歯科用磁性アタッチメント磁石構造体

申请号 JP2016511534 申请日 2015-03-19 公开(公告)号 JPWO2015151845A1 公开(公告)日 2017-04-13
申请人 日立金属株式会社; 发明人 雄京 高田; 雄京 高田; 高橋 正敏; 正敏 高橋; 亮 菊地; 亮 菊地;
摘要 実質的にNiを含有しないフェライト系ステンレス鋼のカップ型ヨークと、前記カップ型ヨークの凹部に収容される永久磁石と、前記カップ型ヨークの開口部を密封するシール部材と、前記シール部材と前記カップ型ヨークとの突き合わせ部を固着する溶接部とからなり、前記シール部材が、実質的にNiを含有しないフェライト系ステンレス鋼の中央部と、窒素の含有量が0.5〜2.0質量%であり、実質的にNiを含有しないオーステナイト系ステンレス鋼の中間部と、窒素の含有量が前記中間部よりも少なく、かつ1.3質量%以下であり、実質的にNiを含有しないフェライト系ステンレス鋼の外縁部とからなることを特徴とする歯科用 磁性 アタッチメント磁石構造体。
权利要求

実質的にNiを含有しないフェライト系ステンレス鋼のカップ型ヨークと、前記カップ型ヨークの凹部に収容される永久磁石と、前記カップ型ヨークの開口部を密封するシール部材と、前記シール部材と前記カップ型ヨークとの突き合わせ部を固着する溶接部とからなる歯科用磁性アタッチメント磁石構造体であって、 前記シール部材が、 実質的にNiを含有しないフェライト系ステンレス鋼の中央部と、 前記中央部の外側に位置し、窒素の含有量が0.5〜2.0質量%であり、実質的にNiを含有しないオーステナイト系ステンレス鋼の中間部と、 前記中間部の外側に位置し、窒素の含有量が前記中間部よりも少なく、かつ1.3質量%以下であり、実質的にNiを含有しないフェライト系ステンレス鋼の外縁部とからなることを特徴とする歯科用磁性アタッチメント磁石構造体。請求項1に記載の歯科用磁気アタッチメントにおいて、前記溶接部の中心位置が、前記シール部材と前記カップ型ヨークとの突き合わせ部から、前記カップ型ヨーク側にずれていることを特徴とする歯科用磁性アタッチメント磁石構造体。請求項1又は2に記載の歯科用磁性アタッチメント磁石構造体において、前記カップ型ヨーク及びシール部材のNi含有量が0.2質量%以下であることを特徴とする歯科用磁性アタッチメント磁石構造体。請求項1〜3のいずれかに記載の歯科用磁性アタッチメント磁石構造体において、前記カップ型ヨーク及びシール部材のCr含有量が17〜32質量%であることを特徴とする歯科用磁性アタッチメント磁石構造体。請求項1〜4のいずれかに記載の歯科用磁性アタッチメント磁石構造体において、前記外縁部の半径方向の平均長さが、前記溶接部の半径方向長さの20〜80%であることを特徴とする歯科用磁性アタッチメント磁石構造体。請求項1〜4のいずれかに記載の歯科用磁性アタッチメント磁石構造体において、前記外縁部の半径方向の平均長さが50〜400μmであることを特徴とする歯科用磁性アタッチメント磁石構造体。請求項1〜6のいずれかに記載の歯科用磁性アタッチメント磁石構造体において、前記中間部の半径方向の平均長さが50〜400μmであることを特徴とする歯科用磁性アタッチメント磁石構造体。請求項1〜7のいずれかに記載の歯科用磁性アタッチメント磁石構造体において、前記中間部の半径方向の平均長さが、前記外縁部の半径方向の平均長さよりも大きいことを特徴とする歯科用磁性アタッチメント構造体。請求項1〜8のいずれかに記載の歯科用磁性アタッチメント磁石構造体において、前記中間部のオーステナイト系ステンレス鋼と前記中央部のフェライト系ステンレス鋼との境界部において、前記中間部のオーステナイト系ステンレス鋼の一部が加熱されることによりフェライト化又はフェライトとCr窒化物との混合相化していることを特徴とする歯科用磁性アタッチメント磁石構造体。

说明书全文

本発明は永久磁石による磁気吸引を利用して義歯を保持する歯科用磁性アタッチメント磁石構造体に関する。

歯科用磁性アタッチメント磁石構造体400(以下、単に「磁石構造体」と呼ぶ場合がある。)は、図10に示すように、軟磁性ステンレス鋼製のカップ型ヨーク401の開口部に軟磁性ステンレス鋼製のディスクヨーク414と非磁性ステンレス鋼製のシールドリング415とが同心状に配置され、ディスクヨーク414とシールドリング415との間及びシールドリング415とカップ型ヨーク401との間が全周溶接されて永久磁石402が密封された構造を有する。この磁石構造体400は、図9に示すように、義歯床420に埋め込まれ、歯槽421に埋設された根面板422に設置された軟磁性キーパー423との磁気吸引力により根面板422に保持される。磁石構造体400は、人体に対し無害であること、長期間化学的に安定であること、吸着力が大きいこと等の要求を満足する必要がある。

