【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、染色液および木材の染色方法に関する。 【0002】 【従来の技術】木材染色は、たとえば家具工業から公知であり、家具の木材表面をその天然の木目をできる限り維持しながら染色するために用いられる。 このため、家具の表面に染色液を刷毛塗り、スプレー塗布またはその他の方法で処理する。 この染色液は、この場合、木材表面内へ比較的僅かに侵入するだけである。 これは木材表面の所望の染色を達成するためには十分である。 しかし、木材の表面的な染色ではなく、木材の深部までまたは全体の染色を希望するような場合がある。 このような適用は鉛筆または色鉛筆の製造の際に、鉛筆の芯を取り巻く木材が全体的に統一された染色を有するべき場合にあてはまる。 木材の全体の染色が望ましい他の例は、後になって切削または鋸引きにより加工すべきであるが、 その際、加工箇所がブランクの未染色の木材が出現しないような木材素材である。 この種の染色工程は通常オートクレーブ中で実施される。 このため、木材片は鉛筆または色鉛筆の製造の場合に板状に切断され、オートクレーブ内に装填され、着色染色液中に浸漬される。 次いで、このオートクレーブは封鎖され、温度−および圧力を上昇させることにより十分にまたは完全に染色させる。 木材の種類および着色すべき木材片の厚さに応じて、数時間から数日間染色を行うことができる。 【0003】使用した染料はもちろん多様な染料タイプから著しく広い色彩が可能である。 しかし、木材の染色のためには、原則として2つのグループの染料が使用される、つまり、アニオン性染料としても表される酸性染料および塩基性またはカチオン性染料である。 【0004】ステンレス鋼、たとえばV2A−鋼からなるオートクレーブ中では、前記の染料グループではない場合に特記すべき染色液の安定性に関する問題は生じないが、常用の、耐腐食性に調節されていない鋼からなるオートクレーブ中では、処理時間の経過と共に、染料が目に見えて損なわれることが観察される。 この損傷は、 添加される染料の色彩が目に見えて変化することにある。 この変色作用は、特にアゾ−およびジアゾ−および弱められた形で、ならびにトリアリールメタン−染料の場合に生じる。 公知のように、酸性染料は中性〜アルカリ性の媒体中で使用される。 染色工程の終わりでは、多くの場合、染色液のpH値が使用された木材の種類に応じて程度に差があるが酸性領域へ著しく低下する。 このことは、H 3 O + −イオン濃度を上昇させる有機酸が木材中に含まれることに起因する。 しかし、この作用は、観察された変色についての原因でないかまたは少なくともそれだけが原因であることはない、それというのも特殊鋼からなるオートクレーブの場合、一般にpHの低下が起こるにもかかわらず変色は観察されないためである。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】前記の観察から出発して、本発明の課題は、ステンレスでない鋼からなるオートクレーブ中でアゾ−、ジアゾ−およびトリアリールメタン−染料の使用下で適用される染色液ならびに方法を提供することである。 【0006】 【課題を解決するための手段】前記の課題は、請求項1 の特徴の組合せを有する染色液もしくは請求項13の特徴の組合せを有する方法により解決される。 本発明の染色液は、オートクレーブから染色液中へ移行する鉄イオンの濃度を減少させる安定剤を含有する。 以前に観察された変色はもはや生じないか、もしくは著しく長い処理時間の後にようやく生じるにすぎないことが意想外に示された。 本発明により添加された安定剤により、染料溶液内へ移行する鉄イオンを減少させるかもしくは僅かに保持し、それにより、染料の発色団への影響を減少させる。 染料への鉄イオンの影響は、鉄イオンがルイス酸の意味で染料のII−電子システムと相互作用し、その際、その染料の光吸収特性を変化させると解釈されている。 変色作用の発生のためには、遊離鉄イオンの濃度が重要な役割を果たす。 通常、前記の染料の場合に存在する中性からアルカリ性の媒体中で、主にFe−III− イオンが問題になる。 【0007】 【発明の実施の形態】鉄イオン濃度の減少のため、もしくは主に染料の発色団に影響を及ぼす鉄イオンの濃度が生じるのを阻止するために、原則として2つの方法が提供される。 この安定剤は緩衝物質であり、これは染色液のpH値を7.0より高い値に保持する。 Fe−IIおよびFe−IIIイオンの特記すべき濃度はこのpH領域では全く生じることができない、それというのも、鉄イオンは水酸化鉄として沈殿するためである。 同様に、 有利に水溶性の無機の塩である緩衝剤は、木材中に存在する有機酸によるpH値の低下を阻止する。 緩衝剤としては着色すべき木材との相互作用ならびに使用される染料との相互作用も起こさないような物質が有利に使用される。 