イオンビーム用の荷電変換膜

申请号 JP2017512574 申请日 2016-04-14 公开(公告)号 JPWO2016167311A1 公开(公告)日 2018-02-08
申请人 株式会社カネカ; 发明人 村上 睦明; 立花 正満; 多々見 篤;
摘要 大強度ビーム使用下においても損傷や放射化を受け難く、高い耐久性を有し、10μm未満の膜厚制御が容易な、イオンビーム用の荷電変換膜を提供することを目的とする。本発明は、炭素成分が96 原子 %以上、25℃における膜面方向の熱伝導率が800W/mK以上のイオンビーム用の荷電変換膜の単層体又は前記イオンビーム用の荷電変換膜の積層体であり、厚さが10μm未満、100nm以上であるイオンビーム用の荷電変換膜である。
权利要求

炭素成分が96原子%以上、25℃における膜面方向の熱伝導率が800W/mK以上のグラファイト質膜の単層体又は前記グラファイト質膜の積層体であり、厚さが10μm未満、100nm以上である事を特徴とするイオンビーム用の荷電変換膜。炭素成分が98原子%以上、25℃における膜面方向の熱伝導率が1000W/mK以上のグラファイト質膜の単層体又は前記グラファイト質膜の積層体であり、厚さが5μm以下、100nm以上である事を特徴とする、負極性素、水素または炭素のイオンビーム用の荷電変換膜。前記イオンビーム用の荷電変換膜の膜面方向の引張強度が5MPa以上であり、膜面方向の熱膨張率が1×10-5/K以下である請求項1または2に記載のイオンビーム用の荷電変換膜。前記イオンビーム用の荷電変換膜の面積が4cm2以上である請求項1〜3のいずれかに記載のイオンビーム用の荷電変換膜。前記イオンビーム用の荷電変換膜は、高分子フィルムを、不活性ガス雰囲気下、2400℃以上の温度で熱処理して得られる請求項1〜4のいずれかに記載のイオンビーム用の荷電変換膜。前記高分子フィルムが、ポリアミド、ポリイミド、ポリキノキサリン、ポリパラフェニレン、ポリオキサジアゾール、ポリベンズイミダゾール、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾール、ポリキナゾリンジオン、ポリベンゾオキサジノン、ポリキナゾロン、ベンズイミダゾベンゾフェナントロリンラダーポリマーおよびこれらの誘導体から選択される少なくとも一種である請求項5に記載のイオンビーム用の荷電変換膜。前記高分子フィルムが、芳香族ポリイミドである請求項6に記載のイオンビーム用の荷電変換膜。前記芳香族ポリイミドが、ピロメリット酸無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物のいずれか、または両方を原料に用いて得られるポリイミドである請求項7に記載のイオンビーム用の荷電変換膜。前記芳香族ポリイミドが、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミンのいずれか、または両方を原料に用いて得られるポリイミドである請求項7または8に記載のイオンビーム用の荷電変換膜。請求項1〜9のいずれかに記載のイオンビーム用の荷電変換膜に、蒸着法又はスパッタ法によって形成された炭素質層を1枚以上積層させたイオンビーム用の荷電変換膜。請求項1〜9のいずれかに記載のイオンビーム用の荷電変換膜の製造方法であって、 高分子フィルムを、不活性ガス雰囲気下、2400℃以上の温度で熱処理することを特徴とするイオンビーム用の荷電変換膜の製造方法。

说明书全文

本発明はイオンビームの荷電変換の目的に用いられる荷電変換膜であって、具体的には膜にイオンビームを照射して、イオンから電子を取り除き、より価数の高いイオンビームを生成するためのイオンビーム用の荷電変換膜である。本発明は、大強度ビーム使用下においても非常に高い耐久性を有するイオンビーム用の荷電変換膜に関する。

加速器により作製される大強度ビームは生命、素粒子物理の現象解明に重要な役割を担っており、国内外でのビーム大強度化に向けた研究開発が活発になっている(非特許文献1)。

この大強度ビームとして最も良く使用されるビームの一つが陽電子ビームである。陽電子ビームは素の原子核である「陽子」を数多く束ね、光速近くまで加速して光線のように飛ばしたものである。この陽電子ビームは、線形加速器により加速されたH-ビームが小型シンクロトロンの入射部に設置する荷電変換膜でH+ビームに荷電変換後、小型シンクロトロン、大型シンクロトロンで順次加速されて大強度陽電子ビームとなる。この陽電子ビームはニュートリノ実験、構造解析実験、医療(陽電子線治療)などの各種実験に使用される。

原子のイオンビーム用の荷電変換膜は入射ビームのみならず周回ビームにもさらされるため、ビーム照射やビームによる発熱(1500K以上)によってダメージを受け、変形や破損が起こり、事実上荷電変換膜の耐久性(寿命)がビームラインの連続稼動時間を決める重要な要素である。さらに荷電変換膜は大強度ビームの照射により放射化するため、荷電変換膜を取り替える際に放射線被曝する恐れがあった。このため、高い荷電変換効率を持ち、大強度ビーム照射における耐久性に優れ、かつ放射化しない荷電変換膜の開発が切望されている(非特許文献2)。

この様なイオンビーム用の荷電変換膜としては炭素質膜が最も広く使用されている。炭素質膜をイオンビーム用の荷電変換膜として使用する場合、所望の荷電変換効率を得るためには、元のビームの電荷、荷電変換後のビームの電荷、ビームの種類によって、その望ましい炭素膜の厚み範囲が決まっており、望ましい範囲より薄くても、厚くてもビームの荷電分布、荷電効率に影響を及ぼす(非特許文献1)。これは、大強度ビームを、目的とする価数に変換するためには、ある特定の単位面積当たりの炭素重量が必要となるためである。例えば、炭素(カーボンビーム)の荷電変換膜で必要な炭素重量は、膜の単位面積当たり0.02mg/cm2以上、2.0mg/cm2以下であるとされている。この単位面積当たり重量範囲外の炭素膜を使用した場合はビーム価数の分布に偏りなどが発生すると言われている。以上のことから炭素質荷電変換膜の高い変換効率を実現するためには、0.02mg/cm2以上、2.0mg/cm2以下の範囲で自在に炭素膜の膜厚を制御できることが重要となる。

