【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、屈折率勾配のある透明物品の製造方法に関する。 【0002】 【従来の技術】 光学物品は、形、厚さ、屈折率により特徴付けられる。 屈折率は、しばしば均一である。 光学材料の屈折率勾配は、しばしば物品の利用方法に付加的な自由度を与える。 実際、勾配により、光線の光学的な道筋は物品の形とは独立して変化できる。 【0003】 屈折率勾配は、通常3つのタイプに区別される: −軸方向の屈折率勾配:屈折率は該方向で変化する;この方向と垂直ないかなる平面でも屈折率は均一である; −半径方向の屈折率勾配:屈折率は与えられた軸からの距離によって変化する;与えられた半径と同じ軸からなるいかなる円筒状の表面でも勾配は均一である; −球状の屈折率勾配:屈折率は与えられた点からの距離によって変化する;同一屈折率からなる表面は球状である。 【0004】 屈折率が均一な凸状(もしくは凹状)のレンズと、中心から端に向かって(もしくは端から中心に向かって)屈折率が減少する半径方向の屈折率勾配をもつレンズとの間が光学的に等価であることが証明されている。 最近、革新的なアスフェリカル(収差を少なくするためにごく僅か球状でない)表面を持つ均一な屈折率のレンズは、球状表面と適当な軸方向の屈折率勾配の組合せによって置き換えられることが証明された。 【0005】 屈折率勾配のある光学物品を製造する目的は、特に、均一な屈折率をもつ光学部品からなる系により得られるのと等しい機能をもつより単純な光学系を設計することである。 そのような製品により、例えば、部品の数を減らした複数部品から成る光学系、もしくは、より薄いかより単純な形の校正用のガラス(correrction glass)もしくはレンズを制作することが可能となる。 さらに、半径方向もしくは球状の屈折率勾配を持つ光学物品は、屈折率が放物線様に分布する場合、眼科電子工学もしくは遠隔通信において数々の応用法を提供する。 コピー機、レーザーディスクリーダー、もしくは光ファイバーにおいて熱心に探究されている、極近の距離で光の焦点を合わせる特性が得られた。 【0006】 屈折率勾配のある光学物品のいくつかの製造工程が、当技術の現状において知られている。 ヨーロッパ特許出願第EP−0407294号では、特に、プリフォーム(前駆体)において、経時変化する組成をもつ2もしくはそれ以上の膨潤する単量体の混合物の拡散に基礎を置く、屈折率勾配のあるレンズの製造方法が記載されている。 屈折率の分布は、膨潤する混合物の組成に援助されて制御されている。 全体は、引続き重合される。 それゆえ、屈折率勾配は、30mmに渡って、全体で0.085変化する。 【0007】 ヨーロッパ特許出願第EP−0504011号では、加圧下、ポリマープリフォームを膨潤させることにより得られるIPN(相互浸入網目構造、Interpenetrating networks)材料からなる屈折率勾配のあるレンズの製造が描かれている。 決められた形状のプリフォームを、形状が異なりプリフォームよりも大きい体積の鋳型に閉じ込める。 満たされていない部分の体積は、プリフォームとは異なる屈折率を持つ膨潤する単量体の混合物によって満たされる。 プリフォームは、鋳型の形となるまで膨潤する。 膨潤の割合は、特に限定的に、プリフォームと膨潤する容積に対し選ばれた2つの形状にのみ依存する。 用いる複数の単量体は、屈折率と相容性とにより選ばれる。 【0008】 半径方向に屈折率勾配を持つ光ファイバーの製造方法も知られており、オオツカ、コイケ(Applied Optics, 24 (24),4316〜4320頁(1985))の論文に記載されている。 この方法によると、光重合可能な単量体と重合開始剤の混合物は、水銀灯のまわりを回るように設置されたガラスチューブに導入される。 該チューブは各々の軸に関して回転し、その間、水銀灯は等速で垂直方向に動く。 部分的にのみ照射するために各チューブにはマスクが使用される。 各チューブの如何なる点においても、単量体の混合物は、窓の高さ/水銀灯の速度の比によって限定される同期間のみ光に曝される。 このようにして得られたポリマーのロッドは、50℃の真空加熱器に5日間入れられる。 光ファイバーは、これらのロッドを加熱下機械的に展延して得られる。 