新規複合材料およびそれを用いるポリマー被覆材前駆体

申请号 JP2015517061 申请日 2014-05-09 公开(公告)号 JPWO2014185361A1 公开(公告)日 2017-02-23
申请人 国立研究開発法人科学技術振興機構; 发明人 淳 高原; 元康 小林; 宏臣 渡邊;
摘要 基材の表面にポリマーを被覆して表面改質や機能性付与を行うポリマー被覆材の前駆体等に用いられるのに好適な新規の材料を提供する。下記の式(I)で表されるカテコール誘導体またはフェノール誘導体から成る架橋構造中に、ハロゲン基を含む重合開始部位を有する化合物が取込まれていることを特徴とする複合材料。式(I)中、Rは酸素分子で中断されていることもあり、少なくとも1つの二重結合部位を有する炭素数2〜20の炭化 水 素基を表し、Aは水素 原子 、水酸基または炭素数1〜20のアルコキシ基を表す。【化1】
权利要求

下記の式(I)で表されるカテコール誘導体またはフェノール誘導体から成る架橋構造中に、ハロゲン基を含む重合開始部位を有する化合物が取込まれていることを特徴とする複合材料。 〔式(I)中、Rは3位または4位にあり、酸素分子で中断されていることもあり、少なくとも1つの二重結合部位を有する炭素数2〜20の炭化素基を表し、また、Aは水素原子、水酸基または炭素数1〜20のアルコキシ基を表す。〕前記カテコール誘導体またはフェノール誘導体が下記の式(III)で表されるウルシオールである、請求項1に記載の複合材料。 〔式(III)中、Rは式(I)に関して定義したものと同じである。〕ハロゲン基を含む重合開始部位を有する化合物が、下記の式(II−1)で表され、 〔化3〕 IA1 - SP1 - PI1 (II−1) 式(II−1)中、IA1は、下記の式(VI−1)または(VI−2)で表され、 式(II−1)中、PI1は、ハロゲン基を含む重合開始部位であって、 下記の式(VII−1)、(VII−2)、または(VII−3)のいずれかで表され、 (上記式中、Xは、ハロゲン原子を表す。) 式(II−1)中、SP1は、前記IA1およびPI1を連結するスペーサー部位であって、下記の式(VIII−1)または式(VIII−1')で表される、 (上記式中、nは、0〜10の整数を表す。) ことを特徴とする、請求項1または2に記載の複合材料。Xが臭素原子または塩素原子であり、nが1〜8の整数であることを特徴とする、請求項3に記載の複合材料。Xが臭素原子であり、nが2〜6の整数であることを特徴とする、請求項4に記載の複合材料。ハロゲン基を含む重合開始部位を有する化合物が、下記の式(IV)、(V)、(IV’)、または(V’)で表されるものである、請求項5記載の複合材料。ハロゲン基を含む重合開始部位を有する化合物が、下記の式(II−2)で表され、 〔化8〕 IA2 - SP2 - PI2 (II−2) 式(II−2)中、IA2は、下記の式(VI−3)または(VI−4)で表され、 (上記式中、R1は、炭素数1〜6のアルキル基を表し、X1は、ハロゲン原子を表す。) 式(II−2)中、PI2は、ハロゲン基を含む重合開始部位であって、下記の式(VII−1')、式(VII−2')、または式(VII−3')のいずれかで表され、 (上記式中、Xは、ハロゲン原子を表す。) 式(II−2)中、SP2は、前記IA2およびPI2を連結するスペーサー部位であって、下記の式(VIII−2)または式(VIII−2')で表される、 (上記式中、nは、0〜10の整数を表す。) ことを特徴とする、請求項1または2に記載の複合材料。R1が炭素数1〜5のアルキル基であり、Xが塩素原子または臭素原子であり、X1が塩素原子または臭素原子であり、nが1〜8の整数であることを特徴とする、請求項7に記載の複合材料。R1が炭素数1〜4のアルキル基であり、Xが臭素原子であり、X1が塩素原子であり、nが2〜6の整数であることを特徴とする、請求項8に記載の複合材料。ハロゲン基を含む重合開始部位を有する化合物が、下記の式(IX)、(X)、または(XI)で表されるものである、請求項9に記載の複合材料。請求項1〜9のいずれかに記載の複合材料から成る硬化膜が基材に接着されていることを特徴とするポリマー被覆材前駆体。請求項11に記載のポリマー被覆材前駆体に存在するハロゲン基を重合開始点とした原子移動ラジカル重合(ATRP)によって、ビニル基を有するモノマーが表面開始重合され表面改質されたことを特徴とするポリマー被覆材。ビニル基を有するモノマーが、MTAC(2−(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロリド)であり、該モノマーが表面開始重合されて、表面の親水性が改質されていることを特徴とする請求項12に記載のポリマー被覆材。前記MTAC(2−(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロリド)をモノマーとする重合体を含み、水に対する接触12°以下を有することを特徴とする請求項13に記載のポリマー被覆材。上記の式(I)で表されるカテコール誘導体またはフェノール誘導体と、ハロゲン基を含む重合開始部位を有する化合物とを混合し、硬化させる工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の複合材料を製造する方法。

说明书全文

本発明は、基材の表面にポリマーを被覆して該基材の表面改質や機能性、例えば、濡れ性や耐摩耗性、防汚性、生体適合性等の付与を行うための技術に関し、特に、そのようなポリマー被覆材の前駆体などに用いられる新規な複合材料およびそれを用いるポリマー被覆材前駆体に関する。

近年、各種の材料(基材)の表面改質や機能性の付与を行う手段として、基材の表面にポリマーをグラフト重合させる表面グラフト重合法が注目されている。この方法は、(1)重合開始基を物理的または化学的に基材の表面に固定化させる工程、(2)前記重合開始基を起点として重合反応を行い、基材表面にいわゆるポリマーブラシを生成させる工程(例えば、特許文献1および特許文献2)の2つの工程から成る。本発明は、工程(1)に対応する技術に関するものである。

重合開始基を基材表面に固定化させるには、従来、基材の種類に応じて、重合開始基を有する特定の化合物を基材表面に塗布または吸着させていた。

例えば、ガラスやシリコンから成る基材に対しては、シランカップリング系化合物や金属アルコキシド(例えば、非特許文献1、非特許文献2、特許文献3、特許文献4)、金基材に対してはチオール化合物(例えば、非特許文献3、特許文献4、特許文献5)、鉄やアルミニウム系基材にはアルキルリン酸(非特許文献4)などが使用されていた。このように、基材の材質に応じて適切な化合物を選択することが必要であり、例えば、金属やガラスなどの基材に有効であっても、プラスチック等には適用できないのが実情であった。その他、基材の表面に放射線や紫外線を照射することにより重合開始基を生成させることもある(例えば、特許文献6)。この方法は、プラスチックにも適用できるが、基材表面の一部が分解してしまい安定な構造が得られないという問題がある。

