【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、船外機用ウォータポンプに係り、特に円筒状のポンプハウジングと当該ポンプハウジング内に偏心して装備されたインペラとを有する船外機用ウォータポンプに関する。 【0002】 【従来の技術】船外機用のウォータポンプは、ポンプ用回転体としてのインペラと、このインペラをその回転軸を幾分偏心させて回転自在に収納した円筒状のポンプハウジングとを備えている。 このポンプハウジングの外周囲の一部には、インペラの偏心軸に近接した位置に水吐出ポートが設けられている。 また、ポンプハウジングの一部を成すアンダーパネルには、水吸入ポートが設けられている。 そして、前述したインペラは、船外機用エンジンの出力軸に連結されて駆動されるようになっている。 【0003】この種のウォータポンプでは、単にエンジンの回転に応じて所定量の水を吐出するに留められており、水量の調整は行われない。 そして、必要な場合は、 サーモスタットと圧力リリーフバルブにより水量調整が成されるようになっている。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記従来例における船外機用のウォータポンプにあっては、水量をコントロール出来ないため、例えば、寒冷地にあっては、低回転時(トローリング時)に,暖かい地方の場合に比較して水量が増してエンジンが過冷却状態の傾向となる。 一方、低回転時に最適水量となるように設定すると、暖かい地方においては高回転時に水量が不足する傾向となる。 【0005】このことは、暖かい地方の水は寒冷地の水より温度が高く且つ比重が小さいことや、或いは暖かい地方では水導入管およびウォータポンプ等の各構成部材が寒冷地の場合に比較して幾分膨張して全体的な容量が少なくなることに起因しているものと解されている。 【0006】このため、従来の船外機用のウォータポンプにあっては、上記現象に対する適当な改善策をみいだすことができず、このため、暖かい地方で長時間にわたる高速回転を継続する場合には、エンジンの温度上昇に充分注意しなければならない、という煩わしさがあった。 【0007】 【発明の目的】本発明は、かかる従来例の有する煩わしさを改善し、とくに寒冷地における低回転と暖かい地方における高速回転の継続のいずれの場合にあっても、水量の過不足等に起因したエンジンの冷却の過不足を生じることなくエンジン冷却用の冷却水を比較的円滑に且つ効率よくなし得る船外機用ウォータポンプを提供することを、その目的とする。 【0008】 【課題を解決するための手段】本発明では、ポンプ用回転体と、このポンプ用回転体を幾分偏心させて回転自在に収納した円筒状のポンプハウジングと、このポンプハウジングの外周囲の一部でポンプ用回転体の偏心軸に近接した位置に設けられ,ポンプ用回転体に付勢された水を外部に送り出す水吐出ポートと、ポンプハウジングの一部を成すアンダーパネルに設けられた水吸入ポートとを備えている。 【0009】アンダーパネルの一部で且つ前述したポンプハウジング内の負圧領域から正圧領域に移行する境界位置にエアー抜き穴が設けられている。 そして、ポンプ用回転体は船外機用エンジンの出力軸に連結されている。 【0010】このエアー抜き穴から更に正圧領域に入り込んだ位置に,比較的直径の小さい圧力抜き穴を設ける、という構成をとっている。 これによって前述した目的を達成しようとするものである。 【0011】 【作 用】まず、ウォータポンプ2内は、インペラ4の回転動作と共に前述した如く負圧領域Hと正圧領域Sに分けられる。 圧力抜き穴14Bは正圧領域Sに設けられているため、正圧領域S内は、この圧力抜き穴14Bの作用によって常時減圧作用をうける。 【0012】一方、この圧力抜き穴14Bは、その直径が比較的小さく設定されているため、インペラ4の回転動作の影響を強く受ける。 即ち、密閉された空間内を一定圧力の流体が流れた場合に生じる当該流体の粘性と慣性の係わり合いに関するもので、流体の流速が増すに従って冷却水の粘性が強く影響し、直径の小さい圧力抜き穴14Bは水膜等によってその開口状態から閉ざされたのと同等の状態へと変化する。 