酸素(原子番号8)より小さな原子番号のイオンビーム用の荷電変換膜に用いる炭素膜の密度は、1.6g/cm3以上で2.26g/cm3以下である事が好ましく、例えば密度が2.0g/cm3である場合、上記の好ましい単位面積当たりの重量範囲を満たすためには、厚さが10μm未満、100nm以上である事が好ましい。例えば、プロトンビームの場合、H-からH+への変換効率を99.7%とするには約1.5μmの厚さの炭素膜が理想的であると考えられている。この様に、様々なビームラインの要望に応えられ、種々の厚みに対応でき、さらに十分な耐久性を備えた荷電変換膜用炭素膜が必要とされていた。

この様な荷電変換膜としては、従来アーク放電などの方法によって蒸着した炭素膜(特許文献1)や炭素とホウ素をハイブリッドした荷電変換膜(特許文献2)が報告されている。しかしながら、炭素膜は、例えば高強度の陽電子ビームの照射により極めて短時間で破損する事が知られている。

一方、炭素/ホウ素ハイブリッド型荷電変換膜は従来の炭素膜に比べて大幅な長時間の寿命を実現した膜であるが、それでも寿命特性は不十分である。そのため複数枚の荷電変換膜を、真空中を破らずに入れ替えるなどの工夫によってかろうじて一年間の連続使用を可能にしているのが現状である。さらに炭素/ホウ素のハイブリッド膜は物理的強度が弱いことに加え、製膜の際使用する試薬に含まれるナトリウムなどの不純物がビーム照射により放射化するなどの深刻な問題も抱えている(非特許文献2)。

この様な荷電変換膜の課題を解決するための試みが行なわれており、その一つにカーボンナノチューブ(CNT)複合膜(特許文献3)がある。しかしながら、この複合膜は機械的な強度が高くなるという特徴を持つものの、耐熱性が低く長時間の運転により破損することがあり、その度に加速器の運転を停止する必要があるため、その信頼性が課題であった(非特許文献3)。また、CNTを含む複合膜はCNTが鉄やケイ素を含むため、ビーム照射によって放射化し易く、放射線管理区域よりの持ち出し可能になるまでに数ヶ月を要するという問題があった。このような観点から、荷電変換膜用に高品質で耐熱性が高く、放射化の心配のない高純度炭素からなるイオンビーム用の荷電変換膜の開発が急務となっていた。

炭素膜の耐熱性を向上させる方法としてグラファイト膜を使用する事が考えられる。その様な膜の候補として、天然グラファイトを利用したグラファイト膜が提案されている(特許文献4)。このグラファイト膜は膨張黒鉛(天然グラファイトと酸との層間化合物を加熱膨張したもの)を洗浄の後、プレス加工して作製される(以下、膨張グラファイト膜と記載する)。そのため、機械的強度が弱く、20μm以下の薄い膜の作製が難しく、その膜厚の制御も困難であった。

先に述べた様に、イオンビームの荷電変換の目的にはそのイオンビームに応じた最適な厚さがあり、例えば、酸素より原子番号の小さな軽元素では10μm未満の薄い膜が必要となるため、20μm以下の薄い膜の作製が困難な膨張グラファイト膜を用いることは難しい。さらに、膜の強度が弱いと破損し易く、グラファイト片が真空中の筐体内で飛び散る恐れにつながる。これは特に炭素膜が放射化した場合に大きな問題となる。したがって、この様な意味からも膨張グラファイト膜は本発明の目的には使用出来ない。

特許第1342226号公報

特許第5309320号公報

特許第4821011号公報

特許第4299261号公報

27th International Conference of the International Nuclear Target Development Society (INTDS−2014) Tokyo, Japan, August, 2014.

Proceedings of the 3rd Annual Meeting of Particle Accelerator Society of Japan And the 31st Linear Accelerator Meeting in Japan August 2006, Sendai Japan.

Hasebe H.et al Journal of Radioanalytical and Nuclear Chemistry,2014, 299,1013−1018.

本発明の課題は、大強度ビーム照射においても損傷や放射化を受け難く、高い耐久性・耐熱性を有し、10μm未満の膜厚制御が容易な、イオンビーム用の荷電変換膜、好ましくは優れた機械的強度も備えたイオンビーム用の荷電変換膜を提供することである。

上記課題を達成した本発明は、炭素成分が96原子%以上、25℃における膜面方向の熱伝導率が800W/mK以上のグラファイト質膜の単層体又は前記グラファイト質膜の積層体であり、厚さが10μm未満、100nm以上である事を特徴とするイオンビーム用の荷電変換膜(1)である。

本発明は、炭素成分が98原子%以上、25℃における膜面方向の熱伝導率が1000W/mK以上のグラファイト質膜の単層体又は前記グラファイト質膜の積層体であり、厚さが5μm以下、100nm以上である事を特徴とする、負極性水素、水素または炭素のイオンビーム用の荷電変換膜(2)も包含する。

上記(1)または(2)のいずれの荷電変換用膜においても、(3)グラファイト質膜の膜面方向の引張強度が5MPa以上であり、膜面方向の熱膨張率が1×10-5/K以下であることが好ましく、(4)前記イオンビーム用の荷電変換膜の面積が4cm2以上であることも好ましい。

また、(5)前記(1)〜(4)のいずれかのイオンビーム用の荷電変換膜は、高分子フィルムを、不活性ガス雰囲気下、2400℃以上の温度で熱処理して得られることが好ましい。前記高分子フィルムは、(6)ポリアミド、ポリイミド、ポリキノキサリン、ポリパラフェニレン、ポリオキサジアゾール、ポリベンズイミダゾール、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾール、ポリキナゾリンジオン、ポリベンゾオキサジノン、ポリキナゾロン、ベンズイミダゾベンゾフェナントロリンラダーポリマーおよびこれらの誘導体から選択される少なくとも一種であることが好ましく、(7)特に芳香族ポリイミドであることが好ましい。

前記(7)の芳香族ポリイミドは、(8)ピロメリット酸無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物のいずれか、または両方を原料に用いて得られることが好ましく、前記(7)又は(8)の芳香族ポリイミドは、(9)4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミンのいずれか、または両方を原料に用いて得られることも好ましい。

本発明は、上記した(1)〜(9)のいずれかのイオンビーム用の荷電変換膜に、蒸着法又はスパッタ法によって形成された炭素質層を1枚以上積層させたイオンビーム用の荷電変換膜(10)も包含する。

