荷電粒子ビーム輸送系及び粒子線治療装置

申请号 JP2014516579 申请日 2012-05-24 公开(公告)号 JPWO2013175600A1 公开(公告)日 2016-01-12
申请人 三菱電機株式会社; 发明人 菅原 賢悟; 賢悟 菅原; 周平 小田原; 周平 小田原; 克久 吉田; 克久 吉田;
摘要 加速 器から遅い取り出しで出射したときに発生するエミッタンスの違いを荷電粒子ビーム輸送系で吸収し、アイソセンタで回転依存性の少ないビームサイズを実現することを目的とする。本発明の荷電粒子ビーム輸送系(59)は、その固定輸送部(61)が、回転ガントリのガントリ回転軸(15)の周りを回転する回転偏向部(60)の入口における荷電粒子ビーム(31)の位相空間分布の位相が、第1の位相進み及び第2の位相進みの平均値に基づいた演算を基に決定された位相となるようにしたことを特徴とする。第1の位相進みは、ガントリ 角 度がガントリ基準角度である場合に、位相空間分布における位相が回転偏向部(60)の入口からアイソセンタ(IC)まで進む変化分であり、第2の位相進みは、ガントリ角度がガントリ基準角度から90?回転した角度である場合の上記変化分である。
权利要求

加速器から出射された荷電粒子ビームが、前記加速器の出射位置における前記荷電粒子ビームの進行方向に垂直な面内で、前記加速器の周回軌道面内の方向をx方向、前記荷電粒子ビームの進行方向に垂直な面内で前記x方向と直交する方向をy方向とした場合、x方向のエミッタンスとy方向のエミッタンスが異なる荷電粒子ビームであり、アイソセンタを中心に回転可能な回転ガントリに搭載された粒子線照射装置に前記荷電粒子ビームを輸送する荷電粒子ビーム輸送系であって、 前記回転ガントリに搭載されると共に、前記回転ガントリのガントリ回転軸の周りを回転する回転偏向部と、前記加速器から前記回転偏向部までの固定輸送部と、を備え、 前記回転偏向部は複数の偏向電磁石を有し、 前記ガントリ回転軸方向から見た場合において、前記粒子線照射装置のビーム中心線と、前記回転偏向部の入口における前記荷電粒子ビームの前記y方向の軸との度をガントリ角度とし、 前記加速器の出射位置における前記x方向のエミッタンスと前記y方向のエミッタンスとが分離されてそれぞれのエミッタンスが保たれるように前記荷電粒子ビームが輸送される前記回転ガントリの角度をガントリ基準角度とし、 前記ガントリ角度が前記ガントリ基準角度である場合に、前記荷電粒子ビームの位相空間分布における位相が前記回転偏向部の入口から前記アイソセンタまで進む変化分を第1の位相進みとし、 前記ガントリ角度が前記ガントリ基準角度から90°回転した角度である場合に、前記荷電粒子ビームの前記位相空間分布における位相が前記回転偏向部の入口から前記アイソセンタまで進む変化分を第2の位相進みとし、 前記固定輸送部は、前記回転偏向部の入口における前記荷電粒子ビームの前記位相空間分布の位相が、前記第1の位相進み及び前記第2の位相進みの平均値に基づいた演算を基に決定された位相となるようにしたことを特徴とする荷電粒子ビーム輸送系。前記固定輸送部は、前記回転偏向部の入口における前記荷電粒子ビームの前記位相空間分布の位相が、前記第1の位相進みを180°の位相進みで基準化した位相進みと前記第2の位相進みを180°の位相進みで基準化した位相進みとの平均値に基づいた位相となるようにしたことを特徴とする請求項1記載の荷電粒子ビーム輸送系。前記固定輸送部は、前記回転偏向部の入口における前記荷電粒子ビームの前記位相空間分布の位相が、前記第1の位相進みを180°の位相進みで基準化した位相進みと前記第2の位相進みを180°の位相進みで基準化した位相進みとの平均値を負にした位相となるようにしたことを特徴とする請求項1記載の荷電粒子ビーム輸送系。前記回転偏向部は、当該回転偏向部における前記x方向及び前記y方向のツイスパラメータが、入口及び出口において合うようにされたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の荷電粒子ビーム輸送系。前記回転偏向部は、当該回転偏向部の入口及び出口において、前記x方向のツイスパラメータβxと前記y方向のツイスパラメータβyとが合うようにされ、かつ前記x方向のツイスパラメータαxと前記y方向のツイスパラメータαyとが合うようにされたことを特徴とする請求項4項記載の荷電粒子ビーム輸送系。加速器から出射された荷電粒子ビームが、前記加速器の出射位置における前記荷電粒子ビームの進行方向に垂直な面内で、前記加速器の周回軌道面内の方向をx方向、前記荷電粒子ビームの進行方向に垂直な面内で前記x方向と直交する方向をy方向とした場合、x方向のエミッタンスとy方向のエミッタンスが異なる荷電粒子ビームであり、アイソセンタを中心に回転可能な回転ガントリに搭載された粒子線照射装置に前記荷電粒子ビームを輸送する荷電粒子ビーム輸送系であって、 前記回転ガントリに搭載されると共に、前記回転ガントリのガントリ回転軸の周りを回転する回転偏向部と、前記加速器から前記回転偏向部までの固定輸送部と、を備え、 前記回転偏向部は複数の偏向電磁石を有し、 前記固定輸送部は、前記回転偏向部の入口において、前記荷電粒子ビームの前記x方向における位相空間分布が、所定の選択マトリクスを用いて算出された線状分布で近似できる分布であり、 前記選択マトリクスは、 前記回転偏向部の入口及び出口において、前記y方向及び前記x方向の運動量分散関数が0であり、かつ前記運動量分散関数における前記x方向及び前記y方向に垂直な前記荷電粒子ビームの進行方向の傾きが0である場合における前記回転偏向部の入口から前記アイソセンタまでの輸送行列の一部であって、 前記回転偏向部の入口における前記荷電粒子ビームを構成する荷電粒子の位置(x1、y1)及びこの位置における前記荷電粒子ビームの進行方向の傾き(x’1、y’1)を、前記アイソセンタにおける前記荷電粒子の位置(x2、y2)及びこの位置における前記荷電粒子ビームの進行方向の傾き(x’2、y’2)に結び付ける輸送行列の成分m11、m12、m33、m34を有し、 前記アイソセンタにおける前記y方向のビームサイズをσyとし、 m11x0+m12x’0=σyを第1式とし、 m33x0+m34x’0=σyを第2式とし、 前記線状分布の一方の端点(x0、x’0)と他方の端点(−x0、−x’0)は、前記第1式及び前記第2式から算出されたことを特徴とする荷電粒子ビーム輸送系。前記回転偏向部は、当該回転偏向部における前記x方向及び前記y方向のツイスパラメータが、入口及び出口において合うようにされたことを特徴とする請求項6項記載の荷電粒子ビーム輸送系。前記回転偏向部は、当該回転偏向部の入口及び出口において、前記x方向のツイスパラメータβxと前記y方向のツイスパラメータβyとが合うようにされたことを特徴とする請求項7項記載の荷電粒子ビーム輸送系。荷電粒子ビームを発生させ、この荷電粒子ビームを加速器で加速させるビーム発生装置と、 前記加速器により加速された荷電粒子ビームが、前記加速器の出射位置における前記荷電粒子ビームの進行方向に垂直な面内で、前記加速器の周回軌道面内の方向をx方向、前記荷電粒子ビームの進行方向に垂直な面内で前記x方向と直交する方向をy方向とした場合、x方向のエミッタンスとy方向のエミッタンスが異なる荷電粒子ビームであり、この荷電粒子ビームを輸送する荷電粒子ビーム輸送系と、 前記荷電粒子ビーム輸送系で輸送された荷電粒子ビームを照射対象に照射する粒子線照射装置と、 前記粒子線照射装置を搭載し、アイソセンタを中心に回転可能な回転ガントリと、を備え、 前記荷電粒子ビーム輸送系は、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の荷電粒子ビーム輸送系であることを特徴とする粒子線治療装置。

