放射線減速材用MgF2−CaF2二元系焼結体及びその製造方法

申请号 JP2015185053 申请日 2015-09-18 公开(公告)号 JP2016064978A 公开(公告)日 2016-04-28
申请人 国立大学法人 筑波大学; 株式会社テクノアイ; 株式会社大興製作所; 发明人 熊田 博明; 中村 哲之; 池田 毅; 重岡 卓二;
摘要 【課題】放射線減速性能、特に中性子線減速性能に優れた緻密な多結晶構造の放射線減速材用MgF 2 −CaF 2 二元系焼結体の提供。 【解決手段】MgF 2 にCaF 2 を0.2wt.%以上90wt.%以下含み、その嵩 密度 が2.96g/cm 3 以上であり、曲げ強度が15MPa以上、ビッカース硬度が90以上の機械的強度を有する放射線減速性能、特に中性子線減速性能に優れた緻密な多結晶構造のMgF 2 −CaF 2 二元系焼結体。 【選択図】図3
权利要求

MgF2にCaF2を0.2wt.%以上、90wt.%以下含み、嵩密度が2.96g/cm3以上である、放射線減速性能、特に中性子線減速性能に優れた緻密な多結晶構造を有することを特徴とする放射線減速材用MgF2−CaF2二元系焼結体。曲げ強度が15MPa以上、ビッカース硬度が90以上の機械的強度を有することを特徴とする請求項1記載の放射線減速材用MgF2−CaF2二元系焼結体。MgF2粉末にCaF2粉末を0.2〜90wt.%混合し、さらに焼結助剤を0.02〜1wt.%添加して混合する工程、 前工程で配合された原料粉末をプレス成形機を用いて成形圧5MPa以上で成形する工程、 プレス成形品を、冷間等方加圧成形(CIP)機を用いて成形圧5MPa以上で成形する工程、 CIP成形品を大気雰囲気中で600〜700℃の温度範囲で加熱して仮焼結を行う工程、 仮焼結体の発泡開始温度を(Tn)℃とすると、(Tn−100)℃から(Tn)℃の温度範囲で加熱して大気中または不活性ガス雰囲気中で焼結させる工程、 前工程と同雰囲気中で900〜1150℃の温度範囲で加熱して緻密な構造の焼結体を形成する工程、 を含むことを特徴とする放射線減速材用MgF2−CaF2二元系焼結体の製造方法。前記焼結工程における不活性ガス雰囲気が、窒素、ヘリウム、アルゴン、及びネオンの中から選択される1種類のガス、または複数種類のガスを混合させたものからなることを特徴とする請求項3記載の放射線減速材用MgF2−CaF2二元系焼結体の製造方法。

说明书全文

本発明は、放射線減速材用MgF2−CaF2二元系焼結体及びその製造方法に関し、より詳細には、中性子線など各種放射線の放射速度とそのエネルギーを抑制するための減速材として好適な緻密な構造を有する放射線減速材用MgF2−CaF2二元系焼結体及びその製造方法に関する。

フッ化物は、フッ化カルシウム(CaF2)単結晶体、フッ化マグネシウム(MgF2)単結晶体などが光学分野において、例えば、波長160nm以下の真空紫外域とか、同3μm以上の遠赤外線域などで使用されている。この様に超高純度の石英ガラス、光学ガラスなど、市場で広く使用されている硝材では光が透過しない特殊な波長域用のレンズ、プリズムなどとして使用されており、自ずと高価な光学部材となっている。

一般的に、フッ化物を光学用途以外に使用するケースは極めて少なく、放射線の一種である中性子線用の遮蔽物としてCaF2の単結晶体、フッ化リチウム(LiF)の単結晶体、あるいはフッ化アルミニウム(AlF3)の単結晶体を稀に使用する程度であった。しかしながら、単結晶体では結晶方位に起因する減速性能の面方位依存性、あるいは、サブグレインなどの構造欠陥による不均一性を有し、しかも極めて高価なものとなっていた。

放射線の種類は大きく分けてアルファ(α)線、ベータ(β)線、ガンマ(γ)線、エックス(X)線および中性子線があり、ここで後に列記されたものほど物質を透過する能(透過力)が大きい。 一番透過力が大きい中性子線は、更に保持するエネルギーレベルに応じて、例えば以下のように分類される。括弧内は各種中性子線の持つエネルギーを示しており、その数値が大きいほど透過力が大きいことを示している。

透過力が小さい方から、低温中性子(〜0.002eV)、熱中性子(〜0.025eV)、熱外中性子(〜1eV)、低速中性子(0.03〜100eV)、中速中性子(0.1〜500keV)、高速中性子(500keV以上)に分類される。 ただし、中性子線の分類にはいろいろな説があり、括弧内のエネルギーの値は厳密なものではなく、例えば、熱外中性子のエネルギーとして、上記の中速中性子のエネルギー領域に入る40keV以下を記す説などもある。

中性子線の有効利用の代表的なものが医療分野への応用である。なかでも、悪性癌などの腫瘍細胞に中性子線を照射して破壊する放射線療法は近年普及しつつある。 現状の放射線療法では医療効果を得るため、ある程度高いエネルギーの中性子線を使用せざるを得ず、中性子線の照射時に、患部以外の健全部への影響も避けられず、副作用を生じる。そのため、重度の患者への適用に限られているのが現状である。 高エネルギーの中性子線が正常細胞にあたるとDNAが傷つき、皮膚炎や放射性貧血、白血球減少などの副作用を生じる。さらに治療後しばらくしてから晩期障害が起き、直腸や膀胱に腫瘍ができて出血することがある。

近年、こうした副作用や晩期障害を生じさせないために、放射線を腫瘍にピンポイントで当てる方法が研究されている。その例として、立体照射による正確な腫瘍部位への高線量照射である“強度変調放射線治療法(IMRT)”、患者の呼吸や心臓の動きなど体内の動きに合わせて放射線を照射する“動体追跡放射線治療法”、治療効果の高い重粒子線や陽子線などを集中的に当てる“粒子線治療法”などを挙げることができる。

中性子は、その半減期が約15分と短く、短時間で崩壊して電子とニュートリノを放出し、陽子に変わる。また、中性子は電荷を持たず、そのため原子核と衝突した時に吸収されやすい。この様に中性子を吸収することを中性子捕獲と言い、この性質を利用した医療分野への応用例が以下に示す “ホウ素中性子捕捉療法(Boron Neutron Capture Therapy:以下、BNCTと称す)”であり、近年注目されつつある新しい癌治療法である。 このBNCTでは、まず悪性癌などの腫瘍細胞と、注射や点滴などによって体内に注入したホウ素薬剤とを反応させ、その腫瘍部分にホウ素化合物の反応生成物を形成しておく。 その反応生成物に、人体の健全部に影響の少ないエネルギーレベルの中性子線(主として熱外中性子線、およびそれ以下の低エネルギーレベルの中性子線で構成されたものであることが望ましい)を照射してホウ素化合物との間でごく微小な範囲内だけに核反応を生じさせ、腫瘍細胞だけを死滅させる。 元来、癌細胞は、盛んに増殖する過程でホウ素をその細胞内に取り込みやすく、BNCTでは、この性質を利用して効果的に腫瘍部分だけを破壊する治療を行う。

この方法は約60年前に提案され、患者の健全部への影響が少ないなど、優れた放射線療法としてかなり以前から注目され、各国で研究開発がなされてきた。 しかしながら、中性子線発生装置、及び治療に有効な中性子線の種類の選定を行う装置の開発、患者の患部以外の健全部への影響の除去(すなわち、ホウ素化合物を腫瘍部分にだけ形成させること)など、多岐に渡る重要な開発課題が残されており、一般的な治療法として普及するには至っていなかった。普及に至らなかった装置面での大きな要因としては、装置の小型化と高性能化が不十分であったことが挙げられる。

最新のBNCTの方式としては、例えば、京都大学を中心とするグループが進めているものがある(非特許文献1および非特許文献2)。この方式は、既存の原子炉に附帯せず、中性子線発生装置として専用のサイクロトロン方式の加速器を設けた治療専用の装置で構成される。 一説ではその加速器だけでも重量が約60トンになると言われており、サイズがかなり大きい。サイクロトロン方式ではサイクロトロンの円形部で遠心力を利用して陽子を加速してターゲットの金属、例えば、ベリリウム(Be)製の板に衝突させて高速中性子線を発生させる。効率的に中性子線を発生させるにはその円形部の直径を大きくして大きな遠心力を得る必要があり、このことが装置大型化の原因の一つとなっている。

さらに、発生した放射線(主として高速中性子線)を安全に、且つ有効に利用するためには、遮蔽板などの放射線用遮蔽物(以下、減速材と記す)が必要となる。減速材としては、Pb、Fe、Al、ポリエチレンとともに、CaF2あるいはLiFを含有するポリエチレンが選定されている。これら減速材の減速性能は十分なものとは言えず、必要とされる減速を実施するために、減速材の厚さがかなり厚いものとなっており、この減速材を含む減速系装置部分も大型化の原因となっている。 このBNCTの一般病院への普及には、装置の小型化が必須である。加速器の格段の小型化に加え、減速性能の高い減速材の開発による治療効果の向上と、減速性能の向上による減速系装置の小型化を達成することが急務となっている。ここでは、BNCT装置の小型化と医療効果の向上にとって重要な減速材に関して述べることとする。

前述のとおり放射線を安全、且つ有効に利用するには、適所に適切な性能を有する減速材を配置することが必要である。放射線の中で最も透過能力が高い中性子線を有効利用するには、各種物質の中性子線に対する減速性能を正確に把握し、効果的な減速を図ることが重要である。

中性子線を医療用として効果的に利用するための中性子線種の選定の一例を以下に示す。 身体に悪影響のある高エネルギーの中性子線(例えば、高速中性子線、中速中性子線の内の高エネルギー部分など)をまずは極力除外し、さらに医療効果の少ない極低エネルギーの中性子線(例えば、熱中性子線、低温中性子線)を減らし、医療効果の高い中性子線(例えば、中速中性子線の内の低エネルギー部分、熱外中性子線)の割合を高める。 これにより、効果的利用が可能な医療用中性子線とすることができる。中速中性子線の内の低エネルギー部分及び熱外中性子線は、患者体内の組織への深達性が比較的高く、これら低エネルギー部分及び熱外中性子線を、例えば頭部へ照射する場合、よほど深部の腫瘍でない限り開頭手術を必要とせず、無開頭の状態で患部への効果的な照射が可能となる。

一方、熱中性子線などの極低エネルギーの中性子線は、この深達性が低く、これら中性子線を用いた手術の場合、開頭が必要となり、患者への負担が重いものとなる。 BNCTにおいて治療効果を高めるには、熱外中性子線を主体とし、熱中性子線をいくらか含む中性子線を患部に必要量に照射することが大切とされる。 具体的には、照射時間を1時間程度とした場合に必要とされる熱外と熱中性子線量の目安は、おおよそ1×109 [n/cm2/sec] である。そのために、中性子線の発生源である加速器の出射ビームエネルギーは、中性子線生成のターゲットにベリリウム(Be)を使用する場合、おおよそ5〜10MeVが必要と言われている。

次に、加速器を用いたBNCT用中性子線照射場での各種減速材による中性子線種の選択について記述する。 加速器から出射されたビームはターゲット(この場合は、Be)に衝突し、核反応により主として高エネルギーの中性子線(高速中性子線)を発生する。高速中性子線の減速には、まずは非弾性散乱断面積の大きい鉛(Pb)や鉄(Fe)などを用い、ある程度(おおよそ、〜1MeV)まで減速する。ある程度まで減速された中性子線に対するさらなる減速には、照射場に必要な中性子エネルギーに応じた最適化が必要となる。

一般的には、酸化アルミニウム(Al2O3)やフッ化アルミニウム(AlF3)、フッ化カルシウム(CaF2)、黒鉛、重(D2O)などが減速材として用いられている。1MeV近傍まで減速された中性子線をこれら減速材に入射させることによって、BNCT治療に適したエネルギー(0.5eV〜40keV)の熱外中性子線領域まで減速する。

上記非特許文献1および非特許文献2の場合、減速材としては、Pb、Fe、ポリエチレン、Al、CaF2、及びLiFを含有するポリエチレンが使用されている。この内、ポリエチレンとLiF含有ポリエチレンとは、高エネルギー中性子線の照射場以外への漏洩防止のために、装置外部全体を覆う遮蔽用の減速材として用いられている。

