【技術分野】 【0001】 本発明は、陽電荷性薬剤と複合体を形成する陰電荷性高分子ミセル型の薬剤キャリヤー(negatively charged polymeric micelle drug carrier)に関するものである。 より詳細には、本発明は、親水性高分子ブロック(A)と生分解性の疎水性高分子ブロック(B)とからなるA−B型ブロック共重合体であって、疎水性高分子ブロック(B)の一端が一つの陰イオン基に共有結合されているものを含有する陰電荷性高分子薬剤キャリヤーに関するものである。 本発明の陰電荷生分解性ブロック共重合体は、静電的相互作用を介して陽電荷性薬剤と複合体を形成する。 本発明の陰電荷性共重合体は、薬剤デリバリーに使用でき、特に陽電荷性生理活性物質のデリバリーに有用である。 【背景技術】 【0002】 生分解性高分子は、薬剤デリバリーシステムとして注目されている(非特許文献1と2)。 生分解性デリバリーシステムによる生理活性物質のデリバリーは、デリバリーシステムを外科的に体外へ除去する必要がないため、極めて好ましい。 生理活性物質の放出をコントロールできれば、治療剤の濃度を所望のレベルに維持できることから、必要とされる投与回数を低減することが可能になる。 適切な濃度を維持するための重要な方法の一つには、生分解性の薬剤デリバリーシステムの分解速度を制御することがある。 【0003】 薬剤キャリヤーとして広く使われる生分解性の疎水性高分子としては、ポリ乳酸(PLA),ポリグリコール酸(PGA),乳酸とグリコール酸との共重合体(PLGA),ポリカプロラクトン(PCL),ポリオルトエステル(POE),ポリアミノ酸(PAA),ポリ酸無水物(PAH),ポリフォスファジン,ポリヒドロキシ酪酸(PHB)およびポリジオキサノン(PDO)などがある。 この様な高分子は、優れた生体適合性と、生体内で加水分解されて生体に無害な副生成物に分解されるという好ましい特徴を持つため、薬剤キャリヤーとして広く使われている。 特に、これらの高分子は水系製剤に不溶性であるので、薬剤はこれら高分子マトリックス内に取り込まれ、マイクロスフェア,ナノスフェア,フィルム,シートやロッドの形態で生体内に投与される。 それによって、薬剤は徐放され、持続的な薬効を発揮する。 この様なタイプの製剤では、高分子自体は生体内で最終的に分解される。 しかし、これらの高分子は水溶性薬剤との親和性が低く、高分子マトリックス中に多量の薬剤を取り込むことは非常に難しい。 たとえ効果的に高分子マトリックス内へ薬剤を取り込ませたとしても、体内へ投与した際、多量の薬剤が最初の数時間内に放出される初期バースト放出(burst release)が生じるという問題がある。 【0004】 親水性高分子ブロックAと生分解性の疎水性高分子BとからなるA−B,B−A−BまたはA−B−A型のブロック共重合体は、高分子ミセル,ナノスフェア,マイクロスフェア,ゲルなどの形態で、生理活性物質をデリバリーするための薬剤キャリヤーとして使われてきた。 これらブロック共重合体は、優れた生体適合性や、水溶液の中で疎水性ブロックがコアを、親水性ブロックがシェルをなすコア−シェル型高分子ミセルを形成し得るといった好ましい性質を有する。 難水溶性薬剤を高分子ミセルの内部に取り込ませてミセル溶液を製造するといったミセル製剤は、疎水性薬剤のキャリヤーとして優れている。 しかし、斯かる製剤では、疎水性薬剤は疎水性高分子との間の疎水性相互作用により取り込まれているため、疎水性の高い薬剤の取り込み効率は優れているものの、水溶性薬剤は、この様な高分子ミセル内にほとんど取り込むことができない。 【0005】 片岡らは、非電荷性ブロックと電荷性ブロックとからなるブロック共重合体を用いることによって、電荷性の水溶性薬剤を高分子ミセル内部に取り込む方法を開発した(特許文献1)。 片岡らによって使われた電荷性ブロックは、例えば、ポリアスパラギン酸,ポリグルタミン酸,ポリリシン,ポリアルギニンやポリヒスチジンといったイオン性側鎖を持つポリアミノ酸である。 しかし、これらは生体内で非分解性である。 その上、電荷性ブロックに電荷を帯びる官能基が幾つか存在するため、ペプチドやタンパク質のように多数のイオン性基を含有する薬剤と静電的結合を介して分子内で結合する場合には、これら薬剤の安定性を低下させることがある。 【0006】 上述した様に、生体適合性であり且つ生分解性である陽電荷性薬剤デリバリー用キャリヤーの開発が求められている。 そこで本発明は、生体適合性に優れ、生分解性であり、且つ薬剤の安定性を低下させることなく薬剤を效果的にデリバリーできる様な、新しいタイプの陰電荷両親媒性ブロック共重合体を提供する。 本発明の陰電荷両親媒性ブロック共重合体は、陽電荷性薬剤と静電的相互作用を介して複合体を形成することによって、水溶性の陽電荷性薬剤を両親媒性ブロック共重合体へ效果的に取り込むことができる。 また、本発明のブロック共重合体は、投与され薬剤を細胞内へデリバリーした後に容易に代謝分解され得る。 