本発明者らの属する研究グループは、先に、基材表面にポリドーパミン膜を形成させ該ポリドーパミン膜に重合開始剤を固定化させた表面修飾基材(ポリマー被覆材前駆体)を案出した(特許文献7)。この技術は、基材の材質によらず基材表面をポリマーで被覆し得る表面修飾基材を目的とするものであるが、ドーパミン溶液を室温下で酸化重合することにより長時間かけてポリドーパミン膜を作成した後、さらに開始剤を固定化するという2段階反応を経るものである。したがって、調製に時間を要し煩雑であるのが難点である。また、この特許文献7に記載の技術は、基材として、シリコン、アルミニウム、ステンレスなどの金属やPTFEなどのプラスチックから成るものに対する適用性は試みられたが、その他のプラスチック、例えば、改質が難しいことで知られているフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂への適用性は確認されていない。

B. Zhao and W. J. Brittain, J.Am. Chem. Soc., 1999, 121, 3557-3558

K. Ohno, T. Morinaga, K. Koh, Y.Tsujii and T. Fukuda, Macromolecules, 2005, 38, 2137-2142

W. Huang, J. -B. Kim, M. L.Brueningc G. L. Baker, Macromolecules, 2002, 35, 1175-1179

R. Matsuno, H. Otsuka and A.Takahara, Soft Matt., 2006, 2, 415-421

特再公表2009/136510号公報

特開2006−177914号公報

特開2010−57745号公報

特表2002−535450号公報

特表2007−527605号公報

特表2005−511074号公報

特開2010−261001号公報

本発明の目的は、上述の従来技術における課題を解決して、基材の表面にポリマーを被覆してその表面改質や機能性付与を行うために、材質の如何を問わず各種の基材に適用できるポリマー被覆材前駆体を提供すること、特に該前駆体に用いられるのに好適な新規な材料を提供することにある。

本発明者らは、ウルシオールまたはその類縁物質と、重合開始部位を有する特定構造の化合物とを用いることによって、上記目的が達成され得ることを見出し本発明を導き出したものである。

かくして、本発明に従えば、下記の式(I)で表されるカテコール誘導体またはフェノール誘導体から成る架橋構造中に、ハロゲン基を含む重合開始部位を有する化合物が取込まれていることを特徴とする複合材料が提供される。

式(I)中、Rは3位または4位にあり、酸素分子で中断されていることもあり、少なくとも1つの二重結合部位を有する炭素数2〜20の炭化素基を表し、また、Aは水素原子、水酸基または炭素数1〜20のアルコキシ基を表す。

本発明に従えば、さらに、上記の複合材料から成る硬化膜が基材に接着されていることを特徴とするポリマー被覆材の前駆体が提供される。 本発明に従えば、さらに、上記のポリマー被覆材前駆体に存在するハロゲン基を重合開始点とした原子移動ラジカル重合(ATRP)によって、ビニル基を有するモノマーが表面開始重合され表面改質されたことを特徴とするポリマー被覆材が提供される。 本発明に従えば、さらに、上記の式(I)で表されるカテコール誘導体またはフェノール誘導体と、ハロゲン基を含む重合開始部位を有する化合物とを混合し硬化させる工程を含むことを特徴とする上記複合材料を製造する方法が提供される。

本発明の複合材料は、1段階の反応で簡単に且つ短時間に製造することができる。本発明の複合材料から成る硬化膜は、シリコン基板、金属、ガラスの他、フェノール樹脂を含むプラスチックなど各種の基材に接着されてポリマー被覆材前駆体として供することができる。得られるポリマー被覆材前駆体は基材と強固に接着し、しかもきわめて安定である。

(a)本発明の硬化膜において、開始剤であるブロモ基含有カテコール(BiBDA)の濃度(mol%)に対して座屈法により得られたヤング率(GPa)の結果を示す。(b)本発明の硬化膜において、開始剤であるブロモ基含有カテコール(BiBDA)の濃度(mol%)に対してバルジ試験により得られた引張強度(GPa)の結果を示す。(c)本発明に従う表面重合開始前後のXPS測定の結果を示す。(d)(c)の一部を拡大して示したものである。(e)トリフルオロエタノール(TFE)に60℃で24時間浸漬した前後、および本発明に従うPMTAC生長後のAFM像の結果を示す。

(a)スピンコートにより作製した本発明のポリマー被覆材前駆体薄膜の、100℃で10分間加熱前後のIR測定の結果を示す。(b)本発明に従う表面開始重合後のポリマー被覆材(表面改質材料)断面のTEM像を示す。

(a)本発明に従う硬化膜表面の静的水接触について、表面開始重合前の場合と、硬化膜表面からPMTACポリマーブラシを生長させた表面開始重合後の場合における測定結果を、開始剤ブロモ基含有カテコール(BiBDA)の濃度に応じて示す。(b)本発明に従う表面開始重合後の硬化膜表面のSEM像を示す。

本発明に係るポリマー被覆材前駆体に対するPMTACの表面開始重合前後のSEM像を示す。

(a)本発明に係るポリマー被覆材前駆体を溶媒TFEに60℃で24時間浸漬した前後のAFM像の結果を示す。(b)本発明に係るポリマー被覆材前駆体を溶媒TFEに60℃で24時間浸漬した前後のUVスペクトルの結果を示す。(c)本発明に係るポリマー被覆材前駆体表面のSEM像を示す。

(a)本発明に従うポリマー被覆材前駆体について溶媒TFEに60℃で24時間浸漬前後のAFM像の結果を示す。(b)本発明に従うポリマー被覆材前駆体のスピンコート直後、100℃で10分間加熱して硬化した後、および溶媒TFEに浸漬後のIR測定の結果を示す。(c)本発明に従うポリマー被覆材前駆体について溶媒TFEに60℃で24時間浸漬した前後のUVスペクトルの結果を示す。

本発明に従うポリマー被覆材前駆体を溶媒TFEに浸漬した前後のSEM像を示す。

よく知られているように、ウルシの他、ウルシ科の多くの植物に含まれるウルシオールは、一般に炭素数15〜17個の炭化水素基が置換されたカテコール誘導体であり、該炭化水素基は飽和のもの(アルキル基)と不飽和のもの(アルケニル基等)があり、通常、それらが混在しており、その割合は原料の種によって異なっている。

