難燃性ポリエステル人工毛髪用繊維

申请号 JP2015080734 申请日 2015-04-10 公开(公告)号 JP2018090913A 公开(公告)日 2018-06-14
申请人 株式会社カネカ; 发明人 畑野 貴典;
摘要 【課題】人毛に近い光沢を有するとともに、難燃性、耐熱性及び紡糸安定性に優れるポリエステル系人工毛髪用繊維及びそれを含む頭飾製品を提供する。 【解決手段】ポリエステル樹脂に臭素化エポキシ系難燃剤5〜40重量部、ポリエステル樹脂の分子量調整剤を0.05〜3部、ホスファイト系化合物を0.2〜3部を含む配合物を溶融紡糸により繊維化することで、光沢を抑制して人毛に近い光沢を実現できる人工毛髪用繊維及びそれを含む頭飾製品を提供する。 【選択図】なし
权利要求

ポリエステル系樹脂組成物を含むポリエステル系人工毛髪用繊維であり、 前記ポリエステル系樹脂組成物は、ポリエステル樹脂100重量部に対し、臭素化エポキシ系難燃剤を5〜40重量部、ポリエステル樹脂の分子量調整剤を0.05〜3部、ホスファイト系化合物を0.2〜3部含み、 前記ポリエステル樹脂は、ポリアルキレンテレフタレート及びポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合ポリエステルからなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とするポリエステル系人工毛髪用繊維。前記ポリエステル樹脂の分子量調整剤がテレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ビス(ヒドロキシエチル)から選ばれる1種以上である請求項1記載のポリエステル系人工毛髪用繊維。前記ホスファイト系化合物が、一般式(1)で示されるペンタエリスリトールジホスファイト構造を有することを特徴とする請求項1,2に記載のポリエステル系人工毛髪用繊維。 (式中、R1は炭素数4〜20の直鎖または分岐を有する炭化素基、または、アルキル基、アリール基で置換された芳香族炭化水素基であり、それらはそれぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい)前記ポリエステル系樹脂組成物は、前記ポリエステル樹脂100重量部に対し、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウムよりなる群から選ばれた少なくとも1種以上のアンチモン化合物を0〜5重量部含む請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル系人工毛髪用繊維。前記ポリアルキレンテレフタレートが、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート及びポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレートからなる群から選ばれる少なくとも1種のポリマーである請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステル系人工毛髪用繊維。前記ポリエステル系人工毛髪用繊維において、前記臭素化エポキシ系難燃剤は、下記一般式(2)で表される構造で存在している請求項1〜5のいずれかに記載のポリエステル系人工毛髪用繊維。 但し、上記一般式(2)において、mは1〜1000、R2は、下記一般式(3)、(4)で表される官能基であり、それぞれ同一であってもよく異なっていてもよい。請求項1〜6のいずれかに記載のポリエステル系人工毛髪用繊維を含むことを特徴とする頭飾製品。前記頭飾製品が、ヘアーウィッグ、かつら、ウィービング、ヘアーエクステンション、ブレードヘアー、ヘアーアクセサリー及びドールヘアーからなる群から選ばれる一種である請求項7に記載の頭飾製品。

说明书全文

本発明は、人毛の代替品として使用できるポリエステル系人工毛髪用繊維及びそれを含む頭飾製品に関し、詳細には、人毛に近い光沢を有するとともに、難燃性、耐熱性及び紡糸安定性に優れるポリエステル系人工毛髪用繊維及びそれを含む頭飾製品に関する。

かつら、ヘアーウィッグ、付け毛、ヘアーバンド、ドールヘアーなどの頭飾製品においては、従来、主に人毛が使用されてきた。しかしながら、近年においては、人毛の入手が困難になってきており、人毛から合成繊維を用いた人工毛髪用繊維、例えば、モダクリル繊維などのアクリル系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリエステル系繊維などへの代替が進んでいる。この中でポリエステル系繊維に関しては、その繊維表面の光沢が強く、頭飾製品、特にヘアーウィッグ、かつらなどの人毛に取り付けるような頭髪製品に用いた場合、人毛との光沢の違いにより頭髪全体として違和感があるという問題があった。