【特許文献1】 欧州特許出願公開第721,776号明細書【非特許文献1】 R. Langer,「New Method of Drug delivery」,249号,サイエンス(Science),第1527〜1533頁(1990年) 【非特許文献2】 B. Jeongら,「Biodegradable Block Copolymer as Injectable Drug-delivery Systems」,338号,ネイチャー(Nature),第860〜862頁(1997年) 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 本発明は、生体適合性で且つ生分解性であり、陽電荷性薬剤のキャリヤーとして使用した場合、薬剤の血中濃度を増加させたり安定性を向上させるといった特性を発揮できる様な陰イオン基を含有する両親媒性ブロック共重合体を提供する。 本発明の陰イオン基含有両親媒性ブロック共重合体は、生体内酵素による薬剤の分解を防止するだけでなく、ペプチド−ペプチド或いはタンパク質−タンパク質間の複合体形成を防止することによって薬剤の安定性を向上させることもできるため、特に、ペプチドまたはタンパク質薬剤の様に分子内に多数の陽イオン基を有する薬剤のデリバリーに有用である。 【0008】 また、本発明は、陽電荷性薬剤と本発明の陰電荷両親媒性ブロック共重合体とが静電結合により結合された薬剤−共重合体複合体を提供するものである。 本発明の付加的な特徴や長所は、本発明の特徴を例示的に図示した図面と共に、後述する詳細な説明によってさらに明らかになる。 【課題を解決するための手段】 【0009】 本発明は下記式(1)のブロック共重合体に関する: 【0010】 【化1】
【0011】 式中、Xは陰イオン基を示し、M
+はH +または金属陽イオンを示し、Aは生体適合性の親水性高分子であり、Bは生分解性の疎水性高分子であり、Lは−O−,−NH−,−S−および−COO−よりなる群から選択されるリンカーを示す。 【0012】
また、本発明は、式(1)で示されるブロック共重合体と陽電荷性薬剤を含有し、当該陽電荷性薬剤と当該ブロック共重合体が静電結合力を結合している薬剤−重合体複合体を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
生理活性物質伝達するための本発明に係る組成物と方法を開示し説明する前に、本発明は、本明細書で開示する特定構成,操作ステップおよび材料に限定されることなく、これら構成,操作ステップおよび材料は、多少なりとも変化し得ることが理解されるべきである。 また、本発明の範囲は、添付された特許請求の範囲とその均等範囲にのみ制限されるので、本明細書で使用した用語は、単に特定の具体例を説明するためものであり、本発明範囲を制限するものではないことも理解されるべきである。
【0014】
本明細書や添付された特許請求の範囲で使われている単数形態の表現は(原文の「a」,「an」と「the」)、他に明確な指示がない限り複数形態を含む。 従って、例えば、「官能基」(a functional group)を含有する高分子は2つ以上の官能基を有するものを含み、「リガンド」(a ligand)は1または2以上のリガンドを示し、「薬剤」(a drug)は2以上の薬剤を含む。
【0015】
本発明の説明および特許請求の範囲において、次の用語は以下の定義に従って使用する。
【0016】
本明細書で使用する「生理活性物質」や「薬剤」またはこれと類似する用語は、当該技術分野で既に公知の方法および/または本発明で提示した方法によって投与に適し、所望の生物学的または薬理学的効果を誘発する化学的または生物学的材料や化合物を意味する。 これらは、(1)生物に対して予防的効果を示し、感染を予防するなど望ましくない生物学的影響を予防し、(2)疾患によって誘発された状態の軽減、例えば、疾患の結果として発生した痛みや炎症を軽減し、および/または(3)生物の疾患を軽減,低減,または完全に除去するものを含むが、これらに制限されない。 その効果は、局部麻酔による効果の様に局部的なものであってもよいし、全身的なものであってもよい。
【0017】
本明細書で使用する「生分解性」や「生分解」の語は、可溶性加水分解によって、または生体内の酵素や他の生成物などの生物学的に形成された物質の作用によって、物質があまり複雑でない中間体または最終生成物に転換されることを意味する。
【0018】
本明細書で使用する「生体適合性」の語は、可溶性加水分解によって、または生体内の酵素や他の生成物などの生物学的に形成された物質の作用によって形成された物質または物質の中間体または最終生成物が、人体に対してあらゆる有害反応を発生させないことを意味する。
【0019】
「ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)」または「PLGA」は、乳酸とグリコール酸の縮合的共重合によって、またはラクチドまたはグリコリドのようなα−ヒドロキシ酸前駆体の開環重合によって、誘導された共重合体を意味する。 「ラクチド」,「ラクテート」,「グリコリド」および「グリコレート」の語は、相互交換的に使用することができる。
【0020】
「ポリ(ラクチド)」または「PLA」は、乳酸の縮合またはラクチドの開環重合によって誘導された高分子を意味する。 「ラクチド」および「ラクテート」の語は、相互交換的に使用することができる。
【0021】