【0009】 【発明が解決しようとする課題】 本発明の目的は、均一な屈折率をもつ光学部品からなる系により得られるのと等しい機能を持つ、より単純な光学系を作ることを可能とする屈折率勾配のある透明物品の製造方法の提供である。 【0010】 【課題を解決するための手段】 発明者ら(出願人)は、屈折率勾配のある透明物品の新しい製造方法を発見した。 本発明の方法は下記のステージを含むことを本質的に特徴とする: 1)光重合可能な単量体の架橋可能な液体混合物が、自己形状保持性をポリマーが得られるまで、所望の屈折率分布に従って、場所により強度および/または照射時間を調節された照射を受ける; 2)該ポリマーが、重合開始剤と、第1段階で得られるマトリックスのポリマーの屈折率とは異なる屈折率のポリマーを生成する1つまたはいくつかの重合可能な単量体を含む膨潤組成物中で、 容量が一定となるまで膨潤する; 3)マトリックス中に分散した膨潤組成物が、屈折率勾配を持つ最終物品を得るために均一に重合される。 照射強度は、光の強さ(単位面積当たりのワットにより表される)を意味するとされ、照度(illuminance)とも呼ばれる。 【0011】 また、光重合可能な基本単量体の混合物が、 少なくとも1つの単官能単量体と、 少なくとも1つの多官能架橋剤とを含む製造方法を提供する。 【0012】 単官能単量体が、アクリレートもしくはメタクリレート系の単官能単量体から選ばれる製造方法を提供する。 【0013】 多官能架橋剤が、 アクリレートもしくはメタクリレート系の多官能単量体である製造方法を提供する。 【0014】 単官能単量体が、テトラヒドロフルフリル アクリレート(THFA)、グリシジル メタクリレート(GMA)、エチルジグリコール アクリレート(EDGA)から選ばれ、多官能架橋剤が、ペンタエリスリトール トリアクリレート(PETA)、トリメチロールプロパン トリアクリレート(TMPTA)、トリプロピレン グリコール ジアクリレート(TPGDA)、1,6−ヘキサンジオール ジアクリレート(HDDA)および式(I)で表される化合物から選ばれる製造方法を提供する。 CH 2 =CH-C(=O)-O-(CH 2 CH 2 O) n C(=O)-CH=CH 2 (I) 上式中、nは1から5である。 【0015】 式(I)で表される化合物が、トリエチレン グリコール ジアクリレート(TEGDA)、ジエチレン グリコール ジアクリレート(DEGDA)、テトラエチレン グリコール ジアクリレート(TTEGDA)から選ばれる製造方法を提供する。 【0017】 光重合可能な単量体の混合物が、少なくともEDGAの単量体と、 DEGDA、TEGDA、およびTPGDAから選ばれるひとつの架橋剤とを含み、膨潤組成物が、少なくとも 2−フェノキシエチル アクリレート(POEA)単量体を含む製造方法を提供する。 【0018】 架橋剤が、光重合可能な基本混合物に比して、10重量%以下、好ましくは3重量%以下の濃度である製造方法を提供する。 【0019】 光重合可能な基本混合物が0.01〜20重量%の比率で光重合開始剤を含む製造方法を提供する。 【0020】 光重合開始剤がアセトフェノン類から選ばれる製造方法を提供する。 【0021】 光重合可能な基本単量体の混合物が、反応定数の異なる少なくとも2つの単量体を含む製造方法を提供する。 【0022】 光重合可能な基本混合物が、反応定数の異なる2つの単官能単量体AおよびBと、多官能架橋剤とを含有する製造方法を提供する。 【0024】 光重合可能な基本混合物が、アクリレート系である第1の単官能単量体Aと、パーフルロアクリレート系である第2の単官能単量体Bとを含む製造方法を提供する。 アクリレート系である第1の単官能単量体Aが、アクリレート(THFA)、グリシジルメタクリレート(GMA)、エチルジグリコール アクリレート(EDGA)から選ばれる製造方法を提供する。 【0025】 単量体Bが、2,2,2−トリフルオロエチル アクリレートであり、該単量体が光重合可能な基本混合物の重量に比して20重量%以下、好ましくは10重量%以下の濃度である製造方法を提供する。 【0026】 第1照射ステージにおいて照射光の強さの調節が、グレー・レベルの固定マスクを光源と光重合混合物の間に挿入することにより、もしくは、レーザー光線またはコヒーレント光線の干渉により、もしくは、適当な不透明領域分布を示す回転マスクを用いることにより行われる製造方法を提供する。 