更に本発明は、上記した(1)〜(9)のいずれかのイオンビーム用の荷電変換膜の製造方法(11)も包含し、該製造方法とは具体的に、高分子フィルムを、不活性ガス雰囲気下、2400℃以上の温度で熱処理することを特徴とするイオンビーム用の荷電変換膜の製造方法である。

本発明のイオンビーム用の荷電変換膜は、グラファイト質膜であるために耐熱性にすぐれ、膜面方向の熱伝導率が800W/mK以上であるために長時間の大強度ビームの照射によっても損傷が少なく、優れた耐久性を有している。また、高炭素純度であるためビーム照射による放射化の恐れが少なく、高真空下でもアウトガスの恐れがない。さらに、本発明の荷電変換膜では、10μm未満の厚さの膜であっても厚みを均一にすることが可能であり、その様な薄膜であっても十分な物理的強度があるため、加工や取り扱いも容易である。

図1はイオンビーム用の荷電変換膜の耐久性評価用固定治具の概略斜視図である。

本発明のイオンビーム用の荷電変換膜は、炭素膜の中でもグラファイト化した膜(グラファイト質膜)であり、膜面方向の熱伝導率が800W/mK以上であるため、厚さが10μm未満、100nm以上で高い荷電変換効率を達成しつつ、大強度ビームの照射によっても変形や破損がなく、耐久性に優れる。また、炭素成分が96原子%以上であるため、放射化も抑制されている。すなわち、本発明のイオンビーム用の荷電変換膜は、従来の炭素質電荷変換膜や炭素/ホウ素ハイブリッド膜に比べて大幅な耐久性の向上、低損傷、低放射化を実現し得た。また、前記要件を備えた本発明では膜面方向の引張強度を5MPa以上、且つ膜面方向の熱膨張率を1×10-5/K以下とでき、このような観点からも破損が抑えられ、耐久性に優れると言える。

イオンビーム用の荷電変換膜がグラファイト質膜である事の利点は、耐熱性が向上することである。これは炭素の結晶系の中でグラファイトが最も熱的に安定な構造である事による。グラファイト質膜とする事によって熱伝導率を高くする事が出来る。熱伝導率が高くなることで、膜の放熱効果を高め、膜中に熱が蓄積されて膜の温度が上昇する事を防止できる。本発明のイオンビーム用の荷電変換膜の、温度25℃における膜面方向の熱伝導率は800W/mK以上である。熱拡散性が高いほど局所的に発生する熱を周囲へ拡散させる能が高く長期間の大強度ビームの照射に耐えうる。従って熱伝導率は、より好ましくは1000W/mK以上であり、さらに好ましくは1400W/mK以上であり、最も好ましくは1600W/mK以上である。なお熱伝導率は、例えば、2500W/mK以下であってもよく、2300W/mK以下であってもよい。前述の特許文献1、2に挙げられているような従来の炭素膜の耐久性が極めて低い原因は、炭素膜がアモルファス状態に近いものであるために耐熱性が不足していること、さらに熱を逃がすための熱伝導性が低いことであると考えられる。

本発明のイオンビーム用の荷電変換膜の厚さは10μm未満、100nm以上である。本発明の荷電変換膜で荷電変換するイオンビームの原子の種類は特に限定されないが、上記した膜の厚さは、特に原子番号が8以下の原子(すなわち酸素の原子番号以下の軽原子)のイオンビームの荷電変換用途に好適に用いられる。中でも炭素イオンの荷電変換によってカーボンビームを生成する目的にはこの様な範囲の厚さである事が好ましい。荷電変換膜の厚さは5μm以下が好ましい。本発明の荷電変換用膜の厚さの範囲は100nm以上、10μm未満であるが、使用するビームの種類、強度、目的とする価数への変換効率によりイオンビーム用の荷電変換膜の厚みを調整してもよい。

本発明のイオンビーム用の荷電変換膜の炭素純度は96原子%以上である。炭素純度が高いほど長期間の大強度ビーム照射時の放射化を防ぐ事が出来る。従って、炭素純度はより好ましくは97原子%以上であり、さらに好ましくは98原子%以上であり、最も好ましくは99原子%以上である。特に放射化の原因になりうる、アルミニウム、鉄、ナトリウム、カリウム、コバルト、チタン、ニッケルなどの金属系不純物は検出限界以下であることが望ましい。本発明のイオンビーム用の荷電変換膜の原料は、後述する通り高分子フィルムであって、その製造過程において金属を含む不純物は全く混入する事がない。また、後述する通り2400℃以上の温度で焼成する事によって、高分子中の窒素、酸素、水素が脱離し純粋な炭素のみが残留する。従って本発明の方法は純粋な炭素のみからなる膜を形成するのに極めて優れた方法であり、炭素以外の不純物が入りにくいという特徴を有する。

イオンビーム用の荷電変換膜用途の中で、特に負極性水素、水素または炭素のイオンビーム用の荷電変換用膜としては、厚さが5μm以下、100nm以上、炭素成分が98原子%以上、膜面方向の熱伝導率が1000W/mK以上であるイオンビーム用の荷電変換膜である事が好ましい。負極性水素、水素、炭素のイオンビームは非常に高エネルギーのビームであるので荷電変換膜に要求される特性はより厳しくなる。より高い特性が要求される負極性水素、水素、炭素のイオンビーム用途に、より薄いグラファイト質膜を用いるのが好ましい理由は、以下の様に考えられる。本発明の荷電変換膜は、後述する通り、高分子焼成法により製造され、高分子焼成法では、グラファイト化反応はまず高分子炭素化膜の最表面層でグラファイト構造が形成され、膜内部向かってグラファイト構造が成長すると考えられている。炭素膜の膜厚が厚くなると、グラファイト化時に炭素膜内部にいくほどグラファイト構造が乱れ、空洞や欠損ができやすくなる。反対に膜が薄くなれば膜表面のグラファイト層構造が整った状態で内部までグラファイト化が進行し、結果として膜全体に整ったグラファイト構造ができやすい。このように膜厚が薄い方がグラファイト層構造が整っているため、高い熱伝導率を示す膜になり、高エネルギーのビームにも用いることができると考えられる。例えば、芳香族ポリイミド(膜厚8μm)を原料として用いた場合、2400℃、30分間の処理で得られるグラファイト質膜の厚さは4μmであり、炭素成分は98原子%以上、膜面方向の熱伝導率は1000W/mK以上であることを確認している。つまり、より薄い膜厚とすることで、より高い炭素純度及びより高い熱伝導率のグラファイト質膜が得られることが分かる。