そこで、ポリエステル系繊維の光沢を改善する方法が種々検討されてきた。例えば、特許文献1では、光沢を調整する方法としては、ポリエステル系人工毛髪用繊維に有機粒子や無機粒子を含有させることにより繊維の艶を調整する技術が提案されている。これは、微粒子により、繊維表面に突起を形成する技術であり、人工毛髪用繊維の表面に微細な凹みを形成するためには、アルカリ減量処理を行う必要があり、工程が複雑になることやコストが掛かるなどの問題があった。また、有機粒子や無機粒子の添加量によっては、発色性(色相)の低下や、人毛とはかけ離れた触感のがさつきが生じてしまい、人毛に近似した光沢と触感を有するポリエステル系人工毛髪用繊維は得られていなかった。

また、特許文献2では、酸性リン酸化合物を添加によって光沢を抑制する技術が開示されている。酸性リン酸化合物の添加によって、ポリエステル樹脂の粘度を低下させ、同時に配合されている臭素化エポキシ樹脂の分散性を低下させることで、繊維表層部に起伏を発現させることで光沢が低減できると記載されている。ところが、酸性リン酸化合物は、吸湿性が高く、配合物の分量のばらつきが大きく、光沢抑制効果が不安定であるという欠点を有していた。特許文献3では、酸化アンチモンを使用する光沢抑制技術も開示されている。この方法では、酸化アンチモンの存在により、臭素化エポキシ樹脂が反応することで、一定の大きさの凝集体となり、特許文献2と同様に繊維表層部に起伏を発現させると記載されている。しかし、酸化アンチモンの存在で、長時間の紡糸では、糸切れなどの問題が発生し、実際の製造を考えた場合、課題となっていた。

特許文献4、5、6では、リン系化合物の添加も記載されているが、光沢を抑制する効果に関しては、言及されていない。特許文献4では、トリアラルキルホスファイト類の添加が記載されているが、その効果に関しては、記載がない。特許文献5では、耐熱安定剤としてホスファイト化合物の添加が記載されている。また、特許文献6では、ホスファイト化合物がポリエステルと臭素化エポキシ樹脂の反応促進剤として機能しているとの記載はあるが、光沢抑制に関しては、記載がない。

特開2005−42234号公報

国際公開公報2013/180281号公報

国際公開公報2013/172387号公報

特開2005−273032号公報

特開2006−291394号公報

国際公開公報2005/56894号公報

本発明の目的は、人毛に近い光沢を有するとともに、難燃性に優れたポリエステル系人工毛髪用繊維及びそれを含む頭飾製品を提供するものである。

本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、ポリエステル樹脂に臭素化エポキシ系難燃剤5〜40重量部、ポリエステル樹脂の分子量調整剤を0.05〜3部、ホスファイト系化合物を0.2〜3部を含む配合物を溶融紡糸により繊維化することで、光沢を抑制して人毛に近い光沢を実現できることを見出し、本発明に至ったものである。

なお、前記ポリエステル樹脂の分子量調整剤がテレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ビス(ヒドロキシエチル)から選ばれる1種以上であることが好ましい条件である。 また、前記ホスファイト系化合物が、ペンタエリスリトールジホスファイト構造を有することが好ましい条件である。 また、前記ポリエステル樹脂100重量部に対し、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウムよりなる群から選ばれた少なくとも1種以上のアンチモン化合物を0〜5重量部含むことが好ましい条件である。 また、前記ポリエステル樹脂が、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート及びポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレートからなる群から選ばれる少なくとも1種のポリマーであることが好ましい条件である。 また、前記ポリエステル系人工毛髪用繊維において、前記臭素化エポキシ系難燃剤は、下記一般式(2)で表される構造で存在していることが好ましい条件である。 また、前記ポリエステル系人工毛髪用繊維が頭飾製品として使用されることが好ましい。 また、前記頭飾製品が、ヘアーウィッグ、かつら、ウィービング、ヘアーエクステンション、ブレードヘアー、ヘアーアクセサリー及びドールヘアーであることが好ましい使用方法である。

