【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、 押出し成型用熱可塑性ポリウレタン樹脂の製造方法に関する。 更に詳しくは、 押出し成形の際、成型品表面にツブ状の突起物、いわゆるフィッシュアイが発生しにくい押出し成形用熱可塑性ポリウレタン樹脂の製造方法に関するものである。 【0002】 【従来の技術】熱可塑性ポリウレタン樹脂は、一般的に長鎖のジオール、短鎖のジオール及びイソシアネートを原料成分としている。 実際の製造は様々な方法で行われているが、押出し成形用熱可塑性ポリウレタン樹脂の場合、前記原料成分を混合した後に二軸押出し機中やベルト上で連続反応させるか、ニーダーのような混練機中でバッチ反応させる方法が一般的である。 【0003】これらの設備で押出し成形用熱可塑性ポリウレタン樹脂を製造する場合、最も注意を要するのはポリウレタン分子中の短鎖ジオールと有機ジイソシアネー<br>トとの結合により形成される部分であるハードセグメントを均一に分散させることである。 ハードセグメントの分散が不均一であると均質な樹脂ができず、ハードセグメント含量の異常に多い部分が押出し成型品の表面にフィッシュアイとして現れる。 このようにしてフィッシュアイが発生すると、成型品の外観不良、物性の低下などが起こり工業用の製品として使用に耐えない場合が多い。 【0004】過去にフィッシュアイの改良についての検討は数例報告されている。 それらは製造設備を変更することにより原料成分の混合状態を改良しようとする方法(例えば、特開昭56−5244)や得られたポリウレタンの溶融粘度の変動を機械的に制御する方法(例えば、特開昭62−15219)などであるが、これらの方法はフィッシュアイを根本的に解決したわけではなく、またコストの点からみても最良の方法とは言い難い。 【0005】また、熱可塑性ポリウレタン樹脂を有機溶剤に溶解し、溶液とすることを目的としてエステル基含有ジオールを使用する方法が特開昭60−115616 号に開示されている。 この方法ではエステル基含有ジオールを全鎖延長剤中の30〜100モル%と高い割合で使用するため、この方法によって得られた樹脂は、有機溶剤への溶解性は優れているが、押出し成形用や射出成形用の樹脂として使用した場合、本来熱可塑性ポリウレタン樹脂の持つ優れた耐熱性、耐溶剤性などが得られない。 【0006】 【発明が解決しようとする課題】本発明者らは既存の製造設備を使用し、また従来の熱可塑性ポリウレタン樹脂の優れた耐熱性、耐溶剤性、などを損なわずに、押出成形時のフィシュアイ発生を化学的手段により根本的に解決する方法について鋭意検討した結果、特殊な第3成分を相溶化剤として用いることにより解決することを見出し、本発明に到った。 【0007】 【問題点を解決するための手段】すなわち、本発明は、 押出し成形用熱可塑性ポリウレタン樹脂の製造方法において、有機ジイソシアネート(A)、分子量500〜5 000の長鎖ジオール(B)、分子量60〜500の短鎖ジオール(C)、及び相溶化剤(D)を使用するに際し、 短鎖ジオール(C)は、エステル基を含有しないも のであり、相溶化剤(D) は、グリコールとヒドロキシ 基含有モノカルボン酸との1:1(モル比)反応生成 物、または、トリオールとヒドロキシ基非含有モノカル ボン酸との1:1(モル比)反応生成物である分子量1 30〜500のエステル基含有ジオールであり、 (B) +(C)と(D)のモル比が、 15/85≧(D)/{(B)+(C)}≧0.1/99.9 であることを特徴とする押出し成形用熱可塑性ポリウレタン樹脂の製造方法に関するものである。 【0008】本発明によって、相溶化剤としてのエステ<br>ル基含有ジオールの存在下で、熱可塑性ポリウレタン樹脂を製造することにより、ハードセグメントの分散状態が改良され、均質でフィッシュアイの少ない押出し成形 用熱可塑性ポリウレタン樹脂を提供することが可能となった。 【0009】本発明に用いる有機ジイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2´−ジメチル−4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、3,3´−ジメトキシ−4,4´−ビフェニレンジイソシアネート、4,4´−ジフェニレンジイソシアネート、4,4´−ジイソシアネートジフェニルエーテル、1,5−ナフタレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート,m−キシリレンジイソシアネート、1,3−ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、1,4−ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、 4,4´−ジイソシアネートジシクロヘキサン、イソホロンジイソシアネート、などが挙げられる。 これらは単独または、2種以上の混合物としても使用できる。 【0010】本発明に用いる長鎖ジオールとして、分子量500〜5000のポリエステルジオール、ポリカーボネートジオールが挙げられる。 ポリエステルジオールのカルボン酸成分としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、などの脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸などを挙げることができる。 また、ポリエステルジオールのグリコール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,4−ブテンジオール、1,5−ペンタンジオール、メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6− ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、メチル− 1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、 ジエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、 ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、 ポリテトラメチレンエーテルグリコール、などを挙げることができる。 これらのカルボン酸及びグリコールは、 単独又は 2種以上の混合物としても使用できる。 ポリエステルジオールとしては、他にε−カプロラクトン、β −メチル−γ−バレロラクトンなどのラクトン類を開環重合して得られるラクトン系ポリエステルジオールが挙げられる。 更にポリカーボネートジオールとしては、一般式 で表される長鎖ジオールであり、Rはエチレングリコー
ル、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、
1,6−ヘキサンジオール、などのグリコール残基である。 これらの 長鎖ジオールは、単独又は2種以上の混合<br>物としても使用できる。 【0011】本発明に用いるエステル基を含有しない短鎖ジオールとして、分子量60〜500のジオール類である。 例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,4−ブテンジオール、1,5−ペンタンジオール、メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、メチル− 1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、 ジエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、 ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、 ポリテトラメチレンエーテルグリコール、などを挙げることができる。 中でもエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3 −メチル−1,5−ペンタンジオール、 1,6−ヘキサンジオールなどの脂肪族ジオールが好ましい。 【0012】本発明に用いる相溶化剤は、グリコールとヒドロキシ基含有モノカルボン酸との1:1(モル比) 反応生成物、または、トリオールとヒドロキシ基非含有モノカルボン酸との1:1(モル比)反応生成物であり、かつ、 分子量130〜500のエステル基含有ジオ ールである。 この場合のグリコールとしては、炭素数2 〜10の脂肪族グリコール、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、 1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、 メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、メチル−1,8−オクタンジオール、1,9 −ノナンジオールなど、炭素数6〜10の脂環族グリコール、例えば1,4−シクロヘキサンジオール、1,3 −シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノールなど、炭素数6〜10の芳香族グリコール、例えば、 ジヒドロキシベンゼン、ビスヒドロキシエトキシベンゼンなどが挙げられる。 また、これらグリコールは主鎖や側鎖中にエステル結合やエーテル結合を含んでいてもよい。 ヒドロキシル基含有モノカルボン酸としては、炭素数2〜10のヒドロキシル基含有脂肪族モノカルボン酸、例えば、ヒドロキシ酢酸、ヒドロキシプロピオン酸、メチルヒドロキシプロピオン酸、ジメチルヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシブタン酸、メチルヒドロキシブタン酸、ジメチルヒドロキシブタン酸、など、炭素数7〜10のヒドロキシル基含有脂環族モノカルボン酸、例えば、ヒドロキシシクロヘキシル酢酸、ヒドロキシシクロヘキシルブタン酸、炭素数7〜10のヒドロキシル基含有芳香族モノカルボン酸、例えば、サリチル酸などが挙げられる。 【0013】ヒドロキシル基含有モノカルボン酸においても主鎖や側鎖にエステル結合やエーテル結合を含んでいてもよい。 また、トリオールとしては、グリセリン、 トリメチロールプロパンなどが挙げられる。 モノカルボン酸としては、炭素数2〜20の脂肪族モノカルボン酸、例えば、酢酸 、プロピオン酸、カプロン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、アクリル酸、クロトン酸、オレイン酸など、炭素数7〜20の芳香族モノカルボン酸、例えば、安息香酸など、炭素数7〜20の脂環族モノカルボン酸などが挙げられる。 【0014】本発明の相溶化剤(D)は、長鎖ジオール (B)およびエステル基非含有短鎖ジオール(C) の合 計に対するモル比で、 15/85≧(D)/{(B)+(C)}≧0.1/99.9 の範囲で使用する。 