【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、形状記憶合金から成る加熱可能な制御部材を備えた、例えば宇宙飛行体の作動機構のための形状記憶アクチュエータに関するものである。 【0002】 【従来の技術】形状記憶合金は当該技術分野において公知である。 最も汎用されている形状記憶合金は、主たる合金成分としてニッケルとチタン、並びに形状記憶合金の挙動を実質的に規定する少量の別の添加成分を含んでいる。 形状記憶合金は、加熱により別のオーステナイト結晶構造に変態する所定のマルテンサイト結晶構造を有している。 この結晶構造の変態によって、マルテンサイト状態で強制されていた変形形状を可逆的に元に戻す形状変化が生じる。 従って、形状記憶合金から成る線材は、先に伸長させた後に、オーステナイト変態温度より高い温度に加熱されると再び収縮する。 従来使用されている材料ではこの伸縮度は最大約8%である。 線材は伸縮を阻止されると、可成りの力を発生する。 【0003】当該技術分野では、2方向運動、要するに切換え機能を発揮できるように前記のような形状記憶合金に前処理を施すことが公知になつている。 このような前処理を施した場合、形状記憶合金から成る構成部材は、給熱又は冷却により発動されて、オーステナイト変態温度の上方と下方の2つの状態の間を往復運動する。 この場合、大きな負荷サイクル数で負荷する事例のためには最大約3.5%の伸縮歪みを利用することが可能である。 【0004】総じて、予め規定可能な切換機能のために適した加熱機構及び冷却機構を設けることは困難である。 しかも所要の作動力を得るためには形状記憶合金から成る相当太い線材が必要である。 太い線材を使用した場合の欠点は、線材内に不均一な温度分布が生じ、従って、複雑な構造材料の種々の構成成分が、予め特定できないような発散挙動を示すことである。 その上、形状記憶合金は高価であり、従って材料の使用が経済的な理由から著しく制約を受ける点も考慮されなければならない。 【0005】駆動部材が、ばねの形態で作用しかつ加熱可能な多数の形状記憶材料から構成されている形式の作動装置は、ドイツ連邦共和国特許出願公開第42098 15号明細書に基づいて公知である。 前記の形状記憶材料は、複数本の平行線材の形態でレバーに固定されており、その結果、力の伝達時に運動行程増大のための一種の連鎖原理が生じる。 要するに、これらの平行に加熱される個々の単独線材は機械的に平行に又は互いに相前後して接続されている。 加熱すべき線材の場合1本の線材を1本のレバーに固定すること自体が概ね厄介であり、 形状記憶線材の場合には特に困難であるので、多数の固定点が存在するのは極めて問題である。 【0006】変向ガイドローラを介してガイドされる形状記憶材料から成る単独線材を使用する一種の滑車原理がパンフレット”Toki Biometall Wire”に基づいて公知になっている。 ローラによる変向ガイドには同様に問題がある。 それというのは、このことのために回転可能なエレメント、要するに変向ガイドローラが軸支・懸架されなければならないからである。 更に、多種多様の変向ガイドローラを介してガイドされるこの種の構造は極めて複雑であると共に、個々の線材部分を平行姿勢に維持することが保証されなければならず、その上、相互に運動し合うエレメント同士がロックする危険も多分にある。 【0007】 【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、エネルギ供給が制限されている場合でも、大きな作動力と比較的大きな作動行程をもって確実な予め特定可能な作動を可能にする形状記憶アクチュエータを提供することである。 【0008】 【課題を解決するための手段】前記課題を解決するための本発明の構成手段は、制御部材が、複数のワインディングを成して配置された少なくとも1本の細い線材から成り、かつ、該線材のワインディングが、相互に運動可能な偏向エレメントの周面に巻掛けられている点にある。 