木質材料用の接着剤組成物

申请号 JP2015547755 申请日 2014-11-11 公开(公告)号 JPWO2015072437A1 公开(公告)日 2017-03-16
申请人 国立大学法人京都大学; 发明人 研二 梅村; 研二 梅村;
摘要 従来の石油系接着剤と同程度の条件で木質エレメントを十分に接着できる天然系の接着剤組成物であって、製造装置の酸腐食の問題や、木質材料の酸性化の問題を改善できる接着剤組成物を提供することを課題とする。本発明は、木質エレメントを接着して木質材料を製造するために使用される接着剤組成物に関し、(a) 単糖およびオリゴ糖から選択される少なくとも一種の糖、(b) リン酸二 水 素アンモニウムおよびリン酸水素二アンモニウムから選択される少なくとも一種のリン酸塩、および、(c) 炭酸カルシウムを含むことを特徴とする。
权利要求

(a) 単糖およびオリゴ糖から選択される少なくとも一種の糖、 (b) リン酸二素アンモニウムおよびリン酸水素二アンモニウムから選択される少なくとも一種のリン酸塩、および、 (c) 炭酸カルシウム を含むことを特徴とする、木質材料用の接着剤組成物。成分(b)がリン酸二水素アンモニウムであり、成分(a)と(b)の重量比が90:10〜60:40であること、あるいは、成分(b)がリン酸水素二アンモニウムであり、成分(a)と(b)の重量比が、85:15〜60:40であることを特徴とする、請求項1に記載の接着剤組成物。成分(b)がリン酸二水素アンモニウムであることを特徴とする、請求項1または2に記載の接着剤組成物。成分(b)と(c)の重量比が1:0.5〜1:1.5であることを特徴とする、請求項3に記載の接着剤組成物。成分(a)、(b)および(c)を、水性液中に含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の接着剤組成物。成分(a)および(b)を含む水性液と、成分(c)の粉末からなり、前記水性液と前記粉末を分離した状態で含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の接着剤組成物。成分(a)、(b)および(c)の合計重量が、接着剤組成物の固形分重量の90重量%以上であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の接着剤組成物。樹木あるいは草本植物の粉末、繊維、小片および単板からなる群より選択される木質エレメントの接着に用いられることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の接着剤組成物。請求項1〜8のいずれか1項に記載の接着剤組成物を木質エレメントに接触させる工程、および、140℃以上200℃以下の温度で熱圧する工程を含むことを特徴とする、木質エレメントの接着方法。請求項1〜8のいずれか1項に記載の接着剤組成物を木質エレメントに接触させる工程、および、140℃以上200℃以下の温度で熱圧する工程を含むことを特徴とする、木質材料の製造方法。請求項1〜8のいずれか1項に記載の接着剤組成物を含む木質材料であって、前記接着剤組成物が塗布もしくは散布された木質エレメントを、熱圧することによって製造された木質材料。

说明书全文

本発明は、木材を接着するのに適した接着剤組成物に関する。より具体的には、石油由来物質やホルムアルデヒドを含まない天然系接着剤組成物に関する。

近年、地球温暖化の防止や石油資源の消費抑制のため、生物資源から製造される、いわゆる天然系樹脂の開発が活発になっている。また、最近では人体や環境への負荷をできる限り抑えるために、有害物質の使用を控えた化学技術が重視されており、この点からも天然系樹脂の開発が望まれている。

特に、木材用接着剤の分野では、ホルムアルデヒドを原料として使用する接着剤(尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂等)が多用されてきたが、これらの接着剤はシックハウス症候群の原因となるホルムアルデヒドを放散するため、人の健康を害する可能性が有る。そのため、ホルムアルデヒドを含まない天然系接着剤の開発が望まれている。

これまでにも、木材用接着剤の分野では、タンニン系接着剤やリグニン系接着剤など種々の天然系接着剤が開発・検討されてきたが、十分な性能を得るためには、石油由来の化合物による化学修飾や、毒物・劇物に相当する有害物質の使用が必須であった。さらに、これまでの天然系接着剤は、石油系の接着剤と比べて、硬化に際して高温・長時間を必要とすることが多く、また天然高分子の利用による作業性の悪さから実用化への障害となっていた。そのため、石油由来物や有害物質に依存せず、低エネルギーで硬化し、作業性に優れた接着剤の開発が望まれている。

天然系接着剤に関連する発明として、特許文献1には、多価カルボン酸を含有する接着用組成物が開示されている。また、特許文献2には、「糖、デンプン、またはそれらの混合物」と「アルカリ性の塩、または、アルカリ性物質と酸性の塩の混合物からなる触媒」を利用して、加熱・加圧下で固形リグノセルロース物質を接着する方法が開示されている。また、特許文献3には、アミンと、炭化物を含むバインダーが開示されている。また、特許文献4には、還元糖、硫酸アンモニウム塩やリン酸アンモニウム塩等のアンモニウム塩、および任意にアンモニア等を水に溶解することによって得られるバインダー溶液が開示されており、実施例には、ブドウ糖一水和物、硫酸アンモニウムまたはリン酸アンモニウム、水酸化アンモニウムおよびシランを水に溶解することによって調製したバインダー溶液が開示されている。

しかしながら、特許文献1の接着剤は、多価カルボン酸を含有するためpH値が低いという問題があった。例えば、クエン酸はカルボキシル基を3個有する酸で弱酸に分類されるが、クエン酸を2%含む水溶液のpH値は約2と低い。したがって、クエン酸と、木質パーティクルや木質繊維等の木質エレメントの混合物を、加熱・加圧して木質材料(木質エレメントを接着して製造される製品。例えば、木質ボード)を製造する場合、当該混合物のpH値が低いため、製造装置が腐食しやすいという問題がある。また、製造した木質ボードもpH値が低いため、酸性化による不都合(木質ボードに打ち込んだ釘が錆びやすい等)を有する。