本発明は、難燃性に優れ、かつ、人毛に近い光沢を有するポリエステル系人工毛髪用繊維及びそれを含む頭髪製品を提供することができる。

図1は、本発明の実施例1のポリエステル系人工毛髪用繊維における繊維軸方向に対して平行方向の断面の走査型電子顕微鏡写真(5000倍)である。

以下、本発明を具体的に説明する。 本発明におけるポリエステル樹脂は、ポリアルキレンテレフタレート及びポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合ポリエステルからなる群から選ばれる1種以上である。上記ポリアルキレンテレフタレートとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレートなどが挙げられる。上記ポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合ポリエステルとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレートなどのポリアルキレンテレフタレートを主体とし、他の共重合成分を含有する共重合ポリエステルが挙げられる。本発明において、「主体」とは、80モル%以上含有することを意味する。

上記他の共重合成分としては、例えば、イソフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、パラフェニレンジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スぺリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの多価カルボン酸及びそれらの誘導体、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジヒドロキシエチルなどのスルホン酸塩を含むジカルボン酸及びそれらの誘導体、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、4−ヒドロキシ安息香酸、ε−カプロラクトンなどが挙げられる。

上記ポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合ポリエステルの具体例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートを主体とし、ビスフェノールAのエチレングリコールエーテル、1,4−シクロヘキサンジメタノール、イソフタル酸及び5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジヒドロキシエチルからなる群から選ばれる一種の化合物を共重合したポリエステルなどが挙げられる。

上記ポリアルキレンテレフタレート及び上記ポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合ポリエステルは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートを主体とし、ビスフェノールAのエチレングリコールエーテルを共重合したポリエステル、ポリエチレンテレフタレートを主体とし、1,4−シクロヘキサンジメタノールを共重合したポリエステル、ポリエチレンテレフタレートを主体とし、イソフタル酸を共重合したポリエステル、及びポリエチレンテレフタレートを主体とし、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジヒドロキシエチルを共重合したポリエステルなどを単独又は2種以上組み合わせて用いることが好ましい。

上記ポリエステル樹脂の固有粘度(IV値)は、特に限定されないが、0.6〜1.2であるれば良い。後に記載する分子量調整剤により、分子量を低下させることが本発明のポイントとなるが、入手できる比較的高いIVのものを用いることが望ましい。

本発明における臭素化エポキシ系難燃剤は、原料としては分子末端がエポキシ基又はトリブロモフェノールからなる臭素化エポキシ系難燃剤を用いることができるが、臭素化エポキシ系難燃剤の溶融混練後の構造は、特に限定されず、下記一般式(2)に示す構成ユニットと一般式(2)の少なくとも一部が改変した構成ユニットの総数を100モル%とした場合、80モル%以上が一般式(2)で示す構成ユニットであればよい。例えば、上記臭素化エポキシ系難燃剤の分子末端が一般式(3)、(4)に示すエポキシ基又はトリブロモフェノールであればよく、分子末端がポリエステル成分とエステル基で結合していてもよい。また、臭素化エポキシ系難燃剤の分子末端以外の構造の一部が変化してもよい。例えば、臭素化エポキシ系難燃剤の二級水酸基とエポキシ基が結合して分岐構造となっていてもよく、臭素化エポキシ系難燃剤分子中の臭素含有量が大きく変化しなければ、一般式(2)の臭素の一部が脱離又は付加してもよい。

本発明の臭素化エポキシ系樹脂としては、例えば、一般式(2)に示しているような高分子型の臭素化エポキシ系難燃剤が好ましい。一般式(2)に示しているような高分子型の臭素化エポキシ系難燃剤としては、例えば、阪本薬品工業株式会社製の臭素化エポキシ系難燃剤(商品名「SR−T20000」)などの市販品がある。下記に記載するホスファイト系化合物の添加により、該化合物の分子量を増大させることが本発明のポイントとなるため、分子量が低い場合は、ホスファイト系化合物の添加量を、弊害のない範囲で増やす必要がある。好ましい数平均分子量は、10000以上である。