イオンビーム用の荷電変換膜は機械的強度や加熱・冷却による熱膨張係数が小さい事も好ましい。イオンビーム用の荷電変換膜がグラファイト質膜であると、膜の熱膨張率を小さくすることができ、これによって熱膨張による歪を少なくできるため、機械的な破損を抑えられる。本発明のグラファイト質膜の膜面方向の熱膨張率は1×10-5/K以下が好ましく、より好ましくは7×10-6/K以下であり、更に好ましくは5×10-6/K以下である。熱膨張率の下限は特に限定されないが、通常5×10-7/K程度である。

また、本発明のイオンビーム用の荷電変換膜の膜方向の引張強度は、5MPa以上である事が好ましい。引張強度は10MPa以上である事はより好ましく、20MPa以上である事は更に好ましく、30MPa以上である事は最も好ましい。引張強度の上限は特に限定されないが、例えば100MPaであっても良い。先に述べた膨張法で作製した黒鉛膜は10μm未満の厚さの膜作製が困難である事に加え、その引張強度は、前述の特許文献4では0.2kgf/cm2以下(つまり0.02MPa)であり、後述する比較例では4MPa程度であった。これに対し、後述する実施例で作製した本発明のイオンビーム用の荷電変換膜の引張強度は40MPaであり、引張強度の観点からも膨張法で作製した黒鉛膜が本発明の目的に使用できないことは明らかである。また、従来電荷変換膜として使用されてきたアモルファス炭素膜や炭素/ホウ素のハイブリッド膜の機械的強度は1MPa以下であり、この事がハイブリッド膜の耐久性を低下させている一因であろうと考えられる。

本発明のイオンビーム用の荷電変換膜の密度は、1.6g/cm3以上であることが好ましい。一般に高熱伝導性の炭素膜は膜中に欠損や空洞がない、非常に密な構造であるが、欠損や空洞が炭素膜中に入ると、密度が下がり熱伝導率も低下する傾向がある。また空洞部分には熱がこもりやすいと考えられ、低密度の炭素膜は熱による劣化に弱い。このことから、グラファイト質膜の密度は大きいことが好ましく1.8g/cm3以上であることがより好ましく、2.0g/cm3以上であることは最も好ましい。密度の上限は、グラファイト単結晶の理論値である2.26g/cm3以下である。

本発明のイオンビーム用の荷電変換膜の面積は4cm2以上のものであることが好ましい。面積が大きいほど熱拡散性が向上し長期間の大強度ビームに耐えうるという観点から、好ましくは9cm2以上であり、より好ましくは16cm2以上、最も好ましくは25cm2以上である。大面積になるほど放熱性が向上し、大強度ビームからの熱を逃がす効果が高い。逆に小さすぎると冶具やヒートシンクなどにも固定しにくく、さらに放熱効率が悪くなってしまうので好ましくない。面積の上限は特に限定されないが、通常900cm2程度である。

先に述べた様に、大強度ビームを目的とする価数に変換するためにはある特定の単位面積当たりの重量の炭素が必要で、炭素(カーボンビーム)の荷電変換膜では0.02mg/cm2以上、2.0mg/cm2以下であることが好ましく、より好ましくは0.1mg/cm2以上、2.0mg/cm2以下、更に好ましくは0.4mg/cm2以上、2.0mg/cm2以下である。例えば炭素(カーボンビーム)の荷電変換の目的には、0.02mg/cm2以上、2.0mg/cm2以下となるように、自在に炭素膜の膜厚を制御できることが重要となる。本発明では、後述する通り、原料となる高分子フィルムの膜厚を制御することにより、イオンビーム用の荷電変換膜の厚みを自在に変える事ができ、またその面積や、形状も容易に変える事ができる。

また、荷電変換膜として本発明のイオンビーム用の荷電変換膜を用いる際は、目的とする厚さに調整した本発明のイオンビーム用の荷電変換膜を一枚で用いても良いし(単層体)、2枚以上重ねて所望の厚さに調整して使用(積層体)しても良い。本発明の検討により、本発明のイオンビーム用の荷電変換膜は複数枚積層させても十分に荷電変換膜として機能することが明らかになり、これも本発明の大きな利点として挙げられる。本発明のイオンビーム用の荷電変換膜を使用すれば、厚みの異なるイオンビーム用の荷電変換膜の組み合わせを変えるだけで、その所望のビーム価数に最適の様々な厚みの電荷変換膜を簡単に作製できる。

単層体及び積層体のいずれの場合であっても、厚さを10μm未満、100nm以上として荷電変換膜として用いる。本発明のイオンビーム用の荷電変換膜を2枚以上用いる場合には、荷電変換膜はぴったり密着させても良いし、ビームの進行方向に間を空けて1枚ずつ独立に並べても良い。しかし一枚ずつ独立に並べる場合において、その間隔が近すぎるとビーム照射時に間に熱がこもりやすくなり損傷の可能性も出てくる。そこで、2枚以上積層させる場合には、膜同士をぴったり密着させて用いることが好ましい。

本発明のイオンビーム用の荷電変換膜を荷電変換膜として使用する場合に、イオンビーム用の荷電変換膜上に異なる種類の炭素膜を積層させて使用することも好ましい。特にビームのイオン価数を精密に制御するには、荷電変換膜の厚みを精密に制御する場合がある。この様な場合には、蒸着、スパッタなどを用いて本発明のイオンビーム用の荷電変換膜上に炭素膜(炭素質膜)を作製して厚みを精密に制御しても良い。蒸着、スパッタなどを用いて得られる炭素膜(炭素質膜)は、通常、25℃における膜面方向の熱伝導率が800W/mK未満である。本発明のイオンビーム用の荷電変換膜は物理的強度に優れることから、このような手法で複合炭素膜を作製しても全く問題ない。

本発明の電荷変換膜で荷電変換するイオンビームの原子の種類は特に限定されないが、特に陽子、カーボンビーム等の、原子番号が8以下である原子のイオンビームに好適に用いられる。また、本発明のグラファイト質電荷変換膜は、大型の加速器のみならず、ガン治療用加速器などの医療用加速器、産業用などの比較的小型の加速器にも好ましく使用できる。