加速器から出射された荷電粒子ビームが、前記加速器の出射位置における前記荷電粒子ビームの進行方向に垂直な面内で、前記加速器の周回軌道面内の方向をx方向、前記荷電粒子ビームの進行方向に垂直な面内で前記x方向と直交する方向をy方向とした場合、前記x方向のエミッタンスと前記y方向のエミッタンスが異なる荷電粒子ビームであり、アイソセンタを中心に回転可能な回転ガントリに搭載された粒子線照射装置に前記荷電粒子ビームを輸送する荷電粒子ビーム輸送系であって、 前記回転ガントリに搭載されると共に、前記回転ガントリのガントリ回転軸の周りを回転する回転偏向部と、前記加速器から前記回転偏向部までの固定輸送部と、を備え、 前記回転偏向部は複数の偏向電磁石を有し、 前記固定輸送部は複数の四極電磁石を有し、 前記ガントリ回転軸方向から見た場合において、前記粒子線照射装置のビーム中心線と、前記回転偏向部の入口における前記荷電粒子ビームの前記y方向の軸との角度をガントリ角度とし、 前記加速器の出射位置における前記x方向のエミッタンスと前記y方向のエミッタンスとが分離されてそれぞれのエミッタンスが保たれるように前記荷電粒子ビームが輸送される前記回転ガントリの角度をガントリ基準角度とし、 前記ガントリ角度が前記ガントリ基準角度である場合に、前記荷電粒子ビームの位相空間分布における位相が前記回転偏向部の入口から前記アイソセンタまで進む変化分を第1の位相進みとし、 前記ガントリ角度が前記ガントリ基準角度から90°回転した角度である場合に、前記荷電粒子ビームの前記位相空間分布における位相が前記回転偏向部の入口から前記アイソセンタまで進む変化分を第2の位相進みとし、 前記固定輸送部は、前記四極電磁石の励磁量を制御することにより、前記回転偏向部の入口における前記荷電粒子ビームの前記位相空間分布の位相が、前記第1の位相進み及び前記第2の位相進みの平均値に基づいた演算を基に決定された位相となるようにしたことを特徴とする荷電粒子ビーム輸送系。前記固定輸送部は、前記回転偏向部の入口における前記荷電粒子ビームの前記位相空間分布の位相が、前記第1の位相進みを180°の位相進みで基準化した位相進みと前記第 2の位相進みを180°の位相進みで基準化した位相進みとの平均値に基づいた位相となるようにしたことを特徴とする請求項1記載の荷電粒子ビーム輸送系。前記固定輸送部は、前記回転偏向部の入口における前記荷電粒子ビームの前記位相空間分布の位相が、前記第1の位相進みを180°の位相進みで基準化した位相進みと前記第2の位相進みを180°の位相進みで基準化した位相進みとの平均値を負にした位相となるようにしたことを特徴とする請求項1記載の荷電粒子ビーム輸送系。前記回転偏向部は、当該回転偏向部における前記x方向及び前記y方向のツイスパラメータが、入口及び出口において合うようにされたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の荷電粒子ビーム輸送系。前記回転偏向部は、当該回転偏向部の入口及び出口において、前記x方向のツイスパラメータβxと前記y方向のツイスパラメータβyとが合うようにされ、かつ前記x方向のツイスパラメータαxと前記y方向のツイスパラメータαyとが合うようにされたことを特徴とする請求項4項記載の荷電粒子ビーム輸送系。加速器から出射された荷電粒子ビームが、前記加速器の出射位置における前記荷電粒子ビームの進行方向に垂直な面内で、前記加速器の周回軌道面内の方向をx方向、前記荷電粒子ビームの進行方向に垂直な面内で前記x方向と直交する方向をy方向とした場合、前記x方向のエミッタンスと前記y方向のエミッタンスが異なる荷電粒子ビームであり、アイソセンタを中心に回転可能な回転ガントリに搭載された粒子線照射装置に前記荷電粒子ビームを輸送する荷電粒子ビーム輸送系であって、 前記回転ガントリに搭載されると共に、前記回転ガントリのガントリ回転軸の周りを回転する回転偏向部と、前記加速器から前記回転偏向部までの固定輸送部と、を備え、 前記回転偏向部は複数の偏向電磁石を有し、 前記固定輸送部は複数の四極電磁石を有し、 前記固定輸送部は、前記四極電磁石の励磁量を制御することにより、前記回転偏向部の入口において、前記荷電粒子ビームの前記x方向における位相空間分布を決定し、 当該位相空間分布が、所定の選択マトリクスを用いて算出された線状分布で近似できる分布であり、 前記選択マトリクスは、 前記回転偏向部の入口及び出口において、前記y方向及び前記x方向の運動量分散関数が0であり、かつ前記運動量分散関数における前記x方向及び前記y方向に垂直な前記荷電粒子ビームの進行方向の傾きが0である場合における前記回転偏向部の入口から前記アイソセンタまでの輸送行列の一部であって、 前記回転偏向部の入口における前記荷電粒子ビームを構成する荷電粒子の位置(x1、y1)及びこの位置における前記荷電粒子ビームの進行方向の傾き(x’1、y’1)を、前記アイソセンタにおける前記荷電粒子の位置(x2、y2)及びこの位置における前記荷電粒子ビームの進行方向の傾き(x’2、y’2)に結び付ける輸送行列の成分m11、m12、m33、m34を有し、 前記アイソセンタにおける前記y方向のビームサイズをσyとし、 m11x0+m12x’0=σyを第1式とし、 m33x0+m34x’0=σyを第2式とし、 前記線状分布の一方の端点(x0、x’0)と他方の端点(−x0、−x’0)は、前記第1式及び前記第2式から算出されたことを特徴とする荷電粒子ビーム輸送系。前記回転偏向部は、当該回転偏向部における前記x方向及び前記y方向のツイスパラメータが、入口及び出口において合うようにされたことを特徴とする請求項6項記載の荷電粒子ビーム輸送系。前記回転偏向部は、当該回転偏向部の入口及び出口において、前記x方向のツイスパラメータβxと前記y方向のツイスパラメータβyとが合うようにされたことを特徴とする請求項7項記載の荷電粒子ビーム輸送系。荷電粒子ビームを発生させ、この荷電粒子ビームを加速器で加速させるビーム発生装置と、 前記加速器により加速された荷電粒子ビームが、前記加速器の出射位置における前記荷電粒子ビームの進行方向に垂直な面内で、前記加速器の周回軌道面内の方向をx方向、前記荷電粒子ビームの進行方向に垂直な面内で前記x方向と直交する方向をy方向とした場合、前記x方向のエミッタンスと前記y方向のエミッタンスが異なる荷電粒子ビームであり、この荷電粒子ビームを輸送する荷電粒子ビーム輸送系と、 前記荷電粒子ビーム輸送系で輸送された荷電粒子ビームを照射対象に照射する粒子線照射装置と、 前記粒子線照射装置を搭載し、アイソセンタを中心に回転可能な回転ガントリと、を備え、 前記荷電粒子ビーム輸送系は、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の荷電粒子ビーム輸送系であることを特徴とする粒子線治療装置。

说明书全文

本発明は、陽子や重粒子などの荷電粒子からなる荷電粒子ビームを輸送する荷電粒子ビーム輸送系及び、輸送された荷電粒子ビームを物体、人体等の被照射体に照射する粒子線治療装置に関するものである。

一般に粒子線治療装置は、荷電粒子ビームを発生するビーム発生装置と、ビーム発生装置につながれ、発生した荷電粒子ビームを加速する加速器と、加速器で設定されたエネルギーまで加速された後に出射される荷電粒子ビームを輸送する荷電粒子ビーム輸送系と、ビーム輸送系の下流に設置され、荷電粒子ビームを照射対象に照射するための粒子線照射装置とを備える。

一般に、荷電粒子ビーム輸送系における荷電粒子ビーム中の荷電粒子の運動は、ビームの進行方向をs方向、s方向に対して垂直であり、かつ加速器の偏向方向であるx方向、s方向及びx方向に垂直なy方向の座標系に基づいて記述される。ここで、荷電粒子ビーム輸送系におけるビーム中の荷電粒子の分布は均一ではなく、加速器であるシンクロトロンの遅い取り出し方式の場合は、一般にy方向にはガウス分布を示すが、x方向については非ガウス分布となっており、ビームの位相空間上の面積に相当するエミッタンスは、x方向、y方向で非対称になる。なお、遅い取り出し方式は、長期間に渡って少しずつ荷電粒子ビームを取り出す方式である。

また、個々の荷電粒子の運動に注目すると、その進行方向は個々に異なり、かつ、経時的に変化しており、ビーム全体ではベータトロン振動と呼ばれる一定周期の振動をしている。位相空間上における荷電粒子のビーム楕円の度や幅は四極電磁石等によって変えることはできるが、この場合でもエミッタンス(楕円の面積)は一定に保たれる。一般に、荷電粒子ビーム輸送系おいては、x方向とy方向ではエミッタンスが非対称になっており、四極電磁石等によってもこの差を打ち消すことはできない。

上記のようにエミッタンスが非対称であることにより、粒子線治療の治療計画を立案するとき、患部に照射される線量の均一性を確保することが困難になる。すなわち、患部でx方向の荷電粒子が非ガウス分布であることは治療計画立案を複雑にし、また許容範囲内ではあるが、実際に照射される線量の不均一を生じる原因になる。また、患部に集中的に粒子線を照射しつつ、正常組織の被爆量を最小限にするには、患部の周囲に粒子線照射装置を旋回させる回転ガントリを用いることが好ましい。しかし、エミッタンスの非対称性があると、回転ガントリの回転角度によりビームの患部におけるスポット形状が変化することになり、これも治療計画の立案を困難にする原因となる。

特許文献1には、エミッタンスを対称化することを目的として、スキュー4極電磁石やソレノイド電磁石であるエミッタンス調整手段を備えた荷電粒子ビーム輸送系が示されている。特許文献2には、荷電粒子ビームの輸送系に散乱体とこの散乱体の下流側に設けられた複数の四極電磁石からなる下流側電磁石を備えた荷電粒子線照射装置が示されている。この散乱体及び下流側電磁石により、エミッタンスの対称化を図り、かつ、x方向及びy方向の荷電粒子の分布をガウス分布化することを図っている。

特開平9−265000号公報(0005段乃至0009段、図1)

特開2006−351339号公報(0011段乃至0013段、図3)

従来は、患者の患部におけるビームのスポット形状が、回転ガントリの回転角度により変化することを防止するために、回転ガントリの偏向電磁石に入される前に、エミッタンスの対称化を図るエミッタンス調整手段や散乱体及び下流側電磁石を荷電粒子ビーム輸送系に設けていた。従来の荷電粒子ビーム輸送系はエミッタンス調整手段や、散乱体及び下流側電磁石を追加していたので、荷電粒子ビーム輸送系が大型化する問題があった。

本発明は上記のような課題を解決するためになされたものであり、加速器から遅い取り出しで出射したときに発生するエミッタンスの違いを荷電粒子ビーム輸送系で吸収し、アイソセンタで回転依存性の少ないビームサイズを実現することを目的とする。

