【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する分野】本発明は、環状エステルの精製方法に関する。 環状エステルとは、ジカルボン酸とジオールの縮合物、もしくは、ヒドロキシカルボン酸の2分子が、脱水縮合して環状となったものであり、生分解性ポリマーや医療用ポリマー等を含むポリエステルやポリエステルアミド等の出発原料として使用することができる。 【0002】 【従来の技術】ヒドロキシカルボン酸のオリゴマーを解重合して、その環状エステルを製造することは公知の技術である。 従来の製造法で得られる粗環状エステルの形態は、溶媒が付着していない結晶と、高沸点有機溶媒が付着した結晶の二通りある。 これらの粗環状エステルは、それぞれ適切な方法により精製される。 【0003】上記の粗環状エステルの結晶を得る方法として、以下のような各種の方法が提案されている。 【0004】米国特許第2668162号には、グリコール酸オリゴマーを粉末状に砕き、極少量ずつ反応器に供給しながら、超真空下で、加熱して解重合させ、生成したガス状の環状エステルを冷却・固化させて捕集する方法が開示されている。 【0005】米国特許第4727163号には、多量のポリエーテルを基体とし、それに少量のグリコール酸をブロック共重合させて、共重合体とした後、該共重合体を減圧下で加熱・解重合して、生成したガス状の環状エステルを冷却・固化させて捕集する方法が開示されている。 【0006】米国特許第4835293号には、グリコール酸オリゴマーを加熱して融液となし、該融液の表面に窒素ガスを吹き込んで表面積を大きくし、その表面から蒸発する環状エステルを窒素気流に同伴させたのち、 当該気流を冷却し環状エステルを固化させて捕集する方法が開示されている。 【0007】米国特許第5326887号及びWO92 /15572A1には、グリコール酸オリゴマーを固定床触媒上で加熱・解重合して、ガス状の環状エステルを得て冷却・固化させて捕集する方法が開示されている。 【0008】このようにして各種の方法により得られた粗環状エステルの結晶の不純物(主に、使用したヒドロキシカルボン酸のオリゴマー及びヒドロキシカルボン酸それ自体)からの精製は、従来、種々異なる溶媒、例えばイソプロパノール(欧州特許第261572号)、t −アミルアルコール(独国特許公開第1808939 号)、四塩化炭素(独国特許公開第123473904 号)、酢酸エチル(米国特許第4727163号)、エーテル(特開平6−172341号)からの再結晶により行われている。 再結晶で得られた結晶スラリーは、濾過等の固液分離を行いながら、再結晶に使用した溶媒或いは他の洗浄液により洗浄した後、乾燥により溶媒或いは洗浄液を除くことによって精製結晶を得る。 【0009】の粗環状エステルの結晶を得る方法として、特開平9−328481には、ヒドロキシカルボン酸オリゴマーと、230〜450℃の範囲内の沸点を有する少なくとも一種の高沸点有機溶媒とを含む混合物を、常圧下または減圧下で、該オリゴマーの解重合が起こる温度に加熱して、該オリゴマーの融液相の残存率が0.5以下になるまで、該オリゴマーを該溶媒に溶解させ、同温度で更に加熱を継続して該オリゴマーを解重合させ、生成した環状エステルを高沸点有機溶媒と共に留出させ、留出物から環状エステルを回収する方法が開示されている。 【0010】この方法によれば、環状エステルは230 〜450℃の範囲内の沸点を有する少なくとも一種の高沸点有機溶媒と共に留出する。 この留出物からの環状エステルの回収は、当該留出物を冷却し、必要に応じてさらに環状エステルの非溶媒を添加し、環状エステルを固化・析出させたものを固・液分離して行う。 このようにして得られた環状エステル結晶には、通常の乾燥では除くことが困難な高沸点有機溶媒が付着しており、乾燥結晶を得るためには、この付着液を取り除く事が必須である。 【0011】この環状エステル結晶の付着液を除く従来の方法は、得られた結晶をシクロヘキサン、エーテル等の低沸点洗浄液で置換・洗浄した後、乾燥により洗浄液を除くことにより行われる。 乾燥は結晶の融点以下で行う。 また環状エステルは昇華性であるため、乾燥時に減圧度を高くし過ぎると結晶のロスが大きくなる。 さらに必要に応じて、酢酸エチル等により再結晶を行う場合もあり、その際やはり付着溶媒は乾燥により除かれる。 このように高沸点有機溶媒の付着した環状エステル結晶の精製を行う従来の方法では、付着液を置換するため、新たな低沸点の洗浄液が必須となる。 その結果、洗浄廃液は、高沸点有機溶媒と低沸点洗浄液の混合液となる。 【0012】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このような上記の粗環状エステルに対する精製方法は、溶媒或いは洗浄液を結晶表面から除くための乾燥工程、乾燥工程から放出される溶媒或いは洗浄液の冷却回収工程、 回収された溶媒と洗浄液の混合液の蒸留分離工程と工程が煩雑である。 