射化されにくい性質を持つので好ましい。軽金属材料としては、例えば、マグネシウム、アルミニウム、スズ、亜鉛、ケイ素、これらの軽金属材料の合金、各種のセラミック材料、等を挙げることができるが、これらに限定するものではない。また、非金属材料としては、例えば、ガラス、エポキシ樹脂、ガラス繊維強化プラスチック、等を挙げることができるが、これらに限定するものではない。また、陽子線を照射する側のターゲット表面に炭素系材料層を施すことによって、中性子を発生するベリリウム層やリチウム層がターゲット表面から剥離する可能性を防止することができる。この場合、炭素系材料層の厚みは、陽子線の透過を大きく妨害しない程度の厚みであるのがよい。

また、本発明複合型ターゲットに冷媒の流路を有する冷却機構を付帯させる目的は、ターゲットで発生する熱を実際上、効率的に系外に排熱することによってターゲットを冷却するためである。上記冷却機構を複合型ターゲットに設ける箇所は、特に限定するもではなく、材料構成や必要とする冷却性能等に応じて適宜決められるものである。例えば、ベリリウム材料やリチウム材料と炭素系材料を積層させて成るターゲットの場合には、ターゲットの側部に冷却機構を設けることもできるし、ターゲットの底部に冷却機構を設けることもできるし、炭素系材料やベリリウム材料の内部に冷媒流路を施すこともできる。例えば、ベリリウム材料、リチウム材料及び炭素系材料を交互に積層させて成るターゲットの場合には、各層ごとの冷却を行うために、炭素系材料の内部に冷媒流路を施し、ターゲットの側部に共通の冷媒流路を有する冷却機構を設けることが好ましい。複合型ターゲットの側部に冷却機構を設ける場合には、必要に応じて熱伝導性の高い伝熱板を介して水冷することが可能である。複合型ターゲットの底部に冷却機構を設ける場合には、中性子による放射化の問題が殆ど生じないような材料を用いることが好ましい。このような材料としては、例えば本発明における炭素系材料を挙げることができる。冷媒流路に用いる冷媒としては、例えば、冷却水等の液体、ヘリウムガス等の熱伝導率の高い気体を用いるのが好ましい。また、本発明複合型ターゲットは、ターゲットと冷却機構が一体化したカートリッジ型構造とすることが可能である。こうすることによって、ターゲットで発生した熱を効率的に系外に排熱することが可能であり、ターゲットの劣化に際して、新品との着脱交換を遠隔操作によって簡易に行うことが可能である。また、これらの効果によって、本発明複合型ターゲットは、ターゲットの熱問題を解決し、ターゲット等の部材の放射化を低減しつつ低エネルギーの中性子を安定的に発生しうる。

陽子とターゲットの衝突による中性子発生方法においては、ターゲットで発生する熱を如何にして効率的に排熱するかが非常に重要である。通常、ターゲットの単位表面積当たりの熱負荷の最大値は陽子の出力をターゲットの表面積で割った値とみなされるので、ターゲット表面からの排熱能力は、ターゲットの熱負荷以上に設計しなければならない。例えば、BNCT等の医療用の中性子を発生させるために必要な陽子の出力は少なくとも30kW程度であると試算されているので、例えばターゲットの表面積が30cm2であるとすると熱負荷は10MWm-2にもなる。陽子の出力は、出力が高いほど中性子の発生線量が多くなるので、可能な限り高い値に設定することに越したことはないのであるが、従来は一種類のターゲット材料を用いていたので、例えば、出力30kWの陽子線を表面積30cm2のターゲット材料に照射する場合には、ターゲット材料表面の水冷による直接冷却が困難であるために、ターゲット材料よりも表面積の大きい金属製の伝熱板を介した冷却法が提案されている(特許文献6)。しかし、この方法ではリチウム等の融点の低い材料を用いた固体ターゲットの使用は殆ど困難であった。これに対して、前記説明のように、ベリリウム材料、リチウム材料、及び炭素系材料の複合に成る本発明複合型ターゲットは、炭素系材料による速やかな熱伝導及び熱拡散が可能であるので、陽子の出力を従来の出力値よりも大きくすることが可能であり、例えば100kW程度の出力の陽子でも使用可能である。本発明複合型ターゲットは、上記のようなターゲットの熱問題を解決するために非常に有効である。

