皮膚塗布用の皮膚創傷治癒促進組成物、その製造方法、及び創傷被覆材

专利类型 发明专利 法律事件
专利有效性 有效专利 当前状态
申请号 JP2019195712 申请日 2019-10-28
公开(公告)号 JP2020079236A 公开(公告)日 2020-05-28
申请人 有限会社バイオ研; 国立大学法人東北大学; 申请人类型 企业
发明人 菅 辰彦; 渡邉 卓巳; 菅野 恵美; 川上 和義; 丹野 寛大; 館 正弘; 第一发明人 菅 辰彦
权利人 有限会社バイオ研,国立大学法人東北大学 权利人类型 企业
当前权利人 有限会社バイオ研,国立大学法人東北大学 当前权利人类型 企业
省份 当前专利权人所在省份: 城市 当前专利权人所在城市:
具体地址 当前专利权人所在详细地址:埼玉県狭山市根岸1−26−19 邮编 当前专利权人邮编:
主IPC国际分类 A61P17/02 所有IPC国际分类 A61P17/02A61K35/747A61P43/00A61L15/36A61K9/14A61L15/42C12N1/20A61K35/744
专利引用数量 11 专利被引用数量 1
专利权利要求数量 12 专利文献类型 A
专利代理机构 专利代理人 特許業務法人創成国際特許事務所;
摘要 【課題】乳酸菌を有効成分とする皮膚塗布用の皮膚創傷治癒促進組成物、その製造方法及び創傷被覆材を提供する。 【解決手段】皮膚塗布用の皮膚創傷治癒促進組成物は、湿式によるレーザー回折散乱法により測定された、菌体粒子のメジアン径が1.0μm以下である乳酸菌末を有効成分とする。この皮膚創傷治癒促進組成物は、乳酸菌が含有された菌体濃縮液を、乳酸菌の含有量が該濃縮液中に乾燥菌体換算で0.01質量%以上20質量%未満となるように調製し、該菌体濃縮液に可溶性賦形剤を乾燥終濃度で12質量%以上となるように添加し、該可溶性賦形剤を添加した菌体濃縮液を粉砕・分散した後、乾燥粉末化することにより製造できる。また、創傷被覆材は、上記皮膚創傷治癒促進組成物を含有するものである。 【選択図】図7
权利要求

湿式によるレーザー回折散乱法により測定された、菌体粒子のメジアン径が1.0μm以下である乳酸菌末を有効成分とすることを特徴とする皮膚塗布用の皮膚創傷治癒促進組成物。創部の肉芽組織の増殖を促進させる、請求項1に記載の皮膚塗布用の皮膚創傷治癒促進組成物。創部の再上皮化の速度を増加させる、請求項1又は2に記載の皮膚塗布用の皮膚創傷治癒促進組成物。創部の血管新生を促進させる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の皮膚塗布用の皮膚創傷治癒促進組成物。創部皮膚組織のTNF−α、IL−1β、IL−6、及び/又はIL−10の発現を誘導する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の皮膚塗布用の皮膚創傷治癒促進組成物。創部皮膚組織のbFGF、及び/又はTGF−β1の発現を誘導する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の皮膚塗布用の皮膚創傷治癒促進組成物。創部皮膚組織のVGEFの発現を誘導する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の皮膚塗布用の皮膚創傷治癒促進組成物。前記乳酸菌は、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・ペントーサス(Lactobacillus pentosus)、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、及びエンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)からなる群から選択された1種又は2種以上である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の皮膚塗布用の皮膚創傷治癒促進組成物。前記乳酸菌は、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の皮膚塗布用の皮膚創傷治癒促進組成物。粉末状の形態である前記乳酸菌末と可溶性賦形剤とを含有する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の皮膚塗布用の皮膚創傷治癒促進組成物。乳酸菌が含有された菌体濃縮液を、乳酸菌の含有量が該濃縮液中に乾燥菌体換算で0.01質量%以上20質量%未満となるように調製し、該菌体濃縮液に可溶性賦形剤を乾燥終濃度で12質量%以上となるように添加し、該可溶性賦形剤を添加した菌体濃縮液を粉砕・分散した後、乾燥粉末化することにより、湿式によるレーザー回折散乱法により測定された、菌体粒子のメジアン径が1.0μm以下である乳酸菌末を得ることを特徴とする皮膚塗布用の皮膚創傷治癒促進組成物の製造方法。請求項1〜10のいずれか1項に記載の皮膚塗布用の皮膚創傷治癒促進組成物を含有することを特徴とする創傷被覆材。

说明书全文

本発明は、乳酸菌末を有効成分とする皮膚塗布用の皮膚創傷治癒促進組成物、その製造方法、及び創傷被覆材に関する。

近年、乳酸菌の持つ整腸作用、抗アレルギー効果、抗ウイルス能、免疫賦活化能等、多様な効果が注目されている。

乳酸菌が皮膚に与える効果として、ヒトの特定の腸内常在乳酸菌が、経口投与によりアトピー性皮膚炎マウスの組織、頸部リンパ節及び脾細胞でのtumor necrosis factor (TNF) -α や interleukin (IL) -17 等の炎症性サイトカイン産生、IL-4 等の抗炎症性サイトカインの産生を抑制し、アトピー性皮膚炎を改善することが報告されている(非特許文献1)。

