【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、電力系統の交流電気量の周波数を高精度に算出する周波数検出方式に関する。 【0002】 【従来の技術】電力系統の電源脱落事故などにより、系統の供給力が不足すると系統は減速し、周波数が低下する。 その逆に負荷が脱落すると系統は加速され周波数は増加する。 従って電力系統を安定に運転するためには周波数を高精度に検出する必要がある。 更には発電機の励磁制御等には高速度に、かつ広い範囲にわたって高精度に周波数を検出することが必要になってきている。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】以上のような技術的な背景から基本周波数からのズレ分を下記のようなアルゴリズムを適用して検出する方法が提案されている。 【数1】 なお、mはサンプリング時系列,サンプリング周波数は交流電気量の基本周波数の12倍としている。 従って時系列m−3は時系列mに対して1/4サイクル遅れのデータを意味する。 又、右辺の値でεは基本周波数を1とした時の比誤差であり、比誤差は電力系統の基本周波数をf0 ,基本周波数f 0からのズレ分をΔfとすれば、 比誤差をε=Δf/f
0で表される。 図3に周波数特性を示す。 図から明らかなように比誤差εが大きくなる(電力系統の周波数fの基本周波数f 0からのズレ分が大きくなる)と周波数特性の直線性が失われていくことが分かる。 そのためズレ分を検出するには(1a)式の値を予め既知のテーブルに入力しておいて、(1a)式の演算結果と照合してテーブルから比誤差εを算出等する処置がとられてきた。 しかし、いずれにせよ高い精度で周波数を検出できるのは、図3に示す周波数特性の直線性が維持されている比誤差εの零点近傍、つまり基本周波数近傍の極めて狭い周波数範囲内に限定されていた。 本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、電力系統の周波数が基本周波数に対して大きく変化しても、周波数を正確に検出することが可能な周波数検出方式を提供することを目的としている。 【0004】 【課題を解決するための手段】本発明の請求項1に係る周波数検出方式は、電力系統の交流電気量の周波数を算出する方式において、系統の電気量のサンプリング時刻mとm−nのサンプリング値v mとv mnとから、それらの和w m =(v m +v mn )の実効値に比例する量を算出する第1の手段と、下記同一電気量の時間微分量の実効値に比例する量を算出する第2の手段と、前記第2 の手段による算出値を第1の手段による算出値で除する第3の手段とからなることを特徴とする周波数検出方式。 【数2】 本発明の請求項2に係る周波数検出方式は、請求項1において、第1,第2の各手段は以下の電気量を算出するものである。 【数3】 第1の手段では、w mk 2 −w m・w m-2k第2の手段では、u mk 2 −u m・u m-2k kは任意のサンプリング時刻を示す整数。 本発明の請求項3に係る周波数検出方式は、請求項1において、第1,第2の各手段は以下の電気量を算出するものである。 【数4】 本発明の請求項4に係る周波数検出方式は、請求項1において、第1,第2の各手段は以下の電気量を算出するものである。 【数5】 本発明の請求項5に係る周波数検出方式は、請求項1において、第1,第2の各手段は以下の電気量を算出するものである。 【数6】 本発明の請求項6に係る周波数検出方式は、請求項1において、第3の手段で得られる値と所定の定数とを比較し、大なる時に動作と判定する過周波検出の第4の手段を付加するものである。 本発明の請求項7に係る周波数検出方式は、請求項1において、第3の手段で得られる値と所定の定数とを比較し、小なる時に動作と判定する不足周波検出の第4の手段を付加するものである。 本発明の請求項8に係る周波数検出方式は、請求項1において、第2の手段で得られる実効値に比例する量と第1の手段で得られる実効値に比例する量に所定の定数を乗じた値とを比較し、大なる時、動作と判定する過周波検出の第4の手段を付加するものである。 本発明の請求項9 に係る周波数検出方式は、請求項1において、第2の手段で得られる実効値に比例する量と第1の手段で得られる実効値に比例する量に所定の定数を乗じた値とを比較し、小なる時、動作と判定する不足周波検出の第4の手段を付加するものである。