本発明の複合材料に用いられる前記の式(I)で表されるカテコール誘導体またはフェノール誘導体は、叙上の天然のウルシオールの他、その構造的な類縁体(例えば、合成による人工のウルシオール、カシューナッツ由来のカルダノール等)を包含するものである。すなわち、式(I)において、Rは3位または4位にあり、酸素分子で中断されていることもあり、少なくとも1つの二重結合部位を有する炭素数2〜20、好ましくは、炭素数15〜19の炭化水素基を表し、例えば、次の式で表されるものが挙げられる。

式(I)のRによって表される上記のような炭化水素基はそれらが混合されたものでもよい。既述のように、天然のウルシオールの側鎖の置換基には飽和のアルキル基〔例えば、−(CH2)14CH3〕が混在したものがある。そのような天然のウルシオールをそのまま式(I)の誘導体として用いることもできるが、その場合、Rとして必ず、少なくとも1つの二重結合部位を有する炭化水素基を含有しているものを使用すべきである。

カテコール誘導体やフェノール誘導体が、そのOH基を介して架橋構造を形成して硬化することは良く知られているが、上記のように、二重結合部位を有する炭化水素基から成る側鎖(R)を含有している式(I)の誘導体を用いることは、熱重合により強固で柔軟な架橋構造を形成するのに重要である(後述)。

安定なポリマー被覆材前駆体が得られ、さらに、基材との接着性が良いこと等の理由から、本発明に用いられる式(I)の誘導体として特に好ましいのは、下記の式(III)で表されるウルシオールである。

式(III)中、Rは式(I)に関して定義したものと同じである。すなわち、Rは酸素分子で中断されていることもあり、少なくとも1つの二重結合部位を有する炭素数2〜20、好ましくは炭素数15〜19の炭化水素基を表し、例えば、前記の式(i)〜(vi)で表すものが挙げられる。また、式(III)のRによって表される如上の炭化水素基は、天然のウルシオールを用いる場合のように、それらが混合されたものでもよいが、その場合、Rとして、必ず、少なくとも1つの二重結合部位を有する炭化水素基を含有しているものを使用すべきである。

本発明の複合材料は、式(I)で表されるカテコール誘導体またはフェノール誘導体から成る架橋構造中に、ハロゲン基を含む重合開始部位を有する化合物が取込まれて成るものである。 かくして、本発明の複合材料は、硬化膜として基材に接着されることにより、重合開始剤(重合開始基)を有する硬化膜(薄膜)が基材表面に固定化されており、後に各種のポリマー(ポリマーブラシ)で被覆することにより、材料の表面改質や機能性付与が行うことができるポリマー被覆材の前駆体として利用することができる。

本発明の複合材料を用いて、ポリマーブラシと成る各種のポリマーを簡素な手法で得るためには、リビングラジカル重合を用いる。すなわち、本発明の複合材料は、リビングラジカル重合、特に、基材の表面にポリマーをグラフト重合させる用途に優れた原子移動ラジカル重合(ATRP)(表面開始重合)を適用することにより、ポリマーの成長末端として、末端の炭素原子にハロゲン原子を有するハロゲン化アルキル構造を有することができる。

本発明に係るハロゲン基を含む重合開始部位を有する化合物は、一般に、下記の式(II)で表すことができる。 〔化4〕 IA - SP - PI (II)

(1)IAは、カテコール誘導体またはフェノール誘導体と相互作用するための部位であり、以下、相互作用部位ともいう。すなわち、このIAは、式(I)で表されるカテコール誘導体またはフェノール誘導体と(共有結合を介して)相互作用する部位であり、このIAが存在することによって、それらの誘導体から成る架橋構造中に開始剤(重合開始部位を有する化合物)が固定化され、後に重合されたときにポリマーブラシが脱離することも無く、安定したポリマー被覆材が得られる。 本発明者が見出したところでは、IAとしては、カテコール基またはフェノール基由来の原子団が有用であると考えられ、この他、トリハロシランや、トリアルコキシシランなどの有機シランに由来する原子団なども考えられる。さらに、アミノ基に由来する原子団を用いることも可能である。 (2)PIは、重合開始の起点となる部位であって、末端にハロゲン基を有する原子団の構造をなしており、以下、重合開始部位ともいう。 (3)SPは、これらの部位IA(相互作用部位)およびPI(重合開始部位)を連結する部位であり、一般的には鎖状のアルキルアミンまたはアルキルアルコール由来の構造を有しており、以下、スペーサーともいう。

以下、本発明に係るハロゲン基を含む重合開始部位を有する化合物について、さらに具体的に説明する。

(ハロゲン基を含む重合開始部位を有する化合物:その1) 本発明に係るハロゲン基を含む重合開始部位を有する化合物として好ましいのは、既述のように、IAがカテコール基またはフェノール基由来の原子団である化合物であり、例えば、下記の式(II−1)で表すことができる。 〔化5〕 IA1 - SP1 - PI1 (II−1)

式(II−1)中、IA1は、下記の式(VI−1)または(VI−2)で表すことができる。それらのカテコール基またはフェノール基由来のOH基が、カテコール誘導体またはフェノール誘導体のOH基と相互作用(共有結合)するものと考えられる。

式(II−1)中、PI1は、ハロゲン基を含む重合開始部位であって、下記の式(VII−1)、(VII−2)、または(VII−3)のいずれかで表される。

上記式中、Xは、ハロゲン原子を表すが、取扱いの容易性から、臭素原子または塩素原子が好ましく、反応性の観点から、特に臭素原子が好ましい。

上記式(II−1)中、SP1は、前記IA1およびPI1を連結するスペーサー部位であって、下記の式(VIII−1)または式(VIII−1')で表される、

上記式中、nは、0〜10の整数を表すが、取扱いの容易性から、炭素数1〜8であることが好ましく、より好ましくは、炭素数2〜6である。

上記の化合物を得る方法としては、例えば、IA1(相互作用部位)の前駆体としての、カテコール誘導体またはフェノール誘導体(例えば、ドーパミン塩酸塩)と、PI1(重合開始部位)の前駆体としての、2−ブロモイソブチリルブロミド誘導体または4−ブロモメチル安息香酸を用いることができる。 例えば、ドーパミン塩酸塩をメタノールに入れ、トリエチルアミンを加えて冷却後、2−ブロモイソブチリルブロミドのTHF溶液と、トリエチルアミンのメタノール溶液を交互に加えて、攪拌混合することによって、得ることができる。この他にも、ドーパミン塩酸塩をジメチルホルムアミド (DMF)に入れ、トリエチルアミンを加えて、N-ヒドロキシスクシイミドと4-ブロモメチル安息香酸、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩のDMF溶液を滴下し、攪拌混合することによって、得ることができる。

このようにして得られる、本発明において用いられるのに好適なハロゲン基を含む重合開始部位を有する化合物としては、例えば、下記の式(IV)、(V)、(IV’)、または(V’)で表されるものが挙げられるが、これに限定されるものではない。

