クロム修飾型インプラント及びその製造方法

申请号 JP2016575692 申请日 2016-10-26 公开(公告)号 JP6185679B1 公开(公告)日 2017-08-23
申请人 山本 修; 发明人 山本 修; 小口 勉;
摘要 本発明は、従来にないメカニズムにより生体に作用するインプラントであって、生体組織と強固に結合することができるインプラントを開発することを目的とする。 本発明は、医療目的で生体内に埋め入れるインプラント(1)において、インプラントの基材(2)が、金属、金属 合金 、金属 酸化 物又はセラミックであり、基材の表面(3)が、 水 酸基を有するクロム基(4)で修飾されていることを特徴とするインプラント(1)を提供する。本発明のインプラント(1)は、クロムイオン(8)を放出しやすく、放出されたクロムイオン(8)が生体に作用することにより、細胞(7)の分泌するコラーゲン(9)の架橋を促すなどして、インプラント(1)と生体組織(5)との間の組織形成を促し、インプラント(1)と生体組織(5)との強固な結合を促進することができる。
权利要求

医療目的で生体内に埋め入れるインプラントにおいて、 前記インプラントの基材が、金属、金属合金、金属酸化物又はセラミックであり、 前記基材の表面が、酸基を有するクロム基で修飾されており、 前記水酸基を有するクロム基が、前記基材の表面にある原子と結合できる部位の数が1価又は2価であり、クロムイオンとなって放出されやすいことを特徴とするインプラント。前記水酸基を有するクロム基が、下記一般式(1) −O−Cr(OH)R ・・・(1) (式中、Rは−OH又は−O−を表す) で示される基である、請求項1に記載のインプラント。前記クロム基が、酸化数が3価のクロム基である、請求項1に記載のインプラント。前記インプラントが、デンタルインプラントである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のインプラント。水酸化クロムイオンを含有する反応溶液中に、金属、金属合金、金属酸化物及びセラミックからなる群から選択される基材を浸漬し、前記反応溶液中から前記基材を取り出すことを含む、インプラントの製造方法。前記水酸化クロムイオンが、クロム原子のイオン価が3価の水酸化クロムイオンである、請求項5に記載のインプラントの製造方法。水酸化クロムイオンを含有する反応溶液をインプラントに接触させることを含む、生体適合性を向上させるためのインプラントの表面処理方法。前記水酸化クロムイオンが、クロム原子のイオン価が3価の水酸化クロムイオンである、請求項7に記載のインプラントの表面処理方法。水酸化クロムイオンを含む溶液であることを特徴とする、インプラントの表面処理剤。前記水酸化クロムイオンが、クロム原子のイオン価が3価の水酸化クロムイオンである、請求項9に記載のインプラントの表面処理剤。

说明书全文

本発明は、医療目的で生体内に埋め入れるインプラントであって、表面が酸基を有するクロム基で修飾されているインプラントに関する。本発明のインプラントは、その表面からクロムがイオンとして徐々に放出されることで、生体に作用し、インプラントが生体組織に結合することが促進されるものである。また、本発明は、水酸化クロムイオンを含有する反応溶液を用いた、インプラントの製造方法、インプラントの表面処理方法及びインプラントの表面処理剤に関する。

インプラントとは、医療目的で生体内に埋め込まれる器具又は生体材料の総称である。インプラントとしては、歯根が失われた患者の顎骨に埋め込むデンタルインプラント(人工歯根)や、損傷した膝関節や股関節を置換する人工関節、折れた骨を固定するボルト、心臓ペースメーカー、人工内などが存在する。インプラントは、機能が失われた生体内の器官を置換したり、補助したりすることによって、失われた機能の回復を図るものである。

近年、デンタルインプラント(人工歯根)を使用した治療技術が大きく進歩し、広く歯科治療に用いられるようになっており、デンタルインプラントを単に「インプラント」と略称することも一般化している。 デンタルインプラントを使用した一般的な治療方法は、顎骨を削ってインプラントを顎骨の中に埋め込み、2〜6か月程の時間をかけて、インプラントと骨とを十分に結合させて、その上部に人工的な歯を形成する方法である。

デンタルインプラント等の骨内に埋め込むインプラント(骨内インプラント)による治療を成功させる一つの重要な要素は、インプラントと骨とを十分に結合させることである。スウェーデンのブローネマルク教授によって、チタンと骨の組織とが拒否反応を起こさずに結合する「オッセオインテグレーション(Osseointegration)」という現象が発見され、この発見に基づき、チタンがインプラントの材料として使用されるようになったことにより、インプラントの技術が大きく進歩した。 また、インプラントの表面を粗面とする加工を施すことにより、骨に結合しやすくなることが実証されたことも、インプラントの技術進歩に大きく貢献した。

しかし、「オッセオインテグレーション」によりチタンと骨とを結合させるためには、チタンと骨とができるだけ少ない間隙で隣接した状態とする必要があり、チタン製のインプラントを骨に埋め入れる際に高度の技術が必要となる。 このため、インプラントと骨との接合部において骨の形成を誘導して両者を結合させる「バイオインテグレーション(Bio-integration)」を利用したインプラントが開発されている。例えば、表面にハイドロキシアパタイトをコーティングしたインプラントは、インプラントと骨との間にカルシウムを沈着させて、骨との間に隙間がある場合であっても骨と強固に結合することができるため、インプラントによる治療の成功率を高めることができ、臨床の現場で広く使用されている。

このように、インプラントの生体適合性を高めるために、インプラントの表面をコーティングし、修飾し、又は粗面加工する技術が数多く開発されている。 本発明者らは以前に、チタン又はその合金からなるインプラントの基材を、水酸化亜鉛錯体を含むアルカリ溶液に浸漬することにより製造される、表面に亜鉛官能基を有するインプラントを開発した(特許文献1、非特許文献1)。この表面に亜鉛官能基を有するインプラントは、骨内に埋め入れた場合に、ハイドロキシアパタイトをコーティングしたインプラントと比較しても、遜色ない高い強度で骨と結合できるものである。

