【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、油脂の乾式分別法に関する。 【0002】 【従来の技術】従来より、SFI(固体脂含有率)の高い油脂は高融点画分及び低融点画分に分別して有効利用されている。 例えば、PKO(パーム核油)は、それを27℃程度まで予備冷却し、多数の晶析トレイに注油して18℃〜21℃で10時間程度静置晶析した後、濾布でラッピングして圧濾(油圧プレス)により固液分離する分別法がマレー半島などにおいて一般に行われている("SPECIALITY FATS VERSUS COCOA BUTTER" By Wong So on 1991)。 以下、この方法を既存法という。 【0003】既存法において、高融点画分の収率を上げるためには静置晶析を十分に行い結晶析出量を多くすることが必要とされるが、反面、濾過(固液分離)が次第に困難になり、良好な品質の結晶を回収するには長時間且つ高圧を作用させて圧搾することが求められるため、 一定の限度がある。 【0004】また、この方法は設備費が安くすむこともあって広く採用されているが、静置晶析工程に多数の晶析トレイ(PKO処理量100t/日の設備では、1万〜2万個にも及ぶといわれる。)を用い、広い室内に放置(棚に載置)するだけの簡単なものであるため、どうしても各晶析トレイの晶析温度が不均一となること、及び晶析温度や晶析時間の管理が困難であるため、製品の品質にばらつきが生じやすいという問題がある。 また、 高圧を作用させるために濾布が傷みやすいことも大きな欠点である。 【0005】また、静置晶析から圧濾工程までをより詳細に考察すると、晶析完了した固状(半可塑性)の油脂を晶析トレイから外し、1つ1つを濾布でラッピングする工程、圧濾装置まで運搬し圧濾装置の中に積層する工程が必要であるが、各工程は自動化が困難であり多くの労働力を要する。 実際、PKO処理量100t/日の設備では70〜80人の要員が必要であると言われており、もはや余程安価な労働力を得られる地域でなければ経済的に成り立たない。 【0006】晶析後の油脂の移送を配管によって行うことができれば、フィルタープレスへの圧入、濾過が可能になるので油圧プレスの代わりにフィルタープレスを採用することが可能である。 フィルタープレスを使用すれば、濾布でラッピングする工程、圧濾装置(油圧プレス)の中に積層する等という労働集約型の工程を省略することができるため、一部で試行され始めている。 しかし、晶析後の油脂を解砕しても十分な流動性を有するスラリーが得られず、配管で輸送することが困難なため、 現実には結晶量の生成を抑え流動性を確保せざるをえない。 すなわち、高融点画分の収率を犠牲にして省力化を行いつつあるのが現状である。 【0007】 【発明が解決しようとする課題】そこで、本発明者はかかる問題点に鑑み、高融点画分の収率を犠牲にすることなくフィルタープレスを採用する大幅に省力化され、かつ品質の安定した油脂を得ることのできる乾式分別法を確立することを目的とした。 【0008】 【課題を解決するための手段】本発明者は、鋭意検討の結果、分別低融点画分の一定量以上をリサイクルして原料油脂と混合することにより、静置晶析において十分な結晶量を確保してもスラリー化が可能となるばかりか意外にも従来の既存法以上の収率を得られること、及び、 静置晶析する油脂を予備冷却した後、大容器中で小分割し、多段配置した晶析トレイに並列的に注入して静置晶析を行うことにより、予備冷却温度を晶析温度の近傍まで冷却できる結果、晶析時間を飛躍的に短縮できるとの知見を得、本発明を完成するに至った。 【0009】すなわち本発明は、原料油脂を静置晶析、 固液分離する油脂の乾式分別法において、静置晶析する油脂を予備冷却した後、大容器中で小分割し、多段配置した晶析トレイに並列的に注入して静置晶析を行うことを骨子とする油脂の乾式分別法である。 【0010】〔原料油脂〕本発明における原料油脂は2 0℃におけるSFIの高い油脂とりわけ20℃におけるSFIが20以上、最適には30以上の油脂が適しており、ラウリン系油脂や、硬化油脂が例示される。 ラウリン系油脂の典型例はPKOである。 この原料油脂と低融点画分を混合するのが良く、分別工程で生成する低融点画分をリサイクルすることができる。 好ましい低融点画分の混合量は、混合油脂の重量に対して30%以上、より好ましくは45%以上である。 混合量が30%未満では後述するスラリー化がうまく行えず、本発明の効果に乏しくなる。 低融点画分の混合量に技術面の上限はないが、著しく高いと(例えば70%を越える量)処理量増加に伴う設備費の上昇を招くので好ましくない。 【0011】尚、原料油に液状油をリサイクルする技術は、特開昭60−108498に記載されているが、これは低SFIの油脂から収率よく液状油を製造する技術であり、固体脂の収率を問題とする本発明の思想とは全く相違するものである。 【0012】〔予備冷却〕原料油脂は、ウインタリングを防止するため、加温融解状態、例えばPKOの場合通常40℃以上でタンクに保管されている。 これを、熱交換器等を用いて予備冷却する。 