この範囲の下限未満では、相溶化剤としての効果が得られにくく、また、上限を越えると、 強度、耐熱性、耐溶剤性の低下や樹脂同士の接着などが起こり、本来押出し成形用熱可塑性ポリウレタン樹脂に求められる性質が得られない。 【0015】これら、 押出し成形用熱可塑性ポリウレタン樹脂の製造方法としては、全ての成分を同時に混合し反応させるワンショット法と、長鎖ジオールと有機ジイソシアネートとを先に反応させ、NCO末端プレポリマーとした後に短鎖ジオールを加えて反応を完結させるプレポリマー法とがある。 本発明はワンショット法、プレポリマー法のいずれの方法でも製造できるが、特にワンショット法においてその効果が顕著である。 また、押出し成形用熱可塑性ポリウレタン樹脂の製造方法としては、原料を溶融でもしくは、一部非溶融状態で行う無溶媒反応と、原料を溶媒中に溶解して行う方法とがあるが、本発明は、無溶媒反応においてその効果が顕著である。 【0016】 【発明の効果】本発明では、エステル基含有ジオールの存在下で押出し成型用熱可塑性ポリウレタン樹脂を製造することにより、ハードセグメントの分散状態が改良され、均質でフィッシュアイの少ない熱可塑性ポリウレタン樹脂を従来の設備を何ら変更することなく提供することが可能となった。 本発明によって得られた押出し成型 用ポリウレタン樹脂は、チューブ、ベルト、繊維、などの幅広い分野で安定した製品を提供するものである。 【0017】 【実施例】次に本発明について実施例により詳細に説明する。 実施例及び比較例における「部」及び「%」は、 各々「重量部」及び「重量%」を示す。 【0018】実施例1 長鎖ジオール(B 1 )100部と1,4−ブタンジオール 14部、ネオペンチルグリコール−2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピオン酸エステル 3部を溶融した後に混合して均一なグリコール成分とした。 このグリコール成分と溶融したジフェニルメタンジイソシアネート 55部を攪拌混合し、約200℃に温度調節した二軸の押出し機のホッパーより供給、混練と同時に樹脂化反応を行い押出し成型用熱可塑性ポリウレタン樹脂を得た。 この樹脂を使用し、単軸の押出し機でベルトを作成した。 このベルト表面を顕微鏡で観察してフィッシュアイの評価を行った。 また、射出成形によりシートを作成し、このシートを用いて耐熱性、耐溶剤性、一般物性を評価した。 【0019】実施例2−5、比較例1〜5 実施例1と同様の装置及び方法で表1に示すモル比の組成で熱可塑性ポリウレタン樹脂を得た。 同様にサンプルを作成し評価した。 【0020】この押出しベルトの表面を目視及び顕微鏡により観察したところ、フィッシュアイがほとんど含まれず、成形品表面は通常の熱可塑性ポリウレタン樹脂から得られるベルトに比較し非常に滑らかであった。 【0021】各々の原料成分を表1に、フィッシュアイ評価、樹脂特性を表2に示した。 比較例で相溶化剤を添加しなかったものはベルト表面に異常反応によるフィッシュアイが数多く見られ、また、前記の上限以上に相溶化剤を添加したものは耐溶剤性、耐熱性、物性が悪化する結果となった。 【0022】 【表1】 【0023】 表1の註 長鎖ジオール(B 1 ): アジピン酸/1,4−ブタンジオール=28/19(モル比) 分子量2000 長鎖ジオール(B 2 ): アジピン酸/1,6−ヘキサンジオール=28/25(モル比) 分子量2000 長鎖ジオール(B 3 ): ジエチルカーボネート/1,6−ヘキサンジオール=13/14(モル比) 分子量2000 MDI :4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート 分子量 250 HDI :1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート 分子量 168 1,4−BG :1,4−ブタンジオール 分子量 90 ESG:ネオペンチルグリコール−2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロ ピオン酸エステル 分子量 204 BBE:1,4−ブタンジオール−4−ヒドロキシブタン酸エステル 分子量 176 BPE:1,4−ブタンジオール−3−ヒドロキシプロピオン酸エステル 分子量 162 【0024】 【表2】 【0025】表2の評価方法 1)破断時引張強さ: JIS K7311による。 2)破断時伸び : JIS K7311による。 3)耐溶剤性: 120mm×120mm×2mmのサンプルシート(インジェクション成形)をMEKに25 ℃×6時間浸漬し、体積変化率を測定した。 ◎;良い(常態値からの変化率25%以下) ○;普通(常態値からの変化率25〜50%程度) △;若干劣る(常態値からの変化率50%以上) ×;劣る(形をとどめていない) 4)耐熱性 : サンプルシートを120℃のギアオーブンに7日間入れ、その後、引張強さを測定した。 ◎;良い (常態値からの変化率10%以下) ○;普通 (常態値からの変化率10〜20%以下) △;若干劣る(常態値からの変化率20%以上) ×;劣る(形をとどめていない) フロントページの続き (56)参考文献 特開 昭60−115616(JP,A) 特開 平2−170816(JP,A) 特開 昭56−47416(JP,A) 特開 昭52−23156(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl. 6 ,DB名) C08G 18/00 - 18/87 C08L 75/00 - 75/16 |