【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、各種スポーツ競技における審判、人の多く集まる場所での警備、誘導、合図等のために使用されるホイッスルに関する。 【0002】 【従来の技術】例えば、スポーツ競技においては、審判が、プレイヤーに種々の指示を行い競技をルールに従って進行させるために、ホイッスルを吹いてゲームを開始或いは中断し、またその音によりプレイヤーに指示を与え、注意を喚起する等が行われる。 ホイッスルの基本原理は、送気口から吹き込まれた呼気をエッジに当て、このとき発生するエッジトーンを共鳴室で増幅して大きな音にするのである。 【0003】この種ホイッスルとして、例えば特開平8 −211881号公報に開示の構造が知られている。 この公報には、空気が吹き込まれる吹き口と、送気路となるダクトと、ダクトを介して空気が吹き込まれ共鳴する共鳴室と、ダクトと共鳴室の間に設けられ空気を外部へ排気する開口部(歌口と呼ばれる)よりなる一般的なホイッスルの構造が開示されている。 この公報に開示の発明は、上記ホイッスルにおいて、共鳴室の壁面に複数の孔を開けるとともに、この孔を任意の数だけ閉鎖する閉鎖体を設け、閉鎖体の回転により、1つ又はそれ以上の孔を開放し、これにより音色を変更するものである。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】上記構造のホイッスルにあっては、音色は変更できるものの、音量を増大させることはできず、大きな音を発生させようとすれば、空気を大量にかつ急速に吹き込むしかなかった。 しかしながら一度に吹き込む空気の量、速さには個人差があり、 肺活量の少ない人、使い慣れていない人の場合、音が小さくなってしまい、歓声等周囲の音にかき消されてしまい、聞き取りにくいという問題がある。 また無理に大きな音を出したとしても、息が切れる等これを長時間続けることは殆ど不可能である。 【0005】本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、一定の吹き込み力で大きな音、高次倍音の発生による厚みのある豊かな音を発生させることのできるホイッスルを提供するものである。 【0006】 【課題を解決するための手段】本発明(請求項1)は、 送気口と、該送気口から送気路を介して空気が吹き込まれる共鳴室と、上記送気路と共鳴室との間に形成された開口よりなる歌口とを有するホイッスルにおいて、上記歌口に上記送気路から吹き出される空気の流れを変え、 高次倍音を増加させる変流体を設けたものである。 かかる構成において、送気路から歌口を通って外部へ放出される空気は、変流体によりその流れが変えられ、高次倍音を増加させて大きな音とする。 また吹きはじめから音圧ピーク時までの時間が短縮される。 【0007】本発明(請求項2)は、上記変流体は、上記歌口の開口後端に、上記送気路に対し上下方向に延びる壁面を有するものである。 かかる構造において、変流体の壁面により呼気は変流され、高次倍音が得られる。 【0008】本発明(請求項3)において、上記変流体は、上記歌口の開口の左右に、上記送気路に対し上下方向に延びる壁面を有するものである。 かかる構造において、変流体の壁面により呼気は変流され、高次倍音が得られる。 【0009】本発明(請求項4)において、上記変流体は、上記歌口の開口の後端及び左右に、上記送気路に対し上下方向に延びる壁面を有するものである。 かかる構成において、最大限の変流作用が得られ、発生する高次倍音が増加しかつそのピーク値が最大となる。 【00010】本発明(請求項5)においては、上記送気口から分岐した2つの送気路と、該送気路からそれぞれ空気が吹き込まれる2つの共鳴室と、該共鳴室と上記送気路の間に形成された2つの歌口と、該歌口にそれぞれ形成された2つの上記変流体とを有し、上記各共鳴室の容積を異ならせその共鳴周波数を異ならせたものである。 かかる構成において、2つの歌口から発せられる音は、それぞれの共鳴室にて異なる周波数の音となり、これらが重ね合わされることにより人の注意を喚起しやすいビート(響き、うねり)音を生じる。 【0011】 【発明の実施の形態】図1、2において、ホイッスル1 は、マウスピース部2と共鳴部3とからなり、樹脂にて一体形成されている。 