回折型多焦点眼用レンズとその製造方法

申请号 JP2014525250 申请日 2012-12-14 公开(公告)号 JP5993950B2 公开(公告)日 2016-09-21
申请人 株式会社メニコン; 发明人 安藤 一郎;
摘要
权利要求

同心円状に複数形成された回折ゾーンが設けられた光学部を備えており、該光学部によって少なくとも二つの焦点が与えられる回折型多焦点眼用レンズにおいて、 前記焦点のうちの一つの焦点である第一の焦点における像面上で、該第一の焦点におけるサイドバンド領域の振幅分布を減少せしめてブラードビジョンを抑制する回折光を与えるキャンセル用領域を、前記光学部における明所視の瞳孔径に対応する領域内に設けたことを特徴とする回折型多焦点眼用レンズ。前記第一の焦点が、前記回折ゾーンにおける回折構造の0次回折光によって与えられることを特徴とする請求項1に記載の回折型多焦点眼用レンズ。前記第一の焦点が遠方視用焦点であり、且つ、他の焦点として近方視用焦点を有する請求項1又は2に記載の回折型多焦点眼用レンズ。前記キャンセル用領域が、前記複数の回折ゾーンのうちで最内周の該回折ゾーンを除く領域に設けられている請求項1〜3の何れか一項に記載の回折型多焦点眼用レンズ。前記回折ゾーンが、光の位相を変調させうるための位相関数で特徴付けられた回折構造をもって形成されている請求項1〜4の何れか一項に記載の回折型多焦点眼用レンズ。前記回折ゾーンにおける回折構造の少なくとも一部の位相関数が、ブレーズ形状の関数からなる請求項1〜5の何れか一項に記載の回折型多焦点眼用レンズ。前記回折ゾーンにおける回折構造の位相関数がブレーズ形状の関数からなり、且つ、前記第一の焦点における像面上で、i番目の回折ゾーンとj番目の回折ゾーンのそれぞれを通過した光の振幅が互いに強め合う関係にある場合において、c番目の回折ゾーンの位置が、各該回折ゾーンを通過した光が互いに振幅を弱め合う条件としての下記[数1]を実質的に満足するように設定されている請求項1〜6の何れか一項に記載の回折型多焦点眼用レンズ。前記回折ゾーンにおける回折構造の少なくとも一部が、フレネル間隔の周期構造を有している請求項1〜7の何れか一項に記載の回折型多焦点眼用レンズ。前記回折ゾーンにおける回折構造の位相関数がブレーズ形状の関数からなり、且つ該回折ゾーンにおける回折構造がフレネル間隔の周期構造とされていると共に、該回折ゾーンにおける回折構造の0次回折光によって与えられた前記第一の焦点における像面上で、i番目の回折ゾーンとj番目の回折ゾーンのそれぞれを通過した光の振幅が互いに強め合う関係にある場合において、c番目の回折ゾーンの位置と該i番目の回折ゾーンの位置が、各該回折ゾーンを通過した光が互いに振幅を弱め合う条件としての下記[数2]を実質的に満足するように設定されている請求項1〜8の何れか一項に記載の回折型多焦点眼用レンズ。前記回折ゾーンにおける回折構造の少なくとも一部が、等間隔の周期構造を有している請求項1〜9の何れか一項に記載の回折型多焦点眼用レンズ。前記回折ゾーンにおける回折構造において、前記キャンセル用領域の回折ゾーンにおけるブレーズ形状の関数の傾きが、該キャンセル用領域以外の領域の回折ゾーンのブレーズ形状の傾きと反対の符号を有している請求項1〜10の何れか一項に記載の回折型多焦点眼用レンズ。前記キャンセル用領域の回折ゾーンと該キャンセル用領域以外の回折ゾーンとが、該回折ゾーンにおける位置設定と、該回折ゾーンにおけるブレーズ形状の関数の位相設定と、該回折ゾーンにおけるブレーズ形状の関数の傾き設定との、少なくとも一つを異ならせて設定されている請求項1〜11の何れか一項に記載の回折型多焦点眼用レンズ。前記回折ゾーンにおける回折構造が、位相に相当する光路長を反映したレリーフ構造によって構成されている請求項1〜12の何れか一項に記載の回折型多焦点眼用レンズ。同心円状に複数形成された回折ゾーンが設けられた光学部を備えており、該光学部によって少なくとも二つの焦点が与えられると共に、かかる焦点のうちの一つの焦点である第一の焦点におけるブラードビジョンが抑制された回折型多焦点眼用レンズを製造するに際して、 (i)少なくとも二つの焦点が与えられる前記光学部における複数の前記回折ゾーンを設定する基本形状設定工程と、 (ii)該基本形状設定工程で設定した複数の該回折ゾーンによって前記第一の焦点における像面上で与えられる光の振幅分布を求める振幅情報取得工程と、 (iii)該振幅情報取得工程で求めた該光の振幅分布において低減対象とするサイドバンドを決定する低減対象決定工程と、 (iv)該低減対象決定工程で決定した該サイドバンドを相殺的に減少せしめる光の振幅分布を前記第一の焦点における像面上で与えるキャンセル用領域を、複数の前記回折ゾーンと共に前記光学部における明所視状態の瞳孔径に対応する領域内に形成するキャンセル用領域形成工程と を、含むことを特徴とする回折型多焦点眼用レンズの製造方法。前記低減対象決定工程において低減対象として決定した前記サイドバンドの振幅および領域の振幅データを取得し、かかる振幅データから前記第一の焦点における像面上での光の振幅関数を求めて、かかるサイドバンドの振幅関数に対して相殺的な低減効果を及ぼす光の振幅関数を与えるキャンセル用の回折ゾーンを、前記キャンセル用領域として採用する請求項14に記載の回折型多焦点眼用レンズの製造方法。前記回折ゾーンにおける回折構造の位相関数がブレーズ形状の関数からなり、且つ、前記第一の焦点が該回折ゾーンにおける回折構造の0次回折光によって与えられる請求項14又は15に記載の回折型多焦点眼用レンズの製造方法。前記第一の焦点における像面上で、i番目の回折ゾーンとj番目の回折ゾーンのそれぞれを通過した光の振幅が互いに強め合う関係にある場合において、c番目の回折ゾーンの位置が、各該回折ゾーンを通過した光が互いに振幅を弱め合う条件としての下記[数3]を実質的に満足するように、前記キャンセル用領域の前記回折ゾーンを設定する請求項16に記載の回折型多焦点眼用レンズの製造方法。前記第一の焦点における像面上で、i番目の回折ゾーンとj番目の回折ゾーンのそれぞれを通過した光の振幅が互いに強め合う関係にある場合において、c番目の回折ゾーンの位置と該i番目の回折ゾーンの位置が、各該回折ゾーンを通過した光が互いに振幅を弱め合う条件としての下記[数4]を実質的に満足するように設定されている請求項16に記載の回折型多焦点眼用レンズの製造方法。前記ブレーズ形状の関数を位相軸方向にずらして調節して、前記キャンセル用領域の回折ゾーンが前記サイドバンドに対応する振幅を弱め合うように設定する請求項16に記載の回折型多焦点眼用レンズの製造方法。前記キャンセル用領域の回折ゾーンにおけるブレーズ形状の関数の傾きの符号を、該キャンセル用領域以外の領域の回折ゾーンのブレーズ形状の傾きと反対の符号に設定することにより、前記サイドバンドに対応する振幅を弱め合うように設定する請求項16に記載の回折型多焦点眼用レンズの製造方法。請求項17又は18に従う前記回折ゾーンの位置の調節と、請求項19に従う該回折ゾーンの位相軸方向のずれ量の調節と、請求項20に従う該回折ゾーンの前記ブレーズ形状の傾きの調節との、少なくとも二つを組み合わせて調節することにより、前記サイドバンドに対応する振幅を弱め合うように設定する請求項16に記載の回折型多焦点眼用レンズの製造方法。

说明书全文

本発明は、人眼に用いられて人眼光学系への矯正作用等を発揮するコンタクトレンズおよび眼内レンズなどの眼用レンズに係り、特に新規な構造の回折構造を備えた多焦点眼用レンズとその製造方法に関する。

従来から、人眼の光学系における屈折異常の矯正用光学素子や晶体摘出後の代替光学素子などとして、眼用レンズが用いられている。そのなかでも、人眼に装着して用いられるコンタクトレンズや、人眼に挿入して用いられる眼内レンズは、人眼に直接に用いられて大きな視野を提供すると共に、見え方の違和感を軽減することができることから、広く利用されている。

ところで、近年では老眼年齢に達した人達においても継続してコンタクトレンズを使用する人が増えている。かかる老眼となった人は焦点の調節機能が低下しているため、近くのものにピントが合わせにくいという症状が現れる。よって、かかる老眼患者に対しては近くのものにも焦点を合わせることのできる多焦点コンタクトレンズが必要となる。また、白内障手術を施術された患者においては調整機能を司る水晶体が除去されるため、その代替としての眼内レンズを挿入しても近方が見づらいという症状が残る。かかる眼内レンズにおいても複数の焦点を有する多焦点機能を有することが必要となっている。このように近年の高齢者社会を反映して多焦点眼用レンズの必要性は非常に高まっている。

かかる多焦点眼用レンズを実現する方法としては、屈折原理に基づき複数の焦点を形成する屈折型多焦点眼用レンズと回折原理に基づき複数の焦点を形成する回折型多焦点眼用レンズの例が知られている。後者の回折型の眼用レンズにおいては、レンズの光学部に同心円状に複数形成された回折構造を備えており、かかる複数の回折構造(ゾーン)を通過した光波の相互干渉作用によって複数の焦点を与えるものである。それ故、屈折率の相違する境界面からなる屈折面での光波の屈折作用によって焦点を与える屈折型レンズに比して、レンズ厚さの増大を抑えつつ大きなレンズ度数を設定することが出来る等の利点がある。

一般に回折型多焦点レンズは、フレネル間隔というある規則に従いレンズ中心から周辺に向うにつれて回折ゾーンの間隔が徐々に狭くなった回折構造を有するものであり、かかる構造から生成する0次回折光と1次回折光を利用して多焦点とするものである。通常は、0次回折光を遠方視用の焦点とし、+1次回折光を近方視用の焦点とする。かかる回折光の分配によって遠近用の焦点を有するバイフォーカルレンズとすることができる。かかる遠近用の焦点を生成し得る回折多焦点レンズの例として、米国特許5144483(特許文献1)が挙げられる。

また、近年では、前記した白内障手術後に挿入する眼内レンズとして回折型の多焦点眼内レンズが実用化され、眼鏡なしで遠方も近方も見ることが可能な眼内レンズとしての有効性が認められている。

ところが、このような回折型多焦点レンズでは、特に眼内レンズとしての適用例が増えるに伴って、未だ解決すべき問題点の存在が明らかとなってきている。それは見え方に関するもので、回折型多焦点眼内レンズが埋殖された患者においては物を見る時、靄がかかったような、あるいは霧の中で物を見ているような愁訴があると言われている。この症状は、なんとなくぼんやりと物が見えることからブラードビジョン(blurred vision)などと称されている。見え方の程度によってはワクシービジョン(waxy vision)、あるいはワセリンビジョン(vaseline vision)という呼び方で言い表わされることもあり、油脂が薄く付着したガラス越しに物を見ているように見えることもある。

すなわち、JOURNAL OF CATARACT & REFRACTIVE SURGERY,第35巻(2009),992−997におけるMaria A. Woodwardらの“Dissatisfaction after multifocal intraocular lens implantation”と題した論文(非特許文献1)では、回折多焦点眼内レンズを含む多焦点眼内レンズ挿入患者の不満例についての詳細な検討結果が報告されている。その中でブラードビジョンの主訴が、回折多焦点眼内レンズが挿入された28眼のうち27眼に認められたと報告されている。かかる症状を呈した患者の多くが後発白内障として知られる術後合併症を発症していたが、著者達は、合併症の発症前からブラードビジョンを訴えていた症例が多いことに注意を喚起しており、ブラードビジョンが多焦点眼内レンズによって起こっている可能性を指摘している。

さらに、一般的な回折型多焦点レンズにおいて、ブラードビジョンの問題を把握することのできる資料を、図93に示す。図93(a)は、Cohenによる米国特許第5144483号明細書(特許文献1)に示された技術内容に基づき設計された回折型多焦点眼用レンズを光学ベンチ上に設置し、該レンズを通して撮影された解像度チャートを示すものである。これは、0次回折光を遠方視用、+1次回折光を近方視用の焦点形成用として設計された回折型多焦点眼用レンズの遠方視用焦点位置における測定結果である。図93(b)に示す単焦点レンズの場合と比較すると、明るいハイライトの部分の輝度が幾分低下し、灰色がかったように見える。また、視標のない背景のシャドー部には光の滲みが発生しており、全体的にコントラストが低下していることが分かる。現在実用化されている回折型多焦点眼内レンズの中には前記Cohenの基本仕様から発展させたアポダイゼーションといわれる回折構造を設けたものが知られている。W. Andrew Maxwellらはかかるタイプのレンズを含む多焦点眼内レンズのベンチテストでの解像度チャートの撮影結果を示している(“Performance of presbyopia−correcting intraocular lenses in distance optical bench tests”,JOURNAL OF CATARACT & REFRACTIVE SURGERY,第35巻(2009),頁166—171(非特許文献2))。その結果も図93(a)と同様にハイライト部の輝度の低下、及び背景シャドー部への光の滲みが認められている。

このように一般的な回折型多焦点眼用レンズでは、コントラスト差のある環境下で物を見た場合に、全体的にコントラストが低下し、光の滲みが生じて結果として霞がかかったような見え方、即ちブラードビジョンの問題を引き起こすことを、図93からも理解することができる。多焦点レンズにおいては複数の焦点位置に光を配分するので、各焦点位置のハイライト部の輝度が低下するのは避けられない。しかし、人の生理的な不満は主にハイライト部の輝度の低下よりもシャドー部への光の滲みによってもたらされるものであるため、光の滲みを抑制することがブラードビジョンの改善につながると考えられる。光の滲みは多焦点レンズ、特に同時視型と呼ばれる多焦点レンズの結像特性を反映した現象の一つで、その成因に関して以下のように説明される。

たとえば遠近の2焦点を有する回折型多焦点レンズでは、遠方からやってくる光は遠方視用焦点位置で光の振幅が最大限強め合って結像するとともに、近方視用焦点位置でも振幅が強め合うように設計されている。遠方からの光は遠方視用焦点の像面中心に主ピークを形成するが、近方視用焦点位置で強め合った光は、その後拡散して遠方視用焦点の像面位置に到達することとなる(図94(a))。一見すると遠方視用焦点の像面では図94(b)に示すようにかかる遠方視用焦点を形成する主ピークしか存在しないように見えるが、拡大すると図94(c)のように主ピークの周りに小ピーク群が存在していることが分かる。これは、前記したように近方結像用の光の成分が一種の迷光となって遠方視用焦点像面に紛れ込むこととなり、形成されたものである。このように小ピーク群(以下、サイドバンドと称することとする)の強度は主ピークの強度と比較すると極めて小さなものであるが、広がりのある光源ではこれらピークが積算されることになるので強度は増幅される。また前記したように明暗のコントラスト差のある環境下においては、僅かな光の滲みでも知覚されやすくなる。したがって微弱なサイドバンドでも無視しえない状況が発生しうるのである。

かかるサイドバンドの分布は光の波動現象として形成されるものであり、図95に示すように回折型多焦点レンズでは各回折ゾーンを通過した光は、遠方視用焦点の像面位置にそれぞれのゾーンの特性を反映した振幅分布を与える。図95(b)は遠方の点状光源から発せられた光が各ゾーンを通過して焦点像面になす光の振幅の一例を示すものである。各ゾーン(A,B,C)を通過した光の振幅を合成したものが全体の振幅分布となる(図95(c))。そして、この振幅の共役絶対値が光の強度となる(図95(d))。このように点状の光源から発せられた光がレンズを通過した後、像面になす強度分布を点像広がり関数と称す。

物を見る時、たとえば前記解像度チャートなどの文字や図形がハイライト部で構成された物体を見る時、チャートの文字や図形の視標の縁から背景のシャドー部にかけての強度分布は明るいハイライト部から急激に切れ落ちた強度分布を示す。このような物体(光源)がレンズを介して像面に形成する強度分布をエッジの強度分布と称すと、エッジ強度分布を知ることによって光の滲みの程度を把握することができる。かかる広がりのある物体や光源は数多くの点状の光源から構成されていると考えることができるので、各点光源に対応する点像広がり関数を焦点像面の光学共役位置に亘って重ねて積算すればエッジの強度分布を得ることができる。

図96は、かかるエッジに対する強度分布を一般的な単焦点レンズと回折型多焦点レンズの間で比較した概念図である。図96(a)に示すようなハイライト部とシャドー部が明確に区分けされた光源があるとする。そして、単焦点レンズ、回折型多焦点レンズの点像広がり関数が図96(b)(c)のような分布をなしているとすると、それぞれのエッジ強度分布は図96(d)(e)のように示される。一見すると両者でエッジの強度分布に差異はないように見えるが、エッジのシャドー部近傍を拡大すると明確な相違が認められるのである( 図96(f))。単焦点レンズでは鋭く切れ落ちたエッジの強度分布を示す一方で、回折型多焦点レンズではエッジ近傍のシャドー部においてある種の膨らみのある分布を示す。この膨らみ部はシャドー部へ滲み出た光の強度を表わすもので、これが大きいと光の滲みとして我々の観察されるところとなるのである。

