Polymer complex

申请号 JP2008503914 申请日 2007-03-02 公开(公告)号 JP4813547B2 公开(公告)日 2011-11-09
申请人 トヨタ自動車株式会社; 国立大学法人 東京大学; 发明人 貴博 小嶋; 正規 河野; 誠 藤田; ▲赳▼英 趙;
摘要
权利要求
  • 配位性部位を2つ以上有する配位子としての芳香族化合物、中心金属としての金属イオン、及び、非配位性の芳香族化合物を含む高分子錯体であって、
    前記芳香族化合物配位子が前記中心金属イオンに配位して形成された三次元ネットワーク構造内に、芳香族化合物配位子の間に前記非配位性芳香族化合物が挿入されてなる積み重ね構造を含む三次元格子状構造を有し、
    該三次元格子状構造内に、ゲスト成分に対して 同等の親和性を有する互いに同一な細孔からなる細孔群を2種以上備えており、
    前記芳香族化合物配位子は、下記式(1)で表される芳香族化合物であり、
    前記中心金属は、亜鉛、銅、ニッケル、コバルト、鉄及び銀から選ばれる少なくとも1つであり、
    前記非配位性芳香族化合物は 、下記式(5)で表わされる芳香族化合物の芳香環上 の、前記積み重ね構造を形成する複数の非配位性芳香族化合物間で互いに同一1ヶ所又は2ヶ所以上の位置に 、−CH −OH、−CH CH −OH、−OH、−CH −NH 、−CH CH −NH 、−NH 、−CH −NO 、−CH CH −NO 、−NO 、−CH −CH 、−CH CH −CH 、−CH 、−CH −OCOCH 、−CH CH −OCOCH 、−OCOCH 、−O−CH 、−O−CH CH 、−S−CH 、−S−CH CH 、及び−O−CH CH −OHから選ばれる少なくとも1種であり、前記積み重ね構造を形成する複数の非配位性芳香族化合物間において互いに同一の置換基Aを有し、
    前記非配位性芳香族化合物は、置換基Aが前記2種以上の細孔群のうち特定の細孔群Bの内面に向くように規則的に配置されている、
    ことを特徴とする高分子錯体。
    (式中、Arは芳香環を有する構造である。Xは2価の有機基であるか又はArとYの間を直接結ぶ単結合である。Yは配位原子又は配位原子を含む原子団である。nは3〜6の数を表す。一分子内に含まれる複数のX同士は互いに異なっていてもよく、且つ、複数のY同士は互いに異なっていてもよい。)
  • ゲスト成分の選択的な取り込み、放出及び/又は輸送が可能な請求項1に記載の高分子錯体。
  • 前記三次元ネットワーク構造は、2つ以上の独立した三次元ネットワーク構造が複合化してなる、複合化三次元ネットワーク構造である請求項1又は2に記載の高分子錯体。
  • 前記複合化三次元ネットワーク構造が、相互貫通構造である請求項3に記載の高分子錯体。
  • 前記2種以上の細孔群から任意に選ばれる2つの細孔群間の対比において、細孔のサイズ、細孔の形状、及び、細孔内雰囲気のうち少なくとも一つが異なる請求項1乃至4のいずれかに記載の高分子錯体。
  • 前記2種以上の細孔群から選ばれる細孔群に含まれる細孔が、細長いチャンネル形状を有している請求項1乃至5のいずれかに記載の高分子錯体。
  • 前記2種以上の細孔群から選ばれる細孔群に含まれる細孔の延在する方向に対して最も垂直に近い結晶面と平行な面における当該細孔の内接円の直径が、2〜70Åである請求項1乃至6のいずれかに記載の高分子錯体。
  • 前記2種以上の細孔群から選ばれる細孔群に含まれる細孔の延在する方向に対して最も垂直に近い結晶面と平行な面における当該細孔の内接楕円の長径が、5〜70Åであり、該内接楕円の短径が、2〜50Åである請求項1乃至7のいずれかに記載の高分子錯体。
  • 前記芳香族化合物配位子としての前記式(1)で表される芳香族化合物が、トリス(4−ピリジル)トリアジンであり、 前記非配位性芳香族化合物が 、トリフェニレン又はペリレンの少なくとも1種である、請求項 1乃至8のいずれかに記載の高分子錯体。
  • 前記置換基Aは、前記高分子錯体内において、ファンデルワールス力よりも大きい分子間相互作用を発現できるものである、請求項1乃至 のいずれかに記載の高分子錯体。
  • 前記三次元ネットワーク構造内の前記積み重ね構造において、前記非配位性芳香族化合物のHOMO(最高被占軌道)と、前記芳香族化合物配位子のLUMO(最低空軌道)が、軌道形状の重なりを有しており、その積層構造が安定化された、請求項1乃至 10のいずれかに記載の高分子錯体。
  • 前記置換基Aが、水素原子を除く総原子数が3以下の原子団である、請求項1乃至 11のいずれかに記載の高分子錯体。
  • 前記2種以上の細孔群から選ばれる細孔群に含まれる細孔の延在する方向に対して最も垂直に近い結晶面と平行な面における当該細孔の内接円の直径が、4.5〜7.0Åである請求項 乃至 12のいずれかに記載の高分子錯体。
  • 前記2種以上の細孔群から選ばれる細孔群に含まれる細孔の延在する方向に対して最も垂直に近い結晶面と平行な面における当該細孔の内接楕円の長径が、8.5〜10.0Åであり、該内接楕円の短径が、6.0〜8.0Åである請求項 乃至 13のいずれかに記載の高分子錯体。
  • 说明书全文

    本発明は、高分子錯体に関する。

    ゲスト化合物を取り込む空孔構造を持つ材料に、多種類の有機化合物を含有する混合物を通過又は接触させることによって、選択的に特定の有機化合物を取り出すことができる。 このような材料としては、有機配位子を遷移金属で集合させた有機金属錯体やゼオライト等が知られており、選択的可逆的吸着剤、触媒担体等の多くの用途がある。

    しかし、ゼオライト等の構造中に含まれる細孔の環境(細孔内環境)は均一であり、単一のゼオライト材料中に環境の異なる比較的大きな細孔を共存させることは困難である。 従って、従来、ゲスト化合物を取り込む作用を有する単一材料中に、有機化合物のような比較的大きい分子サイズを有する化合物を選択的に取り込むことができる細孔を2種以上共存させることは困難であった。
    一方、近年は、バイオマス資源を利活用してエタノール等の燃料となるアルコールを製造する技術が注目されているが、バイオマス資源をアルコール等に変換するプロセスは現時点では複雑且つ低効率である。 特に、精製アルコールの濃縮には多大なエネルギーを要している。 そこで、分子ふるい効果を利用した省エネルギー型の分離技術は、アルコール等の分離、精製等のプロセスにおけるエネルギー効率の向上に貢献する技術として注目されている。 例えば、ゼオライト等の分子ふるい効果を利用してエタノールを濃縮する方法としては、まず、疎処理を施したゼオライトを用いてエタノール混合物から選択的にエタノールを捕集し、圧差(真空引き)により捕集したエタノールを取り出して高濃度エタノール溶液(アルコール濃度90%程度)を得、次に、親水処理を施したゼオライトを用いて、この高濃度エタノール溶液から水を選択的に捕集し、さらに、エタノール濃度を高めるという方法がある。
    本願発明者のうちの一部は、上記実情を鑑みて、配位性部位を2つ以上有する配位子としての芳香族化合物、中心金属としての金属イオン、及び、非配位性の芳香族化合物を含む高分子錯体であって、前記芳香族化合物配位子が前記中心金属イオンに配位して形成された三次元ネットワーク構造内に、芳香族化合物配位子の間に前記非配位性芳香族化合物が挿入されてなる積み重ね構造を含む三次元格子状構造を有し、該三次元格子状構造内に、ゲスト成分に対して固有の親和性を有する互いに同一な細孔からなる細孔群を2種以上備えていることを特徴とする高分子錯体を開発し、すでに特許出願を行っている(特願2004−382152)。
    本発明は、上記開発の経緯を経て、さらに発展したものであり、その目的は、ガス状の小分子からタンパク質やその他の生体由来分子のような大分子までの特定の化合物を、選択的に取り込む及び/又は放出及び/又は輸送することができる細孔群を2種以上有する高分子錯体を提供することにある。

    本発明の高分子錯体は、配位性部位を2つ以上有する配位子としての芳香族化合物、中心金属としての金属イオン、及び、非配位性の芳香族化合物を含む高分子錯体であって、
    前記芳香族化合物配位子が前記中心金属イオンに配位して形成された三次元ネットワーク構造内に、芳香族化合物配位子の間に前記非配位性芳香族化合物が挿入されてなる積み重ね構造を含む三次元格子状構造を有し、
    該三次元格子状構造内に、ゲスト成分に対して同等の親和性を有する互いに同一な細孔からなる細孔群を2種以上備えており、
    前記芳香族化合物配位子は、下記式(1)で表される芳香族化合物であり、
    前記中心金属は、亜鉛、銅、ニッケル、コバルト、鉄及び銀から選ばれる少なくとも1つであり、
    前記非配位性芳香族化合物は、下記式(5)で表わされる芳香族化合物の芳香環上の、前記積み重ね構造を形成する複数の非配位性芳香族化合物間で互いに同一1ヶ所又は2ヶ所以上の位置、−CH −OH、−CH CH −OH、−OH、−CH −NH 、−CH CH −NH 、−NH 、−CH −NO 、−CH CH −NO 、−NO 、−CH −CH 、−CH CH −CH 、−CH 、−CH −OCOCH 、−CH CH −OCOCH 、−OCOCH 、−O−CH 、−O−CH CH 、−S−CH 、−S−CH CH 、及び−O−CH CH −OHから選ばれる少なくとも1種であり、前記積み重ね構造を形成する複数の非配位性芳香族化合物間において互いに同一の置換基Aを有し、
    前記非配位性芳香族化合物は、置換基Aが前記2種以上の細孔群のうち特定の細孔群Bの内面に向くように規則的に配置されている、
    ことを特徴とする高分子錯体。

