【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は寝たきり状態の患者に発症することのある床擦れないしは褥瘡と呼ばれる症状を防止する効果を高めた褥瘡予防用マットに関するものである。 【0002】 【発明の背景】いわゆる寝たきり状態の高齢者や療養者の患者にとっては、ベッド上で一定姿勢を長時間継続することによる床擦れ等が発症するおそれがあり、このため常に体位変換等の介護を必要としている。 もとより患者に対しこのような充分な体位変換や体の清拭等の介護がなされている場合には、いわゆる床擦れと称される褥瘡の発症がかなりの割合で防止できるものの、現在の公共的ないしは在宅での介護の現状では理想的な人的介護を求めるには限界がある。 【0003】このような現状から装具面での褥瘡発症の予防を図るために、幾つかの提案がなされている。 これらの着眼の多くは褥瘡の多発症部位である例えば仙骨部位等において、圧力が集中していることから、この圧力を軽減するような方向の対応をとること、あるいは褥瘡の発症が通気状態に極めて影響されるという着眼から通気性を確保するという視点での開発等が行われている。 【0004】ところで本発明者は、褥瘡発症の原因を推定してゆく中で、通気性はもとよりであるが、褥瘡多発症部位への圧力集中を排除する方向での改善も極めて有効であるとの知見を得た。 このような観点から見ると、 一般的に寝具用のマット素材として利用されている発泡ポリウレタン等にあっては、その硬度の硬いものは部分的に体位の圧力が集中しがちで、褥瘡の発症を誘発する傾向があり、一方、柔らかい場合には圧力分散の効果があって、仙骨部位等への圧力集中は排除できるものの、 患者の体位が沈み込むとともに屈曲してしまい、他の障害を誘発する等、いずれも二律背反的な技術的不完全さを有していた。 【0005】 【開発を試みた技術的課題】本発明はこのような背景を考慮してなされたものであって、すでに本出願人が実質的に関与、蓄積している、緩衝基材にシリーンゲルを組み合わせ、目的機能を得る技術(特許第2808011 号「乗物用の座席シート」や特開平1−299338号「緩衝材」を更に応用発展させることによって、患者が仰臥姿勢をとった場合でも部分的に体が沈み込むようなことがなく、且つ褥瘡の多発症部位である仙骨部位等にも過度の圧力集中が生じないような褥瘡予防用マットの開発を試みたものである。 【0006】 【課題を解決するための手段】すなわち請求項1記載の褥瘡予防用マットは、発泡マット素材の受圧断面方向中間にシリコーンゲル素材から成る受圧適化部を形成していることを特徴として成るものである。 上記請求項1記載の発明によれば、受圧適化部によりいわば発泡マット素材単体のものに比べ、このものに全体としていわゆる「コシ」を与え、仰臥位での好適な姿勢の維持と、褥瘡発症を誘発する過度の圧力集中の排除とをなし得る。 【0007】また請求項2記載の褥瘡予防用マットは、 前記請求項1記載の要件に加え、前記発泡マット素材は、シリコーンゲル素材から成る受圧適化部を挟んで上下に複数の硬度を異ならせたマット素材層を形成していることを特徴として成るものである。 【0008】更にまた請求項3記載の褥瘡予防用マットは、前記請求項2記載の要件に加え、前記発泡マット素材は、シリコーンゲル素材から成る受圧適化部より上方のものは下方のものに比べて硬度を柔らかく設定していることを特徴として成るものである。 【0009】上記請求項2または3記載の発明によれば、発泡マット素材は、各マット素材層により患者にとって圧力分散させつつ、過度の沈み込みを防止した好適な仰臥姿勢の支持状態が得られる。 