この膨らみは点像広がり関数のサイドバンドの強度や分布の状態によって異なるが、総じてサイドバンドの強度が大きければ膨らみは大きくなる。また、サイドバンドの出現位置が主ピークに近ければ膨らみはエッジ部の近傍で発生することとなる。その結果、物を見た時に物体近傍で靄のようなグレアが認められることになる。また、サイドバンドが主ピークから離れれば、エッジの強度分布はなだらかな棚状の分布を示す傾向にある。もしこのような分布で棚部の強度が大きければ、靄が広がって見えたりする。実際にかかる膨らみのあるエッジ強度分布を示すレンズをコンタクトレンズとして装用した場合、あるいは眼内レンズとして眼の中に挿入した場合、光軸に対してレンズの偏位が生じるとかかるエッジの強度分布はゴーストと呼ばれる二重像となって我々に知覚されることもある。よってかかるエッジの強度分布と実際の見え方の相関はレンズ特性とそれが置かれた状態に依存するため、一律に述べることはできないが、エッジのシャドー部にかけての強度が小さければ小さいほどかかる二重像などの見え方の弊害も低減できるのである。つまり、ブラードビジョンを改善するにはエッジ部の強度分布においてシャドー部領域の強度を低減させることであり、その結果としてブラードビジョンのみならず他のゴーストと称される弊害なども改善できる可能性があるのである。

なお、かかるブラードビジョンの問題点は眼内レンズ特有のものではなく、コンタクトレンズ、あるいは膜内挿入インレイ、などに応用される多焦点眼用レンズに等しく発生しうるものである。よって、この課題の解決がかかる分野において強く求められているのである。

いくつかの先行文献では回折型多焦点眼用レンズのコントラスト感度の低下の問題を取り上げ、その解決案を提示している。例えば特開2010−152388(特許文献2)では、MTF(変調伝達関数)を向上させるためにレンズを非球面化する設計方法が開示されている。かかる先行文献では回折構造と併せてレンズを非球面化することによってMTFが向上するとしている。MTFは空間周波数に対するコントラストの変化を表わすもので、MTF値が向上することは各周波数における物体の識別、分解能を改善せしめることとほぼ同じである。しかし、成書「シミュレーション光学」(山ら、東海大学出版会)では、MTFだけでエッジ部の鮮明さを判断することは危険であることを説明している。一般に点像広がり関数において主ピークが鋭峻な分布をなしているとMTF値は大きくなる傾向にある。しかし、鋭峻なピークであってもサイドバンドピークの大きさや分布の状態いかんによっては背景シャドー部に光の滲みが生成する、というケースもありうるのである。したがって、MTFが改善されたことが前述のぼんやりとした見え方の改善となることを保証するものではない。前記先行文献ではコントラスト感度には言及するものの、ブラードビジョンの問題に関しては何も言及しておらず、これを重要問題と認識している証左は何もない。また、MTFにのみ言及しており、それ以外のエッジの強度分布、さらには光の滲みなどの現象との関連性などの洞察は一切ない。

また、特開2010−134282(特許文献3)では、かかる問題の原因として回折構造を形成する格子の形状において不連続的に形成された回折格子のレリーフエッジ部での光の散乱がコントラスト低下の原因として、このエッジ部をスムーズに形成するための設計方法及びそれからなる回折レンズの仕様が述べられている。前記したようにブラードビジョンの主原因は点像広がり関数におけるサイドバンドの影響が最も大きい。かかるサイドバンドは他の焦点を形成する光が紛れ込むことによって形成されるものであり、散乱光による寄与は少ないと考えられる。よって該先行文献による方法ではコントラストの改善効果はさほど期待できないと考えられる。また、該文献では光の滲みに関しては何ら触れておらず、また、これの解決を示唆する情報は何も示していない。

また、国際特許公開2011/075668(特許文献4)では、この問題を改善するためにレンズの幾何中心に対してレンズ面を回折構造、屈折領域構造と区分した非対称構造の眼用レンズが提案されている。これら区分された構造において、回折構造領域における光の配分割合などを微調整することによってコントラスト低下を防げるとしている。しかし、該先行文献では光の滲み及びこれを解決する手段に関しては一切言及されていない。一般にレンズは、レンズ中心に対して非対称構造を導入すると点像広がり関数も非対称で歪な分布を示す。また多くのサイドバンドが生成することがある。よってかかる非対称型の構造は、むしろ光の滲みを増悪させ、時として二重像などの好ましからざる効果をもたらすことがある。また、かかる非対称構造の製造は対称構造を製造するよりもずっと困難で時間やコストがかかるという問題点を有する。

最も簡単に多焦点眼用レンズのコントラスト低下を防ぎ、光の滲みを低減しようとするには、対応する焦点への光の配分量を増やせばよい。例えば遠方視において光の滲みを低減しようとするならば遠方視用の焦点に光の分配量を増やすことである。しかし、特定の焦点に光の配分量を多くすることは他焦点への光の配分量を減らすことになる。たとえば遠方視用焦点用の光の配分量を増やせば遠方視用焦点の点像広がり関数のサイドバンドは減るかもしれないが、他の焦点ではサイドバンドの強度は逆に大きくなる。この結果、光が多く配分された焦点位置では高コントラストでブラードビジョンの少ない見え方を与えるかもしれないが、残りの焦点位置においては見え方の質的な低下は免れない。

更にまた、特表2008−517731(特許文献5)では、回折ゾーンの位相板の高さを変えることによって光の配分量を変えてハロやグレアが知覚されにくい像面の強度分布を得る方法について述べている。かかる先行文献では像面強度分布の裾部をなだらかにするとハロ、グレアが知覚されにくくなるとして、回折ゾーン周辺域の位相板からの光の配分量を減じるようなプロファイルが例として述べられている。かかる方法は前記したように各焦点位置への光の配分量を変えるだけの措置に過ぎず、かかる多焦点レンズの設計においては、どうしても特定の焦点特性のみが重要視された偏った設計となるため、実質的に利用可能な多焦点眼用レンズを提供することはできない。

以上、述べたように先行文献(特許文献2〜5)では、コントラストの改善についてはこれを解決する方法をいくつか提案しているものの、光の滲みに対してこれを抑制する方法を具体的に示したものは何も存在していないのである。また、複数の焦点への配分量を、意図した設計値から大きく変更させることなく、目的とする焦点位置でのエッジ強度分布を改善し、その結果としてのブラードビジョンが改善された多焦点眼用レンズの具体例はまだ存在していないのである。

ジャーナル・オブ・カタラクト・アンド・リフラクティブ・サージェリー(JOURNAL OF CATARACT & REFRACTIVE SURGERY),第35巻(2009年),992—997頁,マリア・エー・ウッドワード(Maria A. Woodward)著,ディサティスファクション・アフター・マルチフォーカル・イントラオキュラー・レンズ・インプランテーション(Dissatisfaction after multifocal intraocular lens implantation)

ジャーナル・オブ・カタラクト・アンド・リフラクティブ・サージェリー(JOURNAL OF CATARACT & REFRACTIVE SURGERY),第35巻(2009年),166—171頁,ダブリュ・アンドリュー・マクスウェル(W.Andrew Maxwell)著,パフォーマンス・オブ・プレズビオーピアコレクティング・イントラオキュラー・レンズ・イン・ディスタンス・オプティカル・ベンチ・テスト(Performance of presbyopia−correcting intraocular lenses in distance optical bench tests)

米国特許第5144483号明細書

特開2010−152388号公報

特開2010−134282号公報

国際特許公開2011/075668号公報

特表2008−517731号公報

本発明は、上述の如き多焦点眼用レンズにおいて大きな問題であるブラードビジョンの改善を目的とするものであり、ブラードビジョンの発生機構の解明を為し得たことに基づいて、その結果得られた知見をもとに新規な解決策を見出したものである。そして、このようにして得られた新規な技術思想に基づいて、ブラードビジョンが改善された回折型多焦点眼用レンズを実現すべく、本発明は、回折型多焦点眼用レンズの新規な製造方法と、新規な構造の回折型多焦点眼用レンズとを、それぞれ提供することを解決課題とする。

以下、本発明の説明に先立ち、本発明で用いられる語句などについて以下のように定義する。

振幅関数(分布)は、光の波としての特性を数学的に記述した関数(分布)のことであり、具体的には数1で表わされる。

位相は、数1のφ(x)に相当するもので、光の波としての状態を示すパラメータの一つで、具体的には波の谷と山の位置、あるいは経過時間ごとのかかる位置を定めるものである。また、位相を変えることによって波の進行を早めたり、遅らせたりもする。なお、本発明では位相をφで表記することとし、その単位はラジアンである。例えば光の1波長を2πラジアン、半波長をπラジアンとして表わす。

位相変調は、レンズに入射した光に対して何らかの方法でその位相に変化を与えるようなレンズに設けられた構造あるいは方法を総じていう。

位相関数は、数1の指数部またはcos関数内の位相の変化を表す関数である。本発明では位相関数の変数は主にレンズの中心から半径方向の位置rとし、r地点におけるレンズの位相φを表すものとして用いられ、具体的には図97に示すようなr−φ座標系で表わすこととする。また、位相変調構造が設けられた全域の位相の分布を同座標系で表したものを位相プロファイル(Profile)と呼ぶ。なお、φ=0のr軸を基準線とし、φ=0の地点では入射した光はその位相を変化させることなく射出されることを意味する。そして、この基準線に対してφが正の値を取るとき、光はその位相分だけ進行が遅れ、φが負の値を取るとき、光はその位相分だけ進行が進むことを意味する。実際の眼用レンズにおいては回折構造が付与されていない屈折面がこの基準線(面)に相当する。

光軸は、レンズの回転対称軸で、ここではレンズ中心を貫き物体空間および像側空間へ延長された軸のことをいう。

像面は、レンズに入射した光が射出された像側空間のある地点において光軸と垂直に交わる面のことをいう。

0次焦点は、0次回折光の焦点位置をいう。以下、+1次回折光の焦点位置に対しては+1次焦点、・・・という。

0次焦点像面は、0次回折光の焦点位置における像面のことをいう。

ゾーンは、回折構造における最小の単位としてここでは用いる。例えば一つのブレーズが形成された領域を一つのゾーンと呼ぶ。

ブレーズは、位相関数の一形態で、主に屋根状の形で位相が変化しているものを指す。本発明では、図98(a)に示すような一つのゾーンにおいて屋根の山と谷の間が直線で変化するものをブレーズの基本とするが、山と谷の間を放物線状の曲線で変化するようにつながったもの(図98(b))や凹凸形状(方形波状)等も本発明ではブレーズの概念の中に含まれる。また、山と谷の間が正弦波の関数の一部で変化するようにつながれたもの(図98(c))、さらにはある関数において極値を含まない区間で変化するようにつながれたものもブレーズの概念の中に含まれる。本発明では特に断りがない限り図98(a)に示すように第n番目のゾーンのブレーズにおいて、ゾーンの外径rn の位置の位相φn と内径rn-1 の位置の位相φn-1 の絶対値が基準面(線)に対して等しくなるように、つまり|φn |= |φn-1 |となるように設定することを基本とする。なお、ブレーズの位相関数φ(r)は、数2のように表される。

位相ずれ量は、ある位相関数φ(r)をr−φ座標系の基準線(面)に対してφ軸方向にτずらす場合、このτのことを位相ずれ量と定義する。τずらすことによって新たに得られる位相関数φ’(r)との関係は数3の通りである。位相ずれ量の単位はラジアンである。

たとえば、前記ブレーズにおいてブレーズ段差を維持したまま基準面に対するブレーズの位置関係をφ軸方向にずらす場合は、ずらすことによって新たに谷と山になるφ’n とφ’n-1 とずらす前のφn とφn-1 の関係は数4の通りとなる。この位置関係は図99に示されている。本発明ではこのように位相ずれ量τを導入して新たに設定される関数φ’(r)も位相関数の一形態として用いることができる。

また、位相ずれ量τを導入した場合のブレーズの位相関数は数2から数5のように表わされる。

位相定数は、ブレーズ形状の位相関数において数6で定義される定数hのことをいう。

レリーフは、位相プロファイルで定められる位相に相当する光路長を反映して具体的にレンズの実形状に変換して得られるレンズの表面に形成される微小な凸凹構造の総称である。なお、位相プロファイルをレリーフ形状に変換する具体的な方法は以下の通りである。

光はある屈折率を有する媒体に入射するとその屈折率分だけ速度が遅くなる。遅くなった分だけ波長が変化し、結果として位相変化が生ずる。位相プロファイルにおけるプラスの位相は光を遅らせることを意味するので、屈折率の高い領域に光が入射するようにすればプラス位相を付与したことと同じになる。なお、これらプラス、マイナスとは相対的な表現であり、例えば位相が−2πと−πでは同符号であっても後者の方が位相は遅れているので、屈折率の高い領域を設定する。

たとえばブレーズ状の位相関数を有する場合、その実形状のブレーズ段差は、数7で表わされる。かかるレリーフ形状は精密旋盤による切削加工やモールド成形法などでレンズ面に設けることができる。

強度分布は、レンズ通過後の光の強度をある領域に亘ってプロットしたもので、前記振幅関数の共役絶対値として表わされる。ここでは大別して「光軸上の強度分布」と「像面の強度分布」が用いられる。前者はレンズの位置を基点とし、像側光軸上の光の強度分布をプロットしたもので、光軸上のどの位置に焦点を形成するか、また強度の割合などを調べる際に用いる。一方、像面強度分布はある像面における光の強度分布を示し、本発明では像面の中心から動径偏角がゼロ方向の位置ρにおける強度をプロットしたもので表わすこととする。人の眼においては網膜上で知覚されるのは像面強度分布の情報である。

点像広がり関数は、一点から出た光がレンズを通過し焦点位置の像面に形成する強度分布のことをいう。PSF(Point Spread Function)とも言う。本発明では特に断りがない限り遠方視用焦点位置の像面になす強度分布のことを言う。前述の像面強度分布における「遠方視用焦点位置の像面強度分布」と同義語である。

エッジ強度分布は、一定の明るさを有する広がりのある光源においてハイライト部とシャドー部の遷移領域がレンズを介して像面に形成する明暗の境の強度の分布を言う。本発明では光の滲みの目安を表わすものとして用いる。本発明では広がりのある光源として、図1(a)に示すように物体側空間のx軸上に伸びた一次元の有限な線状の光源を想定する。かかる光源がレンズを通過して像面に形成する光の強度分布I(ρ) は、光源の強度分布をO(x)、点像広がり関数をPSF(ρ)とすると両者のコンボリューション(重畳積分)で表わされる(数8)。

光源強度は光源位置に依らず一定でその強度を1とすると、光源の強度分布は数9のようなステップ関数で表わすことができる。ステップ関数を用いると数8は数10で表わされる。

数10からx=Lまたは−L近傍の強度分布を求めることによってエッジの強度分布を把握することができる。本発明では点像広がり関数は数値解析で算出された離散データとして取り扱う関係上、数10の積分式の代わりに数11を用いてエッジの強度分布を示すこととする。

かかるエッジ強度を算出する際のコンボリューションの概念図を図1(a)〜(e)に示した。ここで、(a)はx軸上に存在する多くの点光源から構成された有限な長さを有する線状光源、(b)はレンズ、(c)は各点光源が像面のρ軸上になす点像広がり関数、(d)は構成点光源の数が増えて対応する点像広がり関数が密集してくる様子、そして(e)は点像広がり関数の合算値としての像面の強度分布を表わしている。なお、(e)中、破線で囲まれた領域をエッジの強度分布とする。

フレネル間隔は、回折レンズのゾーン構成においてある規則に従って定められるゾーン間隔の一つの形態のことをいう。ここでは、第n番目のゾーンの外径をrn とすると数12で定められる間隔を有するものをいう。

一般的には数12で定められる間隔にすることによって1次回折光の焦点に相当する付加屈折力Padd (0次光を遠用、1次光を近用とした時、近用焦点位置をどこに設定するかの目安となるもの)を設定することができる。なお、フレネル間隔を定める数12における第1番目のゾーン外径(半径)は通常は数13で定められるが、任意の値を用いて設定してもよい。本発明にて使用されるフレネル間隔型の回折レンズは、屈折原理を利用したフレネルレンズとは異なるものであり、上記式に従った間隔を有した回折原理を利用したレンズのことをいう。

続いて、前述の如き課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。

すなわち、回折型多焦点眼用レンズに関する本発明の第1の態様は、同心円状に複数形成された回折ゾーンが設けられた光学部を備えており、該光学部によって少なくとも二つの焦点が与えられる回折型多焦点眼用レンズにおいて、前記焦点のうちの一つの焦点である第一の焦点における像面上で、該第一の焦点におけるサイドバンド領域の振幅分布を減少せしめてブラードビジョンを抑制する回折光を与えるキャンセル用領域を、前記光学部における明所視の瞳孔径に対応する領域内に設けた回折型多焦点眼用レンズを、特徴とする。

本態様に従う構造とされた回折型多焦点眼用レンズでは、第一の焦点における像面上で、該第一の焦点を形成する光以外の光による振幅分布を減少せしめる回折ゾーンであるキャンセルゾーンが、レンズにおいて、明所視状態の瞳孔を透過する光線の通過領域内のキャンセル用領域に形成されることとなる。それ故、サイドバンドの大きな原因と考えられる、該第一の焦点を形成する光以外の光による像面上での振幅分布が抑えられ、その結果、かかる第一の焦点における像の見え方の質が向上することとなる。

なお、本態様においてキャンセルゾーンの回折光によって振幅分布を減少せしめる対象光は、前記第一の焦点を形成する光以外の全ての光とされる必要はない。例えば、該第一の焦点以外の単一又は複数の焦点を形成する回折光を対象光としても良いし、該第一の焦点における像面上で単一又は複数の領域に位置する振幅分布を与える回折光を対象としても良い。

