【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、音声等のアナログ信号をデジタル信号に変換して伝送するデジタル伝送システムの同期方式に関するものである。 【0002】 【従来の技術】音声等のアナログ信号をデジタル信号に変換して伝送するデジタル伝送方式には、現在64kb it/sのPCM信号に変換して伝送する方式が広く用いられている。 【0003】しかし、さらに低ビットレートで音声等を伝送するため種々の高能率符号化方式が開発されている。 CCITT(国際電信電話諮問委員会)では、3. 4kHz帯域のアナログ信号を32kbit/sに圧縮するADPCM(Adaptive Defferential PCM)方式を勧告G. 721で標準化しており、また、7kHz帯域のアナログ信号を64kbit/sに圧縮するSB− ADPCM(Sub-bandADPCM)方式を勧告G. 72 2で標準化している。 【0004】図2に、勧告G. 721に従うADPCM 符号器及び復号器のブロック図を示す。 ここで、図2 (A)が符号器の構成を示し、図2(B)が復号器の構成を示す。 【0005】図2(A)において、送信側のデジタル伝送装置内に設けられている当該符号器には、64kbi t/sの非線形PCM信号(なお、サンプリング周波数は8kHz)が入力される。 例えば、μ則PCM信号(主として米国及び日本で採用)又はA則PCM信号(主としてヨーロッパで採用)が入力される。 均一PC M変換部1は、この非線形PCM信号を均一PCM信号(線形PCM信号)に変換して差分算出部2に与える。 差分算出部2は、均一PCM変換部1で変換された均一PCM信号と、この信号の予測信号との差分信号(予測誤差信号)を得て適応量子化器3に与える。 適応量子化器3は、この差分信号を4ビットに量子化する。 このときの量子化ステップサイズを差分信号の大きさにより適応的に変更する。 これにより、差分信号が大きい場合には量子化ステップサイズも大きくなり、差分信号が小さい場合には量子化ステップサイズも小さくして、少ないビット数(4ビット)で広い範囲の差分信号を量子化することを可能にしている。 この4ビットに量子化されたADPCM信号(ビットレート:4bit×8kHzサンプリング周波数=32kbit/s)が、当該符号器の出力信号となる。 【0006】また、4ビットに量子化されたADPCM 信号は適応逆量子化器4に与えられる。 適応逆量子化器4は、適応量子化器3の逆処理を行なって局部再生の量子化差分信号を得て加算器5及び適応予測器6に与える。 加算器5は、この量子化差分信号と予測信号とを加算して局部再生信号を得て適応予測器6に与える。 適応予測器6は、過去の量子化差分信号(予測誤差信号)と局部再生信号とから予測係数を得てこれに現在の量子化差分信号と局部再生信号とを適用して現時点の予測信号を得て上述した差分算出部2及び加算器5に与える。 すなわち、この適応予測器6は、過去の量子化差分信号と局部再生信号とにより予測係数は適応的に更新していくものである。 【0007】以上のように、適応量子化及び適応予測を適用することにより、3.4kHz帯域のアナログ信号を32kbit/sに圧縮して出力することができる。 【0008】次に、かかるADPCM符号器に対応する、受信側のデジタル伝送装置内に設けられているAD PCM復号器について図2(B)を参照して説明する。 【0009】図2(B)において、32kbit/sのADPCM信号は適応逆量子化器10に与えられる。 適応逆量子化器10は、適応量子化器3の逆処理を行なって再生量子化差分信号を得て加算器11及び適応予測器12に与える。 加算器11は、この量子化差分信号と適応予測器12から与えられる予測信号とを加算して再生信号を得て適応予測器12及びPCM変換部13に与える。 適応予測器12は、過去の量子化差分信号(予測誤差信号)と再生信号とから予測係数を得てこれに現在の量子化差分信号と再生信号とを適用して現時点の予測信号を得て上述した加算器11に与える。 【0010】PCM変換部13は、加算器11からの再生信号(均一PCM信号)を64kbit/sのA則P CM信号又はμ則PCM信号(非線形PCM信号)に変換して次段に出力する。 