本発明のイオンビーム用の荷電変換膜は、高熱伝導性膜であり、炭素純度も高いため、大強度ビーム照射後でも放射化の恐れがなく化学的に安定であり、耐熱性も非常に高く、高真空、高温下においてもアウトガスの心配もない。しかも大面積膜として得る事が可能で、機械的な強度も優れているという特徴がある。

次に、本発明の荷電変換用膜の製造方法について説明する。本発明の荷電変換用膜は、所定の高分子原料を用い、不活性ガス雰囲気下、2400℃以上で熱処理してグラファイト化することで製造できる。

<高分子原料> 本発明のグラファイト質荷電変換用膜作製に好ましく用いられる高分子原料は芳香族高分子であり、この芳香族高分子としては、ポリアミド、ポリイミド、ポリキノキサリン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリオキサジアゾール、ポリベンズイミダゾール、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾール、ポリキナゾリンジオン、ポリベンゾオキサジノン、ポリキナゾロン、ベンズイミダゾベンゾフェナントロリンラダーポリマー、およびこれらの誘導体から選択される少なくとも一種であることが好ましい。これらの高分子原料からなるフィルムは公知の製造方法で製造すればよい。特に好ましい高分子原料として芳香族ポリイミド、ポリパラフェニレンビニレン、ポリパラフェニレンオキサジアゾールを例示する事ができる。特に、芳香族ポリイミドが好ましく、中でも以下に記載する酸二無水物(特に芳香族酸二無水物)とジアミン(特に芳香族ジアミン)からポリアミド酸を経て作製される芳香族ポリイミドは本発明のグラファイト質荷電変換用膜作製のための高分子原料として特に好ましい。

前記芳香族ポリイミドの合成に用いられ得る酸二無水物としては、ピロメリット酸無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、ビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、およびそれらの類似物を含み、それらを単独または任意の割合の混合物で用いることができる。 特に非常に剛直な構造を有した高分子構造を持つほどポリイミドフィルムの配向性が高くなること、さらには入手性の観点から、ピロメリット酸無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が特に好ましい。

前記芳香族ポリイミドの合成に用いられ得るジアミンとしては、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ベンジジン、3,3’−ジクロロベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1,5−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4’−ジアミノジフェニルN−メチルアミン、4,4’−ジアミノジフェニル N−フェニルアミン、1,4−ジアミノベンゼン(p−フェニレンジアミン)、1,3−ジアミノベンゼン、1,2−ジアミノベンゼンおよびそれらの類似物を含み、それらを単独でまたは任意の割合の混合物で用いることができる。 さらにポリイミドフィルムの配向性を高くすること、入手性の観点から、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミンを原料に用いて合成されることが特に好ましい。

前記酸二無水物とジアミンからのポリアミド酸の調製には公知の方法を用いることができ、通常、芳香族酸二無水物の少なくとも1種とジアミンの少なくとも1種を有機溶媒中に溶解させ、得られたポリアミド酸有機溶媒溶液を、制御された温度条件下で、上記酸二無水物とジアミンの重合が完了するまで攪拌することによって製造される。これらのポリアミド酸溶液は通常5〜35wt%、好ましくは10〜30wt%の濃度で得られる。この範囲の濃度である場合に適当な分子量と溶液粘度を得る事が出来る。前記原料溶液中の酸二無水物とは実質的に等モル量にすることが好ましく、モル比は、例えば、1.5:1〜1:1.5、好ましくは1.2:1〜1:1.2、より好ましくは1.1:1〜1:1.1である。

<高分子原料の合成、製膜> 前記高分子フィルムは、前記高分子原料又はその合成原料から公知の種々の手法によって製造できる。例えば、前記ポリイミドの製造方法としては、前駆体であるポリアミド酸を加熱でイミド転化する熱キュア法、ポリアミド酸に無水酢酸等の酸無水物に代表される脱水剤や、ピコリン、キノリン、イソキノリン、ピリジン等の第3級アミン類をイミド化促進剤として用い、イミド転化するケミカルキュア法があるが、そのいずれを用いても良い。得られるフィルムの線膨張係数が小さく、弾性率が高く、複屈折率が大きくなりやすく、フィルムの焼成中に張力をかけたとしても破損することなく、また、品質の良い炭素膜を得ることができるという点からケミカルキュア法が好ましい。またケミカルキュア法は、炭素膜の熱伝導率の向上の面でも優れている。

前記ポリイミドフィルムは、上記ポリイミド前駆体であるポリアミド酸の有機溶剤溶液をエンドレスベルト、ステンレスドラムなどの支持体上に流延し、乾燥・イミド化させることにより製造される。具体的にケミカルキュアによるフィルムの製造法は以下のようになる。まず上記ポリアミド酸溶液に化学量論以上の脱水剤と触媒量のイミド化促進剤を加え支持板やPET等の有機フィルム、ドラム又はエンドレスベルト等の支持体上に流延又は塗布して膜状とし、有機溶媒を蒸発させることにより自己支持性を有する膜を得る。次いで、これを更に加熱して乾燥させつつイミド化させポリイミドフィルムを得る。加熱の際の温度は、150℃から550℃の範囲の温度が好ましい。さらに、ポリイミドの製造工程中に、収縮を防止するためにフィルムを固定したり、延伸したりする工程を含む事が好ましい。これは、分子構造およびその高次構造が制御されたフィルムを用いる事で炭素膜への転化がより容易に進行する、と言う事によっている。すなわち、黒鉛化反応をスムーズに進行させるためには黒鉛前駆体中の炭素分子が再配列する必要があるが、配向性にすぐれたポリイミドではその再配列が最小で済むために、低温でも黒鉛への転化が進み易いと推測される。

本発明のイオンビーム用の荷電変換膜は厚さが10μm未満、100nm以上の範囲であり、この様な範囲の炭素膜を得るためには、芳香族ポリイミドの場合、原料高分子フィルムの厚さは25μmから200nmの範囲である事が好ましい。これは、最終的に得られる炭素膜の厚さは、一般に出発高分子フィルムの厚みによっているためであり、2400℃以上の熱処理によって炭素化、グラファイト化の過程で得られるイオンビーム用の荷電変換膜の厚さが、原料高分子の厚さの約1/2になるためである。上述した通り、荷電変換用膜では、元のビームの電荷、荷電変換後のビームの電荷、ビームの種類によって、膜の厚みを自在に変えられることが重要である。高分子焼成法によれば原料となる高分子フィルムの膜厚を制御することにより、得られるイオンビーム用の荷電変換膜の厚みを自在に変えることができ、更には面積や形状も容易に変えることができ、高分子焼成法は荷電変換膜の製造方法として非常に適した方法である。