【0027】 照射が、30秒〜10分の間に、3mW/cm 2 〜300mW/cm 2に変化する強度において行われる製造方法を提供する。 【0028】 膨潤組成物が、 第1段階で得られるマトリックスのポリマーの屈折率に比して屈折率が少なくとも0.02異なるポリマーを生成する単官能単量体のひとつもしくはいくつかからなる製造方法を提供する。 【0029】 膨潤組成物が、屈折率が1.54以上の多官能単量体のひとつもしくはいくつかを含み、マトリックスが1.52以下の屈折率を持つ製造方法を提供する。 【0030】 膨潤する単官能単量体が、フェニルメタクリレート、もしくはアクリレート、スチレン誘導体、チオ(メチル)アクリレートおよびPOEAから選ばれる製造方法を提供する。 【0031】 膨潤組成物が架橋剤を含む製造方法を提供する。 【0032】 架橋剤が、 アクリレートもしくはメタクリレート系の多官能単量体から選ばれ、前記光重合可能な混合物における多官能架橋剤の濃度より高濃度で用いられている製造方法を提供する。 架橋剤が、ペンタエリスリトール トリアクリレート(PETA)、トリメチロールプロパン トリアクリレート(TMPTA)、トリプロピレン グリコール ジアクリレート(TPGDA)、1,6−ヘキサンジオール ジアクリレート(HDDA)および式(I)で表される化合物から選ばれる製造方法を提供する。 CH 2 =CH-C(=O)-O-(CH 2 CH 2 O) n C(=O)-CH=CH 2 (I) 上式中、nは1から5である。 上記式(I)で表される化合物が、トリエチレン グリコール ジアクリレート(TEGDA)、ジエチレン グリコール ジアクリレート(DEGDA)、テトラエチレン グリコール ジアクリレート(TTEGDA)から選ばれる製造方法を提供する。 【0033】 用いられている架橋剤が、光重合可能な基本単量体の混合物に存在するものと同一である製造方法を提供する。 【0034】 膨潤組成物が、 アセトフェノン類から選ばれる光重合開始剤を、該組成物の重量に比して0.01〜20重量%の濃度で含む製造方法を提供する。 【0035】 膨潤組成物が、0.05〜0.5重量%の濃度で熱開始剤を含む製造方法を提供する。 【0036】 膨潤時間が、少なくとも17日、好ましくは20から35日の間である製造方法を提供する。 【0037】 膨潤組成物の重合の第3段階が、光重合可能な膨潤組成物の場合は膨潤したマトリックスの単一照射によって、もしくは、熱開始剤を含む膨潤組成物の場合は膨潤したマトリックスの熱処理によって行われる製造方法を提供する。 【0038】 以下、本発明の方法について詳細に説明する。 本発明の方法によれば、第1ステージ(工程)の目的は、所望する最終的な屈折率分布に全体として対応する構造上の勾配をマトリックス中で光重合により作ることである。 この構造上の勾配の記録と、材料が自己形状保持性を有するまでの材料の重合とは、この第1ステージで一緒に行われる。 このように該ポリマーの中で作られた様々な領域は、様々な膨潤度を示し、この特性が第2ステージで利用される。 【0039】 本発明の製造方法の第2ステージ中において、差動の(differential)膨潤がマトリックス中で生成され、膨潤した組成物の濃度勾配が、従って構造上の勾配に重ねられる。 前者(濃度勾配)は、実際には、単にマトリックスを膨潤組成物中に、例えば浸透により、接触させておくことにより生成される。 【0040】 基本マトリックス中に分散した膨潤組成物の重合の第3ステージは、UV照射もしくは熱処理により行われる。 【0041】 本発明の利用にさらに特に適合する光重合可能な単量体の混合物は、少なくともひとつの単官能単量体と、少なくともひとつの多官能架橋剤を含む混合物である。 単官能単量体は、好ましくはアクリレートもしくはメタクリレート系から選ばれる。 メタクリレート系の光重合可能な単量体の中では、グリシジル メタクリレート(GMA)が挙げられる。 アクリレートの中では、テトラヒドロフルフリル アクリレート(THFA)、エチルジグリコール アクリレート(EDGA)が挙げられる。 これらの中で、EDGAが特に好ましい。 【0042】 多官能架橋剤は、反応性官能基グループが単官能単量体と同じ型である多官能単量体から選ばれるのが好ましい。 