中性子発生用ターゲット

申请号 JP2013234078 申请日 2013-11-12 公开(公告)号 JP6355011B2 公开(公告)日 2018-07-11
申请人 田中貴金属工業株式会社; 株式会社CICS; 发明人 塩田 重雄; 中村 勝;
摘要
权利要求

基板上にパラジウム層とリチウム層がコーティングされてなり、 前記リチウム層表面に荷電粒子を照射することにより中性子を発生させる中性子発生用ターゲットであって、 前記パラジウム層と前記リチウム層との間に、パラジウム及びリチウムの双方に対して共晶合金を形成しない金属からなるバリア層を備え、 前記バリア層は、銅、鉄、ニッケル、コバルト、チタン、ジルコニウムの金属又はこれらの合金からなり、 前記バリア層は、その厚さが0.5〜5μmであることを特徴とする中性子発生用ターゲット。請求項1に記載の中性子発生用ターゲットに用いられる構造体であって、 基板、前記基板上に形成されたパラジウム層、更に、前記パラジウム層上に形成され、パラジウム及びリチウムの双方に対して共晶合金を形成しない金属からなるバリア層、よりなる中性子発生用ターゲット用の構造体。

说明书全文

本発明は、中性子発生用ターゲットに関する。詳しくは基板上にパラジウム層及びリチウム層を有し、リチウム層へのプロトン照射により中性子を発生する中性子発生用ターゲットであって、耐久性に優れ中性子発生能を長期に維持することのできるものに関する。

新たな癌治療方法として、近年、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)に代表される中性子を利用した治療方法の実用化が期待されている。この治療法は、中性子(熱中性子)に対して反応性を有するホウ素薬剤をがん細胞に予め取り込ませ、中性子を患部に照射することで、正常細胞の損傷を抑えつつ、がん細胞のみを選択的に死滅させることができるという利点がある。

中性子捕捉療法は、上記の通り、中性子を利用するものであることから、その治療設備は原子炉施設内に配されるのが一般的である。しかし、原子炉施設は医療施設と相違するものであり、患者の取扱い等の観点から利便性に乏しく、その普及の障害となっている。

そこで、原子炉に頼ることなく中性子を発生・利用できる中性子発生装置についての研究がなされている。この中性子発生装置としては、加速器と加速器から発生するプロトン等の荷電粒子の照射を受けて中性子を発生させるターゲットを主要な構成とする。

中性子発生装置の中性子発生用ターゲットは、中性子の発生源としてリチウム等の金属層を備え、このリチウム層へ高エネルギーの荷電粒子を衝突させることで核破砕反応が生じ中性子が放射される。中性子発生用ターゲットは、板状のものから、特許文献1に記載されたような円錐形状のものが知られている。特許文献1の中性子発生用ターゲットは、照射された荷電粒子により発生する中性子を効果的に放出できるよう、計算された度を有する円錐形状で形成されている。

図1は、中性子発生用ターゲットの断面構造を示すものである。中性子発生用ターゲットの構成は、基板上にプロトン照射面であるリチウム層がコーティングされている。基板は銅で製造されることが多い。尚、基板の裏側には、核破砕反応による発熱とリチウムの融点(180℃)を考慮し、稼動中の冷却のための冷流路(図示なし)が形成されている。

また、リチウム層と基板との間には、パラジウム層が形成されている。このパラジウム層は、照射され、リチウム層を通過したプロトンが基板である銅に到達するのを抑制するために形成される。これは、パラジウム層がない場合、リチウム層を通過した水素が銅基板に到達するが、銅は水素溶解度が低いことから水素ガスとなり、銅基板の表層部でブリスタリングが発生し、銅表層部に剥離が生じるからである。そこで、水素吸蔵・放出能を有するパラジウム層を設けることで、リチウム層からの水素を吸蔵すると共に、その端部から吸収した水素を放出し、銅基板に水素が到達するのを抑制している。

米国特許公開2010/0067640号明細書

上記の基板/パラジウム層/リチウム層の3層構成を有する中性子発生用ターゲットは、その基本的機能において問題があるわけではない。しかしながら、本発明者等によると、上記従来の中性子発生用ターゲットは、長時間の運用において中性子発生能の低下やリチウム層の剥離が生じることがある。

本発明は、上記事情を背景にして完成されたものであり、リチウム層を備える中性子発生用ターゲットについて、長期運用に際しても性能低下がなく、また、リチウム層の剥離が従来以上に抑制できるものを提供する。

本発明者等は、上記課題を解決すべく、まず、従来の基板/パラジウム層/リチウム層の3層構成を有する中性子発生用ターゲットについて、その性能低下の要因について検討した。そして、その要因として、リチウム層とパラジウム層との界面における合金形成による影響を見出した。

