【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、電動機の保護などに適用するオートブレーカを実施対象とした回路しゃ断器に関する。 【0002】 【従来の技術】低圧配電設備の主要コンポーネントである頭記の回路しゃ断器の製造メーカーでは、次記のような構成の製品を標準仕様品とし、そのバリエーションでユーザーの様々な要求に対応させるような生産体制をとっている。 次に、オートブレーカを例に、標準仕様製品の構成を図5および図6(a),(b)に示す。 図5において、1は回路しゃ断器のケース(樹脂モールドケース)、2は電源側主回路端子、3は負荷側主回路端子、 4は開閉操作用のハンドル、5はケース1のカバー1a に臨ませた定格電流調整用の調整ダイヤル、6は外部からドライバなどを差し込んでトリップテストを行うためのテストトリップ穴、7は銘板であり、ケース1には図6(a),(b) で表すように、可動接触子8a,固定接触子8b,消弧室8cからなる主回路のしゃ断部8、該しゃ断部8の可動接触子8aを開閉位置に駆動するトグルリンク式の開閉機構部9,各相に対応する熱動形過負荷/ 欠相引外し装置10,および電磁形瞬時引外し装置11 を図示のような配置に装備して回路しゃ断器を構成している。 【0003】ここで、熱動形過負荷/欠相引外し装置1 0と電磁形瞬時引外し装置11は各相ごとに一体に組立ててトリップユニットを構成している。 そして、熱動形過負荷/欠相引外し装置10は、主回路の各相に接続したヒータ付きの主バイメタル12と、各相の主バイメタル作動端(上端)に連繋してバイメタルに連動させた差動シフタ機構13と、差動シフタ機構13の出力端と開閉機構部9に組み込んだラッチ受けとの間を連繋する引外しレバー兼用の温度補償バイメタル14と、先記した調整ダイヤル5との組合せからなる。 【0004】また、差動シフタ機構13は、各相の主バイメタル12の配列に沿ってその両側に敷設してケース1の相間隔壁1bの溝に案内支持したスライド式の押しシフタ15,引きシフタ16と、押しシフタ15と引きしシフタ16に跨がって揺動可能にピン結合した出力レバー17との組合せからなり、押しシフタ15,引きシフタ16には各相の主バイメタル12に向けて突き出したL字形の腕部15a,16aを有し、組立位置でその腕部先端が主バイメタル12を挟んでその両面に対向させている。 なお、前記した調整ダイヤル5の頂面にはドライバなどを差し込んで操作する溝5aが形成してあり、ダイヤル5の頂面に印字した矢印に合わせてケースカバー1aに開口したダイヤル穴の周縁には定格電流値が印字されている。 【0005】かかる熱動形過負荷/欠相引外し装置10 の動作は周知であり、主回路に過負荷電流が継続的に流れ、これに伴い主バイメタル12がヒータ加熱を受けて定方向に撓んで湾曲し、かつバイメタルの湾曲に従動して差動シフタ機構13の押しシフタ15,引きシフタ1 6が矢印方向に変位すると、出力レバー17が温度補償バイメタル14の先端を押す。 これにより、温度補償バイメタル14が時計方向に回動してラッチ受けを釈放位置に押し込み、これに連動して開閉機構部9がトリップ動作し、しゃ断部8の可動接触子8aが開極して主回路電流をしゃ断する。 なお、欠相が発生した場合には、差動シフタ機構13の押しシフタ15と引きシフタ16とが差動的に動作し、これにより出力レバー17が引きシフタとの連結ピンを支点に反時計方向に回動して温度補償バイメタル14を押し、前記と同様に回路しゃ断器をトリップ動作させる。 【0006】一方、電磁形瞬時引外し装置11は、通称インスタントコイルと呼ばれるトリップコイル11a と、ヨーク11bと、プランジャ11cと、プランジャ11cの動作に従動する引外しレバー11dとからなり、トリップコイル11aと前記のヒータ付き主バイメタル12とを直列に接続して負荷側主回路端子3としゃ断部8の固定接触子8aとの間に介挿接続されている。 そして、主回路に短絡電流などの過電流が流れると、プランジャ11cが吸引動作して引外しレバー11dが開閉機構部9に組み込んだ引外し板を押し下げて前記のラッチ受けを釈放位置に駆動し、瞬時に回路しゃ断器をトリップ動作させる。 