弦楽器用板材の製造方法

申请号 JP2013219354 申请日 2013-10-22 公开(公告)号 JP6146258B2 公开(公告)日 2017-06-14
申请人 ヤマハ株式会社; 发明人 曽我 一樹; 山崎 稔久; 平工 達也; 中谷 宏; 宮澤 憲一;
摘要
权利要求

弦楽器の表板または裏板を構成する弦楽器用板材の製造方法であって、 均一な板厚の木材からなる複数の単板を接着剤を介して積層してなり、前記複数の単板のうち少なくとも1以上の単板の平面形状が、他の前記単板の平面形状と異なり、第1穴の設けられた第1単板と、前記第1穴よりも大きい平面形状を有し、前記第1穴の輪郭よりも平面視で外側に配置されている第2穴が設けられた第2単板とを有する積層体を形成する積層工程と、 前記積層体を一方の面側に凸状に湾曲させるとともに、各単板の板厚を一定としたまま、肉厚の薄い部分と肉厚の厚い部分とを形成して積層板を得る曲げ加工工程とを有することを特徴とする弦楽器用板材の製造方法。

说明书全文

本発明は、弦楽器用板材、弦楽器用板材の製造方法および弦楽器に関する。

バイオリンの表板および裏板は、良好な音響特性が得られるように、肉厚が部分的に異なっており、一方の面側に凸状に緩やかに湾曲された特有のむくり形状となっている。バイオリン属であるビオラ、チェロ、コントラバスに用いられる表板および裏板も、バイオリンと同様に、肉厚が部分的に異なるむくり形状を有している。

従来、バイオリン属の表板および裏板を製造する際には、ブロック状の無垢の木材を削り出して、肉厚が部分的に異なるむくり形状を形成していた。しかし、ブロック状の木材を削り出して表板および裏板を製造する場合、削り工数が非常に多く手間がかかることや、素材の歩留まりが10%程度で非常に低いことが問題となっていた。

近年、バイオリン属の表板および裏板として、ブロック状の木材よりも厚みの薄い板材に、プレス曲げ加工を行って、板材を部分的に圧縮するとともに湾曲させることにより、肉厚が部分的に異なるむくり形状を形成したものが製造されている(例えば、非特許文献1参照)。 また、バイオリン属の表板および裏板として、複数枚の単板を接着剤を介して積層してなる積層材を、曲げ加工により緩やかに湾曲させてなるものもある。 これらの表板および裏板では、曲げ加工によってむくり形状を形成しているので、むくり形状を形成するための削り工数を削減できる。したがって、ブロック状の木材を削り出して製造したものと比較して、効率よく製造できるし、素材の歩留まりも向上する。

「VIOLIN 楽器の事典 ヴァイオリン」東京音楽社刊、P203

しかし、板材をプレス曲げ加工して形成した表板および裏板では、板材を部分的に圧縮することにより、肉厚を部分的に異ならせて、所定の厚み分布を形成している。このため、圧縮された部分の木材の密度が高くなっており、表板および裏板の密度のばらつきが大きいものとなっている。バイオリン属の表板および裏板は、特有のむくり形状を有するものであっても、密度のばらつきが大きいと、演奏時の振動がバイオリン属特有のものとならない。このため、プレス曲げ加工を用いて形成した表板および/または裏板を備える弦楽器では、良好な音響特性が得られない場合があった。

また、プレス曲げ加工を用いて形成した表板および裏板では、圧縮された木材の復元によって、製造後に厚み分布やむくり形状が変化しやすい。このため、プレス曲げ加工を用いて形成した表板および裏板を備える弦楽器は、長期間使用すると、音響特性が劣化したり、表板および/または裏板の変形により破損したりする場合があった。

一方、積層材に曲げ加工を行ってむくり形状を形成した表板および裏板は、製造時に積層材を部分的に圧縮していないので、密度のばらつきは小さい。したがって、上述した表板および裏板の密度に起因する問題は生じない。 しかし、この表板および裏板は、肉厚が均一であるため、これを用いた弦楽器では、演奏時の表板および裏板の振動がバイオリン属特有のものとならず、良好な音響特性が得られない場合があった。