【0009】 【作用】細い線材は加熱により迅速かつ均一に加熱される。 細い線材の横断面内には、結晶変態を阻止する温度勾配が生じることはない。 所要の作動力を発生させるために、細い線材が多数の巻数のワインディングを成して配置されており、しかも該作動力はワインディング毎に加算される。 従って所定の作動力を、相応巻数のワインディングによって発生させることが可能になる。 細い線材の1巻き分のワインディングの長さは、変態時に惹起される最大変形量、ひいては最大可能制御行程を規定する。 【0010】線材が電気的に絶縁されており、かつ通電する電流により加熱可能であることにより、導電体内で作用する電気的な抵抗に基づき線材の特に効果的な直接加熱が可能となる。 その場合、加熱動作は電気的な操作量により制御されるのが有利である。 この直接加熱により、線材内の加熱が特に均一になり、従って、線材全長にわたって並びに線材横断面全体にわたってオーステナイト変態温度が実質的に同時に得られる。 【0011】線材のワインディングが、相互に運動可能なエレメントの周面に巻掛けられている場合には、トリガー機構、ロック・アンロック機構などの直接的な作動は、運動可能な単数又は複数の偏向エレメントによって得られる。 該偏向エレメントの数及び配置は作動目的に応じて種々異なった態様で構成することができる。 例えば相互に運動可能な互いに対向して位置する2つの偏向エレメントは、2つの偏向点を備えたリニアアクチュエータを形成する。 同様にまた、3つの偏向エレメントを三角形に、4つの偏向エレメントを四角形に、或いは6 つの偏向エレメントを六角形に配置することも可能である。 例えば、六角形の線材ワインディングでは、変態に基づいて発生する線材束の引張力が6つの同じセグメント部分に6つの引張力対の形で作用する。 この引張力対は、各偏向点、要するに各偏向エレメントにおいて六角形の中点へ向かう放射方向力を発生させる。 これにより、例えば6つのロックエレメントを発動させるために利用される6つの圧縮力が発生する。 【0012】線材のワインディングが、可動の偏向エレメントに係合接続によって固定されている場合には、形状記憶合金から成る線材の伸縮歪みはマルテンサイト状態への逆変態時にも活用することができる。 従って、一方の変態方向では圧縮力を、また他方の変態方向では引張力を発生させる2方向効果が生じる。 【0013】制御部材を断熱する遮閉ケーシングを設けることによって、熱損失が殆ど生じなくなるので、アクチュエータの作動速度は向上する。 それゆえ、線材内に供給される電流は最適に使用される。 【0014】またマルテンサイト状態への逆変態を迅速に行わせ得るようにするために、制御部材を冷却するためにアクティブな冷却手段を設けることが可能である。 断熱のために使用される遮閉ケーシングが気密に形成され、冷却媒体を通すための接続ポートを備えているのが殊に有利である。 遮閉ケーシングに設けられた一方の供給ポートを通って流入する冷却媒体は線材と直接接触し、次いで他方の排出ポートから流出する。 冷却媒体は熱伝導及び/又は対流によって線材からエネルギを吸収し、これにより、形状記憶合金から成る線材を冷却する。 総じて、このアクティブな冷却手段によって、アクチュエータの作動頻度を著しく高めることが可能になる。 【0015】種々のワインディング相互の電気絶縁は、 線材の遮閉ケーシングによって行う以外に、成形部品を偏向点で絶縁体として働かせるように線材間に配置して線材相互の間隔を維持させることによっても行うことができる。 【0016】これによって、冷却媒体が個々の線材に直接接触することができる可能性が利点として生じる。 この場合冷却媒体はガス状媒体であるのが殊に有利である。 【0017】線材の寸法、ワインディングの巻数及びそのジオメトリー的な配置形式は広い限度範囲内で変化できるので、アクチュエータは、供用されるエネルギ供給源に問題なく適合することができる。 