また、従来の石油系接着剤の代わりに天然系接着剤を使用する場合、従来から使用している設備を使用することができ、従来と同等の製造条件で製造できることが、実用化のために重要である。特に、木質エレメントを接着剤組成物で接着して木質材料(wood-based material)を製造する際には熱圧が行われるが、熱圧工程において従来よりも高い温度や長い時間が必要になると、使用エネルギーやコストが大きく増加するため、実用化が進まないという問題がある。より具体的に説明すると、石油系接着剤を使用してパーティクルボードやファイバーボード等の木質ボードを製造する場合、160℃〜170℃程度の温度で、ボードの厚み1mmあたり60秒程度の時間で十分に硬化するため、これと同等の性能を有する天然系接着剤が望まれている。 しかしながら、石油由来物質や有害物質に依存せず、従来と同程度の低エネルギーで硬化し、安全性が高いという条件を全て満たす天然系接着剤の開発は難しいという問題があった。

例えば、上記特許文献2の方法は、パーティクルボードの製造において、プレス時間や圧を低下させるために、触媒として無水塩化アルミニウムを使用することを教示している。無水塩化アルミニウムは、眼、皮膚、気道に対して腐食性を示すという問題や、水や湿気と激しく反応して塩化水素を生成する問題等があるため、取扱いに注意を要するという問題や、水溶液の状態で使用することができないという問題がある。

また、特許文献3では、木質繊維ボードの製造例が実施例13に開示されているが、約0.4インチ(約10mm)の厚みのボードを製造するための硬化条件が、350°F(約177℃)で25〜30分であるため、従来の石油系接着剤を使用した製造方法と比べて、高エネルギーが必要であるという問題がある。

また、特許文献4でも、製造する製品が木材ボードであるときは、圧搾機中で、180℃もしくは200℃より高いプラテンを使用すると開示しているため(段落[0062])、従来の石油系接着剤を使用した製造方法と比べて、高エネルギーが必要であるという問題がある。

WO 2012/133219 A1

US 4,183,997 B

特表2009-503193号公報

特表2010-535864号公報

したがって、本発明は、石油由来物質やホルムアルデヒドを使用せず、安全性が高く、160〜170℃付近の温度で木質エレメントを十分に接着することができる接着剤組成物であって、製造装置の酸腐食の問題や、木質エレメントから製造された木質材料の酸性化の問題を改善できる接着剤組成物を提供することを課題とする。

本発明者は、前記課題を解決するために研究を重ねた結果、単糖及び/又はオリゴ糖と、リン酸二水素アンモニウム及び/又はリン酸水素二アンモニウムを含む接着剤組成物が、160〜170℃の熱圧温度で、木質エレメントを十分に接着でき、耐水性の高い木質材料を製造できることを見出した。また、さらに検討を行った結果、炭酸カルシウムを添加することにより、木質材料の耐水性を損なうことなく、木質材料のpH値を、木材本来のpH値に近づけることに成功した。

すなわち、本発明に係る接着剤組成物は、 (a) 単糖およびオリゴ糖から選択される少なくとも一種の糖、 (b) リン酸二水素アンモニウムおよびリン酸水素二アンモニウムから選択される少なくとも一種のリン酸塩、および、 (c) 炭酸カルシウム を含むことを特徴とする。

前記接着剤組成物において、成分(b)がリン酸二水素アンモニウムである場合、成分(a)と(b)の重量比が90:10〜60:40であることが好ましく、成分(b)がリン酸水素二アンモニウムである場合、成分(a)と(b)の重量比が、85:15〜60:40であることが好ましい。

また、成分(b)は、リン酸二水素アンモニウムであることが特に好ましく、成分(b)と(c)の重量比は、1:0.5〜1:1.5であることが好ましい。

また、前記接着剤組成物の好ましい実施形態として、成分(a)、(b)および(c)を、水性液中に含む接着剤組成物が挙げられる。 また、他の好ましい実施形態として、成分(a)および(b)を含む水性液と、成分(c)の粉末から構成され、前記水性液と前記粉末を分離した状態で含む接着剤組成物が挙げられる。

成分(a)、(b)および(c)の合計重量は、前記接着剤組成物の固形分重量(乾燥重量)の90重量%以上を占めることが好ましい。

本発明に係る接着剤組成物は、樹木あるいは草本植物の粉末、繊維、小片および単板などの木質エレメントを接着するのに好適である。

前記接着剤組成物を木質エレメントに接触させ、必要に応じて混合、乾燥、成形等の処理を行った後、140℃以上200℃以下の温度で熱圧することにより、木質エレメントを十分に接着させることができ、耐水性に優れた木質材料を製造することができる。

また、前記接着剤組成物が塗布もしくは散布された木質エレメントを、熱圧することによって製造された木質材料は、優れた耐水性を示し、木材と同程度のpH値を示す。

本発明の接着剤組成物は、ホルムアルデヒドを含まない天然系接着剤であるため環境に優しい。さらに、本発明の接着剤組成物は、製造装置に対する負荷が小さく、製造された木質材料は、木材本来のpH値に近いpH値を示す。また、本発明の接着剤組成物は、木質ボード等の商業生産(大量生産)時に使用される熱圧温度(約160℃〜170℃)と同等の温度で硬化する。

図1は、スクロースとリン酸二水素アンモニウムの混合物の熱分析の結果を示すDSC曲線である。

図2は、スクロースとリン酸二水素ナトリウムの混合物の熱分析の結果を示すDSC曲線である。

本発明の接着剤組成物は、天然系接着剤であり、石油に由来する化合物やホルムアルデヒドを含まない。石油に由来する接着剤の代表的な例として、イソシアネート系接着剤が挙げられ、ホルムアルデヒドを含む接着剤の例として、ホルムアルデヒドとアミノ基含有化合物の重縮合またはホルムアルデヒドとフェノール類の重縮合によって作られる接着剤(尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂等)が挙げられるが、本発明ではこれらを使用しなくても、十分に木質エレメントを接着することができる。 また、本発明の接着剤組成物は、イソシアネート基含有化合物、ホルムアルデヒド、シランやシリコーン等のケイ素(Si)含有化合物、塩化アルミニウム、有機酸(多価カルボン酸等)あるいはそれらの塩(多価カルボン酸のアンモニウム塩等)、窒素を含む有機化合物(アミン化合物等)、縮合型タンニン、多糖類(デンプン等)、穀物粉末(小麦粉等)、液化剤、アンモニアおよび水酸化アンモニウム等の添加剤を使用しなくても、耐水性に優れた木質材料を製造することができる。したがって、本発明の接着剤組成物は、前述した各成分を含まなくてもよい。 また、本発明の接着剤組成物を使用して木質エレメントを接着し、木質材料を製造する場合、木材を液化する工程等は不要であり、木質エレメントと接着剤組成物を接触させ、必要に応じて混合、乾燥、成形処理を行った後、熱圧するだけで、耐水性に優れた木質材料を製造することができる。

