Dental supplies and a method of manufacturing the same

申请号 JP2004142830 申请日 2004-05-12 公开(公告)号 JP4475458B2 公开(公告)日 2010-06-09
申请人 国立大学法人広島大学; 发明人 啓治郎 中佐; 山崎  慎也; 秀 梶岡; 強 森下; 俊嗣 河田; 隆博 筒本; 旭 顔;
摘要
权利要求
  • 互いに異なる機能を有する第1の機能層と第2の機能層とを備え、上記第1の機能層は所望の色を呈し、上記第2の機能層は上記第1の機能層を覆う表皮層であり、上記第1の機能層を透視可能に設けられている歯科用品において、
    上記第1の機能層は、下層部と上層部とで表面の凹凸による平滑性が異なっていることを特徴とする歯科用品。
  • 歯科矯正用のワイヤと該ワイヤを保持するブラケットとを備え、
    上記ワイヤおよびブラケットの少なくとも一方は上記第1の機能層と第2の機能層とを備えており、ワイヤとブラケットとの摩擦において、上記ワイヤおよびブラケットの一方に設けられた第2の機能層と上記ワイヤおよびブラケットの他方との間の摩擦係数は、ワイヤおよびブラケットの表皮層に第1の機能層を用いたときのワイヤとブラケットとの間の摩擦係数よりも小さいことを特徴とする 請求項1記載の歯科用品。
  • 上記第1の機能層が白色系金属およびその合金から選ばれる一種であることを特徴とする請求項1または2記載の歯科用品。
  • 上記第1の機能層が、銀、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、白金、および銀−チタン合金からなる群より選ばれる一種であることを特徴とする請求項3記載の歯科用品。
  • 上記第2の機能層が、透明もしくは半透明の非晶質セラミックスからなることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の歯科用品。
  • 上記第2の機能層が、酸化チタンまたは酸化アルミニウムからなることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の歯科用品。
  • 上記第1の機能層が銀−チタン合金からなり、上記第2の機能層が酸化アルミニウムからなることを特徴とする請求項1または2記載の歯科用品。
  • 上記第1の機能層と第2の機能層との間に、上記第1の機能層の酸化を防止する酸化防止層がさらに設けられていることを特徴とする請求項1または2記載の歯科用品。
  • 互いに異なる機能を有する第1の機能層と第2の機能層とを備え、上記第1の機能層は所望の色を呈し、上記第2の機能層は上記第1の機能層を覆う表皮層であり、上記第1の機能層を透視可能に設けられている歯科用品において、
    上記第1の機能層と第2の機能層との間に、上記第1の機能層の酸化を防止する酸化防止層がさらに設けられていることを特徴とする歯科用品。
  • 請求項1記載の歯科用品の製造方法であって、
    第1の機能層を形成する工程と、
    第1の機能層とは異なる機能を有する第2の機能層を形成する工程とを備え、
    上記第1の機能層と第2の機能層とを、上記第2の機能層が上記第1の機能層を覆う表皮層であり、上記第1の機能層が所望の色を呈し、かつ上記第2の機能層が上記第1の機能層を透視可能なように形成するとともに、
    上記第1の機能層の形成にバイアススパッタを用いることを特徴とする歯科用品の製造方法。
  • 上記第1の機能層の形成途中でバイアス電圧の印加を停止することを特徴とする 請求項10記載の歯科用品の製造方法。
  • 上記第1の機能層の形成工程後半で印加するバイアス電圧を、上記第1の機能層の形成工程前半で印加するバイアス電圧よりも低くすることを特徴とする 請求項10記載の歯科用品の製造方法。
  • 上記第1の機能層と第2の機能層との間に、上記第1の機能層の酸化を防止する酸化防止層を形成する工程をさらに備えていることを特徴とする 請求項10〜12の何れか1項に記載の歯科用品 の製造方法
  • 说明书全文

    本発明は、歯科用品に要求される、審美性を満足させるための機能とその他の機能とを共に兼ね備えた歯科用品およびその製造方法に関するものであり、より詳しくは、審美性、耐久性、低摩擦係数を共に満足する歯科用品およびその製造方法に関するものである。

    例えば歯科矯正具等の歯科用品に使用される歯科用材料としては、従来、その機能面から一般的に金属材料が使用されている。 例えば、歯科矯正具に使用されている歯科矯正用のワイヤには、コバルト・クロム合金、ステンレス鋼、チタン・ニッケル形状記憶合金等が、基材もしくはコーティング材として一般的に使用されている(例えば、特許文献1等参照)。 これら金属材料は、引抜き加工や超弾性処理により十分な弾性を有している上、該ワイヤの装着に使用されるブラケットとの摩擦係数が、他の材料に比べて比較的小さく、矯正効果が高い。

    しかしながら、このような歯科矯正具は、通常、歯並びの悪い歯および正常な歯にブラケットを接着剤で接着し、該ブラケットにワイヤを装着し、ワイヤが有する弾性により時間をかけて歯を移動させることで歯並びを矯正するようになっている。 このため、一旦装着したブラケットやワイヤは、矯正が終了するまで、約一ヶ月毎にワイヤの交換を繰り返しながら長期に渡って歯に装着される。

    そこで、近年、女性を中心として、美容上の観点から、歯並びの矯正中であることが目立たないように、その審美性を改善することが強く要望されている。

    しかしながら、このような要求を満たす白色で硬質な金属ワイヤやブラケットは存在しない。 このため、上記要求を満たすべく現在市販されている歯科矯正具としては、例えば、金属ワイヤを基材として該基材表面を白色のコーティング材で被覆したものが一般的である。

    現在使用されている歯科矯正用のワイヤは、主に二種類に大別される。 一つは、金属ワイヤ基材に、テフロン(登録商標)等の白色のプラスチックをコーティングしてなるワイヤである。 もう一つは、金属ワイヤ基材に、陶磁器材料と同じ白色のアルミナセラミックスをコーティングしたものである。

    特開平10−066701号公報(公開日:1998年3月10日)

    上記コーティング材として必要な特性としては、(1)色調が人間の歯の色に近いこと、(2)ワイヤとブラケットとの間の摩擦係数が小さく、矯正効果が高いこと、(3)耐久性があること等が挙げられる。

    しかしながら、上記コーティング材にプラスチックを用いたワイヤは、人間の歯の色に合わせて色調を調整できるものの、使用中(治療期間中)、例えば一ヶ月程度で剥離したり、変色したりするという問題点を有している。 また、ブラケットとの摩擦係数が大きいため、ブラケットとワイヤとの間で滑りが起こり難く、矯正効果に劣る。

    一方、上記コーティング材に白色のアルミナセラミックスを用いたワイヤは、摩擦係数は低いものの、ワイヤを曲げると被膜に容易に亀裂が入り、剥離が生じるという致命的な欠点がある。 歯科矯正用のワイヤは、使用に際し、特殊な工具を用いて、歯並びに合わせて該ワイヤを曲げたり、口内に傷が付かないように該ワイヤの端部を曲げたりして使用されることから、この屈曲部で上記被膜が割れ、ここから剥離が生じ易い。

    さらに、最近の歯磨きペーストの中には微粒研磨剤が含まれているものが多いことから、上記被膜表面は磨耗に耐えるほど硬く、耐久性がなければならない。

    しかしながら、このような問題点を克服することができる歯科矯正用のワイヤは、未だ開発されていない。 また、歯科矯正用のワイヤのみならず、ブラケットや、差し歯や入れ歯等の擬似歯の材料、歯冠、歯科補綴物クラスプ等の各種歯科用品においても、審美性を満足させるための機能とその他の機能とを共に兼ね備えた歯科用品を提供することは、患者の心理的抵抗を和らげるのに大きな効果を発揮することができる。

    本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、歯科用品に要求される、審美性を満足させるための機能とその他の機能とを共に兼ね備えた歯科用品およびその製造方法を提供することにある。

    本発明にかかる歯科用品は、上記課題を解決するために、互いに異なる機能を有する第1の機能層と第2の機能層とを備え、上記第1の機能層は所望の色を呈し、上記第2の機能層は上記第1の機能層を覆う表皮層であり、上記第1の機能層を透視可能に設けられていることを特徴としている。

    上記の構成によれば、上記第1の機能層が所望の色を呈し、上記第2の機能層が上記第1の機能層を覆う表皮層であり、上記第1の機能層を透視可能に設けられていることで、歯科用品に要求される、審美性を満足させるための機能とその他の機能とを、従来のように単独の層ではなく、上記第1の機能層と第2の機能層とに別々に分担させることができるので、審美性を満足させるための機能とその他の機能とを共に兼ね備えた歯科用品を提供することができるという効果を奏する。