「生分解性ポリエステル」は、任意の生分解性ポリエステルを意味し、D,L−ラクチド,D−ラクチド,L−ラクチド,D,L−乳酸,D−乳酸,L−乳酸,グリコリド,グリコール酸,ε−カプロラクトン,ε−ヒドロキシヘキソン酸(hexonoic acid),γ−ブチロラクトン,γ−ヒドロキシ酪酸,δ−バレロラクトン,δ−ヒドロキシ吉草酸,ヒドロキシ酪酸,リンゴ酸,およびこれらの共重合物よりなる群から選択される単量体から合成されるものが好ましい。
【0022】
本明細書で使用する「有効量」は、医学的治療に伴うリスク利益比(risk/benefit ratio)を考慮して、十分な局所または全身効果や挙動を示すための核酸や生理活性物質の量を意味する。
【0023】
本明細書で使用する「ペプチド」は、任意の長さのペプチドを意味する。 本明細書で使用する「ポリペプチド」および「オリゴペプチド」の語は、特に大きさに対する他の言及がない限り、大きさに対するいかなる制限無しで使用する。 斯かるペプチドの具体例は、オキシトキシン,バソプレシン,副腎皮質刺激ホルモン,表皮成長因子,プロラクチン,ルリベリンまたは黄体形成ホルモン放出ホルモン,成長ホルモン,成長ホルモン放出因子,インスリン,ソマトスタチン,グルカゴン,インターフェロン,ガストリン,テトラガストリン,ペンタガストリン,ウロガストロン,セクレチン,カルシトニン,エンケファリン,エンドルフィン,アンギオテンシン,レニン,ブラジキニン,バシトラシン,ポリミキシン,コリスチン,チロシジン,グラミシジン,並びにこれらの合成類似体,変形体および薬理学的活性断片,モノクローナル抗体および可溶性ワクチンよりなる群から選択されるもの等である。 有用性があるならば、あらゆるペプチドまたはタンパク質を機能性物質として用いることができる。
【0024】
本明細書で使用する炭水化物の「誘導体」は、例えばグルクロン酸などの糖酸;ガラクトサミンなどの糖アミン;マンノース−6−リン酸塩などの糖燐酸塩などを含む。
【0025】
本明細書で使用する「投与」およびこれに類似の語は、治療を受けるべき個体へ組成物をデリバリーし、当該組成物が全身を循環して標的細胞に結合してエンドサイトーシスにより吸収される様にすることを意味する。 従って、組成物は、好ましくは全身的、具体的には皮下,筋肉内,経皮,経口,静脈内,粘膜内または腹腔内投与によって個体に投与する。 このような用途のための注射剤は、液状溶液剤もしくは懸濁剤、または注射前に液体内に溶解または懸濁するために適した固体形態、または乳剤の様な通常の形態で調製される。 投与のために使用される好適な添加剤は、例えば、水,食塩,デキストロース,グリセロール,エタノールなどを含み;必要ならば湿潤剤または乳化剤や緩衝剤等のような少量の補助物質を含むことができる。 経口投与のためには、溶液剤,錠剤,カプセル剤などの様々な形態に剤形化できる。
【0026】
ここでの説明や特定の用語は、あくまで例示的な具体例としてのものである。 それ故、やはり本発明の範囲は制限されないと理解されるべきである。 当業者であって本明細書の開示された内容を理解することができる者によって想到し得る、本明細書で記述した本発明の特徴の代替や更なる修飾、および本明細書に記述された発明の原理の追加的な応用は、本発明の範囲内である。
【0027】
本発明の陰電荷重合体は、親水性のブロック(A)と生分解性の疎水性ブロック(B)からなるA−B両親媒性のブロック共重合体を含むものであり、疎水性ブロック(B)の一末端は、リンカーによって一つの陰イオン基と結合されている。 ブロック共重合体の例としては、Aが親水性ブロック、Bが生分解性の疎水性ブロック、Lが前述したリンカーであり、Xが陰イオン基であるA−B−L−Xが含まれる。
【0028】
親水性ブロック(A)は、生体適合性であり、水溶性で且つ非イオン性の高分子断片であって、ポリエチレングリコールやポリ(エチレン−コ−プロピレン)グリコール等といったポリアルキレングリコール,ポリアルキレンオキサイド,ポリビニルピロリドン,ポリサッカライド,ポリアクリルアミド,ポリメタクリルアミド,ポリビニルアルコールおよびこれらの誘導体を含み、好ましくは、ポリエチレングリコール,ポリ(エチレン−コ−プロピレン)グリコール,ポリビニルピロリドン,ポリアクリルアミド,ポリビニルアルコールまたはその誘導体であり、より好ましくは、ポリエチレングリコールまたはその誘導体である。
【0029】
また、生体適合性の親水性ブロック(A)には、高分子量の誘導体であって、水溶性で且つ非イオン性の低分子量の高分子断片が分解可能なリンカーを介して結合されているものが含まれる。
【0030】
親水性ブロックAは、反応式1に示すように合成できる。
【0031】
【化2】
【0032】
式中、Zは分子量5,000ダルトン以下の水溶性高分子を示し、YはHOOC−(CH
2 ) m −COOHまたはO=C=N−(CH 2 ) m −N=C=O(ここで、mは0〜10の整数である)を示し、nは2〜100の整数である。 【0033】
親水性ブロック(A)の数平均分子量は100〜100,000ダルトンが好ましく、その構造は単鎖,分枝状等のいずれも可能である。 例えば、PEG−OOC−(CH
2 ) m −COO−PEGまたはPEG−[OOC−(CH 2 )m−COO−PEG] 10 −OOC−(CH 2 ) m −COO−PEG(ここで、PEG分子量は5,000ダルトン以下である)を挙げることができる。 【0034】