本発明の接着剤組成物は、必須成分として単糖およびオリゴ糖からなる群より選択される少なくとも一種の糖(a)を含む。単糖としては、例えばグルコース、フルクトース、マンノース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、ラムノース、キシルロース、デオキシリボース、リボース等が挙げられ、オリゴ糖としては、例えばスクロース、マルトース、ラクトース、トレハロース、ツラノース等の二糖類や、ラフィノース等の三糖類が挙げられる。オリゴ糖の中では、二糖類がより好ましい。特に好ましい糖として、スクロース、グルコース、フルクトース、マンノース、キシロース、アラビノース、ガラクトースが挙げられる。特に好ましい糖はスクロースである。本発明の接着剤組成物は、前記糖を一種類のみ含んでも、二種類以上含んでも良い。

また、本発明の接着剤組成物は、必須成分として、リン酸二水素アンモニウム[(NH4)H2PO4]およびリン酸水素二アンモニウム[(NH4)2HPO4]から選択される少なくとも一種のリン酸塩(b)を含む。本発明の接着剤組成物は、前記リン酸塩のどちらかのみを含んでも、両方を含んでもよいが、リン酸二水素アンモニウムのみを含むことが特に好ましい。 また、本発明の接着剤組成物は、前記リン酸二水素アンモニウムおよびリン酸水素二アンモニウム以外のリン酸塩又はアンモニウム塩(特に、多価カルボン酸のアンモニウム塩)を含まなくても、十分な接着効果を発揮できる。したがって、本発明の接着剤組成物は、成分(b)以外のリン酸塩及び/又はアンモニウム塩を含まなくてもよい。

リン酸二水素アンモニウムは弱酸性であり、リン酸水素二アンモニウムは弱アルカリ性であるため、本発明の接着剤組成物が水を含む液状の組成物である場合、組成物のpH値は弱酸性〜弱アルカリ性(通常、約4.5〜8.5)を示す。したがって、製造装置の酸腐食が生じにくい。また、これらのリン酸塩を選択することにより、石油系接着剤を使用する場合と同程度の低温(約160℃〜170℃)で木質エレメントを十分に接着することができる。 好ましくは、本発明の液状の接着剤組成物は、リン酸二水素アンモニウムを含み、酸性のpH値(特に4.0以上7.0未満、より好ましくは4.5〜6.5)を有する。

また、本発明の接着剤組成物は、必須成分として炭酸カルシウム(c)を含む。成分(a)と(b)のみを含む接着剤組成物を使用した場合、製造された木質材料は酸性化し、20℃の水に木質材料を24時間浸漬した後に測定した水のpH値は約3を示す。たとえ水酸化ナトリウム等を加えて接着剤組成物のpH値をより高くしたとしても、木質材料のpH値は上がらないか、あるいは、木質材料の耐水性が著しく低下する。しかしながら、炭酸カルシウム(CaCO3)を加えることにより、木質材料の耐水性を維持しつつ、前記条件で測定したpH値を約4以上(好ましくは約4.5〜6.0、特に好ましくは5.0〜6.0の範囲)とすることができる。炭酸カルシウムは、水に難溶性であるため水性液に添加しても、水性液のpH値は大きく変動しない。例えば、成分(b)が弱酸性のリン酸二水素アンモニウムである場合、成分(a)と(b)のみを含む水性液は酸性を示すが、そこに炭酸カルシウム(c)を加えても、水性液は酸性(pH<7)のままである。それにもかかわらず、糖(a)と、リン酸二水素アンモニウム(b)および炭酸カルシウム(c)を含む本発明の接着剤組成物を使用して製造した木質材料は、アルカリ性の接着剤組成物を使用して製造した木質材料よりも酸性化しにくく、より高いpH値を示す(表6〜10参照)。

糖(a)とリン酸塩(b)の重量比(a:b)は、リン酸塩(b)がリン酸二水素アンモニウムである場合は、90:10〜60:40であることが好ましく、88:12〜70:30であることがより好ましく、87:13〜75:25であることが特に好ましい。リン酸塩(b)がリン酸水素二アンモニウムである場合、a:bは、85:15〜60:40であることが好ましく、80:20〜65:35であることがより好ましく、75:25〜67:33であることが特に好ましい。

また、リン酸塩(b)と炭酸カルシウム(c)の重量比(b:c)は、成分(b)がリン酸二水素アンモニウムである場合、1:0.5〜1:1.5であることが好ましく、1:0.60〜1:1.35であることがより好ましく、1:0.65〜1:1.3であることが特に好ましく、1:0.8〜1:1.2であることがさらに好ましい。成分(b)がリン酸水素二アンモニウムである場合は、成分(b)と(c)の重量比が、1:0.3〜1:0.7の範囲にあることがより好ましい。

より好ましい本発明の接着剤組成物は、リン酸塩(b)として、リン酸二水素アンモニウムのみを含む。リン酸二水素アンモニウムは、リン酸水素二アンモニウムと比べて、少量で高い接着力を発揮し、優れた耐水性を有する木質材料を製造できる。また、リン酸二水素アンモニウムは弱酸性であり、リン酸水素二アンモニウムは弱アルカリ性であるにもかかわらず、リン酸二水素アンモニウムを含む接着剤組成物を使用して製造した木質材料の方が、リン酸水素二アンモニウムを含む接着剤組成物を使用して製造した木質材料よりも高いpH値(より中性に近いpH値)を示す傾向が見られた。