一方、本出願人は、IL−12産生誘導能を有する乳酸菌の菌体であって、前記菌体が粒度1ミクロン未満に微粒子化され、かつ、分散剤又は賦形剤によって再凝集を防止されているものを有効成分とすることを特徴とするTh1誘導剤を既に提案している(特許文献1)。

特許第4621218号公報

Choi EJ, Iwasa M, Han KI, Kim WJ, Tang Y, Hwang YJ, Chae JR, Han WC, Shin YS, Kim EK: Heat-Killed Enterococcus faecalis EF-2001 Ameliorates Atopic Dermatitis in a Murine Model, Nutrients, 8(3), 2016

しかしながら、乳酸菌を皮膚塗布用の皮膚創傷治癒に用いる試みについて報告された事例は、本発明者らが知る限りなかった。

そこで、本発明の目的は、乳酸菌を有効成分とする皮膚塗布用の皮膚創傷治癒促進組成物を提供することにある。

上記目的を達成するため、本発明者らは、種々研究した結果、乳酸菌の菌体培養液に可溶性賦形剤を添加して所定の調製をした後、該菌体培養液を粉砕・分散し、更に乾燥粉末化することにより得られた乳酸菌末を皮膚塗布用の組成物の有効成分とすることで、皮膚創傷治癒を促進することを見出し、本発明を完成するに至った。

すなわち、本発明の一つは、湿式によるレーザー回折散乱法により測定された、菌体粒子のメジアン径が1.0μm以下である乳酸菌末を有効成分とすることを特徴とする皮膚塗布用の皮膚創傷治癒促進組成物を提供するものである。これによれば、皮膚に塗布することで、創傷の創部炎症を抑制し、治癒を促進させることができる。

本発明の皮膚創傷治癒促進組成物は、創部の肉芽組織の増殖を促進させ、それによって皮膚創傷治癒を促進するために用いることができる。

本発明の皮膚創傷治癒促進組成物は、創部の再上皮化の速度を増加させ、それによって皮膚創傷治癒を促進するために用いることができる。

本発明の皮膚創傷治癒促進組成物は、創部の血管新生を促進させ、それによって皮膚創傷治癒を促進するために用いることができる。

本発明の皮膚創傷治癒促進組成物は、創部皮膚組織のTNF−α、IL−1β、IL−6,及び/又はIL−10の発現を誘導し、それによって皮膚創傷治癒を促進するために用いることができる。

本発明の皮膚創傷治癒促進組成物は、創部皮膚組織のbFGF、及び/又はTGF−β1の発現を誘導し、それによって皮膚創傷治癒を促進するために用いることができる。

本発明の皮膚創傷治癒促進組成物は、創部皮膚組織のVGEFの発現を誘導し、それによって皮膚創傷治癒を促進するために用いることができる。

本発明の皮膚創傷治癒促進組成物の原料となる乳酸菌は、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・ペントーサス(Lactobacillus pentosus)、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、及びエンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)からなる群から選択された1種又は2種以上であることが好ましい。

本発明の皮膚創傷治癒促進組成物の原料となる乳酸菌は、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)であることがより好ましい。

本発明の皮膚創傷治癒促進組成物は、粉末状の形態である乳酸菌末と可溶性賦形剤とを含有することが好ましい。

また、本発明は、乳酸菌が含有された菌体濃縮液を、乳酸菌の含有量が該濃縮液中に乾燥菌体換算で0.01質量%以上20質量%未満となるように調製し、該菌体濃縮液に可溶性賦形剤を乾燥終濃度で12質量%以上となるように添加し、該可溶性賦形剤を添加した菌体濃縮液を粉砕・分散した後、乾燥粉末化することにより、湿式によるレーザー回折散乱法により測定された、菌体粒子のメジアン径が1.0μm以下である乳酸菌末を得ることを特徴とする皮膚塗布用の皮膚創傷治癒促進組成物の製造方法を提供するものである。これによれば、皮膚に塗布することで、創傷の創部炎症を抑制し、治癒を促進させることができる組成物を提供することができる。

更に、本発明は、上記に記載の皮膚塗布用の皮膚創傷治癒促進組成物を含有することを特徴とする創傷被覆材を提供するものである。これによれば、創傷部位を創傷被覆材で被覆することにより、創傷部位全体において、適切かつ均一に、皮膚創傷治癒促進組成物の効果をもたらすことができる。また、創傷被覆材は、創傷の大きさに合わせて用いることができるので、効率よく、皮膚創傷治癒促進組成物の効果をもたらすことができる。

本発明の皮膚創傷治癒促進組成物によれば、皮膚に塗布することで、創傷の創部炎症を誘導し、治癒を促進させることができる。また、本発明の製造方法によれば、皮膚に塗布することで、創傷の創部炎症を誘導し、治癒を促進させることができる組成物を提供することができる。また、本発明の創傷被覆材によれば、創傷部位全体において、適切かつ均一に、皮膚創傷治癒促進組成物の効果をもたらすことができ、創傷被覆材は、創傷の大きさに合わせて用いることができるので、効率よく、皮膚創傷治癒促進組成物の効果をもたらすことができる。

試験例1において、デキストリンの各添加量における、乳酸菌菌体粒子のメジアン径を測定した結果を示す図表である。

試験例1において測定した、デキストリンの各添加量((A)0質量%、(B)10質量%、(C)15質量%)における、乳酸菌菌体粒子の粒度分布(縦軸:相対粒子量(%)、横軸:粒子径(μm))の結果を示す図表である。