本発明の臭素化エポキシ難燃剤の使用量は、本発明に記載のポリエステル樹脂100部に対し、5〜40部であり、好ましくは、8〜30部、更に好ましくは、10〜25部である。臭素化エポキシ難燃剤が5部より少ない場合は、光沢低下効果が十分でなく、また、難燃性も不十分となる。40部より多い場合は、マトリックスへの分散が不良となるため、紡糸安定性が低下する。

本発明におけるホスファイト系化合物は、トリアルキルホスファイト、トリアリールホスファイト、アルキルアリールホスファイト類から選択できる。これらのホスファイト類の具体例としては、トリオクチルホスファイト、トリデカニルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ジデカニルフェニルホスファイト、オクチルジフェニルホスファイト、2,2‘−メチレンビス(4,6−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−p−トリル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが挙げられる。

ホスファイト類の添加で本発明中の成分である臭素化エポキシ樹脂の分子量を上昇させる効果があり、分子量が上昇した臭素化エポキシ樹脂がマトリックスとなるポリエステル樹脂中の分散状態が変化することが確認できている。ホスファイト類を添加しない場合は、臭素化エポキシ樹脂は繊維軸方向に高いアスペクト比を有する線形状態で分散しているが、ホスファイトの添加でこのアスペクト比が小さくなり、繊維表面上に凹凸を形成し、光沢が低下すると推察される。但し、後に記載するポリエステル樹脂の分子量調整剤を添加しない場合、その添加量にも依存するが、樹脂粘度が上昇しすぎるため、紡糸が不安定となる場合もある。

ホスファイト類の構造の変化で、この粘度を上昇させる能が変わり、特に、一般式(1)で表されるペンタエリスリトールジホスファイト構造を有するものが、光沢を低下させる能力が高いことが確認できている。そのため、特に、該構造を有する化合物を用いることが、特に有効である。また、溶融紡糸時にホッパーからの添加を考慮した場合、固形物であることが好ましく、その点でも、該構造の化合物が有効である。

これらのホスファイト系化合物の添加量は、ポリエステル樹脂100部に対し、0.2〜3部が好ましいが、先にも記載したが、構造により光沢を低下させる能力が変化するため、化合物により最適な量が存在する。特に、好ましい構造であるペンタエリスリトールジホスファイト構造を有する化合物に関しては、0.2〜1.5部が最適である。0.2部より少ない場合、得られた繊維を用いた人工毛髪では、人毛との光沢に違和感を生じる。3部より多い場合は、樹脂粘度が上昇するため、紡糸が不安定となる。この場合、後に記載するポリエステル樹脂の分子量調整剤で粘度を調整することも可能であるが、臭素化エポキシ樹脂の粗大粒子が生成し、糸切れなどの紡糸安定性を低下させる要因ともなる。

本発明におけるポリエステル樹脂の分子量調整剤としては、比較的低分子量のエステル構造を有する化合物であれば、特に、限定されない。例えば、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジウンデシル、フタル酸ジラウリル、テレフタル酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル、テレフタル酸ビス(ヒドロキシエチル)などのフタル酸エステル類が一般的である。また、該分子量調整剤としては、イソフタル酸、テレフタル酸などのカルボン酸類も有効であり、更に、低分子量のポリエステル樹脂も分子量調整剤として、効果がある。

ポリエステルの分子量調整剤は、ポリエステル樹脂を溶融できる温度で、ポリエステル樹脂と同時に存在することで、エステル交換反応が進行し、マトリックスであるポリエステル樹脂の分子量を低下させる機能を有している。エステル化合物を使用する限り、ポリエステル樹脂の構造を大きく変化させることがなく、弊害のある副反応を伴わないことが利点である。基本的に、低分子量のエステル化合物であることが望ましいが、少量であれば、紡糸安定性に支障がない範囲で、前記、テレフタル酸、イソフタル酸などを使用することも可能である。本発明の成分であるホスファイト系化合物が臭素化エポキシ樹脂の分子量を上昇させ、マトリックスであるポリエステル樹脂中に粒子状に分散させることで、光沢は低下するが、ホスファイト化合物単独では、安定に紡糸できる粘度を超えるため、マトリックスであるポリエステル樹脂の粘度を低下させることは、紡糸工程を安定に進行させるために必要となる。