アクリレー系の単官能単量体の場合、好ましく選ばれる架橋剤は、例えば、ペンタエリスロール トリアクリレート(PETA)、トリメチロールプロパン トリアクリレート(TMPTA)、トリプロピレン グリコール ジアクリレート(TPGDA)、1,6−ヘキサンジオール ジアクリレート(HDDA)、もしくは下式の単量体といったポリアクリレートの単量体である: CH 2 =CH-C(=O)-O-(CH 2 CH 2 O) n C(=O)-CH=CH 2 (I) 式中、nは1〜5である。 【0043】 式(I)で表される好ましい化合物は、ジエチレン グリコール ジアクリレート(n=2)(DEGDA)、トリエチレン グリコール ジアクリレート(n=3)(TEGDA)、およびテトラエチレン グリコール ジアクリレート(n=4)(TTEGDA)である。 【0044】 該製造方法の第2ステージ中の膨潤性を改良するために、同じ型の反応性官能基を持つことに加えて、光重合可能な単官能単量体および膨潤組成物の単量体(類)と、例えば共通ユニットが存在するがために、構造上の類似性を示す、架橋剤を使用することが望ましい。 特に、光重合する単官能単量体としてEDGAを、膨潤する単量体として2−フェノキシエチル アクリレート(POEA)を用いるとき、各々少なくともひとつの−OCH 2 CH 2 O−ユニットを有するので、(OCH 2 CH(−CH 3 )−O) 3と同一かもしくは類似のユニットを持つDEGDA,TEGDA、もしくはTPGDAが好ましく使用される。 光重合するマトリックス類の中で、架橋剤の濃度は、光重合混合物の重量を基準にして、好ましくは10重量%以下、さらに好ましく3重量%以下であることが好ましい。 一般に、1重量%オーダーの濃度で行うのが好ましい。 膨潤度の変化、ひいては屈折率の変化に結果として出る構造上の差異は、架橋剤の濃度が比較的低く異なる照度の場合に、さらに著しいことが分かった。 基本混合物もまた、光重合開始剤を含む。 【0045】 本発明で使用される光重合開始剤は、好ましくはアセトフェノン、さらに好ましくはジメトキシフェニルアセトフェノン(DMPA)から選ばれるのが好ましい。 下記の表で定義される商品は光重合開始剤の例として示される: 【0046】 【表1】
【0047】 光重合開始剤は、光重合可能な混合物の中で、好ましくは0.01〜20重量%の割合で、さらに特に約0.1重量%の量で好ましく用いられる。
【0048】
好ましい態様は、少なくとも2つの反応定数が極めて異なる単量体を含む光重合可能な混合物を用いることから成る。
2つの異なる単量体A,Bの反応定数r
1およびr 2は、異なる伝達反応の速度定数の比である: 【0049】
【数1】
既知の単量体の組の反応定数の表は、有機化学の一般的な本に出ており、例えば、「ポリマー ハンドブック」第3版 ジョン ウィーリー & サン、II巻153〜251頁(1989)に見られる。
【0050】
光重合可能な基本混合物は、反応定数が極めて異なる2つの単官能単量体A,Bと、上記で定義した多官能架橋剤とを、含むのが好ましい。
特に、違った特性を持つ、例えば
アクリル酸塩 、 メタクリル酸塩 、 アクリル酸エステルおよび メタクリル酸エステルグループから選ばれる、2つの重合可能な官能基グループからなる2つの単量体を選ぶことができる。 しかし、第1の単官能単量体Aとして上で規定したようなアクリレート
系を、第2の単官能単量体Bとして2,2,2−トリフルオロエチル アクリレート(3−FA)のようなパーフルオロアクリレート 系を、好ましく用いることが出来る。 パーフルオロ アルキル グループが存在するため、この 系のグループを含まないこれに相当する単量体と比較して、より低い反応性を示す。 マトリックスの屈折率を低くし、高屈折率のポリマーを作る膨潤組成物と共に膨潤を起こすと、最終物品の屈折率の差異を大きくすることが可能である。
パーフルオロアクリレート
系の単官能単量体は、通常、20重量%以下、好ましくは10重量%以下の濃度で導入される。 【0051】
光重合可能な基本混合物は、少なくともひとつはUV照射に対し透明である2つの鋳型の間に据えられる。
光の強さが所望する屈折率プロフィールに応じて空間的に調節されている照射強度で、ポリマーがゲル状となり、ついで自己形状保持性を有するまで行われる。 そこで、手で扱えるようになる。
【0052】
