【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、X線撮像装置に関するもので、特に、高解像度X線透視試験に好適な、透過型ターゲットを使用する微小焦点X線撮像装置に関するものである。 【0002】 【従来の技術】X線透視試験における検出解像度を支配する一要因として、X線源の焦点寸法が挙げられる。 このため、高解像度が要求されるX線透視試験においては、微小焦点のマイクロフォーカスX線源が使用されている。 【0003】マイクロフォーカスX線源に使用されるターゲットは、ターゲットを透過したX線を用いる透過形と、横方向に出たX線を用いる反射形に大別される。 解像度の点では、ターゲット内での電子線の拡がりを小さくできるため、透過形が優れている。 透過形ターゲットを使用したX線源については、例えば、特開平2−13 8856号、特開平3−274500号、特開平4−1 44045号に記載されている。 集束電子線を透過形薄膜のターゲットに照射することで得られた微小焦点サイズのX線を試料に照射し、その透過X線を幾何学的に拡大投影した画像を撮像し、試料の微小な内部構造を観察する。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】解像度を向上させるためには、集束電子線のスポット径を小さくすると共に、 透過形ターゲットの膜厚を薄くする必要がある。 しかし、透過形ターゲットの膜厚を薄くする、あるいは、集束電子線の加速電圧を上げると、発生するX線の強度に方向性が生じ、撮像したX線透過画像の中心部に明るい輝点が生じる。 このため、画像の質が著しく低下する。 【0005】また、集束電子線のスポット径を小さくすると、ターゲットに照射される集束電子線の電流密度が増加するため、ターゲットの損傷が増大する。 【0006】本発明の第1の目的は、画像に明るい輝点が発生しない、透過形ターゲットを使用したX線撮像装置を提供することである。 【0007】第2の目的は、ターゲットの寿命の長い、 透過形ターゲットを使用したX線撮像装置を提供することである。 【0008】 【課題を解決するための手段】上記第1の目的は、電子線を発生させ加速する手段と、電子線を集束する手段と、X線を発生させる透過形ターゲットと、試料を透過したX線を検出するX線検出手段を使用し、透過形ターゲットに照射する集束電子線の進行方向の延長線上に、 X線検出手段を配置しないことにより達成される。 【0009】上記第2の目的は、電子線を発生させ加速する手段と、電子線を集束する手段と、X線を発生させる透過形ターゲットと、透過形ターゲットを冷却する手段と、試料を透過したX線を検出するX線検出手段より、達成される。 【0010】 【作用】微小焦点サイズのX線源を実現するためには、 透過形ターゲットに照射する電子線を細く絞るだけでは不十分である。 何故なら、ターゲットに入射した電子は、散乱し、ターゲットの内部まで侵入するためであり、例えば、加速電圧100kVの電子線の散乱領域は、5μm以上であると言われている。 このため、ターゲットを薄膜にして電子の散乱領域を制限し、焦点サイズを微小化することが必要である。 【0011】透過形ターゲットを薄膜にすると、発生するX線の強度に方向性が生じる。 図1に示すように、透過形ターゲットに入射する集束電子線の進行方向に発生するX線の強度が強い。 膜厚1μmのタングステンターゲットから発生するX線の強度分布の実測例を図2、図3に示す。 図2は集束電子線の加速電圧が75kVのデータであり、図3は加速電圧200kVのデータである。 加速電圧が高くなると、X線の強度ピークが急激に大きくなっている。 また、X線の強い範囲はおよそ0. 7度であり、その部分を外すと一定のX線強度が得られる。 【0012】従来の透過形ターゲットを使用したX線撮像装置では、電子銃、透過形ターゲット、試料、X線検出器が一直線上に並んでいるため、透過形ターゲットに入射する集束電子線の進行方向にX線検出器が配置されていた。 このため、X線検出器の中心にX線強度分布のピークがあった。 【0013】本発明によれば、電子銃と透過形ターゲットを結ぶ直線と、透過形ターゲット、試料、X線検出器を結ぶ直線とが一致せず、互いに傾いているため、透過形ターゲットに入射する集束電子線の進行方向にX線検出器がなく、斜め方向にX線検出器が配置される。 このため、X線検出器に入射するX線の強度は一様となる。 【0014】次に、ターゲットに照射される電子のエネルギーのうちX線に変換される割合は1%以下であり、 残りの99%は熱に変換されると言われている。 