歯科用磁性アタッチメント磁石構造体400は、例えば特開平5-95965号に記載されたように、カップ型ヨーク401の凹部に永久磁石402(例えば、ネオジム磁石)を挿入し、カップ型ヨーク401の開口部にディスクヨーク414とシールドリング415とからなるディスク状シール部材413を挿入し、カップ型ヨーク401とシールドリング415との突き合わせ部、及びシールドリング415とディスクヨーク414との突き合わせ部をそれぞれ溶接により封止し、さらにこの溶接部を研磨又は研削により平滑にする方法により製造される。この磁石構造体400は、キーパー423と吸着させる際オーステナイト系ステンレス鋼でできたシールドリング415がディスク状シール部材413の外周部に存在することにより磁路の一部を遮断し、永久磁石402の磁束をキーパー423、カップ型ヨーク401及びディスクヨーク414から構成される磁気回路に効率的に流すことができ、大きな吸着力を発生させることができる。

前記ディスク状シール部材413は、一般的に、オーステナイト系ステンレス鋼製鋼管にフェライト系ステンレス鋼製の丸棒を挿入後、引き抜き加工を行い、オーステナイト系ステンレス鋼からなる外周部と、フェライト系ステンレス鋼からなる中央部とを有するクラッド材の丸棒とし、これを輪切りに切断することにより製造される。シールドリング415の素材に使用されるオーステナイト系ステンレス鋼は、従来ニッケルを溶解させることによりオーステナイト相を生成させたものが使用されてきたが、ニッケルを含有するため磁性アタッチメント磁石構造体をニッケルによる金属アレルギーを発症する患者には適用することができなかった。このため、ニッケルを含まないステンレス鋼を用いた歯科用磁性アタッチメント磁石構造体が望まれている。

ニッケルを含まないオーステナイト系ステンレス鋼として、例えば特開2012-92413号は、ステンレス鋼組成に窒素を固溶させた窒素固溶型オーステナイト系ステンレス鋼を開示しており、窒素固溶型オーステナイト系ステンレス鋼の製造方法として、大気圧程度の窒素雰囲気下(窒素分圧:80〜86.7 kPa)でフェライト系ステンレス鋼を1100〜1250℃で加熱することによりステンレス鋼表面から窒素を吸収させ、オーステナイト系ステンレス鋼を生成させる方法を提案している。

しかしながら、窒素を固溶させたオーステナイト系ステンレス鋼は、700℃程度以上の高温及び大気圧の条件において、フェライト相とCr窒化物相との混合組織に変態する特性を持っているため、この材料の板を製管する際に行われる突き合わせ部の溶接や押し出しによる製管時や管材の歪み取り焼鈍において加熱を行うことができず、前記シールドリングに用いる管材を製造することができない。

従って、本発明の目的は、吸引力及び耐久性は従来と同等以上で、製造コストが低く、かつニッケルを含まない歯科用磁性アタッチメント磁石構造体を提供することである。

上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、実質的にNiを含有しないフェライト系ステンレス鋼からなる丸棒材の外周部に一定の厚さで窒素を固溶させた後、その窒素固溶部分のうち表層部のみを脱窒素して、フェライト系ステンレス鋼の芯部と、オーステナイト系ステンレス鋼の中間部と、フェライト系ステンレス鋼の表層部とが一体に形成された丸棒材を作製し、その丸棒材から円板を切り出すことにより、実質的にNiを含有しないフェライト系ステンレス鋼の中央部と、実質的にNiを含有しないオーステナイト系ステンレス鋼の中間部と、実質的にNiを含有しないフェライト系ステンレス鋼の外縁部とからなるディスク状シール部材が得られること、及び前記ディスク状シール部材と、永久磁石を収納したカップ型ヨークとを溶接する際に、前記外縁部が窒素を含まないフェライト系ステンレス鋼からなるため、溶接時の熱により窒素ガスの発生(脱窒素)が少なく、溶接欠陥を減らすことができ、その結果、磁石吸引力に優れ、かつニッケルを実質的に含まない歯科用磁性アタッチメント磁石構造体が得られることを見出し、本発明に想到した。

