アルミニウムを再生可能燃料として利用する方法

申请号 JP2012183301 申请日 2012-08-22 公开(公告)号 JP6080034B2 公开(公告)日 2017-02-15
申请人 日本エクス・クロン株式会社; 国立大学法人 東京大学; 公立大学法人首都大学東京; 发明人 後藤 徹也; 荒川 義博; 高橋 周平; 中野 正勝; 松井 信;
摘要
权利要求

アルミニウムを燃焼させ、燃焼により発生するエネルギを活用し、燃焼後に生じたアルミナを回収して再利用する、アルミニウムを再生可能燃料として利用する方法において、 アルミナを還元してアルミニウムを生成するアルミナ還元のステップ、もしくはアルミニウム廃材を処理してアルミニウムの粉末に再生させるアルミニウム再生ステップのいずれかのステップと、 前記アルミナ還元、もしくはアルミニウム再生のいずれかのステップにより得られたアルミニウムの粉末と酸素を燃焼室内に導入してアルミニウムを燃焼させ、その際、燃焼速度を制御してこれを定常燃焼とし、該定常燃焼により生ずるエネルギを取り出して活用するステップと、 前記アルミニウムの定常燃焼によって生じたアルミナを回収するステップと、 前記回収したアルミナを前記アルミナ還元ステップにおいて再利用するステップとからなることを特徴とする、アルミニウムを再生可能燃料として利用する方法。前記アルミニウムを定常燃焼させる際に、燃焼室内に導入されるアルミニウムの粉末の量、酸素の量のいずれか一方もしくは双方を制御することによりアルミニウムの燃焼速度を制御する、請求項1に記載のアルミニウムを再生可能燃料として利用する方法。前記燃焼室内に導入されるアルミニウムの粉末の量の制御を、該粉末を燃焼室内に導入するためのキャリアガスの噴流によって巻き込まれるアルミニウムの粉末の量を制御すること、またはアルミニウムの粉末に混合される不純物の量を制御することによって行う、請求項2に記載のアルミニウムを再生可能燃料として利用する方法。前記不純物がアルミナの粉末、もしくはまたは水蒸気のいずれかである、請求項3に記載のアルミニウムを再生可能燃料として利用する方法。前記燃焼室内に導入される酸素の量の制御を、酸素に加えて同時に導入される希釈ガスの量との混合比率を制御することによって行う、請求項2に記載のアルミニウムを再生可能燃料として利用する方法。前記定常燃焼の際に生ずる熱量を取り出す手段が、燃焼ガスによりガスタービン、蒸気タービンのいずれか一方もしくは双方を駆動することからなる、請求項1に記載のアルミニウムを再生可能燃料として利用する方法。前記アルミナ還元のステップが、加熱手段を用いてアルミナ粉末を加熱しプラズマ状態としてアルミナをアルミニウムと酸素に熱解離するステップと、プラズマ状態となったガスをノズルから超音速で噴出して凍結流とすることによりアルミニウムを単離するステップとからなる、請求項1に記載のアルミニウムを再生可能燃料として利用する方法。前記アルミナ還元のステップで使用される作動ガス中に水素を加え、水素の作用によりアルミナの還元を促進することを含む、請求項1に記載のアルミニウムを再生可能燃料として利用する方法。前記アルミナ還元のステップもしくはアルミニウム再生のステップの後、前記アルミニウムの定常燃焼のステップの前に、アルミナ還元もしくはアルミニウム再生によって得られたアルミニウムの粉末を輸送し、貯蔵し、備蓄するいずれかのステップをさらに含む、請求項1に記載のアルミニウムを再生可能燃料として利用する方法。

说明书全文

本発明は、アルミニウムを「燃料」もしくは「エネルギ源」として捉え、アルミニウムが燃焼する際に生じる高熱量を有効活用することで、アルミニウムを新たなエネルギ資源として利用する方法に関する。アルミニウムが燃焼した後に生ずるアルミナ(酸化アルミニウム)を回収し、これを還元して再利用すれば、アルミニウムを利用した再生可能エネルギとして新たなエネルギ循環システムを構築することができる。

我が国における主要エネルギである電の供給源は、火力発電(石炭、石油、天然ガス)によるものが約6割、原子力発電によるものが約3割、その他は力発電によるものほかとなっている。世界全体で見れば、火力発電によるものが7割弱、原子力発電によるものが約15%といわれる(2009年)。この内、世界で圧倒的な比率を占める火力発電については、化石燃料の燃焼に伴う温室効果ガスの発生が避けられないことから、昨今の地球温暖化に対処するためにも早急なエネルギ供給体制の見直しが求められる。これを解消する手段の一つとして期待されていた原子力発電に関しては、2011年3月の東日本大震災に起因する原子力発電所からの放射能漏れ事故に端を発し、元々危惧されていた原子力そのものに対する危機意識と使用後核燃料の処理問題が再びクローズアップされ、将来的には原子力発電依存体質の見直しが不可避の状態に陥っている。

火力発電、原子力発電に代わる代替電力供給源が求められるところ、かつて電力供給の主力を担っていた水力発電では、ダム建設に伴う環境破壊が問題となり、さらには比較的効率の高い(約70%)揚水発電においてもダムを挟んで上部調整池と下部調整池の2つの貯水池を設ける必要があるなど、特に国土が狭く地理的な適地が少ない我が国においては早急な解決策とはなり難い。外国においても同様な事情が存在しよう。太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギが注目を浴びているが、その発電量が天候や季節によって大きく影響を受けるため電力の安定供給が見込めず、発電量に対応した蓄電技術の開発が早急の課題となっている。既存の蓄電技術である鉛蓄電池、リチウムイオン電池などでは、小規模の電力レベルでは対応可能であっても電力レベルが上がるにつれてエネルギ貯蔵密度の低さ(石炭、石油に比べて2桁低い)やレアメタル使用量の点から課題が残り、大きな展開は望めそうにない。