(ハロゲン基を含む重合開始部位を有する化合物:その2) 本発明に係るハロゲン基を含む重合開始部位を有する化合物として好ましい他の例は、既述のように、IAが有機シランに由来する原子団である化合物であり、例えば、下記の式(II−2)で表すことができる。 〔化10〕 IA2 - SP2 - PI2 (II−2)

式(II−2)中、IA2は、下記の式(VI−3)または(VI−4)で表される。

上記式中、R1は、炭素数1〜6のアルキル基を表すが、取扱いの容易性から、炭素数1〜5であることが好ましく、より好ましくは、炭素数1〜4であり、より好ましくは、炭素数1または2である。また、上記式中、X1は、ハロゲン原子を表し、塩素原子または臭素原子が好ましく、より好ましくは、塩素原子である。それらのアルキル基(R1)やハロゲン原子(X1)が、カテコール誘導体またはフェノール誘導体のOH基と相互作用(共有結合)するものと考えられる。

式(II−2)中、PI2は、ハロゲン基を含む重合開始部位であって、下記の式(VII−1')、式(VII−2')または式(VII−3')のいずれかで表される。

上記式中、Xは、ハロゲン原子を表し、好ましくは、塩素原子または臭素原子であり、より好ましくは、臭素原子である。

式(II−2)中、SP2は、前記IA2およびPI2を連結するスペーサー部位であって、下記の式(VIII−2)または式(VIII−2')で表される。

上記式中、nは、0〜10の整数を表すが、取扱いの容易性から、炭素数1〜8であることが好ましく、より好ましくは、炭素数2〜6である。

上記の化合物を得る方法としては、例えば、次の反応を用いて得ることができる。先ず、SP2(スペーサー)の前駆体としての、5−ヘキセン−1−オールなどのアルキルアルコールを、PI2(重合開始部位)の前駆体としての、2−ブロモイソブチリルブロミド誘導体または4−ブロモメチル安息香酸と、非極性溶媒下で、攪拌混合(例えば、10〜20時間)して、乾燥後、化合物SP2−PI2を得る。次に、得られた化合物SP2−PI2を、IA2(相互作用部位)の前駆体としての、トリハロシラン化合物またはトリアルコキシ化合物と混合し、白金を含有する触媒下、攪拌混合(例えば、30〜50時間)し、所望の化合物IA2 - SP2 - PI2を得る。

このようにして得られる、本発明において用いられるのに好適な化合物(ハロゲン基を含む重合開始部位を有する化合物)としては、例えば、下記の式(IX)、(X)、または(XI)で表されるものが挙げられるが、これに限定されるものではない。

本発明の複合材料は、式(I)のカテコール誘導体(またはフェノール誘導体)と、ハロゲン基を含む重合開始部位を有する化合物とを混合し、硬化させるという簡単な操作で製造される。

混合に際しては、超音波処理などを行い、均一な分散を確保する。硬化は、式(I)のカテコール誘導体(またはフェノール誘導体)と、ハロゲン基を含む重合開始部位を有する化合物との混合物を酸化条件および加熱条件に供することによって達成される。すなわち、本発明においては、ウルシオールの凝固(硬化)におけるような酸化による重合に加えて、熱による重合も起こるように混合物を加熱する。この熱重合は、一般に、60〜180℃、好ましくは100〜120℃に加熱することによって行う。これによって、式(I)のカテコール誘導体(またはフェノール誘導体)の側鎖(R)に存在する二重結合の間の反応を介して、強固で柔軟な架橋構造が形成される。硬化は、きわめて迅速に起こり、例えば、100℃で加熱することにより、10分で充分に硬化する。

なお、酸化重合は、被覆物をそのまま空気中に放置することによっても進行するが、よく知られた酸化酵素ラッカーゼに相応する触媒〔例えば、酢酸鉄(II)〕を添加したり、pHを変化させることにより、酸化重合を促進させることができるが、これらの操作は必須の条件ではない。

かくして、式(I)のカテコール誘導体(またはフェノール誘導体)と、ハロゲン基を含む重合開始部位を有する化合物とを混合した後、その混合物を基材の表面に被覆し、その被覆を硬化させることにより、本発明の複合材料から成る硬化膜が基材に接着されているポリマー被覆材前駆体を作製することができる。混合および硬化の手法および条件は、既述のとおりである。被覆には、スピンコート法、ディップコーティング法、キャスト法など、従来から知られた各種の手法を適用することができる。

以上のようにして得られる本発明に従うポリマー被覆材前駆体は、本発明の複合材料から成る硬化膜が種類を問わず各種の基材に強固に接着(付着)されているとともに、該硬化膜において、重合開始部位を有する化合物が安定に存在して該硬化膜から脱離することもない(後述の実施例参照)。 本発明に従うポリマー被覆材前駆体がこのような特徴を有するメカニズムは、詳細には判明していないが、次のように推察される:先ず、ウルシオールに代表される式(I)のカテコール誘導体またはフェノール誘導体のOH基に由来すると考えられる優れた接着性(付着性)に因り該カテコール誘導体またはフェノール誘導体が種々の基材に強固に接着(付着)する。 そして、ハロゲン基を含む重合開始部位を有する化合物は、既述のように、恐らく共有結合を介して式(I)のカテコール誘導体またはフェノール誘導体に結合して該誘導体から成る架橋構造内に取込まれていると考えられる。かくして、ハロゲン基を含む重合開始部位を有する化合物(したがって、重合開始基)がポリマー被覆材前駆体から脱離せず、この結果、後にポリマー化した場合に得られるポリマーブラシが脱離することもなく、安定したポリマー被覆材が得られる。

なお、本発明の複合材料は、上記のように、式(I)のカテコール誘導体(またはフェノール誘導体)とハロゲン基を含む重合開始部位を有する化合物とを混合した後、その混合物を基材の表面に被覆し硬化させた後、その硬化膜を基材から剥離させて使用することもできる。そのように基材から剥離させたものなども本発明の複合材料に包含される。

本発明に従えば、上記のようにして得られたポリマー被覆材前駆体に存在するハロゲン基を開始点としてモノマーを重合(表面開始重合)してポリマーとすることにより、材料の多様な表面改質や機能性付与を行うことができる。このような重合としては、例えば、特表2007−527463号公報に示されるような原子移動ラジカル重合(ATRP)を用いることができる。モノマーとしては、よく知られているように、銅や鉄などの金属錯体の存在下に原子移動ラジカル重合(ATRP)によりポリマーを生じるビニル基を有するモノマー、すなわち、アクリル酸部位、メタクリル酸部位、アクリルアミド部位、スチレン部位等を有する各種のモノマーが適用可能であり、ポリマーに応じた所望の表面改質特性や機能性に応じた構造を有するものを選ぶことができる。