すなわち、本発明の歯科用磁性アタッチメント磁石構造体は、 実質的にNiを含有しないフェライト系ステンレス鋼のカップ型ヨークと、前記カップ型ヨークの凹部に収容される永久磁石と、前記カップ型ヨークの開口部を密封するシール部材と、前記シール部材と前記カップ型ヨークとの突き合わせ部を固着する溶接部とからなり、 前記シール部材が、 実質的にNiを含有しないフェライト系ステンレス鋼の中央部と、 前記中央部の外側に位置し、窒素の含有量が0.5〜2.0質量%であり、実質的にNiを含有しないオーステナイト系ステンレス鋼の中間部と、 前記中間部の外側に位置し、窒素の含有量が前記中間部よりも少なく、かつ1.3質量%以下であり、実質的にNiを含有しないフェライト系ステンレス鋼の外縁部とからなることを特徴とする。

前記溶接部の中心位置は、前記シール部材と前記カップ型ヨークとの突き合わせ部から、前記カップ型ヨーク側にずれているのが好ましい。

前記カップ型ヨーク及びシール部材のNi含有量は0.2質量%以下であるのが好ましい。

前記カップ型ヨーク及びシール部材のCr含有量は17〜32質量%であるのが好ましい。

前記外縁部の半径方向の平均長さは、前記溶接部の半径方向長さの20〜80%であるのが好ましい。

前記外縁部の半径方向の平均長さは50〜400μmであるのが好ましい。

前記中間部の半径方向の平均長さは50〜400μmであるのが好ましい。

前記中間部の半径方向の平均長さは、前記外縁部の半径方向の平均長さよりも大きいのが好ましい。

前記中間部のオーステナイト系ステンレス鋼と前記中央部のフェライト系ステンレス鋼との境界部において、前記中間部のオーステナイト系ステンレス鋼の一部が加熱されることによりフェライト化又はフェライトとCr窒化物との混合相化しているのが好ましい。

本発明の歯科用磁性アタッチメント磁石構造体は、高い吸引力及び耐久性を有し、かつニッケルを含まないので、ニッケルによる金属アレルギーを発症する患者にも適用が可能である。また本発明の歯科用磁性アタッチメント磁石構造体は、従来の方法よりも簡便に製造できるので、製造コストを低く抑えることができる。

本発明の磁性アタッチメント磁石構造体の一例を示す模式断面図である。

図1(a)の磁性アタッチメント磁石構造体の溶接部を拡大して示す模式断面図である。

シール部材の一例を示す模式図である。

シール部材の中央部、中間部及び外縁部の半径方向の平均長さを測定する方法を示す模式図である。

シール部材の中央部のオーステナイト系ステンレス鋼部分と中間部のフェライト系ステンレス鋼部分との境界領域A1をレーザーで加熱する方法を示す模式図である。

図4(a)の境界領域A1をレーザーで加熱した後の磁性アタッチメント磁石構造体を示す模式断面図である。

本発明で使用するカップ型ヨークの形状を説明するための模式図である。

レーザー照射装置を用いて、シール部材とカップ型ヨークとの突き合わせ部を溶接する様子を示す模式断面図である。

シール部材の半径方向(A線方向)の窒素含有量分布を示すグラフである。

実施例1の磁性アタッチメント磁石構造体を示す模式断面図である。

図8(a)の溶接部を拡大して示す模式断面図である。

磁性アタッチメント磁石構造体を有する義歯を、歯槽に埋設された根面板に設置されたキーパーに装着した状態を示す模式断面図である。

従来の磁性アタッチメント磁石構造体を示す模式断面図である。

(1)全体構成 磁性アタッチメント磁石構造体10は、図1(a)及び図1(b)に示すように、一方に開口部を有する実質的にNiを含有しないフェライト系ステンレス鋼のカップ型ヨーク1と、前記カップ型ヨーク1の凹部1aに収容される永久磁石2と、前記カップ型ヨーク1の開口部を密封するシール部材3と、前記シール部材3と前記カップ型ヨーク1との突き合わせ部4aを固着する溶接部4とからなり、前記シール部材3は、実質的にNiを含有しないフェライト系ステンレス鋼の中央部3aと、前記中央部3aの外側に位置し、窒素の含有量が0.5〜2.0質量%であり、実質的にNiを含有しないオーステナイト系ステンレス鋼の中間部3bと、前記中間部3bの外側に位置し、窒素の含有量が前記中間部3bよりも少なく、かつ1.3質量%以下であり、実質的にNiを含有しないフェライト系ステンレス鋼の外縁部3cとからなる。前記カップ型ヨーク1及びシール部材3のCr含有量は17〜32質量%であるのが好ましく、24〜32質量%であるのがより好ましい。前記カップ型ヨーク1及びシール部材3のNi含有量は0.2質量%以下であるのが好ましく、0.1質量%以下であるのがより好ましい。前記溶接部4の中心位置は、前記シール部材3と前記カップ型ヨーク1の突き合わせ部4aから、前記カップ型ヨーク側1にずれていてもよい。

