矯正装置

申请号 JP2015033931 申请日 2015-02-24 公开(公告)号 JP2015177969A 公开(公告)日 2015-10-08
申请人 井津上 典洋; 发明人 井津上 典洋; 近藤 俊;
摘要 【課題】十分な固定源を確保しながら、矯正対象となる歯を所定方向への移動を容易に且つ確実に実現でき、予知性の高い治療を実現できる、歯科矯正用器具を提供する。 【解決手段】歯列、歯肉部、及び歯槽骨部を把持して覆うように、患者の 口腔 内形状に沿って形成された把持部材よりなる矯正装置は、矯正対象歯の歯 冠部 から歯頚部の周辺までを覆う第一の部分20と、把持部材を構成する第二の部分10とを備えている。さらに、第一の部分20と第二の部分10とを接続するように設置され、矯正対象歯を所望の方向に移動させる 力 付与部材30とを備えている。 【選択図】図1
权利要求

患者の矯正対象となる矯正対象歯を所望の方向に移動させる矯正装置であって、 前記患者の歯列、前記歯列の頬側及び舌側の双方に存在する前記歯肉部及び歯槽骨部を把持して覆うように、前記患者の口腔内形状に沿って形成された把持部材を備えており、 前記把持部材は、 第一の部分と、 前記第一の部分から独立してなる、第二の部分とを含み、 前記第一の部分と前記第二の部分とを接続するように設置されており、前記矯正対象歯を前記所望の方向に移動させる、付与部材をさらに備えている、 ことを特徴とする矯正装置。請求項1に記載の矯正装置において、 当該矯正装置が上顎側に用いられる場合には、 前記把持部材は、 前記歯列の舌側に存在する前記歯槽骨部を覆う部分から連続しており、口蓋形状に沿って形成された口蓋部分をさらに備えている、 ことを特徴とする矯正装置。請求項1又は2に記載の矯正装置において、 前記第一の部分は、前記患者の歯列の歯冠部から歯頚部の周辺までを覆うように、前記矯正対象歯を把持しており、 前記第二の部分は、前記患者の歯列の歯冠部から歯頚部の周辺までを覆っている、 ことを特徴とする矯正装置。請求項3に記載の矯正装置において、 前記第二の部分には、スケレタルアンカーが打ち込まれている、 ことを特徴とする矯正装置。請求項1に記載の矯正装置において、 前記第一の部分は、前記患者の歯列の歯冠部から歯頚部の周辺までを覆うように、前記矯正対象歯を把持しており、 前記第二の部分は、前記患者の歯列の歯冠部から歯頚部の周辺までを覆うように、前記矯正対象歯とは異なる矯正対象歯を把持しており、 当該矯正装置が下顎に用いられる場合、前記第一の部分及び前記第二の部分は前歯周辺位置に延在しており、前記力付与部材は前記前歯周辺位置に設置されている、 ことを特徴とする矯正装置。請求項2に記載の矯正装置において、 前記第一の部分は、前記患者の歯列の歯冠部から歯頚部の周辺までを覆うように、前記矯正対象歯を把持しており、 前記第二の部分は、前記患者の歯列の歯冠部から歯頚部の周辺までを覆うように、前記矯正対象歯と異なる矯正対象歯を把持しており、 当該矯正装置が上顎に用いられる場合には、前記力付与部材は前記口蓋部分に設置されている、 ことを特徴とする矯正装置。請求項6に記載の矯正装置において、 前記把持部材を構成し、前記第一の部分及び前記第二の部分とは独立して且つ周辺に形成され、前記患者の歯列の歯冠部から歯頚部の周辺までを覆っている、第三の部分と、 前記力付与部材に接続され、前記力付与部材から延在して前記第三の部分に設置された固定部材とをさらに備えている、 ことを特徴とする矯正装置。請求項1又は2に記載の矯正装置において、 前記第一の部分は、前記患者の歯列の歯冠部から歯頚部の周辺までを覆うように、前記矯正対象歯を把持しており、 前記第二の部分には、スケレタルアンカーが打ち込まれている、 ことを特徴とする矯正装置。請求項1〜8のいずれか1項に記載の矯正装置において、 前記所望の方向は、前記歯列における遠心方向若しくは近心方向、舌側方向若しくは頬側方向、又は上下方向である、 ことを特徴とする矯正装置。請求項9に記載の矯正装置において、 前記舌側又は頬側方向に傾斜移動させたい矯正対象歯がある場合、 前記傾斜移動させたい矯正対象歯の歯冠部を覆う前記把持部材における前記頬側又は舌側の部分は除去されている、 ことを特徴とする矯正装置。請求項1〜10のうちのいずれか1項に記載の矯正装置において、 前記力付与部材は、ワイヤー、スクリュー、スプリング、歯科矯正用ゴム、又はマグネットである、 ことを特徴とする矯正装置。請求項11に記載の矯正装置において、 前記スクリュー、スプリング、歯科矯正用ゴム、又はマグネットは、前記所望の方向に一致する方向に、前記第一の部分と前記第二の部分とを跨ぐように設けられている、 ことを特徴とする矯正装置。請求項12に記載の矯正装置において、 前記第一の部分及び前記第二の部分における前記スクリュー、スプリング、歯科矯正用ゴム、又はマグネットが組み込まれている部分には、厚肉部が存在している、 ことを特徴とする矯正装置。請求項1〜13のうちのいずれか1項に記載の矯正装置において、 前記把持部材は、透明樹脂からなる、 ことを特徴とする矯正装置。請求項14に記載の矯正装置において、 前記把持部材は、二層構造からなる部分を含んでおり、 前記二層構造からなる部分は、シリコンよりなる薄膜シートである下側層と、前記透明樹脂からなる上側層とよりなる、 ことを特徴とする矯正装置。請求項14又は15に記載の矯正装置において、 前記透明樹脂はカーボンを含有している、 ことを特徴とする矯正装置。請求項1〜16のちのいずれか1項に記載の矯正装置において、 前記把持部材は、前記歯列の頬側では、前記歯列、前記歯肉部、及び前記歯槽骨部における最大豊隆部までを覆っている、 ことを特徴とする矯正装置。請求項1〜17のうちのいずれか1項に記載の矯正装置において、 前記把持部材は、前記患者の歯列の全体を把持するように形成されている、 ことを特徴とする矯正装置。請求項1に記載の矯正装置において、 前記第一の部分は、上顎に用いられ、前記患者の上顎の歯列全体をその歯冠部から歯頚部の周辺までを覆っており、 前記第二の部分は、下顎に用いられ、前記患者の下顎の歯列全体をその歯冠部から歯頚部の周辺までを覆っており、 前記力付与部材は、顎間ゴムである、 ことを特徴とする矯正装置。請求項19に記載の矯正装置において、 第一の部分及び第二の部分の双方またはいずれか一方に、スケレタルアンカーが打ち込まれている、 ことを特徴とする矯正装置。

说明书全文

本発明は、矯正装置に関し、主として歯列を矯正するために患者の口腔内に装着される歯科矯正用器具に関する。

患者の歯列を矯正するための歯科矯正用器具は従来から種々のものが考案されてきている。これまで、固定式の歯科矯正用器具として知られているものが、例えばホールディングアーチやマルチブラケットなどである。また、可撤式の歯科矯正用器具として知られているものが、例えば拡大床やアライナーなどである。一方で、歯列全体の矯正や上下顎前突の治療のために、顎外固定装置としての例えばフェイスマスクやヘッドギアなどが用いられることもある。さらに、近年では、スケレタルアンカレッジという概念が持ち込まれ、予知性の高い歯科治療の実現も種々試みられようとしている。

特開2009−279022号公報

特開2012−223587号公報

上記背景技術において、例えばホールディングアーチを利用した矯正では、一部の歯列と一部の歯肉に固定源を求めて、向かい合う歯列間に設置したワイヤーのを利用して、矯正対象となる歯列を移動させるものである。しかしながら、固定式であるために、清掃性の観点から、歯肉との接触面積を大きく取ることができず、固定源として弱い上に、ズレやすい。また、マルチブラケットは、歯列の頬側や舌側に設置したワイヤーの戻り力を利用し、歯列に一定力を付与することで、歯列の矯正を実現しようとするものである。しかしながら、矯正対象となる歯列のみに所望の力を付与するために、ワイヤーの形状や設置、戻り力の大きさの設定など、非常に高度且つ複雑な労力が必要であり、歯科医師の誰もが容易に利用できる技術ではない。その上、予測を立てて綿密にワイヤーを設定しても、矯正対象となる歯列に隣接する歯列に与えられる反作用の力の影響で、近隣の歯列に意図しない移動が生じることもある。さらに、マルチブラケットでは、歯列の頬舌方向の移動には向いているが、歯列の遠心及び近心方向への移動は容易ではない。固定式ゆえに清掃性の面でも十分ではない。

