【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の分野】本発明は、複合炭水化物を加水分解するための組成物及び方法に関する。 【0002】 【発明の背景】複素炭水化物は、例えば、グルコース、 ガラクトース、マンノース、フコース、グルコサミン、 ガラクトサミン及びシアリン酸の如き2種以上の単糖類から構成される。 後者の3種の糖類はN−アセチル化されてもよく、そしてどれも1つ又はいくつかの位置においてO−アセチル化されていてもよい。 これらの単糖類は、特定の原子部位において特定の順序で且つ特定の立体化学配置で互いに化学的に結合されて複合炭水化物構造を形成する。 【0003】未知の複合炭水化物の構造について十分な知識を得るためには、構成単糖類の種類及び相対的濃度、各単糖類残基に他の単糖類がグルコシド結合で結合されている位置、単糖類と単糖類との間にあるかかるグルコシド結合の各々の立体化学的配置(アノマー配置、 α又はβ)並びに単糖類単位の全序列を調べることが必要である。 この情報のすべてが所定の複合炭水化物の構造を特徴づけるのに通常必要とされる。 【0004】この構造上の知識を得るためには、複合炭水化物又はその化学的誘導体をその構成単糖類又はその対応する化学的誘導体に転化させることが必要である。 この目的に対して酸加水分解が通常使用される。 多糖類の酸加水分解操作はよく知られている。 例えば、Bierma nn氏のIn:Hydrolysis and Other Cleavage of Glycosid ic Linkages 、Biermann氏外の“Analysis of Carbohyd rates by GLC and Ms",CRD Press, pp. 27-41 (1989) を参照されたい。 最も一般的に使用される方法では、硫酸、塩酸又はトリフルオル酢酸(TFA)が用いられる。 酸加水分解は構成単糖類間にある化学結合の全部を同じ速度で破断せず、どちらかと言えば、個々の単糖類結合は複合炭水化物の完全加水分解に必要とされる時間にわたって異なる速度で加水分解される。 その結果、操作で初期に離脱された単糖類は、操作で後期に離脱された単糖類よりもかなり長い時間の間加熱及び酸性の条件を受ける。 これらの条件下に、異なる種類の単糖類が様々な速度で分解又は再配列(異性化)する。 【0005】かくして、個々の単糖類の安定性は異なる。 すべての単糖類は溶液状態において、“遊離”形態(例えば、アルデヒド又はケトン)か又は環化ヘミアセタール若しくはケタール形態のどちらかで“還元性”官能基を示す。 これらの形態は、溶液状態において自由に相互変換する。 還元性基は熱及び酸性の条件下に化学的分解を受けるので、複合炭水化物から得られた構成単糖類(又は誘導体)のうちのいくらかが複合炭水化物(又は誘導体)の完全加水分解に必要とされる時間中に失われ、かくして複合炭水化物の構造に関して誤った結論をもたらしているという大きな危険性がある。 その結果、 シアリン酸及び幾らかのデオキシ−糖類の如き幾らかの炭水化物単量体を容易に離脱する条件(即ち、時間、温度及び濃度)は、グルコースやマンノースの如き他のものを効率的に離脱するには不十分なものである。 【0006】アミノグリコシド結合を離脱させるにはより厳格な条件が通常使用されるが、しかしこれらは他のものの分解をもたらす。 アミノ糖類は、通常、N−アセチル化形態で存在する。 この代替法は、グリコシド結合を酸に対して不安定にする。 N−アセチル基及びグリコシド結合の競争的加水分解は、N−アセチル基がない状態のアミノ糖類残基をグリコシド結合の開裂に対して極めて安定にする。 この問題については、Hellerqvist 氏外がEur.J. Biochem.25:96(1972)で論議している。 提案された方法は離脱した炭水化物残渣を保護するけれども、それらは、それらの有用性を制限する幾つかの欠点に悩まされている。 例えば、長い後加水分解処理操作が必要とされ、そしてろ過工程は単量体誘導体の可能な回収率を低下させた。 今日の生物学上の重要な問題について言えば、炭水化物単量体の収率を最大限にし且つその分解を最小限にする複合炭水化物の加水分解法が必要とされている。 【0007】 【発明の概要】本発明は、複合炭水化物の酸加水分解を実施するための方法及び反応剤組成物に関するものである。 