この磁性アタッチメント磁石構造体10において、フェライト系ステンレス鋼のカップ型ヨーク1と、フェライト系ステンレス鋼からなる中央部3aと、フェライト系ステンレス鋼の外縁部3cとが磁性体であり、オーステナイト系ステンレス鋼の中間部3bが非磁性体であるため、前記シール部材3の中央部3aが一方の極(図ではN極)となり、カップ型ヨーク1の開口端部1bが他方の極(図ではS極)となる磁気回路を構成する。

(2) シール部材 シール部材3は、永久磁石2をカップ型ヨーク1の凹部1aに封止するとともに、磁気回路を構成する部材であり、図2に示すように、フェライト系ステンレス鋼からなる中央部3aと、前記中央部3aの外側に位置し、窒素の含有量が0.5〜2.0質量%であるオーステナイト系ステンレス鋼からなる中間部3bと、前記中間部3bの外側に位置し、窒素の含有量が前記中間部3bより少なく、かつ1.3質量%以下であるフェライト系ステンレス鋼からなる外縁部3cとからなる。前記中間部3bのオーステナイト系ステンレス鋼は、フェライト系ステンレス鋼に窒素が固溶したことにより生成され、その窒素含有量範囲は、ステンレス鋼のCr含有量により異なる。

前記シール部材3は、実質的にNiを含有しないステンレス鋼からなり、特に耐食性軟磁性のフェライト系ステンレス鋼(SUS447J1、SUSXM27、SUS444等)を用いるのが好ましい。前記ステンレス鋼のCr含有量は17〜32質量%であるのが好ましく、24〜32質量%であるのがより好ましい。なおカップ型ヨーク1及びシール部材3の外形は円形に限らず、楕円形でも四形等の多角形でも良い。この場合、永久磁石2の形状も、必要に応じてカップ型ヨーク1及びシール部材3の外形に合わせて変更してもよい。

前記シール部材3として円形を採用した場合、その直径は、歯科用磁性アタッチメント磁石構造体の使用目的に応じて設定されるものであり、通常は1800〜5500μmである。前記中央部3aの平均半径Laは、800〜5000μmであるのが好ましく、1000〜4000μmであるのがより好ましい。前記中間部3bの半径方向の平均長さLbは、50〜400μmであるのが好ましく、100〜300μmであるのがより好ましい。前記外縁部3cの半径方向の平均長さLcは50〜400μmであるのが好ましく、75〜300μmであるのがより好ましい。前記中間部3bの半径方向の平均長さLbは、前記外縁部3cの半径方向の平均長さLcよりも大きいのが好ましい。

シール部材3の中間部3bは、窒素の含有量が0.5〜2.0質量%であり、実質的にNiを含有しないオーステナイト系ステンレス鋼からなる。窒素の含有量が0.5質量%未満であると、オーステナイト系ステンレスが安定に存在せず、フェライト化してしまう場合がある。窒素の含有量が2.0質量%超である場合は、窒化物が析出してくる場合がある。前記窒素の含有量は、0.7〜1.8質量%であるのがより好ましい。

シール部材3の外縁部3cは、窒素の含有量が前記中間部3bよりも少なく、かつ1.3質量%以下であり、実質的にNiを含有しないフェライト系ステンレス鋼からなる。前記窒素の含有量は、1.0質量%以下であるのが好ましく、0.5質量%以下であるのがより好ましい。窒素含有量は少ない方が好ましいが、微量の窒素が存在していてもかまわない。前記外縁部3cは、窒素の含有量が0.5質量%以上であるオーステナイト系ステンレス鋼を脱窒素することによりフェライト化したものであるため、後述するようにカップ型ヨーク1とシール部材3との溶接時に発生する窒素ガスを低減させる効果を有する。従って、前記外縁部3cは、溶接部4が中間部3bにかからない程度の幅(半径方向長さ)、すなわち溶接時にレーザー照射による加熱で前記中間部3bが脱窒素しない程度の幅を有しているのが好ましい。

例えば、レーザー光の中心点がシール部材3とカップ型ヨーク1との接合部分(突き合わせ部)に一致するようにレーザー光を照射し溶接する場合は、前記外縁部3cの半径方向の平均長さLcは、少なくともレーザー光の直径の半分の幅を有しているのが好ましい。しかし、レーザー光の中心点は、必ずしも突き合わせ部に一致させるのが好ましいわけではなく、カップ型ヨーク1側かシール部材3側にずれている方が接合性や磁気回路上好ましい場合もある。従って、前記外縁部3cの半径方向の平均長さLcは、前記溶接部4の半径方向長さの20〜80%であるのが好ましい。