    (式中、Arは芳香環を有する構造である。Xは2価の有機基であるか又はArとYの間を直接結ぶ単結合である。Yは配位原子又は配位原子を含む原子団である。nは3〜6の数を表す。一分子内に含まれる複数のX同士は互いに異なっていてもよく、且つ、複数のY同士は互いに異なっていてもよい。)


    本発明者らの一部が既に特許出願(特願2004−382152)を行った高分子錯体内に形成される細孔群は、

    同等(固有)の親和性を有する互いに同一な複数の細孔から構成されており、2種以上の成分を含む混合物に接触すると、接触した混合物に含まれる複数の成分のうち、上記細孔群を構成する細孔が親和性を有する成分を当該細孔内に選択的に取り込む。 高分子錯体内には2種以上の細孔群が存在するため、高分子錯体全体としては2種以上のゲスト成分を取り込むことができる。 しかも、1つの高分子錯体内に取り込まれた2種以上のゲスト成分は、各細孔群内で分離した状態で高分子錯体内に存在する。 また、細孔内に取り込んだゲスト成分を選択的に放出又は輸送することも可能である。


    本発明の高分子錯体は、上記特許出願済みの高分子錯体(特願2004−382152)を改良したものであり、前記非配位性芳香族化合物の芳香環上に

    上記特定の置換基Aを導入することで、元来固有のゲスト成分に対して親和性を有する前記2種以上の細孔群のうち、特定の細孔群Bを修飾し、細孔群Bの細孔内環境の特性を制御するものである。


    前記非配位性芳香族化合物へ導入する置換基Aの種類や数、導入位置等により、細孔群Bの細孔内環境(サイズ、形状、雰囲気等)の特性は大きく変化する。 すなわち、前記非配位性芳香族化合物への置換基Aの導入による細孔群Bの細孔内環境は、置換基Aの種類、数、導入位置により自在に制御することが可能である。 従って、非配位性芳香族化合物の芳香環上への置換基Aの導入によって、当該細孔群Bが固有のゲスト成分に対して元来有している親和性の向上や、細孔群Bへの新たな親和性の付与等が行われ、該細孔群Bのゲスト成分に対する親和性が変化し、高分子錯体のゲスト成分に対する選択性の向上が達成される。


    以上のように、本発明の高分子錯体は、非配位性芳香族化合物への置換基Aの導入により、高分子錯体内に形成される細孔群に含まれる細孔の環境特性を容易に調節することが可能であり、様々な特性を有するガス状の小分子からタンパク質やその他の生体由来分子のような大分子までも細孔内に取り込むことができる。 すなわち、2種以上の小分子乃至大分子の化合物を含む混合物から、細孔群ごとに選択的に特定の化合物を取り込むことが可能である。


    さらに、高分子錯体の三次元格子状構造内において積み重ね構造を形成する非配位性芳香族化合物に置換基を導入することによって、該三次元格子状構造の規則性、すなわち、細孔群の構造上の規則性が高くなる。 細孔群が高い構造規則性を有するということは、高分子錯体全体の細孔群において各細孔内の環境特性が均一に保持されるということであり、このような細孔群を備える高分子錯体はゲスト成分に対してより高い選択性を発現する。


    従って、本発明によれば、非配位性芳香族化合物へ導入する置換基Aの種類、位置、数等の選択により、高分子錯体内に形成される細孔群の細孔内環境の特性を目的に応じて容易に制御することが可能であり、特願2004−382152の高分子錯体と比較して、混合物から2種以上の成分を、より選択的に分離し、且つ、分離した状態で貯蔵したり、或いは分離した状態で輸送、或いは高分子錯体内に吸蔵した成分をより選択的に放出することが可能な高分子錯体を提供することができる。 さらに、高分子錯体の細孔群の細孔内空間を反応場として利用する場合には、細孔内の特性制御により反応場の精密制御が可能であり、化学反応の高度制御が実現でき、その結果、高選択的な物質変換を達成できる。


    前記三次元ネットワーク構造の形態としては、2つ以上の独立した三次元ネットワークが複合化してなる複合化三次元ネットワーク構造も含まれる。 この複合化三次元ネットワーク構造としては、例えば、独立した三次元構造ネットワーク構造が複雑に絡み合った相互貫通構造が挙げられる。


    前記細孔群を構成する細孔のゲスト成分に対する親和性は、前記2種以上の細孔群から任意に選ばれる2つの細孔群間の対比において、細孔のサイズ、細孔の形状、及び、細孔内雰囲気のうち少なくとも一つが異なることによって、互いに異なるものとなる。


    前記三次元ネットワーク構造が充分な三次元の広がりを持ち、前記積み重ね構造が芳香族化合物配位子と非配位性芳香族化合物とが充分に積み重なって形成される場合、細長いチャンネル形状の細孔が形成される。


    前記2種以上の細孔群から選ばれる細孔群に含まれる細孔のサイズは、選択的に取り込み、放出及び/又は輸送したい成分によって、適宜設計すればよいが、具体的には、前記細孔の延在する方向に対して最も垂直に近い結晶面と平行な面における当該細孔の内接円の直径を2〜70Åとすることができる。


    また、同様に、前記2種以上の細孔群から選ばれる細孔群に含まれる細孔の延在する方向に対して最も垂直に近い結晶面と平行な面における当該細孔の内接楕円の長径を、5〜70Å、該内接楕円の短径を、2〜50Åとすることができる。


    具体的には、前記式(1)で表される芳香族化合物が、トリス(4−ピリジル)トリアジンであり、前記縮合多環芳香族化合物が、トリフェニレン又はペリレンの少なくとも1種である高分子錯体が挙げられる。 この形態の高分子錯体において、前記2種以上の細孔群から選ばれる細孔群に含まれる細孔の延在する方向に対して、最も垂直に近い結晶面と平行な面における当該細孔の内接円の直径は、具体的には4.5〜7.0Åである。 また、前記2種以上の細孔群から選ばれる細孔群に含まれる細孔の延在する方向に対して、最も垂直に近い結晶面と平行な面における当該細孔の内接楕円の長径が8.5〜10.0Åであり、該内接楕円の短径が6.0〜8.0Åである。 このように細孔が比較的大きなサイズを有する場合、有機化合物等の比較的大きな分子サイズのゲスト成分を取り込むことができる。


    前記置換基Aは特に限定されず、例えば、前記高分子錯体内において、ファンデルワールス力よりも大きい分子間相互作用を発現できるものが好適である。


    三次元ネットワーク構造内の前記積み重ね構造において、前記非配位性芳香族化合物のHOMO(最高被占軌道)と前記芳香族化合物配位子のLUMO(最低空軌道)とが、その節面の数や位置、電子分布、エネルギーレベルについて軌道形状の重なりを有し、その積層構造が安定化されるように、前記非配位性芳香族化合物と当該非配位性芳香族化合物に導入する置換基、及び、前記芳香族化合物配位子を選択することで、高分子錯体内に形成される前記積み重ね構造を予測することができ、効率的な分子設計が可能である


    強固な π−πスタッキングを形成し、安定な三次元構造を構築することができるという観点からは、前記置換基Aとして電子供与性を有するものが好ましく、例えば、−W−OH、−W−NH

    、−W−CH

    、及びアルキルエーテル鎖(Wは2価の有機基又は単結合を示す)より選ばれる少なくとも1つの官能基が挙げられる。


    一方、置換基Aが配向する細孔が、包接挙動を示すためには、該置換基Aによって該細孔が占有されないようにすることが重要であり、このような観点から好ましい置換基Aとして、水素原子を除く総原子数が3以下の原子団が挙げられる。


    本発明の高分子錯体は、該高分子錯体を構成する非配位性芳香族化合物への置換基の導入により、該高分子錯体内に形成される細孔の特性を自在にコントロールすることが可能である。 そのため、本願発明者のうちの一部により出願された特願2004−382152と比較して、高分子錯体内に形成される細孔群間での性質の差を大きくすることが可能であり、細孔群の性質の特異性が高く、且つ/又は、細孔群の構造上の規則性が高い。 従って、本発明の高分子錯体内の細孔群は、特定成分に対する選択性が高く、例えば、混合物からの特定成分の分離や貯蔵、該高分子錯体内の2種以上の細孔群内に取り込んだ特定成分の放出、輸送等に高い選択性を発現する。 また、本発明の高分子錯体内の細孔は、精密に制御された反応場として利用することもでき、高選択的な物質変換も可能である。