試験例1において測定した、デキストリンの各添加量((D)20質量%、(E)25質量%、(F)50質量%)における、乳酸菌菌体粒子の粒度分布の結果を示す図表である。

試験例2において、対照菌末を投与したマウス皮膚における、創作成後7,10日目の創閉鎖率を調べた結果を示す図表である。

試験例3において観察した、実施例菌末を投与したマウス皮膚における、創作成後1日目の病理像を示す図表である。

試験例3において、実施例菌末を投与したマウス皮膚組織における、創作成後1日目の各サイトカインのmRNA発現量を調べた結果を示す図表である。

試験例3において観察した、実施例菌末を投与したマウス皮膚における、創作成後0,10,14日目の肉眼所見を示す図表である。

試験例3において、実施例菌末を投与したマウス皮膚における、創作成後10,14日目の創閉鎖率を調べた結果を示す図表である。

試験例3において観察した、実施例菌末を投与したマウス皮膚における、創作成後10日目の病理像を示す図表である。

試験例3において観察・測定した、実施例菌末を投与したマウス皮膚における、創作成後10日目の肉芽の高さの結果を示す図表である。

試験例3において観察した、実施例菌末を投与したマウス皮膚における、創作成後10日目の病理像(強拡大像)を示す図表である。

試験例3において、実施例菌末を投与したマウス皮膚における、創作成後10日目の再上皮化率を調べた結果を示す図表である。

試験例3において、実施例菌末を投与したマウス皮膚組織における、創作成後10日目のbFGFのmRNA発現量を調べた結果を示す図表である。

試験例3において、実施例菌末を投与したマウス皮膚組織における、(A)創作成5日目のbFGF量、及び(B)創作成7日目のbFGF量を調べた結果を示す図表である。

試験例3において、実施例菌末を投与したマウス皮膚組織における、(A)創作成5日目のTGF-β1量、及び(B)創作成7日目のTGF-β1量を調べた結果を示す図表である。

試験例3において、実施例菌末を投与した糖尿病マウス皮膚組織における、(A)創作成5日目のVEGF量、及び(B)創作成7日目のVEGF量を調べた結果を示す図表である。

試験例4において観察した、実施例菌末を投与した糖尿病マウス皮膚における、創作成後0,7日目の肉眼所見を示す図表である。

試験例4において、実施例菌末を投与した糖尿病マウス皮膚における、創作成後7日目の創閉鎖率を調べた結果を示す図表である。

試験例4において、実施例菌末を投与した糖尿病マウス皮膚組織における、創作成7日目のTGF-β1量を調べた結果を示す図表である。

試験例5において、実施例菌末を投与したマウス皮膚組織における、創作成後1、3、5日目の各サイトカインのタンパク質発現量について調べた結果を示す図表であり、(A)はTNF−α量を調べた結果を示す図表であり、(B)はIL−1β量を調べた結果を示す図表であり、(C)はIL−6量を調べた結果を示す図表である。

試験例5において、実施例菌末の投与が再上皮化及び肉芽形成に与える影響について調べた結果を示す図表であり、(A)は創作成後5、7、10日目の創部について、摘出した皮膚組織から組織切片を作成して、再上皮化率を調べた結果を示す図表であり、(B)は創作成後7、10日目の創部について、摘出した皮膚組織から組織切片を作成して、肉芽面積を調べた結果を示す図表である。

試験例5において、実施例菌末の投与が血管新生に与える影響について調べた結果を示す図表であり、(A)は創作成後10日目の創部について、摘出した皮膚組織から作成した組織切片に対する、抗CD31抗体による免疫染色の結果を示す図表であり、(B)観察した組織切片の単位視野面積当たりのCD31陽性血管数の結果を示す図表である。

試験例6において、実施例菌末による抗菌効果について調べた結果を示す図表であり、(A)はデキストリンを塗布した寒天培地に黄色ブドウ球菌又は大腸菌をスポットして37℃で24時間静置後に撮像した写真であり、(B)は実施例菌末を塗布した寒天培地に黄色ブドウ球菌又は大腸菌をスポットして37℃で24時間静置後に撮像した写真であり、(C)は黄色ブドウ球菌についてスポット面積の結果を示す図表であり、(D)は大腸菌についてスポット面積の結果を示す図表である。

本発明の皮膚創傷治癒促進組成物に用いる乳酸菌末の原料となる乳酸菌としては、特に限定されないが、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・ペントーサス(Lactobacillus pentosus)等のラクトバチルス属に属する生物、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)等のエンテロコッカス属に属する微生物、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptcoccus thermophilus)等のストレプトコッカス属に属する微生物、ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)等のラクトコッカス属に属する微生物等が挙げられる。

上記乳酸菌の中でも、ラクトバチラス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチラス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・ペントーサス(Lactobacillus pentosus)、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、及びエンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)からなる群から選択された1種又は2種以上であることが好ましく、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)であることがより好ましい。

乳酸菌を培養するための培地は、乳酸菌の増殖に適したものであれば特に制限はない。乳酸菌の増殖に適した培地としては、例えば、酵母エキス、ペプトン、肉エキス等を含む栄養分豊富な液体培地が挙げられる。また、市販の培地として「MRSブイヨン MERCK」(商品名、Chemicals社)、「Difco Lactobacilli MRS Broth」(商品名、日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)などがあり、これらを用いてもよい。また、乳酸菌の種類によって特殊な培地組成が必要な場合など、適宜所望の培地組成を用いることに特に制限はない。