リン酸塩(b)がリン酸二水素アンモニウムである場合、本発明の接着剤組成物の固形分重量(乾燥重量)に対する成分(a)の重量割合は、55〜87重量%であることが好ましく、63〜82重量%がより好ましく、68〜80重量%が特に好ましく、成分(b)の重量割合は、8〜25重量%であることが好ましく、10〜20重量%であることがより好ましく、10〜18重量%であることが特に好ましく、成分(c)の重量割合は、5〜20重量%であることが好ましく、8〜17重量%であることがより好ましく、10〜15重量%であることが特に好ましい。

リン酸塩(b)がリン酸水素二アンモニウムである場合、本発明の接着剤組成物の固形分重量に対する成分(a)の重量割合は、50〜70重量%であることが好ましく、成分(b)の重量割合は、20〜35重量%であることが好ましく、成分(c)の重量割合は、10〜20重量%であることが好ましい。

なお、接着剤組成物の固形分重量とは、本発明の接着剤組成物から、水等の溶媒を除いた重量(乾燥重量)を意味する。すなわち、前記固形分重量は、本発明の接着剤組成物が、成分(a)〜(c)のみ、または成分(a)〜(c)と溶媒のみからなる場合は、成分(a)〜(c)の合計重量に等しくなり、本発明の接着剤組成物が成分(a)〜(c)と他の物質(溶媒以外)を含むときは、成分(a)〜(c)と他の物質の合計重量に等しくなる。

本発明の接着剤組成物は、木質エレメントと均一に接触させやすいため、水を含む液状の接着剤組成物であることが好ましい。すなわち、成分(a)〜(c)の少なくとも一つが、水または水と水溶性溶媒の混合液(以下、水と前記混合液をまとめて水性液と称する)に溶解または分散されていることが好ましい。なお、本発明において、液状の接着剤組成物とは、成分(a)〜(c)の全てが同一の水性液中に存在している組成物だけでなく、成分(a)〜(c)がそれぞれ別の水性液中に存在している組成物も意味し、さらに、成分(a)〜(c)の一部のみが水性液中に存在し、残りは水性液に添加されず固体の状態で存在する組成物も意味する。液状の接着剤組成物の好ましい例として、成分(a)〜(c)の全てを同一の水性液中に含む組成物、または、成分(a)と(b)のみが水性液中に溶解され、成分(c)は粉末状態で前記水性液とは別に存在する組成物が挙げられる。

前記水性液は、水のみからなることが特に好ましいが、少量の水溶性溶媒を含んでもよい。水溶性溶媒の量は、水の量の20重量%以下であることが好ましく、10重量%以下であることがより好ましく、5重量%以下であることが特に好ましい。また、前記水溶性溶媒は、沸点が100℃以下の溶媒であることが好ましい。特に好ましい本発明の接着剤組成物は、溶媒として水のみを含む。

前記水を含む液状の接着剤組成物において、成分(a)〜(c)は水に溶解していても、分散していてもよい。糖(a)とリン酸塩(b)は水への溶解性が高いため、通常は水に溶解し、飽和状態を超えた場合のみ析出する。炭酸カルシウム(c)は水にほとんど溶けない。水に不溶の成分がある場合、使用時に撹拌処理等を行い、不溶成分を水に分散させた状態で使用すればよい。

また、上述の通り炭酸カルシウム(c)は水に溶けにくいため、本発明では、糖(a)とリン酸塩(b)のみを水性液に添加して溶液として使用し、炭酸カルシウム(c)は水性液に添加せず、固体のまま使用してもよい。このような例として、糖(a)とリン酸塩(b)を含む水溶液と、粉末状態の炭酸カルシウム(c)とを、分離した状態で含む接着剤組成物が挙げられる。例えば、炭酸カルシウム(c)は粉末の状態で木質エレメントに添加し、糖(a)とリン酸塩(b)を含む水溶液は、スプレー等の噴霧装置を使用して木質エレメントに散布することができる。このような構成とすることにより、噴霧装置の目詰まりを防ぐことができる。

本発明の接着剤組成物が液状の場合、通常、木質エレメントに接触させた後、必要に応じて乾燥処理を行い、熱圧処理を行う。したがって、液状の接着剤組成物中に含まれる水性液(水等)は、乾燥時または熱圧時には気化してしまう。しかし、水性液の量が少なすぎると水性液中に成分を十分に溶解または分散させることができず、木質エレメントに成分を均一に添加することが難しい。他方、水性液の量が多すぎると、乾燥時または熱圧時にエネルギーやコストがより多くかかるため、好ましくない。したがって、液状の接着剤組成物において、水性液と、当該水性液中に含まれる成分[成分(a)〜(c)の全てまたは一部]の割合は、70:30〜40:60(重量比)であることが好ましく、60:40〜45:55であることがより好ましい。

本発明の特に好ましい接着剤組成物は、本質的に前記成分(a)〜(c)と水からなる接着剤組成物であり、さらに好ましい接着剤組成物は前記成分(a)〜(c)と水のみからなる接着剤組成物である。本発明の接着剤組成物が、その他の物質を含む場合、その他の物質の含有率は、接着剤組成物の全重量(液状の場合は、溶媒を含めた量)または接着剤組成物の固形分重量の15重量%以下であることが好ましく、10重量%以下であることがより好ましく、5重量%以下であることが特に好ましく、3重量%以下であることがさらに好ましい。

本発明に係る接着剤組成物は、木質エレメントを接着するのに好適である。本発明において、木質エレメントとは、樹木に由来するエレメント(木材チップ、木質繊維、単板、木粉等)だけでなく、草本植物に由来するエレメントも意味し、リグノセルロース、リグニンおよびセルロースからなる群から選択される少なくとも1種の物質を含む。また、木質エレメントは、リグノセルロース、リグニンまたはセルロース自体、あるいはこれらから選択される2種以上の混合物であってもよい。本発明に係る接着剤組成物は、特に、リグノセルロースを含む木質エレメントの接着に適している。また、木質エレメントとして、リサイクルチップ等のリサイクル材を使用することもできる。

