回折型多焦点眼用レンズおよびその製造方法

申请号 JP2013107495 申请日 2013-05-21 公开(公告)号 JP6161404B2 公开(公告)日 2017-07-12
申请人 株式会社メニコン; 发明人 安藤 一郎;
摘要
权利要求

同心円状の複数のゾーンを有する回折構造が設けられた光学部を備えており、該光学部によって少なくとも二つの焦点が与えられる回折型多焦点眼用レンズにおいて、 前記回折構造の一部または全部のゾーンがブレーズ形状の位相関数を有していると共に、 かかるブレーズ形状の位相関数を有するゾーンにおいて、ゾーンの内径ri-1 及び外径ri で特定されるi番目のゾーンの位置と、ゾーンの内径rj-1 及び外径rj で特定されるj番目のゾーンの位置とが、等間隔のゾーン領域を構成するゾーン位置とされている一方、ゾーンの内径rc-1 及び外径rc で特定されるc番目のゾーンの位置が、該i番目と該j番目の何れのゾーン位置に対しても等間隔領域とフレネル領域との何れも構成しないゾーン位置とされており、且つ、下式数1と数2の少なくとも一方を満足するように、該i番目と該j番目と該c番目のそれぞれのゾーンの位置が設定されており、更に、 該i番目のゾーンと該j番目のゾーンを含む前記等間隔のブレーズ形状の位相関数を有するゾーンによる少なくとも一つの前記焦点の像面上でのサイドバンド域におけるq=1〜5次の何れかの次数qでの光振幅強度が、該c番目のゾーンにより低減されていることを特徴とする回折型多焦点眼用レンズ。前記少なくとも二つの焦点のうちの一つの焦点が、前記回折構造の0次回折光によって与えられる請求項1に記載の回折型多焦点眼用レンズ。前記回折構造の0次回折光によって与えられる焦点が、遠方視用焦点とされている請求項2に記載の回折型多焦点眼用レンズ。前記回折構造における少なくとも一部において、フレネル間隔の周期構造を有する少なくとも二つのゾーンが設けられている請求項1〜3の何れか一項に記載の回折型多焦点眼用レンズ。前記フレネル間隔の外径が、下式数3で与えられる請求項4に記載の回折型多焦点眼用レンズ。前記ブレーズ形状の位相関数が、下式数4で表わされる請求項1〜5の何れか一項に記載の回折型多焦点眼用レンズ。前記位相関数の位相ずれ量が、下式数5の範囲にある請求項6に記載の回折型多焦点眼用レンズ。前記回折構造が、位相に相当する光路長を反映したレリーフ構造によって構成されている請求項1〜7の何れか一項に記載の回折型多焦点眼用レンズ。同心円状の複数のゾーンを有する回折構造が設けられた光学部を備えていると共に、該回折構造の一部または全部のゾーンにおいてブレーズ形状の位相関数を有しており、且つ、該光学部によって少なくとも二つの焦点が与えられる回折型多焦点眼用レンズを製造するに際して、 前記ブレーズ形状の位相関数を有するゾーンにおけるi番目のゾーンの内径ri-1 及び外径ri とj番目のゾーンの内径rj-1 及び外径rj とによって強め合う振幅を、何れかの前記焦点における像面上でのサイドバンドの次数q=1〜5次の何れかにおいて低減するc番目のゾーンの内径rc-1 及び外径rc を、下式数6を用いて求めるCos関数利用工程と、 前記ブレーズ形状の位相関数を有するゾーンにおけるi番目のゾーンの内径ri-1 及び外径ri とj番目のゾーンの内径rj-1 及び外径rj とによって強め合う振幅を、何れかの前記焦点における像面上でのサイドバンドの次数q=1〜5次の何れかにおいて低減するc番目のゾーンの内径rc-1 及び外径rc を、下式数7を用いて求めるSinc関数利用工程と の、少なくとも一方の工程を経て前記回折構造を設定し、得られた該回折構造のプロファイルを前記光学部に反映することにより該光学部を形成することを特徴とする回折型多焦点眼用レンズの製造方法。

说明书全文

ブラードビジョンやハロは、多焦点眼用レンズの像面において他の焦点を形成する光が紛れ込むことによって生成するサイドバンドが原因であると考えられる。本発明は、これらサイドバンドを低減する回折構造とすることで、ブラードビジョンやハロの問題を解決することができるであろうとの知見に基づいて完成されたものである。即ち、本発明は、サイドバンド低減を可能とする新規な構造の回折型多焦点眼用レンズ及びその製造方法に関する。

従来から、人眼の光学系における屈折異常の矯正用光学素子や晶体摘出後の代替光学素子などとして、眼用レンズが用いられている。そのなかでも、人眼に装着して用いられるコンタクトレンズや、人眼に挿入して用いられる眼内レンズは、人眼に直接に用いられて大きな視野を提供すると共に、見え方の違和感を軽減することができることから、広く利用されている。

ところで、近年では老眼年齢に達した人達においても継続してコンタクトレンズを使用する人が増えている。かかる老眼となった人は焦点の調節機能が低下しているため、近くのものにピントが合わせにくいという症状が現れる。よって、かかる老眼患者に対しては近くのものにも焦点を合わせることのできる多焦点コンタクトレンズが必要となる。また、白内障手術を施術された患者においては調整機能を司る水晶体が除去されるため、その代替としての眼内レンズを挿入しても近方が見づらいという症状が残る。かかる眼内レンズにおいても複数の焦点を有する多焦点機能を有することが必要となっている。このように近年の高齢者社会を反映して多焦点眼用レンズの必要性は非常に高まっている。

かかる多焦点眼用レンズを実現する方法としては、屈折原理に基づき複数の焦点を形成する屈折型多焦点眼用レンズと回折原理に基づき複数の焦点を形成する回折型多焦点眼用レンズの例が知られている。後者の回折型の眼用レンズにおいては、レンズの光学部に同心円状に複数形成された回折構造を備えており、かかる複数の回折構造(ゾーン)を通過した光波の相互干渉作用によって複数の焦点を与えるものである。それ故、屈折率の相違する境界面からなる屈折面での光波の屈折作用によって焦点を与える屈折型レンズに比して、レンズ厚さの増大を抑えつつ大きなレンズ度数を設定することが出来る等の利点がある。

一般に回折型多焦点レンズは、フレネル間隔というある規則に従いレンズ中心から周辺に向うにつれて回折ゾーンの間隔が徐々に狭くなった回折構造を有するものであり、かかる構造から生成する0次回折光と1次回折光を利用して多焦点とするものである。通常は、0次回折光を遠方視用の焦点とし、+1次回折光を近方視用の焦点とする。かかる回折光の分配によって遠近用の焦点を有するバイフォーカルレンズとすることができる。

また、回折構造の他の態様として、フレネル間隔に基づかない回折構造のものも存在する。たとえば、後述の実施例に示すように、回折ゾーンの間隔が等間隔のゾーンを含むものも、グレーティング(grating)として回折作用による光干渉が知られているように、回折レンズとして有効であることを本発明者は確認している。このようなフレネル間隔に基づかない態様の回折構造を利用するものも多焦点を形成しうるので、回折型多焦点レンズとして有用である。

そして、近年では、前記した白内障手術後に挿入する眼内レンズとして回折型の多焦点眼内レンズが実用化され、眼鏡なしで遠方も近方も見ることが可能な眼内レンズとしての有効性が認められている。

ところが、このような回折型多焦点レンズでは、特に眼内レンズとしての適用例が増えるに伴って、未だ解決すべき問題点の存在が明らかとなってきている。

問題点の一つが、夜間の遠方の光源を目視した場合に光源の周りに帯状、あるいはリング状の光の暈が生成しやすいという問題点である。この暈のことを通常ハロと呼んでおり、特に遠方の街灯や自動車のヘッドライトなどの点状の光源に対して発生しやすく、眼用レンズの夜間の使用時における見え方の低下を招くという問題点がある。

別の問題点としては、回折型多焦点眼内レンズが埋された患者においては物を見る時、靄がかかったような、あるいは霧の中で物を見ているような愁訴があると言われていることが挙げられる。この症状は、なんとなくぼんやりと物が見えることからブラードビジョン(blurred vision)などと称されている。見え方の程度によってはワクシービジョン(waxy vision)、あるいはワセリンビジョン(vaseline vision)という呼び方で言い表わされることもあり、油脂が薄く付着したガラス越しに物を見ているように見えることもあると言われている。

これらハロやブラードビジョンは多焦点レンズ、特に同時視型と呼ばれる多焦点レンズの結像特性を反映した現象の一つとして認識されており、その成因に関して以下のように説明される。

収差のない理想的な単焦点レンズでは、遠方からの光はレンズを通過し定められた焦点位置で光の振幅が最大限強め合うようにして結像する(図1(a))。その際、焦点位置での像面の強度分布は、像面中心に主たるピークが、その周辺にはエアリー半径で規定される極めて小さなサイドローブが存在するのみのシンプルな強度分布となる(図1(b)(c))。なお、図1(c)は図1(b)の拡大図である。かかるシンプルな強度分布を反映して理想的な単焦点レンズではハロのない像を与える(図1(d))。

一方、たとえば遠近の2焦点を有する回折型多焦点レンズでは、遠方からやってくる光は遠方焦点位置で光の振幅が最大限強め合って結像するとともに、近方焦点位置でも振幅が強め合うように設計されている。遠方からの光は遠方焦点の像面中心に主ピークを形成するが、近方焦点位置で強め合った光は、その後拡散して遠方焦点の像面位置に到達することとなる(図2(a))。一見すると遠方焦点の像面では図2(b)に示すようにかかる遠方焦点を形成する主ピークしか存在しないように見えるが、拡大すると図2(c)のように主ピークの周りに小ピーク群(以降、サイドバンドと称することとする)が存在していることが分かる。これは、前記したように近方結像用の光の成分が一種の迷光となって遠方焦点像面に紛れ込むこととなり、形成されたものである。このように小ピーク群の強度は主ピークの強度と比較すると極めて小さなものであるが、夜間という背景が暗い環境においては微弱な強度の光でも目立ちやすくなること、さらには人の眼の感度の高さと相まって網膜に感知されることとなり、ハロとして認識されるのである(図2(d))。

ブラードビジョンに関しては、一般的な回折型多焦点レンズにおいてこの問題を把握することのできる資料を、図3に示す。図3(a)は、Cohenによる米国特許第5144483号明細書(特許文献1)に示された技術内容に基づき設計された一般的な回折型多焦点眼用レンズを光学ベンチ上に設置し、該レンズを通して撮影された解像度チャートを示すものである。これは、0次回折光を遠方視用、+1次回折光を近方視用の焦点形成用として設計された回折型多焦点眼用レンズの遠方視用焦点位置における測定結果である。図3(b)に示す単焦点レンズの場合と比較すると、明るいハイライトの部分の輝度が幾分低下し、灰色がかったように見える。また、視標のない背景のシャドー部には光の滲みが発生しており、全体的にコントラストが低下していることが分かる。現在実用化されている回折型多焦点眼内レンズの中には前記Cohenの基本仕様から発展させたアポダイゼーションといわれる回折構造を設けたものが知られている。W. Andrew Maxwellらはかかるタイプのレンズを含む多焦点眼内レンズのベンチテストでの解像度チャートの撮影結果を示している(“Performance of presbyopia−correcting intraocular lenses in distance optical bench tests”,JOURNAL OF CATARACT & REFRACTIVE SURGERY,第35巻(2009),頁166—171(非特許文献1))。その結果も図3(a)と同様にハイライト部の輝度の低下、及び背景シャドー部への光の滲みが認められている。

このように一般的な回折型多焦点眼用レンズでは、コントラスト差のある環境下で物を見た場合に、全体的にコントラストが低下し、光の滲みが生じて結果として霞がかかったような見え方、即ちブラードビジョンの問題を引き起こすことを、図3からも理解することができる。特に人の生理的な不満はハイライト部の輝度の低下よりもシャドー部への光の滲みによってもたらされるものであることに注意する必要がある。よってブラードビジョンの問題解決に際しては、かかる光の滲みの発生機序を把握する必要がある。かかる光の滲みも、前記した遠方視用焦点位置におけるサイドバンドが原因で起こる現象である。ハロの現象は点光源を目視した時に認められるのに対してブラードビジョンは主に広がりのある光源を目視した時に認められる現象である。広がりのある光源、すなわち点光源が無数に集まった光源においては、これら点光源に対応した像面の共役焦点位置に亘って前記遠方視用焦点位置における像面強度分布を積算したものが広がりのある光源を見た時の像面に投射される像となる。そして、かかる像面の強度分布において明暗の境界における分布状態が光の滲みの程度を示すものと考えられる。たとえサイドバンドの強度が小さくても、広がりのある光源ではこれらピークが積算されることになるので強度は増幅されること、また、前記したように明暗のコントラスト差のある環境下においては、僅かな光の滲みでも知覚されやすくなることから微弱なサイドバンドでも無視しえない状況が発生しうるのである。

上述の説明から、多焦点眼用レンズではサイドバンドの存在が見え方の質に大きな影響を与えることが分かる。なお、かかるブラードビジョンの問題点は眼内レンズ特有のものではなく、コンタクトレンズ、あるいは膜内挿入インレイ、などに応用される多焦点眼用レンズに等しく発生しうるものである。よって、この課題の解決がかかる分野において強く求められているのである。

ところで、かかるサイドバンドの生成は、光の波動現象として現れるものであり、図4(a)に示すように回折型多焦点レンズでは各回折輪帯を通過した光は、遠方焦点の像面位置にそれぞれの輪帯の特性を反映した振幅分布を与える。例えば図4(a)における各輪帯A,B,Cを通過する光は図4(b)のような振幅分布を形成する。そして、各輪帯からの振幅が合成されたものが遠方焦点の像面における全体の振幅分布となる(図4(c))。この振幅の共役絶対値が光の強度となり(図4(d))、前記したサイドバンドが生成するのである。