これら減速材群の内、Pb、Feを使用して高エネルギー部分の中性子線をある程度まで減速する前半段階の減速は、適切なものと言えたが、ある程度まで減速したあとのAl、CaF2を用いた後半段階の減速に関しては、適切なものとは言えなかった。 何故なら、この後半段階に用いられている減速材は、高速中性子線に対する遮蔽能力が十分でなく、減速された線種の中に患者の健全組織に害を及ぼす可能性が高い高速中性子線が高い割合で残っていたからである。

その原因は、後半段階における、高エネルギー部分の中性子線に対する減速材としてのCaF2の遮蔽性能不足にあり、一部が遮蔽されずに透過してしまっていたことによる。 CaF2と共に後半段階で使用されているLiF含有ポリエチレンは、治療室側の中性子線出射口以外の全面を覆い、患者への高速中性子線による全身被爆を防ぐために設置されており、中性子線出射口における減速材としての機能は有していない。

このため、後半段階における高速中性子線に対する減速材としてのCaF2に代わり、治療に必要とされる中レベルのエネルギーの中性子線の減衰を抑えながら、高エネルギーの中性子線を減速し、遮蔽することが出来る減速材の開発が望まれていた。

本発明者らは種々の調査・研究に基づき、ある程度減速された中性子線(そのエネルギーはおおよそ、〜1MeV)から、最も治療効果が高いと見込まれる、熱外中性子線を主体とした中性子線(エネルギーが0.5eV〜40keVの中性子線)を得ることができる減速材として、MgF2焼結体またはMgF2系の物質、例えばMgF2−CaF2二元系焼結体を見出したのである。MgF2系の物質としては、MgF2−CaF2二元系焼結体の他に、MgF2−LiF二元系焼結体、MgF2−CaF2−LiF三元系焼結体などを挙げることができる。

これまでに、中性子線用の減速材としてフッ化マグネシウム(MgF2)が使用されたと言う報告は見当たらない。まして、MgF2焼結体やMgF2−CaF2二元系焼結体が、この様な中性子線の減速材として使用されたという報告はない。 本発明者らは本発明に先立ち、中性子線用の減速材としてMgF2単味(原料技術系の専門用語であり、“単独”と同意語)の焼結体に係る発明を既に出願している(特許文献1:特願2013-142704、以下、先願と記す)。

理化学辞典によると、MgF2は、融点1248℃、沸点2260℃、密度(すなわち、真密度)3.15g/cm3、立方晶系、ルチル構造と称される無色の結晶である。一方、CaF2は、融点1418℃、沸点2500℃、密度(すなわち、真密度)3.18g/cm3、モース硬度4の立方晶系に属する蛍石構造と称される無色の結晶である。 MgF2単結晶体は透明度が高く、波長0.2〜7μmの広範囲の波長域で高い光透過性が得られることと、バンドギャップが広くレーザー耐性が高いことから主としてエキシマレーザー用窓材として使用されている。また、MgF2単結晶体はレンズの表面に蒸着されると内部保護や乱反射防止の効果を発揮し、いずれも光学用途に使用されている。

一方、MgF2焼結体は多結晶構造のため、透明度が低く、光学用途に使用されることはない。他方、MgF2焼結体はフッ素ガスおよび不活性ガス系プラズマに対する耐性が高いことから、半導体製造工程における耐プラズマ性部材への適用に関して2,3の特許が出されている。しかしながら、半導体製造工程に実際に使われたという発表、報告などは見当たらない。その理由としては、MgF2単結晶体の極めて高価なイメージが強いこと、また下記の特許文献2に記載のように、一般的な方法で製造されたMgF2焼結体は機械的強度が低いことなど、が挙げられる。

MgF2焼結体に関しては、例えば特開2000-302553号公報(下記特許文献2)によると、MgF2、CaF2、YF3、LiFなどのフッ化物セラミックス焼結体の最も大きな欠点は、機械的強度が低いこととなっている。この課題を解決すべく発明されたのが、これらフッ化物とアルミナ(Al2O3)とを所定の比率で混合して複合化された焼結体であって、フッ化物の優れた耐食性を維持しつつ、高強度が得られる、としている。

しかしながら、この方法で製造された焼結体の耐食性と機械的強度は、いずれの組合せでも、単にそれらフッ化物とアルミナ双方の特性の中庸の特性のものが得られたに過ぎず、複合化により、双方の特性の内で優れた特性を超えるような相乗的効果をもたらすものとはなっていない。しかも、その用途は高耐食性用途に限定されたものであり、本発明に係る用途とは大きく異なっている。

同じくMgF2をベースとした焼結体としては、特開2000-86344号公報(下記特許文献3)があるが、これも耐プラズマ性部材に用途限定されたものである。特許文献3によれば、Mg、Ca、SrおよびBaの群から選ばれた少なくとも1種のアルカリ土類金属のフッ化物からなり、前記アルカリ土類金属以外の金属元素の総量が金属換算で100ppm以下、前記フッ化物の結晶粒子の平均粒径が30μm以下であり、かつ相対密度が95%以上であるもの、としている。 しかしながら、特許文献3の実施例における一覧表(表1)に記載されている材料は、前記アルカリ土類金属4種のフッ化物(すなわち、MgF2、CaF2、SrF2、BaF2)を各々単独で焼成したものであり、これらフッ化物を混合して焼成されたものは記載されていない。

その他に、MgF2をベースとした焼結体の耐プラズマ性部材への適用例としては、特開2012-206913号公報(下記特許文献4)がある。特許文献4によれば、MgF2単味の焼結体は機械的強度が弱い欠点があり、この機械的強度が弱い欠点を補うため、Al2O3、AlN、SiC、MgOなどの平均線熱膨張係数がMgF2よりも低い、非アルカリ金属系の分散粒子を少なくとも1種混合すればよい、としている。 しかしながら、このような混合物の焼結体を、上記中性子線の減速材として使用すると、MgF2に混合された非アルカリ金属の影響で、MgF2単味の減速性能と大きく異なることとなり、この種の混合物焼結体を、減速材用途へ適用することは困難であることが容易に予見された。

さらに、CaF2をベースとした焼結体を耐プラズマ性部材へ適用した例としては、特開2004-83362号公報(下記特許文献5)がある。特許文献5によれば、Mgを含有する低純度の原料にフッ化水素酸を用いてMg以外の不純物を除去した後、高純度のCaF2を沈殿生成させ、Mgを50ppm以上5wt.%以下含む高純度のCaF2を出発原料とするフッ化物焼結体の製造方法が記載されている。ここで問題となるのは出発原料に含まれるMgの形態であり、その形態については何ら記載されていない。また、低純度の原料をフッ化水素酸で高純度化する手法に関しても何ら記載されていない。

そこで、当業者として低純度原料の高純度化の過程を類推すると、一般的に、低純度の原料をフッ化水素酸を用いて純度を上げる場合、その原料中の不純物をまずフッ化水素酸溶液に可能な限り溶解させる。この溶解過程で主原料としたい成分(ここでは、Ca)が不純物とともに溶解した場合は、その後、溶解した成分ごとの溶解度の差を利用して沈降分離する方法を採用することが多い。

さらに詳細にこの発明の内容を見ると、Mgについては他の不純物と異なる溶解挙動を取ったと推測される。明細書本文中の表現はあくまでも“Mg”と表記され、かつ、実施例の表1における記載によれば、Mg以外の高濃度の不純物成分(例えば、Fe、Al、Na、Y)は高純度化処理によってその濃度が全て低減されているが、Mgだけは処理前が2000ppm、処理後も2000ppmと濃度の変化が全く無い。 これらのことから、Mgはフッ化水素酸に溶解しにくい形態、すなわち、金属形態であった可能性が高い。仮に、金属Mgを含有するCaF2を出発原料とすると、本発明のようにCaF2とMgF2との混合物を出発原料とする場合とその焼結過程は大きく異なり、その焼結体の特性も大きく異なるものとなる。

他方、最近、中性子線減速材に関する発明が開示された。それが特許第5112105号(特許文献6)である。特許文献6によれば、「中性子線を減速する減速材であって、フッ化カルシウム(CaF2)を含有する原料を溶融して得られた第1の減速層と、金属アルミニウム(Al)、又はフッ化アルミニウム(AlF3)からなる第2の減速層とを備え、前記第1の減速層と前記第2の減速層とは隣接して設けられていることを特徴とする減速材」が開示されている。 特許文献6には、CaF2を含有する原料を溶融して得られた第1の減速層が開示されているが、その純度、成分、粒度及びその処理方法などの原料条件、また、加熱温度、同保持時間、加熱炉の様式などの溶融条件が一切記載されておらず、特許明細書としては極めて不誠実な内容のものとなっている。特許文献6には、MgF2に関するものを中性子線減速材として使用することを示唆するような記載は全くなされていない。

上記したように、従来の文献には、MgF2の焼結体を放射線の一種である中性子線用の減速材として用いることを示唆する記載は一切なされていない。このような状況下、本発明者らはMgF2の焼結体を改良することにより、放射線の一種である中性子線用の減速材として用いることが可能であることを見出し、先願を発明するに至った。

先願では、まず高純度のMgF2原料を粉砕処理し、2段階の圧縮、成形工程を施す。すなわち一軸プレス成形法で成形したあと、さらにこのプレス成形体に冷間等方加圧成形(CIP)法を用いて成形し、CIP成形体を形成する。 次に、雰囲気調整可能な常圧炉を用いて3段階に分けて異なる加熱条件で焼成し、MgF2の発泡を極力抑制しながら、緻密な構造の焼結体を製造する。

〔発明が解決しようとする課題〕 しかしながら、MgF2は極めて発泡し易く、その発泡を実際に抑制することは容易ではない。その結果、先願に係る方法で製造した焼結体の相対密度(すなわち、100×[焼結体の嵩密度]/[真密度](%))の範囲は92〜96%、相対密度の平均値は94〜95%程度であった。 中性子線減速材用焼結体に望まれる特性は、「相対密度の平均値で少なくとも95%以上、望ましくは同平均値で96%以上が安定的に確保されること」である。

特願2013-142704号(2013年7月8日出願)

特開2000-302553号公報

特開2000-86344号公報

特開2012-206913号公報

特開2004-83362号公報

特許第5112105号公報

H.Tanaka et al.、Applied Radiation and Isotopes 69(2011)1642-1645

H.Tanaka et al.、Applied Radiation and Isotopes 69(2011)1646-1648

熊田博明、山本哲哉;JRR-4における中性子捕捉療法の線量評価、保健物理、42(1)、(2007)23〜37

課題を解決するための手段及びその効果

本発明者らは上記課題に鑑み、さらなる開発に取り組み、MgF2−CaF2二元系焼結体を放射線用途に用いた場合、MgF2単味焼結体と比べて焼結体の相対密度が向上しやすく、且つ、焼結条件の適正化を図ることにより、より望ましい密度の焼結体を安定的に製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。

すなわち本発明は、放射線の一種である中性子線を治療用に有効利用する際に、その中性子線のエネルギーを減速するために使用される減速材として優れた特性を有し、治療効果を高めることができ、しかも治療用装置の小型化を図ることができ、さらには単結晶体のように高価格とはならない、放射線減速材用MgF2−CaF2二元系焼結体、及びその製造方法を提供することを目的としている。 換言すれば、本発明は、単結晶体のような結晶方位に起因する減速性能の面方位依存性を有さず、サブグレインなどの構造欠陥に基づく不均一性も無く、極めて緻密な構造を有する放射線減速材用MgF2−CaF2二元系焼結体、及びこれら焼結体を安定的に製造することができる製造方法を提供することを目的としている。

本発明では、主として中性子線用の減速材として記述するが、本焼結体は中性子線に限らずエックス線とかガンマ線など、その他の放射線の遮蔽用部材としても優れた性能を有している。

本発明者らは、まず、高エネルギー中性子線の遮蔽(すなわち減速)を担う減速材に適した物質(化合物)の選定に関する基本的な考察を行った。 すなわち、各種物質の中性子線の減速性能を比較調査することから始めることにした。 ここでは、中性子線の広いエネルギー範囲のなかで中程度のエネルギーに減速された中性子線を、患者に照射できるレベルのエネルギーに減速できるか否かを検討した。

検討対象とする化合物としては、入射する中性子線のエネルギーレベルが中程度であることから、比較的軽元素系の化合物であるハロゲン系元素を含む化合物を想定した。フッ化カルシウウム(CaF2)とかフッ化マグネシウム(MgF2)などのフッ化物、塩化カルシウム(CaCl2)とか塩化マグネシウム(MgCl2)などの塩化物をまず想定した。