本発明に係る荷電粒子ビーム輸送系は、加速器から出射された荷電粒子ビームが、加速器の出射位置における荷電粒子ビームの進行方向に垂直な面内で、加速器の周回軌道面内の方向をx方向、荷電粒子ビームの進行方向に垂直な面内でx方向と直交する方向をy方向とした場合、x方向のエミッタンスとy方向のエミッタンスが異なる荷電粒子ビームであり、アイソセンタを中心に回転可能な回転ガントリに搭載された粒子線照射装置に荷電粒子ビームを輸送する荷電粒子ビーム輸送系であって、回転ガントリに搭載されると共に、回転ガントリのガントリ回転軸の周りを回転する回転偏向部と、加速器から回転偏向部までの固定輸送部と、を備え、回転偏向部は複数の偏向電磁石を有する。本発明に係る荷電粒子ビーム輸送系によれば、ガントリ回転軸方向から見た場合において、粒子線照射装置のビーム中心線と、回転偏向部の入口における荷電粒子ビームのy方向の軸との角度をガントリ角度とし、加速器の出射位置におけるx方向のエミッタンスとy方向のエミッタンスとが分離されてそれぞれのエミッタンスが保たれるように荷電粒子ビームが輸送される回転ガントリの角度をガントリ基準角度とし、ガントリ角度がガントリ基準角度である場合に、荷電粒子ビームの位相空間分布における位相が回転偏向部の入口からアイソセンタまで進む変化分を第1の位相進みとし、ガントリ角度がガントリ基準角度から90°回転した角度である場合に、荷電粒子ビームの位相空間分布における位相が回転偏向部の入口からアイソセンタまで進む変化分を第2の位相進みとし、固定輸送部は、回転偏向部の入口における荷電粒子ビームの位相空間分布の位相が、第1の位相進み及び第2の位相進みの平均値に基づいた演算を基に決定された位相となるようにしたことを特徴とする。

本発明に係る荷電粒子ビーム輸送系によれば、固定輸送部が、回転偏向部の入口における荷電粒子ビームの位相空間分布を、その位相が第1の位相進み及び第2の位相進みの平均値に基づいた演算を基に決定された位相である等の所定の位相空間分布となるようにしたので、荷電粒子ビーム輸送系の回転偏向部の入り口にて、遅い取り出しの特徴であるx方向エミッタンスが非常に小さいようなビームに対しても、アイソセンタで回転依存性の少ないビームサイズを実現することができる。

本発明による粒子線治療装置の概略構成図である。

図1の粒子線照射装置の構成を示す図である。

本発明による荷電粒子ビーム輸送系の回転偏向部の構成を示す図である。

図3の回転偏向部を左側から見た側面図である。

本発明の実施の形態1による回転偏向部からアイソセンタにおける荷電粒子のベータトロン関数を示す図である。

本発明の実施の形態1による回転偏向部からアイソセンタにおける荷電粒子の運動量分散関数を示す図である。

本発明の実施の形態1による回転偏向部の入口における荷電粒子の位相空間分布を示す図である。

本発明の実施の形態1による回転偏向部の角度が0°の場合におけるアイソセンタでの荷電粒子の位相空間分布を示す図である。

本発明の実施の形態1による回転偏向部の角度が30°の場合におけるアイソセンタでの荷電粒子の位相空間分布を示す図である。

本発明の実施の形態1による回転偏向部の角度が60°の場合におけるアイソセンタでの荷電粒子の位相空間分布を示す図である。

本発明の実施の形態1による回転偏向部の角度が90°の場合におけるアイソセンタでの荷電粒子の位相空間分布を示す図である。

本発明の実施の形態1による回転偏向部の角度が120°の場合におけるアイソセンタでの荷電粒子の位相空間分布を示す図である。

本発明の実施の形態1による回転偏向部の角度が150°の場合におけるアイソセンタでの荷電粒子の位相空間分布を示す図である。

本発明の実施の形態1による回転偏向部の角度が180°の場合におけるアイソセンタでの荷電粒子の位相空間分布を示す図である。

本発明の実施の形態1による回転偏向部の角度が210°の場合におけるアイソセンタでの荷電粒子の位相空間分布を示す図である。

本発明の実施の形態1による回転偏向部の角度とアイソセンタにおけるビームサイズの関係を示す図である。

本発明による荷電粒子ビーム輸送系の固定輸送部のx方向の荷電粒子の位相空間分布を説明する図である。

本発明の実施の形態2による回転偏向部からアイソセンタにおける荷電粒子のベータトロン関数を示す図である。

本発明の実施の形態2による回転偏向部からアイソセンタにおける荷電粒子の運動量分散関数を示す図である。

本発明の実施の形態2による回転偏向部の入口における荷電粒子の位相空間分布を示す図である。

本発明の実施の形態2による回転偏向部の角度が0°の場合におけるアイソセンタでの荷電粒子の位相空間分布を示す図である。

本発明の実施の形態2による回転偏向部の角度が30°の場合におけるアイソセンタでの荷電粒子の位相空間分布を示す図である。

本発明の実施の形態2による回転偏向部の角度が60°の場合におけるアイソセンタでの荷電粒子の位相空間分布を示す図である。

本発明の実施の形態2による回転偏向部の角度が90°の場合におけるアイソセンタでの荷電粒子の位相空間分布を示す図である。

本発明の実施の形態2による回転偏向部の角度が120°の場合におけるアイソセンタでの荷電粒子の位相空間分布を示す図である。

本発明の実施の形態2による回転偏向部の角度が150°の場合におけるアイソセンタでの荷電粒子の位相空間分布を示す図である。

本発明の実施の形態2による回転偏向部の角度が180°の場合におけるアイソセンタでの荷電粒子の位相空間分布を示す図である。

本発明の実施の形態2による回転偏向部の角度が210°の場合におけるアイソセンタでの荷電粒子の位相空間分布を示す図である。

本発明の実施の形態2による回転偏向部の角度とアイソセンタにおけるビームサイズの関係を示す図である。

本発明の実施の形態2による回転偏向部の角度が0°の場合におけるビームサイズを示す図である。

本発明の実施の形態2による回転偏向部の角度が0°の場合におけるx方向ビームサイズを示す図である。

本発明の実施の形態2による回転偏向部の角度が0°の場合におけるy方向ビームサイズを示す図である。

本発明の実施の形態2による回転偏向部の角度が30°の場合におけるビームサイズを示す図である。

本発明の実施の形態2による回転偏向部の角度が60°の場合におけるビームサイズを示す図である。

本発明の実施の形態2による回転偏向部の角度が90°の場合におけるビームサイズを示す図である。

本発明の実施の形態2による回転偏向部の角度が120°の場合におけるビームサイズを示す図である。

本発明の実施の形態2による回転偏向部の角度が150°の場合におけるビームサイズを示す図である。

位相演算の概念を説明する規格化位相空間の図である。

位相演算の概念を説明する規格化位相空間の図である。

位相演算の概念を説明する規格化位相空間の図である。

実施の形態1. 図1は本発明による粒子線治療装置の概略構成図であり、図2は本発明による粒子線照射装置の構成を示す図である。図3は本発明による荷電粒子ビーム輸送系の回転偏向部の構成を示す図であり、図4は図3の回転偏向部を左側から見た側面図である。図1において、粒子線治療装置51は、ビーム発生装置52と、荷電粒子ビーム輸送系59と、粒子線照射装置58a、58bとを備える。ビーム発生装置52は、イオン源(図示せず)と、前段加速器53と、加速器54とを有する。粒子線照射装置58bは回転ガントリ(図示せず)に設置される。粒子線照射装置58aは回転ガントリを有しない治療室に設置される。

荷電粒子ビーム輸送系59の役割は加速器54と粒子線照射装置58a、58bの連絡にある。加速器54と粒子線照射装置58a、58bとは真空ダクト57を介して接続され、荷電粒子ビームは真空ダクト57を通過する。荷電粒子ビーム輸送系59の一部は回転ガントリ(図示せず)に設置され、回転ガントリに設置される回転偏向部60は、複数の偏向電磁石10a、10b、10c、及び複数の四極電磁石11a、11b、11c、11dを有する。回転偏向部60は、回転ガントリの回転に伴い回転する。荷電粒子ビーム輸送系59の回転偏向部60以外の部分である固定輸送部61は、複数の偏向電磁石48a、48b、48c、48d、48e、48f、48g、48h、48i、及び複数の四極電磁石49a、49b、49c、49d、49e、49f、49g、49h、49i、49jを有する。固定輸送部61の偏向電磁石の符号は、総括的に48を用い、区別して説明する場合に48a乃至48iを用いる。固定輸送部61の四極電磁石の符号は、総括的に49を用い、区別して説明する場合に49a乃至49jを用いる。回転偏向部60の偏向電磁石の符号は、総括的に10を用い、区別して説明する場合に10a、10b、10cを用いる。

イオン源で発生した陽子線等の粒子線である荷電粒子ビームは、前段加速器53で加速され、入射装置46から加速器54に入射される。ここでは、加速器54は、シンクロトロンを例に説明する。荷電粒子ビームは、所定のエネルギーまで加速される。加速器54の出射装置47から出射された荷電粒子ビームは、荷電粒子ビーム輸送系59を経て粒子線照射装置58a、58bに輸送される。粒子線照射装置58a、58bは荷電粒子ビームを照射対象45(図2参照)に照射する。粒子線照射装置の符号は、総括的に58を用い、区別して説明する場合に58a、58bを用いる。加速器54から出射された荷電粒子ビーム31は、加速器54の出射位置における荷電粒子ビーム31の進行方向(s方向)に垂直な面内で、加速器54の周回軌道面内の方向をx方向、荷電粒子ビーム31の進行方向に垂直な面内でx方向と直交する方向をy方向とした場合、x方向のエミッタンスが小さく、y方向のエミッタンスが大きな荷電粒子ビームとなっている。加速器54の出射位置における荷電粒子ビーム31のビーム座標系は、ビーム座標系73である。荷電粒子ビーム輸送系59の回転偏向部60の入口における荷電粒子ビーム31のビーム座標系は、ビーム座標系74である。なお、ビーム座標系のs方向の軸をs軸、ビーム座標系のx方向の軸をx軸、ビーム座標系のy方向の軸をy軸と呼ぶことにする。

