Optical limiting material

申请号 JP2000262188 申请日 2000-08-31 公开(公告)号 JP3772194B2 公开(公告)日 2006-05-10
申请人 独立行政法人産業技術総合研究所; 发明人 浩二 太田; 昌儀 安藤; 丈幸 田中; 圭子 田和; 広平 角野; 賢司 鎌田;
摘要
权利要求
  • 透明基板と金属酸化物微粒子とからなる光制限材料であって、
    (1) 透明基板の厚さが 0.1 1mm の範囲内にあり、
    (2) 透明基板の厚さを 0.1mm とした場合に、 400 2000nm の波長に対する透明基板の光透過度が 70 100 %であり、
    (3) 金属酸化物微粒子が、平均粒径 1 μ m 以下の Ti V Cr Mn Fe Co Ni Cu Zn Nb Mo Ru In Sn Sb Ta W Re Os Ir および Bi からなる群から選ばれた少なくとも1種の金属の酸化物 ( 但し、 VO 2 を除く ) の微粒子であり、
    (4) 金属酸化物中の金属原子数と透明基板中の酸化物における非酸素原子あるいは高分子を構成する単量体単位数との比が、 1:1 1:100 の範囲にある
    ことを特徴とする高速応答光制限材料。
  • 透明基板が、SiO 2 ,Al 2 0 3 ,ZrO 2 ,ZnSeおよび石英からなる群から選ばれる1種である請求項1記載の 高速応答光制限材料。
  • 透明基板が、SiO 2 ,Al 2 O 3およびZrO 2からなる群から選ばれる1種である請求項2記載の 高速応答光制限材料。
  • 透明基板が、SiO 2を主成分とする多孔質ガラスである請求項3記載の 高速応答光制限材料。
  • 透明基板が、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂およびポリビニル系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の 高速応答光制限材料。
  • 金属酸化物が、TiO,Ti 2 0 3 ,TiO 2 ,V0,V 2 0 3 ,V 2 0 5 ,CrO,Cr 2 0 3 ,CrO 2 ,Cr 2 0 5 ,CrO 3 ,CrO 5 ,MnO,Mn 3 O 4 ,Mn 2 O 3 ,MnO 2 ,MnO 3 ,Mn 2 O 7 ,FeO,Fe 3 0 4 ,Fe 2 0 3 ,CoO,Co 2 O 3 ,Co 3 O 4 ,CoO 2 ,NiO,Ni 3 O 4 ,Ni 2 O 3 ,NiO 2 ,Cu 2 O,CuO,ZnO,NbO,Nb 2 O 3 ,NbO 2 ,Nb 2 O 5 ,MoO,Mo 2 0 3 ,MoO 2 ,Mo 2 O 5 ,MoO 3 ,RuO,Ru 2 O 3 ,RuO 2 ,RuO 4 ,In 2 O,In 2 O 3 ,SnO,SnO 2 ,Sb 2 0 3 ,Sb 2 0 4 ,Sb 2 0 5 ,TaO 2 ,Ta 2 0 3 ,Ta 2 0 5 ,WO 2 ,W 2 O 5 ,WO 3 ,Re 2 O,ReO,Re 2 O 3 ,ReO 2 ,Re 2 0 5 ,ReO 3 ,Re 2 0 7 ,OsO,Os 2 O 3 ,Os0 2 ,0s0 3 ,0s0 4 ,Ir 2 0 3 ,IrO 2 ,BiO,Bi 2 O 3およびBi 2 0 5からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の 高速応答光制限材料。
  • 金属酸化物が、XCr 2 0 4 (X=Mg,Zn,Cu,Mn,Fe,Co,Ni),Na 2 SnO 3 ,Pb 2 SnO 4 ,Bi 2 Sn 2 O 7 ,Na 3 VO 4 ,MVO 4 (M=Nd,Sm,Eu,Y,Fe,Cr),VOMo 4 ,MV 2 0 4 (M=Mg,Mn,Co,Zn,Cu),VM 2 0 4 (M=Mg,Co,Zn),VMn 2 0 4 ,V 2 MoO 8 ,AxV 2 0 5 (O<x<1,A=Li,K,Na,Cu,Ag,Ca,Cd,Pb),ZrV 2 O 7 ,MVO 3 (M=K,Fe,Ti,Cr,Ni,Mg,Ca,La,Y,Sc),H 4 (PMo 11 VO 40 ),H 5 (PMo l0 V 2 O 40 ),H 6 (PMo 9 V 3 O 40 ),H 4 (PW ll VO 40 ),H 6 (PW 6 V 3 0 41 ),Bi 2 0 3・xMoO 3 (x=4,3,2,1,1/2,1/3,1/10),Bi 2 0 3・xWO 3 (x=2-3,1,1/2-1/5,1/10),xBi 2 O 3・Sb 2 0 5 (x=1,3),Bi 9 PMo l2 0 52 ,Fe 2 (MoO 4 ) 3 ,(MoO 3 ) 1.0 (Cr 2 0 3 ) 0.75 ,AxWO 3 (O<x<1,A=H,Li,K,Na,Rb,Ca,Cu,Ag,In,Tl,Sn,Pb,希土類元素),LiTi 2 0 4 ,MnCo 2 0 4 ,NiCo 2 0 4およびNiMnCo 4 0 8からなる複合酸化物の群から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の 高速応答光制限材料。
  • 金属酸化物が、平均粒径1μm以下の微粒子として、透明基板表面上に薄膜を形成している 請求項1に記載の 高速応答光制限材料。
  • 金属酸化物が、平均粒径1μm以下の微粒子として、透明基板中に分散している 請求項1に記載の 高速応答光制限材料。
  • 請求項1〜9のいずれかに記載の 高速応答光制限材料からなる光シャッター。
  • 入射光をレンズで集光し、その焦点位置付近に 請求項1〜9のいずれかに記載の 高速応答光制限材料を配置することを特徴とする光シャッター。
  • 請求項1〜9のいずれかに記載の 高速応答光制限材料からなる光ヒューズ。
  • 入射光をレンズで集光し、その焦点位置付近に 請求項1〜9のいずれかに記載の 高速応答光制限材料を配置することを特徴とする光ヒューズ。
  • 说明书全文

    【0001】
    【発明の属する技術分野】
    本発明は、強い光に高速応答する光制限材料(Optical limiting materialまたはOptical power limiting material)に関し、より詳細には、強いレーザー光に対して肉眼、センサなどを保護するために、或いは種々の光デバイスにおいて過大なレーザー光が入された場合にこれを遮断して光デバイス構成部品の光損傷を防止するために、光シャッターあるいは光ヒューズ機能を発揮する新規な材料に関する。
    【0002】
    【従来の技術】
    強度の弱い光が入射された場合には良く透過し、強度の強い光が入射された場合にのみ透過光強度を一定以下に抑制する効果、即ち、光制限効果を示す材料は、公知である。 光制限材料は、可逆な応答特性を示すものと不可逆な応答特性を示すものの2種類に大別される。
    【0003】
    可逆な応答特性を示す光制限材料は、入射光強度を増大後、元の値まで減少させた場合に、透過光強度も元の値へ回復する特性を示し、繰り返し使用可能である。 一方、不可逆な応答特性を示す材料は、入射光強度を増大後、元の値まで減少させても透過光強度は低いまま保持される特性を示し、1度作動させると繰り返し使用できない。 可逆な応答特性を示す光制限材料は、不可逆な応答を示す材料よりも産業上の利用範囲が広く、利用価値が高いので、最近活発に研究されている。
    【0004】
    高強度の光入力から肉眼、センサ、光デバイス構成部品などを保護するためには、強い光が入力されると直ちに応答するような高速応答性が必要である。 また、弱い光入力の場合には、長時間光を連続照射しても光透過特性が変化しないことが必要である。 この様に、光制限材料には、上記のような2つの基本的な条件が要求される。
    【0005】
    比較的大きな光制限効果を高速で発現する材料として、これまでに、ポルフィリン誘導体、フラーレン等の有機系材料が、有力候補として見いだされている。
