歯科用インプラントおよびその製造方法

申请号 JP2013556385 申请日 2013-01-28 公开(公告)号 JPWO2013115128A1 公开(公告)日 2015-05-11
申请人 株式会社オーガンテクノロジーズ; 发明人 孝 辻; 孝 辻; 正充 大島; 正充 大島;
摘要 【課題】本発明は、歯科用インプラントの移植後において、インプラント周囲の機能的な歯周組織形成を可能とするインプラントを提供することを課題とする。【解決手段】本発明の歯科用インプラントは、歯胚組織由来または歯根膜組織由来の細胞塊が、インプラントの表面に配置されており、細胞塊が配置されるインプラントの表面が、インプラント移植時にレシピエントの歯槽骨に囲まれる表面の全体又は一部であることを特徴とする。
权利要求

機能的な歯周組織形成を可能とする歯科用インプラントであって、 ここで、歯胚組織由来または歯根膜組織由来の細胞塊が、前記インプラントの表面に配置されており、 前記細胞塊が配置される前記インプラントの表面は、前記インプラント移植時にレシピエントの歯槽骨に囲まれる表面の全体又は一部である ことを特徴とする歯科用インプラント。請求項1に記載のインプラントであって、 前記歯胚組織由来の細胞塊が、歯胚間葉組織由来または歯小嚢組織由来の細胞塊であることを特徴とするインプラント。請求項1に記載のインプラントであって、 前記細胞塊が歯胚組織由来であって、前記歯胚組織が、帽状期、鐘状前期、および、鐘状後期からなる群より選択されるいずれか1つの発生段階にあることを特徴とするインプラント。請求項1〜3のいずれか一項に記載のインプラントであって、 インプラント移植後に矯正可能であることを特徴とするインプラント。請求項1〜4のいずれか一項に記載のインプラントであって、 前記形成される歯周組織が、 (i)機能的なセメント質および機能的な歯根膜を有する、および (ii)機能的な神経線維を有する のうちの少なくとも一方の特徴を有するインプラント。請求項1〜5のいずれか一項に記載のインプラントであって、 前記インプラントは、インプラントの表面全体またはその一部に、表面コーティング剤のコーティング層をさらに含み、前記細胞塊が前記コーティング層の表面上に配置されていることを特徴とするインプラント。請求項6に記載のインプラントであって、 前記表面コーティング剤が、ハイドロキシアパタイト、α−リン酸三カルシウム、β−リン酸三カルシウム、および、コラーゲンからなる群より選択されることを特徴とするインプラント。機能的な歯周組織を形成可能とする歯科用インプラントの製造方法であって、 前記インプラント移植時にレシピエントの歯槽骨に囲まれるインプラント表面の全体またはその一部に、歯胚組織由来又は歯根膜組織由来の細胞塊を配置する工程を含むことを特徴とするインプラントの製造方法。請求項8に記載のインプラントの製造方法であって、 前記歯胚組織由来の細胞塊が、歯胚間葉組織由来または歯小嚢組織由来の細胞塊であることを特徴とするインプラントの製造方法。請求項8に記載のインプラントの製造方法であって、 前記細胞塊が歯胚組織由来であって、前記歯胚組織が、帽状期、鐘状前期、および、鐘状後期からなる群より選択されるいずれか1つの発生段階にあることを特徴とするインプラントの製造方法。請求項8〜10のいずれか一項に記載のインプラントの製造方法であって、 前記インプラント移植後に、前記インプラントが矯正可能であることを特徴とするインプラントの製造方法。請求項8〜11のいずれか一項に記載のインプラントの製造方法であって、 前記形成される歯周組織が、 (i)機能的なセメント質および機能的な歯根膜を有する、および (ii)機能的な神経神経線維を有する のうちの少なくとも一方の特徴を有するインプラントの製造方法。請求項8〜12に記載のインプラントの製造方法であって、 前記細胞塊を配置する工程の前に、インプラントの表面全体またはその一部であって、インプラント移植時にレシピエントの歯槽骨に囲まれる表面上に、表面コーティング剤のコーティング層を形成する工程をさらに含み、 前記細胞塊が前記コーティング層の表面上に配置されていることを特徴とするインプラントの製造方法。請求項13に記載のインプラントの製造方法であって、 前記表面コーティング剤が、ハイドロキシアパタイト、α−リン酸三カルシウム、β−リン酸三カルシウム、および、コラーゲンからなる群より選択されることを特徴とするインプラントの製造方法。歯を欠損した哺乳動物へのインプラントの移植方法であって、請求項1〜7のいずれか一項に記載のインプラントを、前記歯を欠損した部位に移植する工程を含むことを特徴とするインプラントの移植方法。請求項15に記載のインプラントの移植方法であって、前記動物が非ヒト哺乳動物であることを特徴とするインプラントの移植方法。

说明书全文

本発明は、歯科用インプラントおよびその製造方法に関する。より具体的には、機能的な歯周組織の形成を可能とする歯科用インプラントおよびその製造方法に関する。

虫歯や歯周病により喪失した歯の機能を再び獲得するために種々の治療手段が知られている。例えば、金属やセラミックス等の人工材料により作製される義歯を歯根に埋める方法が知られている。また、例えば、完全に歯根まで喪失した場合には、健康な歯にブリッジをかけつつ義歯を置く方法が知られている。 さらに近年、この歯科置換医療の先端的治療法の一つとして、口腔インプラント治療が実施されている。口腔インプラント治療とは、喪失歯部位の顎骨にチタン等の人工歯根を植立する手段である。

しかし、天然歯の歯根と、歯科用インプラント(人工歯根)には大きな違いが存在する。それは、天然歯の歯根は歯周組織の一部である歯根膜で被われていているのに対し、歯科インプラントの移植部位には、通常、歯根膜を有していないことである。 天然歯の周囲には、歯根側のセメント質と外側の歯槽骨を繋ぐ線維状の歯根膜組織が存在する。セメント質は、歯根面の保護と歯根膜を歯根面に付着させる機能を有している。また、歯根膜は、大きく分けて、1)咬合の緩衝作用、2)歯の移動能(歯科矯正治療などに用いられるメカニクス)、および、3)咬合および矯正などの侵害刺激(痛み刺激等)を中枢神経系へ伝える神経伝達機能の3つの機能を有することが知られている。このうち、特に歯根膜は、歯の咬合力を緩衝するために、歯根の長軸方向に対して垂直方向に走行する繊維を有しており、この歯根膜組織における線維の走行が、歯根膜の機能発現のために必要不可欠な構成であることが知られている。

しかしながら、歯科用インプラントを移植した場合、インプラント移植部位に天然歯の周囲に存在するような機能的な歯周組織を形成することができない。そのため、歯科インプラントの移植部位は、長期間の使用における咬合力により、それらを支える歯槽骨の吸収を引き起し、使用に耐えることができなくなるという問題点を有していた。 このように、歯科用インプラントを移植した際にも、天然歯と同様の歯周組織を形成可能な技術が長い間望まれていた。

これまで、移植後のインプラント周囲に歯周組織を形成させるために、歯周組織由来の培養細胞を用いることが検討されてきている。 <非特許文献1> 本文献は、ラット歯根膜から採取した前駆細胞由来の培養細胞の利用について開示している。本文献は、SLA処理したインプラントへ、培養細胞をマトリゲルとともにコーティングすることを開示している。また、本文献は、このインプラントを、ラットの歯牙欠損部に移植した場合に、歯周組織が形成されたことについて言及している。 しかし、本文献においてインプラントの周囲に形成された歯根膜の走行は、インプラントの長軸方向と平行であり、天然歯根膜と相違するものである。歯根膜の走行は、歯の咬合力を支えるのに重要な意味を持つため、このような歯根膜を有する歯周組織は、咬合力を支える機能を期待することができない。

<非特許文献2> 本文献には、EMD(エムドゲイン)処理したチタンインプラントを顎骨に移植し、同時に歯根膜から採取したPDL細胞を移植部に注入する方法が開示されている。この方法は、インプラント周囲の歯周組織の形成を図るために、エナメルマトリックスタンパクを主成分として薬剤を併用するものである。そして、本文献は、上皮組織の混入していない歯槽骨と結合した組織の形成について言及している。しかし、形成された歯周組織中に歯周組織の1つであるセメント質の構造は認められていない。また、歯周組織中の歯根膜の走行も確認されていない。

このように、現在まで、機能的な歯周組織を形成可能な歯科用インプラントについては報告されていない。

Lin Y et. al., J Dent Res. 2011 Feb;90(2):251−6. Epub 2010 Dec 13.

Craig RG et al., J Oral Implantol. 2006;32(5):228−36.