    第1図は、高分子錯体4の主骨格をファンデルワールス半径を用いて描いた図の投影図であり、また、高分子錯体4の細孔サイズを算出する方法を説明する図である。
    第2図は、高分子錯体4の結晶構造(図2A)及びトリス(4−ピリジル)トリアジンと1−ヒドロキシトリフェニレンの積み重ね周期構造(図2B)を示す図である。
    第3図は、高分子錯体4の三次元格子状構造におけるトリス(4−ピリジル)トリアジン、1−ヒドロキシトリフェニレン及びヨウ化亜鉛の分子配列並びにチャンネルP内に包接されたメタノールの配向を示す図である。
    第4図は、高分子錯体4の三次元格子状構造におけるトリス(4−ピリジル)トリアジン、1−ヒドロキシトリフェニレン及びヨウ化亜鉛の分子配列並びにチャンネルP内に包接されたメタノールの配向を示す図であって、トリス(4−ピリジル)トリアジンと1−ヒドロキシトリフェニレンの積層距離及びメタノールの酸素原子と1−ヒドロキシトリフェニレンの酸素原子間の距離を示している。
    第5図は、高分子錯体4の結晶構造を示す図である。
    第6図は、細孔の延在する方向を決定する方法を説明する図である。
    第7図は、1−ヒドロキシトリフェニレンのHOMOとトリス(4−ピリジル)トリアジンのLUMOを示す図(図7a)及びこれらの重ね合わせを示す図(図7b)である。
    第8図は、2−アミノトリフェニレンのHOMOとトリス(4−ピリジル)トリアジンのLUMOを示す図(図8a)及びこれらの重ね合わせを示す図(図8b)である。
    第9図は、X線結晶構造解析より得られた高分子錯体4の結晶学的データを示す表である。
    第10図は、X線結晶構造解析より得られた高分子錯体4の各原子の座標情報を示す表である。
    第11図は、X線結晶構造解析より得られた高分子錯体4の各原子の座標情報を示す表である。
    第12図は、X線結晶構造解析より得られた高分子錯体4の各原子の座標情報を示す表である。
    第13図は、X線結晶構造解析より得られた高分子錯体4の各原子の座標情報を示す表である。
    第14図は、X線結晶構造解析より得られた高分子錯体4の各原子の座標情報を示す表である。
    第15図は、X線結晶構造解析より得られた高分子錯体4の各原子の座標情報を示す表である。
    第16図は、X線結晶構造解析より得られた高分子錯体4の各原子の座標情報を示す表である。
    第17図は、X線結晶構造解析より得られた高分子錯体4の各原子の座標情報を示す表である。
    第18図は、X線結晶構造解析より得られた高分子錯体4の各原子の座標情報を示す表である。
    第19図は、X線結晶構造解析より得られた高分子錯体4の各原子の座標情報を示す表である。
    第20図は、X線結晶構造解析より得られた高分子錯体4の各原子の座標情報を示す表である。
    第21図は、X線結晶構造解析より得られた高分子錯体3の結晶学的データを示す表である。
    第22図は、X線結晶構造解析より得られた高分子錯体3の各原子の座標情報を示す表である。
    第23図は、X線結晶構造解析より得られた高分子錯体3の各原子の座標情報を示す表である。
    第24図は、X線結晶構造解析より得られた高分子錯体3の各原子の座標情報を示す表である。
    第25図は、X線結晶構造解析より得られた高分子錯体3の各原子の座標情報を示す表である。
    第26図は、X線結晶構造解析より得られた高分子錯体3の各原子の座標情報を示す表である。
    第27図は、X線結晶構造解析より得られた高分子錯体3の各原子の座標情報を示す表である。
    第28図は、X線結晶構造解析より得られた高分子錯体3の各原子の座標情報を示す表である。
    第29図は、X線結晶構造解析より得られた高分子錯体3の各原子の座標情報を示す表である。
    第30図は、X線結晶構造解析より得られた高分子錯体3の各原子の座標情報を示す表である。
    第31図は、X線結晶構造解析より得られた高分子錯体3の各原子の座標情報を示す表である。
    第32図は、X線結晶構造解析より得られた高分子錯体3の各原子の座標情報を示す表である。
    第33図は、X線結晶構造解析より得られた高分子錯体3の各原子の座標情報を示す表である。
    第34図は、X線結晶構造解析より得られた高分子錯体3の各原子の座標情報を示す表である。
    第35図は、X線結晶構造解析より得られた高分子錯体3の各原子の座標情報を示す表である。
    第36図は、X線結晶構造解析より得られた高分子錯体3の各原子の座標情報を示す表である。
    第37図は、高分子錯体5及び高分子錯体7のゲスト交換実験後の結晶構造を示す図である。