本発明複合型ターゲットを用いて発生させることができる中性子は、熱中性子乃至熱外中性子を多く含む低エネルギー中性子である。低エネルギー中性子とは、有害且つ放射化能の高い高速中性子が低減された中性子のことである。高速中性子は、熱中性子又は熱外中性子に比べてエネルギーが二桁以上高いので生物学的に有害であり且つ放射化能が極めて高い。中性子の種類には、高速中性子(速中性子ともいう)、熱外中性子、熱中性子、及び冷中性子があるが、これらの中性子は、エネルギー的に明確に区分されているものではなく、炉物理、遮へい、線量計測、分析、医療などの分野によってエネルギー区分が異なる。例えば、原子力防災基礎用語によれば、「速中性子とは、中性子のうち、大きな運動量をもつものを速中性子(高速中性子)とよび、炉物理、遮へい、線量計測などの分野によってこの値は異なるが、0.5MeV以上を速中性子というのが一般的である」と記述されている。また、医療分野では、熱外中性子とは、1eV〜10keVの範囲の中性子というのが一般的であり、熱中性子とは、0.5eV以下の中性子というのが一般的である。本発明でいう低エネルギー中性子とは、0.5MeV以上の高速中性子が低減された中性子のことをいう。本発明で用いる加速エネルギーが2MeV以上4MeV以下の陽子を本発明複合型ターゲットに照射すると、平均エネルギーが0.3MeV程度の中性子を発生することができる。また、本発明で用いる加速エネルギーが4MeV以上8MeV以下の陽子を本発明複合型ターゲットに照射すると、0.5MeV以上の高速中性子の発生量を、従来のベリリウムだけのターゲットに比べて少なくとも30%程度低減可能である。

本発明複合型ターゲットを用い、これに2MeV以上11MeV未満の陽子を真空下で衝突させることによって中性子を発生させることが可能である。真空下で陽子を複合型ターゲットに衝突させるのは、照射陽子の強度低下の防止や大気汚染防止のためである。したがって高真空であることに越しこしたことはないのであるが、通常、真空度は、10-4パスカル〜10-8パスカルの範囲である。また、照射陽子の加速エネルギーを2MeV以上11MeV未満とするのは、高速中性子が低減された低エネルギー中性子を発生させるためである。上記陽子の加速エネルギーは、本発明複合型ターゲットを構成しているターゲット材料の種類によって適宜設定する必要がある。ベリリウム材料を多く含む複合型ターゲットを用いる場合の照射陽子の加速エネルギーは、好ましくは4MeV以上11MeV以下であり、さらに好ましくは6MeV以上8MeV以下である。それは、9Be(p,n)反応の閾値が約4MeVであるので、陽子の加速エネルギーが4MeV未満であると中性子の発生効率が著しく低下するので、本発明において使用する陽子の加速エネルギーは4MeV以上であることが好ましいからである。また、陽子の加速エネルギーが11MeVを超えるとターゲット等の部材の放射化が著しくなるだけでなく高速中性子の発生が多くなるので、陽子の加速エネルギーは11MeV以下であることが好ましい。有害且つ放射化能の高い高速中性子が低減された低エネルギー中性子を発生させるためにより好ましい陽子は、6MeV以上8MeV以下である。また、リチウム材料を多く含む複合型ターゲットを用いる場合の照射陽子の加速エネルギーは、好ましくは2MeV以上4MeV以下である。それは、6Li(p,n)又は7Li(p,n)反応の閾値が約2MeVであるために陽子の加速エネルギーが2MeV未満であると中性子の発生効率が著しく低下するので、本発明において使用する陽子の加速エネルギーは2MeV以上であることが好ましいからである。また、陽子の加速エネルギーが4MeVを超えるとターゲット等の部材の放射化が著しくなるだけでなく高速中性子やトリチウム等の放射性核反応物質の発生が多くなるので、陽子の加速エネルギーは4MeV以下であることが好ましいからである。有害且つ放射化能の高い高速中性子や放射性核反応物質が低減された低エネルギー中性子を発生させるためにより好ましい陽子は、2MeV以上4MeV以下である。

