【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、インボリュート形状加工方法に係り、特に、マシニングセンターなどNC(数値制御)マシンを用いて、例えばスクロール圧縮機の圧縮室を構成する螺旋溝の如きインボリュート形状を高精度加工するのに好適なインボリュート形状加工方法に関するものである。 【0002】 【従来の技術】まず、本発明を適用する被加工物の一例としてスクロール圧縮機の圧縮室を構成するスクロール部材を取上げ、その従来の加工方法について、図4ないし図7を参照して説明する。 ここに図4は、被加工物に係る雌,雄スクロールの斜視図、図5は、図4のA矢視平面図、図6および図7は、スクロール部材の従来の加工方法を説明するための説明図である。 【0003】図4,図5において、1は雄スクロール、 2は雌スクロールで、雄スクロール1の突起部3のスクロールラップ5と、雌スクロール2の窪み部4のスクロールラップ6とは、ともに、そのラップで形成する螺旋溝の断面でU字状で、螺旋はインボリュート形状のものである。 雄スクロール1と雌スクロール2とは、それぞれのスクロールラップ5,6が互いに対向して組み合わさって、相対的に蠕動運動し、圧力媒体を圧縮する構造である。 【0004】従来、このようなインボリュート形状のスクロールラップは、エンドミル工具を用い、縦形あるいは横形のマシニングセンタのXYテーブル上に被加工物を取り付けて切削加工されていた。 この場合、図6,図7に示すように、例えば雄スクロール1のスクロールラップ5を、直径Dのエンドミル7を用いて加工するとすると、エンドミル7の外周とインボリュート形状のスクロールラップ5との接点Pは、雄スクロール1の中心O とエンドミル7の中心Qとを結ぶ線上には存在せず、O QとPQのなす偏角θは、スクロールラップ5の加工箇所とともに逐一変化してゆく。 【0005】例えば、図6に示すように、スクロールラップ5の外壁を加工するとき、OQとPQのなす偏角がθであったものが、外壁の加工を終るときには、エンドミル7の中心はQ′となり、エンドミル7の外周とスクロールラップ5との接点P′とのなす偏角θ′は、θにくらべて大きく変化している。 また、図7に示すように、スクロールラップの内壁を加工する段階では、エンドミル7の中心Q″の位置では、エンドミル7の外周とスクロールラップ内壁との接点P″とのなす偏角θ″はθ′にくらべて変化しているのが明らかである。 【0006】したがって、マシニングセンタのXYテーブル上で雄スクロール1を加工するには、所定のインボリュート形状とは異なったエンドミル中心Qの軌跡を描かせなければならない。 もちろん従来でも、このような所望のインボリュート形状を与えれば、エンドミルの中心軌跡は、マシニングセンタのNC制御系によって自動的に演算し、加工することも可能になっている。 【発明が解決しようとする課題】 【0007】しかし、ここでは、エンドミルの直径をN C制御系にその値を入力することを前提としている。 そこで、エンドミルの直径が異なれば、その都度NC制御系にその値を入力するが、予め工具軌跡を演算して入力しておく必要がある。 特に、インボリュート形状精度が厳しい場合には、このエンドミル直径の読みとり精度を高めることが必須である。 【0008】また、この従来の方法では、エンドミル直径を精度よく読みとっても、マシニングセンタの主軸に対しエンドミルが偏心して取付けば、みかけ上より大きな直径のエンドミルを用いたように加工され、スクロールラップ5の形状、とくにその厚さTが所定の値と異なってくる。 このような方法でスクロールラップの内,外壁を加工することになるから、実際にはスクロールラップの厚さTは、エンドミルの直径の読みとり誤差のほぼ2倍の誤差をきたすことになる。 【0009】以上、XYテーブルをもったマシニングセンタを用いた従来のインボリュート形状加工方法を述べたが、XYテーブル上にロータリテーブルを載せて、ロータリテーブルに被加工物をセットして加工する場合でも、通常エンドミルの中心は、ロータリテーブルの回転に対し、OQ上を移動させているために、上記と同様の誤差を生じ、精度の高いインボリュート形状を加工することが難しかった。 以上、雄スクロールを例にして、従来技術の問題点を指摘したが、雌スクロールについても全く同様の問題を抱えていた。 【0010】本発明は、前述の従来技術の問題点を解決するためになされたもので、NC加工機の単純なプログラム制御により、加工具とインボリュート曲線との接点(加工点)の偏角にともなって生じる工具の軌跡誤差を解消して、高精度なインボリュート形状加工を実現するインボリュート形状加工方法を提供することを目的とする。 【0011】 【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明に係るインボリュート形状加工方法の構成は、スクロール部品のインボリュート曲線の渦巻状の壁を加工するインボリュート形状の加工方法であって、加工用の工具の中心位置をNC加工機のXテーブルまたはYテーブルを用いて該インボリュート曲線の基礎円に接する直線上を移動させるとともに、前記スクロール部品をNC加工機のロータリテーブルを用いてインボリュート曲線の基礎円の中心を回転中心として回転させ、該回転運動を前記工具の直線運動と一定比になるように、N C加工機の制御系に同期指令を与えるようにしたものである。 