    本発明の高分子錯体は、配位性部位を2つ以上有する配位子としての芳香族化合物、中心金属としての金属イオン、及び、非配位性の芳香族化合物を含む高分子錯体であって、前記芳香族化合物配位子が前記中心金属イオンに配位して形成された三次元ネットワーク構造内に、芳香族化合物配位子の間に前記非配位性芳香族化合物が挿入されてなる積み重ね構造を含む三次元格子状構造を有し、該三次元格子状構造内に、ゲスト成分に対して固有の親和性を有する互いに同一な細孔からなる細孔群を2種以上備えており、前記非配位性芳香族化合物は自己の芳香環上の特定位置に特定の置換基Aを有し、前記非配位性芳香族化合物は、置換基Aが前記2種以上の細孔群のうち特定の細孔群Bの内面に向くように規則的に配置されている、ことを特徴とするものである。
    本発明の高分子錯体は、本願発明者の一部により出願された特願2004−382152の高分子錯体を改良したものであり、特願2004−382152の高分子錯体同様、芳香族化合物配位子と中心金属イオンとの配位結合によって三次元ネットワーク構造が形成されており、当該三次元ネットワーク構造を形成する芳香族化合物配位子の間に、配位結合に寄与しない非配位性芳香族化合物が挿入された積み重ね構造を含む三次元格子状構造を有する。 このように、芳香族化合物配位子及び中心金属イオンの配位結合による三次元ネットワーク構造と、三次元ネットワーク構造内に取り込まれた非配位性芳香族化合物及び芳香族化合物配位子により形成される積み重ね構造とによって、高分子錯体内にゲスト成分に対して固有の親和性を有する(すなわち、特異的分子包接機能を有する)2種以上の細孔が、それぞれ複数(すなわち、細孔群)形成されると考えられる。
    特願2004−382152の高分子錯体において、2種以上の細孔群は、ゲスト成分に対して固有の親和性を有する細孔からなり、この固有の親和性によって、細孔群ごとに異なるゲスト成分を選択的に取り込むことができる。 すなわち、該高分子錯体は、1つの高分子錯体中に含まれる2種以上の細孔群内に、それぞれ1種以上、つまり高分子錯体全体として2種以上のゲスト成分を選択的に取り込むことができる。 また、細孔内に取り込んだゲスト成分を選択的に放出することも可能である。 ここで、ゲスト成分を細孔内に選択的に取り込む及び細孔内から選択的に放出するとは、細孔内の雰囲気や細孔のサイズ、形状等によって、特定の成分を細孔内に取り込む及び/又は放出することの他、ゲスト交換の温度条件や雰囲気、さらには、時間によって細孔内に取り込まれるゲスト成分及び/又は細孔内から放出されるゲスト成分が選択されることも含む。
    さらに、該高分子錯体は、高分子錯体内に形成される細孔群に含まれる細孔のサイズを適宜調節することによって、ガス状の小分子からタンパク質やその他の生体由来分子のような大分子までも細孔内に取り込むことができる。 すなわち、2種以上の小分子や大分子の化合物を含む混合物から、細孔群ごとに選択的に特定の化合物を取り込むことが可能である。
    従って、上記高分子錯体によれば、例えば、2種以上の成分を含有する混合物から、特定の2種以上の成分を分離し且つ当該高分子錯体中に貯蔵することが可能である。 また、1種又は2種以上の成分を含有する混合物1から、特定の成分のみをある細孔群1の細孔内に取り込み、当該成分を細孔群1の細孔内に保持したまま、混合物1とは異なる1種又は2種以上の成分を含有する混合物2から、他の特定の成分をある細孔群2の細孔内に取り込むことができる。 或いは、高分子錯体を隔壁を構成する材料として用いる場合には、当該隔壁によって隔たれた領域間において、細孔群Aに選択的に取り込まれる化合物aを細孔群A内を通して、一方、細孔群Bに選択的に取り込まれる化合物bを細孔群B内を通して輸送させることもできる。 このとき、各化合物の濃度分布や温度分布に従って化合物が移動するようにすれば、その輸送方向は、化合物aの輸送方向と化合物bの輸送方向を同じにすることも可能であるし、化合物aの輸送方向と化合物bの輸送方向が対向するようにすることも可能である。
    また、細孔群ごとにそれぞれ取り込んだ2種以上のゲスト成分を、異なる条件下で、別々に放出させることができる。 例えば、2種以上の細孔群にそれぞれゲスト成分を取り込んだ高分子錯体を所定条件下におく場合、この条件下に晒す時間によって、放出されるゲスト成分が異なってくる。 具体的には、細孔群1及び細孔群2にそれぞれ異なる成分を取り込んだ高分子錯体を加熱することによって、まず、細孔群1に含まれる細孔内に取り込まれた成分を放出し、さらに加熱を続けることによって、細孔群2に含まれる細孔内に取り込まれた成分を放出することができる。
    尚、ここでは、説明の便宜上、混合物1、細孔群1等の表現を用いて、上記高分子錯体の作用について説明したが、これら混合物1等の表現は特定の混合物、細孔群等を指すものではない。
    本発明者らは、鋭意検討した結果、上記高分子錯体において、芳香族化合物配位子と共に三次元格子状構造内の積み重ね構造を構成し、細孔の内面壁を形成する非配位性芳香族化合物の芳香環上に、置換基を導入することによって、高分子錯体内に形成された細孔群の細孔内が修飾され、高分子錯体の包接機能の特異性をさらに強められることを発見した。
    非配位性芳香族化合物の芳香環上に導入された置換基は、その詳細な機構は完全には解明できていないものの、本発明者らの研究により、通常、規則性を持って2種以上の細孔群のうちの特定の細孔群の細孔内面を向いて配向することが今回発見された。 上記置換基と、上記2種以上の細孔群のうちの特定の細孔群との間に作用する相互作用、例えば、水素結合、イオン結合、双極子相互作用、四極子相互作用のような静電相互作用や、立体的相互作用に加えて、前記積み重ね構造における前記非配位性芳香族化合物のHOMOと前記芳香族化合物配位子のLUMOの節面や電子分布等の軌道形状の重なり(π−π相互作用)による安定化効果が当該置換基の配向を決定している。 置換基が特定の細孔群の細孔内面の一部を構成することによって、当該細孔群の形状、サイズ、雰囲気が大きく変化する。 その結果、同時に細孔群の細孔内環境の特性、例えば、酸塩基性、親水疎水性、極性、キラリティ、流動性等が大きく変化し、当該細孔群の特定のゲスト成分に対する親和性が変化する。
    この細孔内の環境特性は、非配位性芳香族化合物の芳香環上に導入する置換基の性質や、数、大きさ、さらに、2つ以上の置換基を導入する場合にはその組み合わせ等によって、自在に制御可能である。 例えば、置換基の導入によって、特願2004−382152の置換基を導入していない高分子錯体では取り込みが不可能であったゲスト成分の取り込みが可能となったり、或いは、特願2004−382152の高分子錯体において、各細孔群が有している細孔内の雰囲気のみでは分離不可能な2種以上のゲスト成分を、置換基の導入による細孔内の形状やサイズの変更により、分離可能とすることが可能となる。 また、非配位性芳香族化合物の芳香環上に導入する置換基の種類や数、導入位置等の制御により、2種以上の細孔群間の細孔内環境特性を大きく異ならしめることが可能であり、大きく特性の異なる2種以上のゲスト成分を各細孔群内に取り込み、放出及び/又は輸送等することが可能となる。
    さらに具体的には、例えば、置換基が導入されていない非配位性芳香族化合物により構成された高分子錯体において、親水性が異なる2つの細孔群がある場合、非配位性芳香族化合物への置換基の導入によって、(1)一方の細孔群の親水性を高めたり、或いは、(2)一方の細孔群の親水性を低くしたり、或いは、(3)これら2つの細孔群の親水性に差を持たせつつ共に高めたりすることができる。 (1)や(2)によれば、これら2つの細孔群間における細孔内の親水性の差を大きくすることで、ゲスト成分に対する親和特異性がより高まり、ゲスト成分の取り込みや放出による分離能等を高めることができる。 また、(3)によれば、置換基を導入していない非配位性芳香族化合物により構成された細孔群では取り込みが不可能であった親水性を有するゲスト成分の取り込みを可能とし、さらに、各細孔群による異なるゲスト成分の取り込みを可能とする。 以上のように、本発明によれば、非配位性芳香族化合物への置換基の導入により、あらゆる特性を付与した細孔を有する高分子錯体の構築が可能であり、高分子錯体の細孔内に取り込まれるゲスト成分の種類や量、その配置、さらにはそれらゲスト同士の反応速度や反応選択性等を制御することができる。 また、本発明の高分子錯体は、置換基の種類、数、位置等の選択肢が広く、分子設計性に優れている。
    非配位性芳香族化合物の芳香環上への置換基導入は、さらに、当該非配位性芳香族化合物の高分子錯体内における配列の規則性を高めるという効果もある。 上述したように、非配位性芳香族化合物に導入された置換基は、当該置換基の周囲の物理化学的及び/又は立体的相互作用によって、2種以上の細孔群のうち、特定の細孔群の細孔の内面を向くように配向し、細孔内環境が固有の特性を有することとなる。 この際、このような相互作用によって、スタッキングしている非配位子性芳香族化合物と芳香族化合物配位子の配列の規則性が高まり、非配位性芳香族化合物と芳香族化合物配位子とによる積み重ね構造が規則正しく形成され、そして強固な構造となる。
    上記積み重ね構造の規則性、すなわち、細孔群の構造上の規則性が高くなることは、高分子錯体内における各細孔群の細孔内環境特性が均一に保たれるということである。 つまり、高分子錯体の細孔群のゲスト成分に対する選択性がより高くなることを意味する。
    本発明において、芳香族化合物配位子が中心金属に配位してなる三次元ネットワーク構造としては、例えば、2つ以上の独立した三次元ネットワーク構造が複合化、好ましくは同一空間を共有するように複合化してなる複合化三次元ネットワーク構造も挙げられる。 具体的には、複合化三次元ネットワーク構造として、2つ以上の独立した三次元ネットワーク構造が同一空間を共有するように互いに絡み合った相互貫通構造を挙げることができる。
    また、本発明において、芳香族化合物とは、少なくとも1つの芳香環を有する化合物であり、置換基を有してもよいし、環内ヘテロ原子を含んでいてもよい。 また、本発明において用いられる芳香族化合物配位子とは、配位性部位を2つ以上有する多座配位性の芳香族化合物である。 好ましくは、当該芳香族化合物配位子を構成する全配位性部位がほぼ同一平面内に存在する芳香族化合物であり、さらに好ましくは、π共役系により芳香族化合物配位子全体として擬平面形状である、すなわち、芳香族化合物配位子の分子構造の少なくとも一部がπ共役系により一体化して安定な擬平面構造をとり、当該擬平面構造の中に全ての配位性部位が含まれている芳香族化合物配位子である。
    このような擬平面状の構造を有する芳香族化合物を配位子として用いることにより、当該芳香族化合物が中心金属イオンに配位結合して形成される三次元ネットワーク構造は、より規則的な構造と剛直性を有するものとなる。 三次元ネットワーク構造の規則性が増すことによって、芳香族化合物配位子と非配位性芳香族化合物との積み重ね構造が安定に形成されると同時に、より高い規則性を持った細孔、細孔群を形成することができる。 また、独立した2つ以上の三次元ネットワーク構造が複合化した複合化三次元ネットワークを形成することができる場合がある。
    一方、三次元ネットワーク構造が剛直性を有することによって、形成される三次元格子状構造の安定性、強度等を高く保持することができる。 また、三次元ネットワーク構造が剛直性を有することによって高分子錯体の強度が比較的大きなものとなるため、強度を要するような用途における使用も可能となり、本発明の高分子錯体を利用できる技術範囲が広くなる。
    以上のような観点から、本発明において好適に使用できる芳香族化合物配位子としては、例えば、一つの芳香環を中心として、該芳香環のπ共役系により形成される平面の広がる方向に向かって等間隔の放射状に配位原子が配置されたもの等が挙げられるが、これに限定されない。
    また、本発明において用いられる非配位性芳香族化合物とは、配位結合以外の結合又は相互作用によって前記芳香族化合物配位子間に入り込み、高分子錯体内に存在する芳香族化合物であり、本発明の高分子錯体内において配位結合を形成していないことを意味する。 従って、ここで言う非配位性芳香族化合物は、本質的に配位結合を形成する能力を有するものであってもよい。 好ましくは、分子構造に含まれる全ての芳香環がπ共役系により一体化して安定な擬平面形状を有する芳香族化合物である。 このように擬平面形状を有することによって、前記芳香族化合物配位子により形成される三次元ネットワーク構造内において、非配位性芳香族化合物が芳香族化合物配位子間に挿入されやすくなり、安定した芳香族化合物配位子−非配位性芳香族化合物−芳香族化合物配位子積層構造を形成することができる。
    このとき、前記芳香族化合物配位子も擬平面形状を有する場合には、芳香族化合物配位子の平面と、非配位性芳香族化合物の平面とが面しあって積み重なり合い、芳香族化合物配位子−非配位性芳香族化合物−芳香族化合物配位子間にπ−π相互作用が働く。 その結果、非配位性芳香族化合物は、芳香族化合物配位子と直接的な結合を有していないが、芳香族化合物配位子間に強固に拘束されることとなり、より安定な三次元格子状構造を形成することができる。
    このように芳香族化合物配位子間に強固に拘束された非配位性芳香族化合物は、一般的な芳香族化合物をゲスト成分とするゲスト交換条件下においても抽出されない。 そのため、芳香族化合物配位子間に非配位性芳香族化合物が強固に拘束された積み重ね構造を有する三次元格子状構造は、当該三次元格子状構造内の細孔内に取り込まれたゲスト成分をその他のゲスト成分と交換する前後で、その構造を変化させることなく保持することができる。
    本発明にかかる高分子錯体の大きな特徴は、上記非配位性芳香族化合物が自己の芳香環上の特定位置に特定の置換基Aを有している点にある。 ここで、置換基Aとは、非配位性芳香族化合物の芳香環上の特定位置において、水素原子に代えて置換された何らかの原子又は原子団のことを意味する。
    置換基Aは、該非配位性芳香族化合物を構成要素とする高分子錯体内に形成される2種以上の細孔群のうち特定の細孔群B内に入ることができれば、特に限定されず、細孔群Bの細孔内を所望の環境特性とするために、適宜選択することができる。 非配位性芳香族化合物が有する置換基Aは、1つであっても2つ以上であってもよい。 また、置換基Aを2つ以上導入する場合には、置換基Aは1種類のみであってもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。 さらに、非配位性芳香族化合物の芳香環上における置換基Aの位置は、特に限定されず、複数の置換基Aが1種の細孔群の細孔内面を向くように導入されていてもよいし、2種以上の細孔群の細孔内面にそれぞれの置換基Aが向くように導入されていてもよい。
    また、芳香族化合物配位子間に非配位性芳香族化合物が挿入されてなる積み重ね構造とは、芳香族化合物配位子の間に前記非配位性芳香族化合物が挿入されてなる単位を少なくとも一つ含めばよいが、芳香族化合物配位子と非配位性芳香族化合物とが交互に積み重なる構造がある程度連続することが好ましい。 尚、後述する高分子錯体4では、この積み重ね構造が無限に続いているが、2種以上の細孔群を形成するのに充分な積み重ね単位の数であれば無数に連続していなくてもよい。
    芳香族化合物配位子と金属イオンが配位結合した充分な三次元の広がりを持つ三次元ネットワーク構造と、芳香族化合物配位子と非配位性芳香族化合物とが充分に積み重なった積み重ね構造とが形成される場合、細長いチャンネル形状の細孔が形成される。
    高分子錯体内の2種以上の細孔群が固有に有するゲスト成分に対する親和性は、2種以上の細孔群から任意に選ばれる2つの細孔群間の対比において、細孔のサイズ、細孔の形状及び細孔内雰囲気のうち少なくとも一つが異なれば、互いに異なるものとなる。 それぞれの細孔群を構成する細孔の、特定のゲスト成分に対する親和性を高め、各細孔がより選択的に特定のゲスト成分を取り込むようにするためには、2種以上の細孔群から任意に選ばれる2つの細孔群間の対比において、細孔のサイズ、形状、細孔内雰囲気のうち2つ以上が互いに異なることが好ましい。 特に、各細孔群を構成する細孔のサイズ、細孔の形状及び細孔内雰囲気の3つ全てが互いに異なる細孔群は、ゲスト成分に対してより高い選択性を示すため好ましい。
    細孔群間において、細孔内雰囲気を異ならしめる要素は、それによって細孔内雰囲気が互いに異なり、ゲスト成分に対する親和性が異なるようなものであれば特に限定されず、各ゲスト成分の性質(例えば、極性等)によって様々なものがある。 非配位性芳香族化合物に導入された置換基が有する特性によって細孔内雰囲気は大きく変化するが、当該置換基の特性による細孔内の修飾以外にも、例えば、細孔を形成する壁の内面において、該壁を構成する芳香族化合物(芳香族化合物配位子及び/又は非配位性芳香族化合物)のπ平面が露出している領域と、芳香族化合物の水素原子が露出した領域との占有比が異なることによっても、細孔内の雰囲気は異なってくる。
    また、細孔群間において細孔のサイズが異なる場合、ゲスト成分の分子サイズによって、各細孔群を構成する細孔内に取り込まれるゲスト成分の種類や該ゲスト成分の取り込まれる量が異なってくる。 細孔のサイズは、連続した1つの細孔であっても高分子錯体内における位置によって異なり、細孔サイズの最小値は細孔内に取り込めるゲスト成分の最小分子サイズ、細孔サイズの最大値は細孔内に取り込めるゲスト成分の最大分子サイズや取り込めるゲスト成分の量に大きく影響する。 従って、細孔サイズの範囲はゲスト成分に対する親和性を左右する重要な要素である。
    高分子錯体の三次元格子状構造内に形成される細孔は、局所的には多少蛇行しているが、その三次元格子状構造上、全体として見たときには一定の方向に伸びており、方向性を持っている。 そこで、本発明においては、細孔の延在する方向に対して最も垂直に近い結晶面と平行な面(以下、平行面ということがある。)における細孔の内接円(以下、単に細孔の内接円ということがある。)の直径を細孔サイズの指標とすることができる。 ここで細孔の延在する方向とは、細孔の局所的な蛇行を無視した1つの連続する空隙全体の方向である。
    このような細孔の延在する方向は、例えば、以下のようにして決定することができる。 まず、サイズを測定するチャンネルを横切る適当な方向の結晶面X(A面、B面、C面かそれぞれの対面など)及び当該結晶面Xと一単位胞ずれた結晶面Yを選び、それぞれの結晶面X,Yにおけるチャンネルの断面図を描く。 次に、それぞれの結晶面におけるチャンネルの断面形状の中心間を、立体図において直線(一点鎖線)で結ぶ(図6参照)。 このとき得られる直線の方向が、チャンネルが延在する方向と一致する。 そして、この得られた直線に対して最も垂直に近い角度で交差する結晶面を選び、その結晶面における細孔の内接円の直径を細孔のサイズとすることができる。
    細孔のサイズのみを、細孔がゲスト成分に対して有する選択性を決定する要素として考慮した場合、この内接円の直径以下の分子サイズを有するゲスト成分であれば、通常細孔内に難なく取り込めることができるため、細孔のサイズを内接円の直径で定義することは大きな意味を持つ。 各細孔群間の細孔サイズは、互いに異なっていればよく、その差などに限定はない。
    本発明の高分子錯体内に形成される細孔のサイズは、選択的に取り込みたい成分によって、適宜設計すればよく、そのサイズによって、ガス状の小分子や、タンパク質及びその他の生体由来分子のような大分子の成分を、細孔内に取り込むことができる。 具体的には、上記内接円の直径を2〜70Å、好ましくは2〜20Åとすることができる。 或いは、上記平行面における細孔の内接楕円(以下、単に細孔の内接楕円ということがある)の長径を5〜70Å、該細孔の内接楕円の短径を、2〜50Åとすることができる。 各細孔群の細孔サイズが異なる場合は、上記範囲内において各細孔群の細孔サイズが互いに異なることが好ましい。
    異なる細孔群間の比較要素として、上記細孔の内接円の直径と共に、細孔形状の上記内接円からのずれを規定する尺度として、上記細孔の内接楕円の短径及び長径を考慮することがさらに好ましい。
    ここで、図1を用いて、細孔のサイズの測定(算出)方法について、説明する。 図1は、後述する高分子錯体4の主骨格を、ファンデルワールス半径を用いて描いた図の結晶面(010)における投影図であり、細孔P及び細孔Q内に取り込まれたゲスト成分は省略している。
    高分子錯体4において、細孔P及び細孔Qは結晶面(010)に対して垂直な方向(局所的な方向ではなく、上記したような全体的な方向)、すなわち、図1の紙面に対して垂直に延びている。 つまり、図1の紙面が上記平行面であることから、図1に示された細孔の内接円の直径、及び/又は内接楕円の長径、短径を測定し、実際のスケールに換算した値が細孔のサイズということになる。
    細孔のサイズは、分子設計、例えば、三次元格子状構造を構成する芳香族化合物配位子や非配位性芳香族化合物の分子サイズ、中心金属イオンと芳香族化合物配位子の配位力、非配位性芳香族化合物に導入する置換基の種類、数及び位置等によって、調節することが可能である。
    また、細孔群間において細孔の形状が異なる場合、例えば、上記内接円の直径や上記内接楕円の長径及び短径がほぼ同一であっても、ゲスト成分の形状によって、各細孔群を構成する細孔内に取り込まれるゲスト成分が異なってくる。 細孔の形状は、細孔群間において、少なくとも一箇所において互いに異なればよく、連続した細孔の全領域で互いに異ならなくてもよい。
    細孔の形状もまた、分子設計、例えば、三次元格子状構造を構成する芳香族化合物配位子や非配位性芳香族化合物の形、非配位性芳香族化合物に導入する置換基の種類、数及び位置等によって、調節することが可能である。
    三次元ネットワーク構造内の前記積み重ね構造において、前記非配位性芳香族化合物のHOMO(最高被占軌道)と前記芳香族化合物配位子のLUMO(最低空軌道)が、その節面の数や位置、電子分布、エネルギーレベルについて軌道形状の重なりを有し(図7(b)、図8(b)参照)、その積層構造が安定化されるように、非配位性芳香族化合物と当該非配位性芳香族化合物に導入する置換基、及び、芳香族化合物配位子を選択することで、高分子錯体内に形成される前記積み重ね構造を予測することができ、効率的な分子設計が可能である。
    以下、本発明の高分子錯体を構成する芳香族化合物配位子、非配位性芳香族化合物、中心金属となる金属イオンについて、具体的に説明する。
    芳香族化合物配位子としては、例えば、下記式(1)で表される芳香族化合物が挙げられる。
    (式1)