    【0006】
    しかしながら、その性能は、実用には十分とは言えない。 例えば、これらの有機系材料は、耐熱性があまり高くないので、非常に強い光を吸収した際に起こる急激な温度上昇によって分子構造が不可逆的に変化したり、あるいは熱分解等を起こしてしまって、特性が不可逆的に変化したり、光制限効果を失ってしまう恐れがある。 また、これらの有機材料は、製造、合成に比較的複雑な工程を要したり、あるいは、ごく少量ずつしか製造できないなどの問題点がある。
    【0007】
    一方、代表的な光応答機能材料として、光に応答して可逆な色変化を起こすフォトクロミック材料が研究されている。 しかしながら、フォトクロミック材料は、応答速度が遅く、また弱い光にも徐々に応答して光透過特性が変化していくので、光制限材料に要求される条件を満足しない。 この点からも、新しい高性能の光制限材料が要望されている。
    【0008】
    このように、現在までに知られている比較的良好な光制限特性を可逆的に発現する材料は、強レーザー光を照射した際の耐熱性が十分でなく、製造が複雑あるいは高価であるという問題点があった。 このため、より耐熱性の高い、また、簡便・安価に製造できる高性能光制限材料が要望されている(参考:光制限材料に関する第1回国際ワークショップ講演要旨集、カンヌ、フランス、1998年)。
    【0009】
    【発明が解決しようとする課題】
    本発明は、上記のような光制限材料の現状に鑑み、強いレーザー光の照射によっても発熱に起因する損傷を受けにくく、特性が可逆的であって、且つ優れた光制限効果を安定に発現し、且つ、簡便・安価に製造できる新たな高性能の光制限材料を提供することを主な目的とする。
    【0010】
    【課題を解決するための手段】
    本発明者は、鋭意研究の結果、透明基板と特定の金属酸化物から形成される光制限材料が、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
    【0011】
    即ち、本発明は、下記の高速応答光制限材料およびその用途に係るものである。
    1. 透明基板と金属酸化物微粒子とからなる光制限材料であって、
    (1) 透明基板の厚さが 0.1 1mm の範囲内にあり、
    (2) 透明基板の厚さを 0.1mm とした場合に、 400 2000nm の波長に対する透明基板の光透過
    度が 70 100 %であり、
    (3) 金属酸化物微粒子が、平均粒径 1 μ m 以下の Ti V Cr Mn Fe Co Ni Cu Zn Nb Mo Ru In Sn Sb Ta W Re Os Ir および Bi からなる群から選ばれた少なくとも1
    種の金属の酸化物 ( 但し、 VO 2 を除く ) の微粒子であり、
    (4) 金属酸化物中の金属原子数と透明基板中の酸化物における非酸素原子あるいは高分子
    を構成する単量体単位数との比が、 1:1 1:100 の範囲にある
    ことを特徴とする高速応答光制限材料。
    2. 透明基板が、SiO 2 ,Al 2 0 3 ,ZrO 2 ,ZnSeおよび石英からなる群から選ばれる1種である上記項1記載の高速応答光制限材料。
    3. 透明基板が、SiO 2 ,Al 2 O 3およびZrO 2からなる群から選ばれる1種である上記項2記載の高速応答光制限材料。
    4. 透明基板が、SiO 2を主成分とする多孔質ガラスである上記項3記載の高速応答光制限材料。
    5. 透明基板が、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂およびポリビニル系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種である上記項1記載の高速応答光制限材料。
    6. 金属酸化物が、TiO,Ti 2 0 3 ,TiO 2 ,V0,V 2 0 3 ,V 2 0 5 ,CrO,Cr 2 0 3 ,CrO 2 ,Cr 2 0 5 ,CrO 3 ,CrO 5 ,MnO,Mn 3 O 4 ,Mn 2 O 3 ,MnO 2 ,MnO 3 ,Mn 2 O 7 ,FeO,Fe 3 0 4 ,Fe 2 0 3 ,CoO,Co 2 O 3 ,Co 3 O 4 ,CoO 2 ,NiO,Ni 3 O 4 ,Ni 2 O 3 ,NiO 2 ,Cu 2 O,CuO,ZnO,NbO,Nb 2 O 3 ,NbO 2 ,Nb 2 O 5 ,MoO,Mo 2 0 3 ,MoO 2 ,Mo 2 O 5 ,MoO 3 ,RuO,Ru 2 O 3 ,RuO 2 ,RuO 4 ,In 2 O,In 2 O 3 ,SnO,SnO 2 ,Sb 2 0 3 ,Sb 2 0 4 ,Sb 2 0 5 ,TaO 2 ,Ta 2 0 3 ,Ta 2 0 5 ,WO 2 ,W 2 O 5 ,WO 3 ,Re 2 O,ReO,Re 2 O 3 ,ReO 2 ,Re 2 0 5 ,ReO 3 ,Re 2 0 7 ,OsO,Os 2 O 3 ,Os0 2 ,0s0 3 ,0s0 4 ,Ir 2 0 3 ,IrO 2 ,BiO,Bi 2 O 3およびBi 2 0 5からなる群から選ばれる少なくとも1種である上記項1記載の高速応答光制限材料。
    7. 金属酸化物が、XCr 2 0 4 (X=Mg,Zn,Cu,Mn,Fe,Co,Ni),Na 2 SnO 3 ,Pb 2 SnO 4 ,Bi 2 Sn 2 O 7 ,Na 3 VO 4 ,MVO 4 (M=Nd,Sm,Eu,Y,Fe,Cr),VOMo 4 ,MV 2 0 4 (M=Mg,Mn,Co,Zn,Cu),VM 2 0 4 (M=Mg,Co,Zn),VMn 2 0 4 ,V 2 MoO 8 ,AxV 2 0 5 (O<x<1,A=Li,K,Na,Cu,Ag,Ca,Cd,Pb),ZrV 2 O 7 ,MVO 3 (M=K,Fe,Ti,Cr,Ni,Mg,Ca,La,Y,Sc),H 4 (PMo 11 VO 40 ),H 5 (PMo l0 V 2 O 40 ),H 6 (PMo 9 V 3 O 40 ),H 4 (PW ll VO 40 ),H 6 (PW 6 V 3 0 41 ),Bi 2 0 3・xMoO 3 (x=4,3,2,1,1/2,1/3,1/10),Bi 2 0 3・xWO 3 (x=2-3,1,1/2-1/5,1/10),xBi 2 O 3・Sb 2 0 5 (x=1,3),Bi 9 PMo l2 0 52 ,Fe 2 (MoO 4 ) 3 ,(MoO 3 ) 1.0 (Cr 2 0 3 ) 0.75 ,AxWO 3 (O<x<1,A=H,Li,K,Na,Rb,Ca,Cu,Ag,In,Tl,Sn,Pb,希土類元素),LiTi 2 0 4 ,MnCo 2 0 4 ,NiCo 2 0 4およびNiMnCo 4 0 8からなる複合酸化物の群から選ばれる少なくとも1種である上記項1記載の高速応答光制限材料。
    8. 金属酸化物が、平均粒径1μm以下の微粒子として、透明基板表面上に薄膜を形成している上記項1に記載の高速応答光制限材料。
    9. 金属酸化物が、平均粒径1μm以下の微粒子として、透明基板中に分散している上記項1に記載の高速応答光制限材料。
    10. 上記項1〜9のいずれかに記載の高速応答光制限材料からなる光シャッター。
    11. 入射光をレンズで集光し、その焦点位置付近に上記項1〜9のいずれかに記載の高速応答光制限材料を配置することを特徴とする光シャッター。
    12. 上記項1〜9のいずれかに記載の高速応答光制限材料からなる光ヒューズ。
    13. 入射光をレンズで集光し、その焦点位置付近に上記項1〜9のいずれかに記載の高速応答光制限材料を配置することを特徴とする光ヒューズ。
    【0012】
    【発明の実施の形態】