本発明に係る陰電荷性ブロック共重合体で、生分解性の疎水性ブロック(B)は、D,L−ラクチド,D−ラクチド,L−ラクチド,D,L−乳酸,D−乳酸,L−乳酸,グリコリド,グリコール酸,ε−カプロラクトン,ε−ヒドロキシヘキソン酸(hexonoic acid),γ−ブチロラクトン,γ−ヒドロキシ酪酸,δ−バレロラクトン、δ−ヒドロキシ吉草酸,ヒドロキシ酪酸,リンゴ酸,およびこれらの共重合物よりなる群から選択される単量体から合成される生分解性ポリエステルが好ましい。 より好ましくは、D,L−ラクチド,D−ラクチド,L−ラクチド,D,L−乳酸,D−乳酸,L−乳酸,グリコリド,グリコール酸,ε−カプロラクトン,ε−ヒドロキシヘキソン酸(hexonoic acid),およびこれらの共重合物よりなる群から選択される単量体から合成される生分解性ポリエステルである。
【0035】
疎水性Bブロックは、その生分解性、生体適合性、および可溶性といった性質故に有用である。 この様な疎水性の生分解性ポリエステルB−ブロックのin vitroおよびin vivoにおける分解物は容易に理解され得るものであり、この分解物は、患者の体内で容易に代謝されおよび/または除去され得る化合物である。
【0036】
生分解性の疎水性B高分子ブロックの例は、ポリ乳酸(PLA),ポリグリコール酸(PGA),乳酸とグリコール酸の共重合体(PLGA),これらの共重合体のようなポリ(α−ヒドロキシ酸)またはその誘導体;ポリオルトエステル(POE),ポリ酸無水物(PAH),ポリカプロラクトン(PCL),ポリ(ジオキサン−2−オン)(PDO),ポリヒドロキシ酪酸(PHB),乳酸とジオキサン−2−オンの共重合体(PLDO),カプロラクトンとジオキサン−2−オンの共重合体(PCDO),これらの共重合体のようなポリエステルまたはその誘導体;ポリフォスファジン(polyphosphazine)を含む。 好ましい生分解性の疎水性B高分子ブロックの例は、加水分解性のポリ乳酸(PLA),ポリグリコール酸(PGA),乳酸とグリコール酸の共重合体(PLGA),これらの共重合体のようなポリ(α−ヒドロキシ酸)またはその誘導体;ポリオルトエステル(POE),ポリ無水物(PAH),ポリカプロラクトン(PCL),ポリ(ジオキサン−2−オン)(PDO),ポリヒドロキシ酪酸(PHB),乳酸とジオキサン−2−オンの共重合体(PLDO),カプロラクトンとジオキサン−2−オンの共重合体(PCDO),これらの共重合体等のポリエステルまたはその誘導体である。 より好ましくは、ポリ乳酸(PLA),ポリグリコール酸(PGA),ポリカプロラクトン,ポリ(ジオキサン−2−オン),乳酸とグリコール酸の共重合体(PLGA),またはこれらの共重合体である。
【0037】
疎水性ブロック(B)の数平均分子量は、100〜100,000ダルトンが好ましく、より好ましくは、500〜50,000ダルトンである。
【0038】
本発明に係る陰電荷性ブロック共重合体において、陰イオン基(X)は、リンカーLによって疎水性ブロック(B)の末端に結合されている。 疎水性ブロック(B)の末端が−OH,−NH
2 ,−SHまたは−COOHの官能基のとき、陰イオン基は、リンカーLにより提供される官能基によって疎水性ブロック(B)に直接結合される。 そうでない時には、疎水性ブロック(B)の末端は適当に誘導されて、適当なリンカー(L)、例えば、−O−,−NH−,−S−または−COO−により陰イオン基に結合され得る。 本発明において、陰イオン基(X)は疎水性ブロックの一末端にのみ一つ存在する。 しかし、本発明の高分子の両端がB高分子ブロックであるときは、高分子各末端にリンカーLを通じて付着された陰イオンXが存在し得る。 陰イオン基は水溶液中で負電荷を有するものから選択され、好ましくは、−SO 3 − ,−PO 3 2− ,=PO 2 −および−CO−(CH 2 ) z −COO −からなる群より選択される(ここで、zは0〜4の整数で、Xが>PO 2 −のとき陰イオン基は二つの炭素原子と結合する)。 【0039】
MはH
+及び陽イオン基であり、好ましくは、一価または二価の金属イオン、より好ましくは、Li + ,Na + ,K + 、Ca 2+ 、Mg 2+ ,Zn 2+またはCu 2+である。 【0040】
従って、本発明に係る陰電荷性のブロック共重合体は下記式(1a)により表され得る:
【0041】
【化3】
【0042】
式中、Aは生体適合性の親水性高分子であり、Bは生分解性の疎水性高分子であり、Lは−O−,−NH−,−S−および−COO−よりなる群から選択されるリンカーを示し、Xは−SO
3 − ,−PO 3 2− ,=PO 2 −または−CO−(CH 2 ) z −COO − (ここで、zは0〜4の整数で、Xが>PO 2 −のとき陰イオン基は二つの炭素原子と結合する)を示し、M +は一価または二価の金属イオンを示す。 【0043】
より具体的には、Lが−O−のとき、本発明の陰電荷性ブロック共重合体は下記構造を有し得る:
【0044】
【化4】
【0045】
