再成形可能かつ形状回復能に優れた形状記憶性樹脂および該樹脂の架橋物からなる成形体

申请号 JP2005516192 申请日 2004-12-10 公开(公告)号 JPWO2005056642A1 公开(公告)日 2007-07-05
申请人 日本電気株式会社; 发明人 緑 志村; 緑 志村; 井上 和彦; 和彦 井上; 位地 正年; 正年 位地;
摘要 ガラス転移 温度 (Tg)が40℃以上200℃以下、熱可逆性反応の開裂温度(Td)が50℃以上300℃以下、Tg+10℃≦Tdの範囲にあり、形状記憶時、形状回復時の変形温度が、Tg以上Td未満であることを特徴とし、冷却により共有結合し、加熱により開裂する熱可逆性反応により架橋された形状記憶性樹脂を用いることで、優れた形状回復 力 を備え、さらにリサイクル性を有する形状記憶性成形体を提供することが可能となる。
权利要求
  • ガラス転移温度(Tg)が40℃以上200℃以下の範囲にあり、冷却により共有結合し、加熱により開裂する熱可逆性反応により架橋される形状記憶性樹脂であって、該熱可逆性反応の開裂温度(Td)が50℃以上300℃以下、Tg+10℃≦Tdの範囲にあり、形状記憶時、形状回復時の変形温度が、Tg以上Td未満であることを特徴とする形状記憶性樹脂。
  • 前記熱可逆性反応は、ディールス−アルダー型、ニトロソ2量体型、酸無水物エステル型、ウレタン型、アズラクトン−ヒドロキシアリール型およびカルボキシル−アルケニルオキシ型からなる群より選ばれる1種以上の形式であることを特徴とする請求項1記載の形状記憶性樹脂。
  • 前記樹脂は、Td以上、樹脂の分解温度未満の温度にて再成形可能である請求項1又は2に記載の形状記憶性樹脂。
  • 前記樹脂は、生分解性を有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の形状記憶性樹脂。
  • 前記樹脂は、植物由来の樹脂を原料とする樹脂である請求項4に記載の形状記憶性樹脂。
  • 前記樹脂は、ポリ乳酸を原料とする樹脂である請求項5に記載の形状記憶性樹脂。
  • 前記樹脂は、冷却状態においてポリ乳酸のディールスアルダー型架橋物である請求項6に記載の形状記憶性樹脂。
  • 前記樹脂は、冷却状態においてポリ乳酸のカルボキシル−アルケニルオキシ型架橋物である請求項6に記載の形状記憶性樹脂。
  • 前記樹脂は、Tgが40℃以上100℃以下である請求項1ないし8のいずれか一項に記載の形状記憶性樹脂。
  • 前記樹脂は、冷却状態において0.0001以上1以下の架橋密度を有することを特徴とする請求項1ないし9のいずれか一項に記載の形状記憶性樹脂。
  • 請求項1ないし10のいずれか一項に記載の形状記憶性樹脂の架橋物からなることを特徴とする成形体。
  • 請求項1ないし10のいずれか一項に記載の形状記憶性樹脂の架橋物をTd以上、樹脂の分解温度未満の温度にて記憶すべき所定の形状に成形し、次に、得られた成形体に、Tg以上、Td未満の温度で変形を与え、Tg未満の温度に冷却して変形形状を固定することにより得られることを特徴とする成形体。
  • 請求項12に記載の成形体を、Tg以上、Td未満の温度に加熱することにより、記憶させた元の所定形状に回復させることを特徴とする形状記憶性樹脂成形体の使用方法。
  • 請求項11又は12に記載の成形体を、Td以上、樹脂の分解温度未満の温度にて溶融して再成形することを特徴とする形状記憶性樹脂成形体の再生方法。
  • 说明书全文

    本発明は、再成形可能かつ形状回復能に優れた形状記憶性樹脂組成物に関するものである。 又、本発明は、該成形樹脂組成物の架橋体からなる成形体、変形した成形体及び、これらの使用方法にも関する。

    形状記憶性を示す材料として従来から合金材料と樹脂材料があり、形状記憶性合金はパイプ継手や歯列矯正など、形状記憶性樹脂は熱収縮チューブ、ラミネート材、締め付けピン、ギブス等の医療用器具材などに利用されている。 形状記憶性樹脂は形状記憶合金と比べて、複雑な形状に加工できる、形状回復率が大きい、軽量である、自由に着色できる、低コストである等のメリットが挙げられ、一層の用途拡大が注目されている。

    形状記憶性樹脂は、樹脂に所定の温度をかけて変形したのち、室温まで冷却することで所望の形に固定することが出来、さらに再度加熱することで、本来の形状に復元する性質を有する。 形状記憶性樹脂は、物理的あるいは化学的結合部位(架橋点)から成る固定相と、ある温度以上(可逆相内部でのTgまたは融点)で流動的になる非架橋部分から成る可逆相から構成されていることを特徴とする。

    形状記憶性樹脂のメカニズムをさらに詳細に説明するが、以下の1から3のステップによって、形状記憶の付与、成形品の変形および記憶形状の回復を実現する。 又、図1に、概念図を示す。

    1. 成形加工 形状記憶性樹脂を所定の方法(加熱、溶融、固化)で成形加工すると、固定相と可逆相(硬)から成る初期状態(原形)(同図(a)及び部分拡大図(b))が記憶される。

    2. 成形品の変形 成形品を任意の形状に変形させるには、固定相は溶融させずに可逆相のみを溶融させる温度、つまり可逆相内部のTgや融点以上に加熱し可逆相(軟)に移行させ(同図(c))、この状態で外を加えることによって変形できる(同図(d))。 変形された成型品をTgや融点以下に冷却すると、可逆相も完全に固化して変形した状態で固定化される(同図(e))。

    3. 記憶形状の回復 任意形状に変形された成形品の形状は、一時的に強制固定されている可逆相によりその変形状態が保たれている。 従って加熱により可逆相のみが溶融する温度に達すると、樹脂はゴム状特性を示して安定状態となり、元の形状を回復する(同図(c))。 さらにTgや融点以下に冷却することにより、同図(b)の初期状態の成形体に戻る。

    ここで、固定相は架橋の種類によって熱硬化型と熱可塑型に分類され、それぞれに長所と短所を持つことが知られている。

    熱硬化型形状記憶性樹脂の固定相は、共有結合による架橋構造から成る。 熱硬化型の長所としては、樹脂の流動を防ぐ効果が高く、優れた形状回復力や寸法安定性を有し、回復速度が速い。 一方、共有結合架橋のため、再成形が不可能、すなわちリサイクルできないという短所を持つ。

    たとえば、従来の熱硬化型形状記憶性樹脂の具体例として、トランス−1,4−ポリイソプレン(特許文献1:特開昭62−192440号公報)が挙げられる。 これはトランス−1,4−ポリイソプレンを硫黄あるいはパーオキサイド等により架橋した樹脂であり、固定相は架橋部位、可逆相はトランス−1,4−ポリイソプレンの結晶部である。 この樹脂は形状回復力に優れているが、共有結合架橋のため、上述のように再成形不可能でありリサイクル性に劣る。

    一方、熱可塑型形状記憶性樹脂の固定相は、結晶部、ポリマーのガラス状領域、ポリマー同士の絡まり合い、金属架橋等から成る。 これらの固定相は加熱により融解するため、再成形可能、つまりリサイクルできるという長所を持つ。 しかしながら、熱可塑型の固定相の結合力は共有結合架橋である熱硬化型に比べて弱いため、熱硬化型より形状回復力に劣るといった短所を持つ。

    たとえば、従来の熱可塑型形状記憶性樹脂の例として、ポリノルボルネン(特許文献2:特開昭59−53528号公報)が挙げられる。 ポリマー同士の絡まりあいが固定相、絡まりのない部位が可逆相となり、形状記憶性を持つことが記載されている。 しかし、この形状記憶性樹脂は形状回復時間が長く、分子量が非常に高いため加工性が悪いという問題点がある。

    ポリウレタン(特許文献3:特開平2−92914号公報)の例も知られており、固定相は結晶部、可逆相は非晶部である。 しかしこの形状記憶性樹脂も、形状回復時間が長い。 また、引張強度が極めて弱いため、電子機器用部材に用いるのは困難である。

    スチレン−ブタジエン共重合体(特許文献4:特開昭63−179955号公報)も知られている。 固定相はポリスチレンのガラス状領域、可逆相はトランスポリブタジエンの結晶部である。 しかしこの形状記憶性樹脂においても、形状回復時間が長く形状回復率も低いという問題点が指摘されている。