したがって、サイドバンドの強度を低減させるにはその元となる振幅分布の振幅の大きさまたは像面上での広がりを制御することが必要となり、振幅分布を抑制することがすなわちハロやブラードビジョンを低減することになるのである。なお、上述のハロおよびブラードビジョンに関する現象の解析や原理の説明等は、本発明者が多数の実験と検討によって達し得たものであり、公知技術として記載したものではない。

米国特許第5144483号明細書

ジャーナル・オブ・カタラクト・アンド・リフラクティブ・サージェリー(JOURNAL OF CATARACT & REFRACTIVE SURGERY),第35巻(2009年),166—171頁,ダブリュ・アンドリュー・マクスウェル(W.Andrew Maxwell)著,パフォーマンス・オブ・プレズビオーピアコレクティング・イントラオキュラー・レンズ・イン・ディスタンス・オプティカル・ベンチ・テスト(Performance of presbyopia−correcting intraocular lenses in distance optical bench tests)

本発明は、上述の如き多焦点眼用レンズにおいて大きな問題であるハロ及びブラードビジョンの改善を目的とするものであり、これら現象の発生機構の解明を為し得たことに基づいて、その結果得られた知見をもとに新規な解決策を見出したものである。そして、このようにして得られた新規な技術思想に基づいて、ハロ及びブラードビジョンが改善された回折型多焦点眼用レンズを実現すべく、本発明は、回折型多焦点眼用レンズの新規な製造方法と、新規な構造の回折型多焦点眼用レンズとを、それぞれ提供することを解決課題とする。

[語句の定義] 以下、本発明の説明に先立ち、本発明で用いられる語句などについて以下のように定義する。

振幅関数(分布)は、光の波としての特性を数学的に記述した関数(分布)のことであり、具体的には数1で表わされる。

位相は、数1のφ(x)に相当するもので、光の波としての状態を示すパラメータの一つで、具体的には波の谷と山の位置、あるいは経過時間ごとのかかる位置を定めるものである。また、位相を変えることによって波の進行を早めたり、遅らせたりもする。なお、本発明では位相をφで表記することとし、その単位はラジアンである。例えば光の1波長を2πラジアン、半波長をπラジアンとして表わす。

位相変調は、レンズに入射した光に対して何らかの方法でその位相に変化を与えるようなレンズに設けられた構造あるいは方法を総じていう。

位相関数は、数1の指数部またはcos関数内の位相の変化を表す関数である。本発明では位相関数の変数は主にレンズの中心から半径方向の位置rとし、r地点におけるレンズの位相φを表すものとして用いられ、具体的には図5に示すようなr−φ座標系で表わすこととする。また、位相変調構造が設けられた全域の位相の分布を同座標系で表したものを位相プロファイル(Profile)と呼ぶ。なお、φ=0のr軸を基準線とし、φ=0の地点では入射した光はその位相を変化させることなく射出されることを意味する。そして、この基準線に対してφが正の値を取るとき、光はその位相分だけ進行が遅れ、φが負の値を取るとき、光はその位相分だけ進行が進むことを意味する。実際の眼用レンズにおいては回折構造が付与されていない屈折面がこの基準線(面)に相当する。

光軸は、レンズの回転対称軸で、ここではレンズ中心を貫き物体空間および像側空間へ延長された軸のことをいう。

像面は、レンズに入射した光が射出された像側空間のある地点において光軸と垂直に交わる面のことをいう。

0次焦点は、0次回折光の焦点位置をいう。以下、+1次回折光の焦点位置に対しては+1次焦点、・・・という。

0次焦点像面は、0次回折光の焦点位置における像面のことをいう。

ゾーンは、回折構造における最小の単位としてここでは用いる。例えば一つのブレーズが形成された領域を一つのゾーンと呼ぶ。

ブレーズは、位相関数の一形態で、主に屋根状の形で位相が変化しているものを指す。本発明では、後述する図6(a)に示すような一つのゾーンにおいて屋根の山と谷の間が直線で変化するものをブレーズの基本とするが、山と谷の間を放物線状の曲線で変化するようにつながったもの(図6(b))や凹凸形状(方形波状)等も本発明ではブレーズの概念の中に含まれる。また、山と谷の間が正弦波の関数の一部で変化するようにつながれたもの(図6(c))、さらにはある関数において極値を含まない区間で変化するようにつながれたものもブレーズの概念の中に含まれる。本発明では特に断りがない限り図6(a)に示すように第n番目のゾーンのブレーズにおいて、ゾーンの外径rnの位置の位相φn と内径rn-1 の位置の位相φn-1 の絶対値が基準面(線)に対して等しくなるように、つまり|φn |= |φn-1 |となるように設定することを基本とする。なお、ブレーズの位相関数φ(r)は、数2のように表される。

位相ずれ量は、ある位相関数φ(r)をr−φ座標系の基準線(面)に対してφ軸方向にτずらす場合、このτのことを位相ずれ量と定義する。τずらすことによって新たに得られる位相関数φ’(r)との関係は数3の通りである。位相ずれ量の単位はラジアンである。

たとえば、前記ブレーズにおいてブレーズ段差を維持したまま基準面に対するブレーズの位置関係をφ軸方向にずらす場合は、ずらすことによって新たに谷と山になるφ’n とφ’n-1 とずらす前のφn とφn-1 の関係は数4の通りとなる。この位置関係は図7に示されている。本発明ではこのように位相ずれ量τを導入して新たに設定される関数φ’(r)も位相関数の一形態として用いることができる。

また、位相ずれ量τを導入した場合のブレーズ形状の位相関数は数2から数5のように表わされる。

位相定数は、ブレーズ形状の位相関数において数6で定義される定数hのことをいう。

レリーフは、位相プロファイルで定められる位相に相当する光路長を反映して具体的にレンズの実形状に変換して得られるレンズの表面に形成される微小な凸凹構造の総称である。なお、位相プロファイルをレリーフ形状に変換する具体的な方法は以下の通りである。 光はある屈折率を有する媒体に入射するとその屈折率分だけ速度が遅くなる。遅くなった分だけ波長が変化し、結果として位相変化が生ずる。位相プロファイルにおけるプラスの位相は光を遅らせることを意味するので、屈折率の高い領域に光が入射するようにすればプラス位相を付与したことと同じになる。なお、これらプラス、マイナスとは相対的な表現であり、例えば位相が−2πと−πでは同符号であっても後者の方が位相は遅れているので、屈折率の高い領域を設定する。

たとえばブレーズ状の位相関数を有する場合、その実形状のブレーズ段差は、数7で表わされる。かかるレリーフ形状は精密旋盤による切削加工やモールド成形法などでレンズ面に設けることができる。

強度分布は、レンズ通過後の光の強度をある領域に亘ってプロットしたもので、前記振幅関数の共役絶対値として表わされる。ここでは大別して「光軸上の強度分布」と「像面の強度分布」が用いられる。前者はレンズの位置を基点とし、像側光軸上の光の強度分布をプロットしたもので、光軸上のどの位置に焦点を形成するか、また強度の割合などを調べる際に用いる。一方、像面強度分布はある像面における光の強度分布を示し、本発明では像面の中心から動径偏角がゼロ方向の位置ρにおける強度をプロットしたもので表わすこととする。人の眼においては網膜上で知覚されるのは像面強度分布の情報である。

フレネル間隔は、回折レンズのゾーン構成においてある規則に従って定められるゾーン間隔の一つの形態のことをいう。ここでは、第n番目のゾーンの外径をrn とすると数8で定められる間隔を有するものをいう。

一般的には数8で定められる間隔にすることによって1次回折光の焦点に相当する付加屈折Padd (0次光を遠用、1次光を近用とした時、近用焦点位置をどこに設定するかの目安となるもの)を設定することができる。なお、フレネル間隔を定める数8における第1番目のゾーン外径(半径)は通常は数9で定められるが、任意の値を用いて設定してもよい。本発明にて使用されるフレネル間隔型の回折レンズは、屈折原理を利用したフレネルレンズとは異なるものであり、上記式に従った間隔を有した回折原理を利用したレンズのことをいう。

Sinc関数の節とは、数10で示される関数f(x)においてf(x)= 0になる地点をいう。また、Sinc関数の極値とは、数10で示される関数f(x)においてdf(x)/dx=0になる地点をいう。

[本発明の基本的態様] 続いて、前述の如き課題を解決するために為された本発明の基本的な態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。

すなわち、回折型多焦点眼用レンズに関する本発明の第1の態様は、同心円状の複数のゾーンを有する回折構造が設けられた光学部を備えており、該光学部によって少なくとも二つの焦点が与えられる回折型多焦点眼用レンズにおいて、前記回折構造の一部または全部のゾーンがブレーズ形状の位相関数を有していると共に、かかるブレーズ形状の位相関数を有するゾーンにおいて、ゾーンの内径ri-1 及び外径ri で特定されるi番目のゾーンの位置と、ゾーンの内径rj-1 及び外径rj で特定されるj番目のゾーンの位置が、等間隔のゾーン領域を構成するゾーン位置とされている一方、ゾーンの内径rc-1 及び外径rc で特定されるc番目のゾーンの位置が、該i番目と該j番目の何れのゾーン位置に対しても等間隔領域とフレネル領域との何れも構成しないゾーン位置とされており、且つ、下式数11と数12の少なくとも一方を満足するように、該i番目と該j番目と該c番目のそれぞれのゾーンの位置が設定されており、更に、該i番目のゾーンと該j番目のゾーンを含む前記等間隔のブレーズ形状の位相関数を有するゾーンによる少なくとも一つの前記焦点の像面上でのサイドバンド域におけるq=1〜5次の何れかの次数qでの光振幅強度が、該c番目のゾーンにより低減されていることを特徴とする。なお、上記のように内径又は外径として各r値は、本発明において半径寸法を表すものである。

本態様に従う構造とされた回折型多焦点眼用レンズでは、一つの焦点の像面上でi番目のゾーンとj番目のゾーンとによって強められた振幅分布を、c番目のゾーンによって低減させることが可能になる。即ち、c番目のゾーンが、他のゾーン(i,j)からの光の干渉で増大された振幅を減少させるキャンセルゾーンとして機能することとなり、サイドバンドの大きな原因と考えられる、当該焦点を形成する光以外の光による像面上での振幅分布を抑えて、かかる焦点における像の見え方の質の向上が図られ得るのである。

なお、本態様においてc番目のキャンセルゾーンの回折光によって振幅分布を減少せしめる対象光は、ハロやブラードビジョンが問題とされる焦点において該焦点以外の地点に単一又は複数の焦点を形成する他の回折光が主たる対象光となる。そして、当該焦点における像面上に生成する光の振幅分布のうちハロやブラードビジョンに直接的・間接的に影響するものを適宜選択し、かかる振幅分布の抑制を目的とする回折光に応じて、i番目およびj番目のゾーン位置が設定され、それに対応してc番目のキャンセルゾーンが設定され得る。 回折型多焦点眼用レンズに関する本発明の第2の態様は、第1の態様に係る回折型多焦点眼用レンズであって、前記i番目のゾーンと前記j番目のゾーンを含む前記回折構造による少なくとも一つの前記焦点の像面上でのサイドバンド域における光振幅強度のピークが、前記c番目のゾーンにより低減されているものである。

回折型多焦点眼用レンズに関する本発明の第3の態様は、第1又は2の態様に係る回折型多焦点眼用レンズであって、前記少なくとも二つの焦点のうちの一つの焦点が、前記回折構造の0次回折光によって与えられるものである。

本態様によれば、前記一つの焦点が、回折型多焦点眼用レンズの主たる焦点形成要因である回折構造の0次回折光によって与えられている。これにより、該一つの焦点を形成する光以外の光すなわちブラードビジョンの原因となり得る光成分を、本発明に従う構造により一層効率的に低減することができる。

回折型多焦点眼用レンズに関する本発明の第4の態様は、第3の態様に係る回折型多焦点眼用レンズであって、前記回折構造の0次回折光によって与えられる焦点が、遠方視用焦点とされているものである。

本態様によれば、遠方視用焦点が0次回折光によって与えられると共に、他の焦点として近方視用焦点が1次以上の回折光によって与えられる。これにより、特に昼間の遠方視で問題となり易いブラードビジョンの抑制が、一層効果的に達成される。即ち、遠方視用焦点における像面上における、近方視用焦点を与える回折光の振幅分布がブラードビジョンの主たる原因と考えられることから、この近方視用焦点を与える回折光による遠方視用焦点の像面上の振幅を本発明に従う構造で抑えることにより、問題となり易い昼間遠方視でのブラードビジョンを低下させることが可能となる。なお、上記「近方視用焦点」は、遠方焦点より近くの距離に位置する焦点であって、例えば二焦点の場合の近方視焦点だけでなく、多焦点の場合の中間視焦点などを含む。

回折型多焦点眼用レンズに関する本発明の第5の態様は、第1〜4の何れかの態様に係る回折型多焦点眼用レンズであって、前記回折構造が、前記ゾーンの間隔が等しい等間隔領域を有しているものである。

本態様によれば、回折ゾーンにおける回折構造の少なくとも一部が、等間隔の周期構造を有している。これにより、ブラードビジョンの原因であるサイドバンドについての定式化がより簡便となり、容易にその位置や大きさを特定してキャンセル用領域を設計することが可能となるのである。 回折型多焦点眼用レンズに関する本発明の第6の態様は、第5の態様に係る回折型多焦点眼用レンズであって、前記等間隔領域における前記ゾーンのうちの一つのゾーンが前記i番目のゾーンとされていると共に他の一つのゾーンが前記j番目のゾーンとされているものである。 回折型多焦点眼用レンズに関する本発明の第7の態様は、第6の態様に係る回折型多焦点眼用レンズであって、前記c番目のゾーンの位置が、前記i番目のゾーンと前記j番目のゾーンの何れに対しても等間隔とは異なるゾーン間隔で設定されているものである。

回折型多焦点眼用レンズに関する本発明の第8の態様は、前記第5〜7の何れかの態様に係る回折型多焦点眼用レンズであって、前記等間隔領域の少なくとも一部において、間隔を等しくした少なくとも二つのゾーンが隣接して設けられているものである。

