【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、主として自動車用冷房装置の冷凍サイクルに用い、その冷凍サイクルにおける冷媒圧が、一定の圧力値以下または一定の圧力値以上になったとき圧縮機の機能を停止させてシステムを保護する圧力スイッチの構造に関する。 【0002】 【従来の技術】本出願人は、特公平7−101583号公報および特公平7−114094号公報に示される圧力スイッチを提案している。 このような圧力スイッチの構成を断面図として示す図1を用いて説明する。 圧力スイッチは、流体が流入し圧力伝達を可能にする流体通路11が上部に設けられた軸対称形のハウジング10と、 圧力スイッチ機構と、スイッチケース20とから構成される。 スイッチケース20は、例えばガラス繊維で補強されたポリブチルテレフタレート樹脂などの電気絶縁性材料から構成され、前記圧力スイッチ機構が配置される上部が開口した中空部と、電気接続のための下部開口を有しており、中空部と下部開口は仕切り壁23によって仕切られている。 【0003】上記圧力スイッチ機構は、例えばポリイミド樹脂フィルムからなるダイヤフラム30と、鋼からなる第1のスナップディスク31と、ポリブチレンテレフタレート(Polybuthylene terephthalate:以下、PB Tという)樹脂からなる受け部材50と、鋼からなる第2のスナップディスク32と、作動棒54と、第1のスイッチレバー41と、第2のスイッチレバー42と、一対の端子40とから構成されている。 圧力スイッチ機構のダイヤフラム30の周辺部が、スイッチケース20の上辺に載置されパッキング25を介してハウジング10 との間に機密に固定されている。 【0004】受け部材50は、円盤形状をしており、円盤の上部周縁部に外壁51が立上り、中心部に中空孔5 2が穿がたれ、下面には中空孔の周囲壁を下方突出させた中央突起部53が設けられている。 この受け部材50 は、スイッチケース20の内部空間に上下方向に摺動自在に収容される。 スイッチケース20の内部空間の内壁には、受け部材50の下方への動きを制限する段状部2 1が設けられ、さらにその下方には、直径の小さい段状部22が設けられており、第2のスナップディスク32 の周縁部を支持している。 【0005】ダイヤフラム30に当接して、受け部材5 0の外壁51に支持された第1のスナップディスク31 が配置される。 第1のスナップディスク31の下面には、受け部材50の中空孔52に収容され、第2のスイッチレバー42の上方に伸びる作動棒54が位置している。 受け部材50の中央突起部53の外側には、凸状の第2のスナップディスク32の中央の孔32aが組み合い、かつ中央突起部53の下端部は第1のスイッチレバー41の中央部上面に対向している。 【0006】第1のスイッチレバー41の先端部には、 接点43が、第2のスイッチレバー42の先端には接点44が互いに対向して設けられており、スイッチを構成している。 第1のスイッチレバー41および第2のスイッチレバー42には、一対の端子40がそれぞれ接続され、仕切り壁23を貫通して下部開口部に引き出されている。 【0007】このような構成の圧力スイッチは以下のように動作する。 流体通路12を介してダイヤフラム30 へ加えられる流体圧力がダイヤフラム30を下方へ押し下げ、第1のスナップディスク31を支持する受け部材50は下方に押し下げられる。 この圧力が例えば250 KPaに達すると、第2のスナップディスク32は、ダイヤフラム側に凸状の第1の形態である図示の状態から第2の形態である中央部が下方に変位した状態に移行し、これによって受け部材50は、流体圧力に押されて下方に移動し、中央の突起部53は第1のスイッチレバー41を押圧してスイッチを閉成させる。 下方に移動してきた受け部材50は、スイッチケース20の内壁にある段状部21突き当たり、流体圧がそれ以上あがっても下方への移動は規制される。 したがって第2のスナップディスク32はそれ以上の力を受けうることはなく、機能を失うような不必要な変形を生じない。 