燃料電池については、燃料となる水素の安全な貯蔵性の点からやはり大きな展開は望めず、加えて電池全般について言えることは、充・放電を繰り返すことによって経年変化し、効率が低下するため一定期間後には更新が必要となり、この際使用後の電池の処理にも課題が残る。将来的には、これらの問題点を排除した革新的な蓄電技術が必要となっている。これまで築き上げられたインフラを利用した生産活動や生活水準を維持するためには、結局、危険性はあるもののこれを承知の上で原子力発電に頼らざるを得ないのが当面の対応である。

かかる状況を打開し、従来の火力発電や原子力発電に頼ることなく潤沢なエネルギ供給を実現するために、新規な発想に基づく大規模畜電技術に裏付けされた安定的なエネルギ供給源を確立することが世界的規模で求められている。本願発明者らは先に、それまで余り顧みられることがなかったアルミニウムを燃料とするエネルギ・サイクルの活用を提言した経緯があるが(「非特許文献1」参照。)、当時(平成8年)は未だ解決すべき課題も多く、またその実現性にも不透明な点もあって注目を浴びるまでには至らなかった。しかしながら本願発明者らはその後も地道な研究開発を続け、その過程で多くの課題解決を進めた結果、ようやくその実現可能性を確認できるまでに至ったものである。本願発明者らは、本発明が近未来にも予想される得るエネルギ危機と地球温暖化現象に同時に対処できる可能性を秘めた、地球の将来に向けての一筋の光明を与える極めて価値ある発明であるものと信ずる。

まず、本願発明の主体となるアルミニウムについての概要を述べる。アルミニウムは、地殻表面に豊富に存在する元素であり、その構成を重量比で表すクラーク数では、酸素(46.4)、ケイ素(28.15)に次いで3番目に多い8.23であり、この値は他の有力な元素である鉄(5.63)、カルシウム(4.15)、ナトリウム(2.63)などよりも多い。また、アルミニウムの酸化物であるアルミナ(Al2O3)の大陸性地殻に占める平均化学組成は、二酸化ケイ素の59,8%に次いで2番目に多い15.5%を占め、これは酸化カルシウム(6.4%)、酸化鉄(5.1%)を上回る。すなわちアルミニウムは、地球表面のどこにでも、ごく普通に存在している元素であると言うことができる。

アルミニウムの人類に対する貢献は、19世紀初頭のアルミナの発見に始まる。アルミナにおけるアルミニウムと酸素の結合は強固であり、アルミナを還元してアルミニウムを単離するのに当初はカリウム、ナトリウムなどが用いられたが、最終的に1886年になって電気分解により還元するホール・エルー法が見出され、これが現在でもアルミニウム精錬方法の主力となっている。具体的には、アルミナを多く含む鉱石であるボーキサイトから水酸化ナトリウムなどを利用してアルミナを抽出し(バイヤー法)、このアルミナを氷晶石(Ga3AlF6)を用いた電解浴(2,300K)で溶融、炭素電極を用いた電気分解でアルミニウムを精錬する。 Al2O3+3C→2Al+3CO Al2O3+3/2C→2Al+3/2CO2

バイヤー法、ホール・エルー法については既に確立された技術であり、詳細説明は省略するが、上記化学式からも明らかなように還元作用に必要な炭素電極を用いることから一酸化炭素、二酸化炭素などの温室効果ガスを大量に発生させる原因となる。また、上記電気分解にはアルミニウムと酸素との強固な結合を分離するための多量な電力の消費を余儀なくされ(アルミニウム1トン生産するための消費電力:13,000〜14,000kWh)、アルミニウムが俗に「電気の塊」と称せられる所以である。

現在でもアルミニウム精錬(アルミナの還元)にはホール・エルー法が主力となっており、各種技術改善が見られるものの(例えば「特許文献1」参照。)、多量の電力の消費と温室効果ガスの発生は避けることはできない。また近年では、ホール・エルー法に代わる直接炭素熱還元方法も提起されているが(例えば「特許文献2」、「特許文献3」参照。)、炭素を還元材として利用することに変わりがないため、温室効果ガスの発生は避けられない。

次に、アルミニウムのエネルギ資源(燃料)として捉えた場合のポテンシャルについて述べる。下の数値は各種材料のエネルギ貯蔵密度を比較したものであり、単位としてグラム当たりのキロジュール(kJ/g)と1立方センチメートル当たりのキロジュール(kJ/cm3)で示す。 材料 kJ/g kJ/cm3 アルミニウム 15.5 41.9 石炭 41.3 57.8 石油 60.4 47.2 LNG 76.9 33.7 水素(100MPa) 0.60 0.05 鉛蓄電池 0.13 0.29 リチウムイオン電池 0.36 0.9

アルミニウムは燃焼(酸化)する際に高熱量を発生する。以上の比較からも明らかなように、体積当たりで比較した場合、アルミニウムのエネルギ貯蔵密度は、石炭に対してはやや劣るものの石油には拮抗しており、LNGよりも高い。また、水素、電池などとは比較にならないほど高い。すなわち、アルミニウムは、その貯蔵、搬送において石炭、石油と比べても遜色のない特徴を備えていると言える。さらに加えてアルミニウムの優れた点は、その表面が空気に触れて酸化されてもその酸化被膜が強固であることから、内部はアルミニウムのままで保たれることである。石炭、石油が貯蔵の間に変質、揮発するなどにより潜在エネルギが減退するのに対し、アルミニウムは長期の貯蔵、備蓄にも十分に耐えられるものとなる。