【0011】なお、図示は省略するが、ADPCM復号器には同期入力信号が与えられており、ADPCM復号器は、この同期入力信号に基づいて、ADPCM信号を4ビットずつのサンプルに分離して復号処理している。 【0012】以上、勧告G. 721によるADPCM符号器及び復号器について説明したが、勧告G. 722によるSB−ADPCM符号器及び復号器も帯域を分割して処理する点を除き、上述のADPCM符号器及び復号器と処理原理は同様である。 すなわち、入力アナログ信号の帯域7kHzを4kHzを境として低域0〜4kH zと高域4〜7kHzとに分割し、各帯域に対してそれぞれ上述したADPCM符号化及び復号化を適用している。 なお、圧縮符号化されたADPCM信号を合成する構成が符号器側で必要であり、合成されているADPC M信号を高域及び低域のADPCM信号に分離する構成が復号器側で必要になる等の点は、勧告G. 721によるADPCM方式と当然に異なる点である。 【0013】ところで、いずれの勧告に従うADPCM 信号(場合によってはSB−ADPCM信号を含む概念とする)であれ、ADPCM信号を伝送する場合には、 連続したデジタル信号(ビットストリーム)の中からどの4ビット又は8ビットが1サンプルのデータであるかを復号器が識別できないと、復号器が正しく復号化することができない。 すなわち、ADPCM信号を同期入力信号に正しく同期させることが必要となる。 【0014】従来、同期方法として、以下の第1又は第2の方法が用いられていた。 なお、従来の同期方法の説明においては、CCITT勧告G. 721によるADP CM信号について説明する。 【0015】図3は、第1の同期方法の説明図である。 この第1の同期方法は、符号器及び復号器間で授受するADPCM信号の中に同期用の情報(フレームパターン)を盛り込む方法である。 すなわち、複数(m個)のビットでなるフレームパターンの各ビットを、符号器側でn個毎のサンプルのLSB(最下位ビット)に盛り込んで伝送し、復号器側では4×n毎のm個のビットで形成されたパターンが予め規定されているフレームパターンに一致するかを監視し、受信ADPCM信号の4ビット単位の切り分けをフレームパターンに一致するように行なうことで同期させるものである。 【0016】図4は、第2の同期方法の説明図である。 この第2の同期方法は、図4(A)に示すように、AD PCM信号は、なんら変換することなくそのまま伝送すると共に、このADPCM信号の各サンプルのMSB (最上位ビット)の期間で有意となる、図4(B)に示す同期入力信号(フレーム同期信号)を別途符号器及び復号器間で授受することにより同期を得るものである。 【0017】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述した第1の同期方法は、符号器及び復号器間で授受するデジタル伝送信号(ADPCM信号)以外に伝送する信号(同期入力信号)がないという利点を有する反面、デジタル伝送信号の一部にフレームパターンを挿入しているため復号された信号に劣化が生じるという欠点を有する。 【0018】他方、第2の同期方法は、デジタル伝送信号(ADPCM信号)を正確に伝送できるという利点を有する反面、デジタル伝送信号とは別に同期入力信号(フレーム同期信号)を伝送しなければならないという欠点を有する。 【0019】本発明は、以上の点を考慮してなされたものであり、デジタル伝送信号の一部を同期のために犠牲にすることがない、しかも、デジタル伝送信号以外の他の信号を同期のために伝送する必要がないデジタル伝送システムの同期方式を提供しようとするものである。 【0020】 【課題を解決するための手段】かかる課題を解決するため、本発明においては、少なくとも一部のビットが特有の統計的性質を有する符号化されたデジタル伝送信号を授受するデジタル伝送システムであって、受信側のデジタル伝送装置内の復号器が受信したデジタル伝送信号を同期入力信号に基づいてサンプルに分けて復号処理するデジタル伝送システムの同期方式において、送信側のデジタル伝送装置から受信側のデジタル伝送装置へ、デジタル伝送信号のみを伝送すると共に、受信側のデジタル伝送装置に、以下の各手段を設けた。 