<炭素化・グラファイト化> 次に、ポリイミドに代表される高分子フィルムの炭素化・グラファイト化の手法について述べる。本発明では出発物質である高分子フィルムを不活性ガス中、あるいは真空中で予備加熱し、炭素化を行う。不活性ガスは、窒素、アルゴンあるいはアルゴンと窒素の混合ガスが好ましく用いられる。予備加熱は通常1000℃程度で行う。予備加熱温度までの昇温速度は特に限定されないが、例えば5〜15℃/分とできる。予備加熱の段階では出発高分子フィルムの配向性が失われない様に、フィルムの破壊が起きない程度の膜面に垂直方向の圧力を加える事が有効である。

上記の方法で炭素化されたフィルムを高温炉内にセットし、グラファイト化を行なう。炭素化フィルムのセットはCIP材やグラッシーカーボン基板に挟んで行う事が好ましい。グラファイト化は2400℃以上で行う。このようにすることによって、得られるイオンビーム用の荷電変換膜の膜面方向の熱伝導率を800W/mK以上とできる。グラファイト化は、より好ましくは2600℃以上、さらに好ましくは2800℃以上、最も好ましくは3000℃以上の高温で行われる。この処理温度はグラファイト化過程における最高処理温度としても良く、得られた荷電変換膜をアニーリングの形で再熱処理しても良い。この様な高温を作り出すには、通常グラファイトヒーターに直接電流を流し、そのジュ−ル熱を利用して加熱を行なう。グラファイト化は不活性ガス中で行なうが、不活性ガスとしてはアルゴンが最も適当であり、アルゴンに少量のヘリウムを加えても良い。処理温度は高ければ高いほど良質のグラファイトに転化出来るが、例えば、3700℃以下、特に3600℃以下、或いは3500℃以下であっても、優れたイオンビーム用の荷電変換膜が得られる。

前記予備加熱温度から当該熱処理温度までの昇温速度は、例えば1〜25℃/分とできる。当該処理温度での保持時間は、例えば、10分以上、好ましくは30分以上であり、1時間以上であってもよい。保持時間の上限は特に限定されないが、通常、10時間以下、特に5時間以下程度としてもよい。温度3000℃以上で熱処理してグラファイト化する場合、高温炉内の雰囲気は前記不活性ガスによって加圧されているのが好ましい。熱処理温度が高いと膜表面から炭素の昇華が始まり、グラファイト膜表面の穴、われの拡大と薄膜化などの劣化現象が生じるが、加圧することによってこの様な劣化現象を防止でき、優れたグラファイト膜を得ることができる。不活性ガスによる高温炉の雰囲気圧力(ゲージ圧)は、例えば、0.05MPa以上、好ましくは0.10MPa以上、さらに好ましくは0.14MPa以上である。この雰囲気圧力の上限は特に限定されないが、例えば、2MPa以下、特に1.8MPa以下程度であってもよい。熱処理後は、例えば30〜50℃/分の速度で降温すれば良い。

<イオンビーム用の荷電変換膜の評価> 上記の炭素化、グラファイト化処理で得られる膜はレーザーラマン測定でその膜が炭素質であるかグラファイト質であるかを評価できる。例えばレーザーラマン分光の場合1575〜1600cm-1にグラファイト構造に基づくバンド(RG)が現れ、1350〜1360cm-1にアモルファスカーボン構造に基づくバンド(RC)が現れる。従って、グラファイト膜面のラマン測定を行い、これら2つのバンドの相対強度比RG/RCを測定すれば得られた膜がアモルファスカーボン質膜であるかグラファイト質のイオンビーム用の荷電変換膜であるかが判断できる。この相対強度比RG/RCをラマン強度比Rと呼ぶ。本発明の場合、グラファイト膜表面のラマン測定を行い上記のグラファイト構造に基づくバンドの強度が、アモルファスカーボン構造に基づくバンドの強度の5倍以上強い事(すなわち、ラマン強度比R≧5)をもってグラファイト質のイオンビーム用の荷電変換膜であると定義する。

また、得られた膜がイオンビーム用の荷電変換膜であるが炭素質膜であるかを判断する指標として、膜の熱伝導度の物性を用いることもできる。芳香族ポリイミド(商標名:Kapton)を原料として用いた場合、原料フィルムの厚さが25μmの場合(従って、得られる膜の厚さが10μm程度)の場合には、2000℃の熱処理で得られる膜の熱伝導度はそれぞれ50W/mK、2200℃では200W/mK、2400℃では800W/mK、2600℃では1200W/mK、3000℃処理では1600W/mKであった。またこの時、前記のラマン強度比Rは2200℃処理ではR=1であったが、2400℃処理ではR=5、2600℃処理ではR=6、3000℃処理ではR>99となった。すなわちラマン強度が急激に上昇しグラファイト化が進行している2400℃以上の温度で熱伝導度の値も急激に向上し、これらの値もグラファイト化を判断する良い指標となり得ることが分った。

本願は、2015年4月15日に出願された日本国特許出願第2015−083716号に基づく優先権の利益を主張するものである。2015年4月15日に出願された日本国特許出願第2015−083716号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。

以下実施例を示し、本発明の実施形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明はこれら実施例によって限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。

(物性評価方法) <膜厚> 原料である高分子膜、および作製した荷電変換膜の厚さは、±5〜10%程度の誤差がある。そのため原料の高分子膜及び得られた荷電変換膜の異なる10点での厚さの平均を本発明における試料の厚さとした。作製した電荷変換膜の膜厚が0.5μm以下の場合は、(株)日立ハイテクノロジーサービス製走査型電子顕微鏡(SU8000)を用いて、加速電圧5kVにて膜断面の観察を行い、算出した。

<密度> 作製した荷電変換膜の密度は、膜の寸法、膜厚を測定後に体積を算出し、質量を別途測定し、密度(g/cm3)=質量(g)/体積(cm3)の式から算出した。なお、この方法で厚さ200nm以下の膜の密度測定は誤差が大きすぎて不可能であった。そのため、200nm以下の厚さの膜の熱拡散率から熱伝導率を計算する場合には、その密度として2.1を仮定して計算した。