【0010】更にまた請求項4記載の褥瘡予防用マットは、前記請求項1、2または3記載の要件に加え、前記シリコーンゲル素材から成る受圧適化部は、シート状であり、且つ適宜の接着強化孔を有し、この接着強化孔の部位において上下をマット素材層が相互に接着していることを特徴として成るものである。 上記請求項4記載の発明によれば、受圧適化部と発泡マット素材が一体化しており、例えば褥瘡予防用マットの使用形態、例えば平板状にしたり、折り曲げたりする場合における一体性を確保し得る。 【0011】更にまた請求項5記載の褥瘡予防用マットは、前記請求項1、2、3または4記載の要件に加え、 前記シリコーンゲル素材から成る受圧適化部は、受圧値に応じその受圧状態を変えていることを特徴として成るものである。 上記請求項5記載の発明によれば、圧力の集中しがちな部位の圧力分散を図りながら患者を支持することができる。 【0012】更にまた請求項6記載の褥瘡予防用マットは、前記請求項3または4記載の要件に加え、前記マット素材層は、シリコーンゲル素材から成る受圧適化部を挟んで上下に一層ずつ形成されており、上方のマット素材層はアスカ硬度(F型)5〜35、下方のマット素材層はアスカ硬度(F型)10〜60、受圧適化部は針入度(JISK2207)50〜250であることを特徴として成るものである。 上記請求項6記載の発明によれば、マット素材層と受圧適化部との性状を好適なものを選択したものであり、患者の仰臥位での好適な姿勢の維持と褥瘡発症を誘発する過度の圧力集中を排除したものである。 【0013】 【発明の実施の形態】以下本発明を図示の実施の形態に基づいて具体的に説明する。 図1において符号Mは褥瘡予防用マットであり、適宜のベッドBに敷き、患者Pが主として仰臥姿勢で寝るようにして用いるものである。 この褥瘡予防用マットMは、発泡マット素材1を適宜充分な厚さ、例えば50mm〜150mm程度の厚さとしたものを用い、更にその受圧断面方向、すなわち垂直断面方向の中間部にシリコーンゲル素材から成る受圧適化部2を設け、更に発泡マット素材1は、その表面にカバーシート3を具えて成る。 もちろん実際に使用するには、このカバーシートの少なくとも上面に更に頻繁に取り替えに対応できるようにシーツ5を組み合わせて用いることが好ましい。 【0014】以下これら各構成部材について説明する。 まず発泡マット素材1は一例として長さ1950mm、 幅830mm、厚さ60mm程度の形状を有するものであって、素材としては発泡ポリウレタン(実施例の表においてはPUフォームと省略記載する)等の発泡樹脂を一例として適用する。 もちろんこの発泡マット素材1の表面等は平板状のもののほか、凹凸状に形成する手法がとり得る。 そしてこの発泡マット素材1は一体一層のものであってもよいが、好ましくは二層のマット素材層1 A、1Bにより構成し、それぞれの硬度を変えるような用い方が好ましい。 例えばマット素材層1Aについては、この種の素材の硬度を表す業界基準となっているアスカ硬度値はF=14程度のものを用い、またマット素材層1Bはそれより硬いものを選択するものであって、 アスカ硬度値はF=35程度のものを用いるものであり、少なくとも前記受圧適化部2より上方のものを柔らかく、下方のものを硬く設定することが好ましい。 もとより前記アスカ硬度の値については、マット素材層1 A、1Bの厚さ寸法との関係等があるが、目的が達成できる範囲で適宜選択が可能である。 またマット素材層1 A、1Bも当然ながら二層に限らず三層以上の複数層であっても差し支えないものであって、例えば後述する実施例4、5ではマット素材層を三層とし、受圧適化部2 の下面にマット素材層1B、1Cを設けている。 【0015】次に受圧適化部2は発泡マット素材1の全面積と同等としてもよいが、主として褥瘡予防用マットMのほぼ中央部に患者Pが仰臥姿勢で寝ることを考慮すると、その体位幅程度でも充分であり、例えば長さ17 50mm、幅700mm、厚み5mm程度の範囲に形成されればよい。 