一方で、可撤式の装置として、拡大床は、分割された床部間に拡大ネジを設置し、該ネジの回転により床部を移動させることで、歯列間に設置したワイヤーとの協働により、矯正対象となる歯列を移動させるものである。しかしながら、拡大床は部分的にワイヤーで歯牙に固定するため床の口腔内での維持が少なく脱離しやすい、また十分な固定源がないために、反作用の力の影響で、矯正対象となる歯列に隣接する歯列に意図しない移動が生じやすい。また拡大床での歯牙移動はその構造から傾斜移動のみで平移動(平行移動)は容易ではない。さらには従来の拡大床は歯列の舌側のみに拡大ネジを付与できたが歯列の狭窄が著しいなど状態により舌側に拡大ネジが付与できない場合でも本発明による装置では唇側等あらゆる場所に拡大ネジの設置が可能なため従来型に比較して格段に多くのケースに適応可能である。また、アライナーは、例えば上記特許文献1のものによると、歯列及び歯肉から歯頸部までをその現状の形状に沿って覆うことで大きな固定源を確保しながら、矯正対象となる歯列に対して所望の移動方向に作用する大きな力を得ることにより、所望の移動方向に矯正対象となる歯列を移動させようとするものである。しかしながら、当該アライナーは、その他の歯列部分とは異なり、矯正対象となる歯列部分では、所望の移動方向に移動させる力を得るためにその現状の形状からズレた形状を有している。そして、このような形状を有するアライナーを口腔内に設定するためには、矯正対象となる歯列部分からその隣接する歯列部分にかけて、そのアライナーの形状を変形させることなく設置することは困難である。よって、アライナーとして使用できる樹脂は約0.2mm〜0.8mm程度の薄いものしか使用できず、アライナーに永久変形が容易に生じてしまう。このため、アライナーには、その矯正対象となる歯列に隣接する歯列部分にフィットすることなく隙間が形成されてしまう。その結果、矯正対象となる歯列に隣接する歯列部分では、当該アライナーによる固定源の機能が十分に働かず、矯正対象となる歯列に対して付与される力の反作用の力の影響を大きく受けるため、その隣接する歯列において意図してしない移動が生じやすい。また、当該アライナーは、歯列の移動距離を適時調整しながら矯正していくために、その形状を適時ステップアップしたアライナーを複数回取り替える必要がある。このため、治療期間も費用も増大してしまう。

上記に鑑み、本発明の目的は、十分な固定源を確保しながら、矯正対象となる歯を頬舌方向への移動のみならず遠心及び近心方向への移動を容易に且つ確実に実現でき、予知性の高い治療をさまざまなケースで実現できる、歯科矯正用器具を提供することである。そして、十分な固定源を確保することで、矯正対象となる歯を水平移動および傾斜させることができる歯科矯正用器具を提供することである。また、スケレタルアンカーとの併用を容易とし、利便性が高く、審美的にも優れた歯科矯正用器具を提供することである。

上記の目的を達成するために、本発明に係る矯正装置は、一例示的態様として、以下の構成を備えるものである。

すなわち、本発明に係る矯正装置の基本態様は、患者の矯正対象となる矯正対象歯を所望の方向に移動させる矯正装置であって、患者の歯列、歯列の頬側及び舌側の双方に存在する歯肉部及び歯槽骨部を把持して覆うように、患者の口腔内形状に沿って形成された把持部材を備えており、把持部材は、第一の部分と、第一の部分から独立してなる、第二の部分とを含み、第一の部分と第二の部分とを接続するように設置されており、矯正対象歯を所望の方向に移動させる、力付与部材をさらに備えている。

当該矯正装置の基本態様によると、把持部材を構成する互いに独立してなる第一及び第二の部分の少なくとも一方を強力な固定源としながら、把持部材に把持される矯正対象歯を力付与部材によって所望の方向に確実に移動させることが可能になる。第一及び第二の部分の少なくとも一方が強力な固定源となるので、矯正対象歯に付与する力の反作用によって固定源に把持された歯が移動することが防止される。また、把持部材が把持する歯の歯冠部から歯頸部の周辺までを覆うように形成されているため、力付与部材によって与えられる力は、矯正対象歯の歯冠部分のみに掛かるのではなく、歯頸部までの全体に掛かるので、矯正対象歯は所望の方向に傾斜移動ではなく水平移動し易くなる。また歯冠部から歯頚部の周辺まで覆うため把持力が大きくズレにくくかつ脱離しにくいため矯正効率が良い。このように、当矯正装置は、十分な固定源を確保しながら、矯正対象歯を所望の方向(頬舌方向への移動のみならず遠心及び近心方向)への移動を容易に且つ確実に実現でき、予知性の高い治療を実現できる。

当該矯正装置の基本態様において、当該矯正装置が上顎側に用いられる場合には、把持部材は、歯列の舌側に存在する前記歯槽骨部を覆う部分から連続しており、口蓋形状に沿って形成された口蓋部分をさらに備えていてもよい。

このようにすると、上顎側では、第二の部分は、口蓋部分を介してより強固な固定源となる。

当該矯正装置の第1態様において、第一の部分は、患者の歯列の歯冠部から歯頚部の周辺までを覆うように、矯正対象歯を把持しており、第二の部分は、患者の歯列の歯冠部から歯頚部の周辺までを覆っている。

当該矯正装置の第1態様によると、把持部材の第一の部分により、矯正対象歯の少なくとも歯冠部から歯頚部の周辺までを覆って矯正対象歯を把持すると共に、把持部材の第一の部分とは独立した第二の部分により、矯正対象歯以外の非矯正対象歯の少なくとも歯冠部から歯頚部の周辺までを覆って非矯正対象歯を把持している。このようにすると、第二の部分が強力な固定源となるため、第一の部分と第二の部分とを接続するように設置された力付与部材を用いて、第一の部分により把持された矯正対象歯を所望の方向に移動させることができる。また、この際、第二の部分が強力な固定源となっているため、第二の部分に把持された非矯正対象歯は、第一の部分により把持された矯正対象歯に付与される力の反作用の力によって移動することが防止される。また、第二の部分が強力な固定源となっているため、力付与部材を用いて矯正対象歯を所望の方向、すなわち、頬舌方向のみならず、従来容易ではなかった遠心方向及び近心方向、さらには、上下方向への移動も可能になる。さらに、第一の部分は、矯正対象歯の少なくとも歯冠部から歯頸部の周辺までを覆っているため、力付与部材によって与えられる力は、矯正対象歯の歯冠部分のみに掛かるのではなく、歯頸部までの全体に掛かるので、矯正対象歯は傾斜移動ではなく水平移動し易くなる。また、固定源を確保しながら、把持部材そのものの性質を利用して矯正対象歯を移動させるのではなく、固定源を確保しながら、第一の部分及び第二の部分よりなる把持部材とは独立した力付与部材を用いて、矯正対象歯を移動させるため、矯正対象歯を所望の方向に確実に移動させていくことが可能になる。このように、当該矯正装置によると、十分な固定源を確保しながら、矯正対象歯を頬舌方向への移動のみならず遠心及び近心方向への移動を容易に且つ確実に実現でき、予知性の高い治療を実現できる。また当該矯正装置は歯牙全体および歯肉を広範囲に覆っているためそのあらゆる場所に力付与部材を設置することが可能で適応症例が多いことも特徴である。なお、本矯正装置のステップアップによる取り替えを行う場合であっても、すでに移動が完了した歯を新たな固定源として既存の固定源とつなげて、より強固な固定源となる新たな第二の部分を設定できる。そのようにすると、新たな第二の部分は、移動が完了した歯の後戻りをなくし、保定の役割も果たすことができる。

当該矯正装置の第1態様において、第二の部分には、スケレタルアンカーが打ち込まれていてもよい。

このように、第二の部分に絶対的固定源となる例えばミニスクリューやインプラントなどのスケレタルアンカーが打ち込まれていることにより、第二の部分が強力な絶対的固定源となる。特に、患者の歯槽骨を含めて歯列全体を頭蓋骨及び顎骨に対し前後左右、例えば頬舌方向や遠心・近心方向に移動させる場合に、極めて有効である。また、リスクの高い骨切り術などの外科矯正の対象になっていた症例を最大限少なくできる。また、現在、試行されつつあるマルチブラケットによるスケレタルアンカーを併用した歯列全体の後方移動では、力が斜めに働くため、三次元的乱れを起す可能性があり、また、前方側方移動は現状では不可能であるが、当該矯正装置はそのような三次元的乱れを起すことはなく、前方側方移動も可能である。

当該矯正装置の第2態様において、第一の部分は、患者の歯列の歯冠部から歯頚部の周辺までを覆うように、矯正対象歯を把持しており、第二の部分は、患者の歯列の歯冠部から歯頚部の周辺までを覆うように、矯正対象歯とは異なる矯正対象歯を把持しており、当該矯正装置が下顎に用いられる場合、第一の部分及び第二の部分は前歯周辺位置に延在しており、力付与部材は前歯周辺位置に設置されていてもよい。

