植物体、食品、培養物、肥料及び製造方法

申请号 JP2017027866 申请日 2017-02-17 公开(公告)号 JP2018130091A 公开(公告)日 2018-08-23
申请人 国立大学法人 筑波大学; 发明人 大津 厳生;
摘要 【課題】エルゴチオネインを含有する 植物 体、食品、培養物、 肥料 、及び該植物体の製造方法を提供すること。 【解決手段】新鮮重量100gあたり0.5μg以上のエルゴチオネインを含有する植物体。100gあたり0.5μg以上のエルゴチオネイン含有する食品(ただし、エルゴチオネインを生合成可能な 微 生物 を含む食品等は除く。)。エルゴチオネインを生合成可能な微生物の培養物であり、エルゴチオネインを50mg/L以上含有する培養物。エルゴチオネインを生合成可能な微生物の培養物を含む肥料。前記植物体の製造方法であって、エルゴチオネインを含有する栽培培地で、植物体を栽培する栽培工程を有し、前記栽培培地はエルゴチオネインを1μg/L以上含有する、製造方法。 【選択図】なし
权利要求

新鮮重量100gあたり0.5μg以上のエルゴチオネインを含有する植物体。新鮮重量100gあたり20μg以上のエルゴチオネインを含有する請求項1に記載の植物体。前記エルゴチオネインの含有量が葉におけるものである、請求項1又は2記載の植物体。アブラナ科に属する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の植物体。100gあたり0.5μg以上のエルゴチオネイン含有する食品(ただし、エルゴチオネインを生合成可能な生物を含む食品、エルゴチオネインを生合成可能なキノコを含む食品、エルゴチオネインを生合成可能な微生物により発酵された発酵食品、及びそれらの加工食品は除く。)。100gあたり20μg以上のエルゴチオネインを含有する請求項5に記載の食品。エルゴチオネインを生合成可能な微生物の培養物であり、エルゴチオネインを50mg/L以上含有する培養物。前記エルゴチオネインを生合成可能な微生物が、システイン生産能が増大するよう改変された微生物である、請求項7に記載の培養物。エルゴチオネインを生合成可能な微生物の培養物を含む肥料。前記エルゴチオネインを生合成可能な微生物が、システイン生産能が増大するよう改変された微生物である、請求項9に記載の肥料。分含量が30質量%以下である請求項9又は10に記載の肥料。請求項1〜4の何れか一項に記載の植物体の製造方法であって、 エルゴチオネインを含有する栽培培地で、植物体を栽培する栽培工程を有し、 前記栽培培地はエルゴチオネインを1μg/L以上含有する、製造方法。前記栽培培地はエルゴチオネインを0.1mg/L以上含有する、請求項12に記載の製造方法。前記栽培培地がエルゴチオネインを生合成可能な微生物の培養物を含む、請求項12又は13に記載の製造方法。前記エルゴチオネインを生合成可能な微生物が、システイン生産能が増大するよう改変された微生物である、請求項12〜14のいずれか一項に記載の製造方法。前記植物体を収穫する収穫工程を有し、 前記栽培工程が、前記収穫工程の前の10日以内に行われる、請求項12〜15のいずれか一項に記載の製造方法。

说明书全文

本発明は、エルゴチオネインを含有する植物体、食品、培養物、肥料、及び該植物体の製造方法に関する。

硫黄は、人体を構成する要素として必須の成分である。ヒトの硫黄源は、食事を通して摂取される有機性硫黄化合物であり、地球上での生物学的な硫黄循環において、微生物が無機硫黄から有機性硫黄化合物への同化を担っている。 エルゴチオネインは、含硫アミノ酸の一種であり、一部の微生物でのみ生合成されることが知られる。エルゴチオネインは抗酸化作用に優れ、その作用はビタミンEの6000倍ともいわれる。そのため、健康・美容の分野等において、非常に利用価値の高い化合物である。 例えば、特許文献1には、キノコ由来のエルゴチオネイン及び/又はその誘導体を含有する抽出物を含有した皮膚外用剤が記載され、この皮膚外用剤は、皮膚の老化の予防の面等から優れているとされる。

特開2012−211120号公報

しかし、市販のエルゴチオネインは高価なものであり、エルゴチオネインを含有させた商品の普及の妨げとなっている。

上記のような背景に鑑み、本発明は、エルゴチオネインを含有する植物体、培養物、肥料、及び該植物体の製造方法を提供することを目的とする。

本発明に係る、植物体、食品、培養物、肥料、及び該植物体の製造方法は、以下の態様を有する。 [1]新鮮重量100gあたり0.5μg以上のエルゴチオネインを含有する植物体。 [2]新鮮重量100gあたり20μg以上のエルゴチオネインを含有する前記[1]に記載の植物体。 [3]前記エルゴチオネインの含有量が葉におけるものである、前記[1]又は[2]記載の植物体。 [4]アブラナ科に属する、前記[1]〜[3]のいずれか一つに記載の植物体。 [5]100gあたり0.5μg以上のエルゴチオネイン含有する食品(ただし、エルゴチオネインを生合成可能な微生物を含む食品、エルゴチオネインを生合成可能なキノコを含む食品、エルゴチオネインを生合成可能な微生物により発酵された発酵食品、及びそれらの加工食品は除く。)。 [6]100gあたり20μg以上のエルゴチオネインを含有する前記[5]に記載の食品。 [7]エルゴチオネインを生合成可能な微生物の培養物であり、エルゴチオネインを50mg/L以上含有する培養物。 [8]前記エルゴチオネインを生合成可能な微生物が、システイン生産能が増大するよう改変された微生物である、前記[7]に記載の培養物。 [9]エルゴチオネインを生合成可能な微生物の培養物を含む肥料。 [10]前記エルゴチオネインを生合成可能な微生物が、システイン生産能が増大するよう改変された微生物である、前記[9]に記載の肥料。 [11]分含量が30質量%以下である前記[9]又は[10]に記載の肥料。 [12]前記[1]〜[4]の何れか一つに記載の植物体の製造方法であって、 エルゴチオネインを含有する栽培培地で、植物体を栽培する栽培工程を有し、 前記栽培培地はエルゴチオネインを1μg/L以上含有する、製造方法。 [13]前記栽培培地はエルゴチオネインを0.1mg/L以上含有する、前記[12]に記載の製造方法。 [14]前記栽培培地がエルゴチオネインを生合成可能な微生物の培養物を含む、前記[12]又は[13]に記載の製造方法。 [15]前記エルゴチオネインを生合成可能な微生物が、システイン生産能が増大するよう改変された微生物である、前記[12]〜[14]のいずれか一つに記載の製造方法。 [16]前記植物体を収穫する収穫工程を有し、 前記栽培工程が、前記収穫工程の前の10日以内に行われる、前記[12]〜[15]のいずれか一つに記載の製造方法。

本発明によれば、エルゴチオネインを含有する植物体、食品、培養物、肥料、及び該植物体の製造方法を提供できる。

実施例において、エルゴチオネイン量の算出に使用した検量線である。

実施例5〜8、及び比較例5〜8で栽培した植物体を撮影した画像である。

実施例で使用したpDESプラスミドの構成を示す模式図である。

以下、本発明の植物体、食品、培養物、肥料及び製造方法について、実施形態を示して説明する。

≪植物体≫ 実施形態の植物体は、新鮮重量100gあたり0.5μg以上のエルゴチオネインを含有する。 本来、植物は自らエルゴチオネインを生産することはないため、植物体がエルゴチオネインを多量に含むことはなかった。発明者らは、後述の実施例に示すように、エルゴチオネインを含有する栽培培地で植物体を栽培することにより、植物体にエルゴチオネインを蓄積させることが可能であり、新鮮重量100gあたり0.5μg以上のエルゴチオネインを含有する植物体を製造可能であることを見出した。

実施形態の植物体は、新鮮重量100gあたり0.5μg以上のエルゴチオネインを含有するものであり、1μg以上のエルゴチオネインを含有してもよく、5μg以上のエルゴチオネインを含有してもよく、10μg以上のエルゴチオネインを含有してもよく、20μg以上のエルゴチオネインを含有してもよく、50μg以上のエルゴチオネインを含有してもよく、100μg以上のエルゴチオネインを含有してもよく、150μg以上のエルゴチオネインを含有してもよく、200μg以上のエルゴチオネインを含有してもよく、250μg以上のエルゴチオネインを含有してもよい。

実施形態に係る植物体に含まれるエルゴチオネインの上限値は、特に制限されるものではないが、一例として新鮮重量100gあたり10000μg以下であってよく、1000μg以下であってよい。

「新鮮重量」とは、植物体に人為的な乾燥処理が施されていない状態での重量を指す。前記状態には、植物体が、生鮮品目又は生鮮食品として市場で販売されている形態の状態も含む。

エルゴチオネインは、天然に存在するものであってもよく、人工的又は人為的に製造されたものであってもよい。

エルゴチオネインは、含硫アミノ酸の一種であり、L−(+)−エルゴチオネインとしては、下記式(1)で表される化合物として知られる。

エルゴチオネインの測定方法は、後述の実施例に記載の方法により実施することができる。

エルゴチオネインは、抗酸化作用を有しており、酸化されてジスルフィドを形成するなどの酸化型の形態をとりうる。本明細書において、植物体が含有するエルゴチオネインとして測定される対象は、上記のエルゴチオネインの他に酸化型のエルゴチオネインを含んで測定されたものであってもよく、酸化型のエルゴチオネインを含まないエルゴチオネインのみが測定されたものであってもよい。

エルゴチオネインは、イオンの形態であってもよく、塩の形態であってもよいが、本発明においてエルゴチオネインの質量は、エルゴチオネインの分子量229.3として算出したものとする。 エルゴチオネインとして測定される対象は、上記のエルゴチオネインの他に酸化型のエルゴチオネインを含んで測定されたものであってもよいが、本発明においてエルゴチオネインの質量は、酸化前のエルゴチオネインの分子量229.3に基づき算出したものとする。 酸化型のエルゴチオネインが多量体を形成している場合は、元の単量体のエルゴチオネインの分子量229.3に基づき算出したものとする。

実施形態の植物体に含まれるエルゴチオネインは、1種のみであってもよく、2種類以上であってもよい。

実施形態の植物体の種類は特に限定されるものではないが、食用の植物が好ましく、例えば、アブラナ科(Brassicaceae)、キク科(Asteraceae)、ナス科(Solanaceae)、マメ科(Fabaceae)、ウリ科(Cucurbitaceae)、イネ科(Poaceae)、アカネ科(Rubiaceae)、ツバキ科(Theaceae)、ヒガンバナ科(Amaryllidaceae)、セリ科(Apiaceae)、サトイモ科(Araceae)等の植物が挙げられる。これらのなかでも、実施形態の植物体は、アブラナ科、キク科又はナス科の植物であることが好ましく、アブラナ科の植物であることがより好ましい。

アブラナ科の植物は、アブラナ属(Brassica)の植物が好ましく、Brassica rapaがより好ましい。実施形態の植物体がアブラナ科の植物であると、植物に高効率にエルゴチオネインが蓄積されやすいため好ましい。このことは、植物が、外界からエルゴチオネインを取り込むための、エルゴチオネイントランスポーターを有しており、特にアブラナ科において有効に機能しているためと考えられる。

上記の観点により、実施形態の植物体は、エルゴチオネイントランスポーターを発現している植物体であることが好ましい。

アブラナ科の植物としては、例えば、ミズナ(Brassica rapa var. laciniifolia)、ノザワナ(Brassica rapa var. hakabura)、コマツナ(Brassica rapa var. perviridis)、ハクサイ(Brassica rapa var. pekinensis)、カブ(Brassica rapa var. glabra、Brassica rapa var. rapa)、キャベツ(Brassica oleracea var. capitata)、メキャベツ(Brassica oleracea var. gemmifera)、カリフラワー(Brassica oleracea var. botrytis)、ブロッコリー(B. oleracea var. italica)、ダイコン(Raphanus sativus var. longipinnatus)等が挙げられる。

キク科の植物としては、例えば、レタス(Lactuca sativa)、サラダナ(Lactuca sativa var. capiata)、シュンギク(Glebionis coronaria)等が挙げられる。

ナス科の植物は、ナス属(Solanum)の植物が好ましい。 ナス科の植物としては、例えば、トマト(Solanum lycopersicum)、ナス(Solanum melongena)、ジャガイモ(Solanum tuberosum)、ピーマン(Capsicum annuum)等が挙げられる。

実施形態の植物体に、キノコ類は含まれないものとする。

実施形態の植物体とは、植物個体全体であってもよく、植物個体の一部分であってもよい。前記部分としては、葉、根、茎、花、果実、種子、花粉等の器官又は組織、及びそれらの組み合わせを例示でき、これらのなかでは、葉が好ましい。

実施形態の植物体において、前記エルゴチオネインの含有量は植物体の葉におけるものであってもよい。

エルゴチオネインは、抗酸化作用に優れている。実施形態の植物体は、新鮮重量100gあたり0.5μg以上のエルゴチオネインを含有しているので、酸化防止作用に優れ、利用価値の高い植物体である。

≪食品≫ 実施形態の食品は、100gあたり0.5μg以上のエルゴチオネイン含有する(ただし、エルゴチオネインを生合成可能な微生物を含む食品、エルゴチオネインを生合成可能なキノコを含む食品、エルゴチオネインを生合成可能な微生物により発酵された発酵食品、及びそれらの加工食品は除く。)。

実施形態の食品は、100gあたり0.5μg以上のエルゴチオネインを含有するものであり、1μg以上のエルゴチオネインを含有してもよく、5μg以上のエルゴチオネインを含有してもよく、10μg以上のエルゴチオネインを含有してもよく、20μg以上のエルゴチオネインを含有してもよく、50μg以上のエルゴチオネインを含有してもよく、100μg以上のエルゴチオネインを含有してもよく、150μg以上のエルゴチオネインを含有してもよく、200μg以上のエルゴチオネインを含有してもよく、250μg以上のエルゴチオネインを含有してもよい。

実施形態に係る食品に含まれるエルゴチオネインの上限値は、特に制限されるものではないが、一例として100gあたり10000μg以下であってよく、1000μg以下であってよい。

上記食品の重量は、市場で販売されている形態の状態で測定されたものとする。

実施形態の食品が含有するエルゴチオネインとしては、上述の≪植物体≫で例示したものが挙げられ、詳細な説明を省略する。

エルゴチオネインの測定方法は、後述の実施例に記載の方法により実施することができる。

本明細書において、食品が含有するエルゴチオネインとして測定される対象は、上記のエルゴチオネインの他に酸化型のエルゴチオネインを含んで測定されたものであってもよく、酸化型のエルゴチオネインを含まないエルゴチオネインのみが測定されたものであってもよい。