ビーム発生装置52で発生され、所定のエネルギーまで加速された荷電粒子ビーム31は、荷電粒子ビーム輸送系59を経由し、粒子線照射装置58へと導かれる。図2において、粒子線照射装置58は、荷電粒子ビーム31に垂直な方向であるX向及びY方向に荷電粒子ビーム31を走査するX方向走査電磁石32及びY方向走査電磁石33と、位置モニタ34と、線量モニタ35と、線量データ変換器36と、ビームデータ処理装置41と、走査電磁石電源37と、粒子線照射装置58を制御する照射管理装置38とを備える。照射管理装置38は、照射制御計算機39と照射制御装置40とを備える。線量データ変換器36は、トリガ生成部42と、スポットカウンタ43と、スポット間カウンタ44とを備える。なお、荷電粒子ビーム31の進行方向は−Z方向である。

X方向走査電磁石32は荷電粒子ビーム31をX方向に走査する走査電磁石であり、Y方向走査電磁石33は荷電粒子ビーム31をY方向に走査する走査電磁石である。位置モニタ34は、X方向走査電磁石32及びY方向走査電磁石33で走査された荷電粒子ビーム31が通過するビームにおける通過位置(重心位置)やサイズを演算するためのビーム情報を検出する。ビームデータ処理装置41は、位置モニタ34が検出した複数のアナログ信号(ビーム情報)からなるビーム情報に基づいて荷電粒子ビーム31の通過位置(重心位置)やサイズを演算する。また、ビームデータ処理装置41は、荷電粒子ビーム31の位置異常やサイズ異常を示す異常検出信号を生成し、この異常検出信号を照射管理装置38に出力する。

線量モニタ35は、荷電粒子ビーム31の線量を検出する。照射管理装置38は、図示しない治療計画装置で作成された治療計画データに基づいて、照射対象45における荷電粒子ビーム31の照射位置を制御し、線量モニタ35で測定され、線量データ変換器36でデジタルデータに変換された線量が目標線量に達すると荷電粒子ビーム31を停止する。走査電磁石電源37は、照射管理装置38から出力されたX方向走査電磁石32及びY方向走査電磁石33への制御入力(指令)に基づいてX方向走査電磁石32及びY方向走査電磁石33の設定電流を変化させる。

ここでは、粒子線照射装置58のスキャニング照射方式を、ハイブリッドスキャニング照射方式(ビーム照射位置(スポット)を変更する場合にビームを停止しない方式)、具体的には、荷電粒子ビーム31の照射位置を変えるときに荷電粒子ビーム31を停止させないラスタースキャニング照射方式のように行い、スポットスキャニング照射方式のようにビーム照射位置がスポット位置間を次々と移動していく方式として説明する。スポットカウンタ43は、荷電粒子ビーム31のビーム照射位置が停留している間の照射線量を計測するものである。スポット間カウンタ44は、荷電粒子ビーム31のビーム照射位置が移動している間の照射線量を計測するものである。トリガ生成部42は、ビーム照射位置における荷電粒子ビーム31の線量が目標照射線量に達した場合に、線量満了信号を生成するものである。

図3は、ガントリ回転軸15の周りを回転する回転角度(以降、適宜、ガントリ角度とも称する。)が0°と180°における荷電粒子ビーム輸送系59の回転偏向部60を示している。実線で示したものは回転角度が0°の場合であり、破線で示したものは回転角度が180°の場合である。破線で示したものに対する符号は、実線のものと区別するために異なるものを付した。回転偏向部60において、荷電粒子ビーム31は次に示す順に各電磁石を通過して粒子線照射装置58に至る。荷電粒子ビーム31の電磁石通過順は、偏向電磁石10a、四極電磁石11a、11b、偏向電磁石10b、四極電磁石11c、11d、偏向電磁石10cである。回転角度が180°における回転偏向部60において、荷電粒子ビーム31は次に示す順に各電磁石を通過して粒子線照射装置68(図3及び図4)に至る。図3及び図4における粒子線照射装置の符号は、回転角度を区別するために、58とは異なる符号も用いた。回転角度が90°、180°、270°における粒子線照射装置の符号は、それぞれ67、68、69である。荷電粒子ビーム31の電磁石通過順は、偏向電磁石22a、四極電磁石23a、23b、偏向電磁石22b、四極電磁石23c、23d、偏向電磁石22cである。アイソセンタICは、回転偏向部60が回転したときの荷電粒子ビーム31のビーム中心線14がそれぞれ交わる点である。回転角度が0°、90°、180°、270°における粒子線照射装置を通過した荷電粒子ビームのビーム座標系は、それぞれ、ビーム座標系75、ビーム座標系77、ビーム座標系76、ビーム座標系78である。

ここで、ガントリ角度の基準を考える。ガントリ回転軸15の周りを回転する回転角度であるガントリ角度は、粒子線照射装置58における荷電粒子ビーム31のビーム中心線14と、回転偏向部60の入口における荷電粒子ビーム31のビーム座標系74におけるy方向の軸との角度と定義する。ビーム中心線14と回転偏向部60の入口における荷電粒子ビーム31のy方向の軸(y軸)とが重なる場合のガントリ角度をガントリ基準角度とする。ガントリ角度がガントリ基準角度の場合は、加速器54の出射位置におけるx方向のエミッタンスとy方向のエミッタンスとが分離されてそれぞれのエミッタンスが保たれるように荷電粒子ビーム31が荷電粒子ビーム輸送系59で輸送されることになる。ガントリ基準角度は、任意のガントリ角度で構わないが、ここでは、0°とする。

図4は、図3の回転偏向部を左側から見た側面図であるが、回転角度が90°と270°の場合も追加したものである。ビーム中心線16は、回転角度0°の粒子線照射装置58と回転角度180°の粒子線照射装置68を通過するビーム中心線14を90°回転したものであり、回転角度90°の粒子線照射装置67と回転角度270°の粒子線照射装置69を通過する荷電粒子ビーム31のビーム中心線である。図4において、回転角度0°の偏向電磁石10a、10cは、回転角度が90°、270°の場合に、その符号を変えている。回転角度が90°の場合は偏向電磁石20a、20cであり、回転角度が270°の場合は偏向電磁石24a、24cである。

荷電粒子ビーム輸送系59のビーム設計とは、偏向電磁石や四極電磁石の磁石配列と、それぞれの四極電磁石の強度を調整することであり、下記式(1)に示す輸送行列を決定することにある。

荷電粒子ビーム輸送系59の回転偏向部60及び固定輸送部61のビーム設計も、荷電粒子ビーム輸送系59のビーム設計と同様である。荷電粒子ビーム輸送系59の回転偏向部60を例に説明する。輸送行列は、入口の3次元座標とその運動量と出口の3次元座標と運動量の関係を示すものである。右辺の(x1、y1、x’1、y’1、t1、pt1)は、回転ガントリ入口における荷電粒子の位置(x1、y1)と、s方向の傾き(x’1、y’1)と、時間t1と、荷電粒子の運動量pt1である。左辺の(x2、y2、x’2、y’2、t2、pt2)は、回転偏向部60の出口における荷電粒子の位置(x2、y2)と、s方向の傾き(x’2、y’2)と、時間t2と、荷電粒子の運動量pt2である。プライム‘は、sによる微分、すなわちd/dsを表す。

荷電粒子ビーム輸送系59の回転偏向部60のビーム設計は、少ない磁石数やパラメータで上記輸送行列を決定することが課題であり、従来では、上記輸送行列を変形して、ベータトロン関数β、運動量分散関数ηという概念が用いられてきた。運動量分散関数ηは、Δpt/ptである。本発明では、運動量分散関数ηに関しては、従来法と同様に、回転偏向部60の入口において、ηx=0、η’x=0、ηy=0、η’y=0となるビームが来ることを想定し、回転偏向部60の出口でηx=0、η’x=0、ηy=0、η’y=0を満たすように設計する。この制約を課すことによって、回転偏向部60のビーム設計としては、下記式(2)のみを考えれば良い。

式(2)では、時間t1、t2、及び荷電粒子の運動量pt1、pt2を使用しないので、ガントリの回転に伴って回転偏向部60が回転しても、回転偏向部60の出口において、運動量の差によるビームサイズの変化や、ビームサイズの変化率の差が発生しない。

次に、ガントリ角度が0°(または180°)のときと90°(または270°)の時に着目する。回転偏向部60の偏向電磁石が、垂直もしくは平のみの偏向電磁石から構成される場合には、式(2)は式(3)のようになり、x方向とy方向のカップリングがなくなる。

さらに、回転偏向部60の入口において、ビームの位相空間上の特徴量であるベータトロン関数β、αをx方向とy方向で一致させることで、すなわち、βxy、αxyとすることで、ベータトロン関数βの差によるビームサイズの回転依存性はなくなる。なお、sに対するβの関数をベータトロン関数と呼ぶ。

実施の形態1の回転偏向部60のビーム設計において、回転偏向部60の入口及び出口の条件を下記のようにする。 回転偏向部60の入口の条件は、βxy、αxy、ηx=0、η’x=0、ηy=0、η’y=0である。 回転偏向部60の出口の条件は、βxy、αxy、ηx=0、η’x=0、ηy=0、η’y=0である。

回転偏向部60の入口及び出口の条件を上記のようにすることで、すなわち、できる限り簡易化することで、少ない調整パラメータで回転偏向部60のビーム設計を行うことができる。式(3)における調整パラメータは、m11、m12、m21、m22、m33、m34、m43、m44である。

図3の回転偏向部60のベータトロン関数βと運動量分散関数ηを図5及び図6に示す。図5は、本発明の実施の形態1による回転偏向部からアイソセンタICにおける荷電粒子のベータトロン関数を示す図である。横軸はs方向の距離であり、縦軸はベータトロン関数βである。なお、図5においてベータトロン関数αは記載していない。図5(a)はx方向のベータトロン関数βであり、図5(b)はy方向のベータトロン関数βである。図6は、本発明の実施の形態1による回転偏向部からアイソセンタICにおける荷電粒子の運動量分散関数を示す図である。横軸はs方向の距離であり、縦軸は運動量分散関数ηである。図6(a)はx方向の運動量分散関数ηであり、図5(b)はy方向の運動量分散関数ηである。図5(a)、図5(b)、図6(a)、図6(b)のそれぞれにおいて、回転偏向部60の入口は、s=0mであり、回転偏向部60の出口は、左端のs=14m付近である。実施の形態1の例では、4個の四極電磁石11a、11b、11c、11dにより、荷電粒子ビーム31が回転偏向部60を通過して、アイソセンタICのビーム特性が良好となる輸送行列を実現している。