    本発明の光制限材料は、基本的に、透明基板とTi,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Nb,Mo,Ru,In,Sn,Sb,Ta,W,Re,Os,IrおよびBiからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属の酸化物(但し、VO 2を除く)から形成されることを特徴とする。
    【0013】
    本発明による光制限材料は、より具体的には、以下の様な構造を有することができる。
    (1)透明基板表面に金属酸化物微粒子からなる薄膜が形成されている。
    (2)透明基板表面に金属酸化物微粒子と透明添加成分とからなる複合薄膜が形成されている。
    (3)多孔質透明基板内部に金属酸化物微粒子が分散している。
    (4)多孔質透明基板内部に金属酸化物微粒子と透明添加成分とが分散している。
    【0014】
    本発明において用いる透明基板は、金属酸化物とともに構成される光制限材料が所望の非線形吸収係数(β)を示す限り、特に制限されない。 透明基板の光学的な透明度は、厚みを0.1mmとしたときに、通常400〜2000nm程度の波長の光に対して、光透過度が70〜100%程度である。 本発明において用いる透明基板としては、例えば、SiO 2を主成分とするガラス、石英、Al 2 0 3からなるサファイア(Fe 2+ 、Fe 3+ 、Ti 4+などを含まない白色サファイア)、ZnO,ZrO 2などの透明な酸化物;アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニル系樹脂などの透明な高分子材料;ZnSeなどの透明な無機物などが挙げられる。
    【0015】
    透明基板は、多孔質ガラス基板、多孔質高分子基板などの多孔質体であってもよい。 基板として用いる多孔質体は、光制限材料とした時に、所望の透明性を有する限り、比表面積、気孔率、平均細孔径などの特性は特に制限されない。 比表面積は、通常10〜500m 2 /g程度、好ましくは50〜300m 2 /g程度である。 気孔率は、通常5〜70%程度、好ましくは10〜50%程度である。 平均細孔径は、通常2〜100nm程度、好ましくは2〜50nm程度である。
    【0016】
    本発明における透明基板の形状は、特に制限されず、光制限材料の形状に対応して、平板状、導波路状などを例示できる。
    【0017】
    本発明における透明基板の厚みは、用途などに応じて適宜設定することができるが、通常0.05〜3mm程度であり、より好ましくは0.1〜1mm程度である。
    【0018】
    本発明の光制限材料の非線形吸収係数(β)は、通常10 -7 〜10 -4 cm/W程度、好ましくは10 -6 〜10 -4 cm/W程度である。 なお、非線形吸収係数(β)は、下記に示す微分方程式から求められる。
    【0019】
    dI/dz=-αI-βI 2
    (ここで、Iは光入射面からの厚み方向の任意の距離における薄膜中の光強度、zは薄膜の厚み方向の座標軸、αは線形吸収係数、βは非線形吸収係数である。)本発明の光制御材料は、透明基板上に、Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Nb,Mo,Ru,In,Sn,Sb,Ta,W,Re,Os,IrおよびBiからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属の酸化物(但し、VO 2を除く)からなる薄膜を直接形成してなるものであってもよく、或いは、多孔質体からなる透明基板の細孔内に上記金属の酸化物を固定化してなるものでもよい。
    【0020】
    本発明において用いる金属酸化物は、単一の金属の酸化物であってもよく、或いは、複数の金属の酸化物(複合酸化物)であってもよい。 本発明において用いる金属酸化物は、金属の酸化状態に関して特に制限はない。 本発明では、金属酸化物を単独で用いてもよく、または2種以上を併用してもよい。
    【0021】
    単一金属の酸化物としては、例えば、TiO,Ti 2 0 3 ,TiO 2 ,V0,V 2 0 3 ,V 2 0 5 ,CrO,Cr 2 0 3 ,CrO 2 ,Cr 2 0 5 ,CrO 3 ,CrO 5 ,MnO,Mn 3 O 4 ,Mn 2 O 3 ,MnO 2 ,MnO 3 ,Mn 2 O 7 ,FeO,Fe 3 0 4 ,Fe 2 0 3 ,CoO,Co 2 O 3 ,Co 3 O 4 ,CoO 2 ,NiO,Ni 3 O 4 ,Ni 2 O 3 ,NiO 2 ,Cu 2 O,CuO,ZnO,NbO,Nb 2 O 3 ,NbO 2 ,Nb 2 O 5 ,MoO,Mo 2 0 3 ,MoO 2 ,Mo 2 O 5 ,MoO 3 ,RuO,Ru 2 O 3 ,RuO 2 ,RuO 4 ,In 2 O,In 2 O 3 ,SnO,SnO 2 ,Sb 2 0 3 ,Sb 2 0 4 ,Sb 2 0 5 ,TaO 2 ,Ta 2 0 3 ,Ta 2 0 5 ,WO 2 ,W 2 O 5 ,WO 3 ,Re 2 O,ReO,Re 2 O 3 ,ReO 2 ,Re 2 0 5 ,ReO 3 ,Re 2 0 7 ,OsO,Os 2 O 3 ,Os0 2 ,0s0 3 ,0s0 4 ,Ir 2 0 3 ,IrO 2 ,BiO,Bi 2 O 3 ,Bi 2 0 5などの種々の酸化状態を有する金属酸化物を例示することができる。 より好ましい金属酸化物としては、V 2 0 5 ,Cr 2 0 3 ,Mn 3 O 4 ,MnO 2 ,Fe 3 0 4 ,Fe 2 0 3 ,CoO,Co 3 O 4 ,Cu 2 O,CuO,ZnO,In 2 O 3 ,SnO 2 ,WO 3 ,IrO 2 ,Bi 2 O 3などが挙げられる。
    【0022】
    複合酸化物としては、例えば、XCr 2 0 4 (X=Mg,Zn,Cu,Mn,Fe,Co,Ni),Na 2 SnO 3 ,Pb 2 SnO 4 ,Bi 2 Sn 2 O 7 ,Na 3 VO 4 ,MVO 4 (M=Nd,Sm,Eu,Y,Fe,Cr),VOMo 4 ,MV 2 0 4 (M=Mg,Mn,Co,Zn,Cu),VM 2 0 4 (M=Mg,Co,Zn),VMn 2 0 4 ,V 2 MoO 8 ,A x V 2 0 5 (O<x<1,A=Li,K,Na,Cu,Ag,Ca,Cd,Pb),ZrV 2 O 7 ,MVO 3 (M=K,Fe,Ti,Cr,Ni,Mg,Ca,La,Y,Sc),H 4 (PMo 11 VO 40 ),H 5 (PMo l0 V 2 O 40 ),H 6 (PMo 9 V 3 O 40 ),H 4 (PW ll VO 40 ),H 6 (PW 6 V 3 0 41 ),Bi 2 0 3・xMoO 3 (x=4,3,2,1,1/2,1/3,1/10),Bi 2 0 3・xWO 3 (x=2-3,1,1/2-1/5,1/10),xBi 2 O 3・Sb 2 0 5 (x=1,3),Bi 9 PMo l2 0 52 ,Fe 2 (MoO 4 ) 3 ,(MoO 3 ) 1.0 (Cr 2 0 3 ) 0.75 ,AxWO 3 (O<x<1,A=H,Li,K,Na,Rb,Ca,Cu,Ag,In,Tl,Sn,Pb,希土類元素),LiTi 2 0 4 ,MnCo 2 0 4 ,NiCo 2 0 4 ,NiMnCo 4 0 8などが例示できる。 複合酸化物に含まれる希土類元素として、Sc,Yおよびランタノイド:La, Ce, Pr, Nd, Pm, Sm, Eu, Gd, Tb, Dy, Ho, Er, Tm, Yb, Luを例示することができる。 より好ましい複合酸化物としては、XCr 2 0 4 ,Na 3 VO 4 ,MVO 4 ,VOMo 4 ,VM 2 0 4 ,VMn 2 0 4 ,V 2 MoO 8 ,AxV 2 0 5 ,ZrV 2 O 7 ,MVO 3 ,Fe 2 (MoO 4 ) 3 , (MoO 3 ) 1.0 (Cr 2 0 3 ) 0.75 ,A x WO 3 ,MnCo 2 0 4 ,NiCo 2 0 4 ,NiMnCo 4 0 8などが例示される。