マウスピース部2には、唇が当てられ、呼気が吹き込まれる細長い矩形状の送気口4が設けられている。 共鳴部3には、内部に2個の円柱形空間よりなる第1,第2共鳴室5a,5bが、送気口4を左右方向としたとき上下となるよう配置されている。 7 a,7bは、送気口4から分岐され第1,第2送気路6 a,6bと第1,第2共鳴室5a,5bとの間に形成された開口よりなる第1,第2歌口である。 8は共鳴部3 の先端に形成された吊り下げ紐用の孔である。 【0012】9a,9bは、第1,第2歌口7a,7b の開口後端(マウスピース部2側端部)及び左右に、第1,第2送気路6a,6bに対し上方向に延びる壁面1 0a,10bを有して形成された第1,第2変流体で、 それぞれ第1,第2送気路6a,6bから第1,第2歌口7a,7bを通って外部へ放出される空気の流れを変える作用をなす。 第1,第2変流体9a,9bの壁面1 0a,10bは、第1,第2送気路6a,6bの吹き出し方向に対し直角に形成するのが最も好ましく、この角度関係にある場合に最も大きな変流作用が得られることを実験により確認した。 しかしながら、正確に直角でなくとも実質的に直角、すなわちこれに近い角度であれば同様の作用が得られる。 この角度が内側あるいは外側に直角位置から外れるにしたがって変流作用が低下する。 また壁面10a,10bは平面であることが望ましい。 この壁面10a,10bに突起等平面性を妨げるものがあると、耳障りな風切音等雑音が発生するからである。 11a,11bは、第1,第2歌口7a,7bの前端(共鳴部3側端部)に形成されたエッジで、エッジトーンを発生する。 エッジ11a,11bの位置は、第1, 第2送気路6a,6bの空気吹き出し方向よりも外側に位置している。 【0013】次にエッジ11によるエッジトーン発生の原理を説明する。 図3は、送気路6、共鳴室5、歌口7、変流体9各1個ずつよりなるホイッスルを示し、以下の動作がなされる。 【0014】送気路6から吹き出された空気は、最初はそのまま直進しエッジ11の下側を通って共鳴室5内に入り、滞留する(イ〜ハ)。 この空気流を矢印aにて示す。 このとき壁面10付近の領域Sにある空気が巻き込まれて移動する(矢印b)。 領域Sの空気はb方向へ移動しようとするが、変流体9の壁面10が抵抗となって、送気路側及び左右からの空気の供給が妨げられ、この領域Sは負圧となる。 【0015】共鳴室5への空気の流入によりその空気圧が上昇すると、その圧力により送気路6から吹き出た空気流は第1歌口7aにおいて上方へ押し上げられ(ニ)、空気流aは、エッジ11内側から外側へ切り換わる(ホ)。 【0016】このエッジ11の外側への空気流aにより、共鳴室5内の空気がこれに巻き込めれて外部へ放出され、今度は逆に共鳴室5内の空気圧が低下する。 このとき、空気流aは、負圧領域Sの存在により、その流路が上方向へ偏向されるから、変流体9が存在しない場合に比べて、共鳴室5内の空気の放出力が増し、共鳴室5 内の負圧の程度はより大きくなる(ヘ〜チ)。 この共鳴室5内が負圧になると、送気路6から吹き出された空気流aは、再び共鳴室5内に吸引される(イ)。 【0017】このように、負圧領域Sの存在により、送気路6から吹き出された空気流aが、エッジ11を境として上下(共鳴室5の内外)に振れる振幅が大きくなり、高次倍音が増加し、音圧が上昇すると考えられる。 エッジ11にて発生した原音は共鳴室5にて増幅されて、報音される。 この音の共鳴周波数は共鳴室5の容積によって決まり、実施形態において第1共鳴室5aは共鳴周波数3.4KHzに、第2共鳴室5bは共鳴周波数3.7KHzに設定されている。 【0018】図4は、図3にて示したホイッスル(共鳴周波数約3.1kHzに設定)の出力音の音圧波形を示し、やや変形したサイン波を描いていることが分かる。 この変形により高次倍音が発生する。 図5は、かかる高次倍音の周数数信号を示す。 図に示すように、変流体を有するホイッスルでは、基本周波数信号P(約3.1k Hz)のほかには、1次高次倍音p1(約6.2kH z)から4次高次倍音p4(約15.5kHz)までの発生がみられる。 高次倍音の増加は、音に広がりと厚みを持たせ、音がよく通り、また聴く人をして豊かな音として感じさせる作用がある。 