【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】この発明は、例えば衛星通信等によって航空機から地上局に送られてくる位置情報を基に、各航空機の現在位置を連続的に監視する航空機位置監視システムに関する。 【0002】 【従来の技術】従来、航空機位置の地上における監視は、レーダの覆域内にある航空機については、レーダによって得られた位置情報を表示装置上に表示する方法によって行われている。 また、例えば洋上を航行中でレーダの覆域外にある航空機については、航空機のパイロットに被搭載航法装置等によって知り得た位置情報を音声通信系を介して地上局に通報させ、地上局の航空管制官がこれを聞き取り記録することにより、各航空機位置を監視している。 【0003】このうち、洋上等のレーダの覆域外にある航空機の監視は、音声通信としてHFの電離層伝達を利用しており、通信容量及び通信品質の面で制約が多い。 特に、洋上航空機を対象とする航空管制通信にあっては、通信容量の制約により、各航空機からの周期的位置通報を概ね1時間に1回程度に限定せざるを得ない。 よって、航行の安全を確保するためには、相当に大きな管制間隔を保つ必要があり、交通量が自ずと限定される。 また、通信品質の制約がパイロット及び航空管制官の間の意思疎通に支障を来たし、航行の安全確保を損なう可能性がある。 【0004】このような状況を打開して、増大する交通量に対応し、同時に航行の安全性を向上させるため、衛星通信のように、広い覆域を有しかつ品質の高い空地間通信回線を介して、航空機側から自機の位置情報を自動的かつ周期的に地上局に向けて伝送させ、地上局ではこの情報を用いて表示装置上に航空機位置を表示する等の方法により、実時間的かつ連続的な航空機の監視を可能とするシステム概念が提唱されている。 これはADS (Automatic dependent surveillance:自動従属監視) と呼ばれるもので、世界的な標準化に向けて関係諸機関での作業が進められつつある。 【0005】機上から地上局へ自動的かつ周期的に伝送すべき情報には、当該機の3次元的位置の他、その位置情報を取得した時刻、速度、針路、風、気温等が考えられる。 これらは、通常、総称してADSデータまたはA DSメッセージと呼ばれる。 航空機位置は、一般的にはINS(Inertial navigation system:慣性航法システム)やGNSS(Global navigation satellite syste m:全世界航法衛星システム、代表例としてGPS (Glo bal positioning system)がある)のような機上搭載航法装置から知り得る。 ADSシステムでは、その位置決定精度、及び複数の航法装置を搭載する場合の冗長性の有無に関する情報をADSデータに含める(これをFO M(Figure of merit :航法性能指標)という)ことが考えられている。 【0006】ところで、地上局に自動的に伝送されたA DSデータは、所要の通信系路及びコンピュータによる処理を経て、最終的には航空管制官等が航空機位置監視のために見やすい形で表示される必要がある。 表示の形式は種々考えられているが、航空機の二次元的位置を示す映像またはシンボルに当該機の航空機識別、高度及び他の必要な情報を付加して表示する、航空管制分野で長年にわたって実績のあるレーダ表示に類似した形式が適切であるといえる。 【0007】このような表示形式をとる場合、周期的に送られてくる航空機からの位置及び識別に関する情報を、地上局で予め当該機について準備された飛行計画情報と照合し、情報を見やすい形に編集して表示するという処理を行う。 しかしながら、多数の航空機から周期的に繰り返し送られてくる位置及び識別に関する情報に対して、このような処理をその都度行うのは煩雑を極め、 システムの処理容量を限定するおそれが強い。 したがって、航空管制用のレーダで用いられてきたのと同様の追尾処理機能が必要とされるが、その実施に当たっては、 航法位置誤差及び航法機器の信頼性についての配慮が必要となる。 【0008】 【発明が解決しようとする課題】以上述べたように、提唱されている航空機位置監視システムの構築に当たり、 航法位置誤差などADS固有の特性を度外視した場合には、多数の航空機から周期的に繰り返し送られてくる位置及び識別に関する情報に基づく航空機追尾処理、位置表示処理について航法装置の条件に変更を生じた場合にその変更が反映されない形になるため、その処理が極めて煩雑となり、システムの処理容量を限定するおそれが強い。 【0009】この発明は上記の課題を解決するためになされたもので、多数の航空機から送られてくる位置及び識別に関する情報に基づく航空機追尾、位置表示処理を簡易な手法で実現して、実時間的かつ連続的な航空機の監視を可能とし、ひいては増大する交通量に対応し、同時に航行の安全性を向上させることのできる航空機位置監視システムを提供することを目的とする。 【0010】 【課題を解決するための手段】上記目的を達成するためにこの発明は、航空機に搭載され、航法装置から自動的かつ周期的に位置情報、これに付随する位置決定精度及び信頼度情報からなる監視情報を抽出して空地間データ通信によって伝送する監視情報伝送手段と、地上局に設けられ、前記監視情報伝送手段によって伝送されてくる監視情報を受け取るインターフェースと、このインターフェースで得られた監視情報を予め作成された当該航空機のトラックファイルと照合し、その判定結果に基づいて既存トラックファイルの更新、新たなトラックファイルの作成を行うと共に、監視情報の条件適合状態を判別して情報棄却の処理を行った後、航空機の追尾処理を行う追尾処理装置と、この装置の処理結果に基づいて航空機位置を表示する表示装置とを具備して構成される。 