続く第2ステージ中に結果的に生成される、膨潤によって生成される部分により異なる屈折率は、部分により受ける強さが強ければ、比例的に、より高くなろう。
実際には、所望の屈折率変化とするために、光源と光重合する混合物の間にグレー・レベルの固定マスクを置く、もしくは、レーザー光線またはコヒーレント光線のビームの干渉を用いる、もしくは、適当な不透明領域分布(プロフィール)を示す回転マスクを用いることが、可能である。
このような照射の調節技術は、従来からの方法であり、例えばフランス特許第2661914号(エシロール)の中に既に記載されている。
【0053】
照射条件は、要求される勾配の型により広く異なってこよう。
本発明に利用するために用いられる条件は好ましくは:
3mW/cm
2 〜300mW/cm 2に変化する強度30秒〜10分の期間である。 【0054】
本発明の第2ステージにおいて、第1ステージの最後に得られたマトリックスは、第1ステージで得られた基本マトリックスを形成するポリマーとは異なる屈折率をもつポリマーを生成することのできる組成物の中で膨潤する。
膨潤組成物は、基本マトリックスの屈折率とは異なる屈折率を持つポリマーの元である、一つもしくは複数の単官能単量体を、好ましくは含む。
屈折率の低い、もしくは中位のポリマーを生成する単量体が、光重合可能な基本混合物から選ばれるならば、2−フェノキシエチル アクリレート(POEA)といった高屈折率のポリマーを生成する単量体が膨潤組成物の成分として選ばれる。
第1ステージの最後に高屈折率のポリマーが得られ、この物品の膨潤を中位から低い屈折率のポリマーの元となる組成物の中で生成するという、逆の状況を考えることも可能である。 先の場合の工程の使用がさらに特に好ましい。
【0055】
最終物品が光学的に十分な強さをつくり出す屈折率勾配を得るために、基本マトリックスの屈折率に比して少なくとも0.02屈折率が違うポリマーを生成する膨潤組成物を選ぶのが好ましい。
マトリックスが、かなり低い屈折率、好ましくは1.52以下である屈折率を持つ場合の本発明の好ましい態様では、高屈折率、好ましくは1.54以上の屈折率を持つ単官能単量体を1つもしくは複数含む組成物が分散され、たとえばフェニルアクリレート、もしくはメチルアクリレート、スチレン誘導体、チオ(メト)アクリレート単量体およびPOEAと言った不飽和芳香族単量体が分散される。
【0056】
膨潤組成物は、好ましくは架橋剤も含む。
この架橋剤は、マトリックスを生成する基本混合物で用いられるのと同じ型から選ばれるのが好ましい。 通常、基本混合物中においてよりも高濃度で、例えば10%のオーダーの濃度で、用いられる。
マトリックス中で同じ架橋剤と膨潤組成物を導入することは、膨潤組成物のマトリックスとの化学的親和性を著しく高める。 膨潤そのものの度合いは従って増大される。
膨潤組成物は、マトリックスのプリカーサー(前駆体)の混合物で用いられるような光重合開始剤、もしくはアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)のような熱による開始剤のいずれかである重合開始剤も含んでいる。
【0057】
光重合開始剤は、マトリックスを生成する基本混合物におけるのと同じ濃度範囲で用いられる。
熱による開始剤は、膨潤組成物中に、好ましくは0.05〜0.5重量%の量で導入される。
【0058】
膨潤ステージの最後において、製造方法の第3ステージで均一な重合が得られるために、膨潤組成物はマトリックスの厚さの中に均一に入らなければならない。
これを行うために、マトリックスは、実質的に熱力学的平衡に達するまで、即ち容量が一定となるまで膨潤させられる。
膨潤時間は、好ましくは少なくとも17日、好ましくは20〜35日であるのが好ましい。
【0059】
製造方法の最終ステージで、膨潤組成物の均一な重合が行われる。
この重合は:
−光重合可能な膨潤組成物の場合は、膨潤したマトリックスの均一な照射−もしくは、膨潤組成物が熱開始剤を含む場合は、膨潤したマトリックスの熱処理のいずれかにより生成される。
この場合、漸進的昇温は、何時間も、もしくは何日にも渡って起こり、例えば、AIBNの場合、AIBNが50〜70℃で分解するため、60℃で2日、ついで80℃で2日の周期で行われる。
【0060】