    上記歯科用品は、歯科矯正用のワイヤと該ワイヤを保持するブラケットとを備え、上記ワイヤおよびブラケットの少なくとも一方は上記第1の機能層と第2の機能層とを備えており、上記第2の機能層は、上記第1の機能層よりも上記ワイヤとブラケットとの摩擦による摩擦係数が小さいことが望ましい。

    上記第2の機能層が上記第1の機能層よりも上記ワイヤとブラケットとの摩擦による摩擦係数が小さいことで、審美性を満足させるために歯科矯正効果が阻害されることがなく、また、従来よりも、上記歯科矯正効果に優れた歯科用品を提供することができるという効果を奏する。

    上記歯科用品において、上記第1の機能層は、白色系金属およびその合金から選ばれる一種であることが好ましい。 また、上記第1の機能層は、銀、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、白金、および銀−チタン合金からなる群より選ばれる一種であることが好ましい。

    一方、上記第2の機能層は、透明もしくは半透明の非晶質セラミックスからなることが好ましい。 また、上記第2の機能層は、酸化チタンまたは酸化アルミニウムからなることが好ましい。

    上記の各構成によれば、歯科用品に要求される、審美性、低摩擦性、耐久性等の特性を共に満足させることができる歯科用品を提供することができるという効果を奏する。

    この場合、上記第1の機能層および第2の機能層としては、上記第1の機能層が銀−チタン合金からなり、上記第2の機能層が酸化アルミニウムからなることが特に好ましい。

    また、上記歯科用品は、上記第1の機能層と第2の機能層との間に、上記第1の機能層の酸化を防止する酸化防止層がさらに設けられている構成を有していてもよい。

    上記第1の機能層と第2の機能層との間に、上記第1の機能層の酸化を防止する酸化防止層がさらに設けられていることで、上記第1の機能層を酸化から保護することができるので、上記第1の機能層が酸化によりダメージを受けることを防止することができるという効果を奏する。

    また、上記第1の機能層は、下層部と上層部とで製膜状態が異なっていることが望ましい。 上記第1の機能層が、下層部と上層部とでその製膜状態が異なっていることで、上記第1の機能層自体に、下層部と上層部とで異なる機能を付与することができる。 これにより、例えば、上記第1の機能層の下層部に、基材との高い接着性をもたせ、上記第1の機能層の上層部で上記第2の機能層を透視して得られる色調の調整を行うことができるという効果を奏する。

    また、本発明にかかる歯科材料の製造方法は、上記課題を解決するために、互いに異なる機能を有する第1の機能層と第2の機能層とを形成する工程を備え、上記第1の機能層と第2の機能層とを、上記第2の機能層が上記第1の機能層を覆う表皮層であり、上記第1の機能層が所望の色を呈すると共に、上記第2の機能層が上記第1の機能層を透視可能に形成することを特徴としている。

    上記の構成によれば、上記第1の機能層と第2の機能層とを、上記第2の機能層が上記第1の機能層を覆う表皮層であり、上記第1の機能層が所望の色を呈すると共に、上記第2の機能層が上記第1の機能層を透視可能に形成することで、歯科用品に要求される、審美性を満足させるための機能とその他の機能とを、従来のように単独の層ではなく、上記第1の機能層と第2の機能層とに別々に分担させることができるので、審美性を満足させるための機能とその他の機能とを共に兼ね備えた歯科用品を製造することができるという効果を奏する。

    また、上記歯科用品の製造方法において、上記第1の機能層の形成にバイアススパッタを用いることで、上記第1の機能層の表面性状を変化させることができるので、上記第1の機能層の色調、ひいては上記第2の機能層を透視して得られる色調を、上記バイアススパッタにより容易に調整することができる。 さらに、上記第1の機能層の形成にバイアススパッタを用いることで、上記第1の機能層の被積層体(例えば基材)との密着性を向上させることができるという効果を併せて奏する。

    また、上記歯科用品の製造方法において、上記第1の機能層の形成にバイアススパッタを用いる場合、上記第1の機能層の形成途中でバイアス電圧の印加を停止したり、上記第1の機能層の形成工程後半で印加するバイアス電圧を、上記第1の機能層の形成工程前半で印加するバイアス電圧よりも低くしたりすることで、例えば、上記第1の機能層の下層部と上層部とで製膜状態を変えることができ、上記第1の機能層自体に、下層部と上層部とで異なる機能を付与することができる。 これにより、例えば、上記第1の機能層の下層部に、被積層体(例えば基材)との高い接着性をもたせ、上記第1の機能層の上層部で上記第2の機能層を透視して得られる色調の調整を行うことができるという効果を奏する。

    本発明にかかる歯科用品は、以上のように、上記第1の機能層が所望の色を呈し、上記第2の機能層が上記第1の機能層を覆う表皮層であり、上記第1の機能層を透視可能に設けられていることで、歯科用品に要求される、審美性を満足させるための機能とその他の機能とを、従来のように単独の層ではなく、上記第1の機能層と第2の機能層とに別々に分担させることができるので、審美性を満足させるための機能とその他の機能とを共に兼ね備えた歯科用品を提供することができるという効果を奏する。

    また、本発明にかかる歯科用品の製造方法は、以上のように、上記第1の機能層と第2の機能層とを、上記第2の機能層が上記第1の機能層を覆う表皮層であり、上記第1の機能層が所望の色を呈すると共に、上記第2の機能層が上記第1の機能層を透視可能に形成することで、歯科用品に要求される、審美性を満足させるための機能とその他の機能とを、従来のように単独の層ではなく、上記第1の機能層と第2の機能層とに別々に分担させることができるので、審美性を満足させるための機能とその他の機能とを共に兼ね備えた歯科用品を製造することができるという効果を奏する。

    本発明の実施の一形態について図1ないし図13に基づいて説明すれば、以下の通りである。

    なお、本実施の形態では、本発明にかかる歯科用品として、歯科矯正用のワイヤとブラケットとを備えた歯科矯正具を例に挙げて説明するものとするが、本発明はこれに限定されるものではない。

    図2(a)は、本実施の形態にかかる歯科矯正具の概略構成を示す斜視図であり、図2(b)は、図2(a)に示す歯科矯正具の要部の分解斜視図である。

    図2(a)に示すように、本実施の形態にかかる歯科矯正具11は、歯科矯正用のワイヤ12と該ワイヤ12を保持する保持部材としてのブラケット13とを備えている。

    上記歯科矯正具11は、上記ブラケット13を、歯並びの悪い歯および正常な歯に図示しない接着剤等で接着(固定)し、図2(b)に示すように、上記ブラケット13における突起状のワイヤ装着部14(フック)に設けられた凹部14aに上記ワイヤ12を装着して該ワイヤ12が有する弾性力により時間をかけて歯を移動させ、歯並びを矯正するようになっている。

    上記歯科矯正具11、すなわち、上記ワイヤ12およびブラケット13は、基材上に、互いに異なる機能を有する第1の機能層と第2の機能層とが設けられている構成を有している。 以下に、上記歯科矯正具11において、力学的あるいは化学的に最も厳しい条件にさらされるワイヤ12を例に挙げて上記歯科矯正具11の各機能層について説明する。

    図1は、本実施の形態にかかるワイヤ12の構成を模式的に示す断面図である。

    図1に示すように、本実施の形態にかかる歯科矯正用のワイヤ12は、図1に示すように、ワイヤ基材1(基材、被積層体)上に、第1の機能層(機能膜)としての下地層2と、第2の機能層(機能膜)としての表皮層3とが、この順に積層された構成を有している。 すなわち、本実施の形態にかかる上記ワイヤ12は、ワイヤ基材2上に、コーティング層として二層膜を設けることで機能分担を行っている。

    上記ワイヤ基材1は、ワイヤ形状を有する基材であり、従来歯科矯正用に使用されている公知のワイヤを使用することができる。 上記ワイヤ基材1としては、具体的には、例えば、コバルト・クロム(Co−Cr)合金、ステンレス鋼(Cr系、Ni−Cr系)、チタン・ニッケル(Ti−Ni)形状記憶合金等の金属からなるワイヤが挙げられるが、特に限定されるものではない。

    なお、上記ワイヤ基材1は、引抜き加工や超弾性処理等が施されることで、十分な弾性を有していることが望ましい。

    上記ワイヤ12は、上記ワイヤ基材1の表面を、上記下地層2および表皮層3でコーティングすることにより容易に得ることができる。

    歯科矯正用のワイヤに必要な特性としては、(1)色調が人間の歯の色に近いこと、(2)ワイヤとブラケットとの間の摩擦係数が小さく、矯正効果が高いこと、(3)耐久性があること等が挙げられ、特に、上記(1)としては、個人の歯の色に合わせて色調が調整できることが望まれる。 また、上記(3)としては、第一に、表面が硬くて耐久性があること、第二に、矯正作業中にワイヤを曲げても、ワイヤ基材上にコーティングされた被膜が割れたり剥離したりしないこと、第三に、長期間口腔内に配しても上記被膜が摩耗・剥離しないこと等が望まれる。