本発明に係る接着剤組成物を、粉末状、小片状、または繊維状の木質エレメント(例えば、木質ストランド、木質チップ、木質繊維あるいは植物繊維)の接着に使用する場合は、含水率10%以下に乾燥した木質エレメント100重量部に対し、成分(a)〜(c)の合計重量が5〜50重量部(より好ましくは10〜40重量部、特に好ましくは15〜30重量部)となるように、接着剤組成物を添加することが好ましい。 本発明に係る接着剤組成物を、単板の接着に用いる場合は、一接着面当たり、成分(a)〜(c)の合計重量が80〜200g/m2(より好ましくは、100〜150g/m2)となるように接着剤組成物を単板の表面に塗布すれば良い。

本発明の接着剤組成物は、木質成形体、および、パーティクルボードやファイバーボード等の木質ボード、合板を製造するための接着剤として有用である。 木質成形体を製造する場合は、粉末状、小片状または繊維状の木質エレメントと接着剤組成物を混合し、接着剤組成物が水を含む場合は乾燥した後、混合物を金型に入れ、5kgf/cm2〜70kgf/cm2(約0.5MPa〜7MPa)、より好ましくは、30kgf/cm2〜50kgf/cm2(約3MPa〜5MPa)の圧力で熱圧すればよい。前記木質エレメントとして、60メッシュの篩をパスした木質粉末が特に好ましい。

本発明の接着剤組成物を使用して、パーティクルボードやファイバーボード等の木質ボードを製造する場合、従来の石油系接着剤を使用する方法と同じ工程で製造することができる。例えば、小片状または繊維状の木質エレメントに、液状の接着剤組成物を添加する工程、マットフォーミングする工程、熱圧する工程を含む方法が挙げられる。必要であれば、マットフォーミングの前または後に乾燥工程を行っても良い。前記液状の接着剤組成物を木質エレメントに添加する適切な方法として、スプレー等の噴霧器で噴霧する方法が挙げられる。 特に好ましい木質ボードの製造例では、成分(c)を粉末の状態で木質エレメントに添加し、成分(a)および(b)を水溶液の状態で木質エレメントに噴霧し、その後、乾燥工程を行う事が望ましい。このようにすることにより、噴霧器の目詰まりと、水蒸気によるパンクを防ぐことができる。

木質ボードを製造する場合、一般に熱板(熱盤)を用いた上下プレスにより熱圧を行う。プレス機の設定圧力は、木質エレメントと接着剤組成物を含む木質マットが十分に圧縮される圧力以上とすればよい。具体的には、従来法による木質ボードの製造と同程度の圧力(約20〜100kgf/cm2[約2MPa〜10MPa]、特に30〜70kgf/cm2[約3MPa〜7MPa])でよく、従来法と同様、成形するボードの厚みや目標密度等によって適宜調節すればよい。

本発明の接着剤組成物を使用して合板を製造するには、接着剤組成物を、合板用の単板の間に介在させ、5kgf/cm2〜50kgf/cm2(約0.5MPa〜5MPa)、より好ましくは、10kgf/cm2〜30kgf/cm2(約1MPa〜3MPa)の圧力で熱圧すればよい。

本発明の接着剤組成物を使用して木質エレメントを接着し、木質材料を製造する際の熱圧温度は、145℃以上が好ましい。145℃以上とする理由は、糖とリン酸二水素アンモニウムの混合物を熱分析すると、硬化反応に起因すると考えられるピークが145℃付近に観察されるからである。温度が高いほど、より短い時間で十分に硬化するため、150℃以上の熱圧温度がより好ましく、155℃以上が特に好ましい。他方、コストを抑えるためには、熱圧温度は低いほうが好ましいため、200℃以下が好ましく、180℃以下がより好ましい。特に好ましい熱圧温度は160℃〜180℃であり、さらに好ましい熱圧温度は170℃付近(165℃〜175℃)である。

熱圧時間は、組成物の量、被接着材(木質エレメント)の量、温度・圧力等によって適切な時間が異なるため、これらを考慮し適宜調節すればよい。一般に、熱圧時間を長くすることによって、接着剤組成物が十分硬化する。そのため、熱圧時間は30秒以上とすることが好ましく、1分以上がより好ましく、3分以上が特に好ましい。一方、熱圧時間が長すぎると製造コスト等の点から望ましくないため、一般に熱圧時間は15分以内(製品によっては10分以内)で十分である。 製造する木質材料が、成形体および木質ボードである場合、製品の厚みに応じて、30秒〜90秒/mm、より好ましくは40〜75秒/mmの時間で熱圧することが適切である。 好ましい熱圧時間は、一般に3〜10分、より好ましくは5〜10分である。

成分(a)〜(c)や水等の溶媒に関し、先行する段落において、具体的な種類や化合物名、重量%、重量比を述べてきたが、本発明に係る接着剤組成物には、これらを適宜組み合わせて得られる組成物が含まれる。また、各成分について複数の重量%範囲または重量比範囲等を記載してきたが、これらの上限値及び下限値は適宜組み合わせ可能である。

[試験方法] 木材を十分に接着できる接着剤組成物を見出すため、試験成分を水と混合して接着剤組成物を調製し、これを木粉等の被着材(木質エレメント)に添加混合し、得られた混合物を乾燥後、金型で熱圧して成形体(木質材料)を製造し、その耐水性を評価した。 特に断りのない限り、成形体の製造と耐水性評価は以下の手順で行った。 [成形体の製造方法] (1) 試験成分(糖、リン酸塩、添加剤など)を蒸留水30gと混合し、接着剤組成物を調製する。 (2) 所定量の乾燥状態の被着材(木粉など)に前記接着剤組成物を添加し、混合する。 (3) 前記混合物を90℃のオーブンで18時間乾燥させる。 (4) 乾燥した混合物を所定温度で予熱した内径7センチの円柱状金型に入れる。 (5) プレス圧力を4MPaとし、所定の温度と時間で熱圧する。 [成形体の耐水性評価] (1) 成形体を沸騰水中に4時間浸漬する。 (2) (1)の煮沸処理後、105℃のオーブンで15時間乾燥する。 (3) 処理前後の重量変化から重量減少率を算出し、耐水性の指標とする(重量減少率が低いほど耐水性は高い)。