一方、クロム(Cr)は、コバルトクロム合金としてインプラントの基材にも使用されている金属であり、表面に酸化クロム(Cr2O3)の被膜を形成して、インプラントの錆を防ぐことが知られている。 クロムを含む他のインプラントとして、特許文献2には、窒素ガスを含む気体中で、コバルトクロム合金をプラズマ処理することにより、表面に窒化クロムを形成した、強固で耐摩耗性のインプラントが開示されている。

特許文献3には、チタン又はその合金である金属基材を、硫酸、硫酸塩、炭酸塩などを含む電解液中で電解処理を行うことにより、金属基材上に酸化物又は混合酸化物層を形成し、さらにその表面にハイドロキシアパタイトを含む被覆層を形成したインプラントが開示されている。ここで、酸化物層としては、チタンの酸化物層の他に、クロムを含浸した酸化チタンの混合酸化物層も例示されている。酸化物層は、生体内で親和性が比較的良好であるとともに、耐食性が十分に大きいため、安定で溶出の可能性も殆どないインプラントとすることができることが記載されている。 このように、従来のインプラントで使用されるクロムは、インプラントに耐食性を与え、あるいは強固にするために使用されるものであった。

ところで、クロムは、皮革の柔軟性を長期に保つための「皮なめし」の処理にも薬剤として用いられており、クロムがコラーゲンを架橋することが非特許文献2に示されている。

国際公開WO2010/150788号

国際公開WO2005/070344号

特開昭63−99868号公報

Kelly Alzarez,Masayuki Fukuda,及びOsamu Yamamoto著、「Titanium Implants after alkali heating treatment with a [Zn(OH)4]2− complex: Analysis of interfacial bond strength using push-out tests([Zn(OH)4]2−錯体を用いてアルカリ熱処理を行ったチタンインプラント:押し出し試験を用いた界面結合の分析)」、Clinical Implant Dentistry and Related Research誌(Clin Implant Dent Relat Res.)、John Wiley & Sons, Inc.発行、2010年4月23日オンライン発行、Volume 12、Supplement s1、e114〜e125頁

Sinan Imer及びTereza Varnali著、「Modeling Chromium sulfate complexes in relation to chromium tannage in leather technology: a computational study(皮革技術におけるクロムなめしに関する硫酸クロム錯体のモデリング:コンピュータによる研究)」、Applied Organometallic Chemistry誌(Appl. Organometal. Chem.)、2000年9月20日オンライン発行、Volume 14、Issue 10、660〜669頁

上記のように、生体適合性を高めるために、インプラントの表面をコーティングし、修飾し、又は粗面加工する技術が数多く開発されている。しかし、これらの技術を用いても、インプラント治療における失敗症例を根絶できることはできず、そもそもインプラント治療が不可能な症例が多いため、さらなる技術開発が必要であった。また、ハイドロキシアパタイトを用いたインプラントのように、カルシウムの沈着を促すことで骨の形成を誘導するインプラントでは、適用可能な治療部位や症例が限られるため、新しいメカニズムにより生体に作用するインプラントの開発が望まれていた。 本発明は、上記従来の状況に鑑み、従来にないメカニズムにより生体に作用するインプラントであって、生体組織と強固に結合することができるインプラントを開発することを目的とする。

上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究した結果、医療目的で生体内に埋め入れるインプラントにおいて、水酸基を有するクロム基で表面を修飾することにより、インプラントからクロムイオンが徐々に放出され、このクロムイオンがコラーゲンの架橋形成を促進する等して、生体組織に作用し、インプラントと生体組織との強固な結合が促進されることを見出し、本発明を完成するに到った。

すなわち、本発明は、インプラントに関する下記の第1の発明と、インプラントの製造方法に関する下記の第2の発明と、インプラントの表面処理方法に関する下記の第3の発明と、インプラントの表面処理剤に関する下記の第4の発明とを提供する。 第1の発明は、医療目的で生体内に埋め入れるインプラントにおいて、インプラントの基材が、金属、金属合金、金属酸化物又はセラミックであり、基材の表面が水酸基を有するクロム基で修飾されていることを特徴とするインプラントに関する。 第1の発明のインプラントにおいては、水酸基を有するクロム基として、下記一般式(1)で示される基で表面を修飾することが好ましい。 −O−Cr(OH)R ・・・(1) 一般式(1)中、Rは−OH又は−O−を表す。 第1の発明のインプラントにおいては、クロム基が、酸化数が3価のクロム基であることが好ましい。 上記のインプラントの発明においては、インプラントがデンタルインプラントであることが好ましい。 第2の発明は、水酸化クロムイオンを含有する反応溶液中に、金属、金属合金、金属酸化物及びセラミックからなる群から選択される基材を浸漬し、反応溶液中から基材を取り出すことを含む、インプラントの製造方法に関する。 第2の発明のインプラントの製造方法においては、水酸化クロムが、クロム原子のイオン価が3価の水酸化クロムイオンであることが好ましい。 第3の発明は、水酸化クロムイオンを含有する反応溶液をインプラントに接触させることを含む、生体適合性を向上させるためのインプラントの表面処理方法に関する。 第3の発明のインプラントの表面処理方法においては、水酸化クロムが、クロム原子のイオン価が3価の水酸化クロムイオンであることが好ましい。 第4の発明は、水酸化クロムイオンを含む溶液であることを特徴とする、インプラントの表面処理剤に関する。 第4の発明のインプラントの表面処理剤においては、水酸化クロムが、クロム原子のイオン価が3価の水酸化クロムイオンであることが好ましい。

第1の発明のインプラントは、水酸基を有するクロム基で表面が修飾されているため、クロムイオンが徐々に放出され、放出されたクロムイオンがコラーゲンの架橋を促すなどして、生体に作用することにより、インプラントと生体組織との間の組織形成を促し、インプラントと生体組織との強固な結合を促進するという効果を奏する。 第2の発明のインプラントの製造方法は、水酸化クロムイオンを有する反応溶液中に、金属、金属合金、金属酸化物及びセラミックからなる群から選択される基材を浸漬するため、基材の表面の分子と水酸化クロムイオンとが反応し、水酸基を有するクロム基で表面が修飾されることで生体適合性が高められたインプラントを製造することができるという効果を奏する。 第3の発明のインプラントの表面処理方法は、水酸化クロムイオンを有する反応溶液をインプラントの表面に接触させるため、既に製造されたインプラントに対しても、簡便な処理で生体適合性を高めることができるという効果を奏する。 第4の発明のインプラントの表面処理剤は、既に製造されたインプラントに対しても、簡便な処理で生体適合性を高めることができるという効果を奏する。