また、積層材をプレス曲げ加工することにより、肉厚が部分的に異なるむくり形状を形成することも考えられる。しかし、この場合、プレス曲げ加工により積層材を部分的に圧縮するので、表板および裏板の密度のばらつきが大きくなってしまう。 また、積層材を曲げ加工する前または後に積層材を削り出して、肉厚が部分的に異なるむくり形状を形成することも考えられる。しかし、積層材を削り出すと、表面に積層断面が露出してしまうため、良好な外観が得られない。

本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、効率よく製造でき、素材の歩留まりが高く、しかも、密度のばらつきが小さく、肉厚が部分的に異なり、一方の面側に凸状に湾曲された形状を有し、形状安定性に優れ、優れた音響特性が得られる表板または裏板を構成する弦楽器用板材を提供することを課題とする。 また、本発明は、効率よく製造でき、素材の歩留まりが高い弦楽器用板材からなる表板および/または裏板を備え、表板および/または裏板の変形による破損が生じにくく、音質の良好な弦楽器を提供することを課題とする。

本発明の弦楽器用板材の製造方法は、弦楽器の表板または裏板を構成する弦楽器用板材の製造方法であって、均一な板厚の木材からなる複数の単板を接着剤を介して積層してなり、前記複数の単板のうち少なくとも1以上の単板の平面形状が、他の前記単板の平面形状と異なり、第1穴の設けられた第1単板と、前記第1穴よりも大きい平面形状を有し、前記第1穴の輪郭よりも平面視で外側に配置されている第2穴が設けられた第2単板とを有する積層体を形成する積層工程と、前記積層体を一方の面側に凸状に湾曲させるとともに、各単板の板厚を一定としたまま、肉厚の薄い部分と肉厚の厚い部分とを形成して積層板を得る曲げ加工工程とを有することを特徴とする。

本発明の弦楽器は、本発明の弦楽器用板材を備えるものであることを特徴とする。

本発明の弦楽器用板材は、均一な板厚の複数の単板が接着剤を介して隙間なく積層された積層板からなるものであるため、肉厚が部分的に異なるものとするために、木材を部分的に圧縮したものではなく、密度のばらつきが小さいものである。しかも、本発明の弦楽器用板材は、一方の面側に凸状に湾曲しており、かつ肉厚の薄い部分と肉厚の厚い部分とが形成されているものである。したがって、本発明の弦楽器用板材は、これを弦楽器の表板または裏板として用いた場合に、演奏時にバイオリン属特有の振動が得られるものであり、優れた音響特性を有する。

また、本発明の弦楽器用板材は、密度のばらつきが小さいものであり、積層板の一部を圧縮することなく形成されたものである。このため、木材の復元力によって、厚み分布が変化することはない。しかも、本発明の弦楽器用板材は、均一な板厚の複数の単板が接着剤を介して隙間なく積層された積層板からなるものであるため、接着剤によって積層板の変形が抑制される。このため、本発明の弦楽器用板材は、板材をプレス曲げ加工して形成した従来の表板および裏板と比較して、形状安定性に優れている。

また、本発明の弦楽器用板材は、一方の面側に凸状に湾曲しており、かつ肉厚の薄い部分と肉厚の厚い部分とが形成されているものであるので、むくり形状を形成するための削り出しを行う必要はない。よって、本発明の弦楽器用板材は、ブロック状の木材を削り出して製造したものと比較して、削り工数を削減できる。その結果、ブロック状の木材を削り出して製造したものと比較して、効率よく製造できるし、素材の歩留まりも向上する。

本発明の弦楽器用板材の製造方法は、均一な板厚の複数の単板を接着剤を介して積層してなり、前記複数の単板のうち少なくとも1以上の単板の平面形状が、他の前記単板の平面形状と異なる積層体を形成する積層工程と、前記積層体を一方の面側に凸状に湾曲させるとともに、各単板の板厚を一定としたまま、肉厚の薄い部分と肉厚の厚い部分とを形成して積層板を得る曲げ加工工程とを有する。したがって、木材を部分的に圧縮することなく、密度のばらつきが小さく、肉厚が部分的に異なり、一方の面側に凸状に湾曲された形状を有する弦楽器用板材が得られる。また、本発明の弦楽器用板材の製造方法では、むくり形状を形成するための削り出しを行う場合と比較して、少ない削り工数で効率よく製造できる。