当該矯正装置の第2態様によると、把持部材の第一の部分及び第二の部分共に、矯正対象歯の少なくとも歯冠部から歯頚部の周辺までを覆って矯正対象歯を把持している。このようにすると、第一の部分及び第二の部分を強力な固定源としながら、第一の部分と第二の部分とを接続するように設置された力付与部材を用いて、第一の部分及び第二の部分により把持された矯正対象歯を所望の方向に移動させることができる。また、本第2態様においても、第1態様と同様に、第一の部分及び第二の部分がともに強力な固定源となっているため、把持された矯正対象歯に付与される力の反作用の力によって移動することが防止される。さらに、第1態様と同様に、頬舌方向のみならず、従来容易ではなかった遠心方向及び近心方向、さらには、上下方向への移動も可能になり、また、矯正対象歯は傾斜移動ではなく水平移動し易くなり、力付与部材を用いて矯正対象歯を所望の方向に確実に移動させていくことが可能になる。特に、本態様は、第一の部分及び第二の部分のそれぞれに把持される矯正対象歯が互いに対称となる位置関係にある場合により適している。

当該矯正装置の第3態様において、第一の部分は、患者の歯列の歯冠部から歯頚部の周辺までを覆うように、矯正対象歯を把持しており、第二の部分は、前記患者の歯列の歯冠部から歯頚部の周辺までを覆うように、矯正対象歯と異なる矯正対象歯を把持しており、当該矯正装置が上顎に用いられる場合には、前記力付与部材は前記口蓋部分に設置されていてもよい。

当該矯正装置の第3態様によると、下顎に用いられる上記第2態様と同様の効果を得ることができ、同様に本態様も、第一の部分及び第二の部分のそれぞれに把持される矯正対象歯が互いに対称となる位置関係にある場合により適している。

当該矯正装置の第3態様において、把持部材を構成し、第一の部分及び第二の部分とは独立して且つ周辺に形成され、患者の歯列の歯冠部から歯頚部の周辺までを覆っている、第三の部分と、力付与部材に接続され、該力付与部材から延在して第三の部分に設置された固定部材とをさらに備えていてもよい。

このようにすると、第三の部分がより強力な固定源となるため、それを用いて、第一の部分及び第二の部分に把持される矯正対象歯をより確実に所望の方向に移動させることができる。

当該矯正装置の第4態様において、第一の部分は、患者の歯列の歯冠部から歯頚部の周辺までを覆うように、前記矯正対象歯を把持しており、第二の部分には、スケレタルアンカーが打ち込まれていてもよい。

このように、第二の部分に絶対的固定源となる例えばミニスクリューやインプラントなどのスケレタルアンカーが打ち込まれていることにより、第二の部分が強力な絶対的固定源となる。特に、患者の歯槽骨を含めて歯列全体を頭蓋骨及び顎骨に対し前後左右、例えば頬舌方向や遠心・近心方向に移動させる場合に、極めて有効である。また、リスクの高い骨切り術などの外科矯正の対象になっていた症例を最大限少なくできる。また、現在、試行されつつあるマルチブラケットによるスケレタルアンカーを併用した歯列全体の後方移動では、力が斜めに働くため、三次元的乱れを起す可能性があり、また、前方側方移動は現状では不可能であるが、当該矯正装置はそのような三次元的乱れを起すことはなく、前方側方移動も可能である。

本発明に係る矯正装置において、所望の方向は、前記歯列における遠心方向若しくは近心方向、舌側方向若しくは頬側方向、又は上下方向である。

また、本発明に係る矯正装置において、舌側又は頬側方向に傾斜移動させたい矯正対象歯がある場合、傾斜移動させたい矯正対象歯の歯冠部を覆う把持部材における頬側又は舌側の部分は除去されていることが好ましい。

このように、傾斜移動させたい矯正対象歯の歯冠部を覆う把持部材における上記頬側又は舌側の部分を除去しておくことで、力付与部材によって与えられる力が歯冠部分から歯頸部分の全体で受けることがなくなり、歯冠における把持部材が除去されている部分の側に倒れるように傾斜する方向に力が掛かる。このため、矯正対象歯を傾斜移動させることもできる。

本発明に係る矯正装置において、力付与部材として、ワイヤー、スクリュー、スプリング、歯科矯正用ゴム、又はマグネット等戻り力または反発力を有する部材を用いてもよい。

本発明に係る矯正装置において、スクリュー、スプリング、歯科矯正用ゴム、又はマグネットは、移動方向に一致する方向に、第一の部分と第二の部分とを跨ぐように設けられていてもよい。

この場合、第一の部分及び第二の部分におけるスクリュー、スプリング、歯科矯正用ゴム、又はマグネットが組み込まれている部分には、厚肉部が存在している。

本発明に係る矯正装置において、把持部材が透明樹脂からなる場合には、審美的に有利である。

本発明に係る矯正装置において、上記把持部材は、二層構造からなる部分を含んでおり、上記二層構造からなる部分は、シリコンよりなる薄膜シートである下側層と、上記透明樹脂からなる上側層とよりなることが好ましい。

このようにすると、例えば固定式のマルチブラケットとの併用が可能になる。すなわち、ボタンを介してワイヤーが歯列全体に装着されている場合、下側層のシリコン薄膜シートでマルチブラケットを覆った状態で、当該矯正装置による上述したような矯正対象歯の移動を可能にする。このように、当該矯正装置は、マルチブラケットのレスキューシステムとしても使用が可能である。すなわち、マルチブラケットによる利点と当該矯正装置による利点を組み合わせた相乗効果を得るような矯正治療も可能になる。また、当該構造は、マルチブラケットを使用している場合と同様に、患者の口腔内に叢生がある場合にも有効である。

本発明に係る矯正装置において、上記透明樹脂はカーボンを含有していてもよい。

このようにすると、把持部材による把持力を強化することが可能となり、より強固な固定源が確保され、より確実に所望の方向に矯正対象歯を移動させることができる。また、透明樹脂からなる本把持部材をアライナー的に利用する際に、カーボンを部分的に使用して、同じ厚さの樹脂であっても撓ませたくない部分、撓ませたい部分を設けることにより、患者の歯列の状態に応じてより幅広い歯列の移動に対応することもできる。

本発明に係る矯正装置において、上記把持部材は、上記歯列の頬側では、歯列、歯肉部、及び歯槽骨部における最大豊隆部までを覆っている場合であってもよい。

また、本発明に係る矯正装置において、把持部材は、患者の歯列の全体を把持するように形成されていてもよい。

このようにすると、力付与部材を用いて把持部材に把持される患者の全ての歯を所望の方向に移動させることができる。すなわち、患者の歯槽骨部を含めて歯列全体を頭蓋骨及び顎骨に対し前後左右、例えば頬舌方向や遠心・近心方向などの所望の方向に移動させることができる。したがって、上下顎の前突や上下顎の過成長、劣成長の治療を実現でき、従来のフェイスマスクやヘッドギアといった使用時にかかる肉体的・審美的ストレスを大幅に軽減することができる。特に、フェイシャルマスクやヘッドギアといった従来の歯列全体を移動させる方法では、前後方向には歯列全体を移動させることができても、態癖などで左右にズレた歯列を左右に移動することはできないが、本矯正装置はそのような従来困難であった左右方向への移動を実現することができる。そしてさらに重症の上下顎の過成長・劣成長の場合は前述のフェイシャルマスク、ヘッドギアなど顎外固定や顎内固定と組み合わせて把持部材をけん引または押し込むことも可能でより強力に歯列全体を移動させる力を加えることができる。

本発明に係る矯正装置において、第一の部分は、上顎に用いられ、患者の上顎の歯列全体をその歯冠部から歯頚部の周辺までを覆っており、第二の部分は、下顎に用いられ、患者の下顎の歯列全体をその歯冠部から歯頚部の周辺までを覆っており、力付与部材は、顎間ゴムであってもよい。

当該矯正装置の第5態様によると、患者に、上顎の過成長又は劣成長、下顎の過成長又は劣成長があり、上顎の歯列と下顎の歯列とがずれている場合に、上顎及び下顎の歯列全体をその歯冠部から歯頚部の周辺までを覆う第一の部分及び第二の部分に設置した力付与部材としての例えば顎間ゴムを用いることで、そのずれを矯正することができる。特に、上顎が過成長で下顎が劣成長の場合や、上顎が劣成長で下顎が過成長の場合に、スケレタルアンカーを用いなくともそのズレを効果的に矯正することができる。

さらに、第一の部分及び第二の部分の双方またはいずれか一方に、スケレタルアンカーが打ち込まれていてもよい。

例えば上顎にスケレタルアンカーを打ち、下顎にスケレタルアンカー無しの場合は上顎が固定源となり顎間ゴムの装着方向により主に下顎歯列を意図する方向に移動させることができる。また逆に上顎にスケレタルアンカー無し、下顎にスケレタルアンカーありの場合は下顎が固定源となり上顎歯列を移動させることができる。さらに、上下顎双方にスケレタルアンカーを使用した場合は顎間ゴムが相反する力付与部材となりスケレタルアンカーで固定された歯列全体を含む顎骨・顔面骨ごとの成長促進・成長抑制が可能であり、顎間ゴムの装着方向により上顎骨およびその周辺の顔面骨の成長促進・成長抑制または下顎骨およびその周辺の顔面骨の成長促進・成長抑制を行うことができる。

