【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、顎骨内に埋設したインプラントに対し、義歯やブリッジ等の上部補綴物を着脱自在に装着するため、インプラント側と上部補綴物側のいずれか一方に磁石を、他方に磁石または磁性合金を対面状に配置する歯科補綴システム中、キーパー磁性部材を保持するためインプラント本体の上端に固定される歯科磁性部材用ホルダーに関するものである。 【0002】 【従来の技術】歯牙の補綴修復において、無歯顎などを補綴する際のデンチャーや、部分欠損部を修復する際のブリッジなどの補綴物を口腔内に維持するために、一般にはクリップタイプのアタッチメントを用いたり、或いは、天然歯を構成していた支台歯に上記補綴物をセメントで合着する方法が取られてきた。 【0003】前者の方法は、患者が日常的に補綴物を取り外し、清掃するのに適しているのに対して、後者では基本的に補綴物を取り外すことができないかわりに、強固な固定が可能となる。 【0004】デンチャータイプの補綴物に関しては軟組織部まで補綴が可能になるため、発音や、咀嚼、審美的な面が優れている。 しかしながら、残存歯が残っているようなケースで金属製のクラスプ(爪状の機構)を用いている場合を除き、軟組織のアンダーカットや、デンチャーの粘膜面との吸着にその支持を頼らざるをえないので、支持力が顎堤の形状に左右されてしまう。 一般に無歯顎に近づけば、歯根を維持していた歯槽突起部が廃用萎縮し、顎堤が吸収されてデンチャーの支持力が極端に低下することが問題であった。 【0005】また、インプラントを植立し且つ、デンチャータイプの補綴物を用いたもので、インプラントに固定された支台部などのアタッチメントと機械的に連結したものがあったが、これらは、セメントで合着したり、 ネジで固定する前記固定式の補綴物とは支持形態としては大差がないものである。 このタイプの補綴物の問題点としては、第一に、インプラントの本数を多く設定できない場合でインプラントに掛かる応力が過大になり、その結果、インプラントにルースニングが発生し易い問題があった。 第二に、複数のインプラントの頂部をメタルバーで連結し、これをデンチャー粘膜面に設置したクリップで保持するバーアタッチメントでは、バー下面などを清掃し難いという問題があった。 【0006】そこで、これらの問題を解決するために、 インプラントなどにステンレスなどのキーパー磁性部材を装着し、他方、デンチャー粘膜面に上記クリップの替わりに磁石を配し、その間の磁力による吸引力でデンチャーを定位置に保持する補綴形態が用いられるようになった。 このような補綴物として、例えば、インプラントを結ぶバーに磁石や磁性合金などからなるキーパー磁性部材を鋳込んだものや、別途インプラントに垂直なスクリューで装着されるカバーキャップなどに、例えば、チタン金属製のキャップに融点の低い金合金などで磁性合金を鋳くるむことにより接合したものや、インプラントの頭部に凹設したポケット内にセメントでキーパー磁性部材を固着したものなどが試されてきた。 【0007】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記磁性合金を用いた補綴では、キーパー磁性部材の着合面を完全に平行に設置することが難しく、そのため、インプラントに大きな応力が加わってしまうこととなり、骨吸収やルーズニングなどの重大な問題の原因となることがあった。 また、キーパー磁性部材が可轍式ではなかったので、MRIなどによる顎顔面頭蓋頚部領域の病変の診断に際しても、アーチファクトの発生が問題となっていた。 そこで上記鑑み、本発明は、インプラント本体を咬合平面に対する垂直軸から方向違いに固定した場合や、複数のインプラント本体を植設する場合などにキーパーの着合面を最適方向に設定し、もって最適な咬合位置で上記ポケットにキーパー磁性部材を接着固定するようにすること、および、例えば、MRIなどによる顎顔面頭蓋頚部領域の病変の診断に際しても、必要に応じてキーパー磁性部材を容易に取り外すことができ、診断時のアーチファクトの発生を避けることができるようにすることを課題とする。 