実施形態の食品の定義において、これから除かれるものは、本来エルゴチオネインを生産可能な微生物が原料として用いられた食品である。 エルゴチオネインを生合成可能な微生物を含む食品としては、例えば、エルゴチオネインを生合成可能なシアノバクテリア等の細菌類を含む海苔や、エルゴチオネインを生合成可能な菌類が形成するキノコ等を含むものが挙げられる。 エルゴチオネインを生合成可能なキノコとしては、例えば、シイタケ、ヒラタケ、エリンギ等が挙げられる。 エルゴチオネインを生合成可能な微生物により発酵された発酵食品の品目としては、例えば、漬物、みそ、パン、ヨーグルト、チーズ等が挙げられる。

実施形態の食品は、本発明の実施形態の植物体のうち、食用の植物体を包含する概念である。また、実施形態の植物体の、加工品(例えば、実施形態の植物体から得られた抽出物、破砕物、ペースト、調理品、惣菜、缶詰、乾物、冷凍食品、飲料、アルコール飲料、菓子類、調味料、油脂、ジャム、香辛料、食品添加物、健康食品、サプリメント等。)も、実施形態の食品に包含される。

更に、実施形態の食品として、本発明の実施形態の植物体を飼料として与えることで飼育された動物の肉類、魚介類、卵類、乳類、油脂類及びその加工品も包含される。肉類としては、肉、豚肉、鶏肉等が挙げられる。

エルゴチオネインは、抗酸化作用に優れている。実施形態の食品は、100gあたり0.5μg以上のエルゴチオネインを含有しているので、酸化防止作用に優れ、利用価値の高い食品である。

≪培養物・肥料≫ 実施形態の培養物は、エルゴチオネインを生合成可能な微生物の培養物であり、エルゴチオネインを50mg/L以上含有する。

実施形態に係る培養物は、エルゴチオネインを50mg/L以上含有するものであり、エルゴチオネインを100mg/L以上含有してもよく、エルゴチオネインを200mg/L以上含有してもよく、エルゴチオネインを300mg/L以上含有してもよく、エルゴチオネインを400mg/L以上含有してもよく、エルゴチオネインを500mg/L以上含有してもよく、エルゴチオネインを600mg/L以上含有してもよい。

実施形態に係る培養物に含まれるエルゴチオネインの上限値は、特に制限されるものではないが、一例として10000mg/Lであってよい。

エルゴチオネインを生合成可能な微生物は、本来エルゴチオネインを生合成する能を備えた微生物であってもよい。このような微生物としては、シアノバクテリア、マイコバクテリア等のエルゴチオネインを生合成可能な特定の細菌類が挙げられる。

エルゴチオネインを生合成可能な微生物は、エルゴチオネインの生産を向上可能なように人為的に改変された微生物であってもよく、本来はエルゴチオネインを生合成可能ではないが、エルゴチオネインを生合成可能なように人為的に改変された微生物であってもよい。このような微生物についての詳細は後述する。

実施形態の培養物は、エルゴチオネインを生合成可能な微生物を培地で培養することにより得られ、前記培養物には、エルゴチオネインが50mg/L以上含有されている。当該培養物を得る方法については、後述の<エルゴチオネインの製造方法>も参照するものとする。

培養物の形態は、特に制限されず、固体であってもよく、液体であってもよく、両方の混合形態であってもよく、例えば、液剤、粉剤、粒剤、錠剤、タブレット剤、カプセル剤などの形態であってよい。 なお、実施形態の培養物からキノコ類は除かれるものとする。 前記培養物は、培養後の培地を加工した加工物を含む。培地は液体培地であってよい。ここで加工物とは、培地に含まれる揮発成分を揮発させ、エルゴチオネインを濃縮させたものや、エルゴチオネインを抽出してエルゴチオネインを精製したものなどを含む。

実施形態の肥料は、エルゴチオネインを生合成可能な微生物の培養物を含む。すなわち、当該培養物は、エルゴチオネインを含む肥料として使用可能であり、植物に施用することで、エルゴチオネインを含有する植物体を栽培できる。

肥料の形態は、特に制限されず、固体であってもよく、液体であってもよく、両方の混合形態であってもよく、例えば、液剤、粉剤、粒剤、錠剤、タブレット剤、カプセル剤などの形態であってよい。

実施形態の肥料の水分含量は、輸送性などの点から少ないことが好ましく、例えば、水分含量が30質量%以下であってもよく、25質量%以下であってもよく、20質量%以下であってもよく、15質量%以下であってもよい。 微生物の培養物を含み、水分含量が上記範囲内の肥料であれば、通常、粒剤や粉剤などの形態を有しており、肥料としての輸送性に優れ、且つ肥料としての使用性も良好である。

実施形態の肥料は、エルゴチオネインを生合成可能な微生物の培養物そのものであってもよく、実施形態の培養物に、水等の希釈剤や、養分等の添加剤が添加されたものでもよい。 実施形態の肥料は、実施形態の培養物を原材料として用いて、製造可能である。例えば、実施形態の培養物を、滅菌処理し、破砕処理した後に、メタノール等の溶媒で溶媒抽出し溶媒を除去すれば、エルゴチオネインを高濃度で含有し、上記の水分含量を満たす肥料を製造できる。

肥料中のエルゴチオネインの含有量は、特に制限されるものではないが、0.01mg〜250g/Lであってもよく、0.1mg〜10000mg/Lであってもよく、0.5〜1000mg/Lであってもよい。

≪植物体の製造方法≫ 実施形態の製造方法は、実施形態の植物体の製造方法であって、エルゴチオネインを含有する栽培培地で、植物体を栽培する栽培工程を有し、前記栽培培地はエルゴチオネインを1μg/L以上含有する。

発明者らは、後述の実施例に示すように、エルゴチオネインを含有する栽培培地で植物体を栽培することにより、植物体にエルゴチオネインを蓄積させることが可能であり、新鮮重量100gあたり0.5μg以上のエルゴチオネインを含有する実施形態の植物体を製造可能であることを見出した。すなわち、エルゴチオネインを含有する栽培培地で植物体を栽培することにより、栽培培地に含まれるエルゴチオネインを、植物体を用いて回収可能であることを見出した。

実施形態に係る栽培培地は、エルゴチオネインを1μg/L以上含有するものであり、エルゴチオネインを0.01mg/L以上含有してもよく、エルゴチオネインを0.1mg/L以上含有してもよく、エルゴチオネインを1mg/L以上含有してもよく、エルゴチオネインを10mg/L以上含有してもよく、エルゴチオネインを50mg/L以上含有してもよく、エルゴチオネインを100mg/L以上含有してもよく、エルゴチオネインを250mg/L以上含有してもよく、エルゴチオネインを500mg/L以上含有してもよく、エルゴチオネインを600mg/L以上含有してもよい。 上記下限値以上でエルゴチオネインを含有する栽培培地を用いることで、植物体にエルゴチオネインが効率的に蓄積されやすい。

実施形態に係る栽培培地は、エルゴチオネインを10000mg/L以下含有してもよく、エルゴチオネインを1000mg/L以下含有してもよく、エルゴチオネインを800mg/L以下含有してもよく、エルゴチオネインを300mg/L以下含有してもよく、エルゴチオネインを100mg/L以下含有してもよく、エルゴチオネインを10mg/L以下含有してもよく、エルゴチオネインを1mg/L以下含有してもよい。 上記上限値以下でエルゴチオネインを含有する栽培培地であっても、植物体はエルゴチオネインを蓄積することができるので、低濃度のエルゴチオネインを含む栽培培地からでも植物体を用いてエルゴチオネインを回収又は濃縮可能である。

実施形態に係る栽培培地は、エルゴチオネインを1μg/L以上10000mg/L以下含有してもよく、0.01mg/L以上1000mg/L以下含有してもよく、0.1mg/L以上800mg/L以下含有してもよく、1mg/L以上300mg/L以下含有してもよい。

エルゴチオネインの測定方法は、後述の実施例に記載の方法により実施することができる。

本明細書において、栽培培地が含有するエルゴチオネインとして測定される対象は、酸化型のエルゴチオネインを含まないエルゴチオネインのみが測定されたものとする。

「エルゴチオネインを含有する栽培培地で、植物体を栽培する」とは、エルゴチオネインを含有する栽培培地と植物体が接した状態で植物体を栽培することを意味し、エルゴチオネインを含有する栽培培地と植物体の根が接した状態で植物体を栽培することが好ましい。植物体の根は、全部が前記栽培培地と接してもよく、一部のみが前記栽培培地と接してもよい。

実施形態の製造方法に用いられるエルゴチオネインとしては、上述の≪植物体≫で例示したものが挙げられ、詳細な説明を省略する。

実施形態の製造方法に用いられるエルゴチオネインは、植物が取り込める形態であれば、イオンの形態であってもよく、塩の形態であってもよい。

実施形態の栽培方法に用いられるエルゴチオネインは、天然に存在するものであってもよく、人工的又は人為的に製造されたものであってもよい。

天然に存在するエルゴチオネインとしては、エルゴチオネインを生合成可能な微生物により産生されたものが挙げられる。前記微生物としては、シアノバクテリア、マイコバクテリア等の特定の細菌類や、シイタケ、ヒラタケ、エリンギ等の特定のキノコなどを含む菌類を例示できる。エルゴチオネインを生合成可能な微生物から回収されたエルゴチオネインや、精製されたエルゴチオネインを用いてもよい。

人工的又は人為的に製造されたエルゴチオネインとしては、エルゴチオネインを生合成可能な微生物を人為的に培養して産生させた、エルゴチオネインが挙げられる。 また、エルゴチオネインの生産を向上可能なように人為的に改変された微生物によって産生されたエルゴチオネインや、本来はエルゴチオネインを生合成可能ではないが、エルゴチオネインを生合成可能なように人為的に改変された微生物によって産生されたエルゴチオネインが挙げられ、詳細は≪培養物・肥料≫において説明する。

実施形態の製造方法において、エルゴチオネインは、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を組合せて用いてもよい。

植物体の栽培方法は特に制限されず、例えば、露地栽培や、水耕栽培、温室栽培、ハウス栽培等の施設栽培が挙げられ、これらのなかでは、水耕栽培が好ましい。

「栽培培地」とは、植物の栽培時に植物体と接して、植物の栽培環境を提供するもののうち、土壌、培土、水耕栽培用養液等のエルゴチオネインを含み得るものを指す。ここで、水耕栽培等で用いられるスポンジ等の担体やフロート等の機材は、エルゴチオネインを含有しないので、栽培培地には含めないものとする。栽培培地は、植物の栽培時に植物体の根と接するものであることが好ましい。 実施形態の栽培培地とは、上記栽培培地のうち、エルゴチオネインを1μg/L以上含有するものを指す。

前記栽培培地は、実施形態の培養物、又は実施形態の肥料を含むものであってよい。

実施形態の製造方法における栽培工程は、エルゴチオネインを生合成可能な微生物の培養物を含有する栽培培地で、植物体を栽培するものであってよい。 実施形態の製造方法における栽培工程は、エルゴチオネインを生合成可能な微生物の培養物を含む肥料を含有する栽培培地で、植物体を栽培するものであってよい。

実施形態の肥料を含有する栽培培地は、例えば、土壌、培土、水耕栽培用養液等に実施形態の肥料を施用することで得ることができる。 実施形態の培養物を含有する栽培培地は、例えば、土壌、培土、水耕栽培用養液等に実施形態の培養物を施用することで得てもよく、土壌、培土、水耕栽培用養液等と、実施形態の培養物とを混合することで得てもよい。 実施形態に係る栽培培地として、例えば、実施形態の培養物そのものを使用してもよいし、実施形態の培養物に、水等の希釈剤や、養分等の添加剤を添加したもの使用してもよい。

実施形態の製造方法は、前記栽培工程の前に、エルゴチオネインを含有しない又はエルゴチオネインを1μg/L未満含有する栽培培地に、エルゴチオネインを生合成可能な微生物の培養物を添加し、エルゴチオネインを1μg/L以上含有する栽培培地を得る添加工程を有してもよい。 実施形態の製造方法は、前記栽培工程の前に、エルゴチオネインを含有しない又はエルゴチオネインを1μg/L未満含有する栽培培地に、エルゴチオネインを生合成可能な微生物の培養物を含む肥料を添加し、エルゴチオネインを1μg/L以上含有する栽培培地を得る添加工程を有してもよい。

栽培工程は、植物体が新鮮重量100gあたり0.5μg以上のエルゴチオネインを含有するまで行う。 栽培工程の実施時間、つまりエルゴチオネインを含有する栽培培地と植物体が接した状態で植物体を栽培する時間は、植物体が、新鮮重量100gあたり0.5μg以上のエルゴチオネインを含有するのに要する時間を考慮して適宜定めればよい。一例として、1時間以上であってよく、12時間以上であってよく、24時間以上であってよく、3日以上であってよい。栽培工程は連続して行ってもよく、複数回に分けて行ってもよい。

実施形態の製造方法は、前記栽培工程の後に、前記植物体を収穫する収穫工程を有してもよい。 栽培工程は、収穫工程の直前まで実施されることが好ましい。これによりエルゴチオネインが植物体に蓄積された状態が維持されやすく、また収穫の目的物に効率よくエルゴチオネインを蓄積させることができる。 上記の観点から、前記栽培工程は、前記収穫工程の前の少なくとも10日以内に行われることが好ましく、少なくとも3日以内に行われることが好ましい。

実施形態の製造方法によれば、新鮮重量100gあたり0.5μg以上のエルゴチオネインを含有する実施形態の植物体を製造することができる。

また、実施形態の製造方法によれば、栽培培地中に含まれるエルゴチオネインを植物体に回収又は濃縮することができる。実施形態の製造方法における栽培工程は、いわばエルゴチオネインの精製の工程としても見なすことができ、エルゴチオネインを精製して利用する代わりに、エルゴチオネインを蓄積した植物体としてエルゴチオネインを利用することが可能となる。これにより、エルゴチオネインを安価に供給でき、エルゴチオネインの普及が見込まれる。

<人為的に改変された微生物> <1>微生物 以下、エルゴチオネインを生合成可能な微生物に関し、エルゴチオネインの生産を向上可能なように人為的に改変された微生物について、及びエルゴチオネインを生合成可能なように人為的に改変された微生物について説明する。 これら微生物は、実施形態の培養物、肥料、植物体の製造方法で用いられてもよい前記微生物として、好適に使用可能である。

エルゴチオネインを生合成可能な微生物は、本来的にエルゴチオネイン生産能を有するものであってもよく、エルゴチオネイン生産能を有するように改変されたものであってもよい。エルゴチオネイン生産能を有する微生物は、例えば、微生物にエルゴチオネイン生産能を付与することにより、または、微生物のエルゴチオネイン生産能を増強することにより、取得されてもよい。