回折型多焦点眼用レンズに関する本発明の第2の態様は、第1の態様に係る回折型多焦点眼用レンズであって、前記第一の焦点が、前記回折ゾーンにおける回折構造の0次回折光によって与えられるものである。

本態様によれば、前記第一の焦点が、回折型多焦点眼用レンズの主たる焦点形成要因である回折構造の0次回折光によって与えられている。これにより、該第一の焦点を形成する光以外の光すなわちブラードビジョンの原因となり得る光成分を低減することができる。

回折型多焦点眼用レンズに関する本発明の第3の態様は、第1又は2の態様に係る回折型多焦点眼用レンズであって、前記第一の焦点が遠方視用焦点であり、且つ、他の焦点として近方視用焦点を有するものである。

本態様によれば、特に昼間の遠方視で問題となり易いブラードビジョンの抑制が、一層効果的に発揮される。即ち、遠方視用焦点における像面上における、近方視用焦点を与える回折光の振幅分布がブラードビジョンの主たる原因と考えられることから、この近方視用焦点を与える回折光による遠方視用焦点の像面上の振幅を抑えることで、問題となり易い昼間遠方視でのブラードビジョンを低下させることが可能となる。なお、上記「近方視焦点」は、遠方焦点より近くの距離に位置する焦点であって、例えば二焦点の場合の近方視焦点だけでなく、多焦点の場合の中間視焦点などを含む。

回折型多焦点眼用レンズに関する本発明の第4の態様は、第1〜3の何れかの態様に係る回折型多焦点眼用レンズであって、前記キャンセル用領域が、前記複数の回折ゾーンのうちで最内周の該回折ゾーンを除く領域に設けられているものである。

最内周の回折ゾーンは多焦点形成の起点となり、多焦点形成の機能を重点的に担うゾーンであるため、これ以外の領域にキャンセルゾーンを設けることによって多焦点形成能を確実に発現させると同時にブラードビジョンの抑制が可能となるのである。

ところで、上述の本発明の第1〜4の何れかの態様に係る回折型多焦点眼用レンズにおいては、レンズ中心から半径で少なくとも0.3mm以上で且つ2.5mm以下の範囲内に、前記キャンセル用領域が設けられていることが好適である。

このような態様では、レンズ中心から半径で少なくとも0.3mm以上で且つ2.5mm以下の範囲内に、キャンセル用領域が設けられていることとなる。これにより、キャンセル用領域を光学部の最内周の回折ゾーンを除く領域に確実に設けることができる一方、ブラードビジョンが問題となり易い昼間における瞳孔径も十分にカバーでき、より一層確実にブラードビジョンを抑圧することが可能となる。なお、本発明では、キャンセル用領域を、レンズ中心から2.0mm未満の範囲内に設けることも好適に採用され得る。

回折型多焦点眼用レンズに関する本発明の第5の態様は、第1〜4の何れかの態様に係る回折型多焦点眼用レンズであって、前記回折ゾーンが、光の位相を変調させうるための位相関数で特徴付けられた回折構造をもって形成されているものである。

本態様によれば、回折ゾーンが、光の位相を変調させうるための位相関数で特徴付けられた回折構造をもって形成されている。これにより、たとえば、光が透過するゾーンと非透過となるゾーンで組み合わせた振幅変調型の回折構造とした場合などと比較して透過光量を低下させることなく、かつ回折構造をより精度よく設計することが出来る等の利点がある。

回折型多焦点眼用レンズに関する本発明の第6の態様は、第1〜5の何れかの態様に係る回折型多焦点眼用レンズであって、前記回折ゾーンにおける回折構造の少なくとも一部の位相関数が、ブレーズ形状の関数からなるものである。

本態様によれば、回折ゾーンの少なくとも一部の位相関数をブレーズ状の関数とすることにより、ブラードビジョンの原因であるサイドバンドピーク群の位置や大きさを特定して設計するための式の簡易化が可能となり、計算機によるシミュレートの簡素化・短時間化が可能となる。また、より精度よく作製することが可能となり、より緻密な設計が出来るようになる。すなわち、よりブラードビジョンを低減できるようになるのである。

回折型多焦点眼用レンズに関する本発明の第7の態様は、第1〜6の何れかの態様に係る回折型多焦点眼用レンズであって、前記回折ゾーンにおける回折構造の位相関数がブレーズ形状の関数からなり、且つ、前記第一の焦点における像面上で、i番目の回折ゾーンとj番目の回折ゾーンのそれぞれを通過した光の振幅が互いに強め合う関係にある場合において、c番目の回折ゾーンの位置が、各該回折ゾーンを通過した光が互いに振幅を弱め合う条件としての下記数14を実質的に満足するように設定されているものである。

本態様によれば、ブラードビジョンの原因であるサイドバンドの振幅に最も寄与する、あるいはそれに準ずる振幅を特定し、かかる振幅を構成するゾーンの組合せを抽出し、数14を含む一連の関係式にてその振幅を低減するキャンセルゾーンを、c番目の回折ゾーンとして所望の位置に配することができる。これにより、サイドバンドが低減し、さらにはコンボリューションした際のエッジの強度分布が減少した回折構造を得ることができるのである。

回折型多焦点眼用レンズに関する本発明の第8の態様は、前記回折ゾーンにおける回折構造の少なくとも一部が、フレネル間隔の周期構造を有しているものである。

本態様によれば、フレネル間隔の周期構造を一部または全体に利用することにより、既知のフレネル間隔による光学特性を活用することができる。なお、フレネル間隔の周期構造は、回折ゾーンの少なくとも一部に設けられていれば良く、例えば等間隔の回折ゾーンなどの非フレネル間隔の周期構造と組み合わせて、フレネル間隔の周期構造を採用することが可能である。

回折型多焦点眼用レンズに関する本発明の第9の態様は、第1〜8の何れかの態様に係る回折型多焦点眼用レンズであって、前記回折ゾーンにおける回折構造の位相関数がブレーズ形状の関数からなり、且つ該回折ゾーンにおける回折構造がフレネル間隔の周期構造とされていると共に、該回折ゾーンにおける回折構造の0次回折光によって与えられた前記第一の焦点における像面上で、i番目の回折ゾーンとj番目の回折ゾーンのそれぞれを通過した光の振幅が互いに強め合う関係にある場合において、c番目の回折ゾーンの位置と該i番目の回折ゾーンの位置が、各該回折ゾーンを通過した光が互いに振幅を弱め合う条件としての下記数15を実質的に満足するように設定されているものである。

本態様によれば、第一の焦点における像面上の特定の動径方向位置において、i番目の回折ゾーンとj番目の回折ゾーンとによって発生する大きな振幅に対して低減効果を発揮し得るキャンセルゾーンとしてのc番目の回折ゾーンを、数学的に特定して把握することが可能となる。なお、本態様では、第一の焦点を与える回折ゾーンがフレネル間隔の周期構造であれば良く、例えばキャンセルゾーンであるc番目の回折ゾーンとi番目の回折ゾーンとの間等においては、フレネル間隔の周期構造とされる必要がない。

回折型多焦点眼用レンズに関する本発明の第10の態様は、第1〜9の何れかの態様に係る回折型多焦点眼用レンズであって、前記回折ゾーンにおける回折構造の少なくとも一部が、等間隔の周期構造を有しているものである。

本態様によれば、回折ゾーンにおける回折構造の少なくとも一部が、等間隔の周期構造を有している。これにより、ブラードビジョンの原因であるサイドバンドについての定式化がより簡便となり、容易にその位置や大きさを特定してキャンセル用領域を設計することが可能となるのである。

回折型多焦点眼用レンズに関する本発明の第11の態様は、第1〜10の何れかの態様に係る回折型多焦点眼用レンズであって、前記回折ゾーンにおける回折構造において、前記キャンセル用領域の回折ゾーンにおけるブレーズ形状の関数の傾きが、該キャンセル用領域以外の領域の回折ゾーンのブレーズ形状の傾きと反対の符号を有しているものである。

本態様によれば、キャンセル用領域の回折ゾーンにおけるブレーズ形状の関数の傾きが、該キャンセル用領域以外の領域の回折ゾーンのブレーズ形状の傾きと反対の符号を有している。これにより、キャンセル用領域の回折ゾーンで発生する振幅の正負が逆になる領域がでてくる。この領域をブラードビジョンの原因であるサイドバンドの出現位置に持ってくることにより、サイドバンドの振幅を低減、あるいは打ち消すことが可能となる。

回折型多焦点眼用レンズに関する本発明の第12の態様は、第1〜11の何れかの態様に係る回折型多焦点眼用レンズであって、前記キャンセル用領域の回折ゾーンが、該回折ゾーンにおける位置設定と、該回折ゾーンにおけるブレーズ形状の関数の位相設定と、該回折ゾーンにおけるブレーズ形状の関数の傾き設定との、少なくとも一つを異ならせて設定されているものである。

本態様によれば、キャンセル用領域の回折ゾーンと該キャンセル用領域以外の回折ゾーンとが、該回折ゾーンの位置設定と、該回折ゾーンにおけるブレーズ形状の関数の位相設定と、該回折ゾーンにおけるブレーズ形状の関数の傾き設定との、少なくとも一つを異ならせて設定されている。これにより、ブラードビジョンの原因であるサイドバンドをより低減できる条件を見出すことが可能となる。なお、2つあるいは3つすべてを再調整して、ブラードビジョンの原因であるサイドバンドをより低減できる条件を見出すようにしてもよい。なお、キャンセル用領域の各回折ゾーン間でのブレーズの相対的な位置や位相や傾きの調節設定は、回折ゾーンのブレーズ形状を所定の関数をもって表すこととし、かかる関数において、ブレーズの位置と位相と傾きに各関係する特定の定数を変更することによって効率的に行うことが可能である。

回折型多焦点眼用レンズに関する本発明の第13の態様は、第1〜12の何れかの態様に係る回折型多焦点眼用レンズであって、前記回折ゾーンにおける回折構造が、位相に相当する光路長を反映したレリーフ構造によって構成されているものである。

本態様によれば、回折ゾーンにおける回折構造が、位相に相当する光路長を反映したレリーフ構造によって構成されている。これにより、位相関数を正確に実形状の回折構造として構築することができ、かつ精度よく回折構造を製造することができる。その結果、より目的とするブラードビジョンを正確に低減できるのである。

また、上述の如き本発明に従う構造とされた回折型多焦点眼用レンズの製造に好適に採用され得る、回折型多焦点眼用レンズの製造方法に関する本発明の第1の態様は、同心円状に複数形成された回折ゾーンが設けられた光学部を備えており、該光学部によって少なくとも二つの焦点が与えられると共に、かかる焦点のうちの一つの焦点である第一の焦点におけるブラードビジョンが抑制された回折型多焦点眼用レンズを製造するに際して、以下(i)〜(iv)の工程を採用する回折型多焦点眼用レンズの製造方法を、特徴とする。 (i)少なくとも二つの焦点が与えられる前記光学部における複数の前記回折ゾーンを設定する基本形状設定工程。 (ii)該基本形状設定工程で設定した複数の該回折ゾーンによって前記第一の焦点における像面上で与えられる光の振幅分布を求める振幅情報取得工程。 (iii)該振幅情報取得工程で求めた該光の振幅分布において低減対象とするサイドバンドを決定する低減対象決定工程。 (iv)該低減対象決定工程で決定した該サイドバンドを相殺的に減少せしめる光の振幅分布を前記第一の焦点における像面上で与えるキャンセル用領域を、複数の前記回折ゾーンと共に前記光学部における明所視状態の瞳孔径に対応する領域内に形成するキャンセル用領域形成工程。

本態様の製造方法に従えば、一つの焦点における像面上でのブラードビジョンの大きな原因と考えられるサイドバンドの振幅分布を抑えるキャンセルゾーンを、明所視状態の瞳孔を透過する光線の通過領域内に形成することで、ブラードビジョンが抑えられて良好な見え方の質を与える回折型多焦点眼用レンズが、実現可能となる。

なお、本態様において、前記基本形状設定工程における回折ゾーンの設定は、回折型多焦点眼用レンズに要求される複数の焦点を与える回折構造の基本的な位相プロファイルを決定することによって行われ得る。また、低減対象決定工程における低減対象とするサイドバンドの決定は、ブラードビジョンへの影響が大きいサイドバンドが優先的に選択されることとなり、一般に、ピークエッジに近く且つ大きい回折次数が一次又は二次のサイドバンドが選択される。

回折型多焦点眼用レンズの製造方法に関する本発明の第2の態様は、前記第1の態様に従って回折型多焦点眼用レンズを製造するに際し、前記低減対象決定工程において低減対象として決定した前記サイドバンドの振幅および領域の振幅データを取得し、かかる振幅データから前記第一の焦点における像面上での光の振幅関数を求めて、かかるサイドバンドの振幅関数に対して相殺的な低減効果を及ぼす光の振幅関数を与えるキャンセル用の回折ゾーンを、前記キャンセル用領域として採用する回折型多焦点眼用レンズの製造方法である。

本態様に従えば、例えば各回折ゾーンによる回折現象を数値解析することにより、低減対象決定工程で決定した該サイドバンドを相殺的に減少させるキャンセル用領域の回折ゾーンを、高速フーリエ変換などのアルゴリズムを用いた演算によって精度良く設定することが可能になる。

なお、本態様での数値解析に際しては、好適には、0次回折光の焦点像面位置における各回折ゾーンからの振幅関数を表す以下の数16が基本式として用いられ、かかる基本式を数学的に解析することによって、本態様の数値解析が実行される。

回折型多焦点眼用レンズの製造方法に関する本発明の第3の態様は、前記第1又は第2の態様に従う回折型多焦点眼用レンズの製造方法であって、前記回折ゾーンにおける回折構造の位相関数がブレーズ形状の関数からなり、且つ、前記第一の焦点が該回折ゾーンにおける回折構造の0次回折光によって与えられるものである。

本態様に従えば、各ゾーンの位相関数がブレーズ形状の一次関数で表されるものと仮定することにより、例えば後述するように目的とするキャンセルゾーンを数学的な解析結果を利用して、効率的に調節して再設定することが可能になる。

回折型多焦点眼用レンズの製造方法に関する本発明の第4の態様は、前記第3の態様に従って回折型多焦点眼用レンズを製造するに際し、前記第一の焦点における像面上で、i番目の回折ゾーンとj番目の回折ゾーンのそれぞれを通過した光の振幅が互いに強め合う関係にある場合において、c番目の回折ゾーンの位置が、各該回折ゾーンを通過した光が互いに振幅を弱め合う条件としての前記数14を実質的に満足するように、前記キャンセル用領域の前記回折ゾーンを設定する回折型多焦点眼用レンズの製造方法である。

本態様によれば、ブラードビジョンの原因であるサイドバンドの振幅に影響が大きい振幅を効率的に特定すると共に、かかる振幅を構成するゾーンの組合せを選定し、更に、その振幅を低減してサイドバンドを抑制し得るゾーンを適切な位置に設定することが効率的に可能とされる。

回折型多焦点眼用レンズの製造方法に関する本発明の第5の態様は、前記第3の態様に従って回折型多焦点眼用レンズを製造するに際し、前記第一の焦点における像面上で、i番目の回折ゾーンとj番目の回折ゾーンのそれぞれを通過した光の振幅が互いに強め合う関係にある場合において、c番目の回折ゾーンの位置と該i番目の回折ゾーンの位置が、各該回折ゾーンを通過した光が互いに振幅を弱め合う条件としての前記数15を実質的に満足するように設定されている回折型多焦点眼用レンズの製造方法である。

本態様に従えば、フレネル間隔からなる回折構造において前記数15を利用してi番目の回折ゾーンとc番目の回折ゾーンの相対的な位置を変更設定することにより、フレネル間隔に基づく結像特性を維持したまま前記キャンセルゾーンとしてのc番目の回折ゾーンを、効率的に設計することができる。

回折型多焦点眼用レンズの製造方法に関する本発明の第6の態様は、前記第3の態様に従って回折型多焦点眼用レンズを製造するに際し、前記ブレーズ形状の関数を位相軸方向にずらして調節して、前記キャンセル用領域の回折ゾーンが前記サイドバンドに対応する振幅を弱め合うように設定する回折型多焦点眼用レンズの製造方法である。

本態様に従えば、i番目の回折ゾーンに対するc番目の回折ゾーンの相対的な位相ずれ量を変更設定することにより、前記キャンセルゾーンとしてのc番目の回折ゾーンを、効率的に設計することができる。即ち、例えばブレーズ形状の位相関数を定める座標上で、i番目とc番目の各回折ゾーンに対応する関数を各レンズ半径位置(r)において、座標上の位相軸方向に所定位相(τ)だけ相対的にずらして調節することにより、本態様における設定が行われ得る。

回折型多焦点眼用レンズの製造方法に関する本発明の第7の態様は、前記第3の態様に従って回折型多焦点眼用レンズを製造するに際し、前記キャンセル用領域の回折ゾーンにおけるブレーズ形状の関数の傾きの符号を、該キャンセル用領域以外の領域の回折ゾーンのブレーズ形状の傾きと反対の符号に設定することにより、前記サイドバンドに対応する振幅を弱め合うように設定する回折型多焦点眼用レンズの製造方法である。

本態様に従えば、i番目の回折ゾーンに対するc番目の回折ゾーンの位相定数を変量することでブレーズの傾きを調節し、前記キャンセルゾーンとしてのc番目の回折ゾーンを効率的に設計することができる。

なお、本発明方法では、上記第4〜7の各態様に係る設計手法について、必要に応じて何れか一つを選択して採用する他、それらを適宜に必要数だけ組み合わせて採用することで、キャンセルゾーンとしてのc番目の回折ゾーンひいては目的とする回折型多焦点眼用レンズを設計製造することも可能である。