    【0023】
    金属酸化物を用いて薄膜を形成させる場合、その膜厚は、特に限定されず、用途などに応じて適宜設定することができる。 薄膜が厚くなり過ぎると、センサや肉眼に損傷を与えない程度の弱い光が入射した場合でも、光の透過割合が小さくなり過ぎるので、光制限材料としての有用性が低下する。 また、金属酸化物薄膜の膜厚は、薄膜の緻密度に応じて、適宜設定することができる。 例えば、スパッタ堆積法、レーザー MBE法等で形成される薄膜のように緻密な金属酸化物薄膜の場合には緻密度(薄膜中において、空隙以外の金属酸化物部分が占める体積比率)は、0.7〜1程度であり、膜厚は、通常10nm〜1μm程度、好ましくは10〜500nm程度である。 これに対し、基板上に溶液を塗布した後、熱分解する方法、金属酸化物微粒子分散液を直接基板上に塗布する方法等では、形成される薄膜が比較的緻密でないので(緻密度0.3〜0.9程度)、より厚い薄膜、通常20nm〜5μm程度、好ましくは20nm〜2μm程度としても、光制限材料として用いることができる。 薄膜中の金属酸化物微粒子の大きさは、薄膜の膜厚などに応じて適宜定めれば良く、特に制限されないが、通常、平均粒径として、1μm以下、好ましくは2〜100nm程度である。
    【0024】
    なお、本発明において、薄膜中および後記の多孔質基板の細孔中のいずれの場合においても、金属酸化物微粒子の粒径分布は、平均粒子径の±50%の範囲内にある粒子の割合が50〜100%であることが好ましく、80〜100%であることがより好ましい。 平均粒子径は、走査電子顕微鏡或いは透過電子顕微鏡による観察により、或いはX線回折線幅からのScherrerの式による算出により、確認することができる。
    【0025】
    本発明の光制限材料の形状も、用途などに応じて適宜選択することができ、例えば、平板状、導波路状などの形状を例示することができる。
    【0026】
    金属酸化物を多孔質体からなる基板の細孔内に固定する場合には、固定重量比(金属酸化物/基板の重量比)として、通常5〜70重量%程度、好ましくは10〜50重量%程度である。 基板の細孔内に固定された金属酸化物は、通常粒子状であり、その平均粒子径は、通常2〜100nm程度、好ましくは2〜50nm程度である。
    【0027】
    本発明においては、基板上に薄膜を形成する場合であっても、或いは多孔質基板内に金属酸化物微粒子を固定する場合であっても、金属酸化物微粒子は、多結晶体であっても良く、或いは単結晶体であっても良い。
    【0028】
    本発明の光制限材料は、更に、透明な添加成分を含んでいても良い。 添加成分の光学的な透明度は、光制限材料を構成した場合に所望の非線形吸収係数(β)が得られる限り、特に制限されない。
    【0029】
    透明添加成分は、それ自体は大きな光制限効果を発現する必要はなく、金属酸化物と複合することによって、該金属酸化物の薄膜製造を容易にする働き、該金属酸化物の光制限効果を改善させる働き、あるいは薄膜の構造安定性、機械的強度などを向上させる働きを有し、且つ光学的な透明性が高い成分であれば、良い。 透明添加成分としては、金属酸化物と比較して、光吸収が小さく、かつ光学的な透明性が高い成分が好ましい。 この様な成分を添加することにより、非常に強いレーザー光を照射した場合にも、温度上昇が小さい光制限材料を得ることができる。
    【0030】
    本発明において用いる透明添加成分は、特に限定されず、例えば、SiO 2を主成分とするガラス、石英、Al 2 0 3からなるサファイア、ZrO 2などの透明な酸化物;アクリル系樹脂(例えば、ポリメチルメタクリレートなど)、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニル系樹脂等の透明な有機高分子材料などを例示できる。
    【0031】
    金属酸化物中の金属原子数と透明添加成分中の酸化物における非酸素原子数あるいは高分子を構成する単量体単位数との比は、通常(l:0.01)〜(1:100)程度であり、好ましくは(1:0.1)〜(1:10)程度である。 透明添加成分の比率が小さすぎると十分な複合効果が得られず、逆に透明添加成分の比率が大きすぎる場合には、透明添加成分の比率増大に伴う特性改善の度合いが小さくなる。
    【0032】
    金属酸化物は、微粒子として、透明添加成分中に分散して、複合薄膜を形成していてもよい。
    【0033】
    添加透明添加成分として有機高分子材料を併用して、透明基板上に複合薄膜を形成する場合において、薄膜の厚さは、特に限定されず、用途などに応じて適宜設定することができる。 この場合にも、薄膜が厚くなりすぎると、センサや肉眼に損傷を与えない程度の弱い光が入射した場合でも、光の透過割合が小さくなりすぎるので光制限材料としての有用性が低下する。 透明添加成分との複合薄膜では、好ましい膜厚は、金属酸化物単独の薄膜と比較して、透明添加成分の含有比率に比例的に応じて大きくなる。 例えば、金属酸化物中の金属原子数と透明添加成分中の酸化物における非酸素原子数あるいは高分子を構成する単量体単位数との比が、1:1の場合には、金属酸化物単独薄膜の場合の好ましい膜厚の2倍程度が好ましく、1:10の場合には、金属酸化物単独薄膜の場合の好ましい膜厚の10倍程度が好ましい。
    【0034】
    本発明の光制限材料が、非線形吸収特性を有する理由は明確ではないが、以下のような 原理によるものであると推測される。 本発明において用いる金属酸化物は、紫外−可視−近赤外におよぶ広い波長範囲に連続的な吸収帯をもつ。 このような幅広い吸収スペクトルは、基本的には、金属酸化物が有する半導体的な電子構造に由来している。 半導体的な性質を示す金属酸化物は、通常紫外波長域に価電子帯上端から伝導帯下端へのバンド間遷移に相当する光吸収帯を有する。 より長波長側には、価電子帯・伝導帯の内部や禁制帯内に多数存在する準位に起因する光吸収を有する。 これらが重なり合って、可視から近赤外の波長域に幅広い吸収帯が現れる。 これらの吸収体は、金属酸化物の化学組成・結晶構造によって決まる。
    【0035】
    更に、金属酸化物薄膜を構成する金属酸化物微粒子のサイズに分布があることによる吸収スペクトルの広がりが加わっていると考えられる。 本発明において、金属酸化物が薄膜が形成している場合には、金属酸化物の微粒子が集まることによって薄膜を形成している。 半導体的性質を示す物質は、一般に、数十nm以下のサイズまで微粒子化すると、微粒子化しないバルク半導体と比較して禁制帯幅が広がり、吸収スペクトルが短波長側へシフトすることが知られている。
    【0036】
    本発明の光制限材料において、例えば、金属酸化物薄膜では、多くの場合、同一の薄膜中に存在する金属酸化物微粒子のサイズが、通常2nm〜1μm程度、好ましくは2〜100nm程度まで分布している。 このため、金属酸化物微粒子のサイズである均一な場合と比較して、さらに幅広い吸収スペ クトルが得られているものと考えられる。
    【0037】
    入射光強度に依存した透過率変化が生じる理由として、2光子吸収が考えられる。 一般に、物質への入射光が弱い場合には、1光子吸収だけが観測され、2光子吸収は非常に微小である。 しかしながら、2光子吸収は、入射光強度の2乗に比例するので、入射光が強い場合には、1光子吸収だけでなく2光子吸収も観測される。
    【0038】
    本発明の光制限材料においては、2光子吸収が生じやすいので、入射光強度を増大させると透過率が減少し、しかもこのような挙動が入射光強度の増減に対して可逆的に起こる特性、すなわち非線形吸収特性を示すものと推測される。
    【0039】