本発明のインプラントの1つの実施形態を示す模式断面図である。図1(A)は、インプラントを生体に埋め入れた直後の状態を示し、図1(B)は、インプラントを生体に埋め入れた後に時間が経過した状態を示す。

本発明のインプラントが生体組織と強固に結合される1つのメカニズムを示す模式断面図である。図2(A)は、インプラントを生体に埋め入れた直後の状態を示し、図2(B)は、インプラントを生体に埋め入れた後に時間が経過した状態を示し、図2(C)は、さらに時間が経過して、インプラントと生体組織とが結合した状態を示す。

一般式(1)で示される基で表面が修飾されたインプラントを示す模式断面図である。図3(A)は、一般式(1)においてRが−OHである基でインプラントの表面が修飾された状態を示し、図3(B)は、一般式(1)においてRが−O−である基でインプラントの表面が修飾された状態を示し、図3(C)は、図3(A)と図3(B)に示される両方の基でインプラントの表面が修飾された状態を示す。

チタン製の基材の表面形状と、実施例1で製造したインプラントの表面形状を、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した結果を示す図面に代わる写真である。左側の写真は、チタン製の基材の表面形状を撮影した写真であり、右側の写真は、実施例1で製造したインプラントの表面形状を撮影した写真である。

チタン製の基材の結晶相と、実施例1で製造したインプラントの結晶相を、X線回析装置を用いて分析をした結果を示すチャートである。図5の上側のチャートは、チタン製の基材の分析結果を示し、図5の下側のチャートは、実施例1で製造したインプラントの分析結果を示す。

SEM−EDSを用いて、実施例1で製造したインプラントの表面の元素分析を行った結果を示す図面に代わる写真である。図6の上側の写真は、走査型電子顕微鏡(SEM)でインプラント表面の形状を撮影した写真であり、図6の下側の2つの写真は、同じインプラント表面に対して、EDS(エネルギー分散型X線分析)により、元素分析を行った結果を示す写真である。図6の左下の写真はチタン原子の検出結果を示す写真であり、図6の右下の写真はクロム原子の検出結果を示す写真である。

実施例1で製造したインプラントに対して、XPS(X線光電子分光法)により、ワイドスキャン分析を行った結果を示すチャートである。

実施例1で製造したインプラントに対して、XPS(X線光電子分光法)により、ナロースキャン分析(高分解能分析)を行った結果を示すチャートである。図8の左上のチャートは、図7のワイドスキャン分析でO1sのスペクトルが検出された近傍の結合エネルギー領域(526〜538eV)における分析結果を示すチャートである。図8の右上のチャートは、図7のワイドスキャン分析でTi2p

3/2及びTi2p

1/2のスペクトルが検出された近傍の結合エネルギー領域(452〜474eV)における分析結果を示すチャートである。図8の左下のチャートは、図7のワイドスキャン分析でCr2p

3/2及びCr2p

1/2のスペクトルが検出された近傍の結合エネルギー領域(570〜595eV)における分析結果を示すチャートである。図8の右下の図は、XPSの分析結果から予測されたインプラントの表面の化学結合状態を示す模式図である。

実施例1で製造したインプラントを生理食塩水中に浸漬し、生理食塩水中に放出されるクロムイオンを測定する試験を行った結果を示すグラフである。

実験動物にインプラントとチタン製のロッドを埋め入れる手術の様子を示す図面に代わる写真である。

ウサギの大腿骨に埋め入れたインプラントと骨との結合状態の評価項目を示す図である。

実施例1で製造したインプラント(CrTi)と骨の結合力(剪断強度)と、比較例としてチタン製のロッド(Ti)と骨の結合力(剪断強度)を示すグラフである。

実施例1で製造したインプラント(CrTi)とチタン製のロッド(Ti)に荷重を加えた場合の時間変化を示すチャートである。上側のチャートが埋め入れ4週後のものであり、下側のチャートが埋め入れ8週後のものである。

ウサギの大腿骨に埋め入れたインプラントについて、表面の状態と、インプラントと骨との界面の状態をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察した結果を示す図面に代わる写真である。図14の左下の写真は、実施例1で製造したインプラント(CrTi)と骨との界面をSEM(走査型電子顕微鏡)で撮影した写真である。図14の右下の写真は、同じインプラント(CrTi)の表面をSEMで撮影した写真である。図14の左上の写真は、比較例として、チタン製のロッド(Ti)と骨との界面をSEMで撮影した写真である。図14の右上の写真は、同じチタン製のロッド(Ti)の表面をSEMで撮影した写真である。

ウサギの大腿骨に埋め入れたインプラントについて、走査型電子顕微鏡及びレーザーラマン分光光度計を用いて、表面に形成された膜状生成物の成分分析を行った結果を示すチャートである。図15の上側のチャートは、比較例として、チタン製のロッド(Ti)の表面に形成された小片についての成分分析を行った結果を示すチャートであり、図15の下側のチャートは、インプラント(CrTi)の表面に形成された膜状生成物の成分分析を行った結果を示すチャートである。

インプラント(CrTi)の表面に形成された膜状生成物について、XPS(X線光電子分光法)による成分分析を行った結果を示すチャートである。

ウサギの大腿骨に埋め入れたインプラントについて、インプラント周囲の骨組織を生物顕微鏡により観察した結果を示す図面に代わる写真である。図17の上側の写真は、比較例として、ウサギの大腿骨に埋め入れたチタン製のロッド(Ti)の周囲の骨組織をHE(ヘマトキシリン・エオジン)で染色して生物顕微鏡により観察した結果を示す写真であり、図17の下側の写真は、インプラント(CrTi)の周囲の骨組織をHE染色して生物顕微鏡により観察した結果を示す写真である。