例えば、下記の式(XII)で表される2−(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロリド(MTAC)モノマーを重合してポリマー化して高分子電解質(PMTAC)とすることにより、表面の親水性に極めて優れたポリマー被覆材を得ることができる。

本発明の複合材料から成る硬化膜は、平面的な形状に限られず、凹凸形状または曲面形状などの任意の形状の基材上に形成することができる。すなわち、既述のように、式(I)のカテコール誘導体またはフェノール誘導体とハロゲン基を含む重合開始部位を有する化合物との混合物を任意の形状の基材の表面に被覆し、その被覆を硬化させればよい。なお、この際、基材の表面に被覆したカテコール誘導体またはフェノール誘導体とハロゲン基を含む重合開始部位を有する化合物との混合物が完全に硬化する前に、該混合物に任意の形状の型を押圧して(押し付けて)から硬化を完了させることにより、硬化膜そのものが任意の表面形状を有するようにすることもできる。 かくして、本発明に従えば、任意の形状の各種の基材の表面上に、任意の形状の本発明に係る複合材料の硬化膜を形成して、後にポリマー化することによりポリマーブラシが生成したポリマー被覆材(表面改質材料)が得られる。この結果、本発明に従えば、各種の形状を有する日用品(例えば、食器)や建築材料(例えば、パイプ)などの各種材料の表裏や内外面に、それぞれの製品や材料に応じた所望の表面特性や機能性を発揮するように安定したポリマー被覆(ポリマーブラシ)を施すことができる。

また、本発明で用いられる、式(I)のカテコール誘導体またはフェノール誘導体に対する開始剤(重合開始部位を有する化合物)の量は、所望の表面改質や機能性に応じて、適宜選択することができる。一般的には、開始剤として機能するために、ある程度の量(例えば10mol%以上)が必要である。

以下、本発明の特徴を更に具体的に説明するために実施例を示すが、本発明は、これらの実施例によって制限されるものではない。

ハロゲン基を含む重合開始部位を有する化合物(IA1 - SP1 - PI1)の合成(1) ハロゲン基を含む重合開始部位を有する化合物(IA1 - SP1 - PI1)として、Xが臭素原子(Br)である式(IV)で表される4−(2−(2−ブロモイソブチリル)アミノエチル)ベンゼン−1,2−ジオール(BiBDA)を合成した。

初めにドーパミン塩酸塩(2.0g、10.5mmol)を20mlのメタノールに入れ、白濁した懸濁液を得た。これに1.46mlのトリエチルアミン(10.5mmol)を加えることにより、透明な溶液が得られた。この溶液を0℃まで冷却した後、2−ブロモイソブチリルブロミド(1.3ml;10.5mmol)のTHF溶液(2ml)と、トリエチルアミン(2.19ml:15.8mmol)のメタノール溶液(2ml)を少量ずつ交互に加えた。この際に、溶液のpHは9に保持した。その後、溶液を室温まで昇温し、1時間撹拌した。次いで、エバポレーターを用いてメタノールなどを除去することにより、目的化合物の粗生成物を得た。得られた粗生成物を50mlのクロロフォルムに再溶解させ、1Nの塩酸水溶液、水、飽和塩化ナトリウム水溶液で順次洗うことにより精製した後、この溶液にNa2SO4を加え一晩放置し水分除去を行い、さらにろ過後に真空乾燥させることで目的化合物(IA1 -SP1 - PI1)であるブロモ基含有カテコール化合物(BiBDA)を得た。

重合開始剤を含むポリマー被膜材前駆体の作製 ウルシオールとして、前記の式(III)におけるRが前記(iii)で表されるものを用いた。初めにウルシオール(1.2 mmol)のエタノール希釈溶液に、酢酸鉄(II)(0.75 mmol)を混合したところ、この時点で溶液は茶色から黒色へと変化した。次いで、このウルシオールに対して、実施例1で合成したブロモ基含有カテコール化合物(0.3 mmol)を加えた。得られた混合液に超音波ホモジナイザー(Branson Sonifier ultrasonic cell disruptors)処理を行った。得られた溶液をスピンコート法(3000rpm)により、基材としてシリコン基板上に被覆(塗布)し薄膜化した。その後、100℃で10分間加熱することにより、厚さ約1ミクロンの塗布膜を得た。塗布膜の厚さは、原子間顕微鏡(AFM)観察にて、アジレント(Agilent)社製のAgilent5500顕微鏡により測定した。 原子間力顕微鏡(AFM)観察においては、標準的なカンチレバーとしてオリンパス(Olympus)社製の OMCL−AC160TS−W2を用い、ノンコンタクトACモードで行った。

<機械的強度測定> 重合開始点(重合開始剤)となるブロモ基の量を調整するために、ウルシオールに対するブロモ基含有カテコール(BiBDA)の量を変化させた。酢酸鉄(II)は、ウルシオールとブロモ基含有カテコール化合物の総量の1/2となるように加えた。図1(a)は、本発明の硬化膜において、開始剤であるブロモ基含有カテコール(BiBDA)の濃度(mol%)に対して、ナノメートル厚の薄膜に特化した座屈法("strain-induced elastic buckling instability for mechanical measurements (SIEBIMM)")により得られたヤング率(GPa)の結果を示す。はじめに自己支持状態にある薄膜を、ポアソン比やヤング率が既知であるポリジメチルシロキサン(PDMS)基板(1cm角程度)上に貼り付けた。このサンプルをマイクロキャリパー(ミツトヨ(Mitutoyo)社、 No.406−250)を用いて徐々に圧縮する。この際に発生するしわの間隔を光学顕微鏡観察から求め、以下に示す式によりヤング率 (Ef)を求めた。

ここでEsはポリジメチルシロキサン(PDMS)基板のヤング率、νfとνsは薄膜とポリジメチルシロキサン(PDMS)のポアソン比、dは観察されたしわの間隔、hは薄膜の厚さである。

図1(b)は、本発明の硬化膜において、開始剤(重合開始部位を有する化合物)であるブロモ基含有カテコール(BiBDA)の濃度(mol%)に対してバルジ試験により得られた引張強度(GPa)の結果を示す。なお、バルジ試験は自作の装置を用いて行った。この装置はナノメートル厚の薄膜に特化したバルジ試験装置である。測定の具体的な方法としては、はじめに自己支持状態にある薄膜を穴のあいた銅板上に貼り付ける。これを自作の装置に取り付け、銅板の穴を通して薄膜に徐々に空気圧をかける。空気圧は自作のレギュレーターを通して精密に制御され、この際の薄膜の膨らみ挙動をニコン社製の正立光学顕微鏡 (ECLIPSE 80i)観察から、圧力を圧力計(AS−ONE M−382 Manometer)を用いて求める。そして以下に示す関係式から極限引張強度および極限伸びを求めた。