特表2005−536637号公報

米国特許第6440193号明細書

特開2006−519921号公報

財団法人エネルギー総合工学研究所「平成7年度 低排煙燃焼炉技術開発可能性検討調査報告書(通商産業省資源エネルギー庁委託調査)」

本願発明者らは、以上の通りアルミニウムが備える「エネルギ資源(燃料)」としての潜在能力に着目し、本発明はアルミニウムの燃焼を制御してエネルギを取り出す技術を確立し、アルミニウムを「燃料」として利用可能にすること、さらには、アルミニウムを精錬し、貯蔵し、燃焼し、回収して再生することにより、アルミニウムを「燃料」として用いたエネルギ循環サイクルを構築可能にすることを目的としている。特にアルミニウムの精錬工程においては、現在のホール・エルー法に代わる低エネルギでかつ温室効果ガス等の環境、人体に悪影響のある排ガスの発生のないアルミナ還元技術を提供すること、そしてアルミニウムの燃焼行程においては、爆発的なアルミニウムの燃焼を制御し、エネルギとして有効に取出し得るアルミニウム定常燃焼技術を提供することを目的としている。

本発明は、アルミニウム燃焼時に関してはアルミニウム燃焼装置の燃焼室内に導入されるアルミニウム、酸素の量を制御して定常燃焼を実現することにより、またアルミナ還元に関してはレーザプラズマ技術と超音速凍結流を用いてアルミニウムを単離することにより上記課題を解決するもので、具体的には以下の内容を含む。

すなわち、本発明に係る1つの態様は、アルミニウムを燃焼させ、燃焼により発生するエネルギを取り出して活用する、アルミニウムを燃料として利用する方法であって、アルミニウムの粉末と酸素を燃焼室内に導入してアルミニウムを燃焼させ、その際、燃焼速度を制御してこれを定常燃焼とし、定常燃焼により生ずるエネルギを燃焼室から取り出して活用することを特徴とする、アルミニウムを燃料として利用する方法に関する。

前記アルミニウムを定常燃焼させるステップにおいては、燃焼室内に導入される粉末アルミニウムの量、酸素の量のいずれか一方もしくは双方を制御することによりアルミニウムの燃焼速度を制御することができる。

前記燃焼室内に導入されるアルミニウムの粉末の量の制御は、該粉末を燃焼室内に導入するためのキャリアガスの噴流によって巻き込まれるアルミニウムの粉末の量を制御すること、またはアルミニウムの粉末に混合される不純物の量を制御することによって行うことができる。この際、前記不純物としてアルミナの粉末を利用することができる。

前記燃焼室内に導入される酸素の量の制御は、酸素に加えて同時に導入される希釈ガスの量との混合比率を制御することによって行うことができる。

前記定常燃焼の際に生ずる熱量を取り出すステップは、燃焼ガスによりガスタービン、蒸気タービンのいずれか一方もしくは双方を駆動するよう構成することができる。これにより、アルミニウムの燃焼によって得られるエネルギを発電に利用すること、あるいは動力として利用することができる。

前記アルミニウムを燃料として利用する方法は、前記アルミニウムを定常燃焼させるステップの前に、アルミナを還元してアルミニウムを生成するアルミナ還元のステップ、もしくはアルミニウム廃材を処理してアルミニウムの粉末に再生させるアルミニウム再生のステップのいずれかをさらに加えてもよい。

前記アルミナ還元のステップでは、アルミナ粉末をレーザ光などの加熱手段により加熱してアルミナをプラズマ状態としてアルミニウムと酸素を分離し、これを超音速で噴出して凍結流とすることによりアルミニウムを単離することができる。この際、前記作動ガス中に水素を加え、水素の作用によりアルミナの還元を促進することもできる。

前記アルミナ還元のステップもしくはアルミニウム再生のステップの後、前記アルミニウムの定常燃焼のステップの前に、アルミナ還元もしくはアルミニウム再生によって得られたアルミニウムの粉末を輸送し、貯蔵し、備蓄するいずれかのステップをさら加えることができる。また、前記定常燃焼の際に生ずるエネルギを取り出すステップの後に、アルミニウムの定常燃焼によって生じたアルミナを回収するステップをさらに加えることができる。このステップで回収されたアルミナは、前記アルミナ還元のステップでリサイクル使用することができる。また、これらのステップを加えることによって、アルミニウムを利用したエネルギ・サイクルを構築することができる。

本発明の実施により、アルミニウムを燃料としてこれを燃焼して得られるエネルギを有効活用することが可能になり、例えば発電に利用した場合には温室効果ガスを排出することなく、また他の再生エネルギのように天候に左右されることなく、安定した電力を供給できるようになる。また、アルミニウムは燃焼後に回収して再利用することができ、さらに安定して長期間の貯蓄が可能となることなど、将来のエネルギ危機に対応した有力なエネルギ資源の候補を提供するものとなる。