本発明は、歯科用インプラントの移植後において、インプラント周囲に機能的な歯周組織形成を可能とするインプラントを提供することを課題とする。

上記課題を解決するため、本発明者らが鋭意検討した結果、歯科用インプラントの表面上に歯胚組織由来または歯根膜組織由来の細胞塊を配置させることで、インプラント移植後のインプラントの周囲に機能的な歯周組織を形成させることができることを見出した。 すなわち、本発明は、機能的な歯周組織形成を可能とする歯科用インプラントであって、ここで、歯胚組織由来または歯根膜組織由来の細胞塊が、前記インプラントの表面に配置されており、前記細胞塊が配置される前記インプラントの表面は、前記インプラント移植時にレシピエントの歯槽骨に囲まれる表面の全体又は一部であることを特徴とする歯科用インプラントに関する。

ここで、本発明の機能的な歯周組織形成を可能とする歯科用インプラントの一実施態様においては、前記歯胚組織由来の細胞塊が、歯胚間葉組織由来または歯小嚢組織由来の細胞塊であることを特徴とする。 また、本発明の機能的な歯周組織形成を可能とする歯科用インプラントの一実施態様においては、前記細胞塊が歯胚組織由来であって、前記歯胚組織が、帽状期、鐘状前期、および、鐘状後期からなる群より選択されるいずれか1つの発生段階にあることを特徴とする。

また、本発明の機能的な歯周組織形成を可能とする歯科用インプラントの一実施態様においては、前記インプラントがインプラント移植後に矯正可能であることを特徴とする。 また、本発明の機能的な歯周組織形成を可能とする歯科用インプラントの一実施態様においては、前記形成される歯周組織が、(i)機能的なセメント質および機能的な歯根膜を有する、および、(ii)機能的な神経線維を有する、のうちの少なくとも一方の特徴を有することを特徴とする。

また、本発明の機能的な歯周組織形成を可能とする歯科用インプラントの一実施態様においては、前記インプラントは、インプラントの表面全体またはその一部に、表面コーティング剤のコーティング層をさらに含み、前記細胞塊が前記コーティング層の表面上に配置されていることを特徴とする。 また、本発明の機能的な歯周組織形成を可能とする歯科用インプラントの一実施態様においては、前記表面コーティング剤が、ハイドロキシアパタイト、α−リン酸三カルシウム、β−リン酸三カルシウム、および、コラーゲンからなる群より選択されることを特徴とする。 また、本発明の機能的な歯周組織形成を可能とする歯科用インプラントの一実施態様においては、前記インプラントは、歯槽骨の再生を促進することができることを特徴とする。 また、本発明の機能的な歯周組織形成を可能とする歯科用インプラントの一実施態様においては、前記インプラントは、歯槽骨の再生能を改善することができることを特徴とする。 なお、以上述べた本発明の一又は複数の特徴を、任意に組み合わせたものも、本発明の歯科用インプラントであることはいうまでもない。

また、本発明の別の態様は、機能的な歯周組織を形成可能とする歯科用インプラントの製造方法であって、前記インプラント移植時にレシピエントの歯槽骨に囲まれるインプラント表面の全体またはその一部に、歯胚組織由来又は歯根膜組織由来の細胞塊を配置する工程を含むことを特徴とするインプラントの製造方法に関する。 ここで、本発明の機能的な歯周組織を形成可能とする歯科用インプラントの製造方法の一実施態様においては、前記歯胚組織由来の細胞塊が、歯胚間葉組織由来または歯小嚢組織由来の細胞塊であることを特徴とする。

また、本発明の機能的な歯周組織を形成可能とする歯科用インプラントの製造方法の一実施態様においては、前記細胞塊が歯胚組織由来であって、前記歯胚組織が、帽状期、鐘状前期、および、鐘状後期からなる群より選択されるいずれか1つの発生段階にあることを特徴とする。 また、本発明の機能的な歯周組織を形成可能とする歯科用インプラントの製造方法の一実施態様においては、インプラント移植後に、前記インプラントが矯正可能であることを特徴とする。

また、本発明の機能的な歯周組織を形成可能とする歯科用インプラントの製造方法の一実施態様においては、前記形成される歯周組織が、(i)機能的なセメント質および機能的な歯根膜を有する、および、(ii)機能的な神経線維を有する、のうちの少なくとも一方の特徴を有することを特徴とする。 また、本発明の機能的な歯周組織を形成可能とする歯科用インプラントの製造方法の一実施態様においては、前記細胞塊を配置する工程の前に、インプラントの表面全体またはその一部であって、インプラント移植時にレシピエントの歯槽骨に囲まれる表面上に、表面コーティング剤のコーティング層を形成する工程をさらに含み、前記細胞塊が前記コーティング層の表面上に配置されていることを特徴とする。

また、本発明の機能的な歯周組織を形成可能とする歯科用インプラントの製造方法の一実施態様においては、前記表面コーティング剤が、ハイドロキシアパタイト、α−リン酸三カルシウム、β−リン酸三カルシウム、および、コラーゲンからなる群より選択されることを特徴とする。 なお、以上述べた本発明の一又は複数の特徴を、任意に組み合わせたものも、本発明の歯科用インプラントの製造方法であることはいうまでもない。

また、本発明の別の態様は、歯を欠損した哺乳動物へのインプラントの移植方法であって、上記インプラントを、前記歯を欠損した部位に移植する工程を含むことを特徴とするインプラントの移植方法に関する。 また、本発明の歯を欠損した哺乳動物へのインプラントの移植方法の一実施態様においては、前記動物が非ヒト哺乳動物であることを特徴とする。

本発明の歯科用インプラントによれば、インプラント移植後において、インプラント周囲に機能的な歯周組織を形成させることができる。 なお、本発明の歯科用インプラントによれば、インプラント移植後においてインプラント周囲に機能的な歯周組織を形成させることができるのみならず、インプラント移植部位周辺の歯槽骨の再生を促進することができる。また、本発明の歯科用インプラントによれば、インプラント移植部位周辺の歯槽骨の再生能も改善することができる。

図1A(上段)は、胎齢18日のC57/BL/6マウスより摘出した歯胚、アダルトマウス由来の天然歯の画像を示す。図1B(下段)は、胎齢18日のC57/BL/6マウス由来の歯胚より分離した歯小嚢組織、アダルトマウス由来天然歯より分離した歯根膜組織の画像を示す。

図2は、歯根膜除去モデルに対して歯小嚢組織を移植した際の、移植後21日目の歯周組織におけるHE染色像を示す。HE染色像は、顎骨の前頭断切片を染色したものであり、切歯方向から後頭部方向へ見た像である。図2Aは、歯小嚢組織を移植しなかった対照区のHE染色像を示し、図2Bは、歯小嚢組織を移植した区のHE染色像を示す。なお、図中において、アスタリスク(*)はアンキローシス形成部位を示し、Dは象牙質を示し、ABは歯槽骨を示し、Cはセメント質を示し、PDLは歯根膜を示す。

図3は、本発明の一実施の形態である、ハイドロキシアパタイト(HAともいう)のコーティング層を有するインプラントの当該コーティング層の上に、歯小嚢組織を貼りつけたインプラント(歯小嚢付与HAインプラント)の移植モデルの概略図を示す。図3Aは、天然歯列を示し、図3Bは第一臼歯の抜歯および歯肉治療を示し、図3Cは移植窩の作製を示し、図3Dは歯小嚢付与HAインプラントの移植を示す。

図4Aは、本発明の一実施の形態である、歯小嚢組織を巻き付けたHAインプラント(歯小嚢付与HAインプラント)の実体像(左中図)、および、それらのGFP蛍光像(右中図は側面から撮影した画像を示し、右図は底面から撮影した画像を示す)を示す。また、歯小嚢組織を巻き付ける前のハイドロキシアパタイトのコーティング層を有するインプラント(HAインプラント)の実体像を示す(左図)。図4Bは、HAインプラントおよび歯小嚢付与HAインプラントの移植直後(左図)と、移植後21日目のCT画像を示す(左中図、右中図、右図)。矢印は歯根膜腔の形成を示す。

図5は、本発明の一実施の形態である歯小嚢付与HAインプラントの移植後の歯周組織(下段)、天然歯の歯周組織(上段)、および、HAインプラント移植後の周囲の組織(中断)のHE染色像を示す。impはインプラントを示す。

図6は、本発明の一実施の形態である、GFPマウス由来の歯小嚢組織を付与したHAインプラントを口腔内に移植し、移植後21日目におけるインプラント周囲の実体像、GFP蛍光像、および、実体像とGFP蛍光像との重ね合わせた図を示す(上段の画像は舌側の側面より撮影した画像を示し、下段の画像は上顎側(上方)より撮影した画像を示す)。矢印はインプラントを示す。

図7は、本発明の一実施の形態である歯小嚢付与HAインプラントを移植した際に形成された歯根膜のアザン染色像(右図)、および、天然歯歯根膜のアザン染色像(左図)を示す。

図8は、本発明の一実施の形態である歯小嚢付与HAインプラントを移植した際に形成された歯周組織(下段)、および天然歯の歯周組織(上段)を、走査型電子顕微鏡を用いて撮影した画像を示す。

図9は、本発明の一実施の形態である歯小嚢付与HAインプラントを移植した際に形成された歯周組織を、透過型電子顕微鏡を用いて撮影した画像を示す。

図10は、本発明の一実施の形態である歯小嚢付与HAインプラントを移植した際に形成された歯周組織における、チタン(Ti)、カルシウム(Ca)、またはリン(P)の元素の分布をX線マイクロアナライザーを用いて解析した画像を示す(図10中の上段の画像)。図10中下段の画像は、各元素分布を解析した画像(上段の画像)に対応する実体像を示す画像である。