    従来から光応答機能材料として用いられているフォトクロミック化合物における光応答吸収変化過程は、分子構造変化を伴うので、2光子吸収過程に比して遅い。 本発明の光制限材料は、2格子吸収過程に起因する非線形吸収特性を示すので、強レーザー光の入射に対して速やかに応答し、必要な光制限効果を発揮することができるものと考えられる。
    【0040】
    一般に、光照射に伴う材料の温度上昇の影響は、光照射開始後百数十ピコ秒まではほぼ無視できる。 パルス幅がピコ秒オーダーのパルスレーザー光を照射した場合における本発明の光制限材料の光制限効果は、主として上記の2光子吸収に起因するものと推測される。 パルス幅がナノ秒以上のパルスレーザーや連続発振レーザーを照射した場合には、上記の2光子吸収に起因する光制限効果に加えて、光照射に伴う材料の温度上昇に起因する光制限効果も発現する。 金属酸化物半導体は温度が高いほど紫外−可視−近赤外域の光吸収を引き起こすキャリア濃度が増大するものが多いので、入射光を吸収する際に起こる温度上昇に伴う光吸収の増大を利用した光制限効果を発現させる上で有利である。
    【0041】
    このような現象は、全ての金属酸化物で現れるものではなく、(イ)照射レーザー光の波長に吸収帯をもつこと、(ロ)半導体的性質をもつこと、(ハ)2光子吸収が大きいか或いは温度上昇による光吸収の増大の程度が大きいなどの条件を満足する金属酸化物でのみ達成されるものと考えられる。 上記したTi,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Nb,Mo,Ru,In,Sn,Sb,Ta,W,Re,Os,IrおよびBiからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属の酸化物の薄膜は、いずれも上記の3条件を満足し、大きな光制限効果を示すものである。
    【0042】
    本発明の光制限材料は、公知の方法を用いて製造することができる。 例えば、金属酸化物、或いは必要に応じてさらに透明添加成分を併用して、透明基板上に薄膜を形成する場合には、金属酸化物あるいはその前駆体(および必要に応じて透明添加成分あるいはその前駆体を併用)のターゲットを用いて、スパッタ堆積法、真空蒸着法、レーザーMBE法、CVD法などのいわゆる気相法を行う方法;金属酸化物前駆体溶液を必要に応じて透明添加成分またはその前駆体とともに、基板上に塗布した後、熱分解する方法(通常、空気などの酸化雰囲気下、300〜800℃程度、30分〜4時間程度加熱する);金属酸化物微粒子分散液および必要に応じて透明添加物分散液(或いは溶液)をスピンコート法、ディップコート法、スプレー法等で直接基板上に塗布・乾燥・後処理する方法などを例示できる。 スピンコート法、ディップコート法、スプレー法などにおいて用いる金属酸化物微粒子の平均粒子径は、特に制限されないが、通常2nm〜1μm程度、好ましくは2〜100nm程度である。
    【0043】
    薄膜を構成する金属酸化物微粒子の大きさは、通常原料微粒子の大きさと同様であるが、塗布、乾燥、後処理などの過程で微粒子の凝集、焼結などが起こる場合には、原料微粒子よりも大きくなることがある。 この様な場合には、凝集或いは焼結後の平均粒子経が所定値を超えない様に、粒径のより小さい原料微粒子を使用すれば、良い。
    【0044】
    或いは、斜め入射スパッタ法、上記の熱分解法などにより、透明基板上に金属酸化物微粒子からなる多孔質薄膜を形成し、次いでこの多孔質薄膜表面に透明添加成分或いはその前駆体の溶液または分散液を塗布し、必要に応じて、乾燥、焼成などの後処理を行った後、金属酸化物と透明添加成分とからなる複合薄膜を形成しても良い。 或いは、斜め入射スパッタ法、上記の熱分解法などにより、透明基板上に透明添加成分の微粒子からなる多孔質薄膜を形成し、次いで金属酸化物微粒子分散液或いはその前駆体溶液を塗布し、必要に応じて、乾燥、焼成などの後処理を行った後、金属酸化物と透明添加成分とからなる複合薄膜を形成しても良い。
    【0045】
    透明添加成分が有機高分子材料である場合には、例えば、金属酸化物前駆体の溶液または金属酸化物微粒子分散液を有機高分子材料あるいはその前駆体の溶液と混合し、透明基板上に塗布した後、必要に応じて反応させた後、乾燥させ、溶媒を除去して固体状の複合薄膜を得ることができる。 この場合、透明添加成分溶液としては、金属酸化物の溶解性、金属酸化物の分散性、透明有機高分子の溶解性などに応じて、クロロホルムなどの有機溶媒溶液、溶液などの任意の形態を適宜選択して用いることができる。
    【0046】
    多孔質体からなる透明基板(SiO 2系ソーダ石灰ガラス、石英ガラス、アクリル系高分子など)の細孔内に金属酸化物を固定する方法としては、多孔質体からなる透明基板を金属酸化物微粒子分散液、あるいは加熱により熱分解して金属酸化物を生成するような金属酸化物前駆体溶液に含浸させ、乾燥した後、酸素を含む雰囲気中で加熱する方法(通常、300〜800℃程度、30分間〜4時間程度加熱する。なお、当該方法においては、加水分解により水素イオンを放出する化合物などの沈殿剤を用いる必要はない);金属酸化物微粒子分散液あるいは加熱により熱分解して金属酸化物を生成する金属酸化物前駆体溶液を多孔質体に塗布し、熱分解する方法(通常、空気などの酸化雰囲気下、300〜800℃程度、40分〜4時間程度加熱する);金属酸化物微粒子分散液をスピンコート法、ディップコート法、スプレー法などにより、多孔質基板上に直接塗布し、乾燥し、焼成する方法などを例示することができる。
    【0047】
    本発明の光制限材料の製造方法において用いる金属酸化物前駆体化合物としては、例えば、バナジルイソプロポキシド、バナジルエトキシド等の金属アルコキシド、硝酸マンガン、硝酸コバルト、硝酸第1鉄、硝酸銅等の金属硝酸塩、塩化ニオブ、塩化アンチモン、塩化タンタル、塩化タングステン、塩化レニウム、塩化オスミウム、塩化イリジウムなどの金属塩化物、オクチル酸バナジウム(=2-エチルヘキサン酸バナジウム)、オクチル酸コバルト、オクチル酸鉄、オクチル酸マンガン、オクチル酸ニッケル、ナフテン酸クロム、ナフテン酸銅、アセチルアセトンチタニル、オクチル酸亜鉛、アセチルアセトンモリブデニル、アセチルアセトンルテニウム、オクチル酸インジウム、オクチル酸インジウム、オクチル酸スズ、オクチル酸ビスマス等の有機酸金属塩、ならびに市販有機タングステン化合物、市販有機イリジウム化合物などを例示することができる。
    【0048】
    本発明において用いる金属酸化物またはその前駆体の溶液/分散液における金属酸化物またはその前駆体の含有比率は、溶液/分散液全体に対して、金属として、通常0.1〜50重量%程度、好ましくは0.5〜10重量%程度である。
    【0049】
    本発明の光制限材料の製造方法において用いるスパッタ堆積法としては、垂直入射によるスパッタ法および斜め入射によるスパッタ法のいずれをも用いることができる。 また、必要に応じて透明添加成分を添加する場合には、金属酸化物/その前駆体と透明添加成分/その前駆体との同時または交互スパッタを用いることができる。
    【0050】
    多孔質体中に残存する空隙に起因する光の散乱による入射光の損失を減少させるとともに、光制限材料として必要な、入射光が弱い場合の高い透過率を達成するために、必要に応じて後処理を行っても良い。 後処理としては、多孔質ガラス基板を用いた場合には、製造した材料を空気などの酸化雰囲気下、約600℃以上の高温で30分〜4時間程度熱処理する方法など例示することができる。
    【0051】
    本発明の光制限材料は、光シャッター、光ヒューズなどとして好適に用いることができる。 例えば、光を直接入射して、光シャッター、光ヒューズなどとして使用することができる。 或いは入射光をレンズで集光し、その焦点位置付近に本発明の光制限材料を配置して、使用しても良い。 入射光をレンズで集光することにより、材料の配置位置での入射光強度を、集光前の入射光強度よりも大きくすることができるので、入射光を直接薄膜に入射する場合と比較して、より弱い入射光に対しても大きな光制限効果を得ることができる。 さらに、レンズによる入射光の集光度合いを調節することにより、同一の光制限材料を用いた場合においても、光制限効果の大きさを調節することができ、また、光制限効果が顕著に起こり始める入射光強度しきい値を調節することができる。