中性子発生のためのプロトン照射時においては、ターゲットの表面温度が100〜140℃近傍に達することがある。このターゲットの表面温度は、通常は異種金属間で合金を生成させるほどの高温ではない。しかし、リチウム−パラジウム状態図においては、共晶温度145℃で共晶合金が形成する領域がある。従って、リチウムとパラジウムとの組合せにおいては共晶合金を形成する可能性がある。

リチウム−パラジウム共晶合金という異種相は、リチウムに浸入した水素のパラジウム層への到達を阻害することからパラジウム層の機能を低下させ、ターゲットの中性子発生能を低下させることとなる。また、かかる異種相の存在は、パラジウム層とリチウム層との密着強度を低下させる。パラジウム層は、水素吸収時に膨張し水素放出時には収縮するという寸法変化が生じるが、密着強度が低いとパラジウム層の寸法変化の際に剥離が生じることとなる。

この考察から、本発明者等は、ターゲットの能維持・剥離防止のためには、リチウム層とパラジウム層との界面での共晶合金形成を抑制することが必要であると考えた。そして、更なる検討の結果、リチウム層とパラジウム層との直接的な接触を回避するために、両層の間に所定のバリア層を設定することが好ましいとして本発明に想到した。

即ち、本発明は、基板とパラジウム層とリチウム層がコーティングされてなり、前記リチウム層表面に荷電粒子を照射することにより中性子を発生させる中性子発生用ターゲットであって、前記パラジウム層と前記リチウム層との間に、パラジウム及びリチウムの双方に対して共晶合金を形成しない金属からなるバリア層を備えることを特徴とする中性子発生用ターゲットである。

以下、本発明の各構成についてより詳細に説明する。本発明に係る中性子発生用ターゲットは、基板、パラジウム層、バリア層、リチウム層の4層構成を有することから、各構成について詳細に説明する。

基板は、従来と同様、銅からなるものが好ましい、上記の通りプロトン照射によるターゲット表面温度は比較的低温ではあるが、ターゲットには冷却が必要である。銅は、熱伝導率が高く、水冷基板としての好適な金属である。また、加工性も良好である。

パラジウム層も、従来と同様のものが適用できる。パラジウム層は、基板上にめっき、スパッタリング等の薄膜形成手段で形成されたものが一般的である。パラジウム層の厚さは、20〜100μmのものが好ましい。20μm未満ではリチウム層からの水素吸収を十分に行うことができない。100μmを超えると銅基板による水冷効果が低下する。

そして、パラジウム層の上には、本発明の特徴であるバリア層が形成される。バリア層の構成材料としては、銅、鉄、コバルト、ニッケル、チタン、ジルコニウム及び、これらの合金が好ましい。バリア層は、パラジウム層とリチウム層の双方に接触するため、ターゲット稼動時の表面温度(100〜140℃近傍)において、双方の金属に対して合金相を形成するものは適用できない。上記金属は、パラジウム、リチウムの双方に対してこの温度領域で合金相を形成することはない。また、鉄、チタン、ジルコニウムについては、水素溶解度が金属の中では高いので、バリア層自身のブリスタリングを生じさせないと言う利点もある。

バリア層の厚さについては、その機能とリチウム層に浸入する水素の影響を考慮する必要がある。つまり、バリア層が薄いとパラジウム層とリチウム層との間で生じる原子拡散を抑制することができず、合金相の形成を許すことになる。一方、上記したバリア層の構成金属は、水素溶解度が金属としては高い方であるものの、パラジウムと比較すると低いものが多い。従って、バリア層厚さが過大であると、水素がバリア層に蓄積してガス化してブリスタリングの要因となる。以上の観点から、バリア層の厚さは0.5〜5μmの範囲にするのが好ましい。

そして、中性子発生用ターゲットの機能面であるリチウム層は、従来と同様のものが適用される。リチウム層の厚さは、20〜200μmが好ましいとされる。

本発明に係る中性子発生用ターゲットは、その形状についての制限はない。板形状(円板状)のものの他、円錐状や円筒状等、荷電粒子の入射状態に最適化された形状を選択できる。

本発明に係る中性子発生用ターゲットの製造方法としては、所定形状の基板に対してパラジウム層、バリア層、リチウム層をコーティングする。各コーティング層の形成方法としては、めっき、スパッタリング、蒸着、溶射等が適用される。特に、パラジウム層は、めっきが好ましく、バリア層の形成には銅、鉄、コバルト、ニッケルの場合はめっきが好ましく、チタン、ジルコニウムに関しては、コールド・スプレーイングが好ましい。また、リチウム層に関しては、蒸着が主に適用される。