本発明の矯正装置によると、十分な固定源を確保しながら、矯正対象歯を頬舌方向への移動のみならず遠心及び近心方向への移動を容易に且つ確実に実現でき、予知性の高い治療を実現できる。

図1(a)及び(b)は本発明の一実施形態に係る矯正装置の構造例を示す図であり、(a)は下顎側に用いる矯正装置を示しており、(b)は上顎側に用いる矯正装置を示している。

図2(a)〜(d)は、本発明の一実施形態に係る矯正装置を歯列に適用した場合における種々の構造例の断面図を示している。

図3は、本発明の一実施形態に係る矯正装置における力付与部材の一例を示す図である。

図4(a)及び(b)は本発明の一実施形態に係る矯正装置の製造方法を示す工程図である。

図5(a)及び(b)は本発明の一実施形態に係る矯正装置の製造方法を示す工程図である。

図6(a)及び(b)は本発明の一実施形態に係る矯正装置の構造の変形例を示す図であり、スケレタルアンカーを用いた構造例であり、(a)は下顎側に用いる矯正装置を示しており、(b)は上顎側に用いる矯正装置を示している。

図7は本発明の一実施形態に係る矯正装置の構造の変形例を示す図であって、歯列全体を移動させる構造例であり、上顎側に用いる矯正装置を示している。

図8(a)及び(b)は本発明の一実施形態に係る矯正装置の構造の変形例を示す図であって、スケレタルアンカーを併用して歯列全体を移動させる構造例であり、(a)は下顎側に用いる矯正装置を示しており、(b)は上顎側に用いる矯正装置を示している。

図9(a)及び(b)は本発明の一実施形態に係る矯正装置の構造の変形例を示す図であって、スクリューの代わりにワイヤーを用いた構造例であり、(a)は下顎側に用いる矯正装置を示しており、(b)は上顎側に用いる矯正装置を示している。

図10(a)及び(b)は本発明の一実施形態に係る矯正装置の構造の変形例を示す図であって、歯列の外側を覆う領域が大きい場合の構造例であり、(a)は下顎側に用いる矯正装置を示しており、(b)は上顎側に用いる矯正装置を示している。

図11(a)〜(c)は本発明の一実施形態に係る矯正装置の構造の変形例を示す図であって、第一の部分と第二の部分の把持部材を均等の大きさにすることで互いに向かい合う歯列を力付与部材からの相反する力が作用することで一緒に頬側又は舌側に移動させる構造例であり、(a)は下顎側に用いる矯正装置を示しており、(b)は上顎側に用いる矯正装置を示しており、(c)は力付与部材から引き出した固定部材を周辺の把持部材に設置した矯正装置を示している。

図12(a)及び(b)は本発明の一実施形態に係る矯正装置の実施例を示す図であって、(a)は上顎側に用いる矯正装置で奥から二本の歯列を移動させる例であり、(b)は上顎側に用いる矯正装置で分割部位を中央にすることで第一の部分と第二の部分の把持部材を均等の大きさにすることで互いに向かい合う歯列に対して力付与部材から相反する力が作用し左右の歯列を一緒に同量移動させる例である。この場合、従来の拡大床では傾斜移動となるが本発明では水平移動(平行移動)が可能であると同時に従来可撤式装置では困難であった左右歯列の縮小が可能かつ水平移動も可能である

図13(a)〜(c)は本発明の一実施形態に係る矯正装置の構造の変形例を示す図であって、上顎側及び下顎側の双方に把持部材を設置した構造例であり、(a)はスケレタルアンカーを用いずに下顎劣成長又は上顎過成長を矯正する例を示しており、(b)は上顎側の把持部材にスケレタルアンカーを埋め込み、下顎過成長を矯正する例を示しており、(c)は上顎側及び舌顎下顎側の把持部材にスケレタルアンカーを埋め込み、下顎過成長又は上顎劣成長を矯正する例を示している。

図14(a)は本発明の一実施形態に係る矯正装置における矯正対象歯を傾斜移動させる場合の構造例を示す断面図であり、(b)は本発明の一実施形態に係る矯正装置における把持部材が下側層と上側層の二層構造からなる場合の構造例を示す断面図である。

図15は本発明の一実施形態に係る矯正装置における第一の部分と第二の部分とを接続するように設けられた力付与部材の変形例の構造例を示す断面図である。

図16は本発明の一実施形態に係る矯正装置における第一の部分と第二の部分とを接続するように設けられた力付与部材の変形例の構造例を示す断面図である。

図17は本発明の一実施形態に係る矯正装置における第一の部分と第二の部分とを接続するように設けられた力付与部材の変形例の構造例を示す断面図である。

図18(a)〜(d)は本発明の一実施形態に係る矯正装置を用いた症例1を示す図である。

図19(a)〜(d)は本発明の一実施形態に係る矯正装置を用いた症例2を示す図である。

図20(a)〜(d)は本発明の一実施形態に係る矯正装置を用いた症例3を示す図である。

以下に、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。

図1(a)及び(b)は、本発明の一実施形態に係る矯正装置の構造例を示す図であり、(a)は下顎側に用いる矯正装置を示しており、(b)は上顎側に用いる矯正装置を示している。

図1(a)に示すように、本実施形態に係る矯正装置100は、上顎側及び下顎側のいずれにも用いられるものであって、例えば樹脂材料からなり、歯列、歯肉部、及び歯槽骨部を把持して覆うように、患者の口腔内形状に沿って形成され、第一の部分20及び第二の部分10で構成された把持部材よりなる。具体的には、把持部材は、歯列、歯列の頬側及び舌側の双方に存在する歯肉部及び歯槽骨部を覆っている。当該把持部材を構成する第一の部分20は、矯正対象となる矯正対象歯を把持するように、上記矯正対象歯の少なくとも歯冠部から歯頚部の周辺までを覆っている。当該把持部材を構成する第二の部分10は、把持部材のうち、第一の部分20を除いた残りの部分よりなり、第一の部分20とは区切られて独立して形成されている。また、第一の部分20と第二の部分10とを接続するように設置されており、矯正対象歯を所望の方向に移動させる、力付与部材30が設けられている。ここで、力付与部材30として、例えばワイヤー、スクリュー、スプリング、ゴム、又はマグネットを用いることができる。図1(a)では、一番奥の歯とその隣の歯との間に隙間が生じており、第一の部分20で覆われた歯列を奥歯の方向に移動させる例であって、力付与部材30として、例えば拡大又は縮小するスクリューを用いた場合を例に示しており、該スクリューが、第一の部分20と第二の部分10とを跨ぐようにして、第一の部分20と第二の部分30に設置されている。なお、この例では、スクリューを拡大させることで、第一の部分20で覆われた歯列を奥歯の方向に移動させることができる。また、第一の部分20と第二の部分10における力付与部材30が設けられている部分は、力付与部材30を設けている分だけ、その厚みが大きい厚肉部22を有している(また、例えば図2なども参照)。

また、図1(b)に示すように、本実施形態に係る矯正装置100は、上顎側に用いられる場合には、第二の部分10は、歯列の舌側に存在する歯槽骨部を覆う部分から連続しており、口蓋形状に沿って形成された口蓋部分15をさらに備えていることが好ましい。なお、第一の部分20で覆われた歯列を移動させる例は、上記図1(a)を用いて説明した例と同様である。

次に、図2(a)〜(d)は、本発明の一実施形態に係る矯正装置100における種々の構造例であって、図1(b)に示す第一の部分20を歯列の頬側から舌側方向へ切断した断面であって、且つ、第一の部分20と第二の部分10とを接続するように設けられた力付与部材30を含む部分の断面を示している。

図2(a)に示すように、第一の部分20は、矯正対象歯50の歯列、該歯列の頬側(紙面に向かって左側)及び舌側(紙面に向かって右側)の双方に存在する少なくとも歯冠部aから歯頸部bの周辺部分まで、これらの形状に沿うように覆っている。また、第二の部分10は、図示されていない非矯正対象歯の歯列、該歯列の頬側(紙面に向かって左側)及び舌側(紙面に向かって右側)の双方に存在する少なくとも歯冠部aから歯頸部bまでを覆っていると共に、図2(a)の矯正対象歯50の部分では、矯正対象歯50の歯列の舌側の少なくとも歯頸部bの周辺から歯槽骨部dを覆っている。なお、同図は上顎側に用いる矯正装置であるため、第二の部分10は口蓋部分も連続して覆っている。なお、第一の部分20は、矯正対象歯50の頬側(紙面に向かって左側)における歯肉部cから歯槽骨部dの相当な領域までを覆う構成であってもよい(例えば図10参照)。そして、第一の部分20と第二の部分10とを接続するように、図2(a)では、歯列が並ぶ方向(つまり、遠心方向又は近心方向)に沿って、力付与部材30が設けられている。これにより、例えば、力付与部材30として、上述したスクリューを拡大又は縮小させることにより、第一の部分20に把持された矯正対象歯50は遠心方向又は近心方向(紙面に対して垂直に向かう方向又は離れる方向)に移動する。