本態様によれば、等間隔のブレーズ形状のゾーンからなる回折構造において、本発明を適用してハロやブラードビジョンを低減させる設計が効率的に実現可能となる。

回折型多焦点眼用レンズに関する本発明の第9の態様は、前記5〜8の何れかの態様に係る回折型多焦点眼用レンズであって、前記等間隔領域の少なくとも一部において、間隔を等しくした少なくとも二つのゾーンが隣接せずに離間して設けられているものである。

本態様によれば、等間隔のブレーズ形状のゾーンからなる回折構造を採用するに際して、ハロやブラードビジョンの低減効果を享受しつつ、等間隔ゾーンの設計自由度の向上が図られ得る。なお、本態様において、離間して設けられた等間隔領域を構成するゾーンとゾーンの間には、例えば別のゾーンが設けられていたり、ゾーンがない屈折面とされていたりしても良い。また、本態様9は、前記第8の態様と組み合わせて採用することも可能であり、それによって、隣接して等間隔に設けられたゾーンから構成された回折構造と、隣接せずに設けられた等間隔のゾーンから構成された回折構造との、両方を含んで等間隔領域が構成され得る。

回折型多焦点眼用レンズに関する本発明の第10の態様は、前記第1〜9の何れかの態様に係る回折型多焦点眼用レンズであって、前記回折構造における少なくとも一部において、フレネル間隔の周期構造を有する少なくとも二つのゾーンが設けられているものである。

本態様によれば、フレネル間隔のブレーズ形状のゾーンからなる回折構造において、本発明を適用してハロやブラードビジョンを低減させる設計が効率的に実現可能となる。なお、本態様に従ってフレネル間隔の周期構造を有するゾーンで構成された回折構造を、前記第59の何れかに記載の等間隔の周期構造を有するゾーンで構成された回折構造と組み合わせて採用して、本発明に係る回折型多焦点眼用レンズの光学部を構成することも可能である。

回折型多焦点眼用レンズに関する本発明の第11の態様は、前記第10の態様に係る回折型多焦点眼用レンズであって、前記フレネル間隔の外径が、下式数13で与えられるものである。

上記数13に従うことにより、フレネル間隔を構成する各ゾーンの形状を効率的に設定することができる。即ち、一般的には上記数13で定められる間隔にすることによって1次回折光の焦点に相当する付加屈折力Padd(0次光を遠用、1次光を近用とした時、近用焦点位置をどこに設定するかの目安となるもの)を容易に設定することができる。なお、フレネル間隔を定める数13における第1番目のゾーン外径(半径)は通常は数14で定められるが、任意の値を用いて設定してもよい。なお、このことから明らかなように、本発明にて使用されるフレネル間隔型の回折レンズは、屈折原理を利用したフレネルレンズとは異なるものであり、上記式に従った間隔を有した回折原理を利用したレンズのことをいう。

回折型多焦点眼用レンズに関する本発明の第12の態様は、前記第1〜11の何れかの態様に係る回折型多焦点眼用レンズであって、前記ブレーズ形状の位相関数が、下式数15で表わされるものである。

回折型多焦点眼用レンズに関する本発明の第13の態様は、前記第12の態様に係る回折型多焦点眼用レンズであって、前記位相関数の位相ずれ量が、下式数16の範囲にあるものである。

回折型多焦点眼用レンズに関する本発明の第14の態様は、前記第1〜13の何れかの態様に係る回折型多焦点眼用レンズであって、前記回折構造が、位相に相当する光路長を反映したレリーフ構造によって構成されているものである。

なお、回折型多焦点眼用レンズに関する本発明において、例えば、前記回折構造の0次回折光によって与えられる前記焦点において、前記i番目のゾーンと前記j番目のゾーンとから射出される光波が相互に強め合う場合において、前記c番目のゾーンから射出される光波が該i番目のゾーン又は該j番目のゾーンから射出される光波と相互に弱め合うようにすることが可能である。

回折型多焦点眼用レンズの製造方法に関する本発明の第1の態様は、同心円状の複数のゾーンを有する回折構造が設けられた光学部を備えていると共に、該回折構造の一部または全部のゾーンにおいてブレーズ形状の位相関数を有しており、且つ、該光学部によって少なくとも二つの焦点が与えられる回折型多焦点眼用レンズを製造するに際して、前記ブレーズ形状の位相関数を有するゾーンにおけるi番目のゾーンの内径ri-1 及び外径ri とj番目のゾーンの内径rj-1 及び外径rj によって強め合う振幅を、何れかの前記焦点における像面上でのサイドバンドの次数q=1〜5次の何れかにおいて低減するc番目のゾーンの内径rc-1 及び外径rc を、下式数17を用いて求めるCos関数利用工程と、前記ブレーズ形状の位相関数を有するゾーンにおけるi番目のゾーンの内径ri-1 及び外径ri とj番目のゾーンの内径rj-1 及び外径rj によって強め合う振幅を、何れかの前記焦点における像面上でのサイドバンドの次数q=1〜5次の何れかにおいて低減するc番目のゾーンの内径rc-1 及び外径rc を、下式数18を用いて求めるSinc関数利用工程との少なくとも一方の工程を経て前記回折構造を設定し得られた該回折構造のプロファイルを前記光学部に反映することにより該光学部を形成することを特徴とする。なお、前述したように内径又は外径として各r値は、本発明において半径寸法を表すものである。

回折型多焦点眼用レンズの製造方法に関する本発明の第2の態様は、前記第1の態様に係る回折型多焦点眼用レンズの製造方法であって、前記Cos関数利用工程と前記Sinc関数利用工程との少なくとも一方の工程を経て前記回折構造を設定して得られた該回折構造のプロファイルを採用することにより、前記i番目のゾーンと前記j番目のゾーンを含む前記回折構造による少なくとも一つの前記焦点の像面上でのサイドバンド域における光振幅強度のピークが、前記c番目のゾーンにより低減されるように前記光学部に反映するものである。

単焦点レンズにおける見え方に関する説明図。

回折型多焦点レンズにおけるハロの発生機構のモデル的説明図。

一般的な回折型多焦点レンズ(a)と単焦点レンズ(b)を通して撮影された解像度チャート。

回折型多焦点レンズにおける各ゾーンの透過光の相互干渉に基づく振幅分布を表す説明図。

回折型多焦点レンズにおける位相プロファイルを説明する概念図。

ブレーズ形状の位相プロファイルを説明する図。

位相関数に位相ずれ量τを付与した場合の位相関数説明図。

本発明の比較例1としての回折型多焦点レンズにおける位相プロファイルと0次回折光の焦点位置における像面強度分布および光軸上の強度分布の各シミュレーション結果。

図8に示された比較例1の回折型多焦点レンズの試作品における遠方街灯光源の実写写真。

図8に示された比較例1の回折型多焦点レンズの試作品における蛍光灯のエッジ部の実写写真と光強度解析グラフ(理論計算シミュレーション)。

参考例としての単焦点レンズにおける蛍光灯のエッジ部の実写写真と光強度解析グラフ(理論計算シミュレーション)。

回折型多焦点レンズにおけるi番目のゾーン位置の移動に伴うE

cos関数の挙動を表すグラフ。

回折型多焦点レンズにおけるi番目,j番目,c番目の各ゾーンの振幅関数を表すグラフ。

図13とは別の回折型多焦点レンズにおけるi番目,j番目,c番目の各ゾーンの振幅関数を表すグラフ。

図13,14とは別の回折型多焦点レンズにおけるi番目,j番目,c番目の各ゾーンの振幅関数を表すグラフ。

本発明の実施例1−1としての回折型多焦点レンズにおける位相プロファイルと0次回折光の焦点位置における像面強度分布および光軸上の強度分布の各シミュレーション結果。

本発明の実施例1−2としての回折型多焦点レンズにおける位相プロファイルと0次回折光の焦点位置における像面強度分布および光軸上の強度分布の各シミュレーション結果。

本発明の実施例1−3としての回折型多焦点レンズにおける位相プロファイルと0次回折光の焦点位置における像面強度分布および光軸上の強度分布の各シミュレーション結果。

回折型多焦点レンズにおけるc番目のゾーン間隔を変量した場合のE

sinc関数の挙動を表すグラフ。

回折型多焦点レンズにおける複数のゾーンの透過光における振幅関数を表すグラフ。

本発明の実施例2としての回折型多焦点レンズにおける位相プロファイルと0次回折光の焦点位置における像面強度分布および光軸上の強度分布の各シミュレーション結果。

本発明の実施例3−1としての回折型多焦点レンズにおける位相プロファイルと0次回折光の焦点位置における像面強度分布および光軸上の強度分布の各シミュレーション結果。

本発明の実施例3−2としての回折型多焦点レンズにおける位相プロファイルと0次回折光の焦点位置における像面強度分布および光軸上の強度分布の各シミュレーション結果。

本発明の実施例3−3としての回折型多焦点レンズにおける位相プロファイルと0次回折光の焦点位置における像面強度分布および光軸上の強度分布の各シミュレーション結果。

本発明の実施例4としての回折型多焦点レンズにおける位相プロファイルと0次回折光の焦点位置における像面強度分布および光軸上の強度分布の各シミュレーション結果。

本発明の実施例5としての回折型多焦点レンズにおける位相プロファイルと0次回折光の焦点位置における像面強度分布および光軸上の強度分布の各シミュレーション結果。

図19とは別の回折型多焦点レンズにおけるc番目のゾーン間隔を変量した場合のEsinc関数の挙動を表すグラフ。

本発明の実施例6としての回折型多焦点レンズにおける位相プロファイルと0次回折光の焦点位置における像面強度分布および光軸上の強度分布の各シミュレーション結果。

本発明の実施例7−1としての回折型多焦点レンズにおける位相プロファイルと0次回折光の焦点位置における像面強度分布および光軸上の強度分布の各シミュレーション結果。

本発明の実施例7−2としての回折型多焦点レンズにおける位相プロファイルと0次回折光の焦点位置における像面強度分布および光軸上の強度分布の各シミュレーション結果。

本発明の実施例8−1としての回折型多焦点レンズにおける位相プロファイルと0次回折光の焦点位置における像面強度分布および光軸上の強度分布の各シミュレーション結果。

本発明の実施例8−2としての回折型多焦点レンズにおける位相プロファイルと0次回折光の焦点位置における像面強度分布および光軸上の強度分布の各シミュレーション結果。

本発明の実施例9−1としての回折型多焦点レンズにおける位相プロファイルと0次回折光の焦点位置における像面強度分布および光軸上の強度分布の各シミュレーション結果。

本発明の実施例9−2としての回折型多焦点レンズにおける位相プロファイルと0次回折光の焦点位置における像面強度分布および光軸上の強度分布の各シミュレーション結果。

本発明の実施例10としての回折型多焦点レンズにおける位相プロファイルと0次回折光の焦点位置における像面強度分布および光軸上の強度分布の各シミュレーション結果。

図19,27とは更に別の回折型多焦点レンズにおけるc番目のゾーン間隔を変量した場合のE

sinc関数の挙動を表すグラフ。

本発明の実施例11−1としての回折型多焦点レンズにおける位相プロファイルと0次回折光の焦点位置における像面強度分布および光軸上の強度分布の各シミュレーション結果。

本発明の参考例11−1としての回折型多焦点レンズにおける0次回折光の焦点位置における像面強度分布および光軸上の強度分布の各シミュレーション結果。

図19,27,36とは更に別の回折型多焦点レンズにおけるc番目のゾーン間隔を変量した場合のE

sinc関数の挙動を表すグラフ。

本発明の実施例11−2としての回折型多焦点レンズにおける位相プロファイルと0次回折光の焦点位置における像面強度分布および光軸上の強度分布の各シミュレーション結果。

本発明の参考例11−2としての回折型多焦点レンズにおける0次回折光の焦点位置における像面強度分布および光軸上の強度分布の各シミュレーション結果。

本発明の実施例12としての回折型多焦点レンズにおける位相プロファイルと0次回折光の焦点位置における像面強度分布および光軸上の強度分布の各シミュレーション結果。

実施例12および比較例1の各回折型多焦点レンズの試作品における遠方街灯光源の実写写真。

実施例12および比較例1の各回折型多焦点レンズの試作品における蛍光灯のエッジ部の実写写真と光強度解析グラフ(理論計算シミュレーション)。

本発明の詳細な説明に際して、まず、本発明で用いられる計算シミュレーションの方法、条件、出力データを、以下に示す。

はじめに、本発明に係る回折型多焦点レンズは、図2,4に基づいて背景技術で説明したように、同心円状の複数のゾーンを有する回折構造が設けられることにより、光軸上で少なくとも二つの焦点が与えられている。特に、以下に記載の各実施形態と比較例および参考例で対象とされる回折型多焦点レンズは、かかる少なくとも二つの焦点のうちいずれか一つの焦点が0次回折光で与えられている。計算ソフトは、スカラー回折理論と呼ばれる該分野にて知られた理論から導出される回折積分式に基づいて各ゾーンからの振幅分布や強度分布を計算できるものを用いた。かかる計算ソフトを用いて光軸上の強度分布、像面上の強度分布を計算した。計算に際しては、光源は遠方に存在する点光源として設定し、レンズには同位相の平行光が入射するとして計算した。また、物体側空間および像側空間の媒体は真空、レンズは収差が存在しない理想レンズ(レンズから出た光は射出位置に関わらず全て同一の焦点に結像する)として計算した。また計算は、波長=546nm、レンズの0次回折光の屈折力(ベースとなる屈折力)=7D(Diopter)、で行った。

光軸上の強度分布は、レンズを基点とした光軸上の距離に対する強度をプロットした。また、像面強度分布は、像面の動径角度がゼロの方向において像面中心から半径方向の距離に対する強度をプロットした。ちなみにρ=0の地点が主ピークの最大強度位置になっている。振幅関数は、後述の数21で表わされるものを用い、像面強度分布と同様に像面の中心から半径方向の距離に対する振幅値をプロットしたもので示す。

計算対象のレンズ開口範囲は、実施例、比較例および参考例の各表に記載されているゾーン番号までの領域とした。なお、ゾーン番号は、光学部の中心から外周に向かって順次に付した番号を採用した。