    上記の熱可塑性の形状記憶性樹脂の形状記憶特性を改善する方法も提案されている。 例えば、特許文献5(特許掲載公報2692195号)では、特許文献4に類似する3元系ブロック共重合体中のオレフィン性不飽和結合の80%以上を素化することで、形状回復率、回復時間に優れた形状記憶性樹脂が提供できるとしている。 しかし非特許文献1(唐正夫、「形状記憶ポリマーの材料開発」シーエムシー、第30〜43頁、1989年刊)で、スチレン−ブタジエン系熱可塑性の形状記憶性樹脂は、繰り返し変形することで形状記憶回復率が低下するという問題点が指摘されている。

    近年、環境問題に大きな関心が寄せられ、材料のリサイクル性が重要になっている。 しかし、従来の形状記憶性樹脂には、上記理由によりリサイクル性と優れた形状回復力とを同時に達成するものはなかった。 従って、リサイクル性および優れた形状回復力の要求される成形体、たとえば電子機器用部材等の分野において、従来の形状記憶性樹脂を使用するのは困難であった。

    形状記憶性樹脂中に熱可逆的架橋構造を導入し、成形加工性及びリサイクル性を付与した例として、特許文献6(特開平2−258818号公報)がある。 熱可逆性共有結合的架橋構造として、カルボキシル基等のイオン架橋基、ディールス−アルダー反応、ニトロソ基の二量化反応を使用した共有結合架橋構造が開示されている。 請求項には、芳香族ビニル単量体と共役ジエン系単量体とのブロック共重合体を基体重合体とし、該基体重合体を熱可逆的に架橋させて得られる架橋体であって、該架橋体の解離重合体(前記基体重合体)のガラス転移温度(Tg)が該架橋体に含有される熱可逆的架橋の解離(開裂)温度(Td)より高く、かつ該ガラス転移温度が70℃〜140℃の範囲にあることを特徴としている。

    第3頁右下欄には、「熱可逆的架橋の解離温度は解離重合体のガラス転移温度より低ければよいが、実用的には、解離温度は解離重合体のガラス転移温度より10℃以上低いことが好ましい。」と記載されている。 このブロック共重合体では、スチレン−ブタジエン共重合体(特許文献4)と同様、100℃程のTgを有する芳香族系樹脂が固定相として働く。 一方、芳香族系樹脂のTgより低い融点を持つ結晶性のジエンポリマーが可逆相として働く。 熱可逆性共有結合的架橋構造はジエンポリマー中の二重結合部に導入されており、Td以上に加熱することで結合(架橋)が開裂し、この状態で変形させた後、Td以下に冷却することで再結合(再架橋)し形状記憶性が得られ、又、芳香族系樹脂のTg以上に加熱することで、成形性が向上し、再成形可能としている。 つまり、この形状記憶性樹脂では、図2に示すように、樹脂部が固定相となり、架橋部が可逆相として機能し(同図(a))、Td以上に加熱することで、架橋が開裂し(同図(b))、さらにこの加熱状態を維持して外力を加えて変形し(同図(c))、Td未満に冷却して再架橋させることで、同図(d)に示すように形状が記憶される。 形状を回復させるには、再度Td以上に加熱して架橋を開裂させることにより実施され、冷却して原形に復帰する。 再成形時には芳香族系樹脂のTg以上に加熱することで、同図(e)に示すように固定相の樹脂部が流動性を有し、再成形可能となる。

    しかし、形状回復時には架橋が開裂していることからこの樹脂は熱可塑型であり、優れた形状回復力は得られないこと、使用可能な樹脂や熱可逆性結合的架橋構造が限定されていること、さらに、共有結合による架橋構造の解離温度は高いため(ディールス−アルダー120〜160℃、ニトロソ基70〜160℃)、実際にこの特許の条件を満たす樹脂や架橋部位が制限され、特に形状記憶時の温度マージンが極めて狭い範囲であることから、実用性に乏しい。

    ところで、熱可逆反応を架橋に用いた例として非特許文献2(Engleら、J.Macromol.Sci.Re.Macromol.Chem.Phys.、第C33巻、第3号、第239〜257頁、1993年刊)に、ディールス−アルダー反応、ニトロソ二量化反応、エステル化反応、アイオネン化反応、ウレタン化反応、アズラクトン−フェノール付加反応が記載されている。

    また、非特許文献3(中根喜則および石戸谷昌洋ら、色材、第67巻、第12号、第766〜774頁、1994年刊);非特許文献4(中根喜則および石戸谷昌洋ら、色材、第69巻、第11号、第735〜742頁、1996年刊);特許文献7(特開平11−35675号公報)には、ビニルエーテル基を利用する熱可逆架橋構造が記載されている。

    また、酸無水物のエステル化反応による可逆反応を耐熱性向上とリサイクル性向上に利用した例が特許文献8(特開平11−106578号公報)などに記載されており、ビニル重合化合物にカルボン酸無水物を導入し、ヒドロキシ基を有するリンカーで架橋する手法が示されている。

    しかし、いずれも形状記憶性についての記述はなく、形状記憶性樹脂として用いられた例もない。

    又、リサイクルするのではなく、廃棄することを前提として環境問題に対処するために種々の生分解性ポリマーを用いた形状記憶性樹脂も提案されている。 例えば、特許文献9(特開平9−221539号公報)には、ポリ乳酸系樹脂等の脂肪族ポリエステル系樹脂から構成された生分解性の形状記憶性樹脂が開示されている。 しかしながら、これらも熱可塑性樹脂である点で形状回復力、回復速度は不十分である。

    生分解性の熱又は光硬化性樹脂を用いた形状記憶性樹脂が特許文献10(特表2002−503524号公報)に記載されている。 同特許文献の図5には、光架橋による形状記憶と、熱又は光による架橋開裂による形状回復が示されているが、該硬化性樹脂のリサイクルについては何ら記載されていない。

    特開昭62−192440号公報

    特開昭59−53528号公報

    特開平2−92914号公報

    特開昭63−179955号公報

    特許掲載公報2692195号

    特開平2−258818号公報

    特開平11−35675号公報

    特開平11−106578号公報

    特開平9−221539号公報

    特表2002−503524号公報

    唐牛正夫、「形状記憶ポリマーの材料開発」シーエムシー、第30〜43頁、1989年刊 Engleら、J. Macromol. Sci. Re. Macromol. Chem. Phys. 、第C33巻、第3号、第239〜257頁、1993年刊 中根喜則および石戸谷昌洋ら、色材、第67巻、第12号、第766〜774頁、1994年刊 中根喜則および石戸谷昌洋ら、色材、第69巻、第11号、第735〜742頁、1996年刊

    上記目的を達成するため、本発明は再成形可能かつ形状回復能に優れた形状記憶性樹脂を用いた成形体の提供を目的とする。

    上記目的を達成するための本発明によれば、使用時には熱硬化型となり、成形、再成形時に熱可塑型となる形状記憶性樹脂を用いた成形体を提供することができる。

    本発明者は、樹脂のTg以上の温度では共有結合架橋しており、成形温度で開裂する熱可逆的な架橋構造を有する形状記憶性樹脂が、電子機器用部材等、優れた形状回復力と再成形性を必要とする成形体に、使用可能であることを見いだした。

    すなわち本発明は、ガラス転移温度(Tg)が40℃以上200℃以下の範囲にあり、冷却により共有結合し、加熱により開裂する熱可逆性反応により架橋される形状記憶性樹脂であって、該熱可逆性反応の開裂温度(Td)が50℃以上300℃以下、Tg+10℃≦Tdの範囲にあり、形状記憶時、形状回復時の変形温度が、Tg以上Td未満であることを特徴とする形状記憶性樹脂に関する。

    具体的には、架橋部位に共有結合性の熱可逆性反応を導入した形状記憶性樹脂が提供される。 熱可逆性反応とは、結合が所定の温度で開裂し、冷却時に再結合する反応をいう。 樹脂を熱可逆性反応で架橋することで、熱可逆性架橋部位が固定相、樹脂が可逆相となり、形状記憶性が得られる。 さらに、実用温度域では共有結合架橋しているため熱硬化型として機能し、成形、再成形時には加熱により結合が開裂して熱可塑型として機能するため、優れた形状回復力を有し、かつ成形性、リサイクル性に優れるという長所を持ち合わせた形状記憶性樹脂となる。 また、冷却時に再結合し熱硬化型に戻るため、成形前と同等の形状記憶性樹脂が得られ、繰り返し変形による形状回復率の低下も起こらない。 また、主鎖に生分解性樹脂を用いれば、更に環境負荷を低減させることができる。

    本発明の形状記憶性樹脂は、形状記憶及び回復時は熱硬化型の樹脂であるため、形状回復能に優れており、一方、成形及び再成形時には熱可塑型となるため、成形及び再成形性に優れた樹脂である。 そのため、室温付近で使用される電子機器用部材等の成形体として有用である。