溶融紡糸のための押出機への安定な投入を考えた場合、固形物であることが好ましく、その点では、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ビス(ヒドロキシエチル)、イソフタル酸、テレフタル酸が好ましい。また、副反応を最低限に抑えることを考えると、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ビス(ヒドロキシエチル)が最も好ましい形態である。 ポリエステル樹脂の分子量調整剤の添加量は、ポリエステル樹脂100部に対し、0.05部から3部が好ましい。本発明に記載のホスファイト系化合物との組み合わせにより、最適な繊維の光沢と紡糸安定性に影響があるが、0.05部より少ない場合は、分子量調整効果が低くなり、また、3部より多い場合は、マトリックスとなるポリエステル樹脂の分子量が低下しすぎるため、糸切れなどの紡糸安定性の低下、機械的特性の低下が顕著となる。

上記ポリエステル樹脂組成物は、更に、ポリエステル樹脂100重量部に対し、アンチモン化合物を0〜5重量部含むことが好ましい。本発明において、アンチモン化合物は、ポリエステル系人工毛髪用繊維の難燃性をより向上させる効果を有し、難燃性を高める必要がある場合に適宜用いられる。

アンチモン化合物は、アンチモン原子を有する化合物であればよく、特に限定されないが、粉体原料としての取り扱いの容易さから酸化物が一般に用いられる。上記アンチモン化合物としては、例えば、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウムなどが挙げられる。これらは1種を用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。但し、これらのアンチモン化合物の中で、三酸化アンチモンは、ポリエステルの重合触媒として使用される例などからもわかるが、ポリエステル樹脂のエステル交換反応を促進する化合物であるため使用には注意が必要である。この化合物に関しては、ポリエステル樹脂の分解を促進させるため、0.5部以下の使用に留めるのが好ましい。ポリエステルの分解を考慮した場合は、アンチモン酸ナトリウムの使用が好ましい。なお、アンチモン化合物は、溶融混練中にハロゲン元素と反応して、別の化合物に変化しても問題はない。また、アンチモン化合物は、紡糸性や発色の観点から、粒子径は小さいことが好ましく、平均粒子径が5μm以下であることが好ましく、2μm以下であることがより好ましい。ここで、平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定法で測定したメジアン径(d50)をいう。

本発明のポリエステル系人工毛髪用繊維は、上記ポリエステル樹脂組成物を通常の溶融紡糸法で溶融紡糸することにより得られる。上記ポリエステル樹脂組成物は、上述した各成分をドライブレンドした後、種々の一般的な混練機を用いて溶融混練することにより得ることができる。上記混練機としては、例えば、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、ニーダーなどが挙げられる。中でも、二軸押出機が、混練度の調整、操作の簡便性の点から好ましい。

本発明のポリエステル系人工毛髪用繊維を、通常の溶融紡糸法で溶融紡糸する場合には、例えば、押出機、ギアポンプ、口金などの温度を250〜310℃とし、上記ポリエステル樹脂組成物を溶融紡糸し、紡出糸条を加熱筒に通過させた後、ポリエステル樹脂のガラス転移点以下に冷却し、50〜5000m/分の速度で引き取ることにより紡出糸条(未延伸糸)が得られる。また、紡出糸条を冷却用の水を入れた水槽で冷却し、繊度のコントロールを行なうことも可能である。加熱筒の温度と長さ、冷却風の温度と吹付量、冷却水槽の温度、冷却時間及び引取速度は、ポリマーの吐出量及び口金の孔数によって適宜調整することができる。

本発明において、得られた紡出糸条(未延伸糸)は熱延伸されることが好ましい。延伸は、紡出糸条を一旦巻き取ってから延伸する2工程法と、紡出糸条を巻き取ることなく連続して延伸する直接紡糸延伸法のいずれの方法によって行ってもよい。熱延伸は、1段延伸法又は2段以上の多段延伸法で行なわれる。熱延伸における加熱手段としては、加熱ローラ、ヒートプレート、スチームジェット装置、温水槽などを使用することができ、これらを適宜併用することもできる。