本発明の実施の形態に係るアルミエネルギ・サイクルの概要を示すフローチャートである。

本発明の他の実施の形態に係るアルミニウムの定常燃焼させる装置の概略図である。

アルミニウムを燃焼させて発電するコンバインド発電装置の概略構成図である。

本発明のさらに他の実施の形態に係るアルミニウムの還元方法の概要を示す説明図である。

本発明の第1の実施の形態に係る、アルミニウムを燃料として利用する方法を含み、アルミニウムを循環させてエネルギを生成する新規なエネルギ循環方法(以下、「アルミエネルギ・サイクル」とも呼ぶ。)について、図面を参照して説明する。図1は、本実施の形態に係るアルミニウムを用いたアルミエネルギ・サイクルの全体概要を示している。同図において、ステップ(図面では「S」と略。)0では、アルミニウム含有鉱石(ボーキサイトなど)からアルミナ(酸化アルミニウム)を抽出する工程であり、これは従来技術(例えば、バイヤー法)によるものでよい。

ステップ1では、アルミナを還元してアルミニウムを抽出する。本発明で使用する燃料としてのアルミニウムは、工業用アルミニウムを精錬する際のような例えば99.9%等の高純度のアルミニウムとする必要はなく、不純物となるアルミナもしくはその他の要素を一定の限度で含んでいてもよい。ここでは、従来技術によるホール・エルー法によるアルミナ還元であってもよく、あるいは後述するような(第3の実施の形態)、本発明に関連した新規なアルミナ還元方法が利用されてもよい。アルミナ還元のためには電力を消費することから、このステップは電力料金の安い地域で実施されることが好ましい。例えば、年間を通じて太陽の照射時間が長く、天候の変化が少ない地域を選んで大々的なソーラ発電施設を整え、そこで発電した電力を用いてアルミナ還元を実施すれば、得られたアルミニウムを燃料して出荷することで、従来の「産油国」に比肩し得る「産エネルギ国(地域)」となる可能性を含む。

次に、ステップ2では、ステップ1で得られたアルミニウムを「燃料(エネルギ源)」としてエネルギの必要となる地域(国)へ搬送し、貯蔵するステップである。アルミニウムは表面に酸化被膜を形成してこれが内部を保護するため、その後は状態が安定となって貯蔵は容易である。さらに、従来の化石燃料と比較した場合、貯蔵に伴う変質、揮発による減少、異臭の発生などはなく、長期貯蔵(備蓄)にも適している。この状態にあるアルミニウムは「アルミ燃料」と呼ぶこともでき、エネルギ資源と捉えることができる。なお、紛体を扱う場合には常に粉塵爆発を防ぐという共通課題がある。このため、貯蔵量、温度、湿度等の管理を行う必要はあるが、例えばマグネシウムのように水を掛けるだけで発火する材料とは異なり、アルミニウムは安定状態にあるため危険度は相対的に高くはない。

次いでステップ3では、ステップ2で貯蔵されたアルミ燃料を燃焼させ、エネルギを取り出す。アルミニウムの燃焼は爆発的であることが知られており、このため従来技術においてはエネルギの取り出しが困難であった。アルミニウムが照明弾や閃光弾などの火薬、あるいは爆発による急膨張を利用してロケットエンジンなどに使用される例はあるが、アルミニウムをエネルギ資源もしくは燃料としてこれを定常燃焼させて有効活用するという発想はされていなかった。本発明では、アルミニウム燃焼時における燃焼速度を制御し、定常状態で燃焼させることでエネルギの有効な取り出しを可能にしたものであり、これに関しては次の第2の実施の形態で詳述する。このステップ3において、アルミニウムは燃焼により酸化されてアルミナ(酸化アルミニウム)に戻る。

次にステップ4では、燃焼後のアルミナを回収する。アルミナの融点は2,300Kであり、例えば溶融したアルミナを含む燃焼ガスがガスタービンや蒸気タービンを駆動するなどで有効利用された後に冷却され、塵状となって固化したアルミナをフィルタ等を利用して回収することができる。燃焼ガスに含まれる他の成分は酸素とキャリアガスもしくは希釈ガスとして使用されたアルゴンなどの不活性ガスのみであり、環境や人体に有害となる物質は含まれない。回収されたアルミナは集めて搬送され、図示のようにステップ1の「アルミナの還元」ステップに戻すことができる。以上により、アルミニウムを介在させてステップ1〜ステップ4を循環させる「アルミエネルギ・サイクル」が構成される。

ステップ5は、アルミナの還元を必要とせず、もしくはこれに加えて再生アルミニウムを燃料として使用する工程を示している。アルミニウムは工業製品、建築材料、飲料用缶などとして既に市場に大量に出回っており、これらを回収してアルミニウムを再生することが現在でも行われている。このアルミニウムの再生技術によれば、ステップ1に示す従来のアルミナの還元方法(ホール・エルー法)に比べて電力消費量は僅か3%ほどで済むといわれ、市場のアルミニウムを回収してアルミ燃料に再生できれば、エネルギ資源として極めて重要な役割を果たすものとなる。なお、図1に示すフローでは、ステップ5のアルミニウムの再生をステップ3のアルミニウムの燃焼につなげているが、これをステップ2のアルミニウムの搬送・貯蔵に結ぶことであってもよい。