ここで、Aはメトキシポリエチレングリコール,ポリエチレングリコール,ポリビニルピロリドン,ポリアクリルアミド,ポリ(エチレン−コ−プロピレン)グリコール,ポリビニルアルコールまたはポリサッカライドであり、Bはポリラクチド,ポリグリコリド,ポリカプロラクトン,ポリジオキサン−2−オン,ポリ酸無水物,ポリ(乳酸−コ−グリコリド),ポリ(乳酸−コ−カプロラクトン),またはポリ(乳酸−コ−ジオキサン−2−オン)等であり、MはLi
+ ,Na +またはK +であり、zは0〜4の整数である。 【0046】
本発明の陰電荷性ブロック共重合体は、まず、非イオン性親水性ブロック(A)と疎水性ブロック(B)からなるA−B型ブロック共重合体を合成した後、適切に誘導された疎水性ブロック(B)の末端に陰イオン基を導入する2段階の反応によって製造される。
【0047】
1) 硫酸基の導入【0048】
【化5】
【0049】
式中、Lは−O−、XはSO
3 − 、MはNa +である。 【0050】
A−B型ブロック共重合体は、三酸化イオウピリジン錯体(C
5 H 5 NSO 3 )と反応させ、酸性水溶液で処理し、中和および透析した後、凍結乾燥する。 斯かる中和と透析の順序は、使われる試薬によって逆にしてもよい。 【0051】
2) リン酸基の導入【0052】
【化6】
【0053】
式中、Lは−O−、XはPO
3 2− 、Mは2Na +である。 【0054】
A−B型ブロック共重合体を、過剰量のオキシ塩化リン(POCl
3 )と反応させ、酸性水溶液で処理し、中和および透析した後、凍結乾燥する。 【0055】
3) カルボキシル基の導入【0056】
【化7】
【0057】
式中、Lは−O−、XはCO−(CH
2 ) z −COO − (z=0〜4の整数)、MはNa +である。 【0058】
A−B型ブロック共重合体を、シュウ酸ジクロライド,マロニルジクロライド,スクシニルジクロライド,グルタリルジクロライド,アジビン酸ジクロライド等といったジカルボン酸ジクロライドと反応させ、酸性水溶液で処理し、中和および透析した後、凍結乾燥する。
【0059】
本発明の陰電荷性のブロック共重合体は、静電結合を介して陽イオン基を持つ水溶性薬剤をコア−シェル型の薬剤キャリヤーのコア内部に取り込ませることによって、高分子ミセル,ナノ粒子または高分子ゲルを形成し、これにより薬剤の血中濃度を向上させることができる。 また、ペプチドまたはタンパク質薬剤を、様々なブロック共重合体に取り囲まれた1分子のペプチドまたはタンパク質の形態で、本発明の陰電荷性のブロック共重合体と、静電結合を通じて結合させることができる。 この場合では、ペプチドまたはタンパク質の生体内での酵素による分解を防止できる上に、タンパク質−タンパク質またはペプチド−ペプチド間の複合体形成を防止して、薬剤の安定性を改善することができる。 本発明に係る陰電荷性のブロック共重合体からの薬剤の放出速度は、疎水性ブロック(B)の分子量を調節することによって制御できる。
【0060】
本発明に係る薬剤−共重合体複合体は、陰電荷性のブロック共重合体の陰イオン基と陽電荷性薬剤の陽イオン基と間の静電的結合によってイオン性複合体を形成し、このイオン性複合体が水溶液中で形成する高分子ミセル,ナノ粒子およびゲル等を含むことが理解されるべきである。 少なくとも1つの陰電荷性ブロック共重合体が、薬剤−共重合体複合体中の1分子と結合する。 この様な薬剤−共重合体複合体は、薬剤の血中濃度と半減期を増加させ、不安定な薬剤の安定性を向上させ、薬剤、特に、ペプチドやタンパク質薬剤の生体内酵素による分解を遅延させることができる。 ペプチドやタンパク質薬剤の様に分子内に多数の陽イオン基を含む薬剤の場合、幾つかのブロック共重合体分子が薬剤分子に静電的結合をし薬剤相互間の複合体形成を防止することによって、薬剤の安定性を改善することができる。
【0061】
本発明で使用可能な薬剤の例には、水溶液中で薬剤分子内に両電荷を帯びる基、特に、アミノ基を一つ以上含むペプチドやタンパク質薬剤を含む。 例えば、分子内に少なくとも1級、2級、または3級アミン基を一つ以上含む抗癌剤,抗生物質,抗嘔吐剤,抗ウィルス剤,消炎鎮痛剤,麻酔剤,抗潰瘍制,高血圧治療剤,高カルシウム症治療剤,高脂血症治療剤等であり、好ましくは、インスリン,カルシトニン,成長ホルモン,顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF),エリスロポエチン(EPO),骨成長因子(BMP),インターフェロン,インターロイキン,血小板誘導成長因子(PDDG),血管内皮細胞成長因子(VEGF),繊維母細胞成長因子(FGF),神経成長因子(NGF),ウロキナーゼ等のペプチド,タンパク質または酵素剤を挙げることができる。
【0062】
本発明に係る薬剤−ブロック共重合体複合体を製造するにおいて、薬剤をブロック共重合体内部に取り込ませる方法としては、陽電荷性薬剤と陰電荷性ブロック共重合体を単に水溶液中で混合する方法、または陽電荷性薬剤と陰電荷性ブロック共重合体をエタノール等の有機溶媒に溶解させた後、溶媒を蒸発させることにより得られた混合物を水溶液中に溶解させる方法等が挙げられる。 この様に、陰電荷性ブロック共重合体内に陽電荷性薬剤を取り込ませるために特別な製造方法を要しないことも、本発明の特徴の一つである。
【0063】