本発明複合型ターゲットと、陽子発生のための水素イオン発生部と、水素イオン発生部で発生する陽子を加速するための加速器と、加速器によって加速された陽子をターゲットに照射するための陽子照射部とを備えた中性子発生装置によって中性子を発生することが可能である。前記水素イオン発生部は、水素イオンを発生させるための水素イオン発生器を設けている。水素イオン発生器は、特に限定するものではなく、従来の水素イオン発生器を用いることができる。発生水素イオンは、陽子を加速するための加速器に送られる。前記加速器として線形加速器を設け、前記ターゲットとして本発明複合型ターゲットを用い、複合型ターゲットを前記陽子照射部に配置した中性子発生装置とすることができる。前記加速器として線形加速器を用いる理由は、BNCT等の中性子治療のためには、熱中性子乃至熱外中性子の発生量を多くするほうがよいので、そのためには、陽子の加速エネルギーを低くする一方、大電流の陽子を発生させることができる線形加速器が非常に適しているからである。従来は、加速器としてシンクロトンやサイクロトロンのような大型の加速器を用いていたために陽子の加速エネルギーを非常に高く設定する一方、陽子の電流は低く設定していたのであるが、この種の加速器では高速中性子の発生が多くなる一方、中性子線量が低くなるので、好ましくなかった。

前記線形加速器は、直線加速器であれば、特に限定するものではなく、従来の直線加速器を用いることができる。このような直線加速器として、例えば、高周波四重極線形加速器(RFQライナック)、静電直線加速器、常伝導直線加速器、超伝導直線加速器、DTL(Drift Tube Linac)等を挙げることができる。RFQライナックは、静電加速器に比べて小型の装置で大電流の陽子を発生することができるだけでなく、ガンマ線、X線等の放射線の発生が非常に少ないので、静電直線加速器よりも好ましい。また、RFQライナックの後ろにDTLを連結することによって、電磁石で陽子の集束を行いながら低−中エネルギー領域の陽子をさらに加速することができる。前記線形加速器として、陽子を2MeV以上11MeV未満の範囲に加速することができる線形加速器は、比較的小型の直線加速器によって有害且つ放射化能の高い高速中性子が低減された低エネルギーの中性子を発生させるために非常に有効である。前記陽子照射部は、加速器によって加速された陽子をターゲットに照射するためであり、中性子を発生させるためのターゲットと、通常、陽子の集束・拡散・走査や陽子エネルギーの分級等を行うための陽子ビームの調整手段が設けられている。該陽子照射部は、特に限定するものではなく、従来の四重極電磁石又は偏向電磁石を備える陽子照射部を用いることができる。

また、本発明複合型ターゲットに衝突させる陽子の発生源として従来のシンクロトロンやサイクロトロンに比べると飛躍的に小型の加速器である線形加速器を用いることが可能であるので、本発明複合型ターゲットを小規模の医療機関に設置可能な小型線形加速器に設けることによってBNCT等の医療用中性子を発生することが可能である。

以下に図面を参照しつつ本発明の一側面を実施の形態(以下、「本実施形態」とも表記する)として詳細に説明する。

図1に示す本実施形態に係る複合型ターゲット10は、ターゲット部分3が[ベリリウム材料4−炭素系材料6−リチウム材料5−炭素系材料6]の構成を有し、これに真空シール7と冷媒流路8を有する冷却機構9を付帯している複合型ターゲット10である。このタイプの複合型ターゲットは、例えば、以下のようにして作成することが可能である。すなわち、ターゲット部分3は、[ベリリウム材料4と炭素系材料6の複合体1]と[リチウム材料5と炭素系材料6の複合体2]を窒素ガス等の不活性ガス雰囲気中、材料の融点以下の温度下、104キロパスカル〜106キロパスカルの圧力下で圧着することによって作製することができる。また、ターゲット部分3は、例えば、ベリリウム材料4、炭素系材料6、リチウム材料5、及び炭素系材料6をこの順番に重ね合わせ、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気中、材料の融点以下の温度下、104キロパスカル〜106キロパスカルの圧力下で圧着することによって作製することもできる。

図1において、[ベリリウム材料4と炭素系材料6の複合体1]は、[ベリリウム材料4と炭素系材料6の張り合わせ体]とすることができる。同様にして、[リチウム材料5と炭素系材料6の複合体2]は、[リチウム材料5と炭素系材料6の張り合わせ体]とすることができる。ベリリウム材料4としては、例えば厚さ0.1mm〜0.5mmのベリリウムフィルムを用い、リチウム材料5としては、例えば厚さ0.05mm〜0.5mmのリチウムフィルムを用い、炭素系材料6としては、例えば直径165mm×厚さ30mmの等方性黒鉛材料またはHOPGの板状体を用い、これらを圧着することによって作製することができる。真空シール7は、複合型ターゲットの表面に例えば厚さ0.1mmのアルミニウム箔を窒素ガス等の不活性ガス雰囲気中、材料の融点以下の温度下、104キロパスカル〜106キロパスカルの圧力下で圧着することによって施すことができる。次に、冷媒流路8を有する冷却機構9として例えば円筒型の水冷ジャケットを複合型ターゲットの側部にろう付けすることによって冷却機構が一体化した複合型ターゲット10を作製する。ベリリウム材料としては、ベリリウム、酸化ベリリウム、ベリリウムガラス、ベリリウムガラスセラミック等が好ましく、リチウム材料としては、リチウム、酸化リチウム、リチウムガラス、リチウムガラスセラミック等が好ましく、炭素系材料としては、等方性黒鉛材料(isotropic graphite materials)、単結晶黒鉛、HOPG、カーボンファイバー、単結晶ダイヤモンド、エピタキシャルダイヤモンド、炭化ケイ素等が好ましい。