また、各実施例と比較例または参考例との対比において特に断りがない限り、像面強度分布の縦軸は、算出される強度の絶対値で表示し、各実施形態とその比較例または参考例との対比においては強度値のスケールは一定とした。

なお、本発明のシミュレーション計算では0次回折光の焦点位置を7(Diopter)( 焦点距離:f=142.8mmに相当) に設定して行っているため、像面座標の横軸の値はかかる焦点位置に限定したものである点に注意する必要がある。異なる焦点距離に変更した場合の像面の位置は、下式数19を用いて換算すればよい。

たとえば焦点距離が16.6mm(眼光学系を一つの理想的なレンズとした場合の焦点距離)の場合の像面位置ρ’は、本実施例における像面位置をρとするとρ’=(16.6/142.8)×ρ=0.116×ρとして換算した値に相当する。

本発明の詳細な説明に際して、最初に比較例1としてブレーズ形状の位相関数を有し、フレネル間隔と等間隔領域からなる回折型多焦点レンズの特性について示す。比較例1のプロファイルを表1及び図8(a)に示す。第1と2ゾーンが、付加屈折力が2(diopter)となるようなフレネル間隔の関係にあり、第3から第6ゾーンまでがゾーン間隔が0.3mmの等間隔のゾーンから構成されたものである。かかる位相プロファイルを有するレンズは図8(e)に示した光軸上の強度分布から分かるように、遠方視用焦点と近方視用焦点、さらにはこれらの中間位置でも焦点を形成する多焦点生成機能を有するため、老視矯正用のコンタクトレンズ、あるいは眼内レンズとして有用なものである。なお、ここでは該ブレーズ形状は0次回折光の焦点位置が遠方視用、+1次回折光が近方視用から中間視用の焦点を形成するように設計されたものである。かかるレンズの遠方視焦点位置での像面強度分布を図8(b、c、d)に示す。なお、図8(c)及び(d)は、サイドバンドの全容を把握するために図8(b)の縦軸のスケールをそれぞれ約11倍、45倍に拡大したものである。以降の同様の図においても特に断りがない限り同倍率で図示することとする。かかる位相プロファイルを有する回折型多焦点レンズでは、遠方視用の主ピークの周りの位置に鋭峻なサイドバンドが一定の間隔で強度を次第に減じながら規則正しく出現することが分かる。かかる規則的なサイドバンドの生成は、比較例1が等間隔領域を含むことによるものである。各サイドバンドは後述の回折理論から導出される関係式中の次数qを用いて主ピークに最も近いものから順次q=1、2、3、・・・と記される。

比較例1のサイドバンドのピーク群の強度は最も大きなq=1のサイドバンドにおいても主ピークの強度に対しておよそ0.8%程度であり、q=5のサイドバンドに至っては0.004%程度の強度比でしかない(理論シミュレーションの結果)。このようにサイドバンドの強度は主ピークの強度と比較すると極めて小さなものである。ここで、比較例1のプロファイルに基づき実際に作製されたコンタレンズを通して夜間、街灯を実写した結果を図9に示す。図9から分かるようにサイドバンドの分布を反映して規則正しい間隔で複数のリングが生成することが分かる。かかる実例から、夜間という背景が暗い環境においては微弱な強度の光でも目立ちやすくなるため、たとえサイドバンドの強度が小さくてもハロとして認識されることが分かるのである。

次にブラードビジョンの特徴を把握するために、図8の像面強度分布を用いて広がりのある光源に対するシミュレーションを行った。具体的には広がりのある光源として一次元の線状光源を設定し、対応する像面上の共役位置に亘って像面強度分布を積算して行った。比較として回折構造を有しない単焦点レンズの結果も同時に表示する。結果を図10に示す。図10(a)、図11(a)は比較例1及び参考例としての単焦点レンズのそれぞれにおける積算結果の全体像で、図10(b)、図11(b)はそれぞれのエッジ部の拡大図を示す。一見すると両者の全体像に大きな差異はないように見えるが、積算された強度分布のエッジ部からシャドー部近傍を拡大すると明確な相違が認められるのである。単焦点レンズでは鋭く切れ落ちたエッジの強度分布を示す一方で、比較例1の回折型多焦点レンズではエッジ近傍のシャドー部においてある種の膨らみのある分布を示す。この膨らみ部はシャドー部へ滲み出た光の強度を表わすもので、これが大きいと光の滲みとして観察され、ブラードビジョンの症状が現れるのである。比較例1に基づき実際に作製されたコンタクトレンズを通して蛍光灯を撮影した実写結果を図10(c)に示す。単焦点のレンズの撮影結果(図11(c))と比較すると単焦点レンズでは積算強度分布の結果の通り縁部にはほとんど光の滲みは発生しておらずシャープなエッジ像を示している。一方、比較例1では前記エッジ部強度の膨らみに相当する光の滲み(Δに相当)が認められ、エッジ部の鮮鋭度が損なわれていることが分かる。このようにブラードビジョンにおいてもサイドバンドが強く影響することが分かる。

かかる比較例1の特性を踏まえ次にハロ、ブラードビジョンの原因となるサイドバンドを低減する具体的な方法について説明する。

今、特定の屈折面を有するレンズに複数の焦点を生成するための回折ゾーンが設定されているとする。遠方視用の焦点がこの回折構造における0次回折光で設定されているとすると、第n番目のゾーンの位相関数がφ(r)とされた時にかかる領域から射出される光が0次焦点像面に形成する振幅関数E(ρ)は、位相関数がレンズの中心に対し対称の形である場合は数20で表わされる。

位相関数がブレーズ形状の線形一次式で表わされる場合、前記数20は数21で表わされる。

数21は、振幅関数がSinc関数を包絡線として周期的に変化するcos関数で表わされることを示している。つまり、Sinc関数が大局的な周期分布を支配して表す一方、cos関数が細部の微小な周期変化を支配して表すものと考えられる。

複数のゾーン間で振幅がどの地点で強め合ったり弱め合うかの位相情報は、Sinc関数の極(正負の領域)とcos関数間の挙動に支配される。

[第1章]cos関数の位相を制御することによるサイドバンドの振幅の低減 Sinc関数の極が同一のゾーン間においては、かかるゾーン間の振幅挙動は両ゾーン間のcos関数の位相情報によって支配される。今、任意のi番目とj番目の二つのゾーンにおいて位相ずれ量τがτ=0で、それぞれのゾーンの振幅関数のうちSinc関数の極が同じであるとした場合、数22で定められる像面上のρe地点で両ゾーンからの光の振幅が強め合う。かかる振幅が強め合った結果としてサイドバンドが生成する。

今、これらゾーンとは異なる他のゾーンをc番目のゾーンとする。c番目のゾーンが前記強め合った振幅地点でかかる振幅を減少せしめる振幅を与えることができればかかる地点でのサイドバンドを低減することができる。

c番目のゾーンと、前記二つのゾーンのうちのどちらか一方のゾーン、たとえばi番目のゾーン間でρe地点における両者の位相関係をcos関数として表わした場合の振幅Ecosは数23で表わされる。

数23は、ゾーンcとiの間のゾーンの位置関係によって両ゾーンからの光の波の干渉作用が変化することを示している。比較例1においてゾーン番号3をc番目、ゾーン番号5、6をi、j番目のゾーンとしてiとjのゾーン間で強め合う振幅が、cとi番目の位置関係によってどのような影響を受けるかを次数ごとに調べたのが図12である。図12はc番目のゾーン位置を固定し、i番目のゾーン位置を移動した時のEcos関数の挙動を示している。具体的にはi番目のゾーンの内径(半径)位置ri-1に対してEcosをプロットしたものである。以降、このようにプロットされた図のことをEcosダイアグラムと呼ぶこととする。図12のEcosダイアグラムにおいてEcosが±1ではゾーンcとゾーンiの振幅は同位相となり最大に強め合うこととなる。一方、Ecosがゼロの地点では振幅は逆位相となり、完全に打ち消し合うことを示している。また、0〜±1の任意の数値においてはかかる数値に対応した位相関係で振幅が干渉し合うことを意味する。

図12から分かるようにi番目のゾーン位置がri-1=1.645に設定されている場合のc番目とi番目のゾーンの振幅はいずれの次数においてもEcos=+1となり、振幅は同位相となり最大限強め合い、この位置ではいずれの次数のサイドバンド強度も増大することを示す。つまりこの位置関係はi番目のゾーンの位置が比較例1の第5ゾーンの位置にそのまま配されている場合であり、よってこの位置にゾーンiを設定すると比較例1の通りのサイドバンド強度となる。また、i番目のゾーン位置がri-1=1.345に設定された場合はq=1、3、5の次数の振幅においてはEcos=−1、q=2、4の次数の振幅においてはEcos=+1となり、符号は逆になるものの同位相の関係となりこの場合も振幅は最大限強め合う。つまり、この場合はi番目のゾーンを第4ゾーンに設定したものに他ならず比較例1においてゾーン数を第1から5までとして構成されたものと同じとなり、この構成ゾーン数に対応するサイドバンド強度が発現することとなる。

一方、Ecosが−1から+1までの任意の値となるようにi番目のゾーン位置を移動させた場合、各次数の振幅の位相関係がどのように変化するかを以下に示す。

i番目のゾーンをri-1=1.495mmに設定するとq=1、3、5の次数の振幅に対してはEcos=0の逆位相となり、これら次数においては振幅が完全に打ち消し合うことを意味している。かかる位相関係を数21の振幅関数の基本式を用いて図示したのが図13である。図中、実線がc番目のゾーンの振幅関数、点線、破線がそれぞれi、j番目のゾーンの振幅関数を表わしている。図13からq=1、3、5のサイドバンド生成地点でc番目のゾーンの振幅が逆位相となっていることが分かる。

また、i番目のゾーン位置をri-1=1.569mmに設定するとq=2の次数の振幅に対してEcos=0の逆位相となり、この次数の振幅に対して完全に打ち消し合う条件となる。また、次数q=1の振幅においてはEcos=0.7、次数q=3、5の振幅においてはEcos=−0.7の位相関係に対応する分だけ振幅が打ち消し合うこととなる。同じく数21の振幅関数の基本式を用いて図示したのが図14である。図14からq=2のサイドバンド生成地点では逆位相となり振幅を完全に打ち消す方向に作用することが分かる。また、q=1、3、5のサイドバンドの生成地点では位相が少しずれていることが分かる。かかるずれ分は僅かであっても打ち消す方向に作用する。このずれ分がEcos=±0.7の位相関係に対応している。

さらに、i番目のゾーン位置をri-1=1.545mmに設定するとq=1、5の次数の振幅においてはEcos=0.5、q=2、4の次数の振幅ではEcos=−0.5となり、この位相関係に対応する分だけ振幅が打ち消し合うこととなる。同じく数21の振幅関数の基本式を用いて図示したのが図15である。図15からq=1、2、4、5のサイドバンドの生成地点では位相がかなりずれており、振幅を打ち消す方向に作用することが分かる。かかるずれ分がEcos=±0.5の位相関係に対応している。

つまり、このEcosダイアグラムに基づきi番目のゾーンの位置と所望の次数の位相関係について予め見通しをつけることができるのである。

かかるEcos関数の挙動は、基本となる回折構造に対してゾーンの位置を再設定することによってサイドバンドを低減できる可能性を与えるものである。なお、これら位相の関係に基づく振幅の打ち消し合う程度は、実際の回折型多焦点レンズではかかる振幅関係に関与しない他のゾーンも存在するため、これらゾーンの影響に応じて異なることがある点に注意すべきである。

以下、具体的な実施例に基づきゾーン位置の再設定によるサイドバンドの発現挙動を示す。なお、Ecos関数の挙動は次数ごとに異なるので、次数に対応したEcos関数の表記として、次数q=1においてはEcos#1、次数q=2においてはEcos#2、・・・のように表記することとする。さらに、次数によっては同じEcos値に対して複数のゾーン位置の設定が可能となる場合がある。たとえば、次数q=3に対してEcos=0となる地点はEcosダイアグラム(図12)の表示範囲内で3箇所存在する。このように複数の地点の設定が可能な場合、位置を特定するため、固定されたゾーン(たとえばc番目のゾーン)に近い順にEcos#31、Ecos#32、Ecos#33と表記することとする(次数q=1に関しては図中表示範囲内では複数の設定位置は存在しないためかかる表記は行わないこととする)。

実施例1−1 比較例1の第3ゾーンをc番目のゾーンとし、第5番目のゾーンをi番目のゾーンとし、第5、6番目のゾーン間隔はそのまま変えず0.3mmとし、数23に基づきEcos#1=0となるri-1地点に5番目のゾーンを再設定した。なお、第6番目のゾーンは第5に隣接しているので第5番目のゾーン位置が定まれば自動的に決定される。前記したようにこの場合のi番目のゾーン位置はri-1=1.495mmである。かかる再設定によって新たに変更された位相プロファイルを表2に示す。また比較例1(図中点線)と対比して図16(a)に示す。

かかる再設定によって第4ゾーンが圧縮され狭くなるが、他に変更はないプロファイルとなる。かかる再設定によって0次回折によって焦点が生成する遠方視用焦点位置の像面強度分布(以降、該焦点位置の像面強度分布を単に「像面強度分布」と称することとする)を図16(b、c、d)に縦軸の縮尺を変えて示す。なお、本実施例を含め以降の実施例群、参考例における遠方視用焦点は特に断りがない限り0次回折光で形成されるように設計されている。

図から前記した事前の見積もり通り、q=2、4の次数のサイドバンドは比較例1と等程度の強度で維持されるものの、q=1、3、5の次数のサイドバンドは比較例1よりも明確に低減していることが分かる。かかる位置の再設定による光軸方向強度分布(図16(e))は近方視用、中間視用及び遠方視用焦点位置に明確にピークが生成し、比較例1よりも各焦点の光の配分がバランスが取れたものとなることが分かる。したがって、かかる再設定によってサイドバンドが低減され、その結果としてハロやブラードビジョンが改善された回折型多焦点眼用レンズを得ることができる。