    従来の形状記憶性樹脂における形状記憶の原理を説明する概念図である。

    従来の熱可逆的架橋構造を導入した形状記憶性樹脂における形状記憶と再成形の原理を説明する概念図である。

    本発明の形状記憶性樹脂における形状記憶と再成形の原理を説明する概念図である。

    次に、本発明の実施の形態を詳しく説明する。

    本発明の形状記憶性樹脂のメカニズムを詳細に説明するが、以下の1から4のステップによって、形状記憶の付与、成形品の変形および記憶形状の回復、再成形を実現する。 又、図3に、概念図を示す。

    1. 成形加工 本発明の形状記憶性樹脂を熱可逆的架橋部の開裂温度(Td)以上の温度で溶融して所定形状に成形加工すると、固定相(熱可逆的架橋部)と可逆相(樹脂部:硬)から成る初期状態(原形)(同図(a))が記憶される。 本発明の形状記憶性樹脂は、成形時に熱可塑性となるため、成形性に優れたものとなる。

    2. 成形品の変形 成形品を任意の形状に変形させるには、固定相の熱可逆的架橋部を開裂させずに可逆相のみを軟化させる温度、つまり樹脂のTg以上Td未満に加熱し可逆相(軟)に移行させ(同図(b))、この状態で外力を加えることによって変形できる(同図(c))。 変形された成型品をTg未満に冷却すると、可逆相も完全に固化して変形した状態で固定化される(同図(d))。

    3. 記憶形状の回復 任意形状に変形された成形品の形状は、一時的に強制固定されている可逆相によりその変形状態が保たれている。 従って加熱により可逆相のみが軟化する温度(Tg以上Td未満)に達すると、樹脂はゴム状特性を示して安定状態となり、元の形状を回復する(同図(b))。 このとき、固定相の熱可逆的架橋部は共有結合性の架橋であるため、優れた回復力を達成することが可能である。 さらにTg未満に冷却することにより、同図(a)の初期状態の成形体に戻る。

    4. 再成形 再成形させるには、熱可逆的架橋部のTd以上に加熱して架橋を開裂させ、樹脂を溶融状態とし、前記1と同様の手法により所望の形状に再成形する。 同図(e)では熱可逆的架橋部の開裂により、樹脂部と架橋剤部とになる例を示しているが、架橋剤を用いずに樹脂部同士を直接架橋させることもできる。

    樹脂については、導入する熱可逆反応のTd以下、電子機器用部材等成形体の使用時に耐えうる温度以上の範囲でTgを有する樹脂を選択する。 使用する部材によって耐熱温度は異なるが、樹脂のTgは40℃以上200℃以下が好ましい。 Tgが40℃未満では室温の剛性が低く、形態安定性が悪くなり、また200℃より高い場合、成形性、加工性とも悪く、かつ多量のエネルギーが必要となるため、生産性および経済性の点から不利となる。 また、樹脂のTgは40℃以上100℃以下が好ましく、さらには樹脂のTgは40℃以上80℃以下が好ましい。 ユーザーが製品を形状記憶する際に、実用的な加熱手段としてドライヤーやお湯等が考えられ、特にお湯による加熱は100℃以下の温度範囲で比較的正確に温度制御できることから好ましい。 一方、Tgが100℃以上であると加熱方法が簡便でなくなるため、実用性に劣る場合がある。 また、体に直に装着あるいは触れる製品である場合、火傷を防ぐ意味で80℃以下が好ましい。 また、樹脂のTgがTd以上であると、樹脂が軟化する前に架橋が開裂するため形状記憶性に優れた形状記憶を達成することが出来ない。 導入する熱可逆反応のTdより10℃以上低いTgを有する樹脂が好ましい。

    架橋部位に用いる熱可逆反応の結合の開裂温度(Td)は、50℃以上300℃以下の範囲とする。 実用温度域では固定相および可逆相は硬化状態でなければ、電子機器用部材に使用可能な力学特性は得られない。 従って、Tdが50℃未満であると、耐熱性の問題から電子機器用部材への適用は困難である。 またTdが300℃を超えると、樹脂の熱分解や、作業上に問題が生じるため適切ではない。

    次に、Tdは樹脂のTg+10℃以上とする。 形状記憶時にはTg以上の温度で加熱し可逆相を軟化させて樹脂を変形させるが、この温度で固定相が架橋していなければ、樹脂の流動を防止することができないため、形状を記憶できない。 変形可能な温度範囲を広くするために、TdはTg+20℃以上が望ましい。 さらに好ましくは、TdはTg+30℃以上が望ましい。

    さらに、形状の変形時および回復時の温度は、Tg以上Td未満の範囲とする。 Tg未満では樹脂の分子運動が起こらないため、形状記憶および回復することができない。 また、Td以上では熱可逆反応の結合開裂が起こるため、樹脂の流動を防止することができず、予め与えていた記憶が失われるためである。

    そして、再成形時の温度はTd以上の範囲とする。 好ましくは、Td以上、樹脂の熱分解開始温度未満が望ましい。 Td以上で熱可逆反応の結合開裂が起こり、樹脂の成形性が向上するためである。

    以上をまとめると、以下の式になる。
    40℃≦Tg≦200℃ (1)
    50℃≦Td≦300℃ (2)
    Tg+10℃≦Td (3)
    Tg≦Tt<Td≦Tf<Tdec (4)
    (上記(4)式において、Ttは変形温度、Tfは成形、再成形温度、Tdecは樹脂の分解温度を示す。)

    前記熱可逆性反応は、1種の反応形式を含んでいれば優れた形状記憶性及びリサイクル性を実現することができるが、2種以上の反応形式を含んでいても良い。 2種以上の反応形式を含み、それぞれのTdが異なる場合、最も高い温度のTdをTd1,最も低い温度のTdをTd2とすると、上記(3)及び(4)式は、以下の通りとなる。
    Tg+10℃≦Td2 (3')
    Tg≦Tt<Td2<Td1≦Tf<Tdec (4')

    又、隣接する2つのTd間(Tda、Tdb)に10℃以上の温度差がある場合、すなわち、
    Tda+10℃≦Tdb (5)
    であれば、上記Ttでの形状記憶に加えて、別の形状を記憶することも可能である。 別の形状記憶を行う際の変形温度をTt1とすると、以下の関係が成立する。
    Tt<Tda≦Tt1<Tdb (6)

    又、ポリマーブレンドによって、それぞれの成分が異なる架橋構造を形成し、いわゆる相互貫入網目構造等を形成する場合にも、複数の形状の記憶が可能となることがある。

    本発明において、好ましい熱可逆的架橋反応は、ディールス−アルダー型、ニトロソ2量体型、酸無水物エステル型、ウレタン型、アズラクトン−ヒドロキシアリール型およびカルボキシル−アルケニルオキシ型からなる群より選ばれる1種以上の形式である。

    (樹脂の官能基導入)
    共有結合性熱可逆反応に必要な官能基は、熱可逆架橋に供する樹脂材料(前駆体)の分子鎖末端に導入してもよいし、分子鎖中に導入してもよい。 また、導入の方法としては、付加反応、縮合反応、共重合反応などを用いることができる。

    例えば、分子鎖中に官能基を導入する方法としては、ポリスチレンのカルボン酸化、ニトロ化等様々な官能基の導入方法が知られている。 また、ポリスチレンのハロゲン化も知られており、アミン基への変換等、ハロゲン基の様々な化学反応を利用して、必要な官能基を導入することも可能である(参考:高分子の合成・反応(3)p.13〜 共立出版株式会社)。

    主鎖に官能基を有する樹脂も利用可能である。 たとえば、ポリビニルアルコール等、水酸基を有するポリマーはエステル化、エーテル化等、官能基の導入方法が知られている。 また、ポリメタクリル酸等のカルボン酸基を有する樹脂は、エステル化等の様々なカルボキシル基の化学反応が可能である。 また、これらの樹脂と官能基を持たない樹脂を共重合することも有効である。

    分子鎖末端に官能基を導入する方法としては、たとえば、重合時に末端封止剤を用いて、官能基を導入することができる。 たとえば、スチレンなどのリビングポリマーの末端は反応性の高いカルボアニオンであるため、炭酸ガス、エチレンオキシド、保護基で保護した官能基を有するハロゲン化アルキル誘導体などとほぼ定量的に反応し、樹脂鎖末端にカルボン酸基、水酸基、アミノ基、ビニルエーテル基などを導入することが可能である。 また、官能基を有する重合開始剤を用いて、樹脂鎖末端に官能基を導入することも可能である。

    また、ポリカーボネートやポリ乳酸等のポリエステル系樹脂には、エステル化反応による官能基の導入が有効である。 酸やアルカリの他にカルボジイミド類などの試薬を用いてエステル化反応をすることができる。 また、カルボキシル基を塩化チオニルやアリルクロライドなどを用いて酸塩化物に誘導した後、ヒドロキシル基と反応する事によりエステル化することも可能である。 また、ジカルボン酸およびジオールを原料として合成されているポリエステル類については、使用する原料のジオール/ジカルボン酸のモル比率を1より多くすることにより、分子鎖の末端基をすべてヒドロキシル基にすることが可能である。

