管ねじ継手のボックス用プロテクタ

申请号 JP2014522777 申请日 2013-01-17 公开(公告)号 JP5815861B2 公开(公告)日 2015-11-17
申请人 新日鐵住金株式会社; ドリルテック・パテンツ・アンド・テクノロジーズ・コーポレイション; 发明人 山本 泰弘; クレム、デイビッド・ダブリュー;
摘要
权利要求

雌ねじ部及び少なくともショルダ面を含むねじ無し金属接触部からなる接触表面を備え、前記ショルダ面は、管ねじ継手の管軸垂直方向に対して度θで継手中心に向かってボックス入口側に傾斜するか又は管軸垂直方向に平行である、ピン−ボックス構造の管ねじ継手のボックスの接触表面を保護するためにボックスに装着される管ねじ継手のボックス用プロテクタであって、 前記ボックス用プロテクタは、前記ボックスの接触表面より大きな軸方向長さを有する樹脂製の筒状体を備え、かつ前記ボックスの接触表面の両側でボックス表面との当接により第1シール部及び第2シール部を形成することができる構造を備え、前記筒状体はその外周面に前記ボックスの雌ねじ部の少なくとも一部の完全ねじ山と螺合する雄ねじ部を有するものであり、下記を特徴とするボックス用プロテクタ: 前記プロテクタの筒状体が、前記ボックスのショルダ面に封止状態で当接して第1シール部を形成するショルダ面を有し、このショルダ面は、管軸垂直方向に対して角度θPで継手中心に向かってプロテクタ挿入方向において後方側に傾斜し、ここでプロテクタのショルダ面の傾斜角度θPはボックスのショルダ面の傾斜角度θより大きく、 前記プロテクタの筒状体は、前記プロテクタのショルダ面の近傍の外周面に円周溝部を有し、この円周溝部の位置及び断面形状は、ボックスへのプロテクタ装着時に加えられるトルクによってこの溝部周辺の筒状体部分が弾性変形して前記円周溝部の開口面における軸方向距離を縮小させることによって前記第1シール部を形成可能にするものであり、前記第2シール部は前記プロテクタに取り付けた弾性材料とボックス表面との当接により形成され、 前記プロテクタ挿入方向における前記プロテクタの後方端面には凹部が設けられるとともに前記プロテクタの内周面には前記後方端面側の一端に円形折り曲げ部が形成されている金属筒状体が嵌装されており、 前記円形折り曲げ部が前記凹部に挿入され、前記円形折り曲げ部のスプリング作用により前記金属筒状体が前記プロテクタに固定されている。前記円周溝部が、V字型、円弧型、U字型、台形型、及びそれらの組み合わせから選ばれた軸方向断面形状を有する、請求項1に記載のボックス用プロテクタ。前記弾性変形により、前記円周溝部の開口面における軸方向距離が0.2mm以上縮小する、請求項1又は2に記載のボックス用プロテクタ。前記第2シール部が、プロテクタの筒状体の外周面に、プロテクタをボックスに装着した際にボックス端面に封止状態で当接するように配置された弾性シールリングから構成される、請求項1又は2に記載のボックス用プロテクタ。前記ボックスの少なくとも雌ねじ部を含む接触表面の一部又は全部が固体潤滑被膜で被覆されている、請求項1又は2に記載のボックス用プロテクタ。前記プロテクタの筒状体の雄ねじ部のねじ山高さ(H1)と、ボックスの雌ねじ部の完全ねじのねじ山高さ(H2)とが、H1>H2を満たし、かつH1とH2の差[=H1−H2]がボックスの完全ねじのねじ山頂部での固体潤滑被膜の最大被膜厚みより大きい、請求項5に記載のボックス用プロテクタ。前記プロテクタの雄ねじ部のねじ山数が3〜5の範囲内である、請求項1又は2に記載のボックス用プロテクタ。前記雄ねじ部が、ボックスの完全ねじ部のボックス入口に最も近い雌ねじ山に対向する位置に配置される、請求項7に記載のボックス用プロテクタ。

说明书全文

本発明は、油井管(oil country tubular goods, OCTG)を締結するための、ピン及びボックスからなる管ねじ継手におけるボックスを、使用時まで保護するためのボックス用プロテクタに関する。本発明のボックス用プロテクタは、油井管の締結前に現場で粘稠液状潤滑剤をねじ継手に塗布する必要のない、予め固体潤滑被膜により潤滑が施されている管ねじ継手のボックスを保護するのに特に適している。

原油やガス油の採掘に用いるチュービングやケーシングといった油井管は、管ねじ継手により接続される。油井管の締結に使用される典型的な管ねじ継手はピン−ボックス構造をとる。ピンは雄ねじを有する継手要素であり、ボックスは雌ねじを有する継手要素である。典型的には、ピンは油井管として用いられる鋼管の両端の外周面に形成され、ボックスは別部材であるカップリングの両側の内周面に形成される。気密性に優れた特殊ねじ継手では、ピンの雄ねじの先端と、ボックスの雌ねじの基部には、それぞれシール面とショルダ面(トルクショルダとも呼ばれる)とを備えたねじ無し金属接触部が形成されている。ねじ部とねじ無し金属接触部とが管ねじ継手の接触表面を構成する。この種の管ねじ継手では、油井管の一端をカップリングに挿入し、ねじ無し金属接触部同士が当接してメタルシール部を形成するまで雄ねじと雌ねじとを螺合させることにより、優れた気密性が得られる。

図6は、出荷時の油井管用鋼管とカップリングの状態を示す典型的な管ねじ継手の組み立て構成を模式的に示す説明図である。この図に示すように、鋼管Aの両端の外周面には雄ねじ部3aを有するピン1が形成され、カップリングBの両側の内周には雌ねじ部3bを有するボックス2が形成される。鋼管Aの一端には予めカップリングBが締付けられている。図6に示すように、カップリング形式の管ねじ継手は、鋼管AにカップリングBが締付けられた状態で出荷されるのが普通である。

従って、出荷時の状態では、それぞれ2つずつあるピンとボックスのうちの1つのピンと1つのボックスが締付けに利用されている。図示していないが、締付けに利用されていない残りのピン及びボックス、すなわち、図中の左側のピン及び右側のボックスには、管ねじ継手の接触表面を発錆、傷つき、さらには異物侵入等から保護するために、出荷前にそれぞれピン用プロテクタ及びボックス用プロテクタが装着され、使用前にそれらは取り外される。