エルゴチオネイン生産能を有するように微生物を改変する方法として、エルゴチオネイン合成に関与する遺伝子を保持するように微生物を改変する方法が挙げられる。エルゴチオネイン合成に関与する遺伝子を保持するように微生物を改変することは、エルゴチオネイン合成に関与する遺伝子を微生物に導入することにより達成できる。また、エルゴチオネイン合成に関与する遺伝子を保持するように微生物を改変することは、自然変異や変異原処理により微生物が有する遺伝子に変異を導入することによっても達成できる。

エルゴチオネイン合成に関与する遺伝子としては、エルゴチオネインタンパク質群をコードするegtABCDE遺伝子オペロンが挙げられ、マイコバクテリア由来のegtABCDE遺伝子オペロンが好ましく、マイコバクテリウム属(Mycobacterium)に属する細菌由来のegtABCDE遺伝子オペロンがより好ましく、マイコバクテリウムスメグマチス(Mycobacterium smegmatis)由来のegtABCDE遺伝子オペロンがさらに好ましい。 また、egtABCDE遺伝子としては、Mycobacterium smegmatis等の各種生物由来のegtABCDEの保存的バリアント(元の機能が維持されたバリアント)であってよい。egtABCDEについての「元の機能」とは、エルゴチオネイン合成活性をいう。遺伝子およびタンパク質の保存的バリアントについては、後述するRNAピロホスホヒドロラーゼ遺伝子およびRNAピロホスホヒドロラーゼの保存的バリアントに関する記載を準用できる。

エルゴチオネインを生合成可能な微生物は、システイン生産能が増大するよう改変された微生物であってもよい。システインは、エルゴチオネインの前駆物質であり、システインの生産能が増大することで、微生物のエルゴチオネインの生産力を強化できる。

<1−1>L−システイン生産能を有する微生物 本発明において、「システイン」という用語は、特記しない限り、L−システインを意味する。また、本発明において、「L−システイン」という用語は、特記しない限り、フリー体のL−システイン、その塩、またはそれらの混合物を意味する。塩については後述する。これらのシステインに関する説明は、L−システインの関連物質についても準用できる。すなわち、例えば、「O−アセチルセリン」という用語は、特記しない限り、フリー体のO−アセチル−L−セリン、その塩、またはそれらの混合物を意味する。

微生物は、本来的にL−システイン生産能を有するものであってもよく、L−システイン生産能を有するように改変されたものであってもよい。L−システイン生産能を有する微生物は、例えば、微生物にL−システイン生産能を付与することにより、または、微生物のL−システイン生産能を増強することにより、取得されてもよい。

L−システイン生産能の付与または増強は、従来、微生物の育種に採用されてきた方法により行うことができる(アミノ酸発酵、(株)学会出版センター、1986年5月30日初版発行、第77〜100買参照)。そのような方法としては、例えば、栄養要求性変異株の取得、L−アミノ酸のアナログ耐性株の取得、代謝制御変異株の取得、L−アミノ酸の生合成系酵素の活性が増強された組換え株の創製が挙げられる。L−アミノ酸生産菌の育種において、付与される栄養要求性、アナログ耐性、代謝制御変異等の性質は、単独であってもよく、2種又は3種以上であってもよい。また、L−アミノ酸生産菌の育種において、活性が増強されるL−アミノ酸生合成系酵素も、単独であってもよく、2種又は3種以上であってもよい。さらに、栄養要求性、アナログ耐性、代謝制御変異等の性質の付与と、生合成系酵素の活性の増強が組み合わされてもよい。

L−アミノ酸生産能を有する栄養要求性変異株、アナログ耐性株、又は代謝制御変異株は、親株又は野生株を通常の変異処理に供し、得られた変異株の中から、栄養要求性、アナログ耐性、又は代謝制御変異を示し、且つL−アミノ酸生産能を有するものを選択することによつて取得できる。通常の変異処理としては、X線や紫外線の照射、N−メチル−N'−ニトロ−N−ニトロングアニジン(MNNG)、エチルメタンスルフォネート(EMS)、メチルメタンスルフォネート(MMS)等の変異剤による処理が挙げられる。また、L−アミノ酸生産能の付与又は増強は、目的のL−アミノ酸の生合成に関与する酵素の活性を増強することによっても行うことができる。酵素活性の増強は、例えば、同酵素をコードする遺伝子の発現が増強するように細菌を改変することにより行うことができる。遺伝子の発現を増強する方法は、W000/18935号パンフレット、欧州特許出願公開1010755号明細書等に記載されている。酵素活性を増強する詳細な手法については後述する。

また、L−アミノ酸生産能の付与又は増強は、目的のL−アミノ酸の生合成経路から分岐して目的のL−アミノ酸以外の化合物を生成する反応を触媒する酵素の活性を低下させることによっても行うことができる。なお、ここでいう「目的のL−アミノ酸の生合成経路から分岐して目的のL−アミノ酸以外の化合物を生成する反応を触媒する酵素」には、目的のアミノ酸の分解に関与する酵素も含まれる。酵素活性を低下させる手法については後述する。

以下、L−システイン生産微生物、およびL−システイン生産能を付与または増強する方法について具体的に例示する。なお、以下に例示するようなL−システイン生産微生物が有する性質およびL−システイン生産能を付与または増強するための改変は、いずれも、単独で用いてもよく、適宜組み合わせて用いてもよい。

L−システイン生産能を付与又は増強するための方法としては、例えば、L−システインの生合成系が強化されるように微生物を改変する方法が挙げられる。「L−システインの生合成系を強化する」とは、L−システインの生合成に関与する酵素(L−システイン生合成系酵素ともいう)から選択される1またはそれ以上の酵素の活性を増強することをいう。L−システイン生合成系酵素としては、L−システイン生合成経路の酵素、および同経路の基質となる化合物の生成に関与する酵素が挙げられる。L−システイン生合成系酵素として、具体的には、セリンアセチルトランスフェラーゼ(SAT)や3-ホスホグリセレートデヒドログナーゼ(PGD)が挙げられる。SATおよびPGDをコードする遺伝子を、それぞれSAT遺伝子およびPGD遺伝子ともいう。L−システイン生合成系酵素をコードする遺伝子としては、例えば、エシェリヒア・コリ等のエシェリヒア属細菌由来の遺伝子や、その他各種生物由来の遺伝子のいずれも使用することができる。例えば、SAT遺伝子として、cysE遺伝子がエシェリヒア・コリの野生株及びL−システイン分泌変異株よリクローニングされ、塩基配列が明らかになっている(Denk,D.and Boeck,A.,」.General Microbiol,,133,515-525(1987))。また、例えば、PGD遺伝子として、エシェリヒア・コリ等の各種生物のserA遺伝子が知られている。

また、SATはL−システインによるフィードバック阻害を受けるため、このフィードバック阻害が低減又は解除されたSATを利用してもよい。「フィードバック阻害が低減又は解除されている」ことを「フィードバック阻害に耐性」ともいう。L−システインによるフィードバック阻害が低減又は解除されたSATを「変異型SAT」ともいう。また、変異型SATをコードする遺伝子を「変異型SAT遺伝子」ともいう。すなわち、L−システイン生産能を付与又は増強するための方法としては、例えば、変異型SAT遺伝子を保持するように微生物を改変する方法も挙げられる。すなわち、微生物は、変異型SAT遺伝子を保持するように改変されていてもよい。変異型SAT遺伝子を微生物に保持させることによって、SAT活性を増強することができ得る。変異型SATとしては、野生型SATの256位のメチオニン残基をリジン残基及びロイシン残基以外のアミノ酸残基に置換する変異を有するSATや、野生型SATの256位のメチオニン残基からC末端側の領域を欠失する変異を有するSATが挙げられる(特開平11-155571)。前記「リジン残基及びロイシン残基以外のアミノ酸残基」としては、通常のタンパク質を構成するアミノ酸のうち、メチオニン残基、リジン残基、及びロイシン残基を除く17種類のアミノ酸残基が挙げられる。前記「リジン残基及びロイシン残基以外のアミノ酸残基」として、具体的には、イソロイシン残基およびグルタミン酸残基が挙げられる。また、変異型SATとしては、野生型SATの89〜96位のアミノ酸残基に1又は複数の変異を有するSAT(米国特許公開第20050112731(Al))、野生型SATの95位のバリン残基及び96位のアスパラギン酸残基を、各々アルギニン残基及びプロリン残基に置換する変異を有するSAT(変異型遺伝子名cysE5、米国特許公開第20050112731(Al))、及び野生型SATの167位のスレオニン残基をアラニン残基に置換する変異を有するSAT(変異型遺伝子名cysEX、米国特許第6218168号、米国特許公開第20050112731(Al))も挙げられる。「野生型SAT」とは、上述の変異(L−システインによるフィードバック阻害に耐性となる変異)を有していないSATをいう。ここでいう「野生型」とは、「変異型」と区別するための便宜上の記載であり、上述の変異を有しない限り、天然に得られるものには限定されない。野生型SATとしては、エシェリヒア・コリ等の各種生物由来のSATが挙げられる。また、野生型SATとしては、エシェリヒア・コリ等の各種生物由来のSATの保存的バリアント(元の機能が維持されたバリアント)であって、上記の変異を有しないものも挙げられる。SATについての「元の機能」とは、SAT活性をいう。256位のメチオニン残基をグルタミン酸残基に置換した変異型SATをコードする変異型cysEを含むプラスミドpCEM256Eを保持するエシェリヒア・コリJM39-8株(E.coli JM39-8(pCEM256E)、プライベートナンバー:AJ13391)は、1997年11月20日に通産省工業技術院生命工学工業技術研究所(現、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター、郵便番号:292-0818、住所:日本国千葉県本更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)に、FERM P-16527の受託番号のもとで寄託され、2002年7月8日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号FERM BP-8112が付与されている。

また、変異型SATは、上記のようにL−システインによるフィードバック阻害に耐性となるように改変されたものであってもよいが、元来フィードバック阻害を受けないものであってもよい。例えば、シロイヌナズナのSATは、L−システインによるフィードバック阻害を受けないことが知られており、本発明に好適に用いることができる。シロイヌナズナ由来のSAT遺伝子を含むプラスミドとして、pEAS-m(FEMS Microbiol.Lett.,179(1999)453-459)が知られている。

また、PGDはL−セリンによるフィードバック阻害を受けるため、このフィードバック阻害が低減又は解除されたPGDを利用してもよい。本発明において、L−セリンによるフィードバック阻害が低減又は解除されたPGDを「変異型PGD」ともいう。また、変異型PGDをコードする遺伝子を「変異型PGD遺伝子」ともいう。すなわち、L−システイン生産能を付与又は増強するための方法としては、例えば、変異型PGD遺伝子を保持するように細菌を改変する方法も挙げられる。すなわち、微生物は、変異型PGD遺伝子を保持するように改変されていてもよい。変異型PGD遺伝子を微生物に保持させることによって、PGD活性を増強することができ得る。変異型PGDとしては、野生型PGDの410位(N末端)のチロシン残基を欠失する変異を有するPGD(変異型遺伝子名serA5、米国特許第6,180,373号)が挙げられる。「野生型PGD」とは、上述の変異(L−セリンによるフィードバック阻害に耐性となる変異)を有していないPGDをいう。ここでいう「野生型」とは、「変異型」と区別するための便宜上の記載であり、上述の変異を有しない限り、天然に得られるものには限定されない。野生型PGDとしては、エシェリヒア・コリ等の各種生物由来のPGDが挙げられる。また、野生型PGDとしては、エシェリヒア・コリ等の各種生物由来のPGDの保存的バリアント(元の機能が維持されたバリアント)であって、上述の変異を有しないものも挙げられる。PGDについての「元の機能」とは、PGD活性をいう。

L−システイン生産能を付与又は増強するための方法としては、例えば、L−システインの排出系が強化されるように微生物を改変する方法も挙げられる。「L−システインの排出系を強化する」とは、L−システインの排出に関与するタンパク質(L−システイン排出因子ともいう)から選択される1またはそれ以上のタンパク質の活性を増強することをいう。L−システイン排出因子としては、ydeD遺伝子(eamA遺伝子)にコードされるタンパク質(特開2002-233384)、yfiK遺伝子にコードされるタンパク質(特開2004-049237)、emrAB、emrKY、yojIH、acrEF、bcr、およびcusA遺伝子にコードされる各タンパク質(特開2005-287333)、yeaS遺伝子にコードされるタンパク質(特開2010-187552)が知られている。また、野生型YeaSタンパク質の28位のスレオニン残基、137位のフェニルアラニン残基、および/または188位のロイシン残基に変異を有するYeaSタンパク質を利用してもよい。上述の変異を有するYeaSタンパク質を「変異型YeaSタンパク質」ともいう。また、変異型YeaSタンパク質をコードする遺伝子を「変異型yeaS遺伝子」ともいう。すなわち、L−システイン生産能を付与又は増強するための方法としては、例えば、変異型yeaS遺伝子を保持するように微生物を改変する方法も挙げられる。すなわち、微生物は、変異型yeaS遺伝子を保持するように改変されていてもよい。変異型yeaS遺伝子を微生物に保持させることによって、L−システイン排出系を強化することができ得る(欧州特許出願公開第2218729号明細書)。変異型YeaSタンパク質は、具体的には、YeaSタンパク質の28位のスレオニン残基をアスパラギンに置換する変異、137位のフェニルアラニン残基をセリン、グルタミン、アラニン、ヒスチジン、システイン、及びグリシンのいずれかに置換する変異、および/または188位のロイシン残基をグルタミンに置換する変異を有していてよい(欧州特許出願公開第2218729号明細書)。「野生型YeaSタンパク質」とは、上述の変異を有していないYeaSタンパク質をいう。ここでいう「野生型」とは、「変異型」と区別するための便宜上の記載であり、上述の変異を有しない限り、天然に得られるものには限定されない。野生型YeaSタンパク質としては、エシェリヒア・コリ等の各種生物由来のYeaSタンパク質が挙げられる。また、野生型YeaSタンパク質としては、エシェリヒア・コリ等の各種生物由来のYeaSタンパク質の保存的バリアント(元の機能が維持されたバリアント)であって、上述の変異を有しないものも挙げられる。YeaSタンパク質についての「元の機能」とは、微生物において発現を上昇させた際に微生物のL−システイン生産能を向上させる性質をいう。