このため、ターゲットは非常に高温となり、損傷が激しい。 そこで、反射形ターゲットでは、ターゲットを回転したり、あるいは、水冷を行なっている。 透過形ターゲットでは、2層膜にして熱を逃がすことが行なわれているが、冷却は行なわれていない。 この理由は、透過形ターゲットと試料との距離(ワーキング ディスタング:W D)を縮めるため、ターゲット冷却する構造を配置する空間が無いためである。 透過形ターゲットでは、その微小焦点寸法を活かすため、試料を透過したX線像を幾何学的に拡大投影した後検出し、高倍率を得たいがために、WDを小さくする必要がある。 【0015】本発明によれば、透過形ターゲットの集束電子線の照射側に円管状の冷却装置を配置し、透過形ターゲットを冷却する。 冷却装置は円管上であるため、中空の所を集束電子線が通過してターゲットに入射する。 冷却装置は電子線の入射面側にあるため、X線の取り出し面のすぐそばまで試料を近接することができる。 【0016】以上により高解像度なX線撮像装置が実現できる。 高解像度なX線撮像装置の代表的な構成は、電子銃、電子レンズ、冷却装置、透過形ターゲット、試料ステージ、X線TV撮影装置、TVモニター装置などからなる。 電子銃で発生した電子線を電子レンズにより細く集束し、透過形ターゲットに照射する。 この時、ターゲットは冷却装置により冷却されている。 電子線のビーム径を十分に細くし、X線を発生する薄膜を十分に薄くすると、微小な焦点サイズが得られるため、半影ぼけのない鮮明な試料の透視像が得られる。 この試料の透視X 線像を斜めに配置したX線TV撮影装置にて検出し、T Vモニター装置に表示させる。 また、試料は、試料ステージで保持しておき、ステージを移動することで、透視箇所を変える。 【0017】 【実施例】まず、従来の透過形ターゲットを使用したX 線撮像装置の構成を図4に示す。 電子銃5で発生した電子線1を電子レンズ6で集束し、透過形ターゲット2に照射すると、X線3が発生する。 試料7を透過したX線は拡大投影され、X線検出器8で検出される。 このとき、電子銃5、透過形ターゲット2、試料7、X線検出器8は中心軸9上に並んでいる。 透過形ターゲット2の膜厚を薄くすると、中心軸方向に発生するX線の強度が増加し、X線検出器8では、中心が明るく検出される。 【0018】本発明によるX線撮像装置の第1の実施例を図5に示す。 電子銃5で発生した電子線1は、電子レンズ6で集束され、透過形ターゲットに照射される。 透過形ターゲットは、X線の発生するタングステン膜10 と、タングステン膜を保持するベリリウム膜11の2層膜であり、さらに、タングステン膜10の上には、メッシュ12が密着している。 この透過形ターゲットは、押え13により電子冷却素子14に密着されている。 偏向コイル15により電子線1はタングステン膜10上を走査され、そこから発生する反射電子、あるいは2次電子が電子線検出器16で検出される。 走査像検出回路17 は、偏向コイル15を駆動し、電子線検出器16からの信号を受け、生成した走査電子像をディスプレイ18に表示する。 電子線1の通路は、真空容器19で密閉され、バルブ20を介して、真空ポンプ21で真空に保たれている。 真空容器19の一部は、X線3を取り出すベリリウムの窓22になっている。 試料7を透過したX線像はX線イメージインテンシファイア22で光学像に変換され、検出像がディスプレイ25に表示される。 【0019】第1の実施例の動作を以下に示す。 電子銃5は、電子を発生し、所定の管電圧まで電子を加速する。 電子を発生させるフィラメントは、高輝度なランタンヘキサボライト(LaB 6 )が望ましいが、一般的なタングステン(W)でも良い。 電子レンズ6は、所望のX線焦点寸法以下に電子線を集束させる働きがある。 高分解能を得るためには、微小な焦点寸法が不可欠であり、例えば、1μm程度に電子線を集束する。 【0020】図5には1個の電磁レンズを図示しているが、電子線を細く絞るためには、複数個の電磁レンズを使用するのが望ましく、また、静電レンズを使用することも考えられる。 透過形ターゲットは、ベリリウム膜1 1の上にタングステン膜10をスパッタリングやCVD により蒸着した2層膜である。 ベリリウム膜11の膜厚は10から数百μmであり、タングステン膜10の膜厚は、所望のX線焦点寸法以下、例えば、1から4μmとする。 タングステン膜10の表面に集束電子線1が確実に絞られているかを確認するために、透過形ターゲット表面の走査電子像を検出する。 透過形ターゲットの表面が最も鮮明に見えるように電子レンズに励磁電流を調整し、電子線の焦点を合わせる。 