ピン用プロテクタ及びボックス用プロテクタはいずれも、ねじ継手よりやや長い長さをもつ、通常は樹脂製又は金属で補強された樹脂製の筒状体からなる。典型的には、一方の端部又はその付近で閉鎖されているが、両端とも開口しているプロテクタもある。

ピン用プロテクタはその内周面にピンの雄ねじと螺合する雌ねじを備え、ねじ螺合によってピンに装着される。同様に、ボックス用プロテクタはその外周面にボックスの雌ねじと螺合する雄ねじを備え、ねじ螺合によってボックスに装着される。この時、出荷後の輸送又は取り扱い中に衝撃を受けてもプロテクタが脱落しないように、ピン用プロテクタはその雌ねじがピンの雄ねじとが干渉するまで十分に締め付けられる。同様に、ボックス用プロテクタはその雄ねじがボックス2の雌ねじとが干渉するまで十分に締め付けられる。ピン用プロテクタ及びボックス用プロテクタは、いずれも、ねじ部も含めて、通常は射出成形により製造されるので、ピン用プロテクタ及びボックス用プロテクタそれぞれのねじ部もプロテクタ本体と同じ樹脂材料により形成される。

油井管の締結時には、耐焼付き性と気密性を確保するために、「コンパウンドグリス」又は「ドープ」と呼ばれる重金属粉を含有する粘稠液状潤滑剤が、ねじ継手の接触表面(ねじ部とねじ無し金属接触部)に現場で塗布されてきた。API規格BUL 5A2にそのようなコンパウンドグリスが規定されている。コンパウンドグリスはまた、塗布された接触表面の発錆を防止する防食機能も有する。

ピン用又はボックス用プロテクタをピン又はボックスに装着する場合も、コンパウンドグリス又は他のグリス状潤滑剤(例えば、重金属粉を含有しない「グリーンドープ」と呼ばれる潤滑剤)が接触表面に塗布されてきた。流動性のあるグリス状潤滑剤はプロテクタとピン又はボックスとの間の空間を充填することができるため、プロテクタに特にシール機構を設けなくても、ピン及びボックスの接触表面が外部から遮断され、防錆機能及び異物侵入防止機能が発揮される。

しかし、近年、地球規模で環境に対する規制が強化され、コンパウンドグリスは人体や生物に悪影響を及ぼす可能性のある重金属粉を多量に含有することから、コンパウンドグリスを使用しなくとも締結可能である管ねじ継手が求められている。また、作業の効率化のために現場での潤滑処理が不要な管ねじ継手も望まれている。

そのような管ねじ継手の代表例は、例えば、特許文献1に開示されるような、潤滑性粉末(例、二硫化モリブデン、黒鉛)を樹脂中に分散させた固体潤滑被膜でピン又はボックスの一方又は双方の接触表面を被覆したものである。

特許文献2には、ピンとボックスの少なくとも一方の部材の接触表面が、粘稠液体又は半固体の潤滑被膜と、その上に形成された乾燥固体被膜とからなる2層被膜で被覆されている管ねじ継手が開示される。乾燥固体被膜は、アクリル樹脂などの熱硬化型樹脂被膜又は紫外線硬化型樹脂被膜でよい。

特許文献3には、塑性もしくは粘塑性型のレオロジー挙動(流動特性)を示す固体マトリックス中に潤滑性粉末を分散させてなる、べたつきのない薄い潤滑被膜を、ピン及びボックスのねじ部表面に形成した管ねじ継手が開示される。マトリックスは好ましくは融点が80〜320℃の範囲内であり、被膜はホットメルトスプレイ塗布、粉末を用いた溶射、あるいは性エマルジョンのスプレイ塗布により形成される。

特許文献4には、ピンとボックスの少なくとも一方の部材の接触表面が、潤滑性粉末及び結合剤を含む固体潤滑被膜と、その上に形成された固体粒子を含有しない固体防食被膜とからなる2層被膜で被覆されている管ねじ継手が開示される。

このような潤滑被膜、特に固体潤滑被膜を有し、コンパウンドグリスを使用せずに締結される管ねじ継手に装着されるプロテクタも、同様に、グリス状潤滑剤を使用せずにピン又はボックスに装着されることが望ましい。しかし、グリス状潤滑剤によるシールを得られないので、ピン用プロテクタ、ボックス用プロテクタ自体がシール性を有する必要がある。この点についても幾つかの従来技術が提案されている。

例えば、特許文献5には、図7に示すように、プロテクタ本体4aと同材質からなる弾性のある環状凸状体の形態の第1シール部4b及び第2シール部4cを、ボックス5のショルダストッパー5a及び5bと対向する位置に設けた、シール性を有する管ねじ継手のボックス用プロテクタ4が開示される。

また、特許文献6には、図8に示すように、ボックス7の端面7aと相対するプロテクタ本体6aの外周面6bに装着された弾性シールリング6cを第1シール部として用いるとともに、ボックス7に形成されるトルクショルダ7bに相対する先端部6dを第2シール部として用いることによって、シールの確実性を高めた管ねじ継手のボックス用プロテクタ6が開示される。

JP09−72467A1

WO2006/104251

WO2007/04231

WO2006/75774

JP2003−240188A1

WO2011/027433

図7,8に示すように、固体潤滑被膜を有する管ねじ継手のための従来のボックス用プロテクタは、ボックスの端面又はその近傍における第1シール部と、ボックスの管内奥部の端面(トルクショルダ)又はその近傍における第2シール部を、いずれもボックスの対向表面に封止状態で当接させる(密着させる)ことによって所望のシール性を確保する。

しかし、実際には、これら第1シール部及び第2シール部をいずれもボックスに当接させて封止状態を維持することは容易ではなく、ボックスに密着していないシール部を介して水や油等がプロテクタとボックスとの間の空間に侵入し、これにより、ボックスの接触表面を被覆する固体潤滑被膜が劣化するという課題がある。