本発明において、「野生型SATのX位のアミノ酸残基」とは、特記しない限り、野生型SATのアミノ酸残基に相当するアミノ酸残基を意味する。また、本発明において、「野生型PGDのX位のアミノ酸残基」とは、特記しない限り、野生型PGDのアミノ酸残基に相当するアミノ酸残基を意味する。また、本発明において、「野生型YeaSタンパク質のX位のアミノ酸残基」とは、特記しない限り、エシェリヒア・コリK-12 MG1655株の野生型YeaSタンパク質におけるX位のアミノ酸残基に相当するアミノ酸残基を意味する。アミノ酸配列における「X位」とは、同アミノ酸配列のN末端から数えてX番目の位置を意味し、N末端のアミノ酸残基が1位のアミノ酸残基である。なお、アミノ酸残基の位置は相対的な位置を示すものであって、アミノ酸の欠失、挿入、付加などによってその絶対的な位置は前後することがある。例えば、「野生型SATの167位のスレオニン残基」とは、野生型SATのにおける167位のスレオニン残基に相当するアミノ酸残基を意味し、167位よりもN末端側の1アミノ酸残基が欠失している場合は、N末端から166番目のアミノ酸残基が「野生型SATの167位のスレオニン残基」であるものとする。また、167位よりもN末端側に1アミノ酸残基挿入されている場合は、N末端から168番目のアミノ酸残基が「野生型SATの167位のスレオニン残基」であるものとする。

任意のSATのアミノ酸配列において、どのアミノ酸残基が「野生型SATのにおけるX位のアミノ酸残基に相当するアミノ酸残基」であるかは、当該SATのアミノ酸配列と野生型SATのアミノ酸配列とのアライメントを行うことにより決定できる。同様に、PGDまたはYeaSタンパク質についても、PGDまたはYeaSタンパク質と、野生型PGDのアミノ酸配列またはエシェリヒア・コリK-12 MG1655株の野生型YeaSタンパク質のアミノ酸配列とのアライメントを行えばよい。アライメントは、例えば、公知の遺伝子解析ノフトウェアを利用して行うことができる。具体的なソフトウェアとしては、日立ノリューションズ製のDNASISや、ゼネティックス製のGENETYXなどが挙げられる(Elizabeth C.Tyler et al., Computers and Biomedical Research, 24(1), 72-96, 1991; Barton GJ et al., Journal of molecular biology, 198(2), 327-37. 1987)。

変異型遺伝子(すなわち、変異型SAT遺伝子、変異型PGD遺伝子、または変異型yeaS遺伝子)は、野生型遺伝子(すなわち、野生型SAT遺伝子、野生型PGD遺伝子、または野生型yeaS遺伝子)を変異型タンパク質(すなわち、変異型SAT、変異型PGD、または変異型YeaS夕ンパク質)をコードするよう改変することにより取得できる。DNAの改変は公知の手法により行うことができる。具体的には、例えば、DNAの目的部位に目的の変異を導入する部位特異的変異法としては、PCRを用いる方法(Higuchi,R., 61,in PCR technology,Erlich, H. A. Eds., Stockton press (1989); Carter, P., Meth. in Enzymol., 154,382(1987))や、ファージを用いる方法(Kramer,W.and Frits,H.J.,Meth.in Enzymol., 154, 350 (1987);Kunkel, T. A. et al., Meth. in Enzymol., 154, 367 (1987))が挙げられる。また、変異型遺伝子は、化学合成によっても取得できる。変異後のコドンは、目的のアミノ酸をコードするものであれば特に制限されないが、本発明の微生物で使用頻度の高いコドンを使用することが好ましい。

変異型遺伝子を保持するように微生物を改変することは、変異型遺伝子を微生物に導入することにより達成できる。また、変異型遺伝子を保持するように微生物を改変することは、自然変異や変異原処理により微生物が有する遺伝子に変異を導入することによっても達成できる。

また、硫酸塩/チオ硫酸塩輸送系タンパク質群をコードするcysPTWAMクラスター遺伝子の発現を増強することによっても、L−システイン生産能を付与又は増強することができる(特開2005137369号公報、EP1528108号明細書)。

また、硫化物は、cysK遺伝子およびcysM遺伝子それぞれによリコードされるO−アセチルセリン(チオール)−リアーゼ−AおよびBにより触媒される反応を介してO−アセチル−L−セリンに取り込まれ、L−システインが産生する。したがって、これらの酵素はL−システイン生合成経路の酵素に含まれ、これらの酵素をコードする遺伝子の発現を増強することによっても、L−システイン生産能を付与又は増強することができる。

また、L−システイン生産能を付与又は増強するための方法としては、例えば、L−システインの分解系が抑制されるように微生物を改変する方法も挙げられる。「L−システイン分解系を抑制する」とは、L−システインの分解に関与するタンパク質(L−システイン分解酵素ともいう)から選択される1またはそれ以上のタンパク質の活性を増強することをいう。L−システイン分解酵素としては、特に制限されないが、metC遺伝子にコードされるシスタチオニン−β−リアーゼ(特開平11-155571号、Chandra et.al,,Biochemistry,21(1982)3064-3069))、tnaA遺伝子にコードされるトリプトファナーゼ(特開2003-169668、Austin Newton et, al., J. Biol. Chem. 240 (1965) 1211-1218)、cysM遺伝子にコードされるO−アセチルセリンスルフヒドリラーゼB(特開2005-245311)、malY遺伝子にコードされるMalY(特開2005-245311)パントエア・アナナティスのd0191遺伝子にコードされるシステインデスルフヒドラーゼ(特開2009-232844)が挙げられる。

L−システイン生産菌又はそれを誘導するための親株の例として、具体的には、例えば、変異型SATをコードする種々のcysEアレルで形質転換されたE.coli JM15(米国特許第6,218,168号)、細胞に毒性の物質を排出するのに適したタンパク質をコードする遺伝子の発現が増強されたE.coli W3110(米国特許第5,972,663号)、システインデスルフヒドラーゼ活性が低下したE. coli(特開平11-155571号公報)、cySB遺伝子によリコードされるシステインレギュロンの正の転写制御因子の活性が上昇したE.coli W3110(WO01/27307)、ydeD遺伝子、変異型cysE遺伝子(cysEX遺伝子)、および変異型serA遺伝子(serA5遺伝子)を含むプラスミドpACYC DES(特開2005137369(US20050124049(Al)、EP1528108(Al)))を保持するE.coli等のE.coli株が挙げられる。なお、pACYC−DESは、上記3遺伝子をpACYC184に挿入することによつて得られたプラスミドであり、各遺伝子はompAプロモーター(PompA)により制御される。

O−アセチルセリンはL−システインの前駆体であるため、O−アセチルセリンの生合成経路はL−システインの生合成経路と共通する。また、O−アセチルセリンは、中性〜アルカリ性のpH領域において自然反応によって容易にN−アセチルセリンに変換される。また、上述したようなL−システイン排出因子には、O−アセチルセリンも排出することができるものが知られている。よって、これらL−システイン前駆体の生産能は、L−システインの生合成系の強化やL−システインの排出系の強化等の、L−システインの生産能を付与又は増強する方法を一部利用することにより、付与又は増強することができる。

L−システインを出発物質として生合成されるγ−グルタミルシステイン、グルタチオン、シスタチオニン、ホモシステイン、L−メチオニン、及びS−アデノシルメチオニン等の化合物の生産能も、目的の化合物の生合成系路の酵素活性を増強するか、その生合成系路から分岐する経路の酵素(目的化合物を分解する酵素も含む)の活性を低下させることによって、付与又は増強することができる。

例えば、γ−グルタミルシステイン生産能は、γ−グルタミルシステイン合成酵素活性の増強及び/又はグルタチオン合成酵素活性の低下によって、付与又は増強することができる。また、グルタチオン生産能はγ−グルタミルシステイン合成酵素活性及び/又はグルタチオン合成酵素活性の増強によって、付与又は増強することができる。また、グルタチオンによるフィードバック阻害に耐性の変異型γ−グルタミルシステイン合成酵素を用いることでもγ−グルタミルシステインやグルタチオンの生産能を付与又は増強することができる。グルタチオンの生産についてはLiらの総説(Yin Li,Gongyuan Wei, Jian Chen.Appl Microbiol Biotechnol(2004)66:233-242)に詳しく記載されている。

L−メチオニン生産能は、L−スレオニン要求性またはノルロイシン耐性を付与することによって、付与又は増強することができる(特開2000-139471号)。E.coliにおいては、L−スレオニンの生合成に関与する酵素の遺伝子は、スレオニンオペロン(thrABC)として存在し、例えば、thrBC部分を欠失させることによつてL−ホモセリン以降の生合成能を失つたL−スレオニン要求株を取得することができる。ノルロイシン耐性株では、S−アデノシルメチオニンシンセターゼ活性が弱化され、L−メチオニン生産能が付与又は増強される。E. coliにおいては、S−アデノシルメチオニンシンセターゼはmetK遺伝子にコードされている。また、L−メチオニン生産能は、メチオニンリプレッサーの欠損、ホモセリントランスサクシニラーゼ、シスタチォニンγ−シンテース、及びアスパルトキナーゼ−ホモセリンデヒドロゲナーゼIIなどのL−メチオニン生合成に関与する酵素の活性の増強によっても、付与又は増強することができる(特開2000-139471号)。E. coliにおいては、メチオニンリプレッサーはmetJ遺伝子に、ホモセリントランスサクシニラーゼはmetA遺伝子に、シスタチオニンγ—シンテースはmetB遺伝子に、アスパルトキナーゼーホモセリンデヒドログナーゼIIはmetL遺伝子にそれぞれコードされている。また、L−メチオニンによるフィードバック阻害に耐性の変異型ホモセリントランスサクシニラーゼを用いることでもL−メチオニンの生産能を付与又は増強することができる(特開2000-139471号、US20090029424)。なお、L−メチオニンはL−システインを中間体として生合成されるため、L−システインの生産能の向上によりL−メチオニンの生産能も向上させることができる(特開2000-139471号、US20080311632)。よって、L−メチオニン生産能を付与又は増強するためには、L−システイン生産能を付与又は増強する方法も有効である。

L−メチオニン生産菌又はそれを誘導するための親株の例として、具体的には、例えば、 E. coli AJl1539 (NRRL B-12399)、 AJ11540 (NRRL B-12400)、 AJl1541 (NRRL B-12401)、AJ11542(NRRL B-12402)(英国特許第2075055号)、L−メチオニンのアナログであるノルロイシン耐性を有する218株(VKPM B-8125)(ロシア特許第2209248号)や73株(VKPM B-8126)(ロシア特許第2215782号)等のE. coli株が挙げられる。

また、L−メチオニン生産菌又はそれを誘導するための親株の例として、具体的には、例えば、E.coli W3110由来のAJ13425(FERM P-16808)(特開2000-139471号)も挙げられる。AJ13425は、メチオニンリプレッサーを欠損し、細胞内のS−アデノシルメチオニンシンセターゼ活性が弱化し、細胞内のホモセリントランスサクシニラーゼ活性、シスタチオニンγ−シンターゼ活性、及びアスパルトキナーゼーホモセリンデヒドログナーゼII活性が増強されたL−スレオニン要求株である。AJ13425は、平成10年5月14日より、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(現名称、産業技術総合研究所特許生物寄託センター、住所郵便番号305-8566 茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に寄託され、受託番号FERM P-16808が付与されている。

シスタチオニン、ホモシステインはL−メチオニン生合成経路の中間体であるため、これら物質の生産能を付与又は増強するためには、上記のL−メチオニンの生産能を付与又は増強する方法を一部利用することが有効である。シスタチオニン生産能を付与又は増強する方法として、具体的には、メチオニン要求性変異株を用いる方法(特願2003-010654)や、発酵培地にシステイン(またはその生合成原料)及び/又はホモセリン(またはその生合成原料)を添加する方法(特開2005-168422)が挙げられる。ホモシステインはシスタチオニンを前駆体とするため、ホモシステイン生産能を付与又は増強するためには、シスタチオニン生産能を付与又は増強する方法も有効である。

また、L−メチオニンを出発物質として生合成されるS−アデノシルメチオニン等の化合物の生産能も、目的の化合物の生合成系路の酵素活性を増強するか、その生合成系路から分岐する経路の酵素(目的化合物を分解する酵素も含む)の活性を低下させることによって、付与又は増強することができる。例えば、S−アデノシルメチオニン生産能は、メチオニンアデノシルトランスフェラーゼ活性を強化することや(EP0647712、EP1457569)、mdfA遺伝子にコードされる排出因子MdfAを強化すること(US7410789)で付与又は増強することができる。

L−システイン生産菌の育種に使用される遺伝子およびタンパク質は、それぞれ、例えば、上記例示した遺伝子およびタンパク質等の公知の遺伝子およびタンパク質の塩基配列およびアミノ酸配列を有していてよい。また、L−システイン生産菌の育種に使用される遺伝子およびタンパク質は、それぞれ、上記例示した遺伝子およびタンパク質等の公知の遺伝子およびタンパク質の保存的バリアントであってもよい。具体的には、例えば、L−システイン生産菌の育種に使用される遺伝子は、元の機能が維持されている限り、公知のタンパク質のアミノ酸配列において、 1若しくは数個の位置での1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。遺伝子およびタンパク質の保存的バリアントについては、後述するRNAピロホスホヒドロラーゼ遺伝子およびRNAピロホスホヒドロラーゼの保存的バリアントに関する記載を準用できる。

<1−2>RNAピロホスホヒドロラーゼの活性の低下 微生物は、RNAピロホスホヒドロラーゼの活性が低下するように改変されていてもよい。当該微生物は、L−システイン生産能を有する微生物を、RNAピロホスホヒドロラーゼの活性が低下するように改変することにより取得できる。また、当該微生物は、RNAピロホスホヒドロラーゼの活性が低下するように微生物を改変した後に、L−システイン生産能を付与または増強することによっても得ることができる。なお、微生物は、RNAピロホスホヒドロラーゼの活性が低下するように改変されたことにより、L− システイン生産能を獲得したものであってもよい。微生物を構築するための改変は、任意の順番で行うことができる。

RNAピロホスホヒドロラーゼの活性が低下するように微生物を改変することによつて、微生物のL−システイン生産能を向上させることができる。

以下に、RNAピロホスホヒドロラーゼおよびそれをコードする遺伝子について説明する。

「RNAピロホスホヒドロラーゼ」とは、RNAピロホスホヒドロラーゼ活性を有するタンパク質をいう。「RNAピロホスホヒドロラーゼ活性」とは、RNAの三リン酸化された5'末端を加水分解しニリン酸(ピロリン酸)を遊離させる反応を触媒する活性をいう。また、RNAピロホスホヒドロラーゼをコードする遺伝子を「RNAピロホスホヒドロラーゼ遺伝子」ともいう。