タングステン膜10の表面は滑らかであるため、その上にメッシュを密着させ、 メッシュパターンを検出して焦点を合わすと良い。 メッシュには、銅製の1000メッシュや2000メッシュが入手しやすく、便利である。 【0021】電子線の焦点を合わせた後は、走査を止め、タングステン膜10上の一点に照射して、X線源を固定する。 照射する点を日によって変えることで、タングステン膜10のダメージを減らすことができ、長期間交換の必要が無い。 電子線の照射により発生した熱により高温になった透過形ターゲットを冷却するため、透過形ターゲットは電子冷却素子14に密着されている。 電子冷却素子14は、透過形ターゲットの熱を真空容器1 9に伝えるヒートポンプの働きをする。 透過形ターゲットは、真空中にあるため、室温以下に冷却しても露や霜の心配が無く、ゼロ度以下に冷却することができる。 また、真空中であるため、断熱性が良く、冷却効率が良い。 電子冷却素子14を使用せず、環状のパイプで水冷するだけでも効果はある。 【0022】発生したX線は、ベリリウム窓22を介して、外部に取り出される。 X線は、電子線の進行方向に強度のピークを持つため、X線検出器を電子線の進行方向の延長線上に置かずに斜め方向に置く。 これにより、 X線検出器には一様な強度のX線が入射する。 試料7も斜めに置く必要があるため、真空容器19のX線取り出し口周辺は円錐形状であることが望ましい。 X線検出器は、X線イメージインテンシファイアとビデオカメラで構成されている。 試料7の透過X線像は、X線イメージインテンシファイア22で可視光像に変換され、ファイバープレート23で伝送され、CCDイメージセンサ2 4で検出される。 もちろん、ビデオカメラとしてCCD イメージセンサ以外に撮像管を使用することも可能である。 X線透過画像は一般にノイズが多いため、検出画像の加算がよく行なわれる。 長時間露光タイプのCCDイメージセンサを使用すると、素子上で画像を加算できるため、好都合である。 また、X線イメージインテンシファイア22とCCDイメージセンサ24とのカップリングはファイバープレートを用いずにレンズを用いても良い。 【0023】本発明によるX線撮像装置の第2の実施例を図6に示す。 電子銃5で発生した電子線1は、電子レンズ6で集束され、透過形ターゲットに照射される。 透過形ターゲットは、X線の発生するタングステン膜10 と、タングステン膜を保持するベリリウム膜11の2層膜であり、さらに、タングステン膜10の上には、メッシュ12が密着している。 この透過形ターゲットは、押え13により電子冷却素子14に密着されている。 偏向コイル15により電子線1はタングステン膜10上を走査され、そこから発生する反射電子、あるいは2次電子が電子線検出器16で検出される。 【0024】走査像検出回路17は、偏向コイル15を駆動し、電子線検出器16からの信号を受け、生成した走査電子像をディスプレイ18に表示する。 電子線1の通路は、真空容器19で密閉され、バルブ20を介して、真空ポンプ21で真空に保たれている。 真空容器1 9の一部は、X線3を取り出すベリリウムの窓22になっている。 試料7を透過したX線像はX線イメージインテンシファイア22で光学像に変換され、検出像がディスプレイ25に表示される。 以上、基本的な構成は第1 の実施例と同じである。 第1の実施例との違いは、透過形ターゲットの取付け向きである。 第1の実施例では、 電子線照射系の軸と垂直に透過形ターゲットを取り付けており、透過形ターゲットに対して垂直に電子線が入射する。 第2の実施例では、斜めに透過形ターゲットが取り付いており、斜め方向から電子線が入射する。 透過形ターゲットと試料とX線検出器とを平行にすることで、 透過形ターゲットと試料との間隔(WD)を小さくすることが容易となり、高倍率を得ることができる。 【0025】X線撮像装置に使用する透過形ターゲットの第1の実施例を図7に示す。 保持層であるベリリウム膜11の上にX線発生層であるタングステン膜10をスパッタリングやCVDにより蒸着した2層膜である。 X 線は、重金属であるタングステン膜10で発生するが、 軽元素であるベリリウム膜11では殆ど発生しない。 ベリリウム膜11は、機械的強度を増す働きと、タングステン膜10で発生する熱を逃がす働きがある。 ベリリウム膜11の膜厚は10から数百μmであり、タングステン膜10の膜厚は、所望のX線焦点寸法以下、例えば、 1から4μmとする。 X線発生層としては、タングステン以外の重金属、例えば、モリブデンなどでも構わない。 