すなわち、特許文献5に開示された、図7に示すボックス用プロテクタ4の本体4aは、例えばナイロン等の弾性を有する樹脂材料からなる。プロテクタ本体4aと同じ材料からなる第1シール部4b及び第2シール部4cは、多少の弾性を有するものの、その弾性を利用したシール性には自ずと限界がある。そのため、ボックスの管内奥部の端面(トルクショルダ)又はその近傍で隙間の発生を確実に防止することは容易ではない。また、5cで示されるプロテクタの尖った先端の部が欠けやすい。

特許文献6に開示された、図8に示すボックス用プロテクタ6は、環境温度の上昇によりプロテクタ本体6aが膨張してプロテクタ本体6aの軸方向長さが増加すると、これをボックス7に装着する際に、その弾性シールリング6cがボックス7の端面7aに密着するより先に先端部6dがトルクショルダ7bに密着してしまい、弾性シールリング6cと端面7aとの間に隙間が生じてしまう。この隙間が例えば0.03mm程度と微小であっても、水などが隙間を通過してボックスとプロテクタとの間の空間に侵入する。

このように、従来の管ねじ継手のボックス用プロテクタは、ボックスに装着した際に、ボックスの端面やボックスの管内奥部の端面(トルクショルダ)に隙間が生じ、発生した隙間からの水又は油や埃の侵入を確実に防止することは困難であった。

本発明の目的は、ボックスの端面及び管内奥部の端面の両方に確実に密着することによって、水又は油や埃がボックスとプロテクタとの間の空間に侵入することを防止し、これにより、ボックスの接触表面を被覆する固体潤滑被膜の劣化や該接触表面の腐食を防止できる管ねじ継手のボックス用プロテクタを提供することである。

本発明は、完全ねじ山を含む雌ねじ部及び少なくともショルダ面を含むねじ無し金属接触部からなる接触表面を備え、前記ショルダ面は、管ねじ継手の管軸垂直方向に対して角度θで継手中心に向かって後退するように傾斜するか(θ>0)、又は管軸垂直方向に平行である(θ=0)、ピン−ボックス構造の管ねじ継手のボックスの接触表面を保護するためにボックスに装着される管ねじ継手のボックス用プロテクタであって、前記ボックス用プロテクタは、前記ボックスの接触表面より大きな軸方向長さを有する樹脂製の筒状体を備え、かつ前記ボックスの接触表面の両側でボックス表面との当接により第1シール部及び第2シール部を形成することができる構造を備え、前記筒状体はその外周面に前記ボックスの雌ねじ部の少なくとも一部の完全ねじ山と螺合する雄ねじ部を有するものであり、下記を特徴とするボックス用プロテクタである: 前記プロテクタの筒状体が、前記ボックスのショルダ面に封止状態で当接して第1シール部を形成するショルダ面を有し、このショルダ面は、管軸垂直方向に対して角度θPで継手中心に向かってプロテクタ挿入方向において後方側に傾斜し、ここでプロテクタのショルダ面の傾斜角度θPはボックスのショルダ面の傾斜角度θより大きく、 前記プロテクタの筒状体は、前記プロテクタのショルダ面の近傍の外周面に円周溝部を有し、この円周溝部の位置及び断面形状は、プロテクタ装着時に加えられるトルクによってこの溝部周辺の筒状体部分が弾性変形して前記円周溝部の開口面における軸方向距離を縮小させることによって前記第1シール部の形成を確実にするものであり、 前記第2シール部は前記プロテクタの取付けられた弾性材料とボックス表面との当接により形成され 前記プロテクタ挿入方向における前記プロテクタの後方端面には凹部が設けられるとともに前記プロテクタの内周面には前記後方端面側の一端に円形折り曲げ部が形成されている金属筒状体が嵌装されており、 前記円形折り曲げ部が前記凹部に挿入され、前記円形折り曲げ部のスプリング作用により前記金属筒状体が前記プロテクタに固定されている。

好適態様において、本発明に係るボックス用プロテクタは下記の少なくとも1つの条件を満たす。

・前記円周溝部が、V字型、円弧型、U字型、台形型、及びそれらの組み合わせからなる軸方向断面形状を有する。 ・前記弾性変形により、前記円周溝部の開口面における軸方向距離が0.2mm以上縮小する。 ・前記第2シール部が、プロテクタの筒状体の外周面に、プロテクタをボックスに装着した際にボックス端面に封止状態で当接するように配置された弾性シールリングから構成される。 ・前記ボックスの少なくとも雌ねじ部を含む接触表面の一部又は全部が固体潤滑被膜で被覆されている。 ・前記プロテクタの筒状体の雄ねじ部のねじ山高さ(H1)と、ボックスの雌ねじ部の完全ねじのねじ山高さ(H2)とが、H1>H2を満たし、かつH1とH2の差[=H1−H2]がボックスの雌ねじ部のねじ山頂部における固体潤滑被膜の最大被膜厚みより大きい。 ・前記プロテクタの雄ねじ部のねじ山数が3〜5の範囲内である。

本発明に係る管ねじ継手のボックス用プロテクタは、ボックスの端面及び内奥部のショルダ面の両方に確実に封止状態で当接させて、両方の位置にシール部を形成することができるので、水、油、埃などがボックスとプロテクタとの隙間に侵入するのを確実に防止できる。その結果、ボックスの接触表面の腐食が防止され、この接触表面が固体潤滑被膜で被覆されている場合は該被膜の劣化を防止できる。

図1A、1B及び1Cは、それぞれ、管ねじ継手のボックス、本発明に係るボックス用プロテクタ、及びボックスに装着されたプロテクタを示す説明図である。

本発明に係るボックス用プロテクタの円周溝部の各種の管軸方向断面形状をボックスとともに示す説明図。

ボックスの雌ねじ山上に形成された固体潤滑被膜の軸方向における断面を模式的に示す説明図。

図4Aは、本発明に係るボックス用プロテクタを装着したボックスを一部簡略化して模式的に示す軸方向断面図であり、図4Bは、本発明に係るボックス用プロテクタの雄ねじ部と螺合したボックスの雌ねじ部の完全ねじの一部を模式的に示す軸方向断面図である。