本発明のポリエステル系人工毛髪用繊維には、必要に応じて、本発明の成分である臭素化エポキシ系難燃剤以外の難燃剤、耐熱剤、光安定剤、蛍光剤、酸化防止剤、静電防止剤、顔料、可塑剤、潤滑剤などの各種添加剤を含有させることができる。顔料を含有させることにより、原着繊維を得ることができる。さらに、繊維表面処理剤、柔軟剤などの油剤を使用し、触感、風合を調整して、より人毛に近づけることができる。

本発明のポリエステル系人工毛髪用繊維は、非捲縮生糸状の繊維である。また、人工毛髪に適するという観点から、繊度が10〜100dtexであることが好ましく、より好ましくは20〜90dtexであり、さらに好ましくは35〜80dtexである。

本発明のポリエステル系人工毛髪用繊維は、人毛に近似する光沢を有し、難燃性、紡糸性も良好である。また、美容熱器具(ヘアーアイロンなど)を用いたカールセット性に優れ、カールの保持性にも優れる。また、160〜240℃で美容熱器具(ヘアーアイロンなど)が使用できる耐熱性を有しており、着火しにくく、自己消火性を有している。また、更に、ダル化剤を添加することで、更に、繊維表面に凹凸を付与することも本発明を妨げるものではない。

本発明のポリエステル系人工毛髪用繊維が原着されている場合、そのまま使用することができるが、原着されていない場合、通常のポリエステル系繊維と同様の条件で染色することができる。染色に使用される顔料、染料、助剤などとしては、耐候性及び難燃性を有するものも使用できる。

本発明のポリエステル系人工毛髪用繊維は、そのまま単独で人工毛髪として用いることができる。或いは、モダアクリル繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ナイロン繊維蛋白質繊維などの他の人工毛髪用繊維素材、人毛、獣毛などの天然繊維と組み合わせて人工毛髪製品として用いることができる。

本発明のポリエステル系人工毛髪用繊維を用いて形成した頭飾製品は、装着した場合でも違和感のない光沢を有し、難燃性、耐熱性に優れる。上記頭飾製品としては、特に限定されないが、例えば、ヘアーウィッグ、かつら、ウィービング、ヘアーエクステンション、ブレードヘアー、ヘアーアクセサリー、ドールヘアーなどに使用可能である。

以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例にのみ限定されるものではない。

実施例、比較例に使用した原料を以下に示す。なお、下記において、特に入手先を指定していない試薬については一般の市販の試薬を使用した。 ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート):BK−2180(三菱化学株式会社製、IV値=0.83) 臭素化エポキシ系難燃剤:SR−T20000(阪本薬品工業株式会社製) アンチモン化合物1(アンチモン酸ナトリウム):SAA(日本精鉱株式会社製) アンチモン化合物2(三酸化アンチモン):PatoxM(日本精鉱株式会社製) ホスファイト系化合物1(ビス(2,6−ジ−t−ブチル−p−トリル)ペンタエリスリトールジホスファイト):PEP36(ADEKA株式会社製) ホスファイト系化合物2(ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト):Ultranox626(アディバント社製) ホスファイト系化合物3(ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト):PEP8(ADEKA株式会社製) 分子量調整剤1:テレフタル酸ビスヒドロキシエチル 分子量調整剤2:テレフタル酸ジメチル

(実施例1〜9、比較例1〜6) 上述した各原料を水分量100ppm以下に乾燥し、下記表1に示す配合量でドライブレンドした。得られたポリエステル樹脂組成物を二軸押出機(日本製鋼所株式会社製、商品名「TEX44」)に供給し、バレル設定温度270℃で溶融混練し、ペレット化した。得られたペレットを水分率100ppm以下に乾燥させた。次いで、乾燥したペレットを、溶融紡糸機(シンコーマシナリー株式会社製、商品名「SV30」)に供給し、バレル設定温度270℃で、扁平比が1.4:1の繭形断面ノズル孔を有する紡糸口金より溶融ポリマーを吐出し、20℃の冷却風により空冷し、100m/分の速度で巻き取って未延伸糸を得た。得られた未延伸糸を、75℃に加熱したヒートロールを用いて3.5倍に延伸し、180℃に加熱したヒートロールで熱処理し、30m/分の速度で巻き取り、単繊維繊度が約60dtex程度のポリエステル系人工毛髪用繊維(マルチフィラメント)を得た。