変圧器を装備した重量の重い電圧供給源を必要とすることはない。 このことは特に、重量制限の厳しい航空機及び宇宙機において使用する場合に特に重要である。 【0018】 【実施例】次に図面に基づいて本発明の有利な実施例を詳説する。 【0019】図1に示したリニアアクチュエータは形状記憶合金から成る制御部材を備えている。 該制御部材は、相互に運動可能に支承された円筒形に成形された偏向エレメント2,3の周面に比較的多数の巻数のワインディングを形成して巻掛けられた1本の細い線材1から成っている。 オーステナイト変態温度を超える温度範囲まで線材1が均一に加熱されると、該線材1は収縮し、 前記の円筒形の偏向エレメント2,3が所定の作動力で矢印10の方向に互いに接近運動する。 つまり線材1の収縮によって円筒形の偏向エレメント2,3の間に圧縮力が発生する。 【0020】形状記憶合金から成る線材1をオーステナイト変態温度より低い温度範囲に冷却すると、線材1は再びマルテンサイト結晶構造をとり、つまり線材1は伸長する。 線材1は、両偏向エレメント2,3の外周面の偏向領域に係合接続によって固定されているので、線材1の伸長時には、図2に矢印11で示した外向きの引張力が該偏向エレメント2,3に対して加えられる。 この引張力11は、図2に示したように両偏向エレメント2,3を相互離間させるように働く。 【0021】形状記憶アクチュエータは、例えば3つの偏向点を介して巻掛けられた1本の線材を有することもできる。 図3に示した実施形態では、細く長い線材31 が複数の巻数のワインディングを成して、立体的に等間隔で配置された3つの偏向エレメント32,33,34 の周面に巻掛けられている。 オーステナイト変態によって偏向点では、二重矢印30から判るように放射方向内向きの圧縮力が発生する。 線材1と偏向エレメント3 2,33,34との間が係合によって結合されている場合には、逆変態時には逆向きの、つまり放射方向外向きの力が発生する。 このような構成は、例えば丸棒を操縦するロボットにおいて適用することができる。 【0022】図4では、図3に類似しているが、この場合は正四辺形構造の実施形態が示されている。 当該実施形態では、細く長い線材41が、正四辺形に配置された4つの偏向エレメント42,43,44,45の周面に巻掛けられている。 オーステナイト変態による収縮時に、角隅を結合する4つの等しいセグメント部分内に引張力対が発生し、この引張力対は、偏向エレメント4 2,43,44,45において角隅から正四辺形の中点へ向かう放射方向の圧縮力(二重矢印40参照)を生ぜしめる。 【0023】図5及び図6に示した実施例では、本発明に基づく六角形の形状記憶アクチュエータが図示されている。 。 形状記憶合金から成る細い線材61は、n巻数のワインディングを成して、六角形に配置された6つの偏向エレメント62,63,64,65,66,67の周面に巻掛けられている。 偏向エレメント62,63, 64,65,66,67における線材61の偏向点では、線材が3層を成して案内されている。 偏向点において各層間には、ワインディングのスリップを防止するためのスペーサ68が設けられている。 該スペーサは、外側のワインディングから内側の偏向エレメントへ力を伝達するためにも同時に役立つ。 更に該スペーサ68は、 ワインディングの相互間隔を保持することによって、電気的に絶縁されていない線材を絶縁することも可能にする。 このようにすれば、ガス状の冷却媒体は、絶縁されていない個々の線材ワインディングに対して直接作用することができる。 要するに該スペーサ68は、線材もしくは線材ワインディングの冷却のため及び/又は電気的絶縁のための間隔保持片を形成している訳である。 長い線材61の両端は電気的接続部9を介して外部へ導出されている。 電気的接続部9には、図示を省いた制御ユニットを備えた電圧供給源が接続される。 オーステナイト変態後、六角形の外周は、矢印70で示した大きさに縮小する。 