図11は、本発明の一実施の形態である歯小嚢付与HAインプラントを移植した際に形成された歯周組織における、チタン(Ti)、カルシウム(Ca)、またはリン(P)の元素の分布をX線マイクロアナライザーを用いて解析した画像、および当該3元素の分布の画像を重ね合わせた画像を示す。

図12は、インプラント移植後に形成された歯根膜組織における神経線維解析に用いたインプラント移植モデルにおける、切歯と、臼歯と、インプラントとの位置関係を示した模式図を示す。

図13Aは、本発明の一実施の形態である歯小嚢付与HAインプラント、天然歯、HAインプラントに矯正力を加えた試験において、矯正前および矯正後の画像を重ねた像を示す。図13Bは、矯正力をかけた際の、天然歯、移植後のHAインプラント、および、移植後の歯小嚢付与HAインプラントの移動距離を表わすグラフを示す。

図14は、本発明の一実施の形態である歯小嚢付与HAインプラント、天然歯、および、HAインプラントに矯正力を加えた後、6日目の圧迫側における骨吸収マーカー(CSF−1)および牽引側における骨形成マーカー(Ocn)の発現をin situ hybridizationにより解析した切片の画像を示す。図中、矢印はCSF−1の発現部位を示し、矢頭はOcnの発現部位を示す。

図15は、本発明の一実施の形態である歯小嚢付与HAインプラント、天然歯、および、HAインプラントの周囲の歯根膜領域において、末梢神経マーカーであるNeuro Filamentの発現を観察した際の画像(位相差像、蛍光像、および位相差像と蛍光像とを重ね合わせた画像)を示す。

図16は、本発明の一実施の形態である歯小嚢付与HAインプラント、天然歯、および、HAインプラントの周囲の歯根膜に対し、矯正力により侵害刺激を加え、その2時間後に三叉神経髄路核で発現するc−Fosタンパク質をin situ hybridizationにより解析した切片の画像を示す。図中、矢印はc−Fosタンパク質の発現部位を示す。Tは、三叉神経脊髄路核を示す。

図17上段は、三壁性骨欠損モデルの作製工程を示す模式図である。また、図17下段は、三壁性骨欠損モデルの実体写真、3次元構築したマイクロCT画像(3次元CT画像)、および、マイクロCT画像(前頭断および平断)を示す。図17Aは第一臼歯の抜歯と骨の治療を示し、図17Bは三壁性骨欠損の作製を示し、図17Cはインプラントの移植を示す。

図18は、三壁性骨欠損モデルに対して本発明の一実施の形態である歯小嚢付与HAインプラント(下段)、または、HAインプラント(中段)を移植した際の移植日(0日目)、ならびに、移植日より14日目、28日目、および50日目の三壁性骨欠損モデルの歯槽骨の3次元CT画像を示す。また、図18上段は、三壁性骨欠損モデルに対してインプラント等を移植しなかった際の三壁性骨欠損モデルの歯槽骨の3次元CT画像を示す。なお、図中、矢印は、歯槽骨が本来の高さまで再生されていることを示す。

図19は、三壁性骨欠損モデルに対して本発明の一実施の形態である歯小嚢付与HAインプラントを移植した際の、移植日(0日目)、ならびに、移植日より14日目、28日目、および50日目の歯槽骨のマイクロCT画像を示す(上段:矢状断、中段:水平断、下段:前頭断)。図中の矢頭は、歯根膜腔様の間隙を示す。

図20は、三壁性骨欠損モデルに対して、本発明の一実施の形態である歯小嚢付与HAインプラント、または、HAインプラントを移植した際の、移植日50日目における歯槽骨の再生量の割合を示すグラフである。また、対象として、インプラントを移植しなかった三壁性骨欠損モデルにおける歯槽骨の再生量の割合を示す。なお、グラフ中100%は、歯槽骨欠損前の状態の歯槽骨の量を示す。

図21は、三壁性骨欠損モデルに対して、本発明の一実施の形態である歯小嚢付与HAインプラント(下段)、またはHAインプラント(中断)を移植した際の、移植日(0日目)および移植日より50日目における歯槽骨の矢状断の切断面の画像を示す。また、対象として、歯槽骨側面が欠損していない通常の歯槽骨へHAインプラントを移植した(上段)際の移植日(0日目)および移植日より50日目における歯槽骨の矢状断の切断面の画像を示す。

図22は、三壁性骨欠損モデルに対して、本発明の一実施の形態である歯小嚢付与HAインプラント、または、HAインプラントを移植した際の、移植日50日目におけるインプラントの歯槽骨内への落ち込みの量を示すグラフである。また、対象として、歯槽骨側面が欠損していない通常の歯槽骨へHAインプラントを移植した際の移植日50日目におけるインプラントの歯槽骨内への落ち込みの量を示すグラフである。

本発明に係る歯科用インプラントは、機能的な歯周組織形成を可能とする歯科用インプラントであって、歯胚組織由来または歯根膜組織由来の細胞塊が、インプラントの表面に配置されており、細胞塊が配置されるインプラントの表面が、インプラント移植時にレシピエントの歯槽骨に囲まれる表面の全体又は一部であることを特徴とする。

「インプラント」とは、一般に、医療目的でヒトまたは動物に対して使用される生体内に埋め込むための器具である。本明細書においては、「インプラント」とは、特に、失われた歯に代えて顎骨に埋め込むための歯科用の人工歯のことを言う。

本発明に使用されるインプラントの材料としては生体為害性がなく、生体親和性を有し、咬合に耐えうる強度の高い材料であれば、従来よりインプラントの材料として用いられているものを使用できる。インプラントの材料としては、例えば、金属製、金属合金製、プラスチック材料製、セラミック製、複合材料、骨代替材料等を挙げることができる。

本発明において、インプラントとして使用し得る金属および金属合金としては、例えば、チタニウム、鋼鉄、鉄、合金鋼、鉄合金、チタニウム合金、CoCr合金、銀、銅、カルシウム、マグネシウム、亜鉛等を挙げることができる。

本発明において、インプラントとして使用し得るプラスチック材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、テレフタル酸ポリエチレン、ポリアミド類、ポリウレタン類、ポリシロキサン類、ポリシロキサンエラストマー類、ポリエーテルエーテルケトン類、ポリスルホン類、ポリサッカライド類およびポリラクチド類等の重合体があげられる。

本発明において、インプラントとして使用し得るセラミック材料としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタニウム、酸化シリコン等の酸化物または窒化物、例えば、ハイドロキシアパタイトのようなリン酸カルシウム、ガラスおよびガラスセラミック、好ましくは生理的条件下で溶解もしくは分解するガラスおよびガラスセラミック等があげられる。

本発明のインプラントに使用される材料は、生体適合性や力学的適合性の観点からは、チタンまたはチタン合金を用いることがより好ましい。また、骨代替材料としては、自家歯牙、同種個体より得られる歯牙、または、異種個体より得られる歯牙等を挙げることができる。

本発明に使用されるインプラントの形状や大きさは、移植先の歯牙の欠損部に合わせて、当業者が適宜設計することができる。

また、本発明の一実施の態様においては、歯科用インプラントは、その表面上に、表面コーティング剤のコーティング層を形成させることができる。 本明細書において「表面コーティング剤」とは、インプラントへ細胞塊を接着させる際の足場の形成に使用されるものをいう。インプラント表面に形成される表面コーティング剤のコーティング層は、インプラントへの細胞塊の接着を向上させることができる。

本発明に使用される表面コーティング剤としては、例えば、ハイドロキシアパタイト、α—TCP(リン酸三カルシウム)、β—TCP、または、コラーゲン等のゲル材料を挙げることができる。 特に、ハイドロキシアパタイトは、骨形成を促進させる生物活性を有しており、インプラント移植後のインプラント周囲におけるセメント質形成の促進や、インプラントの骨への生着を促進させることができる。このような点において、ハイドロキシアパタイトは、表面コーティング剤として使用されることが好ましい。

なお、本発明のインプラントの材料として、例えばハイドロキシアパタイトを使用する等、表面コーティング剤と同様の効果を有するものをインプラントの材料として使用することができる。このとき、インプラントはすでに表面コーティング剤のコーティング層と同じ層を有しているものとして、インプラント表面上に、直接、歯胚組織由来または歯根膜組織由来の細胞塊を配置することができる。または、インプラントの材料とは異なる表面コーティング剤をさらにインプラント表面上にコーティングし、さらにその表面上に細胞塊を配置することもできる。

表面コーティング剤は、インプラントの表面全体または一部であって、インプラント移植時にレシピエントの歯槽骨に囲まれる表面上を覆うようにコーティングすることができる。また、表面コーティング剤のコーティング層は、インプラントと、インプラントへ配置する細胞塊との間に介在するように形成される。

インプラント移植時に、レシピエントの歯槽骨に囲まれる表面上とは、インプラントの表面上であって、インプラント移植直後にレシピエントの歯牙欠損部内へ埋もれる部分をいう。この部分は、将来、レシピエントの歯周組織と連結することになる。