【0013】この場合、インペラ4の円筒状ボス部4A に近接した位置では、インペラ4の翼4aの厚さが比較的厚くなっている。 このため、インペラ4の高速回転時にあっては、圧力抜き穴14Bを物理的に塞いでいる時間も多くなる。 かかる点においても、本実施例ではインペラ4の高速回転時における圧力抜き穴14Bの減圧作用が大幅に抑制された状態となる。 【0014】このため、上述したようにエンジンの低速回転時にあって、正圧領域S内は、圧力抜き穴14Bの作用で常時減圧作用をうける。 一方、エンジンが高速回転になるに従い、圧力抜き穴14Bの減圧作用が水の粘性および慣性等によって抑制され、あたかも圧力抜き穴14Bが存在しないかの如き状態が生じる。 かかる現象は、発明者らの長年の繰り返し実験の結果,見い出すことができ、その再現性を確認することができた。 【0015】 【実施例】以下、本発明の一実施例を図1乃至図5に基づいて説明する。 【0016】この図1乃至図5において、船外機1用のウォータポンプ2は、ポンプ用回転体としてのインペラ4と、このインペラ4を支持するとともに回転駆動する駆動軸(後述する船外機用エンジンの出力軸6)を幾分偏心(図2ではdだけ偏心)させて回転自在に収納した円筒状のポンプハウジング8とを備えている。 このポンプハウジング8の外周囲の一部には、インペラ4の偏心された駆動軸に近接して水吐出ポート10が設けられている。 【0017】ここで、ポンプハウジング8は、断面が逆U字状のウォータポンプケース12と、このウォータポンプケース12の下端面部分を密封するアンダーパネル14とを備えている。 ポンプハウジング8内は、図3に示すように水吐出ポート10側が正圧領域Sをなし、この正圧領域Sの反対側が負圧領域Hをなしており、この正圧領域Sと負圧領域Hとにより二分されている(図3 参照)。 【0018】また、アンダーパネル14には、図3に示すように、前述した水吐出ポート10の反対側に位置する負圧領域Hに水吸入ポート12Aが設けられている。 この水吸入ポート12Aは、前述したインペラ4の偏心された駆動軸に近接した位置でインペラ4の回転方向にそって一定幅の長穴により構成されている。 また、前述したインペラ4の駆動軸は、船外機用エンジンの出力軸6がこれを担っており、インペラ4は船外機用エンジンに駆動されるようになっている。 【0019】一方、ウォータポンプ2から送り出される冷却水は、図5に示すように、船外機1の下部に設けられた吸水口1Aからまず吸水され、該ウォータポンプ2 に付勢されて導水管1Bを介してシリンダ周囲のエンジン冷却通路1Cに送られる。 冷却水は、このエンジン冷却通路1Cを通過しながらエンジンを適度に冷却した後、その大部分は船外機1の内壁を通って下降し、プロペラ20の支軸の内部を通って当該プロペラ20の回転と共に外部に放出される。 また、冷却水の一部は、船外機1の内壁を下降する以前に補助排出口1Eから外部に放出されるようになっている。 【0020】ウォータポンプケース12の下端面部分を密封するアンダーパネル14には、更に、図3に示すように、当該アンダーパネル14の一部で且つ前述したポンプハウジング8内の負圧領域Hから正圧領域Sに移行する境界位置に、エアー抜き穴14Aが設けられている。 また、このエアー抜き穴14Aから更に正圧領域S に入り込んだ位置に、比較的直径の小さい圧力抜き穴1 4Bが設けられている。 【0021】そして、このエアー抜き穴14Aと圧力抜き穴14Bとは、前述したインペラ4の回転中心部に位置する円筒状ボス部4Aに近接して設けられている。 この円筒状ボス部4Aに近接した位置においては、インペラ4の翼(ベーン)4aの回転方向部分が幾分厚く形成されている。 【0022】圧力抜き穴14Bは、本実施例ではその大きさが最大直径で約2.5〔mm〕に設定されている。 この圧力抜き穴14Bの直径寸法は、2.5〔mm〕以下であれば、例えば2.0〔mm〕でも,或いは1.0 〔mm〕でもよい。 【0023】また、この圧力抜き穴14Bの位置は、本実施例では図3に示すように、エアー抜き穴14Aと同心円上で且つエアー抜き穴14Aから約30°正圧領域S側に入り込んだ位置に設けられているが、正圧領域S 内であれば他の箇所であってもよい。 【0024】ここで、上記実施例の圧力抜き穴14Bの動作について、説明する。 