図2に示す本実施形態に係る複合型ターゲット12は、ターゲット部分が、ベリリウム材料、リチウム材料、及び炭素系材料の混合物の一体成型体11からなる複合型ターゲットであり、該一体成型体11に真空シール7が施されていると共に冷媒流路8を有する冷却機構9を付帯している複合型ターゲットである。このタイプの複合型ターゲットは、例えば、以下のようにして作成することが可能である。すなわち、ベリリウム材料、リチウム材料、及び炭素系材料の混合物を窒素ガス等の不活性ガス雰囲気中、材料の融点以下の温度下、104キロパスカル〜106キロパスカルの圧力下で一体成型することによって作製することができる。例えば、粉末状のベリリウム(例えば平均粒径10ミクロン)、粉末状のリチウム(例えば平均粒径10ミクロン)、及び粉末状のカーボンナノチューブ(例えば平均粒径10ミクロン)の混合物(例えば各材料の質量比1:1:100)を窒素ガス等の不活性ガス雰囲気中、材料の融点以下の温度下、104キロパスカル〜106キロパスカルの圧力下で一体成型することによって作製することができる。この成形によってベリリウム成分とリチウム成分の比表面積を約100倍大きくすることが可能である。次に、真空シール7及び冷却機構9を図1の複合型ターゲットと同様な方法で上記一体成形体に設けることによって、冷却機構が一体化した複合型ターゲット12を作製することができる。このタイプの複合型ターゲットは、ベリリウム材料、リチウム材料、及び炭素系材料の粒子を小さくするほど材料の比表面積が増大するので図1の複合型ターゲット10よりもさらにターゲット内の熱伝導面積を増大できるという効果がある。

図3に示す本実施形態に係る複合型ターゲット13は、ターゲット部分3が図1の複合型ターゲット10のターゲット部分と同じ構成を有し、このターゲット部分3に真空シール7と冷媒流路8を有する冷却機構9を付帯している複合型ターゲットであるが、ターゲット部分3の内部に独立の冷媒流路8が設けられている複合型ターゲットである。このタイプの複合型ターゲットは、例えば、以下のようにして作成することが可能である。すなわち、ターゲット部分3は、図1の複合型ターゲット10の場合と同様の方法により作製する。ターゲット部分3の内部の独立の冷媒流路8は、例えば、使用する炭素系材料の側面に予め冷媒流路を切削することによって施すことができる。次に、真空シール7及び冷却機構9は、図1の複合型ターゲット10の場合と同様の方法でターゲット部分3に設けることによって冷却機構が一体化した複合型ターゲットを作製することができる。このタイプの複合型ターゲットは、複合型ターゲットの側部に設けた冷却機構に加えて複合型ターゲットの内部にも独立の冷媒流路を有するので、図1及び図2の複合型ターゲットの冷却機構よりも更に冷却能力を向上させることが可能である。

図4に示す本実施形態に係る複合型ターゲット14は、ターゲット部分3が図1の複合型ターゲット10のターゲット部分と同じ構成を有し、このターゲット部分3に真空シール7と冷媒流路8を有する冷却機構9を付帯している複合型ターゲットであるが、ターゲット部分3の内部に設けた冷媒流路8が冷却機構9の冷媒流路8に連結されている複合型ターゲットである。このタイプの複合型ターゲットは、例えば、以下のようにして作成することが可能である。すなわち、ターゲット部分3は、図1の複合型ターゲット10の場合と同様の方法により作製する。ターゲット部分3の内部の冷媒流路8は、使用する炭素系材料の内部に予め冷却機構9に連結する冷媒流路を切削することによって施すことができる。次に、真空シール7及び冷却機構9は、図1の複合型ターゲット10の場合と同様の方法でターゲット部分3に設けることによって冷却機構が一体化した複合型ターゲットを作製することができる。このタイプの複合型ターゲットは、複合型ターゲットの側部に設けた冷却機構9に加えて複合型ターゲットの内部にも冷却機構9と連結している冷媒流路を有するので、ターゲット内部を水冷することが可能である。したがって、図3の複合型ターゲットの冷却機構よりもさらに冷却能力を向上させることが可能である。