ここでPは圧力、aは穴の半径であり今回は0.5 mm、hは薄膜の厚さ、dは薄膜が破裂する直前の膨らみの高さである。図1(b)中において、白抜き丸印は極限伸びについての結果を示し、黒塗り四角は極限引張強度(UTS)についての結果を示す。

これらの試験結果から、本発明の硬化膜は、開始剤(重合開始部位を有する化合物)であるブロモ基含有カテコール(BiBDA)の濃度が高くなるに従い、ヤング率が上昇するものの、極限伸びおよび極限引張強度(UTS)は減少することがわかった。このように、本発明の硬化膜は、開始剤(重合開始部位を有する化合物)であるブロモ基含有カテコール化合物(BiBDA)の比率が高くなるとヤング率が上昇することから、実用的な硬いポリマー被覆材前駆体を得るためには、ある程度の量(例えば10mol%以上)が必要であると理解される。

上記の試験結果から、以下、ウルシオールに対するブロモ基含有カテコールの比が20mol%、すなわち、ウルシオール(1.20mmol)、ブロモ基含有カテコール化合物(0.30mmol)、酢酸鉄(II)(0.75mmol)の条件で作製したものを好適な硬化膜(ポリマー被覆材前駆体)として採用した。

得られた硬化膜のXPS測定結果を図1(c)および(d)の上方に示している。なお、X線光電子分光分析は、フィジカル・エレクトロニクス(Physical Electronics)社製のXPS−APEXを用いて行った。モノクロのAl−KαをX線源として、その出力は150 Wであり、真空度1×10

−6 Paである。射出角は45°で固定した。図に示されるように出発原料となるウルシオールおよびブロモ基含有カテコール化合物の組成に対応するC

1s、O

1s、N

1s、Br

3dのピークが検出され、特にBrのピークが70eV付近に確認された。

また、スピンコート直後および100℃で10分間加熱した後の赤外線吸収スペクトル(IR)測定結果を図2(a)に示す。なお、赤外線吸収スペクトル(IR)測定は、反射測定キットとしてSeagull (ハリックサイエンティフィック(Harrick Scientific)社製)を装備したブルカー・オプティクス(Bruker Optics)社製のVERTEX70 分光光度計を用いて行った。図に示されるように、IR測定から、3015cm

−1および945cm

−1の不飽和二重結合が消失しており、100℃で10分間の加熱により架橋構造が形成していることが確認された。架橋構造の形成は、鉛筆硬度試験による硬化膜の引掻き傷無しという現象からも確認された。

<耐溶媒試験> 上記のようにして得られたポリマー被覆材前駆体を、水、メタノール、エタノール、DMSO(ジメチルスルホキシド)、トルエン、クロロフォルム、アセトン、THF(テトラヒドロフラン)、DMF(N,N−ジメチルホルムアミド)およびTFE(トリフルオロエタノール)に、室温で12時間浸漬した場合、および60℃で1時間浸漬した場合について、耐溶媒試験を行った。いずれの場合においても硬化膜に変化は認められず、また、XPS測定の結果も試験前と変わらずBr3dのピークの検出も確認された。また、これらの溶媒に60℃で24時間浸漬した後でも、基材からの剥離は観察されなかった。

さらに、上記の各溶媒に対して、室温で24時間浸漬した場合、および60℃で24時間浸漬した場合について耐溶媒試験を行った。その結果を以下の表に示す。

得られた結果から、良好な接着能が示された。特にTHFおよびDMF以外の溶媒については、長時間が経過した後、硬化膜に変化は認められなかった。これらの結果から、一般の溶媒に対して、硬化膜が架橋構造により不溶不融であることが示されたことから、本発明の硬化膜は、ハロゲン基を含む重合開始部位を有する化合物を基材表面に固定化する手法として有用であり、重合開始基固定化の足場として有効であることを示唆している。

また、浸漬前後の硬化膜表面を原子間力顕微鏡(AFM)で観察したところ、共に表面粗さは自乗平均面粗さ(RMS)値で約3ナノメートル程度であった。原子間力顕微鏡(AFM)観察は、アジレント(Agilent)社製のAgilent5500顕微鏡を用いて行った。 また、XPS測定の結果も、いずれも、ウルシオールおよびブロモ基含有カテコール化合物の組成に対応するC1s、O1s、N1s、Br3dのピークが検出された。

AFM像の一例として、ポリマーブラシを溶媒TFEに60℃で24時間浸漬させた前後の結果を図1(e)に示す。この結果から、浸漬前後で表面形状の変化が無いことが確認された。

<その他の基材への適用> 基材として、ステンレス、銅板、ガラス、セラミクス、シリコン基板(真空UV処理)、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)を用いて、上記の条件で、これらの基材上にスピンコート法またはキャスト法を用いてポリマー被覆材前駆体の塗布を行った。このスピンコート法(膜厚80nm)とキャスト法(膜厚4−5μm)の各場合で得られた硬化膜と基材との密着性について、ASTM D3359の手法による6段階評価[0(不良)〜5(良好)]で試験を行った結果を以下の表に示す。

得られた結果から、基材の種類を問わず、剥離することなく、しかも硬化膜に大きな変化は認められず、良好な接着能が示された。この結果から、硬化膜が、カテコール骨格に起因して、基材に対して高い付着特性を有していると考えられる。

ポリマー被覆材(表面改質材料)の作製 実施例2で作製した硬化膜(ポリマー被覆材前駆体)を用い、該硬化膜に含まれているブロモ基を重合開始点とし、前記の式(V)で表される2−(メタクリロイル)エチルトリメチルアンモニウムクロリド(MTAC)の表面開始重合を行い、そのポリマーである高分子電解質(PMTAC)を硬化膜表面にグラフトした。

該前駆体と、0.1mmolのCuBr、さらに4,4−ジメチル−2,2−ビピリジン(0.2mmol)をフラスコ内に入れ、アルゴン置換と脱気を交互に3回繰り返した。その後1.01MのMTACポリマーのメタノール溶液を加え、さらにアルゴン置換と脱気を交互に3回繰り返した。そしてアルゴン置換下、30℃で重合を行った。12時間後に溶液を空気にさらすことにより反応を停止させ、得られたサンプルについてメタノールでソックスレー抽出を12時間かけて行うことにより、硬化膜表面に物理的に吸着したポリマー等を取り除いた。その後、得られた基材を30℃で1時間乾燥させることにより、ポリマーブラシを生長させた目的のポリマー被覆材(表面改質材料)を得た。