RNAピロホスホヒドロラーゼとしては、nudH遺伝子にコードされるNudHタンパク質が挙げられる。nudH遺伝子は、rppH遺伝子やygdP遺伝子等とも呼ばれる。同様に、NudHタンパク質は、RppHタンパク質やYgdPタンパク質等とも呼ばれる。微生物が有するnudH遺伝子の塩基配列およびそれらにコードされるNudHタンパク質のアミノ酸配列は、例えば、NCBI等の公開データベースから取得できる。エシェリヒア・コリK-12MG1655株のnudH遺伝子は、NCBIデータベースに、GenBank accession NC_000913(VERSI0N NC_000913.3 GI:556503834)として登録されているゲノム配列中、2968447〜 2968977位の配列の相補配列に相当する。また、エシェリヒア・コリK-12 MG1655株のNudHタンパク質は、GenBank accession NP_417307(version NP_417307.l GI:16130734)として登録されている。パントエア・アナナティスAJ13355株のnudH遺伝子は、NCBIデータベースに、GenBank accession NC_017531(VERSI0N NC 017531.l GI:386014600)として登録されているゲノム配列中、2891727〜2892254位の配列の相補配列に相当する。また、パントエア・アナナティスAJ13355株のNudHタンパク質は、GenBank accession WP_013026988 (version WP_013026988.l GI:502792012)として登録されている。なお、「(アミノ酸または塩基)配列を有する」という表現は、当該「(アミノ酸または塩基)配列を含む」場合および当該「(アミノ酸または塩基)配列からなる」場合を包含する。

RNAピロホスホヒドロラーゼ遺伝子は、元の機能が維持されている限り、上記例示したRNAピロホスホヒドロラーゼ遺伝子、例えば上記例示したnudH遺伝子、のバリアントであってもよい。同様に、RNAピロホスホヒドロラーゼは、元の機能が維持されている限り、上記例示したRNAピロホスホヒドロラーゼ、例えば上記例示したNudHタンパク質、のバリアントであってもよい。なお、そのような元の機能が維持されたバリアントを「保存的バリアント」という場合がある。「nudH遺伝子」という用語は、上記例示したnudH遺伝子に加えて、それらの保存的バリアントを包含するものとする。同様に、「NudHタンパク質」という用語は、上記例示したNudHタンパク質に加えて、それらの保存的バリアントを包含するものとする。保存的バリアントとしては、例えば、上記例示したRNAピロホスホヒドロラーゼ遺伝子やRNAピロホスホヒドロラーゼのホモログや人為的な改変体が挙げられる。

「元の機能が維持されている」とは、遺伝子またはタンパク質のバリアントが、元の遺伝子またはタンパク質の機能(活性や性質)に対応する機能(活性や性質)を有することをいう。遺伝子についての「元の機能が維持されている」とは、遺伝子のバリアントが、元の機能が維持されたタンパク質をコードすることをいう。RNAピロホスホヒドロラーゼ遺伝子についての「元の機能が維持されている」とは、遺伝子のバリアントがRNAピロホスホヒドロラーゼ活性を有するタンパク質をコードすることをいう。また、RNAピロホスホヒドロラーゼについての「元の機能が維持されている」とは、タンパク質のバリアントがRNAピロホスホヒドロラーゼ活性を有することをいう。

タンパク質のRNAピロホスホヒドロラーゼ活性は、同タンパク質を基質(例えば三リン酸化されたモノまたはオリゴリボヌクレオチド)とインキュベートし、同タンパク質および基質依存的なニリン酸(ピロリン酸)の生成を測定することにより、測定できる(Vasilyev N, Serganov A. Structures of RNA complexes with the Escherichia coli RNApyrophosphohydrolase RppH unveil the basis for specific 5'-end-dependent mRNA decay. 」Biol Chem. 2015 Apr 10;290(15):9487-99.)。

以下、保存的バリアントについて例示する。

RNAピロホスホヒドロラーゼ遺伝子のホモログまたはRNAピロホスホヒドロラーゼのホモログは、例えば、上記例示したRNAピロホスホヒドロラーゼ遺伝子の塩基配列または上記例示したRNAピロホスホヒドロラーゼのアミノ酸配列を問い合わせ配列として用いたBLAST検索やFASTA検索によって公開データベースから容易に取得することができる。また、RNAピロホスホヒドロラーゼ遺伝子のホモログは、例えば、各種生物の染色体を鋳型にして、これら公知のRNAピロホスホヒドロラーゼ遺伝子の塩基配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いたPCRにより取得することができる。

RNAピロホスホヒドロラーゼ遺伝子は、元の機能が維持されている限り、上記アミノ酸配列において、1若しくは数個の位置での1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。例えば、コードされるタンパク質は、そのN末端および/またはC末端が、延長または短縮されていてもよい。なお上記「1又は数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置や種類によつても異なるが、具体的には、例えば、1〜50個、1〜40個、1〜30個、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個、特に好ましくは1〜3個を意味する。

上記の1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、または付力日は、タンパク質の機能が正常に維持される保存的変異である。保存的変異の代表的なものは、保存的置換である。保存的置換とは、置換部位が芳香族アミノ酸である場合には、Phe、Trp、Tyr間で、置換部位が疎水性アミノ酸である場合には、Leu、Ile、Val間で、極性アミノ酸である場合には、Gln、Asn間で、塩基性アミノ酸である場合には、Lys、Arg、His間で、酸性アミノ酸である場合には、Asp、Glu間で、ヒドロキシル基を持つアミノ酸である場合には、Ser、Thr間でお互いに置換する変異である。保存的置換とみなされる置換としては、具体的には、AlaからSer又はThrへの置換、ArgからGln、His又はLysへの置換、AsnからGlu、Gln、Lys、His又はAspへの置換、AspからAsn、Glu又はGlnへの置換、CySからSer又はAlaへの置換、GlnからAsn、Glu、Lys、His、Asp又はArgへの置換、GluからGly、Asn、Gln、Lys又はAspへの置換、GlyからProへの置換、HisからAsn、Lys、Gln、Arg又はTyrへの置換、IleからLeu、Met、Val又はPheへの置換、LeuからIle、Met、Val又はPheへの置換、LysからAsn、Glu、Gln、His又はArgへの置換、MetからIle、Leu、Val又はPheへの置換、PheからTrp、Tyr、Met、Ile又はLeuへの置換、SerからThr又はAlaへの置換、ThrからSer又はAlaへの置換、TrpからPhe又はTyrへの置換、TyrからHis、Phe又はTrpへの置換、及び、ValからMet、Ile又はLeuへの置換が挙げられる。また、上記のようなアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、または逆位等には、遺伝子が由来する生物の個体差、種の違いに基づく場合などの天然に生じる変異(mutant又はvariant)イこよつて生じるものも含まれる。

また、RNAピロホスホヒドロラーゼ遺伝子は、元の機能が維持されている限り、上記アミノ酸配列全体に封して、例えば、50%以上、65%以上、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の相同性を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。尚、本明細書において、「相同性」(homology)は、「同一性」(identity)を意味する。

また、RNAピロホスホヒドロラーゼ遺伝子は、元の機能が維持されている限り、上記塩基配列から調製され得るプローブ、例えば上記塩基配列の全体または一部に対する相補配列、とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであってもよい。「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリンドが形成され、非特異的なハイブジッドが形成されない条件をいう。一例を示せば、相同性が高いDNA同士、例えば、50%以上、65%以上、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件、あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である60℃、1×SSC、0.1%SDS、好ましくイよ60℃ 、0.1× SSC、0.1%SDS、 より好ましくは68℃、0.1× SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度および温度で、1回、好ましくは2〜3回洗浄する条件を挙げることができる。

上述の通り、上記ハイブリダイゼーションに用いるプローブは、遺伝子の相補配列の一部であってもよい。そのようなプローブは、公知の遺伝子配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとし、上述の遺伝子を含むDNA断片を鋳型とするPCRによって作製することができる。例えば、プローブとしては、300 bp程度の長さのDNA断片を用いることができる。プローブとして300 bp程度の長さのDNA断片を用いる場合には、ハイブリダイゼーションの洗いの条件としては、50℃、2× SSC、0.1%SDSが挙げられる。

また、宿主によってコドンの縮重性が異なるので、RNAピロホスホヒドロラーゼ遺伝子は、任意のコドンをそれと等価のコドンに置換したものであってもよい。例えば、RNAピロホスホヒドロラーゼ遺伝子は、使用する宿主のコドン使用頻度に応じて最適なコドンを有するように改変されてよい。

2つの配列間の配列同一性のパーセンテージは、例えば、数学的アルゴリズムを用いて決定できる。このような数学的アルゴリズムの限定されない例としては、Myers及びMiller(1988)CAB10S 4:11 17のアルゴリズム、smith et al(1981)Adv.Appl,Math.2:482の局所ホモロジーアルゴリズム、Needleman及びWunsch(1970)J. Mol.Biol.48:443 453のホモロジーアライメントアルゴリズム、Pearson及びLipman(1988)Proc,Natl.Acad.Sci.85:2444 2448の類似性を検索する方法、Karlin及びAltschul(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873 5877に記載されているような、改良された、Karlin及びAltschul(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 872264のアルゴリズムが挙げられる。

これらの数学的アルゴリズムに基づくプログラムを利用して、配列同一性を決定するための配列比較(アラインメント)を行うことができる。プログラムは、適宜、コンピュータにより実行することができる。このようなプログラムとしては、特に限定されないが、PC/GeneプログラムのCLUSTAL(Intelligenetics,Mountain View,Calif.から入手可能)、ALIGNプログラム(Version 2.0)、並びにWisconsin Genetics Software Package,Version 8 (Genetics Computer Group (GCG), 575 Science Drive, Madison, Wis., USAから入手可能)のGAP、BESTFIT、BLAST、FASTA、及びTFASTAが挙げられる。これらのプログラムを用いたアライメントは、例えば、初期パラメーターを用いて行うことができる。CLUSTALプログラムについては、HigGlns et al.(1988)Gene 73:237244(1988)、HigGlns et al. (1989) CABIOS 5:151 153、 Corpet et al. (1988)Nucleic Acids Res. 16:1088190、 Huang et al. (1992) CABIOS 8:155 65、 及びPearson et al。 (1994) Metho Mol. Biol.24:307 331によく記載されている。

対象のタンパク質をコードするヌクレオチド配列と相同性があるヌクレオチド配列を得るために、具体的には、例えば、BLASTヌクレオチド検索を、BLASTNプログラム、スコア=100、ワード長=12にて行うことができる。対象のタンパク質と相同性があるアミノ酸配列を得るために、具体的には、例えば、BLASTタンパク質検索を、BLASTXプログラム、スコア=50、ワード長=3にて行うことができる。BLASTヌクレオチド検索やBLASTタンパク質検索については、http://www.ncbi.nlm.nih.govを参照されたい。また、比較を目的としてギャップを加えたアライメントを得るために、Gapped BLAST(BLAST 2.0)を利用できる。また、PSI-BLAST(BLAST 2.0)を、配列間の離間した関係を検出する反復検索を行うのに利用できる。Gapped BLASTおよびPSI-BLASTについては、Altschul et al.(1997)Nucleic Acids Res.25:3389を参照されたい。BLAST、Gapped BLAST、またはPSI一BLASTを利用する場合、例えば、各プログラム(例えば、ヌクレオチド配列に対してBLASTN、アミノ酸配列に対してBLASTX)の初期パラメーターが用いられ得る。アライメントは、手動にて行われてもよい。

2つの配列間の配列同一性は、2つの配列を最大一致となるように整列したときに2つの配列間で一致する残基の比率として算出される。

なお、上記の遺伝子やタンパク質の保存的バリアントに関する記載は、L−システイン生合成系酵素等の任意のタンパク質、およびそれらをコードする遺伝子にも準用できる。

<1−3>タンパク質の活性を増大させる手法 以下に、SATやPGD等のタンパク質の活性を増大させる手法について説明する。

「タンパク質の活性が増大する」とは、同タンパク質の細胞当たりの活性が非改変株に対して増大していることを意味する。ここでいう「非改変株」とは、標的のタンパク質の活性が増大するように改変されていない対照株を意味する。非改変株としては、野生株や親株が挙げられる。なお、「タンパク質の活性が増大する」ことを、「タンパク質の活性が増強される」ともいう。「タンパク質の活性が増大する」とは、具体的には、非改変株と比較して、同タンパク質の細胞当たりの分子教が増加していること、および/または、同タンパク質の分子当たりの機能が増大していることをいう。すなわち、「タンパク質の活性が増大する」という場合の「活性」とは、タンパク質の触媒活性に限られず、タンパク質をコードする遺伝子の転写量(mRNA量)または翻訳量(タンパク質の量)を意味してもよい。また、「タンパク質の活性が増大する」とは、もともと標的のタンパク質の活性を有する菌株において同タンパク質の活性を増大させることだけでなく、もともと標的のタンパク質の活性が存在しない菌株に同タンパク質の活性を付与することを含む。また、結果としてタンパク質の活性が増大する限り、宿主が本来有する標的のタンパク質の活性を低下または消失させた上で、好適な標的のタンパク質の活性を付与してもよい。

タンパク質の活性は、非改変株と比較して増大していれば特に制限されないが、例えば、非改変株と比較して、1.5倍以上、2倍以上、または3倍以上に上昇してよい。また、非改変株が標的のタンパク質の活性を有していない場合は、同タンパク質をコードする遺伝子を導入することにより同タンパク質が生成されていればよいが、例えば、同タンパク質はその酵素活性が測定できる程度に生産されていてよい。

タンパク質の活性が増大するような改変は、例えば、同タンパク質をコードする遺伝子の発現を上昇させることによって達成される。「遺伝子の発現が上昇する」とは、同遺伝子の細胞当たりの発現量が野生株や親株等の非改変株と比較して増大することを意味する。「遺伝子の発現が上昇する」とは、具体的には、遺伝子の転写量(mRNA量)が増大すること、および/または、遺伝子の翻訳量(タンパク質の量)が増大することを意味してよい。なお、「遺伝子の発現が上昇する」ことを、「遺伝子の発現が増強される」ともいう。遺伝子の発現は、例えば、非改変株と比較して、1.5倍以上、2倍以上、または3倍以上に上昇してよい。また、「遺伝子の発現が上昇する」とは、もともと標的の遺伝子が発現している菌株において同遺伝子の発現量を上昇させることだけでなく、もともと標的の遺伝子が発現していない菌株において、同遺伝子を発現させることを含む。すなわち、「遺伝子の発現が上昇する」とは、例えば、標的の遺伝子を保持しない菌株に同遺伝子を導入し、同遺伝子を発現させることを含む。