また、本発明の弦楽器は、本発明の弦楽器用板材を備えるものであるので、音質の良好なものとなる。また、本発明の弦楽器は、表板および/または裏板の変形による破損が生じにくいものであるため、長期にわたって使用できる。

図1(a)は本発明の第1実施形態に係るバイオリンの表板の幅方向の断面模式図であり、図1(b)は図1(a)に示す表板の平面図である。

図2は、図1に示す表板の製造方法を説明するための断面図である。

図3(a)〜図3(e)は、図2に示す積層板に使用した単板を説明するための平面図である。

図4は、本発明の弦楽器の一例であるバイオリンを示した側面図である。

以下、図面を参照して本発明を適用した実施形態について詳細に説明する。 「第1実施形態」 本実施形態においては、本発明の弦楽器用板材の一例として、バイオリンの表板を例に挙げて説明する。図1(a)は、本発明の第1実施形態に係るバイオリンの表板の幅方向の断面模式図である。また、図1(b)は、図1(a)に示す表板の平面図である。図1(a)は、図1(b)に示すA−A’に対応する断面図である。

図1(a)において、符号10はバイオリンの表板を示している。表板10は、図1(a)に示すように、表面11a(図1においては上面)側に凸状に湾曲している積層板11からなるものである。 積層板11は、図1(a)に示すように、肉厚が部分的に異なるものである。積層板11の肉厚は、周縁部13が最も厚く、次に中央部分12が厚くなっており、中央部分12と周縁部13との間に肉厚の薄い肉薄部14が形成されている。積層板11の肉厚は、図1(a)に示すように、緩やかに変化しており、表面11aおよび裏面11bは緩やかな曲面となっている。

積層板11は、表面板1と、裏面板2と、表面板1と裏面板2との間に配置された芯板3とを有している。芯板3は、表面板1側から順に積層された第1芯板3aと第2芯板3bと第3芯板3cとからなるものである。表面板1、裏面板2、第1〜第3芯板3a、3b、3cは、いずれも均一な板厚の木材からなる単板であり、接着剤4を介して隙間なく積層されている。

積層板11の表面11aに露出している表面板1および裏面11bに露出している裏面板2は、平面視で図1(b)に示す表板10の外形形状と同じ形状の連続した平面を有している。すなわち、表板10の表面11aの全面は、表面板1に覆われており、表板10の裏面11bの全面は、裏面板2に覆われている。 表板10の表面板1は、2枚の単板の端面を表板10の長さ方向中央部で対向させて接ぐことによって、一体化された連続した平面を有するものであってもよい。このことにより、表板10の表面の長さ方向中央部に、接ぎを有する良好な外観が得られる。

本実施形態においては、芯板3を形成している3枚の第1〜第3芯板3a、3b、3cは、いずれも表面板1および裏面板2とは異なる平面形状を有している。 図1(a)に示すように、第1芯板3aの肉薄部14と平面視で重なる領域には、穴31が設けられている。また、図1(a)に示すように、第2芯板3bの平面視で肉薄部14および中央部分12と重なる領域には、穴32が設けられている。このことにより、第2芯板3bは、周縁部13と重なる領域にのみ平面視枠状に配置されている。また、第3芯板3cの平面視で肉薄部14および中央部分12と重なる領域にも、穴33が設けられている。このことにより、第3芯板3cは、周縁部13と重なる領域にのみ平面視枠状に配置されている。第3芯板3cに設けられている穴33は、図1(a)に示すように、第2芯板3bに設けられている穴32よりも大きい平面形状を有しており、第3芯板3cの穴33の輪郭は、第2芯板3bの穴32の輪郭よりも平面視で外側に配置されている。

芯板3を形成している第1〜第3芯板3a、3b、3cの平面形状は、表板10の振動板として機能を考慮した所定の厚み分布に応じて決定されている。すなわち、第1〜第3芯板3a、3b、3cの平面形状を異ならせることにより、単板の積層数を異ならせ、表板10の厚み分布を形成している。 図1(a)に示す積層板11における周縁部13の最も肉厚の厚い部分では、単板の積層数は、表面板1と裏面板2と第1〜第3芯板3a、3b、3cの5枚となっている。また、周縁部13では、肉薄部14に近づくに連れて、単板の積層数が5〜3枚に徐々に少なくなっている。そして、肉薄部14では、芯板3が配置されておらず、単板の積層数は、表面板1と裏面板2の2枚のみとなっている。また、中央部分12では、単板の積層数が、表面板1、裏面板2、第1芯板3aの3枚となっている。