乳酸菌の培養方法も、常法に従って行えばよく、特に制限はない。培養に伴なう乳酸菌の代謝産物(乳酸等)によるpHの低下を抑制するように、培地にアルカリ剤を添加してpH調整しながら、培養(中和培養)を行うことができる。この場合、添加するアルカリ剤としては、例えば酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等の水溶液や、アンモニアなどを用いることができる。

培養におけるpHは、好ましくはpH5.0〜7.5、より好ましくはpH6.0〜7.0に調整、維持する。pH調整は手動で行ってもよいが、pH自動制御装置(pHスタット)などを利用すれば簡便で正確である。

こうして得た乳酸菌の菌体培養液から、乳酸菌が含有された菌体濃縮液を調整する。菌体濃縮液は、培養液をそのまま濃縮して調整することもできるが、好ましくは、遠心分離やろ過などの手段によって集菌し、この菌体を更に精製水などによって洗浄し、所定の菌体濃度になるように精製水などに懸濁させることによって調整できる。菌体濃縮液100質量%中の乳酸菌の菌体の含有量は、乾燥菌体換算で、0.01質量%以上20質量%未満となるように調製することが好ましく、1質量%以上15質量%未満となるように調製することがより好ましい。

このように調製した菌体濃縮液に、可溶性賦形剤を乾燥終濃度で12質量%以上となるように、好ましくは13質量%以上となるように、より好ましくは15質量%以上となるように添加する。この場合、乾燥終濃度とは、菌体濃縮液中の乾燥固形分中の濃度を意味する。可溶性賦形剤を12質量%以上添加することで、後述する粉砕・分散する際の乳酸菌末の再凝集を防止することができる。

用いる可溶性賦形剤としては、特に限定されず、例えば、デキストリン;マルトデキストリン;キサンタンガム;ラクチトール、マルチトール、マンニトール、ソルビトール、及びキシリトール等の糖アルコール類;デキストロース、フルクトース、グルコース、ラクトース、ショ糖等の糖類;アジピン酸、クエン酸、フマル酸、グルタル酸、リンゴ酸、コハク酸、及び酒石酸等の有機酸類等が挙げられる。

次に、可溶性賦形剤を添加した菌体濃縮液を粉砕・分散する。粉砕・分散方法としては、攪拌、ミキサー、ホモゲナイザー、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル、ジェネレーター等を用いた公知の手法が挙げられるが、ミキサー又はホモゲナイザーを用いて行うことが好ましい。

なお、菌体濃縮液を粉砕・分散する前又は後に、菌体濃縮液を加熱殺菌する工程を行ってもよい。これによって、乳酸菌を加熱死菌体にすることができ、本発明においては、乳酸菌の生菌を用いることもできるが、加熱死菌体を用いることが好ましい。なお、後述する菌体濃縮液を乾燥粉末化する際に、熱風を用いた噴霧乾燥(スプレードライ)を行うことで、加熱死菌体を得ることもできる。

菌体濃縮液を粉砕・分散した後、菌体培養液を乾燥粉末化する。乾燥粉末化方法としては、凍結乾燥、減圧噴霧乾燥、熱風を用いた噴霧乾燥等の公知の手法が挙げられる。

このようにして得られた、本発明の皮膚創傷治癒促進組成物に含まれる乳酸菌末は、湿式によるレーザー回折散乱法により測定された、菌体粒子のメジアン径が1.0μm以下であり、好ましくは0.9μm以下であり、より好ましくは0.8μm以下である。菌体粒子のメジアン径が1.0μm以下と小さいことにより、創部の細胞(特に白血球)が乳酸菌に接触または貪食することで免疫反応を活性化させ、治癒に必要な各増殖因子を増加し、皮膚創傷治癒を促進することができると考えられる。

本明細書における「皮膚創傷」には、表皮が創傷した状態に加えて、真皮が創傷した状態、皮下組織が創傷した状態、及び皮筋層(皮下組織と筋層の境界)まで創傷が達した状態が含まれる。本発明の皮膚創傷治癒促進組成物は、特に皮筋層まで創傷が達した状態の皮膚創傷に対して優れた治癒促進効果を発揮する。

なお、本明細書において、「菌体粒子のメジアン径が1.0μm以下である」とは、菌体粒子の粒径が、小さい側からの体積累積が50%に相当する粒径が1.0μm以下であることを指す。

菌体粒子のメジアン径は、湿式によるレーザー回折散乱法により測定することができ。具体的には、(株)島津製作所製の粒度分布測定装置SALD−3100などを用いて常法により測定できる。詳細には、フローセルを使用し、水を測定溶媒とし、屈折率が1.55−0.00i、測定吸光度範囲の最大値を0.2、最小値を0.02とした条件で測定することができる。

本発明の皮膚創傷治癒促進組成物は、湿式によるレーザー回折散乱法により測定された、菌体粒子のメジアン径が1.0μm以下である乳酸菌末を有効成分とし、この皮膚創傷治癒促進組成物を、例えば皮膚の創傷部位に塗布することにより、皮膚創傷治癒促進効果を得ることができる。