【0019】図6,7は、参考例として従来構造のホイッスルによる発生音の波形を示し、図3に示すホイッスルの変流体9を除去した構造である。 なおホイッスルは同一構造であるが、変流体を除去することによりその共鳴周波数は約3.2kHzに変わった。 図6から明らかなように、音圧波形は正しいサイン波を描き、それ故高次倍音の発生は少なく、図7に示すように基本周波数信号P(約3.2kH)のほかには、1次高次倍音信号p 1(約6.4kHz)とピークの低い2次高次倍音信号p2(約9.6kHz)の発生しか確認できなかった。 【0020】図8は、歌口7の開口後端のみに送気路に対し上方直角方向に延びる壁面を有する変流体9vを設けた構造を示し、図9に示すように変流体を設けない構造よりも多くかつ高い音圧の高次倍音が得られることが分かる。 また図10,11に示すように、変流体9h, 9hを、歌口7の開口の左右のみに形成した場合も、変流体を設けない構造よりも多くかつ高い音圧の高次倍音が得られることが分かる。 【0021】図12は送気口4から空気を吹き込んだ場合における動力−音圧特性曲線を示し、曲線Bは変流体を有しない単管(1つの共鳴室)ホイッスルの発生音、 曲線Aは曲線Bのホイッスルと同一構造であって変流体を付加したホイッスルの発生音である。 ここで前者の最大音圧は124dB/m、後者の最大音圧は118.3 dB/mであった。 また歌口の後端のみに変流体を形成した構造(図8)では、120.5dB/m、歌口の左右のみに変流体を形成した構造(図10)では123. 3dB/mであった。 ここで動力とは人間の呼気に模して、コンプレッサーから吹き出された空気で、風圧及び風速を制御したものであり、その単位はW(ワット)で表される。 通常、人がある程度の強さをもって息を吹き出した場合の動力は約10〜15Wの範囲であり、この範囲では、A,B音圧特性間には約3〜6dB/mの差があり、この差は、人が聞いてはっきりと分かる程度の大きさである。 なお約5W以下の範囲は、極めて弱く吹いた場合であり、音も小さく、実際にはこの範囲では使用されない。 【0022】図13(イ)〜(ニ)は、変流体9(図3)の送気路に対し上方直角方向に延びる壁面の高さを変更した場合(変流体の左右壁面も高さに応じて存在) における高次倍音の数及びその音圧の大きさを示し、図(イ)では高さ2mm(この高さ2mmは送気路上壁の厚さであり変流体がない従来構造に対応する)、図(ロ)は高さ7mm、図(ハ)は高さ9.5mm、図(ニ)は高さ12mmの場合である。 図から分かるようにこの変流体の高さを大きくするにしたがって高次倍音の音圧が上昇する。 実験では高さ12mm程度までは音圧の上昇が見られたが、これ以上高くしても音圧の顕著な上昇は確認できなかった。 またこの変流体を高くすると、これが鼻の前面を塞ぐ結果、呼吸しにくくなり実用的ではない。 それ故この変流体の高さは約12mm程度(送気路上面からの高さで約10mm程度)が上限である。 なお図(イ)〜(ニ)に対応するホイッスルの音圧及び周波数は(118.3dB/m,3.23KHz) (120.9dB/m,3.11KHz)(122.2 dB/m,3.09KHz)(124.0dB/m, 3.06KHz)であった。 【0023】図14は、図1,2に示す実施形態にかかるホイッスル1の第1,第2共鳴室5a,5bの各周波数e(3.4kHz),f(3.7kHz)及び両者の合成周波数e+fの拡大波形図を示す。 図15は、図1 4に対応する波形図(時間間隔を圧縮)であり、第1, 第2共鳴室5a,5bの各周波数e,f及び合成音e+ fの具体例を示す。 合成音e+fは、周波数e,fの周波数差0.3kHzのビート音となる。 図に示すように、共鳴室5a,5bの各々が単独で発する音の波形は、その振幅が一定であり、単調な音となり、人の注意を喚起する効果は小さい。 これに対し、図15に示すように、2個の異なる周波数を有する波形を合成すると、 両者干渉して、その周波数差に対応するビート音を発し、これが人の耳に快く響き、注意を喚起すべく作用する。 また、異なる周波数の音の周波数差が、0.1〜 0.4kHzの範囲内にある場合、音質の近い音の重なりとなって、違和感のない耳に心地よい音となるので好ましい。 これに対し、周波数差が、上記範囲を越えて大きい場合、元の音とは異質な音となり、不快な音と感じることが多い。 