    【0052】
    【発明の効果】
    本発明によれば、入射光強度の増減に対して可逆的に大きな光制限効果を発現し、非常に強いレーザー光の入射によっても損傷を受けにくく、長期間光制限効果を保持し、かつ熱的安定性、化学的安定性、機械的強度にも優れ、簡便・安価に製造可能な優れた光制限材料が得られる。
    【0053】
    本発明の光制限材料は、レーザー光のような強い光の照射下において、照射光強度を増大させるにつれて光吸収率が増大する性質、言い換えれば光透過率が減少する性質をもち、その結果、弱い光の入射に対してはこれをあまり弱めずに良く透過するが、強い光の入射に対してはこれを著しく弱める働きを有する。
    【0054】
    本発明の光制限材料は、このような働きによって、種々の強度の光が入射した場合に、透過光強度を一定強度以下に制限する効果、いわゆる光制限効果を発現するものである。
    【0055】
    金属酸化物半導体は、温度が高いほど紫外−可視−近赤外域の光吸収を引き起こすキャリア濃度が増大するものが多いので、本発明の光制限材料は、入射光を吸収する際に起こる温度上昇に伴う光吸収の増大を利用した光制限効果を発現させる上で有利である。
    【0056】
    透明基板と金属酸化物に加えて、透明な添加成分を併せて含有する光制限材料は、強いレーザー光を照射した場合にも、金属酸化物において発生した熱が透明な添加成分に速やかに伝導・拡散し、金属酸化物が高温に曝される時間を短くすることができるので、パルス幅の長いパルスレーザーや連続発振レーザー照射を受けた場合にも、金属酸化物の昇華や基板からの剥離をもたらすような過度の温度上昇が抑制される。 その結果、透明添加成分との複合薄膜は、金属酸化物だけからなる薄膜と比較して、より強いレーザー光の照射に対しても薄膜が損傷を受けにくく、熱安定性により一層優れている。
    【0057】
    【実施例】
    以下、本発明を実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
    【0058】
    実施例1
    SiO 2を主成分とし、Na、Caなどを含むソーダ石灰ガラス基板(厚さ0.1mm)の片面にオクチル酸バナジウム膜をスピンコート法で形成し(溶媒:トルエン、溶液におけるオクチル酸バナジウムの含有比率:溶液全体に対する金属の重量比率として、2%)、空気雰囲気下において、380℃で2時間焼成し、橙褐色を呈する酸化バナジウム(V 2 O 5 )薄膜(膜厚:約600nm)を調製した。 この酸化バナジウム薄膜に、波長532nm、パルス幅35psのレーザー光を入射し、集光レンズとNDフィルターを用いて入射レーザー光強度(I o )を変化させながら、レーザー入射直後から数十ps後までに起きる酸化バナジウム薄膜の透過率変化を、ストリークカメラを用いて測定した。 I oと透過率との関係から、非線形吸収係数(β)を見積もった。 その結果、I oを増大させると特にI o >1MW/cm 2で酸化バナジウム薄膜の透過率が顕著に低下することがわかった(図1参照)。
    【0059】
    図1において、縦軸に示した相対的な透過率は、測定範囲内で最も弱い光を入射した場合(I o =160W/cm 2 )の透過率を1として規格化している。 透過率の低下は、パルスレーザーの照射回数を増加させても、常に同一であり、一方、I o =約100kW/cm 2前後以下の比較的弱い上記パルスレーザー光の場合には、透過率の低下は非常に小さかった。
    【0060】
    上記で得られた酸化バナジウム薄膜のβは、2.5×10 -5 cm/Wであり、光制限材料として高い性能を有していることがわかった。 この光制限材料として高い性能は、10 8 W/cm 2という非常に強い上記パルスレーザー光を1000回照射した場合にも、保持され、この酸化バナジウム薄膜が、非常に強いレーザー光の入射によっても損傷を受けにくいことが明らかである。 また、この酸化バナジウム薄膜の性能は、製膜から6ヶ月後にも保持されていることから、長期安定性に優れていることも明らかとなった。 さらに、この酸化バナジウム薄膜を300℃で2時間加熱処理した後にも、性能低下は認められず、熱的安定性に優れていることが確認された。 さらに、約1%のH 2またはCOを含む空気中において、この酸化バナジウム薄膜を100℃で1時間保持した後にも、性能の変化は認められず、化学的安定性にも優れていることが明らかである。 また、製造に使用した上記原料溶液の価格は、1g当たり40円以下であるので、製造コストのみならず、原料コストも低い。
    【0061】
    実施例2
    実施例1で使用したものと同様の組成と厚さを有するガラス基板上(片面)にオクチル酸鉄膜をスピンコート法で形成し(溶媒:トルエン、溶液におけるオクチル酸鉄の含有比率:溶液全体に対する金属の重量比率として、6%)、空気雰囲気下において、380℃で2時間焼成し、赤橙色を呈する酸化鉄(Fe 2 O 3 )薄膜(膜厚:約800nm)を調製した。 この酸化鉄薄膜に、波長532nm、パルス幅35ps のレーザー光を入射し、集光レンズとNDフィルターを用いて入射レーザー光強度(I o )を変化させながら、レーザー入射直後から数十psまでに起こる酸化鉄薄膜の透過率変化を、ストリークカメラを用いて測定した。 I oと透過率との関係から、非線形吸収係数(β)を見積もった。 その結果、I oを増大させると特にI o >10MW/cm 2で酸化鉄薄膜の透過率が顕著に低下することがわかった(図2参照)。
    【0062】
    図2において、縦軸に示した相対的な透過率は、測定範囲内で最も弱い光を入射した場合(I o =3.1kW/cm 2 )の透過率を1として規格化している。 透過率の低下は、パルスレーザーの照射回数を増加させても、常に同一であり、一方、I o =約100kW/cm 2前後以下の比較的弱い上記のパルスレーザー光の場合には、透過率の低下は非常に小さかった。
    【0063】
    上記で得られた酸化鉄薄膜のβは、1.8×10 -5 cm/Wであり、光制限材料として高い性能を有していることがわかった。 この光制限材料として高い性能は、10 8 W/cm 2という非常に強い上記のパルスレーザー光を1000回照射した場合にも、保持され、この酸化鉄薄膜が、非常に強いレーザー光の入射によっても損傷を受けにくいことが明らかである。 また、この酸化鉄薄膜の性能は、製膜から6ヶ月後にも保持されていることから、長期安定性に優れていることも明らかとなった。 さらに、この酸化鉄薄膜を300℃で2時間加熱処理した後にも、性能低下は認められず、熱的安定性に優れていることが確認された。 さらに、約1%のH 2またはCOを含む空気中において、この酸化鉄薄膜を100℃で1時間保持した後にも、性能の変化は認められず、化学的安定性にも優れていることが明らかである。 また、製造に使用した上記原料溶液の価格は、1g当たり20円以下であるので、製造コストのみならず、原料コストも低い。
    【0064】
    実施例3
    実施例1で使用したものと同様の組成と厚さを有するガラス基板上(片面)にオクチル酸コバルト膜をスピンコート法で形成し(溶媒:トルエン:ブタノール=1:1、溶液におけるオクチル酸コバルトの含有比率:溶液全体に対する金属の重量比率として、4%)、空気雰囲気下において、380℃で2時間焼成し、褐色を呈する酸化コバルト(Co 3 O 4 )薄膜(膜厚:約800nm)を調製した。 この酸化コバルト薄膜に、波長532nm、パルス幅35ps のレーザー光を入射し、集光レンズとNDフィルターを用いて入射レーザー光強度(I o )を変化させながら、レーザー入射直後から数十psまでに起こる酸化コバルト薄膜の透過率変化を、ストリークカメラを用いて測定した。 I oと透過率との関係から、非線形吸収係数(β)を見積もった。 その結果、I oを増大させると、特にI o >50MW/cm 2で酸化コバルト薄膜の透過率が顕著に低下することがわかった(図3参照)。