本発明の皮膚創傷治癒促進組成物の対象となる皮膚創傷は、特に限定されないが、例えば、火傷、熱傷、熱傷性潰瘍、凍傷等の温度障害;裂創、擦過創、切創、刺創、挫創、咬創等の外傷;バージャー病、リンパ浮腫、下腿潰瘍等の血管及びリンパ管障害;採皮創、縫合創等の術後創;褥瘡、圧迫性潰瘍、糖尿病性潰瘍・脱疽、帯状疱疹後潰瘍、薬物性潰瘍、ストーマ、温度障害、放射線障害、化学的障害等の皮膚創傷が挙げられる。

また、本発明の皮膚創傷治癒促進組成物は、創部の肉芽組織の増殖を促進させることができ、更に、創部の再上皮化の速度を増加させることができる。皮膚創傷は、肉芽組織の増殖、及び表皮細胞の遊走による再上皮化の2つの過程を経て創閉鎖(治癒)に至ることから、本発明の皮膚創傷治癒促進組成物により、早期の創閉鎖が期待できる。

更に、本発明の皮膚創傷治癒促進組成物は、創部皮膚組織において、線維芽細胞や表皮細胞を活性化させるサイトカインであるTNF−α、IL−1β、増殖因子であるbFGF、TGF−β1、過剰な線維化を抑制するサイトカインであるIL−10を誘導する。このことにより、細胞外マトリックスのターンオーバーを促進し、化細胞を増殖させ、筋線維芽細胞の分化を促進するので、創部の治癒が促進される。また、血管内皮増殖因子であるVEGFも誘導し、このことにより、血管新生が促進されるので、これも創部の治癒促進に寄与する。更に、創部の治癒の初期段階には、炎症性のサイトカインであるIL−6も誘導し、これも創部の治癒促進に寄与する。

更に、本発明の皮膚創傷治癒促進組成物は、必要な場合は医薬的に受容できる添加剤を含有することができる。添加剤の例としては、界面活性剤、着色料、保存料、及びこれらの組合せ等が挙げられ、一般に化粧料、医薬に添加されるものは、本発明の皮膚創傷治癒促進組成物に添加することができる。

創傷を被覆するための基材に本発明の皮膚創傷治癒促進組成物を含有させることにより、皮膚創傷治癒促進のために用いる創傷被覆材を提供することができる。これによれば、創傷部位全体において、適切かつ均一に、本発明の効果をもたらすことができる。また、創傷被覆材は、創傷の大きさに合わせて用いることができるので、効率よく、本発明の効果をもたらすことができる。

本発明において、創傷被覆材とは、創傷部位を覆うように貼付することにより、創傷治癒を促進するために用いるものを意味する。ここで創傷部位とは、例えば火傷や擦傷、潰瘍、褥瘡などの創傷部や、カテーテル挿入部などの外科的切開部など、皮膚に生じた損傷箇所を意味する。また、創傷被覆材には、創傷における湿潤環境形成を目的としたドレッシングも含まれる。

創傷被覆材は、創傷箇所を覆うための基材と、この基材に含浸、塗布などの方法で含有された、本発明の皮膚創傷治癒促進組成物とを含むもので構成することができる。創傷被覆材の基材としては、粘着包帯、粘着テープ、ポリウレタンフィルム、ガーゼ、ハイドロジェル、アルギン酸塩、ハイドロファイバー、ハイドロポリマーハイドロコロイド等が挙げられる。皮膚創傷治癒促進組成物を基材に含有させる方法としては、基材に該組成物を塗布したり、基材を構成する原料に該組成物を混合したりする方法が挙げられる。

創傷被覆材の使用方法としては、例えば、予め皮膚創傷治癒促進組成物が塗布されたポリウレタンフィルムを創部に貼付して、更にフィルムを弾性粘着包帯で固定する方法や、予め皮膚創傷治癒促進組成物が混合されたハイドロジェルを創部に使用し、更にポリウレタンフィルムで覆い、弾性粘着包帯で固定する等の方法が挙げられる。

創傷被覆材の他にも、本発明の皮膚創傷治癒促進組成物は、ローション(化粧水)、化粧用クリーム類、乳液、パック剤、スキンミルク、ジェル剤、パウダー、リップクリーム、口紅、アンダーメークアップ、ファンデーション、サンケア、浴用剤、ボディシャンプー、ボディリンス、石鹸、クレンジングフォーム、軟膏、貼付剤、ゼリー剤、エアゾール剤等の形態で用いることもできる。

本発明の皮膚創傷治癒促進組成物に含有させる乳酸菌末の濃度は、特に限定されないが、例えば、0.0001〜20質量%が好ましく、0.001〜10質量%がより好ましい。

本発明の皮膚創傷治癒促進組成物の創傷部位への投与量は、創傷箇所の症状等によって異なるが、乳酸菌末の投与量として、1回につき、0.00001〜10g程度が好ましく、0.0001〜1g程度が好ましい。

以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。

〔調製例1〕 <1.凝集型の乳酸菌末の製造> 乳酸菌としては、Enterococcus faecalis KH2(受託番号:NITE P-14444)(以下、「EF菌」とする。)を用いた。

EF菌をDifco Lactobacilli MRS Broth(商品名、日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)を使用し、37℃で18時間培養を行なった。

得られた培養液を80℃で30分間加熱して殺菌処理を行った。

殺菌処理した培養液を遠心にて集菌し、蒸留水を添加混合して遠心にて再度集菌するという洗浄操作を1〜3回繰り返した後、菌体濃度が乾燥菌体量として1〜20質量%となるように蒸留水に懸濁して、菌体濃縮液を得た。