【作用】本発明では電力系統の周波数を系統の電気量V ・ sin(ωt)とそれを時間微分した電気量ω・V cos (ωt)とから、後者の交流量の振幅がωに比例している点に着目してなされたものである。 詳細は実施例にゆずるが請求項1について、v m = sin(ωt m )とし、 w m =v m +v mnとw mの時間微分量u mを求める。 そして前記w mとu mの実効値に比例した量を算出し、 u mによって計算された実効値に比例した量をw mによって計算された実効値に比例した量で割った値、つまりωにより決まる値F(ω)は周波数の2乗に比例した量(ω) 2となることがわかった。 その他の請求項も同様である。 【0005】 【実施例】以下図面を参照して実施例を説明する。 図2 は本発明による方式が適用されるディジタル継電器の概略構成図である。 図において、入力電圧vは、先ずサンプルホールド回路S/Hでサンプリングされ、マルチプレクサMPXで切り替えてアナログ・ディジタル変換器A/Dに入力されて、更に変換されたディジタル値が演算部CPUへ印加される。 そしてCPUでは本発明に基づく所定の動作判定演算を行ない、その結果を出力する構成を有している。 同図において電圧vのS/H回路の出力をv mと記しているが、ディジタル演算部CPU内のディジタル処理においても区別せずに同様に記す。 図2の演算部CPUにおけるディジタル継電器の処理内容において、本発明は方向距離継電器に関するものである。 図1は本発明による周波数検出方式の一実施例を説明するブロック図である。 先ず第1の手段1では交流電気量v mとv mnの和w m =v m +v mnの実効値に比例した量を算出し、第2の手段2では前記交流電気量w mの時間微分量下記u mの実効値に比例した量を算出する。 第3の手段3は第2の手段で得られた値を、第1の手段で得られた値で除して周波数に比例した量を算出するものである。 【数7】 【0006】次に上記した図1の演算結果を検証する。 今、n=1,微分補正をl=0,1とする。 lは微分補正次数(l=0,1,2,…)であり、通常は演算時間と誤差精度の兼あいからl=0,1が用いられる。 更にサンプリング時刻t mのサンプリング値v mをv m =v ・ sin(ωt m )とすると、 【数8】 w m =v m +v m-1 =2V・cos(ωT/2)・sin(ωt m −ωT/2) …………(1) u m =Σk p・(v m+l −v mln ) =k1・(v m −v m-1 )+k2・(v m+1 −v m-2 ) =2V・(k1・sin(ωT/2)+k2・ sin(3ωT/2))・cos(ωt m −ωT/2) …………(2) w m ′=d(v m +v m-1 )/dt =2V・ω・cos(ωT/2)・cos(ωt m −ωT/2) …………(3) (Tはサンプリング周期) したがって(2) 式のk1・ sin(ωT/2)+k2・ s in(3ωT/2)(以下この部分を計算部Xと称す)と (3) 式のω・ cos(ωT/2)(以下この部分を計算部Yと称す)が等しくなるように、k1,k2を決定すればよい。 詳細は特公平3−20969号公報に記されているため、ここでは微分等式として(3)式を使用する。 又、同上式の振幅に掛かる2・ cos(ωT/2)及び s in, cosの中の(ωt m −ωT/2)は全て同じであり、略しても物理的に変わることはない。 【0007】又、交流量w,uの実効値に比例した量の算出量は以下のようになる。 【数9】 ここで(5) 式を(4) 式で割った値F(ω)は下式のように周波数の2乗に比例した量となる。 精度は(6) 式の時間微分の近似精度に依存する。 詳細は特公平3−209 69号公報に記載されており、本発明の中核ではないので省略する。