塩化物は、その加工物を造る際の加熱時に溶融塩(液相)を造り易く、固溶体の生成を利用する焼結反応にはなりにくい。仮に焼結体ができたとしても、化学的に活性となり、安定性を欠く恐れが高い。 ここで、「固溶体」とは、二種類以上の化合物同士の反応において、各々の化合物が類似の性質を持つときに、その化合物同士お互いの成分が混合しながら結晶構造は元の化合物の形を保った状態を「固溶体」と言う。 塩化物に比べ、フッ化物の焼結体は比較的化学的に安定であるため、フッ化物の方に優位性が見込めるとしてフッ化物を選定した。

減速性能以外の減速材に要求される基本特性としては、製品形状の維持特性が挙げられ、製品製造の機械加工時およびハンドリング時における損傷を防止することができる機械的強度に優れたものであることが重要である。

焼結体の機械的強度は、粒子間の結合部のミクロ強度と、焼結体の緻密さと、さらにはその母体の結晶構造(多結晶または単結晶または非晶質など)に起因する脆性度とによって決まってくる。 前記焼結体の緻密さは、気泡の大きさ、形状、分布、数などの脱泡状態、換言すると、結合部および元の粒子の結合体(母体)の太さ、長さなどの形状によって決まってくる。

本発明における基本的な技術的思想は、 (1)原料を二種類混合することによる焼結条件の緩和、すなわち、一種類単味と比べて低温焼結を可能とすること、 (2)この焼結を、固相間反応による粒成長と固溶体形成による緻密な焼結体の形成、またはそれに加えて溶融反応による溶融焼結とを併用し、焼結体を強固な粒子間結合力を有するものとすること、 (3)フッ化物系原料は高温加熱されると原料の一部が気化し(主として、フッ化物の一部が熱分解(昇華)してフッ素ガスを発生)、気泡が発生(発泡)する。この発泡を避けられる低温加熱で焼結させ、また加熱の経過(焼結ヒートパターン)の適正化を図ることにより緻密な焼結体とすること、 にある。

技術的思想(1)に関しては、図3に示したようにMgF2単味焼結体と比べてその焼結条件が良好な範囲における相対密度、例えば、各々の最高到達相対密度は、0.5〜1.5%程度高めになる傾向がある。また、MgF2−CaF2二元系焼結体の方がその嵩密度が高くなる二次焼結温度の温度域が広く、安定した焼結条件に成りやすいことを示している。 また、本発明では、上記技術的思想(2)及び(3)を併用することにより、放射線、特に中性子線減速材用部材として必要な減速性能及び減速性能以外の基本特性としての機械的強度(形状維持)特性に優れた放射線減速材用MgF2−CaF2二元系フッ化物焼結体を安定的に製造できるようにしている。

次に、上記技術的思想(3)の発泡現象について少し詳しく説明する。出発原料を示差熱分析計を用いて加温しつつ試料の重量変化と吸発熱量の変化を調査した結果、出発原料の配合割合で少し異なるが、おおよそ800〜850℃くらいから極わずかに重量減少が認められた。これは結合性の弱い、例えば仮焼結体の母材に付着したフッ素とか、母材中に溶解したフッ素がまず先に解離、分解したと思われる。さらに加温していくと、おおよそ温度850〜900℃あたりで重量減少曲線の変曲点となり、その重量減少は活発になる。

この示差熱分析の結果と、後述する予備焼結試験での焼結条件と、その焼結体の構造の調査結果、具体的には、 1.焼結体の気泡発生状況、 2.焼結部の組織構造状況、 3.焼結体の嵩密度 などの調査結果を総合的に勘案した。この重量減少曲線の変曲点となる温度以上で加熱する場合は、MgF2またはCaF2中の結合したフッ素元素の一部が分解し始め、フッ素ガスを発生して微細な気泡を生成する原因になる、と想定された。

そこで、この重量減少曲線の変曲点の温度850〜900℃を発泡開始温度(Tn)と称することにした。気化し始める温度は組成により少し異なり、MgF2が主体の組成(MgF2が70〜99.8wt.%、残りCaF2)の場合、約800℃から気化し始め、約850℃からはかなり活発に気化した(変曲点、すなわち発泡開始温度Tnは850℃と規定する)。また、 CaF2が主体の組成(MgF2が10〜40wt.%、残りCaF2)の場合、約850℃から気化し始め、約900℃からはかなり活発に気化した(同じく、Tnは900℃とした)。MgF2が40〜70wt.%、残りCaF2の場合、前出2つのケースの中間程度、すなわち約825℃以上の温度域で気化し始め、約875℃からはかなり活発に気化した(同じく、Tnは875℃とした)。

すなわち、MgF2が主体の組成(MgF2が70〜99.8wt.%、残りCaF2)の場合、約800℃から昇華が始まり、約850℃から活発に昇華し、発泡が始まる。CaF2が主体の組成(MgF2が10〜40wt.%、残りCaF2)の場合、約850℃から昇華が始まり、約900℃から活発に昇華し、発泡が始まる。その中間の配合割合であるMgF2が40〜70wt.%、残りCaF2の場合、約825℃から昇華が始まり、約875℃から活発に昇華し、発泡が始まる。

このようにフッ化物が昇華(固相から、液相を経ずに気相になる現象。この場合は“気化”と同義語)すると、フッ素ガスを発生するため、焼結体中に微細な気泡が生成する。 電子顕微鏡(SEM)で焼結体の破断面を観察すると、その気泡のサイズ゛は、破断面に見える径で表示すると、小さいもので数μmから、大きいもので20〜40μm程度であった。 小さい数μmのものは形状がほぼ円形に近く、大きいものは円形のものは希で、大半は細長い形状、あるいは張った形状になり、不定形のものとなる。 この形状から、小さいものは上記のフッ化物が昇華して発生したばかりの気泡、大きいものはこの発生した気泡の幾つかが集合したもの、あるいは焼結過程で粒子間の空隙などが脱泡できずに残留したものと考えられた。

一つの嵩密度の値に対して、相対密度の値に範囲が表示されるのは、MgF2とCaF2との二元系焼結体の場合、その両者の真密度が異なる(MgF2は3.15g/cm3、CaF2は3.18g/cm3)ためであり、その混合割合によって混合物の真密度がわずかながら異なることになる。ここでは、その混合物の真密度の値を次のように定め、相対密度を算出することにした。

(a)MgF2が主体の組成、すなわちMgF2が70wt.%以上、99.8wt.%以下(70〜99.8wt.%と本願中では表記する。)、残りCaF2の場合の真密度は3.15g/cm3、 (b)MgF2が40wt.%以上、70wt.%未満(同40〜70wt.%)、残りCaF2の場合の真密度は3.16g/cm3、 (c)MgF2が10wt.%以上、40wt.%未満(同10〜40wt.%)、残りCaF2の場合の真密度は3.17g/cm3と定めた。

上記目的を達成するために、本発明に係る放射線減速材用MgF2−CaF2二元系焼結体(1)(本願請求項1、以下同様)は、MgF2にCaF2を0.2wt.%以上、90wt.%以下含み、その嵩密度が2.96g/cm3以上である放射線減速性能、特に中性子線減速性能に優れた緻密な多結晶構造を有することを特徴としている。

上記放射線減速材用MgF2−CaF2二元系焼結体(1)によれば、焼結体の組織構造の部位による差が小さく、かつ溶融体の生成量が抑制され、固溶体の結晶成長が抑えられて脆性部分の発生が少なくなり、焼結体の強度が高められる。このため、中性子線減速材として優れた減速性能を有し、かつ機械的強度も高められ、中性子線減速材に要求される全ての特性を満たす焼結体を得ることができる。

また、本発明に係る放射線減速材用MgF2−CaF2二元系焼結体(2)(本願請求項2、以下同様)は、曲げ強度が15MPa以上、ビッカース硬度が90以上の機械的強度を有することを特徴としている。

上記放射線減速材用MgF2−CaF2二元系焼結体(2)によれば、強固な粒子間結合力を有し、結合部のミクロ強度は高いものとなり、機械的強度は著しく向上したものとなる。これにより中性子線減速材としてより優れた減速性能を有し、しかも機械的強度も極めて優れた焼結体を提供できることとなる。

また、本発明に係る放射線減速材用MgF2−CaF2二元系焼結体の製造方法(1) (本願請求項3、以下同様)は、 MgF2粉末にCaF2粉末を0.2〜90wt.%混合し、さらに焼結助剤を0.02〜1wt.%添加して混合する工程、 前工程で配合された原料粉末をプレス成形機を用いて成形圧5MPa以上で成形する工程、 プレス成形品を、冷間等方加圧成形(CIP)機を用いて成形圧5MPa以上で成形する工程、 CIP成形品を大気雰囲気中で600〜700℃の温度範囲で加熱して仮焼結を行う工程、 仮焼結体の発泡開始温度を(Tn)℃とすると、(Tn−100)℃から(Tn)℃の温度範囲で加熱して大気中または不活性ガス雰囲気中で焼結させる工程、 前工程と同雰囲気中で900〜1150℃の温度範囲で加熱して緻密な構造の焼結体を形成する工程、 を含むことを特徴としている。

上記放射線減速材用MgF2−CaF2二元系焼結体の製造方法(1)によれば、焼成された焼結体は強固な粒子間結合力を有し、結合部のミクロ強度は高いものとなり、課題であった機械的強度は著しく向上し、中性子線減速材用部材として実用上問題なく使用できるものとなる。 また、MgF2−CaF2の配合割合、加熱雰囲気、加熱温度パターンなどの選定により、焼結体の緻密度を高めることができる。 また、焼成された焼結体の結晶構造は多結晶となり、単結晶と比較して脆性度は著しく改善される。 また、MgF2単味焼結体と比べてその焼結条件が良好な範囲における最高到達相対密度を高めることができ、嵩密度が高くなる二次焼結温度の温度域を広くし、安定した焼結条件の実現を容易にする。

また、本発明に係る放射線減速材用MgF2−CaF2二元系焼結体の製造方法(2)(本願請求項4、以下同様)は上記放射線減速材用MgF2−CaF2二元系焼結体の製造方法(1)において、前記焼結工程における不活性ガス雰囲気が、窒素、ヘリウム、アルゴン、及びネオンの中から選択される1種類のガス、または複数種類のガスを混合させたものからなることを特徴としている。 上記放射線減速材用MgF2−CaF2二元系焼結体の製造方法(2)によれば、焼結過程での脱泡を容易にし、焼結体の相対密度を高めるのを容易にする。

MgF

2−CaF

2二元系の状態図である。

MgF

2−CaF

2二元系焼結体を製造する工程フローを示す図である。

MgF

2−CaF

2二元系焼結体とMgF

2単味焼結体の二次焼結温度と相対密度の関係を示す図である。

焼結工程の雰囲気ガスを窒素ガス及びヘリウムガスに変更した場合のMgF

2−CaF

2二元系焼結体の二次焼結温度と相対密度の関係を示す図である。

原料配合割合を変えたMgF

2−CaF

2二元系焼結体の中性子線減速性能の測定結果を示す表(表1)である。

実施例、比較例の測定データを示す表(表2)である。

以下、本発明に係る放射線減速性能、特に中性子線減速性能に優れた緻密な多結晶構造を有する放射線減速材用MgF2−CaF2二元系焼結体及びその製造方法の実施の形態を図面に基づいて説明する。

実施の形態に係るMgF2−CaF2二元系焼結体の製造方法は、図2に示すように、高純度(純度99.9wt.%以上)のMgF2粉末に、高純度(純度99.9wt.%以上)のCaF2粉末を0.2〜90wt.%の割合(内掛け)で混合し、焼結助剤として例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)溶液を前記混合物100に対し、0.02〜1wt.%添加(外掛け)し、混練したものを出発原料とする(原料配合工程)。 この出発原料を一軸プレス成形機を用いて成形圧5MPa以上で成形し(一軸プレス成形工程)、このプレス成形体を冷間等方加圧成形(CIP)機を用いて成形圧5MPa以上で成形する(CIP成形工程)。 このCIP成形体に大気雰囲気中、600〜700℃の温度範囲で加熱する仮焼結工程を施す(仮焼結工程)。 この仮焼結体を大気中または不活性ガス雰囲気中で発泡開始温度Tnの直下の温度範囲、すなわち(Tn−100℃)からTnの温度範囲で比較的長時間(具体的には、3〜12時間)加熱し、焼結を均一に進行させる(一次焼結工程)。 上記発泡開始温度Tnの直下の温度範囲とは、示差熱分析計による測定で定めた温度範囲であり、その温度範囲は、MgF2とCaF2の原料の配合割合に応じて約750〜900℃の範囲で変化する。すなわち上記した通り、MgF2が主体の組成では750〜850℃、CaF2が主体の組成では800〜900℃、この中間の組成では775〜875℃の温度範囲と組成の割合に応じて設定した。 引き続き、同じ雰囲気中で固溶体が生成し始める温度域近傍(図1に示すMgF2−CaF2二元系状態図における固溶体を生じ始める温度である980℃前後の温度域)、すなわち900〜1150℃の温度範囲で比較的短時間(0.5〜8時間)加熱し、その後冷却して緻密な構造のMgF2−CaF2二元系焼結体を製造する(二次焼結工程)。