[試験例1] 種々の接着剤組成物を用いて、上記方法で成形体を製造し、耐水性能を評価した。 まず、180℃の温度で十分な接着強度を発揮し、耐水性に優れた成形体を製造できる接着剤組成物について検討した。 試験の結果、特定のリン酸化合物と、糖を含む水溶液を用いた場合は、180℃で10分間熱圧することにより、十分な耐水性を有する成形体(4時間煮沸後の重量減少率が20%未満)を得ることができた。結果を表1に示す。表中に示す糖とリン酸塩の比は重量比である。 これに対し、多価カルボン酸であるクエン酸やイタコン酸の水溶液を接着剤組成物として用いた場合は、180℃・10分間の熱圧では、十分な耐水性を有する成形体を得ることができず、より長い時間熱圧するか、あるいは熱圧温度を200℃とする必要があった。

[試験例2] 表1の接着剤組成物について、次に、熱圧温度160℃で成形体を製造し、耐水性を調べた。その結果、リン酸二水素アンモニウムまたはリン酸水素二アンモニウムを含む接着剤組成物は、160℃で熱圧した場合にも、十分な耐水性を有する成形体を製造することができた。これに対し、リン酸二水素ナトリウム等の他のリン酸塩を含む組成物は、160℃で熱圧した場合、十分な耐水性を有する成形体を製造することができなかった。 表2に、スクロースとリン酸二水素アンモニウムの割合を変更し、160℃で5分間熱圧した場合の結果を、表3に、スクロースとリン酸水素二アンモニウムの割合を変更し、160℃で5分間熱圧した場合の結果を示す。

表2および表3から分かるように、どちらのリン酸塩も、糖と併用することにより、160℃・5分間の熱圧条件で、沸騰水中に4時間浸漬しても形状を維持できる成形体を製造することができた。 また、リン酸二水素アンモニウムとリン酸水素二アンモニウムを比べると、リン酸二水素アンモニウムのほうが、少量で優れた接着効果を発揮することが分かった。

なお、糖に対してリン酸塩の量が少なすぎる場合、または多すぎる場合、耐水性が悪化する傾向が見られるため、耐水性の高い成形体(4時間煮沸後の重量減少率が20%未満の成形体)を得るためには、糖とリン酸塩の割合を適切な範囲に調節することが好ましい。具体的には、リン酸塩としてリン酸二水素アンモニウムを用いる場合は、糖とリン酸塩の重量比は、90:10〜60:40であることが好ましく、88:12〜70:30であることがより好ましい。また、リン酸塩としてリン酸水素二アンモニウムを用いる場合は、糖とリン酸塩の重量比は、85:15〜60:40であることが好ましく、80:20〜65:35であることがより好ましい。

[試験例3] リン酸二水素アンモニウムと糖を含む組成物について、熱圧温度を160℃とし、熱圧時間を3、5、10分として、成形体を製造した。結果を表4に示す。

表4に示すように、リン酸二水素アンモニウムと糖を含む組成物を用いた場合、熱圧時間が長くなるほど、耐水性は向上するものの、熱圧時間が3分でも、優れた耐水性を有する成形体を製造することができた。このことから、リン酸二水素アンモニウムと糖を含む組成物を用いることにより、熱圧温度の低下(160℃)だけでなく、熱圧時間の短縮が実現できることが分かった。

これに対し、アンモニウム塩であっても塩化アンモニウムを用いた場合、あるいは、リン酸塩であってもリン酸二水素ナトリウムを用いた場合は、160℃の熱圧温度では、十分な耐水性を有する成形体を製造できなかった。結果を表5に示す。塩化アンモニウムを用いた場合(試験番号17〜19)は、熱圧時間を10分としても、4時間煮沸後の重量減少率は20%を超えた。リン酸二水素ナトリウムを用いた場合(試験番号20)は、熱圧時間を10分としても、煮沸処理中に成形体が崩壊した。

このことから、他のリン酸塩やアンモニウム塩と比べて、リン酸二水素アンモニウムやリン酸水素二アンモニウムが、低い熱圧温度(160℃)で、高い接着効果を発揮することが分かった。

[試験例4] 示差走査熱量計(DSC)を用いて、スクロースとリン酸二水素アンモニウムの混合物の熱分析を行った。 具体的には、スクロース1.7gとリン酸二水素アンモニウム0.3gを水に溶かし、90℃で18時間乾燥させたものを窒素雰囲気下、10℃/minで測定した。得られたDSC曲線を図1に示す。図1に示されるように、144.91℃にピークが認められるため、この温度の付近で硬化反応が起こっていると推察される。したがって、スクロースとリン酸二水素アンモニウムを含む接着剤組成物は、約145℃以上の温度で熱圧すれば硬化し、接着力を発揮すると考えられる。

また、比較のため、スクロースとリン酸二水素ナトリウムの混合物の熱分析を行った。 上記と同様、スクロース1.7gとリン酸二水素ナトリウム0.3gを水に溶かし、90℃で18時間乾燥させたものを窒素雰囲気下、10℃/minで測定した。得られたDSC曲線を図2に示す。図2に示されるように、ピークが二つ認められ、硬化反応は185.61℃で完了すると推察される。

上記熱分析の結果は、糖とリン酸二水素アンモニウムを含む接着剤組成物を使用すると、160℃・3分の熱圧で、耐水性に優れた成形体を製造できるが(試験番号14)、糖とリン酸二水素ナトリウムを含む接着剤組成物を使用すると、160℃で10分間熱圧しても、耐水性の非常に悪い(煮沸処理中に崩壊する)成形体しか得られないという結果(試験番号20)と一致する。 したがって、熱分析の結果からも、糖とリン酸二水素アンモニウムを含む接着剤組成物を使用した場合、160℃で十分に硬化することが裏付けられた。