【0007】なお、非通電の状態で開閉機構部9のトリップテストを行う場合には、図5に示したテストトリップ穴6に外部からドライバなどを差し込んで差動シフタ機構13(図6参照)の出力レバー17(出力レバーにはドライバの先端が引っ掛かる凸部を有する)を作動位置に動かすと、過負荷電流の引外し動作時と同様に温度補償バイメタル14を介して開閉機構部9のラッチ受けが釈放位置に移動してトリップ動作する。 【0008】 【発明が解決しようとする課題】ところで、前記のように熱動形過負荷/欠相引外し装置10,および電磁形瞬時引外し装置11を標準装備した回路しゃ断器の標準品を、始動時間の長い電動機を負荷とする配電回路に適用すると、電動機の始動電流,始動時間と回路しゃ断器の過負荷保護特性との協調がうまくとれず、電動機の始動途中で前記した熱動形過負荷/欠相引外し装置10が働いて回路しゃ断器がトリップ動作してしまうことがある。 【0009】そこで、特に始動時間の長い電動機を負荷とする給電回路では、電動機の始動途中で回路しゃ断器が不用意にトリップ動作しないように、前記した標準仕様の回路しゃ断器から過負荷/欠相引外し機能を無くした回路しゃ断器を採用し、その代わりに回路しゃ断器の負荷側に別なサーマルリレーを接続して電動機の過負荷保護を行うような使い方をすることがある。 【0010】また、このような用途に対応させる回路しゃ断器のバリエーションとして、従来では図6に示した標準仕様の回路しゃ断器から差動シフタ機構13,温度補償バイメタル14,調整ダイヤル5の部品を取り外して過負荷/欠相引外し機能が働かないようにし、さらに図5に示したケースカバー1aのダイヤル穴,テストトリップ穴を塞いだ別仕様のケースカバーを組合せた構成の回路しゃ断器を使うようにしている。 【0011】しかしながら、前記のように回路しゃ断器のバリエーションとして、標準品から過負荷/欠相引外し装置の付属部品を取り外し、さらにケースカバーを替えて組立てた従来の瞬時引外し式回路しゃ断器は、コスト,機能面で次に記すよう問題点がある。 すなわち、 (1) ケースカバーが標準品のものと異なることから、新たにモールド金型を用意してカバーを製作する必要があるためにコストアップとなる。 【0012】(2) 過負荷/欠相引外し装置10の差動シフタ機構13を削除したために、この差動シフタ機構を利用して行うテストトリップ機能が無くなってしまう。 (3) さらに、過負荷/欠相引外し装置10のヒータ付き主バイメタル12はそのまま残して電磁形瞬時引外し装置のトリップコイルと直列にして主回路に接続してあるために、定格電流の大きな回路しゃ断器では瞬時引外し方式で必要とされる過負荷電流耐量が確保できなくなるといった問題がある。 すなわち、主バイメタル12のヒータは、主回路の過負荷/欠相を検出してバイメタルを撓ませるに要する発熱量を発生させるような抵抗値に選定されている。 このために、始動時間が長い大形電動機の負荷回路に適用する場合のように、電動機の始動中に大きな過負荷電流が継続して流れると、ヒータの発熱量も大きくなってヒータ自身が溶断してしまうおそれがある。 【0013】本発明は上記の点に鑑みなされたものであり、熱動形過負荷/欠相引外し装置,および電磁形瞬時引外し装置を標準装備した回路しゃ断器の標準品から、 熱動形過負荷/欠相引外し装置の部品一部を削除して別部品に置き換えるだけで、コスト増加を殆ど伴うことなく、テストトリップ機能を確保しつつ過負荷/欠相引外し機能が働かないようにし、しかも始動時間の長い電動機にも安全に適用できるようにした瞬時引外し式回路しゃ断器を提供することを目的とする。 【0014】 【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明によれば、しゃ断器のケースに、しゃ断部, 開閉機構部,熱動形過負荷/欠相引外し装置,および電磁形瞬時引外し装置を装備し、かつ前記熱動形過負荷/ 欠相引外し装置が、主回路の各相に接続したヒータ付きの主バイメタルと、主バイメタルに連動する差動シフタ機構と、差動シフタ機構の出力端と開閉機構部のラッチ受けとの間を連繋する引外しレバー兼用の温度補償バイメタルと、定格電流調整用の調整ダイヤルとの組立体からなる構成の回路しゃ断器を標準仕様品として、 (1) 前記標準仕様の回路しゃ断器のトリップユニットからヒータ付き主バイメタルを削除した上で、電磁形瞬時引外し装置のトリップコイルを、主バイメタルのヒータよりも低抵抗の接続導体を介して主回路に接続する(請求項1)。 