1.本発明のインプラント 本発明のインプラントは、医療目的で生体に埋め入れるインプラントであり、水酸基を有するクロム基で表面が修飾されていることを特徴とする。 本発明において、「インプラント」とは、医療目的で生体内に埋め入れる器具を意味する。ここで、「医療目的」とは、ヒトに対する医療のみならず、動物に対する医療の目的も含む。本発明の「インプラント」としては、これらに限定されるわけではないが、例えば、デンタルインプラント(人工歯根)、人工関節、人工骨、並びに整形外科、脳外科又は脊椎外科用のスクリュー、プレート及びロッド等を挙げることができる。

本発明のインプラントの1つの実施形態を図1に示す。 図1は、本発明のインプラントを生体内に埋め入れた場合における、インプラントと生体組織との境界面を示す模式断面図である。図1(A)は、インプラントを生体に埋め入れた直後の状態を示し、図1(B)は、インプラントを生体に埋め入れた後に時間が経過した状態を示す。

図1(A)に示されるように、本発明のインプラント(1)は、基材(2)を含んでおり、基材の表面(3)が水酸基を有するクロム基(4)で修飾されている。そして、生体内に埋め入れられた本発明のインプラント(1)は、生体組織(5)と隣接しており、インプラント(1)と生体組織(5)との間には少なくとも部分的に間隙(6)が存在している。ここで、間隙(6)には体液などの液体が満たされることになり、また、生体組織(5)中には細胞(7)が存在する。 そして、基材の表面(3)に存在するクロム基(4)はイオン化しやすいため、図1(B)に示すように、間隙(6)を満たす液体中にクロムイオン(8)が溶出する。そして、このクロムイオン(8)が生体に作用して、インプラント(1)と生体組織(5)とが強固に結合されることを促進する。

図2に、本発明のインプラントが生体組織と強固に結合する1つのメカニズムを示す。 図2は、本発明のインプラントを生体内に埋め入れた場合における、インプラントと生体組織との境界面を示す模式断面図である。図2(A)は、インプラントを生体に埋め入れた直後の状態を示し、図2(B)は、インプラントを生体に埋め入れた後に時間が経過した状態を示し、図2(C)は、さらに時間が経過して、インプラントと生体組織とが結合した状態を示す。

図2(A)は、前述した図1(A)と同一の図であり、本発明のインプラント(1)の基材の表面(3)は、水酸基を有するクロム基(4)で修飾されている。 次に、図2(B)に示すように、インプラント(1)を生体内に埋め入れた後に時間が経過すると、基材の表面(3)のクロム基(4)がイオン化して、インプラント(1)と生体組織(5)との間の間隙(6)を満たす液体中にクロムイオン(8)が溶出する。また、生体組織(5)中の細胞(7)は増殖しつつ移動して、インプラント(1)の表面にも付着する。細胞(7)は、間隙(6)を満たす液体中にコラーゲン(9)を分泌する。 そして、さらに時間が経過すると、図2(C)に示すように、細胞(7)が分泌したコラーゲン(9)は、クロムイオン(8)によって架橋されて線維を形成し、このコラーゲン線維によりインプラント(1)と生体組織(5)とが強固に結合する。

ここで、生体組織(5)が骨であり、細胞(7)が骨芽細胞である場合には、骨芽細胞が分泌するハイドロキシアパタイトが、コラーゲン線維の周囲に析出し、石灰化が進行する。これにより、インプラント(1)と骨(5)との間隙(6)に骨組織が形成されて、インプラント(1)と骨(5)とが強固に結合することになる。 本発明のインプラントとしては、骨の中に埋め入れ、又は骨と接触させることにより、骨と結合させるものである、骨内インプラントとすることが好ましい。

本発明のインプラントは、クロムイオンを徐々に放出することで、コラーゲンがクロムイオンにより架橋されて線維を形成し、このコラーゲンによりインプラントと生体組織とが強固に結合するので、カルシウムの沈着を促すハイドロキシアパタイトで修飾したインプラントとは異なり、骨以外の組織に埋め入れる場合でも結合が促進されるという効果が期待できる。また、デンタルインプラント(人工歯根)として用いる場合には、歯槽骨等の硬組織との結合だけでなく、歯肉等の軟組織との結合も促進され、歯肉の退縮を防ぐ効果が期待できる。

本発明のインプラントは基材を含むものであり、基材の表面が水酸基を有するクロム基で修飾されている。本発明のインプラントの基材としては、水酸基を有するクロム基で修飾するため、金属、金属合金、金属酸化物又はセラミックとする必要がある。 ここで、金属、金属合金、金属酸化物としては、これらに限定されるわけではないが、例えば、チタン、チタン合金、コバルト合金、ジルコニア、ステンレス鋼、アルミナ、タンタル、タンタル合金、ジルコニウム合金、ニオブ合金等を用いることができる。 さらにここで、チタン合金としては、例えば、Ti−6Al−4Vを好適に用いることができ、コバルト合金としては、例えば、コバルトークロム合金、コバルト−クロム−モリブデン合金等を用いることができる。 本発明のインプラントの基材として、セラミックを使用する場合には、これらに限定されるわけではないが、例えば、ハイドロキシアパタイト、炭化ケイ素、窒化ケイ素等を用いることができる。

本発明のインプラントの表面を修飾する「水酸基を有するクロム基」とは、クロム原子に1つ以上の水酸基(ヒドロキシ基)を有する基を意味する。この「水酸基を有するクロム基」は、基材に結合することができるが、水酸基を有しているため、クロムイオンを放出しやすいという効果を奏する。 本発明の「水酸基を有するクロム基」におけるクロム原子の酸化数は、2価、3価、4価又は6価とすることができる。6価のクロムは酸化力が強いため、2価、3価又は4価のクロムとすることが好ましい。より好ましくは、最も安定な3価のクロムとするのがよい。