焼結工程を一次と二次の2工程に分けた理由は、発泡を極力抑制し、しかも、焼結体の部位(例えば、外周部と中心部)毎での焼結進行度の差を極力小さくするためである。 大型の緻密な焼結体を製造する場合には特に重要な技術となる。ここで大型とは、後記する実施例に係るプレス成形体で、220mm×220mm×高さ85mmのサイズがこれに該当し、小型とは、後記するプレス成形体で、直径80mm×高さ50mmのサイズがこれに該当する。

大枠の焼結工程の適正加熱条件を把握するために行った試験では、出発原料をMgF2−CaF2二元系とMgF2単味とし、試料サイズを前記大型とし、二段階の焼結工程をいずれも窒素ガス雰囲気中とした。一次焼結は840℃で6時間保持とし、その後引き続き行う二次焼結では、加熱時間を2時間とし、加熱温度を種々変更して行い、焼結体の相対密度を測定した。

その結果は図3に示すように、MgF2−CaF2二元系、MgF2単味いずれも二段階の焼結工程であれば広い加熱条件範囲で相対密度は95%以上を確保でき、とくにMgF2−CaF2二元系の方は好条件範囲(950〜1050℃の加熱)では相対密度96〜97%が得られた。 それに対して、後記する比較例11及び12のように一段階の焼結工程のみでは相対密度は94%程度以下となってしまった。

主原料のMgF2粉末に副原料のCaF2粉末を混合する目的は、MgF2単味では融点が1252℃と高く、しかも固溶体生成の温度領域が一部点線表記で不明瞭となっているのを、図1に示す状態図における固溶体生成領域がより明瞭な範囲となる焼結反応とすることにある。

Mgとは元素の周期律表の族が同じで周期が隣接し、特性が似かよっていると推測されるCaのフッ素化合物CaF2を適量混合することによって、融点の低温化と固溶体の生成温度条件の明確化を図ることができる。CaF2の配合により、図1中の固溶体生成開始の温度領域表示線の左端部の点線領域から、右方に位置する中間配合割合の実線領域に近づけることができる。その結果、焼結温度条件の適正化が容易になる。MgF2に対する混合物としては、Caのフッ素化合物CaF2のほかにLiのフッ素化合物LiFを挙げることができる。

焼結助剤として、前記CMCと前記ステアリン酸カルシウム(SAC)の2種類を選定し、それぞれの添加割合を変化させ、これら焼結助剤の添加効果を確認した。対比のため、焼結助剤を使用しない試験も併せて行った。 主原料のMgF2と副原料のCaF2との混合割合を0〜97.5wt.%(内掛け)の範囲で種々変化させた。ボールミルで半日混練したあと、焼結助剤二種類をおのおの0〜2wt.%(外掛け)の割合で添加し、ポットミルを用いて一昼夜混練して出発原料とした。 ボールミルはアルミナ製、内径280mm、長さ400mmのものを使用した。その中に入れるボールは、φ5:1800g、φ10:1700g、φ20:3000g、φ30:2800gのアルミナ製のものを使用した。ポットミルはアルミナ製で内径200mm、長さ250mmのものを使用した。

この配合原料を、木製の型枠内に所定量充填し、一軸プレス成形機を使用し、一軸のプレス圧を5MPa以上掛けて圧縮、成形した。実施例用の型の内寸法は、220mm×220mm×H150mmとし、小型試験用の型の内寸法は、直径80mm、高さ100mmとした。 このプレス成形体を厚手のビニール袋内に入れ、脱気、封入して冷間等方加圧成形(CIP)機に掛けた。2分割構造の成形部(内径350mm×H120mm)内に前記プレス成形体を装填し、成形部を密封し、前記プレス成形体が入った前記ビニール袋と前記成形部との隙間に上水を満たして後、5MPa以上の水圧を掛けて等方加圧処理を施し、CIP成形体を形成した。

これらCIP成形体に大気雰囲気中で加熱温度500〜750℃、加熱時間3〜18時間の範囲内で条件を種々変化させて仮焼結工程を施した。 これら仮焼結体の外観などを観察した後、事前の予備試験で良好な焼結条件と見込まれた条件で仮焼結体を焼結させた。焼結工程は、窒素ガス雰囲気中で、室温から600℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に8時間保持し、引き続き1000℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に1時間保持する条件で実施した。その後100℃までの冷却に20時間を掛けた。

取り出した焼結体の外観、内部の緻密化状況などを観察し、適正な原料配合、原料処理条件と仮焼結条件などを調査した。 その結果、主原料MgF2への副原料CaF2の混合割合は、0.2wt.%未満ではCaF2の混合による焼結性能の良化があまり認められなかった。MgF2単味の場合と同様に焼結体の内部と外周部の緻密化の差が大きくなりやすく、混合による焼結性能の改善を得るには、0.2wt.%以上が必要と判断された。 他方、90.1wt.%以上では、焼結体の外周部に比べて内部の方に大きい気泡が多く残り、緻密化が不十分となった。

このような状況から、焼結体の内部と外周部の緻密化の差が小さい、すなわち焼結性能が良好な状態になるMgF2へのCaF2の混合割合は0.2〜90wt.%と判断された。焼結体内部と外周部との緻密化の差がさらに小さく優れた均質度とするためのより望ましい混合割合は1.5〜80wt.%と認められた。これらのことから、CaF2混合の適正範囲は0.2〜90wt.%、より望ましくは1.5〜80wt.%と判断された。 焼結助剤二種類の効果に大差は認められなかったが、同助剤の配合割合が0.02wt.%未満では成形体の形状維持性能が劣ること、また、配合割合が1.1wt.%を超えると、仮焼結体あるいは焼結体に、その助剤の残留物と思われる着色が認められることがあった。これらのことから、焼結助剤の配合割合の適正範囲は0.02〜1wt.%と判断された。

上記小型試験用木型を使用した一軸プレス試験で、一軸プレス成形機の成形圧を5MPa未満とした場合、ハンドリング時にプレス成形体が崩れて壊れ易く、成形圧を5MPaから徐々に大きくしていくとプレス成形体の嵩密度が徐々に大きくなり、仮焼結体や焼結体の嵩密度もわずかではあるが大きくなる傾向が見られた。成形圧を徐々に大きくし、100MPaまで実施した。成形圧を20MPa以上に大きくしても、仮焼結体、焼結体の性能向上は認められなかった。これらのことから、一軸プレス機による成形圧の適正値は5MPa以上、望ましくは20MPaとした。

CIP機の成形圧が5MPa未満ではハンドリング時にCIP成形体が崩れて壊れ易く、成形圧を5MPaから徐々に大きくしていくと、CIP成形体の嵩密度が徐々に大きくなり、仮焼結体や焼結体の嵩密度もわずかではあるが大きくなる傾向が見られた。CIP成形圧を徐々に大きくしていき60MPaまで実施したが、成形圧を20MPa以上に大きくしても、仮焼結体、焼結体の性能に大きな向上は認められなかった。これらのことから、CIP機による成形圧の適正値は5MPa以上、望ましくは20MPaとした。

CIP成形体の大気雰囲気中の仮焼結条件の調査は、以下の条件下で実施した。MgF2に対してCaF2を3wt.%混合し、焼結助剤としてCMCを0.1wt.%添加したものを出発原料とした。前記小型試験用の木型を使用し、一軸プレス成形機の成形圧を20MPa、CIP機の成形圧を20MPaに設定し、これらの条件下で形成されたCIP成形体を用いて仮焼結条件の調査を行った。

加熱温度が600℃未満では成形体の寸法に比べて収縮がわずかであり、710℃以上では収縮速度が早すぎて、収縮の制御が困難になることから、仮焼結温度の適正範囲は600〜700℃とした。 加熱時間は、600℃の場合、収縮速度の評価から8〜9時間が最適であり、4〜10時間が適正と判断された。700℃の場合、6〜8時間が最適であり、4〜10時間が適正と判断された。これらの結果から、仮焼結工程における加熱条件は、大気雰囲気中で600〜700℃、4〜10時間とした。

放射線減速材用MgF2−CaF2二元系焼結体を製造するうえで最も焼結体の性能に影響を与えると考えられたのが焼結工程である。ここまでの調査、試験などでこの焼結工程直前までの適正条件は明らかになってきている。 まず、放射線減速材用MgF2−CaF2二元系焼結体に対して望ましいと思われる焼結工程および焼結機構の整理を試みた。

焼結工程の進行度を表現する用語である“一次凝集過程”、“二次凝集過程”について説明する。“一次凝集過程”は、焼結の前半段階の事象を指しており、その初期段階では粒子と粒子との間隔が徐々に狭まり、粒子同士の間の空隙も狭まってくる。さらに進行すると、粒子同士の接触部分が太くなり、その間の空隙は更に小さくなる。ただし、その空隙の大多数は開気孔で、周りの雰囲気と通じている。この様な段階までを“一次凝集過程”と称する。 一方、一次凝集過程を終え、さらに焼結が進むと、開気孔が徐々に減り、閉気孔化して行く。大まかには、この閉気孔化の段階と、その後の脱泡、緻密化の段階を総称して“二次凝集過程”と称する。

実施の形態に係る製造方法では、原料混合、粒度調整、混練、二段階の成形(一軸プレス成形とCIP成形)、仮焼結などにより、仮焼結体の粒子間の空隙は小さく、且つ、その空隙は集合せずにほぼ均一に分散していることが認められた(一次凝集過程の前半段階)。 次の焼結工程の昇温過程で徐々に加熱温度が上昇し、仮焼結温度(600〜700℃)よりもやや低い温度域(500〜550℃)あたりから粒子同士の集合がはじまる。それに引き続き、固溶体が生成し始める980℃よりもかなり低い温度域から固相間反応が始まり、それに伴い粒子同士の凝集が進行し、粒子間距離は短くなり、空隙は小さくなる。

一般的には、固溶体が生成し始める温度から10%程度、あるいは、それ以上低い温度域から固相間反応は始まると言われている。本発明者らの予備試験などにおける観察結果からは、固相間反応は、一般的に言われている上記温度よりもかなり低い温度域から始まり、500〜550℃程度から始まっていると考えられた。 その根拠としては、仮焼結温度の下限の600℃では固相間反応による焼結がすでにかなり進行しており、仮焼結体はCIP成形体に比べてかなり収縮することを挙げることができる。 この温度域では、固相間反応は、ゆっくりとした反応速度で進み、750℃近傍、またはそれ以上980℃以下の温度域では、かなり早い反応速度で進むと考えられた。ただし、想定している仮焼結程度の比較的低い温度(600〜700℃)での短時間の加熱では、大半の空隙は依然として開気孔状態のままである(この状態が、一次凝集過程の前半段階)。

ここで注意すべき点は、上記したように、約850〜900℃以上の温度域では、原料の一部分が気化して発生する微細な気泡(発泡気泡)の挙動である。約1000℃以上の加熱を実施する場合には、この発泡気泡の発生は顕著になってくるため、可能な限り短時間の加熱にしなければならない。

実施の形態に係る製造方法では、焼結工程を2つに分け、一次焼結工程では発泡気泡が生じない比較的低めの温度域で長時間加熱し、全体をほぼ均一的に焼結を進行させる。焼結体のミクロ構造としては開気孔が主体ではあるが、一部は閉気孔化した状態(一次凝集過程の後半段階を終え、一部分は二次凝集過程にある)とする。 二次焼結工程では固溶体を生じ始める980℃前後の比較的高めの温度域で必要最小限の時間加熱する。焼結体のミクロ構造としては発泡気泡の生成を極力抑制しつつ焼結反応を進行させ、ほぼ全ての開気孔を閉気孔化し、すなわち二次凝集過程を終え、高密度の焼結体とする。