    また、エステル交換反応により、末端をヒドロキシル基にすることが可能である。 即ち、ポリエステル樹脂に対し、2つ以上のヒドロキシル基を有する化合物を用いてエステル交換することにより、末端がヒドロキシル基を有するポリエステル樹脂が得られる。

    ヒドロキシル基を持つ化合物として、3つ以上ヒドロキシル基をもつ化合物を用いれば、3次元架橋構造の架橋点を形成する事が出来るので特に望ましい。 例えば、ポリ乳酸のエステル結合をペンタエリスリトールでエステル交換することにより、分子鎖の末端にヒドロキシル基が合計で4つ存在するポリエステルが得られる。

    2つ以上のヒドロキシル基を有する化合物として、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−および1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどの2価アルコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ヘキサントリオールなどの3価アルコール、ペンタエリスリトール、メチルグリコシド、ジグリセリンなどの4価アルコール、トリグリセリン、テトラグリセリンなどのポリグリセリン、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトールなどのポリペンタエリスリトール、テトラキス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサノールなどのシクロアルカンポリオール、ポリビニルアルコールが挙げられる。 また、アドニトール、アラビトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、イジトール、タリトール、ズルシトールなどの糖アルコール、グルコース、マンノースグルコース、マンノース、フラクトース、ソルボース、スクロース、ラクトース、ラフィノース、セルロースなどの糖類が挙げられる。 多価フェノールとしてはピロガロール,ハイドロキノン,フロログルシンなどの単環多価フェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールスルフォンなどのビスフェノール類、フェノールとホルムアルデヒドの縮合物(ノボラック)などが挙げられる。

    なお、末端部にカルボン酸を有する樹脂や未反応のヒドロキシル基を有する化合物は容易に精製除去可能である。

    前駆体およびヒドロキシル基で修飾された前駆体にヒドロキシベンゾイックアシッドでエステル反応を行えば、ヒドロキシル基をフェノール性水酸基に変性することが可能である。

    カルボキシル基が必要な場合は、ヒドロキシル基に対し、2官能以上カルボン酸を有する化合物を上述のエステル化反応により結合させれば、カルボキシル基に変性する事が可能である。 特に酸無水物を用いれば、容易にカルボキシル基を有する前駆体を調製する事が可能である。 酸無水物としては、無水ピロメリット酸、無水トリメリット酸、無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水マレイン酸やこれらの誘導体を利用することが可能である。

    (架橋部位の化学構造)
    架橋部位は、加熱により開裂し、冷却により共有結合する2つの第1官能基および第2官能基より構成される。 溶融加工温度より低温で固化している際には、第1官能基および第2官能基は共有結合により架橋を形成しており、溶融加工温度などの所定の温度以上では、第1官能基および第2官能基に開裂する。 架橋部位の結合反応および開裂反応は温度変化により可逆的に進行する。 なお、第1官能基および第2官能基は、異なる官能基でも良いし同じ官能基でも良い。 同一の2つの官能基が対称的に結合して架橋を形成する場合、同一の官能基を第1官能基および第2官能基として使用できる。

    (1)ディールス−アルダー型反応 ディールス−アルダー[4+2]環化反応を利用する。 共役ジエン及びジエノフィルを官能基として導入することにより、熱可逆反応で架橋した形状記憶性樹脂を得る。 共役ジエンとしては、例えば、フラン環、チオフェン環、ピロール環、シクロペンタジエン環、1,3−ブタジエン、チオフェエン−1−オキサイド環、チオフェエン−1,1−ジオキサイド環、シクロペンタ−2,4−ジエノン環、2Hピラン環、シクロヘキサ−1,3−ジエン環、2Hピラン1−オキサイド環、1,2−ジヒドロピリジン環、2Hチオピラン−1,1−ジオキサイド環、シクロヘキサ−2,4−ジエノン環、ピラン−2−オン環およびこれらの置換体などを官能基として用いる。 ジエノフィルとしては、共役ジエンと付加的に反応して環式化合物を与える不飽和化合物を用いる。 例えば、ビニル基、アセチレン基、アリル基、ジアゾ基、ニトロ基およびこれらの置換体などを官能基として用いる。 また、上記共役ジエンもジエノフィルとして作用する場合がある。

    これらの中でも、例えば、シクロペンタジエンを架橋反応に用いることができ、Tdは150℃以上250℃以下である。 ジシクロペンタジエンは共役ジエン及びジエノフィルの両作用を有する。 シクロペンタジエンカルボン酸の2量体であるジシクロペンタジエンジカルボン酸は、市販のシクロペンタジエニルナトリウムから容易に得ることができる(参考:E.Rukcensteinら、J.Polym.Sci.Part A:Polym.Chem.、第38巻、第818〜825頁、2000年刊)。 このジシクロペンタジエンジカルボン酸は、ヒドロキシル基を有する前駆体、ヒドロキシル基で修飾された前駆体などに、エステル化反応によりヒドロキシル基の存在している部位に架橋部位として導入される。

    また、例えば、3−マレイミドプロピオン酸および3−フリルプロピオン酸を用いれば、Tdが80℃の熱可逆反応となる。 ヒドロキシル基を有する前駆体、ヒドロキシル基で修飾された前駆体などに、エステル化反応によりヒドロキシル基の存在している部位に容易に架橋部位を導入できる。

    架橋部位の導入に利用する上記のエステル化反応については、酸およびアルカリ等の他にカルボジイミド類などの触媒を用いることも可能である。 また、カルボキシル基を塩化チオニル又はアリルクロライド等を用いて酸塩化物に誘導した後、ヒドロキシル基と反応する事によりエステル化することも可能である。 酸塩化物を用いれば、アミノ基とも容易に反応するためアミノ酸類およびその誘導体のアミノ基側にも導入できる。

    ジエノフィルであるマレイミド誘導体は、一分子中に少なくとも2個以上のアミノ基を有するポリアミンから合成することができる。 例えば、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、キシリレンジアミン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、トリス(2−アミノエチル)アミン等の脂肪族アミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、4,4'−ジアミノジフェニルメタン、4,4'−ジアミノジフェニルスルホン、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル、4,4'−ジアミノジフェニルスルフイド、3,3'−ジアミノジフェニルスルフォン、2,2−ビス−(4−アミノフェニル)プロパン、ビス−(4−アミノフェニル)ジフェニルシラン、ビス−(4−アミノフェニル)メチルホスフィンオキサイド、ビ� �−(3−アミノフェニル)メチルホスフィンオキサイド、ビス−(4−アミノフェニル)−フェニルホスフィンオキサイド、ビス−(4−アミノフェニル)フェニラミン、1,5−ジアミノナフタレン、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、3,3'−ジメチル−4,4'−ジアミノフェニルメタン、2,2'−ジメチル−4,4'−ジアミノフェニルメタン、3,3'・5,5'−テトラメチル−4,4'−ジアミノジフェニルメタン、3,3'−ジエチル−4,4'−ジアミノジフェニルメタン、3,3'・5,5'−テトラエチル−4,4'−ジアミノフェニルメタン、3,3'−ジ−n−ブチル−4,4'−ジアミノジフェニルメタン、3,3'−ジ−tert−ブチル−4,4'−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ビス[4−(� �−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス(3−クロロ−4−アミノフェニル)メタン、トリアミノベンゼン、トリアミノトルエン、トリアミノナフタレン、トリアミノジフェニル、トリアミノピリジン、トリアミノフェニルエーテル、トリアミノジフェニルメタン、トリアミノジフェニルスルホン、トリアミノベンゾフェノン、トリアミノフェニルオルソホスフェート、トリ(アミノフェニル)ホスフィンオキサイド、テトラアミノベンゾフェノン、テトラアミノベンゼン、テトラアミノナフタレン、ジアミノベンジジン、テトラアミノフェニルエーテル、テトラアミノフェニルメタン、テトラアミノフェニルスルホン、ビス(ジアミノフェニル)ピリジン、メラミン、等 の芳香族アミン、アニリンとホルムアルデヒドとの縮合反応により得られる芳香族ポリアミン、芳香族ジアルデヒドと芳香族アミンとの反応生成物である4官能の芳香族ポリアミン、芳香族ジアルデヒドとホルムアルデヒドの混合物と芳香族アミンとから得られる芳香族ポリアミン、ビニルアニリン類の重合体、ポリアリルアミン、ポリリジン、ポリオルチニン、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン等の脂肪族ポリアミン、キチン、キトサン等の天然アミノ多糖類が挙げられる。 天然由来のアミノ化合物は環境問題の点から樹脂材料として好ましい。

    これらの官能基、例えば、シクロペンタジエニル基同士のディールス−アルダー型反応は、以下の一般反応式(I)で示す様に、熱可逆性の架橋構造を形成する。

    (2)ニトロソ2量体型反応 一般反応式(II)においては、冷却により2つのニトロソ基がニトロソ二量体を形成して架橋となる。 この架橋のTdは110℃から150℃である。