【0015】上記のように、標準品の回路しゃ断器に装備されている熱動形過負荷/欠相引外し装置からヒータ付き主バイメタルを取り除き、ヒータの代わりに低抵抗の接続導体で電磁形瞬時引外し装置のトリップコイルと主回路の間を接続したことで、瞬時引外し式回路しゃ断器に要求される過負荷電流耐量が確保できて信頼性の向上が図れる。 【0016】(2) また、前項(1) の構成において、標準仕様の回路しゃ断器に装備した差動シフタ機構に代えて、しゃ断器ケース内にテストトリップ用部品を組付けてその出力レバーを温度補償バイメタルに対峙させ、前記出力レバーをケース外から操作してしゃ断器のトリップテストを行うようにする(請求項2)。 この構成により、過負荷/欠相引外し装置の差動シフタ機構を簡単なテストトリップ用部品に置き換えるだけで、温度補償バイメタルを利用して標準品と同様な回路しゃ断器のトリップテスト機能を確保できる。 【0017】(3) さらに、前項(1) の構成において、定格電流の調整ダイヤルを調整機能の無いダミーダイヤルに置き換えて、該ダミーダイヤルをしゃ断器ケースのダイヤル穴に臨ませる(請求項3)。 これにより、しゃ断器ケースに標準品のケースカバーをそのまま適用して部品の共通化が図れるとともに、ダミーダイヤルの頂面に調整溝を形成しないことで、この回路しゃ断器が過負荷/欠相引外し機能の無い瞬時引外し方式であることが目視確認できる。 【0018】 【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図1 ないし図4に示す実施例で説明する。 なお、実施例の図中で図5,図6に対応する部材には同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。 まず、図1(a),(b) に示す本発明実施例の瞬時引外し式回路しゃ断器においては、図6に示した標準仕様の回路しゃ断器に装備されている熱動形過負荷/欠相引外し装置10から、ヒータ付き主バイメタル12、差動シフタ機構13の押しシフタ15と引きシフタ16、および調整ダイヤル5が取り除かれており、これら部品に代わって次のような部品を装備している。 【0019】すなわち、ヒータ付き主バイメタルに代えて、電磁形瞬時引外し装置11のトリップコイル11a と主回路の固定接触子8bと負荷側端子3との間が接続導体18で直接接続されている。 また、差動シフタ機構の押しシフタ,引きシフタに代えて、ケース1の相間隔壁1bの上にはテストトリップ用部品19を係止装着してここに出力レバー17を支持している。 さらに、調整ダイヤル5は調整機能のないダミーダイヤル20に置き換えている。 【0020】ここで、電磁形瞬時引外し装置11の組立構造を図2に示す。 図2において、21は電磁形瞬時引外し装置11と先記の過負荷/欠相引外し装置を搭載するトリップユニットの組立ベースであり、前記のように過負荷/欠相引外し装置を削除した状態で電磁形瞬時引外し装置11のトリップコイル11aから引出した一方の端子11a-1を主回路の負荷側端子に連なる端子導体22にろう付けし、他方の端子11a-2は前記のバイメタルヒータに代わる接続導体18を介してしゃ断部8 (図1(b) 参照)に配した固定接触子8bにろう付し、 この構成でトリップコイル11に主回路の電流を流すようにしている。 また、前記の接続導体18は、要求される過負荷電流耐量を満足して所要のしゃ断性能を確保できるように過負荷/欠相引外し装置のバイメタルヒータよりも抵抗が小さい銅などのバーを用いるものとし、かつ回路しゃ断器の定格電流などにの条件に合わせて導体の断面積,抵抗率を選定するようにする。 なお、図中で8b-1は固定接触子8bの接点である。 【0021】一方、差動シフタ機構の押しシフタ,引きシフタに代わるテストトリップ用部品19は、図3で示すように樹脂製のガイド板19aの板面に取付穴19 b,および差動シフタ機構の出力レバー17の一端を揺動可能に保持する支軸穴19cを開口した構造になり、 図1(a) で表すようにケース1の相間仕切隔壁1bに形成した突起1b-1に前記の取付穴19bを嵌合して定位置に係止固定し、この組付け位置で出力レバー17が温度補償バイメタル14の先端に対峙するようにしし、この構成でトリップテストが行えるようにしている。 