実施例1−2 比較例1の第3ゾーンをc番目のゾーンとし、第5番目のゾーンをi番目のゾーンとし、第5、6番目のゾーン間隔はそのまま変えずに0.3mmとし、数23に基づきEcos#22=0となるri-1地点にi番目のゾーンを再設定した。前記したようにこの場合のi番目のゾーン位置はri-1=1.569mmである。かかる再設定によって新たに変更された位相プロファイルを表3に示す。また比較例1(図中点線)と対比して図17(a)に示す。かかる再設定によって第4ゾーンは圧縮され少し狭くなるが、他に変更はないプロファイルとなる。

本実施例はEcos#22=0となる地点にi番目のゾーンを再設定したものであり、図17(b、c、d)の像面強度分布から確かにq=2のサイドバンドが比較例1と比較して明確に低減していることが分かる。実施例1−1の再設定条件ではq=2のサイドバンドの低減効果はなかったが、本例では事前見積もり通り低減できていることが分かる。また、q=1、3、5の次数のサイドバンドは実施例1−1ほどの低減効果は認められないものの比較例1と比べると明らかに低減できている。この場合の次数のEcosは約±0.7であるが、かかるEcos値でも十分な低減効果をもたらすことが分かる。なお、q=4の次数のサイドバンドに関しては比較例1のままの強度であるが、これはEcos=−1となるためである。

かかる位置の再設定後の光軸方向強度分布(図17(e))では近方視用、中間視用及び遠方視用焦点位置に明確にピークが生成している。したがってかかる再設定によってサイドバンドが低減され、その結果としてハロやブラードビジョンが改善された回折型多焦点眼用レンズを得ることができる。

実施例1−3 比較例1の第3ゾーンをc番目のゾーンとし、第5番目のゾーンをi番目のゾーンとし、第5、6番目のゾーン間隔はそのまま変えず0.3mmとし、数23に基づきEcos#1=0.5となるri-1地点にi番目のゾーンを再設定した。前記したようにこの場合のi番目のゾーン位置はri-1=1.545mmである。かかる再設定によって新たに変更された位相プロファイルを表4に示す。また比較例1(図中点線)と対比して図18(a)に示す。かかる再設定によって第4ゾーンは圧縮され狭くなるが、他に変更はないプロファイルとなる。

像面強度分布を図18(b、c、d)に示す。本実施例はEcos#1=0.5となる地点にゾーンを再設定したものである。かかるゾーン位置では次数q=1の他にq=2、4、5の振幅に対してもEcos=±0.5となるもので、確かにq=1、2、4、5のサイドバンドが比較例1と比べて明らかに低減していることが分かる。また、光軸上の強度分(図18(e))では近方視用、中間視用及び遠方視用焦点位置に明確にピークが生成している。したがってかかる再設定によってサイドバンドが低減され、その結果としてハロやブラードビジョンが改善された回折型多焦点眼用レンズを得ることができる。

ここで、実施例1−1から1−3においてq=2の次数に着目すると実施例1−1ではEcos#2=−1、実施例1−2ではEcos#2=0、実施例1−3ではEcos#2=−0.5となり、実施例1−1から1−3までの対比においてこのEcos値と対応するようにサイドバンド強度が変化することが分かる。したがって、Ecos関数は振幅制御の目安となることが分かるのである。

上述の実施例1群より、c番目のゾーンとi番目のゾーンの位置関係をEcosダイアグラムから所望の次数の振幅の位相関係を鑑みながら設定することによってサイドバンドを低減することが可能となる。

[第2章]Sinc関数の位相を制御することによるサイドバンドの低減 前章ではゾーン間の設定位置を変えることによってEcos関数の振幅を制御でき、ひいてはサイドバンドの低減が可能であることを示した。一方、ゾーンを通過する光の像面上になす振幅関数はcos関数だけではなくSinc関数の影響も受ける。したがってSinc関数の振幅を制御することによってもサイドバンドを低減させることが可能である。

数21の振幅関数の基本式からSinc関数項を取り出し、前記i番目とj番目のゾーン間で光の振幅が強め合う地点ρeにおいてゾーンcに関わる変数(ゾーン位置及びそれぞれの地点での位相)を代入したものをEsincとすると、かかる関数は数24の通りとなる。

なお、数24はc番目のゾーンの間隔Δrcを用いて数25のように表わされる。

今、位相定数を一定の値とし、i番目とj番目のゾーン位置が定まっている時のc番目のゾーンの間隔Δrcを変量した時のEsincのダイアグラムを図19に示す。

このダイアグラムは、c番目のゾーンの間隔を変数とし、この間隔を変量した時の各次数のEsincの挙動を示したものである。

次数が大きくなるに伴いEsincの周期は短くなり、かつ頂点位置が中心軸に向って移動するという挙動を示す。したがって、次数が大きくなると節位置が増え、正負の極の反転領域の数も増える。

かかるEsincの挙動の中で該関数の節位置に相当する地点においては数21で表される振幅関数の振幅はゼロになることを示す。たとえば、次数q=4のEsincにおいてc番目のゾーンの間隔をΔrc=0.2625mmとした時、かかる間隔は節位置に相当する。c番目のゾーンを該間隔にするということは、このゾーンから像面上になす光の振幅は次数q=4のサイドバンド出現地点でゼロになることを示している。ここでは比較例1において第3番目のゾーン間隔を0.2625mmとし、第4、5、6ゾーンは比較例1と同じ0.3mmとした場合の数21の振幅関数の基本式をプロットしたものが図20(a、b)である。

図20(a)は等間隔領域の第4、5、6のそれぞれのゾーンからの振幅関数(数21)を示す。サイドバンドの出現位置に対応する地点で各ゾーンの振幅が強め合うことが分かる。これに対して第3ゾーンの振幅関数(実線)を加えて表示したものが図20(b)である。図20(b)から次数q=4の地点において第3ゾーンからの振幅は小さくなりほぼゼロに近い振幅となっていることが分かる。また、q=5の地点においても第3ゾーンからの振幅は小さくなる。さらにはq=3の地点においても振幅値は小さくなっていることがわかる。かかる関係は、ここで設定した間隔が、q=4の次数のEsincが節になると同時にq=3、q=5の次数のEsincの節付近にあるためである。この例に限らず別の節位置になるように間隔を変量すれば、その次数のサイドバンド地点での振幅の寄与分を減らすことができる。つまり、かかる間隔の変量によって所望のサイドバンド地点での第3ゾーンからの振幅の寄与分を減らすことが可能となり、結果としてサイドバンドの低減が期待できるのである。かかる例を具体的な実施例にてさらに詳細に説明する。

実施例2 比較例1の第3番目のゾーンをc番目のゾーンとし、第4、5、6番目のゾーンの間隔はそのまま維持し、第3番目ゾーンの間隔を次数q=4の振幅の節位置となるように0.2625mmとした。

なお、節位置は無数に存在するため、ここではEsincの頂点から近い地点の節を番号1とし、各次数の節番号を次のように表示し、次数の振幅関数とその節位置を特定することとする。

次数4の振幅に対して頂点から一番近い節を1番とした場合、ここでは第3番目の節となるので、N[4_3]と表記することとする。

かかる間隔の再設定によって新たに変更されたプロファイルを比較例1(図中点線)とともに図21(a)及び表5に示す。図から第3ゾーンが少し狭くなった他は比較例1と変更はないプロファイルとなっている。この時の像面強度分布(図21(b、c、d))において、次数q=1は比較例1とほぼ同じであるが、他の次数のサイドバンドの強度は程度の違いはあれ減少していることが分かる。特にq=4及び5のサイドバンドの低減は顕著であり、q=3のサイドバンドも明確に低減していることが分かる。これらサイドバンド群の減少は、前記したようにEsinc関数の節位置に相当する地点では振幅増強の寄与は少なくなることに基づく。また、光軸上の強度分布(図21(e))では近方視用、中間視用及び遠方視用焦点位置に明確にピークが生成している。したがってかかる間隔の再設定によってサイドバンドが低減され、その結果としてハロやブラードビジョンが改善された回折型多焦点眼用レンズを得ることができる。

本実施例から分かるようにゾーンの間隔を変量してEsinc関数を制御することによってもサイドバンドを低減できることが分かるのである。

[第3章]cos関数とSinc関数の両項の位相を制御することによるサイドバンドの低減 前記第1章及び第2章では、振幅関数を構成するcos関数項及びSinc関数項のそれぞれの項に着目してゾーンの位置または間隔を変量することによってサイドバンドを低減できることを示した。

前述の比較例1のように等間隔領域を含む回折構造において等間隔の関係にあるゾーンが隣接している場合、あるいは等間隔領域が互いの間隔を等しくするゾーン以外に、異なる間隔ΔLをはさんだ周期的な構造を有している場合、数22、数23、数24は等間隔ゾーンの間隔Δr、異なる間隔ΔL、及びc番目のゾーンの間隔Δrcを用いてそれぞれ数26、数27、数28のように表わされる。

今、等間隔ゾーンが隣接する場合、つまりΔL=0とすると、数26は、サイドバンドの出現位置ρeが等間隔領域の間隔Δrにのみ依存し、等間隔領域の設定位置に依存しないことを示している。

また、数27は、Ecosが等間隔領域の間隔Δrと、c番目のゾーンとi番目の位置関係にのみ依存することを示している。

さらに、数28は、Esincが位相定数hが一定の条件下ではc番のゾーンの間隔Δrcと等間隔領域の間隔Δrにのみ依存することを示している。

かかる数式の特性は、等間隔領域を含む回折構造においては、所望のEsincとなるc番目のゾーン間隔と、所望のEcosとなるc番目とi番目のゾーン位置をそれぞれ独立して設定できることを示している。すなわち、所望のEsincとなるようにΔrcを定めた後に、所望のEcosとなるようにcとi番目のゾーン位置を設定することができるのである。 たとえば実施例1ではc番目のゾーン間隔をΔrc=0.3mmとして位置の再設定を行ったが、この間隔を他のEsincの位置、たとえば前記実施例2で示したような節位置になるように設定変更したとしても実施例1で示したと同じEcos値となるように数27に基づきcとi番目のゾーン位置を設定することが可能となる。つまり、実施例1−1、1−2、1−3で示したEcosを制御する構成と、実施例2で示したEsincを制御する構成との併用が可能となり、かかる両方の構成の相乗効果によってさらなるサイドバンドの低減が可能となる。

たとえば実施例1−1では次数q=2、4のサイドバンドに関しては十分に低減できていなかった。そこで、かかるEsincによる低減との併用でさらなるサイドバンドが低減できる具体的な例について以下に示す。

実施例3−1 比較例1において第3番目のゾーンをc番目のゾーンとし、等間隔領域のゾーンの間隔を同じく0.3mmとし、第5番目のゾーンをi番目のゾーンとした。今、c番目のゾーンとした第3番目のゾーンの間隔をEsincダイアグラム上でN[4_3]の節位置に相当する間隔であるΔrc=0.2625mmに設定した。そしてかかる間隔で定められるc番目のゾーン位置に対して数27のEcos関係式にてEcos#1=0となるri-1地点に5番目のゾーンを再設定した。なお、以降の実施例において等間隔ゾーンが隣接している場合は数27、28においてΔL=0として計算するものとする。

かかる間隔と位置の再設定によって新たに変更されたプロファイルを図22(a)及び表6に示す。本実施例は、実施例1−1において行った位置の再設定に加えてEsincに基づく間隔の再設定を併用した例となっている。

プロファイル図より第3ゾーンがEsincダイアグラムに基づき変量され、幾分間隔が狭くなっている。また、第5ゾーンの位置の再設定によって該ゾーンが内側へ移動した分、第4ゾーンの間隔も狭くなっている。それ以外の変更はなかった。

かかるプロファイルの像面強度分布を図22(b、c、d)に示す。実施例1−1と同様にq=1、3、5のサイドバンドは低減されている。さらに実施例1−1では低減できなかったq=4のサイドバンドに関しても明確に強度が減少していることが分かる。また、q=2のサイドバンドに関しても実施例1−1よりも3割弱ピーク強度が低下していることが分かる。比較例1から比較するとすべてのサイドバンドが低減できていることが分かる。また、本実施例の光軸上の強度分布は図22(e)に示すように近方視、中間視、遠方視用の焦点位置に明確にピークが形成されている。したがってかかる方法によって、サイドバンドが低減できその結果としてブラードビジョン及びハロの症状が大幅に改善され、かつ近方、中間、遠方においてもバランスがとれた光の配分を達成できる多焦点眼用レンズが得られるのである。

実施例3−2 同じくEsincとEcosの両関数に基づく間隔と位置の再設定を行った例について示す。比較例1における第3番目のゾーンをc番目のゾーンとし、等間隔領域のゾーンの間隔を同じく0.3mmとし、第5番目のゾーンをi番目のゾーンとした。第3番目のゾーンの間隔Δrcを実施例3−1と同様にEsincダイアグラム上でN[4_3]の節位置になるように設定した(Δrc=0.2625mm)。次にかかる間隔で定められるc番目のゾーン位置に対して数27のEcos関係式にてEcos#22=0となるri-1地点に5番目のゾーンを再設定した。かかる間隔と位置の再設定によって新たに変更されたプロファイルを図23(a)及び表7に示す。本実施例は、実施例1−2において行った位置の再設定に加えてEsincに基づく間隔の再設定を併用した例となっている。

プロファイル図より第3ゾーンがEsincダイアグラムに基づき変量され、幾分間隔が狭くなり、また第5ゾーンの位置の再設定によって第5ゾーンが内側へ移動した分、第4ゾーンの間隔が狭くなっている。それ以外の変更はなかった。

かかるプロファイルの像面強度分布を図23(b、c、d)に示す。Ecos関係式にてEcos#22=0に設定したためq=2のサイドバンドは明らかに低減されている。また、q=1、5は実施例1−2とほぼ同程度まで低減できている。本実施例では実施例1−2では低減できなかったq=4のサイドバンドが明確に低減されていることが特徴である。これは、c番目ゾーンとした第3番目のゾーンの間隔をEsincがN[4_3]の節位置となるように、つまりq=4の次数の振幅に対してこれを増強させないように間隔を設定した効果が顕れたためである。また、q=3のサイドバンドもさらに減少しているが、これはN[4_3]の節位置がq=3の節位置に近いため、かかるサイドバンドにも少なからずの低減効果をもたらしているためである。