    例えば、4−ニトロソ−3,5−ベンジル酸の2量体(参考:米国特許第3,872,057号公報に、4−ニトロソ−3,5−ジクロロベンゾイルクロライドの2量体の合成方法が記載されている。)を用い、ヒドロキシル基を有する前駆体のヒドロキシル基、ヒドロキシル基で修飾された前駆体のヒドロキシル基などと反応する事により、ヒドロキシル基の存在している部位に容易に熱可逆的架橋部位を導入できる。 また、酸塩化物を用いれば、アミノ基とも容易に反応するためアミノ酸類およびその誘導体のアミノ基側にも導入できる。

    ニトロソ基の二量体化反応は、以下の一般反応式(II)で示す様に、熱可逆性の架橋構造を形成する。

    (3)酸無水物エステル型反応(酸無水物基と水酸基の反応)
    酸無水物およびヒドロキシル基を架橋反応に用いることができる。 酸無水物としては、脂肪族無水カルボン酸および芳香族無水カルボン酸などを用いる。 また、環状酸無水物基および非環状無水物基のいずれも用いることができるが、環状酸無水物基が好適に用いられる。 環状酸無水物基は、例えば、無水マレイン酸基、無水フタル酸基、無水コハク酸基、無水グルタル酸基が挙げられ、非環状酸無水物基は、例えば、無水酢酸基、無水プロピオン酸基、無水安息香酸基が挙げられる。 中でも、無水マレイン酸基、無水フタル酸基、無水コハク酸基、無水グルタル酸基、無水ピロメリット酸基、無水トリメリット酸基、ヘキサヒドロ無水フタル酸基、無水酢酸基、無水プロピオン酸基、無水安息香酸基およびこれらの置換体などが、ヒドロキシル基と反応して架橋構造を形成する酸無水物として好ましい。

    ヒドロキシル基は、ヒドロキシル基を有する前駆体のヒドロキシル基、各種の反応によりヒドロキシル基が導入された前駆体などのヒドロキシル基を使用する。 また、ジオール及びポリオール等のヒドロキシ化合物を架橋剤として用いても良い。 更に、ジアミン及びポリアミンを架橋剤として用いることもできる。 酸無水物として、例えば、無水ピロメリット酸のような酸無水物を2つ以上有するものを用いれば、ヒドロキシル基を有する前駆体、ヒドロキシル基で修飾された前駆体などに対し架橋剤として使用できる。

    また、無水マレイン酸をビニル重合により不飽和化合物と共重合することにより2つ以上の無水マレイン酸を有する化合物が容易に得られる(参考:特開平11−106578号公報(特許文献8)、特開2000−34376号公報)。 これも、ヒドロキシル基を有する前駆体、ヒドロキシル基で修飾された前駆体などに対する架橋剤として使用できる。

    以上の様な酸無水物とヒドロキシル基とは、以下の一般反応式(III)で示す様に、熱可逆性の架橋構造を形成する。 一般反応式(III)においては、冷却により酸無水物基と水酸基とがエステルを形成して架橋となる。 この架橋のTdは260℃である。

    (4)ウレタン型反応(イソシアネート基と活性水素の反応)
    イソシアネートと活性水素とから熱可逆的な架橋部位を形成できる。 例えば、多価イソシアネートを架橋剤として用い、前駆体およびその誘導体のヒドロキシル基、アミノ基、フェノール性水酸基と反応する。 また、ヒドロキシル基、アミノ基およびフェノール性水酸基から選ばれた2つ以上の官能基を有する分子を架橋剤として加えることもできる。 更に、開裂温度を所望の範囲とするために、触媒を添加することもできる。 また、ジヒドロキシベンゼン、ジヒドロキシビフェニル、フェノール樹脂などを架橋剤として加えることもできる。

    また、多価イソシアネートを架橋剤として用い、前駆体およびその誘導体のヒドロキシル基、アミノ基、フェノール性水酸基と反応させる。 ジヒドロキシベンゼン、ジヒドロキシビフェニル、フェノール樹脂などを架橋剤として加えることもできる。 多価イソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート(TDI)およびその重合体、4,4'−ジフェニルメタンシイソシアネート(MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、1,4−フェニレンジイソシアネート(DPDI)、1,3−フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、1−メチルベンゼン−2,4,6−トリイソシアネート、ナフタリン−1,3,7−トリイソシアネート、ビフェニル−2,4,4'−トリイソシアネート、トリフェニルメタン−4,4',4“−トリイソシアネート、トリレンジイソシアネート、リジントリイソシアネート等を用いることができる。

    また、開裂温度を調整するために、1、3−ジアセトキシテトラブチルジスタノキサン等の有機化合物、アミン類、金属石鹸などを開裂触媒として用いても良い。

    以上の官能基によるウレタン化反応は、以下の一般反応式(IV)で示す様に、熱可逆性の架橋構造を形成する。 一般反応式(IV)においては、冷却によりフェノール性水酸基とイソシアネート基とがウレタンを形成して架橋となる。 この架橋のTdは120℃以上250℃以下であり、触媒により調整可能である。

    (5)アズラクトン−ヒドロキシアリール型反応(アズラクトン基とフェノール性水酸基の反応)
    アリール基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基およびこれらの基より誘導される基が挙げられ、これらの基に結合するフェノール性のヒドロキシル基が、架橋構造を形成する基に含まれるアズラクトン構造と反応する。 フェノール性のヒドロキシル基を有するものとしては、フェノール性のヒドロキシル基を有する前駆体、ヒドロキシルフェノール類で修飾された前駆体などを使用する。

    アズラクトン構造としては、1,4−(4,4'−ジメチルアズラクチル)ブタン、ポリ(2−ビニル−4,4'−ジメチルアザラクトン)、ビスアズラクトンベンゼン、ビスアズラクトンヘキサン等の多価アズラクトンが好ましい。

    また、アズラクトン−フェノール反応架橋のビスアズラクチルブタン等も使用でき、これらは、例えば、前記非特許文献1に記載されている。

    これらの官能基は、以下の一般反応式(V)で示す様に、熱可逆性の架橋構造を形成する。 一般反応式(V)においては、冷却によりアズラクトン基とフェノール性水酸基とが共有結合を形成して架橋となる。 この架橋のTdは100℃以上200℃以下である。

    (6)カルボキシル−アルケニルオキシ型反応 カルボキシル基を有するものとしては、カルボキシル基を有する前駆体、カルボキシル基で修飾された前駆体などを使用する。 また、アルケニルオキシ構造としては、ビニルエーテル、アリルエーテル及びこれらの構造より誘導される構造が挙げられ、2以上のアルケニルオキシ構造を有するものも使用できる。

    また、ビス[4−(ビニロキシ)ブチル]アジペート及びビス[4−(ビニロキシ)ブチル]サクシネート等のアルケニルエーテル誘導体を架橋剤として用いることもできる。

    これらの官能基は、以下の一般反応式(VI)で示す様に、熱可逆性の架橋構造を形成する。 一般反応式(VI)においては、冷却によりカルボキシル基とビニルエーテル基とがヘミアセタールエステルを形成して架橋となる(参考:特開平11−35675号公報(特許文献7)、特開昭60−179479号公報)。 この架橋のTdは100℃以上250℃以下であり、架橋構造により調整可能である。

    (架橋剤)
    以上で説明した様に、熱可逆的な架橋部位を形成し得る官能基を2つ以上分子中に有する化合物は架橋剤となり得る。

    酸無水物基を有する架橋剤としては、例えば、ビス無水フタル酸化合物、ビス無水コハク酸化合物、ビス無水グルタル酸化合物、ビス無水マレイン酸化合物およびこれらの置換体が挙げられる。

    水酸基を有する架橋剤としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−および1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどの2価アルコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ヘキサントリオールなどの3価アルコール、ペンタエリスリトール、メチルグリコシド、ジグリセリンなどの4価アルコール、トリグリセリン、テトラグリセリンなどのポリグリセリン、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトールなどのポリペンタエリスリトール、テトラキス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサノールなどのシクロアルカンポリオール、ポリビニルアルコールが挙げられる。 また、アドニトール、アラビトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、イジトール、タリトール、ズルシトールなどの糖アルコール、グルコース、マンノースグルコース、マンノース、フラクトース、ソルボース、スクロース、ラクトース、ラフィノース、セルロースなどの糖類が挙げられる。

    カルボキシル基を有する架橋剤としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フタル酸、マレイン酸、フマル酸が挙げられる。

    ビニルエーテル基を有する架橋剤としては、例えば、ビス[4−(ビニロキシ)ブチル]アジペート、ビス[4−(ビニロキシ)ブチル]サクシネート、エチレングリコールジビニルエーテル、ブタンジオールジビニルエーテル、2,2−ビス〔p−(2−ビニロキシエトキシ)フェニル〕プロパン、トリス[4−(ビニロキシ)ブチル]トリメリテートが挙げられる。