【0008】 【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため本願発明は、顎骨内に埋設したインプラント上に固定する磁性部材用ホルダーの上面に備えたポケットとこれに嵌合するキーパー磁性部材とが互いに当接する面を回動自在の球状となし、最適な咬合位置で上記ポケットにキーパー磁性部材を接着固定するようにしたことを特徴とする。 【0009】さらに本願発明は、磁性部材用ホルダーであって、上面に備えたポケット内にキーパー磁性部材を螺着する固定用スクリューを備え、且つ、該固定用スクリューの頭部とこれに当接するキーパー磁性部材の座り面を回動自在の球状となし、最適な咬合位置で上記ポケットにキーパー磁性部材を螺着固定するようにしたことを特徴とする。 【0010】 【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態を図によって説明する。 【0011】図1及び図2はそれぞれ、本発明の歯科磁性部材用ホルダーを搭載した歯科インプラント1の分解側面図と組立側面図であり、2は顎骨内に埋設するインプラント本体、3は上部構造取付けのため口腔内に突出する歯科磁性部材用ホルダー、4はインプラント本体2 と歯科磁性部材用ホルダー3を結合するためのスクリュー、5は義歯やブリッジなど上部補綴物Cに装着される磁石や磁性合金などの磁性部材5´に着合すべく磁石や磁性合金からなるキーパー磁性部材である。 なお、図2 は図1の歯科インプラント1を組み立てたものであって、要部を破断して示した側面図である。 【0012】上記インプラント本体2は、顎骨の所定部位に専用の手術器具でもって穿設された下孔の孔壁にセルフタップするための構造を有する。 すなわち、外周に雄ネジ2aを備えるとともに、外周下端部に複数の切欠2bが形成されている。 また、インプラント本体2には図2に示すように上端面2cに開口し且つ、軸線方向に設けられた嵌合穴2dが形成されている。 【0013】上記歯科磁性部材用ホルダー3は、下部分がインプラント本体2の嵌合穴2dに嵌合するべく小径の嵌入部3aとなっており、回動防止のためにその下端に多角形状部3bを備えている。 なお、図では明らかでないが上記インプラント本体2の嵌合穴2dも対応形状となっている。 このような多角形構造を用いる利点として、回動防止した状態でインプラント本体2に歯科磁性部材用ホルダー3を結合し、適当な印象部材を用いることによって、口腔内の位置をそのまま転写することができ、石膏などで形成した口腔形状の模型を作製し、該模型上で歯科磁性部材用ホルダー3にキーパー磁性部材5 を固定できることが挙げられる。 【0014】また図2に示すように、歯科磁性部材用ホルダー3は前記スクリュー4によりインプラント本体2 と歯科磁性部材用ホルダー3を結合すべく軸線方向の貫通孔3cを備えるとともに、その上端部位に磁性合金からなるキーパー磁性部材5を固定するためのポケット6 が形成されている。 このポケット6は、球の一部を輪切り状に切り出した形状を成し、したがって球状の壁周面6aを備えている。 他方、キーパー磁性部材5も同じ球の一部を輪切り状に切り出した形状であって、その側面もこの壁周面6aに対応した球状となっており、硬化前の骨セメントやレジンなどの接着剤7を下方に充填させた状態で、キーパー磁性部材5を一定角度範囲内で傾かせることによりキーパー磁性部材5の着合面5aの方向を調整し、その後、上記接着剤7が硬化してキーパー磁性部材5の方向が固定される。 【0015】歯科磁性部材用ホルダー3をこのように構成する利点としては、ポケット6の壁周面6aが球の一部をなす形状であるので、キーパー磁性部材5の側面を対応形状とすることにより、中心座標まわりのローテーションとこれに垂直な面での傾斜角度の調整が球状壁周面にガイドされることにより極めて容易にでき、且つ、 微調整が可能であることが挙げられる。 したがって、インプラント本体2を咬合平面に対する垂直軸から方向違いに固定した場合や、複数のインプラント本体2を植設する場合などにキーパー磁性部材5の着合面5aを最適の咬合位置にて接着固定することができる。 【0016】なお、上記歯科インプラント1の構成部材、インプラント本体2、歯科磁性部材用ホルダー3、 スクリュー4は、チタン合金など生体為害性のない金属材料より構成することが好ましい。 