上記のパラジウム層、バリア層、リチウム層の形成は、連続的に各層を順次形成しても良い。また、リチウムの取扱い性又は装置に応じてリチウム層を装置使用前に自由に形成するため、リチウム層のない構造体を予め用意し、その後にリチウム層を形成しても良い。この構造体は、基板、基板上に形成されたパラジウム層、パラジウム層上に形成されたバリア層(上記の通り、銅、鉄、ニッケル、コバルト、チタン、ジルコニウム等のパラジウム及びリチウムの双方に対して共晶合金を形成しない金属からなる)で構成される。

以上説明したように、本発明に係る中性子発生用ターゲットは、リチウム層とパラジウム層との間に設けられたバリア層により、リチウム−パラジウム共晶合金の生成を抑制し、共晶合金による中性子発生効率の低下及びリチウム層の剥離を抑制することができる。本発明は、中性子発生用ターゲットの効率・耐久性を維持し、長期運用の基礎となるものである。

従来の中性子発生用ターゲットの断面構造を説明する図。

比較例の模擬サンプルの140℃加熱後の断面写真。

以下、本発明の実施形態について説明する。本実施形態では、まず、リチウムとパラジウムとの間に、バリア層として各種の金属層を形成した模擬サンプルを製造し、バリア層の効果について検討した。

各サンプルは、パラジウム板(寸法20mm×20mm、厚さ2mm)の上にバリア層として銅、鉄、ニッケル、コバルト、チタン、ジルコニウムの各種金属膜をめっき、スパッタリング、圧接の方法で成膜し、その上に5mm×5mm、厚さ2mmのリチウムを常温で鍛接した。そして、このサンプルをAr雰囲気中で100℃、140℃で1.5h、5h加熱した。加熱後、サンプルを水中に浸漬してリチウムを溶解・除去した後、サンプル表面の状態を検討した。そして、このときサンプル表面に変色がみられたとき、共晶合金が形成されたものを(「×」)と判定した。この試験結果を表1に示す。

表1から、リチウムとパラジウムとの間にバリア層として銅等の各種金属を挿入したサンプルでは、150℃の加熱を受けても表面(バリア層表面)に共晶合金形成の形跡は見られない。一方、バリア層がない場合(比較例)、表面(パラジウム表面)に黒色の変色が見られた。これはリチウムとパラジウムとの共晶合金の形成によるものと考えられる。尚、この変色は100℃でも見られたが、その色は150℃で加熱したときよりも薄かった。100℃という加熱温度は、共晶温度よりも低温であるが、わずかながら共晶合金が形成したものと考えられる。

図2は、140℃で加熱した後の比較例の断面写真である。リチウム層とパラジウム層との間で共晶合金と見られる相が形成されていることが確認できる。以上から、各種金属によりバリア層を設けリチウムとパラジウムとの接触を断つことにより、共晶合金の形成が抑制できることが確認された。

第2実施形態:ここでは、実運用される形状・寸法の中性子発生用ターゲットを製造し、バリア層形成の有効性を確認した。φ135mm、厚さ8mmの円板状の銅基板を用意し、全面にパラジウム層をメッキにより形成し、基板中心のφ73mmの部分にバリア層である銅層をメッキにより形成した。更に、基板中心のφ60mmの部分にリチウム層を蒸着法で形成した。各層の厚さは、パラジウム層を20μmとし、バリア層(銅)を3μmとし、リチウム層は100μmとした。

そして、この中性子発生用ターゲットに荷電粒子として陽子線を照射して中性子を発生させた。陽子線加速器として静電型加速器を用い、エネルギー値2.5MeVの陽子線を電流密度63%の条件で3時間ターゲットに照射した。この照射中、発生した中性子線量をプロポーショナルカウンタで計測したが中性子線量の減衰は見られなかった。そして、照射終了後、ターゲット表面の状態を観察したところ、リチウムの著しい消耗、剥離は見られなかった。これにより、本発明に係る中性子発生用ターゲットは、陽子線の連続照射に対する耐久性・安定性を有することが確認できた。

本発明に係る中性子発生用ターゲットは、リチウム層とパラジウム層との間にバリア層を付加することで、リチウム−パラジウム共晶合金の生成を抑制するものである。本発明は、パラジウムの本来の機能を十分に発揮させ中性子発生効率を維持させると共に、リチウム層の剥離を抑制することができる。本発明に係る中性子発生用ターゲットは、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)に代表される中性子捕捉療法の原子炉施設外での実施を促進し、その実用化を図る上で有用である。

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