すなわち、回折型多焦点眼用レンズの製造方法に関する本発明の第8の態様は、製造方法に関する前記第4又は5の態様に従う前記回折ゾーンの位置の調節と、製造方法に関する前記第6の態様に従う該回折ゾーンの位相ずれ量τの調節と、製造方法に関する前記第7の態様に従う該回折ゾーンの前記ブレーズ形状の傾きの調節との、少なくとも二つを組み合わせて調節することにより、前記サイドバンドに対応する振幅を弱め合うように設定する回折型多焦点眼用レンズの製造方法である。

エッジ強度を算出する際のコンボリューションの概念図。

本発明のキャンセル機構の概念図。

本発明の第一の実施形態としてのコンタクトレンズを示す裏面モデル図。

図3のIV−IV断面に相当する、同コンタクトレンズの断面モデル図。

図3に示すコンタクトレンズの裏面に形成されたレリーフ形状を説明するための断面モデル図。

本発明の第一の実施形態(実線)と比較例1(破線)の位相プロファイル。

比較例1(a)と本実施形態(b)における光軸上の強度分布のシミュレーション結果。

本実施形態(実線)と比較例1(破線)の0次回折光の焦点位置における点像広がり関数のシミュレーション結果。

本実施形態(実線)と比較例1(破線)の0次回折光の焦点位置におけるエッジ強度分布のシミュレーション結果。

本発明の第二の実施形態(実線)と比較例2(破線)の位相プロファイル。

比較例2(a)と本実施形態(b)における光軸上の強度分布のシミュレーション結果。

本実施形態(実線)と比較例2(破線)の0次回折光の焦点位置における点像広がり関数のシミュレーション結果。

本実施形態(実線)と比較例2(破線)の0次回折光の焦点位置におけるエッジ強度分布のシミュレーション結果。

本発明の第二の実施形態の変形例1(実線)と比較例2の変形例1(破線)の位相プロファイル。

比較例2の変形例1(a)と本実施形態(b)における光軸上の強度分布のシミュレーション結果。

本実施形態(実線)と比較例2の変形例1(破線)の0次回折光の焦点位置における点像広がり関数のシミュレーション結果。

本実施形態(実線)と比較例2の変形例1(破線)の0次回折光の焦点位置におけるエッジ強度分布のシミュレーション結果。

本発明の第二の実施形態(実線)と比較例2の変形例2(破線)の位相プロファイル。

比較例2の変形例2における光軸上の強度分布のシミュレーション結果。

本実施形態(実線)と比較例2の変形例2(破線)の0次回折光の焦点位置におけるエッジ強度分布のシミュレーション結果。

比較例2の変形例2における第3ゾーンまでの光軸上の強度分布のシミュレーション結果。

本発明の第三の実施形態(実線)と比較例2(破線)の位相プロファイル。

本実施形態における光軸上の強度分布のシミュレーション結果。

本実施形態(実線)と比較例2(破線)の0次回折光の焦点位置における点像広がり関数のシミュレーション結果。

本実施形態(実線)と比較例2(破線)の0次回折光の焦点位置におけるエッジ強度分布のシミュレーション結果。

本発明の第四の実施形態(実線)と比較例4(破線)の位相プロファイル。

比較例4(a)と本実施形態(b)における光軸上の強度分布のシミュレーション結果。

本実施形態(実線)と比較例4(破線)の0次回折光の焦点位置における点像広がり関数のシミュレーション結果。

本実施形態(実線)と比較例4(破線)の0次回折光の焦点位置におけるエッジ強度分布のシミュレーション結果。

本実施形態の等間隔領域(a)および第3ゾーン(b)における振幅関数のシミュレーション結果。

本発明の第五の実施形態(実線)と比較例5(破線)の位相プロファイル。

比較例5(a)と本実施形態(b)における光軸上の強度分布のシミュレーション結果。

本実施形態(実線)と比較例5(破線)の0次回折光の焦点位置における点像広がり関数のシミュレーション結果。

本実施形態(実線)と比較例5(破線)の0次回折光の焦点位置におけるエッジ強度分布のシミュレーション結果。

本発明の第六の実施形態(実線)と比較例6(破線)の位相プロファイル。

比較例6(a)と本実施形態(b)における光軸上の強度分布のシミュレーション結果。

本実施形態(実線)と比較例6(破線)の0次回折光の焦点位置における点像広がり関数のシミュレーション結果。

本実施形態(実線)と比較例6(破線)の0次回折光の焦点位置におけるエッジ強度分布のシミュレーション結果。

比較例7(a)と本発明の第七の実施形態(b)の位相プロファイル。

比較例7(a)と本実施形態(b)における光軸上の強度分布のシミュレーション結果。

本実施形態(実線)と比較例7(破線)の0次回折光の焦点位置における点像広がり関数のシミュレーション結果。

本実施形態(実線)と比較例7(破線)の0次回折光の焦点位置におけるエッジ強度分布のシミュレーション結果。

本発明の第八の実施形態(実線)と比較例8(破線)の位相プロファイル。

比較例8(a)と本実施形態(b)における光軸上の強度分布のシミュレーション結果。

本実施形態(実線)と比較例8(破線)の0次回折光の焦点位置における点像広がり関数のシミュレーション結果。

本実施形態(実線)と比較例8(破線)の0次回折光の焦点位置におけるエッジ強度分布のシミュレーション結果。

本発明の第九の実施形態(実線)と比較例9(破線)の位相プロファイル。

比較例9(a)と本実施形態(b)における光軸上の強度分布のシミュレーション結果。

本実施形態(実線)と比較例9(破線)の0次回折光の焦点位置における点像広がり関数のシミュレーション結果。

本実施形態(実線)と比較例9(破線)の0次回折光の焦点位置におけるエッジ強度分布のシミュレーション結果。

本発明の第十の実施形態(実線)と比較例10(破線)の位相プロファイル。

比較例10(a)と本実施形態(b)における光軸上の強度分布のシミュレーション結果。

本実施形態(実線)と比較例10(破線)の0次回折光の焦点位置における点像広がり関数のシミュレーション結果。

本実施形態(実線)と比較例10(破線)の0次回折光の焦点位置におけるエッジ強度分布のシミュレーション結果。

本実施形態における次数q

r が整数の場合(a)と整数±0.5の場合(b)の振幅関数のシミュレーション結果。

本発明の第十一の実施形態(実線)と第四の実施形態(破線)の位相プロファイル。

本実施形態における光軸上の強度分布のシミュレーション結果。

本実施形態(実線)と第四の実施形態(破線)の0次回折光の焦点位置における点像広がり関数のシミュレーション結果。

本実施形態(実線)と第四の実施形態(○)と比較例4(破線)の0次回折光の焦点位置におけるエッジ強度分布のシミュレーション結果。

本発明の第十二の実施形態(実線)と比較例12(破線)の位相プロファイル。

比較例12(a)と本実施形態(b)における光軸上の強度分布のシミュレーション結果。

本実施形態(実線)と比較例12(破線)の0次回折光の焦点位置における点像広がり関数のシミュレーション結果。

本実施形態(実線)と比較例12(破線)の0次回折光の焦点位置におけるエッジ強度分布のシミュレーション結果。

位相ずれ量τ=0(a)、−0.5π(b)および0.5π(c)における振幅関数のシミュレーション結果。

本実施形態における位相ずれ量τ付与前(a)と付与後(b)の振幅関数のシミュレーション結果。

本発明の第十三の実施形態(実線)と比較例12(破線)の位相プロファイル。

比較例12(a)と本実施形態(b)における光軸上の強度分布のシミュレーション結果。

本実施形態(実線)と比較例12(破線)の0次回折光の焦点位置における点像広がり関数のシミュレーション結果。

本実施形態(実線)と比較例12(破線)の0次回折光の焦点位置におけるエッジ強度分布のシミュレーション結果。

比較例14(a)と本発明の第十四の実施形態(b)の位相プロファイル。

比較例14(a)と本実施形態(b)における光軸上の強度分布のシミュレーション結果。

本実施形態(実線)と比較例14(破線)の0次回折光の焦点位置における点像広がり関数のシミュレーション結果。

本実施形態(実線)と比較例14(破線)の0次回折光の焦点位置におけるエッジ強度分布のシミュレーション結果。

位相定数h=0.5(a)と−0.5(b)の場合の振幅関数のシミュレーション結果。

比較例15(a)と本発明の第十五の実施形態(b)の位相プロファイル。

比較例15(a)と本実施形態(b)における光軸上の強度分布のシミュレーション結果。

本実施形態(実線)と比較例15(破線)の0次回折光の焦点位置における点像広がり関数のシミュレーション結果。

本実施形態(実線)と比較例15(破線)の0次回折光の焦点位置におけるエッジ強度分布のシミュレーション結果。

本発明の第十六の実施形態(実線)と第二の実施形態(破線)の位相プロファイル。

第二の実施形態(a)と本実施形態(b)における光軸上の強度分布のシミュレーション結果。

本実施形態(実線)と第二の実施形態(破線)の0次回折光の焦点位置における点像広がり関数のシミュレーション結果。

本実施形態(実線)と第二の実施形態(破線)の0次回折光の焦点位置におけるエッジ強度分布のシミュレーション結果。

本発明の第十七の実施形態(実線)と第四の実施形態(破線)の位相プロファイル。

第四の実施形態(a)と本実施形態(b)における光軸上の強度分布のシミュレーション結果。

本実施形態(実線)と第四の実施形態(破線)の0次回折光の焦点位置における点像広がり関数のシミュレーション結果。

本実施形態(実線)と第四の実施形態(破線)の0次回折光の焦点位置におけるエッジ強度分布のシミュレーション結果。

本発明の第十八の実施形態(実線)と第十五の実施形態(破線)の位相プロファイル。

第十五の実施形態(a)と本実施形態(b)における光軸上の強度分布のシミュレーション結果。

本実施形態(実線)と第十五の実施形態(破線)の0次回折光の焦点位置における点像広がり関数のシミュレーション結果。

本実施形態(実線)と第十五の実施形態(破線)の0次回折光の焦点位置におけるエッジ強度分布のシミュレーション結果。

比較例5(a)と第5の実施形態(b)における蛍光灯のエッジ部の実写写真。

本実施形態(実線)と比較例5(破線)の0次回折光の焦点位置におけるエッジ部の強度分布測定結果。

一般的な回折多焦点レンズ(a)と単焦点レンズ(b)を通して撮影された解像度チャート。

回折多焦点レンズにおけるブラードビジョンの発生に関する説明図。

回折多焦点レンズにおけるブラードビジョンの発生機構のモデルの説明図(I)。

回折多焦点レンズにおけるブラードビジョンの発生機構のモデルの説明図(II)。

位相プロファイルを説明する概念図。

ブレーズ形状の位相プロファイルを説明する図。

位相関数に位相ずれ量τを付与した場合の位相関数説明図。

本発明ではまずブラードビジョン改善を目的としてかかる現象の機構を説明し、かかる機構に基づくブラードビジョン改善の方法を説明する。その後、かかる方法から見出された新たな結像特性について説明し、それが近年必要性を増している多焦点レンズへ応用可能であることを説明する。そして、かかる方法や特性を具体的な実施例に基づき説明する。

光の滲みは前記したように、点像広がり関数と光源の強度分布との間のコンボリューションによって示される像面の動径方向に広がるエッジ部の光の強度分布である。よってこの滲みの原因となる光の強度分布を低減させるには、その基となる点像広がり関数のサイドバンドのピーク強度を、滲みが目立たないようなレベルにまで低減させることによって達成できる。

ブラードビジョンと称される光の滲みは、快晴時の屋外において、あるいは室内などの標準的な明るさにおける明所視といわれる明るい環境下(照度でおよそ100〜100000ルクス)で遠方を目視した時に知覚されやすいことから、かかる明所視状態での人の瞳孔径内の回折ゾーン領域に、遠方視用の焦点像面におけるサイドバンドのピーク強度が低減するような回折構造を設定することが望ましい。明所視状態での人の瞳孔径(半径)の範囲は、個人差、性別、人種差、年齢差などによって差があり一律に定めることは難しいが、本発明では、統計情報にある程度の余裕を加えて最小約0.75mmから最大で2.5mmの範囲にあると考えることができる。したがってサイドバンドのピーク強度が低減するような回折構造もかかる範囲を考慮して、明所視状態での瞳孔内となるように設定されることが望ましい。

今、特定の屈折面を有するレンズに複数の焦点を生成するための回折ゾーンが設定されているとする。遠方視用の焦点がこの回折構造における0次回折光で設定されているとすると、第n番目のゾーンの位相関数がφ(r)とされた時にかかる領域から射出される光が0次焦点像面に形成する振幅関数E(ρ)は、下式数17で表わされる。

一般に回折型多焦点レンズではレンズ中心に対して対称な形の位相プロファイルを取り扱うので、θ=0の動径方向からの振幅関数を議論するだけで十分に事足りる。この場合の振幅関数は、前記数16で表わされる。

今、このゾーン以外の領域からの振幅分布において光の滲みの原因となるサイドバンドの振幅を減少せしめる振幅関数をA(ρ)とすると、かかる領域からの振幅関数E(ρ)がA(ρ)を含むような振幅分布を与えれば、図2に示すようにお互い打ち消しあって光の滲みの成因となる振幅を低減することが可能となる。すなわち、かかる振幅分布を与えるような位相関数φ(r)を有するゾーンあるいは領域を設定することができれば、かかる光の滲みを低減することが可能となるのである。

実際の回折レンズにおいて、前記数16を数学的に解析することは困難であるため、しかるべき近似、数値解析、あるいは数値フィッティング法などによって位相関数を見積もる必要がある。かかる数値解析などによって位相関数を求めるためには専用のアルゴリズムやプログラムを用いて行う。その手順の一例として後述する本発明の第一の実施形態の場合について以下に示す。 (1)基本形状設定工程として、回折レンズの複数の回折ゾーンを設計する。 (2)振幅情報取得工程として、設計した回折レンズの振幅分布を求める。 (3)低減対象決定工程として、上記振幅情報取得工程で求めた振幅分布において、低減すべき対象のサイドバンドの振幅とその領域を定める。 (4)その領域の振幅データをサンプリングして振幅関数とする。 (5)専用のアルゴリズム、プログラムを用いて数16を解析する。 (6)キャンセル用領域形成工程として、(3)で決定したサイドバンドを相殺的に減少せしめる光の振幅分布を第一の焦点における像面上で与えるキャンセル用領域の位相関数を見積もる。

手順(1)は、例えば後述する本発明の第一の実施形態の場合で説明すると、付加屈折力Padd =2(Diopter),波長λ=546nmとして、前記数12を用いて各回折ゾーンの半径を計算する。なお、計算する範囲は、ブラードビジョンが知覚されることの多い日中の標準的な明るさにおける人の眼の平均的な瞳孔径を勘案して回折構造の最外径(半径)が1.5〜3.5mmの範囲とする。また、各回折ゾーンはブレーズ形状の位相関数を持つものとし、前記数6で定義される位相定数h=0.5とする。なお、実形状としてのブレーズ段差は、前記数7により求められる。

手順(2)は、回折レンズを設計するための専用のシミュレーションソフト、たとえば本発明に用いた回折計算シミュレーション方法や市販の波動光学設計・解析ソフトウェア(商品名:Virtual Lab(Light Trans社製))などを用いることによって振幅分布を算出することができる。具体的には、例えば後述する本発明の第一の実施形態の場合で説明すると、位相関数がブレーズ形状の線形一次式で表わされることから、手順(1)で求めた回折ゾーン半径を前記の数2または数5に代入して各回折ゾーンの位相関数を具体的に求め、かかる位相関数を前記数16に代入して、各回折ゾーンごとの振幅を算出する。光の強度分布は、回折ゾーンごとの振幅を合算し、その共役絶対値として算出する。

手順(3)で光の滲みの状態を想定して、これを打ち消すためのサイドバンドの領域を特定する。特にサイドバンド分布の中でも周辺領域に存在する比較的強度の大きなサイドバンドは広がりのある滲みとして知覚されやすいので、かかる滲みの範囲が狭くなるようにサイドバンドピークを特定するのが望ましい。

手順(4)(5)(6)に係る具体的な計算方法としては、前記数16がフーリエ変換の形式として表わされているので、手順(3)で特定したサイドバンドを打ち消すような振幅A(ρ)を含む振幅関数を数16のE(ρ)へ代入し、たとえば高速フーリエ変換などのアルゴリズムを用いることによって、キャンセル用領域の位相関数φ(r)を見積もることができる。なお、かかる打ち消すための光の振幅を射出するためのゾーンの位相関数は、所望の割合で設計された遠方、近方、あるいは中間領域を含む各焦点位置の光の配分比に大きな変化を与えない範囲で決定されるのが望ましい。

かかる数値解析以外に、ゾーンの位相関数がブレーズ形状の関数で表わされる場合は、以下の理論式に基づきサイドバンドを低減できる条件を簡単に見積もることもできる。位相関数がブレーズ形状の線形一次式で表わされる場合、前記数16は下式数18で表わされる。数18は、振幅関数がSinc関数を包絡線として周期的に変化するcos関数で表わされることを示している。つまり、Sinc関数が大局的な周期分布を支配して表す一方、cos関数が細部の微小な周期変化を支配して表すものと考えられる。複数のゾーン間で振幅がどの地点で強め合ったり弱め合うかの位相情報は、Sinc関数の極(正負の領域)が同一の領域においてはcos関数間の挙動に支配される。今、任意のi番目とj番目の二つのゾーンにおいて位相ずれ量τがτ=0で、それぞれのゾーンの振幅関数のうちSinc関数の極が同じであるとした場合、下式数19で定められる像面上のρe 地点で両ゾーンからの光の振幅が強め合う。