また両者の差が、0.1kHzに満たない場合、ビート音効果が殆ど生じないために単調音に近くなるという問題がある。 【0024】図16(A)(B)は、2種のホイッスルにおける吹きはじめから音圧が最大になるまでの時間を示し、図(A)は、図3〜5において説明した変流体を有するホイッスルの発生音、図(B)は図6,7において説明した変流体を有さない従来構造のホイッスルの発生音の出力波形である。 吹きはじめてから音圧が最高になるまでの時間は、図(A)が3.4ミリ秒、図(B) が6.3ミリ秒であり、変流体を設けると、応答速度を速くする作用が得られることが分かる。 両者の差2.9 ミリ秒は、人がその応答速度の違いを明確に認識することができる程度の時間間隔である。 なおコルクを填入した従来の典型的な笛では、吹きはじめから最大音圧に達するまでの時間は、7.2ミリ秒であり、実際に、スピーディーにゲームが進行するバスケットボール競技等の審判においては、一般的なコルク笛は応答速度が遅いために使用されていない。 上記実施形態にかかるホイッスルは、バスケットボール競技等において反則等を間髪を入れずに報知し、素早く選手に指示を与える場合に十分に対応できる。 【0025】 【発明の効果】本発明(請求項1)によれば、歌口に送気路から吹き出される空気の流れを変え高次倍音の発生を増加させる変流体を設けたものであるから、基本周波数音に高次倍音を加えた厚みのあるよく通る音となり、 騒音の中でも人にその音にて確実に報知することができる。 また本発明によれば、変流体の存在により、吹き始めからピークに達するまでの時間が短縮され、呼気と殆ど同時に報知することができ、スピディーなゲーム進行が期待されるバスケットボール競技等、ゲームの審判が使用して好適なホイッスルが実現される。 さらにスポーツ競技に限らず、人が多数集まる場所での警備、誘導等のためのホイッスルとしても高い機能を有する。 【0026】本発明(請求項2,3,4)によれば、変流体が、歌口の開口後端またはその左右に、さらにその両方に送気路に対し上下方向に延びる壁面を有するよう構成されているから、大きな変流作用が得られ、高次倍音を増加させ、かつその音圧を上昇させることができる。 かかる高次倍音を多数含む音は、音に厚みと広がりを付与し、騒音の中でもよく通る音となり、かつ聴く人に豊かな音と感じさせる効果がある。 【0027】本発明(請求項5)によれば、2つの共鳴室の容積を異ならせその共鳴周波数を異ならせたものであるから、2つの歌口から発せられる音は、それぞれの共鳴室にて異なる周波数の音となり、これらが重ね合わされることにより耳に心地よくかつ注意喚起力を有するビート音を得ることができる。 【図面の簡単な説明】 【図1】本発明実施の形態に係るホイッスルの斜視図である。 【図2】図1のII−II線断面図である。 【図3】音の発生原理を説明するための概略図である。 【図4】音圧波形図である。 【図5】高次倍音の発生を示す周波数信号特性図である。 【図6】従来構造のホイッスルの音圧波形図である。 【図7】従来構造のホイッスルの高次倍音の発生を示す周波数信号特性図である。 【図8】歌口の開口後端に、送気路に対し上下方向に延びる変流体を有するホイッスルの斜視図である。 【図9】図8に示す構造のホイッスルの高次倍音を示す特性図である。 【図10】歌口の開口の左右に、送気路に対し上下方向に延びる変流体を有するホイッスルの高次倍音を示す特性図である。 【図11】図10に示す構造のホイッスルの高次倍音を示す特性図である。 【図12】動力−音圧特性曲線図である。 【図13】変流体の高さを変えた場合における高次倍音発生特性図である。 【図14】第1,第2共鳴室5a,5bで発生する周波数e,f及びその合成周波数e+fを示す波形図である。 【図15】図14の時間間隔を長時間とした場合の波形図である。 【図16】ホイッスルの吹きはじめからピークに達するまでの波形図である。 【符号の説明】 1 ホイッスル 2 マウスピース部 3 共鳴部 4 送気口 5,5a,5b 第1,第2共鳴室 6,6a,6b 第1,第2送気路 7,7a,7b 第1,第2歌口 9,9a,9b 第1,第2変流体 10,10a,10b 第1,第2壁面 11,11a,11b 第1,第2エッジ |