本発明のインプラントの表面を修飾する「水酸基を有するクロム基」としては、下記一般式(1)で示される基とすることができる。 −O−Cr(OH)R ・・・(1) (式中、Rは−OH又は−O−を表す) 一般式(1)において、Rを−OHとする場合には、水酸基を有するクロム基は、−O−Cr(OH)2となり、1価の基となる。 また、一般式(1)において、Rを−O−とする場合には、水酸基を有するクロム基は、−O−Cr(OH)−O−となり、2価の基となる。 ここで、1価又は2価とは、クロムの酸化数を示す価数ではなく、水酸基を有するクロム基が他の原子と結合できる部位の数を示す価数である。

図3は、一般式(1)で示される基で表面が修飾されたインプラントを示す模式断面図である。図3(A)は、一般式(1)においてRが−OHである基でインプラントの表面が修飾された状態を示し、図3(B)は、一般式(1)においてRが−O−である基でインプラントの表面が修飾された状態を示し、図3(C)は、図3(A)と図3(B)に示される両方の基でインプラントの表面が修飾された状態を示す。

図3(A)に示されるように、インプラント(1)の基材(2)の表面(3)には、原子(M)が存在する。図3(A)は、一般式(1)においてRが−OHである場合であり、水酸基を有するクロム基は、−O−Cr(OH)2となる。この基は1価の基であるので、単結合により、インプラントの表面の原子(M)と結合し、インプラントの表面を修飾することができる。ここで、インプラントの表面の原子(M)は、水酸基(−OH)のような別の官能基で修飾されていてもよい。また、−O−Cr(OH)2からなる基からクロムイオンが放出された場合には、水酸基(−OH)が残されることもある。 図3(B)は、一般式(1)においてRが−O−である場合であり、水酸基を有するクロム基は、−O−Cr(OH)−O−となる。この基は2価の基であるので、図3(B)に示されるように、インプラントの表面の2つの原子(M)を架橋するように結合し、インプラントの表面を修飾することができる。 図3(C)は、−O−Cr(OH)2と−O−Cr(OH)−O−の両方の基で、インプラントの表面が修飾される場合であり、図3(C)に示されるように、両者の基による修飾が混在している。図3(A)に示す状態と図3(B)に示す状態とが互いに遷移する条件下では、図3(C)のような状態になると考えられる。

本発明のインプラントの表面を修飾する「水酸基を有するクロム基」としては、上記のクロム基の他に、これらに限定されるわけではないが、例えば、−Cr(OH)2基や、−Cr(OH)−O−基、−O−Cr(ONa)2基等とすることもできる。

本発明のインプラントにおいて、「表面が修飾されている」とは、インプラントの表面に存在する原子と、水酸基を有するクロム基とが結合している状態を意味する。結合の形態としては、共有結合、配位結合、イオン結合、水素結合等が挙げられるが、クロムイオンを徐々に放出するためには、少なくとも一部が共有結合により強固に結合していることが好ましい。

本発明のインプラントの表面は、水酸基を有するクロム基で表面が修飾されているものであるが、生体適合性を高めるために、さらに、粗面加工や、ハイドロキシアパタイトのコーティング等の他の処理が併用されたものであってもよい。ただし、この場合には、水酸基を有するクロム基の全てが粗面加工で除去されることがないようにし、また、クロムイオンの放出が完全に阻害されることがないようにコーティングを行う。

本発明のインプラントは、水酸基を有するクロム基で表面が修飾されているため、クロムイオンを徐々に放出するという効果を奏する。本発明のインプラントが放出するクロムイオンの形態は、インプラントの表面を覆うクロム基に応じて変化し得る。放出されるクロムイオンとしては、これらに限定されるわけではないが、例えば、通常のクロムイオンや、水分子が配位したクロムイオン、水酸化物イオン(OH)が配位したクロムイオン、Cl、NH3、SO42−等が配位したクロムイオン、あるいはCrO42−(クロム酸イオン)、Cr2O72−(二クロム酸イオン)等がある。放出されるクロムイオンは、クロム原子のイオン価が2価、3価、4価又は6価のイオンとなることができる。しかし、通常の条件では、クロム原子のイオン価が3価のイオンが最も安定に放出されやすく、また、3価以外のイオンが放出されても、通常の条件では、3価のイオンに変化しやすい。

2.本発明のインプラントの製造方法 本発明のインプラントの製造方法は、水酸化クロムイオンを含有する反応溶液中に、金属、金属合金、金属酸化物及びセラミックからなる群から選択される基材を浸漬し、前記反応溶液中から前記基材を取り出すことを含む製造方法である。

本発明のインプラントの製造方法で使用する「水酸化クロムイオン」とは、水酸化物イオン(OH)が配位したクロムイオンをいい、これらに限定されるわけではないが、例えば、[Cr(OH)6]3−、[Cr(OH)4]、[Cr(H2O)5(OH)]2+、[CrNH3(OH)5]2−、[CrO4(OH)2]4−等を用いることができる。 また、「水酸化クロムイオン」としては、クロム原子のイオン価が2価、3価、4価又は6価のイオンを使用することができるが、3価のイオンが安定で好ましい。 クロム原子のイオン価が3価の水酸化クロムイオンとしては、これらに限定されるわけではないが、例えば、[Cr(OH)6]3−、[Cr(OH)4]、[Cr(H2O)5(OH)]2+等が挙げられる。

本発明の製造方法で使用する「水酸化クロムイオンを含有する反応溶液」の溶媒としては、水や、水とアルコール等を含む混合溶媒を用いることができる。また、反応溶液中には、水酸化クロムイオンの他に、pH調整剤、pH緩衝剤、酸化防止剤、安定化剤や、インプラントの表面を修飾する他の薬剤等を含ませることもできる。

本発明の製造方法で使用する「基材」は、金属、金属合金、金属酸化物又はセラミックを用いる必要がある。これら基材の具体的な例は、上述したとおりである。

本発明の製造方法で使用する「基材」は、生体内に埋め入れるためのインプラントとしての完成品の形状に成型したものでもよく、また、半完成品の形状に成型したものでも、素材としての形状のものであってもよい。また、基材は、他の部材と連結することによりインプラントとしての完成品となるものであってもよい。 また、「基材」は、生体適合性を高めるための粗面加工やコーティング等が施されたものであってもよい。基材の表面を粗面化する方法としては、ブラスト処理やエッチング処理等を用いることができる。また、コーティングとしては、チタンによるコーティングやハイドロキシアパタイトによるコーティング等を用いることができる。