ここで溶接部4の半径方向長さとは、半径方向において溶接部4の最も幅の広い部分のことであり、図1(b)から分かるように、溶接部4の最も表面に近い部分の半径方向長さである。この溶接部4の最も表面に近い部分は、レーザー照射により発生する熱がレーザー径の外側にも伝わりステンレスを溶解するため、レーザー径よりも少し広い。このレーザー照射によってステンレスが溶解する範囲は、レーザー径以外にも、レーザー出力、走査スピード等によって変わってくると考えられるので、外縁部3cの半径方向の長さは、レーザー径ではなく溶接部4の最も広い部分の半径方向の長さを基準として決定するのが望ましい。

シール部材3は、後述するように、フェライト系ステンレス鋼からなる丸棒材に窒素固溶処理を施して表面から一定の深さまでの部分をオーステナイト化し、その後さらに脱窒素処理をして前記オーステナイト化した部分のうち表面に近い部分をフェライト化してから輪切りにして円板を切り出すことにより得られる。そのため、中央部3aのフェライト系ステンレス鋼部分31aと、中間部3bのオーステナイト系ステンレス鋼部分31bとの境界、及び中間部3bのオーステナイト系ステンレス鋼部分31bと外縁部3cのフェライト系ステンレス鋼部分31cとの境界は、図2に示すように、複雑に入り組んでいる。なお図2から分かるように、外縁部3cと中間部3bとの境界部は、中間部3bと中央部3aとの境界部に比べて入り組みは小さい。

従って、前記平均半径La及び平均長さLb、Lcは、図3に示すように、周方向に等角度間隔に10カ所半径方向の直線を引き、各直線部分において、外周端3dから中間部3bのオーステナイト系ステンレス鋼部分31bに交差する点までの長さLc1〜Lc10を測定し、それらの平均値を外縁部3cのフェライト系ステンレス鋼部分31cの長さLcとし、同様に、前記中間部3bのオーステナイト系ステンレス鋼部分31bに交差する点から中央部3aのフェライト系ステンレス鋼部分31aに交差する点までの長さLb1〜Lb10を測定し、それらの平均値を中間部3bのオーステナイト系ステンレス鋼部分31bの長さLbとする。中央部3aのフェライト系ステンレス鋼部分31aの平均半径Laは、シール部材3の半径から(Lc+Lb)を引くことによって求める。

(窒素固溶処理) シール部材3は、耐食性軟磁性のフェライト系ステンレス鋼の丸棒材に窒素固溶処理を施してオーステナイト化したのち、脱窒素処理をして最表層のみをフェライト化し、得られた前記処理済みの丸棒材を所定厚さに輪切りにスライスすることにより作製される。窒素固溶処理は、フェライト系ステンレス鋼を窒素雰囲気下(50 kPa以上)、及び1150〜1250℃で、例えば真空加熱装置中で加熱処理することにより行う。前記真空加熱装置内は、大気圧程度の窒素雰囲気とするのが操作上好ましく、80〜120 kPa程度の窒素雰囲気が好ましい。酸化物が生成するのを防ぐため、使用する窒素ガスには酸素やを含有しないことが好ましい。加熱処理の温度が1150℃よりも低い場合、十分に窒素が固溶しにくくなり、1250℃よりも高い場合、窒素固溶速度を制御することが難しくなり、窒素固溶オーステナイト系ステンレス鋼の深さ(前記シール部材3の中間部3bの径方向幅)を一定に保つのが難しくなる。窒素固溶オーステナイト系ステンレス鋼は、フェライト相が十分にオーステナイト化する程度の窒素を含有する必要があり、その窒素含有量は、ステンレス鋼のCr含有量により異なり、0.5〜2.0質量%である。前記窒素含有量の下限は、1質量%であるのが好ましい。

窒素固溶処理は、炉の加熱室内にフェライト系ステンレス鋼を予め設置し加熱する方法と所定の温度になってから炉の加熱室内にフェライト系ステンレス鋼を挿入する方法とがあるがいずれでも構わない。ステンレス鋼を予め設置してから加熱する方法の場合、加熱室内に裁置されたフェライトステンレス鋼が均一に加熱昇温されるように、5〜20℃/min程度の昇温速度とするのが好ましい。また窒素ガスは加熱開始から炉内に充填しても、所定温度になってから充填しても構わない。

加熱処理の時間(最高温度での保持時間)は、窒素固溶処理によってフェライト系ステンレス鋼をどの程度の深さまでオーステナイト化するかによって適宜調節する。例えば、大気圧の窒素雰囲気下及び1200℃の条件で、300 μm程度の深さまでのオーステナイト化は、2〜4時間程度の加熱処理を施すことによって可能である。

