【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、歯科矯正用チン・キャップ装置およびその矯正力測定具に関し、より詳しくは、下顎前突による上下歯の前後反対咬合を治療する際に、その下顎を後上方に牽引するための、歯科矯正用チン・キャップ装置、およびそのチン・キャップを牽引する牽引力とその方向を正確に測定するための、歯科矯正力測定具に関するものである。 【0002】 【従来の技術】従来、歯の上下歯列の咬み合わせは、一般に上顎歯列が下顎歯列の前方に位置するのが正常であるが、下顎が前突している場合はこれとは逆に下顎歯列が上顎歯列より前方に位置するいわゆる反対咬合となる。 この下顎前突による反対咬合を矯正するため、図5 に示すように、チン・キャップ2とヘッドギヤ5とを輪ゴムなどの付勢部材3で結合して下顎1を後上方へ牽引する歯科矯正用チン・キャプ装置が使用されている。 図のチン・キャップ2は、下顎1の先端である頤(オトガイ)1aに当てる布または金属製のキャップの両端を曲げてフック2aを形成し、あるいは両端に図示しないフックを取り付けて形成される。 また、患者の頭部4にかぶせたヘッドギヤ(頭部固定装置)5または、そのヘッドギヤ5から面ファスナー5aを介して張り出した弓状の頬面板5bのフック5c・5dに、付勢部材である輪ゴム3の両端3a・3bを係止し、その輪ゴム3の中間部3c付近を前記チン・キャップ2のフック2aに係止させ、その輪ゴム3が3a〜3c〜3bの引張力で、下顎1を後上方に牽引する牽引力を生ぜしめて、反対咬合などの矯正治療を行っていた。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】ところがチン・キャップ2のフック2aと、このフック2aに係止している輪ゴム3間には摩擦抵抗があり、その摩擦抵抗のため、輪ゴム3の略V字形に上枝と下枝に分かれたゴムの張力3 a〜3c(上枝)と3b〜3c(下枝)とは、一般にそれぞれ牽引力が異なり、輪ゴム3の前記上枝と下枝との合成力の方向が正確に把握できず、したがってチン・キャップ2を装着して下顎1を治療に必要な方向に正しく牽引することができないので、矯正力の大きさおよびその作用方向が予期したものと異なる場合が生じ、正しい歯科矯正治療を施す上で支障となる、などの課題があった。 本発明は、このような課題を解決することを目的とする。 【0004】 【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本発明は次のような歯科矯正用チン・キャップ装置およびその矯正力測定具を提供する。 すなわち本発明は、下顎を後上方に牽引して歯列の反対咬合を矯正する歯科矯正用チン・キャップ装置であって、前記下顎1の先端部に当てるチン・キャップ2と、このチン・キャップ2の左右両端を付勢部材3を介して後方に牽引するため頭部4に装着するヘッドギヤ5とからなり、前記チン・キャプ2の左右両端には、それぞれ前記付勢部材3を回動可能に係止するためのプーリー6を取り付けたことを特徴とする、歯科矯正用チン・キャップ装置、および4本の副木11a・11b・11c・11dを4辺とし、それら副木の両端付近を4個の支軸12a・12b ・12c・12dで互いに回動可能に軸支して角度可変の菱形を構成してなる歯科矯正力測定具であって、前記4個の支軸のうち、1個の支軸12a付近にはその1個の支軸12aにかかる前記副木11a・11b間の回動角度読み取り用の角度目盛り13を設けたことを特徴とする、歯科矯正力測定具、である。 【0005】 【作用】上記構成において、下顎にあてたチン・キャップは、左右両端を付勢部材でヘッドギヤに向かって牽引するので、下顎とともに下顎の歯の位置を上顎の歯より後部内側の位置に移動させ、反対咬合を矯正する作用がある。 また、回動自在のプーリーは、それぞれ付勢部材の両端が後方上下に牽引する際に、その後方上下の力は均等にし、その合成力の方向は2等分線の方向と一致するから、付勢部材の合成力の方向は、付勢部材上下両端位置設定に伴って必然的に決まる。 角度可変の菱形の歯科矯正力測定具は、その2辺を前記チン・キャップの付勢部材に合わせると、その付勢部材の2辺のなす角度の2等分線(対角線)は、同付勢部材の合成力の方向と一致する作用がある。 回動可能な歯科矯正力測定具の角度目盛りは、付勢部材の角度を副木の開き量で測定しその角度を数量的に把握する作用がある。 