図5A〜図5Cは、ボックス用プロテクタの雄ねじ部と螺合したボックスの雌ねじ部の完全ねじの一部を模式的に示す軸方向断面図。

出荷時の油井管用鋼管とカップリングの状態を示す典型的な管ねじ継手の組み立て構成を模式的に示す説明図。

特許文献5に開示されたボックス用プロテクタを示す説明図。

特許文献6に開示されたボックス用プロテクタを示す説明図。

本発明に係るボックス用プロテクタは、図6に示すようなカップリング方式の管ねじ継手のみならず、鋼管の一端をピンとし他端をボックスとするインテグラル方式の管ねじ継手のボックスにも適用可能である。カップリング方式のねじ継手は、典型的には鋼管の端部の外周面をピンとし、カップリングの内周面をボックスとするが、その反対の組み合わせとすることも可能である。

以下の説明では、ねじ部がテーパねじであり、かつねじ無し金属接触部がシール面を有する、気密性に優れた特殊ねじ継手に装着されるボックス用プロテクタを例にとって本発明を説明する。しかし、管ねじ継手のねじ部はテーパねじでなくてもよい。また、ねじ無し金属接触部がシール面を有しておらず、ショルダ面のみから構成される管ねじ継手にも本発明に係るプロテクタを適用することができる。さらに、管ねじ継手のねじ山形状も特に制限されない。API規格に従ったバットレスねじ(台形ねじ)でも、ねじ山のロードフランク角が負の値をとる、いわゆるフックねじでもよい。

ボックス用プロテクタは、その前方端部より少し手前で閉鎖したタイプのものを例にとって説明する。ここで、前方端部とは、プロテクタを装着する際のプロテクタの挿入方向における前方側の端部を意味し、先端部ということもある。しかし、プロテクタを構成する筒状体は、両端が開口していてもよく、また閉鎖型の場合でもその閉鎖位置は特定されない。また、取り外し可能なフタでプロテクタの後方端部を閉鎖したタイプであってもよい。

本発明に係るボックス用プロテクタにより保護される管ねじ継手のボックスは、少なくともねじ部、好ましくはねじ部とねじ無し金属接触部とを含む接触表面全体に、後述する固体潤滑被膜を有していることが好ましい。しかし、ボックスの接触表面が潤滑被膜を有していないか、又は粘稠液体潤滑被膜を有する管ねじ継手に対しても本発明を適用することができる。

図1A、1B及び1Cは、それぞれ、油井管用ねじ継手のボックス11、本発明に係るボックス用プロテクタ21、及びボックス11にプロテクタ21を装着した状態を示す説明図である。図2は、本発明に係るボックス用プロテクタの円周溝部の各種の軸方向断面形状をボックスとともに示す説明図である。

以下、これらの構成要素を順次説明する。管ねじ継手は、互いに螺合するピンとボックスとで構成されるが、本発明はボックス用プロテクタに関するので、ピンについては説明しない。

[ボックス11] ボックス11は一般に円筒形外周面11aを有し、内周面11bには、テーパねじである雌ねじ部12と、シール面13と、最奥部のショルダ面(トルクショルダ)14を備える。シール面13は、典型的には図示のように、ねじ部12とショルダ面14との間に配置される。シール面13は、図示しないピンの外周面に環状に形成されたシール面と所定の干渉量で当接して、メタルシール部を形成する。また、ショルダ面14は、図示しないピン先端の端面に形成されたショルダ面と所定干渉量で当接する。ボックス11の雌ねじ部12はピンの雄ねじ部と螺合する。

このように、ボックス11の雌ねじ部12、シール面13、及びショルダ面14は、ねじ継手を締結した時にピンの対応部位と接触する接触表面となる。雌ねじ部12に形成されている雌ねじ山はすべてが完全ねじであってもよいが、雌ねじ部12の一方又は両方の端部付近のねじ山は不完全ねじとすることもある。

図示例では、ボックス11のショルダ面14は、ピン先端に設けたショルダ面が当接するように、ボックス11の内周面11bの最奥部の位置(ピン先端位置)に設けられる。しかし、ショルダ面14は、ボックス11の開口端部11cの位置、あるいはピン先端位置とボックス先端位置の両者に設けることも可能であり、その場合にも本発明を適用することができる。

ボックス11のショルダ面14は、継手の軸方向(管軸方向)に対して垂直面から構成されていてもよいが、好ましくは内周面11bから継手中心に向かってボックスの開口端部(入口)11cの方向(すなわち、プロテクタ21の挿入方向において後方側)に突き出た傾斜面から構成される。具体的には、ショルダ面14は、管軸垂直方向(継手半径方向、図1では上下方向)に対して角度θで前記挿入方向において後方側に傾斜している。しかし、前記のように、ショルダ面14はθ=0°である垂直面であってもよい。

ボックスの雌ねじ部12は、図3、4に軸方向断面図として模式的に示すように、固体潤滑被膜15で被覆されていてもよい。好ましくはボックスの接触表面の全体(すなわち、雌ねじ部12、シール面13及びショルダ面14)が固体潤滑被膜15で被覆される。ボックスの接触表面以外の内周面と開口端面11cも、特に防錆のために、固体潤滑被膜で被覆してもよい。

固体潤滑被膜は、一般に適当なバインダ中に潤滑性粉末(固体潤滑剤)を分散させて含有する被膜である。管ねじ継手用の固体潤滑被膜については従来から多くの提案がなされており、これらを適宜採用することができる。代表的な固体潤滑被膜は、比較的耐熱性に優れたエポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等の有機樹脂をバインダとする被膜であるが、シリカゾル、加水分解性シラン化合物、チタンアルコキシド、さらにはアルカリ金属シリケート、リン酸塩等の無機質造膜成分を利用した固体潤滑被膜も知られている。

固体潤滑被膜を2層以上形成するか、或いは固体潤滑被膜に液状潤滑被膜や固体防食被膜を積層することも提案されており、そのような被膜構成を採用することも可能である。

本発明において、ボックスの少なくともねじ部に形成するのに特に適した固体潤滑被膜は、特許文献3に開示されるような、塑性もしくは粘塑性型のレオロジー特性を有するバインダ中に潤滑性粉末を含有する被膜であり、好ましくはバインダが溶融状態である組成物からのスプレイ塗布(すなわちホットメルト塗布)により形成された被膜である。ボックスは、典型的には短いカップリングに形成されるので、典型的には長い鋼管の端部に形成されるピンの表面に比較して、ホットメルト型の塗布作業を容易に実施できる。

