【0001】 【産業上の利用分野】 本発明はFe−Ni系合金(52合金)からなる磁性線材を用いたリードスイッチを封入するのに好適なリードスイッチ用赤外線吸収ガラスに関するものである。 【0002】 【従来の技術】 リードスイッチは、対向する磁性線材からなる接点と、これを封入するガラス管から構成され、ガラス管の外側から磁界を与えることによって、接点の開閉動作が行われるものである。 磁性線材のガラス管への封入は、不活性ガス、還元ガスあるいは真空下において、ガラス管内部に磁性線材を挿入した状態でガラス管の両端を加熱軟化し、密封することによって行われる。 この加熱作業には、上記の雰囲気下において使用可能な熱源、例えば反射板で集光されたハロゲンランプを用いた赤外線放射型熱源が利用される。 【0003】 このような事情からリードスイッチ用ガラスには、専用に開発された赤外線吸収ガラスが用いられている。 この赤外線吸収ガラスは、ガラスの肉厚が0.5mmのときに、波長1050nmにおける赤外線透過率が15〜20%程度の特性を有するものが現在広く使用されている。 【0004】 ところで、近年特に著しく進められている電子機器の小型化・軽量化を達成するために、電子部品の小型化が必須条件として強く求められている。 リードスイッチについても同様に小型化が進められて、リードスイッチの大きさを決めるガラス管の短径、短尺、薄肉化が行われている。 【0005】 【発明が解決しようする課題】 しかし、リードスイッチ用ガラス管の短径、短尺、薄肉化が進むと、従来の赤外線吸収ガラスでは、以下の問題が発生するようになり、工程歩留りの悪化や、更なる小型化に限界がある。 【0006】 [問題点1]ハロゲンランプからの赤外線は、集光しても直径10mm程度の広がりを持つスポットとなる。 短尺、薄肉のガラス管を用いたリードスイッチにおいて赤外線スポットの中心をシールする中心に合わせると、スポットの外縁部分が、本来加熱してはならないスイッチの接点部分に当たって加熱してしまうことになる。 そのため、意図的にシールの中心からスポットの中心を外し、スポットの外縁部分で加熱する必要がある。 しかし、スポットの外縁部分は、赤外線のエネルギーが小さく、また不安定な部分なので、シールに時間がかかり生産性が悪化したり、シール形状のばらつきが大きくなり、歩留りが悪化する。 【0007】 [問題点2]シールするとき、ガラスは1000℃前後の軟化状態にあり、ごく微量ではあるがガラス成分が蒸発する。 この蒸発した成分は、近傍のまだ比較的温度が低いリードスイッチの金属材料やガラス表面で再び凝結する。 短尺のリードスイッチの場合、蒸発したガラス成分がスイッチの接点付近で再び凝結するため、スイッチの接点障害(導通不良)を引き起こす。 【0008】 本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、小型のリードスイッチを効率良く生産するのに好適な赤外線吸収ガラスを提供することを目的とするものである。 【0009】 【課題を解決するための手段】 本発明者等は、ガラスの赤外線透過率をより低い適切な範囲に限定することと、ガラスに不純物として微量混入するClを厳しく制限することにより、リードスイッチの小型化に伴う問題を解決できることを見いだし、本発明として提案するものである。 【0010】 即ち、本発明のリードスイッチ用赤外線吸収ガラスは、波長1050nmにおける赤外線透過率が肉厚0.5mmで10%以下であり、且つ、ガラス中のClの含有量が150ppm以下であることを特徴とする。 【0011】 【作用】 本発明のリードスイッチ用赤外線吸収ガラスは、波長1050nmにおける赤外線透過率が肉厚0.5mmで10%以下であることを特徴とする。 赤外線透過率が小さいことは、熱線を吸収するために必須の特性であるが、ガラスの肉厚が0.5mmにおいて、波長1050nmの赤外線透過率が10%を超えると、短径、短尺、薄肉のガラスを用いた小型のリードスイッチを製造する場合に、ハロゲンランプからの赤外線吸収が十分でなく、シールに余計な時間と余分なエネルギーが必要となる。 また、ガラスを透過してリードスイッチ内部に達する赤外線量が多くなるために、スイッチの接点部分が加熱されて磁気特性が劣化してしまう。 【0012】 また本発明のリードスイッチ用赤外線吸収ガラスは、Clの含有量が極めて少ないことを特徴とする。 ガラス原料中には不純物としてClが含まれており、このような原料を用いて作製したガラスを加熱すると、NaCl、KCl等の塩が蒸発し易くなる。 