図1(a)に示す表板10では、表面板1、裏面板2、第1〜第3芯板3a、3b、3cに用いられる単板の板厚は0.1〜1.5mmであることが好ましい。単板の板厚は、表面板1、裏面板2、第1〜第3芯板3a、3b、3cにおいて、それぞれ異なっていてもよいし、全て同じであってもよい。板厚が0.1mm以上の単板は、容易に入手できるため好ましい。また、単板の板厚が0.1mm以上であると、積層板11を製造する際に接着剤が単板に染みこんでも、単板が変形しにくい。このため、積層板11の厚み分布をより高精度で制御できる。単板の板厚は、単板の変形を防止して、より高精度で積層板11の厚み分布を調整できるように、0.3mm以上であることが、より好ましい。また、単板の板厚が、1.5mm以下であると、複数枚の単板を用いて積層板11の厚み分布をより高精度で調整できる。単板の板厚は、単板の枚数を確保して、積層板11の厚み分布をより一層高精度で調整できるように1.0mm以下であることが、より好ましい。

表面板1に用いる単板の板厚は、0.3〜1.5mmであることがより好ましい。表面板1の板厚が0.3mm以上であると、接着剤4が積層板11の表面11aに染み出すことを防止することができ、より一層良好な外観が得られる。また、表面板1の板厚が0.3mm以上であると、積層板11の表面11aの削り代を充分に確保できる。このため、例えば、スクレーバーなどを用いて、積層板11の表面11aを削ることにより、表板10の厚み分布を微調整したり、表板10の表面11aに凹凸が存在する場合にこれを取り除いたりしても、表面11aに積層板11の積層断面が露出してしまうことを防止できる。また、表面板1の板厚が0.3mm以上であると、単板の積層数が異なることによって形成される段差が、表板10の表面11aに引き継がれることを防止でき、好ましい。

裏面板2は、第1〜第3芯板3a、3b、3cを表面板1との間に挟み込んで、積層板11を補強し、積層板11の変形を防止して、表板10の形状安定性を高める機能を有している。裏面板2に用いる単板の板厚が、0.3mm以上であると、表板10の形状安定性を高める機能が、より一層効果的に得られる。

単板の材料は、表面板1、裏面板2、第1〜第3芯板3a、3b、3cにおいて、それぞれ異なっていてもよいし、全て同じであってもよい。単板の材料としては、例えば、スプルース、メープル、松、杉、カバ、ブナ、ラワンなどを用いることができる。これらの中でも特に、表板10の振動板としての優れた機能が得られるスプルースを用いることが好ましい。さらに、表面板1、裏面板2、第1〜第3芯板3a、3b、3cの全てをスプルースからなる表板10とすることが好ましい。単板の材料の全てをスプルースからなるものとすることで、表板10としてより優れた機能が得られ、これを用いたバイオリンの音質がより良好なものとなる。また、本実施形態の表板10では、表面板1を形成している単板の材料として、柾目のスプルース材を用いることで、より良好な外観が得られる。

単板の繊維の方向は、表面板1、裏面板2、第1〜第3芯板3a、3b、3cにおいて、それぞれ異なっていてもよいし、全て同じであってもよい。単板の繊維の方向は、表板10の振動板としての機能を考慮すると、全て表板10の長さ方向に揃えることが好ましい。また、単板の繊維の方向は、表板10の外観を考慮すると、表面板1に用いる単板の繊維の方向を表板10の長さ方向にすることが好ましい。また、単板の繊維の方向は、表板10の強度や形状安定性を考慮すると、表板10の長さ方向のものと、表板10の幅方向のものとを含むことが好ましい。