(脱窒素処理) 窒素固溶処理によってフェライト系ステンレス鋼の丸棒材の表面から一定の深さまでの部分をオーステナイト化した後に、前記オーステナイト化した部分のうち表面に近い部分(最表層)を脱窒素することにより、前記最表層部分をフェライト化させる。脱窒素処理は、窒素固溶処理により窒化した際の窒素の圧力を下げることで実施できる。その際温度は等温に維持するのが好ましい。脱窒素の際の窒素の圧力は窒化した際の圧力の99%以下が好ましく、95%以下がより好ましい。脱窒素したフェライト相の窒素含有量は、1.3質量%以下であり、1.0質量%以下であるのが好ましく、0.5質量%以下であるのがより好ましい。

窒素固溶処理で形成されたオーステナイト相及び脱窒素処理により形成されたフェライト相の組織を室温においても維持するためには、窒素固溶処理及び脱窒素処理後の高温状態のステンレス鋼を急冷する。前記処理後のステンレス鋼を徐冷した場合には、生成したオーステナイト相の組織がフェライト相又はフェライト相とCr窒化物とが混合した組織へと変態してしまう。ステンレス鋼を急冷する方法としては、加熱装置内に冷却部を設置し窒素固溶処理後の素材をこの冷却部に移動し、窒素ガス、希ガス等の冷却用ガスを吹き込んで空冷する方法やこの冷却部を水冷する方法等が挙げられる。

窒素を固溶させるフェライト系ステンレス鋼丸棒素材の長さは、炉の加熱室の均熱部長さより短くすることが望ましい。炉の加熱室の均熱部より素材の長さが長くなると温度のバラツキにより均一な深さで窒素を固溶させることができなくなる。このため加熱室の均熱部長さは温度バラツキが10℃以内とすることが望ましい。

窒素固溶処理の前に700℃以上窒素固溶処理温度以下及び大気圧の水素ガス雰囲気中でフェライト系ステンレス素材を処理し、表面の酸化物等を除去するのが望ましい。素材表面に酸化物等があるとそれらが窒素ガスの浸透のバリアとなり、窒素固溶処理の速度が低下するとともに、窒素固溶処理の深さが均一でなくなってしまうおそれがある。

窒素固溶処理の前に固溶処理温度で1〜3時間予備加熱処理を行うと、素材が粒成長し均一な厚さでのオーステナイト相を形成することができる。予備加熱の処理時間は素材の結晶粒の大きさに依存するため、素材に応じて設定すればよい。

(熱処理) 前述のように、窒素固溶処理によってオーステナイト系ステンレス鋼を形成した場合、図2に示すように、シール部材3のオーステナイト系ステンレス鋼部分31b(中間部3b)は、フェライト系ステンレス鋼部分31a(中央部3a)に複雑に入り込んだ状態となる。このようにシール部材3の中央部3aに非磁性のオーステナイト系ステンレス鋼が部分的に入り組んだ状態となると、永久磁石2、カップ型ヨーク1及びシール部材3から構成される磁気回路の効率が低下することにより、磁石吸引力が低下するとともに、製品ごとに磁石吸引力の違いが生じ安定な性能を有する製品が得られなくなる。これらを改善するために、図4(a)及び図4(b)に示すように、シール部材3のオーステナイト系ステンレス鋼部分31bとフェライト系ステンレス鋼部分31aとの境界領域A1をレーザーで加熱しオーステナイト系ステンレス鋼をフェライト系ステンレス鋼に戻してもよい。なお前記境界領域A1の加熱は、熱による永久磁石2の磁石特性の低下を招かないように、前記シール部材3の表面にのみ施すのが好ましい。これにより製品ごとの磁気回路の不均一さを低減し吸引力を安定化させることができる。

(3) カップ型ヨーク カップ型ヨーク1は、永久磁石2を収容するための凹部1aを有する。前記凹部1aは、収容する永久磁石2の大きさに合わせた寸法とするが、シール部材3が挿入される部分(開口端付近)の直径e(図5参照)は、式(1): (Br×S)×0.8≦Sc×Bs≦(Br×S)×1.2 [ただし、Bsはカップ型ヨーク1の飽和磁化、Brは永久磁石2の残留磁束密度、Sは永久磁石2の磁化方向に直交する断面積、Scはカップ型ヨーク1の吸着面の実効面積(磁性部分面積)を表す。]を満たすように設定するのが好ましい。

ここで、前記カップ型ヨーク1の吸着面の実効面積Scは、シール部材3にフェライト系ステンレス鋼の外縁部3cを設けたことにより、磁性領域が増加した分を考慮する必要がある。従って。前記カップ型ヨーク1の吸着面の実効面積Scは、カップ型ヨーク1の吸着面(カップ型ヨーク1の開口端部1b)の面積Sc0[=π×(E2-e2)/4]と、シール部材3の外縁部3cの面積Sc1[=π×(e2-r2)/4]との合計である[ただし、Eはカップ型ヨーク1の外形(直径)、eはカップ型ヨーク1の凹部開口端付近の直径及びrは外縁部3cの内側直径である。図5を参照。]。すなわち前記実効面積ScはSc0+Sc1=π×(E2-r2)/4で求められる。