たとえば、緩衝物質はアンモニウム、カリウムおよびナトリウムの酢酸塩および炭酸塩ならびにリン酸水素アンモニウム、カリウムおよびナトリウムの第2および第3リン酸塩またはリン酸水素ナトリウムアンモニウムが挙げられる。 同様に有機緩衝物質も使用することができる。 【0008】しかし、この鉄イオンは錯生成剤を用いて遮蔽することにより無害にすることができる。 鉄イオンの濃度自体はこれにより阻害されないが、この鉄イオンはもはや遊離イオンではない、つまり、錯生成物質の配位子により包囲され、つまりいわば保護される。 従って、染料のTT電子についてのルイス酸としてのその特性は、発揮されることができない。 錯生成剤として、たとえば次の物質を使用することができる:ジアセチルジオキシム、1,10−フェナントリン、テルピリジンおよびエチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸または1,2−シクロヘキシレンジニトリロ四酢酸塩の水溶性の塩。 【0009】この安定剤は、緩衝物質を含有しても、錯生成剤を含有してもよい。 意想外に、緩衝剤と錯生成剤との同時の存在により、個々の物質の作用の規模を上回る染色液の安定化が達成されることが示された(これについては以下参照)。 【0010】本発明による染色液は、通常の添加剤、たとえば湿潤剤、水溶性の洗浄分散液または脂肪酸誘導体および保存剤を、それにより本発明による効果に悪い影響を与えずに含有することができる。 水溶性の洗浄分散液または水溶性の脂肪酸誘導体は、たとえば染色された木材片から鉛筆を製造すべき場合に添加される。 前記の物質は、木材の中空空間もしくは毛細空間中に沈積し、 それから製造された鉛筆は容易に削ることができ、鉛筆の先端の円錐を削る際に削られた削り屑は簡単に砕けずかつ崩れて屑になることはない。 湿潤剤の添加により、 染色液の主成分、つまり水の表面張力は低下する。 それにより木材の毛細系中での染色液の浸入力は高められる。 【0011】請求項7には本発明による染色液の組成が挙げられており、それには本発明による染色液の主な内容物、つまり染料および安定剤ならびに湿潤保存剤および水の有利な含量範囲もしくは含量限界が記載されている。 他の請求項には本発明による染色液のための有利な調合が記載されている。 【0012】 【実施例】本発明を、次に実施例につき詳説する。 【0013】次の例の調合の製造のために、約5lの容量の実験室オートクレーブを使用した。 このオートクレーブは、通常の、つまりステンレスでない鋼からなる。 染色液と前記の材料とは常に接触していた。 化粧用ペンシル、鉛筆または色鉛筆の製造のために必要な板状の形の約2lの容量の木材をオートクレーブ中に装填した。 オートクレーブは少なくとも木材板が染色液中に完全に浸漬するまで染色液で満たされる。 この温度は全ての場合に50〜60℃であり、pH値は8〜10である。 さらに13〜15バールの圧力値が調節される。 【0014】この試験を実施し、約24時間の期間を有するそれぞれの染色過程の後で試料板を取り出し、この板の染色もしくはオートクレーブ内に存在する残留染色液を検査した。 次いで、新規の、つまり染色していない板を装填し、前の染色工程で消費された染色液を補充した。 【0015】次の調合における%表示は重量%である。 【0016】 安定剤なしでの参照例(黒色染色液):アシドイエロー(Acid Yellow 23 CI 19140) 0.8% アシドレッド(Acid Red 18 CI 16255) 2.8% アシドブルー(Acid Blue 9 CI 42090) 1.4% ポリオキシエチレン−(20)−ソルビタン−モノラウレート 0.8% クロロアセトアミド/安息香酸ナトリウム混合物 0.2% 残り水 2種の異なる木材種類、つまりジェルトング木材(Jelu tong-Holz)およびカリフォルニアのヒマラヤスギの木材が染色された。 それぞれの木材種の容量は約1lであった。 結果として、最初の染色の経過の後に染色液の黒色の色彩が僅かに緑がかっていたことを確認することができた。 その後、第2の染色工程が実施され、その際、 あらかじめ消費された染色液容量は補充された。 第2の染色工程の後、黒色染色液は明らかに緑色を有していた。 【0017】この試験結果は、従来の染色液が通常の、 ステンレスでない鋼からなるオートクレーブ中で実際に使用できないことを示している、それというのも1回だけの染色工程しか実施できないためである。 この染色液は、24時間にわたる第1の処理期間により既に、第2 の染色工程のためにもはや使用できない程度に損なわれている。 この木材染色の大規模工業的実施のために、つまりより大きい染色液容量を数回の染色工程にわたりオートクレーブ中にとどまり、新規の木材のチャージだけがオートクレーブ中に装填され、消費された染色容量は後で補充しなければならない連続的操作は不可能であることを意味している。 