なお、19dは、ヒータ付き主バイメタル12(図6参照)を残した状態で差動シフタ機構の押しシフタ,引きシフタをテストトリップ用部品19に置き換えて使用する場合に、主バイメタルとの干渉を避けるように開けた穴である。 【0022】また、調整ダイヤル5(図5参照)に代わるダミーダイヤル20は、標準品の調整ダイヤルと同じ外形であるが、その頂面をフラットな面として標準品の調整溝5aを削除した構造になる。 そして、図4で示すように、ケースカバー1aには図5と同様な標準品のカバーをそのまま採用してそのダイヤル穴にダミーダイヤル20が臨むようにしている。 なお、図4に示すカバー1aにはダイアル穴の周縁には電流値の印字は施してない。 【0023】上記のように図6に示した標準仕様の回路しゃ断器のバリエーションとして、標準品に装備されている熱動形過負荷/欠相引外し装置からヒータ付き主バイメタル,差動シフタ機構を削除したことで、当該回路しゃ断器を過負荷/欠相引外し機能が働かない瞬時引外し式回路しゃ断器として使用できる。 したがって、この回路しゃ断器を始動時間の長い電動機を負荷とした配電回路に適用することで、電動機の始動途中で不用意に回路しゃ断器がトリップ動作することがなく、かつ電磁形瞬時引外し装置のトリップコイルをバイメタルヒータに代わる低抵抗の接続導体を介して主回路に接続したことで、瞬時しゃ断方式として要求される十分な過負荷電流耐量も確保できる。 【0024】また、標準品の過負荷/欠相引外し装置の差動シフタ機構に代えて、図3に示したテストトリップ用部品19を装備することにより、次記のように回路しゃ断器の非通電状態でトリップテストが行える。 すなわち、トリップテストの手順として、図4のケースカバー1aに開口したテストトリップ穴6にドライバなどを差込んで穴の内側に位置している出力レバー17の凸段部を図3の矢印方向に押すと、出力レバー17がガイド板19aとの軸支点を中心に反時計方向に揺動し、図1に示す温度補償バイメタル14を介して開閉機構部9のラッチ受けを釈放するとともに、これに応動して回路しゃ断器がトリップ動作する。 【0025】 【発明の効果】以上述べたように、本発明によれば、熱動形過負荷/欠相引外し装置,および電磁形瞬時引外し装置を装備した標準仕様の回路しゃ断器のバリエーションとして、標準品に装備されている熱動形過負荷/欠相引外し装置の一部部品を削除して別な部品に置き換えるだけで、トリップテスト機能は残したまま過負荷/欠相引外し機能が働かないようにし、しかも瞬時しゃ断方式に要求される十分な過負荷電流耐量を確保した高信頼性の瞬時引外し式の回路しゃ断器に変更でき、これにより標準仕様の回路しゃ断器をベースに、始動時間の長い電動機を負荷とする配電設備などへの適用に好適な瞬時引外し式回路しゃ断器を殆どコストアップを伴わずに提供することができる。 【図面の簡単な説明】 【図1】本発明の実施例に係る回路しゃ断器の内部構造図であり、(a) はケースカバーを外した状態の平面図、 (b) は(a) 図の側視断面図 【図2】図1における電磁形瞬時引外し装置の組立構造図 【図3】図1におけるテストトリップ用部材の平面図 【図4】図1の回路しゃ断器にケースカバーを被せた状態の平面図 【図5】標準仕様の回路しゃ断器にケースカバーを被せた状態の平面図 【図6】標準仕様の回路しゃ断器の内部構造図であり、 (a) はケースのカバーを外した状態の平面図、(b) は (a) 図の側視断面図 【符号の説明】 1 しゃ断器のケース 1a ケースカバー 5 調整ダイヤル 6 トリップテスト穴 8 しゃ断部 9 開閉機構部 10 熱動形過負荷/欠相引外し装置 11 電磁形瞬時引外し装置 11a トリップコイル 12 ヒータ付き主バイメタル 13 差動シフタ機構 14 温度補償バイメタル 15 押しシフタ 16 引きシフタ 17 出力レバー 18 接続導体 19 テストトリップ用部品 20 ダミーダイヤル ───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 浅川 浩司 神奈川県川崎市川崎区田辺新田1番1号 富士電機株式会社内 (72)発明者 永廣 勇 神奈川県川崎市川崎区田辺新田1番1号 富士電機株式会社内 (72)発明者 江村 武史 神奈川県川崎市川崎区田辺新田1番1号 富士電機株式会社内 Fターム(参考) 5G030 BA02 FA02 FA13 FB03 FC03 FC05 XX07 |