本発明の製造方法において、反応溶液中の水酸化クロムイオンの濃度は、好ましくは0.0001〜10mol/Lであり、より好ましくは0.001〜1mol/Lとし、さらに好ましくは0.01〜0.1mol/Lとするのがよい。 また、基材を反応溶液に浸漬する時間は、好ましくは1秒〜5日であり、より好ましくは2分〜10時間とし、さらに好ましくは10分〜2時間とするのがよい。 そして、基材を浸漬する際の反応溶液の温度は、好ましくは、0〜200℃とし、より好ましくは40〜80℃とするのがよい。

本発明の製造方法では、水酸化クロムイオンを含有する反応溶液中に、金属、金属合金、金属酸化物及びセラミックからなる群から選択される基材を浸漬するので、基材の表面の原子と水酸化クロムイオンとが反応し、水酸基を有するクロム基で表面が修飾されることで生体適合性が高められたインプラントを製造することができるという効果を奏する。 本発明の製造方法において、「基材を浸漬する」とは、反応溶液中の基材の全体を浸漬することだけでなく、基材の一部を反応溶液の中に浸漬することも含む。

本発明の製造方法は、反応溶液中の基材を取り出す工程を含む。反応溶液から基材を取り出した後には、基材の表面に付着した反応溶液を洗浄するなどして取り除いてもよいが、洗浄せずに乾燥させることが好ましい。基材の表面に付着した反応溶液を洗浄せずに乾燥させた場合には、共有結合せずに基材に付着する水酸化クロムも存在することになり、インプラントを生体内に埋め入れた直後に放出するクロムイオンの量を高めることができるという効果を奏する。

反応溶液から基材を取り出した後には、生体適合性を高めるために、さらに、粗面加工や、ハイドロキシアパタイトのコーティング等の他の処理を行うこともできる。ただし、この場合には、水酸基を有するクロム基の全てが粗面加工で除去されることがないようにし、また、クロムイオンの放出が完全に阻害されることがないようにコーティングを行う。 また、反応溶液から基材を取り出した後には、インプラントをさらに加工することができ、また、滅菌処理をして完成品とすることができる。滅菌処理する方法としては、乾熱滅菌する方法や、紫外線や放射線を照射して滅菌する方法等を用いることができる。

3.本発明のインプラントの表面処理方法 本発明のインプラントの表面処理方法は、水酸化クロムイオンを含有する反応溶液をインプラントに接触させる工程を含み、これによりインプラントの生体適合性を向上させる方法である。 本発明のインプラントの表面処理方法は、既に製造されたインプラントに対しても、簡便な処理で生体適合性を高めることができるという効果を奏する。 本発明の表面処理方法は、本発明の製造方法によって得られたインプラント、すなわち、表面が水酸基を有するクロム基で修飾されたインプラントに対しても施すことができ、生体内に埋め入れる直前に表面処理を行うことによって、生体適合性をさらに高めることも可能である。

本発明のインプラントの表面処理方法で使用する「水酸化クロムイオンを含有する反応溶液」としては、上記2.説明したものを用いることができる。 本発明の表面処理方法において、反応溶液をインプラントに「接触」させる方法としては、インプラントを反応溶液に浸漬させる方法や、反応溶液をインプラントの表面に塗布する方法を用いることができる。

本発明の表面処理方法において、反応溶液中の水酸化クロムイオンの濃度は、好ましくは0.0001〜10mol/Lであり、より好ましくは0.001〜1mol/Lとし、さらに好ましくは0.01〜0.1mol/Lとするのがよい。 また、基材を反応溶液に接触させる時間は、好ましくは1秒〜5日であり、より好ましくは2分〜10時間とし、さらに好ましくは10分〜2時間とするのがよい。 そして、基材を浸漬する際の反応溶液の温度は、好ましくは、0〜200℃とし、より好ましくは40〜80℃とするのがよい。

4.本発明のインプラントの表面処理剤 本発明のインプラントの表面処理剤は、水酸化クロムイオンを含む溶液であることを特徴とする。 本発明のインプラントの表面処理剤に含まれる「水酸化クロムイオン」とは、水酸化物イオン(OH)が配位したクロムイオンをいい、これらに限定されるわけではないが、例えば、[Cr(OH)6]3−、[Cr(OH)4]、[Cr(H2O)5(OH)]2+、[CrNH3(OH)5]2−、[CrO4(OH)2]4−等を用いることができる。 また、「水酸化クロムイオン」としては、クロム原子のイオン価が2価、3価、4価又は6価のイオンを使用することができるが、3価のイオンが安定で好ましい。 クロム原子のイオン価が3価の水酸化クロムイオンとしては、これらに限定されるわけではないが、例えば、[Cr(OH)6]3−、[Cr(OH)4]、[Cr(H2O)5(OH)]2+等が挙げられる。

本発明のインプラントの表面処理剤で使用する溶媒としては、水や、水とアルコール等を含む混合溶媒を用いることができる。また、溶液中には、水酸化クロムイオンの他に、pH調整剤、pH緩衝剤、酸化防止剤、安定化剤や、インプラントの表面を修飾する他の薬剤等を含ませることもできる。 本発明のインプラントの表面処理剤は、既に製造されたインプラントに対しても、簡便な処理で生体適合性を高めることができるという効果を奏する。 本発明の表面処理剤は、本発明の製造方法によって得られたインプラント、すなわち、表面が水酸基を有するクロム基で修飾されたインプラントに対しても施すことができ、生体内に埋め入れる直前に表面処理を行うことによって、生体適合性をさらに高めることも可能である。

以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。

(インプラントの製造) インプラントの基材を浸漬する反応溶液として、[Cr(OH)6]3−イオンを0.05mol/L含む反応溶液の調整を行った。この反応溶液は、0.05mol/Lの硫酸クロム(III)九水和物の水溶液と、4mol/Lの水酸化ナトリウムの水溶液とを混合し、次の式に示される反応を行うことにより調整した。