また、図2(b)では、力付与部材30が図2(a)に示す位置とは異なる位置に設けられている場合が示されており、力付与部材30は、矯正対象歯50の舌側部分において、歯列の舌側−頬側方向に設けられている。これにより、例えば、力付与部材30として、上述したスクリューを拡大又は縮小させることにより、第一の部分20に把持された矯正対象歯50は頬側方向又は舌側方向に移動する。

また、図2(c)では、力付与部材30が図2(a)及び(b)に示す位置とは異なる位置に設けられている場合が示されており、力付与部材30は、矯正対象歯50の舌側部分において、歯列の下側−上側方向(下顎から上顎に向かう方向)に設けられている。これにより、例えば、力付与部材30として、上述したスクリューを拡大又は縮小させることにより、第一の部分20に把持された矯正対象歯50は上側方向又は下側方向に移動する。このように、例えばスクリュー、スプリング、歯科矯正用ゴム、又はマグネットを用いる場合には、各移動方向に一致する方向に、第一の部分20と第二の部分10とを跨ぐように設置することにより、矯正対象歯50をその設置方向に移動させることができる。

さらに、図2(c)に示す態様において、図2(d)に示すように、歯冠部aの頬側及び舌側部分に、例えばスクエア形状のボタンなどの突起部材60を設けておくことにより、矯正対象歯50を上側方向に移動させる際に、矯正対象歯50を覆っている第一の部分20が確実に外れないようにすることができる。

ここで、力付与部材30は、上述の通り、例えば、スクリュー、スプリング、歯科矯正用ゴム、又はマグネットを用いることができるが、スクリューの一例として、例えば、図3に示すネジ30Sを用いることができる。図3に示すように、第一の部分20と第二の部分10とを接続するように設置されており、中央に設けられた穴部35aにピン35bを挿入して矢印の方向又はその逆方向に回転させることにより、第一の部分20と第二の部分10とを離す方向又は引き合わせる方向に移動させて、例えば第一の部分20に把持された矯正対象歯(なお、後述するように第二の部分10にも矯正対象歯が把持される場合がある)を所望の方向に移動できる。なお、図3に示したネジは一般に拡大床などに用いるネジと同様の一般的なものである。

次に、図4(a)及び(b)並びに図5(a)及び(b)は、本実施形態に係る矯正装置の製造方法の工程例を順に示している。

まず、図4(a)に示すように、患者の口腔内の形状を再現した模型200を公知の方法で準備する。ここでは、図示するように、一番奥の歯とその隣の歯との間に隙間が生じている場合を例に示している。次に、図4(b)に示すように、例えば樹脂材料を用いて、模型の形状に沿った形状を有する把持部材100Aを形成する。すなわち、把持部材100Aは、歯列、歯肉部、及び歯槽骨部を把持して覆うように、患者の口腔内形状に沿って形成される。具体的には、把持部材100Aは、歯列、歯列の頬側及び舌側の双方に存在する歯肉部及び歯槽骨部を覆っている(なお、上述の通り、把持部材100Aは、少なくとも歯冠部から歯頚部の周辺までを覆っていればよい)。

次に、図5(a)に示すように、把持部材100Aをカットして、互いに独立して区別された第一の部分20と第二の部分10とに分割する。具体的には、矯正対象歯50の少なくとも歯冠部から歯頸部までを把持して覆う第一の部分20と、非矯正対象歯の少なくとも歯冠部から歯頸部の周辺までを把持して覆う第二の部分10とに分割する。

そして、図5(b)に示すように、第一の部分20及び第二の部分10に、第一の部分20と第二の部分10とを接続するように、矯正対象歯50を所望の方向に移動させる力付与部材30を設ける。なお、力付与部材30を設けることにより、第一の部分20と第二の部分10における力付与部材30が設置されている部分は、他の部分よりも厚みが大きな厚肉部22を有している。このようにして、本実施形態に係る矯正装置100が形成される。

また、以上の実施形態において、第一の部分20及び第二の部分10で構成された把持部材は、例えば樹脂材料から構成され、その厚みが0.2mm〜0.8mmの樹脂材料で構成することができる。このような厚みである場合には、既存のアライナーと同様に、患者に対する違和感が少ない。また、既存のアライナーの場合には、上述の課題で説明した通り、永久変形が生じたり、それにより固定源として不十分であったりするが、本実施形態に係る把持部材は、第一の部分20と第二の部分10とに分割されているため、既存のアライナーのような永久変形を生じさせることなく、固定源として十分な機能を果たすことができる。一方で、第一の部分20及び第二の部分10で構成された把持部材は、例えば樹脂材料から構成され、その厚みが2mm以上の樹脂材料で構成することができる。このようにすることで、同様に永久変形もなく、固定源としてより強固な働きを実現することができるし、アライナー的な使用も可能となる。

以上の構成を備えた本実施形態に係る矯正装置100は、以下の効果を奏する。すなわち、把持部材を構成する第一の部分20により、矯正対象歯50の少なくとも歯冠部から歯頚部の周辺までを覆って矯正対象歯50を把持すると共に、把持部材を構成する第一の部分20とは独立した第二の部分10により、矯正対象歯50以外の非矯正対象歯の少なくとも歯冠部から歯頚部の周辺までを覆って非矯正対象歯を把持している。このようにすると、第二の部分10が強力な固定源となるため、第一の部分20と第二の部分10とを接続するように設置された力付与部材30を用いて、第一の部分20により把持された矯正対象歯50を所望の方向に移動させることができる。また、この際、第二の部分10が強力な固定源となっているため、第二の部分10に把持された非矯正対象歯は、第一の部分20により把持された矯正対象歯50に付与される力の反作用の力によって移動することが防止される。また、第二の部分10が強力な固定源となっているため、力付与部材30を適切な位置に設置することで、矯正対象歯50を所望の方向、すなわち、頬舌方向のみならず、従来容易ではなかった遠心方向及び近心方向、さらには、上下方向への移動も可能になる。さらに、第一の部分20は、矯正対象歯50の少なくとも歯冠部から歯頸部の周辺までを覆っているため、力付与部材30によって与えられる力は、矯正対象歯50の歯冠部分のみに掛かるのではなく、歯頸部までの全体に掛かるので、矯正対象歯50は傾斜移動ではなく水平移動し易くなる。また、固定源を確保しながら、把持部材そのものの性質を利用して矯正対象歯50を移動させるのではなく、固定源を確保しながら、第一の部分20及び第二の部分10よりなる把持部材とは独立した力付与部材30を用いて、矯正対象歯50を移動させるため、矯正対象歯50を所望の方向に確実に移動させていくことが可能になる。このように、本実施形態に係る矯正装置100によると、十分な固定源を確保しながら、矯正対象歯50を頬舌方向への移動のみならず遠心及び近心方向への移動を容易に且つ確実に実現でき、予知性の高い治療を実現できる。また、本実施形態に係る矯正装置100は、上顎側に用いられる場合には、第二の部分10は、歯列の舌側に存在する歯槽骨部を覆う部分から連続しており、口蓋形状に沿って形成された口蓋部分15を備えることで、より強固な固定源を確保することができる。なお、本矯正装置100のステップアップによる取り替えを行う場合であっても、すでに移動が完了した歯を新たな固定源として既存の固定源とつなげて、より強固な固定源となる新たな第二の部分10を設定できる。そのようにすると、新たな第二の部分10は、移動が完了した歯の後戻りをなくし、保定の役割も果たすことができる。

次に、本実施形態に係る矯正装置100の各種変形例について説明する。

図6(a)及び(b)は、本発明の一実施形態に係る矯正装置100の構造の変形例を示している。具体的には、上記図1(a)及び(b)に示した矯正装置100の構造に、スケレタルアンカー70をさらに用いた構造例を示しており、(a)は下顎側に用いる矯正装置100であって、(b)は上顎側に用いる矯正装置100である。

図5(a)及び(b)に示すように、第二の部分10には、該第二の部分10を貫通して奥歯の周辺に、例えばミニスクリュー又はインプラントよりなるスケレタルアンカー70が打ち込まれた態様にて、本実施形態に係る矯正装置100を用いることができる。

このように、第二の部分10に絶対的固定源となるミニスクリューやインプラントが打ち込まれていることにより、第二の部分10が強力な絶対的固定源となる。したがって、第1の部分20に把持された矯正対象歯50をより確実に所望の方向に移動させることができる。また、リスクの高い骨切り術などの外科矯正の対象になっていた症例を最大限少なくできる。また、スケレタルアンカー70の形状は、種々の形状が考えられるが、より確実な固定源として機能させるためには、図示するように、かかる力による回転が生じにくい四形状をしたものであることが好ましい。