この種の固体潤滑被膜は、マトリックス70〜95質量%、潤滑性粉末5〜30質量%から構成されることが好ましい。潤滑性粉末の割合がこのように少量であるので被膜全体としてもマトリックスの特性である塑性もしくは粘塑性型のレオロジー挙動を示すことができるからである。塑性もしくは粘塑性型レオロジー挙動を有するマトリックスは、融点が80〜320℃の範囲であることが好ましい。

このマトリックスは、熱可塑性ポリマー、ワックス、金属石鹸、及び潤滑性粉末からなるものであることが好ましく、より好ましくはさらに腐食抑制剤及び水不溶性液状樹脂を含有する。

固体潤滑被膜の膜厚(平均厚み)は10〜100μmの範囲内とすることが多く、好ましくは25〜60μmの範囲内である。

ボックス11の上記以外の各部の構成は、この種のボックスとして慣用されるものと同じでよく、このような構成は当業者には周知であるので、ボックス11に関するこれ以上の説明は省略する。

[ボックス用プロテクタ21] ボックス用プロテクタ21は、ボックス11を保護するためのプロテクタであって、ボックス11の内部にねじにより装着されるように設計される。ボックス用プロテクタ21は、図示例にあっては、プロテクタの挿入方向において前方側の端部21bの手前で閉鎖され、他端側(後方側の端部21c)は開口した筒状体21aからなる。筒状体21aは、このプロテクタが保護するボックス11の接触表面より大きな軸方向長さを有し、その外周面に、ボックス11の雌ねじ部12の雌ねじと螺合する雄ねじを有する雄ねじ部22を備える。

プロテクタ21の筒状体21aは樹脂製であり、典型的には外周面のねじ部も含めて樹脂の射出成形により製造される。樹脂は従来から管ねじ継手のプロテクタの製造に利用されてきたものを使用できる。具体例としては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンなどを挙げることができる。

樹脂製の筒状体21aの内部に、両端が開口した金属筒状体24を嵌装することが多い。従って、プロテクタの筒状体21aは、樹脂製、又は金属で補強された樹脂製である。プロテクタのボックスと接触する部分を金属より相対的に軟質の樹脂から構成することにより、プロテクタをボックスに装着する際にボックス表面が傷つくのを防止することができる。

金属筒状体24の外形形状は、プロテクタの筒状体21aの内周面に嵌装できればよい。図示例では、プロテクタ21の後方端面21cに凹部21dを形成するとともに、金属筒状体24の後方端部にプレス加工により円形折り曲げ部を形成し、前記凹部21dに挿入した端部折り曲げ部のスプリング作用で金属筒状体24をプロテクタ21に固定している。他の固定方法も採用できる。このような金属筒状体を嵌装しない場合には、プロテクタの閉鎖部25を後方端面21c又はその近傍に配置することもできる。

ボックス用プロテクタ21は、これが保護するボックス11の接触表面の両側で、ボックスとの当接によりシール部を形成する。これらのシール部をそれぞれ第1シール部及び第2シール部という。好ましくは、第1シール部はボックス11のショルダ面14と当接し、第2シール部はボックスの開口端面11cと当接する。プロテクタ21の外面は、第1シール部及び第2シール部並びに雄ねじ部22を除いて、ボックス11の表面(カップリング内面)に接触しない形状とすることが好ましい。ボックス11のシール面13との接触が確実に防止されるように、シール面13とボックス用プロテクタ21の対向面との隙間を大きく設定することが好ましい。ボックス11の内周面の雌ねじ部12が図示のようにテーパねじである場合には、プロテクタ21の筒状体21aの外周面は、ほぼ同じ傾斜でのテーパ形状とすることが好ましい。プロテクタ21の内周面の形状は特定されず、図示のように略円筒形状であっても、或いはテーパ形状であってもよい。

ボックス用プロテクタ21の雄ねじ部22のねじ山数は、ボックス11の雌ねじ部12における完全ねじのねじ山全部と螺合するように、ボックス11の完全ねじ山数と同じに設定してもよい。この場合、ボックス用プロテクタ21の雄ねじ部22は、ボックス11の雌ねじ部12の完全ねじと対向するプロテクタ部分の軸方向の全長にわたって設けられる。

しかし、ボックス用プロテクタ21の雄ねじ部22の役割は、プロテクタ21をボックス11の所定位置に固定し、かつ油井管用鋼管が輸送や取扱い中に衝撃を受けた場合にプロテクタ21がボックス11から脱落することを防止することである。従って、極めて高い内外圧を常時受ける管ねじ継手の雄ねじ部及び雌ねじ部のような厳しいねじ締結を必要としない。そのため、好適態様にあっては、ボックス用プロテクタ21の雄ねじ部22のねじ山数は、プロテクタの固定及び脱落防止のために最低限必要な数に留めることが好ましい。そのようなねじ山数は3〜5であり、好ましくは3〜4、最も好ましくは3である。ねじ山数が2では、ねじ締結がぐらつき、プロテクタの固定及び脱落防止を図ることができない。

この場合、プロテクタ21の雄ねじ部22の位置は、図4Aに示すように、ボックス11の雌ねじ部12における完全ねじ部のうちボックスの入口(開口端部)11cに最も近いねじ山部分と対向する位置とすることが好ましい。それにより、プロテクタ21の雄ねじ部22のねじ山と干渉するボックス11の完全ねじ山は、その入口に最も近い部分のねじ山だけに限られるので、プロテクタ21の雄ねじ部22のねじ山との干渉に起因するボックス11の雌ねじ部の損傷や、この雌ねじ部12が固体潤滑被膜15で被覆されている場合は被覆の損傷を最小限に抑制することができる。

ボックス用プロテクタ21はショルダ面21bを有し、これがボックス11のショルダ面14に封止状態で当接することにより第1シール部を形成する。図1に示した態様では、プロテクタ21はその挿入方向における前方端部にショルダ面21b(この場合、このショルダ面21bをプロテクタの先端面ともいう)を有し、このショルダ面21bがボックス11の最奥部のショルダ面14と当接することにより第1シール部を形成する。

第1シール部を形成するボックス用プロテクタ21の先端面21bは、ボックス11のショルダ面14に当接するように、ボックス11のショルダ面14と同じ方向、すなわち、管軸垂直方向に対して継手中心に向かってプロテクタ挿入方向において後方に傾斜した傾斜面とし、プロテクタ21の先端面21bの傾斜角度θPは、これを当接させるボックス11のショルダ面14の傾斜角度θよりも大きくする(すなわち、θP>θ)。従って、ボックス11のショルダ面14が垂直である場合も、プロテクタのショルダ面21bは傾斜面とする。その理由については後述する。