スキャニング照射方式ではない従来照射法であれば、アイソセンタICにおけるx方向とy方向のビームサイズは異なっていても、実際の照射では、散乱体やワブラー電磁石によってビームサイズは広がり、回転偏向部の出口において元々のビームサイズの大きさによらない程度に荷電粒子が散乱させて照射するため、ビームサイズの違いは問題にならなかった。しかしながら、スキャニング照射方式では、出来る限り小さいビームサイズが要求されるため、散乱はなるべく少ないことが望まれる。散乱があまり期待できない場合には、加速器54や荷電粒子ビーム輸送系59のビーム設計として、x方向とy方向のビームサイズはそろっており、かつ、x方向とy方向のビームサイズは回転ガントリの角度依存性がないことが望まれる。

x方向ビームサイズσx及びy方向ビームサイズσyは、一般に式(4)のように表される。εx、εyは、それぞれx方向のエミッタンス及びy方向のエミッタンスである。エミッタンスεx、εyは、位相空間上における面積である。x方向の位相空間は、図7(a)に示すように表され、横軸をx方向の距離xとし、縦軸をx方向の傾きx’として表された空間である。同様に、y向の位相空間は、図7(b)に示すように表され、横軸をy方向の距離yとし、縦軸をy方向の傾きy’として表された空間である。

ベータトロン関数βx、βyは、回転ガントリのビーム設計によって変えることのできる量(輸送行列に依存する量)である。これに対して、エミッタンスεx、εyは、加速器54の出射によって決まる量であり、荷電粒子ビーム輸送系59にて荷電粒子の輸送中に散乱体などが存在しない場合には、一定である。また、エミッタンスεx、εyは、加速器54からの取り出しメカニズムに依存し、加速器54から遅い取り出しで出射した場合は、エミッタンスεx、εyは異なる値になる。エミッタンスεxとエミッタンスεyを比べると、エミッタンスεyのほうが遥かに大きく、エミッタンスεyはエミッタンスεxの2乃至10倍以上になる。本発明では、このエミッタンスεx、εyの違いによるビームサイズの違いを、荷電粒子ビーム輸送系59のビーム設計で極力無くすようにした。

回転偏向部60に散乱体と四極電磁石を組み合わせた構成が存在したり、回転偏向部60の四極電磁石が少なくても回転ガントリの回転角度ごとに各四極電磁石の強度を変更したりすれば、ビームサイズの違いを極力無くことは可能である。しかし、四極電磁石の強度を変えずとも回転角度ごとのビームサイズの違いが無いようにすることで、回転偏向部60を安価に実現できることは重要である。このような荷電粒子ビーム輸送系59のビーム設計方法は、既存の施設においても適用でき、既存の施設においても荷電粒子ビーム輸送系59の回転偏向部60を実現できることが望ましい。式(3)から、x、x’を対象にした2×2の輸送行列と、y、y’を対象にした2×2の輸送行列に分けて、荷電粒子ビーム輸送系59のビーム設計を実行できることが分かる。

次に、エミッタンスが小さいことによる影響について議論する。荷電粒子ビーム31を加速器54から遅く取り出すビーム取り出し方式(遅いビームビーム取り出し方式)は、加速器54を周回する荷電粒子ビーム31を、加速器54の外周側(x方向)に移動させて、荷電粒子ビーム31の外周側のみを取り出すようにして、周回する荷電粒子ビーム31を長期間に渡って少しずつ加速器54から荷電粒子ビーム輸送系59に出射するものである。図7は、本発明の実施の形態1による回転偏向部の入口における荷電粒子の位相空間分布を示す図である。図7(a)はx方向の位相空間分布であり、図7(b)はy方向の位相空間分布である。回転偏向部60の入口でのx方向の位相空間分布は、加速器54からの出射固有の特性より、x方向の分布は制限されており、楕円というよりは線に近い分布となっている。これに対して、y方向の位相空間分布は、y方向に制限されることがないため楕円となっている。位相空間上の面積がエミッタンスであるから、x方向とy方向では大きな違いがある。

本発明の実施の形態1による荷電粒子ビーム輸送系59のビーム設計は、荷電粒子ビーム31が回転偏向部60を通過し、アイソセンタICのビーム特性が良好となる回転偏向部60のビーム設計と、アイソセンタICで回転依存性の少ないビームサイズを実現するための回転偏向部60に入力する荷電粒子の位相空間分布を実現する固定輸送部61のビーム設計とに分かれている。固定輸送部61のビーム設計の際に、アイソセンタICで回転依存性の少ないビームサイズを実現するための回転偏向部60に入力する荷電粒子の位相空間分布を決定する。

回転偏向部60に入力する荷電粒子の位相空間分布を決定する際に、x方向の位相空間分布は線と近似し、y方向の位相空間分布は楕円と近似する。x方向の位相空間分布は線で近似するので、面積ではなく位相が重要である。回転偏向部60の入口におけるx方向の位相空間分布の位相は、回転ガントリの位相関係に注目して決定する。具体的には、回転偏向部60の入口におけるx方向の位相空間分布の位相φixは、ガントリ角度が90°異なる2つのガントリ角度θ1、θ2のそれぞれの回転偏向部60の入口から出口までの位相進み(フェイズアドバンス)の平均値に基づいた演算を基に決定された位相であり、例えばガントリ角度0°及び90°の入口から出口までの位相進み(フェイズアドバンス)の小数部のそれぞれを平均した平均値にマイナス(−)を付けたものである。

図3に示した回転偏向部60の電磁石配列であり、図5及び図6に示したベータトロン関数及び運動量分散関数となるような各電磁石の強度となるように回転偏向部60の輸送行列を用いて回転偏向部60が設計された場合を考える。ガントリ角度が0°の場合(図4の実線で記載した回転偏向部60の配置)の場合の位相進みφ1は、1.382(497.52°)であり、回転偏向部60の出口では497.52°回転している。ガントリ角度が90°の場合(図4の偏向電磁石20a、20c、粒子線照射装置67で記載した回転偏向部60の配置)の場合の位相進みφ2は、0.522であり、回転偏向部60の出口では93.96°回転している。ガントリ角度が180°における荷電粒子ビーム31の位相空間分布は、ガントリ角度が0°における荷電粒子ビーム31の位相空間分布と理論上一致する。ガントリ角度360°は一周であり、180°の2倍であるから、一周分は無視して、すなわち180°の位相進みで基準化して、位相進みφ1は、497.52°−360°=137.52°とする。

ガントリ角度の変化により、x方向のビームサイズが変化しないようにするために、位相進みφ2である93.96°と、位相進みφ1である137.52°の中間の値(平均値)である114.465°を利用する。すなわち、回転偏向部60の入口におけるx方向の位相空間分布の位相を、−114.465°にしておけば、回転偏向部60の出口やアイソセンタICにおいて、図8及び図11のように、回転偏向部60のガントリ角度、すなわち回転ガントリの設置角度が0°の場合でも、90°の場合でもどちらでもほぼ同じビームサイズが実現できる。平均値にマイナス(−)を付ける理由は、後述する。

X方向走査電磁石32やY方向走査電磁石33で荷電粒子ビーム31を走査しない場合は、アイソセンタICおけるビームサイズは、回転偏向部60の出口におけるビームサイズとほぼ等しい。また、X方向走査電磁石32やY方向走査電磁石33で荷電粒子ビーム31を走査する場合は、荷電粒子ビーム31を走査しない場合に比べて、アイソセンタICおけるビームサイズは、多少変化するが、この場合であっても、アイソセンタICおけるビームサイズは、回転偏向部60の出口におけるビームサイズとほぼ等しい。

図8乃至図15は、本発明の実施の形態1による回転偏向部の角度がそれぞれ0°、30°、60°、90°、120°、150°、180°、210°の場合におけるアイソセンタICでの荷電粒子の位相空間分布を示す図である。各図の(a)はx方向の位相空間分布であり、各図の(b)はy方向の位相空間分布である。各図の(a)において、横軸はx方向の距離xであり、縦軸はx方向の傾きx’である。各図の(b)において、横軸はy方向の距離yであり、縦軸はy方向の傾きy’である。図中のrmsは、二乗平均平方根(root mean square)の意味である。図中に示したビームサイズ(rms)は、標準偏差σに相当する大きさである。ビームサイズ(rms)をビームサイズ1σと呼ぶことにする。

回転偏向部60の角度が0°の場合のx方向及びy方向のビームサイズ1σは、図8に示すように、それぞれ1.29mm及び1.29mmである。回転偏向部の角度が30°の場合のx方向及びy方向のビームサイズ1σは、図9に示すように、それぞれ1.30mm及び1.30mmである。回転偏向部の角度が60°の場合のx方向及びy方向のビームサイズ1σは、図10に示すように、それぞれ1.30mm及び1.30mmである。回転偏向部の角度が90°の場合のx方向及びy方向のビームサイズ1σは、図11に示すように、それぞれ1.30mm及び1.30mmである。

回転偏向部の角度が120°の場合のx方向及びy方向のビームサイズ1σは、図12に示すように、それぞれ1.29mm及び1.30mmである。回転偏向部の角度が150°の場合のx方向及びy方向のビームサイズ1σは、図13に示すように、それぞれ1.29mm及び1.29mmである。回転偏向部の角度が180°の場合のx方向及びy方向のビームサイズ1σは、図14に示すように、それぞれ1.29mm及び1.30mmである。回転偏向部の角度が210°の場合のx方向及びy方向のビームサイズ1σは、図15に示すように、それぞれ1.30mm及び1.30mmである。