また、図7は、本発明の一実施形態に係る矯正装置100の構造の変形例を示している。具体的には、歯列全体を移動させるための本実施形態に係る矯正装置100の構造例であり、上顎側に用いる矯正装置100である。

図7に示すように、第一の部分20は、矯正対象歯50となる歯列全体を覆うように形成されている一方で、第二の部分10は、歯列自体を覆っていない。この場合、力付与部材30により歯列全体を移動させるために、例えば、第一の部分20は、歯列全体を覆うように形成されており、第二の部分10は、把持部材における第一の部分20を除いた残りの部分、具体的には、把持部材における奥歯周辺部分(把持部材における舌側部分の奥歯周辺部分)の歯頚部周辺から歯肉部、そして歯槽骨部周辺の部分を覆うように形成されている。そして、力付与部材30は、第一の部分20における奥歯周辺部分の歯頚部周辺から歯肉部、そして歯槽骨部周辺の部分に対応する部分と、それに隣り合う第二の部分10における奥歯周辺部分の歯頚部周辺から歯肉部、そして歯槽骨部周辺の部分とを跨ぐように設けられている。このようにすると、第一の部分20に把持された歯列全体を近遠心方向に移動させることができる。なお、力付与部材30を適切な位置に設置することにより、歯列全体を近遠心方向のみならず左右方向にも移動させることができる。以上のように、本実施形態にかかる矯正装置100は、第二の部分10を固定源として、力付与部材30を用いて第一の部分20に把持される患者の全ての歯を所望の方向に移動させることができる。すなわち、患者の歯槽骨を含めて歯列全体を頭蓋骨及び顎骨に対し前後左右、例えば頬舌方向や遠心・近心方向などの所望の方向に移動させることができる。したがって、上下顎の前突や上下顎の過成長、劣成長の治療を実現でき、従来のフェイシャルマスクやヘッドギアといった使用時にかかる肉体的・審美的ストレスを大幅に軽減することができる。特に、フェイシャルマスクやヘッドギアといった従来の歯列全体を移動させる方法では、近遠心方向には歯列全体を移動させることができても、態癖などで左右にズレた歯列を左右に移動することはできないが、本実施形態にかかる矯正装置100はそのような従来困難であった左右方向への移動を実現することができる。

また、図8(a)及び(b)は、本発明の一実施形態に係る矯正装置100の構造の変形例を示している。具体的には、上記図7に示した矯正装置100の構造に、スケレタルアンカー70をさらに用いた構造例を示しており、(a)は下顎側に用いる矯正装置100であって、(b)は上顎側に用いる矯正装置100である。

図8(a)及び(b)に示すように、第二の部分10には、該第二の部分10を貫通する、例えばミニスクリュー又はインプラントよりなるスケレタルアンカー70が打ち込まれた態様にて、本実施形態に係る矯正装置100を用いることができる。また、スケレタルアンカー70は、例えば、第二の部分10、例えば図8(a)の場合は把持部材における頬側部分の奥歯周辺部分、例えば図8(b)の場合は把持部材における舌側部分の奥歯周辺部分、に打ち込まれることが好ましい。なお、図8(a)の例では、図上、奥歯の一方の側に第二の部分10、力付与部材30、及びスケレタルアンカー70が形成されている構造が示されているが、奥歯の他方の側にも図示していないが同様の構造が形成されている。

このように、第二の部分10(口蓋部分15を含む)に絶対的固定源となるミニスクリューやインプラントが打ち込まれていることにより、第二の部分10が強力な絶対的固定源となる。したがって、第1の部分20に把持された歯列全体を頭蓋骨及び顎骨に対し左右方向及び遠心及び近心方向に確実に移動させることができる。また、リスクの高い骨切り術などの外科矯正の対象になっていた症例を最大限少なくできる。また、現在、試行されつつあるマルチブラケットによるスケレタルアンカーを併用した歯列全体の後方移動では、力が斜めに働くため、三次元的乱れを起す可能性があり、また、前方側方移動は現状では不可能であるが、本実施形態にかかる矯正装置100はそのような三次元的乱れを起すことはなく、前方側方移動も可能である。

また、図9(a)及び(b)は、本発明の一実施形態に係る矯正装置100の構造の変形例を示している。具体的には、例えば図1(a)及び(b)に示した矯正装置100における力付与部材30としてのスクリューの代わりに、力付与部材として機能するワイヤー90を用いた構造例を示しており、(a)は下顎側に用いる矯正装置100であって、(b)は上顎側に用いる矯正装置100である。

図9(a)及び(b)に示すように、第一の部分20及び第二の部分10を覆うように、ワイヤー90が設けられている。ワイヤー90は、例えば接着剤80によって第一の部分20に取り付けられている。そして、第一の部分20に把持された矯正対象歯50を移動させたい所望の方向に、戻り力を利用した力が働くように、あらかじめワイヤー90の形状を調整しておく。このようにすると、本実施形態のようなワイヤー90を用いた矯正装置100であっても、第二の部分10が強力な固定源となり、ワイヤー90の戻り力を利用することにより、上述と同様の効果を奏することができる。

また、図10(a)及び(b)は、本発明の一実施形態に係る矯正装置100の構造の変形例を示している。具体的には、例えば図1(a)及び(b)に示した矯正装置100の第二の部分10と比較して、第二の部分10における歯列の外側を覆う領域が大きい場合の構造例を示しており、(a)は下顎側に用いる矯正装置100であって、(b)は上顎側に用いる矯正装置100である。

図1(a)及び(b)などの上述した各図に示したように、本実施形態に係る矯正装置100における第一の部分20及び第二の部分10を構成する把持部材は、歯列の頬側において、少なくとも歯冠部から歯頚部周辺まで、より具体的には歯列、歯肉部、及び歯槽骨部における最大豊隆部までを覆っている形状であれば、上述したような強力な固定源が得られる。しかしながら、図10(a)及び(b)に示すように、矯正装置100の第一の部分20及び第二の部分10を構成する把持部材は、例えば図1(a)及び(b)に示した矯正装置100の把持部材と比較して固定源としての力をさらに強化するために、歯列の頬側において歯槽骨部の下方まで覆う形状とすることもできる。この場合、患者の口腔内の形状によっては当該矯正装置100の設置が難しくなったり苦痛を伴ったりする場合があるため、その形状の下方の長さは適宜調節するとよい。なお、当変形例は、以上で説明したいずれの矯正装置にも適用可能である。

また、図11(a)〜(c)は、本発明の一実施形態に係る矯正装置100の構造の変形例を示している。具体的には、第一の部分と第二の部分の把持部材を均等の大きさにすることで互いに向かい合う歯列を力付与部材からの相反する力が作用することで一緒に頬側又は舌側に移動させる構造例であり、(a)は下顎側に用いる矯正装置100を示しており、(b)は上顎側に用いる矯正装置100を示しており、(c)は力付与部材から引き出した固定部材を周辺の把持部材に設置した矯正装置100を示している。

図11(a)では、第一の部分11Aは、患者の歯列の歯冠部から歯頚部の周辺までを覆うように、例えば一方の奥から4本を矯正対象歯として把持しており、第二の部分11Bは、患者の歯列の歯冠部から歯頚部の周辺までを覆うように、例えば他方の奥から4本を矯正対象歯として把持しており、当該矯正装置100が下顎に用いられるため、第一の部分11A及び第二の部分11Bは前歯周辺位置に延在しており、力付与部材30は前歯周辺位置に設置されている。

また、図11(b)では、第一の部分11Aは、患者の歯列の歯冠部から歯頚部の周辺までを覆うように、矯正対象歯を把持しており、第二の部分11Bは、患者の歯列の歯冠部から歯頚部の周辺までを覆うように、矯正対象歯と異なる矯正対象歯を把持しており、当該矯正装置が上顎に用いられるため、力付与部材30は口蓋部分に設置されている。

図11(a)〜(c)の構成により、把持部材の第一の部分11A及び第二の部分11B共に、矯正対象歯の少なくとも歯冠部から歯頚部の周辺までを覆って矯正対象歯を把持しているので、第一の部分11A及び第二の部分11Bを強力な固定源としながら、力付与部材を用いて、その相反する力が作用することで、第一の部分11A及び第二の部分11Bにより把持された矯正対象歯を所望の方向に移動させることができる。また、第一の部分11A及び第二の部分11Bがともに強力な固定源となっているため、把持された矯正対象歯に付与される力の反作用の力によって移動することが防止される。さらに、矯正対象歯は傾斜移動ではなく水平移動し易くなり、力付与部材を用いて矯正対象歯を所望の方向に確実に移動させていくことが可能になる。特に、本形態は、第一の部分11A及び第二の部分11Bのそれぞれに把持される矯正対象歯が互いに対称となる位置関係にある場合により適しているが、これに限定されず、適宜設計変更により同様の矯正が可能である。