表面コーティング剤のコーティング方法は、当業者に周知の方法により行うことができる。 例えば、ハイドロキシアパタイトをインプラントにコーティングする際には、蒸着、プラズマ溶射法等により行うことができる。表面コーティング剤の層の厚さや表面コーティング剤のコーティングの範囲は、コーティング対象のインプラントや移植先の欠損部に応じて、当業者が適宜設定することができる。本発明の一実施の態様においては、例えば、コーティング層の厚みを、1μm〜2μmとすることができる。 また、上記のように表面コーティング剤のコーティング層をインプラント表面に形成させる以外に、ハイドロキシアパタイトなどの表面コーティング剤が、すでにコーティングされている市販のインプラントを使用することもできる。

「歯周組織」とは、歯の主として外層に形成されたセメント質、歯根膜、歯槽骨、及び、歯肉から構成される組織をいう。本発明のインプラントの移植により形成される歯周組織は、特に、セメント質、歯根膜、および歯槽骨である。本発明のインプラント移植後に形成されるセメント質および歯根膜は、レシピエント側の歯槽骨や歯肉等と連結することにより、歯周組織を形成する。

セメント質、歯根膜、及び、歯槽骨は、組織染色などによって形態的に容易に特定することができる。染色方法としては、例えば、通常のヘマトキシリン・エオジン(HE)染色を用いることができる。組織染色を行うにあたり、当業者であれば、例えば、サンプルを4%パラフォルムアルデヒド(Paraformaldehyde:PFA)にて固定し、10%エチレンジアミン四酢酸(EDTA)にて脱灰し、パラフィン包埋し、その後、厚さ10マイクロメートルの連続切片を作製するなどの工程を経て、HE染色を行うことができる。また、当業者であれば、上記例示以外にも、一般的な方法に従って組織染色を行い、組織学的評価を行うことが可能である。

本明細書において「歯胚」とは、将来歯になることが決定付けられた歯の初期胚であり、歯の発生ステージで一般的に用いられる蕾状期(Bud stage)、帽状期(Cap stage)から鐘状期(Bell stage)までの段階のものを指し、特に歯の硬組織としての特徴である象牙質、エナメル質の蓄積が認められない組織である。

本発明の一態様において、本発明に使用し得る歯胚組織としては、帽状期、鐘状期前期、鐘状期後期にある歯胚を使用することができる。これらの帽状期、鐘状期前期、鐘状期後期にある歯胚は、インプラントとともに移植された場合に、機能的な歯周組織への高い分化能を有する点において好ましい。特に、鐘状期前期にある歯胚を使用することがより好ましい。鐘状期前期にある歯胚由来の細胞塊は、セメント質の形成を伴う機能的な歯周組織の形成をより促進させることができる点において好ましい。 なお、例えば、マウスの場合、胎齢13〜15日が帽状期に相当し、胎齢16〜18日が鐘状前期に相当し、胎齢19日〜生後が鐘状後期に相当する。

また、本発明に使用し得る歯胚として、細胞培養技術により人工的に形成した「再生歯胚」を用いることもできる。再生歯胚を使用する場合にも、好ましい発生段階において細胞塊を採取することができる。本発明に使用される再生歯胚は、どのような方法で作製したものであってもよいが、例えば、間葉系細胞で実質的に構成される第1の細胞集合体と、上皮細胞で実質的に構成される第2の細胞集合体を密着させて配置する工程と、第1及び第2の細胞集合体を支持担体の内部で培養する工程と、を含む方法によって作製することができる。

再生歯胚の製造方法は、例えば、国際公開第2006/129672号パンフレット、特開2008−29756号公報、特開2008−206500号公報、特開2008−200033号公報、特開2008−29757号公報、国際公開第2011/056007号パンフレット、国際公開第2011/056008号パンフレットに記載されており、それら各文献の開示は全体として本明細書に参照として組み込まれる。

歯胚及び他の組織は、哺乳動物の霊長類(例えばヒト、サルなど)、有類(例えばブタ、ウシ、ウマなど)、小型哺乳類のげっ歯類(例えばマウス、ラット、ウサギなど)のほか、イヌ、ネコなど種々の動物の顎骨や歯周組織等から採取することができる。歯胚及び組織の採取、ならびに、歯胚からの組織の分離は、通常、組織の採取で用いられる条件をそのまま適用すればよく、無菌状態で取り出し、適当な保存液に保存すればよい。なお、ヒトの歯胚としては、第3大臼歯いわゆる親知らずの歯胚のほか、胎児歯胚を挙げることができるが、自家組織の利用の観点から、親知らずの歯胚を用いることが好ましい。

本明細書において、「細胞塊」とは、インプラントの表面に配置される、歯胚組織由来または歯根膜組織由来の細胞塊をいう。また、細胞塊は、由来する組織の全体又はその一部であって、組織を形成している細胞間同士の機能的な結合を少なくとも部分的に維持しているものをいう。

本発明に使用され得る歯胚組織由来の細胞塊には、歯胚間葉組織、歯小嚢組織等が含まれる。歯胚間葉組織は、蕾状期、帽状期、または鐘状期前期の歯胚中に存在する。また、歯小嚢組織は、鐘状期前期および鐘状期後期の歯胚に存在する。また、本発明に使用される歯根膜組織は、完成歯より採取することができる。歯胚組織からの歯胚間葉組織、歯小嚢組織等の組織の分離、および、完成歯からの歯根膜組織の分離は、通常、組織の採取で用いられる条件をそのまま適用すればよく、無菌状態で取り出し、適当な保存液に保存すればよい。この際、分離を容易に行うため酵素を用いてもよい。酵素としては、ディスパーゼ、コラーゲナーゼ、トリプシン等を挙げることができる。

また、細胞塊は、生体より摘出した組織を物理的に幾つかの細胞の塊へ切断して使用することもできる。このとき、細胞塊は、組織を形成していた際の細胞間同士の機能的な結合が部分的に保たれるように切断されることが好ましい。特に、切断後の細胞塊が、組織の外側および内側が区別可能に形状を保持していることがより好ましい。このように、本発明に使用される細胞塊は、組織を形成していた際の細胞間同士の機能的な結合を部分的に有していることにより、インプラントとともに移植された際に、正常な機能を有する歯周組織の形成を可能とする。なお、切り離された細胞塊の形状は、インプラントの表面上へ配置しやすい形状を有していれば特に制限されず、例えば、短冊状のように細長く切り離すことができる。このような細胞塊の切り離しは、通常、組織の採取で用いられる条件をそのまま適用すればよい。

インプラント表面上へ細胞塊を配置する方法は、特に制限されない。例えば、短冊状に切り離した細胞塊を、互いの細胞塊が重ならないようにインプラント表面上へ貼り付けることができる。または、互いの細胞塊が重ならないようにインプラント表面上へ巻き付けるようにして、配置することもできる。このとき、細胞塊を貼りつけたインプラントを大気中で少し乾燥させると、接着性が向上する。また、インプラント表面上に表面コーティング剤のコーティング層を有しているときは、表面コーティング剤のコーティング層のさらに表面へ細胞塊を配置することができる。

本発明の一態様において、細胞塊をインプラント表面上へ配置する位置は、インプラント移植後に、レシピエントの歯槽骨に囲まれる表面上の全体または一部に配置することができる。また、インプラントがレシピエントの歯槽骨に移入される範囲まで配置されていることが好ましい。また、細胞塊において、組織の内側を形成した側面が、インプラント表面に接触するように配置されることが好ましい。このように配置することで、組織の外側を形成していた側面がレシピエントの歯槽骨と対向することになる。 なお、本明細書において、例えば、歯小嚢細胞を配置したインプラントを、歯小嚢付与インプラントという。

また、本発明の別の態様は、本発明に係るインプラントの製造方法で製造されたインプラントを歯牙の欠損部に移植する工程を含む、インプラントの移植方法を提供する。 本発明に係るインプラントによれば、インプラント移植後において、インプラント周囲に機能的な歯周組織を形成させることができる。

本発明に係る口腔内の歯の欠損部へのインプラントの移植方法においては、インプラントに配置されている歯胚組織由来または歯根膜組織由来の細胞塊において、組織の内側を形成していた側が、インプラントの表面上と接触していることが好ましい。これにより、組織の外側を形成していた側が、レシピエントの歯周組織と対向するように配置される。このように、歯胚組織由来または歯根膜由来の細胞塊を実際の天然歯の歯周組織に存在する状態に近づけることで、機能的な歯周組織の形成を促進させることができる。

なお、欠損部とは、抜歯等により歯肉に設けられた部分を意味し、形状に特に制限はない。本発明のインプラントを埋設可能である限り、欠損場所、目的とする歯の種類は特に限定されない。 欠損部は、通常、顎骨、口腔の歯槽骨などに位置する。また歯の喪失に伴って歯槽骨量が低下している場合には、欠損部位に対してGTR法(guided tissue regeneration:組織再生誘導法)など、インプラントの埋設のために臨床で用いられる公知の方法により骨の再生を行って骨量を増加させてもよい。インプラント対象となる欠損部位へ配置した後は、通常の処理に従って、縫合等を行うことが好ましい。 また、欠損部へのインプラントの移植の際に、インプラント表面上に張り付けた細胞塊が表面から剥がれてしまうことを防ぐために、インプラント径よりも少し大きめの径を有する欠損部を外科的に形成させることもできる。このような大きな径を有する欠損部へインプラントを移植した場合には、移植後のインプラントとレシピエントの歯槽骨との間の空間が、周囲の組織からの血液によって満たされる。