蒸発した塩はリードスイッチ内で再び凝結し、接点障害(導通不良)を引き起こす原因となる。 そこで本発明では、ガラス中のClの含有量を150ppm以下、好ましくは100ppm以下に制限している。 Clが上記範囲より多いと、シールのための加熱により軟化状態となったガラスからの塩の蒸発が著しくなり、小型のリードスイッチの場合には、接点付近で凝結して接点障害を引き起こしてしまう。 【0013】 なおClと同様の成分としてFが存在する。 Fは、ガラス原料中に不純物として含まれていることもあるが、ガラスの粘度を下げたり、或いは融剤としての作用が非常に強いために積極的にガラスに導入されることがある。 しかし、ガラス中にFが多量に含まれているとNaF、KF等の塩が蒸発してClと同様の問題を起こす可能性があるため、その含有量を制限することが好ましい。 この場合、Fの含有量を5000ppm以下、特に1500ppm以下にすることが望ましい。 【0014】 ガラスの30〜380℃の範囲における線熱膨張係数は、85〜100×10 -7 /℃に限定することが重要である。 線熱膨張係数がこの範囲から外れると、リードスイッチの磁性線材である52合金との整合がとれず、シール部分でリーク(気密の漏洩)が発生したり、最悪の場合にはガラスが破損する。 【0015】 上記特性を有するガラスとして、重量百分率で、SiO 2 60〜75%、Al 2 O 3 1〜10%、B 2 O 3 0〜10%、RO 3.5〜10%(RはCa、 Mg、Ba、Sr、Znから選ばれる1種以上)、Li 2 O 0.5〜5%、Na 2 O+K 2 O 8〜17%、Fe 3 O 4 2〜10%の組成を有する赤外線吸収ガラスが好適に使用できる。 【0016】 ガラス組成を上記のように限定した理由は、以下の通りである。 【0017】 SiO 2は、ガラスの骨格を構成するために必要な主成分であるが、75%より多いと線熱膨張係数が低くなりすぎるとともに溶解性が悪化し、60%より少ないと化学的耐久性が悪化する。 このため、リードスイッチ製造工程における鍍金等の薬品処理でガラスが変質したり、電子部品として長期的な信頼性を保つ耐候性が得られない。 【0018】 Al 2 O 3は、ガラスの耐候性を向上させ、またガラス溶解における失透を抑えるのに著しい効果があるが、10%より多いとガラスの溶解が困難になり、1%より少ないと上記の効果が得られない。 【0019】 B 2 O 3は、ガラスの溶解を促進するとともに、ガラスの粘度を下げてシールの効率を上げる効果があるが、10%より多いと化学耐久性が悪化し、また溶解時に蒸発が多くなって均質なガラスが得られなくなる。 【0020】 ROで表されるCaO、MgO、Ba0、SrO、ZnOは、ガラスの粘度を低下させるとともに、ガラスの耐候性を向上させる効果を有するが、それらの合計量が10%より多いとガラスの失透性が増し、均質なガラスの製造が困難になり、3.5%より少ないと上記効果が得られない。 【0021】 Li 2 Oは、リードスイッチの電気絶縁として必要なガラスの体積固有抵抗率を高く維持しつつ、線熱膨張係数をある程度大きくする効果を有している。 さらに、融剤としての効果と粘度を下げる効果が著しく大きいため、Li 2 Oを必須成分にすることで、ガラスの融剤として通常使われるが蒸発しやすい成分でもあるB 2 O 3の含有を極力減らすことができる。 しかしながら5%より多いと、ガラスの耐候性、及び失透性が悪化するため好ましくない。 その一方で、0.5%より少ないと上記効果が得られない。 【0022】 Na 2 O及びK 2 Oは、Li 2 Oと同様に、ガラスの線熱膨張係数を大きくするとともに、ガラスの溶融を促進する成分であるが、Na 2 OとK 2 Oが合量で17%を越えると線熱膨張係数が大きくなり過ぎるとともに、ガラスの耐候性と体積固有抵抗率が著しく悪化する。 一方、8%より少ないと所定の線熱膨張係数が得られず、またガラスの溶融が困難になる。 【0023】 またLi 2 O、Na 2 O、K 2 Oのうちの1成分の含有量が、単独でこれらの総量の80%を越えないようにすると、混合アルカリ効果の作用によって、より優れた耐候性と高い体積固有抵抗率を得ることができる。 【0024】 Fe 3 O 4 (赤外線を吸収するのはFeOであるが、ガラス中ではレドックスに依存してFe 2 O 3と共存している。ここでは、全ての酸化鉄をFe 3 O 4に換算して表している。)は、ガラスに赤外線吸収能力を持たせるために必須の成分として使用されるが、10%より多いとガラス化が困難となり、2%より少ないとガラスの肉厚が0.5mmにおける波長1050nmの赤外線透過率を10%以下にすることができない。 