また、図11(c)の構成のように、基本的には上述した図11(b)と同様の構成だが、第一の部分11A及び第二の部分11Bが把持する歯の数が少ない場合には、第一の部分11A及び第二の部分11Bの周辺にそれらから独立した第三の部分11Cや第四の部分11Dを設けて、力付与部材30は力付与部材30から延在して第三の部分11C及び第四の部分11Dに設置される固定部材35を有している。つまり、固定部材35は、その第一の部分11Aと第二の部分11Bとを跨いでいる領域から第三の部分11C及び第四の部分11Dへ延在して設置されている。これにより、より強力な固定源が得られる。

ここで、図12(a)及び(b)は、本発明の一実施形態に係る矯正装置100の実施例を示している。図12(a)は、後述する症例1に関する図18(b)及び(c)で示した矯正装置に類似の矯正装置の実施例を示しており、上顎側に用いる矯正装置で奥から二本の歯列を移動させる例であり、図12(b)は、上記図11(b)類似の矯正装置の実施例を示しており、上顎側に用いる矯正装置で分割部位を中央にすることで第一の部分と第二の部分の把持部材を均等の大きさにすることで互いに向かい合う歯列に対して力付与部材から相反する力が作用し左右の歯列を一緒に同量移動させる例である。この場合、従来の拡大床では傾斜移動となるが本発明では水平移動が可能であると同時に従来可撤式装置では困難であった左右歯列の縮小が可能かつ水平移動も可能である。なお、同図(b)は、前歯周辺をあわせて矯正するためのワイヤーが装着された例となっている。

また、図13(a)〜(c)は本発明の一実施形態に係る矯正装置の構造の変形例を示している。具体的には、上顎側及び下顎側の双方に把持部材を設置した構造例である。

図13(a)では、スケレタルアンカーを用いずに下顎劣成長又は上顎過成長を矯正する例を示している。図示するように、上述した把持部材からなる第一の部分300Aは、上顎に用いられ、患者の上顎の歯列全体をその歯冠部から歯頚部の周辺までを覆っており、同様に把持部材からなる第二の部分300Bは、下顎に用いられ、患者の下顎の歯列全体をその歯冠部から歯頚部の周辺までを覆っている。さらに、第一の部分300Aと第二の部分300Bとは、力付与部材30としての顎間ゴム400によって接続されている。なお、顎間ゴム400は、例えばボタン形状の突起部を第一の部分300Aと第二の部分300Bとに設け、該突起部に取り付ければよい。

このようにすると、上顎の過成長又は下顎の劣成長があり、上顎の歯列と下顎の歯列とがずれている場合に、顎間ゴム400を適切に用いることで、上顎側に下顎側よりも強い力を作用させて、上顎を紙面に向かって右向きの図示する矢印の方向に引き込んで上顎の突き出しによるずれを容易に矯正することができる。

また、図13(b)に示すように、上顎側の把持部材にスケレタルアンカー70を埋め込むことにより、下顎の過成長があり、上顎の歯列と下顎の歯列とがずれている場合に、顎間ゴム400を適切に用いることで、上顎を固定源にして、顎間ゴムの装着方向により、主に下顎歯列を図示する矢印の方向に引き込むように移動させて、下顎の突き出しによるずれを容易に矯正することができる。

なお、図13(b)では示していないが、下顎側の把持部材にのみスケレタルアンカー70を埋め込むこともできる。例えば、解剖学的に不安定な上顎を主として移動させたい場合、特には、上顎の劣成長の場合には、下顎を固定源にして、顎間ゴムの装着方向により、主に上顎歯列を引き出すように移動させることもできる。

さらに、図13(c)では、上顎側及び下顎側の把持部材にスケレタルアンカー70を埋め込むことにより、顎間ゴム400が相反する力付与部材となりスケレタルアンカー70で固定された歯列全体を含む顎骨・顔面骨ごとの成長促進・成長抑制が可能であり、顎間ゴムの装着方向により上顎骨およびその周辺の顔面骨の成長促進・成長抑制または下顎骨及びその周辺の顔面骨の成長促進・成長抑制を行うことができる。同図では、上顎側に下顎側よりも強い力を作用させて、下顎骨及びその周辺の顔面骨の成長抑制を紙面に向かって左向きの矢印の方向に行っている。

このように、患者に、上顎の過成長又は劣成長、下顎の過成長又は劣成長があり、上顎の歯列と下顎の歯列とがずれている場合に、力付与部材としての例えば顎間ゴムを用いることで、そのずれを容易に矯正することができる。特に、上顎が過成長で下顎が劣成長の場合や、上顎が劣成長で下顎が過成長の場合に、スケレタルアンカーを用いなくともそのズレを効果的に矯正することができるし、スケレタルアンカーを用いることで歯列全体を含む顎骨・顔面骨ごとの成長促進・成長抑制が可能である。

また、図14(a)は本発明の一実施形態に係る矯正装置100における矯正対象歯を傾斜移動させる場合の構造例を示している。

図14(a)に示すように、矯正対象歯50自体が垂直方向から傾いているような場合、例えば上述した図2(b)に示した矯正装置100を利用して矯正対象歯50を移動させると、矯正対象歯50は傾いた状態のままで水平移動することになる。そこで、図14(a)に示すように、矯正対象歯50自体が垂直方向から傾いているような場合、矯正対象歯50を垂直方向に矯正するために、歯列の歯冠部の外側部分20Bが例えば除去などにより形成されていない形状を有する第一の部分20Aを用いることが好ましい。このようにすると、第一の部分20Aによる矯正対象歯50に対する把持力が外側部分で弱くなるため、垂直方向から右側に傾いた矯正対象歯50を左側に傾けて垂直方向に立て直すことも可能である。

また、図14(b)は、本発明の一実施形態に係る矯正装置100における把持部材が下側層と上側層の二層構造からなる場合の構造例を示している。

図14(b)に示すように、例えば歯列に固定式のマルチブラケットが装着されているような場合、把持部材がシリコン薄膜シートからなる下側層(第一の部材20の下側層20D、第二の部材10の下側層10D)と樹脂からなる上側層(第一の部材20の上側層20C、第二の部材10の上側層20D)とからなることが好ましい。

このようにすると、例えば固定式のマルチブラケットとの併用が可能になる。すなわち、例えばボタン95を介してワイヤーが歯列全体に装着されている場合、下側層のシリコン薄膜シート20D、10Dでマルチブラケットを覆った状態(すなわち、マルチブラケットによる矯正を継続させた状態)で、当該矯正装置100による上述したような矯正対象歯50の移動を可能にする。このように、当該矯正装置100は、マルチブラケットのレスキューシステムとしても使用が可能である。すなわち、マルチブラケットによる利点と当該矯正装置100による利点を組み合わせた相乗効果を得るような矯正治療も可能になる。また、把持部材を下側層と上側層との二層からなる構造は、例えば、マルチブラケットを使用している場合と同様に、患者の口腔内に叢生がある場合にも特に有効である。

図15は、本発明の一実施形態に係る矯正装置100における第一の部分20と第二の部分10とを接続するように設けられた力付与部材30の変形例の構造例を示している。

図15に示すように、本実施形態に係る矯正装置100は、力付与部材としての機能を有するネジ30Aを用いている。ネジ30Aは、例えば公知のイモネジからなる主ネジ部33と、該主ネジ部33を貫通可能なネジ受け部32と、第二の部分10に設置される該ネジ受け部32を支える支持部31とからなっている。主ネジ部33を回転させて該主ネジ部33がネジ受け部32側に進んで、第一の部分20を押すことにより、または、主ネジ部33を逆回転させて該ネジ部33がネジ受け部32側から離れることにより、矯正対象歯50を頬側方向又は舌側方向に移動させることができる。このように、特殊な構造のネジ30Aを用いることにより、狭小な口腔内の空間においても、患者の違和感を抑制できる力付与部材30を実現することができる。

図16は、本発明の一実施形態に係る矯正装置100における第一の部分20と第二の部分10とを接続するように設けられた力付与部材30の変形例の構造例を示している。

図16に示すように、本実施形態に係る矯正装置100は、力付与部材としての機能を有するネジ30Bを用いている。ネジ30Bは、例えば公知のイモネジからなる主ネジ部211と、該主ネジ部211に続いて設けられネジ機能を有さない中継部材210と、該中継部材210の形状と雌雄の関係の形状で合致するように形成されたネジ受け部212とからなっている。主ネジ部33を回転させて該主ネジ部33がネジ受け部32側に進んで、中継部材210を介してネジ受け部212を押して矯正対象歯50を頬側方向又は舌側方向に移動させる。その際、中継部材210自体は空回りしながら、ネジ受け部212を押すことになる。または、主ネジ部33を逆回転させて該主ネジ部33がネジ受け部32側から離れる方向に進んで、中継部材210を介してネジ受け部212を主ネジ部33側に引っ張ることにより、矯正対象歯50を頬側方向又は舌側方向に移動させることができる。このように、特殊な構造のネジ30Bを用いることにより、狭小な口腔内の空間においても、患者の違和感を抑制できる力付与部材30を実現することができる。