インプラントの基材としては、ロッド状に成型されたチタンを使用した。このチタン製の基材を、上記で調整した反応溶液中に浸漬した。浸漬は60℃の反応溶液中で12時間行った。これにより、チタン製の基材の表面を、水酸基を有するクロム基で修飾した。 浸漬を行った後、チタン製の基材を反応溶液中から取り出した。その後、基材であるチタンを70℃の条件下に20分間静置し、基材表面の溶媒が十分に蒸発するまで乾燥させた。 さらに、180℃の条件下に2時間静置することにより、インプラントの乾熱滅菌を行った。 以上のようにして、表面が修飾されたインプラントを製造した。

(インプラントの材料評価) (1)表面観察と表面粗さの測定 実施例1で製造したインプラントの材料評価を行った。まず、走査型電子顕微鏡(SEM)にて、実施例1で製造したインプラント(CrTi)の表面形状の観察を行った。比較例として、反応溶液中での浸漬が行われる前のチタン製の基材(Ti)について、同様に表面形状の観察を行った。その結果を示す写真を図4に示す。 図4の左側の写真は、チタン製の基材(Ti)の表面を撮影した写真であり、右側の写真は、実施例1で製造したインプラント(CrTi)の表面を撮影した写真である。図4の写真から把握できるように、両者の表面形状に特段の差異は観察されなかった。 次に、共焦点レーザー顕微鏡(CLSM)を用いて、表面粗さの測定を行った。その結果を図4中のそれぞれの写真の下に示す。 チタン製の基材(Ti)の表面粗さ(Ra)は、3.123±1.751であったのに対し、実施例1で製造されたインプラント(CrTi)の表面粗さ(Ra)は、3.128±1.504であった。このように、チタン製の基材(Ti)と、実施例1で製造されたインプラント(CrTi)との間で、生体適合性に影響を及ぼし得る表面粗さに、有意な差は見られなかった。

(2)X線回析(XRD) X線回析装置を用いて、実施例1で製造したインプラントの結晶相と、チタン製の基材の結晶相の分析を行った。その分析結果を示すチャートを図5に示す。図5の上側のチャートは、表面が修飾されていないチタン製の基材(Ti)の分析結果を示し、図5の下側のチャートは、実施例1で製造したインプラント(CrTi)の分析結果を示す。 図5に示されるように、実施例1で製造したインプラント(CrTi)のチャートから、TiとTiOの存在を示すスペクトルが検出された。これにより、実施例1で製造したインプラント(CrTi)の表面の結晶相はTi及びTiOであることが明らかとなった。

(3)元素分析 SEM−EDSを用いて、実施例1で製造したインプラント(CrTi)の表面の元素分析を行った。その結果を示す写真を図6に示す。図6の上側の写真は、走査型電子顕微鏡(SEM)でインプラント表面の形状を撮影した写真であり、図6の下側の2つの写真は、同じインプラント表面に対して、EDS(エネルギー分散型X線分析)により、元素分析を行った結果を示す写真である。図6の左下の写真はチタン原子の検出結果を示す写真であり、図6の右下の写真はクロム原子の検出結果を示す写真である。図6の結果に示されるように、実施例1で製造したインプラントの表面にクロム原子が検出された。

(4)XPS分析 実施例1で製造したインプラント(CrTi)に対して、XPS(X線光電子分光法)による分析を行った。分析結果を示すチャートを図7及び8に示す。図7は、結合エネルギー全域(0〜1100eV)におけるワイドスキャン分析結果を示すチャートである。図7中、四の枠内に表示するように、Ti2p3/2、Ti2p1/2、O1s、Cr2p3/2、Cr2p1/2のスペクトルが検出された。これにより、修飾されたインプラントの表面には、Cr、O及びTiの原子が存在することが示された。 図8は、XPSのナロースキャン分析(高分解能分析)の結果を示すチャートである。図8の左上のチャートは、図7のワイドスキャン分析でO1sのスペクトルが検出された近傍の結合エネルギー領域(526〜538eV)における分析結果を示すチャートである。このチャートからTi−OHの化学結合の存在を示す1つのスペクトルが検出された。図8の右上のチャートは、図7のワイドスキャン分析でTi2p3/2及びTi2p1/2のスペクトルが検出された近傍の結合エネルギー領域(452〜474eV)における分析結果を示すチャートである。このチャートから、Ti2p3/2及びTi2p1/2のスペクトルにおいて、TiOの化学結合とTiの金属結合の存在を示すスペクトルが検出された。図8の左下のチャートは、図7のワイドスキャン分析でCr2p3/2及びCr2p1/2のスペクトルが検出された近傍の結合エネルギー領域(570〜595eV)における分析結果を示すチャートである。このチャートから、Cr2p3/2及びCr2p1/2のスペクトルにおいて、Cr−OHの化学結合の存在を示すスペクトルが検出された。図8の右下の図は、XPSの分析結果から同定したインプラントの表面の化学結合状態を示す模式図である。インプラントの表面のチタン原子には、−O−Cr(OH)2からなる基及び−OH基が結合していることが明らかとなった。

(5)イオン放出試験 実施例1で製造したインプラントを生理食塩水中に浸漬し、生理食塩水中に放出されるクロムイオンを測定する試験を行った。生理食塩水の温度は生体と同じく37℃とし、生理食塩水を入れたフラスコを振とう機に載せて撹拌しながら、生理食塩水中にインプラントを浸漬して、インプラントからクロムイオンを放出させた。放出されたクロムイオンの検出は、6時間、12時間、24時間、36時間及び72時間経過後に、それぞれICP−MSで測定した。その結果を図9に示す。図9のグラフに示されるように、2時間目まではインプラントからクロムイオンが急速に放出され、その後、クロムイオンが徐々に放出される結果が得られた。