得られたポリマー被覆材のXPS測定の結果を上述した図1(c)および(d)の下方に示す。既述のように、表面開始重合前のXPS測定(上方参照)では、出発原料となるウルシオールとブロモ基含有カテコール化合物の組成に対応するピークが検出されたのに対し、表面開始重合後の表面ではC1s、O1s、N1s、Cl2pのピークが検出され、その割合はPMTACの理論組成比と一致したことから、硬化膜表面はPMTACグラフト層で被覆されていると考えられる。 また、上記実施例2で挙げた各種溶媒に入れて放置した後、AFMにより表面形状の変化を観察した。ほとんどの溶媒中で、60℃で24時間の浸漬前後で変化が無かった。これは、架橋構造およびカテコール構造の強い接着性に由来するものと考えられる。図2(b)に、得られたポリマー被覆材(表面改質材料)のTEM像の一例を示す。硬化膜の層から独立してブラシの層が存在することが確認された。

<接触角測定> 図3(a)に、本発明に従う硬化膜表面の静的水接触角について、表面開始重合前(ウルシオール単体、ポリマー被覆材前駆体)の場合と、硬化膜表面からPMTACポリマーブラシを生長させた表面開始重合後(ポリマー被覆材)の場合における測定結果を、開始剤ブロモ基含有カテコール(BiBDA)の濃度に応じて示す。静的接触角測定は、自動液滴滴下機構およびモノクロのCCDを装備したKruess社製のDSA10接触角測定装置を用いて行った。測定は温度23.5 ℃、湿度60%で行った。重合前の接触角は、開始剤(重合開始部位を有する化合物)であるブロモ基含有カテコール(BiBDA)の濃度に依存せず65°付近でほぼ一定であるのに対し、重合後の薄膜表面は大きく親水性側に変化し、開始剤(重合開始部位を有する化合物)であるブロモ基含有カテコール(BiBDA)の濃度が10mol%以上の場合にその接触角は12°程度で一定となった。すなわち、PMTACがグラフトされることで表面の親水性が大きく向上することが確認された。この結果はXPS測定より求めた表面の組成比が、10mol%以上でPMTACの理論組成比と一致したことともよく対応していた。また、表面開始重合後の硬化膜表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を図3(b)に示す。走査型電子顕微鏡(SEM)観察は、キーエンス(Keyence)社製 VE7800顕微鏡を用いて行った。表面粗さは、AFM観察から自乗平均面粗さ(RMS)値を算出したところ、平滑であることが局所的に確認された。さらに、SEM観察の結果からは、より広いエリアに対して、ポリマーブラシ生長前後で変化なく平滑であることが確認された。またポリマーブラシの長さをAFM観察より測定したところ、乾燥状態で120nm程度であった。

さらに、上記と同様の方法により、ブロモ基含有カテコール(BiBDA)の比率が20 mol%である薄膜の油滴(n−ヘキサデカン)に対する接触角と、水中での気泡(空気)に対する接触角を、MTAC重合前後で測定した結果を以下に示す。

ブロモ基含有カテコール(BiBDA)の比率が20 mol%である薄膜の油滴(n−ヘキサデカン)に対する接触角は、MTAC重合前後でそれぞれ108±3°および144±3°であった。さらに水中での気泡(空気)の接触角はそれぞれ129±3°および148±2°であった。またMTAC重合後の接触角は、PMTACを直接シリコン(Si)基板から生長させた場合とほぼ同じであり、これらのことからPMTACブラシは従来と同様に本発明の硬化膜上に生長し、充分な防汚性を示すことが確認された。

凹凸形状を有するポリマー被覆材の作製 実施例2に記載したウルシオールとブロモ基含有カテコール化合物との混合物の未硬化状態の薄膜に、ナノインプリント法を用いて、金型に刻み込んだナノメートルオーダーの凹凸形状を押し付けてパターン形状を転写した後、硬化を完了させることにより2μmの表面凹凸(パターン形状)を有する硬化膜を調製し、この硬化膜からなるポリマー被覆材前駆体から、PMTACの表面開始重合を行った。PMTACの表面開始重合前後のAFM像を図4(a)および(b)に示す。このAFM像から、表面開始重合前後においても、表面のモルフォロジーに変化は無く、そのピラー形状は維持されていた。さらに、その凹凸形状を有するPMTACポリマーブラシに対する接触角測定の結果を以下に示す。以下の結果から、凹凸形状があることにより、ポリマーブラシの親水性が増強されることが確認された。

ハロゲン基を含む重合開始部位を有する化合物(IA1 - SP1 - PI1)の合成(2) ハロゲン基を含む重合開始部位を有する化合物(IA1 - SP1 - PI1)として、Xが臭素原子(Br)である式(V)で表される4−(2−(ブロモメチルフェニルオキシ)アミノエチル)ベンゼン−1,2−ジオールを合成した。

初めにドーパミン塩酸塩 (1.89 g; 10 mmol)を20 mlのジメチルホルムアミド (DMF)に入れ、白濁した懸濁液を得た。これに1.398 mlのトリエチルアミン(10 mmol)を加えることにより、透明な溶液が得られた。この溶液にN-ヒドロキシスクシイミド (1.38 g; 12 mmol)と4-ブロモメチル安息香酸 (2.15 g; 10 mmol)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩 (1.917 g; 10 mmol)のDMF溶液 (25 ml)をゆっくりと滴下したのち、室温で12時間の攪拌を行い、目的化合物の粗生成物を得た。得られた粗生成物をろ過し、さらに1 mmHg減圧下でDMFを除去することにより、目的化合物(IA1 - SP1 - PI1)である、ブロモ基含有カテコール化合物を得た。

重合開始剤を含むポリマー被膜材前駆体の作製 上記実施例2のBiBDAを用いた場合と同様に、ウルシオールに対するブロモ基含有カテコール(IA1 - SP1 - PI1)の比が20mol%、すなわち、ウルシオール(1.20mmol)、ブロモ基含有カテコール化合物(0.30mmol)、酢酸鉄(II)(0.75mmol)の条件で、硬化膜(ポリマー被覆材前駆体)を作製した。上記実施例1のBiBDAの場合と同様に、基材としてシリコン基板上に被覆(塗布)し薄膜化し、厚さ約1ミクロンの塗布膜を得た。表面粗さは、原子間力顕微鏡(AFM)観察にて、アジレント(Agilent)社製の5500顕微鏡により測定した。その結果を、図5(a)に示す。UVスペクトルは、図5(b)に示されるように、ほとんど変化は見られなかった。また、可視光領域のブロードなピークはLMCT (Ligand to Metal Charge Transfer)遷移によるものと考えられる。以上のことから、ポリマー被覆材前駆体は基材から脱離しなかったことが確認された。この結果からも、重合開始部位を有する化合物はウルシオールに取込まれて安定的且つ強固に固定化されているものと考えられる。