実施例及び比較例のポリエステル系繊維において、溶融粘度、光沢、紡糸安定性、難燃性及び触感を以下のように評価し、その結果を表1に示した。

(溶融粘度) キャピログラフ(株式会社東洋精機製作所製、型番「キャピログラフ3B」)を用い、テストスピード50mm/min、オリフィス0.05cm、バレル半径0.4775cm、バレル温度280℃の条件にてポリエステル樹脂組成物(ペレット)の溶融粘度(Pa・s)の測定を行った。

(光沢) 長さ30cm、総繊度10万dtexのトウフィラメントを用い、太陽光の下、目視にて以下の基準で光沢の判定を行った。 A:人毛の光沢と同等である。 B:人毛の光沢とほぼ同等である。 C:人毛の光沢と差があり、違和感がある。 D:人毛の光沢との差が顕著である。

(紡糸安定性) 実施例に示した紡糸条件で8時間の紡糸を実施し、糸切れの状況から、以下の基準で紡糸性の判定を行った。 A:糸切れがなく安定に紡糸ができる。 B:安定に紡糸はできるが、糸切れが時折発生し、また、ノズル詰まりが若干発生する。 C:糸切れ、ノズル詰まりが発生して安定して紡糸ができず、繊度斑が著しく大きい。

(難燃性) LOIの値と、燃焼試験によるドリップの有無に基づいて以下の4段階の基準で判定した。 A:ドリップが無く、LOI値25以上 B:ドリップが無く、LOI値23以上25未満 C:ドリップが有り、LOI値23以上 D:ドリップの有無に関わらず、LOI値23未満

〈LOI値の測定〉 LOI値は、JIS L 1091 E法(酸素指数法試験)に準じて測定した。具体的には、フィラメント(長さ16cm、重さ0.25g)の両端を軽く両面テープでまとめ、懸撚器で挟み撚りをかけた。十分に撚りがかかったら、真中で二つに折り撚り合わせた。撚り合わせたフィラメントの両端をセロファン(登録商標)テープで止め、全長7cmになるようにした。得られた試料は、105℃にて60分間前乾燥を行ない、さらにデシケーターで30分以上乾燥させた。乾燥した試料を所定の酸素濃度に調整し、40秒後8〜12mmに絞った点火器で、上部より着火し、着火後点火器を離した。5cm以上燃えるか、3分以上燃え続けた酸素濃度を調べ、同じ条件で試験を3回繰り返し、限界酸素指数(LOI)とした。

(触感) 人毛との比較で官能評価を行い、以下の基準で評価した。 A:人毛と同等の非常に柔らかな風合い。 B:人毛に似た柔らかな風合い。 C:人毛に比べやや硬い風合い。

表1に示した結果からホスファイト系化合物、分子量調整剤を含む実施例では、樹脂特有のぎらつきが抑制された、人毛に近い光沢を示し、紡糸安定性に優れていることが判る。また、高い難燃性と良好な触感を有していた。

一方、ホスファイト系化合物と分子量調整剤を含まない比較例1では、紡糸安定性は良好であるが、高い光沢のため人毛の光沢とは顕著な差が見られた。アンチモン化合物として三酸化アンチモンを使用した比較例2では、人毛に近い光沢を示したが、紡糸安定性は糸切れや異物の生成などが発生し、不良であった。ホスファイト系化合物のみを添加した比較例3では、溶融粘度が高く、紡糸時に糸切れが発生し、繊度斑が激しかった。分子量調整剤のみを添加した比較例4では、光沢が不十分で、硬い触感となった。分子量調整剤を5部添加した比較例6では、溶融粘度がかなり低くなり、紡糸時に糸切れが激しく起こり、サンプルを取得できなかった。

図1に繊維軸方向に対し平行方向の断面のSEM写真(5000倍)を示す。図1において、島状に分散している扁平体が、臭素化エポキシ系難燃剤の凝集体である。通常は、島状態が確認できないレベルで線状に分散しており、プラスチック特有の高い光沢を有する繊維となるが、この島状に分散した凝集体が繊維表面に適度な凹凸を与え、表面光沢を抑制していると考えられる。

QQ群二维码
意见反馈