【0025】まず、ウォータポンプ2内は、インペラ4 の回転動作(図3の矢印B参照)と共に前述した如く負圧領域Hと正圧領域Sに分けられる。 圧力抜き穴14B は正圧領域Sに設けられているため、正圧領域S内は、 この圧力抜き穴14Bの作用によって常時減圧作用をうけている。 【0026】一方、この圧力抜き穴14Bは、その直径が約2.5〔mm〕若しくはそれ以下に設定されているため、インペラ4の回転動作の影響を強く受ける。 即ち、密閉された空間内を一定圧力の流体が流れた場合に生じる当該流体の粘性と慣性の係わり合いに関するもので、流体の流速が増すに従って冷却水の粘性が強く影響し、直径の小さい圧力抜き穴14Bは水膜等によってその開口状態から閉ざされたのと同等の状態へと変化する。 【0027】この場合、インペラ4の円筒状ボス部4A に近接した位置では、インペラ4の翼4aの厚さが比較的厚くなっている。 このため、インペラ4の高速回転時にあっては、圧力抜き穴14Bを物理的に塞いでいる時間も多くなる。 かかる点においても、本実施例ではインペラ4の高速回転時における圧力抜き穴14Bの減圧作用が大幅に抑制された状態となっている。 【0028】このため、上述したようにエンジンの低速回転時にあって、正圧領域S内は、圧力抜き穴14Bの作用で常時減圧作用をうける。 一方、エンジンが高速回転になるに従い、圧力抜き穴14Bの減圧作用が水の粘性および慣性等によって抑制され、あたかも圧力抜き穴14Bが存在しないかの如き状態が生じる。 かかる現象は、発明者らの長年の繰り返し実験の結果,見い出すことができ、その再現性を確認することができたものである。 その実験結果の一例を図4に示す。 【0029】この図4に示す実験例は、直径2.5〔m m〕の圧力抜き穴14Bを上述した条件でアンダーパネル14に設けた場合のもので、エンジン回転数が低くなると冷却水のポンプ吐出量が従来例に比較して大幅に低下することが認められる。 【0030】このように、上記実施例によると、エンジンの高速回転時には従来例とほぼ同等のポンプ吐出量が確保され、同時にエンジンの低速回転時には従来例と異なってポンプ吐出量を大幅に低下させることができ、従って、エンジンの低速回転時には過冷却に成りやすいという従来例の不都合を、上記実施例では有効に排除することが可能となっている。 【0031】なお、上記実施例においては、圧力抜き穴14Bを一個設けた場合を例示したが、複数の圧力抜き穴14Bを設けたものであってもよい。 この場合は、圧力抜き穴14Bの直径を適当に小さくすると都合がよい。 【0032】 【発明の効果】本発明は以上のように構成され機能するので、これによると、ウォータポンプケースの下端面部分を密封するアンダーパネルに、正圧領域に入り込んだ位置に比較的直径の小さい圧力抜き穴を設けたので、低速回転時にウォータポンプ内の正圧領域を幾分減圧することができ、このため寒冷地における低速回転時の水吐出量を少なくすることができ、一方、エンジンが高速回転になるに従い圧力抜き穴の減圧作用が水の粘性および慣性等によって抑制され,あたかも圧力抜き穴が存在しないかの如き状態が生じ、従って、寒冷地における低回転と暖かい地方における高速回転の継続のいずれの場合にあっても、水量の過不足等に起因したエンジン冷却の過不足を有効に排除することができ、エンジン冷却用の冷却水を円滑に且つ効率よく供給することができるという従来にない優れた船外機用ウォータポンプを提供することができる。 【図面の簡単な説明】 【図1】本発明の位置実施例を示す一部省略した断面図である。 【図2】図1に示す実施例のAーA線に沿った断面図である。 【図3】図1乃至図2におけるアンダーパネルに設けられた圧力抜き穴の例を示す説明図である。 【図4】図1の実施例における動作特性の例を示す線図である。 【図5】図1の実施例を組み込んだ船外機の例を示す説明図である。 【符号の説明】 2 船外機用ウォータポンプ 4 ポンプ用回転体としてのインペラ 4A 円筒状ボス部 6 船外機用エンジンの出力軸 8 ポンプハウジング8 10 水吐出ポート 12 ウォータポンプケース 12A 水吸入ポート 14 アンダーパネル 14A エアー抜き穴 14B 圧力抜き穴 H 負圧領域 S 正圧領域 |