ただし、カップ型ヨーク1とシール部材3との溶接部4は、前記外縁部3cと同様フェライト化し磁性体となっているため、この溶接部4が外縁部3cの半径方向幅よりもシール部材3の内側にはみ出て形成されている場合、すなわち溶接部4の内側直径fが外縁部3cの内側直径rよりも小さい場合は、シール部材3に形成された溶接部4の面積Sc2[=π×(e2-f2)/4]が外縁部3cの面積Sc1よりも大きくなる。従って、この場合は、前記カップ型ヨーク1の吸着面の実効面積Scは、カップ型ヨーク1の吸着面の面積Sc0と、シール部材3に形成された溶接部4の面積Sc2との合計である。すなわち前記実効面積ScはSc0+Sc2=π×(E2-f2)/4で求められる。

前記開口端付近の直径e及び前記シール部材の外縁部の半径方向の長さLc(又はシール部材3に形成された溶接部4の幅)を、前記式(1)を満たすように設定することで、十分な吸着力と低い漏洩磁束密度とを得ることができる。従って、シール部材3が挿入される部分の直径eは、磁性領域である外縁部の半径方向の長さLc(又はシール部材3に形成された溶接部4の幅)を考慮して決定するのが望ましい。このように開口端付近が拡径された形状の凹部1aとすることにより、シール部材3の中間部3b(非磁性のオーステナイト系ステンレス鋼の部分)を前記永久磁石2に対して最適な位置に配置することができる。

カップ型ヨーク1には耐食性軟磁性のフェライト系ステンレス鋼(SUS447J1、SUSXM27、SUS444等)を用いるのが好ましい。カップ型ヨーク1のCr含有量は17〜32質量%であるのが好ましく、24〜32質量%であるのがより好ましい。

(4)溶接部 シール部材3とカップ型ヨーク1との突き合わせ部を固着する溶接部4は、その中心が、図1(b)に示すように、前記シール部材3と前記カップ型ヨーク1との突き合わせ部4aから、前記カップ型ヨーク1側にずれているのが好ましい。すなわち、図6に示すように、レーザー照射装置5から放射されたレーザー光5aの光軸中心Cを、前記シール部材3と前記カップ型ヨーク1との突き合わせ部4aから、前記カップ型ヨーク1側に距離dずれた位置に合わせて照射し、前記突き合わせ部4aの溶接を行う。前記距離dは前記レーザー光5aの照射径の3〜40%の距離であるのが好ましく、5〜30%の距離であるのがより好ましい。

レーザー光5aが照射された部分が加熱され高温になることによって前記照射部分の金属が融解し、カップ型ヨーク1とシール部材3とが接合される。前記シール部材3の外縁部3cは脱窒素されてフェライト化し磁性体となっている。しかし中間部3bと外縁部3cとの境界は入り組んだ状態となっており、部分的に窒素を含有したオーステナイト系ステンレス鋼(中間部3b)が外縁部3cに入り込んで外周端3d近くまで張り出している場合がある。このような場合、微量ではあるが固溶していた窒素ガスが放出されその際に亀裂や欠陥が生じるおそれがあるので、レーザー光の光軸はカップ型ヨーク側にずれているのが好ましい。

このように突き合わせ部4aからカップ型ヨーク1側にずれた位置で溶接を行い、外縁部3cのフェライト系ステンレス鋼が加熱される範囲を極力小さくすることで、中間部3bの窒素固溶オーステナイト系ステンレス鋼が加熱される範囲を極力小さくし、加熱による窒素の放出を抑え、窒素の放出による欠陥の生成を抑えることができる。その結果、磁石吸引力に優れ、かつ耐食性及び耐久性に優れた磁石構造体を得ることができる。

溶接部4は、凹凸が残らないように所定の深さに平面加工されているのが好ましい。前記平面加工は、カップ型ヨーク1、シール部材3及び前記溶接部4を、溶接強度が低下しない程度の深さに研磨して行うのが好ましい。

(5) 永久磁石 永久磁石2としては、残留磁束密度Brが他の永久磁石より大きく、より大きな吸引力が得られるネオジム磁石を用いるのが好ましい。ネオジム磁石の残留磁束密度Brは磁気回路を飽和させる必要があるため、1.3 T以上であるのが好ましく、1.35 T以上であるのがより好ましい。永久磁石2は、磁石構造体に組み込んだ後着磁される。