本発明に係るインプラントの移植方法では、移植対象を、インプラントの製造に用いた歯胚組織または歯根膜組織を摘出した動物と同種とすることが好ましく、歯胚組織または歯根膜組織を摘出した個体と同一個体とすることがさらに好ましい。動物としては、ヒト、ウシ、ウマ、ブタ、イヌ、ネコ、マウス等を含む哺乳動物を挙げることができる。非ヒト哺乳動物とすることも好ましい。

インプラントの移植部位は、当業者が、目視やCT画像などによって形態的に容易に観察することができる。CT画像やCT断面像も、当業者に公知の機器を用いることにより、容易に撮影することができる。CT撮影には、例えば、実験動物用3DマイクロX線CT R_mCT(リガク)を用いることができ、例えば、90kV,150mA、断層厚10mmのような条件下で行うことができる。また、当業者であれば、CT撮影後、適当な画像解析ソフトを用いて画像構築及び解析等を行うことができる。画像解析ソフトとしては、例えば、小動物用画像ファイリングソフトウェア i− VIEW タイプR、および高精細3D/4D画像解析ソフトウェア Imaris(Bitplane)を用いることができる。また、当業者であれば、上記例示以外にも、同様の機器を用いて適切な条件を設定し、同様な画像解析ソフトを利用して、CT撮影及び解析を行うことが可能である。

本発明のインプラントによれば、レシピエントへの移植後において、インプラント周囲に機能的な歯周組織を形成させることができる。本発明において、機能的な歯周組織とは、(i)機能的なセメント質および機能的な歯根膜を有している、または、(ii)機能的な神経線維を有していることを言い、好ましくは、(i)および(ii)の両方の特徴を有しているものをいう。 すなわち、機能的な歯周組織は、例えば、機能的なセメント質および機能的な歯根膜を有している否かで評価することができる。機能的なセメント質および機能的な歯根膜とは、例えば、HE染色、アザン染色等による組織学的分析をした際に、天然歯の歯周組織と同等の層構造を有しているかを確認することで評価することができる。ここで、天然歯の歯根膜は、通常、歯根の長軸方向に対して垂直方向に走る歯根膜の繊維を有している。この歯根膜は、特に、歯の咬合力を支えるのに重要な役割を担っている。従って、天然歯と同様に、インプラントの長軸方向に対して垂直に走る歯根膜の線維が形成されているかを解析することで、特に歯根膜の機能を評価することができる。歯周組織の形態の解析や歯根膜の走行の解析は、上記方法の他、例えば、走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡によりその形態を観察することも可能である。また、歯周組織における、硬組織−線維性組織−硬組織の3層構造を確認するために、例えば、X線マイクロアナライザーを用いて元素の分布を解析することにより、歯周組織の層構造を確認することができる。 別の方法としては、下記実施例4に記載するような、矯正力の負荷に対する骨リモデリングの機能を評価することができる。または、移植後のインプラントが矯正力の負荷により移動可能であるか否かを解析することで評価することができる。骨リモデリングの評価には、例えば、矯正力負荷後に骨形成マーカーおよび/または骨吸収マーカーの発現を解析することで評価できる。本発明のインプラントを移植した際に形成される歯周組織は、天然歯と同様の矯正力を加えた場合に、天然歯と比較して68%以上の移動量を有しており、好ましくは、80%以上の移動量を有する。

また、機能的な歯周組織は、例えば、機能的な神経線維を有しているか否かで評価することができる。機能的な神経線維とは、歯周組織に対する刺激等があった場合に、中枢神経系へ刺激を伝達することができる神経線維をいう。神経線維が機能的であるか否かは、例えば、下記実施例6に記載する方法のように、評価対象の歯周組織に対して矯正力負荷による刺激を加えた後、三叉神経路核におけるc−fosの発現解析により評価することができる。

また、本発明の歯科用インプラントによれば、機能的なセメント質や歯根膜の形成のみならず、歯槽骨の再生を促進し、また、歯槽骨の再生能も改善することができる。本明細書において、「歯槽骨の再生能を改善する」とは、歯槽骨を一部欠くような移植部位において、本発明に係る歯科用インプラントを移植することにより、従来のインプラントを移植した場合またはインプラントを移植しなかった場合と比較して、歯槽骨の本来の形状により近づくように歯槽骨を再生可能とすることをいう。これにより、本発明に係る歯科用インプラントは、移植後にインプラントが歯槽骨の一部の欠損のために、次第に歯槽骨内へ落ち込んでしまう等の事態を防ぐことが可能であり、移植したインプラントの位置(例えば、高さ)や方向等を維持することを可能とする。

なお、本明細書において用いられる用語は、特定の実施態様を説明するために用いられるのであり、発明を限定する意図ではない。 また、本明細書において用いられる「含む」との用語は、文脈上明らかに異なる理解をすべき場合を除き、記述された事項(部材、ステップ、要素、数字など)が存在することを意図するものであり、それ以外の事項(部材、ステップ、要素、数字など)が存在することを排除しない。 異なる定義が無い限り、ここに用いられるすべての用語(技術用語及び科学用語を含む。)は、本発明が属する技術の当業者によって広く理解されるのと同じ意味を有する。ここに用いられる用語は、異なる定義が明示されていない限り、本明細書及び関連技術分野における意味と整合的な意味を有するものとして解釈されるべきであり、理想化され、又は、過度に形式的な意味において解釈されるべきではない。 本発明の実施態様は模式図を参照しつつ説明される場合があるが、模式図である場合、説明を明確にするために、誇張されて表現されている場合がある。 第一の、第二のなどの用語が種々の要素を表現するために用いられるが、これらの要素はそれらの用語によって限定されるべきではないことが理解される。これらの用語は一つの要素を他の要素と区別するためのみに用いられているのであり、例えば、第一の要素を第二の要素と記し、同様に、第二の要素は第一の要素と記すことは、本発明の範囲を逸脱することなく可能である。

本明細書において、数値範囲等を示すのに用いられるあらゆる数値は、特に明示がない限り、用語「約」の意味を包含するものとして解釈される。例えば、「10倍」とは、特に明示がない限り、「約10倍」を意味するものと理解される。

本明細書中に引用される文献は、それらのすべての開示が、本明細書中に援用されているとみなされるべきであって、当業者は、本明細書の文脈に従って、本発明の精神及び範囲を逸脱することなく、それらの先行技術文献における関連する開示内容を、本明細書の一部として援用して理解する。

以下において、本発明を、実施例を参照してより詳細に説明する。しかしながら、本発明はいろいろな態様により具現化することができ、ここに記載される実施例に限定されるものとして解釈されてはならない。

<<実施例1.歯根膜除去モデルにおける歯小嚢組織移植による歯周組織形成能の解析>> (歯小嚢組織の調製) 本実験における歯小嚢組織は、鐘状期にある胎齢18日のC57/BL/6マウスより得た。具体的には、歯小嚢組織は、下顎第一臼歯となる歯胚より分離した。歯胚の摘出は、Nakaoらの方法(Nakao K, et al. Nat Methods. 2007; 4(3):227−30.)に準じて行った。 摘出した胎齢18日の歯胚から歯小嚢組織を摘出する方法は下記のようにして行った。歯胚をCa2+およびMg2+含有PBS(−)(phosphate−buffered saline)にて2回洗浄後、100 U/ml collagenase I (Worthington, Lakewood, NJ)を用いて、室温で2分間の酵素処理を行った。その後、20U/ml DNase I(タカラバイオ、滋賀、日本)を含む10% Fetal calf serum (FCS; Hyclone, Logan, UT)、および100 U/ml penicillin、100 mg/ml streptomycin (SIGMA, St. Louis, MO) を添加したDulbecco’s modified eagle medium (D−MEM; WAKO, 大阪, 日本)中で25G針 (NN−2516R、テルモ、東京、日本)にて、物理的に組織を分離した。マウス胎齢18日の歯胚より分離した歯小嚢組織は、嚢状の形態を有していた(図1参照)。

(歯根膜除去モデルの作製および歯小嚢組織の移植) 歯根膜除去部位における歯周組織形成能を解析するために、Saitoらの方法(Saito M, et al. J Biol Chem. 2011; 286(44), 38602−13.)にならい、4週齢のC57BL/6マウスの第二臼歯の歯根膜を除去した(歯根膜除去モデル)。より具体的には、深麻酔下のマウスにおいて、手技上の問題より便宜的に下顎第一臼歯を抜歯した。その後、第一臼歯に隣接した第二臼歯との歯槽中隔から25G針(NN−2516R、テルモ、東京、日本)を用いて第二臼歯の頬側側面の歯根膜を物理的に除去した。 マウス胎齢18日の歯胚より分離した歯小嚢組織を短冊状に複数の細胞塊へ物理的に切り離した。次に、歯小嚢組織の内側を形成していた細胞塊の側面が、歯根膜が除去された第二臼歯歯根側に向くように、歯根膜除去部位に貼り付けるように移植した。またこのとき、それぞれの細胞塊が重ならないよう歯根膜除去部位に貼り付けた。移植後21日目に顎骨を摘出し、HE染色にて歯小嚢組織移植部位の組織解析を行った。