[試験例5] 本試験例では、接着剤組成物のpH値と、成形体のpH値を調べた。結果を表6に示す。 表6に示されるように、リン酸二水素アンモニウムを含む接着剤組成物(試験番号21)のpH値は約4.5であり、リン酸水素二アンモニウムを含む接着剤組成物(試験番号22および23)のpH値は約8であった。これに対し、特許文献1で使用されているクエン酸2gを水30gに溶かした場合、水溶液のpH値は約2となった。従って、本発明の接着剤組成物は、特許文献1の接着剤組成物と比べて、製造装置を酸腐食させにくいと考えられる。

さらに、最終製品である成形体も弱酸性〜弱アルカリ性を示すかどうかを確認するために、成形体を20℃の水約200ml(成形体の体積の約23倍)中に24時間浸漬した後の水のpH値を測定した(以下、前記方法で測定したpH値を成形体のpH値と称する)。また、比較のため、クエン酸水溶液を接着剤組成物として用いて製造した成形体(試験番号24)、および木粉のみを熱圧して製造した成形体(試験番号25)についても、pH値を測定した。試験番号24の成形体は、クエン酸水溶液を木粉と混合し、90℃で18時間乾燥後、金型に投入し、熱圧することによって製造した。試験番号25の成形体は、木粉を金型に投入し、熱圧することによって製造した。結果を表6に示す。

表6に示すように、木粉のみから製造した成形体(試験番号25)のpH値は約5になる。これに対し、クエン酸水溶液(pH約2)を使用して製造した成形体(試験番号24)のpH値は3になった。クエン酸より弱酸性であるリン酸二水素アンモニウムを含む組成物(pH約4.5)、または、弱アルカリ性であるリン酸水素二アンモニウムを含む組成物(pH約8)を使用した場合、成形体のpH値は3より高くなると予想されたが、いずれの場合も3より低くなった(試験番号21〜23)。 このことから、前記リン酸塩と糖類を含む接着剤組成物のpH値が約4.5または約8であっても、最終製品である成形体は、クエン酸水溶液(pH約2)を用いて製造した成形体と同程度の酸性を示すことが分かった。 製品のpH値が低いと、酸性が強いことに起因する問題が生じる(例えば、製品に釘を打ち込んだ場合、釘が酸化しやすい)。また、接着剤組成物を添加した木質エレメントを熱圧する工程で、pH値が低下していくと考えられるため、製造装置が酸で腐食される可能性も残る。

[試験例6] 前述した製品の酸性化の問題を解決するため、成形体のpH値を、木粉のみの成形体のpH値に近づけることができる添加剤について検討した。各接着剤組成物を使用して、2つの成形体を製造し、一方を耐水性試験に使用し、他方をpH試験に使用した。耐水性試験では、上述した通り、4時間煮沸後の成形体の重量減少率を求め、pH試験では、上述した通り、成形体を20℃の水中に24時間浸漬した後の水のpH値を求めた。結果を表7〜9に示す。なお、4時間煮沸中に崩壊した成形体については、一部を除き、成形体のpH値の測定は行わなかった。

表7に示すように、水酸化ナトリウムまたは炭酸ナトリウムを添加して接着剤組成物のpH値を高くすることにより、成形体のpH値を高くすることを試みた。しかしながら、水酸化ナトリウムを添加して接着剤組成物のpH値を約7にしても、成形体のpH値は依然として約3のままであり、且つ耐水性が著しく悪化した(試験番号26)。さらに水酸化ナトリウムの添加量を増やし、接着剤組成物をアルカリ性にした場合、成形体の耐水性が極端に悪くなって煮沸処理中に崩壊した(試験番号27および28)。また、炭酸ナトリウムを添加した場合も、成形体の耐水性は極端に悪くなった(試験番号29および30)。

また、表8および表9に、炭酸水素ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、尿素、酸化マグネシウム、リン酸水素二ナトリウムまたはリン酸二水素ナトリウムを使用した結果を示す。尿素およびリン酸二水素ナトリウムを添加した場合(試験番号35、36、39、40)は、接着剤組成物のpH値および成形体の耐水性とpH値は、これらの添加剤を添加しない試験番号21と近い値となり、添加剤の影響が確認できなかった。炭酸水素ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、酸化マグネシウムを添加した場合(試験番号31〜34)は、接着剤組成物のpH値は、約6〜9に上昇したが、成形体の耐水性が極端に悪くなって煮沸処理中に崩壊した。リン酸水素二ナトリウムを添加した場合、接着剤組成物のpH値は約6.5に増加したが、耐水性が非常に悪化して煮沸処理中に崩壊するか(試験番号38)、成形体の耐水性が良好であっても、成形体のpH値が依然として約3のままであった(試験番号37)。

[実施例1] さらに実験を続けた結果、炭酸カルシウムを添加することにより、耐水性が良好で、pH値が約4〜5.5を示す成形体を製造することに成功した。結果を表10に示す。 なお、試験番号41、42、44では、炭酸カルシウムを蒸留水に添加混合することによって調製した接着剤組成物を用いて試験を行ったが(方法A)、炭酸カルシウムは水に溶けにくいため完全には溶けず、接着剤組成物は白濁した溶液となった。したがって、表に示す接着剤組成物のpH値は、炭酸カルシウムが完全に溶けていない状態でのpH値(見かけのpH)である。 試験番号43の接着剤組成物の組成は、試験番号42と同じであるが、スクロースとリン酸塩のみを蒸留水に溶かし、炭酸カルシウムは蒸留水に添加せず、粉末状態で木粉に加えた(方法B)。よって、試験番号43の接着剤組成物のpH値は、スクロースとリン酸塩のみを含む水溶液のpH値である。 前記方法Aおよび方法Bの詳細を以下に示す。耐水性試験および成形体のpH値の測定は、上述した方法で行った。

方法A (1) 糖、リン酸塩および炭酸カルシウムを蒸留水30gと混合し、接着剤組成物を調製する。 (2) 乾燥状態の被着材(スギ木粉)8gに、前記接着剤組成物を添加し、混合する。 (3) 前記混合物を90℃のオーブンで18時間乾燥させる。 (4) 乾燥した混合物を160℃に予熱した内径7センチの円柱状金型に入れる。 (5) 圧力4MPa・温度160℃で5分間熱圧する。