遺伝子の発現の上昇は、例えば、遺伝子のコピー数を増加させることにより達成できる。

遺伝子のコピー数の増加は、宿主の染色体へ同遺伝子を導入することにより達成できる。染色体への遺伝子の導入は、例えば、相同組み換えを利用して行うことができる(MillerI, J. H. Experiments in Molecular Genetics, 1972, Cold Spring Harbor Laboratory)。相同組み換えを利用する遺伝子導入法としては、例えば、Redドリブンインテグレーション(Red-driven integration)法(Datsenko,K.A,and Wanner,B.L,Proc.Natl.Acad.Sci.USA ,97:6640-6645(2000))等の直鎖状DNAを用いる方法、温度感受性複製起点を含むプラスミドを用いる方法、接合伝達可能なプラスミドを用いる方法、宿主内で機能する複製起点を持たないスイサイドベクターを用いる方法、ファージを用いたtransduction法が挙げられる。遺伝子は、 1コピーのみ導入されてもよく、2コピーまたはそれ以上導入されてもよい。例えば、染色体上に多数のコピーが存在する配列を標的として相同組み換えを行うことで、染色体へ遺伝子の多数のコピーを導入することができる。染色体上に多数のコピーが存在する配列としては、反復DNA配列(repetitive DNA)、トランスポゾンの両端に存在するインバーテッド・リピートが挙げられる。また、目的物質の生産に不要な遺伝子等の染色体上の適当な配列を標的として相同組み換えを行ってもよい。また、遺伝子は、 トランスポゾンやMini-Muを用いて染色体上にランダムに導入することもできる(特開平2-109985号公報、US5,882,888、EP805867Bl)。

染色体上に標的遺伝子が導入されたことの確認は、同遺伝子の全部又は一部と相補的な配列を持つプローブを用いたサザンハイブリダイゼーション、又は同遺伝子の配列に基づいて作成したプライマーを用いたPCR等によって確認できる。

また、遺伝子のコピー数の増加は、同遺伝子を含むベクターを宿主に導入することによっても達成できる。例えば、標的遺伝子を含むDNA断片を、宿主で機能するベクターと連結して同遺伝子の発現ベクターを構築し、当該発現ベクターで宿主を形質転換することにより、同遺伝子のコピー数を増加させることができる。標的遺伝子を含むDNA断片は、例えば、標的遺伝子を有する微生物のグノムDNAを鋳型とするPCRにより取得できる。ベクターとしては、宿主の細胞内において自律複製可能なベクターを用いることができる。ベクターは、マルチコピーベクターであるのが好ましい。また、形質転換体を選択するために、ベクターは抗生物質耐性遺伝子などのマーカーを有することが好ましい。また、ベクターは、挿入された遺伝子を発現するためのプロモーターやターミネーターを備えていてもよい。ベクターは、例えば、細菌プラスミド由来のベクター、酵母プラスミド由来のベクター、バクテリオファージ由来のベクター、コスミド、またはファージミド等であってよい。エシェリヒア・コリ等の細菌において自律複製可能なベクターいとして、 具体的には、列えば、 pUC19、 pUC18、 pHSG299、 pHSG399、 pHSG398、 pBR322、 pSTV29(いずれもタカラバイオ社より入手可)、pACYC184、pMW219(ニッポンジーン社)、pTrc99A(ファルマシア社)、pPROK系ベクター(クロンテック社)、pKK233-2(クロンテック社製)、pET系ベクター(ノバジェン社)、pQE系ベクター(キアゲン社)、pACYC系ベクター、広宿主域ベクターRSF1010が挙げられる。

遺伝子を導入する場合、遺伝子は、発現可能に微生物に保持されていればよい。具体的には、遺伝子は、微生物で機能するプロモーター配列による制御を受けて発現するように導入されていればよい。プロモーターは、宿主由来のプロモーターであってもよく、異種由来のプロモーターであってもよい。プロモーターは、導入する遺伝子の回有のプロモーターであってもよく、他の遺伝子のプロモーターであってもよい。プロモーターとしては、例えば、後述するような、より強力なプロモーターを利用してもよい。

遺伝子の下流には、転写終結用のターミネーターを配置することができる。ターミネーターは、微生物において機能するものであれば特に制限されない。ターミネーターは、宿主由来のターミネーターであってもよく、異種出来のターミネーターであってもよい。ターミネーターは、導入する遺伝子の固有のターミネーターであってもよく、他の遺伝子のターミネーターであってもよい。

各種微生物において利用可能なベクター、プロモーター、ターミネーターに関しては、例えば「微生物学基礎講座8 遺伝子工学、共立出版、1987年」に詳細に記載されており、それらを利用することが可能である。

また、2またはそれ以上の遺伝子を導入する場合、各遺伝子が、発現可能に微生物に保持されていればよい。例えば、各遺伝子は、全てが単一の発現ベクター上に保持されていてもよく、全てが染色体上に保持されていてもよい。また、各遺伝子は、複数の発現ベクター上に別々に保持されていてもよく、単一または複数の発現ベクター上と染色体上とに別々に保持されていてもよい。また、2またはそれ以上の遺伝子でオペロンを構成して導入してもよい。「2またはそれ以上の遺伝子を導入する場合」としては、例えば、2またはそれ以上のタンパク質をそれぞれコードする遺伝子を導入する場合、単一のタンパク質複合体を構成する2またはそれ以上のサブユニットをそれぞれコードする遺伝子を導入する場合、およびそれらの組み合わせが挙げられる。

導入される遺伝子は、宿主で機能するタンパク質をコードするものであれば特に制限されない。導入される遺伝子は、宿主由来の遺伝子であってもよく、異種由来の遺伝子であってもよい。導入される遺伝子は、例えば、同遺伝子の塩基配列に基づいて設計したプライマーを用い、同遺伝子を有する生物のゲノムDNAや同遺伝子を搭載するプラスミド等を鋳型として、PCRにより取得することができる。また、導入される遺伝子は、例えば、同遺伝子の塩基配列に基づいて全合成してもよい(Gene,60(1),H5127(1987))。取得した遺伝子は、そのまま、あるいは適宜改変して、利用することができる。

なお、タンパク質が複数のサブユニットからなる複合体として機能する場合、結果としてタンパク質の活性が増大する限り、それら複数のサブユニットの全てを改変してもよく、一部のみを改変してもよい。すなわち、例えば、遺伝子の発現を上昇させることによりタンパク質の活性を増大させる場合、それらのサブユニットをコードする複数の遺伝子の全ての発現を増強してもよく、一部の発現のみを増強してもよい。通常は、それらのサブユニットをコードする複数の遺伝子の全ての発現を増強するのが好ましい。また、複合体を構成する各サブユニットは、複合体が目的のタンパク質の機能を有する限り、1種の生物由来であってもよく、2種またはそれ以上の異なる生物由来であってもよい。すなわち、例えば、複数のサブユニットをコードする、同一の生物由来の遺伝子を宿主に導入してもよく、それぞれ異なる生物由来の遺伝子を宿主に導入してもよい。

また、遺伝子の発現の上昇は、遺伝子の転写効率を向上させることにより達成できる。また、遺伝子の発現の上昇は、遺伝子の翻訳効率を向上させることにより達成できる。遺伝子の転写効率や翻訳効率の向上は、例えば、発現調節配列の改変により達成できる。「発現調節配列」とは、遺伝子の発現に影響する部位の総称である。発現調節配列としては、例えば、プロモーター、シャインダルガノ(SD)配列(リボソーム結合部位(RBS)ともいう)、およびRBSと開始コドンとの間のスペーサー領域が挙げられる。発現調節配列は、プロモーター検索ベクターやGENETYX等の遺伝子解析ソフトを用いて決定することができる。これら発現調節配列の改変は、例えば、温度感受性ベクターを用いた方法や、Redドリブンインテグレーション法(W02005/010175)により行うことができる。

遺伝子の転写効率の向上は、例えば、染色体上の遺伝子のプロモーターをより強力なプロモーターに置換することにより達成できる。「より強力なプロモーター」とは、遺伝子の転写が、もともと存在している野生型のプロモーターよりも向上するプロモーターを意味する。より強力なプロモーターとしては、例えば、公知の高発現プロモーターであるT7プロモーター、trpプロモーター、lacプロモーター、thrプロモーター、tacプロモーター、trcプロモーター、tetプロモーター、araBADプロモーター、rpoHプロモーター、PRプロモーター、およびPLプロモーターが挙げられる。また、より強力なプロモーターとしては、各種レポーター遺伝子を用いることにより、在来のプロモーターの高活性型のものを取得してもよい。例えば、プロモーター領域内の-35、-10領域をコンセンサス配列に近づけることにより、プロモーターの活性を高めることができる(国際公開第00/18935号)。高活性型プロモーターとしては、各種tac様プロモーター(Katashkina JI et al.Russian Federation Patent application 2006134574)やpnlp8プロモーター(W02010/027045)が挙げられる。プロモーターの強度の評価法および強力なプロモーターの例は、Goldsteinらの論文 (Prokaryotic promoters in biotechnology.Biotechnol.Annu.Rev., 1, 105-128(1995))等に記載されている。

遺伝子の翻訳効率の向上は、例えば、染色体上の遺伝子のシャインダルガノ(SD)配列(リボソーム結合部位(RBS)ともいう)をより強力なSD配列に置換することにより達成できる。「より強力なSD配列」とは、mRNAの翻訳が、もともと存在している野生型のSD配列よりも向上するSD配列を意味する。より強力なSD配列としては、例えば、ファージT7由来の遺伝子10のRBSが挙げられる(Olins P.0.et al,Gene,1988,73,227-235)。さらに、RBSと開始コドンとの間のスペーサー領域、特に開始コドンのすぐ上流の配列(5'-UTR)における数個のヌクレオチドの置換、あるいは挿入、あるいは欠失がmRNAの安定性および翻訳効率に非常に影響を及ぼすことが知られており、これらを改変することによつても遺伝子の翻訳効率を向上させることができる。

遺伝子の翻訳効率の向上は、例えば、コドンの改変によっても達成できる。例えば、遺伝子中に存在するレアコドンを、より高頻度で利用される同義コドンに置き換えることにより、遺伝子の翻訳効率を向上させることができる。すなわち、導入される遺伝子は、例えば、使用する宿主のコドン使用頻度に応じて最適なコドンを有するように改変されてよい。コドンの置換は、例えば、DNAの目的の部位に目的の変異を導入する都位特異的変異法により行うことができる。部位特異的変異法としては、PCRを用いる方法(Higuchi,R., 61, in PCR technology, Erlich, H. A. Eds., Stockton press (1989),Carter, P.,Meth.in Enzymol.,154,382(1987))や、ファージを用いる方法(Kramer,W.and Frits, H。 」., Meth, in Enzymol., 154, 350 (1987),Kunkel, T. A. et al., Meth. in Enzymol.,154,367(1987))が挙げられる。また、コドンが置換された遺伝子断片を全合成してもよい。種々の生物におけるコドンの使用頻度は、「コドン使用データベース」(http://wwv.kazusa.or.jp/codon; Nakamura, Y. et al, Nucl. Acids Res。, 28, 292 (2000))に開示されている。

また、遺伝子の発現の上昇は、遺伝子の発現を上昇させるようなレギュレーターを増幅すること、または、遺伝子の発現を低下させるようなレギュレーターを欠失または弱化させることによっても達成できる。

上記のような遺伝子の発現を上昇させる手法は、単独で用いてもよく、任意の組み合わせで用いてもよい。

また、タンパク質の活性が増大するような改変は、例えば、タンパク質の比活性を増強することによっても達成できる。比活性の増強には、フィードバック阻害の低減および解除も含まれる。比活性が増強されたタンパク質は、例えば、種々の生物を探索し取得することができる。また、在来のタンパク質に変異を導入することで高活性型のものを取得してもよい。導入される変異は、例えば、タンパク質の1若しくは数個の位置での1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、又は付加されるものであってよい。変異の導入は、例えば、上述したような部位特異的変異法により行うことができる。また、変異の導入は、例えば、突然変異処理により行ってもよい。突然変異処理としては、X線の照射、紫外線の照射、ならびにN−メチル−N'−ニトロ−N−ニトロングアニジン(MNNG)、エチルメタンスルフォネート(EMS)、およびメチルメタンスルフォネート(MMS)等の変異剤による処理が挙げられる。また、in vitroでDNAを直接ヒドロキシルアミンで処理し、ランダム変異を誘発してもよい。比活性の増強は、単独で用いてもよく、上記のような遺伝子の発現を増強する手法と任意に組み合わせて用いてもよい。

形質転換の方法は特に限定されず、従来知られた方法を用いることができる。微生物の形質転換は、例えば、プロトプラスト法(Gene,39,281286(1985))、エレクトロポレーション法(Bio/Techn01ogy,7,10671070(1989))、電気パルス法(特開平2-207791号公報)により行うことができる。

タンパク質の活性が増大したことは、同タンパク質の活性を測定することで確認できる。

タンパク質の活性が増大したことは、同タンパク質をコードする遺伝子の発現が上昇したことを確認することによっても、確認できる。遺伝子の発現が上昇したことは、同遺伝子の転写量が上昇したことを確認することや、同遺伝子から発現するタンパク質の量が上昇したことを確認することにより確認できる。

遺伝子の転写量が上昇したことの確認は、同遺伝子から転写されるmRNAの量を野生株または親株等の非改変株と比較することによって行うことができる。mRNAの量を評価する方法としてはノーザンハイブリダイゼーション、RT-PCR等が挙げられる(Sambrook,J.,et al., Molecular Cloning A Laboratory Manua1/Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor(USA),2001)。mRNAの量は、非改変株と比較して、例えば、1.5倍以上、2倍以上、または3倍以上に上昇してよい。

タンパク質の量が上昇したことの確認は、抗体を用いてウェスタンブロットによって行うことができる(Molecular cloning(Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor(USA),2001))。タンパク質の量は、非改変株と比較して、例えば、1.5倍以上、2倍以上、または3倍以上に上昇してよい。

上記したタンパク質の活性を増大させる手法は、任意のタンパク質、例えばL−システイン生合成系酵素、の活性増強や、任意の遺伝子、例えばそれら任意のタンパク質をコードする遺伝子、の発現増強に利用できる。

<1−4>タンパク質の活性を低下させる手法 以下に、RNAピロホスホヒドロラーゼ等のタンパク質の活性を低下させる手法について説明する。

「タンパク質の活性が低下する」とは、同タンパク質の細胞当たりの活性が非改変株と比較して減少していることを意味し、活性が完全に消失している場合を含む。ここでいう「非改変株」とは、標的のタンパク質の活性が低下するように改変されていない対照株を意味する。非改変株としては、野生株や親株が挙げられる。「タンパク質の活性が低下する」とは、具体的には、非改変株と比較して、同タンパク質の細胞当たりの分子数が低下していること、および/または、同タンパク質の分子当たりの機能が低下していることをいう。すなわち、「タンパク質の活性が低下する」という場合の「活性」とは、タンパク質の触媒活性に限られず、タンパク質をコードする遺伝子の転写量(mRNA量)または翻訳量(タンパク質の量)を意味してもよい。なお、「タンパク質の細胞当たりの分子数が低下している」ことには、同タンパク質が全く存在していない場合が含まれる。また、「タンパク質の分子当たりの機能が低下している」ことには、同タンパク質の分子当たりの機能が完全に消失している場合が含まれる。タンパク質の活性は、非改変株と比較して低下していれば特に制限されないが、例えば、非改変株と比較して、50%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または0%に低下してよい。