図8乃至図15に示すように、x方向及びy方向の位相空間分布の形状や位相は異なるが、x方向及びy方向のビームサイズ1σは、ほぼ等しくなっている。位相進みφ1及びφ2の平均値にマイナス(−)を付ける理由を説明する。回転偏向部60の入口における位相の選択は重要である。入口における位相の選び方が悪いと、出口における位相空間上でビームの位相空間分布が鉛直方向となってしまうため、ビームサイズが小さくなりすぎて所望のビームサイズにすることができず、望ましくない。位相進みφ1及びφ2の平均値にマイナス(−)を付けると、回転偏向部60の出口(アイソセンタ)でガントリの位相進み分がキャンセルされるからである。回転ガントリでは位相が入口から出口まで進むため、入口では位相が進む前の状態が望ましい。例えば、回転ガントリで60°進むとすると、−60°に設定しておけば、回転偏向部60の出口(アイソセンタ)で回転偏向部60中の位相進み分がキャンセルされることになる。

図16は、本発明の実施の形態1による回転偏向部の角度とアイソセンタICにおけるビームサイズの関係を示す図である。横軸は回転偏向部60のガントリ角度θであり、縦軸は標準偏差σの3倍に相当する大きさであるビームサイズ3σである。実線で示した特性71はx方向特性であり、破線で示した特性72はy方向特性である。実施の形態1の回転偏向部60を上記のようにすることで、回転偏向部60の回転角度、すなわち回転ガントリの回転角度に依存せずに、ほぼ一定のビームサイズを実現できる。

実施の形態1の荷電粒子ビーム輸送系59は、従来の設計における回転偏向部60の入口の条件である、βxy、αxy、ηx=0、η’x=0、ηy=0、η’y=0に加えて、入口におけるx方向の位相空間分布の位相φixを追加した入口の条件を用いて実現する。回転偏向部60の入口におけるx方向の位相空間分布の位相φixは、ガントリ角度が90°異なる2つのガントリ角度θ1、θ2のそれぞれの回転偏向部60の入口から出口までの位相進み(フェイズアドバンス)の小数部のそれぞれを平均した平均値にマイナス(−)を付けたものである。回転偏向部60の入口におけるx方向の位相空間分布の位相φixを設計した所定値にするために、例えば、荷電粒子ビーム輸送系59の固定輸送部61に四極電磁石を追加するか、もしくは四極電磁石の位置をずらす、もしくは励磁量の設定値を変更する。

次に、本発明による荷電粒子ビーム輸送系59の固定輸送部61のビーム設計について説明する。荷電粒子ビーム輸送系59の固定輸送部61は、次の3つの条件を満たすように設計する。条件1は、荷電粒子ビーム31が固定輸送部61を通過することである。条件2は、運動量分散関数η及びy方向の荷電粒子の位相空間分布が従来の条件を満たすことである。条件3は、固定輸送部61の入口におけるx方向の荷電粒子の位相空間分布が、アイソセンタICで回転依存性の少ないビームサイズを実現するための回転偏向部60に入力する所定の位相空間分布になることである。実施の形態1の荷電粒子ビーム輸送系59の回転偏向部60における所定の位相空間分布は、前述した回転偏向部60の入口におけるx方向の位相空間分布の位相φixであり、ガントリ角度が90°異なる2つのガントリ角度θ1、θ2のそれぞれの回転偏向部60の入口から出口までの位相進み(フェイズアドバンス)から半整数部を引き算した小数部のそれぞれを平均した平均値にマイナス(−)を付けたものである。

ビーム物理では一般に、横軸をx、縦軸をx’とした位相空間上の粒子の運動を考える。ビームの進行とともに位相空間上の粒子分布はベータトロン関数(β(s))にあわせて伸縮しつつ、位相進み(フェイズアドバンス)にあわせて回転する。βが同じ場合、ビームサイズを左右するのは粒子分布の位相である。位相のみに注目するために、ベータトロン関数による変形を規格化した規格化位相空間を考える。この規格化位相空間では、xの取りうる範囲は±1であり、x’の取りうる範囲は±1である。

この規格化位相空間では大きさは変化せず、ビームは輸送されるごとに反時計周りに回転を行う。例えば、回転ガントリが0°のときのx方向位相進み(フェイズアドバンス)をν0=2.9とし、回転ガントリが90°のときのx方向の位相進み(フェイズアドバンス)をν90=0.8とする。図38〜図40を用いて、位相演算の概念を説明する。

図38は、回転ガントリ入り口の位相を0.15として、回転ガントリが0°のときのx方向位相進みが、ν0=2.9へと進んだ場合の規格化位相空間である。図39は、回転ガントリ入り口の位相を0.15として、回転ガントリが90°のときのx方向位相進みが、ν90=0.8へと進んだ場合の規格化位相空間である。図40は、回転ガントリ入り口の位相を0.15として、x方向位相進みがν0=2.9である場合とx方向位相進みがν90=0.8である場合とを比較するための図である。図38〜図40において、位相線101は回転ガントリ入口の位相であり、位相線102は回転ガントリが0°のときのアイソセンタICの位相であり、位相線103は回転ガントリが90°のときのアイソセンタICの位相である。

回転ガントリ入り口の位相は、−(2.9+0.8)/2=−1.85として計算した。位相は、半周回しても同じため、回転ガントリ入り口の位相は、−1.85±n/2=0.15±m/2とすることができる。なお、n、mは自然数である。したがって、以下の式に変形できる。 −(2.9+0.8)/2=−0.85=0.15−2/2 これは、2.9の小数部0.9と0.8の小数部0.8の平均値を用いた場合と結果が同じということを示している。

次に、半整数部について考える。2.9の半整数部を除いた部分は、0.4である。0.8の半整数部を除いた部分は、0.3である。この場合も上記と同様に、下記の式がなりたち、結果は同じである。 −(0.4+0.3)/2=−0.35=0.15−1/2 角度で表現すると、54°±180°を反時計周りにした角度である。

ガントリ角度が0°のときと90°のときで、ほぼアイソセンタICのx方向の広がり(図38〜図40では投影長さ)がほぼ同一にできている。0°と90°の間の角度では、x方向とy方向の結合があるため単純ではないが、ほぼこの間にはいるため、ビームサイズはガントリ角度に依存せず一定化可能になる。

上述した条件1は当然なので、条件2及び3を具体的に説明する。図17は、本発明の荷電粒子ビーム輸送系のx方向の荷電粒子の位相空間分布を説明する図である。図17(a)は固定輸送部61の出口においてx方向の位相空間分布がx方向位相分布98になった例であり、図17(b)は固定輸送部61の出口においてx方向の位相空間分布がx方向位相分布99になった例である。x方向位相分布97は、加速器54の出口における位相空間分布である。x方向位相分布98、99は、固定輸送部61の出口、すなわち回転偏向部60の入口における位相空間分布である。x方向位相分布97、98、99は、線状分布として示す。x方向位相分布97の端点p1の座標は(x1、x’1)であり、x方向位相分布97の端点p2の座標は(−x1、−x’1)である。位相Ψ1はx方向位相分布97における位相であり、位相Ψ2はx方向位相分布98やx方向位相分布99における位相である。

x方向位相分布98、99は、いずれも回転偏向部60の入口における端点p1が端点p11(x2、x’2)になり、回転偏向部60の入口における端点p2が端点p12(−x2、−x’2)になったものである。x方向位相分布98とx方向位相分布99との違いは、端点p11が存在する位相空間上の象限が逆になっていることである。

条件2は、回転偏向部60の入口でβy、αy、ηx、η’x、ηy、η’yが従来どおりの条件を満たすことであり、すなわち、ηx、η’x、ηy、η’yが全て0にあり、βy、αyがアイソセンタICにおけるビーム条件を満たす値にすることである。この条件2を拘束条件1と呼ぶことにする。

条件3は、固定輸送部61の出口(回転偏向部60の入口)において、端点p11(x2、x’2)及び端点p12(−x2、−x’2)を有するx方向位相分布98やx方向位相分布99となるように輸送行列Mを決定することである。この条件3を拘束条件2と呼ぶことにする。輸送行列Mは、荷電粒子ビーム輸送系59の固定輸送部61の入口及び出口のツイスパラメータと、位相進み(フェイズアドバンス)の関数なので、ツイスパラメータを用いて条件を表現すると式(5)のようになる。なお、ツイス(twiss)パラメータは、ベータトロン関数β、αをパラメータとする場合の呼び方である。

ここで、式(5)の計数A1、B1、C1は式(6)のように表される。

ただし、β1、α1は固定輸送部61の入口のツイスパラメータであり、β2、α2は固定輸送部61の出口のツイスパラメータであり、ΔΨは固定輸送部61の入口から出口の位相進み(フェイズアドバンス)であり、Ψ2−Ψ1に相当する。x1、x’1は加速器54の出射設計で決まるものであり、x2、x’2はビームサイズが角度依存しないようにする場合の回転ガントリ(回転偏向部60)の設計で決まる。

本発明の実施の形態1による荷電粒子ビーム輸送系59では、回転偏向部60の入口において、x方向の位相空間分布の位相φixをガントリ角度が90°異なる2つのガントリ角度θ1、θ2のそれぞれの回転偏向部60の入口から出口までの位相進み(フェイズアドバンス)の小数部のそれぞれを平均した平均値にマイナス(−)を付けたものとなるようにする。すなわち、端点p11(x2、x’2)及び端点p12(−x2、−x’2)を有するx方向位相分布98(または99)の位相は、ガントリ角度が90°異なる2つのガントリ角度θ1、θ2のそれぞれの回転偏向部60の入口から出口までの位相進み(フェイズアドバンス)の小数部のそれぞれを平均した平均値にマイナス(−)を付けた位相φixとなるようにする。x方向位相分布98(または99)の位相Ψ2は、上記位相φixとなる。

条件1乃至3を満たす荷電粒子ビーム輸送系59の固定輸送部61の設計フローは以下の通りである。 ステップS1:従来どおり、ツイスパラメータを条件に用いて四極電磁石49の配置及び極性を決める。ここでは、四極電磁石49の配置を自由度に加えると,後の工程が長くなりすぎるので、四極電磁石49のベースを作る。こうすることで後の工程を短くすることができる。