圧力が減じて、流体圧力が210KPaに減じると、第2のスナップディスク32は、第2の形態から図示の第1の形態に移行し、受け部材50は上方に移行し、中央突起部53 が第1のスイッチレバー41を押すことをやめるので、 スイッチは開放となる。 【0008】受け部材が段状部21につき当たり、スイッチが閉となった状態でさらに流体圧が上昇し、2.7 MPaに上昇すると、第1のスナップディスク31は、 図示のダイヤフラム側に凸状になった第1の形態から、 中央部下方にやや突出した第2の形態に変化し、その分の変位を作動棒54を経由して第2のスイッチレバー4 2に伝達して押し下げ、スイッチを開放する。 【0009】このように、提案した圧力スイッチは、所定の圧力で閉成動作し、それよりも高い圧力および低い圧力の2点で開放動作するスイッチが得られる。 【0010】 【発明が解決しようとする課題】このようなスイッチを自動車用冷房装置の冷凍サイクルに用いるときには、圧力スイッチを例えば100℃高温が持続するエンジンルーム内に配置することとなる。 従来の圧力スイッチは、 受け部材50の材料に既述のようにPBT樹脂を採用していたが、圧力スイッチの使用環境が例えば100℃となりこれが長時間続くと、第1のスナップディスク31 の荷重を受ける受け部材50の外壁51の根本付近に、 例えば、図5の破線の丸印Aに示すようなクリープが生じ、スナップディスクが受け部材の表面に食い込む現象を生じることが見出された。 受け部材50の外壁51の根本付近にこのようなクリープが生じると、スナップディスク31の周辺部が受け部材50の外壁51の根本付近に生じた食込みによって、圧力スイッチが所定の動作をしないおそれのあることが見出された。 【0011】本発明は、圧力スイッチの使用環境によっては受け部材にクリープが生じることを見出したことに基づき、自動車のエンジンルーム内で長期間使用しても受け部材にクリープ現象を生じない圧力スイッチを提供することを目的とする。 【0012】 【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、本発明は、圧力スイッチのスナップディスクを受ける受け部材を、高温の使用環境下で剪断力が繰返し加わる状態で長時間使用してもクリープを生じない材料で構成した。 さらに、本発明は、高温の使用環境下で剪断力が繰返し加わる状態で長時間使用してもクリープを生じない材料として、ポリフェニレンスルフィド(Polyphen ylene sulfide:PPS)樹脂を用いた。 【0013】 【発明の実施の形態】上記課題を解決するため、本発明は、圧力流体通路と連通する通路を有するハウジングと、該ハウジングに固定されたスイッチケースと、前記ハウジングおよび前記スイッチケースからなる内部空間に収容されるダイヤフラムと、加えられる圧力に応じてスナップ動作して2の形態を移行するスナップディスクと、スナップディスクを受ける受け部材と、スナップディスクのスナップ動作によって開閉動作するスイッチ部材からなる圧力スイッチにおいて、前記受け部材をPP S樹脂またはPEEK樹脂もしくはポリエーテルスルフォン(Polyethel sulfone:PES樹脂で構成した。 【0014】 【実施例】本発明にかかる圧力スイッチの具体的な実施例の構成を、図1を用いて説明する。 本発明にかかる圧力スイッチは、既述の従来スイッチと同様の構成を有している。 従来技術の圧力スイッチは、スイッチ受け部材50をPBT樹脂で構成するとともに作動棒にフェノール樹脂を用いた。 本発明の第1の実施例では、スイッチ受け部材50をPPS樹脂で構成するとともに作動棒にセラミックを用いた。 本発明の第2の実施例では、スイッチ受け部材50をPPS樹脂で構成するとともに作動棒にフェノール樹脂を用いた。 【0015】本発明に用いるPPS樹脂は、図2の表に示すように、従来受け部材用に用いているPBT樹脂に比べて、耐熱性が優れ、高強度、高剛性であり、高温下での物性低下が少ない特徴を持っている。 すなわち、引張強さ、引張伸び、曲げ弾性率、硬度、LU規格で測定した荷重−たわみ温度、線膨張率、吸水率は、いずれも受け部材として本発明の樹脂の方が従来のPBT樹脂よりも優れており、成形収縮率および体積低効率は両者に相違が無かった。 