図5に示す実施の形態に係る複合型ターゲット15は、ターゲット部分16が、図1と同様に[ベリリウム材料4−炭素系材料6−リチウム材料5−炭素系材料6]の構成を有するが、[ベリリウム材料4−炭素系材料6の複合体1]及び[リチウム材料5−炭素系材料6の複合体2]の部分がそれぞれ複数個の複合体で構成されている構造を有し、このターゲット部分16に真空シール7と冷媒流路8を有する冷却機構9を付帯している複合型ターゲットである。そして、図4のターゲット部分3と同様に、ターゲット部分16の内部にも冷媒流路8が設けられており、この冷媒流路と冷却機構9の冷媒流路8とが連結されている複合型ターゲットである。

図5のタイプの複合型ターゲットは、例えば、以下のようにして作成することが可能である。すなわち、ターゲット部分16は、図1の複合型ターゲット10の場合と同様の方法により複数個の[ベリリウム材料4と炭素系材料6の複合体1]と複数個の[リチウム材料5と炭素系材料6の複合体2]を重ね合わせ、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気中、材料の融点以下の温度下、104キロパスカル〜106キロパスカルの圧力下で圧着することによって作製することができる。ターゲット部分16の内部の冷媒流路8は、図4の複合型ターゲット14の場合と同様の方法により、使用する炭素系材料の内部に予め冷媒流路を切削することによって施すことができる。次に、真空シール7及び冷却機構9を図1の複合型ターゲット10の場合と同様の方法でターゲット部分16に設けることによって冷却機構が一体化した複合型ターゲット15を作製することができる。このタイプの複合型ターゲットは、ターゲット材料の積層枚数に比例してターゲット材料の伝熱面積を大きくすることができるので図1〜3の複合型ターゲットよりも迅速に発生熱を冷却機構に伝達することが可能である。また、図4の複合型ターゲットと同様に複合型ターゲットの内部にも冷却機構9と連結している冷媒流路を有するので、ターゲット内部を水冷することが可能である。したがって、図4の複合型ターゲットの冷却機構よりもさらに冷却速度を向上させることが可能である。

図6は、本発明複合型ターゲットを用いる中性子発生方法を説明する概略図である。本発明複合型ターゲット14に所定の加速エネルギー(2MeV以上11MeV未満)を有する陽子30を真空下で衝突させることによって低エネルギーの中性子31を発生させる中性子発生方法である。

図7は、本発明複合型ターゲットを用いる中性子発生装置を説明する概略図である。該中性子発生装置は、水素イオン発生部17、線形加速器18、陽子照射部19、及び複合型ターゲット20を備えた陽子照射部19がフランジ21を介して連結している中性子発生装置である。水素イオン発生部17には水素イオン発生器が設けられており、発生水素イオン22は、線形加速器18に導入され、加速され加速陽子23になる。加速陽子23は、所定のエネルギーまで加速され、陽子照射部19に導入され、照射陽子24になり、複合型ターゲット20に衝突させて、低エネルギーの中性子25を発生させる。上記線形加速器18は、2Me以上11Me未満の陽子を発生することができる直線加速器であれば特に限定するものではない。また、陽子照射部19には、通常、四重極電磁石又は偏向電磁石が設けられる。

図8は、ベリリウム(又はリチウム)26が金属材料製の支持体27に付着しており、金属材料製の支持体に冷媒流路8を有する冷却機構9を設けている従来タイプのターゲットである。

次に、本発明複合型ターゲット及び従来タイプのターゲットに陽子を照射した場合のターゲット材料の溶融の有無及び放射化の有無は、下記の熱計算及び放射化の理論計算によって予想することが可能である。前提条件として、本発明複合型ターゲット及び従来タイプのターゲットに10-6パスカルの真空下、出力30kW−2MeV〜8MeVの加速陽子を照射するものとした。ターゲットの冷却は、ターゲットが付帯する水冷ジャケットに約5℃の水を毎秒2mの流速で毎分20リットル導入して行うものとした。これは、冷却能力に換算すると約100kWに相当する。

[熱計算によるターゲット材料の溶融の有無の予想] 熱計算によってターゲットで発生する熱によるベリリウム材料(又はリチウム材料)の溶融の有無を予想する。ターゲットで発生する熱と熱伝導材料によって逸散される熱の熱収支バランスは、数1によって与えられる。