接着剤4としては、や有機溶媒などの溶媒を含まないものを用いることが好ましい。具体的には、溶媒を含まない接着剤4として、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、フェノール系接着剤などが挙げられる。 接着剤として溶媒を含まないものを用いることで、積層板11を製造する際に、接着剤が単板に染みこんで単板が変形することを防止できる。したがって、積層板11の厚み分布をより高精度で制御できる。なお、接着剤が染みこむことによる単板の変形は、単板の厚みが薄いほど生じやすい。接着剤として溶媒を含まないものを用いた場合、積層板11を製造する際の単板の変形を防止できるので、単板として厚みの薄いものを使用しやすくなる。したがって、板厚の薄い複数の単板を用いて、より高精度で積層板11の厚み分布を制御することが可能となる。

(製造方法) 本実施形態においては、本発明の弦楽器用板材の製造方法の一例として、図1(a)および図1(b)に示すバイオリンの表板の製造方法を例に挙げて説明する。 図2は、図1に示す表板の製造方法を説明するための断面図である。図1(a)および図1(b)に示す表板10を製造するには、まず、表面板1、第1〜第3芯板3a、3b、3c、裏面板2となる均一な板厚の単板を、接着剤4を介して積層し、図2に示す積層体10aとする(積層工程)。

図3(a)〜図3(e)は、図2に示す積層体10aに使用した単板を示した平面図である。図2は、図3(e)に示すB−B’に対応する断面図である。 図3(a)は、表面板1となる単板15を示した平面図である。単板15は矩形の平面形状を有するものであり、図1(b)に示す表板10の外形形状よりも大きいものである。単板15は、2枚の単板の端面を表板10の長さ方向中央部で対向させて接ぐことによって、一体化された連続した平面を形成するものであってもよい。

図3(b)は第1芯板3aとなる単板35aを示した平面図、図3(c)は第2芯板3bとなる単板35bを示した平面図、図3(d)は第3芯板3cとなる単板35cを示した平面図である。図3(e)は、単板15、35a、35b、35cの4枚を下から順に重ねた状態を示した平面図である。図3(e)に示すように、単板15、35a、35b、35cの平面形状は異なり、外形形状は同じとなっている。

図2、図3(b)および図3(e)に示すように、第1芯板3aとなる単板35aには2つの穴31が設けられている。また、図2、図3(c)および図3(e)に示すように、第2芯板3bとなる単板35bには穴32が設けられており、単板35bは枠状の平面形状を有している。図2、図3(d)および図3(e)に示すように、第3芯板3cとなる単板35cには穴33が設けられている。図2および図3(e)に示すように、単板35cの穴33は、単板35bの穴32よりも大きい平面形状を有しており、穴33の輪郭は穴32の輪郭よりも平面視で外側に配置されている。 第1〜第3芯板3a、3b、3cは、表面板1となる単板15の所定の位置に、打ち抜き法などを用いて、穴31、32、33を形成することによって得られる。

図2に示す積層体10aを形成するには、はじめに、図1(a)に示す積層板11の表面11aとなる側の積層体10aの最表面(図2においては下面)に、表面板1となる単板15を配置する。次に、図3(e)に示すように、単板15上に、単板35a、35b、35cを順に接着剤4を介して積層する。さらに、図2に示すように、単板35cの上に、表面板1となる単板15と同じ平面形状を有する裏面板2となる単板25を、接着剤4を介して配置し、積層体10aとする。

図2に示す積層体10aにおいては、第1〜第3芯板3a、3b、3cが、それぞれ穴31、32、33を有しているため、図2に示すように、部分的に単板の積層数が異なるものとなっている。 接着剤4としては、上述したように、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、フェノール系接着剤などの溶媒を含まないものを用いることが好ましい。接着剤4としては、熱融着するシート状のものを用いてもよい。

次に、図2に示す積層体10aを金型のキャビティ内に設置する。金型としては、キャビティの内面形状が、表板10の断面形状に対応する形状を有しているものを用いる。このような金型を用いて、厚み分布に応じて部分的に単板15、35a、35b、35c、25の積層数を異ならせた積層体10aを、表面側に凸状に湾曲させることで、各単板の板厚を一定としたまま、肉厚の薄い部分と肉厚の厚い部分とを形成できる(曲げ加工工程)。