もちろんこの面積を一枚のシート状の材料として受圧適化部2としてもよいが、小片状のシート素材、例えば長さ350mm、幅700mm、厚み5m m程度のシリコーンゲル素材のシート素材を用いてもよい。 そしてこの受圧適化部2を構成するシリコーンゲル素材はジェルテック社製αGEL(アルファゲル:登録商標)であって、例えばJISK2207規格針入度1 70程度の素材が好ましい。 【0016】なお図、1、2に示す実施の形態は、受圧適化部2はシート状のものであり、これが言わばサンドイッチ状にマット素材層1A、1Bの間に設けられた状態をとるものであるが、更に図3に示すように発泡マット素材1と受圧適化部2との一体化を図る目的で、受圧適化部2に例えば数10mm程度、一例として直径30 mm程度の接着強化孔21をあけ、この部位においてマット素材層1A、1Bとが接着されるようにして、言わば受圧適化部2を縫合状態に保持するような形態としてもよい。 このような構成は受圧適化部2を構成するシリコーンゲル素材のシートが、図示のように小片分断化されたものの場合、その配設位置の維持等が積極的に図り得る点で好ましい。 また受圧適化部2は図1、3に示す実施の形態では、同一厚さのシート状のものであるが、 図4に示すように部位によって受圧状態が異なることを考慮し、それに対応して厚さを変化させる等、受圧値に応じた受圧状態を変えられるような構成とすることも可能である。 【0017】更に全体を覆うカバーシート3は適宜通気性が確保できればよいものであり、織り目としてはできるだけ嵩高性を有するものがよい。 従って織りと言うより編みに近い状態のいわゆるラッセル編み等の立体編みのものが適用できる一つの例である。 なおこのカバーシート3そのものは褥瘡予防用マットMから取り外して洗浄可能であることが好ましいが、更に防黴性、抗菌性等の治療機能を更に高めるような処理を施したものを適用することが好ましい。 【0018】更にこのような褥瘡予防用マットMの少なくとも上面に設けるシーツ5はより頻繁な交換ができるようにするものであり、患者Pの状況に応じ、例えば失禁時の対応を考慮して撥水性を有するもの等、適宜のものが選択できる。 【0019】 【実施例】本発明の実施の形態は以上述べたようなものであり、具体的には以下表1〜5に示すような実施例1 〜5を構成した。 【0020】 【表1】 【0021】 【表2】 【0022】 【表3】 【0023】 【表4】 【0024】 【表5】 【0025】これらの実施例によれば、図5に示すように受圧面積Sが例えば従来からの市販マットレスに比べ大きく取れ、且つ褥瘡多発症部位である仙骨部位aにおける圧力が約30mmHg以下と従来に比べ充分低下したものが得られた。 【0026】 【発明の効果】本発明は以上述べたような構成を有するものであり、患者Pの仰臥姿勢での良好な姿勢維持を図りながら全体の圧力分散を図り、且つ部分的な褥瘡多発症部位への圧力集中をも排除し、もって褥瘡発症を予防し得たものである。 【図面の簡単な説明】 【図1】本発明の褥瘡予防用マットの使用状態並びに一部を破断して示す斜視図である。 【図2】同上構成素材を分離して示す斜視図並びに一部拡大断面図である。 【図3】受圧適化部に接着強化孔を形成した他の実施の形態を示す分解斜視図並びに一部拡大断面図である。 【図4】受圧適化部の形態を異ならせた他の態様を示す断面図である。 【図5】使用時における褥瘡予防用マットの受圧面を示す平面図である。 【符号の説明】 1 発泡マット素材 1A マット素材層 1B マット素材層 1C マット素材層 2 受圧適化部 3 カバーシート 5 シーツ 21 接着強化孔 a 仙骨部位 B ベッド M 褥瘡予防用マット P 患者 S 受圧面積 |