    (式中、Arは芳香環を有する構造である。Xは2価の有機基であるか又はArとYの間を直接結ぶ単結合である。Yは配位原子又は配位原子を含む原子団である。nは3〜6の数を表す。一分子内に含まれる複数のX同士は互いに異なっていてもよく、且つ、複数のY同士は互いに異なっていてもよい。)


    ここで、式(1)において、Arは、擬平面構造を形成するπ平面を有し、非配位性芳香族化合物とのπ−π相互作用を有するものである。 Arとしては特に限定されず、芳香族化合物配位子の分子サイズが高分子錯体内に形成される細孔のサイズにある程度影響することを考慮して適宜選択すればよい。 具体的には、単環性の芳香環、特に6員環の芳香環、或いは、2〜5環性の縮合多環性の芳香環、特に6員環の芳香環が2〜5個縮合した縮合多環性の芳香環が挙げられる。


    合成の容易性から、Arとしては、6員環の芳香環等の単環性芳香環が好ましい。 単環性の6員環の芳香環としては、例えば、ベンゼン環、トリアジン環、ピリジン環、ピラジン環等が挙げられる。


    Arは、芳香環を有する構造であればよく、一部に脂環式環状構造を含んでいてもよいし、環内ヘテロ原子を含んでいてもよい。 また、−(X−Y)以外の置換基を有していてもよい。


    式(1)において、ArとYとの間に介在するXについて、2価の有機基としては、高分子錯体中に形成される細孔に要求されるサイズ等によって適宜その鎖長等を選択すればよいが、比較的大きな分子サイズを有する有機化合物を取り込める細孔を形成するためには、例えば、炭素数2〜6の2価の脂肪族基、6員環の2価の単環性芳香環、6員環の芳香環が2〜4個縮合した縮合多環性芳香環が挙げられる。


    ここで芳香環は、環内ヘテロ原子を含んでいてもよく、置換基を有していてもよい。 また、一部に脂環式構造を含むものであってもよい。 脂肪族基は、分岐構造を有していてもよいし、不飽和結合を含んでいてもよいし、ヘテロ原子を含んでいてもよい。


    上記2価の有機基の具体例としては、フェニレン基、チオフェニレン、フラニレン等の単環性芳香環や、ナフチル基及びアントラセン等のベンゼン環が縮合した縮合多環性芳香環、アセチレン基、エチレン基、アミド基、エステル基等の脂肪族基、並びにこれらの基が任意の数及び順序で連結した構造を有するものが挙げられる。 一分子中に含まれる複数のXは、互いに同一であっても異なっていてもよいが、通常、合成の容易性の観点から、同一であることが好ましい。


    Yは、中心金属となる中心金属イオンに配位することができる配位原子又は配位原子を含む原子団であり、中心金属イオンに配位して三次元ネットワーク構造を形成できるものであれば、特に限定されない。 例えば、下記式(2)で表される基が挙げられる。


    (式2)


    式(2b)、(2c)及び(2d)は、共鳴構造をとることにより、中心金属イオンに孤立電子対を供与できる。 以下に、式(2c)の共鳴構造を代表例として示す。


    Yは、配位原子そのものであってもよいし、配位原子を含む原子団であってもよい。 例えば、上記4−ピリジル基(2a)は、配位原子(N)を含む原子団である。 Yの配位原子が有する孤立電子対により、中心金属イオンに配位結合する際、適度な配位力が得られる点からは、上記式のうちピリジル基(2a、2f)が特に好ましい。


    一分子中に含まれる複数のYは、互いに同一であっても異なっていてもよい。


    上述したように、芳香族化合物配位子は、当該芳香族化合物配位子を構成する全配位性部位がほぼ同一平面内に存在する芳香族化合物であることが好ましく、特にπ共役系により芳香族化合物配位子全体として擬平面形状であることが好ましい。 すなわち、上記(1)式で表される芳香族化合物配位子(1)に含まれる全てのYは、ほぼ同一平面内に存在することが好ましい。 特に、Arと共に、Arに結合する複数の−(X−Y)がπ共役系により一体化して安定な擬平面構造をとり、当該擬平面構造の中に全てのYが存在することが好ましい。


    Arと複数の−(X−Y)がπ共役系により一体化して擬平面構造をとる芳香族化合物配位子において、−(X−Y)は剛直な直線状の構造を有し、使用を意図する環境において、その軸周り回転が制限されるものであることが、非配位性芳香族化合物との効果的なπ−π相互作用の発現の観点から好ましい。