一方、かかる2つのゾーンから選ばれた一つのゾーン(たとえばri 〜ri-1 )と、これらゾーンとは異なるゾーン(rc 〜rc-1 )において、振幅が弱めあう地点ρr は、下式数20で表わされる。

ここで、ρe とρr が同一地点にあれば、かかる異なるゾーン(rc 〜rc-1 )は、該位置にて前記二つのゾーン(ri 〜ri-1 とrj 〜rj-1 )によって強め合った振幅を特定し、弱め合うための波を選択的に送り出せるようになる。つまり、ρe r より、前記数14の関係式が得られる。

サイドバンドの振幅に最も寄与する、あるいはそれに準ずる振幅を特定し、かかる振幅を構成するゾーンの組合せを抽出し、前記数19,数20,数14の一連の関係式にてその振幅を低減するゾーンを所望の位置に配することによってサイドバンドが低減し、ひいてはコンボリューションした際のエッジの強度分布が減少した回折構造を得ることができるのである。

今、これらゾーンがフレネル間隔の回折構造を有しており、ゾーンrc 〜rc-1 、ゾーンri 〜ri-1 、rj 〜rj-1 のそれぞれの第1ゾーン半径をR1 ,R2 ,R2 とすると、前記数14は前記数12を用いて前記数15のように表わすことができる。

かかる関係式の数15を用いてエッジの強度分布が改善された具体例について、以下に示す。なお、本発明で用いられる計算シミュレーションの方法、条件、出力データは、以下に示す通りである。

計算ソフトは、スカラー回折理論と呼ばれる該分野にて知られた理論から導出される回折積分式に基づいて各ゾーンからの振幅分布や強度分布を計算できるものを用いた。かかる計算ソフトを用いて光軸上の強度分布、像面上の強度分布(または点像広がり関数)を計算した。計算に際しては、光源は遠方に存在する点光源として設定し、レンズには同位相の平行光が入射するとして計算した。また、物体側空間および像側空間の媒体は真空、レンズは収差が存在しない理想レンズ(レンズから出た光は射出位置に関わらず全て同一の焦点に結像する)として計算した。また計算は、波長=546nm、レンズの0次回折光の屈折力(ベースとなる屈折力)=7D(Diopter)、で行った。

光軸上の強度分布は、レンズを基点とした光軸上の距離に対する強度をプロットした。また、点像広がり関数は、像面の動径角度がゼロの方向において像面中心から半径方向の距離に対する強度をプロットした。ちなみにρ=0の地点が主ピークの最大強度位置になっている。振幅関数は、前記数18で表わされるものを用い、点像広がり関数と同様に像面の中心から半径方向の距離に対する振幅値をプロットしたもので示す。

エッジ強度分布は、前記シミュレーション計算から得られた点像広がり関数の数値データを前記数11に基づき像面動径方向に亘ってNΔεずつ平行移動してずらし、積算範囲全域に亘って合算したものをかかる強度分布とした。なお、ここではM=250、Δε=0.003mmとして計算した。

計算対象のゾーン範囲は、ブラードビジョンが知覚されることの多い日中の標準的な明るさにおける人の眼の平均的な瞳孔径を勘案してレンズの回折ゾーンの最大径(半径)がほぼ1.5〜2.5mm内に入るような範囲とし、特に断りがない限り各表に示されるゾーン全域を計算対象とした。また、各実施例と比較例との対比においては計算対象の開口径がほぼ同じになるように計算対象のゾーン範囲を設定した。また、特に断りがない限り、点像広がり関数及びエッジ強度分布図の縦軸は、算出される強度の絶対値で表示し、各実施形態とその比較例との対比においては強度値のスケールは一定とした。

なお、本発明のシミュレーション計算では0次回折光の焦点位置を7(Diopter)( 焦点距離:f=142.8mmに相当) に設定して行っているため、像面座標の横軸の値はかかる焦点位置に限定したものである点に注意する必要がある。異なる焦点距離に変更した場合の像面の位置は、下式数21を用いて換算すればよい。

たとえば焦点距離が16.6mm(眼光学系を一つの理想的なレンズとした場合の焦点距離)の場合の像面位置ρ’は、本実施例における像面位置をρとするとρ’=(16.6/142.8)×ρ=0.116×ρとして換算した値に相当する。

引き続き、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。

先ず、図3に、本発明における回折型多焦点眼用レンズに係る、第一の実施形態としてのコンタクトレンズである眼用レンズ10の光学部12の裏面図をモデル的に示すと共に、図4に、同眼用レンズ10の光学部12の断面図をモデル的に示す。

眼用レンズ10は、中央の大きな領域が光学部12とされており、光学部12の外周側には公知の周辺部とエッジ部が形成されている。また、光学部12は、全体として略球冠形状の凸面を有する光学部前面14と、全体として略球冠形状の凹面を有する光学部後面16をもって形成されている。そして、眼用レンズ10の光学部12は、レンズを近視矯正用とする場合は全体として、中心部が僅かに薄肉とされた略お椀形状とされており、遠視矯正用とする場合は中心部が僅かに膨らんだ略お椀形状とされ、幾何中心軸としてのレンズ中心軸18を回転中心軸とする回転体形状とされている。このような眼用レンズ10は、眼球の角膜上に直接装着される。従って、眼用レンズ10の光学部12の径は直径で、概ね4〜10mmで形成されていることが望ましい。

眼用レンズ10の光学部12は、その光学部前面14および光学部後面16が屈折面とされている。そして、これら光学部前面14および光学部後面16による屈折光(0次回折光)に対して第一の焦点が設定されており、本実施形態では、遠方視用焦点が設定されている。

なお、眼用レンズ10の形成材料としては、光透過性等の光学特性を備えた各種の重合性モノマーからなる従来公知の樹脂材料やゲル状の合成高分子化合物 (ハイドロゲル) 等が好適に採用され、具体的には、ポリメチルメタクリレート(PMMA)やポリヒドロキシエチルメタアクリレート(Poly−HEMA)等が例示される。

そして、特に本実施形態における光学部後面16には、回折構造20が形成されている。回折構造20は、レンズ中心軸18を中心として同心円状に複数形成され、レンズ周方向に連続して円環状で延びる、径方向の起伏形状であるレリーフ21を含んで構成されている。そして、本実施形態では、この回折構造20による回折+1次光により、遠方視用焦点よりも小さな焦点距離を有する焦点(近方視用焦点)が設定されている。なお、個々の回折構造20は前述のように、ゾーン(回折ゾーン)もしくは輪帯と呼ばれており、光の位相を変調させうるための位相関数で特徴づけられている。

図5(a)に、光学部後面16におけるレリーフ21の径方向の拡大断面図を示す。なお、図5においては、理解を容易とするために、レリーフ21の大きさを誇張して示している。図5(a)に示すように、レリーフ21の形状は、眼用レンズ10のもともとの光学部後面16の形状を反映して、右上がりの階段状の形状を呈している。眼用レンズ光学部の前面及び後面が単一の屈折力を有するように設定されている場合は、光学部後面16は、前記定義にて説明したr−φ座標(図97)における基準線と解して相違ない。また、図5(a)において、レリーフ21を境として下方の領域はコンタクトレンズの基材からなっており、上方の領域は外部の媒体となっている。理解を容易にするため、今後は眼用レンズ10のもともとの光学部後面16の形状を除いた状態で、即ち、図5(b)に示すように、光学部後面16を径方向で直線的なx座標軸としてレリーフ21の形状の検討を進めることにする。

図5(b)に示すように、レリーフ21は、レンズ中心軸18を中心として同心円状に延びると共に、眼用レンズ10の外方(図4乃至5中、上方)に向けて突出する稜線22と、眼用レンズ10の内方(図4乃至5中、下方)に向けて突出する谷線24を有する起伏形状とされている。

なお、以下の説明において、格子ピッチとは、稜線22と谷線24の間の径方向幅寸法をいう。また、ゾーンとは、稜線22と谷線24の間をいい、各ゾーンには、中央のゾーンを1として、ゾーン方向外方に向けて2,3,…のゾーン番号が割り振られる。また、ゾーン半径とは、各ゾーンの外周半径、換言すれば、各ゾーンにおいて同心円の中心(本実施形態においては、レンズ中心軸18)に対して外側に位置する稜線22又は谷線24の同心円の中心からの半径をいう。従って、格子ピッチは各ゾーンの径方向幅寸法であり、所定ゾーンの格子ピッチは、該ゾーンのゾーン半径と、該ゾーンよりもゾーン番号が1つ小さいゾーンのゾーン半径との差となる。ここではコンタクトレンズの具体例とともにレリーフ構造からなる回折構造20について説明したが、以降の説明に際してはレリーフ設計の基となる位相関数または位相プロファイルにて回折構造20を説明することとする。よって今後、特に断りがない限り回折構造20としての位相プロファイルを図97に示すr−φ座標系で表すこととする。

図6に、本発明の第一の実施形態としての各ゾーンがブレーズ形状の位相関数から構成された位相プロファイル26と、比較例1としてのフレネルゾーンプレート(位相プロファイル28)の形状の拡大断面図を示す。なお、本実施形態の位相プロファイル26の詳細を下記表1に、また比較例の位相プロファイル28の詳細を下記表2に、示す。

比較例1は、近方視用の焦点位置を定める付加屈折力Padd が遠方視用の焦点に対して2(Diopter)となるようなフレネル間隔で構成され、また図7(a)に示すように遠方視用と近方視用の光の強度がほぼ等しくなるように各ゾーンの位相定数がh=0.5の一定とされたものである。比較例1の遠方視用焦点における点像広がり関数の強度分布を図8の破線で示した。この強度分布図は主ピークの周辺を拡大して示したものである。以降の点像広がり関数の強度分布図においても同じく拡大図で示すこととする。この強度分布からエッジ強度分布を算出すると図9の破線のようになることが分かった。比較例1の回折レンズではかかるエッジ強度分布に基づく光の滲みが観察されることが予想される。

一方、本実施形態は、第1ゾーンと第2ゾーンの位置と間隔は比較例1と同じで、第2ゾーンを数14のc番目のゾーンとし、第3ゾーン以降のゾーンの位置と間隔を関連の数式を用いて再設定したものである。すなわち、本実施形態では、第2ゾーンがキャンセル用領域として設定されており、キャンセル用領域の回折ゾーンとキャンセル用領域以外の回折ゾーンとが、回折ゾーンにおける位置設定を異ならせて設定されている。具体的には本実施形態の第4ゾーンと第5ゾーンは数14におけるi番目とj番目のゾーンに対応するとし、両者の間で次数qe =1で振幅が強め合う位置が、第2ゾーンとi番目のゾーン間の次数qr =2で振幅が弱め合う位置と一致するように第4ゾーンと第5ゾーンの位置と間隔を再設定したものである。また、数15より第3ゾーンを除く全てのゾーンが、付加屈折力Padd が2(Diopter)のフレネル間隔となるように定められている。本実施形態は比較例1の第2ゾーンまで同じであるが、第4ゾーンと第5ゾーンは数14に基づく位置関係を維持しつつフレネル間隔を形成するために第2ゾーンと第4ゾーンの間にギャップが生じることとなる。本実施形態ではこのギャップも構成ゾーンの一つと見なし、第3ゾーンとして取り扱っている。以降の実施形態においてもかかるギャップが生じたものは同じく構成ゾーンの一つとして取り扱うことにする。

本実施形態の第6ゾーンまでを含む開口の光軸上の強度分布を図7(b)に示す。本実施形態では第3ゾーンの間隔は若干狭くなるが、光軸上の強度分布は比較例1(図7(a))と比較して変化はなく、かかる再設定操作によって遠近への光の分配にほとんど影響を与えていないことが分かる。図8の実線で示された点像広がり関数は、ρが約0.3〜0.36mmの領域のサイドバンドが明らかに減少した分布を示し、コンボリューションの結果としてのエッジ強度分布(図9の実線)においても強度が減少していることが分かる。

なお、本実施形態におけるエッジの強度分布の低減量は僅かに見えるかもしれないが、ここに示したエッジ強度分布は一次元の線状光源でのシミュレーション結果であり、光源が二次元的な面状の広がりを持つ場合、この差はさらに拡大されることに注意すべきである。つまり実際に物を見る時には対象物体の多くは二次元的な広がりを持っており、かかるシミュレーション結果で僅かな差であっても二次元の物体に対するこの改善度合いは増強され明確な滲みの低減となるのである。以上のことから、本実施形態では遠近の強度比に変化を与えることなくエッジ強度を低減できうる位相プロファイルとなっていることが分かる。

以上、本発明の一実施形態について詳述してきたが、これはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態における具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものではない。以下に、本発明において好適に採用され得るその他の態様を幾つか示すが、本発明が以下の態様に限定されることを示すものではないことが理解されるべきである。なお、以下の説明において、前述の実施形態と実質的に同様の部材および部位については、前述の実施形態と同様の符号を付することによって、詳細な説明を省略する。

図10に、本発明の第二の実施形態としての位相プロファイル30と、比較例2としての位相プロファイル32を示す。なお、本実施形態の位相プロファイル30の詳細を表3に、また比較例2の位相プロファイル32の詳細を表4に、示す。

比較例2は、前記比較例1の計算対象の開口径を拡大し、第6ゾーンまで計算対象としたもので、位相定数及び付加屈折力は比較例1と同じである。比較例2の光軸上の強度分布、点像広がり関数、エッジ強度分布を図11(a)、図12の破線、図13の破線、にそれぞれ示す。

本実施形態は、第1ゾーンから第3ゾーンの位置と間隔は比較例2と同じで、第3ゾーンを数14のc番目のゾーンとし、第4ゾーン以降のゾーンの位置と間隔を関連の数式を用いて再設定したものである。すなわち、本実施形態では、第3ゾーンがキャンセル用領域として設定されている。具体的には、本実施形態の第5ゾーンと第7ゾーンは数14におけるi番目とj番目のゾーンに対応するとし、両者の間で次数qe =2で振幅が強め合う位置が、第3ゾーンとi番目のゾーン間の次数qr =2で振幅が弱め合う位置と一致するように第5ゾーンと第7ゾーンの位置と間隔が再設定されたものである。また、数15より第4ゾーンを除く全てのゾーンが、付加屈折力Padd が2(Diopter)のフレネル間隔となるように定められている。本実施形態は比較例2の第3ゾーンまで同じであるが、第5以降のゾーンを、フレネル間隔を保持しつつ振幅が打ち消されるように再設定した都合上、第3ゾーンと第5ゾーン間にはギャップが生じている。本実施例ではこのギャップを第4ゾーンとみなし、構成ゾーンの一つとしている。結果として第4ゾーンの間隔が少し狭くなった形になっているが、かかる位相プロファイルにおける光軸上の強度分布(図11(b))は比較例2(図11(a))と比べてほとんど差異がなく遠近の光の配分割合を崩していないことが分かる。にもかかわらず点像広がり関数(図12の実線)はρが0.36〜0.44mmの範囲のサイドバンドが明確に減少しており、コンボリューションの結果としてのエッジの強度も図13の実線に示すように低減されていることが分かる。

このように標準的なフレネル間隔から構成される従来からの回折型多焦点眼用レンズにおいて、かかる方法によってゾーン位置と間隔を僅かに再編成するだけで光の滲みが低減された回折多焦点眼用レンズを得ることができるのである。

図14に、本発明の第二の実施形態の変形例1としての位相プロファイル34と、比較例2の変形例1としての位相プロファイル36を示す。なお、本実施形態の位相プロファイル34の詳細を下記表5に、また比較例2の変形例1の位相プロファイル36の詳細を下記表6に、示す。本実施形態では、第3ゾーンがキャンセル用領域として設定されている。

本実施形態では、第二の実施形態における間隔の狭い第4ゾーンにブレーズ構造を設けることによる製造上の困難さを、屈折領域に代替することによって回避しつつエッジ強度分布が低減されうることを示す例である。本実施形態の光軸上の強度分布、点像広がり関数、エッジ強度分布を、図15(b)、図16の実線、図17の実線、にそれぞれ示す。第4ゾーンを屈折領域としても第二の実施形態と同様にエッジ強度の減少効果は維持されていることが分かる。このようにギャップとして生じる第4ゾーンは、回折構造20中で占める割合が低いため、この例で示すような屈折領域、あるいは別の製造しやすい回折構造20としても、影響は少ないのである。このような設定は第二の実施形態に対してだけでなく、他の例においても等しく適用できるものである。なお、比較例2の変形例1は、本実施形態の光軸上の遠方と近方の強度比と合致させるために比較例2における第4ゾーンの位相定数(h)を0.45で設定し直したものである。

図18に、前述の本発明の第二の実施形態としての位相プロファイル30と、比較例2の変形例2としての位相プロファイル38を示す。なお、比較例2の変形例2の位相プロファイル38の詳細を表7に、示す。

比較例2の変形例2は、比較例2の位相定数(h)を変更して第二の実施形態と同程度のエッジ強度分布を得るようにしたものである。具体的には、第1ゾーンから第3ゾーンの位相定数(h)を0.6とすると共に、第4ゾーンから第6ゾーンの位相定数(h)を0.4とした。これにより、第二の実施形態とほぼ同程度のエッジ強度分布を達成できており(図20)、また光軸上の強度分布もほぼ同じものが得られていることが分かる(図19)。