【数10】 【0008】以上のとおり本発明により従来の(1a)式で示す算出方式に比べて、系統の周波数を広い帯域で高精度に算出することができることがわかる。 即ち、従来技術の特性を示す図3と、本発明の特性を示す図4の横軸周波数帯域をみると分るように本発明の特性図4は基本波の2.5倍近傍までΔfが0.01Hzを維持しているのに対して、従来の(1a)式では基本波の1.2倍近傍までしか、精度±0.1Hzを維持できていない。 即ち、本発明は周波数算出精度を(1a)式の方法により広い帯域で維持できるからである。 従来の方法の着目点は交流量の基本周波数近傍付近の直線性を利用するものであり、全領域を利用するものではなかった。 本発明は交流電気量の全周波数領域での時間微分量を使うものであり、交流量の使用領域に左右されずに連続して広い領域にわたって周波数を高精度に算出することができる。 前述したとおりω=ω1とω=ω2では誤差は零であるが、その他の周波数では図4に示す特性となる(但し、 図ではω1=基本周波数,ω2=2.5・基本周波数の例を示す)。 誤差は下式のとおりである。 【数11】 【0009】図5に図1の第1,第2の手段として得られる交流電気量w m ,u mの実効値に比例する量を算出する方法として、既知(電気書院:電気計算1983年11月号VOL.51のP49(3) 式)である面積法による算出方式の実施例を示す。 【数12】 (10)式を(9) 式で割るとωに基づく量を得ることができる。 次に図6に図5と同様に、図2の第1,第2の手段として得られる交流電気量wm ,u mの実効値に、既知(電気書院:電気計算1983年11月号VOL.51のP 49(4) 式)である2値加算法による算出方式の実施例を示す。
【数13】 【0010】又、図7に図1の第1,第2の手段として交流電気量w m ,u mの実効値に比例した量を下式の演算式により算出する実施例を示す。 【数14】 【0011】図8は応用例であり、本例では図1の第3 の手段の出力F(ω)の大小を判定するものである。 4 は第4の手段であって、過周波検出手段として作用し、 下式に示すように予め設定された(ωk) 2より大か否かを判定するものである。 ωkは系統の許容周波数の上限値を示す。 【数15】F(ω)=(ω) 2 >(ωk) 2図9は他の応用例であり、本例では第4の手段4によって第3の手段の出力F(ω)の値が下式の予め設定された(ωh) 2より小か否かを判定する。 ωhは系統の許容周波数の下限値を示す。 即ち、第4の手段4は不足周波数検出手段とするものである。 【数16】F(ω)=(ω) 2 <(ωh) 2 【0012】図10は更に他の応用例であり、本例では第4の手段4を過周波判定手段としたものである。 そして第1の手段の出力w mk 2 −w m・w m-2k =V 2 [1− cos(2k・ωT)]/2と、第2の手段の出力u mk 2 −u m・u m-2k =(ωV) 2 [1− cos(2k・ω T)]/2とから、下式により周波数が予め設定した周波数ωkより大か否かを判定する。 【数17】 u mk 2 −u m・u m-2k =(ωV) 2 [1− cos(2k・ωT)]/2 >(ωk) 2・(w mk 2 −w m・w m-2k ) =V 2 [1− cos(2k・ωT)]/2 【0013】図11は更に他の応用例であり、本例では図 10の第4の手段4を不足周波数検出手段としたものである。 そして、大小比較は下式としたものである。 【数18】 u mk 2 −u m・u m-2k =(ωV) 2 [1− cos(2k・ωT)]/2 <(ωh) 2・(w mk 2 −w m・w m-2k ) =V 2 [1− cos(2k・ωT)]/2 【0014】 【発明の効果】以上のように本発明では電力系統の周波数を系統の電気量V・ sin(ωt)とそれを時間微分した電気量ωV cos(ωt)とから、後者の交流量の振幅がωに比例している点に着目して系統の周波数を高精度に検出しようとするものであり、時間微分量を交流電気量のサンプリング値から高精度に算出するアルゴリズムを適用することにより、広い周波数帯域にわたって所望の精度で周波数を検出することが可能となった。 【図面の簡単な説明】 【図1】本発明による周波数検出方式を説明する実施例のブロック図。 【図2】本発明が適用されるディジタル継電器の概略構成図。 【図3】従来の特性を説明する図。 【図4】本発明の効果を説明する図。 【図5】本発明の他の実施例を説明する図。 【図6】本発明の他の実施例を説明する図。 【図7】本発明の他の実施例を説明する図。 【図8】本発明の応用例を説明する図。 【図9】本発明の応用例を説明する図。 【図10】本発明の応用例を説明する図。 【図11】本発明の応用例を説明する図。 【符号の説明】 1 第1の手段 2 第2の手段 3 第3の手段 4 第4の手段 S/H サンプリングホールド回路 MPX マルチプレクサ A/D アナログ・ディジタル回路 CPU 演算部 |