本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。

実施例1 26質量%のCr、1質量%のMo及び残部Fe(不純物として0.08質量%のNiを含む)からなる組成を有するフェライト系ステンレス鋼(SUSXM27相当)の丸棒(直径2.7 mm及び長さ60 mm)を1200℃に保持した炉の冷却部に挿入し、炉内雰囲気を大気圧の窒素ガス雰囲気とした後、素材を炉の加熱室内に移動させ3時間保持した後、窒素ガスの圧力を0.1 MPaまで下げ、さらに10分間保持した、冷却部に戻し急冷することにより、前記フェライト系ステンレス鋼の丸棒に窒素固溶処理を施した。取り出した丸棒の軸方向に垂直な断面を日本電子製EPMA JXA-8900を用いて窒素量を測定し確認したところ、外周面から約100μmの深さまでフェライト系ステンレス鋼からなる同心状の外層(外縁部)が形成され、その内側に約200μmの幅のオーステナイト系ステンレス鋼からなる同心状の中間層(中間部)が形成され、さらにその内側は元のフェライト系ステンレス鋼からなる中心部(中央部)を有していた。前記外縁部、中間部及び中央部の窒素含有量は、それぞれ0.2質量%未満、1.5質量%及び0.2質量%未満であった。これらの結果から丸棒材の中心から半径方向(A線方向)の窒素含有量分布を図7に模式的に示した。この丸棒を軸方向厚さ0.25 mmに切断し円板状のシール部材とした。

前記シール部材に用いたのと同じ組成のフェライト系ステンレス鋼を用いて、直径3.5 mm及び高さ1.35 mmの円柱状の外形と、ネオジム磁石が挿入される部分の穴径が2.6 mm、前記シール部材が挿入される開口端部分の穴径が2.7 mm及び深さ0.75 mmの凹部とを有するカップ型ヨークを作製した。前記カップ型ヨークの凹部に、直径2.6 mm及び厚さ0.5 mmのネオジム磁石を挿入し、その上に前記シール部材を、ふたをするように挿入した。

図8(a)及び図8(b)に示すように、カップ型ヨーク1とシール部材3との突き合わせ部4aに、レーザー照射装置5から放射されたレーザー光5a(照射径200μmφ)の光軸中心を合わせて照射し、前記突き合わせ部4aを全周にわたって溶接し封止した。

溶接後、溶接した面を0.05 mm研磨加工し平滑に仕上げ、直径3.5 mm、高さ1.3 mmの磁石構造体を作製した。この磁石構造体の磁石吸引力は、5.1〜5.2 N(5回測定)であった。直径と高さがこの実施例1と同一サイズで、シール部材を特開平5-95965号に記載のディスクヨークとシールドリング(300μm幅)とからなるディスク状シール部材に変更した従来の磁石構造体の磁石吸引力は、5.0〜5.2 N(5回測定)であった。

実施例2 カップ型ヨークとシール部材との突き合わせ部を溶接封止する際、図6に示すように、レーザー光5aの光軸中心Cを突き合わせ部から距離d=20μmカップ型ヨーク側、すなわち外側にずらした以外は実施例1と同様にして、磁石構造体を作製した。前記溶接部に凹み又はクラックが発生していなかった。この磁石構造体の磁石吸引力を測定したところ、5.1〜5.2 N(5回測定)であった。

実施例3 カップ型ヨークとシール部材との突き合わせ部を溶接封止する際、レーザー光5aの光軸中心を突き合わせ部から距離d=40μmカップ型ヨーク側、すなわち外側にずらした以外は実施例1と同様にして、磁石構造体を作製した。10個作製した試料の中に溶接部に凹み又はクラックが発生したものは1個も認められなかった。この磁石構造体の磁石吸引力を測定したところ、5.1〜5.2 N(5回測定)であった。

実施例4 レーザー溶接工程において、カップ型ヨークとシール部材との突き合わせ部を溶接封止する際、レーザー光5aの光軸中心を突き合わせ部から距離d=40μmカップ型ヨーク側、すなわち外側にずらした以外は実施例1と同様にして溶接封止した後に、図4(a)に示すように、シール部材3の中心から半径1.05 mmの部分にレーザー光5a(照射径200μmφ)の光軸中心Cを合わせて、全周にわたってレーザー光5aを照射し境界領域A1を加熱した以外は実施例1と同様にして、磁石構造体を作製した。この加熱により中央部と中間部との境界部の幅0.2 mm及び深さ約0.15 mmの部分がフェライト化していた(研磨加工前)。この磁石構造体の磁石吸引力は、5.2〜5.4 N(5回測定)であった。シール部材のオーステナイト系ステンレス鋼部とフェライト系ステンレス鋼部との境界領域を加熱することにより、前記境界部分の不均一さが低減され、吸着面表面の磁路が適切な状態となったため磁石吸引力が向上したものと考えられる。

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