以上に示すアルミニウムを利用してエネルギを取り出す方法、さらにはアルミニウムを燃焼し、回収し、還元し、再利用を図るアルミエネルギ・サイクル全体を、従来技術によるエネルギ生成方法と比較した場合の顕著な利点をまとめ直せば、以下のようである。 1.燃料となるアルミニウムは資源として豊富であり、再生アルミニウムの利用も可能である。これまで石炭、石油、LNGなどの資源は地球上に偏在していたが、アルミナ精錬技術があるかぎり、どの国も「エネルギ産出国」となる可能性を含む。また、これも偏在するリチウムなどの希少金属を必要としない。 2.アルミニウムは再生利用が可能であり、この点で、他の化石燃料とは根本的に相違する。 3.アルミニウムは表面に酸化被膜が形成され、内部が保護されて安定しているため、貯蔵が容易である。他の化石燃料のように変質、揮発するような現象はない。このため、備蓄にも適している。 4.アルミニウムの利用により、電力供給を安定させることができる。太陽光発電や風力発電などの他の再生可能エネルギは天候等の自然現象の影響を受けやすく、電力供給量が変動するのに対し、アルミニウムを燃料とする場合には需要量に対応した適切な量の電力を随時供給できるものとなる。このため、電池などの蓄電設備を必ずしも必要としない。 5.アルミニウムは燃料として無害であり、環境を汚染することがない。放射能とは無縁であり、原子力発電とは根本的に相違する。また、燃焼の結果生成されるのは酸化アルミニウムという無害な安定物質であり、この点で温室効果ガスを大量発生させる化石燃料とは相違するほか、鉛やリチウムなどの有害物質を利用する蓄電技術とも相違する。

以上、本実施の形態に係る「アルミエネルギ・サイクル」の全体概要を説明したが、これはアルミニウムを循環させてエネルギ資源として有効活用することを趣旨とする本発明の基本概念を示すものである。しかしながら、図1に示すステップ0〜5までの要素の全てが必ずしも本願発明の必須の要素となるものではない。本発明のコア部分はステップ3の「アルミニウムの定常燃焼」にあり、その他の要素はこれに付随した構成要素と見ることができる。例えば、ステップ1のアルミナの還元は、課題があるとはいえ既に確立されたホール・エルー法によるもののほか、その他の還元技術がみられるところであり、これらの技術により還元して得られたアルミニウムをステップ3のアルミニウムの定常燃焼に利用することでもよい。また、ステップ2のアルミニウムの搬送、貯蔵の工程は、アルミナ還元とアルミニウム燃焼とを別の国、地域で行うことを前提とする場合、もしくはアルミニウムを燃料として備蓄する場合に必要となる要素であり、アルミナの還元とアルミニウムの定常燃焼とを一貫して行う場合には必ずしも必要とされない。

さらに、ステップ4のアルミナの回収は、本実施の形態に係るアルミエネルギ・サイクルを実施するための要素ではあっても、ここで燃焼後に発生したアルミナは回収することなく、既に地表に多量に分布するアルミニウム含有成分の一部となるよう廃棄されてもよい。燃焼ガスに含まれる他の成分である酸素、作動ガス(不活性ガス)と同様にアルミナは環境、人体に無害であり、基本的にそのまま大気中に放出されても問題となるものではない。

これまでアルミニウムをエネルギ資源、もしくは燃料として捉えた技術は非常に限定されたものであり、特にはアルミニウムの燃焼は爆発的な燃焼ではなく、定常燃焼としてエネルギを得ることは新規の技術的思想であり、同時にアルミニウムを燃焼し、回収し、還元し、再利用を図るアルミエネルギ・サイクル全体も同じく新規な技術的思想である。しかもこれらは、産業上極めて有効に利用することができる新規な技術的思想であると言える。

次に、本発明の第2の実施の形態について図面を参照して説明する。ここでは、図1に示すアルミエネルギ・サイクルの内、二重枠で示すステップ3の「アルミニウム燃焼」技術に関する。既述したように、アルミニウムの燃焼は爆発的であり、これから有効なエネルギとして取り出すには燃焼速度を制御して定常状態での燃焼(以下、本明細書ではこれを「定常燃焼」と言う。)としなければならない。「定常燃焼」とは「爆発的な燃焼(非定常燃焼)」の対極となるもので、燃焼速度が制御可能な状態におかれ、しかもその状態での燃焼を一定時間に亘って継続し得る燃焼をいう。

図2は、アルミニウムの定常燃焼を可能とするアルミニウム燃焼装置1の一例を示している。図2において、アルミニウム燃焼装置1は、アルミニウム供給部10と、アルミニウム燃焼部30とから主に構成されている。この内、まずアルミ燃料供給部10は、適量のアルミニウムの粉末(以下、「アルミ燃料」ともいう。)5をアルミニウム燃焼部30へ供給するもので、下からターンテーブル11と、ターンテーブル11の上に載置されたアルミ燃料5を入れる燃料容器12と、燃料容器12内にアルミ燃料5を供給する燃料放出管13と、燃料容器12内からアルミ燃料5を取り出す燃料供給管14と、アルミ燃料5を取り出して搬送するためのキャリアガスを供給するキャリアガス供給管16とから構成されている。

ターンテーブル11はモータ17によって回転駆動されるが、この回転数は図示しない制御装置によって制御可能である。燃料容器12には、燃料放出管13からアルミ燃料5が適宜放出される。例えば、燃料放出管13の先端にセンサ(図示せず)を取り付け、燃料容器12内のアルミ燃料5のレベルを検出してこれを一定のレベルに保つよう供給が可能である。なお、燃料放出管13に対しては逐次アルミ燃料5が上方から補充可能である。燃料供給管14とキャリアガス供給管16とは図示の例では二重管構造となっており、外周にあるキャリアガス供給管16を通ってアルゴン、ヘリウムなどのキャリアガスが上方から下方に向けて供給可能である。二重管は燃料容器12内でアルミ燃料5と接する高さ、もしくはその近傍にあり、キャリアガスの圧力によって巻き込まれたアルミ燃料5がキャリアガスと共に燃料供給管14の内部を下方から上方に向かって押し出され、さらに連結管20を通ってアルミニウム燃焼部30へと送られる。