本発明に係る薬剤−ブロック共重合体複合体は、血管,筋肉,皮下組織,骨,局所組織,または経口,経鼻等を通じて投与できる。 また、溶液剤,懸濁注射剤,錠剤,カプセル剤などの様々な形態に製剤化できる。
【0064】
下記の実施例は、当業者が本発明をいかに実施するかを明確にするものである。 以下では、本発明はその好ましい特定具体例によって記述されているが、下記実施例は本発明を説明するためのだけであって、本発明の範囲を何ら制限するものではない。 本発明の他の側面は当業者にとって明白なものであろう。
【実施例】
【0065】
下記製造例は、親水性高分子部分(A)と疎水性高分子部分(B)とからなるA−B型ブロック共重合体の合成について説明するものである。
【0066】
製造例1: モノメトキシポリエチレングリコール−ポリラクチド(mPEG−PLA)ブロック共重合体の合成5.0gのモノメトキシポリエチレングリコール(分子量:2,000ダルトン)を、100mLの2口丸底フラスコに入れ、水分を除去するために減圧(1mmHg)下100℃で2〜3時間加熱した。 反応フラスコ内を乾燥窒素で充填した後、反応触媒として、トルエンに溶解したオクタン酸スズ(Sn(Oct)
2に)を、モノメトキシポリエチレングリコールに対して1.0モル%(10.13mg,0.025mmol)加えた。 30分間攪拌した後、触媒を溶解するために用いたトルエンを留去するために、混合物を減圧下(1mmHg)に110℃で1時間加熱した。 ここへ、精製されたラクチドを5g加え、この混合物を130℃で12時間加熱した。 この様にして製造したブロック共重合体をエタノールに溶解した後、ブロック共重合体を沈澱物として得るために、当該溶液をエチルエーテルに加えた。 得られたブロック共重合体を真空オーブンで48時間乾燥した。 得られたブロック共重合体(mPEG−PLA)の分子量は、2,000〜1,765ダルトンであった。 【0067】
製造例2: モノメトキシポリエチレングリコール−ポリ(乳酸−コ−グリコリド)(mPEG−PLGA)ブロック共重合体の合成5.0gのモノメトキシポリエチレングリコール(分子量:5,000ダルトン)と、3.72gのラクチドおよび1.28gのグリコリドとを、120℃で12時間、製造例1と同様の方法により反応させることによって、標記ブロック共重合体を得た。 得られたブロック共重合体(mPEG−PLGA)の分子量は、5,000〜4,500ダルトンであった。
【0068】
製造例3: モノメトキシポリエチレングリコール−ポリ(乳酸−コ−パラジオキサン−2−オン)(mPEG−PLDO)ブロック共重合体の合成7.0gのモノメトキシポリエチレングリコール(分子量:12,000ダルトン)と、4.47gのラクチドおよび2.71gのパラジオキサン−2−オンとを、オクタン酸スズの存在下に110℃で12時間、製造例1と同様の方法により反応させることによって、標記ブロック共重合体を得た。 得られたブロック共重合体(mPEG−PLDO)の分子量は、12,000〜10,000ダルトンであった。
【0069】
製造例4: モノメトキシポリエチレングリコール−ポリカプロラクトン(mPEG−PCL)ブロック共重合体の合成7.0gのモノメトキシポリエチレングリコール(分子量:12,000ダルトン)と、3.0gのε−カプロラクトンとを、オクタン酸スズの存在下に130℃で12時間、製造例1と同じ方法により反応さることによって、標記ブロック共重合体を得た。 得られたブロック共重合体(mPEG−PCL)の分子量は、12,000〜5,000ダルトンであった。
【0070】
表1は、前記製造例の結果のまとめである。
【0071】
【表1】
【0072】
下記実施例は、陰イオン基を有するA−B型ブロック共重合体の合成を説明するものである。
【0073】
実施例1: 硫酸基(−SO
3 − Na + )含有メトキシポリエチレングリコール−ポリラクチド(mPEG−PLA−O−SO 3 − Na + )の合成製造例1で合成したブロック共重合体であって、PLA(疎水性B)ブロックの終末端側に−OH基を有するものと、三酸化イオウピリジンとを反応させることによって、標記ブロック共重合体を得た。 【0074】
【化8】
【0075】
7gのメトキシポリエチレングリコール−ポリラクチド(mPEG−PLA:2,000〜1,765)と、0.89g三酸化イオウピリジン(SO
3・ NC 5 H 5 )とを、DMF 10mLに溶解した。 当該溶液を容量100mLのフラスコに入れ、60±10℃で5時間反応させた。 反応生成物を蒸留水で希釈して透析し、炭酸水素ナトリウム水溶液で中和した後、凍結乾燥することによって、標記ブロック共重合体5.4gを得た。 図1は、本実施例で得られたブロック共重合体の 1 H−NMRスペクトル(CDCl 3 )である。 【0076】
実施例2〜4: 硫酸基(−SO
3 − Na + )の導入実施例1と同様の方法によって、製造例2〜4で合成したブロック共重合体と三酸化イオウピリジンを反応させて硫酸基含有共重合体を得た。 実施例1〜4で製造した硫酸基含有高分子を表2に示す。 【0077】
【表2】
【0078】
実施例5: リン酸基(−PO