歯小嚢組織を移植しなかった対照区においては、歯根膜を除去した部位の歯根膜組織の大部分が骨様組織で埋め尽くされるアンキローシスが生じていた(図2A中のアスタリスク)。これに対し、歯小嚢組織を移植した区では、正常なセメント質と歯根膜が形成されていた。また、歯小嚢組織を移植した群では、歯根の長軸方向に対して垂直に走行を有する歯根膜組織が認められ、天然歯と同等の歯周組織構造が形成されていた(図2A、および、図2B)。このことから、歯小嚢組織は、セメント質、歯根膜組織、および、歯槽骨で構成される歯周組織すべての組織を形成可能であり、歯根膜損傷部位においても歯周組織を形成可能であることが示された。

<<実施例2.歯小嚢組織を付与したインプラントの移植による歯周組織形成能の評価)>> (インプラントの調製) 移植用のインプラント体は、直径0.6mmのチタン線(株式会社ニラコ、東京、日本)を長さ1.7mm分切り出し、根尖方向となる側より0.5mm程度を円錐形に成形することで作製した。インプラント体の表面は、真空蒸着によりハイドロキシアパタイトのコーティングを行い、厚さ2μmのハイドロキシアパタイトの層で覆うことにより、ハイドロキシアパタイトコーティングされたインプラント体(以下、HAインプラント)(山八歯材工業株式会社、愛知県、日本)を作製した。 HAインプラント周囲には、実施例1と同様の方法により、胎齢18日のC57BL/6マウスより摘出した歯小嚢組織を巻き付けた((以下、歯小嚢付与HAインプラント;図4A)。なお、歯小嚢組織は、外科的に短冊状へいつくかの細胞塊へ切り離したものを使用した。HAインプラントへの細胞塊の配置は、細胞塊同士が重ならないように巻き付けることにより行った。また、歯小嚢組織の内側を形成していた細胞塊の側面を、HAインプラントの表面と接着させた。

(歯小嚢付与HAインプラントの顎骨への移植および生着評価) 4週齢C57BL/6マウスの下顎第一臼歯を抜歯し、歯牙欠損部を設け、4−5日間の歯肉の治癒期間を設けた。その後、下顎第一臼歯の抜歯部位の歯肉切開・剥離を行った。歯科用マイクロモーター(Viva−Mate Plus、ナカニシ、東京、日本)および歯科用リーマー(MANI、栃木、日本)を用いて歯牙欠損部の歯槽骨を切削し、直径0.9mm、深さ1.2mmの移植窩を形成した。移植窩に、上記で作製した歯小嚢付与HAインプラントを移植した。なお、歯小嚢組織を巻きつけていないHAインプラントを移植した対照区も作製した。8−0ナイロン縫合糸(ベアーメディック、千葉、日本)で、インプラント移植部位を歯肉縫合した(図3)。各インプラント体を移植したマウスは、移植直後および移植後21日目にマイクロCT撮影を行った(In vivo Micro X−ray CT System; R_mCT、 株式会社リガク、 東京、 日本)。画像データは、統合画像処理ソフト(i−VIEW−3DX、株式会社モリタ、大阪、日本)を用いて、インプラントとレシピエントの歯槽骨との結合を経時的に評価した。また、移植後21日目において、インプラントを含む顎骨をレシピエントマウスより摘出し、HE染色にて組織学的評価を行った。

移植21日後において、HAインプラントを移植した対照区では、インプラント表層に直接歯槽骨が結合したオッセオインテグレーションを呈していた(図4Bおよび図5)。それに対して、歯小嚢組織を付与したHAインプラントでは、インプラント表層と周囲歯槽骨との間に歯根膜腔が認められた(図4B下段、右中図中の矢印)。また、歯小嚢組織を付与したHAインプラントでは、HE染色像において、インプラント表層からセメント質、歯根膜、歯槽骨といった、天然歯の歯周組織と同等の組織構造が認められた(図5)。

さらに、形成される歯周組織がインプラントとともに移植される歯周組織由来のものであるかを確認するために、GFPマウス(C57BL/6−Tg(CAG−EGFP)マウス(日本エスエルシー株式会社、日本))由来の歯小嚢組織を付与したHAインプラント体を同様に作製・移植し、移植部位を観察した。移植部位は、蛍光実体顕微鏡(AxioLumer, Carl Zeiss, Jene, Germany)を用いて、GFP発色を撮影した。その結果、21日目にインプラント周囲の歯根膜、歯槽骨領域にGFPマウス由来の組織の形成が観察された(図6)。このことから、歯小嚢組織を付与したインプラントを移植することにより、歯周組織形成を伴ってレシピエントの顎骨に生着している可能性が示された。

<<実施例3.インプラント移植後に形成された歯周組織の解析>> 実施例2に示すように、歯小嚢付与HAインプラントの移植は、顎骨に生着した歯周組織を形成させた。そこで、歯小嚢付与HAインプラント移植後に形成された歯根膜の走行を解析するため、天然歯の歯周組織、歯小嚢付与HAインプラント移植後21日目のインプラント周囲の歯周組織、および、歯小嚢組織を巻き付けていないHAインプラント移植後21日目のインプラント周囲の歯周組織をアザン染色により染色し、歯根膜の走行を解析した。 また、歯小嚢付与HAインプラント移植後に形成された歯周組織の形態を解析するため、歯小嚢付与HAインプラント移植後28日目のインプラント周囲の歯周組織を、走査型電子顕微鏡および透過型電子顕微鏡により観察し、インプラント移植後に形成された歯周組織の形態を解析した。 さらに、歯小嚢付与HAインプラント移植後に形成された歯周組織において、硬組織−線維性組織−硬組織の3層構造が形成されているかを確認するため、歯小嚢付与HAインプラント移植後28日目のインプラント周囲の歯周組織について、X線マイクロアナライザーを用いたチタン(Ti)、カルシウム(Ca)、およびリン(P)の元素分布の解析を行った。

(アザン染色による歯根膜の走行の解析) 実施例2と同様の方法により、歯小嚢付与HAインプラントを4週齢C57BL/6マウスの下顎第一臼歯欠損部へ移植した。移植後21日目に顎骨を摘出し、顎骨を4%パラホルムアルデヒド溶液にて24時間固定した。その後、10%ギ酸クエン酸ナトリウムおよび22.5%ギ酸脱灰液を用いて72時間の脱灰操作を行った。脱灰操作の後、顎骨のパラフィン包埋を行った。包埋後は、顎骨より6μm厚の切片をクライオスタット(CM3050S; Leica microsystems)を用いて作製した。

次に、6μmの厚さに作製したパラフィン切片を、キシレンに6分間浸漬した。その後、100%、90%、70%アルコールにそれぞれ各3分間浸漬してパラフィンを取り除いた。パラフィンを取り除いた切片に対して、流水を5分間かけて水になじませた後、10%トリクロール酢酸・10%重クロム酸カリウムに15分間浸漬した。再び切片に流水をかけた後、アゾカルミンG液に30分間浸漬して核ならびに細胞質を染色した。アゾカルミンG液を流水により洗浄した後、アニリン・アルコールに10秒間浸漬し分別を行い、酢酸アルコールに1分間浸漬して分別を停止した。分別停止後に切片を流水により洗浄し、5%リンタングステン酸に1時間浸漬した。浸漬後、再度流水により洗浄した後、アニリン青・オレンジG混合液に10分間浸漬して歯根膜線維を染色した。最後に100%アルコールで分別を行い、キシレンに6分間浸漬して透徹した。その後、マリノールを用いて封入を行い組織解析を実施した。

歯小嚢付与HAインプラントを移植後、21日目にインプラント周囲に形成された歯根膜組織は、天然歯の歯根膜の走行のように、インプラントの長軸方向に対して垂直方向の走行を有していた(図7)。

(電子顕微鏡による形態解析) 実施例2と同様の方法により、歯小嚢付与HAインプラントを4週齢C57BL/6マウスの下顎第一臼歯欠損部へ移植した。インプラント移植後28日目に、マウスを深麻酔下において、Karnovsky固定液を用いて経心的灌流固定を行った。経心的灌流固定後、マウスの顎骨を摘出し、その後、顎骨を4℃の条件下で31%四塩化オスミウムにて後固定を行った。次に、顎骨をエタノールでの脱水後、臨界点乾燥器(HCP−2、日立、東京、日本)中で乾燥させ、エポキシ樹脂に置換・包埋した。 エポキシ樹脂により包埋した試料の一部は、ダイヤモンドディスクを用いて、移植したインプラントの中央部が切断面となるように矢状断に切り出した。切り出した試料は、イオンスパッター装置(E−1030、日立)を用いて導電処理を行い、Au−Pd蒸着の処理を行った。その後、Au−Pd蒸着した試料を、走査型電子顕微鏡(S−4700、日立)を用いて、加速電圧を5kVとして観察した。また、上記の方法と同様にして、天然歯についても別のC57BL/6マウスより試料を作製し、走査型電子顕微鏡により天然歯の歯周組織の形態を観察した。 また、歯小嚢付与HAインプラントを移植したマウスより作製したエポキシ樹脂包埋後の試料の一部について、ウルトラミクロトーム(ULTRACUT−UCT; Leica microsystems)を用いて、100nmの超薄切した切片を作製した。作製した切片は、透過型電子顕微鏡(H−7600、日立)を用いて、加速電圧を75kVとして観察した。