この菌体濃縮液をスプレードライして凝集型の乳酸菌末を得た。

〔調製例2〕 <2.分散型の乳酸菌末の製造> EF菌を前記と同様にして培養し、得られた培養液を前記と同様にして加熱して殺菌処理を行った。

殺菌処理した培養液を遠心にて集菌し、蒸留水を添加混合して遠心にて再度集菌するという洗浄操作を1〜3回繰り返した後、菌体濃度が乾燥菌体量として10質量%となるように蒸留水に懸濁して、菌体濃縮液を得た。

この菌体濃縮液に、デキストリンを、乾燥終濃度(乾燥固形分中の濃度)として、10、15、20、25、50質量%になるように添加した。次いで、デキストリンを添加した菌体濃縮液をホモジナイザーにかけ、菌体同士が凝集するのを避け、できるだけ分散させた後、この分散液をスプレードライして分散型の乳酸菌末を得た。

[試験例1]

上記で得られた凝集型乳酸菌末と、分散型乳酸菌末とを、乾燥菌体換算で10mg/mLになるように精製水にそれぞれ懸濁した(サンプル溶液)。懸濁液中の乳酸菌の粒度分布を、「レーザー回折式粒度分布測定装置SALD−3100」(商品名、株式会社島津製作所製)を用いて測定した。具体的には、フローセルを使用し、水を測定溶媒とし、屈折率が1.50−0.00i、測定回数を2、平均回数を64、測定吸光度範囲の最大値を0.2、最小値を0.02として、サンプル溶液を測定範囲に達するまで添加して測定した。メジアン径の測定結果を表1と図1に、粒度分布を図2,3に示す。図2における(A)はデキストリン0質量%、(B)はデキストリン10質量%、(C)はデキストリン15質量%を示し、図3における(D)はデキストリン20質量%、(E)はデキストリン25質量%、(F)はデキストリン50質量%の結果を示す。

表1に示すように、凝集型乳酸菌末においては、メジアン径が29.556μmであった。また、デキストリンを10質量%添加溶解して乾燥粉末化した分散型乳酸菌末においては、メジアン径が1.233μmであった。一方、デキストリンを15質量%以上添加溶解して乾燥粉末化した分散型乳酸菌末(乳酸菌末)においては、メジアン径が0.796μm以下であり、凝集型乳酸菌末に比べて顕著に小さい値であった。

[試験例2]

本検討では、乾燥終濃度としてデキストリンを10質量%添加し乾燥粉末化した凝集型乳酸菌末(以下「対照菌末」とする)を用いた。

1.方法 C57BL/6マウスの背側を剃毛し皮膚を完全に露出させ、70v/v%エタノールで消毒したのち、皮膚生検用6mmパンチとハサミを用い、マウス1匹につき4つの皮筋に達する全層欠損創を作成した。対照菌末群には、創作成直後に対照菌末を創部に0.1,10 μg/5 μL/wound の各濃度で投与し、コントロール群には生理食塩水を投与した。創部をポリウレタンフィルムと弾性粘着包帯で閉鎖環境におき、創作成7,10日目に創部を観察した。

マウス創作成後と創作成7,10日目に、創部の写真をデジタルカメラで撮影しAxio vision Release 4.6(Carl Zeiss Micro Imaging, Jena,Germany)を用いて創閉鎖率を算出した。創閉鎖率の算出には、以下の数式(1)を用いた。

2.結果 創閉鎖率を測定した結果を図4に示す。メジアン径が1.0μmよりも大きい乳酸菌である対照菌末を投与した対照菌末群は、コントロール群と同等の閉鎖率であり、対照菌末が創閉鎖に与える影響は認められなかった。更に濃度依存的な有効性も認められず、逆に濃度を上げることで創閉鎖に与える影響が低下する可能性も推察できる。

[試験例3]

以下の検討では、上記で調製した、デキストリンを50質量%添加して菌体を分散させた分散型乳酸菌末(以下「実施例菌末」とする)を用いた。

1.方法 上記と同様に、C57BL/6マウスに全層欠損創を作成した。実施例菌末群には、創作成直後に実施例菌末を創部に、1,10,100,1000 μg/5 μL/wound の各濃度で投与し、コントロール群には、デキストリンを投与した。創部をポリウレタンフィルムと弾性粘着包帯で閉鎖環境におき、創作成1,7,10,14日目にマウスを犠牲死させた後、ハサミで創部を含めた皮膚組織を摘出した。

(1)創閉鎖率の算出 マウス創作成後と創摘出時に、創部の写真をデジタルカメラで撮影し、創閉鎖率を算出した。

(2)病理学的解析 摘出した皮膚組織を、4v/v%パラホルムアルデヒドリン酸緩衝液にて固定し、パラフィンに包埋した。半切した面から厚さ3μmの切片を作成し、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色を施した。HE染色をした組織は、炎症像の観察、再上皮化率の算出に用いた。再上皮化率算出には、以下の数式(2)を用いた。

(3)mRNA発現量の確認 皮膚組織のtotal RNA を抽出した後、complement DNA(cDNA)を合成した。そのcDNAをtemplateとし、下記の特異的プライマーを用い(内部標準としてACTBを用いた)、StepOne and StepOnePlus リアルタイムPCRシステム(Thermo Fisher Scientific,USA)でリアルタイムPCR法を行った。表2には、各遺伝子のPCRに用いたプライマーの塩基配列を示す。