3 2− 2Na + )含有メトキシポリエチレングリコール−ポリラクチド(mPEG−PLA−O−PO 3 2− 2Na + )の合成製造例1で製造したブロック共重合体とオキシ塩化リン(POCl 3 )を反応させることによって、標記ブロック共重合体を得た。 【0079】
【化9】
【0080】
7gのメトキシポリエチレングリコール−ポリラクチド(mPEG−PLA:2,000〜1,765)と2.85gのオキシ塩化リン(POCl
3 )とをクロロホルムに溶解し、ここにピリジン 1mLを加えて30±5℃で12時間反応させた。 得られた溶液をジエチルエーテル溶液に加え、ブロック共重合体を沈殿させた。 沈殿したブロック共重合体を蒸留水に溶解し、炭酸水素ナトリウム水溶液で中和し、透析した後、凍結乾燥して標記ブロック共重合体6.7gを得た。 図2は、得られたブロック共重合体の 1 H−NMRスペクトル(CDCl 3 )である。 【0081】
実施例6〜8: リン酸基(−PO
3 2− 2Na + )の導入実施例5と同じ方法によって、製造例2〜4で製造したブロック共重合体とオキシ塩化リンとを反応させてリン酸基含有共重合体を得た。 実施例5〜8で製造したブロック共重合体を、表3に示す。 【0082】
【表3】
【0083】
実施例9: カルボキシル基(−COO
− Na + )含有メトキシポリエチレングリコール−ポリラクチドの合成製造例1で製造したブロック共重合体とジカルボン酸ジクロライドとを反応させることによって、標記ブロック共重合体を得た。 【0084】
【化10】
【0085】
ここで、zは0〜4の整数である。
【0086】
7gのメトキシポリエチレングリコール−ポリラクチド(mPEG−PLA:2,000〜1,765)と10mLのスクシニルジクロライド(Cl−CO(CH
2 ) 2 CO−Cl)をクロロホルムに溶解し、ここにピリジン1mLを加え、当該混合物を60±5℃で12時間反応させた。 得られた溶液をジエチルエーテルに加え、ブロック共重合体を沈殿させた。 沈殿したブロック共重合体を蒸留水に溶解し、炭酸水素ナトリウム水溶液で中和し、透析した後、凍結乾燥して標記ブロック共重合体 5.9gを得た。 図3は、得られたブロック共重合体の 1 H−NMRスペクトル(CDCl 3 )である。 【0087】
実施例10〜12: カルボキシル基(−COO
− Na + )の導入実施例9と同じ方法によって、製造例2〜4で製造したブロック共重合体とスクシニルジクロライドを反応させて、カルボキシル基含有共重合体を得た。 実施例9〜12で製造したブロック共重合体を、表4に示す。 【0088】
【表4】
【0089】
実施例13: ドキソルビシン塩酸塩を含有するmPEG−PLA−O−SO
3 − Na +高分子ミセルの形成実施例1で製造したm−PEG−PLA−O−SO 3 − Na + (10mg)とドキソルビシン塩酸塩(1mg)を蒸留水に溶解することによって、標記高分子ミセルを得た。 【0090】
実施例14: ミノサイクリン塩酸塩を含有するmPEG−PLA−O−SO
3 − Na +高分子ミセルの形成実施例1で製造したmPEG−PLA−O−SO 3 − Na + (20mg)とミノサイクリン塩酸塩(5mg)を蒸留水に溶解することによって、標記高分子ミセルを得た。 【0091】
実施例15:ミノサイクリン塩酸塩を含有するmPEG−PLA−O−PO
3 2− 2Na +高分子ミセルの形成実施例5で製造したmPEG−PLA−O−PO 3 2− 2Na + (20mg)とミノサイクリン塩酸塩(5mg)を蒸留水に溶解することによって、標記高分子ミセルを得た。 【0092】
実施例16:ミノサイクリン塩酸塩を含有するmPEG−PLA−O−CO(CH
2 ) 2 COO − Na +高分子ミセルの形成実施例9で製造したmPEG−PLA−O−CO(CH 2 ) 2 COO − Na + (40mg)とミノサイクリン塩酸塩(5mg)を蒸留水に溶解することによって、標記高分子ミセルを得た。 【0093】
実施例17:ヒトG−CSFとmPEG−PLA−O−SO
3 − Na +との複合体の形成実施例1で製造したmPEG−PLA−O−SO 3 − Na + (50mg)とG−CSF(filgrastim)(1mg)を蒸留水に溶解することによって、標記高分子ミセル型複合体を得た。 【0094】
実施例18:ヒト成長ホルモン(hGH)とmPEG−PLA−O−SO
3 − Na +との複合体の形成実施例1で製造したmPEG−PLA−O−SO 3 − Na + (50mg)とhGH(1mg)を蒸留水に溶解することによって、標記高分子ミセル型複合体を得た。 【0095】
比較例1:
製造例1で製造した陰イオン基を含有しないmPEG−PLA−OH(20mg)とミノサイクリン塩酸塩(5mg)を蒸留水に溶解させた。
【0096】
比較例2:
製造例1で製造した陰イオン基を含有しないmPEG−PLA−OH(10mg)とドキソルビシン塩酸塩(1mg)を蒸留水に溶解させた。
【0097】
比較例3:
製造例1で製造した陰イオン基を含有しないmPEG−PLA−OH(50mg)とG−CSF(1mg)を蒸留水に溶解させた。
【0098】