【0006】 【実施例】本発明の実施例について、以下、図面にしたがって本発明の構成が実際上どのように具体化されるかを、その作用とともに説明する。 図1は、本発明の一実施例の斜視説明図であり、図中、1は患者の下顎で、この下顎1の先端である頤(オトガイ)1aをチン・キャップ2で覆っている。 このチン・キャップ2は、布または軽い金属などによりその頤1aに沿った曲面で形成され、左右両面をすこし折り返し、その折り返し部2aを利用して左右それぞれプーリー6が回動自在に軸支され、それらのプーリー6外周の溝には、付勢部材である輪ゴム3の中央3c付近がかけられている。 その輪ゴム3の上下両端3a・3bは、患者の頭部4にかぶせたヘッドギヤ(頭部固定装置)5の左右両端に、それぞれ面ファスナー5aで着脱自在にとりつけられた頬面板5b の上下2箇所にフック5c・5dで係止される。 これによりチン・キャップ2は左右から後上方に牽引されている。 前記チン・キャップ2のプーリー6に中点3cがかかる輪ゴム3は、両端3a・3bが上下に別れて引張り、その輪ゴム3は、上枝3a〜3cと下枝3b〜3c とからなる略V字状を形成する。 このとき前記プーリー6は、回動自在に構成されているため、前記輪ゴム3の両端3a・3bの引張力は常に自動的に釣り合いがとれ、等しい大きさに保たれる。 したがって、この釣り合った状態における前記二つの引張力の合成力ベクトル方向は、前記略V字状の2辺のなす角度の2等分線(一点鎖線で示す)と一致する。 また、その合成力の大きさは、前記略V字状の2辺を有する菱形の対角線で現すことができる。 この2等分線で現される合成力、すなわち牽引力の方向は、下顎骨の基部である下顎関節部に近い外耳道開口部(耳の穴)Mの上を目安にすると正しい装着が容易にできて作業が効果的である。 【0007】図2は、本発明の一実施例のチン・キャップ2の斜視説明図であり、両端をそれぞれ少し折り返して折り返し部2aを形成し、その折り返し部2a内に2 個の回動自在なプーリー6を取り付けてある。 このプーリー6は外周中央に溝を設けて掛けた輪ゴム3が外れないようにすることは勿論である。 同プーリーは2個ずつとしたので、小さいプーリーでよいことと、チン・キャップの牽引状態が安定する利点がある。 また、チン・キャップ2の面には、適宜複数の通気孔2bが設けてあるが、これは装着時の患者の皮膚の通気性をよくしたものである。 さらに、チン・キャップ2の前面は上下端が、 小さなアールをつけて前面に折り曲げてあるが、これは頤1aの当接部の安全をはかったものである。 【0008】図3は、本発明の他の実施例であり、前記実施例と異なるところは、前記実施例ではプーリーが左右2個づつであるのに対して、プーリーが左右1個づつである点である。 この、他の実施例の場合は、1個づつとしたために構造が簡単になるという利点がある。 なお、前記図2および図3ではプーリーが2個ずつのもの、および1個ずつのものについて現したが、本発明のプーリーの数量はこれに限るものではなく、場合によっては3個以上のものであってもよい。 【0009】図4は、歯科矯正力測定具の一実施例を示す図であり、図中、11a・11b・11c・11dは長さの等しい副木(フクボク)で、これらの副木11a 〜11dは長さの等しい4辺とし、その各副木11a〜 11dの両端を、4個の支軸12a・12b・12c・ 12dで回動自在に軸支して、角度可変の菱形を構成している。 この歯科矯正力測定具を角度可変の菱形としたのは、プーリー6により輪ゴム3の左右牽引力の大きさが釣り合っている構成の、前記歯科矯正用チン・キャップ装置の測定に関して、力の分力とその合成状況とを本測定具に対応させると、矯正に必要な矯正力を理解するのに極めて適切な構造だからである。 すなわち、菱形は、四辺の長さが同一であり、隣接する2辺11a・1 1b間の角度が変わっても対角線15はつねに両辺のなす角度の2等分線をなしているので、前記釣り合った輪ゴム3の上下枝3a〜3cと3b〜3cとの分力の大きさと方向とを前記菱形の2辺11a・11bとすれば、 プーリー6にかかる合成牽引力の大きさと方向とは、つねに菱形の対角線15で幾何学的に知ることができるからである。 この、菱形の4個の支軸12a〜12dのうちの一つの支軸12aには、角度目盛り盤13をとりつけ、この角度目盛り盤13の対角線に相当する位置の支軸12dには、突起部14を設けてある。 