    フェノール性水酸基を有する架橋剤としては、例えば、ジヒドロキシベンゼン、ピロガロール,フロログルシンなどの単環多価フェノール、ジヒドロキシビフェニル、ビスフェノールA、ビスフェノールスルフォンなどのビスフェノール類、レゾール型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂が挙げられる。

    イソシアネート基を有する架橋剤としては、2官能イソシアネートの例としては、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等のアリール脂肪族ジイソシアネート等が挙げられる。 また、3官能イソシアネートの例としては、1−メチルベンゼン−2,4,6−トリイソシアネート、ナフタリン−1,3,7−トリイソシアネート、ビフェニル−2,4,4'−トリイソシアネート、トリフェニルメタン−4,4',4“−トリイソシアネート、トリレンジイソシアネートの3量体、リジントリイソシアネート等が挙げられる。

    アズラクトン基を有する架橋剤としては、例えば、ビスアズラクトンブタン、ビスアズラクトンベンゼン、ビスアズラクトンヘキサンが挙げられる。

    ニトロソ基を有する架橋剤としては、例えば、ジニトロソプロパン、ジニトロソヘキサン、ジニトロソベンゼン、ジニトロソトルエンが挙げられる。

    (架橋構造の選択)
    冷却により結合して架橋部位を形成し、加熱により開裂する可逆的な反応の形式としては上述のように、ディールス−アルダー型、ニトロソ2量体型、酸無水物エステル型、ウレタン型、アズラクトン−ヒドロキシアリール型およびカルボキシル−アルケニルオキシ型などを利用できる。

    しかし、熱分解および加水分解樹脂などによる主鎖の劣化や、副反応により架橋部位が失活する化学反応は避けた方がよい場合がある。 たとえば、ポリ乳酸やポリカーボネート等のポリエステル樹脂は、カルボン酸により加水分解が起こるため、酸無水物エステル型架橋は適さない。 ポリビニルアルコールなど水酸基を多数有する樹脂は、ウレタン型、アズラクトン−ヒドロキシアリール型およびカルボキシル−アルケニルオキシ型と硬化反応を起こすため適さない。 一方、ディールス−アルダー型は疎水性であるため加水分解しやすい樹脂にも適用でき、水分等による反応基の失活も起こらないため、様々な樹脂に適用できる。 エステル結合を多く有する植物由来樹脂にも好適に使用できる。

    (樹脂)
    上記架橋物の樹脂としては、Tgが40℃≦Tg≦200℃の範囲にある樹脂を用いることができる。 具体的には例えば、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリスチレン、ポリアクリル酸、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリビニルピロリドン、6−ナイロン、6,6−ナイロン、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、トリアセチルセルロース、トリニトロセルロース、ポリ乳酸などを用いることが出来る。 これらは単独でもしくは2種類以上用いることが出来る。 また、トリアセチルセルロース、トリニトロセルロース、ポリ乳酸等、生分解性樹脂を用いることで、生分解性を有する架橋物が得られる。 環境問題の点から石油由来樹脂よりも、ポリ乳酸のような植物由来樹脂の方が好ましい。

    また、単独でのTgが40℃未満の樹脂であっても、高いTgを有する樹脂との共重合やブレンドによりTgの調節が可能である。 またTgの高い樹脂であっても可塑剤の添加によりTgの調節が可能である。

    また、樹脂の架橋構造によりTgの調節が可能である。 例えば、前駆体の分子量を下げたり、前駆体の官能基の数を増やしたりすることで、架橋密度が上がり樹脂のTgを上げることができる。 前駆体の分子量を上げたり、前駆体の官能基の数を減らしたりすることにより、架橋密度が下がり樹脂のTgを下げることができる。

    以上の方法で架橋物のTgを40℃以上200℃以下に調節することが可能である。 実用面から、Tgが40℃以上100℃以下、さらには80℃以下であることが好ましい。

    上記前駆体の数平均分子量(以下分子量と略す)は100〜1,000,000の範囲で用いる。 好ましくは、1,000〜100,000で、さらに好ましくは2,000〜50,000である。 前駆体の分子量が100未満であると、樹脂の機械的特性や加工性が劣る場合がある。 また、1,000,000を超えると、架橋密度が低くなるため、形状記憶性に劣る場合がある。

    また、形状記憶性や耐熱性の観点から、架橋構造としては、3次元架橋構造が好ましい。 3次元架橋構造の架橋密度は、樹脂材料の官能基の数、各部材の混合比などを所定の値とすることで、所望の値とされる。 3次元架橋構造の架橋密度は樹脂物100g当たりに含まれる3次元構造の架橋点のモル数で表される。 すなわち原料1分子中の(官能基数−2)をその分子の架橋点モル数とした。 十分な形状記憶性を実現するために架橋密度は0.0001以上が好ましく、0.001以上がさらに好ましい。 一方、架橋密度は1以下が好ましく、0.3以下が特に好ましい。 架橋密度が0.0001未満であると網目構造を形成しなくなり、形状回復しにくくなる場合があるためである。 また、1より大きいとTg以上で十分なゴム的性質を示さなくなり、変形できなくなるため、形状記憶性樹脂として機能しなくなる場合がある。

    また、Tg上下の温度における貯蔵剛性率G'(Pa)の比率(G'{Tg}/G'{Tg+20℃})が1.0×10 1以上1.0×10 7以下の範囲、好ましくは2.0×10 1以上1.0×10 5以下の範囲にある架橋物を用いる。 G'は、Tg以上の温度ではミクロブラウン運動に基づくエントロピー弾性のために低くなり、Tg以下ではエネルギー弾性のため高くなるため、Tg上下の温度におけるG'の比率が変形しやすさの指標となる。 この比率が1.0×10 1未満ではTg以上の温度域でも十分なゴム性を示さなくなり変形しにくくなり、1.0×10 7より大きいと網目構造を形成しなくなり、形状記憶性が失われる。

    また、本発明の形状記憶性樹脂を得るに際して、所望の特性を損なわない範囲で、無機フィラー、有機フィラー、補強材、着色剤、安定剤(ラジカル捕捉剤、酸化防止剤など)、抗菌剤、防かび材、難燃剤などを、必要に応じて併用できる。 無機フィラーとしては、シリカ、アルミナ、タルク、砂、粘土、鉱滓などを使用できる。 有機フィラーとしては、ポリアミド繊維や植物繊維などの有機繊維を使用できる。 補強材としては、ガラス繊維、炭素繊維、ポリアミド繊維、ポリアリレート繊維、針状無機物、繊維状フッ素樹脂などを使用できる。 抗菌剤としては、銀イオン、銅イオン、これらを含有するゼオライトなどを使用できる。 難燃剤としては、シリコーン系難燃剤、臭素系難燃剤、燐系難燃剤、無機系難燃剤などを使用できる。

    以上の様な樹脂および樹脂組成物は、射出成形法、フィルム成形法、ブロー成形法、発泡成形法などの一般的な熱可塑性樹脂の成形方法により、電化製品の筐体などの電気・電子機器用途等様々な成形体に加工できる。

    以下に実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、これらは、本発明を何ら限定するものではない。 なお、以下特に明記しない限り、試薬等は市販の高純度品を用いた。 なお、数平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラム法により測定し、標準ポリスチレンを用いて換算した。 また、以下の方法で性能を評価した。

    ガラス転移温度(Tg)、開裂温度(Td):セイコーインスツルメント社製DSC測定装置(商品名:DSC6000)をもちいて、昇温速度10℃/分で測定を行い、ガラス転移温度(Tg)を決定した。 また、吸熱ピークを開裂温度(Td)とした。

    貯蔵剛性率:厚さ1.8mmの試験片を用いて、東洋精機社製粘弾性測定装置(商品名:「レオログラフ・ソリッドS-1」、10Hz,昇温速度2℃/分)により測定した。

    形状記憶性:2cm×5cm×1.8mmのフィルムを作成し、このフィルムをTg+20℃で加熱し、フィルムの中央を90°に折り曲げて5秒間変形後、常温まで冷却した。 この時のフィルムの変形性を度(A1)で評価した。 80°≦A1≦90°を○、70°≦A1<80°を△、0°≦A1<70°を×とした。 また、変形したフィルムを再びTg+20℃で10秒間加熱し、回復性を角度(A2)で評価した。 0°≦A2≦10°を○、10°<A1≦20°を△、20°<A2≦90°を×とした。

    再成形性:上記フィルムを200℃で溶融し、半径1.8cmの円状に再成形した。 再成形できたフィルムに対して、上記と同様に変形性(A3)、回復性(A4)について評価した。