<熱伝導率> 荷電変換膜の熱拡散率は、周期加熱法による熱拡散率測定装置(アルバック理工(株)社「LaserPit」装置)を用いて、25℃、真空下(10-2Pa程度)、10Hzの周波数を用いて測定した。これはレーザー加熱の点から一定距離だけ離れた点に熱電対を取り付け、その温度変化を測定する方法である。ここで熱伝導率(W/mK)は、熱拡散率(m2/s)と密度(kg/m3)と比熱(798kJ/(kg・K))を掛け合わせることによって算出した。しかし、グラファイトシートの厚さが1μm以下の場合では測定誤差が大きくなりすぎて正確な測定は不可能であった。

そこで第二の測定方法として、周期加熱放射測温法((株)BETHEL製サーモアナライザーTA3)を用いて測定をおこなった。これは周期加熱をレーザーで行い、温度測定を放射温度計で行う装置であり、測定時にグラファイトシートとは完全に非接触であるため、グラファイトシートの厚さ1μm以下の試料でも測定が可能である。両装置の測定値の信頼性を確認するために、幾つかの試料については両方の装置で測定を行い、その数値が一致する事を確認した。

BETHEL社の装置では周期加熱の周波数を最高800Hzまでの範囲で変化させる事ができる。すなわち、この装置の特徴は通常熱電対で接触的に行われる温度の測定が放射温度計により行われ、測定周波数を可変できる点である。原理的に周波数を変えても一定の熱拡散率が測定されるはずなので、本装置を用いた計測では周波数を変えてその測定を行った。1μm以下の厚さの試料の測定を行った場合は、10Hzや20Hzの測定においては測定値がばらつく事が多かったが、70Hzから800Hzの測定では、その測定値はほぼ一定になった。そこで、周波数に寄らず一定の値を示した数値(70Hz〜800Hzでの値)を用いて熱拡散率とした。

<引張強度> 膜の引張強度はASTM−D882の方法に従って測定した。

<熱膨張率> イオンビーム用の荷電変換膜の熱膨張率はJISK7197に基づくTMA測定によって行なった。測定温度範囲は0℃〜600℃とした。

<炭素純度の決定> 作製したイオンビーム用の荷電変換膜の炭素純度は、(株)日立ハイテクノロジーサービス製走査型電子顕微鏡(SU8000)と(株)堀場製作所製大口径SDD検出器(以後EDX-XMax)を用いて測定した。加速電圧20kVにて炭素膜の元素分析を行い、付属ソフトウエアで解析後に算出された各元素の原子数濃度(%)を元に、下記式(1)を用いて算出した。 炭素純度(%)=炭素の原子数濃度(%)/〔炭素の原子数濃度(%)+炭素以外の原子数濃度(%)〕×100 ・・・(1)

<荷電変換膜の耐久性試験> 図1に、荷電変換膜の耐久性評価試験に用いる固定治具の概略斜視図を示す。アルミニウム製の部材11上に、SiCファイバー12を複数本張り、SiCファイバー12上に、作製した荷電変換膜10を貼り合わせる。この荷電変換膜の略中央部分13に、バン・デ・グラフ加速器から3.2MeV、2.5±0.5μA、ビームスポット直径3.5mmの20Ne+DCビームを照射する事で耐久性を評価した。ビームを連続照射し、48時間以上になっても膜が破断しなかった場合は、耐久性試験合格と判断し、48時間以内に破断した場合はその時間で実験を中断した。

(高分子膜の製造) ピロメリット酸無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルをモル比で1/1の割合で合成したポリアミド酸の18wt%のDMF溶液100gに無水酢酸20gとイソキノリン10gからなる硬化剤を混合、攪拌し、遠心分離による脱泡の後、アルミ箔上に流延塗布した。攪拌から脱泡までは0℃に冷却しながら行った。このアルミ箔とポリアミド酸溶液の積層体を120℃で150秒間、300℃、400℃、500℃で各30秒間加熱した後、アルミ箔を除去し厚みの異なるポリイミドフィルム(高分子試料A)を作製した。また試料Aと同様にしてピロメリット酸無水物とp−フェニレンジアミンを原料に用い、ポリイミドフィルム(高分子試料B)を、3,3‘,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とp−フェニレンジアミンを原料に用いポリイミドフィルム(高分子試料C)を作製した。ポリイミドフィルムの厚みに関しては、キャストする速度などを調整することにより、25μmから200nmの範囲の厚さの異なる何種類かのフィルムを作製した。

(荷電変換膜製造例−1〜7) 厚さの異なる7種類(0.4〜25μmの範囲)高分子膜(試料A)を、電気炉を用いて窒素ガス中、10℃/分の速度で1000℃まで昇温し、1000℃で1時間保って予備処理した。次に得られた炭素化膜を円筒状の炭素ヒーターの内部にセットし、20℃/分の昇温速度で、3000℃まで昇温・熱処理した。この温度で30分間保持し、その後40℃/分の速度で降温し、荷電変換膜1〜7を作製した。処理はアルゴン雰囲気で0.1MPaの加圧下でおこなった。

(荷電変換膜製造例−8、9) 10μmの厚さの高分子膜(試料B)、7.0μmの厚さの高分子膜(試料C)を、それぞれ電気炉を用いて窒素ガス中、10℃/分の速度で1000℃まで昇温し、1000℃で1時間保って予備処理した。次に得られた炭素化膜を円筒状の炭素ヒーターの内部にセットし、20℃/分の昇温速度で、3000℃まで昇温・熱処理した。この温度で30分間保持し、その後40℃/分の速度で降温し、荷電変換膜8、9を作製した。処理はアルゴン雰囲気で0.1MPaの加圧下でおこなった。

(荷電変換膜製造例−10〜13) 厚み3.2μmの高分子試料Aのポリイミドフィルムを、電気炉を用いて窒素ガス中、10℃/分の速度で1000℃まで昇温し、1000℃で1時間保って予備処理した。次に得られた炭素化膜を円筒状の炭素膜ヒーターの内部にセットし、20℃/分の昇温速度でそれぞれの最高温度、荷電変換膜10(2800℃)、荷電変換膜11(2600℃)、荷電変換膜12(2400℃)、荷電変換膜13(2200℃)、まで加熱した。この温度で30分間保持し、その後40℃/分の速度で降温し、荷電変換膜10〜13を作製した。処理はアルゴン雰囲気で0.1MPaの加圧下でおこなった。