    このような観点から、上記にて例示されたもののうち、Xとしては、ArとYを直接結ぶ単結合、フェニレン基等の単環性芳香環やナフチル基及びアントラセン等の縮合多環性芳香環のような芳香環、アセチレン基及びエチレン基等の脂肪族基、並びにこれらの基が任意の数及び順序で連結した構造を有するものが好ましい。 −(X−Y)が芳香環、アセチレン基、エチレン基からなる構造或いはこれらが連結した構造を有する場合には、立体障害により軸回転が制限される。 さらに、芳香環、アセチレン基、エチレン基からなる構造が、π電子が非局在化した共役系を形成する場合には、立体配座のエネルギー障壁によっても軸回転が制限される。 従って、上記式(1)で表される芳香族化合物配位子が一体化して擬平面構造をとることができ、安定した三次元ネットワーク構造を形成することができる。


    また、Yで表される配位原子又はYに含まれる配位原子は、高分子錯体の設計の容易性の点から、上記剛直な直線状の構造を有する−(X−Y)の軸の延長方向に孤立電子対を有していることが好ましい。


    Arに結合する−(X−Y)の数は、Arの構造にもよるが、通常、3〜6個である。 また、−(X−Y)は、Arを中心とするほぼ同一平面内に等間隔の放射状に配位原子が配置されるように、Arに結合していることが好ましい。


    以上のような、一つの芳香環含有構造Arを中心として、該芳香環のπ共役系により形成される平面の広がる方向に向かって等間隔の放射状に配位原子が配置された構造を有する芳香族化合物配位子(1)としては、以下の式(4)で表されるものが挙げられる。


    (式4)


    上記式(4)中、その電子不足状態のため、非配位子芳香族化合物との電荷移動による相互作用が強く、より強固に安定化した非配位子芳香族化合物との積み重ね構造を形成することができることから、特にトリス(4−ピリジル)トリアジン(4a)[2,4,6−トリス(4−ピリジル)1,3,5−トリアジン]が好ましい。


    一方、非配位性芳香族化合物として、具体的には、縮合多環芳香族化合物が挙げられる。 既述したような理由から、分子構造に含まれる全ての環がπ共役系により一体化して安定な擬平面形状を有する芳香族化合物であることが好ましいためである。


    縮合多環芳香族化合物としては、2〜7環性の化合物が挙げられる。 芳香族化合物配位子との積み重ね構造が安定なものとなるように、縮合多環芳香族化合物はある程度広がりを持った平面形状を有することが好ましい。 このような縮合多環芳香族化合物としては、下記式(5)で表されるものが挙げられる。


    (式5)


    非配位性芳香族化合物の芳香環上に導入される置換基Aとしては、特に限定されず、高分子錯体内に形成される細孔内に入る大きさであればよい。 従って、高分子錯体内に形成される細孔のサイズによって、置換基導入の効果が得られる置換基Aは異なってくるが、置換基Aとしては、例えば−W−OH、−W−NH

    、−W−NO

    、−W−CH

    、−W−OCOCH

    、アルキルエーテル鎖、アルキルチオエーテル鎖、アルキレングリコール鎖、及びペプチド鎖(Wは2価の有機基又は単結合を示す)より選ばれる少なくとも1つの官能基が挙げられる。


    2価の有機基Wとしては、得られる置換基Aが特定の細孔B内に入る大きさであれば特に限定されないが、低級炭素鎖、具体的には炭素数1〜5の炭素鎖又は単結合が好ましく、特に、炭素数1〜3の炭素鎖又は単結合が好ましい。 また、アルキルエーテル、アルキルチオエーテル、アルキレングリコールのアルキル基又はアルキレン基としては、低級炭素鎖、具体的には炭素数1〜5の炭素鎖が好ましく、特に炭素数1〜3の炭素鎖が好ましい。 また、アルキレングリコール鎖、ペプチド鎖としては、アルキレングリコール単位又はペプチド単位を1〜2個含むものが好ましい。


    具体的な置換基Aとしては、例えば、−CH

    −OH、−CH

    CH

    −OH、−OH、−CH

    −NH

    、−CH

    CH

    −NH

    、−NH

    、−CH

    −NO

    、−CH

    CH

    −NO

    、−NO

    、−CH

    −CH

    、−CH

    CH

    −CH

    、−CH

    、−CH

    −OCOCH

    、−CH

    CH

    −OCOCH

    、−OCOCH

    、−O−CH

    、−O−CH

    CH

    、−S−CH

    、−S−CH

    CH

    、−O−CH

    CH

    −OH等が例示できる。


    置換基として、水素結合、イオン結合、静電相互作用(双極子相互作用、四極子相互作用)等の比較的強い相互作用を有するものを選択することによって、当該置換基の配向及び非配位性芳香族化合物の配列を制御することが可能となる。 静電相互作用や立体作用のように、ファンデルワールス力よりも大きな原子間又は分子間相互作用を発現できる置換基を非配位性芳香族化合物の芳香環上に導入することにより、芳香族化合物配位子が金属イオンに配位して形成された三次元ネットワーク構造内において、芳香族化合物配位子と非配位性芳香族化合物の自己組織化による分子配列がより精密に制御され、置換基自身の配向性や、芳香族化合物配位子と非配位性芳香族化合物とのスタッキング構造等の規則性が高まる。


    上記したような比較的強い相互作用を発現する置換基としては上記したもののうち、−CH

    OH、−CH

    CH

    −OH、−OH、−CH

    −NH

    −CH

    CH

    −NH

    、−NH

    、−CH

    −NO

    、−CH

    CH

    −NO

    、−NO

    、−CH

    −OCOCH

    、−CH

    CH

    −OCOCH

    、−OCOCH

    、−O−CH

    CH

    −OH等が挙げられる。


    強固なπ−πスタッキング構造を形成し、安定したネットワーク構造を構築するという観点からは、置換基Aとして電子供与性の強いものが好ましい。 電子供与性の強い置換基としては、−W−OH、−W−NH

    、−W−CH

    及びアルキルエーテル鎖等が挙げられ、具体的には、−CH

    −OH、−CH

    CH

    −OH、−OH、−CH

    −NH

    、−CH

    CH

    −NH

    、−NH

    、−CH

    −CH

    、−CH

    CH

    −CH

    、−CH

    、−O−CH

    、−O−CH

    CH

    等が挙げられる。


    また、置換基Aがその内面に配向する細孔が、ゲスト成分を取り込む、すなわち、包接挙動を示すためには、該細孔が置換基Aによって占有されないことが重要である。 このような観点から、細孔のサイズに合わせて、置換基Aの大きさを決定することが好ましい。 尚、置換基Aの大きさによって、置換基Aが配向する細孔内の空間の大きさも変わってくるため、取り込みたいゲスト成分にあわせて置換基Aの大きさを決定することもできる。


    従って、細孔の大きさ、包接しようとするゲスト成分の大きさ等によって、好ましい置換基Aの大きさは異なってくるが、包接挙動を示す細孔を形成するという観点からは、置換基Aは、水素原子を除く総原子数が3以下の原子団であることが好ましい。 具体的には、上記Wとして1〜2の炭素鎖又は単結合が好ましく、また、置換基Aとしてアルキルエーテル鎖を選択する場合には、炭素数1又は2の炭素鎖が好ましい。 このような置換基Aとしては、例えば、−CH

    −OH、−CH

    CH

    −OH、−OH、−CH

    −NH

    、−CH

    CH

    −NH

    、−NH

    、−NO

    、−CH

    −CH

    、−CH

    CH

    −CH

    、−CH

    、−OCOCH

    、−O−CH

    、−O−CH

    CH

    、−S−CH

    、−S−CH

    CH

    等が挙げられる。


    非配位性芳香族化合物に導入される置換基の数もまた特に限定されず、1つのみでも、複数であってもよい。 置換基を2つ以上導入する場合、これら複数の置換基は互いに異なっていてもよいし、或いは、同じであってもよい。 導入する置換基の数によって、細孔の形状やサイズ、雰囲気を調整することが可能であることは既に述べた。


    また、置換基を導入する非配位性芳香族化合物の芳香環上の位置は特に限定されない。 置換基の導入位置によって、細孔の形状やサイズが変化する他、立体作用によって置換基そのものの配向性が変化する可能性が考えられる。 非配位性芳香族化合物に複数の置換基を導入する場合には、各置換基の導入位置によって、複数の置換基が同一の細孔内を向くようにして、これら複数の置換基で1つの細孔群を修飾したり、或いは、それぞれの置換基が異なる細孔内を向くようにし、各置換基で異なる細孔群を修飾することもできる。


    上記芳香族化合物配位子が配位する中心金属イオンとしては、様々な金属イオンを適宜選んで用いればよいが、遷移金属イオンが好ましい。 本発明において遷移金属とは、周期表の12族の亜鉛、カドミウム、水銀も含むものであり、中でも、周期表の8〜12族のものが好ましく、具体的には、亜鉛、銅、ニッケル、コバルト、鉄、銀等が好ましい。


    本発明においては、中心金属イオンは、通常、金属塩等の化合物の形で三次元格子状構造内に存在する。 これら中心金属イオン含む金属化合物としては、ハロゲン金属塩が挙げられ、具体的には、ZnI

    、ZnCl

    、ZnBr

    、NiI

    、NiCl

    、NiBr

    、CoI

    、CoCl

    、CoBr

    等が好ましく用いられる。


    芳香族化合物配位子として上記(1)式、特に上記式(4)に示したような芳香族化合物、非配位性芳香族化合物として縮合多環芳香族化合物、特に上記式(5)に示したような芳香族化合物を用いた場合、高分子錯体内に形成される2種以上の細孔群から選ばれる細孔群に含まれる細孔のサイズは、上記平行面における内接円の直径を3〜10Å、特に4.5〜7.0Åの範囲、上記平行面における細孔の内接楕円の長径を5〜15Å、特に8.5〜10.0Åの範囲、該細孔の内接楕円の短径を3〜13Å、特に6.0〜8.0Åの範囲とすることができる。 このようなサイズの細孔が形成された高分子錯体は、有機化合物のような比較的大きなサイズの化合物を取り込むことができる。


    ここで、芳香族化合物配位子としてトリス(4−ピリジル)トリアジン(式4a)、非配位性芳香族化合物として一位−OH基を導入したトリフェニレン(1−ヒドロキシトリフェニレン)(式6のB