タンパク質の活性が低下するような改変は、例えば、同タンパク質をコードする遺伝子の発現を低下させることにより達成できる。「遺伝子の発現が低下する」とは、同遺伝子の細胞当たりの発現量が野生株や親株等の非改変株と比較して減少することを意味する。「遺伝子の発現が低下する」とは、具体的には、遺伝子の転写量(mRNA量)が低下すること、および/または、遺伝子の翻訳量(タンパク質の量)が低下することを意味してよい。「遺伝子の発現が低下する」ことには、同遺伝子が全く発現していない場合が含まれる。なお、「遺伝子の発現が低下する」ことを、「遺伝子の発現が弱化される」ともいう。遺伝子の発現は、例えば、非改変株と比較して、50%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または0%に低下してよい。

遺伝子の発現の低下は、例えば、転写効率の低下によるものであってもよく、翻訳効率の低下によるものであってもよく、それらの組み合わせによるものであってもよい。遺伝子の発現の低下は、例えば、遺伝子のプロモーター、シャインダルガノ(SD)配列(リボソーム結合部位(RBS)ともいう)、RBSと開始コドンとの間のスペーサー領域等の発現調節配列を改変することにより達成できる。発現調節配列を改変する場合には、発現調節配列は、好ましくは1塩基以上、より好ましくは2塩基以上、特に好ましくは3塩基以上が改変される。また、発現調節配列の一部または全部を欠失させてもよい。また、遺伝子の発現の低下は、例えば、発現制御に関わる因子を操作することによっても達成できる。発現制御に関わる因子としては、転写や翻訳制御に関わる低分子(誘導物質、阻害物質など)、タンパク質(転写因子など)、核酸(siRNAなど)等が挙げられる。また、遺伝子の発現の低下は、例えば、遺伝子のコード領域に遺伝子の発現が低下するような変異を導入することによっても達成できる。例えば、遺伝子のコード領域のコドンを、宿主においてより低頻度で利用される同義コドンに置き換えることによって、遺伝子の発現を低下させることができる。また、例えば、後述するような遺伝子の破壊により、遺伝子の発現自体が低下し得る。

また、タンパク質の活性が低下するような改変は、例えば、同タンパク質をコードする遺伝子を破壊することにより達成できる。「遺伝子が破壊される」とは、正常に機能するタンパク質を産生しないように同遺伝子が改変されることを意味する。「正常に機能するタンパク質を産生しない」ことには、同遺伝子からタンパク質が全く産生されない場合や、同遺伝子から分子当たりの機能(活性や性質)が低下又は消失したタンパク質が産生される場合が含まれる。

遺伝子の破壊は、例えば、染色体上の遺伝子のコード領域の一部又は全部を欠損させることにより達成できる。さらには、染色体上の遺伝子の前後の配列を含めて、遺伝子全体を欠失させてもよい。タンパク質の活性の低下が達成できる限り、欠失させる領域は、N末端領域、内部領域、C末端領域等のいずれの領域であってもよい。通常、欠失させる領域は長い方が確実に遺伝子を不活化することができる。また、欠失させる領域の前後の配列は、リーディングフレームが一致しないことが好ましい。

また、遺伝子の破壊は、例えば、染色体上の遺伝子のコード領域にアミノ酸置換(ミスセンス変異)を導入すること、終止コドンを導入すること(ナンセンス変異)、あるいは1〜2塩基を付加または欠失するフレームシフト変異を導入すること等によっても達成できる (Journa1 of Biological Chemistry 272:8611-8617(1997), Proceedings of the National Academy of Sciences, USA 95 5511-5515(1998), Journa1 of Biological Chemistry 26 116, 20833-20839(1991))。

また、遺伝子の破壊は、例えば、染色体上の遺伝子のコード領域に他の配列を挿入することによっても達成できる。挿入部位は遺伝子のいずれの領域であってもよいが、挿入する配列は長い方が確笑に遺伝子を不活化することができる。また、挿入都位の前後の配列は、リーディングフレームが一致しないことが好ましい。他の配列としては、コードされるタンパク質の活性を低下又は消失させるものであれば特に制限されないが、例えば、抗生物質耐性遺伝子等のマーカー遺伝子や目的物質の生産に有用な遺伝子が挙げられる。

染色体上の遺伝子を上記のように改変することは、例えば、正常に機能するタンパク質を産生しないように改変した欠失型遺伝子を作製し、該欠失型遺伝子を含む組換えDNAで宿主を形質転換して、欠失型遺伝子と染色体上の野生型遺伝子とで相同組換えを起こさせることにより、染色体上の野生型遺伝子を欠失型遺伝子に置換することによって達成できる。その際、組換えDNAには、宿主の栄養要求性等の形質にしたがって、マーカー遺伝子を含ませておくと操作がしやすい。欠失型遺伝子としては、遺伝子の全領域あるいは一部の領域を欠失した遺伝子、ミスセンス変異を導入した遺伝子、ナンセンス変異を導入した遺伝子、フレームシフト変異を導入した遺伝子、 トランスポゾンやマーカー遺伝子等の挿入配列を導入した遺伝子が挙げられる。欠失型遺伝子によつてコードされるタンパク質は、生成したとしても、野生型タンパク質とは異なる立体構造を有し、機能が低下又は消失する。このような相同組換えを利用した遺伝子置換による遺伝子破壊は既に確立しており、「Redドリブンインテグレーション(Red-driven integration)」と呼ばれる方法(Datsenko, K. A, and Wanner, B. L. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A. 97:6640-6645 (2000))、Redドリブンインテグレーション法とλファージ由来の切り出しシステム(Cho,E.H., Gumport, R. I., Gardner, J. F.J. Bacteriol. 184: 5200-5203(2002))とを組み合わせた方法(W02005/010175号参照)等の直鎖状DNAを用いる方法や、温度感受性複製起点を含むプラスミドを用いる方法、接合伝達可能なプラスミドを用いる方法、宿主内で機能する複製起点を持たないスイサイドベクターを用いる方法などがある(米国特許第6303383号、特開平05007491号)。

また、タンパク質の活性が低下するような改変は、例えば、突然変異処理により行ってもよい。突然変異処理としては、X線の照射、紫外線の照射、ならびにN−メチル−N'−ニトロ−N−ニトロングアニジン(MNNG)、エチルメタンスルフォネート(EMS)、およびメチルメタンスルフォネート(MMS)等の変異剤による処理が挙げられる。

なお、タンパク質が複数のサブユニットからなる複合体として機能する場合、結果としてタンパク質の活性が低下する限り、それら複数のサブユニットの全てを改変してもよく、一部のみを改変してもよい。すなわち、例えば、それらのサブユニットをコードする複数の遺伝子の全てを破壊等してもよく、一部のみを破壊等してもよい。また、タンパク質に複数のアイソザイムが存在する場合、結果としてタンパク質の活性が低下する限り、複数のアイソザイムの全ての活性を低下させてもよく、一部のみの活性を低下させてもよい。すなわち、例えば、それらのアイソザイムをコードする複数の遺伝子の全てを破壊等してもよく、一部のみを破壊等してもよい。

タンパク質の活性が低下したことは、同タンパク質の活性を決J定することで確認できる。

タンパク質の活性が低下したことは、同タンパク質をコードする遺伝子の発現が低下したことを確認することによっても、確認できる。遺伝子の発現が低下したことは、同遺伝子の転写量が低下したことを確認することや、同遺伝子から発現するタンパク質の量が低下したことを確認することにより確認できる。

遺伝子の転写量が低下したことの確認は、同遺伝子から転写されるmRNAの量を非改変株と比較することによって行うことが出来る。mRNAの量を評価する方法としては、ノーザンハイブリダイゼーション、RT-PCR等が挙げられる(Molecular cloning(Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor(USA),2001))。mRNAの量は、非改変株と比較して、例えば、50%以下、20%以下、 10%以下、5%以下、または0%に低下してよい。

タンパク質の量が低下したことの確認は、抗体を用いてウェスタンブロットによって行うことが出来る(Molecular cloning(Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor(USA),2001))。タンパク質の量は、非改変株と比較して、例えば、50%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または0%に低下してよい。

遺伝子が破壊されたことは、破壊に用いた手段に応じて、同遺伝子の一部または全部の塩基配列、制限酵素地図、または全長等を決定することで確認できる。

上記したタンパク質の活性を低下させる手法は、RNAピロホスホヒドロラーゼの活性低下に加えて、任意のタンパク質、例えばL−システインの生合成経路から分岐してL−システイン以外の化合物を生成する反応を触媒する酵素、の活性低下や、任意の遺伝子、例えばそれら任意のタンパク質をコードする遺伝子、の発現低下に利用できる。

なお、以上に記載のとおりシステイン生産能が増大するよう改変された微生物について説明したが、当該微生物の使用は必須ではなく、当該微生物の使用に代えてシステインの添加を実施してもよい。

<エルゴチオネインの製造方法> 一実施形態として本発明は、エルゴチオネインを生合成可能な微生物を培地で培養すること、および該培地よりエルゴチオネインを採取すること、を含むエルゴチオネインの製造方法を提供する。同方法において、「エルゴチオネイン」を「目的物質」ともいう。

使用する培地は、微生物が増殖でき、目的物質が生産される限り、特に制限されない。培地としては、例えば、微生物の培養に用いられる通常の培地を用いることができる。培地としては、例えば、炭素源、窒素源、リン酸源、硫黄源、その他の各種有機成分や無機成分から選択される成分を必要に応じて含有する培地を用いることができる。培地成分の種類や濃度は、使用する微生物の種類等の諸条件に応じて適宜設定してよい。

炭素源として、具体的には、例えば、グルコース、フルクトース、スクロース、ラクトース、ガラクトース、キシロース、アラビノース、廃糖蜜、澱粉加水分解物、バイオマスの加水分解物等の糖類、酢酸、フマル酸、クエン酸、コハク酸等の有機酸類、グリセロール、粗グリセロール、エタノール等のアルコール類、脂肪酸類が挙げられる。なお、炭素源としては、植物由来原料を好適に用いることができる。植物としては、例えば、トウモロコシ、米、小麦、大豆、サトウキビ、ビート、綿が挙げられる。植物由来原料としては、例えば、根、茎、幹、枝、葉、花、種子等の器官、それらを含む植物体、それら植物器官の分解産物が挙げられる。植物由来原料の利用形態は特に制限されず、例えば、未加工品、絞り汁、粉砕物、生成物等のいずれの形態でも利用できる。また、キシロース等の5炭糖、グルコース等の6炭糖、またはそれらの混合物は、例えば、植物バイオマスから取得して利用できる。具体的には、これらの糖類は、植物バイオマスを、水蒸気処理、濃酸加水分解、希酸加水分解、セルラーゼ等の酵素による加水分解、アルカリ処理等の処理に供することにより取得できる。なお、ヘミセルロースは一般的にセルロースよりも加水分解されやすいため、植物バイオマス中のヘミセルロースを予め加水分解して5炭糖を遊離させ、次いで、セルロースを加水分解して6炭糖を生成させてもよい。また、キシロースは、例えば、本発明の微生物にグルコース等の6炭糖からキシロースヘの変換経路を保有させて、6炭糖からの変換により供給してもよい。炭素源としては、1種の炭素源を用いてもよく、2種またはそれ以上の炭素源を組み合わせて用いてもよい。

窒素源として、具体的には、例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等のアンモニウム塩、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、大豆タンパク質分解物等の有機窒素源、アンモニア、ウレアが挙げられる。pH調整に用いられるアンモニアガスやアンモニア水を窒素源として利用してもよい。窒素源としては、1種の窒素源を用いてもよく、2種またはそれ以上の窒素源を組み合わせて用いてもよい。

リン酸源として、具体的には、例えば、リン酸2水素カリウム、リン酸水素2カリウム等のリン酸塩、ピロリン酸等のリン酸ポリマーが挙げられる。リン酸源としては、1種のリン酸源を用いてもよく、2種またはそれ以上のリン酸源を組み合わせて用いてもよい。

硫黄源として、具体的には、例えば、硫酸塩、チオ硫酸塩、亜硫酸塩等の無機硫黄化合物が挙げられる。硫黄源としては、1種の硫黄源を用いてもよく、2種またはそれ以上の硫黄源を組み合わせて用いてもよい。

その他の各種有機成分や無機成分として、具体的には、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩類;鉄、マンガン、マグネシウム、カルシウム等の微量金属類;ビタミンBl、ビタミンB2、ビタミンB6、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、ビタミンB12等のビタミン類;アミノ酸類;核酸類;これらを含有するペプトン、カザミノ酸、酵母エキス、大豆タンパク質分解物等の有機成分が挙げられる。その他の各種有機成分や無機成分としては、1種の成分を用いてもよく、2種またはそれ以上の成分を組み合わせて用いてもよい。

また、生育にアミノ酸などを要求する栄養要求性変異株を使用する場合には、培地に要求される栄養素を補添することが好ましい。

培養条件は、微生物が増殖でき、目的物質が生産される限り、特に制限されない。培養は、例えば、微生物の培養に用いられる通常の条件で行うことができる。培養条件は、使用する微生物の種類等の諸条件に応じて適宜設定してよい。

培養は、液体培地を用いて行うことができる。培養の際には、微生物を寒天培地等の固体培地で培養したものを直接液体培地に接種してもよく、微生物を液体培地で種培養したものを本培養用の液体培地に接種してもよい。すなわち、培養は、種培養と本培養とに分けて行われてもよい。その場合、種培養と本培養の培養条件は、同一であってもよく、そうでなくてもよい。培養開始時に培地に含有される微生物の量は特に制限されない。本培養は、例えば、本培養の培地に、種培養液を1〜 50%(v/v)植菌することにより行つてよい。

培養は、回分培養(batch culture)、流加培養(Fed-batch culture)、連続培養(continuous culture)、またはそれらの組み合わせにより実施することができる。なお、培養開始時の培地を、「初発培地」ともいう。また、流加培養または連続培養において培養系(発酵槽)に供給する培地を、「流加培地」ともいう。また、流加培養または連続培養において培養系に流加培地を供給することを、「流加」ともいう。なお、培養が種培養と本培養とに分けて行われる場合、例えば、種培養と本培養を、共に回分培養で行ってもよい。また、例えば、種培養を回分培養で行い、本培養を流加培養または連続培養で行ってもよい。