一方、アルミニウム燃焼部30は、アルミニウム燃料5とキャリアガスが混ざった燃料混合ガスを燃焼室40内に放出する燃料ノズル31と、その周囲から主に酸素を供給する二重管構造となった酸素供給管32と、ここではトーチ火炎を使用してアルミ燃料5に点火する点火機構33とから構成されている。酸素供給管32は、図示しない外部の酸素供給源に接続されている。なお、図面では二重管構造となったノズルを1つのみ描いているが、同様な構造の小型ノズルを多数配置するよう構成してもよい。

以上のように構成された本実施の形態に係るアルミ燃焼装置1の動作を、特には定常燃焼を実現するための制御対策と共に説明する。まず、アルミニウム供給部10の燃料放出管13から燃料容器12内にアルミ燃料5が放出され、モータ17によってターンテーブル11が回転駆動される。次にキャリアガス供給管16の上方から加圧されたキャリアガスが供給され、二重管の下端でキャリアガスの流れに巻き込まれたアルミ燃料5が燃料供給管14内に押し込まれ、その混合ガスが連結管20を通ってアルミニウム燃焼部30に供給される。アルミニウム燃焼部30では、酸素供給管32内に酸素が供給され、先のアルミ燃料5を含む燃料混合ガスと酸素とが混合された状態で点火機構33により点火され、アルミ燃料5の燃焼が開始される。その後は、次々に供給されるアルミ燃料5が燃焼し、高温、高圧ガスとなって燃焼室40から図の右方向にガイドされ、後述する発電用ガスタービン等のエネルギ生成装置に導かれる。

以上のような動作の間において、アルミニウムを爆発燃焼ではなく、制御された燃焼速度の定常燃焼を実現するため、以下のような制御手段を講ずることができる。 1.キャリアガス供給圧力の制御:キャリアガス供給管16の上流側に圧力調整弁を設け、キャリアガスの供給圧力を制御する。供給圧力の高低は、燃料供給管14内に巻き込まれるアルミ燃料5の量を増減させる。一例として、圧力は約100kPa〜1MPa、好ましくは約300〜600kPaにて制御する。 2.ターンテーブル11の回転数の制御:回転数を制御することによってキャリアガスによるアルミ燃料5の巻き込み量を制御することができる。あるいは、ターンテーブル11の代わりに該テーブルを上下移動可能に構成し、燃料容器12と燃料供給管14の下端の相対高さを制御してアルミ燃料5内への燃料供給管14の侵入深さを調整することでもよい。アルミ燃料5の供給量は供給酸素量に対して当量比で約0.2〜1.1、好ましくは約0.5〜0.8にて制御する。また、アルミ燃料5となるアルミニウムの粒子径は、約0.1〜30μm、好ましくは約1〜10μmとする。 3.アルミ燃料5に燃焼緩和効果のある要素を添加:一例として、アルミ燃料5を純粋なアルミニウム粒子のみとせず、一定の率でアルミナ粒子を加える。燃焼時の熱でアルミナが還元される際に一部のエネルギが吸収されて燃焼が定常燃焼となることを促進させる。アルミナの供給は、アルミ燃料に予め一定量を混ぜるか、あるいはアルミニウム供給部10に燃料放出管13と同様な放出管をもう一つ設け、必要なアルミナの放出量を制御して燃料容器12に供給することでもよい。アルミナ以外にも、他の燃焼緩和効果のある不純物、例えば水(水蒸気)を加えてもよい。 4.キャリアガスとアルミ燃料の混合ガスの供給量の制御:連結管20の途中に圧力調整弁を設け、スロットルのようにして混合ガスの供給量を制御する。 5.酸素供給管32内の酸素濃度の制御:酸素供給管32の上流側に切換弁34を設け、アルゴンなどの不活性ガスからなる希釈ガスを制御して酸素に混入させ、酸素濃度を希釈させる。酸素と希釈ガスとの体積割合は、酸素を酸素供給管32に規定量(アルミ燃料供給量に対して当量比で約0.2〜1.1、好ましくは約0.5〜0.8となるように制御)で投入した際に、希釈ガスと同程度の噴射圧力(100kPa〜1MPa、好ましくは300kPa〜600kPa)となるように混合する。 6.アルミニウム燃焼部の燃焼室温度の制御:アルミニウム燃焼部30においては,アルミニウムの自着火温度を超える温度に維持されており,燃焼室40の壁面はセラミックスなどの低熱伝導物質41で断熱されている.この断熱材41はアルミニウム燃焼によるふく射により高温に保たれており,安定燃焼に寄与する.また、酸素供給管32の上流側に熱交換部42を設け、燃焼器40で発生した熱の一部で供給酸素を加熱し、アルミ燃焼部の予熱に寄与する.一例として,アルミニウム燃焼部温度は約600K〜1200K,好ましくは約800K〜1000Kにて制御する.