    本実施の形態にかかる上記ワイヤ12は、上記ワイヤ基材1上に、従来の単層コーティングではなく、異なる特性を有するコーティング材料を用いて二度コーティングを行い、上記ワイヤ基材1上に、異なる機能を有する二層の機能層を設けて各々の層に、歯科用品に必要な機能を分担させることで、従来、互いに両立させることができなかった天然歯に対する擬似特性(色調調整能)と、高い矯正効果(低摩擦係数)および耐久性とを共に満足させることが可能となっている。

    本実施の形態において、上記下地層2は、上記ワイヤ基材1の色を遮蔽し、所望の色を呈する呈色層(下地層、遮蔽層)であり、上記ワイヤ12を天然歯に似せるべく、上記ワイヤ12の色調を調整する色調調整層として機能する。

    上記下地層2は、上記表皮層3を通して視認される色が天然歯に近い色となるように、それ自身、天然歯に似せた色を呈していてもよいし、上記表皮層3との組み合わせにより天然歯に近い色を呈するものであってもよい。 なお、上記下地層2は、上記ワイヤ12の審美性を高めるべく、上記ワイヤ基材1の色を完全に遮蔽することが望ましいが、上記目的を阻害しない範囲内で上記ワイヤ基材1の色を視認し得るものであっても構わない。

    本実施の形態によれば、上記下地層2が上記ワイヤ基材1の色を遮蔽することで、金属製のワイヤ基材1の色を人間の歯の色に近い白色にすることができ、審美性の高いワイヤ12を提供することができる。

    上記下地層2としては、上記表皮層3の色にもよるが、白色系もしくは黄色系の材料を使用することが望ましく、透視により最終的に視認される色の調整がより容易であることから、白色系の材料を使用することがより望ましく、それ自身、天然歯に近い色、さらには天然歯の色を呈していることが特に好ましい。 また、上記下地層2は、上記ワイヤ基材1との密着性に優れていることが望ましい。

    上記下地層2の材料としては、具体的には、例えば、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)等の白色系金属、あるいは、ステンレス鋼、Ag−Ti合金、Ag−Ni合金等、上記白色系金属に別の元素を添加した合金が挙げられる。

    上記例示の材料のなかでも、Agは、白色であり、かつ延性に富み、医療用としても高い安全性を有すると共に、前記ワイヤ基材1との密着性に非常に優れている。 このため、上記下地層2の材料としては、上記例示の材料のなかでも、Ag、並びに、Agを含む合金(つまり、Agに、Ti等の別の金属を添加してなる合金)が好ましく、Ag−Ti合金、Ag−Ni合金がより好ましく、Ag−Ti合金が特に好適である。

    上記下地層2に使用される金属は、延性に富み、例えば奥歯の矯正時等に、上記ワイヤ12を折り曲げても割れたり剥離したりしないものが好適であり、上記ワイヤ12を完全に折り曲げても割れたり剥離したりしないものが特に好適である。 ワイヤ12を完全に折り曲げたときの曲率半径はワイヤ12の厚さにほぼ等しくなる。 よって、言い換えれば、上記下地層2に使用される金属は、上記下地層12の割れや剥離が生じる曲げ曲率半径ができるだけ小さいことが好ましく、上記ワイヤ12を、その曲率半径がワイヤ12の厚さと等しくなるまで曲げても割れたり剥離したりしないものが特に好適である。 なお、曲率半径が大きいほど湾曲が穏やかであることを示す。 例えば、後述する具体例においては、上記ワイヤ12を、曲率半径0.4mmに曲げても割れたり剥離したりしないものが特に好適である。 但し、実使用を考えれば、上記下地層2は、上記ワイヤ12を、曲率半径1.5mmに曲げても割れたり剥離したりしないことが望ましく、曲率半径1mmに曲げても割れたり剥離したりしないことがより望ましい。

    また、上記下地層2の層厚(膜厚)は、上記下地層2を形成するためのコーティング薄膜材料の種類にもよるが、3μm以上であることが、剥離し難いことから好ましく、Agの場合で5μm〜9μmの範囲内、Ag−1重量%Ti合金(以下、「Ag+1%Ti」と記す場合もある)の場合で3μm〜5μmの範囲内であることがより好ましい。

    本実施の形態において、上記表皮層3は、最外層として、上記下地層3を被覆し、保護する保護層であり、耐久性、耐磨耗性、耐食性等の物性に優れ、上記歯科用品として本実施の形態に示すように歯科矯正具を製造する場合においては、摩擦係数が小さく、矯正効果が高いことが望ましい。

    また、本実施の形態では、前記したように、自然歯の色調に似せるためにワイヤ基材1を遮蔽し、所望の色調を呈する呈色層としての下地層2を、上記表皮層3とは別に設けたことから、上記表皮層3は、呈色層並びに色調調整層としての上記下地層2を透視(つまり、上記下地層2の色を透視)することができるように、透明または半透明であることが必要である。

    すなわち、本実施の形態では、上記表皮層3に、歯科用品に要求される各種物性のうち、最外層(表面層)に必要とされる物性を負わせると共に、上記表皮層3に不足している、ワイヤ基材1に対する遮蔽能および所望の呈色を可能とする呈色能を含めた色調調整機能(天然歯の色に対する擬似特性)、特に上記遮蔽能、呈色能を上記下地層2により補うために、上記表皮層3に、下地層2よりも摩擦係数が小さく透明度が高い材料を使用している。 すなわち、上記表皮層3は、摩擦係数調整層としての機能も兼ねている。 逆に言えば、上記下地層2に足りない物性を上記表皮層3で補っている。

    上記表皮層3の材料としては、透明あるいは半透明な非晶質セラミックス等が挙げられる。 より具体的には、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ)や酸化チタン(チタニア)等が挙げられる。 非晶質セラミックスは、硬質で耐磨耗性を有することから、上記下地層2の保護膜として好適である。 なお、本発明においては、上記ワイヤ12は歯科用品として口腔内にて使用されることから、人体に悪影響を及ぼさない材料を選択して使用することが好ましいことは言うまでもないことである。

    そして、上記例示の材料に示すように酸化物で非晶質構造を有するセラミックスのなかでも、チタニア(TiO )、アルミナ(Al )は、硬くて摩擦係数が小さく、歯科矯正硬化が高いと共に、透明であることから好ましい。

    また、TiO は、光触媒反応による防汚・殺菌効果があり、矯正期間中、歯ブラシ等で掃除できない上記歯科矯正具11近傍における隙間の防汚・殺菌効果を得ることができることから、口内の衛生保持に得に有効である。

    また、Al は、下地層2との密着性に優れ、剥離し難いことから好ましい。

    通常の焼結アルミナは、陶磁器に見られるようにそのままで白色であるが、脆い。 一方、例えばスパッタ法で成膜される酸化物系セラミックスは、非晶質で透明であり、靭性に富む。 このため、大きな曲げを受けても割れることがない。

    前記したように、表皮層3は、下地層2の色調を保持するために透明または半透明であることが必要であると同時に、ブラッシングによる摩耗を防ぐために硬いことが必要であり、また、歯科矯正具に使用する場合には摩擦係数が低いことが必要である。

    上記したようにAl 、TiO 等の酸化物で非晶質構造を有するセラミックス、特に、スパッタにより作成した酸化物系セラミックスは、色調を変えないで下地保護の役割を果たすと同時に、摩擦係数が小さく、耐摩耗性、耐食性に富んでいる。

    上記ワイヤ12における表皮層3に上記した非晶質セラミックスを用いた場合、例えば、代表的なブラケット材料であるステンレス鋼との静摩擦係数は、ステンレス鋼とアルミナ薄膜との組み合わせで0.26であり、従来のステンレス鋼とステンレス鋼(ワイヤ)との摩擦係数0.34よりもかなり小さいので、審美性には劣るが矯正効果が高いとされる金属製ブラケットと金属製ワイヤとの組み合わせよりも、矯正効果が大きい優れた組み合わせである。

    上記摩擦係数は、小さければ小さいほどよく、審美性と低摩擦係数とを兼ね備えた歯科矯正具11を提供するために、ワイヤ12とブラケット13との摩擦係数は、従来よりも摩擦係数を増大させることなく審美性を向上させる上で、従来と同等以下であることが好ましい。 具体的には、上記摩擦係数は、0.34以下であることが好ましく、0.3以下であることがより好ましく、0.2以下であることがより一層好ましい。 本実施の形態によれば、上述したように、摩擦係数を増大させないのみならず摩擦係数を従来よりも低減させることができると共に、従来よりも審美性が向上された歯科矯正具11を提供することができる。