ステップS2:固定輸送部61の出口(回転偏向部60の入口)におけるx方向の位相空間分布に接するように任意の楕円を書き、ツイスパラメータを計算する。楕円の位相Ψ2も計算しておく。固定輸送部61の出口(回転偏向部60の入口)のビーム分布が重要なため、出口を基準にする。

ステップS3:式(5)を用いて固定輸送部61の入口のツイスパラメータを計算する。このとき、ΔΨは任意の値を仮定し、入口の位相Ψ1はΨ2とΔΨから計算する。ツイスパラメータから荷電粒子ビーム31が固定輸送部61を通過できることを知るためには、ステップS2及び3を繰り返して,入口のツイスパラメータに対応する楕円(エミッタンスは当然出口の値)が入口のビーム分布を包含するようにする。毎回トラッキングを行い、ビームサイズを確認する場合はこの限りではない。

ステップS4:固定輸送部61の入口と出口におけるツイスパラメータおよび拘束条件2を満たすように固定輸送部61を設計する。なお、従来の設計方法は、このステップS4の実行に相当する。

ステップS5:ステップS4で適切な解が見つかるまでステップS2乃至ステップS4を繰り返す。解がない場合は、ステップS1に戻り、四極電磁石49の配置や極性変更を行う。

なお、このように設計した設計結果が、従来の設計条件を満たしていることを確認する。この確認をすることにより、荷電粒子ビーム輸送系59の設置後の調整作業をスムーズに行うことができる。また、ステップS1で決めた四極電磁石49の配置及び極性を遵守する場合も、荷電粒子ビーム輸送系59の設置後の調整作業をスムーズに行うことができる。

実施の形態1の荷電粒子ビーム輸送系59の回転偏向部60は、3つの偏向電磁石10a、10b、10cと4つの四極電磁石11a、11b、11c、11dの電磁石の強度を変更することなく、従来の設計における入口の条件に入口におけるx方向の位相空間分布の位相φixを追加した新たな入口の条件を適用することで、荷電粒子ビーム輸送系59の回転偏向部60の入口にてエミッタンスの非対称が存在しても、アイソセンタICで回転依存性の少ないビームサイズを実現することができる。

以上のように実施の形態1による荷電粒子ビーム輸送系59によれば、加速器54から出射された荷電粒子ビーム31が、加速器54の出射位置における荷電粒子ビーム31の進行方向に垂直な面内で、加速器の周回軌道面内の方向をx方向、荷電粒子ビーム31の進行方向に垂直な面内でx方向と直交する方向をy方向とした場合、x方向のエミッタンスとy方向のエミッタンスが異なる荷電粒子ビームであり、アイソセンタICを中心に回転可能な回転ガントリに搭載された粒子線照射装置58に荷電粒子ビーム31を輸送する荷電粒子ビーム輸送系59であって、回転ガントリに搭載されると共に、回転ガントリのガントリ回転軸15の周りを回転する回転偏向部60と、加速器54から回転偏向部60までの固定輸送部61と、を備え、回転偏向部60は複数の偏向電磁石10を有する。実施の形態1による荷電粒子ビーム輸送系59によれば、ガントリ回転軸方向から見た場合において、粒子線照射装置58のビーム中心線14と、回転偏向部60の入口における荷電粒子ビーム31のy方向の軸との角度をガントリ角度とし、加速器54の出射位置におけるx方向のエミッタンスとy方向のエミッタンスとが分離されてそれぞれのエミッタンスが保たれるように荷電粒子ビーム31が輸送される回転ガントリの角度をガントリ基準角度とし、ガントリ角度がガントリ基準角度である場合に、荷電粒子ビーム31の位相空間分布における位相が回転偏向部60の入口からアイソセンタICまで進む変化分を第1の位相進みとし、ガントリ角度がガントリ基準角度から90°回転した角度である場合に、荷電粒子ビーム31の位相空間分布における位相が回転偏向部60の入口からアイソセンタICまで進む変化分を第2の位相進みとし、固定輸送部61は、回転偏向部60の入口における荷電粒子ビーム31の位相空間分布の位相が、第1の位相進み及び第2の位相進みの平均値に基づいた演算を基に決定された位相となるようにしたことを特徴とするので、固定輸送部61が、回転偏向部60の入口におけるx方向の位相空間分布の位相φixを所定の位相にでき、すなわち、回転偏向部60の入口における荷電粒子ビーム31の位相空間分布を、その位相が第1の位相進み及び第2の位相進みの平均値に基づいた演算を基に決定された位相である等の所定の位相空間分布にでき、荷電粒子ビーム輸送系59の回転偏向部60の入り口にて、遅い取り出しの特徴であるx方向エミッタンスが非常に小さいようなビームに対しても、アイソセンタICで回転依存性の少ないビームサイズを実現することができる。

以上のように実施の形態1による粒子線治療装置51によれば、荷電粒子ビーム31を発生させ、この荷電粒子ビーム31を加速器54で加速させるビーム発生装置52と、加速器54により加速された荷電粒子ビーム31が、加速器54の出射位置における荷電粒子ビーム31の進行方向に垂直な面内で、加速器54の周回軌道面内の方向をx方向、荷電粒子ビーム31の進行方向に垂直な面内でx方向と直交する方向をy方向とした場合、x方向のエミッタンスとy方向のエミッタンスが異なる荷電粒子ビームであり、この荷電粒子ビーム31を輸送する荷電粒子ビーム輸送系59と、荷電粒子ビーム輸送系59で輸送された荷電粒子ビーム31を照射対象45に照射する粒子線照射装置58と、粒子線照射装置を搭載し、アイソセンタを中心に回転可能な回転ガントリと、を備え、荷電粒子ビーム輸送系59は、回転ガントリに搭載されると共に、回転ガントリのガントリ回転軸15の周りを回転する回転偏向部60と、加速器54から回転偏向部60までの固定輸送部61と、を備え、回転偏向部60は複数の偏向電磁石10を有し、ガントリ回転軸方向から見た場合において、粒子線照射装置58のビーム中心線14と、回転偏向部60の入口における荷電粒子ビーム31のy方向の軸との角度をガントリ角度とし、加速器54の出射位置におけるx方向のエミッタンスとy方向のエミッタンスとが分離されてそれぞれのエミッタンスが保たれるように荷電粒子ビーム31が輸送される回転ガントリの角度をガントリ基準角度とし、ガントリ角度がガントリ基準角度である場合に、荷電粒子ビーム31の位相空間分布における位相が回転偏向部60の入口からアイソセンタICまで進む変化分を第1の位相進みとし、ガントリ角度がガントリ基準角度から90°回転した角度である場合に、荷電粒子ビーム31の位相空間分布における位相が回転偏向部60の入口からアイソセンタICまで進む変化分を第2の位相進みとし、固定輸送部61は、回転偏向部60の入口における荷電粒子ビーム31の位相空間分布の位相が、第1の位相進み及び第2の位相進みの平均値に基づいた演算を基に決定された位相となるようにしたことを特徴とするので、固定輸送部61が、回転偏向部60の入口におけるx方向の位相空間分布の位相φixを所定の位相にでき、すなわち、回転偏向部60の入口における荷電粒子ビーム31の位相空間分布を、その位相が第1の位相進み及び第2の位相進みの平均値に基づいた演算を基に決定された位相である等の所定の位相空間分布にでき、荷電粒子ビーム輸送系59の回転偏向部60の入り口にて、遅い取り出しの特徴であるx方向エミッタンスが非常に小さいようなビームに対しても、アイソセンタICで回転依存性の少ないビームサイズを実現することができる。

実施の形態2. 本発明の実施の形態2による荷電粒子ビーム輸送系59について説明する。実施の形態2では、x方向の位相空間分布を、端点を有する線状分布と近似し、式(3)の輸送行列の一部を取り出したマトリクスを用いて計算した端点を有する線状分布を、荷電粒子ビーム輸送系59の回転偏向部60の入口で実現するように、荷電粒子ビーム輸送系59の固定輸送部61を構成する。このように、回転偏向部60の入口における荷電粒子ビーム31のx方向の位相空間分布を制御することで、加速器54から遅い取り出しで出射したときに発生するエミッタンスの違いを荷電粒子ビーム輸送系59で吸収し、アイソセンタICで回転依存性の少ないビームサイズを実現することができる。

本発明の実施の形態2による荷電粒子ビーム輸送系59の回転偏向部60のビーム設計について説明する。実施の形態1で説明したように、運動量分散関数ηに関しては、従来法と同様に、回転偏向部60の入口において、ηx=0、η’x=0、ηy=0、η’y=0となるビームが来ることを想定し、回転偏向部60の出口でηx=0、η’x=0、ηy=0、η’y=0を満たすように設計する。さらに、ガントリ角度が0°(または180°)のときと90°(または270°)の時に着目する。回転偏向部60の偏向電磁石が、固定輸送部61の偏向電磁石の平行面および垂直面内で偏向する偏向電磁石のみで構成される場合には、実施の形態1と同様に、x方向とy方向のカップリングがない、式(3)のような輸送行列が得られる。

回転偏向部60の入口及び出口の条件において、実施の形態1とは異なり、αxyの制約は設けない。すなわち、実施の形態2の回転偏向部60のビーム設計において、回転偏向部60の入口及び出口の条件を下記のようにする。 回転偏向部60の入口の条件は、βxy、ηx=0、η’x=0、ηy=0、η’y=0である。 回転偏向部60の出口の条件は、ηx=0、η’x=0、ηy=0、η’y=0である。

回転偏向部60の入口及び出口の条件を上記のようにすることで、すなわち、できる限り簡易化することで、少ない調整パラメータで回転偏向部60のビーム設計を行うことができる。式(3)における調整パラメータは、m11、m12、m21、m22、m33、m34、m43、m44である。