このプロファイルの光軸上の強度分布は図23(e)の通りで、近方視用、中間視用、さらに遠方視用の焦点位置に明確なピークが形成されている。したがって本実施例に基づく回折レンズは、サイドバンドの低減によるブラードビジョンやハロの症状が改善された回折型多焦点眼用レンズとして有用なものとなるのである。

実施例3−3 引き続きEsincとEcosの両関数に基づく間隔と位置の再設定を行った例について示す。比較例1における第3番目のゾーンをc番目のゾーンとし、等間隔領域のゾーンの間隔を同じく0.3mmとし、第5、6番目のゾーンをi、j番目のゾーンとした。第3番目のゾーンの間隔をEsincダイアグラム上でN[4_2]の節位置となるΔrc=0.1875mmとした。次にかかる間隔で定められるc番目のゾーン位置に対して数27のEcos関係式にてEcos#1=0.5となるri-1地点に5番目のゾーンを再設定した。かかる間隔と位置の再設定によって新たに変更されたプロファイルを図24(a)及び表8に示す。

プロファイル図より第3ゾーンがEsincダイアグラムに基づき変量され、間隔が狭くなり、また第5ゾーンの位置が再設定によって移動した分、第4ゾーンの間隔も少し狭くなっている。それ以外の変更はなかった。

かかるプロファイルの像面強度分布を図24(b、c、d)に示す。本実施例は、位置の再設定の条件は実施例1−3同じで、加えてN[4_2]の節位置となるように第3ゾーンの間隔を変量したものである。したがってq=4の次数のサイドバンド強度が実施例1−3よりもさらに減少している。またq=3の次数のサイドバンドが明確に減少している。光軸上の強度分布(図24(e))は近方視、中間視、遠方視用の各焦点位置で明確なピークが生成しており、サイドバンドが低減され、その結果としてハロやブラードビジョンが改善された多焦点眼用レンズを得ることができるのである。

本実施例で着目すべきはq=3の次数のサイドバンドが低減していることである。

Ecos#1=0.5の条件下ではq=3の振幅はEcos=−1となり、比較例1と変わらず低減されないはずである。しかし、本実施例はかかるEcos条件で設定され、また、Esincにおいても節位置に相当しない間隔で設定されているにも関わらず該次数のサイドバンドは減少している。これは、以下のように説明される。本実施例のEcos条件はq=3の振幅が最大限強め合う条件であるが、これは第3ゾーンの間隔がΔrc=0.3mmの場合において当てはまることである。 Δrc=0.3mmはq=3のEsincダイアグラム上において極が正の腹の部分にあたる。一方、本実施例のcゾーンの間隔(Δrc=0.1875mm)はq=3のEsincダイアグラムに対しては極が負の領域にある。つまり、本実施例のcゾーンの間隔は間隔を変量する前のものに対してq=3のEsincの極の符号が正反対になるような間隔になっているのである。つまり、実施例1−3におけるq=3の振幅が最大限強め合うEcos条件は、新たに変量された間隔においては振幅を最大限弱め合うように作用することを意味している。これは数21の振幅関数の基本式がcos関数とSinc関数の積であることから容易に理解される。

実施例3−3の例から分かるようにEsincにおいてc番目のゾーンの間隔が節位置になくても極の符号が逆になる間隔を設定することによってサイドバンド振幅を打ち消すことも可能となるのである。つまり、Esincの位置は節に限定されることなく、極値などの他の位置で設定してもよく、その結果、設計の自由度がさらに増すのである。

実施例4 前実施例においてEsincの極の符号が逆になって振幅が打ち消し合う例を示した。本実施例では同じく極の反転によるサイドバンドの低減例を示す。

比較例1における第3番目のゾーンをc番目のゾーンとし、等間隔領域のゾーンの間隔を同じく0.3mmとし、第5、6番目のゾーンをi、j番目のゾーンとした。第3番目のゾーンの間隔をEsincダイアグラム上でq=4の次数のEsincにおいて頂点位置を除く極値のうち第2番目の極値位置になるように設定した。この時の間隔はΔrc=0.222mmである。なお、極値も無数に存在するため、以降、E[次数_極値番号]のように表記し次数と極値を特定することとする。本実施例では極値はE[4_2]と表記される。かかる間隔で設定された第3ゾーンに対して数27のEcos関係式からEcos#1=0となるri-1地点を算出し、5番目のゾーンをこの地点に再設定した。かかる間隔と位置の再設定によって新たに変更されたプロファイルを図25(a)及び表9に示す。

実施例3群と同様に第3、4ゾーンの間隔が少し狭くなった以外他に変更はない。

本プロファイルの像面強度分布を図25(b、c、d、)に示す。本実施例は実施例1−1に対して間隔の再設定を併用したものとなっている。したがってq=1、5のサイドバンドが低減されていることは前記実施例1−1で説明した通りである。また、q=4のサイドバンドが明確に低減している。本実施例では第3番目のゾーン間隔を、q=4のEsincにおいて極値位置に設定しており、かつ実施例1−1の時とは極の符号が反対の極値となっている。したがって実施例1−1ではq=4は強め合う条件であったのがここでは逆に弱め合うための条件設定とされ、その結果q=4のサイドバンドが減少したのである。またq=2のサイドバンドも低減されているが、かかる間隔設定条件はq=2のEsincの節付近にあるため、実施例1−1の強め合う条件がq=2において緩和する方向に作用しているのである。一方、q=3が実施例1−1よりも大きくなっている。q=3のEsincにおいても極の符号の反転が生じ、この場合はq=2、4とは逆に振幅を強める方向に作用したためである。本実施例ではq=3のサイドバンド強度が若干増加するもののその他のサイドバンドは低減されており、比較例1と比べると全体的にサイドバンドは低減されている。また、光軸上の強度分布(図25(e))は近方視用、中間視用、遠方視用の各焦点位置において明確なピークが生成している。したがって本実施例に基づく回折レンズはハロやブラードビジョンが改善された回折型多焦点眼用レンズとして有用なものであることが分かる。

ここまでの実施例は位相定数を全てh=0.5の一定条件としたものであった。 回折型多焦点眼用レンズの設計に際して各焦点位置への光の配分割合を変量することは度々ある。次に位置と間隔の再設定を行いつつ位相定数を変量して光の配分割合を変更した例について示す。

実施例5 実施例4において近方視用の焦点位置への光の配分量を増やすべく第3ゾーンの位相定数をh=0.8へと変量した。かかる位相定数の変量によるプロファイルは図26(a)及び表10に示す通りである。h=0.8へと変量することによって第3ゾーンのブレーズ段差が大きくなっていることが分かる。かかるプロファイルの光軸上の強度分布を図26(e)に示す。これより第3ゾーンの位相定数をh=0.8と大きくしたことによって+1次回折光のエネルギー配分量が増えその結果、近方視用の焦点ピークの強度が増大していることが分かる。一方、像面強度分布(図26(b、c、d))を見ると、q=2の次数のサイドバンドが僅かに大きくなるものの他の次数のサイドバンドは実施例4とほぼ同じ強度分布となっている。

つまり、本実施例5では、位相定数の変量によって近方視用の焦点位置に光の配分量を増量しても、実施例4とほぼ同じサイドバンドの低減効果を発現できていることが分かる。

実施例6 数28のEsinc関数は、間隔を変数とすると伴に位相定数も変数としている((φc−φc-1)は位相定数hで表わされるため)。

これまでの実施例は位相定数がh=0.5の一定条件であったため、専ら間隔のみを変量してEsinc関数の挙動に基づく結像特性を調べてきた。しかし、実施例5のように位相定数が変量された時はそれに伴い間隔も再々設定することにより効果が出る場合がある。

本実施例は、位相定数hをh=0.8とした実施例5に対してさらに間隔の最適化を図った事例である。

前記図19のEsincダイアグラムは位相定数がh=0.5の時の限定的なものである。c番目のゾーンの位相定数をh=0.8とした場合のEsincダイアグラムを図27に示す。位相定数を変量するとEsinc関数の周期が変化し、ダイアグラムが異なってくることが分かる。

実施例5は、実施例4において第3ゾーンの位相定数をh=0.8と変量したものであるが、h=0.5のEsincダイアグラム上で極値E[4_2]となるようにΔrc=0.222で設定されたものであり、この状態で位相定数を変量したものである。しかし、h=0.8とした新たに編纂されたEsincダイアグラムでは、かかるΔrc値は極値E[4_2]とは異なる位置にずれる。実施例5は実施例4と比較してq=2の次数のサイドバンド強度が僅かに増大したが、これは極値がずれた状態でプロファイルを決定したことが影響している。したがってh=0.8で変更された新たなEsincダイアグラム上で実施例4と同じ極値に相当する位置を求めるとΔrc=0.244mmとなる。そこで本実施例では第3ゾーンの間隔を0.244mmと再々設定した上で位相定数をh=0.8に変更した。かかる再々設定されたc番目のゾーンに対して数27のEcos関係式からEcos#1=0となるri-1地点に5番目のゾーンを設定した。かかるプロファイルを図28(a)及び表11に示す。比較として実施例5を同時に示した。プロファイルは図28(a)に示すように実施例5とあまり異ならない。光軸上の強度分布(図28(e))においては近方視用焦点位置のピーク強度の増分は実施例5と同じで位相定数をh=0.8とした効果は維持されている。一方、像面強度分布(図28(b、c、d))では、q=2のサイドバンドが減少し、また、q=3のサイドバンド強度も低減していることが分かる。つまり、h=0.5の時に再設定された間隔Δrc=0.222よりもh=0.8でΔrc=0.244mmとして当初の設定通りの極値になるように設定した時の方がよりサイドバンドの低減効果があることが分かる。つまり、特定の位相定数において最適化された間隔においても、位相定数が変量された場合にはかかる新たな位相定数におけるEsincダイアグラムにて間隔を再々設定するとより一層のサイドバンドの低減効果を得ることができるのである。

実施例7群 (c番目の対象ゾーンを他のゾーンに変更した場合) 実施例7−1 ここまでの実施例では比較例1における第3ゾーンをc番目のゾーンとしたものであった。本実施例は比較例1の第4ゾーンをc番目のゾーンとし、第6番目のゾーンをi番目のゾーンとして、第4番目のゾーンの間隔ΔrcをEsincダイアグラム上でN[4_3]の節位置になるように設定した(Δrc=0.2625mm)。次にかかる間隔で定められる4番目のゾーン位置に対して数27のEcos関係式にてEcos#1=0となるri-1地点に6番目のゾーンを再設定した。かかる間隔と位置の再設定によって新たに変更されたプロファイルを図29(a)及び表12に示す。本実施例のプロファイルは第1から3ゾーンまでは比較例1と同じであるが、第4ゾーンの間隔が少し狭くなり、かつ第6ゾーンの位置の再設定により元の位置から少し内側にずれた分、第5ゾーンの間隔も狭くなっている。本実施例のプロファイルでは第3と第6ゾーンが等間隔ゾーンとなったものである。

図29(b、c、d)に本実施例の像面強度分布を示す。比較例1と比べて各次数のサイドバンドは明らかに減少していることが分かる。また、第3ゾーンをc番目のゾーンとして本実施例と同様の条件で間隔と位置の再設定を行った実施例3−1と比較すると、実施例3−1より次数q=3付近のピーク強度がさらに低下していることが分かる。また、光軸上の強度分布(図29(e))では近方視、中間視、遠方視用の焦点位置にピークがそれぞれ生成されている。したがって本実施例に基づく回折レンズは、サイドバンドが低減され、その結果としてハロやブラードビジョンが改善された回折型多焦点眼用レンズとして有用なものであることが分かる。

実施例7−2 本実施例は比較例1の第5ゾーンをc番目のゾーンとし、第3番目のゾーンをi番目のゾーンとして、第5番目のゾーンの間隔ΔrcをEsincダイアグラム上でN[4_3]の節位置になるように設定した(Δrc=0.2625mm)。次にi番目のゾーンとなる第3ゾーンの位置は固定したまま、c番目のゾーンである第5ゾーンの位置を数27のEcos関係式からEcos#1=0となるように再設定した。かかる再設定によって得られる本実施例のプロファイルを図30(a)及び表13に示す。本実施例も実施例6−1と同様に第1から3ゾーンまでは比較例1と同じであるが、第5ゾーンをc番目のゾーンとし、間隔を変量した分、間隔が狭くなっている。また、i番目のゾーンを第3ゾーンとしているが、本実施例では第3ゾーンは固定されている関係上、数27で位置が再設定されるゾーンはここでは第5ゾーンとし、Ecos#1=0となるように位置が移動されている。したがって、実施例7−1と比較すると、第4と5番目のゾーン間隔が入れ替わったものとなっている。

本実施例の像面強度分布(図30(b、c、d、))は、比較例1と比べると各次数のサイドバンドの強度は低下しており、実施例7−1とほぼ同程度の低減効果を発現していることが分かる。

一方、光軸上の強度分布(図30(e))においては実施例7−1と比較すると中間視用焦点位置のピーク強度が増加しており、かかる多焦点眼用レンズでは中間領域の見え方が大きく改善されたものとして有用である。

これまでの実施例においてはc番目のゾーンで間隔を再設定し、設定されたc番目のゾーンに対してi番目のゾーンを移動させ位置を定めていたが、本実施例ではi番目のゾーンに対してc番目の位置を移動して設定した形態になっている。かかる設定も本発明では有効に機能する。数27はc、i番目のゾーンの位置関係を示すものであり、どちらのゾーンを優先的に決定しなければならないという制約はないため、かかる事例の設定方法も可能となるのである。