ボックス用プロテクタ21の筒状体21aは、その外周面上であって、その先端面21bの近傍の位置に、外周面を一周する円周溝部30を備えている。円周溝部30の軸方向の断面形状は、図1に示すV字型に限られない。図2に示すように、円弧型、U字型、台形型、それらの組み合わせなどの断面形状とすることもでき、これら以外断面形状とすることもできる。U字型には、U字の口を狭めた馬形も含まれる。

円周溝部30の位置及び断面形状は、プロテクタ装着時に加えられるトルクによってプロテクタ本体21の溝部30の近くの部分が弾性変形することによって、記第1シール部を形成可能にするものとする。すなわち、プロテクタ装着時にプロテクタ21の先端面21bがボックス11のショルダ面14と当接した時に、プロテクタ本体21aの溝部周辺が弾性変形することにより、溝部より先端側(溝部30と先端面21bとの間の部分)のプロテクタ本体部分26は後方側に、溝部の軸方向の幅が縮小するように曲がることができる。それにより、プロテクタ21の先端面21bの傾斜角度は小さくなる。従って、ボックス11のショルダ面14の傾斜角度θより大きなプロテクタ21の傾斜角度θPが、ボックス11の傾斜角度θと同じ傾斜角度に小さくなるまで、プロテクタをボックス内に挿入する(ねじ部の螺合によって)ことにより、プロテクタ21の先端面21bをボックス11のショルダ面14に線接触ではなく面接触により密着させて、第1シール部のシール性を向上させることができる。

図1Aに示すように、同じ外径サイズの管ねじ継手であっても、肉厚の相違によりボックス11の内径D1は相違する。また、ボックスショルダ面の傾斜角度θもボックスによって変動することがある。プロテクタの先端面の傾斜角度θPをθより大きくすることによって、同じ形状のボックス用プロテクタ21を、異なる肉厚や異なる傾斜角度θを有する複数種のボックス11に対して適用可能とすることが容易となる。θPとθとの角度差は5°〜20°の範囲内とすることが好ましい。

ボックス用プロテクタ21の第1シール部(先端面21b)とは反対側の端部21cの近傍に第2シール部を設けて、プロテクタ21の装着によりボックス11の接触表面を外部から遮断する。こうしてボックスの接触表面が水、油、埃、異物などと接触することが避けられる。その結果、この接触表面が固体潤滑被膜で被覆されている場合には、被膜への埃や異物の付着が避けられ、また被膜の劣化が抑制される。接触表面が固体潤滑被膜で被覆されていない場合には、接触表面の腐食が抑制される。これらの現象はいずれも耐焼付き性低下の原因となるので、本発明によりボックスの耐焼付き性を改善することができる。

第2シール部は、プロテクタ21をボックス11に装着した時に、ボックスの接触表面より外側になる位置に配置する。従って、プロテクタ21の軸方向長さは、このプロテクタを装着するボックスの接触表面の軸方向長さより大きくなる。

プロテクタ21の第2シール部は、ボックス11の接触表面より外側(図示例では後方側)でボックスとの間に信頼できるシール部を形成できるものであれば、特定のシール手段に制限されない。シールの容易さを考慮すると、ボックス11の開口端面との当接により第2シール部を形成することが好ましい。第2シール部は、シール効果が高い、弾性材料を利用したシール構造とすることが好ましい。

好適態様では、図1B及び1Cに示すように、プロテクタ21をボックス11に装着した時にボックス入口の開口端面11cが当接する(突き当たる)ように、弾性シールリング28をプロテクタ21の筒状体21aの外周面に配置する。これにより、ボックスの内周面全体とボックス開口端面を外部から遮断することができる。弾性シールリング28は、軸方向に少なくとも0.5mm変位(収縮)可能な弾性を有するものであることが好ましい。シールリングの軸方向の厚みは5mm以上とすることが好ましい。好ましい弾性シールリングの材質としてはニトリルゴム、シリコンゴムなどが例示される。

図示のように、シールリング28を固定するため、このシールリング28の厚みよりわずかに狭い軸方向の幅をもつ円周溝部31をプロテクタ21の外周面に設けてもよい。この溝部31の前方側の側壁は、プロテクタ装着時のボックス開口端面11cの位置よりわずかに(上記変位の大きさより小さい距離で)前方側に位置させて、プロテクタ21をボックス11に装着した時に、弾性シールリング28がボックスの開口端面11cにより圧縮され、シールリング28の軸方向の厚みが縮むことが好ましい。図示例では、シールリングの厚みが約1.0mm縮む。それにより、弾性シールリング28による第2シール部のシール性能が向上する。

第2シール部を構成する弾性シールリング28は、上記のようにボックス11の開口端面11cに密着する。図示例では、ボックスの開口端面11cは、軸方向に対して垂直な面であるので、弾性シールリング28の側面も垂直面とする。

図1A及び1Bにおいて、符号PCLは、未装着時のプロテクタ先端面21bとプロテクタ外周面との交点から、第2シール部(図示例では円周溝部31の前方側の側壁)までの軸方向距離(mm)であり、符号HLは、プロテクタ先端面21bとプロテクタ外周面とが交わる角から円周溝部30の前方側の開口縁部までの軸方向距離(mm)であり、符号Hは管軸垂直方向における円周溝部30の深さ(mm)であり、符号PAはプロテクタ先端面21bにおけるプロテクタ外周面の直径(mm)であり、符号MULは、ボックス11の開口端面11cからシール部13とショルダ面14との交わる角までの軸方向距離(mm)であり、符号DAはボックス11のシール部13とショルダ面14とが交わる角における直径(ショルダ面14の外径)(mm)である。

PCL=MUL±0.5(mm)であることが好ましく、PCL=MULであることがより好ましい。PCL=MULであっても、プロテクタ装着時には円周溝部30が縮むことでプロテクタ21の軸方向長さが短くなるので、シールリング28は圧縮される。

