【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、航空機の飛行中において、他の航空機等の赤外線ホーミングミサイルから攻撃を受けた際に、自己の航空機を防衛するために用いられる赤外線フレア弾に関するものである。 【0002】 【従来の技術】航空機の発生する赤外線を誘導装置で捉えて追尾、攻撃する赤外線ホーミングミサイルは、その受信波長帯として航空機の高温部が発する1〜3μmの近赤外線波長帯を利用してきた。 しかし、最近では誘導装置における赤外線検知センサの技術高度化に伴い、航空機エンジンのジェットプルームが発する3〜5μm中間赤外線波長帯を利用し、しかも太陽光等の背景光雑音の中から目標である航空機を識別する二波長スペクトル識別方式が採用されている。 更に、近い将来には、この受信波長帯を4〜5μmと検知精度を向上させ、また航空機が空気力学的に加熱されて発する8〜12μm遠赤外線波長帯を加えた機体探知型になり、且つ移動物体であるかどうかの判断機能を備えた方向へ発展していくものと予想される。 【0003】一方、防衛手段としての赤外線フレア弾は、例えばマグネシウムとテフロンを主成分とした燃焼剤により、1.5μm近傍に最高放射強度を有する近赤外線波長から6μmの中間赤外線波長までを黒体放射に準じて連続的に放射し、これに大気による吸収が作用した1.7と2.7及び4.3μmの放射強度が低い発光波形を呈する。 追尾してきた赤外線ホーミングミサイルは、この発光により欺瞞され、赤外線フレア弾を追尾していく。 (株式会社防衛年鑑発行会「光波エレクトロニクス技術講座第3日」1996.11.12記載) 【0004】 【発明が解決しようとする課題】しかし、この方式をとった赤外線フレアー弾では、放射強度が3〜5μmより強い1〜3μmの近赤外線波長帯を含むために、ジェットプルームが発する中間赤外線波長帯と識別が可能であり、また、本願発明における遠赤外線波長帯については、考慮されていないのが実状である。 従って、近い将来に予想される機体探知型に対しては、殆どその効果が期待できない。 【0005】 【課題を解決するための手段】即ち本発明は、飛来する赤外線ホーミングミサイルに対する自己防衛を行うフレア装置において、中間赤外線波長帯と遠赤外線波長帯を主に発光し、且つ飛行することを特徴とする赤外線フレア弾である。 本発明のフレア弾は、基本的に時間制御機能付点火装置、燃焼剤、排気制御装置及びロケットモータケースの4つから構成されている。 更にその詳細を以下に説明する。 【0006】時間制御機能付点火装置は、航空機より放出された赤外線フレア弾の燃焼剤を任意の時間経過後に燃焼開始させるためのものである。 これは航空機本体が赤外線フレア弾から受ける損傷を防止するためのものであり、また、赤外線ホーミングミサイルからの視野を外れないうちに、効果的に赤外線強度に到達させるためのものである。 本発明における時間制御機能付点火装置としては、燃焼組成物としての延時薬と点火薬を組み合わせた物でよいが、更に好ましいものは電子式遅延装置と点火薬を組み合わせた物である。 【0007】次に本発明における燃焼剤には、燃焼後のガス状生成物を排気制御装置でロケットモータケース外に放出させる事で中間赤外線波長帯を放射する機能と赤外線フレア弾を飛行させる機能、更には燃焼熱でロケットモータケースを加熱する事による遠赤外線波長帯を放射する機能が求められる。 具体的にはガス状物質とその燃焼熱で加熱された微粒子を含む燃焼生成物が生じる燃焼剤が好ましく、この場合、ガス状物質で飛行のための推進力を得て、加えてガス状物質と熱された微粒子により中間赤外線波長帯を主に放射する。 【0008】更に好ましいのは、燃焼生成物として二酸化炭素等を多量に生成する燃焼剤である。 この場合は、 生成したガス分子が回転、振動に伴った中間赤外線波長帯を主に放射することになる。 これらの赤外線放射時に、H 2 O成分等による3μmより小さい波長帯の赤外線が同時に放射されるため、燃焼剤の組成或いは配合比を考慮して、3〜5μm赤外線波長帯に対する相対強度を50%以下に抑えることが好ましい。 