(4)タンパク質発現量の確認 摘出した皮膚組織をホモジネートし生理食塩水にて4倍希釈したものを測定サンプルとして用いた。bFGF測定にはQuantikine ELISA Mouse/ Rat FGF basic(R&D SYSTEMS a bio-techne)、TGF−β1測定にはMouse/ Rat/ Porcine/ Canine TGF-β1(R&D SYSTEMS a bio-techne)、VEGF測定にはMouse VEGF(R&D SYSTEMS a bio-techne)を用い、それぞれのキットに添付の方法に従いエライザ法を行った。

2.結果 (1)創部へ与える影響(病理像での確認) 創部炎症反応を観察するため、創作成後1日目の病理像を図5に示す。図5に示されるように、デキストリンを投与したコントロール群ではほとんど白血球の浸潤が認められなかったのに対し、実施例菌末 1,10,100 μg/wound群では白血球の浸潤を認めた(黒矢印:白血球、白矢印:線維芽細胞)。実施例菌末 100 μg/wound群では、白血球のみならず線維芽細胞の集積も認められた。

(2)創部における各サイトカインへの影響 炎症性サイトカイン産生への影響について解析するため、創作成後1日目の創部における各サイトカイン(TNF−α、IL−1β、IL−10)のmRNA発現について解析を行った結果を図6に示す。図6に示されるように、TNF−α、IL−1βのmRNA発現は実施例菌末の濃度依存的に発現の増加がみられた。IL−10のmRNA発現はコントロール群と比較して、実施例菌末 10, 100 μg/wound群で有意に増加した。

(3)創閉鎖に与える影響 創作成後0,10,14日目の創部の所見を図7に示す。図7に示されるように、コントロール群と比較すると、実施例菌末 100, 1000 μg/wound群で有意に創閉鎖が確認された。

また、創閉鎖率を算出した結果を図8に示す。図8に示されるように、創作成後10日目で実施例菌末濃度依存的に創閉鎖率が増加傾向にあった。更に、創作成後14日目では、コントロール群と比較し、実施例菌末 1000 μg/wound群で創閉鎖率が有意に増加した。

(4)再上皮化、肉芽の高さに与える影響 創作成後10日目に創部を含む皮膚組織を摘出し、HE染色を施し再上皮化と肉芽組織の観察を行った。創作成後10日目の病理像を図9に示す。また、創作成後10日目の肉芽の高さを測定した結果を図10に示す。図9,10に示されるように、肉芽の高さは、コントロール群と比較し、実施例菌末1000 μg/wound群で有意に増加した。

また、創作成後10日目の病理像の強拡大像を図11に示す。図11に示されるように、実施例菌末では、肉芽組織内に多数の線維芽細胞集積を認めた。

更に、創作成後10日目の再上皮化率を図12に示す。図12に示されるように、再上皮化率は、実施例菌末 100 ,1000 μg /wound群で有意に増加した。

(5)創部における増殖因子への影響(その1) 実施例菌末投与による創部の増殖因子発現への影響について、より詳細に解析するため、bFGFのmRNA発現量を前述した方法で測定した。創作成後10日目のbFGFのmRNA発現量を図13に示す。図13に示されるように、コントロール群と比較し、実施例菌末 1000 μg/wound群で有意に増加した。

(6)創部における増殖因子への影響(その2) 実施例菌末投与による創部の増殖因子への影響について、より詳細に解析するため、bFGF、TGF−β1、VEGFの各タンパク質発現量を測定した。その結果を図14〜16に示す。

図14に示されるように、bFGF量は、コントロール群と比較し実施例菌末 1000 μg/wound群で、創作成後5日目で有意に高く、7日目で高くなる傾向が認められた。図15に示されるように、TGF−β1量は、実施例菌末 1000 μg/wound群で、創作成後5日目で有意に高かったが、7日目では変化がなかった。図16に示されるように、VEGF量は、実施例菌末 1000 μg/wound群で、創作成後5日目で有意に高く、7日目で高くなる傾向が認められた。

[試験例4]

1.方法 糖尿病マウスとして、創作成10日前にC57BL/6マウスにストレプトゾトシンを腹腔に単回投与したマウスを用いた。

上記と同様に、各マウスに全層欠損創を作成した。実施例菌末群には、創作成直後に実施例菌末を創部に投与し(1000 μg/wound)、コントロール群には、デキストリンを投与した。創部をポリウレタンフィルムと弾性粘着包帯で閉鎖環境におき、創作成5,7日目にマウスを犠牲死させた後、ハサミで創部を含めた皮膚組織を摘出した。

(1)創閉鎖率の算出 マウス創作成後と創摘出時に、創部の写真をデジタルカメラで撮影し、創閉鎖率を算出した。

(2)タンパク質発現量の確認 摘出した皮膚組織をホモジネートし生理食塩水にて4倍希釈したものを測定サンプルとして用いた。TGF−β1測定にはMouse/ Rat/ Porcine/ Canine TGF-β1(R&D SYSTEMS a bio-techne)を用い、キットに添付の方法に従いエライザ法を行った。

2.結果 (1)創閉鎖に与える影響 創作成後0,7日目の肉眼所見を図17に示す。また、創作成後7日目の創閉鎖率を図18に示す。図17,18に示されるように、糖尿病マウスにおいて、コントロール群と比較すると実施例菌末群で有意に創閉鎖が促進されていた。

(2)創部におけるサイトカインへの影響 実施例菌末投与による創部増殖因子への影響について、より詳細に解析するため創部におけるTGF−β1量を測定した。創作成後7日目のTGF−β1量を図19に示す。