数1において、左項はターゲットで発生する単位時間当たりの発熱量であり、右項はターゲットに接する熱伝導材料を通して逸散される熱量である。κは熱伝導材料の熱伝導率(Wm-1K-1)であり、Sはターゲットの伝熱面積(m2)であり、αは熱伝導材料の温度勾配(Km-1)である。数1からαは、数2によって与えられる。

数2において、Qの値は、陽子の出力に等しいとする。また、κの値は、個々の熱伝導材料についての値を代入する。今、陽子の出力が30kW、Sが1m2とすると、αの値は、熱伝導材料が金属銅(κ=400Wm-1K-1 )の場合には75Km-1、等方性黒鉛材料(κ=750Wm-1K-1 )の場合には40Km-1、単結晶黒鉛材料又はHOPG(κ=1500Wm-1K-1)の場合には20Km-1、単結晶ダイヤモンド又はエピタキシャルダイヤモンド(κ=2300Wm-1K-1)の場合には13Km-1となる。従来タイプのターゲットはベリリウム(又はリチウム)を金属板に張り付けたものであるので、ターゲットの伝熱面積を大きくすることに限界があり、伝熱面積は、精々200cm2程度である。したがって従来タイプのターゲットの場合のαの値は、3750Km-1(又は37.5Kcm-1)となる。この数値は、熱源の中心(又はターゲットの中心)から1cmほど離れた熱伝導材料中の位置での温度差であるので、例えば、直径165mmの円盤形状のターゲット(伝熱面積:約200cm2)の側面に冷却機構を設ける場合には、熱源と冷却機構の冷媒との温度差(△T)が約309度になる。すなわち、中性子発生材料としてリチウムを用いた従来のターゲットの場合には、熱源の中心温度がリチウムの融点(約180℃)を遥かに超えるのでリチウムの溶融が起きることが予想される。また、中性子発生材料としてベリリウムを用いた従来のターゲットの場合でも25分間冷却が止まるとベリリウムの融点(1278℃)を超えるのでベリリウムの溶融が起きることが予想される。一方、本発明複合型ターゲットのターゲット材料として上記等方性黒鉛材料、単結晶黒鉛材料、HOPG、単結晶ダイヤモンド、エピタキシャルダイヤモンドなどの高い熱伝導率を有する炭素系材料を用い、直径165mmの円盤形状のターゲットの側面に冷却機構を設ける場合には、数2に各材料の熱伝導率を代入し、上記と同様な計算を行うと、等方性黒鉛材料の場合には△T=165度、単結晶黒鉛材料又はHOPGの場合には△T=82.5度、単結晶ダイヤモンド又はエピタキシャルダイヤモンドの場合には△T=53.6度となる。したがって、ベリリウム(又はリチウム)の溶融は起こらないことが予想される。また、本発明は、ターゲットの伝熱面積S(m-2)を従来のターゲットよりも数倍以上乃至1000倍程度大きくすることが可能であるので、伝熱面積の大きさに反比例して温度勾配αを小さくし、熱源と冷却機構の冷媒との温度差△Tを小さくすることが可能である。また、こうすることによって従来のターゲットを用いる中性子発生方法では困難であった陽子の出力を飛躍的に大きくすることが可能である。

次に、ターゲット内部の温度の時間変化の様子は、数3の熱伝導方程式によって予想できる。便宜上、一次元の偏微分方程式を用いる。

数3における、Tは温度、tは時間、xは位置、cは熱拡散率である。数3を解くと、数4の一般解が得られる。

数4は、熱の緩和過程が振動で表されることを意味する。数4に境界条件を入れると、ターゲットの温度が一様になるまでの緩和時間τが数5によって与えられる。

数5における、λは波長(又は温度の不均一の幅)である。λがターゲットの半径程度であるとすると、τの値は、熱伝導材料が金属銅(c=0.42m2h-1)である場合には1.5秒程度となるので、熱伝導材料が金属銅の場合には、スポット発熱が起きると熱平衡に達する前にターゲット材料が溶融する可能性がある。一方、本発明複合型ターゲットのターゲット材料として上記のような高熱伝導率の炭素系材料を用いる場合には、ミリセカント以内に熱平衡に達するので、スポット発熱が起きても溶融の可能性は少ないことが予想される。