    上記表皮層3の層厚(膜厚)は、上記下地層2を被覆しかつ上記下地層2を透視可能であれば特に限定されるものではなく、例えば、その膜厚をもって、当該表皮層3を通して視認される色が天然歯に近い色となるように色調を微調整するために種々変更することが可能であるが、上記表皮層3を形成するためのコーティング薄膜材料の種類や下地膜2との組み合わせ等によっては、当該表皮層3の膜厚が厚くなり過ぎると当該表皮層3が自然に剥離してしまう場合がある。 このため、上記表皮層3の膜厚は、上記剥離が生じない範囲内で形成されることが好ましく、例えば、Al で1μm〜2μmの範囲内であることが好ましい。

    次に、上記下地層2および表皮層3の作製方法について以下に説明する。

    上記下地層2は、必要に応じて研磨処理等の下地処理が施されたワイヤ基材1上に、該下地層2の材料をコーティングすることにより容易に得ることができる。

    また、上記表皮層3は、上記下地層2上に上記表皮層3の材料をコーティングすることにより容易に得ることができる。

    上記コーティング方法としては、例えば、前記したようにスパッタを用いることができる。 上記コーティング方法としてスパッタを使用する場合、上記下地層2にAgを使用する場合には通常の直流二極スパッタもしくは高周波スパッタによりスパッタコーティングすることができるが、合金をスパッタコーティングする場合、上記下地層2とワイヤ基材1との密着性が低下する場合には、バイアス電圧を印加してスパッタを行うことで基材側に制御した電位を与えて基材へのイオン衝撃等を制御しながらスパッタを行うバイアススパッタを用いることが望ましい。

    上記表皮層3を通して視認される上記ワイヤ12の色調は、上記下地層2および表皮層3に使用されるコーティング材料の色、すなわち、例えば素材金属特有の色のみならず、これら各層の膜厚や、表面の凹凸による光の反射によっても異なり、同じスパッタ法でも合金元素の量によって異なり、同じ合金でもバイアス電圧により異なる。 すなわち、例えば前記下地層2の色は、材料(素材)本来の色に加えて、膜厚や、表面の微細形状と光の吸収・反射等により、人間の歯に近い白色となるように調整することができる。

    例えば反応性スパッタ等により上記表皮層3にTiO 薄膜をスパッタコーティングする場合、上記TiO 薄膜やAl 薄膜の膜厚を厚くすると、膜厚に応じて、僅かに黄色に着色されたり、透明から乳白色に変化したりする。 このため、上記ワイヤ12は、これらTiO 薄膜やAl 薄膜の膜厚が厚いほど、濃い色調になる。 よって、本実施の形態によれば、例えば上記表皮層3の膜厚を変更することで、上記表皮層3を通して視認される上記ワイヤ12の色調を容易に変更することができる。

    なお、前記したように、上記表皮層3の膜厚は、上記表皮層3を通して視認される上記ワイヤ12の色調が所望の色調となるように、上記表皮層3の自然剥離が生じない範囲内で適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。

    また、上記表皮層3を通して視認される上記ワイヤ12の色調は、上記下地層2に合金を混ぜて着色することにより調整することもできる。

    このように、本実施の形態によれば、上記表皮層3に上記TiO やAl を使用することで、上記下地層2との組み合わせにより、自然歯に極めて近い色のワイヤ12を得ることができる。

    また、本実施の形態によれば、バイアススパッタを行うことで、表面性状、具体的には、各層の表面の凹凸を変化させることができる。 より具体的には、本実施の形態によれば、バイアススパッタを行うことで、得られる層の表面を平滑化することができると共に、該層に光沢を付与することができる。 このため、本実施の形態によれば、例えば上記下地層2の形成にスパッタバイアスを使用することで、上記下地層2の色調を、上記下地層2に使用されるコーティング材料(下地金属)の合金成分と、バイアスの印加電圧(表面の凹凸による光の反射の違い)とにより調整すると同時に、バイアスの印加により、上記下地層2とワイヤ基材1との密着性(接着性)を増加させることができる。

    また、上記下地層2および表皮層3は、表面に研磨加工等を行うことによっても、その表面の微細形状と光の吸収・反射等を調整して色調調整を行うことが可能である。

    また、上記ワイヤ基材1表面に研磨加工等を行うことで、上記ワイヤ基材1と下地層2との密着性を高めることもできる。

    上記下地層2および表皮層3は、自然歯に違い色調となるように、上記下地層2および表皮層3を構成する各薄膜材料を適宜組み合わせて使用される。 この場合、各々の層は、各々の層が有する機能を阻害しないように設けられていることが望ましい。

    本実施の形態に示すように、上記下地層2がワイヤ基材1等の基材上に積層される場合、上記下地層2の機能としては、前記したように、遮蔽・呈色、色調調整に加えて、基材との接着性能、すなわち、上記ワイヤ基材1に強固に接着し、矯正作業中に上記ワイヤ12を曲げても上記下地層2が剥離しないことが要求される。

    上記下地層2と表皮層3との好適な組み合わせ(以下、下地層2/表皮層3にて記す)としては、例えば、Al(ターゲットAl、スパッタガスAr、白色)/Al (ターゲットAl、スパッタガスO 、透明);Ag(ターゲットAg、スパッタガスAr、白色)/TiO (ターゲットTi、スパッタガスO 、黄色);Ag−Ti合金(ターゲットAgTi、スパッタガスAr、バイアス(白)〜バイアス停止(乳白色))/Al (ターゲットAl、スパッタガスO ガス、乳白色)等が挙げられるが、上記組み合わせは一例に過ぎず、上記組み合わせのみに限定されるものではない。

    以下に、各薄膜の製膜条件、並びに、コーティング方法と、上述した機能を得るための上記下地層2および表皮層3の各種物性との関係について具体的に説明する。

    なお、以下の具体例においては、各薄膜のコーティングに、高周波マグネトロンスパッタ装置を使用した。 また、以下の具体例において使用する各試料の基材には、ワイヤ基材(密着性評価)として、Co−Cr合金からなる0.4mm×0.5mm×30mmのワイヤを使用し、板状基材(色調比較)として、20mm×10mm×1mmのステンレス板「SUS304」を使用した。 なお、上記ステンレス板には、表面粗さの異なる2種類のステンレス板を使用した。 一つは研磨処理のまま(未処理)であり、もう一つはサンドショットブラストを行い、表面を粗くしたものである。 また、薄膜のオリジナルの色は、ガラス基材を使用して確認した。 ガラス基材には、20mm×26mm×1.5mmのソーダガラスを使用した。 また、全ての基材は、実験前にアセトン中で、10分間超音波洗浄を行った。

    また、各薄膜の膜厚、密着性、色調は、以下の方法により評価(測定)した。 なお、各薄膜の密着性は、以下の曲げ試験、腐食試験により評価した。

    〔膜厚測定〕
    薄膜の厚さは、上記ガラス基板に成膜部と非成膜部との段差を設け、これを、株式会社ミツトヨ製の触針式表面粗さ計「SJ−201P」(商品名)で計測することにより求めた。

    〔曲げ試験〕
    上記ワイヤ基材に薄膜コーティングを施した後、得られたワイヤを簡易曲げ治具に挟み、ネジを回してワイヤを曲げ、島津理化機器株式会社製の実体顕微鏡「STZ−40TBITa」(商品名)で薄膜を観察し、その表面と側面の写真を撮影して薄膜に割れ・剥離が生じた時点のワイヤの曲率半径を密着性の評価値として求めた。

    〔腐食試験(剥離特性)〕
    上記ワイヤ基材に薄膜コーティングを施した後、得られたワイヤを上記曲げ試験に使用した簡易曲げ治具により所定の曲げ半径に屈曲させてその両端を固定することにより、その曲げ曲率半径(mm)を変化させて薄膜ワイヤ試験片を得た。 次いで、この薄膜ワイヤ試験片を、曲げたまま、3%NaCl溶液中に浸漬し、所定の時間毎に上記薄膜ワイヤ試験片の表面を観察し、割れや剥離の有無を調べることにより、割れ・剥離が発生する時間を調べた。

    〔色調〕
    作製した薄膜の色調は、歯の色調見本である歯科用標準色サンプル(VITA会社製ビタパンクラシカルシェードガイド)と比較することにより確認した。 なお、薄膜のオリジナルの色は、前記ガラス基材への薄膜コーティングを行って確認した。

    まず、上記下地層2にAg薄膜を使用し、上記表皮層3にTiO 薄膜を使用した場合を例に挙げて、各薄膜の製膜条件、並びに、コーティング方法と、上述した機能を得るための上記下地層2および表皮層3の各種物性との関係について具体的に説明する。