培養は、例えば、好気条件で行うことができる。好気条件とは、液体培地中の溶存酸素濃度が、酸素膜電極による検出限界である0.33ppm以上であることをいい、好ましくは1.5ppm以上であることであつてよい。酸素濃度は、例えば、飽和酸素濃度の5〜 50%、好ましくは10%程度に制御されてもよい。好気条件での培養は、具体的には、通気培養、振盪培養、撹拌培養、またはそれらの組み合わせで行うことができる。培地のpHは、例えば、pH3〜 10、好ましくはpH5〜 8であってよい。培養中、必要に応じて培地のpHを調整することができる。培地のpHは、アンモニアガス、アンモニア水、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等の各種アルカリ性または酸性物質を用いて調整することができる。培養温度は、例えば、20〜40℃、好ましくは25℃〜37℃であってよい。培養期間は、例えば、10時間〜 120時間であってよい。培養は、例えば、培地中の炭素源が消費されるまで、あるいは微生物の活性がなくなるまで、継続してもよい。このような条件下で微生物を培養することにより、培地中に目的物質が蓄積する。

目的物質が生成したことは、化合物の検出または同定に用いられる公知の手法により確認することができる。そのような手法としては、例えば、HPLC、LC/MS、GC/MS、NMRが挙げられる。これらの手法は、単独で、あるいは適宜組み合わせて用いることができる。

発酵液からの目的物質の回収は、化合物の分離精製に用いられる公知の手法により行うことができる。そのような手法としては、例えば、イオン交換樹脂法(Nagai,H.et al.,Separation Science and Technology,39(16),3691-3710)、沈殿法、膜分離法(特開平9-164323号、特開平9-173792号)、晶析法(W02008/078448、W02008/078646)が挙げられる。これらの手法は、単独で、あるいは適宜組み合わせて用いることができる。なお、菌体内に目的物質が蓄積する場合には、例えば、菌体を超音波などにより破砕し、遠心分離によって菌体を除去して得られる上清から、イオン交換樹脂法などによつて目的物質を回収することができる。回収される目的物質は、フリー体、その塩、またはそれらの混合物であってよい。塩としては、例えば、硫酸塩、塩酸塩、炭酸塩、アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩が挙げられる。

尚、回収される目的物質は、目的物質以外に、微生物体、培地成分、水分、及び微生物の代謝副産物等の成分を含んでいてもよい。目的物質は、所望の程度に精製されていてもよい。回収される目的物質の純度は、例えば50%(w/w)以上、好ましくは85%(w/w)以上、特に好ましくは95%(w/w)以上であってよい(JP1214636B,USP5,431,933,USP4,956,471, USP4,777,051, USP4,946,654, USP5,840,358, USP6,238,714, US2005/0025878))。

以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。

[実施例1] (植物体の栽培) ミズナ(Brassica rapa var. laciniifolia)の種子を、水耕栽培用ポットに播種し、エルゴチオネイン含量223μg/10mL(100μM)の水耕培養液[液肥(液体肥料(UH-ZK020)、OATアグリ株式会社製、133倍希釈)に、エルゴチオネイン(L−(+)−ergothioneine,Item No.14905, Cayman Chemical,CAS 497−30−3)を加えたもの]で栽培した。播種後8日間目に、上記で栽培した芽生えを収穫した。

(エルゴチオネインの測定) エルゴチオネイン量の測定は、文献(Journal of Bioscience and Bioengineering VOL. 119 No. 3, 310-313, 2015)に記載の方法に沿って実施した。上記で得られた芽生えから根部を除いた部分1mgに、抽出液10μL(超純水で希釈した終濃度5μMのD−しょうのう−10−スルホン酸ナトリウム0.1μL、終濃度99%(w/w)のメタノール9.9μL)を加えて、乳鉢及び乳棒を用いてすり潰した後、これを15000rpm、4℃、3分の条件で遠心分離した。回収した上清100μLに、2Mトリス−塩酸緩衝液(pH8.8)を10μL加え、更に20mM Monobromobimane(mBBr)を10μL加えて、10分間の撹拌操作を行い、15000rpm、4℃、3分の条件で遠心分離した。上清80μLを回収し、遠心型エバポレーターで2時間程度乾燥処理し、上清を乾固させた。乾固した上清に超純水60μLを加えて再懸濁させた後、15000rpm、4℃、3分の条件で遠心分離し、得られた上清50μLをサンプルカップへ移し、そのうちの5μLを用いてLC−MS/MS解析を行い、エルゴチオネイン(酸化型ではない)の量を測定した。

(エルゴチオネイン量の算出) 超純水を溶媒とするエルゴチオネインサンプルを用いて、上記と同様のLC−MS/MS解析によりエルゴチオネインの測定を行い、相対ピークエリア値を求め、独立した3回の測定による平均値をプロットした近似直線の検量線を作成した(図1)。得られた相対ピークエリア値から、エルゴチオネイン含量(μg)を推定した。結果を表1に示す。 また、エルゴチオネインの蓄積率=(新鮮重量100gあたりエルゴチオネイン蓄積量/水耕培養液へのエルゴチオネイン総添加量)×100を推定した。結果を表2に示す。

[実施例2] 上記の実施例1において、ミズナに代えてレタス(Lactuca sativa)を使用した以外は、上記の実施例1と同様に植物体を栽培し、芽生えに含まれるエルゴチオネイン量とエルゴチオネインの蓄積率を求めた。結果を表1及び表2に示す。

[実施例3] 上記の実施例1において、ミズナに代えてノザワナ(Brassica rapa var. hakabura)を使用した以外は、上記の実施例1と同様に植物体を栽培し、芽生えに含まれるエルゴチオネイン量とエルゴチオネインの蓄積率を求めた。結果を表1及び表2に示す。

[実施例4] 上記の実施例1において、ミズナに代えてコマツナ(Brassica rapa var. perviridis)を使用した以外は、上記の実施例1と同様に植物体を栽培し、芽生えに含まれるエルゴチオネイン量とエルゴチオネインの蓄積率を求めた。結果を表1及び表2に示す。

[比較例1〜4] 上記の実施例1〜4において、上記のエルゴチオネインを含む水耕培養液の代わりに、エルゴチオネインを含まない水耕培養液[液肥(液体肥料(UH-ZK020)、OATアグリ株式会社製、133倍希釈)]を使用した以外は、上記の実施例1〜4と同様に植物体を栽培し、芽生えに含まれるエルゴチオネイン量とエルゴチオネインの蓄積率を求めた。結果を表1に示す。

[実施例5] (植物体の栽培) ミズナ(Brassica rapa var. laciniifolia)の種子を、水耕栽培用ポットに播種し、エルゴチオネインを含まない水耕培養液で栽培した。 水耕培養液は、液肥(液体肥料(UH-ZK020)、OATアグリ株式会社製、133倍希釈)を使用した。 播種後20日間目に、上記のエルゴチオネインを含まない水耕培養液の代わりに、エルゴチオネイン含量568μg/225mL(11μM)の水耕栽培液[液肥(液体肥料(UH-ZK020)、OATアグリ株式会社製、133倍希釈)に、エルゴチオネイン(L−(+)−ergothioneine,Item No.14905, Cayman Chemical,CAS 497−30−3)を加えたもの]を用いて24時間栽培した後、播種後21日目に植物体を収穫した(図2)。

(エルゴチオネインの測定) 上記の実施例1において、芽生えから根部を除いた部分1mgの代わりに、上記で得た植物体の葉先1gを用い、これに抽出液1000μL(超純水で希釈した終濃度5μMのD−しょうのう−10−スルホン酸ナトリウム10μL、終濃度99%(w/w)のメタノール990μL)を加えたこと以外は、上記の実施例1と同様にして、エルゴチオネインの測定を行った。

(エルゴチオネイン量の算出) 上記の実施例1と同様にして、植物体の葉に含まれるエルゴチオネイン量とエルゴチオネインの蓄積率を求めた。結果を表1及び表2に示す。

[実施例6] 上記の実施例5において、ミズナに代えてレタス(Lactuca sativa)を使用した以外は、上記の実施例5と同様に植物体を栽培して収穫し(図2)、葉に含まれるエルゴチオネイン量とエルゴチオネインの蓄積率を求めた。結果を表1及び表2に示す。

[実施例7] 上記の実施例5において、ミズナに代えてノザワナ(Brassica rapa var. hakabura)を使用した以外は、上記の実施例5と同様に植物体を栽培して収穫し(図2)、葉に含まれるエルゴチオネイン量とエルゴチオネインの蓄積率を求めた。結果を表1及び表2に示す。

[実施例8] 上記の実施例5において、ミズナに代えてコマツナ(Brassica rapa var. perviridis)を使用した以外は、上記の実施例5と同様に植物体を栽培して収穫し(図2)、葉に含まれるエルゴチオネイン量とエルゴチオネインの蓄積率を求めた。結果を表1及び表2に示す。

[比較例5〜8] 上記の実施例5〜8において、上記のエルゴチオネインを含む水耕培養液の代わりに、エルゴチオネインを含まない水耕培養液[液肥(液体肥料(UH-ZK020)、OATアグリ株式会社製、133倍希釈)]を使用した以外は、上記の実施例5〜8と同様に植物体を栽培して収穫し(図2)、葉に含まれるエルゴチオネイン量とエルゴチオネインの蓄積率を求めた。結果を表1に示す。

通常の水耕栽培法で栽培された植物体(比較例1〜8)には、エルゴチオネインは含有されていなかったが、エルゴチオネインを含む水耕栽培液で栽培された植物体(実施例1〜8)には、エルゴチオネインが含有されていた。このことから、実験に用いた植物は、エルゴチオネインを合成しないこと、実験に用いた植物は、エルゴチオネインを体内に蓄積し、水耕栽培液に含まれる微量のエルゴチオネインであっても回収可能であることが示された。

また、アブラナ科の植物である、ミズナ(実施例1,5)、ノザワナ(実施例3,7)、コマツナ(実施例4,8)では、高い値のエルゴチオネインの蓄積を観察した一方で、非アブラナ科のレタス(実施例2,6)では、低い値のエルゴチオネインの蓄積に留まった。

[実施例9〜10] (植物体の栽培) ノザワナ(Brassica rapa var. hakabura)の種子を、水耕栽培用ポットに播種し、エルゴチオネインを含まない水耕培養液で栽培した。 水耕培養液は、液肥(液体肥料(UH-ZK020)、OATアグリ株式会社製、133倍希釈)を使用した。 播種後27日間目に、上記のエルゴチオネインを含まない水耕培養液の代わりに、下記表3に示す値でエルゴチオネインを含む水耕栽培液[液肥(液体肥料(UH-ZK020)、OATアグリ株式会社製、133倍希釈)に、エルゴチオネイン(L−(+)−ergothioneine,Item No.14905, Cayman Chemical,CAS 497−30−3)を加えたもの]を用いて5日間栽培した後、播種後32日目に植物体を収穫した。

(エルゴチオネインの測定) 上記の実施例5と同様にして、エルゴチオネインの測定を行った。

(エルゴチオネイン量の算出) 上記の実施例1と同様にして、植物体の葉に含まれるエルゴチオネイン量を求めた。結果を表3に示す。

エルゴチオネインを含む水耕栽培液で栽培された植物体(実施例9〜10)では、エルゴチオネインが含有されていた。

[実施例11] (組換え大腸菌株の作製) エルゴチオネインを生産するよう改変され、更にエルゴチオネインの生産能が増大するよう改変された大腸菌株(pDES pQE88-Ms-egtABCDE)を作製した。 より具体的には、大腸菌のmetJ遺伝子破壊株に、pDESプラスミドを形質転換により保持させ、さらにpQE88-Ms-egtABCDEプラスミドを形質転換により保持させ、作製した。 pDESプラスミド(WO2012/137689)は、図3に示すとおり、強発現プロモーター(ompA)に、フィードバック阻害感受性変異型SerA、フィードバック阻害感受性変異型CysE、野生型のYdeD(システイン排出担体)がそれぞれ連結された3つの遺伝子を有しており、これらを強制発現させることで、システインを細胞外に大量生産させることができる。 プラスミドpQE88−Ms−egtABCDEは、マイコバクテリウムスメグマチス(Mycobacterium smegmatis)由来のegtABCDE遺伝子オペロンをコードしている。これらの遺伝子は、ヒスチジン・S−アデノシルメチオニン・システインなどの基質からエルゴチオネインを生合成するのに必要な遺伝子群である。このオペロン遺伝子は、IPGT添加で発現誘導が可能なプロモーターに連結させた。egtABCDE遺伝子は、大腸菌は持たないため、今回使用した大腸菌でのエルゴチオネイン合成には必須の遺伝子群である。 上記のMycobacterium smegmatisのegtABCDE遺伝子オペロンの塩基配列と、pQE88−Ms−egtABCDEの塩基配列を、それぞれ配列番号1および2に示す。

(培養) 上記で作製した大腸菌株(pDES pQE88-Ms-egtABCDE)を以下に示す培養条件にてジャーファーメンター培養した。 温度:30℃ 攪拌:攪拌翼490rpm pH:6.9〜7にコントロール (pH6.9以下の場合にアンモニア水を、pH7以上の場合に硫酸を添加) 通気:1L/min 植菌:前培養は、抗生物質を含むLB培地で、バッフル付き三フラスコ内で、30℃で旋回攪拌しながら一晩(16時間)培養を行った。この前培養液のうち、「OD660=1として400mL分に相当する菌体量」を含む量の培養液を遠心し、上清を捨て、得られた菌体ペレットを新たな20mLのLB培地で再懸濁し、その全量を初期培地に投入し、その他成分を順次加え上記条件にて144時間培養した。 なお、フィード液は、培養開始後24〜72時間にかけて、断続的に一定のペースで、以下のそれぞれのフィード1液及びフィード2液をを培養液に添加した。 TetracyclineとAmpicillinと消泡剤は、培養開始時に全量投入し、IPTGとPyrydoxine・HClは、培養開始後24時間で全量投入した。

・初期培地 (1)基本培地: 基本成分(1L) (2)別添加炭素源:40%(w/v)グルコース (100mL) (3)フィード液(0.9L) (3−1)フィード1液(計600mL) 40%(w/v)グルコース(400mL)+1M Na2S2O3 or 2M Na2SO4(100mL)+H2O(100mL) (3−2)フィード2液(300mL) 15.2g/L ヒスチジン・HCl・H2O, 11.5g/L セリン ・その他成分(発現誘導、抗生、酵素活性化、生育阻害緩和、代謝制御用物質等)

上記初期培地とその他成分の配合を表4に示す。

(エルゴチオネインの定量) 培養後の培養上清液を希釈したサンプルを、LC−MS/MS解析に供し、エルゴチオネインに相当するm/zかつ溶出時間におけるマスクロマトグラフィーのピークのエリアエリアを測定した。 なお、サンプルに一定濃度のエルゴチオネイン標品を投入したサンプルも同様に解析し、得られた検量線の数式を用いて、エルゴチオネイン含量を表すピークエリア値をエルゴチオネイン濃度へと換算した。 測定の結果、培地上清への523mg/L、及び700mg/Lのエルゴチオネイン発酵生産が確認された。

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