得られたポリマー被膜材前駆体の、その他の基材に対する接着について、テープ剥離試験(ASTM D3359に準じて評価)で確認した。6段階評価[0(不良)〜5(良好)]で試験を行った結果を以下の表5に示すが、硬化薄膜(ポリマー被覆材前駆体)はほぼすべての基材に強く付着していた。

また、上記のようにして作製したポリマー被覆材前駆体表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を図5(c)に示す。

さらに、上記ポリマー被覆材前駆体について、接触角を接触角計から算出し、表面粗さをAFM観察により得られる自乗平均面粗さ(RMS)値により確認した。その結果を表6に示す。この結果から、接触角および表面粗さに変化が無かった。従って、開始剤(重合開始部位を有する化合物)が基材に固定化されていることが確認された。

ハロゲン基を含む重合開始部位を有する化合物(IA2 - SP2 - PI2)の合成 ハロゲン基を含む重合開始部位を有する化合物(IA2 - SP2 - PI2)として、Xが臭素原子(Br)である上述の式(IX)で表される(2-ブロモ-2-メチル)プロピオニルオキヘキシルトリエトキシシラン(BHE)を合成した。

初めに三口フラスコに5-ヘキセン-1-オールを25.8 ml (213 mmol)入れる。そこにトリエチルアミン(40.5 ml; 289 mmol)を加えたのち、ジクロロメタンを100 ml入れる。アイスバスを用いてこの溶液を0℃まで冷却した後、2−ブロモイソブチリルブロミド (29.8 ml; 236 mmol)をゆっくりと滴下する。その後、室温に戻し17時間の攪拌を行った。得られた茶褐色の液体をろ過し、炭酸水素ナトリウムの飽和水溶液、1Nの塩酸、水で順次洗浄し、最後に、この溶液に硫酸マグネシウムを加え一晩放置し水分除去を行い、さらにろ過後に減圧下で真空蒸留することで1-(2-ブロモ-2-メチル)プロピオニルオキシ5-ヘキセンを得た。

続いてこの1-(2-ブロモ-2-メチル)プロピオニルオキシ5-ヘキセンを12.89 g (51.7 mmol)取り、さらにトリエトキシシランを18.8 ml (102 mmol)加える。ここに白金(0)-1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体の2%キシレン溶液を少量ずつ加え、その後20℃で48時間撹拌したものをカラムクロマトグラフィーで精製することで目的物である(2-ブロモ-2-メチル)プロピオニルオキヘキシルトリエトキシシラン(BHE)を得た。

重合開始剤を含むポリマー被膜材前駆体の作製 上記実施例2のBiBDAの場合と同様の手順で、ウルシオールに対する、ハロゲン基を含む重合開始部位を有する化合物(IA2 - SP2 - PI2)の比が20mol%、すなわち、ウルシオール(1.20mmol)、ハロゲン基を含む重合開始部位を有する化合物(IA2 - SP2 - PI2)(0.30mmol)、酢酸鉄(II)(0.75mmol)の条件で、硬化膜(ポリマー被覆材前駆体)を作製した。上記実施例1のBiBDAの場合と同様に、基材としてシリコン基板上に被覆(塗布)し薄膜化し、厚さ約1ミクロンの塗布膜を得た。塗布膜の表面粗さは、原子間力顕微鏡(AFM)観察にて、アジレント(Agilent)社製の5500顕微鏡により測定した。その表面粗さの像を、図6(a)に示し、その表面粗さの自乗平均面粗さ(RMS)値を、表8に示している。このAFMの像から、BHE(重合開始部位を有する化合物)は均一に存在している(ドメインを形成していない)ことが示された。

上記実施例2のBiBDAの場合と同様の手順で、スピンコート直後および100℃で10分間加熱して硬化した後、およびTFEに浸漬後のポリマー被覆材前駆体の赤外線吸収スペクトル(IR)測定結果を図6(b)に示す。図に示されるように、3015cm

−1および945cm

−1の不飽和二重結合(ビニル基)の吸収は、加熱による硬化後には消失しており、ウルシオールが架橋構造を形成していることが示されている。1720cm

−1付近のC(=O)Oの吸収は、硬化後および溶媒TFE浸漬後も保持されており、BHE(重合開始部位を有する化合物)がウルシオールから成る架橋構造中に取込まれていることが示唆されている。さらに、加熱による硬化後は1050cm

−1付近の吸収が認められることから、Si−O−Si結合が形成され、それが溶媒TFE浸漬後も保持されていることから、BHE(重合開始部位を有する化合物)がアルコキシドを介してウルシオールと共有結合し、それが浸漬によっても脱離しないことが理解される。架橋構造の形成は、鉛筆硬度試験による硬化膜の引掻き傷無しという現象からも確認された。

本発明に従うポリマー被覆材前駆体について溶媒TFEに60℃で24時間浸漬した前後のUVスペクトルの結果を図6(c)に示す。UVスペクトルは、同図に示されるように、ほとんど変化は見られなかった。また、可視光領域のブロードなピークはLMCT (Ligand to Metal Charge Transfer)遷移によるものと考えられる。以上のことから、ポリマー被覆材前駆体は基材から脱離しなかったことが確認された。この結果からも、BHE(ハロゲン基を含む重合開始部位を有する化合物)はウルシオールに取込まれて安定的且つ強固に固定化されているものと考えられる。

得られたポリマー被膜材前駆体の、その他の基材に対する接着について、テープ剥離試験(ASTM D3359に準じて評価)で確認した。段階評価[0(不良)〜5(良好)]で試験を行った結果を以下の表7に示すが、硬化薄膜(ポリマー被覆材前駆体)はほぼすべての基材に強く付着していた。

また、上記のようにして作製したポリマー被覆材前駆体表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を図7に示す。

さらに、上記ポリマー被覆材前駆体について、接触角を接触角計から算出し、表面粗さをAFM観察により得られる表面粗さを自乗平均面粗さ(RMS)値により確認した。その結果を表8に示す。この結果から、接触角および表面粗さに変化が無いことが確認された。また、QCM(水晶発振子マイクロバランス)によるTFE浸漬前後の重量変化も殆ど認められなかったことから、開始剤(重合開始部位を有する化合物)が基材に固定化されている(脱離していない)ことが確認された。従って、上記ポリマー被覆材前駆体において、BHE(ハロゲン基を含む重合開始部位を有する化合物)は、ウルシオールから成る架橋構造中に、安定的且つ強固に取込まれているものと考えられる。

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