乾燥は結晶の融点以下で行う。 また環状エステルは昇華性であるため、乾燥時に減圧度を高くし過ぎると結晶のロスが大きくなる。 また、使用する溶媒、例えばアルコールは、環状エステルと反応しエステル交換反応を起こし得る。 また、結晶内部に取り込まれた不純物を除くためには、数回の再結晶を必要とする。 【0013】又、の粗環状エステルの結晶の上記精製方法は、洗浄液を結晶表面から除くための乾燥工程、乾燥で除かれた洗浄液の回収工程、高沸点有機溶媒と低沸点洗浄液を含む洗浄廃液の精製・回収工程と工程が煩雑である。 また、使用する洗浄液、例えばアルコールは、 環状エステルと反応しエステル交換反応を起こし得る。 また、結晶内部に取り込まれた不純物を除くためには、 数回の再結晶を必要とする。 【0014】本発明は、,のいずれの粗環状エステルに対しても適用でき、粗環状エステルの結晶を簡便な方法で精製できる方法を提供することを目的とする。 【0015】 【課題を解決するための手段】本発明は、上記の目的を達成する手段として、縦方向に延びる筒型の精製塔の下部に原料結晶の仕込み口と上部に精製後の結晶を製品として取り出すための取出口とをそれぞれ設け、原料結晶の攪拌のための撹拌装置を上記精製塔内に配置し精製塔を用いて、精製が行われる。 【0016】本発明は、環状エステルの結晶の精製方法において、縦方向に延びる筒型の精製塔の下部に設けられた原料結晶の仕込口へ原料結晶としての粗環状エステルを投入し、粗製塔に配設された攪拌装置で原料を上昇させながら攪拌し、精製塔内での精製結晶成分の降下融解液と上昇原料結晶との向流接触により原料結晶を精製し、上記精製塔の上部に設けられた取出口から精製後の結晶を製品として取り出すことを特徴としている。 【0017】かかる本発明にあっては、原料結晶の精製は精製塔内での精製結晶成分の降下融解液と上昇原料結晶との向流接触によりなされる。 すなわち、環状エステル結晶と結晶の融解液を向流で接触させて、結晶の表面に付着している母液及び不純物を洗い流すと共に結晶内部に取り込まれてしまった母液及び不純物を発汗作用により精製を行う方法を、本願発明者は見出した。 【0018】 【発明の実施の形態】 環状エステル環状エステルとは、ジカルボン酸とジオールの縮合物、 もしくは、ヒドロキシカルボン酸の2分子が、脱水縮合して環状となったもので、ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、グリコール酸、乳酸、3−ヒドロキシ酪酸、4-ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ吉草酸、3− ヒドロキシカプロン酸などがあげられる。 【0019】かかる環状エステルを精製して製品として得るためには、既述した二種の粗環状エステル、すなわち、溶媒を含まない環状エステル結晶、又は高沸点有機溶媒が付着した環状エステル結晶を精製する。 精製に際しては、いずれの粗環状エステルにあっても、下述する図1そして図2に示されるいずれの形式の装置を使用することが可能である。 【0020】先ず、精製方法に先立ち、両形式の装置について説明する。 【0021】図1の装置において、精製塔1は、図1 (A)に見られるように、縦型筒状をなしており、内部に攪拌装置2が配設されている。 攪拌装置2は、図1 (B)のごとく、縦に延びる回転軸体2Aを二本有し、 各回転軸体2Aに複数の攪拌翼2Bが取りつけられている。 二本の回転軸体2Aは、同方向に回転してもあるいは逆方向に回転していてもよい。 いずれにしても、攪拌翼2Bは回転軸体2Aの回転時に上昇流を形成するような水平面に対しての傾角を有していることが好ましい。 二つの回転軸体2Aに取りつけられた攪拌翼2Bは、本実施形態では図1(B)に見られるように、上方から見たときに両方の攪拌翼2Bの回転面が一部重なり合うようになっている。 この重なり合う領域にて攪拌能力は向上する。 【0022】上記精製塔1の下部には仕込口3が設けられており、ここから原料結晶が供給されるようになっている。 この仕込口3には、図示していないが、スクリューコンベア等の供給装置が設けられていて、原料結晶を精製塔1内へ押し込むことが可能となっている。 【0023】上記精製塔1の上部には、精製後の結晶を製品として取り出すための取出口4と、精製結晶成分の融解液を外部から精製塔内へ供給するための融解液供給手段5とが設けられている。 上記融解液供給手段5は、 供給管の形態をなしており、温度等の状況が予め正確に判っている融解液が所定量だけ供給されるようになっている。 【0024】さらに、上記精製塔1内の下部に濾過装置6が配設されていると共に、底部には不純物排出口7が設けられている。 【0025】次に、他の形式の装置としての図2装置を説明するが、ここでは、図1装置と共通部位には同一符号を付してある。 