    〔Ag薄膜の形成〕
    Ag薄膜は、前記基材上に、Ag(99.98%)をターゲット(金属ターゲット)に使用してスパッタもしくはバイアススパッタを行って直接、Agをコーティングすることにより形成した。 上記ノーマルスパッタおよびバイアススパッタに使用した条件は、ターゲットAg、スパッタガスAr(99.999%)、スパッタ真空度4×10 −3 Torr(≒0.5Pa)、高周波出力300W、スパッタ時間3〜10分間、到達真空度1×10 −6 Torr(≒1.3×10 −4 Pa、2時間)とした。

    また、上記スパッタおよびバイアススパッタを行うに際しては、基材表面の清浄化のため、真空室を2×10 −5 Torr(≒2.6×10 −3 Pa)にまで排気してからArガス(純度99.999%)を導入し、試料表面を10分間スパッタエッチングした後、ターゲット表面をプレスパッタにより清浄化し、スパッタを開始した。

    ここで、本願発明者等は、通常のスパッタ(以下、ノーマルスパッタと記す)により形成したAg薄膜の形成時間と膜厚との関係について検討した。 この結果、本願発明者等は、スパッタ出力のパワーの増加にしたがって薄膜の形成速度が速くなることを見出すと共に、スパッタ出力を200Wから300Wに上げると、薄膜の形成速度が大幅に向上するが、スパッタ出力を300Wから400Wに上げても向上の割合が小さく、スパッタ出力が300WのときがAg薄膜の形成効率が高いことを見出した。

    〔下地処理によるAg膜の密着性の比較〕
    また、薄膜の密着性に及ぼす基材表面粗さの影響を調べるために、エメリペーパーで基材表面を磨き、株式会社ミツトヨ製の触針式表面粗さ計「SJ−201P」(商品名)を使用して基材の表面粗さを測定した。 基材には、前記ワイヤ基材を使用した。 この結果を表1に示す。

    表1に示すように、研磨しない市販のワイヤ基材の表面粗さは、100#または500#のエメリペーパーで磨いた試料の中間の粗さであった。

    〔曲げ曲率半径に及ぼす基材表面粗さおよび膜厚の影響〕
    Ag薄膜に亀裂が発生するときのワイヤの曲げ曲率半径(mm)とワイヤ基材の表面粗さおよび膜厚(μm)との関係を調べた。 Ag薄膜は、スパッタ出力300W、スパッタ時間5分間(膜厚2.5μm)および10分間(膜厚6μm)にて各々作製した。 この結果を表2および図3に示す。

    表2および図3に示す結果から、膜厚に拘らず、割れ発生時の曲げ曲率半径は、バフ研磨したものが最も小さく、平滑な表面ほどAg膜が割れ難いことが判る。 また、同じ表面粗さのワイヤ基材でも、Ag薄膜が厚い方が、亀裂裂発生時の曲げ曲率半径が小さいことが判る。 さらに、Ag薄膜がある一定の膜厚(約6μm)の膜厚に達すると、下地処理に拘らず、割れ発生時の曲げ曲率半径がほぼ一定になることが判る。

    〔割れ発生時の曲げ曲率半径に及ぼすスパッタ出力パワーおよび膜厚の影響〕
    高周波スパッタ法を用いて、スパッタ出力が200W、300W、400Wの各々の場合において、スパッタ時間を5分間、10分間、15分間と変化させてワイヤ基材に各々異なる膜厚(mm)のAg膜をコーティングし、曲げ試験によって、割れ発生時の曲げ曲率半径(mm)とスパッタ出力のパワー(W)および膜厚(μm)との関係を調べた。 この結果を表3および図4に示す。

    表3および図4に示す結果から、Ag膜の膜厚が3μm以下の場合、割れ発生時の曲げ曲率半径はスパッタ出力が400Wの場合が最も小さく、Ag膜の膜厚が比較的薄い場合(膜厚3μm以下)にはスパッタ出力を大きくして薄膜の形成速度を速くすることが望ましいが、上記膜厚が比較的厚い場合(膜厚5μm〜9μm)には、割れ発生時の曲率半径は出力にあまり依存せず、安定した製品を得ることができることが判る。 また、前記したAg膜の形成速度に及ぼす出力の影響と上記した割れ発生時の曲げ曲率半径に及ぼす出力および膜厚の影響とから、300W、10分間の成膜プロセスが最適であることが判った。

    〔Ag薄膜の3%NaCl水溶液中での剥離特性〕
    高周波スパッタ法によりワイヤ基材にAgをコーティングしてなるAg薄膜ワイヤ試験片(膜厚5μm)を用いて前記腐食試験を行った。

    図5に、高周波スパッタ法によりワイヤにコーティングしたAg薄膜の3%NaCl水溶液中の保持時間と、割れ・剥離発生歪みおよび曲率半径との関係を示す。 図5に示すように、曲率半径が1mm以上であれば、曲げ曲率半径(mm)を変化させたAg薄膜ワイヤ試験片を上記3%NaCl水溶液中に2000時間以上経過しても、割れ・剥離は生じなかった。

    しかしながら、Ag薄膜は白色であり、基材の色を遮蔽することはできるものの、そのままでは人間の歯の色とは異なり、審美性に劣る。 さらに、上記Ag薄膜をコーティングしてなるワイヤを歯科矯正用のワイヤとして使用するためには、その表面が硬く、また、摩擦係数が小さいことが必要である。

    本願発明者等が鋭意検討した結果、上記白色のAg薄膜の上に、例えばTiO 薄膜をコーティングすることで、薄膜の色がやや黄色になり、人間の歯の色に近くなると共に、上記TiO 薄膜の厚さを種々変更するだけで、上記ワイヤ12を、人間の歯の色に近い様々な乳白色に調整することができ、前記した各種物性を満足するワイヤ12を得ることができることが判った。

    しかしながら、ノーマルスパッタにより上記白色Ag薄膜の上に、例えばTiO 薄膜を直接スパッタコーティングすると、上記ワイヤ基材上に単層のAg薄膜を形成した場合よりも大きい曲率半径で割れが生じ易くなる。 この傾向は、TiO 膜が厚くなる程、顕著なものとなるとなると共に、Ag薄膜とTiO 薄膜との界面では剥離は生じないものの、Ag薄膜が、ワイヤ基材の界面から剥離する場合がある。

    しかしながら、上記ワイヤ基材に、前記したように下地処理を施すか、あるいは、スパッタコーティングに際し、バイアス電圧負荷をかけることで、上記ワイヤ基材とAgとの密着性、ひいてはAg/TiO 二層薄膜全体の密着性が改善される。

    先ず、ワイヤ基板とAg薄膜との密着性について、ノーマルスパッタ(すなわちバイアスなし)を行った場合と、バイアススパッタを行った場合とを比較する。

    〔バイアススパッタによるAg薄膜の曲げ試験〕
    バイアススパッタ法によりワイヤ基材にAgをコーティングしてなるAg薄膜ワイヤ試験片におけるAg薄膜の密着性に及ぼすバイアス電圧の影響を前記曲げ試験により調べた。 作製したAg薄膜の厚さは各々5μm〜6μmとした。 上記バイアススパッタによるAg薄膜の曲げ試験結果を表4に示す。 なお、表4中、下線はAg薄膜が割れたことを示す。

    表4に示す結果から、バイアス電圧を加えると、ワイヤ基材に対するAg薄膜の密着性が大きくなることが判る。 また、バイアス電圧が200V以上になると、曲率半径0.3mmでもAg薄膜に割れが起こらないことが判った。 なお、上記測定においては、何れも、曲げにより亀裂が発生してもAg薄膜が剥離することはなかった。

    次に、上記と同様のワイヤ基材に200Vのバイアス直流電圧を加え、スパッタ時間を変化させたときのAg薄膜ワイヤ試験片におけるAg薄膜の密着性に及ぼす膜厚の影響を調べた。 このときの上記バイアススパッタによるAg薄膜の曲げ試験結果を表5に示す。 なお、下記表5においても、下線はAg薄膜が割れたことを示す。

    表5に示すように、スパッタ時間が1分間の場合にはAg薄膜が割れてワイヤ基材表面から剥離するが、3分間以上のスパッタを行うことで、Ag薄膜の割れを防止することができることが判る。

    〔バイアススパッタしたAg薄膜の表面形態と超微小硬さ〕
    バイアススパッタしたAg薄膜について光学顕微鏡でその表面を観察すると共に、超微小硬度計で表面硬さの測定を行い、バイアススパッタしない薄膜と比較した。 この結果、バイアススパッタしたAg薄膜の方が、バイアスなしの場合よりもその表面が平らになることが判った。 また、Ag薄膜の表面の硬さは、バイアススパッタを行った場合がHUT[68]130〜160、バイアスなしの場合がHUT[68]110〜120と、バイアススパッタを行った場合の方が、硬度が高くなることが判った。

