【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は複肉銃砲身の構造に関するものである。 【0002】 【従来の技術】近時機械システムにおける軽量化は重要な課題となっており、その傾向は火器弾薬システムにおいても同様である。 機関銃・機関砲の銃砲身は主要構成部品の一つであり、システム全体の質量に占める比率も大きい。 このため軽量化が期待されている。 しかし銃砲身は発射薬の燃焼ガスにより繰り返し高圧・高温にさらされる過酷な環境下にあるので、持続発射弾数能力等の運用形態、使用環境を考慮した軽量化が必要となる。 【0003】従来の銃砲身は高強度の合金鋼、たとえばクロム・モリブデン鋼、あるいはクロム・モリブデン・ ニッケル鋼等で作られていた。 このような鋼材は重量が大である。 軽量化の方策としては、一般的には構造上の強度余裕からの減肉、構造材料の機械的特性を把握しながらの材質変更等が考えられる。 しかし軽量化のためこれを単に薄肉化すると、熱容量の点で問題がある。 【0004】又高強度の材料は硬度が高いので、旋条を設ける(ライフリング)為のブロ−チ加工が難しくなる。 又硬度が高いと、靭性や延性も劣り、衝撃荷重即ち短時間に急激に作用する荷重に対して脆弱であるといった問題がある。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】熱容量を低減させることなく、銃砲身の軽量化を可能とする新規な銃砲身を提供する。 【0006】 【課題を解決するための手段】周溝が形成された鋼製銃砲身と、該周溝に密着的に充填され、鋼と同等の熱容量を有し、かつ鋼よりも軽量な材料部分とから構成して複肉銃砲身とする。 周溝に密着的に充填された材料としては純アルミニウム、アルミニウム合金、セラミックス、 純チタン、チタン合金、純マグネシウムまたはマグネシウム合金が好ましい。 また前記材料部分は、溶射、鋳ぐるみ、または冷しばめにより周溝に密着的に充填するのが好ましい。 さらに銃砲身内の発射時の圧力分布に応じて高圧部は周溝を浅く、低圧部は周溝を厚くすると良い。 【0007】 【発明の実施の形態】図2は本発明が実施される機関銃である。 本発明はこの機関銃における弾丸に回転を与えつつ発射する合金鋼よりなる銃砲身aの改良に関するものである。 銃砲身は内部に腔線が刻まれており、これによって弾丸10は高速旋回しつゝ発射される。 このとき高圧・高温にさらされる過酷な条件下にある。 【0008】本発明は構造上の強度余裕及び熱容量等を考慮し、従来の合金鋼よりなる銃砲身と比較して持続発射弾能力に大きな変更を与えないで銃砲身を軽量化することを目的とし、溶射等の接合技術を使って合金鋼と純アルミニウム等の材料との複肉銃砲身に関するものである。 【0009】さて、図1は本発明に係る複肉銃砲身Aの縦断面図である。 この実施の形態では、複肉銃砲身Aは鋼製銃砲身1と純アルミニウム溶射部3とからなっている。 鋼製銃砲身1にはその長手方向に機械加工又は鍛造加工によって形成された円周方向の周溝2が形成されている。 この周溝2に、鋼と同等の熱容量を有し、かつ鋼よりも軽量な材料部分を充填すべく、純アルミニウムを溶射して純アルミニウム溶射部3を構成し、従来の鋼製銃砲身と同一の形状とする。 なお図1の実施形態では、 純アルミニウム溶射部が2カ所に設けられているが、機関銃または機関砲の種類によっては、純アルミニウム溶射部を1つにまとめてもよい。 【0010】溶射は、セラミックス・金属等多様な材質の皮膜を形成する技術であって、現在航空機部品から一般家庭用製品に至るまで広範囲の分野に適用・応用されている。 通常、溶射は機械部品やプラントの配管等の耐摩耗性・耐熱性・耐食性等が要求される部位の特性向上に用いられている。 【0011】溶射材料には合金鋼材と比較して低密度・ 高熱伝導性を有する純アルミニウムを適用し、ア−ク溶射(またはプラズマ溶射等)により鋼製銃砲身1に設けた周溝2を埋め、従来の鋼製銃砲身と同一の形状にされている。 従来の鋼製銃砲身aと本発明の純アルミニウムを溶射して形成した複肉銃砲身Aとの質量比は約1: 0.8である。 なお、複肉銃砲身Aの外径は、銃砲身内部のガス圧の変化に応じて、薬室から銃口へ向かって外径が小さくなるようにゆるやかなテ−パが設けられている。 【0012】さてこのようにして構成した複肉銃砲身A について応力解析と熱伝導解析を行って、従来の鋼製銃砲身と比較した。 応力測定試験は、図3の下側に示す如く、銃砲身の外面の円周方向のひずみを半導体ひずみゲ−ジ4により検出し、ブリッジボックス5を通してオシロスコ−プ6に記録した。 