図17は、本発明の一実施形態に係る矯正装置100における第一の部分20と第二の部分10とを接続するように設けられた力付与部材30の変形例の構造例を示している。

図17に示すように、本実施形態に係る矯正装置100は、力付与部材としての機能を有するネジ30Cを用いている。ネジ30Cは、例えば公知のイモネジの形状を有してなる第一の磁石部214と、該第一の磁石部214と対向する位置に設けられる第二の磁石部213とからなっている。そして、第一の磁石部214は第二の部分10中に埋め込まれており、第二の磁石部213は第一の部分20中に埋め込まれている。イモネジ形状の第一の磁石部214を回転させて、第二の磁石213に近づく方向又は第二の磁石213から離れる方向に第一の磁石部214を移動させながら、例えば同図の概念図に示すように、第一の磁石部214と第二の磁石部213における磁石の正負を配置させておくことにより、磁石の引き合う力又は反発する力により、矯正対象歯50を頬側方向又は舌側方向に移動させることができる。このように、特殊な構造のネジ30Cを用いることにより、狭小な口腔内の空間においても、患者の違和感を抑制できる力付与部材30を実現することができる。なお、第二の磁石部213を鉛直方向から頬舌方向のいずれかの向きに傾斜させて配置させて、第一の磁石部214を第二の磁石部213と対向する位置に第二の部分10中に埋め込むと、矯正対象歯50を頬側方向又は舌側方向ではあるが、上記図14で説明したように傾斜させて移動させたい場合に有効である。また、図15に示した支持部31は、図16又は図17に示した変形例にも適宜設計変更の上、適用可能である。

以上の実施形態において、把持部材を構成する透明樹脂は、カーボンを含有していてもよい。このようにすると、第一の部分20及び第二の部分10による把持力を強化することが可能となり、より強固な固定源が確保され、力付与部材によって矯正対象歯をより確実に所望の方向に移動させることができる。また、透明樹脂からなる本把持部材をアライナー的に利用する際に、カーボンを部分的に使用して、同じ厚さの樹脂であっても撓ませたくない部分、撓ませたい部分を設けることにより、患者の歯列の状態に応じてより幅広い歯列の移動に対応することもできる。

また、以上の実施形態では、上述した第一の部分20と上述した第二の部分10と、第一の部分20と第二の部分10とを接続するように設置された力付与部材30とを備えた構成について説明したが、例えば、第一の部分20と第二の部分10とを接続させない構成、すなわち、例えば矯正対象歯を把持する第一の部分20を第二の部分10から独立させた構成であっても、第二の部分10の固定源を確保しながら、第一の部分20の所望の場所に埋め込まれた例えば上述した公知のイモネジを力付与部材として用いて、第一の部分20に把持された矯正対象歯を所望の方向に移動させるようにすることも可能である。このようにネジを直接矯正対象歯に接触させて矯正するため、ネジの先端部には柔軟素材、例えば樹脂又はゴムよりなる例えばキャップのようなものを取り付けることが望ましい。矯正対象歯の保護を図るためである。

また、以上の実施形態において例として用いたイモネジは、本発明の本実施形態に係る矯正装置にのみ利用可能なものではなく、例えば、拡大床に用いられる拡大ネジなどのその他の歯科用矯正装置にも利用可能である。

以下では、以上の実施形態で説明した矯正装置を用いた症例について説明する。

図18(a)〜(d)、図19(a)〜(d)及び図20(a)〜(d)は、本発明の一実施形態に係る矯正装置を用いた症例1〜3を示す図である。なお、各症例1〜3の図では、当該矯正装置において分割された第一の部分及び第二の部分を明瞭にする破線が引かれている。

図18(a)〜(d)は、患者の上顎に当該矯正装置を用いた症例1を示すものである。具体的には、図18(a)示す処置前で且つ矯正装置を装着していない状態では、紙面に向かって右側の一番奥から3本目の歯と5本目の歯の間に萌出途中の4本目の歯の萌出スペースがないことが分かる。このような場合には歯牙を抜去して萌出のスペースを確保する場合が多いが本症例では装置を装着して奥から3本の歯を遠心移動させてこととした。図18(b)示すように当該矯正装置を装着して矯正を開始した。具体的には、患者の上顎側の口腔内形状に沿って形成された把持部材を、紙面に向かって右側奥の3本の歯を把持する部分と残りの全ての歯を把持する部分とにカットして分けて、それらを接続するように力付与部材としてネジを設置した。そこで、日数をかけてネジを少しずつ回転させていくと、図18(c)示す処置途中で矯正装置を装着した図の通り、紙面に向かって右側奥の3本の歯が徐々に遠心方向(奥方向に)に移動し、最終的に、図18(d)示すように、上記4本目の歯の萌出スペースが確保されたことが分かる。

図19(a)〜(d)は、患者の下顎に当該矯正装置を用いた症例2を示すものである。具体的には、図19(a)示す処置前で且つ矯正装置を装着していない状態では、左右の歯列の幅が狭窄しておりそのためにスペースの無くなった紙面に向かって上部の前歯4本が整列していないことが分かる。図19(b)示すように当該矯正装置を装着して矯正を開始した。具体的には、患者の下顎側の口腔内形状に沿って形成された把持部材を、左右歯列を均等に移動させるために紙面に向かって上部中央でカットし、前歯4本及びそれらの両隣の歯は把持しないが左右対象に位置する残りの歯をそれぞれ把持する部分に分けて、それらを接続するように力付与部材としてネジを設置した。該ネジは、上記左右対称に位置する残りの歯のそれぞれを把持する部分から前歯の舌側に延在する部分に設置し相反する力の作用により左右歯列を均等に水平移動させ拡大することとした。そこで、日数をかけてネジを少しずつ回転させていくと、図19(c)示す処置後で矯正装置を装着した図の通り、紙面に向かって上記左右対称に位置する残りの歯がそれぞれ頬側に水平移動し、その結果、前歯4本の歯が入るスペースが確保され並びが整列して矯正されてきたことが分かる(図19(d)の処置後で矯正装置が装着されていない状態も参照)。

図20(a)〜(d)は、患者の上顎に当該矯正装置を用いた症例3を示すものである。具体的には、図20(a)示す処置前で且つ矯正装置を装着していない状態では、紙面に向かって左側に位置する奥からの2番目〜6番目辺りの歯が舌側にずれていることが分かる。図20(b)に示すように当該矯正装置を装着して矯正を開始した。具体的には、患者の上顎側の口腔内形状に沿って形成された把持部材を、紙面に向かって左側に位置する奥からの6番目辺りでカットし、口蓋部分では紙面に向かって左右対称となるように中央でカットして分けて、それらを接続するように力付与部材としてネジを設置した。ここでは、該ネジをカットした線に沿って順に二つ設置した。そこで、日数をかけて二つのネジをそれぞれ少しずつ回転させていくと、図20(c)示す処置後で矯正装置を装着した図の通り、紙面に向かって左側に位置する奥からの2番目〜6番目辺りの歯が頬側に移動したことが分かる(図20(d)の処置後で矯正装置が装着されていない状態も参照)。

以上の通り、図18(a)〜(d)、図19(a)〜(d)及び図20(a)〜(d)の症例1〜3で示した通り、本発明の矯正装置を用いることにより、把持部材を構成する互いに独立してなる第一及び第二の部分の少なくとも一方を強力な固定源としながら、把持部材に把持される矯正対象歯を力付与部材によって所望の方向に確実に移動させることが可能になる。また装置を左右中央で分割し第一の部分と第二の部分を均等にした場合は力付与部材からの相反する力の作用で左右歯列を均等に確実に移動させることができる。このように、当矯正装置は、十分な固定源を確保しながら、矯正対象歯を所望の方向への移動を容易に且つ確実に実現でき、予知性の高い治療を実現できる。

本発明は、歯科矯正の分野において有用である。

100 矯正装置 100A 把持部材 200 模型 10 第二の部分 10C 第二の部分の上側層 10D 第二の部分の下側層 11A 第一の部分 11B 第二の部分 11C 第三の部分 11D 第四の部分 15 口蓋部分 20 第一の部分 20A 第一の部分の残存部 20B 第一の部分の除去部 20C 第一の部分の上側層 20D 第一の部分の下側層 22 厚肉部 30 力付与部材 30A 力付与部材 30B 力付与部材 30C 力付与部材 30S 力付与部材 31 支持部 32 伝達部 33 ネジ部 34 回転部 35 固定部材 35a 穴部 35b ピン 50 矯正対象歯 60 突起部 70 スケレタルアンカー 80 接着剤 90 ワイヤー 95 ボタン 300A 第一の部分 300B 第二の部分 400 顎間ゴム a 歯冠部 b 歯頸部 c 歯肉部 d 歯槽骨部

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