上述のように、歯小嚢付与HAインプラント移植28日におけるインプラント周囲の歯周組織の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を取得し、観察した。その結果、SEM画像では、インプラント表層から歯槽骨に向かって走行する密な歯根膜の線維束と、層板状のセメント質の形成とが観察され、天然歯とほぼ同様な組織形態が認められた(図8)。また、インプラント移植後のインプラント周囲の歯周組織を観察したSEM画像では、インプラント表層と歯根膜線維との結合が観察された(図8下段)。また、インプラント移植後のインプラント周囲の歯周組織を観察した透過型電子顕微鏡(TEM)画像では、セメント質と歯根膜線維との結合も観察された(図9中の矢印)

(X線マイクロアナライザーによる元素分析) 歯小嚢付与HAインプラント移植後のインプラント周囲の歯周組織において、硬組織-線維性組織-硬組織の3層構造をより明確に解析するために、X線マイクロアナライザーを用いて元素分布の解析を行った。解析対象の元素として、インプラントの構成元素であるチタン(Ti)、骨組織とセメント質の構成元素であるカルシウム(Ca)、およびリン(P)を選択し、各元素の分布を解析した。また、元素分布の解析は、上記の走査型電子顕微鏡の解析で使用した同じマウス由来の試料(エポキシ樹脂に包埋し、ダイヤモンドディスクで矢断状に切り出した試料)について、電子線マイクロアナライザー(EPMA−1610、島津製作所、京都、日本)を用いて上記3元素の分布の解析を行った。 解析結果より、チタン製のインプラント表層にCaおよびPの分布がみられた(図10)。インプラント表面のハイドロキシアパタイトコーティングの厚さが2μm以下と非常に薄いことから、このインプラント表層におけるCaおよびPの分布は、CaおよびPを構成元素に含むセメント質由来のものであると考えられる。従って、インプラント表層にセメント質からなる硬組織が形成されていることが明らかとなった。また、インプラント移植後のインプラント周囲の歯周組織のSEM画像において、線維が走行している部分では、CaとPの分布が認められなかった。歯根膜は、CaとPを構成元素として含まないため、CaとPの分布が認められなかった部分は、歯根膜領域が確保されていることが明確となった。 また、各構成元素の分布画像を重ね合わせ、3元素の分布をより明確に観察したところ、インプラント表面上(Ti表面上)に、CaおよびPの集積する箇所を確認することができた(図11)。

<<実施例4.インプラント移植後に形成された歯根膜の機能解析>> 歯小嚢付与HAインプラント移植後に形成された歯根膜の機能を解析するため、天然歯、移植後21日目の歯小嚢付与HAインプラント、移植後21日目の歯小嚢組織を巻き付けていないHAインプラントに対して、実験的矯正を行い、経時的な歯およびインプラントの移動量を計測した。また、実験的矯正による骨リモデリングの解析として、矯正力負荷後の歯周組織における骨吸収マーカーと骨形成マーカーの発現を解析した。

(インプラントの実験的矯正) 天然歯およびインプラントの実験的矯正、および、矯正力負荷による天然歯およびインプラントの移動量の解析方法は、下記のようにして行った。実施例2の方法と同様にして、歯小嚢付与HAインプラントまたはHAインプラントをC57/BL/6マウスへそれぞれ移植した。移植後21日目に、マウスを深麻酔下に固定した。直径0.010インチのニッケルチタンワイヤー(VIM−NT, Oralcare Co., Ltd. Tokyo, Japan)を下顎切歯と、矯正対象とする天然歯又はインプラントにレジン固定を行った。ダイヤルテンションゲージ(Mitutoyo)を用いて、水平的に10g−15gの荷重を負荷した。矯正力は、天然歯、HAインプラント、歯小嚢付与HAインプラントに対して舌側から頬側方向(歯列側面に対して垂直方向であって、口腔の外側方向)に14日間加えた。

なお、マウス下顎切歯は顎骨の前方向にはえており、臼歯は上部方向に萌出している。移植したインプラントは、臼歯側に移植している(図12)。矯正前、矯正後3日目、7日目、矯正後14日目でマイクロCTにより撮影を行った。撮影された画像データTRI/3D−BON software(Ratoc、大阪、日本)を用いて、矯正力による経時的な移動距離の測定を行った。

その結果を図13に示す。歯小嚢組織を巻き付けていないHAインプラントにおいては、矯正力負荷によるインプラントの移動は認められなかった。それに対して、天然歯では矯正力負荷から7日目にかけて77.0±5.5μmの移動が認められた。歯小嚢付与HAインプラントにおいては、矯正力負荷から7日目にかけて55.6±6.3μmの移動が認められた。天然歯および歯小嚢付与HAインプラントにおいて、7日目以降は、緩やかに歯の移動が認められた(図13A、および図13B)。

(矯正力負荷後の骨吸収マーカーおよび骨形成マーカーの発現解析) 次に、実験的矯正によるインプラント移植部位の骨リモデリングを解析した。骨リモデリング解析方法として、骨吸収のマーカーであるColony stimulating factor 1(CSF−1)と、骨形成のマーカーであるOsteocalcin(OCN)の発現解析を行った。 具体的には、まず、GenBankより公開されているmRNA配列情報より、OCNならびにCSF−1の遺伝子配列を特異的に増幅可能なプライマーを設計した。そのプライマーにT7 RNA polymerase promoter配列を付加して、PCRにより標的配列を増幅した。得られたPCR産物と、T7 RNA polymeraseおよびジゴキシゲニン (DIG) RNA Labeling Mix (Roche, Mannheim, Germany)とを用いて、DIG標識したRNAプローブを合成した。 次に、前述の方法と同様にして天然歯およびインプラントの実験的矯正を行い、矯正6日目に顎骨を摘出した。摘出した顎骨を4%パラホルムアルデヒド溶液にて24時間固定した後、10%ギ酸クエン酸ナトリウムおよび22.5%ギ酸脱灰液を用いて72時間の脱灰操作を行った。その後、顎骨を12.5%(w/v)および25%(w/v)の各Sucrose溶液に12時間ずつ順に浸漬し、OCT compound(Miles Inc, Naperville, IL)を用いて凍結包埋した。包埋後は顎骨を10μm厚の切片をクライオスタット(CM3050S; Leica microsystems)を用いて作製した。 厚さ10μmの凍結切片を作製後、凍結切片を10分間4%パラホルムアルデヒド溶液処理により固定し、1分間アセチル化溶液に浸した。1時間のプレハイブリダイゼーション後、先に合成したRNAプローブを70℃で16時間ハイブリダイズさせた。アルカリホスファターゼ標識した抗DIG Fab FragmentsとNBT/BCIP (Roche, Mannheim, Germany)を用いた免疫学的手法により、30℃において適切な時間で酵素発色させてmRNAの局在を検出した。 なお、試験に用いたプライマーを下記に示す。 ・マウス オステオカルシン(mOCN)、フォーワードプライマー(配列番号1) TAGCAGACACCATGAGGACC ・マウス オステオカルシン(mOCN)、リバースプライマー(配列番号2) TGACATCCATACTTGCAGGG ・マウス CSF1(mCSF1)、フォーワードプライマー(配列番号3) TACTGAACCTGCCTGCTGAA ・マウスCSF1(mCSF1)、リバースプライマー(配列番号4) CCAGAGCTTGTGACAGGACA

その結果、圧迫側ではCSF−1 mRNAを発現する破骨細胞の局在が認められ、牽引側ではOCN mRNAを発現する骨芽細胞の局在が認められた(図14)。このことから、歯小嚢組織を巻き付けたHAインプラントは、歯の移動を可能とする機能を有する歯周組織が形成していることが示された。

<<実施例5.インプラント移植後に形成された歯根膜組織における神経線維の解析>> 天然歯の歯根膜組織には、歯の機能および恒常性維持のために、末梢神経が侵入しており、求心性の刺激伝達による機能を担っている。そこで、移植後21日目のHAインプラント、および、移植後21日目の歯小嚢付与HAインプラントの周囲の歯根膜組織においても、正常な機能を有する神経線維が形成しているかどうかを評価した。 まず、実施例2の方法と同様にして、歯小嚢付与HAインプラントおよびHAインプラントをC57/BL/6マウスへ移植した。そして、移植後21日目に、歯小嚢付与HAインプラントまたはHAインプラントを含む顎骨をレシピエントマウスより摘出した。摘出した顎骨を4%パラホルムアルデヒド溶液にて24時間固定した後、10%ギ酸クエン酸ナトリウムおよび22.5%ギ酸脱灰液を用いて72時間の脱灰操作を行った。その後、顎骨を12.5%(w/v)および25%(w/v)の各Sucrose溶液に12時間ずつ順に浸漬し、OCT compound(Miles Inc, Naperville, IL)を用いて凍結包埋した。包埋後は顎骨を10μm厚の切片をクライオスタット(CM3050S; Leica microsystems)を用いて作製し、それら組織切片の免疫染色を行った。 インプラント周囲に形成した歯根膜における神経線維を検出するために、神経線維マーカーであるneurofilamentの免疫染色を行った。一次抗体はneurofilament SMI312(mouse anti−NF Ab; 1:1000, Abcam, Cambridge, MA)を用い、二次抗体はAlexa Fluor594−conjugated goat anti−rat IgG(1:500, Molecular Probes)を用いた。これらの免疫染色画像は共焦点レーザー顕微鏡(LSM510 Meta; Carl Zeiss, Jene, Germany)を用いて蛍光を検出し、神経線維を観察した。