(動物実験によるインプラントの評価) (1)動物実験 実施例1で製造したインプラントを実験動物の体内に埋め入れて、生体組織との結合状態の評価を行った。 実験動物としては、日本白色家兎(JW/CSK)を用いた。そして、このウサギの右大腿骨には、実施例1で製造したロッド状のインプラント(CrTi)を5本埋め入れ、左大腿骨には、比較例として、表面が修飾されていないチタン製のロッド(Ti)を5本埋め入れた。埋入期間が4週間、8週間及び12週間の3つの動物実験を行った。実験動物にインプラントとチタン製のロッドを埋め入れる手術の様子を図10に示す。図10に示されるように、ウサギの左右の大腿部を剃毛し(1)、切開して大腿骨を露出させ(2)、大腿骨にドリルで2mmの孔を形成した後に、インプラント(CrTi)又はチタン製のロッド(Ti)を大腿骨に挿入した(3)。そして、切開部を糸で縫合して閉創した(4)。 埋め入れから4週間、8週間又は12週間経過後に、閉創部を再び切開して大腿骨を切り出し、インプラントの大腿骨との結合状態の評価を行った。

(2)骨との結合状態の評価項目 ウサギの大腿骨に埋め入れたインプラントと骨との結合状態の評価項目を図11に示す。図11の左上の写真に示すように、インプラントの埋め入れられた大腿骨の点線箇所で大腿骨を切断し、骨切片を作製した。そして、この骨切片を用いて、i)剪断強度測定、ii)界面観察、iii)インプラント表面の観察・成分分析、及びiv)インプラント周囲の骨組織観察(HE染色)を行った。 その結果は以下のとおりである。

(3)剪断強度測定 上記で作製した骨切片において、インプラントに荷重を加えていった場合の時間変化を測定するとともに、最大荷重(Fmax(N))を測定した。また、インプラント又はロッドの直径(D(mm))及び骨の厚さ(T(mm))についても測定し、剪断強度(σ(MPa))=Fmax/πDTの式から、剪断強度を算出した。比較例として、チタン製のロッドについても同じ測定を行い、両者の比較を行った。その結果を図12及び13並びに次の表1に示す。

表1は、実施例1で製造したインプラント(CrTi)とチタン製のロッド(Ti)について、剪断強度の計測結果とその標準偏差を示す。そして、図12は、表1の結果を棒グラフで示したものである。図12のグラフから明らかなように、4週目、8週目及び12週目のいずれにおいても、実施例1で製造したインプラント(CrTi)の方が有意に高い剪断強度を示し、骨と強固に結合することが明らかとなった。 また、図13は、実施例1で製造したインプラント(CrTi)又はチタン製のロッド(Ti)に荷重を加えていった場合の時間変化を示すチャートである。上側のチャートが埋め入れ4週間後のものであり、下側のチャートが埋め入れ8週間後のものである。4週目及び8週目のいずれのチャートにおいても、実施例1で製造されたインプラントは荷重の変化に弾性的挙動を示し、骨との間にコラーゲン線維等の弾性的な領域が形成されていることが示された。

(4)界面観察 ウサギの大腿骨に埋め入れた8週目のインプラントについて、表面の状態と、インプラントと骨との界面の状態をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察した結果を図14に示す。図14の左下の写真は、実施例1で製造したインプラント(CrTi)と骨との界面をSEM(走査型電子顕微鏡)で撮影した写真である。図14の右下の写真は、同じインプラント(CrTi)の表面をSEMで撮影した写真である。図14の左上の写真は、比較例として、チタン製のロッド(Ti)と骨との界面をSEMで撮影した写真である。図14の右上の写真は、同じチタン製のロッド(Ti)の表面をSEMで撮影した写真である。左側の2つの写真に示されるように、チタン製のロット(Ti)と実例1で製造したインプラント(CrTi)のいずれにも、骨との間に空隙が見られなかった。また、右側の2つの写真に示されるように、チタン製のロッド(Ti)の表面には小片が見られたのみであったが、実施例1で製造したインプラント(CrTi)の表面には膜状生成物が見られた。

(5)インプラント表面の成分分析 ウサギの大腿骨に埋め入れた8週目のインプラントについて、Michael D. Morris et al., Clinical Orthopaedics and Related Resarch, 2011, vol.496, pp.2160-2169に記載の方法に従い、走査型電子顕微鏡及びレーザーラマン分光光度計を用いて、表面に形成された膜状生成物の成分分析を行った。比較例として、チタン製のロッド(Ti)の表面に形成された小片についての成分分析を行った。その結果を示すチャートを図15に示す。図15の上側のチャートに示すように、チタン製のロッド(Ti)の表面に形成された小片については、リン酸塩及び炭酸塩などの無機成分のピークが見られ、自家骨に類似する成分となっていたのに対し、図15の下側のチャートに示すように、インプラント(CrTi)の表面に形成された膜状生成物については、リン酸塩及び炭酸塩などの無機成分のピークが消失していた。 次に、同じく8週目のインプラント(CrTi)の表面に形成された膜状生成物について、XPS(X線光電子分光法)による成分分析を行った。その分析結果を示すチャートを図16に示す。図16のチャートに示されるように、Ca3p、P2p、P2s、Ca2p、Ca2sのスペクトルが検出され、カルシウムやリンの原子の存在が示されたことから、膜状生成物は石灰化が進行していることがわかった。

(6)インプラント周囲の骨組織観察 ウサギの大腿骨に埋め入れた8週目のインプラント(CrTi)について、剪断試験後のインプラント周囲の骨組織をHE(ヘマトキシリン・エオジン)で染色し、生物顕微鏡による観察を行った。また、比較例として、ウサギの大腿骨に埋め入れた8週目のチタン製のロッド(Ti)について、剪断試験後のロッドの周囲の骨組織を同じくHE染色して観察した。その結果を図17に示す。図17の上側の写真に示されるように、チタン製のロッド(Ti)の周囲の骨組織では線維状の組織は観察されなかったが、図17の下側の写真に示されるように、インプラント(CrTi)の周囲の骨組織には、層板状の配向性を持つコラーゲン線維が観察された。

本発明のインプラント、インプラントの製造方法及びインプラントの表面処理方法は、医療用のインプラントを製造する産業において有用である。

1 インプラント 2 基材 3 インプラントの表面 4 水酸基を有するクロム基 5 生体組織 6 インプラントと生体組織との間隙 7 細胞 8 クロムイオン 9 コラーゲン

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