【0009】本発明における排気制御装置は、前述した燃焼剤による機能を最も効率の良い条件で実施するための制御部である。 基本的形状は燃焼室断面積を一度絞り込んで、再び開口させたノズル形状である。 この形状と材質を適宜選択することで、推進機能に関しては燃焼生成物の排出速度等を調整することによる推進力の制御を行い、中間赤外線波長帯の放射に関してはプルームの温度と大きさ等を調整することで分光特性及び放射強度を制御する。 【0010】本発明におけるロケットモータケースは、 燃焼剤の燃焼熱により加熱されて遠赤外線波長帯を放射する機能と赤外線フレア弾本体を安定に飛行させるための飛行姿勢の保持機能がある。 目的とする遠赤外線波長帯の分光特性及び放射強度を得るためには、空気力学的な加熱を考慮した温度調整及び形状を決定する必要があり、そのためには燃焼室からの熱伝導を制御するための温度制御材をロケットモータケースとの間に配置することが好ましい。 また、遠赤外線波長帯を得る別の方法として、排気制御装置を通して外部に排出された燃焼生成物によりロケットモータケースの一部もしくは全体、或いは予め加熱用に付属された部品を加熱することも好ましい。 安定した飛行姿勢を得るためには、ロケットモータケース外側に安定翼を設置するが、航空機本体に収納する際の容積を小さくするために、航空機から放出された後、作動する折りたたみ方式が好ましい。 【0011】 【作用】この発明に係わる赤外線フレア弾は、自己の航空機が赤外線ホーミングミサイルから追尾或いは攻撃を受けた緊急事態において、自己の航空機から放出され、 任意の時間経過後に燃焼を開始し、プルームによる中間赤外線波長帯の放射及びロケットモータケース外表面からの遠赤外線波長帯の放射を行いつつ飛行する。 赤外線ホーミングミサイルは、誘導装置の同一視野に自己の航空機と赤外線フレア弾を捉えるが、赤外線フレア弾のほうを目標と判定することで自己の航空機は脅威の視野から離脱できることになる。 尚、この際、自己の航空機におけるエンジン出力は、赤外線フレア弾からの放射強度をきわだたせるために調整されることもある。 【0012】 【実施例】以下、本発明の一実施例を図1〜図2に基づいて説明する。 図に示す赤外線フレア弾1は、通常、別体の収納容器に収納され航空機10の主翼下近傍に取り付けられる。 赤外線ホーミングミサイル11からの追尾を受けた緊急事態において、自己の航空機10より放出される。 放出されるとほぼ同時に時間制御機能付点火装置2が作動を開始し、予め設定された時間経過後に燃焼剤3を点火する。 燃焼剤3は燃焼熱と燃焼生成物を生じながら燃焼し、ロケットモータケース5を加熱する一方で、排気制御装置4を通して燃焼生成物を排出することにより中間赤外線波長帯の放射7を行いつつ飛行する。 それと同時にロケットモータケース5外表面からは遠赤外線波長帯の放射8が行われる。 安定翼6は、赤外線フレア弾本体1の安定飛行を保持させるために設置されたものである。 【0013】自己の航空機10は、この赤外線フレア弾1と同一視野で赤外線ホーミングミサイル11に捉えられるが、赤外線ホーミングミサイル11が目標を赤外線フレア弾1と判定した時点で、飛行経路を変更し、赤外線ホーミングミサイル11の脅威範囲から離脱する。 【0014】 【発明の効果】本発明の赤外線フレア弾によれば、プルームからの中間赤外線波長帯の放射及びロケットモータケースからの遠赤外線波長帯の放射、更にはその飛行機能により、機体探知型誘導部を有する赤外線ホーミングミサイルを欺瞞する効果がある。 また加えて、飛行機能を有することは、自己の航空機との安全距離も短時間で確保できる。 【図面の簡単な説明】 【図1】本発明の一実施例をによる赤外線フレア弾を説明する断面図である。 【図2】放出された赤外線フレア弾を赤外線ホーミングミサイルが追尾する実運用の説明図である。 【符号の説明】 1 赤外線フレア弾 2 時間制御機能付点火装置 3 燃焼剤 4 排気制御装置 5 ロケットモータケース 6 安定翼 7 中間赤外線波長帯の放射 8 遠赤外線波長帯の放射 9 温度制御材 10 自己の航空機 11 赤外線ホーミングミサイル |