実験例1: 薬剤−ブロック共重合体複合体の形成可否の確認ヒトG−CSF(filgrastim)をサイズ排除クロマトグラフィーカラム(Pharmacia, Superdex HR75)で分析した(ヒトG−CSF濃度 50μg/mL、注入量 100リットル、移動相 pH7.4 PBS(リン酸緩衝生理食塩水)、流速 1mL/min)。 更に、実施例17および比較例3の高分子ミセル溶液を同じ方法によって分析した。 それぞれの液体クロマトグラムを、図4,5と6に示した。 図4,5と6から明らかな様に、G−CSFは、mPEG−PLA−O−SO
3 − Na +と高分子ミセル型の複合体を形成するが、m−PEG−PLA−OHとは高分子ミセル型の複合体を形成しないことが確認された。 【0099】
実験例2:薬剤−高分子ミセル型の複合体からの薬剤放出可否の確認実施例17の高分子ミセル型複合体溶液にコリンクロライド 75mgを添加してイオン高分子ミセルからG−CSFを放出させた後、サイズ排除クロマトグラフィーカラム(Pharmacia, Superdex HR75)で分析した(注入量 100リットル、移動相 pH7.4 PBS、流速 1mL/min)。 この液体クロマトグラムを図7に示した。 図7から確認できる様に、薬剤とブロック共重合体との間の静電的結合は分離可能なものであるため、生体内で、薬剤が高分子ミセル型の複合体から放出され得ることが確認された。 また、薬剤−ブロック共重合体複合体が形成されている限り、薬剤は無傷状態のまま存在し、分解されたり凝固しないことが確認された。
【0100】
実験例3: 薬剤−ブロック共重合体複合体の形成可否の確認ミノサイクリン塩酸塩をD
2 Oに溶解し、NMR分光法で測定した。 実施例14および比較例1で得た水溶液を凍結乾燥し、D 2 Oに溶解した後、NMR分光法で測定した。 それぞれのNMRスペクトルを、図8,9と10に示した。 図9に示される様に、実施例14で得たミセル溶液の場合、ミノサイクリンの芳香族環内に存在するHのピークは完全に消え、ポリエチレングリコールに関連したピークのみが観察された。 このことは、ミノサイクリンがブロック共重合体に取り込まれたことを示す。 それとは反対に、図10に示される様に、比較例1で得たミセル溶液の場合ではミノサイクリンとポリエチレングリコールの両方に相応するピークが観察されている。 このことは、ミノサイクリンが非荷電のブロック共重合体内には取り込まれないことを示す。 【0101】
実験例4: 薬剤−ブロック共重合体複合体の形成可否の確認ドキソルビシン塩酸塩をD
2 Oに溶解し、NMR分光法で測定した。 実施例13で得たミセル溶液を凍結乾燥した後、D 2 Oに溶解してNMR分光法で測定した。 それぞれのNMRスペクトルを、図11と12に示した。 図12に示されるように、実施例13で得たミセル溶液の場合では、ドキソルビシンの芳香族環内に存在するHのピークは完全に消え、ポリエチレングリコールに関連したピークのみが観察された。 このことは、ドキソルビシンが高分子ミセル型の複合体内に取り込まれたことを示す。 【0102】
上述した具体例は、単に本発明の原理の適用例を説明するためのものであると理解されるべきである。 本発明の精神と要旨を逸脱しない限り、種々の変形例や代替例は想到可能であり、添付された請求項は斯かる変形例や代替例を含む。 従って、以上の通り、本発明を図面に図示し、本発明の最も実用的且つ好ましい具体例によって本発明を詳細且つ綿密に説明したが、請求項に記載された本発明の原理および概念から逸脱しない範囲内で様々な修飾が可能であるということは、当業者にとって明白である。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】mPEG−PLA−O−SO
3 − Na +の 1 H−NMRスペクトル(CDCl 3 )である。 【図2】mPEG−PLA−O−PO
3 2− 2Na +の 1 H−NMRスペクトル(CDCl 3 )である。 【図3】mPEG−PLA−O−CO(CH
2 ) 2 COO − Na +の 1 H−NMRスペクトル(CDCl 3 )である。 【図4】ヒトG−CSFをサイズ排除クロマトグラフィーカラムで分析した液体クロマトグラムである。
【図5】ヒトG−CSFとmPEG−PLA−O−SO
3 − Na +との複合体を、サイズ排除クロマトグラフィーカラムで分析した液体クロマトグラムである。 【図6】ヒトG−CSFとmPEG−PLA−OHとの混合物を、サイズ排除クロマトグラフィーカラムで分析した液体クロマトグラムである。
【図7】mPEG−PLA−O−SO
3 − Na +から放出されたヒトG−CSFを、サイズ排除クロマトグラフィーカラムで分析した液体クロマトグラムである。 【図8】ミノサイクリン塩酸塩の
1 H−NMRスペクトル(D 2 O)である。 【図9】ミノサイクリン塩酸塩とmPEG−PLA−O−SO
3 − Na +との複合体の 1 H−NMRスペクトル(D 2 O)である。 【図10】ミノサイクリン塩酸塩とmPEG−PLA−OHとの混合物の
1 H−NMRスペクトル(D 2 O)である。 【図11】ドキソルビシン塩酸塩の
1 H−NMRスペクトル(D 2 O)である。 【図12】ドキソルビシン塩酸塩とmPEG−PLA−O−SO
3 − Na +との複合体の 1 H−NMRスペクトル(D 2 O)である。 |