    【0065】
    図3において、縦軸に示した相対的な透過率は、測定範囲内で最も弱い光を入射した場合(I o =60.8kW/cm 2 )の透過率を1として規格化している。 透過率の低下は、パルスレーザーの照射回数を増加させても、常に同一であり、一方、I o =60.8kW/cm 2前後の比較的弱い上記のパルスレーザー光の場合には、透過率の低下は非常に小さかった。
    【0066】
    上記で得られた酸化コバルト薄膜のβは、1.5×10 -5 cm/Wであり、光制限材料として高い性能を有していることがわかった。 この光制限材料として高い性能は、10 8 W/cm 2という非常に強い上記のパルスレーザー光を1000回照射した場合にも、保持され、この酸化コバルト薄膜が、非常に強いレーザー光の入射によっても損傷を受けにくいことが明らかである。 また、この酸化コバルト薄膜の高性能は、製膜から6ヶ月後にも保持されていることから、長期安定性に優れていることも明らかとなった。 さらに、この酸化コバルト薄膜を300℃で2時間加熱処理した後にも、性能低下は認められず、熱的安定性に優れていることが確認された。 さらに、約1%のH 2またはCOを含む空気中において、この酸化コバルト薄膜を100℃で1時間保持した後にも、性能の変化は認められず、化学的安定性にも優れていることが明らかである。 また、製造に使用した上記原料溶液の価格は、1g当たり20円以下であるので、製造コストのみならず、原料コストも低い。
    【0067】
    実施例4
    実施例1で使用したものと同様の組成と厚さを有するガラス基板上(片面)にマグネトロンRFスパッタリング法(ターゲット:Co 3 O 4 )により、褐色を呈する酸化コバルト(Co 3 O 4 )薄膜(膜厚:約400nm)を調製した。 この酸化コバルト薄膜に、波長532nm、パルス幅35psのレーザー光を入射し、集光レンズとNDフィルターを用いて入射レーザー光強度(I o )を変化させながら、酸化コバルト薄膜の透過率変化を、ストリークカメラを用いて測定した。 I oと透過率との関係から、非線形吸収係数(β)を見積もった。 その結果、I oを増大させると特にI o >50MW/cm 2で酸化コバルト薄膜の透過率が顕著に低下することがわかった(図4参照)。
    【0068】
    図4において、縦軸に示した相対的な透過率は、測定範囲内で最も弱い光を入射した場合(I o =112kW/cm 2 )の透過率を1として規格化している。 透過率の低下は、パルスレーザーの照射回数を増加させても、常に同一であり、一方、I o =112kW/cm 2前後の比較的弱い上記パルスレーザー光の場合には、透過率の低下は非常に小さかった。
    【0069】
    上記で得られた酸化コバルト薄膜のβは、2.5×10 -5 cm/Wであり、光制限材料として高い性能を有していることがわかった。 この光制限材料として高い性能は、10 8 W/cm 2という非常に強い上記パルスレーザー光を1000回照射した場合にも、保持され、この酸化コバルト薄膜が、非常に強いレーザー光の入射によっても損傷を受けにくいことが明らかである。 また、この酸化コバルト薄膜の高性能は、製膜から6ヶ月後にも保持されていることから、長期安定性に優れていることも明らかとなった。 さらに、この酸化コバルト薄膜を300℃で2時間加熱処理した後にも、性能低下は認められず、熱的安定性に優れていることが確認された。 さらに、約1%のH 2またはCOを含む空気中において、この酸化コバルト薄膜を100℃で1時間保持した後にも、性能の変化は認められず、化学的安定性にも優れていることが明らかである。
    【0070】
    実施例5
    実施例1で使用したものと同様の組成と厚さを有するガラス基板上(片面)にナフテン酸銅膜をスピンコート法で形成し(溶媒:トルエン、溶液におけるナフテン酸銅の含有比率:溶液全体に対する金属の重量比率として、5%)、空気雰囲気下において、380℃で2時間焼成し、褐色を呈する酸化銅(Cu0)薄膜(膜厚:約800nm)を調製した。 この酸化銅薄膜に、波長532nm、パルス幅35ps のレーザー光を入射し、集光レンズとNDフィルターを用いて入射レーザー光強度(I o )を変化させながら酸化銅薄膜の透過率変化を測定した。 I oと透過率との関係から、非線形吸収係数(β)を見積もった。 その結果、I oを増大させると、特にI o >10MW/cm 2で酸化銅薄膜の透過率が顕著に低下することがわかった(図5参照)。
    【0071】
    図5において、縦軸に示した相対的な透過率は、測定範囲内で最も弱い光を入射した場合(I o =6.08kW/cm 2 )の透過率を1として規格化している。 透過率の低下は、パルスレーザーの照射回数を増加させても、常に同一であり、一方、I o =6.08kW/cm 2前後の比較的弱い上記パルスレーザー光の場合には、透過率の低下は非常に小さかった。
    【0072】
    上記で得られた酸化銅薄膜のβは、1.8×10 -5 cm/Wであり、光制限材料として高い性能を有していることがわかった。 この光制限材料として高い性能は、10 8 W/cm 2という非常に強い上記パルスレーザー光を1000回照射した場合にも、保持され、この酸化コバルト薄膜が、非常に強いレーザー光の入射によっても損傷を受けにくいことが明らかである。 また、この酸化銅薄膜の高性能は、製膜から6ヶ月後にも保持されていることから、長期安定性に優れていることも明らかとなった。 さらに、この酸化銅薄膜を300℃で2時間加熱処理した後にも、性能低下は認められず、熱的安定性に優れていることが確認された。 さらに、約1%のH 2またはCOを含む空気中において、この酸化銅薄膜を100℃で1時間保持した後にも、性能の変化は認められず、化学的安定性にも優れていることが明らかである。 また、製造に使用した上記原料溶液の価格は、1g当たり20円以下であるので、製造コストのみならず、原料コストも低い。
    【0073】
    実施例6
    実施例1で使用したものと同様の組成と厚さを有するガラス基板上(片面)に市販の有機イリジウム化合物溶液を用いて薄膜を形成し(溶媒:アルコール混合物、溶液における有機イリジウム化合物の含有比率:溶液全体に対する金属の重量比率として、2%)、空気雰囲気下において、550℃で2時間焼成し、青灰色を呈する酸化イリジウム(IrO 2 )薄膜(膜厚:約1.2μm)を調製した。 この酸化イリジウム薄膜に、波長532nm、パルス幅35ps のレーザー光を入射し、集光レンズとNDフィルターを用いて入射レーザー光強度(I o )を変化させながら、レーザー入射直後から数十ps後までに起こる酸化イリジウム薄膜の透過率変化を、ストリークカメラを用いて測定した。 I oを増大させると特にI o >10MW/cm 2で酸化イリジウム薄膜の透過率が、顕著に低下したので、光制限材料として使用できる特性を有することがわかった。
    【0074】
    実施例7
    実施例1で使用したものと同様の組成と厚さを有するガラス基板上(片面)にオクチル酸カルシウムとオクチル酸バナジウムとの混合膜をスピンコート法で形成し(溶媒:トルエン:ブタノール=1:1、溶液におけるオクチル酸カルシウム+オクチル酸バナジウムの含有比率=2%(溶液全体に対する金属の重量比率として)、オクチル酸カルシウム:オクチル酸バナジウムのモル比=1:2(金属のモル比として))、空気雰囲気下において、380℃で1時間焼成し、橙褐色を呈するCaV 2 O 5薄膜(膜厚:約1μm)を調製した。 このCaV 2 O 5薄膜に、波長532nm、パルス幅35psのレーザー光を入射し、集光レンズとNDフィルターを用いて入射レーザー光強度を変化させながら、レーザー入射直後から数十ps後までに起こるCaV 2 O 5薄膜の透過率変化を、ストリークカメラを用いて測定した。 その結果、入射レーザー光強度を増大させるとCaV 2 O 5薄膜の透過率が低下したので、光制限材料として高い性能を有することがわかった。