ここで、原料粒子のミクロな挙動について付記しておく。CaF2粒子は主原料のMgF2粒子の周囲に在って、MgF2粒子との界面反応を進めて行くと推定される。加熱温度が固溶体を生じ始める980℃を超えたあたりからは、CaF2粒子が存在する粒子界面付近でMgF2−CaF2二元系化合物の固溶体が生成し始める。この固溶体が粒子間の空隙を埋めて行き、一部では毛細管現象により微細な空隙も埋まると思われる。

他方、加熱温度が980℃未満であっても、上記したように約750℃以上に比較的長時間加熱保持すると、固相間反応が進み易く、時間経過とともに空隙は徐々に減少し、閉気孔化していく。それと並行して閉気孔内のガス成分が焼結体のバルク(母体)内に拡散して脱泡が進み、気泡の少ない緻密な焼結体となる(この状態が、二次凝集過程)。

ここでも、発泡開始温度Tn(原料であるMgF2とCaF2の混合割合によりその発泡開始温度に差を生ずる)以上、すなわち850〜900℃を超える温度での加熱では原料の気化によって発生する微細な気泡(発泡気泡)の生成に注意が必要である。 なぜなら、発泡気泡はフッ素ガスを内包していると想定され、このガスは比較的重い元素であり、焼結体のバルク内には拡散しにくいと考えられるからである。この対策としては、気化する温度域での加熱を可能な限り避けること。必要不可欠な場合は、可能な限り低目の温度での加熱、または短時間の加熱にとどめることが考えられる。

ここで、この発泡気泡と焼結工程で閉気孔化し、脱泡出来ずに残った気泡(以下、残留気泡と称す)との外観上の差異を記す。通常の比較的短時間の加熱で発生した発泡気泡は、サイズはおおよそ直径数μm、形状はほぼ真球状である。 一方、残留気泡は、真球状ではなく不定形で、サイズも大中小まちまちであり、形状の差異から見分けることが可能である。ただし、1160℃をはるかに超える高温加熱とか、1160℃を超えて長時間加熱を行った場合には、発泡気泡同士、あるいは残留気泡と発泡気泡とが集合して大きな不定形の気泡が生成することがあり、この場合は気泡の由来の判別は困難となる。

二次凝集過程の進行に伴い、粒子間の空隙は小さくなり、空隙の全部または大半は粒子または焼結体のブリッジ部分などに囲まれ、閉気孔(気泡)となる。条件によっては空隙(開気孔)を通じて脱ガスし、あるいは粒子とか焼結体のブリッジ部分などのバルク(母体)内に気泡内のガスが浸透して脱ガスし、気泡とはならない場合(脱泡現象と称す)とに分かれる。 この粒子間の空隙が閉気孔、すなわち気泡になるか、あるいは脱ガスして気泡にならないかは、焼結体の緻密化の達成度、ひいては焼結体の特性を決める大きな要素となる。 特に不活性ガスの中でHe、Neなどの軽元素ガス雰囲気での焼結では、軽元素ほど細孔内とか焼結体のバルク内を拡散し易く、毛細管現象と脱泡現象とが促進され、気泡が残り難く、緻密化が容易になると考えられる。

この様に全体を緻密化させるためには、前記の一次凝集過程(詳細には、一次凝集過程はその前半工程と後半工程に分かれる、と仮定した)と二次凝集過程とを各々の過程ごとに全体でほぼ同時に、ほぼ均一に進めることが重要である。

本実施の形態に係る発明では、主として一次凝集過程の前半段階に当たる仮焼結工程と、主として一次凝集過程の後半段階に当たる一次焼結工程と、主として二次凝集過程に当たる二次焼結工程とを分けて行うこととし、二つの凝集過程が焼結体全体をほぼ均一に進みやすくしている。 しかしながら、このように仮焼結、焼結と、工程を2つに分けたからと言って加熱条件が適切でなければ、緻密化の程度に著しく差を生じる。例えば、仮焼結工程で適正域を超えた高温で加熱したり、焼結工程の昇温段階で急速に加熱をしたり、同工程の保持温度が適正域を超えた高温であったりすると、焼結体の外周部と内部とで緻密化の程度に著しく差を生じる。不適切な加熱では、焼結体内部の緻密化過程で脱ガスが困難となり、内部の緻密化が不十分となり易い。

また、このことは、サイズに即した焼結工程の加熱温度パターンの適正化が重要であることを意味している。特に、大型の焼結体を製造する場合は、焼結体の外周部と内部との緻密化の程度に大きな差がつき易いため、緻密な加熱条件の制御が必要となる。 試料サイズと焼結状態との関係を明らかにするため、本発明者らは、一軸プレス成形機の型枠の内寸法が直径80mm、高さ100mmで成形したサンプルを用いた小型試験と、同型枠の内寸法が220mm×220mm×高さ150mmで成形したサンプルを用いた大型試験とを実施した。 その結果、小型試験の場合は、1つの焼結工程でも加熱条件によっては、相対密度が95%を超える高密度の焼結体が得られる場合があった。他方、大型試験の場合、1つの焼結工程では、小型試験と同様の加熱条件では、いずれも94%未満の低密度焼結体となってしまった。

ここで重要なことは、仮焼結体の全体が既にほぼ均一に一次凝集の前半段階まで進んでいることであり、この焼結工程の試験に供される仮焼結体は、既に一次凝集の前半段階まで進んだ状態になっているもののみとした。

焼結工程試験の概要 主原料MgF2にCaF2を3wt.%混合したものと、比較材としてMgF2単味のものを出発材とした。焼結助剤としてはCMCを0.1wt.%添加した。この配合原料を、前記大型試験用型枠を使用し、一軸プレス成形機の成形圧を20MPa、CIP成形機の成形圧を20MPaで成形した。 このCIP成形体を用い、大気雰囲気中で650℃で6時間仮焼結処理を施し、仮焼結体を形成した。 窒素ガス雰囲気中で、一次焼結工程として840℃、6時間保持し、その後、2時間掛けて二次焼結温度まで昇温させた。 二次焼結温度は、700℃から1250℃までの50℃毎の設定とし、それぞれの温度に2時間保持した。 この後、加熱を停止してそのまま約20時間自然冷却(所謂、炉冷処理)し、取り出し温度に設定した100℃以下になったところで取り出した。

このような二段階焼結工程による焼結試験を行った結果、図3に示すように、900℃から1150℃の範囲の焼結温度の場合は、焼結体の嵩密度は、大半が2.96g/cm3を超える高密度となった。この二元系配合原料の場合の真密度は3.15g/cm3であり、相対密度は94.0%となり、MgF2単味の場合も真密度は3.15g/cm3であり、相対密度は94.0%となった。

900℃未満の焼結温度の場合と、1160℃以上の焼結温度の場合は、いずれも相対密度が94.0%(嵩密度2.96g/cm3)を下回った。MgF2−CaF2二元系原料の焼結体の相対密度は、MgF2単味の場合と比べ、良好な焼結条件の範囲において、0.5〜1.5%程度高くなる傾向にあった。 これら焼結体の断面を観察すると、焼結温度900℃未満のものでは、わずかではあるが開気孔が認められるものがあり、焼結部分のブリッジ幅が細く、如何にも焼結進行不足と認められた。

焼結温度が1160℃以上、特に1200℃以上のものでは、内部に気泡が無数に発生したようなポーラスな軽石状の組織となり、また、焼結体全体に直径数〜10数μmのほぼ真球状の微細な気泡と、径10μm以上の不定形の気泡(発泡気泡とその集合気泡)が断面全体にわたり無数に認められた。 また、本発明者らの示差熱分析計を用いた別の調査によれば、これらMgF2−CaF2二元系の配合原料を昇温して行くと、温度800〜850℃(MgF2に対する CaF2の混合割合が増すにつれてこの温度範囲で徐々に高くなる)くらいから重量が明確に減少し始め、850〜900℃くらいからは急激に減少することが分かった。これは、約800〜850℃以上の加熱により、MgF2またはCaF2が分解・気化してフッ素が発生する昇華現象が始まることを意味している。

このフッ素昇華による発泡現象は、約850〜900℃以上の加熱で顕著になり、焼結体全体に微細な気泡を形成することとなる。この発泡気泡は、焼結工程の進行度、焼結体における発生部位の相違により、脱泡するか、気泡として残るかなどの挙動が決まってくる。例えば一次凝集過程であれば、焼結体全体がまだ開気孔状態であるため、大半の発泡気泡は開気孔を通じて脱泡され、気泡として残るものは少ない。二次凝集過程であれば、主として閉気孔状態にあるため、多くの発泡気泡は脱泡されず、気泡として残ることとなる。また、二次凝集過程での焼結を速やかに完了することが発泡を抑制し、残留気泡を少なくすることとなる。 これらのことから、一次凝集過程から二次凝集過程への移行は焼結体全体で可能な限り、部位毎の程度差なく推移させることが望ましい。しかしながら、一次凝集過程から二次凝集過程への移行を焼結体全体で部位毎の程度差なく行うことは容易ではない。

そこで本発明者らは、以下の方法を考えた。 発泡開始温度Tn(850〜900℃)直下の温度域、具体的には、(Tn−100℃)からTnの間の温度域の比較的低めの加熱温度で比較的長い時間加熱を行い、一次凝集過程と二次凝集過程前半を完了させる。その後、固溶体が生成し始める温度(980℃)域近傍で比較的短時間加熱して二次凝集過程後半を完了させる。このように焼結させれば、焼結体全体で焼結進行度を合わせることができ、しかも気泡の発生を極力抑えることができた。

以下に焼結条件の適正化について記す。 上記した焼結条件変更試験と同様に、主原料MgF2にCaF2を3wt.%混合した。焼結助剤としてはCMCを0.1wt.%添加した。大型試験用の型枠を用いて一軸プレス成形機の成形圧を20MPa、CIP成形機の成形圧を20MPaで成形した。このCIP成形体を用い、仮焼結は大気中、650℃で6時間の保持とした。

焼結工程の条件として、雰囲気は窒素ガス雰囲気とし、加熱パターンのうち、昇温、降温条件はおのおの所要時間を4、6、8時間の3ケースで予備試験を行った。その結果、4時間では焼結体に小さな亀裂が発生し、その他は良好であったので6,8時間のなかで短時間の6時間とした。 雰囲気は窒素ガス雰囲気とし、加熱温度を700〜1250℃の範囲で変化させ、保持時間を2、3、4、5、6、8、10、12、14、16、18時間の11ケースで実施した。

その結果、750℃未満の場合、保持時間に依らず緻密化が不十分となり、また、750℃の加熱の場合、保持時間4時間以下では緻密化が不十分となった。一方1160℃以上の場合、保持時間に依らず焼結速度が速くなり過ぎるためか気泡が多く発生した。保持時間18時間では焼結体外周の一部が発泡して外観形状が崩れることが有った。

これらの結果を詳細に見てみると、750℃の加熱の場合、保持時間14,16時間が焼結状態は良好であった。 800℃の加熱の場合、保持時間10、12時間が焼結状態は良好であった。6、8時間ではやや焼結不足となり、14時間以上では良否判定が不能となった。 830℃の場合、10、12時間が良好であった。 850℃の場合、8、10、12時間が良好であり、5時間ではやや焼結不足であり、14時間以上では良否判定が不能となった。 900℃の場合、5〜12時間が良好で、4時間ではやや焼結不足となり、14時間以上では良否判定が不能となった。 1000℃の場合、5〜12時間が良好で、4時間ではやや焼結不足となり、14時間以上では発泡が多くなった。 1050℃の場合、5〜10時間が良好で、4時間ではやや焼結不足となり、12時間以上では発泡が多くなった。 1100℃の場合、4〜8時間が良好で、3時間以下ではやや焼結不足となり、10時間以上では発泡が多く見られた。 1150℃の場合、2、3時間が良好で、4時間以上では発泡が多く見られた。 1160℃以上の場合、保持時間に依らずいずれも発泡が多くなり、良否判定が不能か、溶け過ぎなどの不良な結果であった。

ここで、750〜850℃の比較的低温加熱の場合、保持時間6〜12時間の場合で良好な焼結状態となり、保持時間3〜5時間ではやや焼結不足気味であった。実施の形態に係る方法では、引き続き二次焼結工程が実施されるため、この工程(一次焼結工程に相当)での評価は、保持時間3〜12時間を良好な加熱条件と位置付けることにした。