円周溝部30とプロテクタの先端面21bとの軸方向における離間距離であるHLは、0.5〜2.0mmであることが好ましく、1.0〜1.5mmであることがより好ましい。このように溝部30がプロテクタの先端面21bから離れていることで、図7に示した従来のボックスプロテクタにみられる円周溝部の角が欠けやすいという問題が避けられる。

円周溝部30の深さであるHは、プロテクタ装着時にプロテクタ21の先端面21bに対してボックス11のショルダ面14により押し込みトルクが加えられた時に、溝部周辺の弾性変形が可能であって、なおかつ溝部での破断が起こらないように選択する。この弾性変形により、溝部30の頂部での溝幅(軸方向長さ)が0.2mm以上縮まることが好ましく、0.3mm以上縮まることがより好ましい。図1に示す例では、プロテクタ装着時に溝部頂部の溝幅が約0.5mm縮む。そのような弾性変形に必要な溝部30の深さHは、プロテクタを構成する樹脂種によっても変動するが、HLが1.0〜1.5mmである場合のHは3.0〜6.0mmであることが好ましく、4.0〜5.0mmであることがより好ましい。なお、先端面21bにおけるプロテクタの肉厚は4.5mm以上であることが好ましい。

プロテクタ21をボックス11に装着した時にボックス11とプロテクタ21との間に、ボックスの内周面がプロテクタのねじ部22を除く部分と接触するのを防ぐ隙間ができるように、PA

特許文献5、6に関して上述したように、ボックス11の端面11c又は最奥部のショルダ面14のいずれかでプロテクタにより付与されるシールが不十分となるのは、樹脂材料の射出成形により製造されるプロテクタ21に不可避的に存在する寸法のばらつきである。樹脂製のプロテクタ本体21aは、材料の縮小や膨張を考慮すると、加工精度として1mm程度の公差が不可避である。

さらに、ボックス11の本体も、微小な公差があるため、寸法のばらつきがある。このため、ボックス11の端面11cと奥部のショルダ面14の両方にボックス用プロテクタ21を同時に接触させるためには、ボックス用プロテクタ21のシール部に、寸法ばらつきを吸収し得る弾性構造を持たせることが有利である。

特許文献6により開示された形状を有するボックス用プロテクタであっても、プロテクタをボックスに装着させる時の締付けトルクを、従来のトルクよりも増加させることによって、ボックスの入口端面11c及び他端のショルダ面14の両方でのシール性を高めることは可能である。しかし、これは、施工現場でボックスからプロテクタを取外す際にも同等の高トルクが必要になるので好ましくない。従来のプロテクタ装着トルクと同等のトルクにより容易にボックス両端を接触できることが実用上好ましい。

シール性能を考慮すると、プロテクタを構成する樹脂の弾性変形を利用したシール部より弾性シールリングを用いる方が、得られる弾性効果が大きく、シールに有利である。このため、プロテクタの2つのシール部をいずれも弾性シールリングとすることも考えられる。しかし、2つの弾性シールリングに要するコスト、及び井戸内へのシールリングの落下の危険が増加することも勘案しなければならない。

そこで、本発明に係るボックス用プロテクタでは、ボックス11の開口端面11cと接触するプロテクタの部分だけに弾性材料、具体的には弾性シールリング28を配置してシールを形成する。一方、ボックス最奥部のショルダ面14と接触するシールは、プロテクタ21の本体21aの先端面21b近傍に円周溝部30を設けることにより形成された軸方向に可撓性を有する弾性変形部により構成する。これら2つのシール部によって、ボックス用プロテクタ21が不可避的に有する寸法ばらつきを吸収し、ボックス11の開口端面11c及び最奥部のショルダ面14の両側の端面に確実に封止状態で当接するシール部とすることができる。それにより、ボックスの接触表面(固体潤滑被膜が形成されている場合は該被膜)の腐食、劣化、異物侵入による汚れや損傷を確実に防止できる。

[固体潤滑被膜とプロテクタねじ部との関係] ボックスの少なくとも雌ねじ部を含む接触表面は、前述したように固体潤滑被膜で被覆されていることが好ましい。それにより、コンパウンドグリスのような粘稠液状潤滑剤をねじ継手の締付けの都度ボックスの接触表面に塗布することが避けられ、ねじ継手の締付けの作業効率が高まる。

ところで、ねじ山を被覆する固体潤滑被膜の厚みはねじ山の軸方向断面において均一ではない。固体潤滑被膜は、一般に液状の被覆組成物をねじ継手の表面に塗布し、乾燥、加熱、冷却、紫外線照射などによって被膜を固化させることにより形成される。そのため、図3にねじ山頂部51、谷底部52、挿入面53及び荷重面54を有するねじ山について示すように、ねじ部に形成された固体潤滑被膜15は、ねじ山頂部51では中央部51aが厚く、両端ほど薄くなるように被膜厚みが軸方向に変化し、ねじ山頂部51の角部51bでは被膜厚みが極めて薄くなる。角部51bには液状の被覆組成物がそもそも付着し難いこと、及び被膜固化時に多くの場合に被膜の収縮が起こることが、この被膜厚み分布の原因であると考えられる。これに対し、液が溜まるねじ山谷底部52では被膜厚みは角部で最大となるが、ねじ山頂部51のような被膜厚みの軸方向の変動は少ない。

ボックス用プロテクタ21のボックス11への装着時にボックス11の雌ねじ部12の、特にねじ山頂部51において固体潤滑被膜15が剥離し易い。その理由として、ねじ山頂部51ではその角部51bの固体潤滑被膜15が非常に薄く、ボックス用プロテクタ21の雄ねじ部22との接触によってまず角部51bから固体潤滑被膜15が剥離し、その後にボックス用プロテクタ21の雄ねじ部22と干渉した時にねじ山頂部51の全体から固体潤滑被膜15が剥離してしまうことが推定される。

そこで、ボックス用プロテクタ21の雄ねじ部22のねじ山形状を、ボックス11の雌ねじ部12のねじ山頂部51との接触を避けてボックス11の雌ねじ部12のねじ谷底部52で主に接触させる形状とすることにより、ボックス用プロテクタ21の装着によるボックス11の雌ねじ部12に被覆された固体潤滑被膜15の剥離が防止され、ボックス用プロテクタ21を取り外した後のボックス11の耐焼付き性を著しく改善することができる。