    )、中心原子となる金属イオンを含む金属化合物としてZnI

    、を用いて得られる高分子錯体を例として、本発明の高分子錯体の製造方法、高分子錯体の構造をより具体的に示す。


    下記式(6)において、トリス(4−ピリジル)トリアジン(A)は、トリアジン環と3つのピリジル環がほぼ同一平面内に存在する擬平面構造を有する化合物であり、3つの4−ピリジルの窒素原子において金属イオンに配位することができる。 1−ヒドロキシトリフェニレン(B

    )もまた、擬平面形状を有する化合物であり、トリフェニレン骨格の芳香環上にヒドロキシ基(−OH)が結合している。 トリス(4−ピリジル)トリアジン(A)(以下、式中において、単に(A)と表すことがある)、ZnI

    、及び1−ヒドロキシトリフェニレン(B

    )(以下、式中において、単に(B

    )と表すことがある)から形成される三次元格子状構造を有する高分子錯体は、トリス(4−ピリジル)トリアジン(A)と1−ヒドロキシトリフェニレン(B

    )を共存させた状態で、ZnI

    と作用させることによって、生成する(式6)。


    (式6)


    例えば、{[(ZnI

    (A)

    (B

    )](ニトロベンゼン)

    (メタノール)

    (n、zは不定比組成))で表される単結晶構造を有する高分子錯体(以下、高分子錯体4ということがある)は、三層溶液(上層:ZnI

    のメタノール溶液、中間層:メタノール、下層:トリス(4−ピリジル)トリアジンと1−ヒドロキシトリフェニレンのニトロベンゼン−メタノール溶液)を用いて製造することができる。 このとき、中間層であるメタノール層は、ZnI

    とトリス(4−ピリジル)トリアジン及び1−ヒドロキシトリフェニレンとが急激に混ざり合わないようにするための緩衝剤である。 この三層溶液を静置し、徐々にZnI

    とトリス(4−ピリジル)トリアジン及び1−ヒドロキシトリフェニレンとを混ぜ合わせる(二層拡散法)ことにより、高分子錯体4を生成させる。


    図2に高分子錯体4のX線結晶構造解析により得られた図を示す。 図2(A)は、紙面(結晶010面)に対して垂直な方向を軸bとするものであり、高分子錯体4の三次元格子状構造内の相互貫通構造を、後述するチャンネルP及びQが伸びる方向(軸b)に対して垂直な面において切断したものである。 尚、図2(A)では、チャンネルPとチャンネルQに取り込まれたゲスト成分は省略されている。


    高分子錯体4をX線結晶構造解析により分析したところ、図2(A)に示すように、複数のトリス(4−ピリジル)トリアジンとZnI

    が配位結合により三次元的に結びついた三次元ネットワーク構造1aと1bとが相互貫通して形成された複合化三次元ネットワーク構造を有していることがわかった。 このとき、三次元ネットワーク構造1aと三次元ネットワーク構造1bはZnI

    を共有する等の間接的或いは直接的な結合を有しておらず、互いに独立したものであり、同一の空間を共有するように互いに入り組んだ状態である。


    さらに、X線結晶構造解析により、1−ヒドロキシトリフェニレン(B

    )は、三次元ネットワーク構造1aのトリス(4−ピリジル)トリアジン(Aa)のπ平面と、三次元ネットワーク構造1bのトリス(4−ピリジル)トリアジン(Ab)のπ平面との間に強固に挿入(インターカレート)されていた(図2(B)参照)。 このとき、1−ヒドロキシトリフェニレン(B

    )は、トリス(4−ピリジル)トリアジン(Aa)及び(Ab)間のπ−π相互作用によって、(Aa)と(Ab)間に取り込まれており、トリス(4−ピリジル)トリアジンと直接の結合を有していない。 しかし、このように2つのトリス(4−ピリジル)トリアジンのπ平面間にトリフェニレンが挿入した積み重ね構造が無数連なった構造(・・Aa・・B

    ・・Ab・・B

    ・・)によって、高分子錯体4の固体構造が安定化していると考えられる。 しかも、特願2004−382152のトリス(4−ピリジル)トリアジンとトリフェニレンとZnI

    からなる高分子錯体のゲスト交換実験において、トリフェニレンが抽出されなかったことから、積み重ね構造を形成する1−ヒドロキシトリフェニレン(B

    )も、高分子錯体4の主骨格の一部として機能していると考えられる。


    この1−ヒドロキシトリフェニレン(B

    )の強固な拘束は、Aa−B

    −Ab間の電荷移動(CT)相互作用によるものである。 さらに、1−ヒドロキシトリフェニレン(B

    )のHOMO(最高被占軌道)とトリス(4−ピリジル)トリアジン(A)のLUMO(最低空軌道)がその節面や電子分布、エネルギーレベル等について、軌道形状の適当な重なりを有していることが計算から導き出された(図7(a)及び図7(b)参照)。 尚、この結果は、理論計算の都合上、錯体を形成していないA分子のLUMOを、高分子錯体4の骨格内のAのLUMOのモデルとして扱ったものである。


    高分子錯体4には、図2に示すように、その三次元格子状構造内に規則的に配列した2種のチャンネル(P及びQ)が存在する。 チャンネルP及びQは、トリス(4−ピリジル)トリアジン(A)と1−ヒドロキシトリフェニレン(B

    )が交互に積み重なった積み重ね構造の間に、それぞれ規則的に形成されている。 チャンネルPは、ほぼ円筒型であり、且つ、積み重なった無数のトリス(4−ピリジル)トリアジン(A)及び1−ヒドロキシトリフェニレン(B

    )のπ平面の側縁に存在する水素原子でほぼ取り囲まれている。 1−ヒドロキシトリフェニレン(B

    )のヒドロキシ基は、チャンネルPの内面を向いており、チャンネルPの内面の一部を形成している。 従って、チャンネルPは、ヒドロキシ基による修飾を受け、チャンネルQと比較して親水性や極性、酸性が高くなっている。


    一方、チャンネルQは、擬三角柱型であり、且つ、その三角柱を形成する3方の面のうち、2つはトリス(4−ピリジル)トリアジン(A)のπ平面に取り囲まれ、もう一つは積み重なった無数のトリス(4−ピリジル)トリアジン(A)及び1−ヒドロキシトリフェニレン(B

    )のπ平面の側縁に存在する水素原子で取り囲まれている。 1−ヒドロキシトリフェニレン(B

    )のヒドロキシ基は、チャンネルQの内面を向いて配向していない。 これらチャンネルPとチャンネルQは、若干蛇行した細長い形状を有している。


    高分子錯体4において、芳香族化合物配位子であるトリス(4−ピリジル)トリアジン(A)と、非配位性芳香族化合物である1−ヒドロキシトリフェニレン(B

    )により形成される積み重ね構造は、X線構造解析の結果、B

    分子を構成する各原子の温度因子が小さく、結晶内におけるB

    配置の乱れ(ディスオーダー)がほとんど存在しないことがわかった。 この結果は、高分子錯体4において、非常に規則性の高い構造が構築できていることを示している。


    さらに、チャンネルPとQは、内接する円の直径及び内接する楕円の長径と短径と異なっている(チャンネルP:内接楕円長径8.5〜10.0Å、内接楕円短径6.0〜8.0Å、チャンネルQ:内接円直径4.5〜7.0Å)


    このように、{[(Znl

    (A)

    (B

    )](ニトロベンゼン)

    (メタノール)

    (n、zは不定比組成))で表される単結晶構造を有する高分子錯体4内に形成されたチャンネルPとチャンネルQは、形状、サイズ及び雰囲気の3つが共に異なる上に、1−ヒドロキシトリフェニレンのヒドロキシ基はチャンネルPの内面にのみ向かって配向しているものである。


    X線結晶構造解析によると、高分子錯体4において、チャンネルPでは、1−ヒドロキシトリフェニレンのヒドロキシ基近傍にメタノールが包接され、隙間を埋めるようにニトロベンゼンが包接されている。 一方、チャンネルQはニトロベンゼンのみを包接している。 そして、チャンネルPの内面を向いて配向した1−ヒドロキシトリフェニレンのヒドロキシ基の水素までもがX線結晶構造解析により確認されている(図3参照。図3Bは図3Aの拡大図)。 また、1−ヒドロキシトリフェニレンのヒドロキシ基の水素が、メタノールの方向を向いていることも確認できている。


    このとき、1−ヒドロキシトリフェニレンのヒドロキシ基の酸素原子と、チャンネルPに包接されたメタノールの酸素原子との距離が2.711Åと近いことから、メタノールとヒドロキシ基との間に強い水素結合が形成されていると推測される(図4参照。図4Bは図4Aの拡大図)。 さらに、積み重ね構造を形成しているトリス(4−ピリジル)トリアジン[芳香族化合物配位子]と1−ヒドロキシトリフェニレン[非配位性芳香族化合物]との間の積層距離(最も近いもの)が3.342Åであり、ファンデルワールス力による原子間距離(3.5Å)よりも小さいことから、これら芳香族化合物配位子であるトリス(4−ピリジル)トリアジンと非配位性芳香族化合物である1−ヒドロキシトリフェニレンとの間には、ファンデルワールス力以外の相互作用、すなわち、π−π相互作用が働いていることがわかる。


    さらに、1−ヒドロキシトリフェニレン(B

    )のHOMO(最高被占軌道)とトリス(4−ピリジル)トリアジン(A)のLUMO(最低空軌道)が効率良くオーバーラップしていることが計算から導き出された(図7参照)。 尚、図7の(a)は、高分子錯体4におけるトリス(4−ピリジル)トリアジン(A)と1−ヒドロキシトリフェニレン(B

    )との間のπ−π積み重ねを示す図であり、図7の(b)はHOMOとLUMOの重ね合わせを示す図である。


    以上のような高分子錯体4に代表される本発明の高分子錯体は、一分子内にゲスト成分に対する親和性が異なる2種以上の細孔群を有するため、混合物と接触させると、混合物中の2種以上のゲスト成分が、ゲスト交換を経てそれぞれ異なる細孔群内に別々に包含される。 これらの細孔群内に取り込まれたゲスト成分は、三次元格子状構造を構成する剛直な主骨格によって互いに隔たれている。 そのため、本発明の高分子錯体は、共存することができない2つ以上の成分、例えば、酸と塩基、酸化剤と還元剤等を、1つの高分子錯体内に安定した状態で貯蔵したり、高分子錯体内を別個に輸送したりすることが可能である。