歯根膜領域が形成されないHAインプラントにおいては、Neurofilament(NF)で染色される神経線維の侵入は一切認められなかった。一方、歯周組織が形成された、歯小嚢付与HAインプラントの歯根膜組織内には、天然歯と同様に、NF陽性の神経線維が認められた(図15)。これにより、歯小嚢付与HAインプラントは、移植後に、神経線維を有する歯根膜組織を形成させることができることが示された。

<<実施例6.インプラント移植後に形成された歯根膜組織における神経線維の機能解析>> 過度の咬合力などにより歯の組織に対して侵害刺激が加わった際に、歯根膜内に配行する末梢神経が、侵害刺激を延髄の三叉神経脊髄路核へ投影することによって痛みを認知する。この機構は、組織の傷害や、機能不全化を回避・抑制することを可能とし、生体防御に関わっている。従って、歯周組織を有するインプラントにおいても、神経線維が形成しているだけでなく、それらの末梢神経が中枢神経と連携機能していることが重要である。 そこで、歯小嚢組織付与HAインプラント移植後、インプラント周囲に形成された歯根膜内に侵入している神経線維が、中枢に侵害刺激を伝達しうることが可能か評価した。評価方法は、天然歯、移植21日後のHAインプラント、移植後21日目の歯小嚢付与HAインプラントに実験的矯正力を加えた後、痛み刺激の指標である三叉神経脊髄路核において産生誘導されるc−Fosタンパク質の発現を解析することにより行った。

具体的には、まず、実施例2の方法と同様にして、歯小嚢付与HAインプラントおよびHAインプラントをC57/BL/6マウスへ移植した。移植後21日目において、深麻酔下にマウスを固定した。天然第一臼歯、および顎骨に生着したインプラントに対して、実施例4と同様に、10〜15gの矯正力を舌側から頬側に向けて負荷した。矯正刺激開始から2時間後にて、麻酔下のマウス胸壁をハサミを用いて開放した。その後、心臓を露出させた、左心室下部から25G針を刺入し、ペリスタポンプを用いて心臓から全身へPBS(−)溶液を灌流させた。また、左心房切除することにより脱血経路を確保した。完全に脱血した後、続けて4%パラホルムアルデヒド溶液を同様に全身へ還流させることにより固定を行った。

その後、実施例5に記載の方法と同様にして、マウスの頭蓋骨内から延髄組織の摘出を行い、12.5%(w/v)および25%(w/v)の各Sucrose溶液に12時間ずつ順に浸漬した。浸漬後、OCT compound(Miles Inc, Naperville, IL)を用いて延髄組織を凍結包埋した。包埋後は40μm厚の切片をクライオスタット(CM3050S; Leica microsystems)により作製した。

作製した切片は、0.3%H2O2を加えたメタノールにより内在性ペルオキシダーゼをブロックし、3%の血清でブロッキングを行った。その後、anti−c−Fos Ab(1:10,000, Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA)で反応させ、一次抗体としてperoxidase−labelled goat anti−rabbit IgG(1:300, Cappel Laboratories, Aurora, Ohio)と反応させた。その後PAP immune complex(1:3000, Cappel)を用いて免疫染色を行った。

HAインプラントに対する矯正力負荷に対しては、c−Fosタンパク質の発現は認められなかった。天然歯ならびに歯小嚢付与HAインプラントにおいては、矯正刺激2時間後にc−Fos発現を認め、歯根膜に対する侵害刺激が中枢神経に伝達されたことが示された(図16)。これらの結果から、歯小嚢付与HAインプラントを移植した場合には、侵害刺激を伝達可能な神経機能がインプラント周囲の歯根膜内に形成していることが示された。

≪実施例7.三壁性骨欠損モデルにおけるインプラント移植後の歯槽骨再生の解析≫ 歯小嚢付与HAインプラントの移植により歯槽骨の再生が可能であるかを明らかとするために、インプラント移植部位の歯槽骨の1側面の骨を欠く三壁性骨欠損モデルを作製し、当該モデルへ歯小嚢付与HAインプラントを移植後、歯槽骨の再生量の解析を行った。 4週齢C57BL/6マウスの下顎第一臼歯を抜歯し、2〜3週間の骨組織の治癒期間を設けた。その後、同部の歯肉の切開・剥離を行い、歯科用マイクロモーター(Viva−Mate Plus、ナカニシ、東京、日本)および歯科用リーマー(MANI、栃木、日本)を用いて歯槽骨を切削し、直径0.8mm、深さ1.2mmの移植窩を形成した。移植窩が存在する場所の歯槽骨の頬側骨をテーパードフィッシャータイプのカーバイドバー(MANI、栃木、日本)を用いて削去し、頬側骨を欠く三壁性骨欠損モデルを作製した(図17)。移植窩に歯小嚢付与HAインプラントまたはHAインプラントを移植し、8−0ナイロン縫合糸(ベアーメディック、千葉、日本)で歯肉縫合を行った。インプラントを移植したマウスは、移植直後、ならびに、移植より14日目、28日目、および50日目にマイクロCT装置(In vivo Micro X−ray CT System; R_mCT、 リガク、東京、 日本)を用いてマイクロCT画像を取得した。また、取得したマイクロCT画像(スライス画像)データを、統合画像処理ソフト(i−VIEW−3DX, モリタ、大阪、日本)を用いて3次元構築し、3次元CT画像を取得した。得られたマイクロCT画像および3次元CT画像を用いて、移植部位の歯槽骨における頬側骨の再生を経時的に評価した。 なお、その際に対象区として、インプラント移植の行わない三壁性骨欠損のみを作製したサンプルを作製し、同様に歯槽骨における頬側骨の再生を経時的に評価した。

インプラントを移植しなかった三壁性骨欠損モデル区、三壁性骨欠損モデルに対してHAインプラントを移植した区、三壁性骨欠損モデルに対して歯小嚢付与HAインプラントを移植した区についての、移植直後、ならびに移植より14日目、28日目、および50日目の3次元CT画像を図18に示す。HAインプラントを移植した区及びインプラントを移植しなかった区では、50日目において、ある程度の歯槽骨の再生を観察することができたが、本来歯槽骨が存在すべき位置(図中の点線)まで歯槽骨が再生しなかった。特に、HAインプラントを移植した区では、インプラント自体が、歯槽骨内へ沈み込んでしまっていた。一方で、歯小嚢付与HAインプラントを移植したものは、移植後50日目において、歯槽骨が、ほぼ完全に回復していた。また、歯小嚢付与HAインプラント自体も、移植先の歯槽骨において、移植時と同様の位置を維持していた。 また、歯小嚢付与HAインプラントを移植した三壁性骨欠損モデルにおける、移植より14日目、28日目、および50日目のマイクロCT画像を図19に示す。移植より14日目において歯槽骨の再生がみられ、移植より50日目においては、ほぼ完全に回復した歯槽骨を観察することができた。ここで、再生された歯槽骨と歯小嚢付与インプラントとの間には、歯根膜腔様の間隙が認められた(図19中の矢頭)。このように、歯小嚢付与インプラントは、歯根膜形成のみならず、歯槽骨再生を伴ったインプラントの生着を可能とすることができた。

さらに、三壁性欠損モデルに対し歯小嚢付与HAインプラントを移植した区、三壁性欠損モデルに対しHAインプラントを移植した区、およびインプラントを移植しなかった三壁性骨欠損の3種類の区において、移植0日目と50日目とにおける画像の重ね合わせたものを作成し、歯槽骨の再生面積の定量化を行った。その結果を図20に示す。図20に示すように、歯小嚢付与HAインプラントの移植区では、他の2区と比較して、有意に高い歯槽骨の再生量が認められた。

また移植後のインプラントの歯槽骨への落ち込みを評価するために、実施例2と同様に作製した(三壁性骨欠損ではない)移植窩へHAインプラントを移植した区と、三壁性骨欠損モデルに対してHAインプラントを移植した区と、三壁性骨欠損モデルに対して歯小嚢付与HAインプラントを移植した区において、移植0日目と移植より50日目のインプラントの垂直的な移動量を測定し、グラフ化した(図21および図22)。その結果、三壁性骨欠損モデルに対してHAインプラントを移植した区では、移植したインプラントの沈みこみが観察されたのに対し、歯槽骨を欠損していない(移植窩へHAインプラントを移植した区、および、三壁性骨欠損モデルに対して歯小嚢付与HAインプラントを移植した区においては、インプラントの沈み込みが観察されなかった。これより、歯小嚢付与HAインプラントの移植によりインプラント自体の落ち込みが防止されることが示唆された。

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