【0016】さらに、図3に示すように、PPS樹脂はPBT樹脂に比べ、温度が上昇しても曲げ弾性率が高い値を示し、高い温度での使用環境に適している。 すなわち、PBT樹脂が100℃で約3kgf/cm 2の曲げ弾性率を有しているのに対し、PPS樹脂は100℃で10.5kgf/cm 2の曲げ弾性率を有している。 さらに温度が上昇しても曲げ弾性率が高い値を示す樹脂として、図3に示すようにポリエーテルエーテルケトン(Polyethel ethel ketone:PEEK)樹脂、および、 ポリエーテルスルフォン(Polyethel sulfone:PE S)樹脂がある。 PEEK樹脂は100℃で9kgf/ cm 2強の、PES樹脂は100℃で約8.5kgf/ cm 2の曲げ弾性率を有しているので、PPS樹脂と同様にクリープの発生を少なく押えることができる。 【0017】図1に示す構造を有する圧力スイッチの受け部材として、PPS樹脂、PEEK樹脂、ポリエーテルスルフォン(Polyethel sulfone:PES樹脂を用いた実施例1〜4の圧力スイッチと、従来のPBT樹脂を用い作動棒としてフェノール樹脂を用いた圧力スイッチをそれぞれ20台づつ資料として用意し、それぞれ10 台づつを高圧耐久試験および高温加圧放置試験に供した。 高圧耐久試験は、100℃で10kgf/cm 2 G と36kgf/cm 2 Gの圧力を繰返し与え、1万回で半数の5台をそれぞれ分解し、残り半数の5台をそれぞれ3万回まで試験して分解して、反転リフト量の変化、 復帰リフト量の変化、首出し量の変化の各特性の変化および受け部材のスナップディスク当たり部の形状変化を観察した。 また、高温加圧放置試験は、100℃で30 kgf/cm 2 Gの圧力を加えて放置し、114時間で半数の5台をそれぞれ分解し、残り半数の5台をそれぞれ270時間まで試験して分解して、反転リフト量の変化、復帰リフト量の変化、首出し量の変化の各特性の変化および受け部材のスナップディスク当たり部の形状変化を観察した。 【0018】これらの試験結果を、図4に示す。 図4において、第1の動作点は流体の圧力が上昇しスナップディスクがスナップ動作を開始する位置をいい、第2の動作点は上昇した流体の圧力が降下してスナップディスクがスナップ位置から復帰する位置をいい、オンオフ位置はスナップ動作によって接点がオンオフする位置をいい、その変化量をμmの単位で示す。 図4に示すように、本発明にかかる圧力スイッチはいずれも従来の圧力スイッチに比べ動作点の変化量を1/2以下に低減することができ、使用環境で長時間繰返し使用しても、スナップディスクがクリープによって受け部材に食い込んで生じる圧力スイッチの誤動作の恐れを低下させることができる。 【0019】以上の実施例では、圧力スイッチとして、 2個のスナップディスクを用いた2動作型の圧力スイッチを例にとって説明したが、本発明は、この例に限定されるものではなく、特公平7−114094号公報に示される3動作型の圧力スイッチであっても、1個のスナップディスクを用いた1動作型の圧力スイッチであっても、スナップディスクを受ける受け部材を有する圧力スイッチのいずれにも用いることができる。 【0020】 【発明の効果】以上のように、本発明によれば、圧力スイッチを高温の使用環境で長時間繰返し使用したときに、スナップディスクの周縁部を受ける受け部材の外壁部の根本にクリープが発生するのを防ぐことができ、圧力スイッチの動作特性の劣化を改善することができる。 【図面の簡単な説明】 【図1】本発明の圧力スイッチの1実施例を示す断面図。 【図2】本発明に用いる材料の特性を説明する図表。 【図3】本発明に用いる材料の曲げ弾性率の温度に対する特性を説明する特性図 【図4】本発明の効果を説明する図表。 【図5】従来の圧力スイッチにおけるクリープの発生を説明する一部拡大断面図。 【符号の説明】 1 圧力スイッチ 10 ハウジング 20 スイッチケース 25 パッキング 30 ダイヤフラム 31 第1のスナップディスク 32 第2のスナップディスク 40 端子 41 第1のスイッチレバー 42 第2のスイッチレバー 50 受け部材 51 外壁 53 中央突起部 54 作動棒 |