本発明の組成物は、脂肪族カルボン酸のクロル又はフルオル誘導体(例えば、トリフルオル酢酸)の如き揮発性酸と、酢酸の如きアシル源(即ち、アシル基を形成する化学剤又は化合物)とアルコールの如きアシル化剤又は水との混合物からなる。 この混合物は、炭水化物結合を加水分解するのに使用される。 個々の成分は、複合炭水化物が加水分解工程に先立って受けた誘導体化によって定められた順序で加えられる。 【0008】本発明の方法は、一般には、加水分解及び脱アシルの2つの工程で実施される。 酸混合物の組成は、複合炭水化物中のアミド基の加水分解から形成され得る遊離アミノ基のN−アシル化を促進し且つ第一工程においてすべてのグリコシド結合を加水分解するように設計される。 酸混合物のこの特性は、個々のN−アセチル−グリコサミニド結合の促進された迅速な加水分解を保証する。 生じる離脱グリコシドヒドロキシル基のその後のアシル化は、早期に離脱した残基の酸接触分解速度を低下させる。 1つの具体例では、単糖類単量体の定量的離脱は、比例的に低い濃度のトリフルオル酢酸(TF A)、酢酸、水及び熱を使用して最も安定なグリコシド結合を加水分解させるのに十分な時間を許容することによって達成される。 反応条件は、単量体の定量的離脱を誘発するがしかし単量体の分解を最小限にするように選択される。 加水分解が完了したときに、反応混合物の酸性成分は単に蒸発される。 第二工程では、TFA(又は他のクロル若しくはフルオル脂肪族カルボン酸)と水との混合物が次いで加えられ、そしてこの混合物はすべてのエステル化ヘミアセタールを加水分解させるために加熱される。 十分な時間後、混合物は蒸発され、しかしてその後に単量体の定量的で且つ定性的な混合物が残される。 この操作は、これまで使用されている操作よりも個々の単量体の回収率を向上させる。 【0009】本発明の酸混合物の組成物及びそれらの使用法は、幾つかの利益を提供する。 炭水化物単量体の分解が最小限にされ、そして優秀な定量的且つ定性的な単量体回収率が達成される。 後加水分解処理は簡素化され、しかして操作の自動化が容易になる。 例えば、最初の酸混合物を蒸発させるのに真空蒸発の如き都合の良い蒸発法を使用することができる。 脱アシル用のTFA: 水混合物の添加を自動化することができる。 その後の真空蒸発の反復によって、所望の生成物が残される。 この方法は、炭水化物単量体を得るのに迅速であり、そして追加的な容器、搬送工程、ろ過操作又は蒸発以外の溶剤除去工程を全く必要としない。 【0010】本発明の組成物及び方法は、複素炭水化物又はその化学的誘導体の加水分解及び得られた単量体又は対応する誘導体のその後の分析を必要とする分析操作に対して有用である。 単糖類の分解が最小限にされるが、このことは、後続の分析の精度を向上させ且つ操作全体に対して少量の試料を使用するのを可能にする。 【0011】 【発明の具体的な説明】本発明の反応剤組成物及び方法は、炭水化物を加水分解するための方法を提供する。 この方法は生来の又は誘導体化した炭水化物試料をその対応する単糖類成分に加水分解するのを可能にし、次いでこの成分は更に誘導体化しそして例えば炭水化物の量、 結合及びアノマー配置を調べるために分析することができる。 本発明の組成物及び方法は、未知の炭水化物を分析するのに使用することができ、そして個々の単量体の分解を最小限にしながら炭水化物を加水分解するのに特に有用である。 【0012】本発明の方法は、すべての種類の炭水化物を分析するのに使用することができる。 本明細書で使用する用語「炭水化物」は、広く言えば、結合した水素及び/又はヒドロキシル基を有する炭素主鎖によって特徴づけられる一群の化合物を意味する。 他のヘテロ原子又は基例えば窒素又はアミン基が炭素分子に結合されてもよい。 炭水化物としては、例えば、単純及び複合糖類、 多糖類並びに少糖類が挙げられる。 一般的には、炭水化物重合体は、少なくとも2種の個々の単糖類単量体から構成される。 本明細書における用語「単量体」は、糖類又は糖類誘導体(例えば、グルコース、ガラクトース、 マンノース、フコース、グルコサミン、ガラクトサミン)の如き1つの個々の単糖類単位を意味する。 用語「二量体」は2つのかかる単位、「三量体」は3つのかかる単位、・・・を意味する。 【0013】生物学系では、炭水化物は、蛋白質又は脂質の如き巨大分子に結合されて糖共役体を形成する場合が多い。 糖蛋白質、糖脂質及びグルコサアミノグリカンが糖共役体の例である。 