    さらに、ゲスト成分に対する親和性が異なる2種以上の細孔群を有するため、高分子錯体の細孔群の細孔内空間を反応場として利用する場合には、細孔内の特性制御により反応場の精密制御が可能であり、化学反応の高度制御が実現できる。 例えば、特定の細孔群に特定の触媒成分を包接させたり、或いは、2種以上の細孔群間において、異なる触媒成分を包接させたりすることもできる。 また、細孔群の細孔内空間を反応場として利用する場合には、特定の細孔群に反応原料を取り込んで、当該細孔群に特有の細孔内雰囲気を利用して、高選択的な物質変換も可能である。


    本発明の高分子錯体は、一つの高分子錯体内に形成される2種以上の細孔群がゲスト成分に対して有する親和性を、芳香族化合物配位子、金属イオン、非配位性芳香族化合物の選択の他、非配位性芳香族化合物に導入する置換基によって、自在に制御することが可能であり、様々な分野における種々の用途、例えば、固体高分子型燃料電池の電極に用いる造孔材や、固体高分子型燃料電池の電解質膜の添加剤、直接メタノール投入型燃料電池の燃料であるメタノールから不純物を除去する技術等に利用されることが期待できる。


    固体高分子型燃料電池では、燃料ガスや酸化剤ガスの拡散を促進するために造孔材を加えることが知られているが、造孔材を加えることで低加湿条件下の運転時に電極(触媒層)内に水分を保持することができず、電解質膜が乾燥することによって発電性能が低下するという問題がある。 本発明の高分子錯体は、親水性の細孔と疎水性の細孔を有するため、低加湿条件下においても親水性の細孔によって水分を保持することができ、且つ、疎水性の細孔によってガスの拡散性を保持することができると考えられる。 また、固体高分子型燃料電池の電解質膜の添加剤としては、親水性の部分により電解質膜内に水分を保つことが可能になると考えられ、発電性能の向上が期待される。

    以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。
    [高分子錯体1〜7の製造]
    試験管にニトロベンゼン4mlと、メタノール1mlをとり、そこに、2,4,6−トリス(4−ピリジル)−1,3,5−トリアジン6.3mg(0.02mmol)を溶解し、さらに、各々表1に示す非配位性芳香族化合物(B、B 〜B )を加えた。
    次に、上記にて得られた溶液を下層とし、その上に緩衝剤であるメタノール0.5mlを中層として静かに加えた。 最後に、ZnI 9.6mg(0.03mmol)をメタノール0.5mlに溶かした溶液を上層として静に加え、約23〜25℃(室温)で約3日間静置し、高分子錯体1〜6(実施例1〜6)及び高分子錯体7(比較例1)を得た。 各高分子錯体1〜7において用いた非配位性芳香族化合物とその量、及び高分子錯体1〜7の結晶の外見を表1に示す。 また、各非配位性芳香族化合物の構造式を以下に示す。

    (式7)


    (高分子錯体4の分析)


    得られた高分子錯体4について、X線結晶構造解析を行った。 結果を以下に示す。 図2は、既述したが、紙面(結晶010面)に対して垂直な方向を軸bとするものであり、高分子錯体4の三次元格子状構造内の相互貫通構造をチャンネルP及びQが伸びる方向(軸b)に沿って示したものである。 尚、図2では、チャンネルPとチャンネルQに取り込まれたゲスト成分は省略されている。


    尚、結晶構造解析は、Smart1000X線回折装置(ブルカー製、X線源:Mo−K

    α 、温度:80K、出力:55kV、30mA)により行った(以下同じ)。


    また、高分子錯体4におけるトリス(4−ピリジル)トリアジンと1−ヒドロキシトリフェニレンとの積層距離や、チャンネルPに包接されたメタノールと1−ヒドロキシトリフェニレンのヒドロキシ基との水素結合については、既述した通りである。


    <X線結晶構造解析>


    高分子錯体4の結晶学的データと各原子の座標情報等を表2〜表5に示す。 尚、表2は図9、表3(表3−1〜表3−4)は図10〜図13、表4(表4−1〜表4−4)は図14〜図17、表5(表5−1〜表5−3)は図18〜図20とした。


    (高分子錯体3)


    得られた高分子錯体3について、元素分析及びX線結晶構造解析を行った。 結果を以下に示す。 図5は、紙面(結晶010面)に対して垂直な方向を軸bとするものであり、高分子錯体3の三次元格子状構造内の相互貫通構造をチャンネルS及びTが伸びる方向(軸b)に沿って示したものである。 尚、図5では、チャンネルSとチャンネルTに取り込まれたゲスト成分は省略されている。


    高分子錯体3は、図5に示すように、その三次元格子状構造内に規則的に配列した2種のチャンネル(S及びT)が存在する。 チャンネルS及びTは、トリス(4−ピリジル)トリアジン(A)と2−アミノトリフェニレン(B

    )が交互に積み重なった積み重ね構造の間に、それぞれ規則的に形成されている。 チャンネルSは、ほぼ円筒型であり、且つ、積み重なった無数のトリス(4−ピリジル)トリアジン(A)及び2−アミノトリフェニレン(B

    )のπ平面の側縁に存在する水素原子でほぼ取り囲まれている。 2−アミノトリフェニレン(B

    )のアミノ基は、チャンネルSの内面を向いており、チャンネルSの内面の一部を形成している。 従って、チャンネルSは、アミノ基による修飾を受け、チャンネルTと比較して親水性や極性、塩基性が高くなっている。


    一方、チャンネルTは、擬三角柱型であり、且つ、その三角柱を形成する3方の面のうち、2つはトリス(4−ピリジル)トリアジン(A)のπ平面に取り囲まれ、もう一つは積み重なった無数のトリス(4−ピリジル)トリアジン(A)及び2−アミノトリフェニレン(B

    )のπ平面の側縁に存在する水素原子で取り囲まれている。 2−アミノトリフェニレン(B

    )のアミノ基は、チャンネルTの内面を向いて配向していない。 これらチャンネルSとチャンネルTは、若干蛇行した細長い形状を有している。


    さらに、チャンネルSとTは、内接する円の直径及び内接する楕円の長径と短径と異なっている(チャンネルP:内接楕円長径8.5〜10.0Å、内接楕円短径6.0〜8.0Å、チャンネルQ:内接円直径4.5〜7.0Å)


    このように、{[(ZnI

    (A)

    (B

    )](ニトロベンゼン)

    (メタノール)

    (n、zは不定比組成)で表される単結晶構造を有する高分子錯体3内に形成された、チャンネルSとチャンネルTは、形状、サイズ及び雰囲気の3つが共に異なる上に、2−アミノトリフェニレンのアミノ基がチャンネルSの内面にのみ向かって配向していた。


    <X線結晶構造解析>


    高分子錯体3の結晶学的データと各原子の座標情報等を表6〜表9に示す。 尚、表6は図21、表7(表7−1〜表7−6)は図22〜図27、表8(表8−1〜表8−6)は図28〜図33、表9(表9−1〜表9−3)は図34〜図36とした。


    さらに、2−アミノトリフェニレン(B

    )のHOMO(最高被占分子軌道)とトリス(4−ピリジル)トリアジン(A)のLUMO(最低空軌道)が効率良くオーバーラップしていることが計算から導き出された(図8参照)。 尚、図8の(a)は、高分子錯体3におけるトリス(4−ピリジル)トリアジン(A)と2−アミノトリフェニレン(B

    )との間のπ−π積み重ねを示す図であり、図8の(b)はHOMOとLUMOの重ね合わせを示す図である。


    (ゲスト交換)


    上記にて合成した高分子錯体4、高分子錯体5及び高分子錯体7について、以下のようにしてゲスト交換を行った。 すなわち、2−プロパノールをシクロヘキサンに溶解[2−プロパノール/シクロヘキサン(体積比)=1:39]させた混合液中に、上記高分子錯体をそれぞれ浸漬(27℃で3日間)した。 各高分子錯体において各チャンネル(以下、各高分子錯体内に形成される擬三角型チャンネルをチャンネルA、円筒型チャンネルをチャンネルBとする)に包接されたゲスト成分を表10に示す。 尚、ニトロベンゼンは高分子錯体の結晶化溶媒に由来する成分である。


    表10に示すように、置換基を有さないトリフェニレンを用いた高分子錯体7は、チャンネルA及びB共にシクロヘキサンが取り込まれ、2−プロパノールは取り込まれなかったのに対して、ヒドロキシル基を有するトリフェニレンを用いた高分子錯体4及び高分子錯体5は、チャンネルAにシクロヘキサン、チャンネルBに2−プロパノールがそれぞれ選択的に取り込まれた。


    また、図37に上記ゲスト交換実験後の高分子錯体5及び高分子錯体7のX線構造解析結果を示す(37−A:高分子錯体7、37−B:高分子錯体5)。 図37は、各高分子錯体のチャンネルBを拡大したものであるが、高分子錯体7ではシクロヘキサンのみが取り込まれたのに対して、高分子錯体5では2−プロパノールが取り込まれているのがわかる。


    この結果は、アルコール分子(2−プロパノール)がチャンネルB内のヒドロキシル基との水素結合によって取り込まれていることを示唆していると考えられる。 すなわち、細孔内への官能基の導入によりゲスト分子吸着能の制御及び拡張ができたことを示している。


    さらに、高分子錯体4と高分子錯体5の対比において、チャンネルBに取り込まれた成分が異なっていることから、非配位性芳香族化合物であるトリフェニレンにおける置換基の導入位置によって、チャンネルBのゲスト成分に対する親和性、すなわち、ゲスト成分の認識性能が大きく異なることが示された。 すなわち、非配位性芳香族化合物の置換基の種類のみならず、位置の調整により、チャンネルのゲスト成分に対する親和性を精密に制御可能であることがわかる。


    また、以上の結果より、高分子錯体4及び高分子錯体5は、アルコール分子を選択的に取り込む能力を有しており、アルコールを選択分離する技術として利用可能であることが示唆された。 これら本発明の高分子錯体の選択的なゲスト成分の包接性能を利用したアルコール分離は、エネルギーを要さないため、燃料として注目されているアルコールの高エネルギー効率での分離を実現可能とするものである。

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