熱交換器は公知のものを使用することができるが、静置晶析の冷媒温度よりも3 ℃高い温度以下、好ましくは1℃高い温度以下、より好ましくは静置晶析温度(冷媒温度)に等しい温度以下、 さらに好ましくは静置晶析温度(冷媒温度)よりも1℃ 低い温度以下まで冷却する。 予備冷却では明確な結晶析出が起こらない通常静置晶析温度より5℃低い温度以上で比較的短時間に冷却するのが好ましい。 【0013】予備冷却温度を上記のように低い温度にするためには、分別低融点画分のリサイクルが事実上必要である。 リサイクルを行わない場合は、結晶化成分の濃度が高いために連続処理の経過とともに熱交換器中において結晶成長による閉塞を生じ易くなり、安定な冷却操作が難しい。 【0014】〔静置トレイへの注油〕予備冷却した原料油を晶析トレイに注油する。 各晶析トレイへの注油はできるだけ短時間かつ均質な結晶分布で行う必要があるため、大容器中で小分割し、多段配置した晶析トレイに並列的に注入する。 具体的には、予備冷却した原料油を大容器中で垂直方向の隔壁(仕切板)により小分割し、これを多段配置した晶析トレイに並列的に注入する。 【0015】より具体的には、例えば、図1に示すような分注装置を用いて行う。 大量容器(1)内部は底から一定の高さで連通した仕切板(2)で垂直に仕切られ、 上部が注油可能なように開口した数個の小部屋を設けている。 原料油は被分注液供給口(3)より大量容器中に導かれるが、小部屋上部からの溢れによって各小部屋に均等に満たされ小分割される。 原料油の供給を停止した後、必要に応じ小部屋の1つの底部に設けた計量用抜出ライン(4)より、当該小部屋内の原料油レベルが当該小部屋の仕切板上端以下になるまで原料油を当該計量用抜出ラインから抜出すことを行えば、原料油の分割量を正確に小部屋の容積に制御することができる。 【0016】その後、小分割された原料油は、各小部屋底部に接続された注油管(5)を通じて同時的、並列的に各晶析晶析トレイに注入される。 同時的、並列的な注入のためには、各注油管に機械的若しくは電子的手段によって同時的、並列的に開閉可能なバルブ(6)を設けておくと良い。 本発明の方法によれば、短時間に一定量の原料油を均質な状態で各晶析トレイに注油することが容易となる。 【0017】1本の注油管により複数の晶析トレイに順次注油するような大量処理方法(最上段の晶析トレイに注油しつつ、上段晶析トレイからの溢れによって油脂を順次、次の下段の晶析トレイに送る方法が既存法で採用されている。)では時間を要するため途中で晶析が起こり、品質が変動したり、はなはだしくは注油自体が困難になる。 【0018】〔静置晶析〕注油完了後、冷媒(PKOを処理する場合は18℃〜21℃程度の温度)を用いて静置晶析を行うが、多段棚に配架した晶析トレイ側面より一定の温度に調整したエアーを送風して行うことにより、そのまま静置晶析を行う場合よりも安定した晶析を行うことができる。 冷媒は、エアーに限定されるものではないが、特に液体の冷媒を用いる場合は、熱伝導度が大きいため、より精密な温度制御が必要となる。 また、 後述するように晶析時間を短縮できる結果、晶析トレイをコンベアーに載置する連続的晶析を行ってもそれほど大規模な設備を必要としない。 【0019】静置晶析は、PKOの分別においては低融点画分の沃素価が23程度以上になるまで行う。 沃素価が25以上になるまで晶析を行っても後の解砕によるスラリー化が可能であるため、高いPKS(高融点画分) 収率を得ることができる。 晶析時間は、既存法で一般に10時間程度であるのに対して、本発明における晶析時間は通常4〜6時間程度に短縮することができる。 液体成分が多い系であるため対流による結晶熱の放出効率が向上すること、及び予備冷却温度が低いことによる結晶核の早期生成が相乗的に作用するからと考えられる。 【0020】〔解砕〕晶析トレイから、油脂を取り出しクラッシャーに通す。 クラッシャーを通過した油脂は流動性を有し(スラリー)、配管によって圧搾工程へ送ることができる。 解砕は特開平2−14290号に記載されている方法など公知の方法で行うことができる。 【0021】〔圧搾、固液分離〕固液分離方法は、公知の方法を採用することができるが、前述のように油脂はスラリー化しているため、配管で輸送することができ、 高能率で自動化に有利なフィルタープレスを用いることができる。 尚、低融点画分を原料油にリサイクルするため処理量はその分増大するが、低融点画分は液体成分であるため濾布を容易に通過し、処理時間には殆ど影響を与えない。 【0022】固液分離工程によって原料油脂は高融点画分と低融点画分に分別される。 高融点画分の収率は既存法よりも高く、かつ、品質も同等以上のものを得ることができる。 【0023】 【実施例】以下の実施例及び比較例において%は重量基準を表す。 〔実施例1〕40℃まで加熱した原料油(RBD−PK O(20℃におけるSFI=39))約1000Lをジャケット付予備冷却器に投入し、14℃の冷水を通水して21℃まで撹拌冷却した後、図1に示す分注装置を用いて75Lづつ11の晶析トレイに分注を行った。 【0024】分注装置の外形は約1200mm(L)× 1100mm(M)×900(H)mmの直方体の大型容器であり、内部は仕切壁によって12等分された小部屋(小部屋1つの容量=75L)を設けてある。 