次に、加熱温度と焼結体の嵩密度との関係を調べるために、上記と同じ仮焼結体を使用して加熱温度を600〜1300℃の温度範囲で変更(保持時間は6時間一定)させた。 その結果、加熱温度が850℃で嵩密度はおおよそ2.96g/cm3(相対密度94.0%)となった。この値以上の嵩密度の焼結体は、後工程での取扱いで崩れる様なトラブルは発生せず、緻密化は十分と判断された。他方、加熱温度が1160℃以上の場合、焼結体外周の一部が発泡して外観形状が崩れるトラブルが発生することがあった。

上記焼結条件調査結果と、上記加熱温度と嵩密度との関係調査結果から、焼結工程をひとつの加熱工程とした場合の加熱温度は、850〜1150℃、保持時間3〜12時間が適正であると判断された。 ただし、この中で顕著になったことは、例えば900℃で14時間以上、1000℃で14時間以上、1100℃で10時間以上、1150℃で8時間以上の比較的長時間の加熱とした場合、発泡気泡が多くなり、その一部は集合して大きな気泡に成長してしまうことである。この様な焼結体は、次の機械加工工程での加工時に、大きい気泡部分から亀裂が発生したり、割れの原因になるなどの欠陥を内包する。

上記状況から、焼結工程における基本的な方針としては、発泡を極力抑制し、焼結反応は十分に進行させ、その後の機械加工工程で良好な加工性を有する焼結体を製造することとした。 焼結工程の最初の段階(一次焼結工程)では、発泡を極力生じさせず、ゆっくりと焼結を進行させ、焼結体内部と外周部との焼結の進行度に極力差を生じさせないようにした。 このため、加熱温度は上記した700〜1150℃の範囲内とした。発泡開始温度Tnが、MgF2主体の原料の場合、850℃であるため、それを下回る850℃以下、他方、このTnを100℃以上下回る温度の加熱では焼結不足になることから、焼結工程の最初の段階の加熱温度は(Tn−100℃)からTnの間、MgF2が主体の原料の場合は、750〜850℃とした。

一次焼結工程での適正な加熱条件は、加熱温度が(Tn−100℃)からTnの間、保持時間が3〜12時間であった。このことは、MgF2に対するCaF2の配合割合を0.5〜90wt.%の間で変化させても同じ傾向にあった。 焼結体の焼結反応を高める段階、すなわち、二次焼結工程の加熱は、固溶体が生成し始める温度である980℃前後の温度域、すなわち900〜1150℃を適正とした。保持時間については焼結反応を高め、しかも発泡を抑えるため極力短時間にすることを目標とし、0.5時間未満では焼結反応の高まりが乏しく、9時間以上では発泡が多くなり過ぎたことから0.5〜8時間を適正とした。

次に、雰囲気ガスを窒素ガスからヘリウムガスに変えた場合の、二次焼結過程の加熱温度と保持時間との適正条件の調査について説明する。 主原料MgF2にCaF2を3wt.%混合したものを出発材料とし、焼結助剤としてはCMCを0.1wt.%添加した。 プレス成形の型枠は大型試験用を使用し、一軸プレス成形機の成形圧を20MPa、CIP成形機の成形圧を20MPaに設定した。このCIP成形体を用いて大気雰囲気中、650℃で6時間の仮焼結処理を施し、仮焼結体を得た。

一次、二次焼結過程の雰囲気ガスとしてヘリウムガスを使用し、まず一次焼結として840℃で、6時間の保持とした。その後、2時間掛けて二次焼結温度の700℃から1250℃の範囲で、50℃毎に変更させ、その目標温度に2時間保持した。この後加熱を停止し、そのまま約20時間自然冷却(所謂、炉冷処理)し、取り出し温度に設定した100℃以下になったところで取り出した。

上記二段階焼結工程での焼結試験を行った結果、図4に示すように、焼結体の嵩密度は、900℃から1150℃の温度範囲では、個別の焼結体の大半が2.96g/cm3を超える高密度となった。この二元系配合原料(CaF2を3wt.%混合したもの)の場合の真密度は3.15g/cm3であり、相対密度は94.0%となり、MgF2単味と同じ真密度であり、相対密度も同じ値となる。 900℃未満の焼結温度の場合と、1160℃以上の焼結温度の場合は、いずれも相対密度が94.0%(嵩密度2.96g/cm3)を下回った。窒素ガス雰囲気よりもヘリウムガス雰囲気下で焼結させた方が、良好な焼結条件の範囲内(900℃から1150℃の温度範囲)での相対密度は0.5〜1%程度高くなる傾向にあった。

ヘリウムガス雰囲気下で嵩密度が高くなる原因は、窒素ガスと比べてヘリウムガスの方が焼結体のバルク(母体)内における拡散速度が速いことが考えられる。同バルク内にヘリウムガスの方が拡散し易いことから、焼結過程において焼結が進行し、空隙が閉気孔化する際に、その閉気孔の一部が気孔とならずに消滅する。あるいは、閉気孔のサイズが小さくなることが起こっているものと推定される。 しかしながら、ヘリウムガスの効果は上記のように適正な焼結条件の範囲内でより良好な結果をもたらすが、一方で、その効果は万能ではなく、適正な焼結条件以外の領域での効果は顕著には認められなかった。

このような結果になった原因は、適正範囲外の焼結条件下では、例えば、加熱条件不足の場合の低すぎる焼結速度の向上には限界があり、また、加熱条件過剰の場合の焼結体の部位毎の焼結速度の不均一性を改善するには、ヘリウムガスのバルク内への拡散性の向上程度では改善し切れなかったためと考えられる。 ヘリウムガスの場合、焼結工程の加熱温度が900℃未満では保持時間に依らず、また、保持時間4時間以下では緻密化が不十分となった。1160℃以上の場合、窒素ガス中と同様に保持時間に依らず焼結速度が速過ぎて気泡が多く発生し、保持時間16時間以上では発泡して外観形状が崩れることがあった。

従って、MgF2主体でCaF2を混合した出発原料の場合、焼結工程の不活性雰囲気ガスの種類に依らず焼結温度は900〜1150℃が適正範囲であると判断した。さらに、同温度が930〜1100℃の場合、この焼結体を機械加工に供す場合にも割れ等の構造上の欠陥が生じ難く、機械加工性も良好であった。従って、より望ましい焼結温度は930〜1100℃の温度範囲であると判断した。 よって、ヘリウムガス雰囲気中での焼結工程における適正な加熱条件は、上記窒素ガス雰囲気の場合と同様に、一次焼結工程では、750℃以上、発泡開始温度未満の範囲、二次焼結工程では、900〜1150℃の温度範囲となった。

不活性ガスとしては窒素、ヘリウムに限らず、アルゴンでもネオンでも同様の効果が得られる。さらに、ネオンに関しては、ヘリウムと同様に、この焼結体の母材への溶解度とか拡散性が高いと見込まれるため、脱泡現象をより促進し、ヘリウム同等の効果が期待される。

これら焼結工程の加熱条件が適正範囲の場合、焼結体の出来上がり状態は常に全体が緻密であり、一般的なセラミックス焼結体などで局部的に見られる大きい空隙とか亀裂などの明らかな欠陥部位は、この焼結体では見られなかった。

以下、本発明に係る実施例を図面に基づいて説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。 ここで、焼結体について行う特性評価試験について説明する。大型の焼結体(焼結体の概略寸法:約205mm×約205mm×高さ約70mm)を試作し、必要なサンプル形状に切り出すなどの機械加工を施して評価用サンプルを作製する。

中性子線の減速性能を評価するには、上記非特許文献1および非特許文献2に示されたように、まず、加速器から射出されたビームをターゲットであるBe製の板に衝突させ、主として高エネルギーの中性子線(高速中性子線)を核反応により発生させる。 つぎに、非弾性散乱断面積の大きいPbとFeとを前半の減速材として用い、中性子数の減衰を抑えながらある程度(おおよそ、〜1MeV)まで前記高速中性子線を減速する。 つぎに、減速された中性子線を評価する減速材(後半の減速材)に照射し、減速された後の中性子線の内容を調べることにより減速材を評価した。 中性子線の内容の調査方法に関しては、上記「非特許文献3」記載の方法に準拠した。

評価する減速材は、MgF2とCaF2の原料配合割合を数種類変更したものとした。上記した各種原料配合工程、成形工程、焼結工程を経て、相対密度が一定範囲(95.0±0.5%)の高密度のMgF2−CaF2二元系焼結体を製作した。後半の減速材のトータル厚さは600mmの一定とした。 ここでは、減速材によって減速された中性子線の中に、治療に有効な中レベルのエネルギーを持つ熱外中性子線の線量、また、患者に悪影響(副作用)を及ぼす可能性が大きい高レベルのエネルギーを有する高速中性子線およびガンマ線がどの程度残留しているかを評価した。その結果を図5(表1)に示す。

治療に有効な熱外中性子線の線量は、MgF2にCaF2を混合する量を増やしていくとわずかに変化するが、熱外中性子線の中性子束(線量)の桁数はいずれも9乗台であり、混合割合に依らず、治療には十分な線量が確保された。 他方、患者に悪影響を及ぼす可能性が高い高速中性子線の混入率(減速材透過後の全中性子線量に占める高速中性子線量の割合)は、CaF2を数〜10wt.%混合した場合が最も少なく、これらの混合割合を大きく超え、20wt.%、40wt.%と混合割合が増えると徐々に増加した。CaF2が100wt.%の場合が最も大きくなった。

また、高速中性子線に次いで患者に悪影響を及ぼす可能性があるガンマ線の混入率(減速材透過後の全中性子線量に占めるガンマ線量の割合)は、MgF2にCaF2を混合する割合に依らず、E−14(マイナス14乗)台と低い桁数であった。ガンマ線の影響はCaF2の配合割合に依らず少ないものであった。 これらの結果から、MgF2を主体にCaF2を2〜10wt.%混合した場合が、減速材として最も優れた性能を有するものとなることが判明した。この混合割合以外、例えば0.2wt.%以上、2wt.%未満、あるいは10.1wt.%以上、90wt.%以下の場合であっても、治療に使用可能なレベルの中性子線の内容となっていた。

上記の評価結果は、焼結体の相対密度がほぼ一定範囲内(95.0±0.5%)のものに限定した場合である。焼結体の相対密度が高いものほど高速中性子線の残留線量は減少し、反対にその相対密度が低いものほど高速中性子線の残留線量は増大する。このため、焼結体の密度向上が重要であることに代わりはない。

中性子線用減速材の減速性能は、緻密な構造のMgF2−CaF2二元系焼結体にあっては、焼結体の嵩密度が2.96g/cm3以上のものであれば、十分であった。 また、中性子線用減速材は、減速性能以外に、機械的強度が要求される。本発明に係わる放射線減速材用焼結体は、下記の機械的強度の調査によって、BNCTの減速系装置内の減速材部材として切断、研削、研磨、洗浄、乾燥などの加工成形、更には、その減速系装置への設置などのハンドリング時においても問題無く使用できる十分な機械的強度を有していることが実証された。また、中性子線が照射されても、その照射衝撃に耐え得る極めて優れたものであった。

機械的強度の調査は、曲げ強度とビッカース硬度に関して行った。曲げ強度は、JIS C2141に準拠して試料寸法4mm×46mm×t3mmで上下面を光学研磨とし、3点曲げ試験JIS R1601に準拠して行った。 ビッカース硬度はJIS Z2251-1992に準拠し、島津製作所製の商品名“Micro Hardness Tester”を使用し、荷重100g、荷重時間5秒の条件で圧子を押しつけ、圧痕の対角長を測定し、下記の硬度換算を行うことにより求めた。 ビッカース硬度 = 0.18909 × P/(d)2 ここで、P:荷重(N)、 d:圧痕対角線長さ(mm)

[実施例1] 主原料である高純度MgF2粉末(平均粒径4μm、純度99.9wt.%以上)にCaF2粉末(平均粒径4μm、純度99.9wt.%以上)を1.5wt.%混合し、ボールミルで12時間混練した。その後、焼結助剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)溶液を前記混合物100に対し、0.1wt.%の割合で添加し、ポットミルで12時間混合したものを出発原料とした。

この出発原料を一軸プレス成形機の型枠(型枠の内寸法220mm×220mm×高さ150mm)内に充填し、一軸のプレス圧を20MPa掛けて圧縮、成形した。このプレス成形体(寸法約220mm×220mm×t85mm)を厚手のビニール袋内に入れ、脱気、封入したものを冷間等方加圧成形(CIP)機の成形部(内寸法:直径350mm×高さ120mm)に装填した。前記プレス成形体が入った前記ビニール袋と前記CIP成形部との隙間に上水を満たしてから、室温で成形圧20MPaの等方加圧を掛け、CIP成形を行った。