【0025】 なお上記ガラスにおいては、ガラスの粘度の調整や失透性、耐候性を改善する目的で、ZrO 2 、TiO 2等の各成分を3%まで添加することが可能である。 【0026】 次に、本発明のリードスイッチ用赤外線吸収ガラスの製造方法を説明する。 【0027】 まず、所望の組成を有するようにバッチを調合する。 このときガラス中に含まれるCl(及びF)の含有量を上記の範囲以下になるように、Cl(及びF)の混入量が少ないガラス原料を選択し、或いは精製して使用することが重要である。 また還元剤をガラスに対して0.1〜1%程度添加しておくと、肉厚が0.5mmにおける波長1050nmの赤外線透過率が10%以下のガラスを安定して得ることができる。 【0028】 次にバッチを溶融し、ガラス化する。 【0029】 続いて溶融ガラスを管状に成形し、所定の長さに切断することにより、リードスイッチ用赤外線吸収ガラスを得ることができる。 【0030】 【実施例】 次に本発明の赤外線吸収ガラスを実施例に基づいて詳細に説明する。 【0031】 表1及び表2は、本発明の実施例(試料No.1〜7)及び比較例(試料No.8、9)の組成と特性を示すものである。 【0032】 【表1】
【0033】 【表2】
【0034】
各試料は次のようにして調製した。
【0035】
まず表に示す組成になるようにガラス原料を調合し、十分に混合した。 次いで、還元剤としてカーボンを表に示す割合で添加し、白金坩堝を用いて1500℃で4時間溶解した。 溶解後、融液をカ−ボン板上に流しだし、アニ−ルすることによって各ガラス試料を作製した。 次に、ガラス肉厚0.5mmにおける波長1050nmの赤外線透過率、Cl及びF含有量、30〜380℃の温度範囲における線熱膨張係数を測定し、表に示した。
【0036】
表から明らかなように、本発明の実施例であるNo. 1〜7の各試料は、赤外線透過率が8.3%以下であり、Clの含有量が150ppm以下であった。 また線熱膨張係数は、89.8〜94.8×10
-7 /℃であった。 【0037】
さらに管状に成形した試料ガラスを用いて、シールに要する時間と、加熱時の蒸発による塩の付着について評価したところ、シールに要した時間は何れの試料も1.5秒以下であった。 またNo. 1〜5の試料は蒸発による塩の付着が全く認められなかった。 No. 6及び7の試料については、顕微鏡観察では塩の付着が少し認められたものの、目視では確認できなかった。 なおEPMA分析の結果、付着した塩は試料No. 6がNaCl、試料No. 7がNaFであった。
【0038】
一方、比較例である試料No. 8は、赤外線透過率が18.8%と高いため、シールするのに3.4秒を要した。 試料No. 9は、Cl含有量が多いため、目視観察で塩の付着が確認された。 EPMA分析の結果、付着した塩はNaClとKClであることが分かった。
【0039】
なお、赤外線透過率は、ガラスを肉厚0.5mmの板状に加工し、次いでその両面を鏡面研磨した後、これを分光光度計を用いて波長1050nmにおける透過率を測定した。 ガラス中のClとFの含有量は、作製したガラス試料を粉砕した後、アルカリ融解し、イオンクロマトグラフィで測定した値である。 線熱膨張係数は、自記示差熱膨張計を用いて、30〜380℃の温度範囲における平均線熱膨張係数を測定した。 シールに要した時間は、外径1.7mm、肉厚0.2mm、長さ8mmの大きさの試料ガラス管を作製した後に、その管端に、集光したハロゲンランプの赤外線を照射して加熱し、管端が封止されるまでに要した時間を測定したものである。 蒸発による塩の付着の有無については、加熱軟化させて封止した上記のガラス管の非加熱部分を目視及び実体顕微鏡(50倍)で観察し、金属塩の付着が全く観察されなかった試料を「◎」、実体顕微鏡では金属塩が観察されたが、目視では確認できなかった試料を「○」、目視でも確認できた(=曇りが生じた)試料を「×」で表した。
【0040】
【発明の効果】
以上のように本発明の赤外線吸収ガラスは、赤外線吸収特性に優れており、赤外線スポットの外縁部分で加熱しても、効率よくシールすることが可能である。 またガラスからの蒸発が殆どないため、蒸発したガラス成分がスイッチの接点付近で再び凝結して接点障害を引き起こすおそれがない。 このため、小型のリードスイッチを効率良く生産することが可能である。
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