図19に示されるように、糖尿病モデルマウスにおいて、TGF−β1量は、コントロール群と比較すると実施例菌末群で有意に高かった。

[試験例5]

1.方法 試験例3と同様にして、C57BL/6マウスに全層欠損創を作成し、創作成直後に実施例菌末を創部に1000 μg/5 μL/wound の濃度で投与し、コントロール群にはデキストリンを投与した。創部をポリウレタンフィルムと弾性粘着包帯で閉鎖環境におき、創作成から所定日数後にマウスを犠牲死させた後、ハサミで創部を含めた皮膚組織を摘出した。

(1)タンパク質発現量の確認 摘出した皮膚組織をホモジネートし生理食塩水にて4倍希釈したものを測定サンプルとして用いた。各サイトカイン(TNF−α、IL−1β、IL−6)のタンパク質発現量をELISAキット (R&D SYSTEMS, Minneapolis, USA) を用いて測定し、摘出した皮膚組織1gあたりの値で示した。

(2)病理学的解析 摘出した皮膚組織を、4v/v%パラホルムアルデヒドリン酸緩衝液にて固定し、パラフィンに包埋した。半切した面から厚さ3μmの切片を作成し、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色を施した。このHE染色を施した組織像の観察により、上記と同様にして再上皮化率を算出し、また、肉芽部分の面積を測定した。

(3)抗CD31抗体による免疫染色 上記と同様にして別途作成した組織切片に対し、抗CD31抗体 (Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA USA) を用いて免疫染色を行い、肉芽組織中の5視野を観察して、その単位視野面積当たりのCD31陽性血管数を求めた。

2.結果 (1)創部における炎症性サイトカイン産生への影響 図20には、創作成後1、3、5日目の創部における各サイトカイン(TNF−α、IL−1β、IL−6)のタンパク質発現量について調べた結果を示す。図20(A)に示されるように、TNF−αの発現量は、創作成後1、3、5日目のいずれにおいても、デキストリンを投与したコントロール群と比べて、実施例菌末投与群で有意に高値を示した。特に創作成後1日目では、顕著に高い値であった。また、図20(B)に示されるように、IL−1βでは、有意差は得られなかったものの、創作成後1、3、5日目のすべてで、実施例菌末投与群で高くなる傾向が認められた。また、図20(C)に示されるように、IL−6の発現量は、創作成後1、5日目で有意に高値を示した。

以上の結果から、実施例菌末投与群では創部の炎症が促されていることが分かり、更に、その炎症が日数を追う毎に減少していることが分かり、このような炎症の誘導が、実施例菌末投与群による治癒促進効果に寄与しているものと推察された。

(2)再上皮化、肉芽の面積に与える影響 創作成後5、7、10日目に創部を含む皮膚組織を摘出し、HE染色を施し再上皮化と肉芽組織の観察を行った。図21(A)には、創作成後5、7、10日目の再上皮化率の結果を示す。また、図21(B)には、創作成後7、10日目の肉芽面積を測定した結果を示す。

図21(A)に示されるように、再上皮化率は、創作成後5、7、10日目のいずれにおいても、デキストリンを投与したコントロール群と比べて、実施例菌末投与群で有意に増加した。特に創作成後10日目では、顕著に増加した。また、図21(B)に示されるように、実施例菌末投与群では、肉芽面積が、デキストリンを投与したコントロール群と比べて有意に増加し、創作成後10日目においても肉芽面積の増加が顕著であった。

(3)血管新生に与える影響 図22(A)には、創作成後10日目の創部について、摘出した皮膚組織から作成した組織切片に対する、抗CD31抗体による免疫染色の結果を示す。また、図22(B)には、観察した組織切片の単位視野面積当たりのCD31陽性血管数の結果を示す図表である。図22(B)に示されるように、創部の視野単位面積当たりのCD31陽性血管数は、実施例菌末投与群で有意に高値を示した。

以上の結果から、実施例菌末投与群では創部における血管新生が促されていることが分かり、このような血管新生の誘導が、実施例菌末投与群による治癒促進効果に寄与しているものと推察された。

[試験例6]

1.方法 黄色ブドウ球菌 (Staphylococcus aureus, ATCC6538P)ないしは大腸菌 (Escherichia coli, ATCC8739)に対する抗菌性についてin vitroにて評価した。具体的には、実施例菌末を水に100 mg/mLの濃度に懸濁させて、その500μLを円形シャーレに充填した標準寒天培地 (日水製薬株式会社)の培地表面の一面に塗布して、37℃で2時間置き、菌末懸濁液の水分を寒天培地に吸収させた後、黄色ブドウ球菌 (Staphylococcus aureus, ATCC6538P)、又は大腸菌 (Escherichia coli, ATCC8739)を、それぞれ6×10

4、 6×10

5、6×10

6CFU/mLの菌数濃度でスポット状に接種し、37℃で24時間静置後に撮像して菌のスポット面積を測定した。

2.結果 その結果、図23に示されるように、実施例菌末を塗布した寒天培地上では、黄色ブドウ球菌又は大腸菌の菌懸濁液をスポットして37℃で24時間静置したときのスポット面積が、デキストリンを塗布した寒天培地上に比べて有意に減少していた。よって、実施例菌末の作用によって、黄色ブドウ球菌又は大腸菌の生育が有意に抑制されることが明らかとなった。

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