このCIP成形体に大気雰囲気中で650℃、6時間の仮焼結工程を施し、仮焼結体とした。 この仮焼結体を窒素ガス雰囲気中で室温から800℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に8時間保持した後、1050℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に1.5時間保持した。この後加熱を停止してそのまま約20時間自然冷却(所謂、炉冷処理)し、取り出し温度に設定した100℃以下になったところで取り出した。

焼結体の嵩密度は、外観の嵩体積と重さから3.02g/cm3(この配合原料における真密度は3.15g/cm3であり、相対密度は95.9%となる。以下、“真密度3.15g/cm3、相対密度95.9%”と記す)であり、焼結状態は良好であった。 ここで言う“嵩密度”は、焼結体の外観が方形の形状であるため、計測したその方形の2辺と厚さから嵩体積を計算で求め、別に計測した重さを前記嵩体積で除して求める方法を採った。以下、同様に行った。

この焼結体から採取した試料を用いて中性子線減速性能および各種の特性評価試験を行った結果を図6(表2)に示す。 以下、実施例、比較例ともに同様とした。なお、比較材であるMgF2単味焼結体およびCaF2単味焼結体についても中性子線減速性能、機械的強度を実施例、比較例と同様に測定した。 実施例1の焼結体は優れた中性子線減速性能を呈し、また機械的強度に関しても、後の工程でのハンドリングなどに問題を生じさせない良好なものであった。

[実施例2] 主原料のMgF2粉末(平均粒径6μm、純度99.9wt.%)にCaF2粉末(平均粒径6μm、純度99.9wt.%)を0.2wt.%混合し、ボールミルで12時間混練した。その後、上記実施例1の場合と同じ成形条件でCIP成形体を作製し、このCIP成形体に大気雰囲気中で640℃、6時間の仮焼結工程を施し、仮焼結体とした。 この仮焼結体をヘリウムガス雰囲気中で室温から800℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に5時間保持した後、920℃まで4時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に1時間保持した。この後、取り出し温度の100℃まで炉冷して取り出した。焼結体の嵩密度は2.97g/cm3(真密度3.15g/cm3、相対密度94.3%)であり、やや軽めであったが、外観上焼結状態に異常は見られなかった。 中性子線減速性能および機械的強度の評価結果は、表2に示すようにいずれも良好であった。

[実施例3] 上記実施例1の場合と同じMgF2粉末にCaF2粉末を2wt.%混合し、ボールミルで12時間混練した。その後、焼結助剤としてステアリン酸カルシウム(SAC)を1.0wt.%添加し、ポットミルで12時間混合したものを出発原料とした。 一軸プレス成形機を使用し、プレス圧30MPaでプレス成形し、この後、冷間等方圧力成形(CIP)機を使用し、CIP圧30MPaでCIP成形を行った。このCIP成形体に大気雰囲気中で700℃、6時間の仮焼結工程を施し、仮焼結体とした。 この仮焼結体を大気雰囲気中で室温から840℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に8時間保持した。この後、1150℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に0.75時間保持した。その後、取り出し温度の100℃まで炉冷して取り出した。焼結体の嵩密度は3.06g/cm3(真密度3.15g/cm3、相対密度97.1%)であり、焼結状態は良好であった。 中性子線減速性能および機械的強度の評価結果は、表2に示すようにいずれも良好であった。

[実施例4] 上記の実施例1の場合と同じMgF2粉末にCaF2粉末を3wt.%混合し、ボールミルで12時間混練した。その後、焼結助剤としてCMC溶液を0.03wt.%添加し、ポットミルで12時間混合したものを出発原料とした。 一軸プレス成形機を使用してプレス圧30MPaでプレス成形し、冷間等方圧力成形(CIP)機を使用してCIP圧30MPaでCIP成形を行った。このCIP成形体に大気雰囲気中で660℃、8時間の仮焼結工程を施し、仮焼結体とした。 この仮焼結体を窒素ガス雰囲気中で室温から830℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に6時間保持した後、1080℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に2時間保持した。その後、取り出し温度の100℃まで炉冷して取り出した。焼結体の嵩密度は3.07g/cm3(真密度3.15g/cm3、相対密度97.5%)であり、焼結状態は良好であった。 中性子線減速性能および機械的強度の評価結果は、表2に示すようにいずれも良好であった。

[実施例5] 上記の実施例1の場合と同じMgF2粉末にCaF2粉末を7.5wt.%混合し、ボールミルで12時間混練した。その後、焼結助剤としてステアリン酸カルシウム(SAC)を0.07wt.%添加し、ポットミルで12時間混合したものを出発原料とした。 一軸プレス成形機を使用してプレス圧40MPaでプレス成形し、その後、冷間等方圧力成形(CIP)機を使用してCIP圧40MPaでCIP成形を行った。このCIP成形体に大気雰囲気中で690℃、8時間の仮焼結工程を施し、仮焼結体とした。 この仮焼結体を窒素ガス雰囲気中で室温から830℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に9時間保持した後、1080℃まで2時間掛けて一定速度で昇温し、同温度に2時間保持した。この後取り出し温度の100℃まで炉冷して取り出した。焼結体の嵩密度は3.06g/cm3(真密度3.15g/cm3、相対密度97.1%)であり、焼結状態は良好であった。 中性子線減速性能および機械的強度の評価結果は、表2に示すようにいずれも良好であった。

[実施例6] 主原料のMgF2粉末(平均粒径5μm、純度99.9wt.%)にCaF2粉末(平均粒径5μm、純度99.9wt.%)を18wt.%混合し、ボールミルで12時間混練した。その後、焼結助剤としてCMC溶液を0.3wt.%添加し、ポットミルで12時間混合したものを出発原料とした。 一軸プレス成形機を使用してプレス圧6MPaでプレス成形し、この後、冷間等方圧力成形(CIP)機を使用してCIP圧15MPaでCIP成形を行った。このCIP成形体に大気雰囲気中で630℃、8時間の仮焼結工程を施し、仮焼結体とした。 この仮焼結体を窒素ガス雰囲気中で室温から820℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に6時間保持した後、930℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に4時間保持した。この後取り出し温度の100℃まで炉冷して取り出した。焼結体の嵩密度は2.98g/cm3(真密度3.15g/cm3、相対密度94.6%)であり、焼結状態は良好であった。 中性子線減速性能および機械的強度の評価結果は、表2に示すようにいずれも良好であった

[実施例7] 上記実施例6の場合と同じMgF2粉末にCaF2粉末を25wt.%混合し、ボールミルで12時間混練した。その後、焼結助剤としてCMC溶液を0.1wt.%添加し、ポットミルで12時間混合したものを出発原料とした。一軸プレス成形機を使用してプレス圧30MPaでプレス成形し、その後、冷間等方圧力成形(CIP)機を使用してCIP圧30MPaでCIP成形を行った。このCIP成形体に大気雰囲気中で650℃、6時間の仮焼結工程を施し、仮焼結体とした。 この仮焼結体を窒素ガス雰囲気中で室温から840℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に5時間保持した後、1150℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に0.5時間保持した。この後取り出し温度の100℃まで炉冷して取り出した。焼結体の嵩密度は3.01g/cm3(真密度3.15g/cm3、相対密度95.6%)であり、焼結状態は良好であった。 中性子線減速性能および機械的強度の評価結果は、表2に示すようにいずれも良好であった

[実施例8] 上記実施例1の場合と同じMgF2粉末にCaF2粉末を50wt.%混合し、ボールミルで12時間混練した。その後、焼結助剤としてCMC溶液を1wt.%添加し、ポットミルで12時間混合したものを出発原料とした。一軸プレス成形機を使用してプレス圧7MPaでプレス成形し、その後、冷間等方圧力成形(CIP)機を使用してCIP圧12MPaでCIP成形を行った。このCIP成形体に大気雰囲気中で600℃、5時間の仮焼結工程を施し、仮焼結体とした。 この仮焼結体をヘリウムガス雰囲気中で室温から860℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に8時間保持した後、1080℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に2時間保持した。この後、取り出し温度の100℃まで炉冷して取り出した。焼結体の嵩密度は3.02g/cm3(真密度3.16g/cm3、相対密度95.6%)であり幾分軽めであったが、外観上焼結状態に異常は見られなかった。 中性子線減速性能および機械的強度の評価結果は、表2に示すようにいずれも良好であった。

[実施例9] 上記実施例2の場合と同じMgF2粉末にCaF2粉末を50wt.%混合し、ボールミルで12時間混練した。その後、焼結助剤としてCMC溶液を1wt.%添加し、ポットミルで12時間混合したものを出発原料とした。一軸プレス成形機を使用してプレス圧30MPaでプレス成形し、その後、冷間等方圧力成形(CIP)機を使用してCIP圧30MPaでCIP成形を行った。このCIP成形体に大気雰囲気中で610℃、7時間の仮焼結工程を施し、仮焼結体とした。 この仮焼結体を窒素ガス雰囲気中で室温から860℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に8時間保持した後、970℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に4時間保持した。この後、取り出し温度の100℃まで炉冷して取り出した。焼結体の嵩密度は3.00g/cm3(真密度3.16g/cm3、相対密度94.9%)であり幾分軽めであったが、外観上焼結状態に異常は見られなかった。 中性子線減速性能および機械的強度の評価結果は、表2に示すようにいずれも良好であった。

[実施例10] 上記実施例1の場合と同じMgF2粉末にCaF2粉末を75wt.%混合し、ボールミルで12時間混練した。その後、焼結助剤としてSACを0.07wt.%添加し、ポットミルで12時間混合したものを出発原料とした。一軸プレス成形機を使用してプレス圧8MPaでのプレス成形し、その後、冷間等方圧力成形(CIP)機を使用してCIP圧10MPaでCIP成形を行った。このCIP成形体に大気雰囲気中で650℃、5時間の仮焼結工程を施し、仮焼結体とした。 この仮焼結体を窒素ガス雰囲気中で室温から880℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に8時間保持した後、1060℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に3時間保持した。この後、取り出し温度の100℃まで炉冷して取り出した。焼結体の嵩密度は3.02g/cm3(真密度3.17g/cm3、相対密度95.3%)であり、幾分軽めであったが、外観上焼結状態に異常は見られなかった。 中性子線減速性能および機械的強度の評価結果は、表2に示すようにいずれも良好であった。

[実施例11] 上記実施例6の場合と同じMgF2粉末にCaF2粉末を88wt.%混合し、ボールミルで12時間混練した。その後、焼結助剤としてCMC溶液を1wt.%添加し、ポットミルで12時間混合したものを出発原料とした。一軸プレス成形機を使用してプレス圧30MPaでプレス成形し、その後冷間等方圧力成形(CIP)機を使用してCIP圧30MPaでCIP成形を行った。このCIP成形体に大気雰囲気中で650℃、5時間の仮焼結工程を施し、仮焼結体とした。 この仮焼結体を窒素ガス雰囲気中で室温から880℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に8時間保持した後、950℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に4時間保持した。この後、取り出し温度の100℃まで炉冷して取り出した。焼結体の嵩密度は3.01g/cm3(真密度3.17g/cm3、相対密度95.0%)であり幾分軽めであったが、外観上焼結状態に異常は見られなかった。 中性子線減速性能および機械的強度の評価結果は、表2に示すようにいずれも良好であった。

[実施例12] 上記実施例1の場合と同じMgF2粉末にCaF2粉末を88wt.%混合し、ボールミルで12時間混練した。その後、焼結助剤としてCMC溶液を1wt.%添加し、ポットミルで12時間混合したものを出発原料とした。一軸プレス成形機を使用してプレス圧8MPaでプレス成形し、その後、冷間等方圧力成形(CIP)機を使用してCIP圧10MPaでCIP成形を行った。このCIP成形体に大気雰囲気中で650℃、5時間の仮焼結工程を施し、仮焼結体とした。 この仮焼結体をヘリウムガス雰囲気中で室温から880℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に8時間保持した後、1120℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に2時間保持した。この後、取り出し温度の100℃まで炉冷して取り出した。焼結体の嵩密度は3.04g/cm3(真密度3.17g/cm3、相対密度95.9%)であり、外観上焼結状態に異常は見られなかった。 中性子線減速性能および機械的強度の評価結果は、表2に示すようにいずれも良好であった。