すなわち、デジタル伝送信号の統計的性質のために同期状態と非同期状態とで変化する、復号器の内部状態を監視する監視手段と、その監視出力に基づいて、同期状態か否かを判定する同期検出手段と、判定結果が非同期状態の場合に、復号器に与えるデジタル伝送信号及び同期入力信号の相対的位相を、デジタル伝送信号における1ビットずつシフトさせる信号シフト手段とを設けた。 【0021】ここで、送信側及び受信側のデジタル伝送装置が適応量子化器を有するものであれば、監視手段が、量子化ステップサイズを監視するものであることが一例として好ましい。 【0022】また、送信側及び受信側のデジタル伝送装置が適応予測器を有するものであれば、監視手段が、予測係数を監視するものであることが一例として好ましい。 【0023】 【作用】本発明は、一部のビットが同期のために変換されていないデジタル伝送信号のみを授受することによって、同期確立を行なうことができるようにしたものであり、デジタル伝送信号が有する統計的性質を利用することを特徴とするものである。 【0024】特有の統計的性質を有するデジタル伝送信号の場合、同期状態と非同期状態とでは、復号器のある内部状態は弁別できる程度に異なるものとなる。 そこで、監視手段が、デジタル伝送信号の統計的性質のために同期状態と非同期状態とで変化する復号器の内部状態を監視し、同期検出手段が、その監視出力に基づいて、 同期状態か否かを判定し、信号シフト手段が、判定結果が非同期状態の場合に、復号器に与えるデジタル伝送信号及び同期入力信号の相対的位相を、デジタル伝送信号における1ビットずつシフトさせることとした。 【0025】ここで、送信側及び受信側のデジタル伝送装置が適応量子化器を有するものであれば、監視手段が、量子化ステップサイズを監視するものであることが一例として好ましい。 例えば、ADPCM信号やSB− ADPCM信号の伝送システムに、かかる監視方法を適用できる。 【0026】また、送信側及び受信側のデジタル伝送装置が適応予測器を有するものであれば、監視手段が、予測係数を監視するものであることが一例として好ましい。 例えば、ADPCM信号やSB−ADPCM信号やDPCM信号の伝送システムに、かかる監視方法を適用できる。 【0027】 【実施例】以下、本発明をCCITT勧告G. 721に従うADPCM信号の伝送システムの同期方式に適用した一実施例を図面を参照しながら詳述する。 【0028】(A)ADPCM信号の統計的性質 この実施例は、ADPCM信号の統計的性質を利用してサンプル単位の正しい受信復号(同期)を可能としたことを特徴とするものである。 そこでまず、ADPCM信号の統計的性質を説明する。 【0029】ADPCM信号は、上述したように、予測信号と実際の入力信号(均一PCM信号)との差分信号を適応量子化ステップサイズで量子化した信号であり、 通常そのADPCM信号のビット長(4ビット:1サンプル)で表現できるものであり、その信号(各ビット) は統計的に以下のような性質を有する。 【0030】(A-1) MSB(最上位ビット) ADPCM信号のMSBは極性(符号)ビットであり、 正又は負を符号化しているので“0”又は“1”をとる。 雑音だけがADPCM符号器に入力されている状態では予測が難しいので、このMSBの“0”及び“1” 間の反転回数は多いが、入力信号がADPCM符号器に入力されている状態では入力信号と予測信号との誤差の極性反転回数に応じてこのMSBの論理レベルが反転する。 【0031】(A-2) 第2ビット ADPCM信号の第2ビットは、振幅情報を表す3ビット中の最上位ビットである。 差分信号は、入力信号とその予測信号との差であるので、この差分信号の値が大きくなる確率は高くない。 従って、この第2ビットが“0”になっている確率は非常に高い。 すなわち、1サンプルに係る4ビットの中では、“0”になっている確率が一番高い。 【0032】(A-3) 第3ビット ADPCM信号の第3ビットは、振幅情報を表す3ビット中の第2ビットである。 この第3ビットが、“1”から“0”へ、また、“0”から“1”へ変化する反転回数は、4ビットの中では平均的である。 【0033】(A-4) LSB(最下位ビット) ADPCM信号のLSBは、振幅情報を表す3ビット中の最下位ビットである。 