【0018】 例1(黒色染色液):アシドイエロー(Acid Yellow 23 CI 19140) 0.8% アシドレッド(Acid Red 18 CI 16255) 2.8% アシドブルー(Acid Blue 9 CI 42090) 1.4% ポリオキシエチレン−(20)−ソルビタン−モノラウレート 0.8% クロロアセトアミド/安息香酸ナトリウム混合物 0.2% 炭酸ナトリウム 2.5% 残り水 この染色液を用いて、染色液ならびにそれにより染色された木材の黒色度が変化することなしに3〜4回の染色工程を実施することができた。 それ以後の染色工程でようやく緑色方向への色彩のシフトおよび試験の継続の更なる経過において青色方向への色彩変化が確認された。 【0019】上記の2つのならびに以後の実施例において使用された染料のアシドレッド(Acid Red 18)およびアシドイエロー(Acid Yellow 23)はアゾ染料であるが、それに対して、アシドブルー(Acid Blue 9)はトリアリールメタン染料である。 これらの染料は、酸性またはアニオン性染料のグループに所属する。 例1による試験結果は、染料ならびに染料の発色団のオートクレーブから染料溶液へ移行する鉄イオンの影響が生じることが、次のように解釈される:アゾ染料、つまりアシドイエロー(Acid Yellow 23)および特にアシドレッド(Ac id Red 18)は最も敏感である。 これらの染料はまず最初に影響を受ける。 まず最初に染料混合物の赤色の色調が弱まる。 それにより、青色および黄色の染料の相対的割合が高まり、それにより観察された緑色の染色が生じる。 試験時間が増加すると共に、黄色の染料も損なわれ、青色方向への色彩のシフトが生じる。 トリアリールメタン染料のアシドブルー(Acid Blue 9)が最も安定である。 しかしこの染料も試験時間の経過の際に同様に攻撃され最終的に色が抜ける。 【0020】参照例と例1との間の比較から、本発明による緩衝剤、この場合炭酸ナトリウムの添加により染色時間を著しく延長できることが明らかになった。 オートクレーブに新規の染色液を完全に充填し直すことは3〜 4回の染色の経過の後に行われる。 大規模工業的実施の際に、著しく多量の染色液が使用されることを配慮して、本発明による染色液もしくは本発明による方法の従来の染色方法と比較して利点は明らかである。 時間および材料の節約が明らかである。 【0021】 例2(黒色染色液):アシドイエロー(Acid Yellow 23 CI 19140) 0.8% アシドレッド(Acid Red 18 CI 16255) 2.8% アシドブルー(Acid Blue 9 CI 42090) 1.4% ポリオキシエチレン−(20)−ソルビタン−モノラウレート 0.8% クロロアセトアミド/安息香酸ナトリウム混合物 0.2% エチレンジアミンテトラ酢酸四ナトリウム塩 3.0% 残り水 この例の場合、安定剤として緩衝剤ではなく錯生成剤、 つまりエチレンジアミンテトラ酢酸四ナトリウム塩を利用した。 例2による黒色染色液は変色なく4回の染色工程を行えた。 ようやく5回目の染色工程から青緑色方向への色彩のシフトが観察された。 ここでも最初に最も安定性の少ない染料のアシドレッド(AcidRed 18)が損なわれた。 【0022】 例3(黒色染色液):アシドブルー(Acid Blue 9 CI 42090) 1.4% アシドレッド(Acid Red 18 CI 16255) 2.8% アシドイエロー(Acid Yellow 23 CI 19140) 0.8% ポリオキシエチレン−(20)−ソルビタン−モノラウレート 0.8% クロロアセトアミド/安息香酸ナトリウム混合物 0.2% 酢酸ナトリウム 3% エチレンジアミンテトラ酢酸四ナトリウム塩 3% 残り水 この染色液は少なくとも5回にわたる染色工程で色彩の定常性を保持した。 更なる染色工程でようやく、緑色方向への色彩のシフト(赤色染料の脱色)および更なる試験経過において青色方向への色彩のシフト(黄色染料の脱色)を観察することができた。 【0023】この試験の結果と例1および例2の結果との比較は、緩衝剤ならびに錯生成剤の存在により、染色液の安定性はさらに改善できることが明らかである。 単独の安定剤として炭酸ナトリウムを用いて3〜4回の染色工程にわたる色彩の定常性およびエチレンジアミンテトラ酢酸ナトリウム塩を用いて4回にわたる色彩の定常性が達成されるが、緩衝剤および錯生成剤が同時に存在する場合の染色液の色彩の定常性はさらに改善される。 このことは、例3による試験の場合、色彩の定常性は少なくとも5回の染色工程にわたり観察されたことにより明らかである。 明らかに緩衝剤と錯生成剤は相互作用により補い合う。 