[理論計算によるターゲット材料の放射化の有無の予想] ターゲット材料の放射化の有無を予想するための理論計算を行う。該理論計算は、中性子核反応の核反応断面積のデータであるJENDL-4.0(非特許文献4)と核反応のQ値(核反応前後の静止質量エネルギーの差をQ値という)を用いる計算手法(非特許文献5)に従って行う。計算結果の概略を以下に説明する。(1)8MeV陽子とベリリウムの衝突によって生じる核反応は、9Be(p,γ)10B、9Be(p,n)9B、9Be(p,pn)8Be、9Be(p,α)6Li、9Be(p,2n)8B、9Be(p,pn)8Be、及び9Be(p,2p)8Liであり、これらの放射性核種の半減期は短く(1秒以下)、又これらの放射性核種の実効線量当量率定数Γe(放射化によるガンマ線の放出の程度を示す尺度:μSvm2MBq-1h-1)は、ゼロである。(2)6MeV以下の中性子とベリリウムの衝突によって生じる核反応は、9Be(n,γ)10Be、9Be(n,2n)8Be、及び9Be(n,α)6Heであり、これらの放射性核種の半減期は短く(1秒以下)、又これらの放射性核種の実効線量当量率定数Γeは、ゼロである。なお、中性子の加速エネルギーを6MeV以下としたのは、8MeV陽子とベリリウムの衝突によって発生する中性子の最大エネルギーが6.1MeVであることによる。(3)3MeV陽子とリチウムの衝突によって生じる核反応は、6Li(p,γ)7Be、6Li(p,α)3He、7Li(p,γ)8Be、7Li(p,n)7Be、及び 7Li(p,α)4Heであり、これらの放射性核種のなかで7Be以外の放射性核種の半減期は短く、また7Be以外の放射性核種の実効線量当量率定数Γeは、ゼロ又は0.00847である。(4)3MeV中性子とリチウムの衝突で生じる核反応は、6Li(n,γ)7Li、6Li(n,p)6He、6Li(n,t)4He、6Li(n,α)3H、及び 7Li(n,γ)8Liであり、これらの放射性核種のなかでトリチウム(t又は3H)以外の放射性核種の半減期は短く、またトリチウム以外の放射性核種の実効線量当量率定数Γeは、ゼロ又は0.00847である。(5)6MeV中性子と周期律表における0族元素、及び1族元素〜18族元素の各元素との衝突によって比較的長い半減期と比較的高い実効線量当量率定数Γeを有する放射性核種を生じる元素は、Sc、Ti、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ptである。これらの中で、鉄材の放射化によって生成する放射性核種は、54Fe(n,p)54Mn(54Mnの半減期312days,Γe0.111)、54Fe(n,α)51Cr(51Crの半減期27.7days,Γe0.0046)、56Fe(n,p)56Mn(56Mnの半減期2.58hours,Γe0.203)、及び58Fe(n,γ)59Mn(59Mnの半減期44.6days,Γe0.147)であり、銅材の放射化によって生成する放射性核種は、63Cu(n,γ)64Cu(64Cuの半減期12.7hours,Γe0.0259)、63Cu(n,γ)60Co(60Coの半減期5.27years,Γe0.305)、及び 65Cu(n,p)65Ni(65Niの半減期2.52hours,Γe0.0671)である。

上記放射化の理論計算の結果を表1に纏める。

次に、図1〜5の各複合型ターゲット及び図8の従来タイプのターゲットについて、ターゲット材料の溶融の有無及び放射化の有無を上記の熱計算及び放射化の理論計算の結果から導くことができる。前提条件として、出力30kW−2MeV〜8MeVの加速陽子をターゲットに照射するものとする。図1〜5の複合型ターゲットは、ベリリウム材料としてベリリウムを用い、リチウム材料としてリチウムを用い、炭素系材料として等方性黒鉛材料又はHOPGを用いた直径165mm×厚み30mmの複合型ターゲットであり、該複合型ターゲットの表面にアルミニウムの真空シールを施し、該円筒型ターゲットの側部に円筒型の水冷ジャケットを設けている複合型ターゲットである。図5の複合型ターゲットのターゲット材料の積層枚数は5枚である。上記円筒型の水冷ジャケットには、5℃の冷却水を毎秒2の流速で毎分20リットル流す。これは、冷却能力に換算すると約100kWに相当する。また、図8の従来タイプのターゲットは、直径165mmの銅板にベリリウム又はリチウムを付着させたターゲットであり、これに上記と同じ円筒型の水冷ジャケットを取り付けたターゲットとする。その結果を表2に示す。