保持層としては、ベリリウム以外の軽元素、例えば、カーボン等でも良い。 タングステン膜10には、走査像の検出を容易にするため、メッシュを密着する。 メッシュには、銅製の1000メッシュや2000メッシュを使用する。 【0026】X線撮像装置に使用する透過形ターゲットの第2の実施例を図8に示す。 ベリリウム膜11の上にタングステン膜10をスパッタリングやCVDにより蒸着した2層膜である。 タングステン膜10には、走査像の検出を容易にするため、溝を切ってある。 溝は、集束イオンビーム、あるいは、リソグラフィ工程により加工する。 【0027】透過形ターゲットを使用したX線ビーム発生装置の実施例を図9に示す。 電子銃5で発生した電子線1は、電子レンズ6で集束され、透過形ターゲットに照射される。 透過形ターゲットは、X線の発生するタングステン膜10と、タングステン膜を保持するベリリウム膜11の2層膜である。 この透過形ターゲットは、押え13により電子冷却素子14に密着されている。 電子線1の通路は、真空容器19で密閉され、バルブ20を介して、真空ポンプ21で真空に保たれている。 真空容器19の一部は、X線ビーム3を取り出すベリリウムの窓22になっている。 タングステン膜10を薄くすると電子線1の進行方向にピークを持つ指向性の高いX線が発生する。 電子線の進行方向の延長線上にX線の取り出し窓22を設けることで、X線ビームが得られる。 【0028】 【発明の効果】これまでの説明で明らかなように以下の効果がある。 【0029】X線発生層を薄膜とし、保持層との2層構造の透過形ターゲットとしたことで、電子の散乱領域が制限され、微小な焦点サイズのX線源が得られる。 【0030】薄い透過形ターゲットを使用することで、 電子線の進行方向にX線ビームを発生させることができる。 【0031】電子線の進行方向の延長線上にX線検出手段を配置しないことにより、一様な強度のX線透過画像を検出できる。 【0032】環状の冷却機構により透過形ターゲットを冷却することで、ターゲットの寿命が伸びると共に、大電流の電子線を照射でき、発生するX線量が増す。 さらに、環状の冷却機構を電子線の照射側に配置することで、透過形ターゲットと試料の間隔を短くすることが可能となり、高倍率が得られる。 【0033】電子線を偏向する機能を持たせ、X線発生層の走査電子像を検出することで、電子線の焦点を確実にX線発生層に合わすことができる。 特に、X線発生層にメッシュを置くとピントが合わせやすい。 【0034】電子線を偏向する機能を持たせ、ターゲットが劣化したら、電子線の照射位置をずらすことで、ターゲットの寿命が伸びる。 【0035】薄いX線発生層と支持膜との2層構造とした透過形ターゲットに微細な電子線を照射して微小焦点寸法のX線源を作り、電子光学系の光軸に対して斜めに、試料とX線検出器(X線イメージインテンシファイアと長時間露光タイプのCCDカメラ)を配置することで、高解像度のX線撮像装置が得られる。 【図面の簡単な説明】 【図1】透過形ターゲットから発生するX線の強度分布を示す模式図 【図2】実験で求めた透過形ターゲットから発生するX 線の強度分布を示す図 【図3】実験で求めた透過形ターゲットから発生するX 線の強度分布を示す図 【図4】従来の透過形ターゲットを使用したX線撮像装置の構成を示す図 【図5】透過形ターゲットを使用したX線撮像装置の第1の実施例を示す図 【図6】透過形ターゲットを使用したX線撮像装置の第2の実施例を示す図 【図7】透過形ターゲットの第1の実施例を示す図 【図8】透過形ターゲットの第1の実施例を示す図 【図9】X線ビーム発生装置の実施例を示す図 【符号の説明】 1 電子線 2 透過形ターゲット 3 X線 5 電子銃 6 電子レンズ 7 試料 8 X線検出器 10 タングステン膜 11 ベリリウム膜 12 メッシュ 14 電子冷却素子 15 偏向コイル 16 電子線検出器 22 X線イメージインテンシファイア 24 CCDカメラ フロントページの続き (56)参考文献 特開 平4−326266(JP,A) 特開 平4−144045(JP,A) 特開 平6−237077(JP,A) 特開 平3−186710(JP,A) 特開 平2−138856(JP,A) 特開 平4−262348(JP,A) 実開 昭54−6881(JP,U) 実公 昭52−56778(JP,Y2) 実公 昭52−56779(JP,Y2) 米国特許5629969(US,A) (58)調査した分野(Int.Cl. 7 ,DB名) G01N 23/02 - 23/18 H01J 35/08 G21K 7/00 |