【0011】 【作用】上記構成による航空機位置監視システムでは、 航空機から自動的かつ周期的に送られる監視情報について、トラックファイルとの相関の有無、条件適合状態を判別し、その判別結果に基づき、既存トラックファイルの更新、新たなトラックファイルの作成、またはADS データ棄却の処理を行った後に追尾処理を行い、位置表示するようにして、相対的に目標監視の性能を維持している。 【0012】 【実施例】以下、図面を参照してこの発明の一実施例を詳細に説明する。 【0013】図1はこの発明に係る航空機位置監視システムの全体構成を示すもので、1は航空機である。 この航空機1は航法装置(例えばGPS、INS等)11 a、ADS機上装置11b及びアンテナ11c等からなる機上サブシステム11を搭載する。 この機上サブシステム11は航法装置11aで得られた自機の位置情報及びその付加情報をADS機上装置11bで自動的かつ周期的に取得し、取得した情報(以下、ADSデータと称する)をアンテナ11cを通じて地上局2に伝送する。 このADSデータ伝送には、衛星(例えばGPS衛星) 3による衛星通信回線または直接的なデータ通信回線が用いられる。 【0014】地上局2は衛星通信回線Aまたはデータ通信回線Bを通じて航空機1と通信するための衛星通信アンテナ211またはデータ通信アンテナ212による通信インターフェース21を備え、この通信インターフェース21で得られた航空機からのADSデータを監視装置22に送出する。 この監視装置22は地域的に別れて複数存在することもあり得る。 【0015】図2は上記監視装置22の構成を示すもので、上記通信インターフェース21から送られてくるA DSデータを地上回線インターフェース221を通じて取り込み、追尾処理部222及び表示制御部223の各処理を経て表示部224に表示される。 これらの機能は、一般的には表示装置及びコンピュータ(またはコンピュータの組み合わせ)により実現されるが、一部の機能をハードウェアで実現することもあり得る。 その構成は各種考えられる。 【0016】図3は上記追尾処理部222の構成を概念的に示すものである。 すなわち、この追尾処理部222 は、地上回線インターフェース221を介して入力されたADSデータの内容を入力処理部aにより所定のフォーマットに変換した後、判定部bに送られる。 この判定部bは入力したADSデータの内容と予め該当機の飛行計画情報を基に作成された監視ファイル(トラックファイル)cのトラックデータとを照合し、相関の有無を判定する。 この判定は、ADSデータの位置決定精度及び信頼性に関する情報を参照して行われる。 【0017】ここで、ADSデータがトラックデータと相関すると判定された場合、第1判定処理部dによってADSデータが更新制御部eに送られ、この更新制御部eによってトラックファイルcの更新が行われる。 同時に、表示用の出力として編集処理部fへ回される。 【0018】ADSデータがトラックデータと相関がとれないと判定された場合、第2判定処理部gにより相関しない旨の情報が更新制御部e及び編集処理部fに送られる。 また、既存のトラックデータと相関のとれないA DSデータは、第3判定処理部hによりトラック開始処理部iに送られる。 このトラック開始処理部iは、更新制御部eに新たなトラックファイルを作成すべき旨の情報をADSデータと共に送出し、更新制御部eに新たなトラックファイルを作成させる。 同時に、編集処理部f にもADSデータが送られる。 【0019】さらに、ADSデータに付加されている位置決定精度、信頼度が所定の条件を満たしていない場合には、第4判定処理部jでそのデータが棄却され、棄却した旨の情報が編集処理部fに送られる。 編集処理部f は以上の情報を表示部223の表示形式に沿うように編集し、表示部223に送出する。 【0020】この判定処理部222の機能構成を実現する方法としては、コンピュータによるもの、専用のハードウェアによるもの、またはそれらの組み合わせによるもの等、各種の形が考えられる。 上記構成において、以下、その運用手段について説明する。 【0021】まず、ADSシステムにあっては、前述したように、レーダ表示に類似した表示形式をとると、多数の航空機から周期的に繰り返し送られてくる位置及び識別に関する情報の編集処理をその都度行うのは煩雑を極め、システムの処理容量を限定するおそれが強い。 【0022】そこで、レーダ表示のための信号処理でよく知られている追尾処理(周期的位置データの履歴と飛行計画情報に基づく目標のトラックファイル(監視ファイル)を維持し、目標位置のデータを新しく得る度にそのトラックファイルに結び付ける処理)を適用するのが適切であると考えられる。 すなわち、ADSの追尾処理においては、目標の位置及びデータ取得時刻の履歴に基づき、次のADSデータが得られる空間的及び時間的範囲を予測し、その範囲内に検出され、かつトラックファイルと相関するADSデータによってトラックファイルの更新を行うという手続を繰り返す。 