曲げ加工は、積層板11を形成している単板に圧縮応力が付与されない条件で行うことが好ましい。積層板11を形成している単板に圧縮応力が付与されない条件で積層体10aに曲げ加工を行うことで、積層板11の密度は、単板を形成している木材本来の密度と近似した均一な密度を有するものとなる。その結果、より一層積層板11の変形を抑制できるとともに、木材本来の優れた音響特性が得られる表板10となる。 また、曲げ加工の温度条件は、特に限定されるものではなく、使用する接着剤の種類等に応じて適宜決定できる。接着剤として熱硬化するものを用いた場合には、所定の温度に加熱しながら曲げ加工を行って、曲げ加工と同時に接着剤を硬化させることが好ましい。

続いて、得られた積層板11を、単板35cの穴33の輪郭よりも平面視で外側の位置に配置されている表板10の外形線(不図示)に沿って鋸などを用いて切断し、図1(b)に示す所定の外形形状を有する表板10を切り出す。 その後、必要に応じて、スクレーバーなどを用いて、積層板11の表面11aを削ることにより、表板10の厚み分布を微調整したり、表板10の表面11aに凹凸が存在する場合にこれを取り除いたりする仕上げ工程を行ってもよい。 以上の工程により、図1(a)および図1(b)に示す表板10が得られる。

図1(a)に示す表板10は、均一な板厚の複数の単板(表面板1、裏面板2、第1〜第3芯板3a、3b、3c)が接着剤4を介して隙間なく積層され、複数の単板のうち少なくとも1以上の単板の平面形状が、他の前記単板の平面形状と異なる積層板11からなり、積層板11が、表面11a側に凸状に湾曲しており、かつ肉厚の薄い部分と肉厚の厚い部分とが形成されているものである。本発明の弦楽器用板材は、表面板1、裏面板2、第1〜第3芯板3a、3b、3cが均一な板厚であり、肉厚が部分的に異なるものとするために、木材を部分的に圧縮したものではなく、密度のばらつきが小さいものである。

しかも、図1(a)に示す表板10は、表面11a側に凸状に湾曲しており、かつ肉厚の薄い部分と肉厚の厚い部分とが形成されているものである。したがって、図1(a)に示す表板10をバイオリンの表板として用いた場合、演奏時にバイオリン属特有の振動が得られ、優れた音響特性が得られる。 また、図1(a)に示す表板10は、密度のばらつきが小さいものであり、積層板の一部を圧縮することなく形成されたものである。このため、積層板の一部を圧縮して厚み分布を形成した場合のように、木材の復元力によって、厚み分布が変化することはない。しかも、図1(a)に示す表板10は、均一な板厚の複数の単板が接着剤4を介して隙間なく積層された積層板11からなるものであるので、接着剤4によって単板同士が固定されて積層板11の変形が抑制される。

また、図1(a)に示す表板10では、積層板11の表面11aに露出している単板(表面板1)として、平面視で表板10の外形形状と同形の連続した平面を有するものを用いている。したがって、表面板1として、意匠性に優れた材料を用いることで、良好な外観が得られる。

また、図1(a)に示す表板10は、厚み分布を有し、表面側に凸状に湾曲しているものであるので、むくり形状を形成するための削り出しを行う必要はない。したがって、むくり形状を形成するための削り出しによって、表面に積層板の積層断面が露出してしまうことはなく、良好な外観が得られる。また、むくり形状を形成するための削り出しを行う必要がないため、素材の歩留まりが高く、少ない削り工数で効率よく製造できる。

図1(a)に示す表板10の製造方法は、均一な板厚の複数の単板15、35a、35b、35c、25を、接着剤4を介して積層してなり、複数の単板のうち少なくとも1以上の単板の平面形状が、他の前記単板の平面形状と異なる積層体10aを形成する積層工程と、積層体10aを表面側に凸状に湾曲させるとともに、各単板の板厚を一定としたまま、肉厚の薄い部分と肉厚の厚い部分とを形成して積層板11を得る曲げ加工工程とを有する。したがって、木材を部分的に圧縮することなく、密度のばらつきが小さく、肉厚が部分的に異なり、一方の面側に凸状に湾曲された形状を有する積層板11が得られる。また、本発明の弦楽器用板材の製造方法では、むくり形状を形成するための削り出しを行う場合と比較して、少ない削り工数で効率よく製造できる。