    前駆体としてポリ乳酸の実施例を以下に示す。 ポリ乳酸は生分解性を有し、植物由来材料であるため、環境問題の面から好ましい材料である。 ポリ乳酸に優れた形状記憶性とリサイクル性を付与するため、以下の材料設計を行った。 まず、200℃以上でポリ乳酸の熱分解が起こるため、解離温度(Td)が50℃以上200℃以下の可逆架橋部位を選択した。 この可逆反応としては、ディールス−アルダー型、カルボキシル−アルケニルオキシ型、ウレタン型等を利用できる。 次に、ポリ乳酸に可逆架橋部位を導入し、3次元架橋した。 この際、樹脂のTgが40℃以上100℃以下となるように調整した。 最後に、架橋樹脂の形状記憶性とリサイクル性について検証した。

    以下、ディールス−アルダー型であるフランーマレイミド結合をポリ乳酸に導入した実施例を示す。 フランーマレイミド結合の解離温度は文献(非特許文献2)において80℃あるいは140℃と記載されているが、下記の実施例で示すように、解離温度は150℃であり、ポリ乳酸ベースの樹脂に対し好適な架橋部位となる。

    [実施例1]
    市販のポリ乳酸(「ラクティ」(商品名)、島津製作所製)1000gとペンタエリスリトール75.6gを200℃で3時間溶融混合によりエステル交換反応した。 これをクロロホルム1Lに溶解させ、過剰のメタノールに注ぎ再沈殿することで、末端ヒドロキシポリ乳酸[R1]を得た。

    次に、2−フルフリルアルコール100gと、無水コハク酸112gおよびピリジン2mlをクロロホルム1Lに溶解させ、10時間還流した。 これを水洗した後、溶媒を留去することで、フラン誘導体[F1]を合成した。 クロロホルム500mlに、1−エチル−3−(3'−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドヒドロクロライド(WSC)31.4g、ピリジン13.0g、[F1]32.5g、[R1]100gを添加し、10時間還流した。 これを水洗し硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を留去することでフラン変性ポリ乳酸[R2]を得た(分子量2100)。

    ジメチルホルムアミド(DMF)100mlに溶解したトリス(2−アミノエチル)アミン25mlを75℃に加熱後、DMF250mlに溶解したexo-3,6−エポキシ−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物100gを1時間かけて滴下し、2時間撹拌した。 さらに無水酢酸200ml、トリエチルアミン10ml、酢酸ニッケル1gを添加し、3時間撹拌した。 撹拌後、水1000mlを加え、溶媒を60℃で減圧加熱後、クロロホルムに溶解し、水洗した。 クロロホルムを減圧留去後、シリカゲルクロマトグラフィーで精製した。 さらに窒素下トルエンで24時間還流後、再結晶により3官能マレイミド[R3](収率52%)を得た。

    上記合成した[R2]を26.0g、[R3]を4.96g量りとり、170℃で3分溶融混合し、100℃で1時間架橋することで、ポリ乳酸のディールスアルダー架橋物[R4]を得た。 Tgは51℃、Tdは149℃であった。 架橋密度は0.127であった。

    又、この架橋物[R4]を180℃で溶融後、100℃で2時間架橋させることで、形状記憶性評価のためのフィルムを製造した。 評価結果を表1に示す。

    [実施例2]
    市販のポリ乳酸2000gとソルビトール178gを200℃で15時間溶融混合によりエステル交換反応した。 これをクロロホルム2Lに溶解させ、過剰のメタノールに注ぎ再沈殿することで、末端ヒドロキシポリ乳酸[R5]を得た。

    次に、クロロホルム400mlに、WSC72.0g、ピリジン30.0ml、[F1]74.2g、[R5]132gを添加し、43時間還流した。 これを水洗し硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を留去することでフラン変性ポリ乳酸[R6]を得た(分子量6940)。

    上記合成した[R6]を10.3g、[R3]を1.20g量りとり、170℃で3分溶融混合し、100℃で1時間架橋することで、ポリ乳酸のディールスアルダー架橋物[R7]を得た。 Tgは65℃、Tdは155℃であった。 架橋密度は0.0795であった。

    又、この架橋物[R7]を160℃で溶融後、100℃で1時間架橋させることで、形状記憶性評価のためのフィルムを製造した。 評価結果を表1に示す。

    [実施例3]
    市販のポリ乳酸2000gとソルビトール197gを200℃で15時間溶融混合によりエステル交換反応した。 これをクロロホルム2Lに溶解させ、過剰のメタノールに注ぎ再沈殿することで、末端ヒドロキシポリ乳酸[R8]を得た。

    次に、クロロホルム500mlに、WSC72.3g、ピリジン30.1ml、[F1]74.5g、[R8]120gを添加し、43時間還流した。 これを水洗し硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を留去することでフラン変性ポリ乳酸[R9]を得た(分子量6286)。

    上記合成した[R9]を10.0g、[R3]を1.23g量りとり、170℃で3分溶融混合し、100℃で1時間架橋することで、ポリ乳酸のディールスアルダー架橋物[R10]を得た。 Tgは70℃、Tdは154℃であった。 架橋密度は0.0850であった。

    又、この架橋物[R10]を160℃で溶融後、100℃で1時間架橋させることで、形状記憶性評価のためのフィルムを製造した。 評価結果を表1に示す。

    [実施例4]
    THF50mlにL−乳酸45.7g、無水マレイン酸55.8g、ピリジン2mlを添加し、9時間還流した。 反応溶液に水を100ml加えエバポレーターでTHFを留去後、クロロホルムを200ml添加した。 この溶液を塩酸水溶液で中和し、水層をエバポレーターで濃縮後、アセトンに溶解して固形物をろ過した。 再度ろ液をエバポレーターで濃縮後、酢酸エチルに溶解して固形物をろ過した。 このろ液をエバポレーターで濃縮することで、ジカルボン酸誘導体[F2]を得た。

    クロロホルム100mlに、WSC11.0g、ピリジン4.6ml、フルフリルアルコール5.62g、[F2]4.95gを添加し、13時間還流した。 これを水酸化ナトリウム水溶液および塩酸水溶液で洗浄し硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を留去することで、ジフラン誘導体[R11]を得た。

    上記合成した[R11]を10.8g、[R3]を7.93g量りとり、170℃で3分溶融混合し、100℃で1時間架橋することで、ディールスアルダー架橋物[R12]を得た。 Tgは81℃、Tdは155℃であった。 架橋密度は0.110であった。

    又、この架橋物[R12]を160℃で溶融後、100℃で1時間架橋させることで、形状記憶性評価のためのフィルムを製造した。 評価結果を表1に示す。

    [実施例5]
    市販のポリ乳酸500gとソルビトール535gを200℃で20時間溶融混合によりエステル交換反応した。 これをクロロホルム1Lに溶解させ、過剰のメタノールに注ぎ再沈殿することで、末端ヒドロキシポリ乳酸[R13]を得た。

    次に、クロロホルム500mlに、WSC113g、ピリジン47.7ml、[F1]117g、[R13]100gを添加し、35時間還流した。 これを水洗し硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を留去することでフラン変性ポリ乳酸[R14]を得た(分子量1695)。

    上記合成した[R14]を10.0g、[R3]を4.56g量りとり、170℃で3分溶融混合し、100℃で1時間架橋することで、ポリ乳酸のディールスアルダー架橋物[R15]を得た。 Tgは92℃、Tdは157℃であった。 架橋密度は0.243であった。

    又、この架橋物[R15]を160℃で溶融後、100℃で1時間架橋させることで、形状記憶性評価のためのフィルムを製造した。 評価結果を表1に示す。

    [実施例6]
    上記合成した[R6]を10.0g、[R3]を0.0350g量りとり、170℃で3分溶融混合し、100℃で1時間架橋することで、ポリ乳酸のディールスアルダー架橋物[R16]を得た。 Tgは47℃、Tdは152℃であった。 架橋密度は0.000902であった。

    又、この架橋物[R16]を160℃で溶融後、100℃で1時間架橋することで、形状記憶性評価のためのフィルムを製造した。 評価結果を表1に示す。

    [比較例1]
    市販のポリ乳酸を200℃で溶融し、100℃で1時間加熱することで、評価用のフィルムを製造した。 評価結果を表1に示す。

    [形状記憶性]
    上記、7例について形状記憶性、形状回復性、再成形性を評価した。 (表1)

    表1より明らかに、実施例1〜6は優れた形状回復力かつ再成形可能な形状記憶性樹脂であることが分かる。 いずれの実施例も生分解性に優れるポリ乳酸系の樹脂を基本単位としており、生分解性にも優れた形状記憶性樹脂となる。 実施例1〜6のTgは40℃以上100℃以下の実用的な範囲に調整することができた。 架橋密度を上げることで、樹脂のTgも上昇した(実施例2〜4)。 また、前駆体の官能基数を増やすことによっても、Tgを上昇することができた。 一方、比較例1は貯蔵剛性率の比が小さいため変形できず、架橋していないことから形状回復力も劣っていた。