【0026】この図2の装置は、下部に不純物を含む被精製物質としての原料粗結晶を精製塔1内に供給する手段として、仕込口3内にスクリューコンベア3Aを有し、塔上部に配設された加熱融解器14により結晶を融解させ、その融解液と精製塔1内を上昇してくる結晶と向流接触させながら、精製された結晶を上部の取出口4 から取り出す直立型精製装置を成している。 精製塔1内には回転軸体2Aに攪拌翼2Bを取り付けた攪拌機2が設けられ、この攪拌機2は、上記仕込口3より供給された結晶を解きほぐしながら上昇させる機能を有している。 【0027】次に、かかる装置を用いての粗環状エステルの精製方法を説明する。 既述の,の両種の粗環状エステルはいずれの装置を用いても可能で、同様に精製されるが、,のそれぞれについて、説明することとする。 【0028】 溶媒を含まない環状エステル結晶ヒドロキシカルボン酸オリゴマーを解重合して得られた溶媒を含まない環状エステル結晶は、そのまま、精製塔1の下部に設けられた仕込口3からスクリューコンベア等の供給装置により精製塔1内へ供給される。 供給された結晶は、複数の攪拌翼2Bによって攪拌されながら精製塔1内を上昇する。 結晶の一部は精製塔1内上部の結晶融解器14により融解され或いは供給手段5により外部から供給される融解環状エステルと共に降下融解液となり、上昇原料結晶との向流接触により結晶表面に付着している不純物を洗い流すと共に結晶内部に取り込まれてしまった不純物を結晶の発汗作用により精製を行う。 精製された結晶は、精製塔1の上部取出口4から排出され、不純物は精製塔1下部の濾過装置6を通して不純物排出口7から排出される。 【0029】 高沸点有機溶媒が付着した環状エステル 結晶高沸点有機溶媒中でヒドロキシカルボン酸オリゴマーの解重合を行い、高沸点有機溶媒と共に環状エステルを留出させたものを環状エステルの融点以下に冷却して得られた環状エステル結晶/高沸点有機溶媒スラリーは、固液分離を行って高沸点有機溶媒が付着した環状エステル結晶とした後、そのまま、精製塔1の下部に設けられた仕込口3からスクリューコンベア等の供給装置により精製塔1内へ供給される。 この際、供給中の上記結晶物質の含有率は、50%以上が望ましい。 供給された結晶は、攪拌翼2Bによって攪拌されながら精製塔内を上昇する。 結晶の一部は精製塔1内上部の結晶融解器14により融解され或いは供給手段5により外部から供給される融解環状エステルと共に降下融解液となり、上昇原料結晶との向流接触により結晶表面に付着している高沸点有機溶媒及び不純物を洗い流すと共に結晶内部に取り込まれてしまった高沸点有機溶媒及び不純物を結晶の発汗作用により精製を行う。 精製された結晶は、精製塔1上部取出口4から排出され、高沸点有機溶媒及び不純物は精製塔1下部の濾過装置6を通して不純物排出口7から排出される。 【0030】 【実施例】内径75mm、高さ2000mmの2つの円筒を重ねあわせた塔を使用した図2の装置にグリコリド91.1質量%、ジブチルフタレート(沸点340℃) 8.9質量%の混合物を22.1kg/Hrで仕込み、 18.3kg/Hrの純度99.99%以上のグリコリドを得ることができた。 【0031】 【発明の効果】以上のように、本発明は、縦方向に延びる筒型の精製塔の下部に設けられた原料結晶の仕込口へ原料結晶としての粗環状エステルを投入し、粗製塔に配設された攪拌装置で原料を上昇させながら攪拌し、精製塔内での精製結晶成分の降下融解液と上昇原料結晶との向流接触により原料結晶を精製し、上記精製塔の上部に設けられた取出口から精製後の結晶を製品として取り出すこととしたので、次のような効果を得る。 (1) 従来の精製方法のように、新たな精製溶媒或いは洗浄液を必要としない。 (2) 新たな精製溶媒或いは洗浄液を使用しないので、設備を簡素化できる。 高沸点有機溶媒の洗浄、高沸点有機溶媒と洗浄液との蒸留分離、精製結晶に付着している洗浄液を除去するための乾燥、乾燥装置から放出される洗浄液の冷却回収等の工程、更にそれらの各装置に付属する多くの設備(ポンプ、貯槽、配管等)が不要となる他、電気、スチーム、冷却水等の省エネ、更にそれらの削減が可能となる。 (3) 不純物が結晶内部に含まれ、数回の再結晶が必要となる場合でも容易に高純度の結晶が得られる。 (4) 連続処理なので、操業管理が易しい。 (5) 製品としてのコスト低減ができる。 【図面の簡単な説明】 【図1】本発明を実施するための精製装置の一例を示し、図1(A)は縦断面図、図1(B)は図1(A)におけるA−A拡大断面図である。 【図2】本発明を実施するための精製装置の他の例を示す縦断面図である。 【符号の説明】 1 精製塔 2 攪拌装置 3 仕込口 4 取出口 ───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 大田原 健太郎 福島県いわき市錦町江栗2丁目76−2 Fターム(参考) 4C022 JA04 |