従って、差分信号の最小レベル(量子化ステップサイズ)の相違で“1”及び“0”が反転するので、頻繁に反転する。 【0034】(B)統計的性質と非同期状態との関係 以上のような統計的性質を有するADPCM信号を、A DPCM復号器が非同期状態で処理すると、得られた再生信号等は次のようになる。 【0035】 (B-1) 本来の第2ビットをMSBとした場合 まず、ADPCM信号を1ビットずつずらせてサンプルとして処理した場合を考える。 すなわち、本来の第2ビットをMSB、本来の第3ビットを第2ビット、本来のLSBを第3ビット、本来のMSBをLSBとみなして処理した場合を考える。 この場合のMSB(本来の第2 ビット)は上述したように“0”となる確率が高く、第2ビットはかなり“1”及び“0”間で反転する。 このため、復号器の入力信号(符号化されている差分信号) 及び量子化差分信号は“正のかなり大きな値”となる確率が高い。 従って、これに予測信号を加えて得たADP CM再生信号も“予測信号より大きい値”となることが多い。 【0036】(B-2) 本来のLSBをMSBとした場合 次に、ADPCM信号を1ビットずつ逆にずらせてサンプルとして処理した場合を考える。 すなわち、本来のL SBをMSB、本来のMSBを第2ビット、本来の第2 ビットを第3ビット、本来の第3ビットをLSBとみなして処理した場合を考える。 この場合、極性ビットたるMSB(本来のLSB)は非常に“1”及び“0”間で反転する確率が高く、第2ビット(本来のMSB)も“1”及び“0”間で反転する確率が高い。 このため、 復号器の入力信号(符号化されている差分信号)及び量子化差分信号は、“非常に大きな値”とみなされる確率が高く、ADPCM再生信号も“非常に大きな値”とみなされる確率が高くなる。 【0037】 (B-3) 本来の第3ビットをMSBとした場合 最後に、本来の第3ビットをMSB、本来のLSBを第2ビット、本来のMSBを第3ビット、本来の第2ビットをLSBとみなして処理した場合を考える。 この場合は、MSB(本来の第3ビット)が“1”及び“0”間で反転を行ない、第2ビット(本来のLSB)が非常に“1”及び“0”間で反転を行なう確率が高い。 そのため、復号器の入力信号(符号化されている差分信号)及び量子化差分信号は、“非常に大きな値”とみなされる確率が高く、ADPCM再生信号も“非常に大きな値” とみなされる確率が高くなる。 【0038】以上のように、ADPCM復号器へのAD PCM信号(受信信号)を同期位置からずらした場合、 通常受信する信号では非常に低い確率で現れる信号を受信したことになる。 従って、受信信号の態様が、ADP CM信号が有する統計的性質から通常生じる程度の確率か否かを捕らえることで同期、非同期を判別することができる。 実施例は、この点に鑑み、同期を確立しようとしたものである。 【0039】(C)実施例の構成及び動作 次に、実施例の構成及び動作を図1を参照しながら詳述する。 【0040】上述したように、この実施例は、非同期状態で受信しているADPCM信号(サンプル)は、まれにしか現れない態様の信号になっていることに基づいて同期を確立するものであり、そのため、同期確立のためにADPCM信号の一部に同期用ビット(フレームパターンのビット)を設けることもなく、また、同期入力信号を符号器から復号器に伝送する必要はなく、ADPC M信号だけを符号器から復号器に伝送すれば良い。 【0041】図1において、受信された32kbit/ sのADPCM信号は、ADPCM復号器20に入力される。 また、受信側のデジタル伝送装置内部のクロック発生回路(図示せず)が発生した8kHzのクロック信号(同期入力信号)も、可変シフトレジスタ回路構成の可変遅延回路21を介してADPCM復号器20に入力される。 なお、可変遅延回路21は、ADPCM信号の1ビット周期ずつ遅延量を可変できるものである。 【0042】ADPCM復号器20は、上述した図2 (B)に示す詳細構成を有し、入力されたクロック信号に基づいてADPCM信号をサンプルに分けて復号化処理し、64kbit/sのA則PCM信号又はμ則PC M信号の非線形PCM信号を得て次段に出力する。 