なお、実施例3−1、7−1、7−2はc番目のゾーンを第3、4、5と変更した事例となっている。これら実施例のEcos、Esincの条件設定は全て同じであるが、c番目のゾーンが異なっただけである。結果として像面の強度分布はほぼ同じ分布となるが、光軸上の強度分布は異なったものとなっている。光軸上の強度分布において遠方視用のピーク強度はいずれの例においてもほぼ同じで変わらないが、近方視用及び中間視用のピーク強度が対象ゾーンを変更することによってダイナミックに変化することが分かる。この特性は、c番目の対象ゾーンを変更するだけで目的とするサイドバンドの低減を実現しつつ、近方視用、中間視用、それぞれのピーク強度を任意に変量できることを意味している。一般に各焦点位置への光の配分量の変更は位相定数hを変量することで可能となるが、それに依らずにゾーンを変更するだけでサイドバンドを低減しつつ各焦点位置への光の配分量を変量することが可能となり、設計の自由度が増すのである。これによって、多様なニーズに適応した回折型多焦点眼用レンズの提供が可能となるのである。

実施例8群 (周辺にc番目ゾーンを設定した場合) 実施例8−1 本実施例は、比較例1のプロファイルに対して周辺にc番目のゾーンを設定し、c番目のゾーンの間隔をEsincダイアグラム上で次数q=5の第2番目の極値、E[5_2]となるようにΔrc=0.1775mmに設定し、第6番目のゾーンに対してEcos#1=0となる位置にc番目のゾーンを追加したものである。ここでは第6とc番目のゾーン間の屈折領域(位相定数h=0の領域)を第7番目とし、c番目のゾーンを第8番目として番号付してある。

かかるプロファイルを図31(a)及び表14に示す。第1から6番目は比較例1と同じであるが、周辺に屈折領域を介してc番目のゾーンが配されたプロファイルとなっている。かかるプロファイルの像面強度分布を図31(b、c、d、)に示す。比較例1と比べて、次数q=1、2、5のサイドバンドが低減されていることが分かる。本実施例はこれまでの実施例とは異なり、対象となる比較例1のプロファイルはそのまま変更はせずに周辺にc番目のゾーンを配し、かかるゾーンの間隔と位置を再設定したものである。本実施例から分かるようにc番目のゾーンを周辺に設け、所望の間隔と位置の再設定を行ってもこれまでと同様のサイドバンドの低減が実現できるのである。

実施例8−2 本実施例も実施例8−1と同様に比較例1のプロファイルの周辺にc番目のゾーンを、屈折領域を介して追加したもので、c番目のゾーンの間隔を比較例1の等間隔領域のゾーンの間隔と同じΔrc=0.3mmとし、c番目のゾーン位置を数27に基づきEcos#1=−0.9となるように設定したものである。本実施例も屈折領域を第7番目、そしてc番目のゾーンを第8番目のゾーンとして番号付してある。かかるプロファイルを図32(a)及び表15に示す。c番目のゾーンの間隔をΔrc=0.3mmとして計算された時のc番目の位置は第6ゾーンにかなり近接し、その分屈折領域の間隔がかなり狭くなったプロファイルとなる。本実施例の像面強度分布を図32(b、c、d、)に示す。

本実施例ではq=1と2のサイドバンドは比較例1より若干強度が大きくなるが、像面周辺のq=3、4においては明確に強度が減少している。かかる周辺のサイドバンドは夜間のハロの広がりを招くおそれがあることから、かかる周辺のサイドバンドが低減された本例は夜間ハロの広がりが低減された回折型多焦点眼用レンズとして有用なものとなる。

実施例9群 (間隔と位置が再設定されたプロファイルに対して、別の新たな再設定ゾーンを周辺に設定する例(複数の再設定ゾーンの設定例ともなる)) 実施例9−1 実施例1−1のプロファイルに対して周辺にc番目のゾーンを、屈折領域を介して新たに追加した。実施例1−1ではq=1、3、5のサイドバンドが低減された例として示されたものであるが、まだq=2、4のサイドバンドは低減されていなかった。そこで、実施例1−1の周辺に、q=2のサイドバンドが低減されるように新たなゾーンを追加したものである。周辺に新たに追加したc番目のゾーンの間隔を、Esincダイアグラム上で次数q=4の第3番目の節、N[4_3]になるようにΔrc=0.2625mmとし、かつc番目の位置を数27に基づきEcos#22=0となるように設定したものである。

かかるプロファイルを図33(a)及び表16に示す。実施例1−1の周辺に屈折領域を介してc番目のゾーンが追加されていることが分かる。かかるプロファイルの像面強度分布を図33(b、c、d)に示す。q=1、3、4、5のサイドバンドの強度は実施例1−1と変わりないが、q=2のサイドバンドが約2割低減されていることが分かる。本実施例で追加したc番目のゾーンはq=2のEcosがちょうどゼロになるように位置が設定されたものであり、かかる設定によって確かにq=2のサイドバンドが減少していることが分かる。本実施例から分かるように、最初にゾーンの間隔と位置を再設定したものにおいてサイドバンド低減が実現できなかったとしても他に再設定ゾーンを設けることによって残りのサイドバンドを低減することも可能なのである。

実施例9−2 実施例3−1のプロファイルに対して周辺にc番目のゾーンを、屈折領域を介して新たに追加した事例である。実施例3−1は各次数のサイドバンドが低減されているが、q=2の次数のサイドバンドがまだ少し大きいのでかかるサイドバンド強度をさらに低減させるために新たにc番目のゾーンを周辺に追加して低減を試みた例である。周辺に新たに追加したc番目のゾーンの間隔を、Esincダイアグラム上で次数q=4の第3番目の節、N[4_3] となるようにΔrc =0.2625mmとし、かつc番目の位置を数27に基づきEcos #22 =0となるように設定したものである。かかるプロファイルを図34(a)及び表17に示す。実施例3−1の周辺にc番目のゾーンが屈折領域を介して設定されているのが分かる。かかるプロフィルの像面強度分布を図34(b、c、d)に示す。図から分かるようにq=2のサイドバンド強度が実施例3−1よりもさらに低減されていることが分かる。

また、かかる周辺へのゾーンの追加によっても実施例3−1で実現していた近方視、中間視、遠方視用の各焦点位置におけるピーク形成能は阻害されておらず、それぞれの焦点位置で明確なピークが形成されていることが分かる。本実施例に基づく回折レンズはサイドバンドが全域に亘って低減され、その結果としてハロが極めて少なく、またブラードビジョンも改善された回折型多焦点眼用レンズとして有用なものであることが分かる。

以上の実施例9−1、9−2に示されるように一回再設定したものに対してさらに再設定ゾーンを追加してサイドバンドの低減効果を高めることも本発明では有用な方法となるのである。

実施例10 (周辺部のi、jゾーンを固定し、内側のc番目ゾーンの間隔と位置を再設定する例) これまでの実施例において回折構造の内側にc番目、その外側のゾーンをi、j番目とした例においては内側のフレネル間隔は常に固定された状態であった。ここでは実施例3−1で再設定した方法とは異なり、まず周辺のゾーンを固定し、数27のEcos関係式、数28のEsinc関係式に基づきc番目のゾーンを設定し、かつ内側のフレネル間隔が、設計通りの付加屈折力が維持されるように再設定されたものの事例を示す。

実施例3−1と対比する上で周辺の第5、6番目のゾーンの間隔は同じく0.3mmの等間隔領域とするが、第6番目のゾーンの外径を1.9mmで固定した。かかる設定位置における第5番目のゾーンをi番目のゾーンとし、第3番目のゾーンをc番目のゾーンとした。c番目のゾーンの間隔を実施例3−1と同じEsincダイアグラム上で次数q=4の第3番目の節、N[4_3]とし、Δrc=0.2625mmとした。さらにc番目とi番目のゾーン間のEcosも実施例3−1と同じくEcos#1=0となるようにc番目の位置を再設定した。かかるc番目のゾーンの内径は第2ゾーンの外径となるため、フレネル間隔としての第2ゾーンがかかる外径となるように、また、付加屈折力が設計値の2diopterとなるように数8を用いて中央第1ゾーンの外径を定めフレネル間隔を設定した。

かかる間隔と位置の設定に基づき設計されたプロファイルを実施例3−1と対比して図35(a)及び表18に示す。本実施例では第6番目のゾーン半径が1.9mmとされ、実施例3−1よりも小さく設定されており、それに基づいてc番目の第3ゾーン及びフレネル間隔の第1、2ゾーンが再設定されたものであり、その分実施例3−1よりも各ゾーンが内側へ間隔を幾分狭くして移動されていることが分かる。

かかるプロファイルの像面強度分布を図35(b、c、d)に示す。各サイドバンドは実施例3−1とほぼ同じ傾向で低減されている。加えてq=2、3のサイドバンドがさらに低減されていることが分かる。また光軸上の強度分布(図35(e))より、近方視、中間視、遠方視用の各焦点位置に明確なピークが形成されており、回折型多焦点眼用レンズとして有用なものであることが分かる。

かかる例は、等間隔領域を含む回折構造においては位置の再設定に際してc番目、i番目の位置はどちらから先に決定しても構わないこと、またc番目の間隔はi番目のゾーンの位置に依らず任意に設定することができるというEcosおよびEsinc関数の特性に基づき実現されたものである。また、任意の第1ゾーン径に対してフレネル間隔を設定できるという数8の特性も本実施例の設計において重要な要素となっている。本実施例の設計方法は、レンズの回折ゾーンの外径設定に制約がある場合、たとえば瞳孔径が加齢と伴に小さくなった高齢者へ適用する眼用レンズ、たとえばコンタクトレンズや眼内レンズなどの回折型多焦点眼用レンズを設計する上で有用な方法となるのである。

実施例11群 (等間隔領域のゾーン間隔を他の値に設定した場合) 実施例11−1 (等間隔領域のゾーン間隔を0.35mmとした場合) 実施例3−1において等間隔領域のゾーン間隔が0.3mmとされていたものを本実施例では0.35mmとした場合に間隔と位置の再設定を実施したものの例である。第1、2ゾーンが、付加屈折力が2diopterとなるフレネル間隔で定められ、それに隣接する第3番目のゾーンをc番目のゾーンとし、かかるc番目のゾーンの間隔をEsincダイアグラム上で次数q=4の第3番目の節、N[4_3]となるようにΔrc=0.3062mmとした。そして、i、j番目の等間隔領域の位置を、かかるc番目のゾーンに対してEcos#1=0となるように設定した。本実施例のEsinc位置は実施例3−1と同じEsincの節位置としているが、間隔Δrcは異なってくる。これは等間隔領域のゾーン間隔が変わるとEcosダイアグラム、Esincダイアグラムも新たなゾーン間隔に対応したものに変更されるためである。図36に等間隔領域のゾーン間隔を0.35mmとした場合のEsincダイアグラムを示す。等間隔領域のゾーン間隔を0.35mmとした場合のEsincの節位置、N[4_3]は新たに変更されたEsincダイアグラム上ではΔrc=0.3062mmとなり、実施例3−1のc番目のゾーン間隔よりも間隔が大きくなる。また、Ecos#1=0となるi番目ゾーンの位置の計算条件も異なってくるため、本実施例のプロファイルは等間隔領域のゾーン間隔の変更とこれらいくつかの変更によって実施例3−1と比較すると全体的に外側へ移動したものとなる。

本実施例のプロファイルを参考例11−1と対比して図37(a)(実線)及び表19に示す。なお、参考例11−1(表20及び図37(a)中点線)は、比較例1と同様に第1、2ゾーンが、付加屈折力が2diopterのフレネル間隔である点は同じであるが、第3、4、5、6ゾーンの等間隔領域の間隔が0.35mmに変更されたものとなっている。

本実施例の像面強度分布を図37(b、c、d)に示す。なお参考例11−1の像面強度分布は図38(b、c、d)に示す。まずかかる再設定を行っていない参考例11−1においてはq=1、2、3、・・・とサイドバンドが比較例1と同様に生成する。なお、参考例11−1では等間隔が0.35mmと異なっているため、出現するサイドバンドの位置が全体的に像面中心に移動する。一方、実施例11−1では、図37(b、c、d)に示すように、各次数のサイドバンドは明確に強度が減少しており、間隔と位置の再設定が奏功していることが分かる。また、光軸上の強度分布では、参考例11−1(図38(e))は近方視用の焦点位置のピークが他のピークに比して小さく、近方視が十分に機能しないおそれがあるのに対して実施例11−1(図37(e))では近方視、中間視、遠方視とも各焦点位置のピークは明確に生成しており、いずれの焦点位置でも十分な見え方を与えることが期待されるのである。

実施例11−2 本実施例は、等間隔領域のゾーン間隔をこれまでの実施例群よりも小さくし0.15mmとし、またフレネル間隔の構成ゾーン数を第1〜3までと増やし、さらにフレネル間隔の付加屈折力を4(diopter)としたものに対して間隔と位置の再設定を実施したものの例である。なお、間隔と位置の再設定がなされていないもの、すなわち、第4〜7ゾーンが、ゾーン間隔が0.15mmとされた等間隔領域からなるものを参考例11−2とした。なお、本例も参考例11−1と同様に等間隔領域のゾーン間隔が変更されたため、かかるゾーン間隔に対応した新たなEsincダイアグラム(図39)及び新たなEcosの計算条件に基づき間隔と位置が再設定されることとなる。