方法B (1) 糖およびリン酸塩を蒸留水30gに溶解する。 (2) 乾燥状態の被着材(スギ木粉)8gに、炭酸カルシウム粉末を加えて混合する。 (3) (2)の混合粉末に、(1)の水溶液を添加し、混合する。 (4) (3)の混合物を90℃のオーブンで18時間乾燥させる。 (5) 乾燥した混合物を160℃に予熱した内径7センチの円柱状金型に入れる。 (6) 圧力4MPa・温度160℃で5分間熱圧する。

リン酸塩がリン酸二水素アンモニウムである場合(試験番号41〜43)、表10に示すように、リン酸二水素アンモニウムと同量の炭酸カルシウムを使用することにより(試験番号42と43)、成形体の耐水性が良好で、且つ、成形体のpH値が、木粉のみの成形体(試験番号25)のpH値(5.14)よりも高くなった。試験番号42と43の結果を比べると、方法Aで製造した成形体(試験番号42)のほうが、方法Bで製造した成形体よりも、高いpH値と耐水性を示した。 また、リン酸二水素アンモニウムの2/3の量の炭酸カルシウムを使用した場合も(試験番号41)、pH値が4.5を超え、且つ、耐水性が良好な成形体を得ることができた。 炭酸カルシウムの量が少なすぎる場合はpH値が上昇しにくく、炭酸カルシウムの量が多すぎると耐水性が悪化する傾向が見られるため、リン酸塩がリン酸二水素アンモニウムの場合、リン酸塩:炭酸カルシウムの重量比は、1:0.5〜1:1.5の範囲にあることが好ましく、1:0.60〜1:1.35の範囲にあることがより好ましいと考えられる。

リン酸塩がリン酸水素二アンモニウムである場合(試験番号44)、リン酸塩の半量の炭酸カルシウムを使用することにより、pH値が4を超え、且つ耐水性が良好な成形体を得ることができた。このことから、リン酸塩がリン酸水素二アンモニウムの場合、リン酸塩:炭酸カルシウムの重量比は、1:0.3〜1:0.7の範囲にあることが好ましいと考えられる。

以上の結果から、糖とリン酸二水素アンモニウムまたはリン酸水素二アンモニウムを含む接着剤組成物を用いると、石油由来の接着剤を用いた場合の硬化温度(約160℃)で、木材を強固に接着することができ、耐水性の高い製品を製造できることが分かった。また、前記接着剤組成物にさらに炭酸カルシウムを加えることにより、製品の耐水性を損なうことなく、製品の酸性化を防げることが分かった。 また、リン酸二水素アンモニウムを使用した方が、リン酸水素二アンモニウムを使用するよりも、pH値がより中性に近い製品を製造できることが分かった。リン酸二水素アンモニウムを含む接着剤組成物のpH値は、リン酸水素二アンモニウムを含む接着剤組成物のpH値よりも有意に低いため、これは予想外の結果であった。

[実施例2] 糖、リン酸二水素アンモニウムおよび炭酸カルシウムを使用して製造したパーティクルボード(CaCO3有り)と、糖とリン酸二水素アンモニウムのみを使用して製造したパーティクルボード(CaCO3無し)の物性を比較した。なお、炭酸カルシウムは、糖やリン酸二水素アンモニウムと異なり、水に溶けにくいため、炭酸カルシウムを水中に含む溶液を噴霧器で散布すると、噴霧器が目詰まりを起こす可能性がある。したがって、炭酸カルシウムを使用する場合、炭酸カルシウムは粉末の状態で添加し、糖とリン酸二水素アンモニウムは水溶液の状態で添加した。具体的なパーティクルボードの製造方法を以下に示す。

[製造方法] (1) パーティクルボード用リサイクルチップを予め80℃のオーブンで含水率約3%程度まで乾燥する。 (2) スクロースとリン酸二水素アンモニウムを80:20の重量割合で水に溶かし、50wt%濃度の水溶液を調製する。 (3) ボード寸法300×300×9 mm、目標密度0.8 g/cm3となるように乾燥チップを計り取る。 (4) 炭酸カルシウム粉末を加える場合は、リン酸二水素アンモニウムの重量の約67%の炭酸カルシウムを、前記乾燥チップに添加する。添加は、ブレンダーに投入した乾燥チップに炭酸カルシウム粉末を加えることにより行った。 (5)ブレンダー作動中に前記水溶液を噴霧塗布する。水溶液の噴霧量は、乾燥チップ100重量部に対し、水溶液の固形分重量(スクロースとリン酸二水素アンモニウムの重量)が20重量部となる量とする。 (6) 前記水溶液を塗布したチップを90℃のオーブンで18時間乾燥させる。 (7) 30×30センチのフォーミングボックスを用いてマットを作成後、ホットプレスに挿入する。 (8) 熱圧温度170℃、熱圧時間9分(1min/mm)で厚み9mmのディスタンスバーを用いて十分な圧力でホットプレスする。

[ボード物性試験] 製造したパーティクルボードの物性を調べるため、JIS A 5908に準拠して曲げ試験、剥離試験、吸水厚さ膨張率試験を行った。また、パーティクルボードの酸性化の程度を調べるため、吸水厚さ膨張率試験後の水のpH値を測定した。結果を表11に示す。

表11の結果から、炭酸カルシウムを添加すると、パーティクルボードの物性が向上することが分かる。また、吸水厚さ膨張率試験後の水のpH値から、炭酸カルシウムの添加によって、ボードがより弱酸性となることが分かった。

本発明の接着剤組成物は、石油由来の化合物や毒物・劇物に相当する化合物を含まないので環境に優しく、木質ボード等の木質材料を製造する際の接着剤として好適である。また、本発明の接着剤組成物は、安価で、石油系接着剤と同等の温度・時間で木質エレメントを硬化させることができるため、従来からある設備を使用し、従来と同程度のコストで木質材料を大量生産することができる。さらに、製造機械の酸腐食や、製造した製品の酸性化の問題を改善できるため、実用性が非常に高い。

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