    以上のことから、バイアススパッタを行うことで、Ag薄膜の密着性、表面粗さおよび表面の硬さを改善することができることが判った。

    また、以上のことから、バイアススパッタは、Ag薄膜の密着性の改善に非常に有効であることが判る。 本願発明者等の測定によれば、200VのDCバイアス電圧でバイアススパッタしたAg薄膜は、スパッタ時間1分間で曲げ曲率半径が約0.6mm、スパッタ時間3分間以上で曲げ曲率半径が約0.3mmまで割れたり剥離したりすることがなかった。

    そこで、次に、ノーマルスパッタ(バイアスなし)およびバイアススパッタしたAg薄膜にTiO 薄膜を形成(バイアスなし)したときの曲げ試験による二層薄膜の密着性を評価した結果を以下に示す。

    〔Ag/TiO 二層薄膜の作製〕
    以下の測定に使用したAg/TiO 二層薄膜は、以下のようにして作製した。

    前記したワイヤ基材上にバイアスなしまたはバイアス有りの条件下でスパッタした前記白色Ag薄膜の上に、純Tiをターゲット(金属ターゲット)として、ArとO との混合ガスを用いてTiO 薄膜をスパッタコーティングした。 上記TiO のスパッタにおけるスパッタガスの酸素分圧は20%、スパッタ真空度0.5Pa(4×10 −3 Torr)、高周波出力300W、スパッタ時間1〜4時間、到達真空度1.3×10 −4 Pa(1×10 −6 Torr、2時間)とした。 なお、上記Ag薄膜の厚さは5μmとした。

    ノーマルスパッタによりAg膜に形成したTiO 薄膜の曲げ試験結果を表6に示す。 また、バイアススパッタしたAg膜に形成したTiO 薄膜の曲げ試験結果を表7に示す。 さらに、表6および表7に示すTiO 薄膜のスパッタ時間と曲げ曲率半径との関係をまとめて図6に示す。 なお、上記曲げ試験は、前記した方法を用いて行った。 また、図6において、「△」はAg膜が割れた場合を示す。

    表6、表7および図6から明らかなように、上記Ag薄膜をノーマルスパッタにより形成した場合と比較して、上記Ag薄膜をバイアススパッタにより形成した場合は、上記Ag薄膜と基材との密着性が向上することから、Ag/TiO 二層薄膜全体の密着性が改善されることが判る。 TiO のスパッタ時間が1時間の試料と2時間の試料とは、曲げ試験治具で、完全な折り曲げよりも小さく曲げても割れなかった。 また、TiO のスパッタ時間が3時間の試料では3本のうち1本が割れ、TiO のスパッタ時間が4時間の試料では2本が割れたが、剥離は起きていないし、割れも短く、また、全てのバイアススパッタ試料で、バイアスなしの場合より、割れ発生時の曲げ曲率半径が小さくなった。

    〔Ag/TiO 二層薄膜試験片の3%NaCl水溶液中での剥離挙動〕
    下地のAg薄膜をバイアスなしでスパッタした場合におけるAg/TiO 二層薄膜試験片の3%NaCl水溶液中における剥離挙動を図7に示す。 また、下地のAg薄膜をバイアススパッタした場合におけるAg/TiO 二層薄膜試験片の3%NaCl水溶液中における剥離挙動を図8に示す。 図7および図8に示す結果から、下地のAg薄膜をバイアススパッタすることにより、上記Ag薄膜と基材との密着性、ひいては上記Ag/TiO 二層薄膜全体の密着性が改善されることが判る。

    以上のように、本実施の形態によれば、Ag薄膜とワイヤ基材1との密着性を高めるためには、バイアススパッタ法が好適であることが判る。

    なお、上記した具体例においては、Ag薄膜とワイヤ基材1との密着性を高めるために、Ag薄膜をバイアススパッタにより形成する場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、上記ワイヤ基材1上に、上記下地層2および表皮層3として、上記したようにAg/TiO 薄膜を設ける場合、Ag薄膜の剥離強度改善、並びに、Ag薄膜とTiO 薄膜の密着性を改善するために、図13に示すように、上記下地層2と表皮層3との間に、中間層4として、例えば、下地層2のAgの白色を変化させないように、極めて薄い膜厚を有するチタンスパッタ薄膜を設ける構成としてもよい。

    Ag薄膜上に直接TiO 薄膜をスパッタコーティングする場合、TiO 薄膜の形成のために、スパッタガスに酸素を混合させることで、下地層2となるAg薄膜が酸化し、この結果、Ag薄膜単層よりもAg薄膜とワイヤ基材1との密着性が低下するものと考えられる。 したがって、Ag薄膜とTiO 薄膜との間に、Arガス等の不活性ガスを使用し、酸素ガスを使用しないで薄膜コーティングを行うことで、上記Ag薄膜がワイヤ基材1から剥離することを防止することができる。 なお、上記Ag薄膜とTiO 薄膜との間に中間層4を形成する場合、該中間層4としてTi薄膜を形成する際には、該Ti薄膜の膜厚が厚くなると、上記TiO 薄膜を透視して視認される色が変わることから、上記中間層4は、Ag薄膜の酸化を防止することができると共に、下地のAg薄膜の白色が保たれる程度に薄く形成されることが望ましい。 また、Ag薄膜上に上記中間層4を介してTiO 薄膜を形成する場合、上記Ag薄膜の酸化を防止し、上記Ag薄膜とワイヤ基材1との密着性をさらに高めるためには、例えば上記Ti原子を上記Ag薄膜の側面に廻り込ませることで、上記Ag薄膜の側面を、該Ag薄膜の酸化から保護することが望ましい。

    但し、上記中間層4を形成する場合であっても、さらなる密着性の向上もしくは色調調整のために、上記下地層2をバイアススパッタにより形成したり、上記ワイヤ基材1に前記した下地処理を施したりしても構わない。

    以上のように、上記Ag薄膜と上記ワイヤ基材1との密着性を増加させる方法としては、例えば、上記ワイヤ基材1の下地処理を行う、もしくは、上記Ag薄膜の形成にバイアス電圧負荷をかける、あるいは、記下地層2と表皮層3との間に、中間層4を設ける等、種々の方法により、上記Ag薄膜と上記ワイヤ基材1との密着性を向上させることができる。

    また、本実施の形態によれば、上記下地層2と表皮層3との組み合わせを変更することによっても、上記下地層2とワイヤ基材1との密着性、ひいては上記ワイヤ12の耐久性を向上させることができる。

    例えば、Ag薄膜に代えて、Ag−Ti合金薄膜を使用し、TiO 薄膜に代えてAl 薄膜を使用することで、歯科用品に必要とされる前記特性により一層優れた歯科用品を得ることができる。

    〔Ag−Ti合金薄膜の作製〕
    Ag−Ti二元合金におけるTiの固溶限は、室温で約1重量%である。 以下の具体例においては、放電焼結法により、Tiの含有量を、各々、1重量%、5重量%、10重量%としたAg−Ti合金ターゲットを作製し、スパッタ真空度4×10 −3 Torr(≒0.5Pa)、高周波出力300W、スパッタ時間3分間〜60分間、到達真空度1×10 −6 Torr(≒1.3×10 −4 Pa、2時間)とした。

    〔Ag−Ti合金薄膜の色と密着性〕
    前記したワイヤ基板上に、上記の各ターゲットを用いたAg−10重量%Ti合金薄膜、Ag−5重量%Ti合金薄膜、Ag−1重量%Ti合金薄膜を各々コーティングしたときの、各試料の曲げ試験の結果と色調の測定結果とを表8にまとめて示す。 なお、表8中、「○」は、前記した色調測定方法により測定した色調が、前記歯科用標準色サンプルの色の範囲内にあることを示し、「△」は、上記色調が前記歯科用標準色サンプルの色の範囲から少し外れることを示し、「×」は上記色調が前記歯科用標準色サンプルの色の範囲からかなり外れることを示す。 また、前記した曲げ試験の結果、曲げ曲率半径が0.3mmにおいても上記薄膜が割れたり剥離したりしない場合を「A」、曲げ曲率半径0.3mmまで曲げたときに薄膜の割れが観察されるものの剥離には至らない場合を「B」、曲げ曲率半径0.3mmまで曲げたときに薄膜の剥離が観察される場合を「C」とした。