まず、 予備冷却した原料油を大型容器開口部の定位置に設けられた3(被分注液供給口)から分注装置内へ導入した。 導入量は、小部屋の容量合計の110%であり、導入完了までの所用時間は、3分であった。 この結果、12に区分された小部屋は全て原料油で満たされた。 【0025】導入完了後、特定の1小部屋底部に設けられた2(計量用抜出ライン)より、原料油の抜出を開始し、抜出し用の小部屋の原料油レベルが隔壁上部より下になった後(抜出を開始してから1分経過後)、他の1 1の小部屋から原料油の分注を開始した。 【0026】各小部屋底部に設けられた分注ラインは、 晶析棚に一定の間隔で載置した11個のステンレス製晶析トレイ(100cm(L)×150cm(W)×8c m(H))に接続されており、原料油はこの晶析トレイに注がれる。 分注開始から分注完了までの所用時間は4 分であった(1分30秒でほぼ完了するが、原料油の粘性による液だれを防止するために長めに設定した)。 尚、抜出ラインから抜出した油は原料油タンクに戻され、工業的生産においては、次の回分処理の対象となる。 【0027】以上のように、短時間(3+1+4=8 分)で原料油を分注することができるため、原料油の予備冷却温度をかなり低く設定しても、経時的変化に伴う不都合(結晶の析出による配管の目詰まり等)を回避することができた。 【0028】21℃の冷風を3m/sで晶析トレイの上下面に供給して4時間強制冷却を行った後、固化した油を解砕してスラリー化したうえで濾室厚15mmのフィルタープレスに圧入した。 最大30Kg/cm2で30 分間圧搾して固液分離を行った後、PKSとPKL(低融点画分)の沃素価の分析を行った結果、それぞれ、 6.98、22.7であった(表1)。 収率が29.9 と低かったので、上記と同様の処理を晶析時間を6時間にして実施した結果、収率は33.1に向上した。 しかし、スラリーの流動性は低く、なんとかフィルタープレスは使えたものの、工業的スケールでフィルタープレスを利用して操作することは困難であると思われる。 【0029】〔実施例2〕40℃まで加熱したRBD− PKO 48.8〓とPKL 26.2〓を混合してジャケット付予備冷却器に投入し、14℃の冷水を通水して21℃まで撹拌冷却した後、実施例1と同様の操作を行った結果を表1に示す。 【0030】〔実施例3、比較例3〕予備冷却温度の違いによる比較を行った。 すなわち、40℃まで加熱したRBD−PKO 37.5〓とPKL 37.5〓を混合してジャケット付予備冷却器に投入し、14℃の冷水を通水し、それぞれ20℃、22℃、24℃、27℃まで撹拌冷却した後、実施例1と同様の操作を行った結果、PKSの沃素価はそれぞれ6.52、6.55、 6.51、7.52、PKLの沃素価はそれぞれ25. 6、25.5、25.2、24.6であった。 (表1)。 予備冷却温度が低いほど晶析時間を短縮できることがわかる。 【0031】〔実施例4〕液体部混合比を70%にして実施例1と同様の操作を行った。 結果を表1に示す。 尚、参考値として既存法による値(当社推測)を同表に示す。 【0032】〔効果〕低融点画分をリサイクルすること及び予備冷却温度を低くすることによって、フィルタープレスの採用による省力化が可能で、品質の安定化した製品を得ることができる。 しかも、PKS収率を従来法以上に向上させることが可能となる。 【0033】 【表1】 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 液体部 予備冷却 晶析 PKS PKS PKL 混合比 終点油温 時間 沃素価 収率 沃素価 (%) (℃) (時間) (%) −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 実施例1 0 21 4 6.98 29.9 22.7 〃 0 21 6 7.19 33.1 23.5 実施例2 35 21 4 6.22 30.9 23.5 〃 35 21 6 6.55 35.9 25.0 実施例3 50 20 6 6.52 39.8 25.6 〃 50 22 6 6.55 39.1 25.5 〃 50 24 6 6.51 36.4 25.2 比較例3 50 27 6 7.52 32.8 24.6 実施例4 70 19 1.5 6.61 30.7 25.0 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 参考値 0 27 10 7.0-7.5 32.0 23.0 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 【0034】 【図面の簡単な説明】 【図1】図1は、分注装置を模式的に示したものである。 【符号の説明】 1 大型容器外壁 2 隔壁 3 被分注液供給口 4 計量用抜出ライン 5 分注後ライン 6 バルブ ───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 桑原 有司 大阪府泉佐野市住吉町1 不二製油株式会 社阪南工場内 |