まず、参考例11−2において第4ゾーンをc番目のゾーンとしてその間隔を、図39のEsincダイアグラム上で次数q=2の第1番目の節、N[2_1]になるようにΔrc=0.1125mmとした。そしてi、j番目のゾーンを第6、7番目のゾーンとし、i番目のゾーンを等間隔ゾーンの間隔が0.15mmとされた場合のEcosの計算条件に基づきEcos#1=0となる位置に再設定した。かかる再設定後の実施例11−2のプロファイルを参考例11−2とともに図40(a)及び表21に示す。参考例11−2のプロファイルは表22及び図40(a)中点線で示されている。第4番目のゾーン間隔は再設定によって少し狭くなり、また位置の再設定により第6、7番目のゾーンが少し内側へ移動したプロファイルとなっていることが分かる。実施例11−2の像面強度分布を図40(b、c、d)に、参考例11−2の像面強度分布を図41(b、c、d)にそれぞれ示す。まず参考例11−2においては等間隔領域に基づくサイドバンドが規則的に生成しており、これまでの等間隔領域のゾーン間隔が0.3mm、0.35mmのものと比較して像面中心から周辺へ遠ざかった位置に出現している。かかるサイドバンドの分布では夜間において広がりのあるハロとして視認される可能性がある。一方、実施例11−2では各次数のサイドバンドが明確に減少していることが分かる。また、光軸上の強度分布(図40(e))においては参考例11−2(図41(e))と同様に近方視、中間視、遠方視用の各焦点位置に明確なピークが形成されており、サイドバンドが低減された回折型多焦点眼用レンズ有用なものであることが分かる。本実施例においては付加屈折力が4diopterと大きくされたものであり、人の眼において調節力が著しく低下した患者、あるいは調節力を消失した患者に対して適用する多焦点眼用レンズとして特に有用なものとなる。

実施例12 (コンタクトレンズとして検証した例) 次のプロファイルの回折構造を有するコンタクトレンズを作製し、本発明の効果を検証した。

比較例1において第3番目のゾーンをc番目のゾーンとし、等間隔領域のゾーンの間隔を同じく0.3mmとし、第5番目のゾーンをi番目のゾーンとした。今、c番目のゾーンとした第3番目のゾーンの間隔をEsincダイアグラム上でN[4_2]の節位置に相当する間隔であるΔrc=0.1875mmに設定した。そしてかかる間隔で定められるc番目のゾーン位置に対して数27のEcos関係式にてEcos#1=0となるri-1地点に5番目のゾーンを再設定した。

かかる間隔と位置の再設定によって新たに変更されたプロファイルを図42(a)及び表23に示す。本実施例は、実施例1−1において行った位置の再設定に加えてEsincに基づく間隔の再設定を併用した例となっている。

プロファイル図より第3ゾーンがEsincダイアグラムに基づき変量され、幾分間隔が狭くなっている。また、第5ゾーンの位置の再設定によって該ゾーンが内側へ移動した分、第4ゾーンの間隔も狭くなっている。それ以外の変更はなかった。

かかるプロファイルの像面強度分布を図42(b、c、d)に示す。本実施例と比較例1と比べると、q=1、4、5の次数のサイドバンド強度が大幅に減少していることが分かる。また、q=2のサイドバンド領域では約2〜3割強度が減少している。q=3のサイドバンドに関しては僅かではあるが減少している。q=1、5のサイドバンドの低減はEcos#1=0とした効果による。q=4のサイドバンドの減少はEsincダイアグラム上でN[4_2]の節位置に設定した効果による。また、q=2のサイドバンドはEcos#1=0の条件下では本来強め合う方向に作用するところがN[4_2]節位置ではEsincの極が反転するため減少したのである。一方、q=3のサイドバンドに関しては、Ecos#1=0の条件では弱め合うところがN[4_2]節位置では極が反転するため逆に強め合う方向に作用し平均して僅かな減少に止まったと考えられる。

結果としては、ブラードビジョンに大きな影響を及ぼすq=1のサイドバンドが減少し、ハロの広がりに影響するq=4、5の周辺領域のサイドバンドも低減されたものとなっている。よってかかる問題の改善が期待されるのである。

実際に効果を検証するために本発明のプロファイルに対して以下の規格のコンタクトレンズを作製した。ハロの確認被写体として夜間の遠方の街灯を、ブラードビジョンに対しては蛍光灯の縁部を写真撮影した。なお、回折構造は位相プロファイルに基づくレリーフ構造とし、レンズ基材の屈折率を1.438、媒体の屈折率を1.335とし、波長を546nmとしてレリーフ形状に変換した。

今回作製したコンタクトレンズは、2−ヒドロキシエチルメタクリレートを主成分とする含水率約37.5%の含水性ソフトコンタクトレンズで、レンズ直径:14mm、光学部直径:8mm、ベースカーブ:8.5mm、でコンタクトレンズの後面に回折構造を設けた。作製したコンタクトレンズを、生理食塩水を満たしたガラスセル内に浸漬し、そのセルをカメラレンズの前に設置して各被写体を撮影した。

ハロの撮影結果を図43に示す。比較のために同じ条件で撮影した図9の比較例1に基づくコンタクトレンズのハロ写真と比較すると、本実施例のコンタクトレンズではハロは周辺のリング輝度は低く、目立たないレベルまで改善されていることが分かる。図43で輝度の高い最外殻のリングはq=3のサイドバンドに基づくものと同定され、かかる輝度は図9とあまり差異はないが、その外側のq=4、5と同定されるリングにおいては明確に輝度が減少していることが分かる。かかる結果は本実施例のミュレーションの結果と一致する。

次に蛍光灯の撮影結果を図44(a)に示す。本実施例では縁部から背景の暗部に亘って薄い滲みが認められるものの、比較のために同じ条件で撮影した比較例1に基づくコンタクトレンズのような強度な滲みとはならないことが分かる。また、エッジ部の鮮鋭度も向上していることが分かる。参考のため本実施例と比較例1のエッジ部の強度分布のシミュレーション結果を図44(b)に示す(実線(実施例12)、破線(比較例1))。本実施例のエッジ強度分布は比較例1と比べて小さく、実写結果と一致していることが分かる。以上の結果から本発明に基づき設計作製されたコンタクトレンズはハロ、及びブラードビジョンが抑制されたコンタクトレンズとなることが分かるのである。

以上の実施例より、本発明は、Ecos関数または/およびEsinc関数のパラメータであるゾーンの位置と間隔または位相定数を制御することによってハロやブラードビジョンを改善しうる回折型多焦点眼用レンズとその製造方法を与えるものであることが分かる。

また、本発明はサイドバンドの低減効果をもたらす以外に、近方視、中間視、遠方視のそれぞれの焦点位置に、適切な、バランスのとれた割合で光を配分することも可能でその結果としてそれぞれの焦点位置に明確なピークを生成することも可能となる。たとえばフレネル間隔に単に等間隔領域を組合わせた比較例1、参考例11−1においては近方視用ピーク強度が他焦点位置のピーク強度より小さくなり、近方の見え方が低下するおそれがあるが、本発明の間隔と位置の再設定によってかかる不均衡な分布を是正し、近方視、中間視、遠方視のピーク強度のバランスがとれたより望ましい分布にすることも可能になる。

なお、実施例に示した間隔と位置の再設定の際の条件は、本実施例に限定されるものではなく、サイドバンドの分布を勘案して、また適用される使用者の使用方法や見え方の要求度に応じて、これを阻害するような見え方の原因となるサイドバンドを特定し、これを低減するための条件下で設定することが可能である。つまり、本発明ではゾーン間の振幅関係を表わすEcosまたは/およびEsinc関係式またはダイアグラムを用いてプロファイルを設定することを基本とするが、プロファイル設定の基本となるこれら関数の具体的な値は、目的とするサイドバンドの種類や分布の仕方によって、またその目的とする低減度合によって都度設定することが望ましい。

そこにおいて、一般にEcos関数の値は、数29の範囲となることを基本とするが、特定のサイドバンドの低減が必要な場合は、かかるサイドバンドに対応する次数のEcosが、−0.7≦Ecos≦0.7、好ましくは−0.5≦Ecos≦0.5となる範囲で設定するのが望ましい。

さらに、サイドバンドの次数に応じてEcosを定めてもよい。具体的には、例えばブラードビジョンの低減に際してはq=1、2のような像面中心の比較的強度の大きなピークの低減を目的として、たとえばEcos#1=0、Ecos#2=0となる地点にゾーン位置を設定すると効果的である。

また、ハロの抑制を目的とした場合は、q=3、4、5、・・・などの像面中心から離れた位置に出現するサイドバンドを低減するために、Ecos#3=0、Ecos#4=0、Ecos#5=0となる地点などが効果的である。また、Ecosは必ずしもゼロである必要はなく、たとえば本実施例でも示したEcos=0.5となる地点も効果的である。

また、Ecos関数から定められるゾーンの位置は、前記実施例で図示したEcosダイアグラムの周期範囲(例えば図12ではq=1に対してEcosがおよそ半周期の範囲で示されている)に限定されるものではなく、さらに長周期の範囲内で設定されてもよい。

なお、c番目ゾーンとi番目のゾーン間にはEcos関数に基づく位置設定の結果としての調整区間が生じることがある。例えば実施例3群においては第4ゾーンがかかる調整区間に相当する。かかる調整区間も回折構造を形成するゾーンの一つとして機能するため、本発明で実現する結像特性を損なわない範囲で、また、結像特性をさらに向上させるために所望の位相関数を設定してもよい。また、かかる調整区間の間隔が広い場合は、かかる区間を複数のゾーンで構成してもよい。

Esincにおいては節位置となるゾーン間隔が最も効果的である。しかし、節に限らず本実施例で示したように極値となるゾーン間隔も有用なものとなる。また、同一地点で複数の次数のEsincが節、あるいは節に近い領域になるような地点、たとえばN[4_3]やN[5_4]、あるいはN[3_2]などに設定するとより効果的である。

Esinc関数は間隔のみならず位相のパラメータを含むことから、Esinc関数に基づく設計は間隔のみならず位相定数hとの組わ合わせで行ってもよい。かかる位相定数hをパラメータとして含むEsincの設計方法は実施例5及び6に示した通りで、本例で示したように位相定数hを変量した場合は、h変量後のEsincダイアグラムにて目的のEsinc箇所となるようにゾーン間隔を定めるとより効果的である。

Ecos関数、Esinc関数による設定方法は目的に応じてそれぞれ個別で用いられてもよいし、両者を併用してもよい。かかる個別の設定方法、及び併用法方は、本実施例群で例示されている。本発明では、EcosとEsincの併用によってさらに多様な組み合わせが可能となり、設計自由度が増すこと、およびサイドバンドの低減効果がさらに向上する点からより好ましいものである。

また、実施例9群からも分かるように、本発明の設定方法が適用されるゾーンの組合せは特定のゾーン間の一つの組合せに限定されるものではなく、他ゾーン間との複数の組み合わせとしてもよい。

本発明では、Ecos関数、Esinc関数によって設定されたプロファイルにおいて、かかるプロファイルの中の任意のゾーンに対して数3、数4、または数5の位相ずれ量τを設定してもよい。かかる位相ずれ量の範囲は数30の範囲で設定するのが望ましい。例えば、Ecos関数、Esinc関数に加えて、位相ずれ量を調節することにより、ハロやブラードビジョンの原因と考えられる振幅のピークに対するキャンセル効果のチューニングの更なる自由度の向上などが図られ得る。

本発明は、フレネル間隔領域と等間隔領域から構成されるプロファイルにのみ限定されるものではなく、フレネル間隔領域を含まないもの、あるいはフレネル間隔領域を主とした回折構造に適用してもよい。

また、フレネル間隔と等間隔領域から構成されるプロファイルにおいては、それぞれの領域の配される位置に特に限定はなく、任意に定められたものでもよい。本実施例群では内側をフレネル間隔、周辺を等間隔領域としたものが示されているが、それ以外の、たとえば内側が等間隔領域で周辺がフレネル間隔領域とされたものでもよい。さらにはフレネル間隔と等間隔領域の繰り返し構造を有するものでもよい。

等間隔領域は間隔を同じくしたゾーンが隣接して配されていてもよいし、異なる間隔を含む周期構造とされていてもよい。さらには非周期構造で配置されていてもよい。また、異なる間隔を等しくした異なる等間隔領域が複数存在するものでもよい。

等間隔領域のゾーンの間隔は特に限定されるものではないが、おおよそ0.1〜0.5mmの間で選択されるのが望ましい。

また、前記各実施例などで示された回折構造は目的とする眼用レンズの前面、または後面のどちらかに設定されてもよい。あるいはレンズの内部に設置されていてもよい。また、例えば特開2001−42112号公報等に記載のように、屈折率が異なる二つの材質からなる積層面に、本発明にかかる回折構造を形成することも可能である。

更にまた、本発明において、サイドバンドの振幅に対するキャンセル効果を発揮するc番目のゾーンは、相互干渉するi番目又はj番目のゾーンと共に、サイドバンドが問題となる状況で装用者に光学特性をおよぼすレンズの光学領域内に形成されていれば良い。例えば、屋外昼間等の明所視でブラードビジョンが問題となる場合には、明所視の瞳孔サイズに対応するレンズ開口領域内のゾーンに設定されれば良いし、夜間の自動車運転時等の暗所視でハロが問題となる場合には、暗所視の瞳孔サイズに対応するレンズ開口領域内のゾーンに設定されれば良い。そのような範囲内であれば良く、各ゾーンの設定位置が限定的に解釈されるものではない。

本発明は0次回折光の焦点位置の像面上のサイドバンド強度を制御する上で有用な方法となる。0次回折光が遠方視用として設計された回折レンズでは、遠方視にてブラードビジョンやハロという問題が起こりやすいことからかかる回折レンズの設計に特に有用なものとなる。しかし、本発明の適用可能な焦点位置は特に遠方視用焦点に限定されるものではなく、これ以外の、たとえば近方視用焦点、あるいは中間視用焦点など他の焦点位置においてもこれらが0次回折光で形成される場合は本発明の方法が等しく適用できる。

なお、本発明における眼用レンズとしてはコンタクトレンズ、眼鏡、眼内レンズなどが具体的な対象となる。さらには角膜実質内に埋植して視力を矯正する角膜挿入レンズ、あるいは人工角膜などにも適用可能である。またコンタクトレンズにおいては硬質性の酸素透過性ハードコンタクトレンズ、含水または非含性のソフトコンタクトレンズ、さらにはシリコーン成分を含有した酸素透過性の含水または非含水性のソフトコンタクトレンズなどに好適に用いることができる。また、眼内レンズにおいても硬質性の眼内レンズや、折り畳んで眼内に挿入可能な軟質眼内レンズなど、いずれの眼内レンズにも好適に用いることができる。本発明に基づく眼内レンズにおいては従来からの回折型の多焦点眼内レンズで指摘されているハロやブラードビジョンの問題を解消しうる。

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