調節された照射が行われる本発明を利用するのに最も適している光重合可能な基本混合物と膨潤組成物の組合せから成る系を決めるために、該製造方法の第1ステージにおいて均一に行われる別種の照射を行うことにより、前もって異なる系についてテストを行うことができる。 最も適した系は、なされた照射による異なる膨潤比の差△Sを比較することにより導ける。
【0061】
下記の表IとIIは、5つの異なる系においては生じた膨潤差△Sを、個々の系においては均一に行われた2つの照射により生じた膨潤差△Sを示す。
下記に於いて、表IとIIは、表Iの系1の例を用いて更に精密に説明される。
【0062】
手順は以下の通りである:No. 1(EDGA,10%PETA)の混合物を、それぞれ同一の特徴を持つ2つの分かれた無機ガラス製の鋳型に注ぐ。
2つの鋳型の各々は、ついで異なった照射条件のもとに置かれる。
第1の鋳型は、21.8mW/cm
2の照射を受ける。 第2の鋳型は、6.25mW/cm
2の照射を受ける。 照射時間は、受けるエネルギー(もしくは1回量)が両方のサンプルで等しくなるよう調節される(この場合、1.16J/cm
2 )。 【0063】
サンプル(もしくはマトリックス)を鋳型から取る。 21.8mW/cm
2の照射のもとに得られたサンプルは、サンプルAと呼ぶ。 6.25cm 2の照射のもとに得られたサンプルは、サンプルBと呼ぶ。 それぞれのサンプルは、混合物No. 2(POEA)中で、平衡になるまで膨潤させる。
【0064】
ついで、S
Aが測られる。 S Aは、サンプルAの膨潤比である。
S A =〔m f /m i −1〕×100 m
f =膨潤したポリマーの質量 m
i =乾燥したポリマーの質量 同じ方法で、S BをサンプルBについて測られる。 △S=S
B −S Aは、2つの異なる照射方法で生じた膨潤比の差であり、百分率で表される。 △S/Sの平均値 の値は、2つの異なる照射方法で生じた膨潤比の相対的な変化である(平均S=(S
B +S A )/2)。 続いて、表Iの系2〜5の結果を得、計算するために同様の方法を行う。
【0065】
表IIについては、マトリックス/膨潤剤系の各々について一定の照射時間で照射が行われることを除いては、方法は同じである。
反応性が異なる2つの単官能単量体と多官能架橋剤を含む光重合する混合物、および、単官能単量体で基本的になり、好ましくは多官能架橋剤を含む膨潤組成物とからなる系3、4、および5は、照射に対し良い感度、即ち最も高い△S/Sの平均値を示し、従って屈折率について予見しうる最も大きい違いを示す。
【0066】
【表2】
【0067】
【表3】
【0068】
【実施例】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によってなんら限定されるものではない。
光重合可能な液状基本混合物(混合物No.1)は、以下で示される割合で下記の成分を含む:
−エチルジグリコール アクリレート(EDGA) 88.9%
−2,2,2−トリフルオロエチル アクリレート(3−FA) 10 %
−トリプロピレン グリコール ジアクリレート(TPGDA) 1 %
−ジメトキシフェニルアセトフェノン(DMPA) 0.1%
【0069】
混合物は、図1で示される鋳型の中で光重合される。 鋳型の各部は以下の特性を持つ:
【0070】
得られたマトリックスは、厚さ3mm,直径25mmである。 これらの寸法は、直径/厚さ比が工業生産の有機ガラスの直径/厚さ比に対応するよう選ばれた。
パイレックス
R製の窓は、用いられたUV領域で透明である。 パイレックス R製の第2部分を使うことによって、両面が光学的に良質なマトリックスを得ることができる。 それゆえ、得られた材料の透明度が判断でき、材料の屈折率が容易に測定できる。 テフロン
R製のシールは、サンプルの厚さを調節し、テストの再現性を高めている。 【0071】
照射の調節は、2つの異なった方法によって行われる:
A)UV照射は、主発光ラインが360nmと370nmの間にあるHBO200型の高圧水銀灯によって行われ、該水銀灯は、伝導勾配を持つ偏りのないフィルター(アポダイザー フィルター)と組合わさっている。
用いられるアポダイザー フィルターは、レイノルド コーポレーション社により製造された。 直径30mm、厚さ2.2mmのディスクである。
アポダイザー フィルターを作っている材料は、溶融シリカ(UV領域で透明)。
【0072】
中心からの半径距離の関数としての透過曲線は、図2に示される。