【0043】ここで、ADPCM復号器20に入力されるADPCM信号及びクロック信号の同期確立は、すなわち、ADPCM信号の正しいサンプル毎の分割は次のようになされる。 【0044】同期確立動作時において、監視回路22 は、ADPCM復号器20内の適応逆量子化器(図2 (B)符号10参照)の適応動作する量子化ステップサイズを監視しており、この量子化ステップサイズが最大値のときに検出信号を同期検出回路23に与える。 同期検出回路23は、所定時間内の最大値検出信号の個数を計数し、これを所定の閾値と比較し、閾値より大きいときに非同期状態信号を位相制御回路24に与え、閾値以下のときに同期状態信号を位相制御回路24に与える。 位相制御回路24は、非同期状態信号が与えられたときに、可変遅延回路21の遅延量をクロック信号の1/4 周期だけ大きくし、すなわち、ADPCM信号の1ビット周期だけ遅延量を大きくする。 他方、位相制御回路2 4は、同期状態信号が与えられたときに、可変遅延回路21の遅延量をそのときの遅延量に固定する。 【0045】このように、この実施例の場合、適応逆量子化器の量子化ステップサイズが最大値をとる割合に基づいて、同期状態、非同期状態を監視して同期制御を行なっている。 勿論、同期確立動作は、初期の引き込みの際だけでなく、一旦確立した同期が外れた場合にも行なわれる。 【0046】このようにして同期制御を行なうことができる理由について詳述する。 上述した「統計的性質と非同期状態との関係」で説明したように、いずれの態様の非同期状態でも、ADPCM信号のサンプル値が意味する値(符号化されている差分信号)は、“正のかなり大きな値”、“非常に大きな値”のように大きな値をとるものとなる。 そのため、差分信号の大きさによって定まる量子化ステップサイズも非同期状態では大きな値を頻繁にとるものとなり、同期状態で最大値の量子化ステップサイズが生じる割合より、かなり大きな割合で最大値の量子化ステップサイズが生じる。 従って、上記実施例のように、最大値の量子化ステップサイズが生じる割合に基づいて、同期状態及び非同期状態を区別して判断することができる。 【0047】(D)実施例の効果 従って、上述した実施例によれば、ADPCM信号列をそのまま伝送して同期を確立するので、すなわち、AD PCM信号列に信号以外のフレームパターンを挿入する必要がないので、伝送を通じて信号が劣化することを防止できる。 また、ADPCM信号列以外にフレーム同期信号を別途伝送することを必要としなくなる。 【0048】(E)他の実施例 (E-1) 同期確立のために位相が制御される信号 上記実施例においては、非同期状態と判断したときに、 ADPCM復号器に与えるクロック信号の位相を制御するものを示したが、同期ではADPCM信号とクロック信号との相対的位相が問題となるので、逆に、ADPC M復号器に与えるクロック信号の位相を固定して、AD PCM信号の位相を制御するようにしても良い。 すなわち、ADPCM信号のADPCM復号器への入力ライン上に可変遅延回路を介挿し、クロック信号発生器が発生したクロック信号をADPCM復号器に直接入力するようにしても良い。 【0049】(E-2) 適用可能な符号化方式 上記実施例においては、ADPCM符号化方式の同期方式に本発明を適用したものを示したが、本発明は、これに限定されるものではなく、他の符号化方式の同期方式にも適用することができる。 但し、符号化されたデジタル伝送信号の少なくとも一部のビットが、特有な統計的性質を有することを要する。 例えば、上述したSB−A DPCM符号化方式を適用することができる。 また、D PCM符号化方式等の予測符号化方式は、入力信号と予測信号との差分信号を符号化しているので、統計的性質を有し、本発明を適用することができる。 【0050】なお、参考のために、CCITT勧告G. 722に規定されるSB−ADPCM信号の統計的性質を記すと、以下の通りである。 【0051】MSB:高域の極性ビットである。 “1” 及び“0”間の反転が多い。 第2ビット:高域の唯一の振幅ビットである。 “1”及び“0”間の反転が多い。 第3ビット:低域の極性ビットである。 “1”及び“0”間の反転が多い。 第4ビット:低域の振幅ビット中のMSBである。 “0”になる確率が非常に高い。 第5ビット:低域の振幅ビット中の第2ビットである。 “0”になる確率がかなり高い。 第6ビット:低域の振幅ビット中の第3ビットである。 第7ビット:低域の振幅ビット中の第4ビットである。 LSB :低域の振幅ビット中のLSBである。 “1”及び“0”間の反転が非常に多い。 【0052】(E-3) 同期判断に用いるパラメータ 上記実施例においては、量子化ステップサイズに基づいて同期が確立したか否かの判断を行なうものを示したが、他のパラメータをかかる判断に用いることができる。 すなわち、デジタル伝送信号(例えばADPCM信号)の統計的性質のために、非同期状態と同期状態とで、復号器における他のパラメータも様相が異なるものとなり、他のパラメータも利用することができる。 実際上、DPCM符号化方式等の適応量子化器を利用しない符号化方式の場合、量子化ステップサイズを利用できないので、他のパラメータを利用することとなる。 利用できるパラメータとしては、適応予測器(図2(B)符号12参照)の予測係数や、デジタル伝送信号のビット情報自体等を挙げることができる。 なお、各パラメータ単独で判断するのではなく、複数種類のパラメータを用いて総合的に同期状態の判断を行なうようにしても良い。 【0053】予測係数を同期確立に利用する方法の一例を説明する。 CCITT勧告G. 722に規定されるS B−ADPCM信号について、実験上、同期が確立している状態では、ある極予測係数は、その最大値に近い値になっている確率が高い(但し、最大値に貼り付くことはない)。 ビットずれが1〜6ビットのときには、その極予測係数が最大値に近い値になる確率は小さい。 また、ビットずれが7ビットのときには、その極予測係数は最大値に貼り付く確率が高い。 そこで、例えば、監視回路が、その極予測係数がその最大値に近い値でかつ最大値を除いた範囲の値になっているか否かを監視し、同期検出回路がその範囲の値になっている回数をある一定時間だけ計数して所定回数を越えているか否かを判断し、所定回数より少ないときに位相制御回路が入力されたSB−ADPCM信号とクロック信号との相対的位相を変更させるようにすれば良い。 【0054】デジタル伝送信号のビット情報自体を同期確立に利用する方法の一例を説明する。 CCITT勧告G. 721に規定されるADPCM信号は、上述したように、第2ビットはほとんど“0”になっており、LS Bは頻繁に論理を反転している。 従って、同期が確立している状態の第2ビットはほとんど“0”になっており、LSBは頻繁に論理を反転する。 他方、非同期状態では、第2ビットも論理を反転し、LSBの反転回数は少なくなる。 そこで、監視回路によって、第2ビット及びLSBの論理反転を監視し、同期検出回路が第2ビットの所定時間内の反転回数が第1の所定回数より少なく、かつLSBの反転回数が第2の所定回数より多いときに同期状態と判断し、これ以外のときに非同期状態と判断し、位相制御回路が非同期状態のときにADPCM 信号とクロック信号との相対的位相を変更させるようにすれば良い。 【0055】 【発明の効果】以上のように、本発明によれば、送信側及び受信側デジタル伝送装置間ではデジタル伝送信号だけを伝送すると共に、受信側のデジタル伝送装置において、デジタル伝送信号列が有する統計的性質に基づいて、同期、非同期を判断して同期制御を行なうようにしたので、デジタル伝送信号の一部を同期のために犠牲にすることがない、しかも、デジタル伝送信号以外の他の信号を同期のために伝送する必要がないデジタル伝送システムの同期方式を実現できる。 【図面の簡単な説明】 【図1】実施例の受信側のデジタル伝送装置の構成を示すブロック図である。 【図2】CCITT勧告G. 721に従うADPCM符号器及び復号器の構成を示すブロック図である。 【図3】従来の第1の同期方式の説明図である。 【図4】従来の第2の同期方式の説明図である。 【符号の説明】 20…ADPCM復号器、21…可変遅延回路、22… 監視回路、23…同期検出回路、24…位相制御回路。 ───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 和田 博 東京都新宿区西新宿2丁目3番2号 国際 電信電話株式会社内 (72)発明者 飯田 昌久 東京都新宿区西新宿2丁目3番2号 国際 電信電話株式会社内 |