    表8に示すように、上記Ag−Ti合金薄膜におけるTi含有量が10重量%、5重量%の場合には薄膜の色が悪く、また、通常のノーマルスパッタでは密着性も悪い。 これに対し、Ti含有量が1重量%の場合、ノーマルスパッタにより形成した薄膜の色は歯の色に非常に近いが、密着性は良くなかった。 これに対して、バイアススパッタにより形成したAg−Ti合金薄膜は、色が白くて歯の色とやや異なるが、曲げ試験の結果、曲げ曲率半径が0.3mmまでは薄膜が割れたり剥離したりせず、密着性に優れている。 そこで、薄膜の色と密着性とを両立させるためには、表8に示すように、例えば、先ず初めに5分間、バイアススパッタを行って上記Ag−Ti合金薄膜とワイヤ基材との密着性を向上させた後、バイアス電圧を0にしてさらに5分間ノーマルスパッタを行って色の調整を行うことが望ましい。

    本願発明者等の検討によれば、上記Ag−Ti合金薄膜の色は、バイアス電圧を変更することによって調整が可能である。 また、上記Ag−Ti合金薄膜の色は、Ti含有量によっても調整することができる。 なお、表8にも示すように、Ag−Ti合金薄膜のTi含有量は、1重量%以下であることが好ましい。

    〔Ag−1重量%Ti合金薄膜の表面状態の観察〕
    電子線プローブマイクロアナライザ(EPMA)を用いてAg−1重量%Ti合金薄膜の表面観察を行った。 図10(a)・(b)は、ノーマルスパッタにより形成したAg−1重量%Ti合金薄膜表面の状態を示す図であり、図11(a)・(b)は、バイアススパッタにより形成したAg−1重量%Ti合金薄膜表面の状態を示す図である。 なお、図10(a)と図10(b)、図11(a)と図11(b)とは、各々、上記表面の撮影倍率を変更している。

    図10(a)・(b)および図11(a)・(b)から判るように、バイアススパッタを行った場合、ノーマルスパッタを行った場合と比較して、薄膜の結晶粒が微細化し、ミクロ的な凹凸が増加している。 よって、このような表面性状の変化が、バイアススパッタを行った場合とノーマルスパッタを行った場合とで色調が異なる原因と考えられる。

    なお、上記EPMAによるAg−1重量%Ti合金薄膜の断面の線分析結果を図12に示す。 これによれば、基材とAg−1重量%Ti合金薄膜との間の拡散は殆ど見られず、剥離の原因となる脆い金属間化合物は形成されていなかった。

    以上のように、バイアススパッタを行うことで、Ag薄膜と同様に、Ag−Ti合金薄膜の密着性が改善される。 また、Ag−1重量%Ti合金薄膜の色は乳白色であり、人間の歯の色に近い。 よって、バイアススパッタの途中で、バイアス電源を切ってスパッタを継続するか、もしくは、経時的にバイアス電圧を変更することによって密着性と審美性とを両立することができる。

    なお、上記バイアススパッタにおける電圧は、コーティングする薄膜材料の種類等に応じて適宜変更すればよく、特に限定されるものではないが、基材との密着性を高めると共に、審美性を向上させる上で、コーティング初期段階はバイアス電圧を比較的高く設定し、コーティング終了までの間に、段階的にもしくは経時的にバイアス電圧を低下させることがより望ましい。 すなわち、上記下地層2は、コーティング初期段階(下地層2の形成工程前半)の方が、コーティング後期段階(下地層2の形成工程後半)よりも高いバイアス電圧にてバイアススパッタすることによりコーティングが行われることが望ましい。 これにより、基材との接触面側と表皮層側、つまり、同一材料からなる層において下層部と上層部とで製膜状態(表面性状)が異なる下地層2を得ることができる。 なお、上記バイアス電圧の変更(制御)は、上記ワイヤ12の切断面や側面の性状等によって観察することができる。

    〔Ag−Ti合金/Al 二層薄膜の作製〕
    Ag−1重量%Ti合金薄膜の色は人間の歯の色に近いが、薄膜自身は柔らかく、耐摩耗性が小さく、摩擦係数も高い。 したがって、その表面にさらに硬質透明薄膜をコーティングする必要がある。 しかしながら、Ag−1重量%Ti合金薄膜上に、ArとO との混合ガスにより、Tiをターゲットにして、反応性スパッタによりTiO 薄膜を直接コーティングすると、スパッタ中の変色や、割れが発生する曲げ曲率半径のばらつき等の問題が生じる。

    そこで、本具体例においては、Arガスにより直接セラミックスターゲットをスパッタして、Ag−1重量%Ti合金薄膜上に透明なセラミックス薄膜を形成する。 本具体例では、Al をターゲットに使用し、スパッタガスAr(99.999%)、スパッタ真空度4×10 −3 Torr(≒0.5Pa)、高周波出力300W、スパッタ時間0.5〜2時間、到達真空度1×10 −6 Torr(≒1.3×10 −4 Pa、2時間)により、Ag−1重量%Ti合金薄膜上に、Al を、保護膜(表皮層3)として直接コーティングした。

    〔Ag−Ti合金/Al 二層薄膜の密着性〕
    白いAg−1重量%Ti合金薄膜(バイアススパッタ)と乳白色のAg−1重量%Ti合金薄膜(前半:バイアススパッタ、後半:ノーマルスパッタ)とに、Al 薄膜を形成し、曲げ試験によりその密着性を評価した。 この結果を表9に示す。

    Al 薄膜は、スパッタ時間1時間では、曲げ試験で完全な折り曲げより小さく曲げても割れることがなかった。 一方、スパッタ時間2時間では、膜厚が厚く、3本の試料のうち一本だけは割れたが、他の2本は割れなかった。 また、Al 薄膜とAg−1重量%Ti合金薄膜との密着性、並びに、Ag−1重量%Ti合金薄膜と基板との密着性はともに大きかった。

    〔Ag−Ti合金/Al 二層薄膜の色調〕
    Ag薄膜(白色)、白いAg−1重量%Ti合金薄膜(バイアススパッタ)と乳白色のAg−1重量%Ti合金薄膜(前半:バイアススパッタ、後半:ノーマルスパッタ)とに、Al 薄膜を、スパッタ時間30分間、60分間、120分間でコーティングしたときのAgTi−Al 二層薄膜の色調を調べた。 この結果を表10に示す。 なお、表10においても、「○」は、前記した色調測定方法により測定した色調が、前記歯科用標準色サンプルの色の範囲内にあることを示し、「△」は、上記色調が前記歯科用標準色サンプルの色の範囲から少し外れることを示し、「×」は上記色調が前記歯科用標準色サンプルの色の範囲からかなり外れることを示す。

    Ag薄膜にAl をコーティングしたときの色は、基本的に、下地のAg薄膜の白色に近く、歯の色とは異なっていた。 また、30分間スパッタしたAl 薄膜の膜厚は薄くて干渉光が見られた。

    また、乳白色のAg−1重量%Ti合金薄膜(バイアススパッタ後ノーマルスパッタ)にAl 薄膜をスパッタすると、スパッタ時間に拘らず乳白色がやや暗くなった。 また、白いAg−1重量%Ti合金薄膜にAl 薄膜をコーティングすると、薄膜の色がやや黄色になり、歯の色に近い色が得られた。 なお、Al 薄膜は透明であり、Al 薄膜の膜厚が変化しても、色はあまり変わらない。 このように、Al 薄膜を通して見た下地層2としてのAg−1重量%Ti合金薄膜の色が、Al 薄膜のコーティングによって変化した理由は定かではないが、下地層2としてのAg−1重量%Ti合金薄膜の凹凸にAl が入り込んで光の反射に違いが生じたためであると考えられる。

    〔Ag−Ti合金/Al 二層薄膜の密着性〕
    本実施の形態によれば、前記したワイヤ基材上に、下地層2としてAgTi合金をコーティングした後、該AgTi合金下地に、表皮層3としてAl をコーティングしたワイヤ(二層膜ワイヤ)を大気中で曲げたところ、曲率半径0.35mm(実使用においてはこれほど厳しい曲げを行うことはない)でも割れや剥離が発生しなかった。

    〔AgTi/Al 二層薄膜の3%NaCl水溶液における剥離寿命〕
    また、Ag−Ti合金薄膜をバイアススパッタにより形成した場合におけるAg−Ti/Al 二層薄膜試験片の3%NaCl水溶液中における剥離挙動を図9に示す。 試料としてAg−Ti合金/Al 二層薄膜試験片を使用した場合、曲率半径1.5mm以上では450時間経過しても割れが起こらず、このような厳しい腐食性環境でも耐久性があることが判る。 なお、口内の腐食環境はこれほど厳しくないが、皮膚との接触、歯磨き時のブラシとの接触がある。 しかしながら、Ag−Ti合金/Al 二層薄膜を形成した歯科矯正具を使用した歯科臨床試験を行ったところ、1ヶ月間は上記薄膜が剥離することはなく、従来品の約3倍以上の耐久性があることが判った。 なお、剥離が生じる界面は主に下地層2とワイヤ基材1との界面であり、表皮層3と下地層2との密着性は高い。