この外周縮小時に、図5に示した圧縮力60は偏向エレメント62,63,64,65,66,67へ作用する。 【0024】図7には、図1及び図2に示した実施例に類似したリニアアクチュエータが図示されている。 なお図1及び図2の実施例に合致する構成部分には同一符号を付した。 図7のリニアアクチュエータは、形状記憶合金から成る1本の細い線材1を備えており、該線材1はn巻数のワインディングを成して、運動可能な2つの偏向エレメント2,3の周面に巻掛けられている。 この構造は、断熱体として構成された遮閉ケーシング4によって包囲されている。 該遮閉ケーシング4には、冷却媒体を供給するための供給ポート5が設けられている。 また遮閉ケーシング4には、前記供給ポート5とは反対側に、冷却媒体を排出するための排出ポート6が設けられている。 更に又、運動可能な両偏向エレメント2,3には、リニアアクチュエータにおいて発生した圧縮力及び引張力を遮閉ケーシング4を通して外部へ伝達する伝達エレメント7,7が配置されている。 遮閉ケーシング4 内には適当な貫通口8,8が設けられている。 同様に、 細い線材1の両端は、遮閉ケーシング4の外部へ通じる電気的接続部9へ導かれている。 電気的接続部9には、 制御ユニットを備えた電圧源(図示せず)が接続される。 【0025】貫通口8,8はシールリップを備えており、これにより、作動経路が伝達エレメント7,7を介して外方へ導出されてはいるが、冷却媒体は遮閉ケーシング4の内部に封じ込められた状態にある。 【0026】マルテンサイト状態への逆変態のために弁(図示せず)が開弁されると、冷却媒体は、矢印12で示す方向に供給ポート5を通って遮閉ケーシング4内へ流入する。 冷却媒体は線材1に直接接触し、該線材の周面に沿って流れる。 その際に熱エネルギは熱伝導及び/ 又は対流によって線材1から冷却媒体へ伝達される。 線材1は冷却され、臨界的な変態温度を下回る温度に達すると伸長するので、伝達エレメント7,7には、引張力が矢印11で示した方向に作用する。 線材1との熱交換によって加熱された冷却媒体は、排出ポート6を通って遮閉ケーシング4から、矢印12で示した方向に本来の熱交換器(図示せず)へ向かって流出する。 【0027】アクチュエータ内を通流する冷却媒体の流量を制御することによって、かつ/又は冷却媒体と線材1との温度差を制御することによって、オーステナイト状態からマルテンサイト状態への移行時のアクチュエータの作動速度を制御することが可能である。 その逆の方向では、遮閉ケーシング4により断熱されていることに基づいて、線材1の可能な限り迅速な加熱が保証される。 これにより、総じて形状記憶アクチュエータのための作動頻度が向上する。 【図面の簡単な説明】 【図1】本発明に基づいてリニアアクチュエータとして構成してオーステナイト状態で示した形状記憶アクチュエータの1実施例の縦断面図である。 【図2】マルテンサイト状態で示した図1に図示の形状記憶アクチュエータの縦断面図である。 【図3】本発明に基づいて三角形に構成された形状記憶アクチュエータの概略側面図である。 【図4】本発明に基づいて正四辺形に構成された形状記憶アクチュエータの概略側面図である。 【図5】本発明に基づいて六角形に構成された形状記憶アクチュエータの概略側面図である。 【図6】図5に示した形状記憶アクチュエータの立体的な概略斜視図である。 【図7】アクティブな冷却機構を装備したリニアアクチュエータの縦断面図である。 【符号の説明】 1 線材、 2,3 偏向エレメント、 4 遮閉ケーシング、 5 供給ポート、 6 排出ポート、 7 伝達エレメント、 8 貫通口、 9 電気的な接続部、 10 圧縮力、 11 引張力、 12 冷却媒体の流動方向、30 作動力、 31 線材、 32, 33,34 偏向エレメント、 40作動力、 41 線材、 42,43,44,45 偏向エレメント、 60圧縮力、 61 線材、 62,63,64,6 5,66,67 偏向エレメント、 68 スペーサ、 70 オーステナイト変態後の六角形の外周 |