【0024】参照試験の場合、酢酸ナトリウムおよびエチレンジアミンテトラ酢酸四ナトリウム塩は使用されなかった。 緑色の方向への変色が既に1回だけの染色工程の後に観察された。 【0025】 例4(緑色染色液):アシドブルー(Acid Blue 3 CI 42051) 1.0% アシドイエロー(Acid Yellow 23 CI 19140) 4.0% ポリオキシエチレン−(20)−ソルビタン−モノラウレート 2.5% ポリグリコールエーテル 2% パラベン混合物 0.3% リン酸水素二カリウム 2% エチレンジアミンテトラ酢酸四ナトリウム塩 4% 残り水 この試験の場合、ポプラ−およびジェルトング木材を染色した。 染色液の緑色の色彩は、少なくとも6回の染色工程にわたり変化せず維持された。 比較試験の場合、安定剤を使用せずに、既に1回の染色工程で青色への変色が確認される結果となった。 この試験結果においても、 緩衝剤および錯生成剤の同時の存在の相互作用が明らかである。 【0026】 例5(暗灰色染色液):フードブラック(Food Black 1 CI 28440) 0.5% アシドイエロー(Acid Yellow 23 CI 19140) 0.4% アシドレッド(Acid Red 18 CI 16255) 1.4% アシドブルー(Acid Blue 9 CI 42090) 0.7% ポリオキシエチレン−(20)−ソルビタン−モノラウレート 0.5% パラベン混合物 0.3% 酢酸ナトリウム 3.0% 炭酸アンモニウム 2% 1,2シクロヘキシレンジニトリロテトラ酢酸二ナトリウム塩 6% 残り水 染料のフードブラック(Food Black 1)はジアゾ染料である。 安定剤として染色液は炭酸アンモニウムおよび1,2シクロヘキシレンジニトリロテトラ酢酸二ナトリウム塩からなる混合物を添加された。 この結果として、 染色液の暗灰色の色彩が少なくとも4回の染色工程にわたり安定に保持されたことが確認できた。 安定剤なしの比較試験は、1回だけの染色工程の後に既に緑色方向への変色が生じ、この変色は、染色工程の回数が増加するにつれて青色方向へシフトすることが明らかになった。 この例の場合に、緩衝剤および錯生成剤が同時に存在するにもかかわらず、4回だけの染色工程しか達成されなかったことは、ジアゾ染料のフードブラック(Food Bla ck 1 CI 28440)がアシドレッド(Acid Red 18 CI 16255)よりも鉄イオンに対してより低い安定性を有していることにより説明することができる。 【0027】 例6(オレンジ色の染色液):アシドレッド(Acid Red 18 CI 16255) 3.6% アシドイエロー(Acid Yellow 23 CI 19140) 1.4% ポリオキシエチレン−(20)−ソルビタン−モノラウレート 0.1% クロロアセトアミド/安息香酸ナトリウム混合物 0.2% 酢酸ナトリウム 3.0% ジアセチルジオキシム 4.0% 残り水 オレンジ色の染色液は少なくとも5回の染色工程にわたりその色彩の定常性を保持した。 更なる染色工程でようやく黄色の方向への色彩のシフトが、および更なる試験の進行において黄色の染料の脱色が観察された。 ここでも、錯生成剤と緩衝剤との同時の存在の相互効果が認められる。 【0028】最終的に、染色工程がステンレスでない鋼からなるオートクレーブ中で実施された場合には上記の染料グループとは異なる場合でも色彩損傷は観察されることが確認される。 従って、これらの染料の損傷も同様に遊離鉄イオンに起因することはこれらの理由により予想することができる。 【0029】本発明の根底をなす原則、つまり緩衝剤および/または錯生成剤による鉄イオン濃度の減少は、従って、ステンレスでない鋼からなるオートクレーブの表面との接触により染料の発色を損なうような染料に転用することもできる。 ───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (71)出願人 390009391 アー ウエー フアーバー−カステル ウ ンターネーメンスフエアヴアルトウング ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテ ル ハフツング ウント コンパニー A. W. FABER−CASTELL UNTERNEHMENSVERWALT UNG GESELLSCHAFT MI T BESCHRANKTER HAFT UNG & COMPAGNIE ドイツ連邦共和国シユタイン バイ ニユ ールンベルク ニユールンベルゲル スト ラーセ 2 (72)発明者 アクセル ヤンケヴィッツ ドイツ連邦共和国 フュルト クックック スヴェーク 21 (72)発明者 ゲルハルト ルーゲルト ドイツ連邦共和国 ニュルンベルク ブッ テンドルファー シュトラーセ 86 |