以上の結果からは、従来の回折構造(比較例2)でも位相定数(h)の調整だけで第二の実施形態と同様のエッジ低減効果が得られるように見えるが、比較例2の変形例2では第1ゾーンから第3ゾーンまでの位相定数(h)を0.6とし、近方への光の配分を増すような設定となっている。このゾーン範囲に相当する開口径での光軸上の強度分布は図21に示すように近方側の強度が大きく、遠方側の強度が小さくなるという遠近の強度のバランスが崩れたものとなってしまう。したがってかかるゾーン範囲に該当する環境下、たとえば日中の屋外などのかなりの明るさがあり瞳孔が小さくなっている状況下では、遠方を見る時にその見え方が損なわれることが予想される。このように従来の回折構造(比較例2)では、遠近あるいは遠方と他焦点位置間の光の配分割合を変更してエッジ強度分布を低減せしめるしかなかったのに対して、本発明では数14に基づきゾーン間の配置を再設定するという簡単な操作で、目的とする遠近の光の配分割合を大きく変えることなくエッジの強度を低減させることができ、光の滲みを抑えることができるのである。

なお、位相定数(h)を変更して各焦点への光の配分を調整する方法は、本発明の方法においてもエッジ強度の低減を図りつつ、各焦点位置における見え方のバランスを取る上で有用であるため、かかる位相定数(h)の変更を併用することは一向に構わない。

図22に、本発明の第三の実施形態としての位相プロファイル40と、比較例2としての位相プロファイル32を示す。なお、本実施形態の位相プロファイル40の詳細を、下記表8に示す。

本実施形態は、比較例2の第4ゾーンから第6ゾーンの位置と間隔はそのまま変えずに、第1ゾーンから第3ゾーンの位置と間隔を関連の数式を用いて再設定したものである。具体的には、本実施形態における第5ゾーンと第6ゾーンを数14のi番目とj番目のゾーンとし、両者の間で次数qe =1で振幅が強め合う位置が、c番目ゾーンとした第3ゾーンと、i番目のゾーン間の次数qr =2で振幅が弱め合う位置と一致するように、第1ゾーンから第3ゾーンのゾーンの位置と間隔が再設定されたものである。すなわち、本実施形態では、第3ゾーンがキャンセル用領域として設定されている。なお、ゾーンの再設定に際して付加屈折力Padd は2(Diopter)のままとした。第一または第二の実施形態では中央近傍のゾーンを固定し、それより外側のゾーンをずらした形態となっているのに対して、第三の実施形態では周辺のゾーンの位置と間隔を固定し、それより内側のゾーンをずらした形態になっている。このように周辺の開口径を先に定める必要がある場合の設計に際して、本実施形態の設定は有用となり得る。

本実施形態の光軸上の強度分布を図23に示す。本実施例では、第3ゾーンを含む内側のゾーンもフレネル間隔となるように第1ゾーンの半径が、比較例1,2や第一および第二の実施形態より小さくなっている。このように通常のフレネル間隔とは第1ゾーンの半径が異なり且つ第4ゾーン如きギャップが存在するものの、遠方と近方のそれぞれの焦点位置に比較例2(図11(a))と同等の明確なピークが形成されるようになっていることが分かる。従って、かかる再設定操作によって当初設定した各焦点位置での光の配分にほとんど影響を与えないことが分かる。

本実施形態の点像広がり関数を図24の実線に示す。この図より、ρ=0.39〜0.42mmのサイドバンドのピーク強度が減っていることが分かる。かかる位置は第5ゾーンと第6ゾーン間の干渉の結果発現するピークで、本実施例のゾーン位置の再設定によって選択的に低減されたことが分かる。この場合のエッジ強度分布を図25に示した。この図から比較例2(破線)と比べるとエッジ強度の膨らみが低減されていることが分かる。

なお、本実施形態ではエッジ近傍のρ=0.95mm付近で比較例2よりもふくらみが増すエッジ強度分布(図25)となっているが、これは点像広がり関数においてρ=0.23〜0.27mm付近のサイドバンド強度が増えた(図24)ことが原因である。このようにエッジの周辺部の強度を低減できる一方で、場合によってはこれより内側で強度が若干増すこともある。しかし、この強度が増した領域とエッジの境との領域範囲が、人が物を識別する際の眼の分解能の最少単位内に入っていれば、この領域内でのエッジ強度が大きくなっても人はそれを識別できず、光の滲みとして知覚されることはなくなる。よってエッジに非常に近い領域の強度分布に関してはさほど注意を払う必要はないのである。

かかる位相プロファイルを有する回折レンズでは、光の滲みが低減されると同時に第1ゾーンの半径が小さく設定されていることから、小開口径内に多焦点機能を十分に発現するに必要な回折ゾーン領域を設置し得るという点から、加齢と伴に瞳孔径が小さくなった高齢者向けのコンタクトレンズ、あるいは白内障手術後に眼内に挿入される眼内レンズとして有用なものとなる。

本発明では、フレネル間隔以外の間隔を有する回折構造20においても同様に数19,数20,数14が適用できる。たとえばゾーンの間隔が互いに等しい等間隔の領域を有する回折構造20も多焦点を形成することができるので、回折型多焦点眼用レンズとして有用である。このような等間隔領域を有する回折構造20に対してのエッジ強度の低減例について以下に示す。まず、等間隔ゾーンが隣接している領域の振幅分布の低減例について説明する。

図26に、本発明の第四の実施形態としての位相プロファイル42と、比較例4としての位相プロファイル44を示す。なお、本実施形態の位相プロファイル42の詳細を下記表9に、また比較例4の位相プロファイル44の詳細を下記表10に、示す。

比較例4は、中央の第1ゾーンから第4ゾーンまでが付加屈折力Padd が2(Diopter)となるようなフレネル間隔から構成され、その周辺の第5ゾーンと第6ゾーンの間隔が、Δr=0.275mmの等間隔領域となっているものである。比較例4の第6ゾーンまでを含む開口の光軸上の強度分布を図27(a)に示す。等間隔領域を含む回折レンズでは設定された付加屈折力に対応する焦点以外に、等間隔領域から射出される光によって中間領域にも焦点生成可能なピークを形成するという特徴を有する。かかる特性は、パソコンモニターを見るなどの中間領域の対象物も併せて視認できる多焦点眼用レンズとして有効なものである。

しかし、かかるレンズの点像広がり関数は、図28の破線に示すようにρ=0.3mm付近に強度の大きな急峻なピークが形成される。これは、等間隔領域からの光の振幅は像面の特定の位置で選択的に強め合うという特徴に由来するものである。比較例4のこのピークの出現位置は、第5ゾーンと第6ゾーンの間隔Δr=0.275mmとして計算されるqe =1における強め合った振幅の出現位置と一致している。かかる点像広がり関数のコンボリューションによるエッジ強度分布を図29の破線に示した。この図に示すようにこのような急峻なピークを有する場合、そのコンボリューションとしてのエッジ強度分布は瘤状のふくらみのある分布となる。かかるエッジ強度分布によれば像の近傍で強い光の滲みが発生することが予想される。

本実施形態は、第1ゾーンから第3ゾーンまでは比較例4と同じとし、第3ゾーンを数14のc番目のゾーンとし、かかる数式に基づき第5ゾーンと第6ゾーンの等間隔領域の配置をΔr=0.275mmを維持しつつ再設定したものである。すなわち、本実施形態では、第3ゾーンがキャンセル用領域として設定されている。なお、等間隔領域の強め合う地点の次数はqe =1とし、かかる次数の強め合う振幅を打ち消すための第3ゾーンの次数は、qr =2とした。

本実施形態の第6ゾーンまでを含む開口径を対象とした光軸上の強度分布を図27(b)に示す。近方のみならず中間にも焦点形成用ピークが生成しており、かつ各焦点位置の強度比は比較例4(図27(a))とほとんど変わっていないことが分かる。これよりかかるゾーンの再設定を行うことによる各焦点への光の配分にほとんど影響がないことが分かる。本実施形態の点像広がり関数を図28(実線)に示す。図よりρ=0.3mmの急峻なピークがほぼ半分程度まで強度が減じられていることが分かる。かかる点像広がり関数のコンボリューションに基づくエッジ強度分布を図29(実線)に示す。これより比較例4で認められた瘤状の膨らみがなくなっていることが分かる。なお、本実施形態では比較例4よりも遠方への光の配分割合が少し減っており、その影響でエッジ強度の低減割合が少し大きくなっているが、最大強度で規格化した相対的なエッジ強度分布(図示せず)においても明確に瘤状の出っ張りが削減されていることから、かかる構造によって光の滲みがかなり低減されることが分かる。

本実施形態は、第3ゾーンの位置は比較例4と同じで固定し、等間隔領域の振幅が強め合う地点でこれを打ち消す波を送り出すように数式を用いて等間隔領域の位置を設定したものである。この関係を前記数18の振幅関数に基づいて図示したのが図30である。第5ゾーンと第6ゾーンからの振幅関数はρ=0.29mm付近で位相が一致し振幅が強め合っていることが分かる(図30(a)矢印)。第3ゾーンからの振幅は第5ゾーンと第6ゾーンからの振幅が強め合う地点でちょうど逆位相になっていることが図30(b)から良く分かる。かかる配置は僅かに位置をずらしただけの処置となっているが、かかる再設定だけも大きなエッジ強度の低減効果をもたらしうることが分かる。

図31に、本発明の第五の実施形態としての位相プロファイル46と、比較例5としての位相プロファイル48を示す。なお、本実施形態の位相プロファイル46の詳細を表11に、また比較例5の位相プロファイル48の詳細を表12に、示す。

比較例5は、中央の第1ゾーンから第3ゾーンまでが付加屈折力Padd が2(Diopter)となるようなフレネル間隔から構成され、その周辺の第4ゾーンと第5ゾーンの間隔が、Δr=0.35mmの等間隔領域となっている位相プロファイルについて示したものである。比較例5の第5ゾーンまでを含む開口の光軸上の強度分布を図32(a)に示す。比較例5も近方ピーク以外に等間隔領域を含むことによる中間領域焦点形成ピークが出現することが分かる。比較例5では、等間隔領域がΔr=0.35mmで構成されており、かかる間隔のqe =1で強め合う時の振幅位置はρ=0.223mmとなる。比較例5の点像広がり関数(図33破線)において果たしてρ=0.22〜0.26mmにおいて急峻なピークが生成していることが分かる。かかる場合のエッジ強度は図34(破線)のようになり、ピークが像面中心に近づいた分、エッジ強度分布も膨らみのある位置がよりエッジの近くに近づくことが分かる。かかるエッジ強度分布から比較例4と同様に像のエッジ近傍で光の滲みが大きくなることが予想される。

本実施形態では、第2ゾーンまでは比較例5と同じで、第2ゾーンを数14のc番目のゾーンとし、数式に基づき第4ゾーンと第5ゾーンの配置を間隔Δr=0.35mmを維持しつつ再設定したものである。すなわち、本実施形態では、第2ゾーンがキャンセル用領域として設定されており、キャンセル用領域の回折ゾーンとキャンセル用領域以外の回折ゾーンとが、回折ゾーンにおける位置設定を異ならせて設定されている。なお、第4ゾーンと第5ゾーンの強め合う地点の次数は、qe =1とし、かかる強め合う振幅を打ち消すための第2ゾーンの次数は、qr =2とした。なお、本実施形態においては比較例5との間で各焦点の強度比を合わせるために表11に示すように位相定数を若干変更した。

本実施形態では第3ゾーンの間隔を少し圧縮するように間隔を狭めた以外は比較例と全く同じ間隔となっている。本実施形態の第5ゾーンまでを含む開口径での光軸上強度分布を図32(b)に示す。これより実施例5においても比較例5と同様の強度比となっていることが分かる。

本実施形態の点像広がり関数(図33実線)においては、ρ=0.17〜0.19mmにかけてのピーク強度が少し増大する結果となったが、目的とするρ=0.22〜0.26mm付近の急峻なピークの強度が有意に低下していることが分かる。総合的にはこの場合のエッジ強度分布は図34(実線)に示す通り、エッジ近傍の膨らみをえぐるように強度が低下していることが分かる。よって本実施形態においても光の滲みが相当低減されることが分かる。

図35に、本発明の第六の実施形態としての位相プロファイル50と、比較例6としての位相プロファイル52を示す。なお、本実施形態の位相プロファイル50の詳細を表13に、また比較例6の位相プロファイル52の詳細を表14に、示す。

比較例6は、中央の第1ゾーンから第3ゾーンまでが付加屈折力Padd が2.5(Diopter)となるようなフレネル間隔から構成され、その周辺の第4ゾーンと第5ゾーンの間隔が、Δr=0.3mmの等間隔領域となっている位相プロファイルについて示したものである。比較例6の第5ゾーンまでを含む開口の光軸上の強度分布を図36(a)に示す。比較例6も近方ピーク以外に等間隔領域を含むことによる中間領域焦点形成ピークが出現することが分かる。なお、付加屈折力Padd が2.5(Diopter)としたことによって近方用の焦点位置がこれまでの実施例よりもよりレンズ側に近づいていることが分かる。比較例6では、等間隔領域がΔr=0.3mmで構成されており、かかる間隔のqe =1で強め合う時の振幅位置はρ=0.26mmと計算される。比較例6の点像広がり関数(図37破線)において果たしてρ=0.26〜0.29mmにおいて急峻なピークが生成していることが分かる。かかる場合のエッジ強度は図38(破線)のようになり、膨らみのある強度分布を示すことが分かる。かかるエッジ強度分布から像のエッジ近傍で光の滲みが大きくなることが予想される。

本実施形態では、第2ゾーンまでの間隔は比較例6と同じで、第2ゾーンを数14のc番目のゾーンとし、数式に基づき第4ゾーンと第5ゾーンの配置を再設定したものである。すなわち、本実施形態では、第2ゾーンがキャンセル用領域として設定されている。なお、等間隔領域の強め合う地点の次数はqe =1とし、かかる次数の強め合う振幅を打ち消すための第2ゾーンの次数は、qr =2とした。なお、本実施形態においても比較例6との間で遠近の強度比を合わせるために表13に示すように位相定数を若干変更した。

本実施形態でも第3ゾーンの間隔を少し圧縮するように狭めた以外は比較例6と全く同じ間隔となっている。実施例6の第5ゾーンまでを含む開口径での光軸上強度分布を図36(b)に示す。これよりゾーンの再設定を行っても各焦点位置の強度比にほとんど影響がないことが分かる。

一方、図37(実線)に示す点像広がり関数においては、ρ=0.26〜0.29mmにかけての急峻なピークの強度が半分以下に低減されていることが分かる。この場合のエッジ強度分布は、図38(実線)に示す通りでエッジ近傍の膨らみがへこみ、強度が明らかに低下していることが分かる。本実施形態においても、このようにゾーンの配置を僅かに変えるだけで所定の遠近の配分割合にほとんど影響を与えることなく光の滲みを相当低減できることが分かる。

図39に、比較例7としての位相プロファイル54と、本発明の第七の実施形態としての位相プロファイル56を示す。なお、本実施形態の位相プロファイル56の詳細を表15に、また比較例7の位相プロファイル54の詳細を表16に、示す。

比較例7は、中央の第1ゾーンから第3ゾーンまでが付加屈折力Padd が2(Diopter)となるようなフレネル間隔から構成され、その周辺の第4ゾーンから第6ゾーンの間隔が、順番に0.35mm、0.2mm、0.35mmとなっており、Δr=0.35mmの等間隔ゾーンが隣接しないように設定されている。図40(a)に、第6ゾーンまでを含んだ開口径を対象とした光軸上の強度分布を示した。かかるプロファイルではΔr=0.35mmの等間隔ゾーンが間隔の異なるゾーンを隔てて配されているが、等間隔の特性である近方から中間領域にかけて複数の独立したピークが出現するという強度分布を示す。比較例7では、第4ゾーンと第6ゾーンが第5ゾーンによって隣接せずに配されており、かかる位置関係で振幅が強め合う地点は次数qe =2でρ=0.284mmとなる。一方、間隔が0.35mmと0.2mmのゾーン間での強め合う地点は、次数qe =1でρ=0.284mmとなり、同じ地点で振幅が強め合うプロファイルとなっている。このように特定の地点で振幅が強め合うことから、果たして図41(破線)に示す点像広がり関数においてもρ=0.26〜0.29mmの位置で急峻なピークが出現することが分かる。かかる場合のエッジ強度分布は図42(破線)に示す通りで、階段状の膨らみのある強度分布となることが分かる。かかる強度分布から像の近傍に強度な光の滲みが生じる可能性がある。

本実施形態は、第2ゾーンまでの間隔は比較例7と同じで、第2ゾーンを数14のc番目のゾーン、等間隔領域の第4ゾーンと第6ゾーンをそれぞれi番目、j番目のゾーンとし第4ゾーンと第6ゾーン間の次数qe =2で振幅が強め合う地点が、第2とi番目のソーン間の次数qr =2で振幅が弱め合う地点と一致するように等間隔領域の位置を再設定したものである。すなわち、本実施形態では、第2ゾーンがキャンセル用領域として設定されている。

本実施形態では、第3ゾーンが圧縮されて間隔が狭くなった以外は比較例7と同じ間隔となっている。本実施形態の第6ゾーンまでを含む開口径を対象とした光軸上の強度分布を図40(b)に示す。比較例7と比較すると、ピークの数が減るなどやや異なる強度分布を示すが、多焦点を形成しうるものであることが分かる。このプロファイルの点像広がり関数を図41(実線)に示す。ρ=0.26〜0.29mmのピークが激減していることが分かる。この時のエッジ強度分布は図42(実線)に示す通りで、比較例7で認められた出っ張りが、まるで氷河によって削られたカール地形のような分布にまで減少していることが分かる。よってこのようにゾーンを再設定することによって光の滲みを相当低減できることが分かる。

図43に本発明の第八の実施形態としての位相プロファイル58と、比較例8としての位相プロファイル60を示す。なお、本実施形態の位相プロファイル58の詳細を表17に、また比較例8の位相プロファイル60の詳細を表18に、示す。