以上の制御手段の内、いずれか一つ、もしくはこれらを任意に組み合わせることによってアルミニウムの燃焼速度を制御してこれを定常燃焼とすることができる。このための制御系としては、燃焼室40に温度センサ、圧力センサ(図示せず)を設け、これを制御装置に入力して必要な制御手段を動作できるものとする。なお、アルミ燃料5の燃焼中における緊急時には、アルミ燃料5の供給停止、キャリアガスの供給停止により、アルミ燃料の燃焼を即時ストップすることができる。この際、放射能や有害ガスが放出されることはない。

図3は、アルミ燃料により得られた高温、高圧ガスを利用して発電する発電装置50の一例を示している。図は、左側のガスタービンによる発電領域と、右側の蒸気タービンによる発電領域とを備えたコンバインド発電装置の例を示している。図3において、左側のガスタービン発電領域では、図2に示すアルミニウム燃焼装置1がガスタービン51につなげられ、燃焼ガスによりガスタービン51を回転駆動する。ガスタービン51の回転は軸を介して(ギア等を介することであってもよい)つながれた圧縮機52、さらに第1の発電機53に伝達され、第1の発電機53により電気が生成される。圧縮機52により生ずる圧力はアルミ燃焼装置1に戻され、燃焼ガス加圧圧力として利用される。

一方蒸気タービン発電領域では、ガスタービン51を駆動させた後の燃焼ガスが熱交換器56に導かれ、ここで水蒸気を発生させる。熱交換した後の燃焼ガスは、矢印Aで示すように大気に放出されるか、あるいは回収されて再生利用されてもよい。熱交換器56で発生した蒸気は蒸気タービン57を回転させ、これにより第2の発電機58により電気が生成される。その後の蒸気は復水器59で水に戻され、循環して使用される。復水器59で得られた熱量は、他の用途に有効利用されてもよい。以上の発電装置50の構成は、アルミ燃焼装置1を除いて基本構成は化石燃料を利用するコンバインド発電装置と同様である。また、上記例ではアルミニウムの燃焼によって得られたエネルギを発電に利用する場合を示しているが、例えば定置式の工業用のガス/蒸気タービン・エンジンや、同じく船舶等の動力用エンジンとして利用されてもよい。

次に、本願発明の第3の実施の形態について、図面を参照して説明する。本実施の形態では、図1のステップ1に示すアルミナの還元方法に関する。上述の如く、本発明で燃焼に使用されるアルミニウムは、従来技術によるホール・エルー法により還元されたアルミニウムであっても使用可能であるが、ホール・エルー法によるアルミナの還元には大量の電力を消費すると共に、多量の温室効果ガスを発生するものとなる。アルミニウムを燃料として使用する際には、環境汚染物質を排出しない方法によって該エネルギ源を得ることが特に好ましく、本実施の形態では、図1に示すアルミエネルギ・サイクルにおいて利用されるアルミニウムが、少なくとも温室効果ガスの排出を全面的に回避し、かつ電力消費量の改善にもつながる方法によって得られたものとなるよう、新規なアルミナの還元方法を利用するものである。

なお、当該アルミナの還元方法は、本発明に係るアルミニウムを燃料として利用する方法、もしくはアルミエネルギ・サイクルにとって必ずしも必須の要件となるものではない。当該アルミナの還元方法の発明に関しては本出願と並行する独立した他の出願にて取り扱われており、本実施の形態ではその方法を本願のアルミエネルギ・サイクルに応用するものである。

図4は、本実施の形態に係るアルミナの還元方法の概要を示しており、破線で区別されている図の左側に示すA領域でのアルミナを熱解離するステップ、中央のB領域でのアルミニウムと酸素を分離してアルミニウムを単離するステップ、そして右側に示すC領域での単離したアルミニウムを回収するステップから主に構成されている。各ステップの流れは図の左側から右側へと移行する。

まず図の左側にあるA領域におけるアルミナを熱解離するステップにおいて、使用される還元装置100の内部には流れを絞るスロート部111が設けられており、その上流側(図の左側)にアルミナ導入口112が、さらにその上流側に作動ガス導入口113が設けられている。アルミナ導入口112からはアルゴンなどのキャリアガスと共にアルミナ粉末が装置内部に導入され、作動ガス導入口113からは酸素とアルゴンガス等の不活性ガスからなる加圧された作動ガスが導入される。アルミナ導入口112から導入されるアルミナとキャリアガスの混合物では、全体に占めるアルミナの含有量が、例えば約0.1〜0.6g/l(l:リットル)の範囲で適切に制御される。また、作動ガス導入口113から導入される作動ガスの圧力は、好ましくは10気圧ほどである。アルミナとキャリアガスの混合物は、作動ガスにより図の左から右にスロート部111に向けて圧送される。

スロート部111には、ここに焦点を合わせて図の左側からレーザ光114が照射される。本実施の形態では、最大出力2kW、波長10.6μm、ビーム径34mmの炭酸ガスレーザが使用されているが、これはアルミナをプラズマ状態にするに十分な熱量を与えるものであれば他の仕様であってもよい。レーザ光の焦点近傍は局部的に12,000Kの高温に達し、その高熱によってアルミナは溶融し(アルミナの融点は2,300K)、さらにプラズマ状態となってアルミニウムと酸素が熱解離する。ここでは逆制動輻射と呼ばれる電子が光を吸収して加速される現象が生じ、電子とイオンがクーロン衝突を繰り返すことによってプラズマが加熱される。 Al2O3=2Al+3/2O2−838kJ

次に図の中央にあるB領域に移動して、加熱されて膨張し、スロート部111で絞られたプラズマ状態のガスは、スロート部111の出口であるノズル116から噴流となって図の右側に向けて放出される。この際の流速は1,000〜3,000m/sの超音速流となり、急激な膨張によって気流は急冷される。ここで従来のホール・エルー法によれば、電気分解されたアルミナ成分の内、酸素は陽極に引かれて炭素と結合して二酸化炭素となって分離され、残るアルミニウムのみが溶融炉内に沈殿して回収される。しかしながら、炭素電極などの還元剤がない状態では、一般にアルミナが熱解離して一旦アルミニウムと酸素とに分離されても、結合力の強いアルミニウムと酸素が冷却の過程で再び結合してアルミナに戻ってしまう傾向にある。本実施の形態に係る方法によれば、プラズマとなって分離されたアルミニウムと酸素が凍結された超音速気流で常温状態まで急冷される結果、この再結合がされることなくアルミニウムと酸素を分離状態のままで維持することができる。この事実は、この凍結流を発光分光測定し、アルミニウム特有の発光スペクトルのピークを観察することによって確認できる。