【0017】次に、図3は前記歯科磁性部材用ホルダー3の別形態を示し、ここでは歯科磁性部材用ホルダー3 の上端をねじ付きキャップ3dとし、本体に螺着する構造とし、このキャップ3dの上端部に前記ポケット6を形成した。 ここで、キーパー磁性部材5とキャップ3d を結合するためのスクリュー8は、頭部8aが球の一部を輪切り状に切り出してなる形状であり、他方、前記キーパー磁性部材5の中心軸方向に設けたスクリュー係合用の貫通孔5bの上側には、対応する球状壁周面5cを設けている。 したがって、上記スクリュー8の頭部8a に対しキーパー磁性部材5が中心座標軸まわりにローティーションし且つ上下方向にも揺動可能である。 ちなみに図3(a)は、キーパー磁性部材5を水平にした状態であり、同図(b)はキーパー磁性部材5を傾けた状態をそれぞれ示している。 【0018】なお、歯科磁性部材用ホルダー3(キャップ3d)の外周上端部は上端に向かって徐々に径が減じるようになっている。 これにより、上部構造の脱着に対してアンダーカットが生じることのないようにする作用がある他、この部分がバネ性を持ち、スクリュー8を強く締め込むことによって、キーパー磁性部材5を所定傾斜位置に固着することができる。 【0019】このようにキーパー磁性部材5と歯科磁性部材用ホルダー3をスクリュー8で結合し、スクリュー8の頭部8aとキーパー磁性部材5を球形状を利用した係合とすることによる利点としては、前述のように中心座標まわりのローテーションとこれに垂直な面での傾斜角度の調整が球状壁周面にガイドされることにより極めて容易にでき、且つ、微調整が可能であることに加えて、骨セメントやレジンなどの接着剤を用いずにキーパー磁性部材5を設置できるので、例えば、MRIなどによる顎顔面頭蓋頚部領域の病変の診断に際しても、必要に応じてキーパー磁性部材5を容易に取り外すことができ、診断時のアーチファクトの発生を避けることができることが挙げられる。 【0020】以上、本発明の実施形態の例を図により説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものでなく、例えば、前記キーパー磁性部材の周囲にリン酸カルシウム材やアルミナなどのバイオセラミックスをコーティングすることにより、生体に対する安全性を高めるなど、発明の目的を逸脱しない限り、任意の形態とすることができることは言うまでもない。 【0021】 【発明の効果】叙上のように本発明は、顎骨内に埋設したインプラント上に固定する磁性部材用ホルダーにおいて、上面に備えたポケットとこれに嵌合するキーパー磁性部材とが互いに当接する面を回動自在の球状となしたので、最適な咬合位置にて上記ポケットにキーパー磁性部材を接着固定できる。 【0022】また、本発明によれば、上記磁性部材用ホルダーにおいて、上面に備えたポケット内にキーパー磁性部材を螺着する固定用スクリューを備え、且つ、該固定用スクリューの頭部とキーパー磁性部材の当接する面を回動自在の球状となしたことにより、最適な咬合位置にて上記ポケットにキーパー磁性部材を固定するようことができ、さらに、骨セメントやレジンなどの接着剤を用いずに磁性部材を設置できるので、例えば、MRIなどによる顎顔面頭蓋頚部領域の病変の診断に際しても、 必要に応じて磁性部材を容易に取り外すことができ、診断時のアーチファクトの発生を避けることができる。 【0023】以上のように、本発明は極めて優れた効果を奏するものである。 【図面の簡単な説明】 【図1】本発明の歯科磁性部材用ホルダーを搭載した歯科インプラントの分解側面図である。 【図2】図1の歯科インプラントを組み立てたものであって、要部を破断して示した側面図である。 【図3】(a)、(b)は、別形態による本発明の歯科磁性部材用ホルダーの断面図である。 【符号の説明】 1 歯科インプラント 2 インプラント本体 3 歯科磁性部材用ホルダー 4、8 スクリュー 5 磁性部材 6 ポケット 7 接着剤 2a 雄ネジ 2b 切欠 2c 上端面 2d 嵌合穴 3a 嵌入部 3b 多角形状部 3c、5b 貫通孔 3d キャップ 5a 着合面 5c 球状壁周面 6a 壁周面 8a 頭部 |