この融通性の結果として、これらの群の化合物のいずれ1種の溶解度特性は、生来の化合物並びに結合及びアノマー分析を行う目的で作られたその化学的誘導体の両方で広く変動する。 【0014】本発明の反応剤組成物は、クロル又はフルオル脂肪族カルボン酸とアシル化剤(アシル源)とアルキル化剤との組み合わせからなる。 トリフルオル酢酸(TFA)と酢酸と水との組み合わせが好ましい組成物である。 炭水化物単量体の有意な分解を引き起こさずに炭水化物結合を加水分解させるに有用なTFA、酢酸及び水の比率は、約5:20:75〜約15:20:65 である。 TFAの代わりに他の中ないし強揮発性の酸を用いることができる。 かかる酸としては、例えば、脂肪族カルボン酸のクロル及び/又はフルオル誘導体(例えば、モノ又はジフルオル酢酸)並びに単独で又は脂肪族アルコールを含めて他の溶剤との共沸混合物状態のどちらかで低い沸点を有する同様な類似体が挙げられる。 塩酸(HCI)及び弗化水素酸(HF)を用いることもできるが、有機酸特にTFAが好ましい。 【0015】酢酸の他に有用なアシル源としては、ぎ酸、プロピオン酸又はそれよりも高級なアシルカルボン酸が挙げられる。 【0016】水の代わりに使用することができるアシル化剤としては、メタノール又はエタノールの如きアルコールが挙げられる。 分析しようとする物質の物理的特性によって、使用しようとする成分の比率及びそれらを試料に適用する順序が決定される。 【0017】第一工程のための酸混合物の濃度は、分析しようとする炭水化物の種類、大きさ及び化学的性状に左右される。 本法の好ましい具体例では、TFAの濃度は約0.4M〜約1.3Mであり、そして酢酸の濃度は約3M〜約12Mである。 【0018】本発明の方法は、一般には、加水分解及び脱アシルの2つの工程を包含する次の操作に従って実施される。 2つの一般的な操作について記載するが、その1つは生来の炭水化物に対して好適であり、そしてもう1つは誘導体化炭水化物に対して最も適している。 用語「誘導体化炭水化物」は、炭水化物鎖中の単糖類のうちの1つ以上がアシル化されている、例えば、1つ又は幾つかの位置にアセチル又はメチル基を有する炭水化物を意味する。 生来の炭水化物を組成分析のために加水分解(又は解重合)するには、興味のある炭水化物に先ず水を混合し、次いで酸(例えば、TFA及び酢酸)を接触させそしてこの混合物を加熱する。 【0019】誘導体化(例えば、メチル化又はアシル化)炭水化物をそれらの対応する単量体に加水分解するには、炭水化物に先ず酸部分を混合し、次いで水を加えそして混合物を加熱する。 これらの方法は、個々の糖残基を結合するグリコシド結合の開裂による生来の又は誘導体化したポリ−又はオリゴマー炭水化物成分の定量的且つ定性的解重合をもたらす。 【0020】初期の加水分解工程は、一般には、高められた温度で行われる。 この目的に対して、約120℃までの温度が効果的であり、分解を誘発しない。 たいていの炭水化物に対しては、加水分解工程は、約80℃〜約110℃好ましくは約90℃〜約105℃の温度で実施される。 所望の時間は、温度に応じて変動する。 例えば、約100℃では、完全解重合は、炭水化物分子の大きさに応じて一般には約2〜4時間を要する。 加水分解反応で形成したヘミアセタールはアシル化によって自動的に保護され、しかして全反応時間の臨界性が低められる。 【0021】解重合加水分解が一旦完結すると、加水分解用の酸及び水は、単量体混合物から例えば真空蒸発によって容易に除去される。 第一加水分解工程で得られたアシル化単糖類は、次いで、アシルカルボキシル基を加水分解することによって第二脱アシル工程で脱アシルされる。 第一工程における解重合速度は個々の種類の残基及びそれらの置換度に依存ししかしてその反応を臨界的にするのに対して、第二工程における脱アシル反応は、 関連する糖類に関係なく極めて類似した速度で生じる。 この工程における加水分解の機構は、糖残基のグルコシド又は環酸素よりもむしろアシルカルボニル基にかかわる。 第二の脱アシル工程では、第一加水分解工程から得られた単量体誘導体(これらは解重合反応間に部分的にアシル化される)は、それにクロル又はフルオル脂肪族カルボン酸(TFAの如き)及び水を含有する混合物を適用することによって遊離糖誘導体に脱アシルされる。 この工程に対して、酸:水の最適比率は約10:90〜 約20:80である。 好ましい温度範囲は、約80℃〜 100℃である。 