【0023】ここで、トラックファイルの更新に用いられるADSデータの条件は、 (1) 予測された空間及び時間の範囲内に得られること。 (2) 信頼性が保証されていること。 であるが、監視システムとしては、これらの条件を満たさないADSデータに対しても適切な処理を行い、目標監視に支障を生じないことが必要とされる。 【0024】この発明は、上記条件を考慮して、ADS データについて図3の判定処理を行っている。 すなわち、ADSデータと既存トラックデータの相関の有無の判定に当たり、FOMまたはその他の形式で表されたA DSデータの位置決定精度及び信頼性の情報を用いる。 【0025】以下、FOMを用いる場合を例にとって説明する。 現在考えられているFOMは、図4に示す7ビット形式のもので、ビット4−2の範囲で位置決定精度を表し、ビット1でこの精度を2台以上の航法装置によって得ているのか否かの冗長性を表す。 【0026】第1の具体例として、レベル5またはそれ以上の高い航法精度を維持して航行してきた航空機の航法装置(予備装置なし)が故障し、レベル0に低下したとする。 この場合、監視装置22はその航空機のADS データによる追尾を続けることができなくなったことを認識して、他の手段による目標位置の捕捉等、所要の処置をとる。 【0027】第2の具体例として、航法装置11aにG PS受信機を用いた航空機が、十分な数のGPS衛星を捕捉してレベル7を維持して航行してきたが、ある時点で捕捉できるGPS衛星数が減少したために、代替の航法装置による(レベル2に低下する)ことを余儀なくされたとする。 この場合、監視装置22がその切換前後で追尾を継続しようとしても、代替航法装置の位置決定精度が劣化していることから、既存トラックファイルとの相関がとれない可能性が高いと考えられる。 そこで、監視装置22ではFOMのレベル低下を認識して、それまでのトラックファイルを棄却し、新しいトラックファイルを設けて追尾を開始する。 【0028】したがって、上記構成による航空機位置監視システムは、ADSデータの編集処理前に、トラックデータとの相関の有無を判別し、相関がある場合にはトラックデータを更新し、相関がない場合にはそのADS データで新たなトラックファイルを作成し、精度、信頼度が低い場合には棄却するという処理を行っているので、多数の航空機からの位置及び識別に関する情報があっても、容易に航空機追尾、位置表示処理を実現することができ、実時間的かつ連続的な航空機の監視が可能となる。 このことから、増大する交通量に対応し、同時に航行安全性の向上に寄与することができる。 【0029】ところで、レーダ覆域内では、前述したように、レーダ情報によって航空機の位置を監視できる。 よって、ADSによる監視情報とレーダによる監視情報を共に利用することも考えられる。 【0030】図5はADSによる監視システムCとレーダによる監視システムD間の監視情報の授受を示す。 相互に移管が行われた場合、そのことを認識して表示に含める等、所要の処置を行うことを目的とする。 【0031】具体例として、レーダに基づく管制の下にあった航空機が、レーダ覆域限界に達する以前にADS に基づく管制へ移管が行われたとする。 この場合、図5 の構成により、ADS監視システムCは移管の前後にレーダ監視情報を受取り、それとADS監視情報との相関が可能であれば追尾を継続的に行うか、または第2の具体例と同様の処置を行う。 このようにレーダ監視システムとの情報の授受を行えば、レーダとADSとの間の監視機能の移管を円滑に行うことができる。 【0032】尚、上記各具体例はこの発明を限定するものではない。 例えば、ADSの位置決定精度等の情報は、FOM以外の方法で伝達される場合も考えられる。 その他、この発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形しても、同様に実施可能であることはいうまでもない。 【0033】 【発明の効果】以上のようにこの発明によれば、多数の航空機から送られてくる位置及び識別に関する情報に基づく航空機追尾、位置表示処理を簡易な手法で実現して、実時間的かつ連続的な航空機の監視を可能とし、ひいては増大する交通量に対応し、同時に航行の安全性を向上させることのできる航空機位置監視システムを提供することができる。 【図面の簡単な説明】 【図1】この発明に係る航空機位置監視システムの一実施例を示す全体構成図。 【図2】同実施例の地上監視システムの具体的な構成を示すブロック図。 【図3】図3のシステムの追尾処理機能の具体的な構成を示すブロック図。 【図4】同実施例に用いられるFOMのビット構成(AR INC characteristic745による)を示す図。 【図5】図3のシステムのADS監視装置とレーダ監視装置との間の情報の授受を示すブロック図。 【符号の説明】 1…航空機、11…機上サブシステム、11a…航法装置、11b…ADS機上装置、11c…アンテナ、2… 地上局、21…地上通信インターフェース、22…監視装置、221…地上回線インターフェース、222…追尾処理部、223…表示制御部、224…表示部、a… 入力処理部、b…判定部、c…トラックファイル、d, g,h,j…判定処理部、e…更新制御部、f…編集処理部、i…トラック開始処理部、A…衛星通信回線、B …データ通信回線、C…ADS監視システム、D…レーダ監視システム。 |