(荷電変換膜製造例−14、15) 厚み0.2μmの高分子試料Aのポリイミドフィルムを、電気炉を用いて窒素ガス中、10℃/分の速度で1000℃まで昇温し、1000℃で1時間保って予備処理した。次に得られた炭素化膜を円筒状の炭素膜ヒーターの内部にセットし、20℃/分の昇温速度でそれぞれ2600℃、3000℃まで加熱した。この温度で30分間保持し、その後40℃/分の速度で降温し、荷電変換膜14、15を作製した。処理はアルゴン雰囲気で0.1MPaの加圧下でおこなった。

(荷電変換膜製造例−16、17) 厚み25μmの高分子試料Aのポリイミドフィルムを、電気炉を用いて窒素ガス中、10℃/分の速度で1000℃まで昇温し、1000℃で1時間保って予備処理した。次に得られた炭素化膜を円筒状の炭素膜ヒーターの内部にセットし、20℃/分の昇温速度でそれぞれ2200℃、2600℃まで加熱した。この温度で30分間保持し、その後40℃/分の速度で降温し、荷電変換膜16、17を作製した。処理はアルゴン雰囲気で0.1MPaの加圧下でおこなった。

荷電変換膜1〜17について、膜厚、熱伝導率、密度、引張強度及び炭素純度の測定結果を表1に示す。

また、ラマン強度比については、3000℃で処理した荷電変換膜1から9、15についてはアモルファスカーボンに由来するピークが確認できずラマン強度比Rは99以上であった。また荷電変換膜13、16のRは1でありアモルファスカーボン質であることがよくわかる。2400℃で処理した荷電変換膜12のRは5、2600℃で処理した荷電変換膜11、14、17のRは6、2800℃で処理した荷電変換膜10のRは20であった。以上の結果から、荷電変換膜をグラファイト質に変換するためには2400℃以上で加熱をする必要があることが分かった。

これら結果より、原料となるポリイミドフィルムを2400℃以上の温度で熱処理した1〜12の荷電変換膜は、炭素純度が96原子%以上で、グラファイト質であり、膜面方向の熱伝導率が800W/mK以上であることが分かる。一方、熱処理温度が2200℃であった荷電変換膜13では、熱伝導率が200W/mKであり、本発明の熱伝導率の要件を満たすことができなかった。つまり、2400℃以上の熱処理によって、本発明の要件を満たすイオンビーム用の荷電変換膜が得られている。なお、2200℃で熱処理した荷電変換膜13では炭素純度が96.8原子%であったのに対し、2400℃以上で熱処理した1〜12の荷電変換膜は、いずれも、好ましい炭素純度である97原子%以上を実現できた。

更に、熱膨張率に関しては、本発明の範囲の厚さ(10μm未満〜100nm以上)では処理温度に依存し、その熱膨張率は、4×10-6/K(2400℃処理試料、すなわち荷電変換膜12)、2×10-6/K(2600℃処理試料、すなわち荷電変換膜11)、1×10-6/K(2800℃処理試料、すなわち荷電変換膜10)、9×10-7/K(3000℃処理試料、すなわち荷電変換膜1〜9)であった。すなわち本発明のイオンビーム用の荷電変換膜はいずれも1×10-5/K以下の熱膨張率である事が分かった。

また、表1には、膜厚と密度から算出される単位面積当たりの重量も併記した。前述した通り、所望の荷電変換効率を得るために必要な単位面積当たりの炭素重量は、例えば炭素(カーボンビーム)荷電変換膜で0.02mg/cm2以上、2.0mg/cm2以下とされている。荷電変換膜1〜12はいずれも前記範囲を満たしており、良好な荷電変換効率を実現できると考えられる。

更に、放射化については、炭素純度が高いほど放射化の程度が小さいことが知られており、炭素純度が96原子%以上である荷電変換膜1〜12は、放射化も十分に抑えられる。

(実施例1〜12) 作製した荷電変換膜1〜12に対して48時間の耐久性試験を実施したところ、いずれの電荷変換膜においても破れや破損は観察されなかった。膜厚が1μm以下のものについては照射後にフィルムの伸びや、昇華による若干の変形は見られたものの、フィルムに穴や亀裂などは確認できなかった。

(比較例1〜4) 3種類の厚さの膨張黒鉛シート〔それぞれ、膜厚20μm(比較例1)、30μm(比較例2)、50μm(比較例3)〕、スパッタ方式で形成された厚さ1μmの炭素膜(比較例4)を作製し、耐久性試験を実施した。その結果いずれの比較例でも2時間以内の照射で破断する事が確認された。これらの比較例と比べて実施例1〜12は極めて優れた耐久性を有している事が分かった。また、膨張黒鉛シートの引張強度は4MPa程度であり、実施例1〜12の引張強度に比べて随分と小さい値となっており、膨張法で作製した黒鉛膜が本発明の目的に使用できないことは明らかである。

(比較例5〜9) 作製した荷電変換膜13、14、15、16、17に対して耐久試験を実施した。膜13は8時間で、膜14は24時間で、膜15は30時間で破断した。これらの膜は極めて薄く(それぞれ、膜厚80nm、60nm)であり、十分な熱伝導率を有しているものの、薄い事による放熱性や機械的強度の低さから48時間の耐久性試験に耐えられなかったと推測している。また、膜16は24時間で、膜17は28時間で炭素膜が破断した。膜16、膜17は膜の引張強度としては十分な特性を持っているが、長時間の照射により発生する熱で黒鉛化がさらに進行し膜が変形したことにより破断したと推測される。

本発明によれば、長時間の大強度ビームの照射にも問題なく使用できるイオンビームの荷電変換膜を容易に供給することができる。この荷電変換膜は炭素純度の高い膜であるため、ビーム照射による放射化の恐れも少ない。本発明の電荷変換膜はグラファイト質の膜であり、10μm未満においても十分な耐熱性と機械的強度があるため加工や取り扱いも容易である。また単位面積当たりの重量を高くできるため、同じ厚みの他の種類の炭素膜よりも荷電変換効率を高く出来る。さらに、密度が1.6g/cm3以上、2.26g/cm3以下とできるため、炭素膜中に空気層が少なく、その分だけビーム照射による発熱を抑えることができ、ビーム照射に対する耐久性を高くする事ができる。以上の様に、本発明のイオンビーム用の荷電変換膜として最適な素材である。

10 荷電変換膜 11 アルミニウム製部材 12 SiCファイバー

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