[比較例1] 上記実施例1の場合と同じ主原料のMgF2粉末にCaF2粉末を1.5wt.%混合し、ボールミルで12時間混練した。その後、焼結助剤としてSACを0.07wt.%添加し、ポットミルで12時間混合したものを出発原料とした。 上記実施例1の場合と同様に、一軸プレス成形機を使用してプレス圧20MPaでプレス成形し、その後、冷間等方圧力成形(CIP)機を使用してCIP圧20MPaでCIP成形を施した。このCIP成形体に大気雰囲気中で550℃、8時間の仮焼結工程を施し、仮焼結体とした。 この仮焼結体を窒素ガス雰囲気中で室温から670℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に6時間保持した後、1200℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に2時間保持した。この後、取り出し温度の100℃まで炉冷して取り出した。 焼結体の嵩密度は2.93g/cm3と(真密度3.15g/cm3、相対密度93.0%)軽いものであった。焼結体の内部を観察すると、直径0.1mm以上の大きい気泡が無数に存在していた。この大きい気泡は、融点の低いMgF2粉末を12wt.%と多く混合し、且つ、最終の焼結工程の加熱温度を1200℃と高温度で加熱したため発泡し易くなり、微細な発泡気泡同士、あるいは発泡気泡と残留気泡とが集合したものと考えられた。 中性子線減速性能、機械的強度に不十分なレベルのものが散見された。

[比較例2] 上記実施例1の場合と同じ主原料のMgF2粉末にCaF2粉末を0.2wt.%混合し、比較例1の場合と同様に原料調整したものを出発原料とした。 一軸プレス成形機を使用してプレス圧4MPaでプレス成形し、このプレス成形体を実施例1の場合と同様に成形圧4MPaでCIP成形し、CIP成形体を得た。このCIP成形体に大気雰囲気中で600℃、6時間の仮焼結工程を施し、仮焼結体とした。 この仮焼結体を窒素ガス雰囲気中で室温から830℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に5時間保持した後、950℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に4時間保持した。この後、取り出し温度の100℃まで炉冷して取り出した。 焼結体の嵩密度は2.90g/cm3(真密度3.15g/cm3、相対密度92.1%)であり、軽めであった。この焼結体を、純水にインク液を少量入れ着色したものに約1時間浸し、引き上げてからその破断面を観察した。外周部が全体的にこのインク液の色に着色していた。これは、焼結不足で開気孔が多く残っているものと考えられた。 中性子線減速性能、機械的強度に不十分なレベルのものが見られた。

[比較例3] 上記実施例1の場合と同じ主原料のMgF2粉末にCaF2粉末を5wt.%混合し、ボールミルで12時間混練した。その後、焼結助剤としてCMC溶液を1.0wt.%添加し、ポットミルで12時間混合したものを出発原料とした。 実施例1の場合と同様に、一軸プレス成形機を使用してプレス圧20MPaでプレス成形し、このプレス成形体を成形圧20MPaでCIP成形し、CIP成形体を得た。このCIP成形体に大気雰囲気中で700℃、10時間の仮焼結工程を施し、仮焼結体とした。 この仮焼結体を窒素ガス雰囲気中で室温から900℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に10時間保持した後、1200℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に4時間保持した。この後、取り出し温度の100℃まで炉冷して取り出した。 焼結体は、外周部の一部にはがれたところが見受けられた。このはがれは、発泡気泡や残留気泡などが外周部に集まり、外周部の一部が気泡の内圧でひび割れを生じたものと思われた。なお、嵩密度は形状が崩れたところがあったことから、計測出来ない状態であった。

[比較例4] 上記実施例1の場合と同じMgF2粉末にCaF2粉末を5wt.%混合し、同様に原料調整したものを出発原料とした。一軸プレス成形機を使用してプレス圧3MPaでプレス成形し、このプレス成形体を上記実施例1の場合と同様に成形圧3MPaでCIP成形し、CIP成形体を得た。このCIP成形体に大気雰囲気中で600℃、6時間の仮焼結工程を施し、仮焼結体とした。 この仮焼結体を窒素ガス雰囲気中で室温から900℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に5時間保持した後、1200℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に2時間保持した。この後、取り出し温度の100℃まで炉冷して取り出した。 焼結体は、一部外周エッジ部に欠けが存在した。このため、嵩密度は概算値となったが、約2.92g/cm3(真密度3.15g/cm3、相対密度92.7%)であった。 中性子線減速性能、機械的強度に不十分なレベルのものが認められた。

[比較例5] 上記実施例1の場合と同じMgF2粉末にCaF2粉末を25wt.%混合し、同様に原料調整したものを出発原料とした。一軸プレス成形機を使用してプレス圧30MPaでプレス成形し、このプレス成形体を実施例1の場合と同様に成形圧30MPaでCIP成形し、CIP成形体を得た。このCIP成形体に大気雰囲気中で550℃、8時間の仮焼結工程を施し、仮焼結体とした。 この仮焼結体を窒素ガス雰囲気中で室温から870℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に6時間保持した後、1160℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に3時間保持した。この後、取り出し温度の100℃まで炉冷して取り出した。焼結体の嵩密度は、2.93g/cm3(真密度3.15g/cm3、相対密度93.0%)であった。 中性子線減速性能、機械的強度に不十分なレベルのものが認められた。

[比較例6] 上記実施例1の場合と同じMgF2粉末にCaF2粉末を25wt.%混合し、同様に原料調整したものを出発原料とした。一軸プレス成形機を使用してプレス圧4MPaでプレス成形し、このプレス成形体を上記実施例1の場合と同様に成形圧4MPaでCIP成形し、CIP成形体を得た。このCIP成形体に大気雰囲気中で600℃、6時間の仮焼結工程を施し、仮焼結体とした。 この仮焼結体を窒素ガス雰囲気中で室温から830℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に5時間保持した後、950℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に4時間保持した。この後、取り出し温度の100℃まで炉冷して取り出した。焼結体の嵩密度は、2.91g/cm3(真密度3.15g/cm3、相対密度92.4%)であった。 中性子線減速性能、機械的強度に不十分なレベルのものが認められた。

[比較例7] 上記実施例1の場合と同じMgF2粉末にCaF2粉末を50wt.%混合し、同様に原料調整したものを出発原料とした。一軸プレス成形機を使用してプレス圧20MPaでプレス成形し、このプレス成形体を実施例1の場合と同様に成形圧20MPaでCIP成形し、CIP成形体を得た。このCIP成形体に大気雰囲気中で550℃、8時間の仮焼結工程を施し、仮焼結体とした。 この仮焼結体を窒素ガス雰囲気中で室温から880℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に5時間保持した後、1200℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に2時間保持した。この後、取り出し温度の100℃まで炉冷して取り出した。 焼結体の嵩密度は、2.91g/cm3(真密度3.16g/cm3、相対密度92.1%)であった。 中性子線減速性能、機械的強度に不十分なレベルのものが認められた。

[比較例8] 上記実施例1の場合と同じMgF2粉末にCaF2粉末を50wt.%混合し、同様に原料調整したものを出発原料とした。一軸プレス成形機を使用してプレス圧4MPaでプレス成形し、このプレス成形体を実施例1の場合と同様に成形圧4MPaでCIP成形し、CIP成形体を得た。このCIP成形体に大気雰囲気中で600℃、6時間の仮焼結工程を施し、仮焼結体とした。 この仮焼結体を窒素ガス雰囲気中で室温から850℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に5時間保持した後、960℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に4時間保持した。この後、取り出し温度の100℃まで炉冷して取り出した。 焼結体の嵩密度は、2.92g/cm3(真密度3.16g/cm3、相対密度92.4%)であった。 中性子線減速性能、機械的強度に不十分なレベルのものが認められた。

[比較例9] 上記実施例1の場合と同じMgF2粉末にCaF2粉末を88wt.%混合し、同様に原料調整したものを出発原料とした。一軸プレス成形機を使用してプレス圧20MPaでプレス成形し、このプレス成形体を実施例1の場合と同様に成形圧20MPaでCIP成形し、CIP成形体を得た。このCIP成形体に大気雰囲気中で530℃、8時間の仮焼結工程を施し、仮焼結体とした。 この仮焼結体を窒素ガス雰囲気中で室温から900℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に6時間保持した後、1160℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に4時間保持した。この後、取り出し温度の100℃まで炉冷して取り出した。 焼結体の嵩密度は、2.90g/cm3(真密度3.17g/cm3、相対密度91.5%)であった。 中性子線減速性能、機械的強度に不十分なレベルのものが認められた。

[比較例10] 上記実施例1の場合と同じMgF2粉末にCaF2粉末を88wt.%混合し、同様に原料調整したものを出発原料とした。一軸プレス成形機を使用してプレス圧4MPaでプレス成形し、このプレス成形体を実施例1の場合と同様に成形圧4MPaでCIP成形し、CIP成形体を得た。このCIP成形体に大気雰囲気中で600℃、6時間の仮焼結工程を施し、仮焼結体とした。 この仮焼結体を窒素ガス雰囲気中で室温から860℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に6時間保持した後、970℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に5時間保持した。この後、取り出し温度の100℃まで炉冷して取り出した。 焼結体の嵩密度は、2.93g/cm3(真密度3.17g/cm3、相対密度92.4%)であった。 中性子線減速性能、機械的強度に不十分なレベルのものが認められた。

[比較例11] 上記実施例1の場合と同じMgF2粉末にCaF2粉末を3wt.%混合し、同様に原料調整したものを出発原料とした。一軸プレス成形機を使用してプレス圧30MPaでプレス成形し、このプレス成形体を成形圧30MPaでCIP成形し、CIP成形体を得た。このCIP成形体に大気雰囲気中で660℃、8時間の仮焼結工程を施し、仮焼結体とした。 この仮焼結体を窒素ガス雰囲気中で室温から1060℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に2時間保持した。この後、取り出し温度の100℃まで炉冷して取り出した。 焼結工程は一段階のみで行った(一次焼結、二次焼結の内二次焼結のみ行った)。焼結体の嵩密度は、2.93g/cm3(真密度3.15g/cm3、相対密度93.0%)であった。 中性子線減速性能、機械的強度に不十分なレベルのものが認められた。

[比較例12] 上記実施例1の場合と同じMgF2粉末にCaF2粉末を25wt.%混合し、同様に原料調整したものを出発原料とした。一軸プレス成形機を使用してプレス圧30MPaでプレス成形し、このプレス成形体を成形圧30MPaでCIP成形し、CIP成形体を得た。このCIP成形体に大気雰囲気中で650℃、6時間の仮焼結工程を施し、仮焼結体とした。 この仮焼結体を窒素ガス雰囲気中で室温から1150℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に1.5時間保持した。この後、取り出し温度の100℃まで炉冷して取り出した。 焼結工程は一段階のみで行った(一次焼結、二次焼結の内二次焼結のみ行った)。焼結体の嵩密度は、2.90g/cm3(真密度3.15g/cm3、相対密度92.1%)であった。 中性子線減速性能、機械的強度に不十分なレベルのものが認められた。

[比較材1] 上記実施例の場合と同じMgF2粉末単味を、実施例1の場合と同様に原料調整したものを出発原料とした。実施例1の場合と同様に一軸プレス成形機を使用してプレス圧20MPaでプレス成形し、このプレス成形体を成形圧20MPaでCIP成形し、CIP成形体を得た。このCIP成形体に大気雰囲気中で600℃、6時間の仮焼結工程を施し、仮焼結体とした。 この仮焼結体を窒素ガス雰囲気中で室温から840℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に6時間保持した後、1100℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に2時間保持した。この後、取り出し温度の100℃まで炉冷して取り出した。 焼結体の嵩密度は、2.97g/cm3(真密度3.15g/cm3、相対密度94.3%)であった。 中性子線減速性能は、表2に示すように実施例と比較しても遜色ないほど良好であった。一方、機械的強度は、表2に示すように良好なレベル内ではあったが、実施例の中で低い強度レベル相当であった。ちなみに、この比較材1は先願の焼結体に相当する。

[比較材2] 上記の副原料のCaF2粉末を、実施例1の場合と同様に原料調整したものを出発原料とし、実施例1の場合と同様に一軸プレス成形機を使用してプレス圧20MPaでプレス成形し、このプレス成形体を成形圧20MPaでCIP成形し、CIP成形体を得た。このCIP成形体に大気雰囲気中で600℃、6時間の仮焼結工程を施し、仮焼結体とした。 この仮焼結体を窒素ガス雰囲気中で室温から880℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に6時間保持した後、1130℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に2時間保持した。この後、取り出し温度の100℃まで炉冷して取り出した。 焼結体の嵩密度は、3.00g/cm3(真密度3.18g/cm3、相対密度94.3%)であった。 機械的強度は良好であったが、中性子線減速性能に不十分なレベルのものが認められた。

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