【0012】 【作用】本発明では、直進運動する移動テーブル上に回転自在に装備されたロータリテーブルに、インボリュート形状に加工すべき被加工物を、そのロータリテーブルの中心に固定し、そのロータリテーブル面にほぼ鉛直な回転主軸にエンドミルを装着し、このエンドミルの刃面を、被加工物のインボリュートの基礎円の接線と直交するように被加工物の加工面に対接させ、前記エンドミルの中心が、前記インボリュートの基礎円の接線上を移動するように前記移動テーブルを直進させるとともに、前記ロータリテーブルを、その回転角度が前記移動テーブルの送り量と一定の比例関係で連動するように回転せしめるようにしている。 【0013】本発明を開発した考え方は、被加工物がインボリュート形状であるという特徴を生かして、インボリュート形状の加工面とエンドミル外周との接触角が常に一定となるようにXYテーブルとロータリテーブルを制御するものである。 すなわち、XテーブルあるいはY テーブルのいずれか一方の送り方向をインボリュートの基礎円の接線方向に一致させ、その送りの速度をロータリテーブルの回転速度に完全に比例するようにして、単純なプログラム入力で、NC加工機の制御方法を単純にするとともに加工精度を向上させている。 【0014】 【実施例】以下、本発明の一実施例を図1ないし図3を参照して説明する。 図1は、本発明の一実施例に係るインボリュート形状加工方法における工具軌跡を示す説明図、図2は、インボリュート形状加工の原理を示す説明図、図3は、図1の加工を行う加工機の外観斜視図である。 【0015】図3に示す加工機は、一般的なマシニングセンタとほぼ同様の構成のもので、ベッド9上には、N C制御可能な移動テーブルに係るX軸テーブル10、および移動テーブルに係るY軸テーブル11が装備され、 さらにこの上に、これもNC制御可能なロータリテーブル12が装備されている。 このロータリテーブル12上に、ロータリテーブルと軸心を同じくして被加工物である雄スクロール1がチャッキングされている。 一方、ベッド9と一体に固定されたコラム13には、これもロータリテーブル12の軸心方向にNCにて摺動可能な主軸ヘッド14が摺動し、この主軸ヘッド14の摺動方向に軸心方向をもつ回転可能な主軸15があり、この主軸1 5には工具に係るエンドミル7がチャッキングされている。 【0016】これらの運動系、すなわちXテーブル10 およびYテーブル11の直進運動、ロータリテーブル1 2の回転運動、主軸ヘッド14の直進運動、ならびに主軸15の回転運動は、いずれもNC制御装置(図示せず)により制御できるように構成されている。 本実施例は、このような構成のマシニングセンタのインボリュート形状加工のNC制御に関するもので、次に、このインボリュート形状加工の原理を図2を参照して説明する。 【0017】被加工物は、雄スクロール1のスクロール部材に係るスクロールラップ5で、同一基礎円の位相をずらした2本のインボリュート曲線5a,5bで外壁, 内壁が形成されるものである。 この場合、図2に示すように、2本のインボリュート曲線5a,5bは、ともに中心がOで、基礎円20の半径はa(図1参照)である。 この基礎円20からの引いた任意の接線21は、インボリュート曲線5a,5bと常に直交する。 【0018】このことは、エンドミル7の中心をインボリュートの基礎円の接線上に移動させれば、エンドミルとインボリュートの接点Pは、この基礎円の接線上にあり、従来技術のところで述べたような、エンドミルとインボリュート曲線との接点の偏角θあるいはθ″(図6,図7参照)がある値をもつことによる誤差を考慮した煩雑な補正を加える必要の全くないことを意味する。 すなわち、図1に示すように、前述のインボリュートの基礎円20への任意の切線21を、マニシングセンタのX軸すなわちXテーブルの直進方向とし、このX軸上にエンドミル7の中心Qがあるように設定し、被加工物である雄スクロール1の回転角度と、エンドミル7のX軸方向位置とが常に比例するようにNC制御系に同期指令を与えればよい。 これは、NC制御装置に単純なプログラム入力により制御可能である。 【0019】そこで、主軸15に装着したエンドミル7 の刃面を、被加工物である雄スクロール1のインボリュートの基礎円20の接線21と直交するように加工面であるインボリュート曲線5aの外壁に対接させ、前記のように接線21とX軸テーブル10の直進方向とを一致させる。 そして、エンドミル7の中心Qが接線21上を内側方向、すなわち基礎円20の中心に近づく方向に移動するようにX軸テーブル10を直進させるとともに、 ロータリテーブル12を、ロータリテーブルの回転角度がX軸テーブル10の送り量と一定の比例関係で連動して回転させることによってインボリュート曲線5aの外壁を加工する。 【0020】外壁の加工が終ると、ロータリテーブル1 2を逆転させることにより雄スクロール1の回転を逆転させて、回転角の位相を所定量だけずらせてインボリュート曲線5bのスタート位置にエンドミル7を位置させる。 