本発明の実施の形態2による回転偏向部60(図3参照)のベータトロン関数βと運動量分散関数ηを図18及び図19に示す。図18は、本発明の実施の形態2による回転偏向部からアイソセンタICにおける荷電粒子のベータトロン関数を示す図である。横軸はs方向の距離であり、縦軸はベータトロン関数βである。なお、図18においてベータトロン関数αは記載していない。図18(a)はx方向のベータトロン関数βであり、図18(b)はy方向のベータトロン関数βである。図19は、本発明の実施の形態2による回転偏向部からアイソセンタICにおける荷電粒子の運動量分散関数を示す図である。横軸はs方向の距離であり、縦軸は運動量分散関数ηである。図19(a)はx方向の運動量分散関数ηであり、図19(b)はy方向の運動量分散関数ηである。図18(a)、図18(b)、図19(a)、図19(b)のそれぞれにおいて、回転偏向部60の入口は、s=0mであり、回転偏向部60の出口は、左端のs=14m付近である。実施の形態2の例では、4個の四極電磁石11a、11b、11c、11dにより、アイソセンタICのビーム特性が良好となる輸送行列を実現している。

本発明の実施の形態2による回転偏向部60の電磁石配列が、図3に示した回転偏向部60の電磁石配列であり、図18及び図19に示したベータトロン関数及び運動量分散関数となるような各電磁石の強度の場合に、回転偏向部60の輸送行列を用いて回転偏向部60のビーム設計を行う例を考える。この場合の回転ガントリの輸送行列の一部を選択して取り出す。式(3)の輸送行列の一部を取り出したマトリクスは、式(7)である。輸送行列の一部を選択して取り出したマトリクスを、選択マトリクスと呼ぶことにする。

式(7)のマトリクスおけるm11、m12、m33、m34のそれぞれは、アイソセンタICにおけるx方向のビームサイズ、とy方向のビームサイズと、回転ガントリ入口、すなわち回転偏向部60の入口の位相空間上の分布を関連つける量である。この量を基に、回転ガントリ入口におけるx方向の理想的な位相空間上の線状分布を、以下のように決定する。

位相空間上の線状ビームを特徴つける量は、位相空間上の端点の座標(x、x’)である。そこで、端点の座標(x、x’)を未知数として、式(7)の輸送行列を用いて、式(8)の連立方程式を導出する。

式(8)の意味を説明する。ガントリ角度を0°又は180°にした場合と、ガントリ角度を90°又は270°にした場合とで、同じビームサイズが実現するための式になっている。上記2つの角度でほぼ同じビームサイズを実現できる光学系(荷電粒子ビーム輸送系59)を実現すると、上記2つの角度の間の角度では問題にならない程度の差しか発生しない。

式(8)を説いて得られた端点の座標(x、x’)を一端とし、この端点の座標(x、x’)の原点を中心にした点対称である座標、すなわち(−x、−x’)を他端に持つ位相空間上の線状分布を、ガントリ入口(回転偏向部60の入口)で実現すれば、従来の設定方法で設計された回転偏向部60を通過すことで、アイソセンタICにおいて、ビームサイズの回転依存性がなくなる。

上記の手順で得られた実施の形態2による回転偏向部60の入口における荷電粒子の位相空間分布は、図20のようになる。また、実施の形態2による回転偏向部60のアイソセンタICでの荷電粒子の位相空間分布は、図21乃至図28のようになる。

図21乃至図28は、本発明の実施の形態2による回転偏向部の角度がそれぞれ0°、30°、60°、90°、120°、150°、180°、210°の場合におけるアイソセンタICでの荷電粒子の位相空間分布を示す図である。各図の(a)はx方向の位相空間分布であり、各図の(b)はy方向の位相空間分布である。各図の(a)において、横軸はx方向の距離xであり、縦軸はx方向の傾きx’である。各図の(b)において、横軸はy方向の距離yであり、縦軸はy方向の傾きy’である。図中に示したビームサイズ(rms)は、実施の形態1で説明したビームサイズ1σである。

回転偏向部60の角度が0°の場合のx方向及びy方向のビームサイズ1σは、図21に示すように、それぞれ1.29mm及び1.29mmである。回転偏向部の角度が30°の場合のx方向及びy方向のビームサイズ1σは、図22に示すように、それぞれ1.30mm及び1.29mmである。回転偏向部の角度が60°の場合のx方向及びy方向のビームサイズ1σは、図23に示すように、それぞれ1.30mm及び1.30mmである。回転偏向部の角度が90°の場合のx方向及びy方向のビームサイズ1σは、図24に示すように、それぞれ1.30mm及び1.30mmである。

回転偏向部の角度が120°の場合のx方向及びy方向のビームサイズ1σは、図25に示すように、それぞれ1.29mm及び1.30mmである。回転偏向部の角度が150°の場合のx方向及びy方向のビームサイズ1σは、図26に示すように、それぞれ1.29mm及び1.30mmである。回転偏向部の角度が180°の場合のx方向及びy方向のビームサイズ1σは、図27に示すように、それぞれ1.29mm及び1.29mmである。回転偏向部の角度が210°の場合のx方向及びy方向のビームサイズ1σは、図28に示すように、それぞれ1.30mm及び1.29mmである。

図21乃至図28に示すように、x方向及びy方向の位相空間分布の形状や位相は異なるが、x方向及びy方向のビームサイズ1σは、ほぼ等しくなっている。図29は、本発明の実施の形態2による回転偏向部の角度とアイソセンタICにおけるビームサイズの関係を示す図である。横軸は回転偏向部60のガントリ角度θであり、縦軸は標準偏差σの3倍に相当する大きさであるビームサイズ3σである。実線で示した特性81はx方向特性であり、破線で示した特性82はy方向特性である。実施の形態2の回転偏向部60を上記のようにすることで、回転偏向部60の回転角度、すなわち回転ガントリの回転角度に依存せずに、ほぼ一定のビームサイズを実現できる。

実施の形態2の荷電粒子ビーム輸送系59の固定輸送部61は、固定輸送部61の出口を回転偏向部60の入口の条件である、βxy、ηx=0、η’x=0、ηy=0、η’y=0に加えて、上述した式(8)を説いて得られた端点の座標(x、x’)を一端とし、この端点の座標(x、x’)の原点を中心にした点対称である座標、すなわち(−x、−x’)を他端に持つ位相空間上の線状分布を用いて実現する。

固定輸送部61の設計フローは、実施の形態1で説明した設計フローと同じである。ただし、実施の形態2では、実施の形態1とは異なり、拘束条件においてβxy、αxyの制約条件は設定されない。

図30と図33乃至図37は、本発明の実施の形態2による回転偏向部の角度がそれぞれ0°、30°、60°、90°、120°、150°の場合における回転偏向部の入口からアイソセンタにおける荷電粒子のビームサイズの関係を示す図である。横軸はs方向の距離であり、縦軸はビームサイズ3σである。各図において、区間S1、S3、S5は、それぞれ偏向電磁石10a、10b、10cを通過する区間であり、区間S2は四極電磁石11a、11bが配置された区間であり、区間S4は四極電磁石11c、11dが配置された区間である。区間S6は、偏向電磁石10cの出口、すなわち回転偏向部60の出口からアイソセンタICまでの区間である。

図31は本発明の実施の形態2による回転偏向部の角度が0°の場合におけるx方向ビームサイズを示す図であり、図32は本発明の実施の形態2による回転偏向部の角度が0°の場合におけるy方向ビームサイズを示す図である。x方向特性83は、x方向の位相空間分布を図20(a)の線状分布としてシミュレーションして得られた結果である。y方向特性84は、y方向の位相空間分布を図20(b)の楕円分布としてシミュレーションして得られた結果である。x方向特性85は、x方向のツイスパラメータを用いてシミュレーションして得られた結果である。y方向特性86は、y方向のツイスパラメータを用いてシミュレーションして得られた結果である。図31では、x方向特性83とx方向特性85はあまり一致しない。これは、x方向の位相空間分布を楕円分布と近似すると、正確なビームサイズが得られないことを示している。図32では、y方向特性84とy方向特性86はよく一致している。区間S1ではずれているが、そのずれは小さく無視でる程度である。

実施の形態2の荷電粒子ビーム輸送系59の回転偏向部60は、3つの偏向電磁石10a、10b、10cと4つの四極電磁石11a、11b、11c、11dの電磁石の強度を変更することなく、従来の設計における入口の条件から、βxy、αxyの制約条件を外し、所定のx方向の位相空間分布を追加することで、アイソセンタICにおいて、ビームサイズの回転依存性がなくなる。所定のx方向の位相空間分布は、式(8)を説いて得られた端点の座標(x、x’)を一端とし、この端点の座標(x、x’)の原点を中心にした点対称である座標、すなわち(−x、−x’)を他端に持つ位相空間上の線状分布である。所定のx方向の位相空間分布は、荷電粒子ビーム輸送系59の固定輸送部61における四極電磁石を追加するか、もしくは四極電磁石の位置をずらした上で、励磁量を再最適化し、回転偏向部60の入口で必要な粒子分布を実現する。実施の形態2の荷電粒子ビーム輸送系59は、実施の形態1に比べて、拘束条件が少なく、課題を達成できるため、調整要素を少なくし、さらなるコンパクト化が図れる。

実施の形態2の荷電粒子ビーム輸送系59は、回転偏向部60の入口におけるx方向の位相空間分布を、上記に示した所定のx方向の位相空間分布にしたので、荷電粒子ビーム輸送系59の回転偏向部60の入り口にてエミッタンスの非対称が存在しても、アイソセンタICで回転依存性の少ないビームサイズを実現することができる。

10、10a、10b、10c…偏向電磁石、14…ビーム中心線、15…ガントリ回転軸、31…荷電粒子ビーム、45…照射対象、51…粒子線治療装置、54…加速器、58、58a、58b…粒子線照射装置、59…荷電粒子ビーム輸送系、60…回転偏向部、61…固定輸送部、βx、βy、αx、αy…ツイスパラメータ、IC…アイソセンタ。

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