また、角度目盛り盤13は、歯科矯正力測定具の測定状況を数量的・ 科学的に把握し、かつ再現を容易にするために設けたものである。 この歯科矯正力測定具を実際に使用するには、角度目盛り13のある支軸12aを患者の装着したチン・キャップ2のプーリー6に当て、その角度目盛り13にかかる両脇の副木11a・11bのうち副木11 aを前記輪ゴム3の上枝3a〜3cに合わせ、副木11 bを同輪ゴム3の下枝3b〜3cに合わせると、支軸1 2aと12dとを結ぶ対角線15の方向が、チン・キャップ2を牽引して下顎1を矯正する方向である。 この支軸12dには、わかり易いように目印の突起部14を設けてあり、対角線15を見通すのに都合よくできている。 一般に、下顎1の骨は基端が耳の穴Mのやや前方近くにあり、したがって、この対角線15が患者の耳の穴Mの上をとおっていれば、牽引力の方向が正しいということが容易にわかる。 もし、牽引力の方向(対角線15 の方向)が所定の方向と違うときは、輪ゴム3の両端3 a・3bを移動させて分力の方向を変え、それによって、合成力(対角線15)の方向を所定の方向に修正することができる。 また牽引力の大きさは、450〜50 0グラムが適切であり、この牽引力の大きさは、前記輪ゴム3の太さと長さなどの大きさと、同輪ゴム3の上枝3a〜cと3b〜cとのなす角度によってきまる。 チン・キャップ2にかかる牽引力は、熟練すれば指の感覚だけでわかるようになるが、熟練に至るまでとか、または、とくに計算によって数値を確認したい場合は、まず輪ゴム3の一方の枝、たとえば上枝3a〜cの端末3a をその方向にグラム計で引っ張って一方の分力W 1を測定する。 他方の分力W 2は前述のプーリーの作用でW 1 と同じ大きさであるから測定する必要はない。 つぎに、 前記菱形の測定具を用いて、輪ゴム3の上枝と下枝との角度θ(シーター)を目盛り13で測定すると、対角線15との角度はその半分であるから、1/2のθ(シーター)となる。 したがって、合成された牽引力の大きさはWは、2W 1 cos(θ/2)で表される。 また、もっと簡単に牽引力を測定するには、装着したチン・キャップ2の中央部あたりにグラム計を引っかけて、前方へ引っ張れば合成牽引力を直読できる。 このように、本発明の歯科矯正力測定具は、菱形を基調として構成したので、前記プーリーでつねに輪ゴムの両端の引張力のバランスをとるもうひとつの発明の歯科矯正用チン・キャップ装置の矯正力を数量的・科学的に測定把握することができ、矯正作業の再現性をも可能とするものである。 【0010】 【発明の効果】以上本発明によれば、請求項1の発明は、下顎を付勢部材で後方に牽引する構成としたので、 今まで前突していた下の歯が上の歯より後方内側になり、したがって反対咬合が正常に矯正される。 また、前記チン・キャップには、回動可能なプーリーを取り付けたので、付勢部材はそのプーリーによって上下の張力が釣り合って同一となるように調整され、その付勢部材の力の合成方向、即ち矯正方向が一定で分かりやすく、歯科矯正の精度が一層向上する。 請求項2の発明は、4本の副木を4辺とする角度可変の菱形として歯科矯正力測定具を構成したので、2つの力の合成方向が常に2等分線上(菱形の対角線上)にあることとなるから、チン・ キャップ装置のプーリーにかかる付勢部材の2方向に二つの副木を重ねると、そのプーリーにかかる合成力の方向は、同測定具の示す力の合成方向(対角線)と一致するから、合成力の方向測定が容易にできるものである。 また、同測定具は、副木の回動角度読み取り用の角度目盛りを設けたので、測定角度の正確な数量的・科学的な把握(記録)ができ、さらに、その把握した読み取り数値による測定状況の再現を行うことができる、などの効果がある。 【図面の簡単な説明】 【図1】本発明の歯科矯正用チン・キャップ装置の一実施例の斜視説明図である。 【図2】本発明のチン・キャップの一実施例の斜視説明図である。 【図3】本発明のチン・キャップの他の実施例の斜視説明図である。 【図4】本発明の矯正力測定具の一実施例の斜視説明図である。 【図5】従来例の説明図である。 【符号の説明】 1 下顎 2 チン・キャップ 3 輪ゴム(付勢部材) 4 頭部 5 ヘッドギヤ 6 プーリー 11a〜11d 副木 12a〜12d 支軸 13 角度目盛り |