比較例8は、中央の第1ゾーンから第3ゾーンまでが付加屈折力Padd が2(Diopter)となるようなフレネル間隔から構成され、その周辺の第4ゾーンから第7ゾーンにおいて第4ゾーンと第6ゾーンがΔr=0.25mmで、第5ゾーンと第7ゾーンがΔr=0.3mmの等間隔領域がお互いを隔てて交互に配されたプロファイルとなったものである。比較例8の光軸上の強度分布を図44(a)に示す。この場合も隣接はしていないが等間隔領域が存在するため、近方から中間領域にかけて複数の焦点を形成しうるピークが存在することが分かる。比較例8の点像広がり関数(図45破線)は、ρ=0.27〜0.29mmの領域において強度の大きな急峻なピークが生成していることが分かる。かかる等間隔ゾーンが交互に配された領域ではρ=0.284mmの地点で振幅が集中して強め合うことが事前の計算で分かっている。よって、かかる強め合った振幅が該当のρ地点で急峻なピークとなって現れているのである。エッジ強度分布は図46(破線)に示すように出っ張りのある膨らみの非常に大きな強度分布となることが分かる。かかる強度分布から像の周囲に強度の光の滲みが生じる可能性がある。

本実施形態は、第2ゾーンまでの間隔は比較例8と同じで、第2ゾーンを数14のc番目のゾーンとし、数式に基づき等間隔領域の配置を計算した。この際、i番目のゾーンを第4ゾーン、j番目ゾーンを第6ゾーンとし、両ゾーン間で次数qe =2で振幅が強め合う位置が、第2ゾーンとi番目のゾーン間の次数qr =2で振幅が弱め合う地点と一致するように等間隔領域の位置を再設定した。すなわち、本実施形態では、第2ゾーンがキャンセル用領域として設定されている。

本実施形態では、第3ゾーンが圧縮されて間隔が狭くなった以外、残りのゾーンの間隔は比較例8と同じ間隔となっている。本実施形態の第7ゾーンまでを含む開口径を対象とした光軸上の強度分布を図44(b)に示す。比較例8と比較して近方視用焦点用のピークの強度が多少小さくなっているが、比較例8と似た多焦点を形成しうる強度分布を示すことが分かる。本実施形態の点像広がり関数を図45(実線)に示す。ρ=0.24mm付近に再設定による新たなピークの出現があるものの、その外周に存在していたρ=0.26〜0.29mmの二峰のピークが激減していることが分かる。この時のエッジ強度分布は図46(実線)に示す通りで、出っ張りのある領域の強度が減少しなだらかな分布となっていることが分かる。よって、かかる位相プロファイルの回折レンズでは光の滲みが抑制できることが分かる。

図47に、本発明の第九の実施形態としての位相プロファイル62と、比較例9としての位相プロファイル64を示す。なお、本実施形態の位相プロファイル62の詳細を表19に、また比較例9の位相プロファイル64の詳細を表20に、示す。

比較例9は、第1ゾーンから第4ゾーンまでがΔr=0.275mmの等間隔から構成された等間隔領域で、その周辺の第5ゾーンと第6ゾーンは付加屈折力Padd が2(Diopter)となるようなフレネル間隔から成っており、該フレネル間隔は、第4ゾーンの半径を数12のフレネル間隔を定める際の第1ゾーン半径r1 として計算して定められたものである。比較例9は、これまでの比較例4〜8と異なり、中央に等間隔領域が存在し、その周辺にフレネル間隔が配されるという逆の配置になったものである。図48(a)に第6ゾーンまでを含む開口径を対象とした光軸上の強度分布を示す。比較例9では、近方と遠方視用焦点位置に明確な二つのピークが生成し、回折型多焦点眼用レンズとして有用なプロファイルであることが分かる。しかし、図49(破線)に示された点像広がり関数では、Δr=0.275mmの等間隔領域による振幅の特異的な干渉作用によってρ=0.28〜0.33mmの領域に亘って強度の大きな二つのピークが生成する。かかる点像広がり関数からなるエッジ強度分布は、図50(破線)の通りで、階段状の大きな出っ張りのある分布を示すことが分かる。このような強度分布では像の近傍で強度の大きな光の滲みが発生する可能性がある。

本実施形態は、第4ゾーンまでの間隔は比較例9と同じで、第3、第4及び第6ゾーンを数14のj、i、c番目のゾーンとし、第5ゾーンの外径を第一半径とするフレネル間隔となるように第5ゾーンと第6ゾーンの位置を再設定したものである。すなわち、本実施形態では、第6ゾーンがキャンセル用領域として設定されている。なお、かかる例では再設定するフレネル間隔が等間隔領域の外側周辺にある関係上、数14中の打ち消す対象の振幅の出現位置のρ値の符号をこれまでの計算例とは逆にして計算した。なお、計算に際して打ち消す振幅の次数は、qe =1及びqr =2とした。本実施形態の第6ゾーンまでを含む開口径を対象とした光軸上の強度分布を図48(b)に示す。比較例9とほぼ同じ強度分布を示し、かかる再設定操作を施しても遠近への光の配分に影響がほとんどないことが分かる。一方、点像広がり関数は、図49(実線)に示す通りで、比較例9で認められたρ=0.28〜0.33mmの強度の大きなピークが明らかに減少していることが分かる。この場合のエッジ強度分布は、図50(実線)に示す通りで、階段状に突出していた箇所がなだらかになっていることが分かる。かかるエッジ強度分布から、実施例9においても光の滲みが大幅に抑制されることが分かる。

図51に、本発明の第十の実施形態としての位相プロファイル66と、比較例10としての位相プロファイル68を示す。なお、本実施形態の位相プロファイル66の詳細を表21に、また比較例10の位相プロファイル68の詳細を表22に、示す。

比較例10は、第四から第九の実施形態において示されたフレネル間隔と等間隔領域から構成された回折構造20においてフレネル間隔の領域を等間隔領域に代え、中央の第1ゾーンと第2ゾーンの間隔が0.4mm、周辺の第3ゾーンから第6ゾーンまでの間隔が0.2mmの異なる等間隔領域で構成された回折構造20の位相プロファイルについて示したものである。比較例10ではこれまでのようなフレネル間隔が併用されずに全域、間隔は異なるが等間隔領域から構成された回折構造20の例を示すものである。比較例10の第6ゾーンまでを含む開口の光軸上の強度分布を図52(a)に示す。比較例10においても明確に遠方と近方それぞれの焦点位置でピークが生成しており、回折型多焦点眼用レンズとして有用なものであることが分かる。しかし、比較例10の点像広がり関数(図53破線)において周辺部のρ=0.38mm付近に強度の大きなピークが生成しており、かかるピークの影響でエッジ強度分布はρ=1から1.15mmの周辺付近に膨らみのある形態となる。このサイドバンドピークはΔr=0.2mmの等間隔領域間において次数qe =1で干渉し強め合う振幅に由来するものであり、このように像面中心から離れた地点にピークが生成すると周辺のエッジ強度が大きくなるため、光の滲みの範囲が拡大することが予想される。

本実施形態は、第2ゾーンまでの間隔は比較例10と同じで、第2ゾーンを数14のc番目のゾーンとし、Δr=0.2mmの等間隔領域の強め合う振幅を、第2ゾーンとi番目ゾーンとした第4ゾーンとの間で次数qr =2.5の振幅で打ち消すことができるように、Δr=0.2mmの等間隔領域の位置を再設定したものである。すなわち、本実施形態では、第2ゾーンがキャンセル用領域として設定されている。

本実施例では、これまでの実施例とは異なり、打ち消すための振幅を決定する際の次数をqr =2.5という実数で設定した例である。かかる実数値で設定した理由は、図55(a)に示すようにqr =2に代表される整数で設定すると第2ゾーンとこれによって再設定されるΔr=0.2mmの領域の振幅が逆に強め合ってしまうからである。本実施形態ではΔr=0.2mmの等間隔領域において振幅が強め合う地点は、Δr=0.4mmのゾーンの振幅分布において、前記数18の振幅関数のSinc関数の極が正負反対の関係になる領域にかかる。よって、同一極においては打ち消すための次数の条件が、かかる例では逆に強め合うように作用するのである。このようにSinc関数の極が同一ではない場合は、qr は整数で設定せずに半波長分の位相差を付与できるようにqr =整数値±0.5で設定する必要があるのである。このようにqr =2.5としてΔr=0.2mmの領域の位置を再設定した場合の振幅分布の関係を図55(b)に示す。半波長分の次数で設定することによってΔr=0.2mmの等間隔領域の振幅が第2ゾーンの振幅とちょうど逆になることが分かる。

本実施形態では、Δr=0.4mmの領域とΔr=0.2mmの等間隔領域の間に間隔が0.1mmのゾーンが新たに追加された形になり、全体のゾーン位置が比較例10より0.1mm周辺へ移動している。その結果、全ゾーンを含む開口からの光軸上の強度分布(図52(b))において各焦点位置のピーク強度が比較例10よりも大きくなっている。しかし、各焦点位置のピークの相対的な比率は比較例10とほぼ同じで、かかる再設定操作が光軸上の強度分布に大きな影響を与えていないことが分かる。本実施形態の点像広がり関数を図53(実線)に示す。図から分かるように本実施形態では比較例10で認められたρ=0.38mm付近のピークが明確に低減しており、かかる再設定によって選択的にサイドバンドを低減しうることが分かる。また、エッジ強度分布(図54)も明確に強度が減っており、光の滲みが抑制できることが分かる。なお、本実施形態及び比較例10では遠方視用焦点位置のピーク強度に明確な相違があるため、点像広がり関数とエッジ強度分布は、それぞれの最大強度で規格化した相対強度で表示した。

以上が、一連の関係式を用いてゾーンの位置を再設定するだけの簡単な操作で、回折型多焦点眼用レンズが有する各焦点への光の配分挙動にほとんど影響を与えずに点像広がり関数のサイドバンドを低減し、その結果として光の滲みが抑制された回折レンズを設計する方法とそれより得られる回折レンズの仕様について説明した。

なお、かかるゾーン間の位置の再設定に際して、数20で定められるρr を数19で定められるρe に必ずしも完全に一致させる必要はない。なぜならば、ρr 値をρe 値から少しずらすことによって目的とする振幅の低減を可能としつつ同時に他の振幅の増減も制御し、全体的なエッジ強度のバランスを取ることが可能な場合があるからである。この場合、数20のρr を僅かに変量して位置の再設定を行ってもよいし、ρr を直接変量せずとも数14のqr を変量して再設定してもよい。さらには数14から計算されるゾーンの位置を直接ずらして設定してもよい。かかるゾーンの位置を数14の計算値から少しずらしてエッジ強度分布を制御する場合の例を次に示す。

図56に、本発明の第十一の実施形態としての位相プロファイル70と、第四の実施形態の位相プロファイル42を示す。なお、本実施形態の位相プロファイル70の詳細を表23に、第四の実施形態の位相プロファイル42の詳細を表9に、示す。本実施形態では、第3ゾーンがキャンセル用領域として設定されている。

本実施形態は、第四の実施形態における第5ゾーンと第6ゾーンの位置をわずかにずらして第四の実施形態で達成されたエッジ強度の低減を維持しつつさらにエッジ強度を減少せしめる例として示すものである。具体的には本実施形態では、第四の実施形態における第5ゾーンと第6ゾーンの位置を、ゾーン間隔はΔr=0.275mmで維持しつつ全体に内側へ0.03mmずらした位相プロファイルとなっている。かかる位相プロファイルを第四の実施形態と対比して図56(実線:本実施形態、破線:第四の実施形態)に表示した。かかるプロファイル図より、ずらした量は僅かであることが分かる。

本実施形態の第6ゾーンまで含む開口の光軸上の強度分布を図57に示す。図より、第5ゾーンと第6ゾーンを全体的に内側へ0.03mmずらしてもその移動量はわずかであるため、図27(a)の比較例4及び図27(b)の第四の実施形態の光軸上の強度分布と比較して各焦点位置のピークの強度分布に大きな変化はないことが分かる。本実施形態の点像広がり関数を第四の実施形態と対比して図58に示した。第四の実施形態と比較するとρ=0.25mm付近のピーク強度が少し大きくなるものの、ρ=0.3〜0.35mmの範囲のピーク強度はさらに低減されていることが分かる。かかるサイドバンド強度のさらなる低減によってエッジ強度(図59実線)もρ=1から1.05mm付近の強度がさらに低減され、第四の実施形態にて示された光の滲みの低減効果がさらに向上していることが分かる。

本実施形態では第四の実施形態の第5ゾーンと第6ゾーンを0.03mm内側へ変位させたが、かかる変位量は、数20のρr において、ρr =0.306mmとして計算される場合のゾーン位置の変位量に相当する(ずらさない場合はρr =0.284mmとして計算される)。よって、ゾーン位置を直接ずらして微調整しても良いが、数20を用いて各ゾーンの振幅の干渉状態などを勘案してρr を変量してゾーンの位置を変更してもよい。

かかる例から分かるように、数14から再設定されるゾーンの位置は、計算値をそのまま用いてもよいし、かかる式をゾーン位置関係の第一段階の見積もり値として利用し、さらにバランスがとれたエッジ強度分布となるようにこの前後で微調整して設定してもよいのである。

次に、前記ゾーン位置を再設定する方法以外のエッジ強度を低減し得る方法について説明する。前記した0次回折光の焦点像面における振幅を表わす前記数18のうち、cos関数内に含まれる位相ずれ量τは、これを変えることによって、cos関数の位相を変えることができる。いままで述べた実施形態および比較例は全て位相ずれ量τ=0の位相プロファイルのものであったが、次にいくつかの実施形態に基づきこの位相ずれ量τを変えることによってもサイドバンドのピークの低減が可能で、その結果としてエッジ強度を低減しうることを示す。

図60に、本発明の第十二の実施形態としての位相プロファイル72と、比較例12の位相プロファイル74を示す。なお、本実施形態の位相プロファイル72の詳細を表24に、比較例12の位相プロファイル74の詳細を表25に、示す。

比較例12は、中央の第1 ゾーンから第2ゾーンまでが付加屈折力Padd が2(Diopter)となるようなフレネル間隔から構成され、その周辺の3ゾーンから第5ゾーンまでがΔr=0.35mmの等間隔で構成された回折多焦点眼用レンズの位相プロファイルである。比較例12の位相プロファイルを図60の破線で示した。また、このプロファイルの光軸上の強度分布を図61(a)に示す。かかる位相プロファイルでは、等間隔領域の存在によって遠近のみならず中間領域にも焦点生成用のピークが形成され、多焦点眼用レンズとして有用なものであることが分かる。しかし、図62(破線)に示された点像広がり関数はρ=0.22mm付近に等間隔領域に起因する急峻なピークが生成し、そのエッジ強度分布は膨らみのあるものとなり、光の滲みが発生する可能性があることが分かる。

本実施形態は、表24及び図60(実線)に示すようにゾーン間隔は比較例12と全く同じであるが、第3ゾーンのブレーズに対してτ=−0.1π、第5ゾーンのブレーズに対してτ=−0.3πの位相ずれ量を与えたものである。本実施形態の光軸上の強度分布は、図61(b)に示す通りで比較例12とほぼ同じ強度分布を示し、かかる位相ずれ量τを導入することによる各焦点への光の配分にほとんど影響がないことが分かる。点像広がり関数(図62実線)は、比較例12で認められたρ=0.22mm付近のピークの強度が減少していることが分かる。そしてエッジ強度分布(図63実線)も、かかる点像広がり関数の変化を反映し、比較例12で認められた膨らみがへこみ、強度が低減していることが分かる。よって本実施形態は光の滲みが低減したものとなることが分かる。

かかる位相ずれ量τを変量することによるサイドバンドの低減効果についてさらに詳細に説明する。前記数18より、τは直接cos関数の位相を変調できることが分かる。図64に示すように、位相ずれ量τを導入するとその振幅関数の位相が変化し、波が進んだり、遅れたりして振幅位置をシフトさせることができる。本実施形態の数18に基づく振幅関数の挙動を図65にそれぞれ示す(第1ゾーンの振幅関数は表示せず)。位相ずれ量τを付与する前(図65(a))と位相ずれ量τを付与した後(図65(b))を比較すると、位相ずれ量τに対してτが付与されたゾーンすなわちキャンセル用領域の回折ゾーンの振幅が僅かにシフトしていることが分かる。かかる例では位相ずれ量τは僅かであるが、それにも関わらずゾーン全体の相互干渉の結果としてサイドバンドピークが低減されることが分かる。

位相ずれ量τは、どのゾーンに導入しても構わず、また、一か所のみならず複数の箇所に設定しても良い。また、位相ずれ量τはマイナスのずれのみならずプラスのずれを付与してもよい。また、複数のゾーンに設定する場合は正負の符号がそれぞれ異なっていてもよいし、同じであってもよい。かかる位相ずれ量τの値、また付与するゾーンに関しては目的とする振幅を打ち消す、あるいは低減できるように設定すればよい。なお、望ましくは設定したプロファイルの各焦点位置への光の配分挙動に影響を与えないように設定するのが望ましい。さらに別の実施例にてかかる位相ずれ量τを用いたエッジ強度の低減例について説明する。

図66に、本発明の第十三の実施形態としての位相プロファイル76と、比較例13の位相プロファイル78を示す。なお、本実施形態の位相プロファイル76の詳細を表26に、比較例13の位相プロファイル78の詳細を表27に、示す。