次に、本発明複合型ターゲットを図7に示すような中性子発生装置に取り付け、図6に示すような中性子発生方法により該ターゲットに陽子を照射し、ターゲット材料の溶融の有無及び放射化の有無を調べることができる。複合型ターゲットとして、上記熱計算及び放射化の理論計算に用いたものと同様の複合型ターゲットを用いる。該複合型ターゲットを直線加速器の先端部分に設けた陽子照射部に陽子の進行方向に対して垂直になるようにフランジを介して取り付ける。該ターゲットに出力30kW−2MeV〜8MeVの加速陽子を10-6パスカルの真空下で衝突させる。上記加速陽子は、RFQライナックとDTLを連結することによって発生させる。ターゲットの冷却のために水冷ジャケットに約5℃の水を毎秒2mの流速で毎分20リットル導入する。これは、約100kWに相当する冷却能力である。照射時間は約1時間である。実験後に装置を停止し、さらに1日放置後に、放射化の有無についてはサーベイメーターを用いて調べ、溶融の有無については目視観察する。その結果を表3に示す。

比較のために、図8に示すような従来タイプのターゲットを上記と同様の中性子発生装置に取り付け上記と同様の実験を行う。その結果を表3に示す。

以上のように、本発明は、陽子をターゲットに衝突させて中性子を発生させるための新規のターゲットである。以上までにおいて説明した実施の形態のように、ターゲットがベリリウム材料、リチウム材料、及炭素系材料を複合して成るターゲットであるので、有害且つ放射化能の高い高速中性子が低減された低エネルギーの中性子の発生が可能であること、ターゲットで発生する熱の排熱が容易であること、冷却機構がターゲットに付帯されているので効率的な冷却が可能であること、ターゲットと冷却機構とが一体化したカートリッジ型構造とすることが可能であるので、このターゲットを陽子照射部の先端部分に設け、ターゲットの劣化に際して新品との着脱交換を遠隔操作によって簡易にできるという特長を有する。

また、上述の通り、本発明複合型ターゲットの構成材料である炭素系材料は、中性子減速効果を備えうるので、高速中性子の発生が低減される。これにより、以上までにおいて説明した実施の形態では、発生中性子を減速するための減速機構を小型化することが可能である。

また、照射陽子の加速エネルギーが2MeV以上11MeV未満の比較的低エネルギーの陽子であるので、陽子によるターゲット等の部材の放射化が著しく低減されること、有害な高速中性子の発生が抑制されること、加速陽子を小型の線形加速器で発生可能であること、等の効果が得られる。

したがって、本発明複合型ターゲットは小規模の医療機関に設置可能なBNCT等の医療用の中性子を発生するための医療用中性子発生装置の中性子源として有効である。

以上の結果から、本発明複合型ターゲットは、従来タイプのターゲットよりも熱安定性が高くターゲット材料の放射化を低減することが可能である。

本発明複合型ターゲットは、ベリリウム材料、リチウム材料、及び非金属材料を複合して成る複合型ターゲットであるので陽子及び中性子による部材の放射化を低減できる、従来よりも比較的低エネルギーの陽子を用いることができるので高速中性子の生成を低減できる、ベリリウム材料、リチウム材料、及び非金属材料の複合化によってターゲットの熱問題を解決することができる、該ターゲット部分と冷却機構が一体化したカートリッジ型構造の複合型ターゲットは、ターゲットで発生する熱の系外への効率的な排熱が可能であり、ターゲットの劣化に際して新品との着脱交換を遠隔操作によって安全・簡易に行うことができる、等の特徴を有する。また、本発明複合型ターゲットを用いた中性子発生方法、及び中性子発生装置によって、小型の直線加速器を用いて低エネルギーの中性子を安定的に生成可能であるので、本発明複合型ターゲットは、BNCT等の医療用中性子を生成するうえで非常に有益である。また、本発明複合型ターゲットは、独立した部品として構成することができるものである。

1 複合体 2 複合体 3 ターゲット部分 4 ベリリウム材料 5 リチウム材料 6 炭素系材料 7 真空シール 8 冷媒流路 9 冷却機構 10 複合型ターゲット 11 ベリリウム材料、リチウム材料、及び炭素系材料の混合物の一体成型体 12 複合型ターゲット 13 複合型ターゲット 14 複合型ターゲット 15 複合型ターゲット 16 ターゲット部分 17 水素イオン発生部 18 線形加速器 19 陽子照射部 20 複合型ターゲット 21 フランジ 22 水素イオンの流れ 23 加速陽子の流れ 24 照射陽子の流れ 25 発生中性子の流れ 26 ベリリウム(又はリチウム) 27 金属製支持体 30 陽子の流れ 31 中性子の流れ

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