透過率分布は、ディスクの中心に関して対称である。
このように、ディスクの直径が横切っている場合、ディスクの中心で透過が最大になり、端に行くほど連続して減少する。
透過は、いかなるUV波長でも同じである。
【0073】
B)UV照射は、UVレーザー光線によっても行われうる。 レーザー光線は、直径に関して均一ではなく、ガウス分布する。
図3に示される照射の出力曲線を持ち、356.4nmにUVラインを持つスペクトラ フィジックス Kr モデル 2020 レーザーによって照射が行われる。
【0074】
膨潤組成物(混合物No.2)は以下の通りである:
−2−フェノキシエチル アクリレート(POEA) 89.5%
−トリプロピレン グリコール ジアクリレート(TPGDA) 10 %
−アゾビシイソブチアロニトリル(AIBN) 0.5%
混合物1を照射後、得られたマトリックスは、混合物2の中で18日間膨潤され、ついで70℃で20時間加熱処理される。
【0075】
〔最終物品の屈折率勾配の特徴付け〕
勾配の特徴付けは、屈折率勾配のある物品を通る光線の偏向角度Dの測定と、屈折率の変化量にDを関係付けることとからなる技術による。
これを行うために、物品を微調節ネジのあるスライドするステージに設置する。
He−Ne グリーン レーザー((d)543.5nm)による単色の光線が透過される。
偏向した光線は、与えられた距離に置かれたスクリーンに当たる。 図4参照。
【0076】
光軸(h=0)から距離hにある、屈折率勾配のある光学的構成成分の与えられた点における屈折率nの測定が行われる。 n
oは、光軸(h=0)における物品の屈折率である。 実験では、与えられた距離Lに位置するスクリーン上で、物体の光軸から偏向した光線までの距離zを測定するほうがより単純である。
hの関数であるnの変化は、微調節ネジのあるスライドするステージの上の物体を動かすことで測定できる。
【0077】
〔実施例1〕
光重合する液状混合物No. 1を、上述の方法Bに従って100mWのレーザー源のもと5分間、光重合する。
混合物No. 2中で膨潤させ、ついで上述の条件下で重合したのち、最終的な厚さ4.9mm、関係式n(h)=n
0 (1+Ah 2 /2)を実証する放物線状の屈折率、光学的強さ1.1ジオプトリー、焦点距離0.93mを示す物品が得られる;An 0の値は2.2×10 -4のオーダーである。 (n
0は、光軸での物品の屈折率である)。 【0078】
〔実施例2〕
手順は、実施例1と同じであるが、しかし、12mW/cm
2で8分間の照射のもと、上述の方法Aに従って光重合された液状混合物No. 1を用いる。 最終的厚さ4.8mm、An
0の値が2.4×10 -4のオーダーの放物線状の屈折率、光学的強さ1.5ジオプトリー、焦点距離0.87mを示す物品が得られる。 【0079】
〔実施例3〕
手順は、実施例2と同じであるが、しかし、20mW/cm
2で4分間の照射のもとに行う。 最終的厚さ4.58mm、放物線状の屈折率(An 0の値が2.6×10 -4のオーダー)、光学的強さ1.2ジオプトリー、焦点距離0.85mを示す物品が得られる。 図5は、最終物品について測定された、hの関数であるn−n
0の変化を示す。 【0080】
【発明の効果】
本発明により、均一な屈折率を持つ光学部品からなる系により得られるのと等しい機能を持つ、より単純な光学系を作ることが可能な屈折率勾配を持つ透明物品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 混合物を光重合させるときに混合物を入れる鋳型を示す断面図である。
【図2】 透過率と中心からの半径方向の距離の関係を示すグラフである。
【図3】 スペクトラ フィジックス Kr モデル 2020 レーザーによるUV光線の出力プロフィールを示すグラフである。
【図4】 偏向した光線とスクリーンとの位置関係を示す模式図である。
【図5】 最終物品の屈折率と光軸からの距離の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
A 中央に穴のあるカバーB UV透過部分C マトリックスの厚さを調節するシールD UV透過部分E 支持物h 物品の中心線からの入射光の高さD 偏向角度L 物品とスクリーンの距離z スクリーンにおける焦点からの高さe 物品eの光の透過する部分の巾
|