    次に、カルボキシル−アルケニルオキシ型の可逆架橋をポリ乳酸に導入した実施例を示す。

    [実施例7]
    市販のポリ乳酸490.2gとL−乳酸9.31gを200℃、3時間溶融混合しエステル交換反応をした。 クロロホルムに溶解後、メタノールに注ぎ再沈殿し、ポリ乳酸[R17]を得た(分子量18300)。

    このポリ乳酸[R17]を10.0g、トリス[4−(ビニロキシ)ブチル]トリメリテート(「VEctomer 5015」(商品名)、アルドリッチ製)0.42g量りとり、180℃10分溶融混合し、100℃で2時間架橋することで、ポリ乳酸のカルボキシル−ビニルエーテル架橋物[R18]を得た。 Tgは52℃、Tdは180℃であった。 架橋密度は0.00358であった。

    又、この架橋物[R18]を190℃で溶融後、100℃で2時間架橋させることで、形状記憶性評価のためのフィルムを製造した。 評価結果を表2に示す。

    [実施例8]
    市販のポリ乳酸450gとL−乳酸39.8gを200℃、3時間溶融混合しエステル交換反応をした。 クロロホルムに溶解後、メタノールに注ぎ再沈殿し、ポリ乳酸[R19]を得た(分子量6300)。

    このポリ乳酸[R19]を10.0g、VEctomer 5015を0.53g量りとり、180℃で10分溶融混合し、100℃で2時間架橋することで、ポリ乳酸のカルボキシル−ビニルエーテル架橋物[R20]を得た。 Tgは60℃、Tdは182℃であった。 架橋密度は0.0100であった。

    又、この架橋物[R20]を190℃で溶融後、100℃で2時間架橋させることで、形状記憶性評価のためのフィルムを製造した。 評価結果を表2に示す。

    [実施例9]
    市販のポリ乳酸(「ラクティ」(商品名)、島津製作所製)500gとL−乳酸294gを200℃、3時間溶融混合しエステル交換反応をした。 クロロホルムに溶解後、メタノールに注ぎ再沈殿し、ポリ乳酸[R21]を得た(分子量2420)。

    このポリ乳酸[R21]を10.0g、VEctomer 5015を1.39g量りとり、180℃で10分溶融混合し、100℃で2時間架橋することで、ポリ乳酸のカルボキシル−ビニルエーテル架橋物[R22]を得た。 Tgは72℃、Tdは180℃であった。 架橋密度は0.0242であった。

    又、この架橋物[R22]を190℃で溶融後、100℃で2時間架橋させることで、形状記憶性評価のためのフィルムを製造した。 評価結果を表2に示す。

    [形状記憶性]
    上記、3例について形状記憶性、形状回復性、再成形性を評価した。 (表2)

    表2より明らかに、実施例7〜9は優れた形状回復力かつ再成形可能な形状記憶性樹脂であることが分かる。 いずれの実施例も生分解性に優れるポリ乳酸系の樹脂を基本単位としており、生分解性にも優れた形状記憶性樹脂となる。 実施例7〜9のTgは40℃以上100℃以下の実用的な範囲に調整することができた。 実施例2〜4と同様に、架橋密度を上げることで樹脂のTgも上昇した。

    ポリ乳酸以外の樹脂(スチレン、ポリカーボネート)の実施例および比較例について示す。

    [実施例10]
    K−ナフタレン(1.20g)のテトラヒドロフラン(THF)溶液を重合開始剤として、高真空下、−78℃でスチレン(20.0g)のTHF溶液を添加後、30分放置した。 さらに、この溶液に停止剤の4−ブロモ−1,1,1−トリメトキシブタン(アルドリッチ製)のTHF溶液を滴下し、さらに−78℃で12時間、30℃で1時間放置した。 メタノールにより再沈殿を行い、末端トリメトキシポリスチレン[R23]を得た。

    このポリスチレン[R23](16.0g)をTHFに溶解し、LiOH(1.22g)を加え30℃で20時間反応した後、0.1N塩酸で中和することで、末端カルボン酸ポリスチレン[R24]を得た。

    次に、[R24](12.0g)にクロロホルム(100ml)、WSC(1.01g)、ピリジン(0.41g)、2−フルフリルアルコール(1.06g)を添加し、10時間還流した。 これ塩酸水溶液および水酸化ナトリウム水溶液を用いて精製し、溶媒を留去することで、フラン変性ポリスチレン[R25]を得た(分子量5000)。

    上記合成した[R25]を10.0g、実施例1で製造した[R3]を1.54g量りとり、170℃で3分溶融混合し、100℃で2時間架橋することで、ポリスチレンのディールスアルダー架橋物[R26]を得た。 Tgは70℃、Tdは145℃であった。 架橋密度は0.0127であった。

    又、この架橋物[R26]を180℃で溶融後、100℃で2時間架橋させることで、形状記憶性評価のためのフィルムを製造した。 評価結果を表3に示す。

    [実施例11]
    市販のポリカーボネート(住友ダウ製)1000gを、弱アルカリ性(pH10〜12)に調整したアンモニア水溶液2Lに4時間含浸後、水溶液を除去した。 このポリカーボネートを280℃で溶融混合することで、低分子量化ポリカーボネート[R27]を得た(分子量2000)。

    このポリカーボネート[R27]を100g、1−メチルベンゼン−2,4,6−トリイソシアネートを21.5g量りとり、180℃5分溶融混合し、100℃で2時間架橋することで、ポリカーボネートのイソシアネート架橋物[R28]を得た。 Tgは150℃、Tdは185℃であった。 架橋密度は0.0311であった。

    又、この架橋物[R28]を200℃で溶融後、100℃で2時間架橋させることで、形状記憶性評価のためのフィルムを製造した。 評価結果を表3に示す。

    [比較例2]
    実施例1で製造した[R1]を20.1g、トリレンジイソシアネート(TDI)を4.17g量りとり、100℃で1時間、160℃で1時間加熱することで、ポリ乳酸の非可逆性ウレタン架橋物[R29]からなるフィルムを得た。 Tgは70℃であった。

    [比較例3]
    実施例9で得た低分子量化ポリカーボネート[R27]を100g溶解させたクロロホルム溶液500mlに、無水コハク酸を12.5g、4−ジメチルアミノピリジンを0.1g添加し、5時間還流した。 この溶液を水洗した後、硫酸マグネシウムで乾燥させ、溶媒を留去することで、末端カルボン酸ポリカーボネート[R30]を得た。

    この[R30](50g)をクロロホルム300mlに溶解させ、2−フルフリルアルコールを4.91g、WSCを9.59g、ピリジンを3.95g添加後、10時間還流した。 この溶液を水洗した後、溶媒を留去し、フラン変性ポリカーボネート[R31]を得た(分子量2600)。

    この[R31]を10.0g、実施例1で得た[R3]を1.07g量りとり、190℃10分溶融混合することで、ポリカーボネートのディールスアルダー架橋物[R32]を得た。 Tgは145℃、Tdは151℃であった。 架橋密度は0.0233であった。

    又、この架橋物[R32]を180℃で溶融後、100℃で2時間架橋させることで、形状記憶性評価のためのフィルムを製造した。 評価結果を表3に示す。

    [比較例4]
    市販の熱可塑型形状記憶性樹脂(「ディアプレックス」(商品名)、三菱重工業(株)製)を200℃で溶融して、評価用のフィルムを製造した。

    [比較例5]
    市販の熱硬化型形状記憶性樹脂(「クラプレンHMシート」(商品名)、(株)クラレ製)を使用して、評価用のフィルムを製造した。

    [形状記憶性]
    上記、6例について形状記憶性、形状回復性、再成形性を評価した。 (表3)

    表3より明らかに、実施例10、11は優れた形状回復力かつ再成形可能な形状記憶性樹脂であることが分かる。 一方、比較例2,5は熱硬化性樹脂であるため、再成形できなかった。 又、TgとTdの差が10℃未満である比較例3では、Tg以上の変形可能な温度域になると架橋が解離するため、形状記憶性を示さなかった。 比較例4は熱可塑性樹脂であるため、形状回復力に劣っていた。

    このように優れた形状記憶性を備えた本発明品は、電子機器用部材等様々な成形体に使用することが出来る。 例えば電子機器(パソコンや携帯電話等)の外装材、ねじ、締め付けピン、スイッチ、センサー、情報記録装置、OA機器等のローラー、ベルト等の部品、ソケット、パレット等の梱包材、冷暖房空調機の開閉弁、熱収縮チューブ等に使用することができる。 他にも、バンパー、ハンドル、バックミラー等の自動車用部材、ギブス、おもちゃ、めがねフレーム、歯科矯正用ワイヤー、床ずれ防止寝具等の家庭用部材等として、各種分野に応用することが出来る。

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