「第2実施形態」 本実施形態においては、本発明の弦楽器用板材の一例として、バイオリンの裏板を例に挙げて説明する。 本実施形態に係るバイオリンの裏板が、上述した図1(a)に示す第1実施形態の表板10と異なるところは、芯板を形成している単板の平面形状が、裏板としての機能を考慮した所定の厚み分布に応じて決定されているところと、表面板、裏面板、芯板を形成している単板の材料として、メープルを用いることが好ましいことである。

本実施形態の裏板では、表面板、裏面板、芯板の全てをメープルからなるものとすることが、より好ましい。単板の材料の全てをメープルからなるものとすることで、裏板としてより優れた機能が得られ、これを用いたバイオリンの音質がより良好なものとなる。また、本実施形態の裏板では、表面板を形成している単板の材料として、杢のあるメープル材を用いることで、より良好な外観が得られる。

本実施形態のバイオリンの裏板は、上述した第1実施形態の表板10と同様にして製造できる。 また、本実施形態の裏板によれば、上述した第1実施形態の表板10と同様の効果が得られる。すなわち、本実施形態の裏板は、効率よく製造でき、素材の歩留まりが高いものである。しかも、本実施形態の裏板は、密度のばらつきが小さく、肉厚が部分的に異なり、一方の面側に凸状に湾曲された形状を有し、優れた音響特性が得られる。また、本実施形態の裏板は、形状安定性に優れ、良好な外観を有する。

「弦楽器」 本実施形態においては、本発明の弦楽器の一例として、バイオリンを例に挙げて説明する。図4は、本発明の弦楽器の一例であるバイオリンを示した側面図である。 図4において、符号50はバイオリンを示し、符号10は表板を示し、符号20は裏板を示し、符号30は側板を示し、符号40はネックを示している。

図4に示すバイオリン50では、表板10として、第1実施形態のバイオリンの表板を用いている。図4に示す表板10は、第1実施形態の表板10の所定の位置にf字孔(不図示)を形成したものである。 図4に示すバイオリン50では、裏板20として、第2実施形態のバイオリンの裏板を用いている。

図4に示すバイオリン50は、表板10として第1実施形態のものを用い、裏板20として第2実施形態のものを用いて、従来公知の方法で製造できる。 具体的には、裏板20と側板30とをニカワなどの接着剤を用いて接合する。次いで、側板30と表板10とをニカワなどの接着剤を用いて接合してボディを形成する。その後、ボディにネック40を取り付け、表面にニスを塗る。次いで、指板を接着し、魂柱を立てる。その後、駒を設置し、弦を張る。 以上の工程により、図4に示すバイオリン50が得られる。

図4に示すバイオリン50は、表板10として第1実施形態のものを用い、裏板20として第2実施形態のものを用いているので、良好な外観を有し、音質の良好なものとなる。また、図4に示すバイオリン50は、表板10および裏板20の変形による破損が生じにくいものであるため、長期にわたって使用できる。

「他の例」 本発明の弦楽器および弦楽器用板材は、上述した実施形態に限定されるものではない。 例えば、本発明の弦楽器は、バイオリンに限定されるものではなく、バイオリン属であるビオラ、チェロ、コントラバスであってもよい。また、本発明は、肉厚が部分的に異なり、一方の面側に凸状に湾曲されたむくり形状を有する表板および/または裏板を備えたギターなどの弦楽器にも用いることができる。

また、図1(a)に示す表板10では、芯板3として、3枚の単板からなるものを例に挙げて説明したが、芯板3の枚数は1枚であっても2枚であっても4枚以上であってもよく、表面板1、裏面板2および芯材3となる単板の厚みに応じて決定できる。 また、図1(a)に示す表板10では、表面板1および裏面板2を有する場合を例に挙げて説明したが、表面板1および裏面板2はなくてもよい。 また、本発明の弦楽器用板材を形成している各単板の平面形状や積層順序は、上述した実施形態に限定されるものではない。

1 表面板(弦楽器用板材)、2 裏面板、3 芯板、3a 第1芯板、3b 第2芯板、3c 第3芯板、4 接着剤、10 表板、11 積層板、11a 表面、11b 裏面、12 中央部分、13 周縁部、14 肉薄部、15、25、35a、35b、35c 単板、20 裏板、30 側板、31、32、33 穴、40 ネック、50 バイオリン。

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