比較例13は、中央の第1ゾーンから第3ゾーンまでが付加屈折力Padd が2(Diopter)となるようなフレネル間隔から構成され、その周辺の4ゾーンから第6ゾーンまでがΔr=0.3mmの等間隔で構成された回折多焦点眼用レンズの位相プロファイルである。比較例13の位相プロファイルを図66の破線で示した。かかるプロファイルの光軸上の強度分布を図67(a)に示す。かかる位相プロファイルでは、等間隔領域の存在によって遠近のみならず中間領域にも焦点生成用のピークが形成され、多焦点眼用レンズとして有用なものであることが分かる。しかし、図68(破線)に示された点像広がり関数はρ=0.26mm付近に等間隔領域に起因する急峻なピークが生成し、そのエッジ強度分布(図69破線)は膨らみのあるものとなり、光の滲みが発生する可能性があることが分かる。

本実施形態は、表26及び図66(実線)に示すようにゾーン間隔は比較例13と全く同じであるが、第4ゾーンのブレーズに対して=−0.2π、第6ゾーンのブレーズに対してτ=−0.3πの位相ずれ量を与えたものである。本実施形態の光軸上の強度分布は、図67(b)に示す通りで比較例13とほぼ同じ強度分布を示し、かかる位相ずれ量τを導入することによる各焦点への光の配分にはほとんど影響がないことが分かる。点像広がり関数(図68実線)は、比較例13で認められたρ=0.26mm付近のピークの強度が減少していることが分かる。そしてエッジ強度分布(図69実線)も、かかる点像広がり関数の変化を反映し、比較例13で認められた膨らみがへこみ、強度が低減していることが分かる。よって本実施形態は光の滲みが低減したものとなることが分かる。

なお、かかる実施形態では、エッジ近傍のρ=0.8mm付近で比較例13よりもふくらみが増すエッジ強度分布となっているが、かかる領域は第四の実施形態と同様にエッジに近いため光の滲みとして知覚されにくいことが予想される。よって、かかる領域の強度の増加にさほど注意を払う必要はないのである。以上よりゾーン位置を再設定する以外に位相ずれ量τを変量するだけでもエッジ強度分布を低減することができ、光の滲みを抑制できることを示した。

さらに別の方法にて同様のエッジ強度の低減効果を上げる例について説明する。前記数18は、cos関数とSinc関数の積になっており、これまではcos関数の挙動に着目した制御の方法について説明してきた。次にSinc関数の挙動を利用した制御の方法について説明する。

図70 (a) に比較例14の位相プロファイル80を、図70(b)に本発明の第十四の実施形態としての位相プロファイル82を示す。なお、本実施形態の位相プロファイル82の詳細を表28に、比較例14の位相プロファイル80の詳細を表29に、示す。

比較例14は、中央の第1ゾーンから第2ゾーンまでが付加屈折力Padd が2(Diopter)となるようなフレネル間隔から構成され、その周辺の第3ゾーンから第5ゾーンまでがΔr=0.3mmの等間隔で構成された回折多焦点眼用レンズの位相プロファイルである。なお、表29及び図70(a)に示すように第4ゾーンの位相定数はh=0とし、ここのみ屈折領域としたものである。かかるプロファイルの光軸上の強度分布を図71(a)に示す。等間隔領域の存在によって遠近のみならず中間領域にも焦点生成用のピークが形成されている。なお、第4ゾーンが屈折領域となっているため、相対的に遠方の強度割合が増している。かかるプロファイルは遠方視を重視した多焦点眼用レンズとして有用なものである。かかるプロファイルの点像広がり関数を図72(破線)に示す。この場合、等間隔領域が存在することによってρ=0.26mm付近に急峻なピークが存在する。この広がり関数に基づくエッジ強度は図73(破線)の通りで、膨らみのある強度分布となる。よってかかるプロファイルにおいても光の滲みが発生する可能性がある。

本実施形態は、比較例14における第4のゾーンの位相定数(h)を−0.2としたブレーズ構造を導入したものである。本実施形態のプロファイルを図70(b)に示す。位相定数(h)が−0.2で設定されたブレーズは図に示すようにその他のゾーンのブレーズと反対の傾きを有するものとなる。すなわち、本実施形態では、第4ゾーンがキャンセル用領域として設定されており、キャンセル用領域の回折ゾーンが、回折ゾーンにおけるブレーズ形状の傾きの符号をキャンセル用領域以外の回折ゾーンに対して異ならせて設定されている。このプロファイルの光軸上の強度分布、点像広がり関数を図71(b)、図72(実線)にそれぞれ示した。光軸上の強度分布は、比較例14とほとんど変わらず、かかる反対向きのブレーズを導入しても各焦点への光の配分挙動にはほとんど影響がないことが分かる。一方、点像広がり関数は、ρ=0.26mmのピークが強度にして3割程度減少していることが分かる。また、エッジ強度分布(図73実線)においては比較例で膨らみのあった部分の強度が減少しており、よって光の滲みが抑制されることが分かる。

かかるブレーズの傾き、つまり位相定数(h)を変量することによる効果は以下のように説明できる。ブレーズの傾き、つまり位相定数(h)を変えると、この変化はcos関数の位相に変化は与えないが、Sinc関数の位相に変化を与える。この関係を図74に示す。ここでは本実施形態の第4ゾーンのみを取り上げ、h=0.5の場合(図74(a))、h=−0.5の場合(図74(b))で比較したものである。位相定数を変えるとSinc関数全体が像面のρ軸方向にシフトし、その結果、Sinc関数の位相が変化することが分かる。そして、ある地点では変量前ではSincの極が正であった領域が変量後では極が負になることがある。一方、位相定数(h)を変量してもcos関数の位相には変化がないので、Sinc関数の極が正負反対になった領域では、かかる極の反転によって振幅関数全体の振幅の正負が逆になる領域がでてくる。この領域がたとえば光の滲みのような有害なサイドバンドの出現位置に相当していれば、かかる方法によってもサイドバンドの振幅を低減、あるいは打ち消すことが可能となる。位相定数(h)の変量範囲は、目的とするサイドバンドの位置や強度を勘案して定めればよく、特に限定する必要はない。

図75(a)に、比較例15の位相プロファイル84を、図75(b)に本発明の第十五の実施形態としての位相プロファイル86を示す。なお、本実施形態の位相プロファイル86の詳細を表30に、比較例15の位相プロファイル84の詳細を表31に、示す。

比較例15は、中央の第1ゾーンから第3ゾーンまでが付加屈折力Padd が2(Diopter)となるようなフレネル間隔から構成され、その周辺の第4ゾーンから第6ゾーンまでがΔr=0.3mmの等間隔で構成された回折多焦点眼用レンズの位相プロファイルである。なお、表31及び図75(a)に示すように第5ゾーンの位相定数(h)は0とし、ここのみ屈折領域としたものである。かかるプロファイルの光軸上の強度分布を図76(a)に示す。等間隔領域の存在によって遠近のみならず中間領域にも焦点生成用のピークが形成されている。よってこのプロファイルを有する回折レンズは多焦点眼用レンズとして有用なものであることが分かる。かかるプロファイルの点像広がり関数を図77(破線)に示す。この場合、等間隔領域が存在することによってρ=0.26mm付近に急峻なピークが存在する。この広がり関数に基づくエッジ強度は図78(破線)の通りで、膨らみのある強度分布となる。よってかかるプロファイルにおいても光の滲みが発生する可能性がある。

本実施形態は、比較例15における第5のゾーンにおいて位相定数h=−0.2としたブレーズ構造を導入したものである。本実施形態のプロファイルを図75(b)に示す。位相定数がh=−0.2で設定されたブレーズは本実施形態と同様にその他のゾーンのブレーズと反対の傾きを有するものとなる。このプロファイルの光軸上の強度分布、点像広がり関数を図76(b)、図77(実線)にそれぞれ示した。光軸上の強度分布は、比較例15とほとんど変わらず、かかる反対向きのブレーズを導入しても各焦点への光の配分にほとんど影響がないことが分かる。一方、点像広がり関数は、ρ=0.26mmのピークが強度にして2〜3割程度減少していることが分かる。また、エッジ強度分布(図78実線)においては比較例で膨らみのあった部分の強度が減少しており、よって光の滲みが抑制されていることが分かる。

以上説明したサイドバンド強度を低減し、エッジ強度を減らし光の滲みを抑制する方法は、これら方法を単独で用いても良いし、これら方法を組合せて用いても良い。次に各方法を組合せた例について説明する。

図79に、本発明の第十六の実施形態としての位相プロファイル88と、第二の実施形態の位相プロファイル30を示す。なお、本実施形態の位相プロファイル88の詳細を表32に、第二の実施形態の位相プロファイル30の詳細を表3に、示す。

比較例16は第二の実施形態のことで、第二の実施形態において、方法の組合せによってさらに光の滲みが抑制されることを示すために、ここでは比較例として用いた。本実施形態は、第二の実施形態で示されたゾーン位置の再設定による方法に加えて位相ずれ量を第5ゾーンにτ=−0.15π、第7ゾーンにτ=−0.1π、それぞれ導入したものである。図79に示すように、導入した位相ずれ量にそれぞれ対応してブレーズの位置がφ方向にシフトしたプロファイルとなっている。かかるプロファイルの光軸上の強度分布を図80(b)に示す。位相ずれ量を導入しても光軸上の強度分布にほとんど変化はなく、かかる操作によって遠近への光の配分に影響がないことが分かる。点像広がり関数を図81(実線)に示す。第二の実施形態で低減されたρ=0.26mm付近のピークが、位相ずれ量の導入を併用することによってさらに低減されていることが分かる。この場合のエッジ強度分布(図82実線)は、ρ=0.9〜1mmの領域の強度がさらに低減されたものとなり、より光の滲みが抑制されることが分かる。

図83に、本発明の第十七の実施形態としての位相プロファイル90と、第四の実施形態の位相プロファイル42を示す。なお、本実施形態の位相プロファイル90の詳細を表33に、第四の実施形態の位相プロファイル30の詳細を表9に、示す。

比較例17は第四の実施形態のことで、第四の実施形態において、方法の組合せによってさらに光の滲みが抑制されることを示すために、ここでは比較例として用いた。本実施形態は、第四の実施形態で示されたゾーン位置の再設定による方法に加えて第6ゾーンに位相ずれ量、τ=−0.15πを導入したものである。図83に示すように、導入した位相ずれ量に対応してブレーズの位置がφ方向にシフトしたプロファイルとなっている。かかるプロファイルの光軸上の強度分布を比較例17(図84(a))と対比させて図84(b)に示す。位相ずれ量を導入しても光軸上の強度分布にほとんど変化はなく、かかる操作によって各焦点への光の配分に影響がないことが分かる。点像広がり関数を図85(実線)に示す。第四の実施形態で低減されたρ=0.22mm付近のピークが、位相ずれ量の導入を併用することによってさらに低減されていることが分かる。このサイドバンドの低減によってエッジ強度分布(図86実線)は、ρ=0.85〜0.97mmの領域の強度がさらに低減されたものとなり、光の滲みがより抑制されることが分かる。このような組合せによるさらなる低減効果は他の方法の組合せによっても同様に発現される。

図87に、本発明の第十八の実施形態としての位相プロファイル92と、第十五の実施形態の位相プロファイル86を示す。なお、本実施形態の位相プロファイル92の詳細を表34に、第十五の実施形態の位相プロファイル30の詳細を表30に、示す。

比較例18は第十五の実施形態のことで、第十五の実施形態において、方法の組合せによってさらに光の滲みが抑制されることを示すために、ここでは比較例として用いた。本実施形態は、第十五の実施形態で示されたブレーズの傾きを変える方法に加えて第4ゾーンに位相ずれ量、τ=−0.15πを導入したものである。図87に示すように導入した位相ずれ量に対応してブレーズの位置がφ方向にシフトしたプロファイルとなっている。かかるプロファイルの光軸上の強度分布を比較例18(図88(a))と対比させて図88(b)に示す。位相ずれ量を導入しても光軸上の強度分布にほとんど変化はなく、かかる操作によって各焦点への光の配分に影響がないことが分かる。点像広がり関数を図89(実線)に示す。比較例18と対比するとサイドバンド強度の大幅な低減はないものの全体のピークが均等に減少していることが分かる。エッジ強度分布(図90実線)は、ρ=0.84〜0.9mmの領域の強度がさらに低減されたものとなっている。よってかかる方法の組合せによって光の滲みがより抑制されることが分かる。

第十六〜十八の実施形態に示したように各方法の組合せによってさらに効果的にエッジ強度を低減でき、その結果として光の滲みが大幅に改善された回折多焦点眼用レンズを得ることができる。なお、前記第十六及び十七の実施形態では、第3ゾーンをキャンセル用領域と認定できるが、位相ずれ量τの変量法によるエッジ強度の低減作用としてみると第5及び第7ゾーンがキャンセル用領域に該当するとも認められる。このように本発明方法では、特定の又は一つのゾーンをキャンセル用領域として限定的に解釈される必要はない。

以上説明した方法に関して実際にコンタクトレンズを作製し、ブラードビジョンの改善効果を検証した。コンタクトレンズ素材は、2−ヒドロキシエチルメタクリレートを主成分とする含水率約37.5%の含水性ソフトコンタクトレンズで、レンズ直径:14mm、光学部直径:8mm、ベースカーブ:8.5mmの規格にて、レンズ基材の屈折率を1.438、媒体の屈折率を1.335とし、波長を546nmとして実施例5及び比較例5の位相プロファイルをレリーフ構造に変換し、かかるレリーフをレンズ後面に設けたコンタクトレンズを作製した。試作したコンタクトレンズを、生理食塩水を満たしたガラスセル内に浸漬し、そのセルをカメラレンズの前に設置して室内の蛍光灯を撮影し、蛍光灯のエッジ部の光の強度分布について調べた。

図91(a)は、比較例5の位相プロファイルを有するコンタクトレンズを通して撮影された蛍光灯のエッジ部の写真である。この図に示すような範囲で光の滲みが認められる。図91(b)は、実施例5の位相プロファイルを有するコンタクトレンズを通して撮影された蛍光灯のエッジ部の写真で、比較例5と比べるとエッジ部の光の滲みが低減されていることが分かる。かかる実写データにおいて計測されたエッジ部の強度分布(図92)は、図34の理論的に求められたエッジ強度分布と似たものとなっており、シミュレーション通りの結果が得られていることが分かる。

以上述べたように各焦点位置への光の配分割合をほとんど変えることなく点像広がり関数におけるサイドバンドの強度を低減することができ、またエッジの強度も低減することが可能で、その結果として光の滲みが抑制された回折型の多焦点眼用レンズを得ることができるのである。

また、前記各実施形態などで示された回折構造20は目的とする眼用レンズ10の前面、または後面のどちらかに設定されてもよい。あるいはレンズの内部に設置されていてもよい。また、例えば特開2001−42112号公報等に記載のように、屈折率が異なる二つの材質からなる積層面に、本発明にかかる回折構造20を形成することも可能である。

また、本発明の適用可能な焦点位置は特に遠方視用焦点に限定されるものではなく、これ以外の、たとえば近方視用焦点、あるいは中間視用焦点など他の焦点位置においてもこれらが0次回折光で形成される場合は本発明の方法が等しく適用できる。

なお、本発明における眼用レンズ10としてはコンタクトレンズ、眼鏡、眼内レンズなどが具体的な対象となる。さらには角膜実質内に埋植して視力を矯正する角膜挿入レンズ、あるいは人工角膜などにも適用可能である。またコンタクトレンズにおいては硬質性の酸素透過性ハードコンタクトレンズ、含水または非含性のソフトコンタクトレンズ、さらにはシリコーン成分を含有した酸素透過性の含水または非含水性のソフトコンタクトレンズなどに好適に用いることができる。また、眼内レンズにおいても硬質性の眼内レンズや、折り畳んで眼内に挿入可能な軟質眼内レンズなど、いずれの眼内レンズにも好適に用いることができる。本発明に基づく眼内レンズにおいては従来からの回折型の多焦点眼内レンズで指摘されているブラードビジョン,ワクシービジョンあるいはワセリンビジョンの問題を解消しうる。

以上、前記各実施形態を用いて説明してきたように、等間隔領域を含む回折構造20を設計する場合の等間隔領域の構成形態としては、回折構造20全域が単一の格子ピッチ(Δr)からなる等間隔領域で構成されるもの、異なる格子ピッチ(Δr)の等間隔領域が複数存在して構成されるもの、あるいは単一の格子ピッチ(Δr)のゾーンが一定間隔おきに配された繰り返し周期構造で構成されるもの、または異なる格子ピッチ(Δr)のゾーンが交互に配された繰り返し周期構造で構成されるもの、さらには単一の格子ピッチ(Δr)のゾーンが不定間隔おきに複数設けられるもの、などが含まれる。また、等間隔領域が他の規則に従う間隔を有する領域と組み合わさって構成されるものも本発明の態様の中に含まれ、たとえば等間隔領域とフレネル間隔を有する領域との組み合わせなどは本発明の好ましい態様の一つである。即ち、等間隔領域を構成するゾーン間に、それ以外のゾーン(等間隔領域を構成しないゾーン)が介在されている構成であっても良く、また、等間隔領域を構成するゾーン間に介在する他のゾーンの数や大きさ等は、要求される光学特性等に応じて、等間隔領域を構成する各ゾーン間において一定としても良いし互いに異ならせても良い。このように等間隔領域を含む回折構造20の構成形態は、かかる例以外にも様々な順列、組み合わせが考えられるので、決して上記例に限定されるものではない。かかる格子ピッチ(Δr)や位相定数hや位相ずれ量(τ)、あるいは等間隔領域の構成形態を適宜選択、組み合わせることによって、ブラードビジョンが低減され、かつ、遠近あるいは遠中近の適切な位置に人の生理学的な見え方の要求度に応じた焦点形成が実現できるような回折多焦点レンズを設計することができる。

10:眼用レンズ、12:光学部、20:回折構造、26,42,72,82:位相プロファイル

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