あとは図の右側にあるC領域に移行し、単離したアルミニウムのみを回収する。図示の例では、冷却された銅管117を利用し、この中に流体を流すことによって分離されたガス体の酸素は放出され、アルミニウムを銅管117の管壁に堆積させて回収することができる。この回収方法は一例であって、例えば酸素は透過し、アルミニウム粉末は捉えるフィルタを用いるなどにより回収することが可能である。

アルミナ還元に際して制御された適量のアルミナ粉末をアルミナ導入口112まで導いて注入するには、一例として先の実施の形態1で説明した図2に示すアルミニウム供給部10と同等の機構を利用することができる。この際、図2の燃料容器12がアルミナ容器となり、燃料放出管13がアルミナ放出管として利用される。本実施の形態では、アルミナ粉末は約0.03〜3μm径の粉末が使用可能であるが、アルミナ粉末の供給量を安定状態で制御するためには1回の処理に使用されるアルミナ粉末はほぼ同一粒度のものに選別して使用されることが望ましい。

以上の本実施の形態に係るアルミナ還元方法に対する変形態様の一つとして、作動ガス注入口114から導入される作動ガスに水素を含め、水素を利用したアルミナ還元を促進させることが考えられる。水素を加えることによってアルミナ中の酸素が水素と結合してH2Oを排出するが、これによっても環境に有害なガスを排出することにはならない。 Al2O3+3H=2Al+3H2O−112kJ

アルミナの還元に水素を追加して利用した際、アルミナのみを直接溶融して分離する場合に比較して低いエネルギでアルミナ還元を実施することができ、熱量の節約が可能となる。本願発明者らの試算によれば、現在のホール・エルー法による電気分解と同等の熱量でのアルミナ還元(20mg/kJ)を実施するには、アルミナを直接熱解離する場合ではレーザ光熱量の30%が有効活用されれば、また水素を添加する場合には、実に4%の熱量が有効活用されればこれと同等の効率を達成することができる。本実施の形態に係るアルミナの還元方法では約35%の熱効率が可能であることから、このいずれの場合においてもホール・エルー法を上回る効率が達成され、温室効果ガスの発生を回避することに加えて還元に要する電力自身をも節約できる。

アルミナを従来技術による電気分解ではなく、熱解離によって還元する際の加熱手段として、上述した例ではレーザ光114を利用するものとしているが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の加熱手段が利用されても良い。例えば、アーク放電、誘導結合プラズマなどがその例として挙げられる。しかしながら、アーク放電を利用した場合には電極(タングステン、銅)が消耗し、特に酸素雰囲気下では作動が制限されるという問題があり、また誘導結合プラズマを利用した場合には、作動圧力が1気圧以下と制限されるほか、生成金属であるアルミニウムとの干渉の問題がある。本実施の形態に係るレーザプラズマ方式によれば、電極などの消耗部分がないので酸素雰囲気下での作動が可能であり、また作動圧力も高く維持できることから(約10気圧まで)、超音速の凍結流を得るにはより好適であると言える。

実施の形態2に示すアルミニウムの定常燃焼を以下の内容で実施した。 −キャリアガス供給圧力:110kPa −アルミニウム粉末の供給量:酸素量に対して当量比0.7 −供給酸素温度:750K −アルミニウム粒子径:1μm −アルミニウム燃焼室温度:燃焼室内壁をセラミックスで覆い、800K目標で維持 以上の条件でアルミニウム粉末と酸素の混合気をノズルから噴射し、トーチ火炎にて点火した結果、約1分間のアルミニウムの定常燃焼が確認できた。

実施の形態3に示すアルミナ還元を以下の仕様で実施した。 −レーザ仕様:出力1KWの連続発振型炭酸ガスレーザを使用。波長:10.6μm、ビーム径:34mm、レンズ:f95。 −スロート仕様:スロート径:1mm、ノズル出口:10mm −アルミナ粉末流量:キャリアガス(アルゴン)に対して10%質量比。 −アルミナ粉末径:3μm その結果、凍結流中にて、アルミニウム原子の存在を示す発光スペクトルのピーク(257nm、309nm、396nm)が観察され、アルミニウムの単離が確認された。

本発明に係るアルミニウムを燃料として利用する方法は、発電を中心としたエネルギを供給する産業、工業用や船舶用などの動力源を使用する産業ほか、エネルギ需要の生ずる、あるいはエネルギを消費する全ての産業分野において幅広く利用することができる。

1.アルミニウム燃焼装置、 5.アルミ燃料(アルミニウムの粉末)、 10.アルミニウム供給部、 11.ターンテーブル、 12.燃料容器、 13.燃料放出管、 14.燃料供給管、 16.キャリアガス供給管、 17.モータ、 20.連結管、 30.アルミニウム燃焼部、 31.燃料ノズル、 32.酸素供給管、 33.点火機構、 34.切換弁、 40.燃焼室、 41.低熱伝導物質、 42.熱交換部、 50.発電装置、 51.ガスタービン、 52.圧縮機、 53.第1の発電機、 56.熱交換器、 57.蒸気タービン、 58.第2の発電機、 59.復水器、 100.還元装置、 111.スロート部、 112.アルミナ導入口、 113.作動ガス導入口、 114.レーザ光、 116.ノズル、 117.銅管。

QQ群二维码
意见反馈