なお、ここに位相をずらせる所定量は、エンドミル7の径と、インボリュートの基礎円20の径と、インボリュートラップの厚みTとで一義的に決まる量である。 より詳しくは、エンドミル直径とインボリュートラップの厚みTと和を基礎円20の半径aで除した角度(ラジアン)である。 【0021】次いで、ロータリテーブル12の逆転と同期して、接線21上の外側方向、すなわち基礎円20の中心から遠ざかる方向ににエンドミル中心Qを移動させるように、X軸テーブル10を戻し方向に直進させてインボリュート曲線5bの内壁加工を行う。 換言すれば、 エンドミル7の中心がインボリュートの基礎円20の接線21上を移動するように直進するX軸テーブル10 は、スクロールラップ5の外壁の加工時と内壁の加工時とで直進方向を逆転させて往,復運動を行うとともに、 ロータリテーブル12は、前記X軸テーブルの往,復運動に連動して正,逆に回転方向を変えるように作動する。 このようにすれば、インボリュート曲線5bの内壁に対しても偏角θ″(図7参照)に起因する誤差補正が不要となる。 【0022】前述のインボリュート形状加工方法をとる場合でも、エンドミル7取付時の偏心あるいはエンドミルのたわみ誤差εがスクロールラップ5の厚みTに2ε の誤差を生じさせる。 そこで、インボリュート形状のスクロールラップの厚み精度がさらに厳しく要求される場合には、次に述べるような工具軌跡を辿らせるとよい。 【0023】図1に示すように、エンドミル7の中心Q をインボリュートの基礎円20の接線21上に位置させ、そのエンドミル7の刃面を、前記接線21と直交するように加工面であるインボリュート曲線5aの外壁に対接させる。 そしてX軸テーブル10の直進方向を前記基礎円20の接線21に一致させる。 そして、エンドミル7の中心Qが接線21上を内側方向へ移動するようにX軸テーブル10を直進させる(第1の直進)とともに、ロータリテーブル12を、ロータリテーブルの回転角度がX軸テーブル10の送り量と一定の比例関係で連動して回転させることによってインボリュート曲線5a の外壁を加工する。 【0024】外壁の加工が終ると、エンドミル7の中心Qが、雄スクロール1の中心部で基礎円20の直径2a だけ、前記第1の直進方向に直交する方向に移動するようにY軸テーブル11を移動させる。 次いで、ロータリテーブル12の逆転と同期して、図1に示す基礎円20 の接線22上の外側方向にエンドミル中心Qを移動させるように、X軸テーブル10を前記第1の直進方向と同一方向に第2の直進を行わせてインボリュート曲線5b の内壁加工を行い、雄スクロール1の加工を終了する。 【0025】このようにすれば、切削力負荷によるエンドミル7やスクロールラップ5の弾性変形を、主軸15 を僅かに傾斜させて補正し、インボリュート形状のスクロールラップ5の厚みを精度を向上させることができる。 なお、前述の実施例では、被加工物を雄スクロール1として、その加工例を説明したが、雌スクロール2の加工も全く同様に実施できることは言うまでもない。 【0026】また、前述の実施例では、加工機としてマシニングセンタを用いる例を説明したが、同様の構成をもつ専用機であっても、本発明の効果を妨げるものではない。 さらに、インボリュート形状の内壁を同様に加工したのち、外壁を加工する加工手順をとっても全く同様の効果が得られる。 さらにまた、前述の実施例では、加工機を縦形マシニングセンタとしているが、主軸中心を水平とした横形マシニングセンタとしてもよい。 この場合には、切粉が除去しやすいという利点があり、加工面の面粗さが良くなる。 【0027】なお、スクロールラップの厚みTが一定でない、2本のインボリュート曲線からなる場合には、基礎円は2個存在することになるので、内,外壁の一方の面加工から他方の面加工へ移行するときに、被加工物の中心にて、2個の基礎円の差だけY方向に余分にシフトして後半の工具軌跡を辿らせるようにすれば、その実施化が可能である。 【0028】 【発明の効果】以上述べたように、NC加工機の単純なプログラム制御により、加工具とインボリュート曲線との接点(加工点)の偏角にともなって生じる工具の軌跡誤差を解消して、高精度なインボリュート形状加工を実現するインボリュート形状加工方法を提供することができる。 【図面の簡単な説明】 【図1】本発明の一実施例に係るインボリュート形状加工装置における工具軌跡を示す説明図である。 【図2】インボリュート形状加工の原理を示す説明図である。 【図3】本発明による加工装置の外観斜視図である。 【図4】被加工物に係る雌,雄スクロールの斜視図である。 【図5】図4のA矢視平面図である。 【図6】スクロール部材の従来の加工方法を説明するための説明図である。 【図7】スクロール部材の従来の加工方法を説明するための説明図である。 【符号の説明】 1…雄スクロール、2…雌スクロール、5…スクロールラップ、5a,5b…インボリュート曲線、7…エンドミル、10…X軸テーブル、11…Y軸テーブル、12 …ロータリテーブル、15…主軸、20…基礎円、2 1,22…接線。 |