反応は約30分内で完了するが、これはエピメル化及び分解反応を最小限にする。 この工程における好ましい酸成分はTFAであるが、しかし他の中ないし強揮発性の酸をTFAの代わりに使用することができる。 かかる酸としては、脂肪族カルボン酸の他のフルオル又はクロル誘導体、HCI及びHFが挙げられる。 【0022】この二工程法は、単量体の分解を最小限にし、しかもろ過、分離又は溶剤洗浄及び/又は除去工程が全く必要でないので後加水分解処理を最小限にする。 この方法は環境を汚染せず、そして追加的な溶剤が全く必要とされない。 両方の工程とも、同じ反応容器で実施することができる。 【0023】別法として、第二の脱アシル工程はアンモニアのメタノール溶液での処理によって行うことができるが、しかし反応時間は比較的長くなり、しかしてこの別法は自動化には不向きである。 【0024】本発明の反応剤組成物及び方法は、単量体単位を保存しながら未知の複合炭水化物を加水分解するのに使用することができる。 第一工程で使用される反応剤組成物は、幾つかの利益、即ち、全てのグルコシド結合の定量的開裂、アシル化及び/又はメチル化又はアルキル化した少糖類又は多糖類の定量的開裂、連続的なN −再アシル化(これによる対応するグルコシド残基の迅速な加水分解速度の維持)、開裂反応で形成したヘミアセタールの保護的アシル化、早期に離脱したグリコシドの保護のための解重合及びアシル化、並びに反応剤成分の添加順序の制御可能性を提供する。 これは、生来の又は誘導体化した炭水化物の溶解化(これは、最終的には分析の質を決定する)を最大限にし且つ促進する。 【0025】第二の脱アシル工程は、第一工程で形成されたアシルヘミアセタール形態の急速な加水分解を提供する。 加水分解速度は、関連する糖残基に対するその相対的独立性の故に全ての単量体単位でほぼ同じである。 【0026】未知の炭水化物について完全な構造上の知識を得るためには、(1)構成単量体の種類及び相対的濃度、(2)他の単量体に対する結合が行われるところの各単量体の部位及び(3)単量体と単量体との間の結合の立体化学的配置(アノマー配置)を調べることが必要である。 これらの3つの基準に共通な特徴は、生来の、メチル化した又はアセチル化した炭水化物成分の加水分解にかかわる第一加水分解工程である。 本発明の方法で行われる解重合−保護の総合反応は、研究者に対して、適当な誘導体化及び分離後に同定することができる各成分の定量的且つ定性的試料を提供する。 全ての意図する構造測定にはこれらのデータを得ることが必須である。 【0027】本発明の操作は、自動化することができ、 これによって移送工程における分解及び損失を最小限にすることによって分析を促進し且つその質を向上させることができる。 【0028】 【実施例】本発明に従った保護操作を使用して、フェツインのグリコシル部分からのシアリル残基の定量的加水分解及びそれに続く回収を実施した。 この操作を使用して、リポ多糖類の結合分析及び3,6−デオキシヘキシトール誘導体の100%回収率が得られた。 第一の加水分解工程ではTFAと酢酸と水との組み合わせを使用し、そして第二の脱アシル工程ではTFAと水との組み合わせを使用した。 Hellerqvist 氏外が記載した保護操作を使用して同じ炭水化物を加水分解すると、酸反応性ジデオキシ糖類の50%が回収されたに過ぎなかった。 Hellerqvist 氏外のCarbohydrateRes. ,16:39 (1971)を参照されたい。 【0029】幾つかの理由のために炭水化物の組成及び/又は序列が重要である。 少糖類の存在を検出することによって多くの物理的状態を検出し及び/又は分析することができる。 例えば、妊娠についての試験は、ヒト血清トランスコルチン及びチロキシン結合グロブリンのN −グリコシル化の変化に基づく。 急性炎症は、α−1− 抗トリプシン及びα−酸性糖蛋白質の血液N−グリコシル化の変化を測定することによって調べることができる。 例えば、Knight氏のBioTechnology,7:35−40 (1989)を参照されたい。 バイオテクノロジー産業においては、規制官庁によって、治療用又は診断用薬剤については哺乳動物中のヒト蛋白質の圧出から生じるグリコシル部分の構造を知ることが要求されている。 【0030】当業者には、ここに記載した本発明の特定の具体例に対する多くの均等物が認識され、又は日常試験を使用してそれらを確認することができよう。 |