    また、図7〜図9から明らかなように、Ag−Ti合金/Al 二層薄膜は、Ag/TiO 二層薄膜と比較して,3%NaCl水溶液中における剥離寿命が長く、耐久性に優れていることが判る。

    以上のように、Al 薄膜は透明な膜であり、Ag−Ti合金/Al 二層薄膜の色は、下地のAg−Ti合金薄膜の色によって制御することができる。 また、下地層2としてのAg−Ti合金薄膜の色は、Ag−TiターゲットにおけるTi含有量あるいはスパッタ時のバイアス電圧の大きさにより調整することができる。

    さらに、Al 薄膜の密着性は、2時間以下のスパッタで十分であり、また、Ag−Ti合金/Al 二層薄膜の形成プロセスは単純であり、制御もし易いことから、自動化が容易であるという利点をも有している。

    なお、上記具体例においては、Ag−1重量%Ti合金薄膜上に、TiO 薄膜をコーティングする代わりにAl 薄膜をコーティングする場合を例に挙げて説明したが、上記具体例はこれに限定されるものではなく、バイアススパッタや下地処理、中間層4の形成等を行うことで、Ag−1重量%Ti合金薄膜上に、TiO 薄膜を形成してもよい。

    以上のように、上記Al 、TiO は、それのみでは自然歯の色調に似せることはできないが、下地層2と組み合わせることで、自然歯の色調に似せることができ、さらに、上記表皮層3の膜厚調整による色調変化を利用して微細な色調整を行うこともできる。

    なお、本実施の形態では、上記コーティング層を二層もしくは三層にて形成する場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、上記コーティング層は、各々の目的に応じて複数の層から形成されている構成とすればよい。 また、本実施の形態では、上記下地層2および表皮層3がワイヤ基材1上に形成されている場合を例に挙げて説明したが、前記基材としては、ワイヤ基材に限定されるものではなく、用途に応じて種々の形状、材質の基材を使用することができる。 また、上記基材は、その用途によっては必ずしも必要ではなく、上記下地層2が基材を兼ねる構成を有していてもよい。

    また、本実施の形態では、下地層2および表皮層3のコーティング方法として、例えばスパッタ、バイアススパッタを例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、従来公知の各種のコーティング方法を採用することができる。

    スパッタ、バイアススパッタ以外の上記下地層2のコーティング方法としては、具体的には、例えば、イオンプレーティング、蒸着等のPVD(物理蒸着);CVD(化学蒸着);メッキ;等のコーティング方法が挙げられる。 また、上記表皮層3のコーティング方法としては、例えば、ゾルゲル法、CVD法等による透明酸化物のコーティング等、従来公知の各種コーティング方法を採用することができる。

    以上のように、本実施の形態によれば、前記多層コーティング皮膜により、従来の単層コーティングに比べ、審美性、矯正効果、耐久性が格段に優れ、白色で矯正効果が大きく、治療中にコーティング膜が剥離しない歯科矯正具を提供することができる。 特に、歯並びの矯正は、歯磨きを容易にして歯周病を未然に防ぐ効果がある。 また、高齢者においては、入れ歯ではなく、本人の歯で物を噛むことが思考力の減退を抑え、消化と健康保持に大きく寄与する。 よって、本発明は、歯並びの矯正期間を短縮することに加え、審美的な側面から、歯並び矯正希望者の心理的抵抗を和らげるのに大きな効果を発揮することができる。

    なお、本実施の形態では、前記したように、本発明にかかる歯科用品として、歯科矯正具11、特に、該歯科矯正具11において、力学的あるいは化学的に最も厳しい条件にさらされるワイヤ12を例に挙げて説明したが、上記ワイヤ12のコーティングが完成すれば、加わる力が少ないブラケット13や歯冠への応用は容易であることは明白である。

    上記歯科矯正具11は、上記ワイヤ12およびブラケット13の両方が上記下地層2および表皮層3を備えることが望ましいが、例えばブラケット13の大きさや形状等によっては、上記ワイヤ12およびブラケット13の何れか一方のみ、例えば少なくともワイヤ12が、前記多層コーティング皮膜、すなわち、前記下地層2および表皮層3を備えている構成としてもよい。 例えば、ブラケット13は使用に際し、ワイヤ12と比べて加わる力が少ないことから、上記ワイヤ12とブラケット13とが係合した状態におけるブラケット13の露出面積が小さい場合等、ブラケット13の大きさや形状、さらにはワイヤ12との接触部(例えば前記凹部14a)の材質や表面性状等によっては、ブラケット13の露出部に対しては審美性を優先させ、ワイヤ12によって摩擦係数を調整することも可能であり、ワイヤ12のみが上記下地層2および表皮層3を備えている構成としても構わない。

    上記歯科矯正具11は、少なくとも、上記ワイヤ12とブラケット13とが係合した状態における上記ワイヤ12および/またはブラケット13の露出部分に前記した多層コーティングが施されていることが望ましく、両者の接触部にも前記した多層コーティングが施されていることが、前記したように従来よりも摩擦係数を低減させ、歯科矯正効果を高める上でより好ましい。

    以上のように、本実施の形態にかかる前記多層コーティング皮膜を備えた歯科用品としては、審美性および耐久性に優れ、ワイヤ(直線状:断面矩形および円形,曲線状:超弾性合金ワイヤ)や、歯に直接接着してワイヤを固定するブラケットのみならず、差し歯や入れ歯等の擬似歯の材料や、歯冠(歯冠前面のコーティング)、歯科補綴物クラスプ等、各種歯科用品に好適に使用することができる。

    なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。

    本発明にかかる歯科用品は、歯科用品に要求される、審美性を満足させるための機能とその他の機能とを共に兼ね備えているので、ワイヤやブラケット等の歯科矯正具、差し歯や入れ歯等の擬似歯の材料、歯冠(歯冠前面のコーティング)、歯科補綴物クラスプ等の用途に好適に使用することができる。

    本発明の実施の一形態にかかる歯科矯正用のワイヤの構成を模式的に示す断面図である。

    (a)は、本発明の実施の一形態にかかる歯科矯正具の概略構成を示す斜視図であり、(b)は、(a)に示す歯科矯正具の要部の分解斜視図である。

    Ag薄膜に亀裂が発生するときのワイヤの曲げ曲率半径とワイヤ基材の表面粗さおよび膜厚との関係を示すグラフである。

    曲げ試験によってAg薄膜に割れが発生する時の曲げ曲率半径とスパッタ出力のパワーおよび膜厚との関係を示すグラフである。

    高周波スパッタ法によりワイヤにコーティングしたAg薄膜の3%NaCl水溶液中の保持時間と、割れ・剥離発生歪みおよび曲率半径との関係を示すグラフである。

    ノーマルスパッタまたはバイアススパッタしたAg膜に形成したTiO

    薄膜のスパッタ時間と曲げ曲率半径との関係を示すグラフである。

    下地のAg薄膜をバイアスなしでスパッタした場合におけるAg/TiO

    二層薄膜試験片の3%NaCl水溶液中の保持時間と、割れ・剥離発生歪みおよび曲率半径との関係を示すグラフである。

    下地のAg薄膜をバイアススパッタした場合におけるAg/TiO

    二層薄膜試験片の3%NaCl水溶液中の保持時間と、割れ・剥離発生歪みおよび曲率半径との関係を示すグラフである。

    Ag−Ti合金薄膜をバイアススパッタにより形成した場合におけるAg−Ti/Al

    二層薄膜試験片の3%NaCl水溶液中の保持時間と、割れ・剥離発生歪みおよび曲率半径との関係を示すグラフである。

    (a)・(b)は、ノーマルスパッタにより形成したAg−1重量%Ti合金薄膜表面の状態を示す図である。

    (a)・(b)は、バイアススパッタにより形成したAg−1重量%Ti合金薄膜表面の状態を示す図である。

    電子線プローブマイクロアナライザによるAg−1重量%Ti合金薄膜の断面の線分析結果を示す図である。

    本発明の実施の一形態にかかる他の歯科矯正用のワイヤの構成を模式的に示す断面図である。

    符号の説明

    1 ワイヤ基材 2 下地層(第1の機能層)
    3 表皮層(第2の機能層)
    4 中間層11 歯科矯正具(歯科用品)
    12 ワイヤ(歯科用品)
    13 ブラケット(歯科用品)
    14 ワイヤ装着部14a 凹部

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