    【0075】
    実施例8
    SiO 2のみからなる厚さ1mmの石英ガラス基板上(片面)にオクチル酸ビスマスとオクチル酸バナジウムとの混合膜をスピンコート法で形成し(溶媒:トルエン、溶液におけるオクチル酸ビスマス+オクチル酸バナジウムの含有比率=2%(溶液全体に対する金属の重量比率として)、オクチル酸ビスマス:オクチル酸バナジウムのモル比=1:1(金属のモル比として))、空気雰囲気下において、380℃で2時間焼成し、黄色を呈するBiVO 4薄膜(膜厚:約1μm)を調製した。 このBiVO 4薄膜に、波長532nm、パルス幅35psのレーザー光を入射し、集光レンズとNDフィルターを用いて入射レーザー光強度を変化させながら、レーザー入射直後から数十ps後までに起こるBiVO 4薄膜の透過率変化を、ストリークカメラを用いて測定した。 入射レーザー光強度を増大させると、BiVO 4薄膜の透過率が低下したので、光制限材料として使用できる特性を有することがわかった。
    【0076】
    実施例9
    1辺が約2cmのZnSe三柱プリズムの底面上(1面のみ)にマグネトロンRFスパッタリング法(ターゲット:Co 3 0 4 )により、褐色を呈する酸化コバルト(Co 3 0 4 )薄膜(膜厚:約1.5μm)を調製した。 この酸化コバルト薄膜に、波長1064nm、パルス幅7nsのレーザー光を入射し、入射レーザー光強度を変化させながら、レーザー入射直後から十数ns後までに起こる酸化コバルト薄膜の透過率変化を、フォトダイオードを用いて測定した。 入射レーザー光強度を増大させると、酸化コバルト薄膜の透過率が低下したので、光制限材料として使用できる特性を有することがわかった。
    【0077】
    実施例10
    オクチル酸コバルトのトルエン・ブタノール(1:1)混合溶液(溶液濃度=1%:溶液全体に対する金属の重量比率として)を、厚さ1mm、平均細孔径4nm、気孔率28%、比表面積200m 2 /gの多孔質ソーダ石灰ガラス基板(組成は、実施例1で使用したガラス基板に同じ)に含浸させ、乾燥させた後、空気雰囲気下において、380℃で2時間焼成し、酸化コバルトを多孔質ガラス基板の細孔内に固定化した褐色の材料を調製した(酸化コバルトの平均粒径:2〜4nm、固定量:約20重量%)。 この酸化コバルト微粒子含有多孔質ガラス板に、波長532nm、パルス幅35psのレーザー光を入射し、集光レンズとNDフィルターを用いて入射レーザー光強度を変化させながら、レーザー入射直後から数十ps後までに起こる酸化コバルト微粒子含有多孔質ガラス板の透過率変化を、ストリークカメラを用いて測定した。 入射レーザー光強度を増大させると酸化コバルト微粒子含有多孔質ガラス板の透過率が低下したので、光制限材料として使用できる特性を有することがわかった。
    【0078】
    実施例11
    5%硝酸マンガンのエタノール溶液と5%硝酸コバルトのエタノール溶液との混合物(金属のモル比として、2:1)を、多孔質ソーダ石灰ガラス基板(厚さ、組成、平均細孔径、気孔率、比表面積は、実施例10で使用したものと同様)に含浸させ、乾燥させた後、空気雰囲気下において、380℃で2時間焼成し、マンガン・コバルト複合酸化物(MnCo 2 O 4 )を多孔質ガラス基板の細孔内に固定化した褐色の材料を調製した(MnCo 2 O 4の平均粒径:2〜4nm、固定量:約20重量%)。 このマンガン・コバルト複合酸化物微粒子含有多孔質ガラス板に、波長532nm、パルス幅35psのレーザー光を入射し、集光レンズとNDフィルターを用いて入射レーザー光強度を変化させながら、レーザー入射直後から数十ps後までに起こるマンガン・コバルト複合酸化物含有多孔質ガラス板の透過率変化を、ストリークカメラを用いて測定した。 入射レーザー光強度を増大させるとマンガン・コバルト複合酸化物微粒子含有多孔質ガラス板の透過率が低下したので、光制限材料として使用できる特性を有することがわかった。
    【0079】
    実施例12
    実施例1で使用したものと同様の組成と厚さを有するガラス基板上(片面)にナフテン酸銅膜をスピンコート法で形成し(溶媒:トルエン、溶液におけるナフテン酸銅の含有比率:溶液全体に対する金属の重量比率として、5%)、空気雰囲気下において、380℃で2時間焼成し、褐色を呈する酸化銅(Cu0)多孔質薄膜(粒径20〜40nm程度の微粒子からなり、膜厚約1μm)を調製した。 この多孔質酸化銅薄膜の表面に、オクチル酸ジルコニウムをスピンコート法で塗布し(溶媒:トルエン、溶液におけるオクチル酸ジルコニウムの含有比率:溶液全体に対する金属の重量比率として、1%)、空気雰囲気下において、380℃で2時間焼成することにより、酸化銅(Cu0)微粒子間が酸化ジルコニウム(ZrO 2 )により充填された、褐色の酸化銅・酸化ジルコニウム複合薄膜(膜厚約1μm)を調製した。 この複合薄膜に波長532nm、パルス幅35ps のレーザー光を入射し、集光レンズとNDフィルターを用いて入射レーザー光強度(I o )を変化させながら、レーザー入射直後から数十ps後までに起こる複合薄膜の透過率変化を、ストリークカメラを用いて測定した。 I oと透過率との関係から、非線形吸収係数(β)を見積もった。 その結果、I oを増大させると、複合薄膜の透過率が顕著に低下するので、この複合薄膜は光制限材料として、優れた特性を有していることがわかった。
    【0080】
    上記の酸化銅・酸化ジルコニウム複合薄膜の光制限材料として高い性能は、約10 10 W/cm 2という非常に強い上記パルスレーザー光を連続的に照射した場合にも、保持され、この複合薄膜が、非常に強いレーザー光の入射によっても損傷を受けにくいことが明らかとなった。
    【0081】
    これに対し、酸化ジルコニウムと複合させなかった酸化銅薄膜は、約10 10 W/cm 2という非常に強い上記パルスレーザー光を連続的に照射した場合には、徐々に損傷を受けて、光制限材料としての性能が次第に低下した。
    【0082】
    以上の結果から、酸化銅薄膜を透明な酸化ジルコニウムと複合化させることにより、酸化銅薄膜の光制限材料としての特性が著しく改善されることが明らかである。
    【0083】
    また、上記と同様にして得られた酸化銅微粒子多孔質薄膜を形成したガラス基板をポリメチルメタクリレートのクロロホルム溶液に含浸し、乾燥することにより、酸化銅・ポリメチルメタクリレート複合薄膜を形成させた。 この酸化銅・ポリメチルメタクリレート複合薄膜も、上記の酸化銅・酸化ジルコニウム複合薄膜と同様に、非常に強いレーザー光に対する高度の耐久性を示した。
    【図面の簡単な説明】
    【図1】本発明の第1の実施例で作製した薄膜に対し、波長532nm、パルス幅35psのレーザー光を入射した際の、入射レーザー光強度と薄膜の透過率との関係を示す図である。
    【図2】本発明の第2の実施例で作製した薄膜に対し、波長532nm、パルス幅35psのレーザー光を入射した際の、入射レーザー光強度と薄膜の透過率との関係を示す図である。
    【図3】本発明の第3の実施例で作製した薄膜に対し、波長532nm、パルス幅35psのレーザー光を入射した際の、入射レーザー光強度と薄膜の透過率との関係を示す図である。
    【図4】本発明の第4の実施例で作製した薄膜に対し、波長532nm、パルス幅35psのレーザー光を入射した際の、入射レーザー光強度と薄膜の透過率との関係を示す図である。
    【図5】本発明の第5の実施例で作製した薄膜に対し、波長532nm、パルス幅35psのレーザー光を入射した際の、入射レーザー光強度と薄膜の透過率との関係を示す図である。

    QQ群二维码
    意见反馈