そのために、プロテクタ21の雄ねじ部22のねじ山高さH1と、ボックス11の雌ねじ部12の完全ねじのねじ山高さH2とがH1>H2の関係を満たし、かつ、H1とH2の差[=H1−H2]がボックス11の雌ねじ部12を被覆する固体潤滑被膜15のねじ山頂部51での最大被膜厚みt(被膜が2層以上の場合は合計厚み)より大きくすることが好ましい。H1とH2の差は10〜1000μmの範囲内とすることが好ましい。より好ましくは、この差は最大被膜厚みtの1.5〜3倍程度とする。

ねじ山高さH1、H2が上述した関係及び条件を満たすことにより、図4Bに示すように、ボックス用プロテクタ21をボックス11に装着して両者のねじ部12、22を干渉させた時に、ボックス用プロテクタ21の雄ねじ部22のねじ山頂部22Aは、ボックス11の雌ねじ部12のねじ山谷底部12Bと干渉するが、ボックス11の雌ねじ部12のねじ山頂部12Aを被覆する固体潤滑被膜15と、ボックス用プロテクタ21の雄ねじ部22のねじ山谷底部22Bとの間には隙間が残り、ボックス11の雌ねじ部12のねじ山頂部12Aを被覆する固体潤滑被膜15がボックス用プロテクタ21の雄ねじ部22のねじ山と接触して損傷することが防がれる。

H1=H2であるか、H1

ボックス用プロテクタ21では、雄ねじ部22のねじ山頂部がボックス11の雌ねじ部12のねじ山谷底部と干渉するため、ボックス11のねじ山谷底部における固体潤滑被膜15の損傷は避けられない。しかし、前述したように、ねじ山谷底部の固体潤滑被膜15の被膜厚みはねじ山頂部の被膜厚みより相対的に大きく、特に谷底部の角において大きくなる。そのため、ボックス11の雌ねじ部12のねじ山谷底部がボックス用プロテクタ21の雄ねじ部22のねじ山と干渉しても、固体潤滑被膜15が完全に剥離することは起こり難く、ボックス11の雌ねじ部12のねじ山谷底部における固体潤滑被膜15が部分的に残存する。また、干渉で押しやられた固体潤滑被膜15がボックス11の雌ねじ部12のねじ山の側面へ移動することもある。このため、ねじ継手の締付け時にグリス状潤滑剤を塗布しなくても、ねじ山谷底部に残った固体潤滑被膜15や側面から回り込んだ固体潤滑被膜15によって、ボックス11の雌ねじ部12のねじ山谷底部にも十分な潤滑性が付与される。もちろん、ボックス11の雌ねじ部12のねじ山の頂部には健全な固体潤滑被膜15が存在する。つまり、ピンに特別に潤滑処理(例えば固体潤滑被膜による被覆)が施されていなくても、ボックス11の固体潤滑被膜15だけによりボックス用プロテクタ21の取り外し後も管ねじ継手の締結時の焼付きを効果的に防止できる。

ボックス11の雌ねじ部12におけるねじ山側面の固体潤滑被膜15の、ボックス用プロテクタ21による損傷を可及的に少なくするために、ボックス用プロテクタ21の雄ねじ部22のねじ山幅L2は、ボックス11の雌ねじ部12の完全ねじ山のねじ溝幅L1の0.5〜0.75倍とすることが好ましい。それにより、図4Bに示すように、ボックス11の雌ねじ部12がボックス用プロテクタ21による圧縮力又は引張力を受けても、ボックスねじ山の両側面のうち一方の側面の固体潤滑被膜15は、ボックス用プロテクタ21の雄ねじ部22のねじ山との接触が避けられ、傷つき難くなる。ねじ山幅L2が小さくなり過ぎると、ねじ締結力が不十分となる。

図5A〜図5Cは、ボックス用プロテクタ21の雄ねじ部22と螺合したボックス11の雌ねじ部12の完全ねじ山の一部を模式的に示す軸方向断面図である。

図5A〜5Cにおいて、ボックス11の雌ねじ部12は、ねじ山のロードフランク角(荷重面角度)αが負角である、互いに同一のフックねじ形状を有する。一方、ボックス用プロテクタ21の雄ねじ部22は、そのねじ山のロードフランク角βが、図5Aでは負角、図5Bでは垂直(0°)、図5Cでは正角と、互いに異なる。プロテクタ21の雄ねじ部22のねじ山のスタビングフランク角(挿入面角度)は垂直(0°)である。

ボックス11の雌ねじ部12のねじ山のロードフランク角αは、ほぼ垂直、すなわち−3°〜+3°の範囲内とされることが多い。その場合、プロテクタ21の雄ねじ部22のねじ山のロードフランク角βも、図5Bに示すように実質的に垂直(−2°〜+2°)とするのが好ましい。それにより、プロテクタ21をボックス11に装着した後のボックス11の雌ねじ部12とプロテクタ21の雄ねじ部22のロードフランク面(荷重面)での接触を安定させることができる。したがって、プロテクタ21の雄ねじ部22のねじ山数が3〜5と少ない場合でも、プロテクタ21のボックス11への装着が安定する。

一方、ボックス11の雌ねじ部12のねじ山が、ロードフランク角αが負角であるフックねじ形状を有する場合、プロテクタ21の雄ねじ部22のねじ山のロードフランク角βは、ボックス11の雌ねじ部12のねじ山のロードフランク角αに実質的に等しい(α±2°の範囲内である)か、それより小さくすることが好ましい。例えば、ボックス11の雌ねじ部12のねじ山のロードフランク角αが−3°の場合、プロテクタ21の雄ねじ部22のねじ山のロードフランク角βが−1〜−5°であれば、ロードフランク角αと実質的に等しい。その結果、上記のように、プロテクタ21のボックス11への装着が安定する。

さらに、プロテクタ21のロードフランク角βがボックス11のロードフランク角αより小さい(αが−3°の場合で、βが−5°よりさらに小さく、例えば−8°である)と、ボックスとプロテクタとの間のロードフランク面での接触が、ボックス11の雌ねじ部12のねじ山谷底の角部に集中するか、又はねじ山谷底角部のみとすることができる。その結果、プロテクタ21の雄ねじ部22のねじ山の、ボックス11の雌ねじ部12への接触領域がより限定され、ボックスねじ部頂部の固体潤滑被膜15を効果的に保護することができる。

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