又温度測定試験は、図3の上側に示す如く熱電対7を銃砲身の外面及び内面近傍に埋め込み、レコ−ダ8を通してパ−ソナルコンピュ−タ9 に記録した。 【0013】(試験結果) 応力試験結果:銃砲身に発生する応力は、銃砲身を厚肉円筒とみなし、また銃砲身が銃砲身の軸方向に固定されているとすると、2次元平面ひずみ軸対象問題と仮定できる。 応力は試験結果より得られる円周ひずみより各応力成分を算出し、相当応力を求めて有限要素法による応力解析の結果との比較を行った。 銃砲身の外面の応力分布の解析結果と試験結果の比較を図4に示す。 従来の鋼製銃砲身aと比較して複肉銃砲身Aは、解析結果と試験結果共に複肉部の発生応力が低下する傾向は定性的に良く一致しているが、定量的には良い一致をみていない。 これは、解析における力学的荷重条件を静荷重として解析を行ったことによる影響、また応力を2次元問題として算出したことによる影響と考えられる。 しかし解析結果、試験結果共に鋼製銃砲身aと複肉銃砲身Aの間には、応力分布に大きな差は見受けられない。 このことから常温時の腔圧に対する機械的強度は、鋼製銃砲身aと複肉銃砲身Aとの間には大きな差は無いと考えられる。 【0014】温度試験結果:銃砲身の内面及び外面における50連射直後の温度分布の有限要素法による熱伝導解析の結果と試験結果の比較を図5と図6に示す。 尚、 熱伝導解析に用いた材料の物性値はレ−ザ−フラッシュ法により実測した。 鋼製銃砲身aの内面の温度分布の解析結果は、試験結果と良く一致している。 また、複肉銃砲身Aの内面の温度分布において、鋼製部の温度は良く一致している。 さらに、鋼製銃砲身aと比較して複肉部が高温になる傾向は解析結果、試験結果共に定性的に一致している。 しかし、複肉部の解析結果と試験結果の間には定量的な差が見受けられる。 これは、複肉部の溶射材料であるアルミニウムの解析に用いた物性値と実際の物性値に違いがあり、その影響を受けたことによるものと考えられる。 この物性値の違いは、空気中の溶射による溶射層内の空気の巻き込み量及び酸化膜の量のばらつきに起因していることが考えられる。 【0015】鋼製銃砲身aの外面及び複肉銃砲身Aの外面の温度分布の解析結果(図6)は、試験結果の傾向と比較的良く一致している。 しかし、本解析において定常状態と仮定した熱伝達境界条件の影響により定量的に差が生じていると考えられる。 さらに複肉銃砲身Aの外面の温度分布に関しては、内面の温度分布同様溶射材料の物性値の影響を受けていると考えられる。 解析結果と試験結果の比較により、複肉銃砲身Aの温度分布は、鋼製銃砲身aと比較して内外面共に高温になる。 しかし、溶射方法の改善により温度上昇量を低下させることが可能であると考えられる。 【0016】以上の解析の結果、複肉銃砲身Aは鋼製銃砲身aと比較して、常温時の腔圧に対する機械的強度に大きな差は見受けられなかった。 しかし、50連射後の温度分布は銃砲身の内面及び外面共に鋼製銃砲身aと比較して高温になる傾向があることが確認された。 しかし、溶射材料・溶射方法の改善により温度上昇量を低下させることが可能である。 【0017】以上の例では、周溝に密着的に充填された材料として、純アルミニウムを使用したが、鋼と同等の熱容量を有し、かつ鋼よりも軽量な材料であればよく、 アルミニウム合金、セラミックス、純チタン、チタン合金、純マグネシウム、マグネシウム合金等が考えられる。 【0018】また、周溝への充填方法としての「溶射」 に代えて、接合界面からはくりが起こることなく、かつ接合界面に熱抵抗層が生じないだけの密着力が得られる異種材料接合方法ならば溶射に限定されることなく、 「鋳ぐるみ」、「冷しばめ」等でも勿論差支えない。 【0019】 【発明の効果】従来の鋼製銃砲身に周溝を設け、これに純アルミニウム等の材料を溶射等の接合方法により周溝に密着的に充填して従来の鋼製銃砲身と同一の形状とした。 このような構成にしたことにより、重さが約2割軽減されたので、その運搬や扱いが非常に容易となった。 又軽量化された上に、強度的にも比較実験で明らかな通り、その差異はさして認められず、その実用性は十分に認められた。 かくして、今後の銃砲身として、鋼製銃砲身にとって代り得るものである。 【図面の簡単な説明】 【図1】複肉銃砲身の縦断面図。 【図2】鋼製銃砲身を備えた公知機関銃の側面図。 【図3】応力測定試験及び温度測定試験のフロ−図。 【図4】銃砲身外面の応力分布図。 【図5】銃砲身内面の温度分布図。 【図6】銃砲身外面の温度分布図。 【符号の説明】 A 複肉銃砲身 a 鋼製銃砲身 1 鋼製銃砲身 2 周溝 3 純アルミニウム溶射部 4 半導体ひずみゲ−ジ 5 ブリッジボックス 6 オシロスコ−プ 7 熱電対 8 レコ−ダ 9 パ−ソナルコンピュ−タ |